JP3755692B2 - 有機薄膜発光素子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種表示装置の発生源として用いる有機薄膜発光素子に関し、特に正孔注入層に用いる正孔注入物質の改良に係る有機薄膜発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のブラウン管に代わるフラットディスプレイの需要の増加に伴い、各種表示素子の開発及び実用化が精力的に進められている。エレクトロルミネッセンス素子(以下EL素子とする)もこうしたニーズに則するものであり、特に全固体の自発発光素子として、他のディスプレイにはない高解像度及び高視認性により注目を集めている。
【0003】
現在、実用化されているものは、発光層にZnS/Mn系を用いた無機材料からなるEL素子である。しかし、この種の無機EL素子は発光に必要な駆動電圧が200V程度と高いため駆動方法が複雑となり製造コストが高く、また青色発光の効率が低いため、フルカラー化が困難なのが現状である。ディスプレイとして応用するためには、低駆動電圧、高輝度、長寿命、フルカラーなどの特性が要求される。これに対して有機材料を用いた薄膜EL素子は、発光に必要な駆動電圧を大幅に低減できかつ各種有機材料の適用によりフルカラー化の可能性を充分に持つことから、近年研究が活発化している。
【0004】
特にタング(Tang)らにより、発光材料としてキノリノール化合物、電荷注入材料としてジアミン化合物を用いた積層型EL素子において、10Vの低印加電圧において1000cd/m2 以上の高い輝度が得られたとの報告(Appl.Phys.Lett,51,913 (1987)) があり、以来実用化に向けて研究が活発となり、EL素子構造、製造法と共に有機発光材料、電荷注入材料の探策が精力的に行われている。
【0005】
有機発光材料としては成膜性に優れ、発光効率が高くかつ安定であることが要求され、また電荷注入材料としては成膜性に優れ電荷輸送能および発光層への電荷の注入効率が高くかつ安定であることが要求され、特開平2−311591号、特開昭59−194393号公報などに開示される材料が知られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、すべての要求特性を満たす有機薄膜EL素子は得られていないのが現状である。前述のように有機材料を用いた薄膜EL素子は低電圧駆動やフルカラー化などの可能性を強く示唆しているものの、とくに青色および赤色の発光効率の向上や長時間駆動での安定性の向上など性能面で解決しなければならない問題が多く残されている。また、この有機薄膜の膜厚はサブミクロン以下であるため、成膜性、安定性が良好な材料開発が必要である。さらに量産の面から、大量生産が容易で安価な有機材料の開発や、素子形成方法の改良も重要な技術課題である。さらにまた、様々な発光色を得るためにより多くの種類の発光材料および電荷注入材料の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、新規な正孔注入物質を開発することにより高輝度で寿命安定性に優れる発光を実現し、成膜性が良好で耐久性に優れた有機薄膜発光素子を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明の有機薄膜発光素子は、絶縁性透明基板上に正極と負極の一対の電極とその間に挟まれた発光層と正孔注入層とが積層された有機薄膜発光素子において、前記正孔注入層は下記一般式(I)、
Figure 0003755692
(式(I)中、Ar1 は置換されてもよいアリール基、あるいは複素環基を表わし、R1 、R2 はそれぞれ水素原子、アルキル基、置換されてもよいアリール基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)で示されるチオフェン誘導体のうち少なくとも一種を含む層からなることを特徴とするものである。なお、Ar1のアリール基の好適例としては、フェニル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、また複素環基の好適例としては、チエニル基などが挙げられる。また、Ar1に対す好適置換基例としては、炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、ニトロ基などが挙げられる。さらに、R1およびR2の好適例としては、炭素数1〜8のアルキル基、Ar1と同様のアリール基が挙げられる。
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため各種有機材料について鋭意検討するなかで、数多くの実験を行った結果、前記一般式(I)で示される特定の化合物を正孔注入材料として用いることにより、良好な膜形成が可能で、膜中に発生するピンホール等の電気的欠陥が少なく、しかも高輝度で寿命安定性の優れた有機薄膜発光素子を得るに至ったのである。
【0010】
【発明の実態の形態】
本発明に用いられる前記一般式(I)の化合物は公知の方法により合成することができる。例えば、前記一般式(I)の化合物は、下記一般式(II)で示されるヒドラジド化合物と下記一般式(III)で示されるジクロライド化合物とを、例えばピリジンなどの溶媒中環流により下記一般式(IV)で示されるような前駆体を合成した後、X=O(酸素原子)の場合には、酸による脱水反応で、またX=S(硫黄原子)の場合には、Lawesson試薬とのトルエン環流により合成され、一般的な分離精製手法によって容易に得ることができる。
Figure 0003755692
【0011】
こうして得られる前記一般式(I)で示される化合物の具体例として以下のものが揚げられる。
Figure 0003755692
【0012】
Figure 0003755692
【0013】
図1は、本発明に係る典型的な有機薄膜発光素子構造の断面図であり、正極2と負極5の一対の電極とその間に正孔注入層3、および発光層4がそれぞれ順次積層されたものである(発光光は図中の矢印に示す方向に進む。)。
【0014】
ガラスなどの絶縁性透明基板1上に金、ニッケル等の半透膜やインジウム錫酸化物(以下ITOと称す)、酸化錫(以下SnO2 と称す)などの透明導電膜からなる正極2を抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スタッパ法により形成する。この正極2は、透明性を持たせるために、10〜300nmの厚さにすることが望ましい。次に正孔注入層3、発光層4として順次有機薄膜を成膜する。両層は単独材料または添加剤、樹脂バインダーとの混合膜とすることができる。成膜法としては両層ともにスピンコート、キャスティング、LB法、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着等により成膜できる。また、両層の膜厚は、それぞれ10〜300nm、好適には30〜100nmである。最後に負極5を蒸着にて形成する。なお、この負極5の材料としては、仕事関数の小さいMg、Mg/Ag、In、Ca、Al、Al/Li等が用いられる。
【0015】
図2は、本発明に係る他の例を示す有機薄膜発光素子構造の断面図であり、正極2と負極5の一対の電極とその間に正孔注入層3、発光層4および電子注入層7がそれぞれ順次積層されたものである(発光光は図中の矢印に示す方向に進む。)。ガラスなどの絶縁性透明基板1上に金、ニッケル等の半透膜やITO、SnO2 などの透明導電膜からなる正極2を抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタ法により形成する。この正極2は、透明性を持たせるために、10〜300nmの厚さにすることが望ましい。次に正孔注入層3、発光層4、さらに電子注入層7として有機薄膜を順次形成する。三層は単独材料または添加剤、樹脂バインダーとの混合膜とすることができる。成膜法としては三層ともにスピンコート、キャスティング、LB法、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着等により成膜できる。また、三層の膜厚は、それぞれ1〜1000nm、好適には10〜300nmである。最後に負極5を蒸着にて形成する。なお、この負極5の材料としては、仕事関係数の小さいMg、Mg/Ag、In、Ca、Al、Al/Li等が用いられる。
【0016】
本発明の有機薄膜発光素子の発光層4および電子注入層7に用いられる化合物の具体例として以下のものが挙げられる。
Figure 0003755692
【0017】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
実施例1
絶縁性透明基板1に正極2として膜厚約100nmのITOを設けた50mm角のガラスを基板とし、この基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、図1に示すように、正孔注入層3、発光層4と順次成膜した。成膜に際して真空槽内圧は1×10-4Paまで減圧した。正孔注入層3には、前記化合物No.I−2のチオフェン誘導体を用い、蒸着源温度200〜250℃の範囲で加熱し、成膜速度を約0.2nm/秒として60nm形成した。次に、真空槽の真空を破らずに、続けて発光層4として前記式(V)の化合物を蒸着源温度220〜250℃の範囲で加熱し、成膜速度を約0.2nm/秒として60nm形成した。この後、この基板を真空槽から取り出し、直径5mmのドットパターンからなるステンレス製マスクを取りつけ、新たに抵抗加熱蒸着装置内に装着し、負極5としてMg/Ag(10:1の重量比率)を100nm形成した。
【0018】
本実施例1において、化合物No.I−2のチオフェン誘導体からなる正孔注入層は均一な蒸着膜となり、かつこの直径5mmの有機薄膜発光素子に駆動用電源6により直流電圧15Vを印加したところ、緑色(発光中心波長:520nm)の均一な発光が得られ、最高輝度10000cd/m2 以上であった。また200時間を超える連続発光においても、良好な安定性が得られた。
【0019】
実施例2
絶縁性透明基板1に正極2として膜厚約100nmのITOを設けた50mm角のガラスを基板とし、この基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、図2に示すように、正孔注入層3、発光層4、電子注入層7と順次成膜した。成膜に際して真空槽内圧は1×10-4Paまで減圧した。正孔注入層3には、前記化合物No.I−6のチオフェン誘導体を用い、蒸着源温度220〜300℃の範囲で加熱し、成膜速度を約0.2nm/秒として60nm形成した。次に、真空槽の真空を破らずに、続けて発光層4として前記式VIの化合物を蒸着源温度310〜330℃の範囲で加熱し、成膜速度を約0.2nm/秒として40nm形成した。さらに真空槽の真空を破らずに、続けて電子注入層7として前記式Vの化合物を20nm形成した。この後、この基板を真空槽から取り出し、直径5mmのドットパターンからなるステンレス製マスクを取りつけ、新たに抵抗加熱蒸着装置内に装着し、負極5としてMg/Ag(10:1の重量比率)を100nm形成した。
【0020】
本実施例2において、前記式VIの化合物からなる正孔注入層は均一な蒸着膜となり、かつこの直径5mmの有機薄膜発光素子に駆動用電源6により直流電圧15Vを印加したところ、青緑色(発光中心波長:460nm)の均一な発光が得られ、最高輝度5000cd/m2 以上であった。また200時間を超える連続発光においても、良好な安定性が得られた。
【0021】
実施例3
正孔注入層に前記化合物No.I−11のチオフェン誘導体を用い、蒸着源温度210〜300℃の範囲で加熱した以外はすべて実施例1と同一条件により有機薄膜発光素子を形成した。
【0022】
本実施例3においても、直流電圧15Vを印加したところ、緑色(発光中心波長:530nm)の均一な発光が得られ、最高輝度5000cd/m2 以上であった。また200時間を超える連続発光においても、良好な安定性が得られた。
【0023】
実施例4
正孔注入層に前記化合物NoI−15のチオフェン誘導体を用い、蒸着源温度250〜300℃の範囲で加熱した以外はすべて実施例2と同一条件により、有機薄膜発光素子を形成した。
【0024】
本実施例4においても、直流電圧15Vを印加したところ、青緑色(発光中心波長:460nm)の均一な発光が得られ、最高輝度5000cd/m2 以上であった。また200時間を超える連続発光においても、良好な安定性が得られた。
【0025】
実施例5
正孔注入層に前記化合物NoI−18チオフェン誘導体を用い、蒸着源温度270〜300℃の範囲で加熱した以外はすべて実施例2と同一条件により、有機薄膜発光素子を形成した。
【0026】
本実施例5においても、直流電圧15Vを印加したところ、青緑色(発光中心波長:470nm)の均一な発光が得られ、最高輝度5000cd/m2 以上であった。また200時間を超える連続発光においても、良好な安定性が得られた。
【0027】
【発明の効果】
この本発明によれば、有機材料からなる発光層と正孔注入層を積層せしめてなる有機薄膜発光素子において、前記正孔注入層に前記一般式(I)で示される化合物を用いることにより、良好な膜形成が可能で、ピンホール等の電気的欠陥が少なく、高輝度で長寿命かつ安定な有機薄膜発光素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る典型的な有機薄膜発光素子の構造断面である。
【図2】本発明に係る他の例を示す有機薄膜発光素子の構造断面である。
【符号の説明】
1 絶縁性透明基板
2 正極
3 正孔注入層
4 発光層
5 負極
6 駆動用電源
7 電子注入層

Claims (1)

  1. 絶縁性透明基板上に正極と負極の一対の電極とその間に挟まれた、少なくとも発光層と正孔注入層とが積層されてなる有機薄膜発光素子において、前記正孔注入層は下記一般式(I)、
    Figure 0003755692
    (式(I)中、Ar1は置換されてもよいアリール基、あるいは複素環基を表し、R1、R2はそれぞれ水素原子、アルキル基、置換されてもよいアリール基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)で示されるチオフェン誘導体のうち少なくとも一種を含む層からなることを特徴とする有機薄膜発光素子。
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