JP3763231B2 - 制動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、回生制動装置を備えた制動装置に関するものであり、特に、回生制動トルクの制御に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
回生制動装置を備えた制動装置の一例が、特開平5─161213号公報に記載されている。この公報に記載の制動装置においては、制動中に旋回状態が予め定められた設定状態以上になった場合に、回生優先モードから回生抑制モードに切り換えられる。回生抑制モードに切り換えられると、制動力の前後配分が理想配分に近づけられるため、車両の操縦安定性の低下を抑制することができる。しかし、回生抑制モードにおいては、旋回の程度とは関係なく回生制動トルクが同様に抑制されるため、旋回の程度によっては、回生制動トルクが抑制され過ぎ、エネルギ効率が悪くなるという問題があった。
また、上述の制動装置においては、回生制動装置に異常が生じた場合には、回生制動トルクが0にされるようにされていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果】
以上の事情を背景とする本発明の課題は、車両の操縦安定性の低下を抑制しつつエネルギの有効利用を図ることであり、具体的には、回生制動トルクのきめ細かな定量制御を行うことや、回生制動トルクの抑制制御をきめ細やかに行うこと等によって、回生制動トルクの過剰な抑制を回避しつつ操縦安定性の低下を抑制することである。
この課題は、制動装置を下記各態様のものとすることよって解決される。各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴およびそれらの組み合わせが以下の各項に限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項は常に一緒に採用しなければならないわけではなく、一部の事項のみを採用することも可能である。
(1)車両の駆動輪に、電動モータの回生制動により回生制動トルクを加える回生制動装置と、
その回生制動装置を制御することにより、前記回生制動トルクを制御する回生制動トルク制御装置と
を含む制動装置であって、
前記回生制動トルク制御装置が、前記車両の前輪の回転速度と後輪の回転速度との差である前後速度差の絶対値増加傾向にある場合に回生制動トルクを抑制する速度差増加時抑制手段と、前記前後速度差の絶対値が減少傾向にある場合に回生制動トルクを増加させる速度差減少時増加手段との少なくとも一方を含むことを特徴とする制動装置(請求項1)。
本項に記載の制動装置においては、回生制動トルクが、前後速度差の絶対値の勾配に基づいて制御されるため、前後速度差の絶対値自体に基づいて制御される場合に比較して、回生制動トルクの抑制遅れが小さくて済み、操縦安定性の低下が早期に抑制される。ただし、本発明においても、前後速度差の絶対値自体をも制御に利用することが排除されるわけではない。
前後速度差の絶対値の勾配の正,負に基づけば、車両の操縦安定性が低下傾向にあるか回復傾向にあるかを検出することができ、その勾配の大きさに基づけば、操縦安定性の低下速度,回復速度を検出することができる。それに対応して、回生制動トルクが、勾配の正,負に基づいて制御されるようにしても、勾配の大きさに基づいて制御されるようにしてもよい。その結果、回生制動トルクが抑制され過ぎてエネルギ効率が悪くなることを回避したり、操縦安定性の低下を良好に回避したりことができる。
例えば、前後速度差の絶対値の変化勾配が正の値である場合(増加傾向にある場合)には、その増加勾配に応じて回生制動トルクを小さくし、負の値(減少傾向にある場合)である場合には、その減少勾配に応じて大きくする。前後速度差の絶対値の増加勾配に応じて回生制動トルクが抑制されるようにすれば、前後総制動トルク配分を理想配分に近づけることができ、操縦安定性の低下を抑制することができる。また、例えば、単純に、前後速度差の絶対値が設定値以上である場合には回生制動トルクの付与が停止されるようにする場合に比較して、回生制動トルクが過剰に抑制されることを回避し、エネルギ効率の低下を抑制することができる。また、減少勾配に応じて回生制動トルクが大きくされるようにすれば、エネルギ効率の低下を良好に回避することができる。
本発明によればさらに、ブレーキ操作部材の操作量や操作変化量,ステアリングホイールの操舵量,路面の摩擦係数μ等によらないで回生制動トルクを制御できるため、これらを検出する装置を設けることが不可欠ではなくなるという利点もある。ただし、本発明において、これら検出装置の併用が排除されるわけではない。
回生制動トルクは、前後速度差の絶対値の勾配に応じて連続的に変化させられても、段階的に変化させられてもよい。前後速度差は、前輪の回転数と後輪の回転数との差を取得する速度差取得装置によって取得されるが、本制動装置がアンチロック制御可能な制動装置である場合には、前後速度差を、アンチロック制御用の車輪回転速度検出装置によって検出できるため、回生制動トルク制御専用の速度差取得装置を設ける必要がなくなり、コストアップを回避することができる。
なお、回生制動トルクの制御は、結果として前後速度差の勾配に基づいて制御したことになればよく、前後速度差自体の勾配に基づいて回生制動トルクを制御することは不可欠ではない。例えば、前後速度差に比例する量の勾配に基づいて回生制動トルクを制御してもよいのであり、前後速度差を車体速度で割った値の勾配に基づく制御がその一例である。また、前後速度差の勾配としては、前後速度差の微分値や、単位時間当たりの変化量等が該当する。
(2)当該制動装置が、前記車両の前輪と後輪とにそれぞれ設けられたブレーキ回転体の各々にそれぞれ摩擦部材を摩擦係合させることによってそれら車輪に摩擦制動トルクを加える摩擦制動装置を含み、かつ、その摩擦制動装置が、前輪の摩擦制動トルクと後輪の摩擦制動トルクとを、ほぼ理想配分線に従って配分する摩擦制動トルク配分装置を含む(1) 項に記載の制動装置(請求項2)。
摩擦制動トルクは、駆動輪にも非駆動輪にも加えられるが、回生制動トルクは、駆動輪に加えられ非駆動輪には加えられない。すなわち、駆動輪には、回生制動トルクと摩擦制動トルクとの両方が加えられ、非駆動輪には、摩擦制動トルクのみが加えられることになる。このように、車輪には、回生制動トルクと摩擦制動トルクとの少なくとも一方が加えられるが、本明細書においては、車輪に加えられる制動トルク(回生制動トルクと摩擦制動トルクとの少なくとも一方)を総制動トルクと称する。
本制動装置が、例えば、後輪が非駆動輪である車両に搭載された場合には、図12に示すように、非駆動輪としての後輪に加えられる総制動トルクより駆動輪としての前輪に加えられる総制動トルクの方が回生制動トルク分だけ大きくなる。摩擦係数μが高い路面上において、総制動トルクが比較的低い状態で制動が行われる場合には、前輪,後輪のいずれにおいてもスリップが小さく、前輪の回転速度と後輪の回転速度とはほぼ同じ大きさになる。それに対して、路面の摩擦係数μとの関係において総制動トルクが大きい場合には、前輪が後輪より先にスリップし、前輪と後輪とで回転速度差が生じる。回生制動トルクが大きい場合は小さい場合より、前輪の総制動トルクと後輪の総制動トルクとの差が大きくなり、制動トルク配分の前輪への偏りが大きくなる。この偏りを制動トルク配分偏与と称するが、制動トルク配分偏与が大きいと、前輪先行スリップの傾向がより顕著になり、前後速度差が生じやすくなる。この場合、前後速度差の絶対値の勾配に応じて回生制動トルクを抑制すれば、早期に制動トルク配分偏与を小さくして理想配分に近づけることができる。
摩擦制動トルク配分装置は、例えば、前輪の摩擦制動トルクと後輪の摩擦制動トルクとを別個に制御可能な前後独立摩擦制動トルク制御装置としたり、プロポーショニングバルブとしたりすることができる。摩擦制動装置が、車輪とともに回転する回転体(ロータ)に摩擦係合部材(パッド)をホイールシリンダに供給された液圧により摩擦係合させる液圧制動装置である場合に、プロポーショニングバルブを後輪側の液圧系統に設けるのである。入力液圧が設定圧(折れ点液圧)以上になると、プロポーショニングバルブの出力液圧(後輪側の液圧)の増加が入力液圧の増加に対して抑制されるため、後輪側の液圧が前輪側の液圧に対して抑制される。なお、図12に示す理想配分線は、プロポーショニングバルブによって実現し得る線であり、理想配分線とみなし得る線である。
(3)前記回生制動装置が、前記回生制動トルクを前記前輪と後輪とのいずれか一方に加え、他方に加えないものである(2) 項に記載の制動装置(請求項3)。
本項に係る制動装置は非駆動輪を含む車両に搭載される。非駆動輪は前輪であっても後輪であってもよい。
( )前記速度差勾配対応制御手段が、前記前後速度差の絶対値の勾配に応じた勾配で回生制動トルクを変化させる速度差勾配対応勾配制御手段を含む(1) 項ないし(3) 項のいずれか1つに記載の制動装置(請求項4)。
前後速度差の増加勾配の大きさに応じた勾配で回生制動トルクを減少させれば、車両の操縦安定性の低下速度に応じた速さで理想配分に近づけることができ、操縦安定性の低下を良好に回避することができる。また、減少勾配の大きさに応じた勾配で回生制動トルクを増加させれば、操縦安定性の回復速度に応じた速さでエネルギ効率を向上させることができる。
( ) 前記回生制動トルク制御装置が、前記前後速度差の絶対値が設定値より小さい場合には前記回生制動トルクの前記勾配に基づく制御が行われないようにする変更抑制手段を含む(1) 項ないし(4) 項のいずれか1つに記載の制動装置(請求項5)。
回生制動トルクの変更頻度が多いと、回生制動装置の寿命が短くなったり、運転者の制動フィーリングが悪くなったりする場合がある。これらの場合には、回生制動トルクの変更を抑制することが望ましい。例えば、前後速度差の絶対値が設定値より小さい場合と、前後速度差の絶対値の勾配が設定勾配より小さい場合との少なくとも一方において、回生制動トルクを一定の大きさに保つのである。その結果、回生制動トルクの変更頻度が少なくなり、回生制動装置の耐久性の低下を抑制したり、制動フィーリングの悪化を抑制したりすることができる。
( )当該制動装置が、前記車輪と共に回転するブレーキ回転体に摩擦部材を摩擦係合させることによって車輪に摩擦制動トルクを加える摩擦制動装置と、その摩擦制動装置と前記回生制動装置との少なくとも一方を制御することにより、前記摩擦制動トルクと回生制動トルクとの少なくとも一方を含む各車輪の総制動トルクを制御する総制動トルク制御装置とを含む(1) 項ないし(5) 項のいずれか1つに記載の制動装置。
例えば、各車輪の総制動トルクを、運転者が要求する要求総制動トルクに近づくように制御することができる。この場合には、要求総制動トルクを、運転者のブレーキ操作部材の操作量、操作量に応じて発生する物理量等に基づいて取得する要求総制動トルク取得装置を設けることが望ましい。
( ) 前記速度差勾配対応制御手段が、前記車両が直進状態にある場合に前記回生制動トルクを制御する手段を含む (1) 項ないし (6) 項のいずれか1つに記載の制動装置 ( 請求項6)。
(8)前記回生制動トルク制御装置が、前記車両の旋回の程度に応じた勾配で前記回生制動トルクを変化させる旋回程度対応制御手段を含む(1) 項ないし(7) 項のいずれか1つに記載の制動装置(請求項7)。
旋回の程度に応じた勾配で回生制動トルクを変化させれば、旋回の程度に応じた速さで操縦安定性の低下を抑制することができ、エネルギ効率が過剰に低下することを良好に回避することができる。
(9)前記回生制動トルク制御装置が、前記車両が直進状態にある場合に前記速度差勾配対応制御手段を選択し、旋回状態にある場合に前記旋回程度対応制御手段を選択する制御手段選択手段を含む(8) 項に記載の制動装置。
本項に記載の制動装置においては、車両が直進状態にあっても、旋回状態にあっても、回生制動トルクが良好に制御される。
なお、前記車両が直進状態にあるか旋回状態にあるかを検出する走行状態取得装置を設けることが望ましい。走行状態取得装置は、旋回の程度を取得する旋回状態取得装置に兼ねさせることができる。
(10)当該制動装置が、前記車輪と共に回転するブレーキ回転体に摩擦部材を摩擦係合させることにより、車輪に摩擦制動トルクを加える摩擦制動装置を含み、
前記回生制動トルク制御装置が、前記回生制動装置と摩擦制動装置との少なくとも一方の作動環境が予め定められた設定状態に達していない場合に、前記回生制動トルクを予め定められた設定値に抑制する回生制動トルク抑制手段を含む(1) 項ないし(9) 項のいずれか1つに記載の制動装置。
回生制動装置や摩擦制動装置の作動環境が設定状態に達していない状態においても、運転者によるブレーキ操作が行われれば制動装置が作動するようにしなければならない。この場合、実際に生じさせられる制動効果(車両減速度等)が運転者によるブレーキ操作量(ブレーキ操作部材の操作力,操作ストローク,操作時間等)に対応する大きさから外れることがあり得、運転者は自己の欲する制動効果が得られるようにブレーキ操作量を加減することが必要である。回生制動装置の作動環境が設定状態に達していない場合には、回生制動トルクが予め定められた設定値(0あるいはそれに近い小さい値が望ましい)に抑制される方が、運転者による上記対処が容易であることは自明である。それに対して、摩擦制動装置の作動環境が設定状態に達していない場合はやや複雑である。まず、回生制動装置は常に作動させ得るとは限らないため、あるいは回生制動装置により生じさせ得る制動効果の最大値は比較的小さいのが普通であるため、摩擦制動装置の作動を停止させ、あるいは予め定められた小さい設定値に抑制することは不可能であるのが普通である。そして、摩擦制動装置が、ブレーキ操作量に応じて電気的に作動を制御されるものである場合に、その摩擦制動装置の作動環境が設定状態に達していなければ、ブレーキ操作量に現れた運転者の意図と、実際に生じさせられる摩擦制動トルクの大きさとのずれが大きくなる可能性がある。この事態に運転者が対応する場合、回生制動装置の作動環境が設定状態に達しておらず、回生制動トルクの制御が不適切である場合は勿論、回生制動トルクの制御が適切に行われる場合であっても、摩擦制動トルクと回生制動トルクとの和である総制動トルクに応じて発生する制動効果が意図する大きさになるように、ブレーキ操作量を加減するより、回生制動トルクを含まない総制動トルクに応じて発生する制動効果が意図する大きさになるように、ブレーキ操作量を加減する方が容易である場合が多い。摩擦制動装置が、ブレーキ操作力に応じたマスタシリンダ液圧がホイールシリンダに伝達されることにより、摩擦部材がブレーキ回転体に押し付けられる単純な液圧ブレーキ装置である場合にも、ブレーキ液の温度が低く粘性が高い等、作動環境が設定状態に達していない状態では、回生制動トルクが0またはそれに近い値に抑制される方が運転者の対処が容易になる。そこで、本項の制動装置においては、回生制動装置と摩擦制動装置との少なくとも一方の作動環境が予め定められた設定状態に達していない場合に、回生制動トルク抑制手段により回生制動トルクを予め定められた設定値に抑制することとしたのである。
作動環境が設定状態に達したか否かは、例えば、回生制動抑制条件を満たすか否かに基づいて検出することができる。回生制動抑制条件は、以下に示す(a)〜(c)の少なくとも1つとすることができる。
(a)当該制動装置に含まれるセンサのうちの予め定められたものの検出準備が終了する以前である場合・・・例えば、センサの0点補正やゲインの補正が終了する前には、現実に加えられた回生制動トルクや摩擦制動トルクを正確に取得することができなかったり、摩擦制動トルクや回生制動トルクを制御するための情報を正確に取得することができなかったりする。なお、センサ各々について検出準備が終了したか否かは、例えば、センサ各々に対応して設けられた準備終了フラグの状態に基づいて検出することができる。準備終了フラグが、イグニッションスイッチがOFFにされた場合にリセットされ、0点補正やゲイン補正等の準備が終了した場合にセットされるようにすれば、準備終了フラグがセット状態にあれば、そのフラグに対応するセンサの検出準備が終了したとすることができる。
(b)車両のイグニッションスイッチがON状態に切り換わってからの摩擦制動装置の作動量が予め定められた設定作動量より少ない場合・・・例えば、車両の運転が開始されてからの摩擦制動装置の作動回数,積算作動時間等の作動量が少ない時期には、加えられる摩擦制動トルクの大きさにばらつきが生じたり、摩擦制動トルクを精度よく制御できなかったりすることが多い。摩擦制動装置において、摩擦係合部材としてのパッドの温度が低い場合や、摩擦制動装置が液圧制動装置である場合において、作動液の温度が低く粘性が高い場合等が該当する。
(c)摩擦制動装置の前回の作動終了時からの経過時間が予め定められた設定時間を越えた場合・・・例えば、前回摩擦制動装置の作動終了時から長時間が経過した場合には、加えられる摩擦制動トルクの大きさにばらつきが生じたり、摩擦制動トルクを精度よく制御できなかったりすることが多い。
以上、回生制動抑制条件の一例を示したが、回生制動抑制条件は、本項に記載のものに限らず、さらに別の条件を含むものとしたり、(a)〜(c)の少なくとも1つを他の条件に代えたりすることができる。
なお、摩擦制動装置が電気的な摩擦制動トルク制御装置を備えたものである場合、回生制動トルクが抑制される際に、電気的な制御が行われるようにしても、行われないようにしてもよい。また、回生制動トルクの設定値を0とする場合、回生制動抑制条件を回生制動禁止条件と称することもできる。
(11)車両の車輪に、電動モータの回生制動により回生制動トルクを加える回生制動装置と、
その回生制動装置を制御することにより、前記回生制動トルクを制御する回生制動トルク制御装置と
を含む制動装置であって、
前記回生制動トルク制御装置が、車両の旋回の程度に応じた勾配で前記回生制動トルクを変化させる旋回程度対応制御手段を含む制動装置
本項に記載の制動装置においては、旋回の程度に応じた勾配で回生制動トルクが変化させられる。回生制動トルクの変化勾配は、旋回の程度に応じて連続的に変化させられても、段階的に変化させられてもよい。
旋回の程度は、ステアリングホイールの操舵量,タイヤの舵角,車両の横加速度,左右輪回転速度差,車両のヨーレイト等に基づいて取得することができる。
(12)当該制動装置が、前記車輪と共に回転するブレーキ回転体に摩擦部材を摩擦係合させることにより車輪に摩擦制動トルクを加えるとともに、前輪の摩擦制動トルクと後輪の摩擦制動トルクとを、理想配分線に従って配分する摩擦制動装置を含み、かつ、前記回生制動トルク制御装置が、制動が開始された場合に、駆動輪に加えられる回生制動トルクを回生制動トルク上限値まで急増させる制動初期回生制動トルク急増手段を含み、前記旋回程度対応制御手段が、前記旋回の程度に応じて前記制動初期回生制動トルク急増手段による回生制動トルクの増加勾配を抑制する増加勾配抑制手段を含む(11)項に記載の制動装置(請求項8)
本項における増加勾配抑制制御は、制動初期で回生制動トルクが回生制動トルク上限値に至っていない場合、すなわち、回生制動トルクの急増中に行われる。回生制動トルクは、エネルギ効率を高めるために、制動が開始された場合に急増させられることが望ましい。回生制動トルク上限値は、例えば、蓄電状態や電動モータの回転数等(回生制動装置の状態)に基づいて決まる回生制動トルク値と運転者の要求する制動トルクに基づいて決まる回生制動トルク値との小さい方に決定することができる。しかし、(2) 項に関して説明したように、回生制動トルクが急増させられると、駆動輪への制動トルク配分偏与が急激に大きくなる。車両が直進状態にある場合には、制動トルク配分偏与が急激に大きくなっても差し支えない場合が多いが、旋回状態にある場合には望ましくない場合が多い。そこで、回生制動トルクの増加勾配を旋回の程度に応じて抑制すれば、制動トルク配分偏与速度を抑制することができ、操縦安定性の低下を抑制することができる。このように、制動トルク配分偏与速度を抑制する代わりに、制動トルク配分偏与を禁止することも考えられる。旋回状態にある場合に、前後配分が変わるとステアリングホイールの操舵修正が必要になる場合があり、旋回の程度が大きいほどその必要性が大きくなるのであるが、それは望ましいことではないからである。しかし、制動トルク配分偏与を禁止するということは、回生制動トルクの増加を禁止するということであり、エネルギ効率が悪くなる。それに対し、本項に記載の制動装置におけるように、旋回の程度に応じて、すなわち、操舵修正の必要性が大きいほど緩やかに前後配分を変化させれば、操縦安定性の低下とエネルギ効率の低下とを共に抑制することができる。
(13)当該制動装置が、前記車輪と共に回転するブレーキ回転体に摩擦部材を摩擦係合させることにより車輪に摩擦制動トルクを加えるとともに、前輪の摩擦制動トルクと後輪の摩擦制動トルクとを、理想配分線に従って配分する摩擦制動装置を含み、かつ、前記旋回程度対応制御手段が、旋回の程度に応じた勾配で回生制動トルクを減少させる旋回程度対応減少手段を含む(11)項または(12)項に記載の制動装置。
本項に記載の旋回程度対応減少手段による制御は、回生制動トルクがほぼ一定の大きさ(最大値)に保たれている場合に行われる。例えば、旋回の程度が厳しい場合は緩い場合より回生制動トルクが大きな勾配で減少させられる。このようにすれば、旋回の程度に応じて前後総制動トルク配分を速やかに理想配分に近づけることができる。
(14)当該制動装置が、前記車輪と共に回転するブレーキ回転体に摩擦部材を摩擦係合させることにより、車輪に摩擦制動トルクを加える摩擦制動装置を含み、かつ、前記回生制動トルク制御装置が、前記回生制動装置と摩擦制動装置との少なくとも一方の作動環境が予め定められた設定状態に達していない場合に、前記回生制動トルクを予め定められた設定値に抑制する回生制動トルク抑制手段を含む(11)項ないし(13)項のいずれか1つに記載の制動装置。
(15)車両の駆動輪に、電動モータの回生制動により回生制動トルクを加える回生制動装置と、
その回生制動装置を制御することにより、前記回生制動トルクを制御する回生回生制動トルク制御装置と
を含む制動装置であって、
前記回生制動トルク制御装置が、前記車両の前輪の回転速度と後輪の回転速度との差である前後速度差の絶対値に応じた勾配で前記回生制動トルクを変化させる速度差対応勾配変化手段を含む制動装置。
例えば、前後速度差の絶対値が大きい場合に回生制動トルクを大きな勾配で変化させ、前後速度差の絶対値が小さい場合に小さな勾配で変化させる。前後速度差の絶対値に応じた速度で理想配分に近づけることによって、操縦安定性の低下を抑制したり、エネルギ効率を向上させたりすることができる。
なお、本項の制動装置には、前記 (1)項ないし(14)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を採用することができる。
(16)車両の駆動輪に、電動モータの回生制動により回生制動トルクを加える回生制動装置と、
その回生制動装置を制御することにより、前記回生制動トルクを制御する回生制動トルク制御装置と
を含む制動装置であって、
前記回生制動トルク制御装置が、車両の旋回状態の変化勾配に応じて前記回生制動トルクを制御する旋回変化対応制御手段を含む制動装置。
例えば、車両の旋回状態の変化勾配が大きい場合に、回生制動トルク自体あるいは回生制動トルクの増加勾配を小さく抑制することや、回生制動トルクの減少勾配を大きくすることによって操縦安定性を向上させることができる。
なお、本項の制動装置には、前記(1) 項ないし(15)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を適用することができる。
(17)前記車輪と共に回転するブレーキ回転体に摩擦部材を摩擦係合させることにより、車輪に摩擦制動トルクを加える摩擦制動装置と、
これら回生制動装置と摩擦制動装置との少なくとも一方を制御することにより、前記車輪に加えられる回生制動トルクと摩擦制動トルクとを含む総制動トルクを制御する総制動トルク制御装置と
を含む制動装置であって、
前記総制動トルク制御装置が、(a)当該制動装置に含まれるセンサのうちの予め定められたものの検出準備が終了する以前である場合と、(b)車両のイグニッションスイッチがON状態に切り換わってからの前記摩擦制動装置の作動量が予め定められた設定作動量より少ない場合と、(c)前記摩擦制動装置の前回の作動終了時からの経過時間が予め定められた設定時間を越えた場合との少なくとも1つの場合に、前記回生制動トルクを予め定められた設定値に抑制する回生制動トルク抑制手段を含む(1) 項ないし (16) 項のいずれか1つに記載の制動装置(請求項9)。
回生制動抑制条件としては、上述の(a)〜(c)の条件の他に、外気温度,湿度等を加えることもできる。外気温度が設定温度以下であれば、摩擦制動装置において摩擦係合部材としてのパッドの温度が設定温度より低いと推定することができる。また、摩擦制動装置が液圧制動装置である場合には、作動液の温度が設定温度より低く、粘度が設定粘度より低いと推定することができる。一方、外気の湿度が高ければ、摩擦係合部材としてのパッドの湿度が高いと推定することができる。パッドの湿度が高い場合は、パッドの摩擦係数が大きくなる。
検出準備が終了したか否かがチェックされる対象のセンサは、制動装置に含まれるすべてのセンサであっても、それらセンサのうち、回生制動トルクや液圧制動トルクの制御に使用されるセンサ(制動トルク制御関連センサ)のみとしても、制動トルク制御関連センサのうちで特に制御への影響が大きいセンサ、換言すれば、制動トルク制御に関して重要なセンサ(重要センサ)のみとしてもよい。
【0004】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態である制動装置について図面に基づいて説明する。
図1に示す車両は、本制動装置が搭載された車両であり、ハイブリッド車である。駆動輪としての前輪10,12は、電気的駆動装置14と内燃駆動装置としてのエンジン16とを含む駆動装置18によって駆動される。電気的駆動装置14は、モータジェネレータ(発電機,電動モータとして機能するもの)20,インバータ22,蓄電装置24等を含むものであり、このモータジェネレータ20とエンジン16との間に遊星歯車装置26が設けられている。遊星歯車装置26の図示しないサンギヤにはモータジェネレータ20が連結され、リングギヤにはエンジン16の出力軸がクラッチを介して接続され、キャリアには出力軸28が連結されている。また、キャリアとサンギヤとの間にもクラッチが設けられている。出力軸28は、変速機30,差動装置32を介して駆動輪10,12に連結される。
【0005】
これらクラッチの接続,遮断およびエンジン16,モータジェネレータ20の作動状態が制御されることにより、出力軸28に、エンジン16からの出力トルクが伝達されたり、モータジェネレータ20からの出力トルクが伝達されたり、エンジン16からの出力トルクとモータジェネレータ20からの出力トルクとの両方が伝達されたりする。遊星歯車装置26は、モータジェネレータ20の出力トルクとエンジン16の出力トルクとを合成したり、分割したりする合成分割機構としての機能を有するものなのである。
【0006】
モータジェネレータ20と蓄電装置24との間には、インバータ22が設けられ、インバータ22の制御により、モータジェネレータ20が、蓄電装置24から電気エネルギが供給されて回転させられる回転駆動状態と、回生制動により発電機として機能することにより蓄電装置24に電気エネルギを充電する充電状態と、自由回転を許容する無負荷状態とに切り換えられる。
上記インバータ22は、コンピュータを主体とする電動モータ制御装置36からの指令に基づいてモータジェネレータ20を制御する。また、前記エンジン16の作動状態は、エンジン制御装置38によって制御される。エンジン16,モータジェネレータ20は、主として、アクセル開度に応じた駆動トルクが出力されるように制御される。
変速機30は、図示しないシフトレバーのシフト位置に基づいて機械的に切り換わる液圧回路と、車速等に基づいて自動制御される複数のクラッチやブレーキ等とを含むものであり、これら複数のクラッチ,ブレーキ等はシフト位置がD(ドライブ)である場合に自動制御されることにより、走行時における変速比が制御される。
【0007】
前記駆動輪10,12には、上述の駆動トルクが加えられる一方、液圧制動トルクが加えられる。駆動輪としての前輪10,12と共に回転するブレーキ回転体としてのロータに摩擦部材としてのパッドがホイールシリンダ40,42に液圧が伝達されることにより摩擦係合させられ、摩擦制動トルクとしての液圧制動トルクが加えられるのである。本制動装置は摩擦制動装置としての液圧制動装置44を備えたものなのである。また、上記電気的駆動装置14においてモータジェネレータ20が充電状態にある場合には、モータジェネレータ20の回生制動により車輪10,12に回生制動トルクが加えられるが、この場合には、電気的駆動装置14が回生制動装置として機能することになる。
液圧制動装置44は、上記前輪10,12のホイールシリンダ40,42の他、液圧制御弁装置46,液圧源48,ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル50等を含むものであり、液圧源48に発生させられた液圧が、液圧制御弁装置46によって制御されることにより、ホイールシリンダ40,42に伝達される。
【0008】
液圧源48は、図2に示すように、ブースタ付きマスタシリンダ52と、ポンプ53,アキュムレータ54,マスタリザーバ55,リリーフ弁56等を含む定液圧源57とを含むものである。アキュムレータ54には、マスタリザーバ55の作動液がポンプ53によって汲み上げられて蓄えられる。アキュムレータ54には、2個の圧力スイッチ60,61が取り付けられている。一方の圧力スイッチは、アキュレータ54に蓄えられた液圧が上限値より大きくなったことを検出するものであり、他方の圧力スイッチは下限値より小さくなったことを検出するスイッチである。これら圧力スイッチ60,61の作動状態に基づいてポンプ53を駆動するモータが制御されることにより、アキュムレータ54に蓄えられた作動液の液圧が設定範囲に保たれる。アキュムレータ14の液圧が上限値より大きくなれば、作動液がリリーフ弁56を介してマスタリザーバ55に戻される。ブースタ付きマスタシリンダ52は、2つの液圧室を有するものであり、一方の液圧室には上記定液圧源57が接続されている。ブレーキペダル50が踏み込まれると、その踏力が定液圧源57の作動液を利用して倍力させられ、その倍力された踏力に応じた液圧が、ブースタ付きマスタシリンダ52の2つの液圧室に発生させられる。
【0009】
ブースタ付きマスタシリンダ52の他方の液圧室には液通路68を介して、前述の左前輪10のホイールシリンダ40と、右前輪12のホイールシリンダ42とが接続されている。マスタシリンダ52とホイールシリンダ40,42との間には、それぞれ、電磁開閉弁70,72が設けられている。電磁開閉弁70,72は、消磁状態で開状態に保たれる常開弁であるが、ブレーキペダル50が操作され、回生制動協調制御が行われる場合には、閉状態に切り換えられ、ホイールシリンダ40,42がブースタ付きマスタシリンダ52から遮断されて後述するリニアバルブ装置76に接続される。リニアバルブ装置76等の電気系統に異常が生じた場合には、開状態に戻されることによりホイールシリンダ40,42がブースタ付きマスタシリンダ52に連通させられ、制動トルクが確保される。
【0010】
前記定液圧源57が接続された一方の液圧室には、液通路80を介して、左後輪82のホイールシリンダ84と、右後輪86のホイールシリンダ88とが接続されている。液通路80の途中には、ブースタ付きマスタシリンダ52側から順に、リニアバルブ装置76,電磁開閉弁92およびプロポーショニングバルブ94が設けられている。プロポーショニングバルブ94により、入力液圧が設定圧以上になると出力液圧の増加が入力液圧の増加に対して抑制されるため、後輪側のホイールシリンダ84,88の液圧が前輪側のホイールシリンダ40,42の液圧に対して抑制され、前輪側の液圧制動トルクと後輪側の液圧制動トルクとがほぼ理想配分線に従って配分されることになる。液通路80の、ブースタ付きマスタシリンダ52とリニアバルブ装置76との間の部分には液圧センサ96が、また、リニアバルブ装置76と電磁開閉弁92との間の部分には液圧センサ98がそれぞれ設けられている。液圧センサ96は、リニアバルブ装置76への入力液圧を検出するセンサであり、液圧センサ98は、後輪82,86のホイールシリンダ84,88の液圧を検出するセンサであるが、リニアバルブ装置76の出力液圧を検出するセンサでもある。ホイールシリンダ82,88とマスタリザーバ55とを接続する液通路102の途中には、電磁開閉弁104が設けられている。これら電磁開閉弁92,104は、常には、図示する原位置に保たれるが、アンチロック制御時には、開閉させられることにより、後輪82,86の制動スリップ状態が適正状態に保たれるように、ホイールシリンダ84,88の液圧が制御される。
【0011】
液通路80のリニアバルブ装置76と電磁開閉弁92との間の部分には、液通路108が接続されている。液通路108は、リニアバルブ装置76と前輪側のホイールシリンダ40,42とを接続する通路であり、液通路108の途中には、分離弁としての電磁開閉弁110が設けられている。電磁開閉弁110は、通常制動時(回生制動協調制御時を含む),アンチロック制御時等に開状態に切り換えられ、ホイールシリンダ40,42にリニアバルブ装置76によって制御された液圧が伝達される。また、液通路108の電磁開閉弁110よりホイールシリンダ40,42側の部分には、それぞれ電磁開閉弁112,114が設けられ、ホイールシリンダ40,42とマスタリザーバ55とを接続する液通路116の途中には、電磁開閉弁117,118が設けられている。これら電磁開閉弁112,114,117,118は、常には、原位置に保たれるが、アンチロック制御時には、開閉させられることにより、前輪10,12の制動スリップ状態が適正状態に保たれるように、ホイールシリンダ40,42の液圧がそれぞれ独立に制御される。なお、電磁開閉弁110は、電気系統の異常時に閉状態に戻され、前輪側のホイールシリンダ40,42が後輪側のホイールシリンダ84,88から分離される。
液通路108の、電磁開閉弁110と電磁開閉弁112,114との間の部分には、液圧センサ120が接続されている。液圧センサ120は、前輪10,12のホイールシリンダ40,42の液圧を検出するセンサであるが、液圧センサ98の出力が正常か否かの監視に使用することもできる。電磁開閉弁110が開状態にある場合に、液圧センサ98による検出液圧が液圧センサ120の検出液圧から離れている場合に液圧センサ98の出力が異常である可能性があると判定されるのである。
【0012】
上記電磁開閉弁92をバイパスするバイパス通路の途中には、逆止弁124が設けられ、電磁開閉弁112,114をそれぞれバイパスするバイパス通路の途中には、それぞれ逆止弁126,128が設けられている。これらの逆止弁124,126および128は、対応するホイールシリンダからブースタ付きマスタシリンダ52に向かう作動液の流れは許容するが、その逆向きの流れは阻止するものである。これら逆止弁124,126,128により、電磁開閉弁92,112,114が閉状態にある場合においてブレーキペダル50の踏込みが緩められた場合に、ホイールシリンダの作動液をブースタ付きマスタシリンダ52に早急に戻すことが可能となる。
また、各車輪10,12,82,86には、これら車輪の回転速度を検出する車輪速センサ130〜136が設けられている。車輪速センサ130〜136によって検出された車輪速に基づいて制動スリップ状態等が検出される。
【0013】
図3は、リニアバルブ装置76の構成を概略的に示す系統図である。リニアバルブ装置76は、増圧リニアバルブ138,減圧リニアバルブ140等を含むものである。増圧リニアバルブ138および減圧リニアバルブ140は、いずれも常閉のバルブである。増圧リニアバルブ138は、弁座142とそれに対して着座,離間可能な弁子144とから成るシート弁146を備え、弁子144は、付勢装置としてのばね148により着座方向に付勢されている。弁子144と一体的に可動コア150が設けられており、これに対向して固定コア152が設けられている。これら両コア150,152は上記ばね148により互いに離間させられているが、コイル154に電流が供給されることにより磁化され、可動コア150が固定コア152側に吸引される。それにより、弁子144が弁座142から離間させられ、シート弁146が開かれる。増圧リニアバルブ138は、それ自身の前後の液圧差が弁子144を弁座142から離間させる向きに作用する向きで液圧源48とホイールシリンダとに接続されている。したがって、弁子144は、シート弁146前後の液圧差に基づく差圧作用力と、可動コア150,固定コア152およびコイル154から成るソレノイド156の電磁駆動力との和が、ばね148の付勢力と釣り合う位置で停止することとなり、コイル154への供給電流の制御による電磁駆動力の制御によって、シート弁146の開度を制御することができる。増圧リニアバルブ138の開度を制御することができるのであり、それによって作動液の流量、すなわちホイールシリンダの増圧速度を制御することができる。また、液圧源48の液圧とホイールシリンダの液圧との差が小さくなり、差圧作用力と電磁駆動力との和がばね148の付勢力より僅かに小さくなれば、弁子144が弁座に142に着座してシート弁146が閉じるため、コイル154への供給電流の制御により液圧源48の液圧とホイールシリンダの液圧との差を制御することができる。また、ホイールシリンダと増圧リニアバルブ138の上流側とが、バイパス通路158によって接続され、バイパス通路158には、ホイールシリンダ側から液圧源48へ向かう方向への作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止する逆止弁160が設けられている。ホイールシリンダの液圧が液圧源48の液圧より高くなると、ホイールシリンダの作動液が逆止弁160を経て早急に戻される。
【0014】
減圧リニアバルブ140の構造は増圧リニアバルブ138と同じであるため、互いに対応する構成要素を同一の符号で示し、説明を省略する。ただし、減圧リニアバルブ140は、ホイールシリンダの液圧と減圧用リザーバ162の液圧との差に基づく差圧作用力が、弁子144を弁座142から離間させる向きに作用する向きで設けられている。したがって、コイル154への供給電流の制御により、ホイールシリンダの減圧速度およびホイールシリンダと減圧用リザーバ162との差圧を制御することができる。減圧用リザーバ162の液圧は実質的に大気圧と見なし得るため、ホイールシリンダと減圧用リザーバ162との差圧の制御は、ホイールシリンダの液圧制御となる。ホイールシリンダと減圧用リザーバ162とを、減圧リニアバルブ140をバイパスして接続するバイパス通路164が設けられ、バイパス通路164には逆止弁166が設けられている。逆止弁166により、ホイールシリンダから減圧用リザーバ162への作動液の流れが阻止される。
【0015】
一方、液通路68には液圧センサ180(図2参照)が接続されており、ブースタ付きマスタシリンダ52の液圧が検出される。ブースタ付きマスタシリンダ52の液圧は、ブレーキペダル50の操作力に応じた大きさとなるため、この液圧に対応する制動トルクを運転者の意図する要求制動トルク値とすることができる。ブースタ付きマスタシリンダ52の液圧は、ブレーキ操作関連量の一態様である。また、液通路68には、ストロークシミュレータ182が接続され、電磁開閉弁70および72が共に閉状態とされた状態においてブレーキペダル50のストロークが殆ど0になることが回避される。
【0016】
前記リニアバルブ装置76および各電磁開閉弁70,72等を含む液圧制御弁装置46や液圧源48等は、PU200,ROM201,RAM202,入力部203,出力部204等を含むコンピュータを主体とするブレーキ制御装置210によって制御される。ブレーキ制御装置210の入力部203には、前記各液圧センサ96,98,120,180、車輪速センサ130〜136、ブレーキペダル50が踏み込まれた状態にあることを検出するブレーキスイッチ212、車両の横加速度を検出する横Gセンサ214、図示しないステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ216、イグニッションスイッチ218等が接続され、出力部204には、前述の各電磁開閉弁のソレノイドの他、リニアバルブ装置76のソレノイド154等が図示しない駆動回路を介して接続されている。ブレーキ制御装置210は、図1に示すようにハイブリッド制御装置220に接続されており、ハイブリッド制御装置220には、電動モータ制御装置36,エンジン制御装置38等も接続されている。
【0017】
ハイブリッド制御装置220も、PU222,ROM224,RAM226,入力部228,出力部230等を含むコンピュータを主体とするものであり、入力部228には、蓄電装置24の蓄電量を検出する蓄電量検出装置234、車速を取得する車速取得装置236、図示しないアクセルペダルの開度をスロットルバルブの開度を検出することによって検出するアクセル開度センサ238等が接続されており、これらからの出力信号に基づいて電動モータ制御装置36、エンジン制御装置38、ブレーキ制御装置210等に制御指令を発したり、変速機30を直接制御したりする。
【0018】
ハイブリッド制御装置220から電動モータ制御装置36へは、電動モータ,発電機としてのモータジェネレータ20への要求トルクを表すデータ(以下、出力トルク要求値と略称する)が出力され、電動モータ制御装置36からハイブリッド制御装置220へは、モータジェネレータ20の回転数,電流等の作動状態を表す情報が出力される。モータジェネレータ20の作動状態は、ジェネレータ作動状態検出装置(電動モータの回転数を検出するエンコーダ,電動モータに流れる電流を検出する電流計等が該当する)240によって検出される。モータジェネレータ20に対する要求トルクは、駆動トルクの場合と回生制動トルクの場合とがある。例えば、モータジェネレータ20に対する出力回生制動トルク要求値は、電動モータの回転数や蓄電装置24の蓄電状態等に基づいて決まる回生制動装置都合回生制動トルク上限値と、後述するがブレーキ制御装置210から供給される要求回生制動トルク上限値との小さい方に決定される。そして、電動モータ制御装置36はハイブリッド制御装置220から供給された出力トルク要求値に応じた指令をインバータ22に出力し、モータジェネレータ20は、それの出力トルクが出力トルク要求値に対応する要求トルクに近づくように制御される。ハイブリッド制御装置220において、モータジェネレータ20の作動状態に基づいて実際に出力された実出力トルク(駆動トルクあるいは回生制動トルク)が取得される。
【0019】
また、ブレーキ制御装置210からハイブリッド制御装置220へは、要求回生制動トルク値が出力され、ハイブリッド制御装置220からブレーキ制御装置210へは、モータジェネレータ20において実際に出力された回生制動トルクの大きさである実回生制動トルク値が出力される。ブレーキ制御装置210は、要求回生制動トルク値と要求液圧制動トルク値との和が運転者の要求する要求総制動トルク値となるように、リニアバルブ装置76を制御する。また、要求回生制動トルク値は、ROM201に格納された図4のフローチャートで表される制動トルク制御プログラムの実行に従って決定される。
【0020】
以上のように構成された制動装置における作動について説明する。
駆動輪としての前輪10,12には、液圧制動トルクと回生制動トルクとが加えられ、非駆動輪としての後輪82,86には、回生制動トルクが加えられないで液圧制動トルクが加えられる。以下、各々の車輪に加えられる、液圧制動トルクと回生制動トルクとの少なくとも一方を含む制動トルクを総制動トルクと称する。後輪82,86とリニアバルブ装置76との間には、プロポーショニングバルブ94が設けられているため、前述のように、前輪10,12に加えられる液圧制動トルクと後輪82,86に加えられる液圧制動トルクとは、ほぼ理想配分線に従って配分されることになる。それに対して、前輪10,12には、回生制動トルクが加えられるため、図12に示すように、前輪に加えられる総制動トルクと後輪に加えられる総制動トルクとの配分は、回生制動トルクの分だけ理想配分線より前輪側が大きくなる。制動トルクが理想配分線より前輪側が大きくなるように偏って配分されるのであり、この偏りを制動トルク配分偏与と称する。なお、図12に示す理想配分線は前述のようにプロポーショニングバルブ94によって実現される配分線であるため、厳密にいえば理想配分線ではないが、理想配分線とみなし得る線である。
【0021】
回生制動トルクは大きい方が、エネルギ効率を高める上で望ましい。しかし、上述のように、回生制動トルクが大きいと、前輪の総制動トルクが後輪の総制動トルクに対して過大となり、前後総制動トルク配分が理想配分から隔たってしまう。また、回生制動装置14と液圧制動装置44との少なくとも一方の作動環境が整っていない場合には、回生制動トルクを抑制した方が望ましい。そこで、本実施形態においては、ハイブリッド制御装置220に出力する要求回生制動トルク値が、運転者の意図する要求総制動トルク値とされるわけではなく、車両のスリップ状態,旋回状態等に応じた値とされたり、0とされたりするのである。
【0022】
回生制動装置14と液圧制動装置44との少なくとも一方の作動環境が整っていない場合、すなわち、作動環境が設定状態に達していない場合に、回生制動トルクを抑制すれば、抑制しない場合に比較して、車輪に加えられる総制動トルク制御精度の低下が抑制されるため、制動フィーリングの低下を抑制したり、操縦安定性の低下を抑制したりすることができる。運転者は自己の欲する制動効果が得られるようにブレーキ操作量を加減する際に、ブレーキ操作部材の操作(運転者の対処)が容易になるのである。
回生制動装置14の作動環境が整っていない場合に回生制動トルクを抑制すれば、運転者の対処が容易になることは明らかである。液圧制動装置44の作動環境が整っていない場合にも、回生制動トルクが制御される場合より、抑制されて液圧制動トルクのみが制御される方が運転者の上述の対処が容易になる。また、回生制動トルクより液圧制動トルクの方が大きいのが普通であるため、液圧制動トルクを抑制するより回生制動トルクを抑制する方が望ましい。そこで、回生制動装置14と液圧制動装置44との少なくとも一方の作動環境が設定状態に達していない場合、すなわち、回生制動抑制条件が満たされた場合には、回生制動トルクが0とされるようにしたのである。
【0023】
回生制動抑制条件は、▲1▼液圧制動装置44,回生制動装置14に含まれる各センサ60,61,96,98,130〜136,180,212,214,216,234,236,238,240等の検出準備が終了していない場合、▲2▼イグニッションスイッチ218がON状態にされてからの制動作動量が設定量より少ない場合、▲3▼前回制動終了時からの経過時間が設定時間Tを越えた場合のいずれかの条件が満たされた場合に満たされる。▲2▼の場合については、本実施形態においては、制動作動量としての制動回数が設定回数Nより少ない場合とされているが、制動作動量として、累積作動時間とすることもできる。
【0024】
イグニッションスイッチ218がONにされると、回生制動装置14や液圧制動装置44に含まれるすべてのセンサの0点が補正され、ゲインが補正される。しかし、これらのチェックが終了していない場合には、センサの出力信号が正確でなかったり、センサの出力信号に基づいて得られる情報が正確でなかったりする。例えば、実回生制動トルク値は、ジェネレータ作動状態検出装置240によって検出される作動状態に基づいて取得されるのであるが、電動モータの回転数や電動モータに流れる電流を正確に検出できないと、現実に発生する回生制動トルクを正確に検出できない。液圧センサ98,120についても同様に、現実に生じた液圧制動トルクを正確に検出できなくなる。また、要求回生制動トルク値や要求液圧制動トルク値は、液圧センサ180の出力信号に基づいて求められる要求総制動トルク値に基づいて決定されるが、液圧センサ180の出力信号が正確でない場合は要求総制動トルク値を正確に求めることができず、回生制動トルクや液圧制動トルクを精度よく制御できなくなるのである。
センサ各々について検出準備が終了したか否かは、センサ各々に対応して作成された準備終了フラグの状態に基づいて検出される。準備終了フラグは、イグニッションスイッチ218がOFF状態にされるとリセットされ、そのフラグに対応するセンサについての検出準備が終了すると、セットされる。
【0025】
また、イグニッションスイッチ218がON状態に切り換えられてからの制動回数が設定回数Nより少ない場合には、液圧制動装置44において、作動液の温度が低かったり、各輪に設けられたディスクブレーキ40,42,82,86においてパッドの温度が低かったりする。作動液の温度が低い場合や、パッドの温度が低い場合は、液圧制動トルクを安定して発生させることができなくなる。前回の制動終了時から今回制動開始時までの間の時間が設定時間を越えた場合も同様に、作動液の温度が低かったり、パッドの温度が低かったりするのである。
なお、本実施形態においては、回生制動抑制条件が満たされた場合には、回生制動トルクが0となるようにされていたが、0以上の微小な値にすることもできる。また、上記3つの条件のうちの1つが満たされた場合に回生制動抑制条件が満たされたとされたが、2つ以上が満たされた場合に、満たされたとすることもできる。さらに、回生制動トルクではなく液圧制動トルクが抑制されるようにすることも可能である。また、リニアバルブ装置76の制御も禁止されるようにすることもできる。
【0026】
要求回生制動トルク値は、前輪の回転速度と後輪の回転速度との前後回転速度差に応じた相対スリップの勾配に応じて決定される。前述のように、前輪10,12に回生制動トルクが加えられることにより、前輪総制動トルクと後輪総制動トルクとの配分が、図12に示すように、理想配分線とみなし得る線から隔たってしまう。路面の摩擦係数μが大きく、ブレーキ操作量がそれほど大きくない場合には、スリップが小さく、前輪10,12の回転速度と後輪82,86の回転速度とはほぼ同じ大きさとなる。それに対して、ブレーキ操作量が路面の摩擦係数μに対して大きい場合等には、総制動トルクが大きい前輪10,12から先にすべり始め、前輪10,12の回転速度と後輪82,86の回転速度との間に差が生じる。
【0027】
このように、前後速度差に基づけば、車両の操縦安定性の状態がわかる。前後速度差の絶対値が増加傾向にある場合には、車両の操縦安定性が低下傾向にあり、その増加勾配が大きいほど、低下速度が大きく、回生制動トルクを早急に減少させる要求が強いことがわかる。また、前後速度差の絶対値が減少傾向にある場合には操縦安定性が回復傾向にあり、その減少勾配が大きいほど回復傾向が大きいことがわかる。そこで、増加勾配に基づいて回生制動トルクを小さくすれば、前後総制動トルク配分を理想配分にほぼ近づけることができ、操縦安定性の向上を図ることができる。また、増加勾配に応じて抑制されるため、回生制動トルクが過剰に抑制されることを回避し得、エネルギ効率の低下を抑制することができる。減少勾配に基づいて回生制動トルクを大きくすれば、回生制動トルクを不要に抑制することが回避され、エネルギ効率の低下を抑制することができる。
本実施形態においては、回生制動トルクが、相対スリップKs の勾配ΔKs に基づいて制御される。相対スリップKs は、式
Ks =|(Vwfr −Vwrr )+(Vwfl −Vwrl )/(2×Vs )|
で表されるように、右側前後車輪12,86の回転速度差(Vwfr −Vwrr )を車体速度Vs で割った値と左側前後車輪10,84の回転速度差(Vwfl −Vwrl )を車体速度Vs で割った値との平均値の絶対値である。この値は、前輪スリップ率(前輪10,12の平均回転速度を車体速度で割った値)と後輪スリップ率(後輪82,86の平均回転速度を車体速度で割った値)との差の絶対値でもある。
【0028】
本実施形態においては、今回の要求回生制動トルク値Fm(n) *が、運転者の意図する要求総制動トルク値Fd と、相対スリップの勾配等に基づいて決まる第一要求回生制動トルク値との小さい方の値に決定される。第一要求回生制動トルク値は、前述の相対スリップの勾配に基づいて決定される要求回生制動トルク値と、前回の実回生制動トルク値と、相対スリップに応じて決定された回生制動トルク制限値との中間の値に決定される。回生制動トルク制限値FL は、図7のマップで表されるテーブルに従って決定され、要求回生制動トルク値は、前回の実回生制動トルク値Fm(n-1)′に、相対スリップの勾配に基づいて図8のマップで表されるテーブルに従って決定された回生制動トルク変化量ΔFm を加えた値{Fm(n-1)′+ΔFm }とされる。回生制動トルク変化量ΔFm は、図に示すように、相対スリップの勾配ΔKs が正である(増加傾向にある)場合には、負の値とされ、相対スリップの勾配が負である(減少傾向にある)場合には、正の値とされる。また、相対スリップの増加勾配や減少勾配が大きい場合は、回生制動トルクの変化量ΔFm の大きさ(絶対値の大きさ)も大きくされる。回生制動トルク制限値は、図7に示すように、相対スリップが大きい場合は小さい場合より小さくされる。
【0029】
したがって、上述の3つの値のうちの中間値は、たいていの場合は、速度差勾配に応じて決定された要求回生制動トルク値に決定される。相対スリップが大きく相対スリップが増加傾向にある場合には、回生制動トルク制限値は小さくされるのに対して回生制動トルク変化量ΔFm は負の値となる。3つの値{Fm(n-1)′,Fm(n-1)′+ΔFm (ΔFm <0),FL }のうちで、回生制動トルク制限値FL が3つのうちの最小の値となり、中間値が、{Fm(n-1)′+ΔFm }となる。また、逆に、相対スリップが小さく相対スリップが減少傾向にある場合には、回生制動トルク制限値は大きくされ、回生制動トルク変化量ΔFm は正の値となる。回生制動トルク制限値が3つのうちの最大の値となり、中間値は{Fm(n-1)′+ΔFm }となる。
なお、相対スリップは、左右車輪の回転速度差を考慮して決定することもでき、その場合には、相対スリップの検出精度を向上させることができる。
【0030】
また、要求回生制動トルク値を車両の旋回の程度に応じて決定することもできる。旋回状態にあってブレーキ操作部材が操作された場合、あるいは、ブレーキ操作中であって回生制動トルクが回生制動トルク上限値まで増加する途中である場合に旋回状態になった場合には、回生制動トルクの増加勾配が抑制される。
図12に示すように、制動開始時には、エネルギ効率を高めるために、回生制動トルクは急増させられる。本実施形態においては回生制動装置14の能力に応じて決まる最大の勾配で、回生制動トルク上限値まで増加させられる。回生制動トルクが急増中にある場合、または、急増開始時にある場合を制動初期状態と称するが、制動初期状態において、車両が直進状態にある場合には、回生制動トルクが急激に大きくされても差し支えないが、旋回状態にある場合に制動トルク偏与が急激に大きくなることは望ましくない。そこで、旋回の程度に応じた勾配で回生制動トルクを増加させるのである。旋回の程度が大きい場合に回生制動トルクの増加勾配を小さくし(増加勾配の抑制の程度を大きくするのであり、最大勾配よりかなり小さい勾配とする)、旋回の程度が小さい場合は増加勾配を大きくする(増加勾配の抑制の程度を小さくするのであり、最大勾配より僅かに小さい値、あるいは、最大勾配のままとする)のである。旋回の程度は、車両の横加速度,ステアリングホイールの操舵量,左右輪の回転速度差,タイヤの舵角,ヨーレイト等に基づいて取得することができるが、本実施形態においては、横加速度の絶対値が旋回程度とされる。
本実施形態においては、要求回生制動トルク値が、要求総制動トルク値と旋回程度対応回生制動トルク値との小さい方に決定される。旋回程度対応回生制動トルク値は、前回の実回生制動トルク値Fm(n-1)′に図9のマップで表されるテーブルに従って旋回程度に応じて決定された回生制動トルクの増加量ΔFupを加えた値とされる。回生制動トルクの増加量ΔFupは、旋回程度が大きいと小さくされるのであり、回生制動トルクの増加勾配が小さくされる。
【0031】
このように、決定された要求回生制動トルク値は、ハイブリッド制御装置220に出力される。そして、要求総制動トルク値から要求回生制動トルク値を引いた値を、要求液圧制動トルク値として、リニアバルブ装置76が制御される。ハイブリッド制御装置220に出力された要求回生制動トルク値と等しい回生制動トルクが現実に出力されたと推定することができるからである。
【0032】
図4のフローチャートにおいて、ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、運転者の要求総制動トルク値Fd が求められ、S2において回生制動抑制条件が満たされるか否かが判定される。前述の回生制動抑制条件が満たされた場合には、S3において要求回生制動トルク値が0とされ、回生制動抑制条件が満たされない場合には、S4において要求回生制動トルク値が相対スリップの勾配あるいは旋回程度に基づいて求められる。そして、S5において、要求液圧制動トルク値Ffrが、要求総制動トルク値Fd から要求回生制動トルク値Fm * を引いた値とされ、それに応じてリニアバルブ装置76が制御される。
【0033】
S2の回生制動抑制条件が満たされるか否かは、図5のフローチャートで表される回生制動抑制条件判定の実行に従って判定される。S21において、すべてのセンサの検出準備が終了したか否かが準備終了フラグ各々の状態に基づいて判定され、S22において、イグニッションスイッチ218がON状態に切り換えられた後の制動回数が設定回数N以上であるか否かが判定され、S23において、前回制動終了時から今回制動開始時までの経過時間が設定時間Tより短いか否かが判定される。S21〜23のすべてのステップにおける判定がYESである場合には、S24において、回生制動抑制条件を満たさないとされ、回生制動が許可される。それに対して、いずれか1つのステップにおける判定がNOである場合には、S25において、回生制動抑制条件が満たされたとされ、回生制動が禁止される。
【0034】
回生制動が許可された場合には、図6のフローチャートで表される要求回生制動トルク値決定の実行に従って要求回生制動トルク値Fm(n)* が決定され、ハイブリッド制御装置220に出力される。
S41において、車両が直進状態にあるか否かが判定され、直進状態である場合には、S42以降において速度差勾配対応要求回生制動トルク値が決定され、旋回状態である場合には、S48以降において旋回程度対応要求回生制動トルク値が決定される。直進状態であるか否かは、左右前輪10,12の回転速度差に基づいて決定される。左右回転速度差が直進状態にあるとみなし得る設定速度差より小さい場合には直進状態にあるとされ、設定速度差以上である場合には旋回状態にあるとされる。なお、直進状態にあるか否かは、操舵角センサ216の出力値に基づいて取得することもできる。
【0035】
直進状態にある場合には、S42において、前後回転速度差の絶対値に応じた相対スリップKs が求められ、S43において、今回の相対スリップから前回の相対スリップを引いた値が、相対スリップ勾配ΔKs とされる。S42の実行が予め定められた時間間隔毎に行われるため、上述の今回の相対スリップから前回の相対スリップを引いた値は、単位時間当たりの変化量となり、勾配とみなすことができるのである。S44において、相対スリップKs に基づいて回生制動トルク制限値FL が決定され、S45において、相対スリップの勾配ΔKs に基づいて回生制動トルク変化量ΔFm が求められる。そして、S46において、前述の回生制動トルク制限値FL と、ハイブリッド制御装置220から供給された実回生制動トルク値Fm(n-1)′と、その実回生制動トルク値Fm(n-1)′に変化量ΔFm を加えた値{Fm(n-1)′+ΔFm }との中間値(第一要求回生制動トルク値)と、要求総制動トルクFd との小さい方が、要求回生制動トルク値とされる。前述のように、たいての場合には、{Fm(n-1)′+ΔFm }が要求回生制動トルク値とされることになる。
【0036】
車両が直進状態にない場合には、旋回程度対応要求回生制動トルク値が求められる。S48において、回生制動トルクが急増中か否か(回生制動トルク上限値に至ったか否か)が判定される。本実施形態においては、制動開始から予め定められた設定時間内であるか否かが判定されるのである。制動初期状態にあれば、回生制動トルク上限値に至っていない状態にあると判定することができる。S49において、旋回の程度Sが求められ、S50において、旋回の程度Sに応じて回生制動トルクの増加量ΔFupが図9にマップに従って決定される。そして、S51において、要求総制動トルクFd と、前回の実回生制動トルク値Fm(n-1)′に増加量ΔFupを加えた値{Fm(n-1)′+ΔFup}との小さい方が要求回生制動トルク値とされるのである。
【0037】
それに対して、回生制動トルクが回生制動トルク上限値に至った後である場合には、S52において、別の方法で要求回生制動トルク値が決定される。この場合には、前回の実回生制動トルク値Fm(n-1)′を今回の要求回生制動トルク値としたり、前回の要求回生制動トルク値Fm(n-1)* を今回の要求回生制動トルク値とする等、回生制動トルクが一定に保たれるようにすることができる。また、旋回程度Sが設定値より大きい場合は減少させ(回生制動トルク変化量ΔFm を負とし)、設定値より小さい場合は増加させ(回生制動トルク変化量ΔFm を正とし)たりすることができる。
【0038】
以上のように、本実施形態の制動装置によれば、回生制動抑制条件が満たされた場合に要求回生制動トルク値が0とされるため、車輪に加えられる総制動トルク制御精度の低下を抑制し、操縦安定性の低下を抑制することができる。また、回生制動抑制条件が満たされなくなれば、回生制動トルクの抑制が解除されるため、回生制動トルクの制御を細やかに行うことができ、エネルギ効率の低下を抑制することができる。さらに、相対スリップの勾配に基づく制御、いわゆる、微分制御が行われるため、前後速度差に応じて抑制される場合に比較して、回生制動トルクの制御遅れを小さくし、理想配分に早急に近づけることができ、操縦安定性の低下を良好に抑制することができる。また、旋回程度に応じて前輪に加えられる回生制動トルクの増加勾配が抑制されるため、運転者の余裕に応じて回生制動トルクを増加し得る。運転者は、制動トルク配分偏与が生じても余裕をもって操舵修正を行うことが可能となる。
【0039】
以上のように、本実施形態においては、ブレーキ制御装置210のS42〜47を記憶して実行する部分等により速度差勾配対応制御手段が構成され、S49〜51を記憶して実行する部分等により旋回程度対応制御手段が構成され、S2,3を記憶して実行する部分等により回生制動トルク抑制手段が構成される。
【0040】
なお、上記実施形態においては、直進状態にある場合には、速度差勾配対応要求回生制動トルク値が決定され、旋回状態にある場合に旋回程度対応要求回生制動トルク値が決定されるようにされていたが、直進状態にあっても旋回状態にあっても、速度差勾配対応要求回生制動トルク値が決定されるようにすることもできる。旋回状態にあっても、前後速度差が生じるため、それに応じて要求回生制動トルク値を決定することができるのである。速度差勾配対応要求回生制動トルク値と旋回程度対応要求回生制動トルク値とが選択的に求められるようにすることは不可欠ではなく、これらのうちのいずれか一方が求められるようにすればよい。
また、上記実施形態においては、前回の実回生制動トルク値に前後速度差勾配ΔKs に応じて決定された回生制動トルク変化量を加えた値,旋回程度に応じて決定された変化量を加えた値が求められたが、前回の要求回生制動トルク値にこれらの変化量を加えた値が求められるようにすることができる。要求回生制動トルク値に応じた実回生制動トルク値が出力されると推定することができるからである。
さらに、回生制動トルク制限値を考慮することは不可欠ではなく、第一要求回生制動トルク値を、前回の実回生制動トルク値と相対スリップ勾配に基づいて決定された要求回生制動トルク値との小さい方とすることもできる。また、S48,52のステップは不可欠ではない。旋回状態である場合には、S49〜51が実行されて回生制動トルクの増加勾配が抑制されるだけでもよいのである。
【0041】
さらに、上記実施形態における回生制動抑制条件に、前記▲1▼〜▲3▼とは異なる条件を加えることもできる。例えば、▲4▼外気温度が設定温度以下である場合と▲5▼湿度が予め定められた設定範囲内にある場合との少なくとも一方を加えることができる。▲4▼の外気温度が低い場合は、パッドの温度や作動液の温度が低いと推定することができる。▲5▼の湿度が高いとパッドの摩擦係数が高くなり、湿度が低いと摩擦係数が低くなるため、湿度が設定範囲内にない場合には、摩擦係数のバラツキが大きくなるのである。また、上記実施形態においては、▲1▼において、回生制動装置14,液圧制動装置44の各々に含まれるすべてのセンサについて検出準備が終了したか否かが判定されるようにしたが、回生制動トルクの制御,液圧制動トルクの制御に使用されるセンサについてのみ検出準備が終了したか否かが検出されるようにしたり、そのうちで特にトルク制御への影響が大きいセンサのみについての検出準備が終了したか否かが検出されるようにしたりすることができる。回生制動装置14においては、ジェネレータ作動状態検出装置240,蓄電量検出装置234は車速検出装置236より、制御への影響が大きく、重要度が高いセンサとすることができる。液圧制動装置44においては、車輪速センサ130〜136,横加速度センサ214,液圧センサ180は、液圧センサ96,98,120,操舵角センサ216より重要度が高いセンサとすることができる。▲1▼においては、さらに、予め定められた複数のセンサのうちの少なくとも1つについての検出準備が終了した場合等に検出準備が終了したとすることができる。1のセンサの出力値を他のセンサの出力値で代用できる場合には、1のセンサと他のセンサとのいずれか一方の検出準備が終了していればよいのである。例えば、液圧センサ98と液圧センサ120とでは両方の検出準備が終了していなくても、たいていの場合には、いずれか一方の検出準備が終了していれば十分である。
【0042】
さらに、回生制動抑制条件判定と要求回生制動トルク決定とを組み合わせることが不可欠ではなく、別個に実行可能である。
また、速度差勾配対応要求回生制動トルク値は、上記実施形態における場合に限らず、図10のフローチャートに一部を表す要求回生制動トルク値決定ルーチンの実行に従って決定されるようにすることもできる。本実施形態においては、要求回生制動トルク値が、相対スリップKs が設定値Ks1より大きい場合と小さい場合とで、異なる方法で決定される。設定値Ks1より大きい場合には回生制動トルクを相対スリップ勾配に応じた勾配で減少させ、設定値Ks1以下の場合には一定に保たれる。また、設定値Ks1より大きい場合においては、図11に示すように、相対スリップの増加勾配が大きい場合は回生制動トルクの減少量が大きくされるが、相対スリップが減少勾配にあっても回生制動トルクが増加させられることはなく、一定に保たれる。このように、本実施形態においては、相対スリップが設定値Ks1より大きく、かつ、増加勾配である場合に、回生制動トルクが減少させられるが、それ以外の場合には、一定に保たれる。それによって、回生制動トルクの変化頻度を少なくし得、制動フィーリングの悪化を抑制し、回生制動装置14の寿命を長くすることができる。また、回生制動トルクの減少量が、相対スリップの増加勾配が大きいほど大きくされるため、相対スリップを早急に設定値Ks1に近づけることができる。
【0043】
S402,403においては、上記S42,43と同様に、相対スリップKs が求められ、相対スリップ勾配ΔKs が求められる。そして、S404において、相対スリップKs が設定値Ks1より大きいか否かが判定される。設定値Ks1より大きい場合には、S405,406において、係数Aが1とされ、相対スリップ勾配ΔKs に基づいて図11のマップで表されるテーブルに従って回生制動トルク減少量ΔFmrが決定され、S407において、要求総制動トルク値Fd と、前回の実回生制動トルク値Fm(n-1)′から減少量ΔFmrを引いた値{Fm(n-1)′−ΔFmr}との小さい方が要求回生制動トルク値Fm * とされる。ここで、要求回生制動トルク値が0以下にならないように、制限することもできる。例えば、{Fd ,Fm(n-1)′−ΔFmr,0}のうちの中間値を要求回生制動トルク値とするのである。
【0044】
それに対して、前後速度差(相対スリップ)Ks が設定値Ks1以下の場合には、S408において、係数Aが0にされる。S407において、要求回生制動トルク値Fm * が決定されるが、係数Aが0であるため、要求総制動トルク値Fd と前回の実回生制動トルク値Fm(n-1)′との小さい方とされる。この場合には、回生制動トルクは一定の値に保たれることになる。
なお、相対スリップKs が設定値Ks1の大きさとは関係なく相対スリップ勾配ΔKs が増加傾向にある場合に回生制動トルクが減少させられ、減少傾向にある場合には回生制動トルクが一定の値に保たれるようにしてもよい。この場合においても、回生制動トルクの変化頻度を抑制しつつ、エネルギ効率の低下を抑制し、車両操縦安定性の低下を抑制することができる。
【0045】
さらに、回生制動装置14,液圧制動装置44の構造は上記実施形態におけるそれに限らず、他の構造のものとすることもできる。液圧制動装置44において、例えば、プロポーショナルバルブ94も不可欠ではなく、アンチロック制御用の複数の電磁開閉弁92,104等の制御により、前輪液圧制動トルクと後輪液圧制動トルクとが理想配分線に従って配分されるように、制御することが可能である。また、アンチロック制御用の電磁開閉弁92,112,114,117,118,140等も不可欠ではなく、各輪毎にリニアバルブ装置76を設けたり、前輪側と後輪側とにそれぞれリニアバルブ装置76を設けたりすることもできる。これらの場合にはリニアバルブ装置76の制御により、前輪液圧制動トルクと後輪液圧制動トルクとを理想配分線に従って制御することも、アンチロック制御を行うことも可能である。さらに、リニアバルブ装置76を複数の電磁開閉弁を含むものとしたり、液圧源48を、ブースタ付きマスタシリンダとは別に、1つ以上のポンプ装置を含む動力式液圧源とすることもできる。ポンプ装置の制御により、各ホイールシリンダに供給される液圧を制御することもできる。電磁弁の制御も上記実施形態に限定されない。
【0046】
さらに、液圧制動装置44の代わりに、電動モータによりパッドがロータに押し付けられる電気的摩擦制動装置としたり、液圧制動装置44に加えて電気的摩擦制動装置を設けたりすることができる。回生制動装置14において、電動モータを各輪毎に設けることもできる。また、上記実施形態においては、制動装置に、ブレーキ制御装置210,ハイブリッド制御装置220,電動モータ制御装置36等複数のコンピュータを主体とする制御装置が設けられていたが、これらを1つのコンピュータとしたり、2つまたは3つを1つのコンピュータとしたりすることもできる。また、運転者の意図する要求総制動トルクは、マスタシリンダの液圧に基づいて取得されるようにされていたが、ブレーキペダル10の操作量等に基づいて取得されるようにすることもできる。
また、適用される車両も、ハイブリッド車に限らず、電気自動車に適用することもできる。さらに、前輪駆動車に限らず、後輪駆動車であってもよい。
その他、本発明は前記〔発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果〕の欄に記載された態様の他に種々の変形,改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である制動装置を含む車両全体の概略図である。
【図2】上記制動装置に含まれる液圧制動装置を示す図である。
【図3】上記制動装置に含まれるリニアバルブ装置の構造を概略的に示す系統図である。
【図4】上記液圧制動装置のブレーキ制御装置のROMに格納された制動トルク制御プログラムを表すフローチャートである。
【図5】上記制動トルク制御プログラムのS2の実行の内容を示すフローチャートである。
【図6】上記制動トルク制御プログラムのS4の実行の内容を示すフローチャートである。
【図7】上記ブレーキ制御装置のROMに格納された相対スリップと回生制動トルク制限値との関係を表すマップである。
【図8】上記ブレーキ制御装置のROMに格納された相対スリップ勾配と回生制動トルク変化量との関係を表すマップである。
【図9】上記ブレーキ制御装置のROMに格納された旋回程度と回生制動トルク増加量との関係を表すマップである。
【図10】本発明の別の一実施形態である制動装置に含まれるブレーキ制御装置のROMに格納された制動トルク制御プログラムの一部を表すフローチャートである。
【図11】上記ブレーキ制御装置のROMに格納された相対スリップ勾配と回生制動トルク減少量との関係を表すマップである。
【図12】本発明を説明するための図であり、前輪総制動トルクと後輪総制動トルクとの関係を示す図である。
【符号の説明】
14 回生制動装置
20 モータ・ジェネレータ
36 電動モータ制御装置
44 液圧制動装置
76 リニアバルブ装置
130〜136 車輪速センサ
138 増圧リニアバルブ
140 減圧リニアバルブ
180 液圧センサ
210 ブレーキ制御装置
214 横Gセンサ
216 操舵角センサ
220 ハイブリッド制御装置

Claims (9)

  1. 車両の駆動輪に、電動モータの回生制動により回生制動トルクを加える回生制動装置と、
    その回生制動装置を制御することにより、前記回生制動トルクを制御する回生制動トルク制御装置と
    を含む制動装置であって、
    前記回生制動トルク制御装置が、前記車両の前輪の回転速度と後輪の回転速度との差である前後速度差の絶対値が増加傾向にある場合に回生制動トルクを抑制する速度差増加時抑制手段と、前記前後速度差の絶対値が減少傾向にある場合に回生制動トルクを増加させる速度差減少時増加手段との少なくとも一方を含む速度差勾配対応制御手段を含むことを特徴とする制動装置。
  2. 当該制動装置が、前記車両の前輪と後輪とにそれぞれ設けられたブレーキ回転体の各々に摩擦部材を摩擦係合させることによってそれら車輪に摩擦制動トルクを加える摩擦制動装置を含み、かつ、その摩擦制動装置が、前輪の摩擦制動トルクと後輪の摩擦制動トルクとを、理想配分線に従って配分する摩擦制動トルク配分装置を含む請求項1に記載の制動装置。
  3. 前記回生制動装置が、前記回生制動トルクを前記前輪と後輪とのいずれか一方に加え、他方に加えないものである請求項2に記載の制動装置。
  4. 前記速度差勾配対応制御手段が、前記前後速度差の絶対値の勾配に応じた勾配で回生制動トルクを変化させる速度差勾配対応勾配制御手段を含む請求項1ないし3のいずれか1つに記載の制動装置。
  5. 前記回生制動トルク制御装置が、前記前後速度差の絶対値が設定値より小さい場合には前記回生制動トルクの前記勾配に基づく制御が行われないようにする変更抑制手段を含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載の制動装置。
  6. 前記速度差勾配対応制御手段が、前記車両が直進状態にある場合に前記回生制動トルクを制御する手段を含む請求項1ないし5のいずれか1つに記載の制動装置。
  7. 前記回生制動トルク制御装置が、前記車両の旋回の程度に応じた勾配で前記回生制動トルクを変化させる旋回程度対応制御手段を含む請求項1ないし6のいずれか1つに記載の制動装置。
  8. 当該制動装置が、前記車輪と共に回転するブレーキ回転体に摩擦部材を摩擦係合させることにより車輪に摩擦制動トルクを加えるとともに、前輪の摩擦制動トルクと後輪の摩擦制動トルクとを、理想配分線に従って配分する摩擦制動装置を含み、かつ、前記回生制動トルク制御装置が、制動が開始された場合に、駆動輪に加えられる回生制動トルクを回生制動トルク上限値まで急増させる制動初期回生制動トルク急増手段を含み、前記旋回程度対応制御手段が、前記旋回の程度に応じて前記制動初期回生制動トルク急増手段による回生制動トルクの増加勾配を抑制する増加勾配抑制手段を含む請求項7に記載の制動装置。
  9. 当該制動装置が、前記車輪と共に回転するブレーキ回転体に摩擦部材を摩擦係合させることにより、車輪に摩擦制動トルクを加える摩擦制動装置と、
    これら回生制動装置と摩擦制動装置との少なくとも一方を制御することにより、前記車輪に加えられる回生制動トルクと摩擦制動トルクとの少なくとも一方を含む総制動トルクを制御する総制動トルク制御装置とを含むとともに、
    その総制動トルク制御装置が、(a)当該制動装置に含まれるセンサのうちの予め定められたものの検出準備が終了する以前である場合と、(b)車両のイグニッションスイッチがON状態に切り換わってからの前記摩擦制動装置の作動量が予め定められた設定作動量より少ない場合と、(c)前記摩擦制動装置の前回の作動終了時からの経過時間が予め定められた設定時間を越えた場合との少なくとも1つの場合に、前記回生制動トルクを予め定められた設定値に抑制する回生制動トルク抑制手段を含む請求項1ないし8のいずれか1つに記載の制動装置。
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