JP3809686B2 - 固定化酵素による配糖体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固定化酵素を用いた各種配糖体の製造方法に関するものである。詳しく述べると、本発明は、有機溶媒共存下において、多孔質キトサンビーズに固定化したα−グルコシダーゼを用いて、水酸基を有する水に難溶な生理活性に優れた物質と糖とを反応させることにより、生理活性に優れた様々な水溶性配糖体を製造する方法に関するものである。また、本発明は、バチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophylus,以下同様につき括弧内を省略する)由来のα−グルコシダーゼを多孔質キトサンビーズに固定化することにより、有機溶媒共存下においても長期間安定である固定化酵素を調製し、該固定化酵素を用いて、生理活性および化学的安定性に優れた水溶性配糖体を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、食品や化粧品等の分野においては糖転移作用を触媒する酵素を利用して生理活性に優れた物質等を製造する技術が注目されている。
【0003】
上記糖転移作用を有する代表的な酵素としてはα−グルコシダーゼがあるが、このα−グルコシダーゼは、α−グルコシド結合を持つ基質の非還元末端側から加水分解し、α−グルコースを生成する加水分解酵素(エキソグリコシダーゼ)の総称であるが、一方で、糖転移作用を触媒する酵素であることは既に知られている。α−グルコシダーゼの糖転移作用を利用して有用物質を製造する方法としては、例えば、α−1,6−グルコシド結合反応を触媒するα−グルコシダーゼをマルトースに作用させるとイソマルトースやパノース等の分枝オリゴ糖を生成することが知られている[澱粉科学,26巻,頁59〜67(1979年)]。
【0004】
一方、酵素の使い捨てによる不経済性及び酵素の安定性の確保等の観点から、水溶性の酵素を水不溶性の担体などに固定化することにより、酵素反応工程を連続化し、酵素を繰り返して使用する研究が進展し、既に実用化されているものもある。しかしながら、高い酵素活性を保ちかつ安定で、また汎用性の広い酵素の固定化法は未だ開発されていないのが現状である。
【0005】
このような酵素の固定化法としては、これまで、担体結合法、架橋法、及び包括法等が知られている。また、担体としては、セルロース、澱粉、寒天、アルギン酸ソーダ及びゼラチンなどの天然高分子、またはそれらの誘導体、あるいはポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリアミノポリスチレン及びポリビニルアルコール等の合成高分子等の有機物、さらには、粘土、アルミナ、ガラス、セラミック及びステンレス等の無機物等が用いられている。従来から、食品や化粧品等の分野においては、弱塩基性アニオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂等のイオン交換樹脂や多孔質の合成吸着樹脂等を利用した固定化法が広く用いられていた。さらに、これらの方法に加えて、近年、キチンやキトサンが新しい素材として魅力のある天然高分子資源として期待され研究されてきたことに伴い、キトサンビーズを応用した固定化法が注目を集めている。キトサンビーズに固定化した酵素を用いて有用物質を製造する方法としては、例えば、キトサンビーズを用いて固定化したシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼをマルトース等に作用させ転移糖を製造する技術が開示されている(特公平7−71489号公報)。
【0006】
しかしながら、上記方法を始めとして、一般に糖転移作用を触媒する酵素を用いて有用な物質を製造する場合、転移率の確保や酵素の安定性等の点からその反応は水溶液中で行われ、従って、その反応の基質となる物質もほとんどが水溶性の物質であり、水に難溶な物質は上記反応には基質として用いることが困難であるという問題があった。
【0007】
このような従来の問題点を考慮して、本発明者らは、水酸基を有する水に難溶な生理活性に優れた物質を何らかの方法で水溶性にすることができれば、その物質の用途は飛躍的に拡大すると考え、糖転移作用を触媒する酵素を用いて、水酸基を有する水に難溶な抗酸化物質と糖とを有機溶媒の存在下において反応させることにより、新規な水溶性抗酸化剤を製造する技術を開発した(特開平7−118287号公報)。上記公報は、クロマノール配糖体を製造するにあたって有機溶媒中に溶解させた、下記一般式(2):
【0008】
【化2】
【0009】
(ただし、式中、R1 、R2 、R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表わし、およびnは0〜4の整数である)で表わされる2−置換アルコール(以下、単に「2−置換アルコール」と称する)と、糖溶液とを糖転移作用を触媒する酵素の存在下で反応させることにより、下記一般式(3):
【0010】
【化3】
【0011】
(ただし、式中、R1 、R2 、R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基、Xは単糖残基またはオリゴ残基を表わし、糖残基の水酸基の水素原子は低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、およびnは0〜4の整数であり、mは1〜6の整数である)で示されるクロマノール配糖体を製造する方法を開示するものである。
【0012】
しかしながら、上記方法は、酵素を糖溶液と2−置換アルコール溶液との混合溶液中に直接添加する方法であり、反応液中で酵素が溶液の状態で存在しているため、酵素の再使用ができず使い捨てとなってしまい、高価な酵素の使い捨てによる経済性の面から工業的に実施するには不充分であるという欠点があった。また、実際に工業化を考えた場合、反応液中の2−置換アルコールの濃度をさらに高め、かつ、転移率を上げる必要があるが、本発明者らの調査の結果、上記特開平7−118287号公報に開示される方法で用いられる酵素は、有機溶媒の濃度の増加に伴い安定性が減少することが明らかとなった。そのため、2−置換アルコールの量を増やすために反応系における有機溶媒の濃度を高めることは困難であり、有機溶媒存在下における酵素の安定性の面からも工業的に実施するには不充分であるという欠点を有するものであった。したがって、工業化に適するだけの転移率を達成し得る水溶性クロマノール配糖体の製造方法は十分確立されているとは言えないものであった。
【0013】
さらに、糖転移反応を触媒する酵素をキトサンビーズに固定化した例は多数報告されているが、本発明によるα−グルコシダーゼをキトサンビーズに固定化した例はいまだ報告されていなかった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、新規な固定化酵素を用いた配糖体の製造方法を提供することである。
【0015】
また、本発明の他の目的は、α−グルコシダーゼを多孔質キトサンビーズに固定化し、その固定化酵素を用いて水酸基を有する水に難溶性の生理活性に優れた物質と糖とを結合させ、水溶性の生理活性に優れた配糖体を効率よく製造する技術を提供することにある。
【0016】
また、本発明のさらなる他の目的は、バチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼを多孔質キトサンビーズに固定化することにより、有機溶媒共存下において長期間安定な固定化酵素を調製し、該固定化酵素を用いて、化学的安定性及び生理活性に優れた配糖体を効率よく製造する技術を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記諸目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、多孔質キトサンビーズにα−グルコシダーゼを固定化することにより、該酵素が極めて効果的に担体上に吸着され、有機溶媒との共存下においても酵素の高活性が保持および発現されることを見い出した。さらに、本発明者らは、このようにして得られた固定化酵素を用いることにより、水酸基を有する水に難溶な物質についても糖と結合させて各種配糖体を有機溶媒との共存下においても効率よく製造することが可能であることを見い出した。
【0018】
さらにまた、本発明者らは、上記目的を達成するためにさらに鋭意研究を重ねた結果、多孔質キトサンビーズにバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼを固定化することにより、高濃度の有機溶媒の共存下においても、酵素の高活性が長期間保持および発現されることをも発見した。
【0019】
これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、上記諸目的は下記(1)から(7)のいずれかにより達成される。
【0021】
(1) 多孔質キトサンビーズにα−グルコシダーゼを固定化させた固定化酵素を用いて、水酸基を有する水に難溶な生理活性に優れた物質と糖とを有機溶媒共存下において反応させ、生理活性に優れた水溶性配糖体を生成することを特徴とする各種配糖体の製造方法。
【0022】
(2) 上記固定化酵素は多孔質キトサンビーズを架橋剤で架橋処理した後に酵素を固定化させたものである前記(1)記載の方法。
【0023】
(3) 上記多孔質キトサンビーズの粒径が0.5〜3.0mmである前記(1)または(2)記載の方法。
【0024】
(4) α−グルコシダーゼの多孔質キトサンビーズ上への固定化量が、該多孔質キトサンビーズ1g(湿重量)当たり、0.01〜100mgである前記(1)から(3)いずれかに記載の方法。
【0025】
(5) 上記配糖体が下記一般式(1):
【0026】
【化4】
【0027】
[ただし、式中、R1 、R2 、R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基を表わし、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表わし、Xはグルコース残基(但し、グルコース残基中の水酸基の水素原子は炭素原子数が1〜8の低級アルキル基または炭素原子数が1〜10の低級アシル基で置換されていてもよい)を表わし、nは0〜4の整数である]で表わされるクロマノール配糖体である前記(1)から(4)いずれかに記載の方法。
【0028】
(6) 上記糖がα−グルコシル糖化合物である前記(1)から(5)いずれかに記載の方法。
【0029】
(7) 上記α−グルコシダーゼがバチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophylus) 由来である前記(1)から(6)いずれかに記載の方法。
【0030】
【発明の実施の形態】
本発明の固定化酵素による配糖体の製造方法は、固定化担体としての多孔質キトサンビーズにα−グルコシダーゼを固定化させ、得られた固定化酵素を用いて有機溶媒共存下で水酸基を有する水に難溶な生理活性に優れた物質を糖と結合させることによって、生理活性に優れた水溶性の配糖体を生成することを特徴とするものである。
【0031】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0032】
本発明において固定化担体として用いられる多孔質キトサンビーズは、カニやエビなどの甲殻類の殻、蚕などの昆虫の甲皮、おきあみやいかなどの軟体動物の殻や骨骼由来のキチンを40〜50%水酸化ナトリウム溶液中で100〜120℃、4〜5時間処理することによりキチンをN−脱アセチル化し、このN−脱アセチル化物を水洗、乾燥してキトサンを得、さらにこのようにして得られたキトサンを粒状化及び多孔質化して表面積を大きくして吸着能を高めることによって得られる。このような多孔質キトサンビーズの具体例としては、例えば、キトパール BCW−2510、BCW−2610、BCW−3010、BCW−3510(商品名;富士紡績株式会社製)等が挙げられる。
【0033】
また、本発明において使用される多孔質キトサンビーズの粒径は、特に制限されないが、圧力損失や粒子表面積等を考慮すると、0.5〜3.0mmが好ましく、さらに好ましくは、0.5〜1.5mmである。
【0034】
本発明によるα−グルコシダーゼとしては、ほぼ全ての起源由来のα−グルコシダーゼを用いることができ、精製酵素や粗酵素の別を問わない。具体例としては、東洋紡株式会社製のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.) 由来のα−グルコシダーゼ、オリエンタル酵母工業株式会社製のサッカロマイセス セロビイシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のα−グルコシダーゼ、天野製薬株式会社製のアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger) 由来のα−グルコシダーゼ、和光純薬工業株式会社製のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.) 由来のα−グルコシダーゼ、シグマ(SIGMA)社製のベーカーズ イースト(Bakers yeast)由来のα−グルコシダーゼ、東洋紡績株式会社製のバチルスステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophylus) 由来のα−グルコシダーゼ等のバチルス(Bacillus)属由来のα−グルコシダーゼなどが挙げられる。上記α−グルコシダーゼのうち、有機溶媒に対する優れた安定性および強い転移活性を考慮すると、バチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼ、特に特開平5−308964号に開示されたバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼが好ましく使用される。
【0035】
本発明による多孔質キトサンビーズの担体にα−グルコシダーゼを固定化させることにより固定化酵素を製造する方法としては、水または適当な緩衝液中で担体と酵素とを接触させる方法を用いることができる。以下に、多孔質キトサンビーズの担体としてキトパール BCW−2510を用いた際の固定化方法の一実施態様を示す。キトパール BCW−2510 1g(湿重量)を10〜100mMの各種緩衝液(pH5.0〜7.0)で充分に平衡化した後、担体1g(湿重量)に対して、α−グルコシダーゼ0.01〜100mg(比活性20単位/mg)、好ましくは1〜100mg、より好ましくは5〜50mgを同緩衝液1mlに溶解したものを添加し、充分に混合する。次いで、4〜60℃、好ましくは10〜40℃にて、1〜24時間、好ましくは2〜15時間静置するか、または0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間往復振盪処理(50〜180rpm、好ましくは100〜140rpm)した後、濾紙またはガラスフィルターで濾過し、続いて水または緩衝液で酵素が溶出しなくなるまで洗浄する。なお、上記実施態様において、特に酵素としてバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼを用いた際には、当該α−グルコシダーゼの添加量は、担体1g(湿重量)に対して、0.01〜10mg(比活性661単位/mg)、好ましくは0.1〜1mgである。
【0036】
本発明において、α−グルコシダーゼの多孔質キトサンビーズの担体上への固定化量は、多孔質キトサンビーズの架橋処理の有無、使用する多孔質キトサンビーズの種類や量及び酵素の使用量等によって異なるが、通常、多孔質キトサンビーズ1g(湿重量)当たり、0.01〜100mg、好ましくは1〜100mg、より好ましくは5〜50mgである。また、本発明において、バチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼを使用する際の担体への固定化量は、通常、多孔質キトサンビーズ1g(湿重量)当たり、0.01〜10mg、好ましくは0.1〜1mgである。
【0037】
上記実施態様において使用される緩衝液としては、生化学及び生物学の分野において一般的に使用される緩衝液であればよく、具体的には、炭酸−炭酸水素塩系、リン酸第一塩−リン酸第二塩系、及び両性イオンであるタンパク質やアミノ酸などの緩衝作用による緩衝液等が挙げられ、これらを目的とするpHによる適宜選択して使用する。
【0038】
本発明において、多孔質キトサンビーズを用いて上記方法により本発明による固定化酵素を得ることができるが、この際、該固定化酵素をさらに改善することを目的として、多孔質キトサンビーズを架橋剤で前処理した担体を固定化担体として用いることが好ましい。このように架橋剤で前処理した担体を用いると、さらに有機溶媒共存下においてより高い糖転移活性を示す固定化酵素を得ることができるという利点がある。
【0039】
本発明において用いられる架橋剤としては、キトサンビーズと接触したときにキトサンビーズのアミノ基と結合する能力を有するものであれば、特に制限されずに使用することができる。この場合、使用できる架橋剤の例としては、例えば、グルタルアルデヒド、エピクロロヒドリン、ビスジアゾベンシジン、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソチオシアネート及びN,N−エチレンビスマレインイミド等が挙げられる。これらの架橋剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、グルタルアルデヒド及びエピクロロヒドリンが好ましい。
【0040】
前処理の方法としては、水または上記した緩衝液中、担体に架橋剤を接触させる方法を用いることができる。架橋剤の濃度は、担体に対して、通常、0.01〜5(v/v)%の範囲が好ましい。多孔質キトサンビーズの担体としてキトパール BCW−2510をおよびグルタルアルデヒドを架橋剤として用いた際の前処理方法の一実施態様を以下に示す:キトパール BCW−2510 1g(湿重量)を2(v/v)%グルタルアルデヒド(以下、「GLA」と略す)溶液2ml中に浸透させ、4〜40℃、好ましくは10〜30℃にて、0.5〜3時間、好ましくは1〜2時間静置するか、または0.5〜3時間、好ましくは1〜2時間往復振盪処理(50〜180rpm、好ましくは100〜140rpm)した後、濾紙またはガラスフィルターで濾過し、過剰のGLAを除去・洗浄する方法が挙げられる。
【0041】
また、上記実施態様におけるα−グルコシダーゼの多孔質キトサンビーズ上への固定化量は、処理条件や使用する担体の種類等によって異なるが、例えば、GLA処理したキトパールBCW−2510を固定化担体として用いる場合、キトパールBCW−2510 1g(湿重量)に対して、上記と同様に緩衝液中で、0.01〜100mg、好ましくは1〜100mg、より好ましくは5〜50mgである。特に上記態様において、α−グルコシダーゼとしてバチルス ステアロサーモフィラス由来のものを使用する際には、固定化量は、キトパールBCW−2510 1g(湿重量)に対して、0.01〜10mg、好ましくは0.1〜1mgである。酵素の固定化担体上への固定化処理は、GLAによる架橋処理と同様の条件で静置または振盪処理によって行なうことができる。この際、未吸着の酵素は、酵素の溶出がなくなるまで、濾紙またはガラスフィルターで洗浄を行なうことにより除去することができる。
【0042】
上記のような方法により固定化した場合の見掛け上の固定化率(%)を、次式により算出した。
【0043】
【数1】
【0044】
また、酵素の固定化法としては、上記に述べたほかに、多孔質キトサンビーズ担体をカラムに充填した後、2(v/v)%GLA溶液を2〜3時間通液させ、滅菌蒸留水で充分洗浄した後、酵素溶液を通液させることにより固定化する方法を採用することができる。
【0045】
本発明による糖転移反応に使用される糖は、目的とする配糖体の種類などによって異なるが、例えば、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、コージビオース、ニゲロース、トレハロース、パノース、イソマルトース、及びイソマルトトリオース等が挙げられ、これらのうち、マルトースからマルトテトラオース位の低分子のマルトオリゴ糖が好ましく、特にマルトースが好ましい。また、糖の添加濃度は、1〜70(w/v)%、好ましくは30〜60(w/v)%である。
【0046】
本発明による固定化酵素を用いて製造される配糖体としては、使用される糖及び基質の種類によって様々であるが、例えば、各種クロマノール配糖体、フラボノール配糖体、フラバノン配糖体、フラボン配糖体、サポニン配糖体、及びカテキン配糖体等が挙げられ、これらのうち、好ましくは、特開平7−118,287号公報に開示されているような、下記一般式(1):
【0047】
【化5】
【0048】
[ただし、式中、R1 、R2 、R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基を表わし、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表わし、Xはグルコース残基(但し、グルコース残基中の水酸基の水素原子は炭素原子数が1〜8の低級アルキル基または炭素原子数が1〜10の低級アシル基で置換されていてもよい)を表わし、およびnは0〜4の整数である]で表わされるクロマノール配糖体が挙げられる。この際、例えば、上記一般式(1)で表わされるクロマノール配糖体を製造する際には、下記一般式(2):
【0049】
【化6】
【0050】
(ただし、式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 およびnは、それぞれ、上記と同様である)で表わされる2−置換アルコールが基質として使用され、上記基質とマルトースからマルトテトラオース位のマルトオリゴ糖などの上述した糖を本発明による固定化酵素の存在下で反応させることによって、上記一般式(1)で表わされるクロマノール配糖体(以下、単に「クロマノール配糖体」と称する)が製造できる。
【0051】
上記一般式(1)及び(2)において、R1 、R2 、R3 およびR4 は、同一または異なる水素原子または低級アルキル基を表わすものであるが、低級アルキル基を表わす際には、炭素原子数が好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6の低級アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、及びオクチル基等が挙げられ、これらのうち、メチル基及びエチル基が好ましい。同様にして、R5 は、水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表わすものであるが、これらのうち、低級アルキル基を表わす際には、上記R1 、R2 、R3 およびR4 における場合と同様であり、また、低級アシル基を表わす際には、炭素原子数が好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8の低級アシル基であり、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、及びオクタノイル基等が挙げられ、これらのうち、アセチル基及びプロピオニル基が好ましい。さらに、上記一般式(1)において、Xは、グルコース、またはグルコース残基中の水酸基の水素原子が炭素原子数が1〜8の低級アルキル基または炭素原子数が1〜10の低級アシル基で置換されたもの等が挙げられ、これらのうち、グルコースが好ましく使用される。さらに、上記一般式(1)及び(2)において、nは0〜4、好ましくは0〜2の整数である。
【0052】
本発明による糖転移反応に使用される基質としては、水酸基を有する水に難溶で生理活性に優れた物質であれば特に制限されず、目的とする配糖体の種類によって異なるが、例えば、上記一般式(2)で表わされる2−置換アルコール類、フラボノール、フラバノン、フラボン、サポゲニン、及びカテキン等が挙げられる。これらのうち、水酸基を有する水に難溶な抗酸化剤である、上記一般式(2)で表わされる2−置換アルコール(以下、単に「2−置換アルコール」と称する)が基質として好ましく使用される。この2−置換アルコールは、公知物質であり、特公平1−43755号公報や特公平1−49135号公報等に開示された方法により得ることができる。また、例えば、一般式(2)においてR1 、R2 、R3 及びR4 がCH3 であり、R5 がHであり、nが1である2−置換アルコールは、トロロックスを水素化リチウムアルミニウムの存在下においてジエチルエーテル中で加熱還流処理することなどにより容易に得ることができる。
【0053】
本発明による固定化酵素を用いてクロマノール配糖体を製造する際には、2−置換アルコールを糖溶液に溶解させることが望ましい。また、上記製造工程においては、有機溶媒を共存させることが望ましく、この際添加される有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられる。これらのうち、α−グルコシダーゼの糖転移活性を高めることを考慮すると、ジメチルスルホキシド及びN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。添加する有機溶媒の濃度は、1〜50(v/v)%であり、反応効率を考慮すると、5〜35(v/v)%が好ましい。
【0054】
上記実施態様において、基質としての2−置換アルコールの濃度は、反応液中において飽和濃度若しくはそれに近い濃度にすることが望ましく、特に、0.5〜10(v/v)%の範囲内であることが望ましい。
【0055】
本発明による反応条件としては、pHが、4.5〜7.5、好ましくは5.0〜6.5であり、反応温度が、10〜70℃、好ましくは30〜60℃であり、さらには、反応時間が、1〜50時間、好ましくは1〜40時間、より好ましくは2〜24時間である。特に、バチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼを使用する際の反応条件としては、pHが、4.5〜7.5、好ましくは5.0〜7.5であり、反応温度が、10〜70℃、好ましくは30〜70℃であり、さらには、反応時間が、1〜50時間、好ましくは2〜40時間である。但し、これらの反応条件は使用する固定化酵素の種類や量等により影響を受ける。
【0056】
本発明による固定化酵素を用いてクロマノール配糖体を製造する場合の製造方法は、特に限定されないが、例えば、固定化酵素をカラムに充填し、上記したようなpHおよび温度の反応条件下で、基質として2−置換アルコールおよび糖溶液の混合液をカラムに連続通液することにより、クロマノール配糖体を効果的に製造することができる。
【0057】
または、本発明において調製された固定化酵素を反応液中に直接添加し、振盪等の方法を用いて、反応液中に固定化酵素を分散させながら反応を行うことによって、クロマノール配糖体を効率的に製造してもよい。
【0058】
さらに、本発明による固定化酵素を用いて製造されるクロマノール配糖体(一般式(1))は、下記一般式(4)で表わされるもののほかに糖残基の異なるものも含む混合物(すなわち、一般式(1)中のXで表わされた糖残基の異なった各種クロマノール配糖体が共存する混合物)であることもあるが、このような場合には、クロマノール配糖体の混合物をグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)処理することにより、一般式(4)で示されるクロマノール配糖体を選択的に得ることができる。ここで、本発明におけるグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)処理とは、上述のクロマノール配糖体の酵素法による合成反応により得られたクロマノール配糖体の混合物を含む反応系溶液中のα−グルコシダーゼを失活させた後、該溶液中に糖化酵素の一種であるグルコアミラーゼ(=エキソ−1,4−α−D−グルコシダーゼ、EC 3.2.1.3)を添加し、さらに反応を続けることをいう。
【0059】
【化7】
【0060】
グルコアミラーゼ処理に用いられる酵素としては、有機溶媒に対する安定性に優れたグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)があり、具体的には、東洋紡績株式会社製のリゾプス属(Rhizopus sp.,以下同様につき括弧内を省略する)由来のグルコアミラーゼ、およびナガセ生化学工業株式会社製のリゾプス属(Rhizopus sp.,以下同様につき括弧内を省略する)由来のグルコアミラーゼなどが挙げられる。添加される酵素量としては、例えば、上述した東洋紡績株式会社製のバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼを失活させた後の反応液15mlに添加する場合には、5〜40U、好ましくは10〜30Uである。なお、この際「1U」とは、基質に可溶性澱粉を用いて30分間に10mgのグルコースを遊離させることのできる酵素量として定義される酵素の1単位である。
【0061】
また、上記実施態様において、グルコアミラーゼ処理における反応温度は、20〜70℃、好ましくは30〜60℃であり、反応時間は、1〜40時間、好ましくは10〜30時間である。ただし、上述したグルコアミラーゼ処理による反応を行う際の条件は、使用する酵素量により若干の影響を受ける。
【0062】
反応終了後は、目的とするクロマノール配糖体を含む反応液をXAD(オルガノ株式会社製)を担体として用いたカラムクロマトグラフィーで処理することにより、高純度のクロマノール配糖体が得られる。
【0063】
上述のようにして得られた本発明による固定化酵素は、固定化前の酵素と比較すると、至適温度曲線はほぼ同様の傾向を示すものの、至適pH曲線は固定化することによりやや酸性側での活性が増大する傾向があることが示された。
【0064】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらにより本発明の範囲がなんら制限されるものでないことはいうまでもない。
【0065】
参考例1:α−グルコシダーゼ(α-glucosidase, EC 3.2.1.20)の活性測定法
4(w/v)%マルトース水溶液100μlに100mMリン酸緩衝液(pH6.5)300μlを加え、37℃で5分間インキュベートした後、酵素液40μlを加え、同温度条件下において20分間反応させた後5分間の煮沸処理により反応を停止させた。次に、上記反応によるグルコースの生成量をグルコース測定キット(和光純薬工業株式会社製)を用いて測定した。なお、1Uは上記条件において1分間に1μmolのマルトースの加水分解を触媒する酵素量とした。
【0066】
実施例1
多孔質キトサンビーズである、キトパール BCW−2510、BCW−2610、BCW−3010及びBCW−3510(富士紡績株式会社製)、弱塩基性アニオン交換樹脂である、アンバーライト IRA−93ZU(オルガノ株式会社製)及びDEAE−トヨパール(東ソー株式会社製)、強塩基性アニオン交換樹脂である、Q−セファロース(ファルマシア株式会社製)を、それぞれ、担体として用いた。上記各担体1g(湿重量)に、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した東洋紡績株式会社製のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.) 由来のα−グルコシダーゼ、100U/ml(タンパク質濃度5mg/ml)を1ml加え、30℃にて2時間振盪(120rpm)することにより、固定化を行なった。この際、未吸着の酵素は、緩衝液にて酵素が溶出しなくなるまで振盪洗浄を行ない除去した。各担体への酵素の見掛け上の固定化率を上記「発明の実施の態様」において記載した式により計算し、その結果を表1に示す。
【0067】
次に、このようにして得られた固定化酵素各50mg(湿重量)を、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)で調製した60(w/v)%マルトース溶液1mlおよびジメチルスルホキシドで(本明細書中では、「DMSO」ともいう)調製した5(w/v)%の下記式(5)で示されるRS−2−置換アルコール溶液0.2mlの混合溶液に加え、40℃において20時間(120rpm)振盪することにより、反応を行なった。この時の2−置換アルコールのクロマノール配糖体への転移率を表2に示す。なお、転移率は、2−置換アルコールの減少の割合として記載した。
【0068】
【化8】
【0069】
実施例2
東洋紡績株式会社製のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.) 由来のα−グルコシダーゼ、100U/ml(タンパク質濃度5mg/ml)1mlの代わりに東洋紡績株式会社製のバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼ AGH−211、100U/ml(タンパク質濃度1mg/ml)1mlを使用する以外は、実施例1と同様の操作を行い、バチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼを多孔質キトサンビーズに固定化した。
【0070】
次に、このようにして得られた固定化酵素各50mg(湿重量)を、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)で調製した40(w/v)%マルトース溶液1ml及びジメチルスルホキシドで調製した5(w/v)%の上記式(5)で示されるRS−2−置換アルコール溶液0.2mlの混合溶液に加え、40℃において20時間(120rpm)振盪することにより、反応を行った。このときの、2−置換アルコールのクロマノール配糖体への転移率を下記表2に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
表1及び表2に示される結果から、サッカロマイセス属由来のα−グルコシダーゼおよびバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼ双方について、固定化率に関しては、キトパール及び各種イオン交換樹脂間で大きな相違はないものの、転移率はキトパールを使用した場合の方が各種イオン交換樹脂を使用した場合に比べて有意に大きく、これより、キトパールを固定化担体として用いた固定化酵素が酵素吸着能に対して糖転移活性に優れていることが判る。
【0074】
実施例3
担体としてキトパール BCW−2510及びBCW−3510、各1g(湿重量)に、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した東洋紡績株式会社製のバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼ AGH−211、100U/ml(タンパク質濃度1mg/ml)を1ml加え、30℃にて2時間振盪(120rpm)することにより、固定化を行った。この際、未吸着の酵素は、緩衝液にて酵素が溶出しなくなるまで振盪洗浄を行うことにより、除去した。
【0075】
次に、このようにして得られた固定化酵素各50mg(湿重量)を、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)で調製した30(w/v)%マルトース溶液とDMSOで調製した5(w/v)%の上記式(5)で示されるRS−2−置換アルコール溶液の両者の量を下記表3に示されるように変えて混合した溶液中に添加し、40℃において20時間振盪(120rpm)することにより反応を行った。この時の、2−置換アルコールのクロマノール配糖体への転移率を下記表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示される結果から、キトパール BCW−2510を固定化担体として用いた場合、DMSO濃度及び2−置換アルコール濃度を高くしても、高い転移率を示すことが分かった。
【0078】
実施例4
(1)GLA未処理固定化酵素の調製
担体としてキトパール BCW−2510、BCW−3010、各1g(湿重量)に、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した東洋紡績株式会社製のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.) 由来のα−グルコシダーゼ、200U/ml(タンパク質濃度10mg/ml)を1ml加え、30℃にて2時間振盪(120rpm)することにより、固定化を行なった。未吸着の酵素は、緩衝液にて酵素が溶出しなくなるまで振盪洗浄を行ない除去した。各担体への酵素の見掛け上の固定化率を実施例1と同様にして算出し、結果を表4に示す。
【0079】
(2)GLA処理固定化酵素の調製
担体として、キトパール BCW−2510、BCW−3010、各1g(湿重量)を分取し、2(v/v)%GLA溶液2ml中にそれぞれ入れ、30℃において2時間振盪処理(120rpm)した。処理後、濾紙上にGLA処理した担体を集め、この濾紙を50mMリン酸緩衝液(pH6.5)30mlで3回洗浄を行なった。
【0080】
次に、このようにしてGLA処理された担体1g(湿重量)に、50mMリン酸衝撃液(pH6.5)に溶解した東洋紡績株式会社製のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)由来のα−グルコシダーゼ、200U/ml(タンパク質濃度10mg/ml)を1ml加え、30℃にて2時間振盪(120rpm)し、固定化を行なった。未吸着の酵素は、緩衝液にて酵素が溶出しなくなるまで振盪洗浄を行ない除去した。各担体への酵素の見掛け上の固定化率を実施例1と同様にして算出し、結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表4のから、キトパール BCW−2510及びBCW−3010の両方について、GLA処理により酵素の固定化率が改善されることが示される。
【0083】
(3)固定化酵素の安定性の評価
上記(1)及び(2)において調製した、GLA未処理固定化酵素およびGLA処理固定化酵素、各50mg(湿重量)を50mMリン酸緩衝液(pH6.5)で調製した60(w/v)%マルトース溶液1mlおよびジメチルスルホキシドで調製した5(w/v)%の上記式(5)で示されるRS−2−置換アルコール溶液0.2mlの混合溶液に加え、40℃で20時間振盪(120rpm)することにより、反応を行なった。反応終了後、この反応液を濾過して固定化酵素を回収し、同様の条件において糖転移反応をさらに2回繰り返し、それぞれの反応における転移率を求め、この結果から反応液中における各固定化酵素の安定性を評価した。その結果を表5に示す。
【0084】
【表5】
【0085】
表5に示される結果から、GLA処理することにより反応液中のジメチルスルホキシドに対する、α−グルコシダーゼの安定性は飛躍的に向上することが分かった。また、キトパール BCW−2510を固定化担体として用いた場合の転移率が最も高いことから、キトパール BCW−2510を固定化担体として用いることが好ましいことが示された。
【0086】
実施例5
(1)GLA未処理固定化酵素の調製
担体としてキトパール BCW−2510 1g(湿重量)に、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した東洋紡績株式会社製のバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼ AGH−211、100U/ml(タンパク質濃度1mg/ml)を1ml加え、30℃にて2時間振盪(120rpm)することにより、固定化を行った。この際、未吸着の酵素は、緩衝液にて酵素が溶出しなくなるまで振盪洗浄を行うことにより、除去した。この結果、担体への酵素の固定化率は75%であった。
【0087】
(2)GLA処理固定化酵素の調製
担体としてキトパール BCW−2510を1g(湿重量)を分取し、2(v/v)%GLA溶液2ml中に入れ、30℃において2時間振盪(120rpm)した。処理後、濾紙上にGLA処理した担体を集め、この濾紙を50mMリン酸緩衝液(pH6.5)30mlで3回洗浄を行った。
【0088】
次に、このようにしてGLA処理された担体1g(湿重量)に、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した東洋紡績株式会社製のバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼ AGH−211、100U/ml(タンパク質濃度1mg/ml)を1ml加え、30℃にて2時間振盪(120rpm)することにより、固定化を行った。この際、未吸着の酵素は、緩衝液にて酵素が溶出しなくなるまで振盪洗浄を行うことにより、除去した。この結果、担体への酵素の固定化率は95%であった。
【0089】
(3)固定化酵素の安定性の評価
上記(1)及び(2)において調製した、GLA未処理固定化酵素及びGLA処理固定化酵素、各50mg(湿重量)を50mMリン酸緩衝液(pH6.5)で調製した30(w/v)%マルトース溶液0.96ml及びジメチルスルホキシドで調製した5(w/v)%の上記式(5)で示されるRS−2−置換アルコール溶液0.24mlの混合溶液に加え、40℃で20時間振盪(120rpm)することにより反応を行った。反応終了後、反応液を濾過して固定化酵素を回収し、同様の条件において糖転移反応をさらに繰り返し、それぞれの反応における転移率を求め、この結果から反応液中における各固定化酵素の安定性を評価した。その結果を下記表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
上記(1)および(2)に示される結果から、GLA処理により酵素の固定化率が改善され、また、表6に示される結果から、GLA処理することにより反応液中のジメチルスルホキシドに対する、α−グルコシダーゼの安定性は飛躍的に向上することが示される。
【0092】
実施例6
(1)担体のGLA処理
固定化担体としてキトパール BCW−2510を用い、この担体、1g(湿重量)を分取し、2(v/v)%GLA溶液2ml中に入れ、30℃において2時間振盪処理(120rpm)した。処理後、濾紙上にGLA処理された担体を集め、この濾紙について50mMリン酸緩衝液(pH6.5)30mlで3回振盪洗浄を行なった。
【0093】
(2)α−グルコシダーゼの固定化
上記(1)によって得られたGLA処理担体1g(湿重量)に、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した東洋紡績株式会社製のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.) 由来のα−グルコシダーゼ、200U/ml(タンパク質濃度10mg/ml)を1ml加え、30℃にて2時間振盪(120rpm)し、固定化を行なった。未吸着の酵素は、緩衝液にて酵素が溶出しなくなるまで振盪洗浄を行なった。このようにして得られた固定化酵素は、担体1g(湿重量)当たり、200Uのα−グルコシダーゼを見かけ上固定化していた。
【0094】
(3)クロマノール配糖体の合成
上記(2)によって得られた固定化酵素1g(湿重量)を、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)で調製した40%(w/v)マルトース溶液20mlおよびジメチルスルホキシドで調製した5(w/v)%の上記式(5)で示されるRS−2−置換アルコール溶液4mlの混合溶液に加え、40℃において20時間振盪(120rpm)することにより、反応を行なった。このときの2−置換アルコールのクロマノール配糖体への転移率は約40%であった。
【0095】
次に、この反応液を濾過することにより固定化酵素を回収した後、反応液を30%メタノール溶液で平衡化したXAD−4(オルガノ株式会社製)カラムにのせ、非吸着物を30%メタノールで溶出した後、さらに、80%メタノール溶液でクロマノール配糖体を溶出させた。このようにして得られたクロマノール配糖体画分をシリカゲルクロマトグラフィー[酢酸エチル:メタノール=5:1(v/v)]処理することによって、クロマノール配糖体として下記式(6)で示される2−(α−D−グルコピラノシル)メチル−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オール(一般式(1)のn=1、R1 =R2 =R3 =R4 =CH3 、R5 =Hに相当する)が高純度で約70mg得られた。
【0096】
【化9】
【0097】
このようにして得られた2−(α−D−グルコピラノシル)メチル−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールの赤外線吸収スペクトルを図1に示す。
【0098】
また、上記化合物の 1H−NMR、13C−NMR、質量分析及び比旋光度の結果は以下のとおりである。
【0099】
1H−NMR δ(270MHz, DMSO−d6 ):
1.23および1.25(s,3H)
1.69から1.76(m,1H)
1.87から1.92(m,1H)
1.97(s,3H)
2.02(s,3H)
2.04(s,3H)
2.51(broad t,2H)
3.05から4.88(m,13H)
7.39(s,1H)
13C−NMR δ(67.8MHz,DMSO−d6 、プロトンデカップリングスペクトル):
11.7
11.7
12.6
19.7および19.8
22.2および22.4
28.2
60.6および60.8
70.0および70.1
71.2および71.5
71.9
72.6および72.9
73.1
73.8および73.9
98.7および98.8
116.6および116.7
120.1および120.2
120.7および120.8
122.5
144.2
145.1
質量スペクトル(FAB)
m/z 398 (分子イオンピーク)
比旋光度
【0100】
【外1】
【0101】
実施例7
(1)担体のGLA処理
固定化担体としてキトパール BCW−2510を用い、この担体80g(湿重量)を分取し、2(v/v)%GLA溶液160ml中に入れ、30℃において2時間振盪(120rpm)した。処理後、濾紙上にGLA処理された担体を集め、この濾紙について50mMリン酸緩衝液(pH6.5)2400mlで3回振盪洗浄を行った。
【0102】
(2)α−グルコシダーゼの固定化
上記(1)によって得られたGLA処理担体80g(湿重量)に、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した東洋紡績株式会社製のバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼ AGH−211、100U/ml(タンパク質濃度1mg/ml)を80ml加え、30℃にて2時間振盪(120rpm)して、固定化を行った。未吸着の酵素は、緩衝液にて酵素が溶出しなくなるまで振盪洗浄を行った。このようにして得られた固定化酵素は、担体1g(湿重量)当たり、100Uのα−グルコシダーゼを見掛け上固定化していた。
【0103】
(3)クロマノール配糖体の合成
上記(2)によって得られた固定化酵素80g(湿重量)を、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)で調製した30(w/v)%マルトース溶液1500ml及びジメチルスルホキシドで調製した5(w/v)%の上記式(5)で示されるRS−2−置換アルコール375mlの混合溶液に加え、40℃において20時間振盪(120rpm)することにより反応を行った。この時の2−置換アルコールのクロマノール配糖体への転移率は約87%であり、この反応液中のクロマノール配糖体は糖部分の構造が異なるものの混合物(すなわち、一般式(1)のn=1、R1 =R2 =R3 =R4 =CH3 、R5 =Hで、かつXで表わされる糖残基の異なった各種クロマノール配糖体が共存する混合物)であった。この反応液を15分間煮沸処理することにより、α−グルコシダーゼを失活させ、24,000Uの東洋紡績株式会社製のリゾプス属由来のグルコアミラーゼを添加し、50℃において24時間反応させることにより、反応液中のクロマノール配糖体はほぼ、一般式(7)で示されるクロマノール配糖体1種類になった。この反応液を15分間煮沸処理することにより、グルコアミラーゼを失活させた後、30%メタノール溶液で平衡化したXAD−4(オルガノ株式会社製)カラムにアプライし、非吸着物を30%メタノールで溶出後、80%メタノール溶液でクロマノール配糖体を溶出させた。このようにして得られたクロマノール配糖体画分をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=5:1(v/v))処理することにより、クロマノール配糖体として下記一般式(7)で示される2−(α−D−グルコピラノシル)メチル−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オール(一般式(1)のn=1、R1 =R2 =R3 =R4 =CH3 、R5 =Hに相当する)を約20g得た。
【0104】
【化10】
【0105】
このようにして得られた一般式(7)で示されるクロマノール配糖体の赤外線吸収スペクトルを図2に示す。
【0106】
また、上記化合物の 1H−NMR、13C−NMR、質量分析及び比施光度の結果は以下のとおりである。
【0107】
1H−NMR δ(270MHz,DMSO−d6 ):
1.23および1.25(s,3H)
1.69から1.76(m,1H)
1.87から1.92(m,1H)
1.97(s,3H)
2.02(s,3H)
2.04(s,3H)
2.51(broad t,2H)
3.05から4.88(m,13H)
7.39(s,1H)
13C−NMR δ(67.8MHz,DMSO−d6 、プロトンデカップリングスペクトル):
11.7
11.7
12.6
19.7および19.8
22.2および22.4
28.2
60.6および60.8
70.0および70.1
71.2および71.5
71.9
72.6および72.9
73.1
73.8および73.9
98.7および98.8
116.6および116.7
120.1および120.2
120.7および120.8
122.5
144.2
145.1
質量スペクトル (FAB):
m/z 398 (分子イオンピーク)
比施光度
【0108】
【外2】
【0109】
【発明の効果】
上述したように、本発明の固定化酵素による配糖体の製造方法を用いて、糖転移作用を触媒する酵素を多孔質キトサンビーズに効果的に固定化することにより、(1)酵素活性を実質的に失活させることなく、安定な固定化酵素を得ることができ;(2)有機溶媒共存下においても酵素の活性を長期にわたり安定して維持でき;(3)使い捨てにすることなく、連続使用できるようになり;(4)本発明による固定化酵素を用いることにより、配糖体の生産効率を高めることができ;さらに、(5)合成された配糖体への異種タンパク質の混入を防ぎ、高品質の配糖体を収率よく合成することができるようになった。
【0110】
また、糖転移作用を触媒する酵素としてバチルス ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼを用いることにより、有機溶媒共存下においても長期間安定である固定化酵素が調製でき、さらに、このようにして得られた固定化酵素を用いることにより生理活性および化学的安定性に優れた水溶性配糖体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例6で得られた2−(α−D−グルコピラノシル)メチル−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールの赤外線吸収スペクトルである。
【図2】 実施例7で得られた2−(α−D−グルコピラノシル)メチル−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールの赤外線吸収スペクトルである。
Claims (6)
- 多孔質キトサンビーズにα−グルコシダーゼを固定化させた固定化酵素を用いて、水酸基を有する水に難溶な生理活性に優れた物質と糖とを有機溶媒共存下において反応させ、生理活性に優れた水溶性配糖体を生成することを特徴とする各種配糖体の製造方法。
- 該固定化酵素は多孔質キトサンビーズを架橋剤で架橋処理した後に酵素を固定化させたものである請求項1記載の方法。
- 該多孔質キトサンビーズの粒径が0.5〜3.0mmである請求項1または2記載の方法。
- α−グルコシダーゼの多孔質キトサンビーズ上への固定化量が、該多孔質キトサンビーズ1g(湿重量)当たり、0.01〜100mgである請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
- 該糖がα−グルコシル糖化合物である請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
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