JP3728952B2 - 電子写真感光体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、均一な潜像を作るように露光した場合、画像形成領域において電位むらのより少なく、また、感光体構成各層での欠陥のより少ない電子写真感光体を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
積層型電子写真感光体は2層以上の層構成からなり、2層構成の場合は、電荷注入阻止のための処理を行った導電性基体の上に電荷発生層、その上に電荷輸送層が設けられた構成になっており、3層構成の場合は、導電性基体の上に電荷注入阻止のための下引き層、その上に順次電荷発生層及び電荷輸送層が設けられた構成になっている。さらにその上に保護層を設けることも行われている。ところで、これら電子写真感光体における積層型の感光層は、有機系光導電性材料を結着剤樹脂と共に有機溶剤に溶解又は分散させて感光体塗布液を調製し、この感光体塗布液を導電性基体の上に順次浸漬塗布し、乾燥させることにより形成されるが、一般には、順次各機能層を積層して電荷発生層を形成した後、最後に電荷輸送層を浸漬塗布により形成し、乾燥工程を経て感光体ドラムが完成する。
【0003】
しかしながら、このようにして作製された電子写真感光体は、それをフルカラープリンターに入れ、電子情報による画像を再現した場合、現像の関与およびレーザー光での書き込みの関与による影響を除いた場合においても、画像プリント1枚の中の濃度に微妙な差が生じる。このような濃度の微妙な差は、単色の黒の場合は目立つことが少ないが、4色を重ねあわせたフルカラー画像の場合、特に肌色の部分では敏感にその差が生じ、それを検出することが可能であり、そして物理的定量性を持たせるために、色差という指標を用いることにより定量的表示が可能になる。色差については、簡単に後述するが、その値が電子写真感光体とプリンターのそれぞれの関与による影響を併せて3の値を超えると、目視での相違、いわゆる色味が異なることが認められる。
【0004】
ここで感光体ドラムとの対応関係を見ると、感光体ドラムの上端と下端とで色味が異っており、感光体ドラムの回転方向では殆ど差の無いことが判明した。これは各色の現像性に差のあることがその原因であると推定されるので、中間色に相当する感光体の電位について調査したところ、この色味が異なる方向での電位について傾きが存在することが判明した。そしてこの電位の傾きの形成の原因として、電荷発生層の膜厚の相違により、感度差が発生しているとの仮説を立て、電荷発生層の膜厚を感光体長手方向で測定したところ、いずれの場所でも殆ど差が無いことが確認された。この事実により、色味が異なる方向での電位について傾きが存在することは、電荷発生層の膜厚以外にその原因があると推測することができる。そして塗布開始端(上端)で感度が低く、塗布終了端(下端)で感度が高いという結果となる。
【0005】
一方、電荷輸送層に関しては次のような問題がある。すなわち、電荷輸送層を形成する場合、ドラムを一旦塗布液に沈み込ませた後、徐々に引き上げる工程を経ることにより電荷輸送層が形成される。この場合、上端部分では沈み込ませた直後、ほぼ数秒後には引き上げを開始するため、上端部分での電荷発生層と電荷輸送層との接触している時間と、下端部分での電荷発生層と電荷輸送層との接触している時間は異なり、下端部分ではドラム全長を引き抜き速度で割った時間、概ね数分の間、上端部分よりも電荷輸送層液に浸漬している時間が長いことになる。より具体的には上端部では数秒ないし10秒程度、下端部分では3分程度となり、その差は3分程度である。その結果、下端側が高感度になる。
【0006】
従って、前記した通常実施される公知の製造方法により作製された感光体ドラムには、ドラム表面の各点において、明減衰性能が僅かずつ異なり、したがって感光体ドラム全面にわたり同じ光量で露光した場合、表面の電位は同一にはならない。特にドラムの上端部分から下端部分に向け、実質上感度が上昇して行き、同一露光時の電位を比較すると、上端側で高く、下端側で低い傾向が認められた。その値は、一般的なカラー複写機、プリンタ等で使用される−600V〜−700V近辺での帯電電位において、露光した後の電位が−200V〜−300Vの画像範囲の場合、最大電位と最小電位の電位差が40V程度にもなり、また特に注目される中間部分、および500V前後の帯電電位でさえ20V程度の電位むらがあり、この電位差がプリント画像のむら発生に関与して、特にカラープリントでは1枚のプリント面内で微妙な色の相違を生じるという問題がある。
【0007】
また、電荷輸送層に関しては、生産性を考慮して、電荷輸送層形成用塗布液に浸漬する際の浸漬速度を、実験室レベルよりも速くすると、結果として電荷発生材料のブロック状(塊様)溶出と、この溶出物が感光体下端で電荷輸送層に再付着することにより、感光体下端部において画質欠陥を発生させるという問題も抱えている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、さらに種々実験、調査した結果、上記の現象は、電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液を塗布する際における前記した浸漬時間の差に起因しており、また、電荷発生層から電荷発生材料が電荷輸送層形成用塗布中に溶出し、その後に電荷輸送材料が近接して存在するために、電荷発生後、電荷輸送層への電荷注入が容易になり、事実上の感度上昇が生じるものと考えられ、そして実験的には、全体の浸漬時間を延長することによって或る程度の改善の見込めることが判明した。
【0009】
しかしながら、浸漬時間を延長すると、生産性が犠牲となり、感光体ドラムのコスト増になるという問題があった。従来公知の浸漬塗布によっては、塗布開始端から、塗布終了端に向かい事実上の感度低下が発生しているため、感光体ドラムの塗膜形成時において、電荷輸送層を形成する時点において、予め塗布開始端側で感度を高くしておく必要がある。また、このようにして作製された感光体ドラムの下端表面には、少数ではあるが、電荷輸送層中に粒状の欠陥が確認され、プリントするとこれが画質欠陥として現れることが確認された。その発生機構は、感光体ドラムを電荷輸送層形成用塗布液に浸漬する時点で、下方に移動する感光体ドラムと上方に移動する塗布液との接触作用によって、電荷発生層表面を溶かし、電荷輸送層形成用塗布液に巻き込まれて感光体下端部に付着し、画質欠陥が発生すると考えられる。
【0010】
本発明は、上記の事実に鑑みてなされたものであって、その目的は、画像形成領域において電位むらの少ない電子写真感光体を製造する方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題を解決するために、電荷発生層の膜厚を調整することを検討した結果、本発明を完成したものである。原理的には塗布開始端から塗布終了端に向かって、電荷発生層膜厚に勾配を持たせることによって、上記の課題を解決することができる。電荷発生層の膜厚が厚くなると、同じ入射光量に対して発生するキャリアが多くなり、高感度になる。
【0012】
本発明の上記の積層型電子写真感光体の製造方法は、導電性基体上に浸漬塗布によって電荷発生層を形成し、その上に浸漬塗布によって電荷輸送層を形成するものであって、電荷発生層の浸漬塗布による形成に際して、実際の電荷発生層形成用塗布液の塗布速度が内挿値となるように、予め2条件以上の塗布速度から、塗布速度と電荷発生層の膜厚との関係を求めておき、この関係を利用して、潜像形成領域の塗布開始端の膜厚が塗布終了端の膜厚よりも薄くなるように塗布開始端から塗布終了端までの各位置の塗布速度を数学上の関数として設定し、その関数に従った塗布速度になるように塗布速度を制御して電荷発生層形成用塗布液を塗布することを特徴とする。
本発明の上記方法によって製造される積層型電子写真感光体は、導電性基体上に塗布によって設けた電荷発生層とその上に形成された電荷輸送層とよりなり、電荷発生層の潜像形成領域における膜厚が塗布開始端側から塗布終端側にかけて漸次薄くなっていることを特徴とする。なお、勾配については、塗布開始端から塗布終了端に向かって、必ずしも均一に膜厚に勾配を持たせる必要はない。
【0013】
好ましくは、感光体ドラムの長手方向の各位置における周方向の膜厚の平均値を一次回帰した場合、回帰係数が負となり、且つdT/dL<0(ここでdT/dLは感光体ドラムの長手方向の微小区間(dL)における電荷発生層の膜厚(dT)の傾きを示す。)となる膜厚部分が、潜像形成領域の塗布開始端側から塗布終了端側のいずれの位置においても存在するように電荷発生層形成用塗布液を塗布して形成すればよい。なお、部分的にはdT/dL>0となる場合、すなわち、傾きが正の部分があってもよい。
【0015】
より具体的には、本発明における電荷発生層の形成においては、実際の電荷発生層形成用塗布液の塗布速度が内挿値となるように、予め2条件以上の塗布速度から、塗布速度と電荷発生層の膜厚との関係を求めておき、塗布開始端から塗布終了端まで一定速度で塗布した場合の潜像形成領域の塗布開始端から塗布終了端までの膜厚分布と露光後電位の分布を基準として、露光後電位が所望の分布になるように上記の関係を利用して塗布開始端および塗布終了端の塗布速度を設定し、塗布開始端から塗布終了端の塗布速度までの各位置における塗布速度を数学上の関数により決定し、その関数に従った塗布速度になるように塗布速度を制御して電荷発生層形成用塗布液を塗布すればよい。
【0016】
また、本発明の製造方法においては、電荷輸送層を浸漬塗布により形成するに際し、循環して溢流している塗布槽中の塗布液の循環を、導電性基体下端を浸漬させる直前に停止させ、浸漬途中ないし浸漬終了時点で再び塗布液の循環を再開することによって行うのが好ましい。
本発明の画像形成装置は、上記の積層型電子写真感光体と、その周囲に順次設けた帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有するものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明において使用する浸漬塗布装置の概略の構成を示す図である。浸漬塗布装置は、浸漬塗布槽3、塗布液貯槽5、被塗布ドラム2を支持するドラムチャック1およびドラムチャックを上下方向に移動させる移動軸4とを有するものであって、浸漬塗布槽3には塗布液が満たされ、塗布液は浸漬塗布槽と塗布液貯槽の間で循環するようになっている。すなわち、塗布液貯槽の塗布液は、ポンプ10の駆動によって配管に設けたフィルター11を通って浸漬塗布槽にその下部から導入され、浸漬塗布槽の上端から溢流して配管を通って塗布液貯槽5に回収される。一方、駆動軸4はモーター7の駆動により、駆動ギヤ6を介して回転するようになっており、それによりドラムチャック1に支持された被塗布ドラム2が上下方向に移動して、浸漬塗布槽に浸漬され、引き上げられる。本発明の場合、モーター7の駆動は、モーター制御装置8によって制御されるようになっており、塗布速度を演算し、制御装置に指示を出すコンピュータ装置9の指示によって以下に詳記する所定の引き上げ速度、すなわち所定の塗布速度となるように被塗布ドラムが引き上げられる。
【0018】
次に、電荷発生層形成用塗布液の塗布条件を決定する方法について具体的に説明する。本発明においては、まず、塗布速度と膜厚との関係を予備的に求めておく。そのために上記の浸漬塗布装置により、所望の膜厚となる見込みの塗布速度を中心として、2以上の塗布速度によって電荷発生層を形成し、その膜厚を測定する。電荷発生層の膜厚は薄いので、光の反射率を測定し、それを膜厚の指標として用いる。膜厚の測定位置はいずれのドラムでもほぼ中央である。この様にして得られた測定値から、膜厚および塗布速度の1次関数として直線回帰し、膜厚と塗布速度との関係を示す検量線を作成する。次に、塗布開始端と塗布終了端における塗布速度を設定するために、まず、試験的に一定塗布速度で形成した電荷発生層について、その軸方向(長手方向)の膜厚分布を調査しておき、それを目安として、最終的に所望の電位分布が得られるように塗布速度を決定する。すなわちその膜厚分布から、上記検量線を利用して、塗布開始端と塗布終了端の塗布速度を決め、数学上の関数を求める。その際、電荷発生層の上に塗布される電荷輸送層の塗布条件等の影響により、下端の方が高感度の感光体が形成されるため、実際には、塗布開始端の塗布速度は高めに設定することが必要となる。次いで、作成された関数に従った塗布速度によって電荷発生層形成用塗布液の浸漬塗布を行う。浸漬塗布は、コンピュータ装置によって演算し、制御装置に指示を出すことにより、引き上げ速度を制御することによって行われる。
【0019】
次に、上記の方法を図2ないし図6の具体例に基いて詳細に説明する。まず、上記の浸漬塗布装置により、所望の膜厚となる見込みの塗布速度を中心として、異なる塗布速度(131、155、180mm/分)で3つの電荷発生層を形成したドラムを試験的に作製する。作製されたドラムほぼ中央部の電荷発生層の膜厚を測定し、その測定値から膜厚および塗布速度の1次関数として直線回帰し、膜厚と塗布速度との関係を示す検量線を作成する。但し、膜厚は塗布速度減に対して指数関数的に漸増する傾向にあるため、更正のための塗布速度決定にあたっては、所望の領域を内挿する2点間を直線回帰して、この線と膜厚、実際には電荷発生層の反射率との関係を求める。図2は、それによって作成した検量線であって、反射率(膜厚)と塗布速度との関係を示すグラフである。図2の縦軸は、塗布速度130mm/分で塗布した時の電荷発生層の反射率を基準(0)とした反射率差(%)を表す。なお、電荷発生層の膜厚は0.2μm程度と薄いので、光反射率によって膜厚の指標とする。すなわち、電荷発生層の反射率は、側方から顕微鏡の光軸に傾斜した光線束を照射し、反射してくる光量の割合で得られた値である(暗視野法)。したがって反射率の値が大きいほど、電荷発生層の膜厚は薄いことになる。
【0020】
次に、軸方向(長手方向)、すなわち塗布開始端(塗布上端)から塗布終了端(塗布下端)にかけての露光後の帯電電位の状態を調査して塗布速度を決定する。そのために、まず、ドラム上に電荷発生層形成用塗布液を一定速度(130mm/分)で引き上げて電荷発生層を形成する。この電荷発生層について、光反射率(周方向50点の平均値)を測定し、その光反射率を軸方向の距離に対応してプロットする。図5のAの曲線は、その結果得られたものを示す。この結果から、塗布上端から塗布下端に向けて膜厚が漸減していることが確認できる。すなわち、塗布上端(20mm)では反射率6.32%であり、塗布下端(320mm)では5.85%であり、上下兩端で0.47%の差が生じていることが確認できる。なお、この電荷発生層の上に電荷輸送層を形成して得られた感光体ドラムの露光後電位(700Vに帯電し、3.7mmJ/m2 で露光した時の電位(V))(VL)は、図3に示す通りとなっている。図3から、塗布開始端(20mm)から塗布終了端(320mm)に向けて、電位差約20Vが認められる。なお、帯電電位は、各位置での周方向90点の平均値をとったものである。
【0021】
上記の結果から、電位差を減少させるために、塗布開始端の塗布速度の調整を行う必要があることが分かる。そこで塗布速度に補正を加えて、上端で厚く、下端に向かって薄くなるような電荷発生層を形成する。そのため、図2の検量線を利用して塗布速度を定める。すなわち、ドラムの上下端での反射率差0.47%(約0.5%)は、図2の検量線から130mm/分の塗布速度に対して、約147mm/分であることが分かるので、塗布開始端の塗布速度を147mm/分、塗布終了端の塗布速度を130mm/分と一応設定する。しかしながら、実際には、電荷輸送層の浸漬時間が上端と下端で相違するために依然として下端の方が感度が高くなる。そこで塗布開始端の塗布速度を反射率差0.7%に相当する155mm/分に決定する。次に、これらの値、すなわち、塗布開始端(20mm)の塗布速度を155mm/分とし、塗布終了端(320mm)の塗布速度を130mm/分とし、対数関数を求める。なお、対数関数は、軸方向における塗布速度の分布に近似する値を示す。
【0022】
次いで、得られた対数関数による塗布速度に従って浸漬塗布を行い電荷発生層を形成して感光体を作製する。図4は、塗布開始端(20mm)の塗布速度155mm/分と塗布終端(320mm)の塗布速度を130mm/分の2点を対数曲線が通過するように関数を求めたものであって、塗布速度155mm/分から、130mm/分に対数近似できる塗布速度を求めた図である。なお、縦軸は塗布速度、横軸は軸方向の距離を示す。
【0023】
その場合の電荷発生層の反射率を測定した結果を図5のBの曲線で示す。また、得られた感光体について、露光後電位(700Vに帯電し、3.7mmJ/m2 で露光した時の電位(V))(VL)を図6に示す。図6から明らかなように、塗布上端と塗布下端とでは電位差は20Vから約7.5Vに低下していることが分かる。
【0024】
このようにして、作製された感光体ドラムは、潜像形成範囲での電位むらが小さくなるため、特に4色を異なる感光体ドラムで画像形成させるタンデム方式のフルカラープリンター用の感光体ドラム表面での画質、特に色味の差、色差が軽減される。
ここで言う色味は、CIEにより1976年に提示された、L*、a*、b*で定義される。L*は明度を示し、a*、b*は、或るL*の値で色空間を輪切りにしたときの平面上(2次元)での位置を表わす。この色空間上での距離を色差といい、ΔEで表わす。色差は2つの色の差を物理量として表わす場合に使用するもので、下記式で表される。
【0025】
【数1】
(式中、L* 1 は基準の色の明度、a* 1 ,b* 1 は基準の色の色空間上の値、L* 2 は比較対象の色の明度、a* 2 ,b* 2 は比較対象の色の色空間上の値である。)
ここで示されるΔEが3.0以下であることが、目視での色差が殆ど認められないことと対応している。
【0026】
本発明の感光体の製造方法は、電荷注入阻止の処理を行った基材あるいは注入阻止のための下引き層(注入阻止層)に電荷発生層、電荷輸送層を積層した積層型感光体が繰り返し安定性や環境変動等に対する性能面で優れているので、主として積層型感光体を例に取って詳述する。最上層に保護層を設けてもよい。
【0027】
本発明において用いる基体としては、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄等の導電性金属の他に、表面に金属を蒸着するか導電粉を分散した塗膜を形成する等により導電化処理されたプラスチックや紙等の筒状、ベルト状またはシート状のものを用いることができる。基体表面は、干渉縞防止のために、エッチング、陽極酸化、ウェットブラスティング法、サンドブラスティング法、粗切削、センタレス研削等の方法により粗面化処理を行うことができる。
【0028】
本発明において、基体表面には、画質欠陥の防止、帯電性の向上、密着性の向上等の目的で下引き層を形成するのが好ましい。下引き層の形成に用いられる結着剤およびその他の材料としては、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂等の高分子化合物、シランカップリング剤、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、マンガン等を含有する有機金属化合物等が主として用いられる。
【0029】
これらの化合物は単独または複数の化合物の混合物あるいはその縮重合物として用いることができる。中でも、加水分解縮重合性化合物は、高い成膜性を有し、電荷注入阻止層としての役割を果たし、また製造される電子写真感光体の残留電位が低く、環境による変化が少なく、さらに繰り返し使用による電位の変化が小さい等、性能上優れているので好ましい。
【0030】
加水分解縮重合性化合物としては、シランカップリング剤やジルコニウム、チタンおよびアルミニウムを含有する有機金属化合物等が挙げられる。具体的には、シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でも特に好ましく用いられるシラン化合物は、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等である。
【0031】
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムトリエタノールアミネート、アセチルアセトンジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、ブトキシジルコニウムメタクリレート、ブトキシジルコニウムステアレート、ブトキシジルコニウムイソステアレート等が挙げられる。
【0032】
有機チタン化合物としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、エトキシチタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。
【0033】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0034】
これらの加水分解縮重合性化合物は、硬化反応に際して適量の水を必要とし、加水分解反応により、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ成分が脱離して縮重合反応が進行する。すなわち、この硬化反応において、加水分解縮重合性化合物中のアルコール成分やカルボン酸成分等の加水分解性成分が脱離して縮重合反応が進行し、基体上に硬化膜が形成される。硬化反応の促進のためには、浸水処理後、加熱処理することが望ましいが、室温でもある程度硬化反応を進行させることができる。浸水処理に用いる水は、硬化の程度に応じて温度や伝導度を任意に調整することができる。さらに必要に応じて、pH調整剤等を添加することができる。浸水時間は塗膜が十分に水分を吸収し得る時間があれば十分である。
【0035】
下引き層中には、干渉縞の防止目的や電気特性の向上の目的等により、各種の有機または無機微粉末を混合することができる。特に、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、鉛白、リトポン等の白色顔料やアルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料としての無機顔料やテフロン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、スチレン樹脂粒子等の高分子物質が有効である。これら微粉末は、必要に応じて添加されるが、添加する場合には、下引き層の固形分に対して重量比で10〜80重量%の範囲が適当であり、好ましくは30〜70重量%である。添加微粉末の粒径は0.01〜2μmの範囲のものが用いられる。粒径が大きすぎると、下引き層の凹凸が激しくなり、電気的にも部分的な不均一性が大きくなるため、画質欠陥を生じやすくなる。また、粒径が小さすぎると、十分な光散乱効果が得られない。
【0036】
下引き層形成用塗布液の調製に際しては、添加微粉末は樹脂成分を溶解した溶液中に添加して分散処理が行われる。添加微粉末を樹脂中に分散させる手段としては、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、コロイドミル、ペイントシェーカー等を用いることができる。
下引き層は、膜厚を厚くすることにより、基体の凹凸の隠蔽性が高まるため、画質欠陥は低減する傾向にあるが、電気的な繰り返し安定性が悪くなるため、その膜厚は0.1〜5μmの範囲にあることが望ましい。
【0037】
上記の下引き層上に電荷発生層が形成される。電荷発生層は、電荷発生材料を結着樹脂および有機溶剤中に分散した電荷発生層形成用塗布液を用い、上記のようにして塗布することにより形成される。
【0038】
電荷発生材料としては、非晶質セレン、結晶性セレン、セレン−テルル合金、セレン−ヒ素合金、その他のセレン化合物およびセレン合金、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機系光導電材料、無金属フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、銅フタロシアニン、錫フタロシアニン、ガリウムフタロシアニン等の各種フタロシアニン顔料、スクアリリウム系、アントアントロン系、ペリレン系、アゾ系、アントラキノン系、ピレン系、ピリリウム塩、チアピリリウム塩等の各種有機顔料および染料が用いられる。また、これらの有機顔料は一般に数種の結晶型を有しており、特にフタロシアニン顔料は、α、β等をはじめとして各種の結晶型が知られているが、目的に応じた感度が得られる顔料ならば、如何なる結晶型のものを用いてもよい。
【0039】
電荷発生層には、電荷発生材料の凝集防止、分散性の向上、電気特性向上等の各種の目的で、シランカップリング剤または有機金属アルコキシドを含有させることができる。さらに、電荷発生材料は、シランカップリング剤、またはジルコニウム、チタンまたはアルミニウムを含有する有機金属化合物によって予め表面処理を行ったものであってもよい。また、これらシランカップリング剤および有機金属化合物は、塗布液中に添加してもよい。これらの加水分解縮重合性化合物を用いる場合、電荷発生層形成用塗布液を塗布した後、浸水処理を行うことにより、加水分解硬化反応を促進させることができる。
【0040】
電荷発生層を形成する結着樹脂としては、例えば、ビスフェノールAタイプ、ビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール等があげられる。これらの結着樹脂は、単独または2種以上混合して用いることが可能である。電荷発生材料と結着樹脂との配合比は、重量比で10:1〜1:10の範囲が望ましい。
電荷発生材料を結着樹脂中に分散させる手段としては、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、コロイドミル等を用いることができる。また、電荷発生層の厚みは、一般には0.01〜5μmの範囲が適当であり、好ましくは0.05〜2.0μmの範囲である。
【0041】
電荷輸送層は、電荷輸送材料、結着樹脂および溶剤からなる塗布液を調製した後、塗布液を電荷発生層上に塗布することにより形成される。電荷輸送材料としては、例えば、2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニルピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3,5−ビス(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリン等のピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、トリ(p−トリル)アミン、ジベンジルアニリン等の芳香族第3級アミノ化合物、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(m−トリル)ベンジジン等の芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−5,6−ビス(p−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジン等の1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド2,2−ジフェニルヒドラゾン等のヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリルキナゾリン等のキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ビス(p−メトキシフェニル)ベンゾフラン等のベンゾフラン誘導体、p−(β,β−ジフェニルビニル)−N,N−ジフェニルアニリン等のα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾ−ル等のカルバゾ−ル誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾ−ルおよびその誘導体等の正孔輸送物質、クロラニル、ブロモアニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン系化合物、キサントン系化合物、チオフェン系化合物等、および上記の化合物からなる基を主鎖または側鎖に有する重合体等が挙げられる。これらの電子輸送材料は、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
電荷輸送層を形成する結着樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ビスフェノールAタイプ、ビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、塩素化ゴム等の絶縁性樹脂およびゴム、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン等の有機光導電性ポリマー等が挙げられる。これらの結着樹脂は、単独または2種以上混合して用いることができる。電荷輸送材料と結着樹脂との配合比は、重量比で10:1〜1:5の範囲が好ましい。
【0043】
電荷輸送層を形成する際に使用される溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル等の環状または直鎖状のエーテル類等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独または2種以上の混合溶剤を用いることができる。電荷輸送層の膜厚は、一般には5〜50μmが適当であり、好ましくは10〜40μmの範囲である。
【0044】
本発明による電子写真感光体は、電子写真装置中で発生するオゾンや酸化性ガスあるいは光、熱による感光体の劣化を防止する目的で、感光層中に酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤等の添加剤を添加することができる。例えば、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、p−フェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクマロン、スピロインダノンおよびそれらの誘導体、有機硫黄化合物、有機燐化合物等が挙げられる。光安定剤の例としては、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、ジチオカルバメート、テトラメチルピペリジン等の誘導体が挙げられる。
【0045】
また、感度の向上、残留電位の低減、繰り返し使用時の疲労低減等を目的として、少なくとも1種の電子受容性物質を含有させることができる。電子受容性物質としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、o−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、クロラニル、ジニトロアントラキノン、トリニトロフルオレノン、ピクリン酸、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、フタル酸等を挙げることができる。これらのうち、フルオレノン系、キノン系や塩素原子、シアノ基、ニトロ基等の電子吸引基を置換したベンゼン誘導体が特に好ましい。
【0046】
これらの添加剤や物質を含有する塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法が採用される。塗布後の乾燥は、室温での指触乾燥の後に、温度30〜200℃で5分〜2時間にわたって加熱乾燥するのが望ましい。
【0047】
本発明においては、電荷輸送層の形成に際しては、感光体ドラム下端に電荷発生層に起因する欠陥が現われるのを軽減するために、電荷輸送層を形成するに際し、循環して溢流している塗布槽中の塗布液の循環を、導電性基体下端を浸漬させる直前に停止させ、浸漬途中ないし浸漬終了時点で再び塗布液の循環を再開するのが好ましい。以下、その理由を詳記する。
【0048】
従来の浸漬塗布方法においては、感光体ドラム下端に、目視観察で直径数十μmの黒い突起状点が欠陥として発生する場合がある。この欠陥を光学顕微鏡、元素分析により検査した結果、電荷発生材料よりなることが判明した。この欠陥は、実験室レベルでの試験塗布では確認できないが、現実の浸漬塗布においては、電荷輸送層形成用塗布液を塗布するに際して、感光体ドラム下端が電荷輸送層形成用塗布液に浸漬する時点で、電荷発生層の極表面が溶出し、電荷輸送層形成用塗布液中にブロック状(塊様)に溶出することと、その溶出物が感光体下端で電荷輸送層に再付着することに起因している。そして、このような現象を発生させる条件として、感光体ドラムが電荷輸送層形成用塗布液中に突入する速度が大きいことがあげられる。そこで、感光体ドラム下端が電荷輸送層形成用塗布液中に突入する速度(感光体ドラムと塗布液との相対速度差)を小さくすればよい。浸漬塗布槽では、電荷輸送層形成用塗布液が循環、溢流しており、例えば、浸漬塗布槽が直径110mmでその容量が、7リットル、循環塗布液が毎分1リットルとなっている場合、計算上下端から上端に向けて105mm/分の塗布液の流れがあると考えられる。そこで、感光体ドラムを電荷輸送層形成用塗布液に浸漬する際に、浸漬開始直前に、電荷輸送層形成用塗布液の循環、溢流を停止させることにより、相対速度差を減少させることが可能になる。その結果、作製される感光体ドラムの下端部には、上記の粒状の欠陥は認められず、したがって複写により画質欠陥が生じなくなる。
【0049】
次に、上記のようにして作製された電子写真感光体を用いた画像形成装置について説明する。図10は、その画像形成装置の概略の構成図である。図中、20は、上記の方法で作製された本発明の感光体ドラムであり、その周囲に順次帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段が設けられている。具体的には、コロナ帯電器21、露光手段22、現像器23、転写帯電器24が設けられており、さらにクリーナー25および除電器26が設けられている。
【0050】
【実施例】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、下記の実施例において「部」は重量部を意味する。
実施例1
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBM−S、積水化学社製)4部を溶解した酢酸n−ブチル170部、アセチルアセトンジルコニウムブトキシド30部およびγ−アミノプロピルトリメトキシシラン3部を混合攪拌し、下引き層形成用塗布液を得た。この塗布液を84mmφのアルミニウム基体上に塗布し、170℃で10分間加熱乾燥して膜厚1μmの下引き層を形成した。この下引き層を形成した基体を導電度0.54μS/cm、水温50℃の純水中に30秒間浸水し、5分間風乾した後、再び170℃で10分間の乾燥硬化処理を行った。
【0051】
次いで、電荷発生層形成用塗布液を調製した。すなわち、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(VMCH、ユニオンカーバイド社製)3部を予め100部に溶解した溶液に、CuKα特性X線に対するブラッグ角度(2θ±0.2°)の7.4°、16.6°、25.5°および28.3°に強い回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン結晶3部を加え、24時間サンドミルで分散し、酢酸n−ブチルで希釈し、固形分濃度4.0重量%の電荷発生層形成用塗布液を調製した。
【0052】
得られた塗布液を上記下引き層上に浸漬塗布し、ほぼ目的とする膜厚約0.2μmが得られる塗布速度約130mm/分、それより速い155mm/分および180mm/分の場合について、電荷発生層を形成し、膜厚の指標となる暗視野での反射率を測定し、塗布速度約130mm/分の反射率を基準とした反射率の差と塗布速度との関係を求めて図2の検量線を得た。図2において、縦軸は前記した、暗視野での反射率で膜厚を代用している。
上記下引き層上に、塗布速度130mm/分として、膜厚0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0053】
次に、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(m−トリル)ベンジジン4部と分子量4万のビスフェノ−ルZタイプポリカーボネート樹脂6部とをクロロベンゼン80部に添加し、溶解した。得られた塗布液を上記電荷発生層上に塗布し、加熱乾燥して膜厚24μmの電荷輸送層を形成した。以上のようにして三層構成の電子写真感光体を製造した。
【0054】
得られた電子写真感光体について、その潜像形成領域を帯電させ、均一露光した後、軸方向の平均電位を測定したところ、約20Vの電位差が認められた。図3にその結果を示す。この場合の反射率と軸方向の関係を図5のAの曲線で示す。
【0055】
次に、上記の電子写真感光体の上記の結果を基準にして、それを改良するために、電荷発生層形成用塗布液の塗布速度を下記のように調整して電荷発生層を形成した。まず、塗布上端と塗布下端の間に約0.5%の反射率の差が認められるので(図5のA)、さらに反射率の差を多めに見積もって0.7%に設定し、図2の検量線から、塗布下端の塗布速度130mm/分を基準にして、塗布上端の塗布速度を155mm/分に設定した。この両者の塗布速度値を対数回帰して図4のグラフを作成した。このグラフに基づく塗布速度に従って、上記電荷発生層塗布液の浸漬塗布を行い、電荷発生層を形成した。この電荷発生層の反射率と軸方向の距離との関係を図5のBで示す。これから分かるように、電荷発生層の膜厚は、塗布上端では厚く、塗布下端に近付くにしたがって薄くなっている。
【0056】
電荷輸送層形成用塗布液の塗布は次の様にして行った。すなわち、電荷発生層が形成された基体を、電荷輸送層形成用塗布液に浸漬する直前に、塗布槽から溢流し循環している塗布液の循環を停止した。次いで、循環を停止した状態で所定の位置(例えば、浸漬終了位置)まで基体を浸漬した後、循環を再開し、次いで基体を引き上げて塗布を完了した。
【0057】
得られた電子写真感光体の電気的性能を測定した。すなわち、全面を700Vに帯電して、全面に3.7mJ/m2 の露光を与えた場合の電位を、円周方向軸方向5mm毎で軸方向90の測定点で測定した。その結果を図6に示す。図6と図3との比較から分かるように、本発明の場合、最大値と最小値との電位差が7.5V程度と小さくなっていた。
【0058】
次にこの感光体を、中間転写ベルトを備えた4色タンデム方式のフルカラー現像システムベンチモデル機に入れて、複写を行った。ベンチモデル機では色差に係わるROS光量の均一性、ドラムと帯電器との間隔、ドラム回転軸の振れは最小限となるよう、調整されていた。肌色での色差を測定したところ、ほぼ2.3程度であることが確認された。また、感光体表面の欠陥の有無を確認したところ、感光体ドラム下端部には、電荷発生材料のブロック様の塊は確認できず、また、画像の画質上の欠陥は認められなかった。
【0059】
実施例2
実施例1と同様に下引き層を形成した後、電荷発生層塗布速度を塗りはじめ20mmの位置から、5mm毎に塗布速度を図7に示す条件に変更した以外、条件は全て同じものとした。図7に示す条件は、塗布開始端の塗布速度を180mm/分、塗布終了端を130mm/分とし、これらの値を対数回帰して得られたものである。図7に示す対数曲線に基づき、塗布速度を制御して浸漬塗布を行い、電荷発生層を形成した。形成された電荷発生層の反射率を図8に示す。図8から明らかなように、電荷発生層の膜厚は、塗布上端で厚く、塗布下端に近付くにしたがって薄くなっている。なお、図7に示す対数曲線に基づく実際の塗布速度は下記表1に示す通りである。
【0060】
【表1】
【0061】
塗布完了した感光体ドラムに、全面を700Vに帯電して、全面に3.7mJ/m2 の露光を与えた場合の円周方向軸方向5mm毎で軸方向90測定値を平均した電位を図9に示す。図9と図3との比較から分かるように、本発明の場合、最大値と最小値との電位差が、20Vから約4V程度に減少している。
【0062】
この感光体を、実施例1と同様にベンチモデル機に入れて、複写を行った。肌色での色差を測定したところ、ほぼ2.0程度であることが確認された。
また、感光体表面の欠陥の有無を確認したところ、感光体ドラム下端部には、電荷発生材料のブロック様の塊は確認できず、また、画像の画質上の欠陥は認められなかった。
【0063】
比較例
実施例1での電荷発生層塗布条件を130mm/分に固定して塗布した。塗布完了したドラムに、全面を700Vに帯電して、全面に3.7mJ/m2 の露光を与えた場合の円周方向軸方向5mm毎で軸方向90測定値を平均した電位を図3に示す。最大値と最小値との差は約20V程度となった。
この感光体を、実施例1と同様にベンチモデル機に入れて、複写を行った。肌色での色差を測定したところ、ほぼ3.2程度となることが確認された。
【0064】
【発明の効果】
本発明の電子写真感光体の製造方法によれば、電荷発生層に塗布開始端より塗布終了端に向かって膜厚が厚くなる様に勾配をつけることができるので、得られる本発明の電子写真感光体は、画像形成領域における明減衰後の長手方向の電位勾配が大幅に軽減され、露光後の電位むらが少なくなる。したがって、本発明の電子写真感光体を使用すると、色差が大きく改善された画像が得られるので、カラープリントの作製に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明において使用する浸漬塗布装置の概略の構成を示す図である。
【図2】 電荷発生層形成の際の塗布速度と反射率差との関係を示すグラフである。
【図3】 一定塗布速度で形成された電荷発生層を有する感光体ドラムの帯電電位(露光時)(VL)と軸方向の距離との関係を示すグラフである。
【図4】 塗布開始端(20mm)の塗布速度155mm/分と塗布終了端(320mm)の塗布速度を130mm/分との2点を通過する対数関数による、塗布速度と軸方向の距離との関係を示すグラフである。
【図5】 感光体ドラムの電荷発生層の反射率と軸方向の距離との関係を示すグラフであり、Aは一定塗布速度で浸漬塗布した場合(実測値)、Bは図4の補正した塗布速度にしたがって塗布した場合(実測値)を示す。
【図6】 図4の補正した塗布速度にしたがって作製された本発明の電子写真感光体の帯電電位(VL)と軸方向の距離との関係を示すグラフである。
【図7】 塗布開始端(20mm)の塗布速度180mm/分と塗布終了端(320mm)の塗布速度を130mm/分との2点を通過する対数関数による、塗布速度と軸方向の距離との関係を示すグラフである。
【図8】 図7の補正した塗布速度にしたがって形成された電荷発生層の光反射率と軸方向の距離との関係を示すグラフである。
【図9】 図7の補正した塗布速度にしたがって作製された本発明の電子写真感光体の帯電電位(VL)と軸方向の距離との関係を示すグラフである。
【図10】 本発明の方法によって作製された電子写真感光体を用いた画像形成装置の概略構成図である。
【符号の説明】
1…ドラムチャック、2…被塗布ドラム、3…浸漬塗布槽、4…移動軸、5…塗布液貯槽、6…駆動ギア、7…モーター、8…モーター制御装置、9…コンピュータ装置、10…ポンプ、11…フィルター、20…感光体ドラム、21…コロナ帯電器、22…露光手段、23…現像器、24…転写帯電器、25…クリーナー、26…除電器。
Claims (4)
- 導電性基体上に浸漬塗布によって電荷発生層を形成し、その上に浸漬塗布によって電荷輸送層を形成する積層型電子写真感光体の製造方法において、電荷発生層の浸漬塗布による形成に際して、実際の電荷発生層形成用塗布液の塗布速度が内挿値となるように、予め2条件以上の塗布速度から、塗布速度と電荷発生層の膜厚との関係を求めておき、この関係を利用して、潜像形成領域の塗布開始端の膜厚が塗布終了端の膜厚よりも厚くなるように塗布開始端から塗布終了端までの各位置の塗布速度を数学上の関数として設定し、その関数に従った塗布速度になるように塗布速度を制御して電荷発生層形成用塗布液を塗布することを特徴とする、電荷発生層の潜像形成領域における膜厚が塗布開始端側から塗布終端側にかけて漸次薄くなっている電子写真感光体の製造方法。
- 実際の電荷発生層形成用塗布液の塗布速度が内挿値となるように、予め2条件以上の塗布速度から、塗布速度と電荷発生層の膜厚との関係を求めておき、塗布開始端から塗布終了端まで一定速度で塗布した場合の潜像形成領域の塗布開始端から塗布終了端までの膜厚分布と露光後電位の分布を基準として、露光後電位が所望の分布になるように上記の関係を利用して塗布開始端および塗布終了端の塗布速度を設定し、塗布開始端から塗布終了端の塗布速度までの各位置における塗布速度を数学上の関数により決定し、その関数に従った塗布速度になるように塗布速度を制御して電荷発生層形成用塗布液を塗布することを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体の製造方法。
- 数学上の関数を、少なくとも、対数関数、2次以上の高次の関数、指数関数または双曲線関数により設定する請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
- 電荷輸送層を形成するに際し、循環して溢流している塗布槽中の塗布液の循環を、導電性基体下端を浸漬させる直前に停止させ、浸漬途中ないし浸漬終了時点で再び塗布液の循環を再開することを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体の製造方法。
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