JP3703875B2 - クロマノール配糖体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、新規なクロマノール配糖体およびその製造方法、並びにそれを用いた抗酸化剤に関するものである。詳しく述べると、公知の抗酸化剤として知られる、一般式(2)
【0002】
【化6】
【0003】
(ただし、式中、R1 ,R2 ,R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表し、また、nは0〜4の整数を表す)で表される2−置換アルコール(以下、単に2−置換アルコールともいう)に糖を結合させることにより得られる化学的安定性に優れた新規な水溶性クロマノール配糖体およびその製造方法、並びにそれを用いた水溶性抗酸化剤に関するものである。
【0004】
【従来の技術】
古くより過酸化脂質の生成は、食品などの品質劣化の原因として知られていたが、最近では生体においても動脈硬化、老化、癌など様々な疾病に関連していることが明らかになってきている。そこで、活性酸素などによって引き起こされる過酸化脂質の生成を抑えるための抗酸化剤の開発は、食品ばかりではなく化粧品、医薬品など多くの分野において注目を集めている。
【0005】
現在、多くの抗酸化活性が知られているが、特にビタミンEはその優れた抗酸化活性より、食品、化粧品、医薬品分野において多用されている。しかしながら、ビタミンEは水に不溶な粘性油状物のため注射剤または内服液などの溶液剤としての使用は不可能であり、ビタミンEの優れた抗酸化活性を保持した水溶性のビタミンE類似化合物が必要とされている。
【0006】
特願平5−338083号において、優れた水溶性を有するビタミンE類似化合物(クロマノール配糖体)および酵素法によるその製造方法が示されている。上記製造方法では、ビタミンE類似化合物たるクロマノール配糖体を合成するにあたって受容体(2−置換アルコール)はほとんど水に溶けないため、反応系に有機溶媒を添加し、糖溶液に溶解させる必要があり、サッカロマイセス属(Saccharomyces sp.、以下同様につきカッコ内省略)由来のα−グルコシダーゼを2−置換アルコールおよびマルトースを溶解したジメチルスルホキシド含有溶液(60%マルトース溶液:5%2−置換アルコールのジメチルスルホキシド溶液=5:1)に作用させたとき、2−置換アルコールから一般式(6)
【0007】
【化7】
【0008】
(ただし、式中、R1 ,R2 ,R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基であり、糖残基の水酸基の水素原子は低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、nは0〜4の整数を表す)で示されるクロマノール配糖体への転移率は約45%であった。
【0009】
工業化を考えた場合、2−置換アルコールの濃度をさらに高め、かつ、転移率を上げる必要があるが、本発明者らの調査の結果、特願平5−338083号において用いられている酵素は有機溶媒の濃度の増加に伴い、逆に安定性が減少することが明らかとなり、2−置換アルコールの量を増やすために反応系での有機溶媒の濃度を高めることは困難であり、今日工業化に適するだけの転移率を達成してなる水溶性を有するビタミンE類似化合物(クロマノール配糖体)および酵素法によるその製造方法は十分に確立されているとは言えないものであった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、新規な水溶性クロマノール配糖体およびその製造方法、並びにそれを用いた水溶性抗酸化剤を提供するものである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、特願平5−338083号に開示された酵素法において工業化に適するだけの2−置換アルコールからビタミンE類似化合物(クロマノール配糖体)への転移率を達成し得る水溶性クロマノール配糖体の製造方法およびそれにより得られる水溶性クロマノール配糖体、並びにその水溶性クロマノール配糖体を用いてなる水溶性抗酸化剤を提供するもである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記一般式(6)で示されるクロマノール配糖体をより効率よく合成するため検討した結果、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophylus、以下同様につきカッコ内省略)のα−グルコシダーゼが、より高い有機溶媒濃度、すなわち、高濃度の2−置換アルコールを使用することができる条件において非常に高い転移活性を示すことを発見し、また、反応液中に特願平5−338083号において示されている上記一般式(6)で示されるクロマノール配糖体の他に、新規な水溶性クロマノール配糖体(一般式(1)
【0013】
【化8】
【0014】
(ただし、式中、R1 ,R2 ,R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基であり、糖残基の水酸基の水素原子は低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、nは0〜4の整数を表す)の存在を確認し、該クロマノール配糖体(一般式(1))が優れた抗酸化活性を有することを究明し、これに基づいて水溶性抗酸化剤の有効成分として有用であるとする用途を見出だし、こうした知見に基づき本発明を完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明の目的は、(A) 一般式(1)
【0016】
【化9】
【0017】
(ただし、式中、R1 ,R2 ,R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基であり、糖残基の水酸基の水素原子は低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、nは0〜4の整数を表す)で表わされるクロマノール配糖体により達成される。
【0018】
また、本発明の他の目的は、(B) 一般式(2)
【0019】
【化10】
【0020】
(ただし、式中、R1 ,R2 ,R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基を表し、また、nは0〜4の整数を表す)で表わされる2−置換アルコールと、α−グルコシル糖化合物とを含有する溶液にα−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.20)とを作用させることを特徴とする一般式(3)
【0021】
【化11】
【0022】
(ただし、式中、R1、R2、R3およびR4は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R5は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基であり、Xはピラノース形のD−グルコース1〜8分子がα−1,4またはα−1,6結合した構造を持つ糖残基であり、該糖残基の水酸基の水素原子は低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、nは0〜4の整数を表す)で示されるクロマノール配糖体の混合物の製造方法により達成される。
【0023】
さらに、本発明の他の目的は、(C) 上記(B)に示す一般式(2)で表わされる2−置換アルコールと、α−グルコシル糖化合物とを含有する溶液にα−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.20)とを作用させて上記(B)に示す一般式(3)で示されるクロマノール配糖体の混合物を合成し、さらに該クロマノール配糖体の混合物をグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)処理することを特徴とする一般式(4)
【0024】
【化12】
【0025】
(ただし、式中、R1 ,R2 ,R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基、R5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基であり、Rは水素原子または式(5)
【0026】
【化13】
【0027】
で表される基であり、糖残基の水酸基の水素原子は低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、nは0〜4の整数を表す)で示されるクロマノール配糖体の製造方法により達成される。
【0028】
さらにまた、本発明の他の目的は、(D) 上記(A)に示す一般式(1)で表わされるクロマノール配糖体を有効成分とすることを特徴とする抗酸化剤により達成される。
【0029】
【作用】
本発明に係るクロマノール配糖体(上記一般式(3))の酵素法による合成に用いられる酵素としては、有機溶媒に対する安定性に優れ、かつ転移活性の強い、α−グルコシダーゼを用いることが好ましく、例えば、東洋紡株式会社製のバチルス・ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼなどが挙げられる。こうした酵素の利用により工業化に見合うだけの2−置換アルコールからクロマノール配糖体への高い転移率を得ることができるためである。添加される酵素量としては、例えば、上述した東洋紡株式会社製のバチルス・ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシダーゼを反応液15mlに添加する場合、3〜20U、好ましくは5〜10Uである。酵素量が2U未満の場合には、酵素による触媒作用が少なく、反応に長時間を要するため好ましくなく、また酵素量が20Uを越える場合には、過度の添加に見合うだけの効果が得られず不経済である。なお、ここでの1Uは、基質にマルトースを用い、1分間に1μmolのマルトースの加水分解を触媒する酵素量として定義される酵素の1単位である。
【0030】
次に、本発明に係るクロマノール配糖体(上記一般式(3))を酵素法により合成するための条件としては、まず、2−置換アルコール(上記一般式(2))をα−グルコシル糖化合物(本明細書では、単に糖ともいう)溶液に溶解させることが望ましく、そのためには水に対する溶解性が非常に低い2−置換アルコールを溶解し得る有機溶媒を添加する必要がある。さらに、添加される有機溶媒としては、上述したα−グルコシダーゼの転移活性を効率よく発現させることができるものでなければならず、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、アセトンおよびアセトアニリドなどが挙げられ、上述したα−グルコシダーゼの転移活性を高めるためにはジメチルスルホキシドおよびN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。添加する有機溶媒の濃度は、1〜50(v/v)%、好ましくは反応効率を考えると5〜40(v/v)%である。該有機溶媒が1(v/v)%未満の場合には、所望とする2−置換アルコール(上記一般式(2))およびα−グルコシル糖化合物を溶解するに十分でなく、また50(v/v)%を越える場合には、酵素の安定性が低下し、転移活性も弱くなるため好ましくない。
【0031】
また、本発明に係るクロマノール配糖体(上記一般式(3))を酵素法により合成する際に用いられる2−置換アルコール(一般式(2))は、公知物質であり、特公平1−43755号、特公平1−49135号等の方法により、得ることができる。また、例えば、一般式(2)においてR1 =R2 =R3 =R4 =CH3 、R5 =H、n=1とする2−置換アルコールの1種は、トロロックスを水素化リチウムアルミニウムの存在下においてジエチルエーテル中で加熱還流処理することなどにより容易に得ることができる。2−置換アルコール(上記一般式(2))の濃度は、反応液中において飽和濃度もしくはそれに近い濃度にすることが望ましい。これにより、実際上(および理論上)最大の転移率(収率)を得ることができるためである。
【0032】
さらに、本発明に係るクロマノール配糖体(上記一般式(3))を酵素法により合成する際に用いられるα−グルコシル糖化合物の種類は、マルトースからマルトヘキサオース位のマルトオリゴ糖(ここで、マルトオリゴ糖とは、2〜10ぐらいまでの単糖がα−1,4グリコシド結合で結ばれた構造を持つものの総称をいう)がよく、好ましくはマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオースである。α−グルコシル糖化合物の濃度は5〜50(w/v)%、好ましくは10〜50(w/v)%である。α−グルコシル糖化合物の濃度が5(w/v)%未満では、糖が不足するため2−置換アルコールからクロマノール配糖体への高い転移率を得ることができず、他方、50(w/v)%を越える場合には、添加に見合うだけの転移率の向上が得られず、工業化に適した経済性を確保できない。
【0033】
また、本発明に係るクロマノール配糖体(上記一般式(3))を酵素法により合成する際の反応系のpHは、4.5〜7.5、好ましくは5.0〜7.5である。pHが上記範囲を外れる場合には、上述した酵素が失活するなど好ましくないためである。
【0034】
同様に本発明に係るクロマノール配糖体(上記一般式(3))を酵素法により合成する際の反応系の反応温度は10〜70℃、好ましくは30〜70℃であり、また反応時間は、1〜50時間、好ましくは2〜40時間である。反応温度が10℃未満の場合には、上述した酵素の活性が低下し、十分な転移率を確保するのに長時間を要するため経済的でなく、70℃を越える場合には、上述した酵素が失活する恐れがあるほか、合成されたクロマノール配糖体が分解を受けるなど好ましくない。また、反応時間が2時間未満の場合には、なお未反応な状態であり、十分な転移率(収率)を得ることができず、40時間を越える場合には、これに見合うだけのさらなる効果が期待できず不経済となる。
【0035】
ただし、上述した酵素法による合成の際のこうした条件は、使用する酵素量により若干の影響を受ける。
【0036】
上述した酵素法による合成反応により生じるクロマノール配糖体(上記一般式(3))は、上記一般式(6)で表されるもののほかに糖残基の異なるものも含む混合物(すなわち、一般式(3)中のXで表された糖残基の異なった各種クロマノール配糖体が共存する混合物)であり、このクロマノース配糖体の混合物をグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)処理することにより、一般式(4)で示されるクロマノール配糖体(一般式(1)および(6)で示されるもの)を得ることができる。ここで、本発明におけるグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)処理とは、上述のクロマノール配糖体の酵素法による合成反応により得られたクロマノール配糖体の混合物を含む反応系溶液中のα−グルコシダーゼを失活させた後、該溶液中に糖化酵素の1種であるグルコアミラーゼ(=エキソ−1,4−α−D−グルコシダーゼ、EC 3.2.1.3)を添加し、さらに反応を続けることをいう。
【0037】
グルコアミラーゼ処理に用いられる酵素としては、有機溶媒に対する安定性に優れ、かつ転移活性の強いグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)であり、具体的には、東洋紡株式会社製のリゾプス属(Rhizopus sp.、以下同様につきカッコ内省略)由来のグルコアミラーゼなどが挙げられる。添加される酵素量としては、例えば、上述した東洋紡株式会社製のリゾプス属由来のα−グルコシダーゼを失活させた後の反応液15mlに添加する場合には、5〜40U、好ましくは10〜30Uである。酵素量が5U未満の場合には、酵素による触媒作用が少なく、反応に長時間を要するため好ましくなく、また酵素量が40Uを越える場合には、過度の添加に見合うだけの効果が得られず不経済である。なお、ここでの1Uは、基質に可溶性デンプンを用い30分間において10mgのグルコースを遊離させることのできる酵素量として定義される酵素の1単位である。
【0038】
また、上記グルコアミラーゼ処理における反応温度は、20〜70℃、好ましくは30〜60℃であり、反応時間は1〜40時間、好ましくは10〜30時間である。反応温度が20℃未満の場合には、酵素の活性が低下し、混合物の変換を促進するのに長時間を要するため経済的でなく、70℃を越える場合には、上述した酵素が失活する恐れがあるほか、合成されたクロマノール配糖体が分解を受けるなど好ましくない。また、反応時間が1時間未満の場合には、混合物の変換が不十分な状態であり、クロマノール配糖体(一般式(4))への十分な転移率(収率)を得ることができず、40時間を越える場合には、これに見合うだけのさらなる効果が期待できず不経済となるほか、上記一般式(1)のクロマノール配糖体は徐々に分解を受け、上記一般式(6)のクロマノール配糖体に変換される。
【0039】
ただし、上述したグルコアミラーゼ処理による反応を行う際のこうした条件は、使用する酵素量により若干の影響を受ける。
【0040】
次に反応終了後、反応液をXAD(オルガノ株式会社製)を担体として用いたカラムクロマトグラフィーで処理することにより、高純度のクロマノール配糖体(一般式(4))が得られる。
【0041】
なお、上述の一般式(1)〜(4)および(6)において、式中のR1 ,R2 ,R3 およびR4 は、同一または異なる水素原子または低級アルキル基であって、このうち低級アルキル基としては、好ましくは炭素原子1〜5のアルキル基、最も好ましくは炭素原子1〜3のアルキル基である。また同様にR5 は水素原子、低級アルキル基または低級アシル基であり、このうち低級アルキル基としては、好ましくは炭素原子1〜8のアルキル基、最も好ましくは炭素原子1〜6のアルキル基であり、また低級アシル基としては、炭素原子1〜10のアシル基、最も好ましくは炭素原子1〜6のアシル基である。さらに同様に糖残基の水酸基の水素原子は、低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよく、かかる低級アルキル基としては、好ましくは炭素原子1〜6のアルキル基、最も好ましくは炭素原子1〜4のアルキル基であり、低級アシル基としては、炭素原子1〜8のアシル基、最も好ましくは炭素原子1〜4のアシル基である。
【0042】
このようにして得られたクロマノール配糖体(一般式(1))の水に対する溶解度は、トコフェロールの2位のイソプレノイド側鎖をカルボキシル基に置換した6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(以下、単にトロロックスともいう)、2−置換アルコールに比べ著しく高いものである。
【0043】
さらに、得られたクロマノール配糖体(一般式(1))は、ヘキサン−イソプロピルアルコール溶液中における高度不飽和脂肪酸メチルエステルの脂質過酸化速度の測定で明らかなように、トコフェロールと同等の抗酸化活性を有している。またクロマノール配糖体(一般式(1))は、水溶性の抗酸化剤として知られるアスコルビン酸などに比べて、顕著な酸化速度の抑制作用を奏するものである。例えば、生体膜をモデルとして卵黄レシチンでリポソームをつくり、水溶性ラジカル発生剤でリポソームの外側より酸化反応を促進させた際、リポソームの外側にクロマノール配糖体(一般式(1))を存在させておくことで、アスコルビン酸などよりも顕著に酸化速度を抑制することができる。また、クロマノール配糖体(一般式(4))は、クロマン環をもっていることにより、一重項酸素など様々な活性酸素の消去能をも有している。
【0044】
また、得られたクロマノール配糖体(一般式(1))は、その高い溶解性(水溶性)および優れた抗酸化活性から動脈硬化、老化、癌など様々な疾病に効果のある注射剤または内服薬などの溶解剤などの抗酸化剤の有効成分として利用することができ、この場合には、該クロマノール配糖体(一般式(1))の水溶液をそのまま抗酸化剤として使用できるほか、該溶液に、相互に反応性のない他の有効成分を適当量配合して用いてもよい。
【0045】
【実施例】
次に、実施例により本発明を説明するが、これらにより本発明の範囲がなんら制限されるものでないことはいうまでもない。
【0046】
参考例1
α−グルコシダーゼ(α−glucosidase,EC 3.2.1.20)の活性測定
4(w/v)%マルトース水溶液100μlに100mMリン酸(pH6.5)300μlを加え、37℃で5分間インキュベートした後、酵素液40μlを加え、同温度条件下において20分間反応させ5分間の煮沸処理により反応を停止した。そして生成したグルコースをグルコース測定キット(和光純薬工業株式会社製)を用いて測定した。
【0047】
なお、以下、本実施例における酵素の1単位である1Uは、上記条件において1分間に1μmolのマルトースの加水分解を触媒する酵素量とした。
【0048】
実施例1
50mMリン酸緩衝液(pH6.0)で調製した30(w/v)%マルトース溶液とジメチルスルホキシド(本明細書では、DMSOとも言う)で調製した4.5(w/v)%の式(7)
【0049】
【化14】
【0050】
で示される2−置換アルコール(一般式(2)のn=1、R1 =R2 =R3 =R4 =CH3 、R5 =Hに相当する)溶液の両者の量を変えて混合し、2−置換アルコールおよびDMSO濃度の異なる溶液を調製した。そして東洋紡株式会社製のサッカロマイセス属由来のα−グルコシターゼまたは東洋紡株式会社製のバチルス・ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシターゼを5U加え15時間反応させた。そして、2−置換アルコールの減少率を転移率とし、転移活性を比較した。なお、反応温度は各酵素の最適条件を用いた。
【0051】
表1に転移活性の比較を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果、バチルス・ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシターゼは、DMSO濃度および2−置換アルコール濃度が高くても非常に高い転移活性を示すことがわかった。
【0054】
実施例2
50mMリン酸緩衝液(pH6.0)で調製した30(w/v)%マルトース溶液120mlに対し、DMSOで調製した5(w/v)%の上記式(7)で示される2−置換アルコール溶液40mlおよび東洋紡株式会社製のバチルス・ステアロサーモフィラス由来のα−グルコシターゼを800U加え、50℃において20時間反応させた。この時の2−置換アルコールのクロマノール配糖体への転移率はモル比で約87%であり、この反応液中のクロマノール配糖体は糖部分の構造が異なるものの混合物(すなわち、一般式(3)のn=1、R1 =R2 =R3 =R4 =CH3 、R5 =Hで、かつXで表される糖残基の異なった各種クロマノール配糖体が共存する混合物)であった。この反応液を15分間煮沸処理することにより、α−グルコシターゼを失活させ、2400Uの東洋紡株式会社製のリゾプス属由来のグルコアミラーゼを添加し、50℃において24時間反応させることにより、反応液中のクロマノール配糖体は、ほぼ2種類になった。この反応液を15分間煮沸処理することにより、グルコアミラーゼを失活させた後、30%メタノール溶液で平衡化したXAD−4(オルガノ株式会社製)カラムにアプライし、比吸着物を30%メタノールで溶出後、80%溶液でクロマノール配糖体を溶出させた。次に得られたクロマノール配糖体画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=5:1、v/v)処理することで高純度のクロマノール配糖体である式(8)
【0055】
【化15】
【0056】
で示される2−(α−D−グルコピラノシル)−3,4−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチル−2H−1−ベンゾピラン(一般式(6)のn=1、R1 =R2 =R3 =R4 =CH3 、R5 =Hに相当する)を約2000mg、および式(9)
【0057】
【化16】
【0058】
で示される2−(α−D−イソマルトシル)−3,4−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチル−2H−1−ベンゾピラン(一般式(1)のn=1、R1 =R2 =R3 =R4 =CH3 、R5 =Hに相当する)を約1100mg得た。
【0059】
得られた上記式(8)に示されるクロマノール配糖体の赤外線吸収スペクトルを図1に示す。
【0060】
また、上記式(8)に示されるクロマノール配糖体の 1H−NMR、13C−NMR、質量分析および比旋光度の結果は、以下の通りである。
【0061】
1H−NMR δ(270MHz, DMSO−d6 ) 1.23および1.25(s,3H)、1.69から1.76(m,1H)、1.87から1.92(m,1H)、1.97(s,3H)、2.02(s,3H)、2.04(s,3H)、2.51(broad t,2H)、3.05から4.88(m,13H)、7.39(s,1H)
13C−NMR δ(67.8MHz,DMSO−d6 、プロトンデカップリングスペクトル) 11.7、11.7、12.6、19.7および19.8、22.2および22.4、28.2、60.6および60.8、70.0および70.1、71.2および71.5、71.9、72.6および72.9、73.1、73.8および73.9、98.7および98.8、116.6および116.7、120.1および120.2、120.7および120.8、122.5、144.2、145.1
質量スペクトル(FAB) m/z 398 (分子イオンピーク)
【0062】
【外1】
【0063】
同様に、得られた上記式(9)に示されるクロマノール配糖体の赤外線吸収スペクトルを図2に示す。
【0064】
また、上記式(9)に示されるクロマノール配糖体の 1H−NMR、13C−NMRおよび質量分析の結果は、以下の通りである。
【0065】
1H−NMR δ(270MHz,DMSO−d6 ) 1.22(s,3H)、1.75(m,1H)、1.86(m,1H)、1.97(s,3H)、2.02(s,3H)、2.04(s,3H)、2.51(broad t,2H)、3.08〜4.92(m,23H)、7.39(s,1H)
13C−NMR δ(67.8MHz,DMSO−d6 ,プロトンデカップリングスペクトル) 11.7、11.7、12.6、19.7、21.5、28.3、60.7、66.1、70.0〜70.1、70.8、71.8、71.8、71.9、72.0、72.3、73.2、73.2、73.8〜73.9、98.3、98.9、116.6〜116.7、120.2、121.0、122.5、144.2、145.1
質量スペクトル(FAB) m/z 560
実施例3
実施例2によって得られた式(9)に示されるクロマノール配糖体の抗酸化活性をリノール酸メチルのラジカル連鎖反応の抑制により評価した。すなわち、132μmolのリノール酸メチル、16.5μmolの脂溶性ラジカル発生剤(2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))、0.1μmolの式(9)に示されるクロマノール配糖体、ブチルヒドロキシトルエンまたはα−トコフェロールからなるヘキサン/イソプロピルアルコール(1:1、v/v)溶液1.1mlを37℃でインキュベートし、経時的にサンプリングし、高速液体クロマトグラフィーでリノール酸メチルヒドロペルオキシドの生成量を測定した。図3に示すように、式(9)に示されるクロマトロール配糖体の有機溶媒中における抗酸化活性は、ブチルヒドロキシトルエンより優れており、またα−トコフェロールと同等であることがわかる。
【0066】
実施例4
実施例2によって得られた式(9)に示されるクロマノール配糖体の抗酸化活性を多重層リポソームのラジカル連鎖自動酸化反応の抑制により評価した。5.5μmolの卵黄フォスファチジルコリンの多重層リポソーム、16.5μmolの水溶性ラジカル発生剤(2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩)、0.1μmolの式(9)に示されるクロマノール配糖体またはアスコルビン酸からなる反応液を10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)1.1mlで調製後、37℃でインキュベートし、経時的にサンプリングし、高速液体クロマトグラフィーでホスファチジルコリンヒドロペルオキシドの生成量を測定した。図4に示すように、式(9)に示されるクロマトロール配糖体は、水溶性の抗酸化活性であるアスコルビン酸より、明らかに効果的な抗酸化剤であことがわかる。
【0067】
実施例5
実施例2によって得られた式(9)に示されるクロマノール配糖体の水に対する溶解度を評価した。過剰量の式(9)に示されるクロマノール配糖体を水1mlに加え、25℃でインキュベートし、20時間撹拌(200rpm)後、サンプテップC02−LG(ミリポア社製)に液を移し、遠心分離(4100×g、10分、20℃)することにより不溶物を除去し、得られた水溶液中の式(9)に示されるクロマノール配糖体の溶解度を高速液体クロマトグラフィーで測定した。比較として式(7)に示される2−置換アルコールおよびトロロックス(アルドリッチケミカルカンパニー社(Aldrich Chemical Company,Inc.)製)も同様に評価した。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示すように式(9)に示されるクロマノール配糖体の優れた水に対する溶解性が明らかになった。表中の値は1mlの水に溶解した量を示す。
【0070】
【発明の効果】
本発明の水溶性を有するビタミンE類似化合物たるクロマノール配糖体(一般式(3)、好ましくは一般式(4))の製造方法では、高濃度の有機溶媒存在下においても安定でかつ、転移活性の高い酵素法を用いて効率的に合成することができ、工業化に十分適するだけの転移率を達成できるため、量産化が図られ安定かつ安価に提供できるものである。また、こうして得られる本発明の新規物質であるクロマノール配糖体(一般式(1))においては、トロロックス、2−置換アルコールに比べ著しく高い溶解性(水溶性)を有し、かつビタミンCより優れた抗酸化活性効果を奏するものである。さらに、安価に供給される新規物質たる該クロマノール配糖体(一般式(1))の優れた特性を活用することで、食品ばかりではなく化粧品、並びにとして動脈硬化、老化、癌など様々な疾病に効果のある注射剤または内服薬などの溶解剤などの医薬品に適用可能な抗酸化剤の有効成分としての利用が図られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例2で得られた式(8)に示されるクロマノール配糖体の赤外吸収スペクトルである。
【図2】 実施例2で得られた式(9)に示されるクロマノール配糖体の赤外吸収スペクトルである。
【図3】 実施例2で得られた式(9)に示されるクロマノール配糖体、ブチルヒドロキシトルエンおよびα−トコフェロールの抗酸化活性をリノール酸メチルのラジカル連鎖反応の抑制により評価すべく、経時的にリノール酸メチルヒドロペルオキシドの生成量を測定した結果を示すグラフである。
【図4】 実施例2で得られた式(9)に示されるクロマノール配糖体およびアスコルビン酸の抗酸化活性を多重層リポソームのラジカル連鎖自動酸化反応の抑制により評価すべく、経時的にホスファチジルコリンヒドロペルオキシドの生成量を測定した結果を示すグラフである。
Claims (4)
- 一般式(2)
- 請求項2に記載の一般式(2)で表わされる2−置換アルコールと、α−グルコシル糖化合物とを含有する溶液にα−グルコシダーゼ(EC3.2.1.20)とを作用させて請求項2に記載の一般式(3)で示されるクロマノール配糖体の混合物を合成し、さらに該クロマノール配糖体の混合物をグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)処理することを特徴とする一般式(4)
- 請求項1に記載の一般式(1)で表わされるクロマノール配糖体を有効成分とすることを特徴とする抗酸化剤。
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