JP3692265B2 - 化学発光試薬の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学発光試薬の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、ペルオキシダーゼ酵素量に依存して過酸化物等の水素受容体により化学発光し、ペルオキシダーゼ酵素活性を利用して種々の物質を高感度に測定することができ、かつ、変異原性を有する不純物を含有しない、安全性の高い改良された化学発光試薬の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
化学発光試薬として、古くから用いられているルシゲニン(N,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジナイトレート)は、アルカリ性水溶液中で微光を呈し、過酸化水素を加えると強く発光することが知られており、種々の微量分析に利用されている。しかしながら、ルシゲニンは過酸化水素とアルカリの存在で定量的に発光するので、過酸化水素の定量には利用することができるが、この反応による発光を制御して発光量で酵素活性を測定する化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)等には利用し難いという問題点がある。この問題点を解決する手段として、標識酵素にグルコースオキシダーゼを用いて、グルコースの酸化反応により生成する過酸化水素をアルカリ存在下にルシゲニンに作用させることにより、測定対象物質の濃度に依存した化学発光を行なう方法等が行なわれている。しかしながら、グルコースオキシダーゼを標識酵素とするCLEIAは、試薬の調製及び発光系の操作が煩雑である。また、安定性にも優れ、取り扱いが比較的に容易なペルオキシダーゼを標識酵素とするCLEIAに利用できる化学発光試薬としてルミノールが用いられているが、発光促進剤を併用しても感度の点で必ずしも充分とは云えない。そこで、本発明者等は試薬の調製及び発光系の操作が容易で、かつ高感度測定が可能な、ペルオキシダーゼを標識酵素とするCLEIAに利用できる化学発光試薬としてルシゲニン電荷移動錯体を主成分とする新規化学発光試薬を開発した。しかし、該化学発光試薬は製造時に変異原性を有する不純物を副生する場合があり、変異原性を有する不純物を副生しない化学発光試薬の製造方法の開発が望まれていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、過酸化水素等の過酸化物を基質とするペルオキシダーゼのモル数に依存して化学発光し、ペルオキシダーゼ酵素活性を利用して種々の物質をより高感度に測定することができ、変異原性を有する不純物を含有しない、安全性の高い改良された化学発光試薬の製造方法の開発を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を行なった結果、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスジアクリジニウム塩類を N,N−ジ置換カルボンアミド化合物の存在下に光照射してN,N'−ジ置換−9,9'−ビスジアクリジニウム塩類の電荷移動錯体を生成させた後に、該反応混合物をクロマトグラフィーに付して精製することにより、変異原性を有する不純物を容易に除去することができることを見い出し、本発明に到達したものである。
従って、本発明は、下記一般式(1)
【0005】
【化5】
(上記一般式(1)において、R1 及びR2 は、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよく、R3、R4、R5 及びR6 は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよく、Xはn価の陰イオンであり、nは1又は2である。)で表わされるN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類を、下記一般式(2)
【0006】
【化6】
(上記一般式(2)において、R1 は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基及び炭素数6〜20のアリール基からなる群より選択され、アリール基は、アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基及びアミノ基等で置換されていてもよく、R2 は、メチル基及びエチル基からなる群より選択され、R3 は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基及び炭素数6〜20のアリール基からなる群より選択され、アリール基は、アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基及びアミノ基等で置換されていてもよく、また、R1 及びR3 は、互いに結合して、それぞれが結合しているカルボニル基の炭素原子及びアミド基の窒素原子と共に環を形成していてもよい。)で表わされる N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の存在下において光照射下に反応させることにより、下記一般式(3)
【0007】
【化7】
(上記一般式(3)において、R1 及びR2 は、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよく、R3、R4、R5 及びR6 は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよく、X・は、前駆体ビスアクリジニウム塩の対アニオンから電子が移動した残基である酸ラジカルを示す。)で表わされるN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体を生成させた後に、該反応混合物をクロマトグラフィーに付して精製し、次いで活性画分を分離してから、下記一般式(4)
【0008】
【化8】
(上記一般式(4)において、Rは、炭素数1〜5の二価の脂肪族炭化水素を表わし、mは、1〜3の整数を表わす。)で表わされるアミノアルコール化合物を添加することを特徴とする変異原性を有する不純物を含有しない化学発光試薬の製造方法である。
【009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の化学発光試薬の製造方法は、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスジアクリジニウム塩類を N,N−ジ置換カルボンアミド化合物の存在下に光照射してN,N'−ジ置換−9,9'−ビスジアクリジニウム塩類の電荷移動錯体を生成させる反応から始まるが、該反応に用いるN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類は、一般式(1)で表される。一般式(1)において、R1 及びR2 は、各々、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも異なるものでもよい。アルキル、アリール基及びハロゲン化アリール基は、炭素数1〜20を有するものであり、好ましいアルキル基は炭素数1〜10のものである。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等の直鎖状又は分岐状アルキル基を挙げることができる。また、アリール基は、炭素数6〜20のものが好ましく、フェニル基、トリール基、キシリル基等を挙げることができ、さらにアルキル基で置換されたものでもよい。アリール基としては、特に、フェニル基が好ましい。ハロゲン化アリール基としてはハロゲン化フェニル基、ハロゲン化トリル基、ハロゲン化キシリル基等を挙げることができ、特に、クロロフェニル基が好ましい。
【0010】
一般式(1)において、R3、R4、R5 及びR6 は、各々、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでよい。これらの炭化水素基としては、炭素数1〜20、好ましくは、1〜10のものを挙げることができる。例えば、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アリーロキシ基を挙げることができ、アリール基、アリーロキシ基にはアルキル基が置換されたものでもよい。
【0011】
また、一般式(1)において、Xn-はn価の陰イオンであり、nは1又は2である。陰イオンとしては、特に限定されるものではなく、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオン、硝酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオン等を挙げることができる。これらの陰イオンのなかで、特に硝酸イオンが好ましい。
【0012】
N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の具体例としては、N,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウム塩、N,N'−ジエチル−9,9'−ビスアクリジニウム塩、N,N'−ジフェニル−9,9'−ビスアクリジニウム塩、N,N'−ジ−m−クロロフェニル−9,9'−ビスアクリジニウム塩などが挙げられるが、特に、N,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジ硝酸塩(ルシゲニン)を好適に用いることができる。勿論これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の化学発光試薬の製造方法における原料の一つである N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物は、一般式(2)で表される。一般式(2)において、R1 は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基及び炭素数6〜20のアリール基からなる群より選択され、該アリール基はアルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基及びアミノ基等からなる群より選択される基で置換されていてもよい。R2 は、メチル基及びエチル基からなる群より選択される。R3 は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基及び炭素数6〜20のアリール基からなる群より選択される。該アリール基は、アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基及びアミノ基等からなる群より選択される基で置換されていてもよい。また、R1 及びR3 は互いに結合して、それぞれが結合しているカルボニル基の炭素原子及びアミド基の窒素原子と共に環を形成していてもよい。
【0014】
N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の具体的な例としては、 N,N−ジメチルホルムアミド、 N,N−ジメチルアセトアミド、 N,N−ジメチルアクリルアミド、 N,N−ジメチルプロピオンアミド、 N,N−ジメチルベンズアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が非限定的に挙げられる。
また、光照射反応におけるN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類と N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物との混合比は、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体に対して N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物を1〜1万倍モル、好ましくは1〜5千倍モルの割合で用いることができる。
【0015】
本発明の化学発光試薬の製造方法に用いられる光照射用の光線としては、波長領域が約 290〜800 nmの範囲の紫外可視部が用いられ、特に、約 400〜800 nmの範囲の可視光が望ましい。これらの光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、殺菌灯、蛍光灯及び白熱電灯等を非限定的に用いることができるが、白熱電灯が好ましく用いられる。
【0016】
該光照射反応により得られる反応生成物は、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体であり、一般式(3)で表されるが、この化合物の生成は電子スピン共鳴スペクトルによるラジカルの存在の確認、及び紫外線吸収スペクトルにおいて、反応の進行に伴って、370 nmのN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類に特異的な吸収が減少し、500 nm以上に新たな吸収が出現し増大して行くこと等により同定される。
【0017】
一般式(3)において、R1 及びR2 は、それぞれアルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよい。アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基は、それぞれ炭素数1〜20を有するものであり、好ましいアルキル基は炭素数1〜10のものである。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等の直鎖状アルキル基又はこれらの分岐状アルキル基を挙げることができる。また、アリール基は炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トリール基、キシリル基等を挙げることができ、さらにアルキル基で置換されたものでもよい。アリール基としては、特にフェニル基が好ましい。ハロゲン化アリール基としてはハロゲン化フェニル基、ハロゲン化トリル基、ハロゲン化キシリル基等を挙げることができ、特にクロロフェニル基が好ましい。
【0018】
一般式(3)において、R3、R4、R5 及びR6 は、それぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでよい。これらの炭化水素基としては、炭素数1〜20、好ましくは1〜10のものを挙げることができる。例えば、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アリーロキシ基を挙げることができ、アリール基、アリーロキシ基にはアルキル基が置換されたものでもよい。
また、一般式(3)において、X・は前駆体ビスアクリジニウム塩の対アニオンから電子が移動した残基である酸ラジカルを示す。
【0019】
本発明の化学発光試薬の製造方法において、光照射反応の副生物として変異原性を有する物質の生成が生成物の変異原性試験によって認められる場合があるが、これは光照射反応によって生成したN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体の一部がそのバイラジカルによる環化反応を起こしてジハイドロフェナンスレン型の中間体を経て、変異原性を有すると考えられる下記一般式(5)
【0020】
【化9】
で表わされる 7,6−ジ置換ベンゾ[1,2,3-kl:6,5,4-k'l' ]ジアクリジン誘導体を生成するためと考えられる。そこで変異原性を有すると考えられる該副生物の除去を目的としてクロマトグラフィーによる精製を行なった処、製造された化学発光試薬は変異原性試験において常に陰性を示すことが確認された。
【0021】
上記一般式(5)において、R1 及びR2 は、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよい。アルキル基、アリール基、ハロゲン化アリール基としては炭素数1〜20を有するものであり、アルキル基としては炭素数1〜10、特に1〜5のものが挙げられる。また、アリール基、ハロゲン化アリール基は炭素数6〜20を有するものである。例えば、フェニル基、トリール基、ハロゲン化アリール基としてはハロゲン化フェニル基、具体的にはクロロフェニル基が挙げられる。また、R3、R4、R5 及びR6 は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよい。これらの炭化水素基としては炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アリーロキシ基を挙げることができる。アリール基、アリーロキシ基にはアルキル基が置換されたものでもよい。
【0022】
上記クロマトグラフィー処理としては、薄層クロマトグラフィー(TLC)または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を好適に用いることができる。TLCとしては、固定層の薄層にシリカゲル、アルミナ、セルロース、ポリアミド等を用い、移動層の展開溶媒にメタノール、エタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、トルエン、 N,N−ジメチルホルムアミド、 N,N−ジメチルアセトアミド、クロロホルム等を用いることができる。HPLCとしては、固定層のカラム充填剤に表面をオクタデシル基、オクチル基、フェニル基等で修飾したシリカゲル等を用い、移動層にアセトニトリル、メタノール、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、イソプロピルアルコール等を用いる逆相クロマトグラフィーが好適に用いられる。
【0023】
本発明の化学発光試薬の製造方法においては、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体のクロマトグラフィーによる精製の後に、安定剤としてアミノアルコール化合物を添加するが、該アミノアルコール化合物の添加は該化学発光試薬の発光反応時において、ブランク値を低下させる効果及びペルオキシダーゼの高濃度領域における発光強度を上昇させる効果を有し、また、化学発光試薬の保存時において、その発光性能の低下を防ぐ保存安定性を改善する効果等を有し、化学発光試薬の感度や安定性等の性能の向上に寄与する処が大きい。アミノアルコール化合物の具体的な例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等を非限定的に挙げることができる。
上記アミノアルコール化合物の添加量は、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体量に対して1〜1万倍モルの量で用いることができる。
【0024】
本発明の製造方法で製造された化学発光試薬は、pH 4.5〜13、好ましくはpH 6〜9 の条件下において、過剰の過酸化水素の存在下、ペルオキシダーゼの濃度に依存した量で発光する。この発光はフェノール性化合物等の発光促進剤によって増強することが認められる。このようなフェノール性化合物としては、p−ヒドロキシ桂皮酸、p−フェニルフェノール、p−(4−クロロフェニル)フェノール、p−(4−ブロモフェニル)フェノール、p−(4−ヨードフェニル)フェノール、p−ヨードフェノール、p−ブロモフェノール、p−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、p−クマル酸、6−ヒドロキシベンゾチアゾール、2−ナフトール、ホタルルシフェリン等が非限定的に挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法で製造された化学発光試薬を用いて化学発光分析を行なう場合には、10-8〜1M、好ましくは10-6〜10-2Mの範囲の濃度で用いられ、その使用量は10〜 500μl、好ましくは50〜 300μlの範囲で用いるのが望ましい。また、発光促進剤の使用量は、化学発光試薬の0.01〜100 倍モル、好ましくは 0.1〜10倍モルの範囲で用い、その濃度は10-6〜1M、好ましくは10-4〜10-2Mの範囲で用いるのが望ましい。また、化学発光反応に用いる過酸化水素の量は化学発光試薬に対して充分に過剰な量で用いることが必要であり、その使用量は化学発光試薬に対して3〜1万倍モル、好ましくは10〜1000倍モルの範囲で用いるのが望ましい。また、ペルオキシダーゼを標識物質として抗体、核酸等を標識して種々の物質を定量する場合には、特に限定されるものではないが、ペルオキシダーゼとして、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)が好ましく用いられる。
化学発光反応に用いる緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ほう酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液等を任意に用いることができる。これらの緩衝液の濃度は1mM〜1Mの範囲で用いるのが望ましい。また、反応時に界面活性剤、キレート剤等の添加剤を任意に用いることができる。
【0026】
【実施例】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0027】
〔実施例1〕
N,N' −ジメチル− 9,9' −ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含む化学発光試薬の調製I
ルシゲニン 1.5mgを試験管に採り、これに N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて溶解させた後、30℃の温度の水浴中で 250 Wのコピーランプを7時間照射することによりN,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含有する反応混合物溶液を得た。
尚、電荷移動錯体の生成は、紫外吸収スペクトルにおける 550nm付近に極大をもつ幅広い吸収帯の出現を分光光度計を用いる方法で測定して確認した。
次いで、この反応混合物溶液を分取型高速液体クロマトグラフィーにかけて分画した。使用した装置は日本分光(株)製分取型HPLC装置でカラムは内径 20mm 長さ 250mmの YMC-Pack ODS SH-343-5((株)ワイエムシー製)で、移動相はアセトニトリルを用い、カラム温度は40℃、流速1ml/分で、サンプル量1mlの条件で行ない、活性画分を採取しアセトニトリルを減圧下に留去した後、 N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて再溶解させ、次いで、この溶液に 500μlのトリエタノールアミンを添加することにより化学発光試薬を得た。
この化学発光試薬の安全性を確認するために労働安全衛生法に則った微生物を用いる変異原性試験を行なった処、結果は陰性であった。
【0028】
〔参考例1〕
ペルオキシダーゼ活性の測定
化学発光測定用マイクロプレートの複数のウェルに西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の種々の濃度水準の75mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.4)溶液 100μl、及び10mMp−ヨードフェノール溶液 800μlと上記化学発光試薬40μlとを75mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.4)溶液9.16mlに添加して調製した発光試薬溶液 100μlを加えた後、これに0.0017重量%の過酸化水素水溶液50μlを加え、ルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナス CT-9000 D)で1〜5秒間発光量を積算した結果、表1に示すような発光強度が得られ、HRPを1×10-19mol/assay まで測定することが可能であった。
【0029】
【表1】
【0030】
〔実施例2〕
N,N' −ジメチル− 9,9' −ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含む化学発光試薬の調製 II
ルシゲニン 1.5 mg を試験管に採り、これに N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて溶解させた後、30℃の温度の水浴中で 250 Wのコピーランプを7時間照射することによりN,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含有する反応混合物溶液を得た。
尚、電荷移動錯体の生成は、紫外吸収スペクトルにおける 550nm付近に極大をもつ幅広い吸収帯の出現を分光光度計を用いる方法で測定して確認した。
次いで、この反応混合物溶液を薄層クロマトグラフィーにかけて分画した。使用した薄層プレートは幅 200 mm ×長さ 200 mm の Polyamide 11 F254(MERCK 社製)で、展開溶媒としてメタノールを用い、サンプル量 100μlの条件で展開した。展開終了後に光を照射してスポットを確認し、スポット部分を鋏で切り出してメタノールで抽出し、発光する活性画分を集めて減圧下にメタノールを留去した後、 N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて再溶解させ、次いで、この溶液に 500μlのトリエタノールアミンを添加することにより化学発光試薬を得た。
この化学発光試薬の安全性を確認するために労働安全衛生法に則った微生物を用いる変異原性試験を行なった処、結果は陰性であった。
【0031】
〔参考例2〕
ペルオキシダーゼ活性の測定
化学発光測定用マイクロプレートの複数のウェルに西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の種々の濃度水準の75mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.4)溶液100 μl、及び10mMp−ヨードフェノール溶液 800μlと上記化学発光試薬40μlとを75mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.4)溶液9.16mlに添加して調製した発光試薬溶液 100μlを加えた後、これに0.0017重量%の過酸化水素水溶液50μlを加え、ルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナス CT-9000 D)で1〜5秒間発光量を積算した結果、表2に示すような発光強度が得られ、HRPを1×10-19mol/assay まで測定することが可能であった。
【0032】
【表2】
【0033】
〔比較例1〕
ルシゲニン 1.5 mg を試験管に採り、これに N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて溶解させた後、30℃の温度の水浴中で 250 Wのコピーランプを7時間照射することによりN,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含有する反応混合物溶液を得た。
尚、電荷移動錯体の生成は、紫外吸収スペクトルにおける 550nm付近に極大をもつ幅広い吸収帯の出現を分光光度計を用いる方法で測定して確認した。
次いで、この化学発光試薬について労働安全衛生法に則った微生物を用いる変異原性試験を行なった処、結果は陽性であった。
【0034】
【発明の効果】
本発明の製造方法により提供される化学発光試薬は、変異原性を有する不純物を含有することがなく高い安全性を有している。また、安価な製造原料を用いて比較的に短時間で容易に製造でき、過酸化水素とペルオキシダーゼの存在下に、ペルオキシダーゼの濃度に依存して化学発光する性質を利用して、ペルオキシダーゼ酵素を高感度で検出することができる。更に、ペルオキシダーゼを標識物質として抗原、抗体、核酸等を標識した酵素標識物を用いて、酵素免疫測定法により抗原、抗体等を、ウェスタンブロット法により蛋白質を、サザーン及びノーザンブロット法によりDNA及びRNAを、そして酵素標識核酸プローブを用いて核酸を夫々特異的に且つ高感度で測定することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学発光試薬の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、ペルオキシダーゼ酵素量に依存して過酸化物等の水素受容体により化学発光し、ペルオキシダーゼ酵素活性を利用して種々の物質を高感度に測定することができ、かつ、変異原性を有する不純物を含有しない、安全性の高い改良された化学発光試薬の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
化学発光試薬として、古くから用いられているルシゲニン(N,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジナイトレート)は、アルカリ性水溶液中で微光を呈し、過酸化水素を加えると強く発光することが知られており、種々の微量分析に利用されている。しかしながら、ルシゲニンは過酸化水素とアルカリの存在で定量的に発光するので、過酸化水素の定量には利用することができるが、この反応による発光を制御して発光量で酵素活性を測定する化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)等には利用し難いという問題点がある。この問題点を解決する手段として、標識酵素にグルコースオキシダーゼを用いて、グルコースの酸化反応により生成する過酸化水素をアルカリ存在下にルシゲニンに作用させることにより、測定対象物質の濃度に依存した化学発光を行なう方法等が行なわれている。しかしながら、グルコースオキシダーゼを標識酵素とするCLEIAは、試薬の調製及び発光系の操作が煩雑である。また、安定性にも優れ、取り扱いが比較的に容易なペルオキシダーゼを標識酵素とするCLEIAに利用できる化学発光試薬としてルミノールが用いられているが、発光促進剤を併用しても感度の点で必ずしも充分とは云えない。そこで、本発明者等は試薬の調製及び発光系の操作が容易で、かつ高感度測定が可能な、ペルオキシダーゼを標識酵素とするCLEIAに利用できる化学発光試薬としてルシゲニン電荷移動錯体を主成分とする新規化学発光試薬を開発した。しかし、該化学発光試薬は製造時に変異原性を有する不純物を副生する場合があり、変異原性を有する不純物を副生しない化学発光試薬の製造方法の開発が望まれていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、過酸化水素等の過酸化物を基質とするペルオキシダーゼのモル数に依存して化学発光し、ペルオキシダーゼ酵素活性を利用して種々の物質をより高感度に測定することができ、変異原性を有する不純物を含有しない、安全性の高い改良された化学発光試薬の製造方法の開発を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を行なった結果、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスジアクリジニウム塩類を N,N−ジ置換カルボンアミド化合物の存在下に光照射してN,N'−ジ置換−9,9'−ビスジアクリジニウム塩類の電荷移動錯体を生成させた後に、該反応混合物をクロマトグラフィーに付して精製することにより、変異原性を有する不純物を容易に除去することができることを見い出し、本発明に到達したものである。
従って、本発明は、下記一般式(1)
【0005】
【化5】
(上記一般式(1)において、R1 及びR2 は、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよく、R3、R4、R5 及びR6 は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよく、Xはn価の陰イオンであり、nは1又は2である。)で表わされるN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類を、下記一般式(2)
【0006】
【化6】
(上記一般式(2)において、R1 は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基及び炭素数6〜20のアリール基からなる群より選択され、アリール基は、アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基及びアミノ基等で置換されていてもよく、R2 は、メチル基及びエチル基からなる群より選択され、R3 は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基及び炭素数6〜20のアリール基からなる群より選択され、アリール基は、アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基及びアミノ基等で置換されていてもよく、また、R1 及びR3 は、互いに結合して、それぞれが結合しているカルボニル基の炭素原子及びアミド基の窒素原子と共に環を形成していてもよい。)で表わされる N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の存在下において光照射下に反応させることにより、下記一般式(3)
【0007】
【化7】
(上記一般式(3)において、R1 及びR2 は、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよく、R3、R4、R5 及びR6 は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよく、X・は、前駆体ビスアクリジニウム塩の対アニオンから電子が移動した残基である酸ラジカルを示す。)で表わされるN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体を生成させた後に、該反応混合物をクロマトグラフィーに付して精製し、次いで活性画分を分離してから、下記一般式(4)
【0008】
【化8】
(上記一般式(4)において、Rは、炭素数1〜5の二価の脂肪族炭化水素を表わし、mは、1〜3の整数を表わす。)で表わされるアミノアルコール化合物を添加することを特徴とする変異原性を有する不純物を含有しない化学発光試薬の製造方法である。
【009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の化学発光試薬の製造方法は、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスジアクリジニウム塩類を N,N−ジ置換カルボンアミド化合物の存在下に光照射してN,N'−ジ置換−9,9'−ビスジアクリジニウム塩類の電荷移動錯体を生成させる反応から始まるが、該反応に用いるN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類は、一般式(1)で表される。一般式(1)において、R1 及びR2 は、各々、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも異なるものでもよい。アルキル、アリール基及びハロゲン化アリール基は、炭素数1〜20を有するものであり、好ましいアルキル基は炭素数1〜10のものである。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等の直鎖状又は分岐状アルキル基を挙げることができる。また、アリール基は、炭素数6〜20のものが好ましく、フェニル基、トリール基、キシリル基等を挙げることができ、さらにアルキル基で置換されたものでもよい。アリール基としては、特に、フェニル基が好ましい。ハロゲン化アリール基としてはハロゲン化フェニル基、ハロゲン化トリル基、ハロゲン化キシリル基等を挙げることができ、特に、クロロフェニル基が好ましい。
【0010】
一般式(1)において、R3、R4、R5 及びR6 は、各々、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでよい。これらの炭化水素基としては、炭素数1〜20、好ましくは、1〜10のものを挙げることができる。例えば、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アリーロキシ基を挙げることができ、アリール基、アリーロキシ基にはアルキル基が置換されたものでもよい。
【0011】
また、一般式(1)において、Xn-はn価の陰イオンであり、nは1又は2である。陰イオンとしては、特に限定されるものではなく、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオン、硝酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオン等を挙げることができる。これらの陰イオンのなかで、特に硝酸イオンが好ましい。
【0012】
N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の具体例としては、N,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウム塩、N,N'−ジエチル−9,9'−ビスアクリジニウム塩、N,N'−ジフェニル−9,9'−ビスアクリジニウム塩、N,N'−ジ−m−クロロフェニル−9,9'−ビスアクリジニウム塩などが挙げられるが、特に、N,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジ硝酸塩(ルシゲニン)を好適に用いることができる。勿論これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の化学発光試薬の製造方法における原料の一つである N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物は、一般式(2)で表される。一般式(2)において、R1 は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基及び炭素数6〜20のアリール基からなる群より選択され、該アリール基はアルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基及びアミノ基等からなる群より選択される基で置換されていてもよい。R2 は、メチル基及びエチル基からなる群より選択される。R3 は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基及び炭素数6〜20のアリール基からなる群より選択される。該アリール基は、アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基及びアミノ基等からなる群より選択される基で置換されていてもよい。また、R1 及びR3 は互いに結合して、それぞれが結合しているカルボニル基の炭素原子及びアミド基の窒素原子と共に環を形成していてもよい。
【0014】
N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の具体的な例としては、 N,N−ジメチルホルムアミド、 N,N−ジメチルアセトアミド、 N,N−ジメチルアクリルアミド、 N,N−ジメチルプロピオンアミド、 N,N−ジメチルベンズアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が非限定的に挙げられる。
また、光照射反応におけるN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類と N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物との混合比は、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体に対して N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物を1〜1万倍モル、好ましくは1〜5千倍モルの割合で用いることができる。
【0015】
本発明の化学発光試薬の製造方法に用いられる光照射用の光線としては、波長領域が約 290〜800 nmの範囲の紫外可視部が用いられ、特に、約 400〜800 nmの範囲の可視光が望ましい。これらの光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、殺菌灯、蛍光灯及び白熱電灯等を非限定的に用いることができるが、白熱電灯が好ましく用いられる。
【0016】
該光照射反応により得られる反応生成物は、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体であり、一般式(3)で表されるが、この化合物の生成は電子スピン共鳴スペクトルによるラジカルの存在の確認、及び紫外線吸収スペクトルにおいて、反応の進行に伴って、370 nmのN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類に特異的な吸収が減少し、500 nm以上に新たな吸収が出現し増大して行くこと等により同定される。
【0017】
一般式(3)において、R1 及びR2 は、それぞれアルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよい。アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基は、それぞれ炭素数1〜20を有するものであり、好ましいアルキル基は炭素数1〜10のものである。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等の直鎖状アルキル基又はこれらの分岐状アルキル基を挙げることができる。また、アリール基は炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トリール基、キシリル基等を挙げることができ、さらにアルキル基で置換されたものでもよい。アリール基としては、特にフェニル基が好ましい。ハロゲン化アリール基としてはハロゲン化フェニル基、ハロゲン化トリル基、ハロゲン化キシリル基等を挙げることができ、特にクロロフェニル基が好ましい。
【0018】
一般式(3)において、R3、R4、R5 及びR6 は、それぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでよい。これらの炭化水素基としては、炭素数1〜20、好ましくは1〜10のものを挙げることができる。例えば、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アリーロキシ基を挙げることができ、アリール基、アリーロキシ基にはアルキル基が置換されたものでもよい。
また、一般式(3)において、X・は前駆体ビスアクリジニウム塩の対アニオンから電子が移動した残基である酸ラジカルを示す。
【0019】
本発明の化学発光試薬の製造方法において、光照射反応の副生物として変異原性を有する物質の生成が生成物の変異原性試験によって認められる場合があるが、これは光照射反応によって生成したN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体の一部がそのバイラジカルによる環化反応を起こしてジハイドロフェナンスレン型の中間体を経て、変異原性を有すると考えられる下記一般式(5)
【0020】
【化9】
で表わされる 7,6−ジ置換ベンゾ[1,2,3-kl:6,5,4-k'l' ]ジアクリジン誘導体を生成するためと考えられる。そこで変異原性を有すると考えられる該副生物の除去を目的としてクロマトグラフィーによる精製を行なった処、製造された化学発光試薬は変異原性試験において常に陰性を示すことが確認された。
【0021】
上記一般式(5)において、R1 及びR2 は、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよい。アルキル基、アリール基、ハロゲン化アリール基としては炭素数1〜20を有するものであり、アルキル基としては炭素数1〜10、特に1〜5のものが挙げられる。また、アリール基、ハロゲン化アリール基は炭素数6〜20を有するものである。例えば、フェニル基、トリール基、ハロゲン化アリール基としてはハロゲン化フェニル基、具体的にはクロロフェニル基が挙げられる。また、R3、R4、R5 及びR6 は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよい。これらの炭化水素基としては炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アリーロキシ基を挙げることができる。アリール基、アリーロキシ基にはアルキル基が置換されたものでもよい。
【0022】
上記クロマトグラフィー処理としては、薄層クロマトグラフィー(TLC)または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を好適に用いることができる。TLCとしては、固定層の薄層にシリカゲル、アルミナ、セルロース、ポリアミド等を用い、移動層の展開溶媒にメタノール、エタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、トルエン、 N,N−ジメチルホルムアミド、 N,N−ジメチルアセトアミド、クロロホルム等を用いることができる。HPLCとしては、固定層のカラム充填剤に表面をオクタデシル基、オクチル基、フェニル基等で修飾したシリカゲル等を用い、移動層にアセトニトリル、メタノール、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、イソプロピルアルコール等を用いる逆相クロマトグラフィーが好適に用いられる。
【0023】
本発明の化学発光試薬の製造方法においては、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体のクロマトグラフィーによる精製の後に、安定剤としてアミノアルコール化合物を添加するが、該アミノアルコール化合物の添加は該化学発光試薬の発光反応時において、ブランク値を低下させる効果及びペルオキシダーゼの高濃度領域における発光強度を上昇させる効果を有し、また、化学発光試薬の保存時において、その発光性能の低下を防ぐ保存安定性を改善する効果等を有し、化学発光試薬の感度や安定性等の性能の向上に寄与する処が大きい。アミノアルコール化合物の具体的な例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等を非限定的に挙げることができる。
上記アミノアルコール化合物の添加量は、N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類の電荷移動錯体量に対して1〜1万倍モルの量で用いることができる。
【0024】
本発明の製造方法で製造された化学発光試薬は、pH 4.5〜13、好ましくはpH 6〜9 の条件下において、過剰の過酸化水素の存在下、ペルオキシダーゼの濃度に依存した量で発光する。この発光はフェノール性化合物等の発光促進剤によって増強することが認められる。このようなフェノール性化合物としては、p−ヒドロキシ桂皮酸、p−フェニルフェノール、p−(4−クロロフェニル)フェノール、p−(4−ブロモフェニル)フェノール、p−(4−ヨードフェニル)フェノール、p−ヨードフェノール、p−ブロモフェノール、p−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、p−クマル酸、6−ヒドロキシベンゾチアゾール、2−ナフトール、ホタルルシフェリン等が非限定的に挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法で製造された化学発光試薬を用いて化学発光分析を行なう場合には、10-8〜1M、好ましくは10-6〜10-2Mの範囲の濃度で用いられ、その使用量は10〜 500μl、好ましくは50〜 300μlの範囲で用いるのが望ましい。また、発光促進剤の使用量は、化学発光試薬の0.01〜100 倍モル、好ましくは 0.1〜10倍モルの範囲で用い、その濃度は10-6〜1M、好ましくは10-4〜10-2Mの範囲で用いるのが望ましい。また、化学発光反応に用いる過酸化水素の量は化学発光試薬に対して充分に過剰な量で用いることが必要であり、その使用量は化学発光試薬に対して3〜1万倍モル、好ましくは10〜1000倍モルの範囲で用いるのが望ましい。また、ペルオキシダーゼを標識物質として抗体、核酸等を標識して種々の物質を定量する場合には、特に限定されるものではないが、ペルオキシダーゼとして、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)が好ましく用いられる。
化学発光反応に用いる緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ほう酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液等を任意に用いることができる。これらの緩衝液の濃度は1mM〜1Mの範囲で用いるのが望ましい。また、反応時に界面活性剤、キレート剤等の添加剤を任意に用いることができる。
【0026】
【実施例】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0027】
〔実施例1〕
N,N' −ジメチル− 9,9' −ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含む化学発光試薬の調製I
ルシゲニン 1.5mgを試験管に採り、これに N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて溶解させた後、30℃の温度の水浴中で 250 Wのコピーランプを7時間照射することによりN,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含有する反応混合物溶液を得た。
尚、電荷移動錯体の生成は、紫外吸収スペクトルにおける 550nm付近に極大をもつ幅広い吸収帯の出現を分光光度計を用いる方法で測定して確認した。
次いで、この反応混合物溶液を分取型高速液体クロマトグラフィーにかけて分画した。使用した装置は日本分光(株)製分取型HPLC装置でカラムは内径 20mm 長さ 250mmの YMC-Pack ODS SH-343-5((株)ワイエムシー製)で、移動相はアセトニトリルを用い、カラム温度は40℃、流速1ml/分で、サンプル量1mlの条件で行ない、活性画分を採取しアセトニトリルを減圧下に留去した後、 N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて再溶解させ、次いで、この溶液に 500μlのトリエタノールアミンを添加することにより化学発光試薬を得た。
この化学発光試薬の安全性を確認するために労働安全衛生法に則った微生物を用いる変異原性試験を行なった処、結果は陰性であった。
【0028】
〔参考例1〕
ペルオキシダーゼ活性の測定
化学発光測定用マイクロプレートの複数のウェルに西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の種々の濃度水準の75mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.4)溶液 100μl、及び10mMp−ヨードフェノール溶液 800μlと上記化学発光試薬40μlとを75mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.4)溶液9.16mlに添加して調製した発光試薬溶液 100μlを加えた後、これに0.0017重量%の過酸化水素水溶液50μlを加え、ルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナス CT-9000 D)で1〜5秒間発光量を積算した結果、表1に示すような発光強度が得られ、HRPを1×10-19mol/assay まで測定することが可能であった。
【0029】
【表1】
【0030】
〔実施例2〕
N,N' −ジメチル− 9,9' −ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含む化学発光試薬の調製 II
ルシゲニン 1.5 mg を試験管に採り、これに N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて溶解させた後、30℃の温度の水浴中で 250 Wのコピーランプを7時間照射することによりN,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含有する反応混合物溶液を得た。
尚、電荷移動錯体の生成は、紫外吸収スペクトルにおける 550nm付近に極大をもつ幅広い吸収帯の出現を分光光度計を用いる方法で測定して確認した。
次いで、この反応混合物溶液を薄層クロマトグラフィーにかけて分画した。使用した薄層プレートは幅 200 mm ×長さ 200 mm の Polyamide 11 F254(MERCK 社製)で、展開溶媒としてメタノールを用い、サンプル量 100μlの条件で展開した。展開終了後に光を照射してスポットを確認し、スポット部分を鋏で切り出してメタノールで抽出し、発光する活性画分を集めて減圧下にメタノールを留去した後、 N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて再溶解させ、次いで、この溶液に 500μlのトリエタノールアミンを添加することにより化学発光試薬を得た。
この化学発光試薬の安全性を確認するために労働安全衛生法に則った微生物を用いる変異原性試験を行なった処、結果は陰性であった。
【0031】
〔参考例2〕
ペルオキシダーゼ活性の測定
化学発光測定用マイクロプレートの複数のウェルに西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の種々の濃度水準の75mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.4)溶液100 μl、及び10mMp−ヨードフェノール溶液 800μlと上記化学発光試薬40μlとを75mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.4)溶液9.16mlに添加して調製した発光試薬溶液 100μlを加えた後、これに0.0017重量%の過酸化水素水溶液50μlを加え、ルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナス CT-9000 D)で1〜5秒間発光量を積算した結果、表2に示すような発光強度が得られ、HRPを1×10-19mol/assay まで測定することが可能であった。
【0032】
【表2】
【0033】
〔比較例1〕
ルシゲニン 1.5 mg を試験管に採り、これに N,N−ジメチルアセトアミド1mlを加えて溶解させた後、30℃の温度の水浴中で 250 Wのコピーランプを7時間照射することによりN,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウムジ硝酸塩の電荷移動錯体を含有する反応混合物溶液を得た。
尚、電荷移動錯体の生成は、紫外吸収スペクトルにおける 550nm付近に極大をもつ幅広い吸収帯の出現を分光光度計を用いる方法で測定して確認した。
次いで、この化学発光試薬について労働安全衛生法に則った微生物を用いる変異原性試験を行なった処、結果は陽性であった。
【0034】
【発明の効果】
本発明の製造方法により提供される化学発光試薬は、変異原性を有する不純物を含有することがなく高い安全性を有している。また、安価な製造原料を用いて比較的に短時間で容易に製造でき、過酸化水素とペルオキシダーゼの存在下に、ペルオキシダーゼの濃度に依存して化学発光する性質を利用して、ペルオキシダーゼ酵素を高感度で検出することができる。更に、ペルオキシダーゼを標識物質として抗原、抗体、核酸等を標識した酵素標識物を用いて、酵素免疫測定法により抗原、抗体等を、ウェスタンブロット法により蛋白質を、サザーン及びノーザンブロット法によりDNA及びRNAを、そして酵素標識核酸プローブを用いて核酸を夫々特異的に且つ高感度で測定することができる。
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