JP3732605B2 - 密閉形スラスト動圧軸受 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、密閉形スラスト動圧軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、密閉形スラスト動圧軸受としては、軸体とこの軸体の一端に設けられたフランジとから成る回転体と、この回転体のフランジを密閉状態で収納するハウジングとを備え、上記フランジの軸方向両端面に動圧発生溝を設けたものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来の密閉形スラスト動圧軸受では、上記回転体が鉛直方向に設置された場合、起動前に上記回転体が重力によって降下し、フランジの下側の端面とそれに対向するハウジングの受面は接触した状態あるいは極めて薄い作動流体の膜しか存在しない状態になっている。この状態で、回転体を起動させると、フランジの軸方向両端面で同時にたとえばV字形の動圧発生溝が作動流体をこの溝の半径方向中央に引き込もうとするが、ハウジングがフランジを密閉状態で収納しているため、フランジの上側の端面とハウジングとの間に負圧が発生し、もともと極めて少量しか作動流体が存在しないハウジングの受面とフランジの下側の端面との間に、特に半径方向内側の部分に十分に作動流体を導くことができないという問題があった。そのため、回転体の起動時に、フランジの下側の端面と受面との間に作動流体が不足した状態となって、フランジを支持する動圧を十分に発生させることが出来ず、スラスト動圧軸受としての機能が果たせず、また、フランジの端面等を損傷するという問題があった。
【0004】
そこで、本発明の目的は、起動時に軸方向に支持する動圧を十分に発生することができ、端面等を損傷することがない密閉形スラスト動圧軸受を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の密閉形スラスト動圧軸受は、軸体とこの軸体の一端に設けられたフランジとから成る回転体と、この回転体のフランジを密閉状態で収納するハウジングとを備え、
上記フランジの両側の端面またはこの端面に対向する上記ハウジングの両側の受面に軸側から作動流体を引き込む形状のスラスト動圧軸受部の動圧発生溝が設けられ、上記軸体とその軸体に対向する上記ハウジングの内周面との間にはラジアル動圧軸受部を備え、
上記フランジ及びそのフランジから連なる上記ラジアル動圧軸受部までの軸体は上記ハウジングと上記ラジアル動圧軸受部によって密閉された空間内にあり、
上記密閉された空間及び上記ラジアル動圧軸受部には作動流体が連続して充填され、
上記ラジアル動圧軸受部は回転体の回転時にフランジ側から作動流体を引き込む形状の動圧流体溝を備えている密閉形スラスト動圧軸受において、
上記フランジは、上記スラスト動圧軸受部の動圧発生溝が設けられた環状領域よりも径方向内側に軸方向に貫通する少なくとも1つの孔を備え、上記孔は上記軸体側のフランジの端面に形成されるスラスト軸受部と上記ラジアル動圧軸受部との間に開孔するとともに、上記軸方向に貫通する少なくとも1つの孔が軸体側のハウジングの受面に対向する位置に設けられていて、
上記ハウジング及び上記ラジアル動圧軸受部が、上記フランジ及びそのフランジから連なる上記ラジアル動圧軸受部までの軸体を密閉状態で収納していても、上記孔によって上記フランジの上側の端面と上記ハウジングとの間の空間に負圧が発生しても、起動時に、上記ハウジングの受面と上記フランジの下側の端面との間の空間に作動流体が供給されることを特徴としている。
【0006】
請求項1の密閉形スラスト動圧軸受によれば、回転体の軸が鉛直状態で回転体が回転すると、上記フランジの上側の端面とハウジングの受面との間の作動流体が、上記フランジを貫通する孔を通ってフランジの下側の端面とハウジングの受面との間に補給されるので、動圧発生溝に十分な作動流体を供給できる。したがって、フランジの軸方向の支持を行う動圧が十分に発生して、スラスト動圧軸受としての機能を果たすことができ、また、フランジの下側の端面とそれに対向するハウジングの受面とが損傷することがない。
【0007】
請求項2の密閉形スラスト動圧軸受は、請求項1に記載の密閉形スラスト動圧軸受において、上記孔の断面積の総和が上記環状領域の少なくとも1/30であることを特徴としている。
【0008】
請求項2の密閉形スラスト動圧軸受では、上記孔の断面積の総和が上記環状領域の少なくとも1/30あるから、所定回転数で十分な作動流体がフランジの下側の端面に供給されて、十分な動圧が生じる。このことは、実験により確かめられた。
【0009】
請求項3の密閉形スラスト動圧軸受は、請求項1または2に記載の密閉形スラスト動圧軸受において、上記フランジの端面に対向するハウジングの受面に、上記環状領域に少なくとも部分的に対向あるいは重なる油溜まりを備えていることを特徴としている。
【0010】
請求項3の密閉形スラスト動圧軸受によれば、上記フランジの端面に対向するハウジングの受面に、上記環状領域に少なくとも部分的に対向あるいは重なる油溜まりを備えているから、回転体起動時におけるフランジの下側の端面への作動流体の供給はこの油溜まりからも行なわれ、動圧発生溝による動圧の発生がより確実に行なわれる。
【0011】
請求項4の密閉形スラスト動圧軸受は、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の密閉形スラスト動圧軸受において、上記スラスト動圧軸受部の動圧発生溝がV字形の動圧発生溝であることを特徴としている。
【0012】
請求項4の密閉形スラスト動圧軸受によれば、スラスト動圧軸受部の動圧発生溝の形状がV字形であるので、回転体の回転時に、フランジの上側の端面とハウジングとの間から作動流体を効率的に引き込むことができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0014】
図1(a)は、本発明の一実施の形態の断面図である。但し、ハウジング2については、見やすくするために、ハッチングを省略している。
【0015】
図1(a)に示すように、回転体3は軸体4とその端に固定したフランジ1から成る。上記軸体4およびフランジ1はハウジング2によってラジアルおよびアキシャル方向に支持している。上記フランジ1はハウジング2内に密封状態に収容している。上記フランジ1の上下両側の端面5,6には、図1(a),(b)に示すように、環状領域7にV字形の動圧発生溝8を設けている。この環状領域7は、図1(b)では、円9と円10との間の領域である。
【0016】
また、上記フランジ1の環状領域7よりも半径方向内側には、8個の貫通孔11を円周上に等間隔で設けている。この貫通孔11の断面積の総和は、環状領域7の面積の1/30以上になっている。
【0017】
一方、上記フランジ1の下側の端面6と対向する受面12には、上記環状領域7に部分的に対向する複数の油溜まり13を設けている。この油溜まり13は作動流体14が動圧発生溝側8に出て行きやすいように、半径方向内側が滑らかに湾曲している。
【0018】
一方、上記軸体4には動圧発生溝15を設けて、軸体4を動圧によってラジアル方向に支持している。
【0019】
上記構成の密閉形スラスト動圧軸受の回転体3が鉛直方向に設置された場合、起動前には上記フランジ1は自重によって降下し、フランジ1の下側の端面6とそれに対向するハウジング2の受面12は接触した状態あるいは極めて薄い作動流体14の膜しか存在しない状態になる。この状態で、回転体3を起動させると、V字形の動圧発生溝8が作動流体14をこの溝8の半径方向中央に引き込もうとする。このとき、環状領域7よりも径方向内側においてフランジ1を貫通する孔11によって、フランジ1の上側の端面5とハウジング2の受面12との間の空間と、フランジ1の下側の端面6とハウジング2の受面12との間の空間とが連通している。そのため、作動流体14が、上記孔11を通って図1(a)の矢印E,Fが示すように流れて、フランジ1の下側の端面6とハウジング2の受面12との間に作動流体14が補給される。このため、ハウジング2がフランジ1を密閉状態で収納していても、フランジ1の上側の端面8とハウジング2との間に負圧が発生しない。このため、ハウジング2の受面12とフランジ1の下側の端面6との間に、矢印D,E,Fに示すように、特に半径方向内側の部分に十分に作動流体14を補給して、起動時から動圧を発生させることができる。
【0020】
このように、回転体3の起動時に、フランジ1の下側の端面6の環状領域7に作動流体14が十分に補給されるので、動圧発生溝8の設けられた環状領域7にフランジ1を軸方向に支持する動圧を十分に発生させることができ、スラスト動圧軸受としての機能を果たすことができる。
【0021】
また、上記油溜まり13から、フランジ1の動圧発生溝6は、作動流体14を引っ張り込む。すなわち、フランジ1の回転時に、上記動圧発生溝8が動圧発生溝8直下の油溜まり13から作動流体14を引っ張り込むので、上記油溜まり13がない場合に比較して、作動流体14はフランジ1の下側の端面6とハウジング2の受面12との間に一層容易に補給される。
【0022】
図2は作動流体14を循環させるための全ての孔11の面積の総和と環状領域7の面積との比に対する回転体3の浮上量の関係を示す。詳しくは、図2は回転体3の回転数を1000r.p.m.、3000r.p.m.、5000r.p.m.と変化させた場合に、作動流体14用の全ての孔11の総面積と環状領域7の面積との比に対する回転体3の浮上量の関係を示す図である。上記孔11の総面積と環状領域7の面積との比が1/30以上であれば、回転体3の回転数が1000r.p.m.、3000r.p.m.、5000r.p.m.と変化した場合、回転体3の浮上量は、それぞれ約5μm、5.5μm、6μmとなって設定浮上量5μm以上になる。したがって、フランジ1を貫通する作動流体14用の孔11の面積の総和と環状領域7の面積に対する比が1/30以上であり、回転体3の回転数が1000r.p.m.以上であると、回転体3は設定浮上量である5μm以上を確保することができる。
【0023】
なお、上記実施の形態では、動圧発生溝8はフランジ1の上下側の端面5,6に設けられているが、動圧発生溝を上記端面に対向するハウジングの受面に設けてもよい。
【0024】
また、油溜まりは、図示しないが、このフランジの端面に設けてもよい。この油溜まりは、動圧発生溝のある環状領域に対向するようにしてもよいし、あるいは、この環状領域に部分的に重なってもよい。また、実施の形態では、油溜まり13はハウジング2の受面12の外周部分に複数設けられているが、ハウジング受面の内周部分に設けてもよい。また、油溜まりの形状は、丸穴、円弧形あるいはリング形であってもよい。
【0025】
【発明の効果】
以上より明らかなように、請求項1の動圧軸受は、軸体とこの軸体の一端に設けられたフランジとから成る回転体と、この回転体のフランジを密閉状態で収納するハウジングとを備え、
上記フランジの両側の端面またはこの端面に対向する上記ハウジングの両側の受面に軸側から作動流体を引き込む形状のスラスト動圧軸受部の動圧発生溝が設けられ、上記軸体とその軸体に対向する上記ハウジングの内周面との間にはラジアル動圧軸受部を備え、
上記フランジ及びそのフランジから連なる上記ラジアル動圧軸受部までの軸体は上記ハウジングと上記ラジアル動圧軸受部によって密閉された空間内にあり、
上記密閉された空間及び上記ラジアル動圧軸受部には作動流体が連続して充填され、
上記ラジアル動圧軸受部は回転体の回転時にフランジ側から作動流体を引き込む形状の動圧流体溝を備えている密閉形スラスト動圧軸受において、
上記フランジは、上記スラスト動圧軸受部の動圧発生溝が設けられた環状領域よりも径方向内側に軸方向に貫通する少なくとも1つの孔を備え、上記孔は上記軸体側のフランジの端面に形成されるスラスト軸受部と上記ラジアル動圧軸受部との間に開孔するとともに 、上記軸方向に貫通する少なくとも1つの孔が軸体側のハウジングの受面に対向する位置に設けられていて、
上記ハウジング及び上記ラジアル動圧軸受部が、上記フランジ及びそのフランジから連なる上記ラジアル動圧軸受部までの軸体を密閉状態で収納していても、上記孔によって上記フランジの上側の端面と上記ハウジングとの間の空間に負圧が発生しても、起動時に、上記ハウジングの受面と上記フランジの下側の端面との間の空間に作動流体が供給されるので、この孔を通して上記フランジの下側の端面とこの面に対向する上記ハウジングの面との間に作動流体を十分に補給できる。したがって、フランジの軸方向の支持を行う動圧を十分に発生させて、起動時にスラスト動圧軸受としての機能を果たすことができ、フランジの端面とハウジングの受面の損傷を防止できる。
【0026】
また、請求項2の動圧軸受は、請求項1に記載の動圧軸受において、上記孔の断面積の総和が環状領域の面積の少なくとも1/30であるので、フランジの下側の端面とこの面に対向する上記ハウジングの面との間に作動流体を十分に補給でき、設定浮上量を確保することができる。
【0027】
また、請求項3の動圧軸受は、請求項1に記載の動圧軸受において、上記フランジの端面に対向するハウジングの受面に、上記環状領域に少なくとも部分的に対向あるいは重なる油溜まりを備えているので、上記フランジの下側の端面とこの面に対向する上記ハウジングの面との間に作動流体をより確実に補給できる。
【0028】
また、請求項4の動圧軸受は、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の動圧軸受において、スラスト動圧軸受部の動圧発生溝の形状がV字形であるので、回転体の回転時に、フランジの上側の端面とハウジングとの間から作動流体を効率的に引き込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(a)は本発明の一実施の形態に係る動圧軸受の断面図である。図1(b)は、フランジの上側の端面の平面図である。
【図2】 図2は孔の総面積と環状領域との比に対する回転体の浮上量を示す。
【符号の説明】
1…フランジ、 2…ハウジング、 3…回転体、 4…軸体、
5…フランジの上側の端面、 6…フランジの下側の端面、 7…環状領域、
8…動圧発生溝、 11…孔、 12…ハウジングの受面、
13…油溜まり。

Claims (4)

  1. 軸体とこの軸体の一端に設けられたフランジとから成る回転体と、この回転体のフランジを密閉状態で収納するハウジングとを備え、
    上記フランジの両側の端面またはこの端面に対向する上記ハウジングの両側の受面に軸側から作動流体を引き込む形状のスラスト動圧軸受部の動圧発生溝が設けられ、上記軸体とその軸体に対向する上記ハウジングの内周面との間にはラジアル動圧軸受部を備え、
    上記フランジ及びそのフランジから連なる上記ラジアル動圧軸受部までの軸体は、上記ハウジングと上記ラジアル動圧軸受部によって密閉された空間内にあり、
    上記密閉された空間及び上記ラジアル動圧軸受部には作動流体が連続して充填され、
    上記ラジアル動圧軸受部は回転体の回転時にフランジ側から作動流体を引き込む形状の動圧流体溝を備えている密閉形スラスト動圧軸受において、
    上記フランジは、上記スラスト動圧軸受部の動圧発生溝が設けられた環状領域よりも径方向内側に軸方向に貫通する少なくとも1つの孔を備え、上記孔は上記軸体側のフランジの端面に形成されるスラスト軸受部と上記ラジアル動圧軸受部との間に開孔するとともに、上記軸方向に貫通する少なくとも1つの孔が軸体側のハウジングの受面に対向する位置に設けられていて、
    上記ハウジング及び上記ラジアル動圧軸受部が、上記フランジ及びそのフランジから連なる上記ラジアル動圧軸受部までの軸体を密閉状態で収納していても、起動時に、上記孔によって上記フランジの上側の端面と上記ハウジングとの間の空間に負圧が発生しても、上記ハウジングの受面と上記フランジの下側の端面との間の空間に作動流体が供給されることを特徴とする密閉形スラスト動圧軸受。
  2. 請求項1に記載の密閉形スラスト動圧軸受において、上記孔の断面積の総和が上記環状領域の少なくとも1/30であることを特徴とする密閉形スラスト動圧軸受。
  3. 請求項1または2に記載の密閉形スラスト動圧軸受において、上記フランジの端面に対向するハウジングの受面に、上記環状領域に少なくとも部分的に対向あるいは重なる油溜まりを備えていることを特徴とする密閉形スラスト動圧軸受。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1つに記載の密閉形スラスト動圧軸受において、
    上記スラスト動圧軸受部の動圧発生溝がV字形の動圧発生溝であることを特徴とする密閉形スラスト軸受。
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