JP3777421B2 - 高クロムフェライト耐熱鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、高温においても機械的強度の劣化が少ない、いわゆる、高温構造部材として有用なフェライト耐熱鋼に関するものである。さらに詳しくは、フェライト耐熱鋼の高温安定性を向上するためにフェライト相を70体積%以上含有させると共に、耐酸化性を改良するためにCrを13重量%以上含有した高クロムフェライト耐熱鋼に関するものである。
【0002】
【従来技術と発明の課題】
フェライト耐熱鋼は高温下でも機械的強度が比較的大きいため、これまで、種々の装置用材料として採用されてきた。しかしながら、既存のフェライト耐熱鋼は、高温下で長時間使用すると機械的強度が劣化していた。そのため、高温高圧下で長時間使用しても機械的および化学的に劣化しないフェライト耐熱鋼の開発が待たれていた。特に、大型で化学反応を伴う様な化学工業装置や発電プラントにおいては、耐熱性、耐圧性、耐酸化性に優れた部材の出現が強く要望されてきた。また、化学工業に使用する装置は一般に高温高圧下で反応させる方がエネルギー効率が良いとされている。このため、エネルギー効率が良好な装置を製造することは、反応生成物である二酸化炭素の排出量を削減することになり、地球環境問題にも大きく寄与するものと考えられている。この様な様々な理由によって、耐熱性や耐酸化性に優れ、しかも、高温高圧下で機械的強度が劣化しないフェライト耐熱鋼を得るための研究が盛んに続けられている。しかしながら、既存のフェライト系耐熱鋼は焼き戻しマルテンサイト組織を有するため、耐酸化性の向上に必要なCrを多量に使用することができず、Crの使用量は12重量%以下に制限されていた。また、既存のフェライト系耐熱鋼に含まれている、焼き戻しマルテンサイト組織は高温下では不安定なため、高温下で長時間使用すると、クリープ強度が著しく低下する欠点を有していた。
【0003】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの従来技術の問題点を解消し、ボイラー、火力発電装置、原子力発電装置、化学工業装置等々の高温構造部材として好適な、フェライト耐熱鋼を提供することを課題としている。具体的には、この出願の発明は、600℃を超える高温下でも既存のフェライト系耐熱鋼よりも優れた強度や耐酸化性および靭性を有するフェライト耐熱鋼を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、組成が、重量%で、C:0.001〜0.1%、Cr:13.0〜30.0%、Mo:0.5〜5.0%、W:0.5〜10.0%、V:0.05〜0.40%、Nb:0.01〜0.10%、Co:0.1〜10.0%、N:0.001〜0.1%、Ni:0.1〜2.5%かつCあるいはNの添加量が0.01重量%以上の場合にNi>10(C+N)、B:0.002〜0.004%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライト相が70体積%以上を占めると共に、金属間化合物や炭化物および窒化物の1種以上の析出によって強化されていることを特徴とする高クロムフェライト耐熱鋼を提供するものである。また、この出願の発明は、第2には、第1の発明の高クロムフェライト耐熱鋼について、MoおよびWを0.5重量%以上含有し、Mo+0.5W≧3.0重量%以上含有することを特徴とする高クロムフェライト耐熱鋼を提供する。
【0006】
この出願の発明は、第3には、1000℃以上で焼きなまし熱処理した後、空冷以上の速度で冷却することを特徴とする上記いずれかの高クロムフェライト耐熱鋼の製造方法を提供するものである。さらに、この出願の発明は、第4には、冷却を水冷で行なうことを特徴とする方法を提供するものである。以上のとおりのこの出願の発明は、発明者によって得られた次のような知見に基づいて完成されている。すなわち、この出願の発明者は、ボイラー、火力発電装置、原子力発電装置、化学工業装置等々の高温構造部材として好適な耐熱性,耐酸化性および靭性を有するフェライト耐熱鋼を得るために、組成や成形後の冷却速度を種々変化させ、各種フェライト耐熱鋼を製造した。製造したフェライト耐熱鋼の物性を測定した結果、フェライト耐熱鋼の耐熱性、耐酸化性および靭性の向上にとって次の(イ)(ロ)(ハ)の点が重要であるとの知見を見出したのである。
(イ)Crを13重量%以上含有させることで耐酸化性を向上させるとともに、MoおよびWを0.5重量%以上含有させることが、クリープ強度の増大に特に効果的である。しかも、MoとWの配合比をMo+0.5W≧3.0重量%の範囲にすることによって、その効果は更に増大する。これは、MoおよびWを0.5重量%以上含有することによって、クリープ強度に必要な金属間化合物や炭化物および窒化物の1種以上の析出量が確保されるためであると考えられる。
(ロ)靭性を向上させるためにはNi、C、Nを含有させることが有効であり、それらの元素は、CあるいはNの添加量が0.01重量%以上の場合には、Ni>10(C+N)とすることが特に好ましい。
(ハ)靱性を向上させるためには、1000℃以上で焼きなまし熱処理を行った後の冷却は、空冷以上の冷却速度にすることが好ましい。空冷以上の冷却速度にすることによってフェライト相が70体積%以上のフェライト耐熱鋼を効果的に製造し、靱性を飛躍的に向上させることが可能になる。
【0007】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、その実施の形態について説明する。
【0008】
既存のフェライト系耐熱鋼が焼き戻しマルテンサイト組織を有しているのに対し、この出願の発明が提供するフェライト耐熱鋼は、Crを13重量%以上含有し、フェライト組織を有する高クロムフェライト耐熱鋼である。この発明の高クロムフェライト耐熱鋼はフェライト相を70体積%以上占めている点で既存のフェライト系耐熱鋼と大きく異なっている。すなわち、既存のフェライト系耐熱鋼は焼き戻しマルテンサイト組織を有しているために、耐酸化性に有効なCrを12重量%以下に制限され、しかも、焼き戻しマルテンサイト組織は、高温で不安定である。これに対し、この出願の発明の高クロムフェライト耐熱鋼は、フェライト相が70体積%以上含有されているため高温に対して安定である。特にこの出願の発明によって、1000℃以上で焼きなまし熱処理したものを、空冷以上の速度で冷却することで、フェライト相が70体積%以上含有し、高温に対して安定な高クロムフェライト耐熱鋼を効果的に、つまり均一、高生産性で、簡便に製造することができる。焼き戻しマルテンサイト組織を有していないため、Crを13重量%以上含有させることが可能になり、耐酸化性も優れている。
【0009】
そして、この出願の発明の高クロムフェライト耐熱鋼においては、金属間化合物や炭化物および窒化物の1種以上の析出によるクリープ強度の向上が図られている。特に、MoとWを0.5重量%以上含有させているため、大きなクリープ強度を有している。
【0010】
これは、MoとWをそれぞれ0.5重量%以上、さらにはMoとWをそれぞれ0.5重量%以上として、Mo+0.5W≧3.0重量%とすることで、クリープ強度に必要な金属間化合物の析出量が確保されるためであると考えられる。析出された金属間化合物としては、後述の実施例にも例示したとおり、たとえば、Lave(ラーベス)相、χ(カイ)相、並びにミュー(μ)相がある。
【0011】
そして、この出願の発明では、Ni、C、Nを特定の割合、すなわち、CあるいはNの添加量が0.01重量%以上の場合には、Ni>10(C+N)の割合に溶製し、含有させることによって、靭性も大幅に改良されることになる。この様に、この発明の高クロムフェライト耐熱鋼は既存のフェライト系耐熱鋼に比較して格段の効果を有するものである。
【0012】
この出願の発明の高クロムフェライト耐熱鋼においては、以上の特徴に沿って高クロムフェライト耐熱鋼を構成するものであれば、各種の組成を有するものが考慮されてよい。
なかでも、好ましい組成としては、以下のものが例示される。
Cr:Crは13重量%以上であることが欠かせないが、実際的にはフェライト相を70体積%以上確保するとともに、耐酸化性向上のために13.5重量%以上が好ましい。また、30重量%以上では靱性の低下が著しいため、上限を30重量%とする。
Mo:クリープ強度を高めるために必要な金属化合物を析出させるために、0.5重量%以上含有するのが好ましく、Mo+0.5W≧3.0重量%以上が必要である。また、過剰添加は靱性を低下させるため、上限は5重量%とする。
W:クリープ強度を高めるために必要な金属間化合物を析出させるために、0.5重量%以上含有するのが好ましく、Mo+0.5W≧3.0重量%以上が必要である。また、過剰添加は靱性を低下させるため、上限は10重量%とする。
Ni:靱性向上のために0.1重量%以上の添加が好ましい。とくに、CあるいはNの添加量が0.01重量%以上の場合は、靱性確保のため、Ni>10(C+N)の添加が必要である。また、過剰添加はフェライト相の体積率を低下させるため、上限は2.5重量%とする。
C:クリープ強度向上のために、0.001重量%以上の添加が必要である。また、過剰添加は靱性を低下させるため、上限は0.1重量%とするとともに、0.01重量%以上添加する場合は、Ni>10(C+N)を満足する必要がある。
N:クリープ強度向上のために、0.001重量%以上の添加が必要である。また、過剰添加は靱性を低下させるため、上限は0.1重量%とするとともに、0.01重量%以上添加する場合は、Ni>10(C+N)を満足する必要がある。
V:クリープ強度向上に有効な炭化物、窒化物を形成させるために、0.05〜0.40重量%の添加が必要である。
Nb:クリープ強度向上に有効な炭化物、窒化物を形成させるために、0.01〜0.10重量%の添加が必要である。
Co:炭化物、窒化物及び金属間化合物などの析出物を微細化し、クリープ強度向上に有効なため、0.1重量%以上の添加が必要であるが、過剰添加はフェライト相の体積率を低下させるため、上限は10.0重量%とする。
B:析出物を微細化かつ安定化させるとともに、粒界強化に有効な範囲として0.002〜0.004重量%とする。
Mn:脱酸材として有効であるが、過剰添加は強度及び靱性に有害なため、添加量は0.05〜0.8重量%とする。
以上例示のような組成のこの発明の高クロムフェライト耐熱鋼は、たとえば、各元素原料物質の溶製によって製造することができ、鍛造、熱処理等を適宜な方法によって施すことができる。そして、より好ましくは前記のとおり、1000℃以上の温度で焼きなまし熱処理し、空冷以上の速度で冷却することが好ましい。
【0013】
特に水冷することが好ましい。より具体的には、焼きなまし温度から400℃以下の温度まで、100℃/min(毎分100℃)以上の速度で冷却することが好ましい例として示される。
【0014】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例によって説明に限定されることはない。
【0015】
【実施例】
表1に示されている種々の組成の材料により、10kg鋼塊熱間鍛造により、直径15mmの丸棒に成形して、1,200℃で焼きなまし熱処理後、それぞれを、炉冷および水冷で冷却した。
【0016】
これらの材料比で成形したものを、100℃でシャルピー衝撃試験を行った。その結果を示したものが表2である。この発明で成形した高クロムフェライト耐熱鋼と比較鋼の物性の差は明確に現れている。すなわち、No.5〜No.7は、焼きなまし熱処理後の冷却速度の大小に係らず衝撃値は小さいのに対し、No.1〜No.4は冷却速度が小さい炉冷では衝撃値が小さいが、冷却速度が大きい水冷では衝撃値が333J/cm2以上とNo.5〜No.7に比べて桁違いに大きいことが示されている。また、図1から明らかな様に、この発明の鋼(1)は比較鋼(5)に比べて約100倍のクリープ破断時間を示している。また、焼き戻しマルテンサイト組織を有する既存鋼である改良9Cr−1Mo鋼よりも10倍近く長いクリープ破断寿命を示している。したがって、この出願の発明による高クロムフェライト耐熱鋼は優れたクリープ強度特性を有することが明らかである。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
図2は、650℃で1,000hの時効処理を行った本発明鋼−1の二次電子像を示したものであり、多量の析出物が存在することがわかる。
【0020】
また、図3は、1200℃で30分間保持後、水冷した本発明鋼−1から、電解抽出により採取した析出物のX線回析結果を示したものである。金属間化合物であるLaves(ラーベス)相、χ(カイ)相及びμ(ミュー)相の存在が確認される。
【0021】
図4は、650℃で1,000hの時効処理を行った本発明鋼−4の析出物の反射電子像を示したものであり、また図5は、各析出物のEDX分析結果を示したものである。図5の分析ポイント番号は図4の各析出物に記載した番号と対応する。EDX分析結果から、分析を行った析出物χ(カイ)相であることがわかる。
【0022】
また、上記の表2にはフェライト相の体積率データを記載しているが、このフェライト相の体積率は、光学顕微鏡写真を用いて、フェライト部分の面積率を測定することにより、フェライト相の体積率を求めている。この体積率に関連して、図6および図7には、表2の本発明鋼1および4の光学顕微鏡写真を示した。本発明鋼4(図7)で認められる白いコントラストの領域がフェライト相に相当し、本発明鋼1(図6)は前面がフェライト相(体積率100%)である。
【0023】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、耐熱性、耐酸化性、高靭性を有し、高温高圧下での長期間使用においても強度の劣化が抑制できる高クロムフェライト耐熱鋼が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例について、クリープ強度試験の結果を例示した図である。
【図2】650℃、1000時間の時効処理を行った本発明鋼−1の二次電子像を示した写真図である。
【図3】1200℃で30分間保持後に水冷した本発明鋼−1から、電界抽出により採取した析出物のX線回析の結果を示した図である。
【図4】650℃、1000時間の時効処理を行った本発明鋼−4の析出物の反射電子像を示した写真図である。
【図5】図4の析出物のEDX分析の結果を示した図である。
【図6】発明鋼−1の光学顕微鏡写真図である。
【図7】発明鋼−4の光学顕微鏡写真図である。
Claims (4)
- 重量%で、
C:0.001〜0.1%、
Cr:13.0〜30.0%、
Mo:0.5〜5.0%、
W:0.5〜10.0%、
V:0.05〜0.40%、
Nb:0.01〜0.10%、
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Ni:0.1〜2.5%かつCあるいはNの添加量が0.01重量%以上である場合にNi>10(C+N)、
B:0.002〜0.004%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライト相が70体積%以上を占めると共に、金属間化合物や炭化物および窒化物の1種以上の析出によって強化されていることを特徴とする高クロムフェライト耐熱鋼。 - MoおよびWを0.5重量%以上含有し、Mo+0.5W≧3.0重量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の高クロムフェライト耐熱鋼。
- 1000℃以上で焼きなまし熱処理した後、空冷以上の速度で冷却することを特徴とする請求項1または2に記載の高クロムフェライト耐熱鋼の製造方法。
- 冷却を水冷で行なうことを特徴とする請求項3に記載の方法。
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