JP3701539B2 - モノフィラメント及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は自然環境の中で分解しかつ熱安定性、成形加工性に優れ、かつ機械的強度、特に結節強力及び縦割れ抵抗度が高く、テニスラケット用ストリングを始めとした製品に適したモノフィラメントに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自然環境保護の見地から、自然環境中で分解する生分解性ポリマー及びその加工品が求められ、脂肪族ポリエステルなどの自然分解性樹脂の研究が活発に行われている。特に、その一例としてポリ乳酸は、燃焼熱量はポリエチレンの半分以下、土中や水中で自然に加水分解が進行し、次いで微生物により無害な分解物となる。現在、ポリ乳酸を用いて成型物、具体的にはフィルム・シート・繊維などを得る研究が成されている。又、ポリ乳酸は延伸加工する事でその強度を向上させる事が可能であるが、硬くて脆い材料ゆえ、しなやかさに劣り使い勝手が悪いだけでなく、縦割れ抵抗度や結節強力が低く実用的でない。
【0003】
一方、柔軟性を持つ自然分解性の樹脂の一例として、脂肪族多官能カルボン酸と脂肪族多官能アルコールの縮重合体からなる脂肪族ポリエステルがあげられる。
例えば、特許公報第2851478号では、生分解性のモノフィラメントとして、グリコール類と多塩基酸(又はその酸無水物)との2成分、あるいは必要に応じて、これに第三成分として、3官能又は4官能の多価アルコール、オキシカルボン酸及び多価カルボン酸(又はその酸無水物)から選ばれる少なくとも一種の多官能成分を加えて反応して得られたポリエステルを主成分とする分子の末端にヒドロキシル基を有する、比較的高分子量のポリエステルプレポリマーを、カップリング剤により、更に高分子量化した脂肪族ポリエステルを使用することで、熱安定性及び機械的性質に優れたモノフィラメントが得られるとしている。
【0004】
又、特開平10−110332号公報では、融点が70℃以上であるポリアルキレンジカルボキシレート類の少なくとも一成分を第一成分とし、ポリ乳酸、ポリ乳酸の共重合ポリマー及びポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)類から選ばれた少なくとも一種を第2成分とするブレンドポリマーを、第一成分/第二成分の重量比が95/5〜40/60の範囲で溶融紡糸する事で釣り糸として好適なモノフィラメントが得られるとしている。
【0005】
しかしながら、これらの方法で得られる脂肪族ポリエステルは、一般的に柔軟であり、引張強度も低く、伸びが大きい為、例えばラケット用ストリングや釣り糸等のモノフィラメントとして使用するには実用上問題がある。また、比較的低融点である材料を多く含むため、摩擦熱による融解や擦れによる毛羽立ちの問題が生じる可能性が高く実用的でない。
【0006】
ラケット用ストリングとは、テニス、ソフトテニス、バドミントン、スカッシュ、ラケットボールのラケットに使用するストリングを意味する。
従来ラケット用ストリングのことを、ガットと呼んでおり、この語源のごとく牛や羊の腸から作られ、現在なお打球性などからプロのプレーヤーを中心とした一部のプレーヤーの間で使用されている。また、特にソフトテニスにおいては、鯨筋が硬式テニスの場合のガットに替わって使用され、ガットとほぼ同様の位置を占めている。
これらは、打球性の他に打球音、クリープ特性などの長所もあるが、耐水性に劣るとか、高価であるなどの短所も有している。
したがって、今では世界中で合成繊維製、特にポリアミド系の合成繊維からなるものが主流となっている。天然ガットの短所である低耐水性や高価格の問題点が解消される他に、繰り返し使用時の耐久性も優れている為である。
【0007】
ところでラケット用ストリングにとって必要な重要特性としては、打球性、耐久性、張設性の3つが挙げられる。このうち、1つの特性が欠けても実用性が無くなる。
打球性は、主にボールを打った時の反撥性であるが、その他ホールド感、振動に伴うソフト感などの感触や打球音なども含める。耐久性は、繰り返し使用による磨耗とストリング面の圧力の保持力の2つがある。張設性は、ストリングをラケットに張設する時の容易さである。
【0008】
芳香族ポリエステル素材を含め、本発明に関係する脂肪族ポリエステルを、ラケット用ストリングに適用した場合、打球性はその強伸度曲線から推測されるように良好であることが良く知られていた。しかしながら、耐久性のうち、面圧の保持力、ならびにストリングをラケットに張設する際、ストリングをクランプ等で把時するときフィラメントが縦割れする2つの問題点を有している。即ち、重要特性のうち、2つもの問題点を有していた事になる。
【0009】
この2つの問題点が解消されれば、ラケット用ストリング素材として生分解性の特性とあいまって優れた素材となり得ると考え、鋭意検討を行い本発明に至ったものである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ラケット用ストリングにも使用出来る実用上十分な機械的強度を持ち合わせ、かつ加工性に優れたモノフィラメントを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討の結果、主としてポリ乳酸系重合体とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを所定の比率で混合してなる材料を押出成形し、延伸加工することで上記目的が達成されることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、ポリ乳酸系重合体(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)とを(A)/(B)の重量混合比95/5〜61/39で混合してなる材料を押出成形し、延伸加工することにより形成されたモノフィラメントであって、
ポリ乳酸系重合体(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)とがそれぞれ単独及び/又は相互に架橋構造を有することを特徴とするモノフィラメントである。
【0013】
更に、本発明は、上記モノフィラメントにおいて、少なくとも2種類のポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを含むモノフィラメントであり、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルが、主として脂肪族カルボン酸成分と脂肪族アルコール成分及び/又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分からなるモノフィラメントであり、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルとして、ポリカプロラクトンを含むモノフィラメントであり、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルの融点は、ポリ乳酸系重合体の融点よりも低いモノフィラメントであり、ポリ乳酸系重合体が配向され、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルは無配向であるモノフィラメントであり、これらのモノフィラメントの表面が更に脂肪族ポリエステル、ポリウレタン等の高分子材料で被覆されたモノフィラメントである。
【0014】
更に、本発明は、ポリ乳酸系重合体(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)とを(A)/(B)の重量混合比95/5〜61/39で混合してなる材料を押出成形し、延伸加工することにより形成されたモノフィラメントであって、
ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)として、ポリカプロラクトンを含むことを特徴とするモノフィラメントである。
更に、本発明は、上記モノフィラメントにおいて、少なくとも2種類のポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを含むモノフィラメントであり、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルの融点は、ポリ乳酸系重合体の融点よりも低いモノフィラメントであり、ポリ乳酸系重合体が配向され、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルは無配向であるモノフィラメントであり、これらのモノフィラメントの表面が更に脂肪族ポリエステル、ポリウレタン等の高分子材料で被覆されたモノフィラメントである。
【0015】
また、本発明は、ポリ乳酸系重合体(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)とを(A)/(B)の重量混合比95/5〜61/39で混合し、ポリ乳酸系重合体(A)及びポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)それぞれ単独及び/又は相互に架橋構造を導入してなる材料を押出成形し、延伸加工することを特徴とするモノフィラメントの製造方法である。
更に、本発明は、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)の融点以上で延伸加工する、上記のモノフィラメントの製造方法である。
【0016】
また、本発明は、これらモノフィラメントからなるラケット用ストリング、縫合糸、釣糸、又は楽器弦であり、更にこれらモノフィラメントを構成部材の一部として用いたラケット用ストリング、縫合糸、釣糸、又は楽器弦である。ラケット用ストリングには、テニス、ソフトテニス、バドミントン、スカッシュ、ラケットボール等のラケットに使用するストリングが含まれる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明で使用するポリ乳酸、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル等について、順を追って説明する。
本発明において、ポリ乳酸とは、実質的にL−乳酸及び/又はD−乳酸由来のモノマー単位のみで構成されるポリマーである。ここで「実質的に」とは、本発明の効果を損なわない範囲で、L−乳酸又はD−乳酸に由来しない、他のモノマー単位を含んでいても良いと言う意味である。
ポリ乳酸の製造方法としては、既知の任意の重合方法を採用することができる。最も代表的に知られているのは、乳酸の無水環状ニ量体であるラクチドを開環重合する方法(ラクチド法)であるが、乳酸を直接縮合重合しても構わない。
【0018】
ポリ乳酸が、L−乳酸及び/又はD−乳酸に由来するモノマー単位からだけなる場合には、重合体は結晶性で高融点を有する。さらには、L−乳酸、D−乳酸由来のモノマー単位の比率(L/D比と略称する)を変化させることにより、結晶性・融点を自在に調節する事ができるので、用途に応じ、実用特性を制御することが可能である。
又、ポリ乳酸の性質を損なわない程度に、他のヒドロキシカルボン酸などを共重合しても構わない。
【0019】
更に分子量増大や溶融粘度の向上を目的として、少量の鎖延長剤や架橋剤、例えばジイソシアネート化合物、エボキシ化合物、酸無水物、過酸化物等を使用できる。重合体の重量平均分子量としては、50,000〜1,000,000の範囲が好ましい。かかる範囲を下回ると機械物性等が十分発現されず、上回る場合は加工性に劣る。
【0020】
本発明において、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(以下、単に「脂肪族ポリエステル」という)とは、例えば脂肪族カルボン酸成分と脂肪族アルコール成分からなるポリマー及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分からなるポリマーである。
脂肪族ポリエステルの製造方法としては、これらを直接重合して高分子量物を得る方法と、オリゴマー程度に重合した後、鎖延長剤等で高分子量物を得る間接的な方法がある。
【0021】
本発明に使用される脂肪族ポリエステルは、例えばジカルボン酸とジオールからなる脂肪族ポリエステルである。脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸などの化合物、又はこれらの無水物や誘導体が挙げられる。
一方、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのグリコール系化合物、及びこれらの誘導体が一般的である。いずれも炭素数2〜10のアルキレン基、シクロ環基又はシクロアルキレン基をもつ化合物で、縮重合により製造される。カルボン酸成分或いはアルコール成分のいずれにおいても、2種以上用いても構わない。
【0022】
又、溶融粘度の向上の為ポリマー中に分岐を設ける目的で3官能以上の多価カルボン酸、多価アルコール或いはヒドロキシカルボン酸を用いても構わない。これらの成分は、多量に用いると得られるポリマーが架橋構造を持ち、熱可塑性でなくなったり、熱可塑性であっても部分的に高度に架橋構造をもったミクロゲルを生じる場合がある。従って、これら3官能以上の成分は、ポリマー中に含まれる割合はごくわずかで、ポリマーの化学的性質、物理的性質を大きく左右するものではない程度に含まれる。多官能成分としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸或いはペンタエリスリットやトリメチロールプロパンなどを用いることができる。
【0023】
製造方法のうち、直接重合法は、上記の化合物を選択して化合物中に含まれる、あるいは重合中に発生する水分を除去しながら高分子量物を得る方法である。又、間接重合法としては、上記化合物を選択してオリゴマー程度に重合した後、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を使用して高分子量化する方法、カーボネート化合物を用いて脂肪族ポリエステルカーボネートを得る方法がある。
【0024】
本発明に使用される他の脂肪族ポリエステルとしては、例えば脂肪族ヒドロキシカルボン酸の重縮合体からなる脂肪族ポリエステルである。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、β−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシ吉草酸等があげられ、これらを重縮合する事により高分子量物が得られる。又、これらはエステル、環状エステル等の誘導体でも使用でき、環状エステルの開環重合によっても高分子量体が得られる。
【0025】
又、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを2種類以上含む事により、結節強力と縦割れ抵抗度に優れた特性をもつ。特にポリカプロラクトンを含む場合、結節強力がより向上する。
【0026】
ポリ乳酸とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルの重量混合比は、95/5〜61/39である。ポリ乳酸が95重量%を超えると結節強力の向上ができず、一方61重量%未満では必要な強力が得られないばかりか伸度が大きい為、例えばストリングとした場合張設が困難である等の不具合を生じる。
【0027】
さらにポリ乳酸とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルとがそれぞれ単独及び/又は相互に架橋構造を有する事で耐熱特性が向上し、ガットを張設したラケットが例え真夏に車中に放置された場合てあっても切断する事はない。又、張設後のガットの面圧低下がより抑制できる事も重要なポイントである。これらポリ乳酸とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルに架橋構造を導入する為の方法としては、例えば3官能以上のイソシアネート化合物、エボキシ化合物、酸無水物の添加による方法や、過酸化物等のラジカル発生剤による方法、強力な紫外線を照射する方法など従来公知な方法が使用可能である。
【0028】
次に、本発明のモノフィラメントの製造方法を説明する。
まず、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルの混合方法や混合装置は、特に限定されないが、連続的に処理できるものが工業的には有利で好ましい。
例えば、2種類以上のペレット及び各種添加剤を所定比率で混合し、そのまま押出成形機のホッパー内に投入し、溶融させ、直ちにモノフィラメントに成形しても良い。また、それら成分を溶融混合した後、一旦ペレット化し、その後で必要に応じてモノフィラメントに溶融成形してもよい。
同じく、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルのポリマー等をそれぞれ別に押出機などで溶融し、これらを所定比率で静止混合機及び/又は機械的攪拌装置で混合し、直ちにモノフィラメントに成形しても良く、一旦ペレット化しても良い。押出機などの機械的攪拌による混合と、静止混合機とを組み合わせても良い。
【0029】
均一に混合させるには、一旦ペレット化する方法がより好ましいが、溶融混合法の場合は、ポリマーの劣化、変質、エステル交換反応による共重合体化反応を実質的に防ぐことが必要で、出来るだけ低温で短時間内に混合する事が好ましい。
溶融押出温度としては、使用する樹脂の融点及び混合比率を考慮して、適宜選択するが、通常100〜250℃の範囲である。
【0030】
又、本発明のモノフィラメントは通常丸断面形状が一般的であるが、芯部が空洞になった中空形状、ダイヤ型や星形形状等の異形状をしていても構わない。前記モノフィラメントの直径は、特に限定されることなく、目的とする用途に応じて適宜決定すればよい。例えば、ラケット用ストリングとして用いる場合には、0.6mm〜1.60mm程度とすればよい。
【0031】
本発明に係わるモノフィラメントを成形するため、上記ポリ乳酸重合体とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを使用する場合、必要に応じて改質剤、炭酸カルシウム等の充填剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、顔料、着色剤、各種フィラー、静電気防止剤、離型剤、可塑剤、香料、抗菌剤等の各種添加剤の他に、エステル交換触媒、各種モノマー、カップリング剤、末端処理剤、その他の樹脂、木粉、でんぷん等を加えて変成することができる。又、生分解性にこだわらなければ、他の汎用ポリマー等を加えても構わない。
【0032】
押出成形後の延伸処理が、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルの融点以上で行なわれることも本発明において重要な点である。
即ち、延伸処理温度がポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルの融点以下である場合、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル成分も延伸配向してしまう為、十分な結節強力及び縦割れ抵抗度が得られない。
尚、延伸は、速度の異なるローラー間に湿式延伸槽、遠赤外線ヒーター、電気ヒーター等を熱源とする乾熱延伸槽を配置し、あるいは供給側の熱ロールによる伝熱などにより、未延伸のモノフィラメントを加熱し、ローラー間の速度比を所定にすることにより行なわれ、ローラー間の速度比すなわち延伸倍率は、本発明では概ね4〜10倍程度であるが、延伸配向による縦割れと強力のバランスを考えると、3〜9倍がより好ましい。
【0033】
本発明では、ポリ乳酸系重合体を配向させる事で強伸度に優れた特性を得ると同時に、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを配向させない事で結節強力及び縦割れ抵抗度の両立を図ることが可能となる。
又、本発明のモノフィラメントの引張強伸度曲線は、羊腸や鯨筋といった天然ガットに近く、天然ガットに似た打球感が得られる事も特徴の一つである。
【0034】
さらに、上述のモノフィラメントの表面をさらに高分子材料で被覆する事により、ガット表面に光沢感が生まれ見栄えが良くなるだけでなく、ガットとしての耐久性が向上できる。被覆する高分子材料としては、特に生分解性を考慮した場合、脂肪族ポリエステルが好ましいが、生分解性にこだわらなければガットの耐久性等の点からポリウレタン等の各種エラストマーで被覆する事が好ましい。又、これらの樹脂の混合物を被覆しても構わない。
【0035】
【実施例】
以下、本発明について実施例、比較例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものでない。
なお、以下の実施例において、重合体の重量平均分子量(Mw)は、GPC分析によるポリスチレン換算値、ガラス転移温度及び融点は走査型示差熱量計(DSC)により、昇温速度10℃/minで測定した値である。
また本発明における縦割れ抵抗度とは、モノフィラメントの一端のほぼ中央部に刃物でノッチを付けて引き裂き、この時の抵抗度を引張試験機で求め、グラム表示して求めた。なお、テストを行うモノフィラメントの直径はほぼ1.3mmのものを使用して求めた。別に、実際のストリング張設機で、実際にラケットに張設して、この時に発生する縦割れとの関係を調査した結果、上記の抵抗度が25g以上あれば、ストリングの実用上縦割れに関する問題が発生しないことを確認している。
【0036】
本実施例では、以下に示す5種類の原料を使用し実験を行った。
<ポリ乳酸系重合体(A1)>
ポリL−乳酸
島津製作所製ラクティ#5000
Mw=200,000、ガラス転移温度60℃、融点175℃
<ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B1)>
ポリブチレンサクシネート
昭和高分子製ビオノーレ#1001
Mw=173,000、ガラス転移温度−30℃、融点115℃
<ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B2)>
ポリブチレンサクシネートアジペート
昭和高分子製ビオノーレ#3001
Mw=179,000、ガラス転移温度−45℃、融点90℃
<ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B3)>
ポリカプロラクトン
ダイセル化学製セルグリーンPH7
Mw=220,000、ガラス転移温度−60℃、融点60℃
<表面被覆用樹脂(U1)>
ポリウレタンエラストマー
日本ミラクトラン製ミラクトラン E598
【0037】
(実施例1)−参考例
ポリ乳酸系重合体(A1)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルとして(B2)とを各々真空乾燥により絶乾状態にした後、重量混合比(A1)/(B2)=90/10でV型ブレンダーで混合し、これを210℃に設定された30mm同方向2軸押出混練機に連続的に供給して溶融押出し、ストランド化、ペレタイズ化して主原料を準備した。
【0038】
この主原料を真空乾燥により絶乾状態にした後、潤滑剤を400cc添加しV型ブレンダーで混合し、温度210℃に設定した単軸溶融押出機に供給し、直径3mmの円形ノズルから押出して第1ローラーで引取りながら、ノズル直下で50℃に設定された冷却水槽に導いて冷却し未延伸モノフィラメントを得た。
【0039】
これに連続して、100℃に温度設定された第1延伸槽に導いて、さらに第2ローラーにて引取速度比を5.0倍として延伸した。
続いて、このモノフィラメントを100℃に温度設定された第2延伸槽に導いて、さらに第3ローラーにて引取速度比1.7倍として延伸し(最終延伸倍率8.5倍)し、巻取機により巻き取った。得られたモノフィラメントの直径は、1.30〜1.40mmの直径であった。
評価結果は表1に示す。
【0040】
(実施例2〜4)
実施例3は参考例である。
実施例1と全く同様の操作で、ポリ乳酸とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを表1に示す条件にて混合調合し、得られたペレットを延伸加工し、モノフィラメントを製造した。評価結果は、表1に示す。
【0041】
(実施例5〜6)−参考例
実施例1と同様の操作で得られたモノフィラメント表面に、熱溶融押出成形機で表1に示された高分子材料を30ミクロン(μm)の厚さにコーティングした。評価結果を表1に示す。
【0042】
(実施例7〜8)
実施例1と同様の操作であるが、ポリ乳酸系重合体(A1)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B2)又は(B1)の混合時に、(A1)+(B2)又は(A1)+(B1)の100重量部に対して、架橋剤としてエポキシ化合物:カルボン酸グリシジルエステル0.5重量部を配合し、ポリマー分子に架橋構造を導入した。得られたペレットを延伸加工し、モノフィラメントを製造した。評価結果を表1に示す。
【0043】
(比較例1〜4)
実施例1と全く同様の操作で、ポリ乳酸又は、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを表1に示す条件にて延伸加工し、モノフィラメントを製造した。評価結果は、表1に示す。
【0044】
又、実施例4及び比較例1〜4においては、実際にラケットに張設し打球性、張設性、実施例1、7、8については耐熱性も評価した。
【表1】
【0045】
上記実施例で明らかなように、本発明によるモノフィラメントはいずれも、引張強力、結節強力及び縦割れ抵抗度がバランス良く得られ、特にラケット用ストリングに適した特性を持つ事がわかる。
【0046】
又、実施例4において得られたモノフィラメント(直径1.36mm、切断伸度は、18.2%)にシリコンオイルをごく少量塗布して、10mの長さにカットして、ソフトテニス用ストリングに仕上げた。
これを、電動式のストリング張設機を使用して、ソフトテニスラケットに40ポンドの張力で張設した。ストリングをクランプで締め付けても、縦割れする事無く張設できた。
上級レベルのプレーヤーに、このラケットを用いて試打してもらった所、ソフトテニス用ストリングとして、最上級位に位置づけされている鯨筋に比べ、勝るとの評価結果を得た。
これは、本実施例のモノフィラメントの強伸度曲線が、ポリアミドからなるものの形状のようなS字型ではなく、鯨筋のような直線であり、しかもこの勾配が緩やかで、打球時の撓み量が大きいためと推測される。
【0047】
ストリングのもう一つの重要な特性である、張力の経時による保持率(リラクゼーション)を求めると、比較例1のものに比べると、大幅に向上している事が判明した。即ち、張設したラケットを、40℃の雰囲気下30分処理し、更に50℃雰囲気下30分処理してから、面圧を測定した。処理による面圧低下率は、処理前に比べ21.1%であり、保持率としては78.9%であった。これは、ポリアミドとポリエステルからなる代表的なソフトテニス用ストリングの80.0%と比べ遜色のないレベルである。
【0048】
又、比較例1のモノフィラメントを、実施例4と同じ条件で張設すると、クランプで把持した部分やねじれ部が縦割れしてフィブリ化したような状況になり、実用に耐えるレベルとは認められなかった。
また張力の経時による保持率は、実施例4と同じ方法で求めたところ、69.7%で、ポリアミドからなるものと比べて低く、この面からも実用に耐えるレベルではなかった。
【0049】
比較例2及び3からなるストリングを、ソフトテニスラケットに張設しところ、伸度が約40%と大きいためと特に低荷重領域で伸びやすく、1回の引っ張りでは張設できず、2回の引っ張りをしなければ張設できなかった。また、張設時にクランプを把持した所で一部のストランドに縦割れ現象が認められた。
【0050】
又、ヨコ糸を張設する際、タテ糸との摩擦で磨耗し、ストリングとして実用に耐えられないレベルであった。比較例4からなるストリングも同様の挙動を示し、実用には耐えられないレベルであった。
【0051】
実施例5及び6は、さらに表面平滑処理して得られたストリングを、60ポンドの張力でテニスラケットに張設し、実際のテニスボールを衝突させ(ボール速度100km/hr.)、ストリングが切断するまでの回数を測定して求める耐久性試験機で耐久性を測定した。
3回測定の平均値で、それぞれ1070回と1150回と、比較例1の712回と実施例1の940回に比べ向上する事が判明した。
【0052】
実施例7及び8は、さらに表面処理して仕上げたストリングを、40ポンドの張力でソフトテニスラケットに張設した。これらのラケットを70℃の雰囲気下24時間放置し、更に90℃の雰囲気下24時間放置して、ストリングの状態を観察した所、何ら変化は見られず問題点は認められなかった。これに対し、実施例1からなるストリングを同様に張設したラケットを70℃の雰囲気下24時間放置した所、3本中1本は切断していた。この事から、架橋剤による耐熱性の向上効果が認められた。
【0053】
(実施例9)−参考例
実施例1の原料を用い、ノズル中心部に気体を注入する方法で、直径が0.31mm、中空部直径が0.16mmの中空モノフィラメントを得た。このモノフィラメントを芯糸として、この周辺にナイロン6からなる1890デニールのマルチフィラメント3本と840デニールのマルチフィラメント2本を紫外線硬化樹脂を含浸させながら巻き付け、紫外線を照射して硬化させ、直径1.21mmの紐状体を得た。
【0054】
この表面に、熱溶融押出成形機で、ナイロン6樹脂を50ミクロンの厚さにコーティングした。更に、芯糸の中空部に、常温で液体のオイルを注入し両端をピンで塞いだ。この後に表面処理して得られたストリングは、直径1.310mm、強力78.7kg、結節強力39.5kg、伸度19.8%であった。
【0055】
これを電動式のストリング張設機を使用して、硬式テニスラケットに60ポンドの張力でで張設した。なんら不具合は発生する事はなかった。又、実施例1と同じ方法で耐久性を求めたところ1405回、面圧低下率も18.5%と良好であった。
上級レベルのプレイヤーに、このラケットを用いて試打してもらった所、最近ソフトな打球感で好評な全体がマルチフィラメントからなるストリングに比べ、更にソフトな打球感が得られ、肘への負担が少なく、優れたストリングであることが判明した。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、ラケット用ストリングにも使用出来る実用上十分な機械的強度を持ち合わせ、かつ加工性に優れたモノフィラメントを提供できる。
Claims (19)
- ポリ乳酸系重合体(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)とを(A)/(B)の重量混合比95/5〜61/39で混合してなる材料を押出成形し、延伸加工することにより形成されたモノフィラメントであって、
ポリ乳酸系重合体(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)とがそれぞれ単独及び/又は相互に架橋構造を有することを特徴とするモノフィラメント。 - ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)を少なくとも2種類含む、請求項1に記載のモノフィラメント。
- ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)が、脂肪族カルボン酸成分と脂肪族アルコール成分及び/又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分からなる、請求項1又は2に記載のモノフィラメント。
- ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)として、ポリカプロラクトンを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のモノフィラメント。
- ポリ乳酸系重合体(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)とを(A)/(B)の重量混合比95/5〜61/39で混合してなる材料を押出成形し、延伸加工することにより形成されたモノフィラメントであって、
ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)として、ポリカプロラクトンを含むことを特徴とするモノフィラメント。 - ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)を少なくとも2種類含む、請求項5に記載のモノフィラメント。
- ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)の融点は、ポリ乳酸系重合体(A)の融点よりも低い、請求項1〜6のいずれか1項に記載のモノフィラメント。
- モノフィラメントの表面がさらに高分子材料(C)で被覆されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載のモノフィラメント。
- 高分子材料(C)が、ポリ乳酸及び/又はポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル及び/又はポリウレタンである、請求項8に記載のモノフィラメント。
- ポリ乳酸系重合体(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)とを(A)/(B)の重量混合比95/5〜61/39で混合し、ポリ乳酸系重合体(A)及びポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)それぞれ単独及び/又は相互に架橋構造を導入してなる材料を押出成形し、延伸加工することを特徴とするモノフィラメントの製造方法。
- ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)の融点以上で延伸加工する、請求項10に記載のモノフィラメントの製造方法。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載のモノフィラメントからなるラケット用ストリング。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載のモノフィラメントからなる縫合糸。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載のモノフィラメントからなる釣り糸。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載のモノフィラメントからなる楽器弦。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載のモノフィラメントが構成部材の一部として用いられたラケット用ストリング。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載のモノフィラメントが構成部材の一部として用いられた縫合糸。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載のモノフィラメントが構成部材の一部として用いられた釣り糸。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載のモノフィラメントが構成部材の一部として用いられた楽器弦。
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