JP3677881B2 - 温水式暖房装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は温水流量を制御する流量制御装置を備えた温水式暖房装置に関するもので、自動車用温水式暖房装置に用いて好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、温水式暖房装置を含む自動車用空調装置の吹出空気の温度制御方式として、暖房用熱交換器への温水流量を制御して、吹出空気温度を制御する方式のものが知られている。ところで、自動車用空調装置においては、上記暖房用熱交換器を含む温水回路に、温水(エンジン冷却水)を循環させる手段として、走行用エンジンで駆動されるウオータポンプを使用しているので、エンジン回転数の変動とともにウオータポンプの回転数も変動して、暖房用熱交換器への温水圧力が大きく変動する。
【0003】
この温水圧力の変動は、熱交換器への温水流量を変動させるので、熱交換器吹出空気温度を変動させる要因となる。
そこで、本発明者らは、先に、特開平8−72529号公報等において、熱交換器吹出空気温度の変動を抑制する温水式暖房装置を提案している。この従来の装置は、水冷式の走行用エンジンから供給される温水と空気とを熱交換して空気を加熱する暖房用熱交換器と、エンジンから暖房用熱交換器に供給される温水流量を制御するための流量制御弁と、暖房用熱交換器をバイパスして温水を流すバイパス回路とを備えている。
【0004】
そして、このバイパス回路に、エンジンから供給される温水の圧力上昇に応じて、バイパス回路の開度を増大する圧力応動弁を設け、この圧力応動弁により暖房用熱交換器前後の差圧の上昇(熱交換器への温水流量の増加)を抑制して、熱交換器吹出空気温度の変動を抑制するようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の装置について、本発明者らが実際に試作して、実験検討したところ、圧力応動弁を設けるだけでは、温水圧力変動(エンジン回転数変動)に起因する熱交換器吹出空気温度の変動幅を十分低減することができず、実用化を図る上での障害となることが判明した。
【0006】
そこで、本発明は上記点に鑑みて、バイパス回路に温水の圧力上昇に応じて開度を増大する圧力応動弁を設けた温水式暖房装置において、温水圧力変動に起因する熱交換器吹出空気温度の変動低減効果を高めることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
図7は上記従来の装置に基づいて具体化した流量制御装置の比較品であり、この比較品では、図9に示すように、圧力応動弁の弁体が最大限リフトしても(最大開度になっても)、流量制御弁の全開度にわたって、エンジン回転数:6000rpmにおける熱交換器吹出空気温度をアイドル時の値まで引き下げることができず、熱交換器吹出空気温度が変動してしまう。
【0008】
この吹出空気温度の変動は、バイパス回路側の通水面積が小さくて、エンジン回転数が6000rpmのごとき高回転になったとき、この回転上昇、すなわち、温水圧力上昇に見合ったバイパス流量をバイパス回路側へ逃がすことができないことに起因していることが図9の実験を通じて分かった。
そこで、本発明は、温水圧力上昇に見合ったバイパス流量をバイパス回路側へ逃がすことが可能となる通水面積について、種々実験検討した結果、バイパス回路(5)側の最小通水面積(SO)を、流量制御弁(4)の温水入口(19)の断面積(S1)の75%以上に設定することにより、吹出空気温度の変動を効果的に低減できることを見い出した。
【0009】
このようなバイパス回路側の最小通水面積の設定により、上記目的を達成できるのである。なお、図9、および本発明の実施形態品のデータを示す図10の実験の詳細については、後述の実施形態の中で述べる。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1〜図6は本発明の一実施形態を示すもので、本発明を自動車用空調装置の温水式暖房装置に適用した例を示す。図1は温水回路を示すもので、1は自動車走行用の水冷式エンジン、2はエンジン1により駆動されるウオータポンプで、エンジン1の冷却水回路(温水回路)に水を循環させるものである。3はエンジン1から供給される温水と送風空気とを熱交換して、送風空気を加熱する暖房用熱交換器(ヒータコア)、4は流量制御弁で、温水出入口を3つ有する三方弁タイプのものである。
【0011】
5は暖房用熱交換器3と並列に設けられたバイパス路、6は定差圧弁(圧力応動弁)であり、その前後の差圧が予め定めた所定値に達すると開弁するものであって、エンジン1の回転数変動によりウオータポンプ2の回転数が変動しても、暖房用熱交換器3の前後差圧を一定に近づける役割を果たすものである。
7は温度センサで、熱交換器3が設置される自動車用空調装置の通風ダクト(ヒータケース)8内において、熱交換器3の空気下流側で、かつ車室内への各種吹出口(図示せず)の分岐点直前の部位に設置される。この温度センサ7は、サーミスタよりなり、車室内に吹き出す温風温度を検出するものである。
【0012】
前記吹出口としては、周知のごとく車室内の乗員顔部に向けて空気を吹き出すフェイス吹出口、自動車前面窓ガラスに空気を吹き出して窓ガラスの曇りを除去するデフロスタ吹出口、乗員の足元に空気を吹き出すフット吹出口等が設けられている。
9は車室内温度制御の目標温度(乗員の希望温度)を設定するための温度設定器で、乗員により手動操作可能なスイッチ、あるいは可変抵抗器等よりなる。10は外気温度、温水温度、日射量等の車室内温度制御に関係する環境因子の物理量を検出するセンサ群である。11はこれらのセンサ7、10及び温度設定器9等からの入力信号に基づいて温度制御信号を出力する空調制御装置で、マイクロコンピュータ等よりなる。
【0013】
12はこの空調制御装置11からの温度制御信号により制御されるサーボモータで、流量制御弁4の弁体13を回転駆動するための弁体作動手段を構成する。ここで、弁体作動手段としては、サーボモータ12のような空調制御装置11により制御される電気的アクチュエータに限らず、周知のレバー、ワイヤ等を用いた手動操作機構であってもよい。
【0014】
上記弁体13は本例では樹脂材料にて円柱状形状に成形され、やはり樹脂にて円筒状に成形された弁ハウジング14内に回動可能に配置され、収納されている。従って、弁体13は回動可能なロータとして構成されている。
上記弁ハウジング14には、エンジン1からの温水が流入する温水入口パイプ19、この温水入口パイプ19から流入した温水を熱交換器3に向けて流出させる温水出口パイプ20、及び熱交換器3のバイパス回路5に向けて温水を流出させるバイパス出口パイプ21が一体成形されている。
【0015】
円柱状の弁体13には、上記各パイプ19、20、21の開口面積を所定の相関関係を持って調整する制御流路170が形成されている。また、弁体13を回動操作するためのシャフト13a(後述の図3参照)は弁ハウジング14の外部に突出するようになっており、そして、前記したサーボモータ12のような電気的アクチュエータ、またはレバー、ワイヤ等を用いた手動操作機構に連結され、これらの機器により弁体13を回動操作できるようにしてある。
【0016】
なお、流量制御弁4により熱交換器3への温水流量を微少流量に制御する微少能力時(例えば、弁開度30°以下、本例では弁開度は最大95°に設定)には、温水入口パイプ19の開口面積及び温水出口パイプ20の開口面積を双方とも絞っている2段絞りの状態(図1の微少能力時はその2段絞りの状態を模式的に示す)になっており、かつ温水入口パイプ19と温水出口パイプ20の絞り部の中間(図1のア部)はほぼ全開状態にあるバイパス出口パイプ21によって十分大きな開口面積でバイパス回路5に連通しているので、暖房用熱交換器3前後の差圧を十分小さくできる。
【0017】
上記した図1では、温水回路を理解し易いようにするために、流量制御弁4に対して定差圧弁6を別体として図示しているが、実際には、流量制御弁4にバイパス路5および定差圧弁6が一体化されている。次に、この一体化構造を図2、図3に基づいて具体的に説明する。
図2、図3において、流量制御弁4の弁体13は樹脂材料にて円柱状の形状に成形され、弁ハウジング14もやはり樹脂にて成形されている。弁ハウジング14は第1収納部14aを有しており、この第1収納部14aは図2の紙面垂直方向に略筒状に延びるように成形されている。この第1収納部14a内に円柱状の弁体13が回動可能に配置され、収納されている。
【0018】
また、弁ハウジング14には、第1収納部14aに隣接して、定差圧弁6を収納する第2収納部14bが一体成形されている。そして、これら第1、第2収納部14a、14bの上部開口端部には、図3に示す樹脂製の蓋板14cがねじ(図示せず)等により脱着可能に取付られており、この蓋板14cにより第1、第2収納部14a、14bの上部開口端部が密封されている。
【0019】
上記弁ハウジング14のうち、第1収納部14aには、エンジン1からの温水が流入する第1温水入口パイプ19、この温水入口パイプ19から流入した温水を熱交換器3に向けて流出させる第1温水出口パイプ20、及び熱交換器3のバイパス回路5に向けて温水を流出させるバイパス用開口21が一体成形されている。
【0020】
ここで、本例では、第1収納部14aの円周面に第1温水入口パイプ19とバイパス用開口21とを、略直交する位置関係で配置するとともに、第1温水出口パイプ20は、第1収納部14aの軸方向の一端面(図3の底面側)に配置してある。
さらに、第2収納部14bには、熱交換器3から流出した戻り温水が流入する第2温水入口パイプ26及びエンジン1に温水を戻す第2温水出口パイプ28が一体成形されている。従って、熱交換器3のバイパス回路5は第2収納部14b内に形成されることになる。
【0021】
定差圧弁6は、バイパス用開口21を開閉する弁体30を有し、この弁体30には、コイルスプリング(ばね手段)32のばね力が閉弁方向(図2の下方)に作用している。このコイルスプリング32の上端部は座板27により支持されており、この座板27は、スプリング力により第2収納部14bの内壁面に圧着している。この座板27の中心部には円筒部27aが形成されており、この円筒部27aには弁体30と一体の軸部31の上端部が摺動可能に嵌合して、弁体30の上下動を案内する。
【0022】
そして、弁体30前後の差圧、すなわち、バイパス用開口21と第2温水入口パイプ26との温水差圧が所定値に達すると、スプリング32のばね力に抗して弁体30が図5の上方へリフトして弁座33から開離し、弁体30が開弁するようになっている。
円柱状の弁体13の軸方向端部には、弁体13を回動操作するためのシャフト13aが一体に成形されている。このシャフト13aは蓋板14cを貫通して弁ハウジング14の外部に突出している。このシャフト13aの外部への突出端部に扇形ギヤ13bの回転中心部を一体に連結し、この扇形ギヤ13bの外周部のギヤ面13cに、サーボモータ12により回転駆動される減速ギヤ(図示せず)が噛み合い、サーボモータ12の回転動力が扇形ギヤ13bを介してシャフト13aに伝達されるようになっている。
【0023】
40、41、42はゴム等の弾性材からなるシール部材で、その全体形状は図4に示すように矩形状に成形されており、その中央部に穴部40a、41a、42aを有している。これらのシール部材のうち、シール部材40、42は弁体13の外周面と弁ハウジング14の第1収納部14aの内周面との間に配置されており、また、シール部材41は、弁体13と第1収納部14aの相互の軸方向の一端面間に配置されている。
【0024】
このシール部材40、41、42は弁体13の制御流路170を介することなく、直接パイプ19、20、バイパス用開口21間で温水が流通してしまうことを防ぐとともに、上記穴部40a、41a、42aと弁体13の制御流路170との連通形状により温水流路の絞りを構成するものである。
本実施形態では、上記弁体13の開度(弁体回転角)に応じて、制御流路170により図5に示す所定の相関関係を持って各パイプ19、20、バイパス用開口21の開口面積A1、A2、A3を制御するように構成してある。ここで、A1は第1温水入口パイプ19の開口面積であり、A2は第1温水出口パイプ20の開口面積であり、A3はバイパス用開口21の開口面積である。
【0025】
この図5に示す相関関係を実現するために、上記弁体13の制御流路170とシール部材40、41、42の穴部40a、41a、42aの具体的形状は図6に示すごとく設定されている。
図6(a)は図3の矢印B方向からみたシール部材41の穴部41aと制御流路170の開口形状を示し、図6(b)は弁体13の円周面の展開形状を示し、図6(c)は弁体13の軸方向中央位置における断面形状を示している。そして、図6では、弁体開度を0°から95°までの9段階に変化させた場合における、制御流路170と各穴部40a、41a、42aとの連通状態の変化を示している。
【0026】
図6(b)、(c)および図2に示すように、弁体13の円周面には、制御流路170の入口側開口部171、171aおよびバイパス側開口部172を配置し、この入口側開口部171、171aおよびバイパス側開口部172により温水入口パイプ19及びバイパス用開口21の開口面積A1、A3を調整する。
この入口側開口部171、171aは、シール部材40の円形の穴部40a(図4参照)との連通形状を変化させるものであって、入口側開口部171は図示のごとき嘴形状であり、弁体開度が30°を超えると嘴形状の先端部分から穴部40aに連通するようになっている。また、入口側開口部171aはφ2相当の円形の穴形状であり、弁体開度が0の時(暖房停止時)にも穴部40aに連通するようになっている。この入口側開口部171aは弁体開度が40°を超えると、穴部40aとの連通を遮断する。
【0027】
また、バイパス側開口部172は長方形の一辺を円弧状にした形状であり、一方、このバイパス側開口部172が連通するシール部材42の穴部42aは円形の一部に凹部を形成した形状になっており、この穴部42aの凹部は、弁体開度が最大暖房能力位置の開度(95°)およびその近傍になったとき、入口側開口部171aと穴部42aとの連通を防止するためのものである。
【0028】
また、弁体13の軸方向の一端面には、制御流路170の出口側開口部として2個の開口部173、173a(図6(a)、図2参照)を配置し、この出口側開口部173、173aにより温水出口パイプ20の開口面積A2を調整する。この出口側開口部173、173aはシール部材41の穴部41aとの連通形状を変化させるものであって、この穴部41aは、図4、図6(a)に示すように、弁体13の回動中心を通過する細長形状であり、弁体13の回動中心部位は一段と細くした形状にしてある。
【0029】
一方、弁体13の出口側開口部173、173aは、弁体13の最大冷房位置(弁体開度=0°)において、前記穴部41aを中間に挟むように配置されている。そして、この2個の出口側開口部173、173aのうち、1つの開口部173のみに、弁体13が微小流量制御域の回動位置(例えば弁体開度=40°以下の開度位置)にあるとき、穴部24aと連通する微小開口部173′を形成している。
【0030】
以上の説明から理解されるように、弁体13の入口側開口部171、171aとシール部材40の穴部40aとにより、温水入口パイプ19からの温水の絞り部を形成し、弁体13の出口側開口部173、173aとシール部材41の穴部41aとにより、温水出口パイプ20への温水の絞り部を形成し、弁体13のバイパス側開口部172とシール部材42の穴部42aとにより、バイパス用開口21への絞り部を形成している。図4、5において、符号A1〜A3はこの各絞り部の開口面積を示す。
【0031】
なお、図2、3において、暖房用熱交換器3は、その下方部に温水の入口側タンク3aを有し、その上方部に温水の出口側タンク3bを有しており、そしてこの上下の両タンク3a、3bの間に、多数の並列配置された偏平チューブとコルゲートフィンとからなるコアー部3cが形成されている。ここで、コアー部3cは入口側タンク3aから出口側タンク3bへの一方向のみに温水が流れる一方向流れ(全パス)タイプとして構成されている。
【0032】
なお、図示しないが、本発明による流量制御弁4、定差圧弁6及びサーボモータ12を熱交換器3に予め一体化しておいて、その後にこれらの一体構造物を通風ダクト(ヒータケース)8に対して組み付けるようにして、組付性の向上、熱交換器部分の形状の小型化を図ってもよい。
次に、上記構成において作動を説明する。最大暖房能力時には、流量制御弁4の弁体13がサーボモータ12または手動操作機構により最大開度の位置(例えば、弁開度:95°の位置)まで回動される。
【0033】
これにより、弁体13の制御流路170の入口側開口部171が温水入口パイプ19のシール部材40の穴部40aと最大面積で重畳するとともに、制御流路170の出口側開口部173、173aが温水出口パイプ20のシール部材41の穴部41aと最大面積で重畳し、この両パイプ19、20を全開する。一方、制御流路170のバイパス側側開口部172はバイパス用開口21のシール部材42の穴部42aと連通しないので、バイパス用開口21は全閉状態となる。
【0034】
その結果、エンジン1からの温水は最大流量で熱交換器3側に流入して、バイパス回路5には温水が流れない。これにより、熱交換器3は最大暖房能力を発揮できる。
次に、最大冷房時(自動車用空調装置に冷房機能が装備されていないときは、送風のみの暖房停止時となる)には、流量制御弁4の弁体13がサーボモータ12または手動操作機構により開度零の位置(具体的には図5、6の弁体開度:0°の位置)まで回動される。この開度零の位置では、弁体13の制御流路170のバイパス側側開口部172の大部分がバイパス用開口21のシール部材42の穴部42aと重畳してこのバイパス用開口21を開口する。また、制御流路170の出口側開口部173、173aが温水出口パイプ20のシール部材41の穴部41aと連通せず,温水出口パイプ20を全閉する。
【0035】
一方、制御流路170の入口側開口部171、171aにおいては、図6(b)の最上部に示すように、入口側開口部171aのみが温水入口パイプ19のシール部材40の穴部40aと重畳して連通する。これにより、温水入口パイプ19を全閉とせず、入口側開口部171aによりφ2丸穴相当の最小開口面積を設定する。
【0036】
上記の弁体位置により、温水入口パイプ19からバイパス用開口21への温水の流れを継続できるので、温水の流れの急遮断によるウオータハンマ現象の音の発生を防止できるとともに、φ2丸穴相当以上の開口面積の確保により流水音の発生も防止できる。
また、温水回路中の鋳砂は通常、φ1以下の微小物であるので、上記大きさの最小開口を設定することにより、鋳砂等の異物による流量制御弁流路の閉塞を十分防止できる。
【0037】
次に、微少能力時には、弁体13が図5の弁体開度30°以下の位置に回動されるので、制御流路170の入口側開口部171aと出口側開口部173の微小開口部173′が温水入口パイプ19及び温水出口パイプ20の双方の穴部40a、41aに対して小面積で重畳し、温水入口パイプ19の開口面積A1及び温水出口パイプ20の開口面積A2を双方とも絞っている2段絞りの状態(図1の微少能力時はその2段絞りの状態を模式的に示す)となり、かつ温水入口パイプ19と温水出口パイプ20の絞り部の中間部(図1のア部)は全開状態にあるバイパス用開口21によって十分大きな開口面積A3でバイパス回路5に連通しているので、この中間部アの圧力を下げることができる。
【0038】
その結果、暖房用熱交換器3前後の差圧を十分小さくできるので、弁開度(弁体回転角)の変化に対する温水流量の変化(最終的には車室内への吹出空気温度の変化)を、特別小さな開口面積を必要とせずに、緩やかすることができる。すなわち、吹出空気温度の制御ゲインを低減できる。
この制御ゲインの低減により、車室内への吹出空気温度をきめ細かく制御できるとともに、温水入口パイプ19及び温水出口パイプ20の開口面積を特別小さな開口面積に設定する必要がなくなるため、鋳砂等の異物による流量制御弁流路の閉塞を十分防止できる。
【0039】
次に、中間能力時においては、弁体13が図5の弁体開度30°〜60°の回動範囲にわたって、回動され、この弁体回動範囲では、温水入口側絞り部開口面積A1および温水出口側絞り部開口面積A2がほぼ同等の大きさで増加するとともに、バイパス側絞り部開口面積A3が次第に減少する。これにより、暖房用熱交換器3への温水流量を増加させて、吹出空気温度を次第に高める。
【0040】
このような弁体回動位置においても、上記2段絞りにより、同様に制御ゲインを低減して、車室内への吹出空気温度をきめ細かく制御できる。また、絞り部開口面積の増加により、鋳砂等の異物による流路閉塞の恐れがなくなるので、この状態では、温水入口側の絞り部開口面積A1と温水出口側の絞り部開口面積A2を同等に設定してある。
【0041】
次に、中間能力時〜大能力時においては、弁体13が図5の弁開度60°を越える回動位置から95°未満の回動位置にわたって、回動されることにより、上記両開口面積A1、A2がさらに増加するとともに、バイパス側絞り部開口面積A3が減少する。これにより、暖房用熱交換器3への温水流量をさらに増加させて、吹出空気温度を高める。
【0042】
ところで、自動車用空調装置の温水供給源をなすエンジン1は、自動車の走行条件の変化に伴って回転数が大幅に変化するので、エンジン1からの温水供給圧は走行条件の変化により大幅に変化し、これが流量制御弁4による温水流量制御、ひいては吹出空気温度制御に対する大きな外乱要素となる。
そこで、本実施形態にあっては、エンジン1からの温水供給圧の変化による暖房用熱交換器3への温水流量の変動をバイパス回路5に定差圧弁6を設けるとともに、バイパス回路5側の最小通水面積の確保により良好に解消している。
【0043】
以下、この点について詳述すると、定差圧弁6においては、エンジン1からの温水供給圧が上昇して、弁体30前後の差圧がスプリング32により定まる所定圧より高くなると、弁体30が図1の下方へ移動して開弁し、弁体30と弁座33との間の隙間が上記差圧に応じて変動することより、定差圧弁6はその出入口36、37間の圧力差を一定値に維持するように作用する。
【0044】
しかし、実際には、従来装置に基づく図7の比較品の構成では、エンジン回転数が6000rpmのごとき高回転になったとき、定差圧弁6の弁体30が最大限リフトしても(最大開度になっても)、エンジン回転の上昇に見合った量のバイパス流量をバイパス回路5側へ逃がすことができないため、図9に示すごとく熱交換器吹出空気温度が変動してしまう。
【0045】
図7の比較品の基本的構成は、図2に示す本発明の実施形態品と同一であるが、図7の比較品における、バイパス回路5側へのバイパス流量に関与する各絞り部の通水面積a〜dは、図8の左欄に示す通りであった。
この図8に示す通水面積a〜dを持った比較品について、アイドル時(エンジン回転数:750rpm)と、エンジン高回転時(エンジン回転数:6000rpm)との両方の熱交換器吹出空気温度を測定したところ、図9に示す結果が得られた。
【0046】
なお、図9および後述の図10において、横軸は定差圧弁6の弁体30のリフト量(開弁量)であり、このリフト量は弁体30を弁外部から強制的に変位させて設定したものである。
また、アイドル時の熱交換器吹出空気温度▲1▼、▲2▼は、弁体30のリフト量=0(弁体30の閉弁時)の状態における値だけを示しているが、エンジン回転数:6000rpm時の熱交換器吹出空気温度▲1▼′、▲2▼′は、弁体30の各リフト量における値を示している。
【0047】
ここで、実験に供した熱交換器3は前述した一方向流れ(全パス)タイプのコア部3cを有するものであって、熱交換器吹出空気温度▲1▼、▲1▼′は、一方向流れ(全パス)タイプのコア部3cにおける温水入口側の4か所の平均温度であり、熱交換器吹出空気温度▲2▼、▲2▼′は一方向流れ(全パス)タイプのコア部3cにおける温水出口側の4か所の平均温度である。
【0048】
また、図9、10の実験において、熱交換器3の吸込空気温度は10°Cである。
図9の実験データから理解されるように、比較品では、温水入口側の熱交換器吹出空気温度▲1▼、▲1▼′の温度差ΔTaは、定差圧弁リフト量を最大値(12mm)にしても、流量制御弁4の開度=20°のときに、+6°C、流量制御弁4の開度=30°のときに、+4°C、流量制御弁4の開度=40°のときに、+13°Cとなり、エンジン回転数上昇に伴う熱交換器吹出空気温度の変動を吸収できないことがわかる。
【0049】
この熱交換器吹出空気温度の変動は、定差圧弁4の開弁だけでは、エンジン回転数が6000rpmのごとき高回転になったとき、この回転上昇、すなわち、温水圧力上昇に見合ったバイパス流量をバイパス回路側へ逃がすことができないために発生すると考えられる。
これに対し、本実施形態品では、バイパス回路5側へのバイパス流量に関与する各絞り部の通水面積a〜dを、図8の右欄に示す通り設定して、熱交換器吹出空気温度の変動を測定したところ、図10に示す結果が得られた。
【0050】
本実施形態品では、バイパス回路5側の各絞り部の通水面積a、c、dをそれぞれ上記比較品よりも拡大しているため、流量制御弁4の開度=20°のときは、定差圧弁リフト量が1、25mmになると、エンジン回転数:6000rpm時の熱交換器吹出空気温度▲1▼′、▲2▼′をアイドル時の熱交換器吹出空気温度▲1▼、▲2▼まで引き下げることができる。
【0051】
また、流量制御弁4の開度=30°のときは、定差圧弁リフト量が1.37mmになると、エンジン回転数:6000rpm時の熱交換器吹出空気温度▲1▼′、▲2▼′をアイドル時の熱交換器吹出空気温度▲1▼、▲2▼まで引き下げることができる。さらに、流量制御弁4の開度=40°のときは、定差圧弁リフト量が2.6mmになると、エンジン回転数:6000rpm時の熱交換器吹出空気温度▲1▼′、▲2▼′をアイドル時の熱交換器吹出空気温度▲1▼、▲2▼まで引き下げることができる。
【0052】
つまり、本実施形態品では、上記した定差圧弁リフト量=1.25mm、1.37mm、2.6mmがそれぞれ流量制御弁4の開度=20°、30°、40°における熱交換器吹出空気温度の変動を吸収可能なリフト量となる。
次に、図11は上記した熱交換器吹出空気温度の変動を吸収可能なリフト量に基づいて算出されるバイパス回路5側の必要最小通水面積SO、およびこの必要最小通水面積SOと温水入口パイプ19の断面積S1との比(%)を縦軸にとり、横軸に流量制御弁4の開度θを取ったものである。ここで、温水入口パイプ19は、直径φ=13mmのものである。
【0053】
図11から理解されるように、バイパス回路5側の必要最小通水面積SOは、熱交換器吹出空気温度の制御領域では、流量制御弁4の開度θの増加とともに増加し、そして、弁開度θ=50°以上の領域では、バイパス回路5側の必要最小通水面積SOは略95mm2 の一定値となることが分かった。
つまり、バイパス回路5側の必要最小通水面積Sを上記95mm2 より大きい100mm2 以上とすれば、エンジン回転数の変動に起因する熱交換器吹出空気温度の変動が吸収可能となる。
【0054】
上記100mm2 の面積は、直径φ=13mmの温水入口パイプ19の断面積との比(%)でみると、75%となる。
以上のことから、バイパス回路5側の必要最小通水面積Sを、温水入口パイプ19の断面積の75%以上に設定することにより、エンジン回転数の変動による熱交換器吹出空気温度の変動が吸収可能となる。
(他の実施形態)
なお、本発明は自動車用の温水式暖房装置に限らず、暖房用熱交換器3に加わる温水圧力が変動する温水式暖房装置であれば、家庭用等の種々の用途の暖房装置にも適用できることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す温水回路図である。
【図2】本発明の一実施形態における流量制御弁と定差圧弁との一体化構成を示す断面図である。
【図3】図2のA−A矢視断面図である。
【図4】本発明の一実施形態における流量制御弁の弁体部分の分解斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態における流量制御弁の開度特性を示すグラフである。
【図6】(a)は流量制御弁の弁体とシール部材の開口形状を示す底面図、(b)は流量制御弁の弁体の円周面展開図、(c)は流量制御弁の弁体とシール部材の断面図である。
【図7】本発明の比較品を示すもので、流量制御弁と定差圧弁とを一体化した構成の断面図である。
【図8】本発明および比較品におけるバイパス回路側の絞り部通水面積を示す図表である。
【図9】比較品における、熱交換器吹出空気温度の変動の実験結果を示すグラフである。
【図10】本発明における、熱交換器吹出空気温度の変動の実験結果を示すグラフである。
【図11】本発明による、流量制御弁開度とバイパス回路側の必要最小通水面積との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1……エンジン、3……暖房用熱交換器、4……流量制御弁、5……バイパス回路、6……定差圧弁(圧力応動弁)、13、30……弁体、19…温水入口パイプ(温水入口)。
Claims (4)
- 温水供給源(1)から供給される温水と空気とを熱交換して空気を加熱する暖房用熱交換器(3)と、
この暖房用熱交換器(3)をバイパスして温水を流すバイパス回路(5)と、
このバイパス回路(5)に設けられ、前記温水供給源(1)から供給される温水の圧力上昇に応じて、前記バイパス回路(5)の開度を増大する弁体(30)を有する圧力応動弁(6)と、
前記温水供給源(1)から前記暖房用熱交換器(3)に供給される温水流量を制御するとともに、前記温水供給源(1)からの温水を前記暖房用熱交換器(3)側と前記バイパス回路(5)側とに切り替える弁体(13)を有する3方弁タイプの流量制御弁(4)とを備え、
前記流量制御弁(4)に前記温水供給源(1)からの温水を供給する温水入口(19)の断面積(S1)に対して、前記流量制御弁(4)の弁体(13)内の制御流路(170)および圧力応動弁(6)の弁体(30)の絞り部を経路して流れる前記バイパス回路(5)側温水の最小通水面積(SO)を75%以上の大きさとしたことを特徴とする温水式暖房装置。 - 前記流量制御弁(4)の弁体(13)は回動可能なロータとして構成されており、
前記圧力応動弁(6)の弁体(30)にはばね手段(32)のばね力が作用しており、このばね力に抗して前記弁体(30)のリフト量が温水圧力の増加に応じて増加するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の温水式暖房装置。 - 前記流量制御弁(4)は前記弁体(13)を収納するハウジング(14)を有しており、
このハウジング(14)内に前記バイパス回路(5)および前記圧力応動弁(6)が収納され、
前記流量制御弁(4)に前記バイパス回路(5)および前記圧力応動弁(6)が一体に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の温水式暖房装置。 - 水冷式の走行用エンジン(1)を有する自動車に搭載され、前記温水供給源が前記水冷式の走行用エンジン(1)であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の温水式暖房装置。
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