JP3675874B2 - 水性エマルジョン - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は水性エマルジョンに関する。さらに詳しくは、高速塗工性、耐水性および低温放置安定性に優れる水性エマルジョンに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)はエチレン性不飽和単量体、特に酢酸ビニルなどのビニルエステルの乳化重合用保護コロイドとして一般的に用いられている。PVAを保護コロイドに用いて乳化重合して得られたポリビニルエステルを分散質とする水性エマルジョンは、紙、木工およびプラスチックなどの各種接着剤;含浸紙および不織製品などの各種バインダー;モルタル混和剤、モルタル打継ぎ材、塗料、紙加工および繊維加工などの多くの分野で用いられている。
【0003】
乳化重合用分散剤に用いるPVAとしては、けん化度98モル%程度の“完全けん化PVA”とけん化度88モル%程度の“部分けん化PVA”が知られている。完全けん化PVAを分散剤に使用して乳化重合して得られたエマルジョンは、耐水性および流動性(高速塗工性)は比較的良好であるが、水性エマルジョンを低温に放置すると粘度上昇が著しく、ゲル化し易いという問題がある。一方、部分けん化PVAを分散剤に使用して乳化重合して得られたエマルジョンは、低温放置時における粘度上昇やゲル化傾向は改善されるが、皮膜の耐水性が低く、流動性の低下(塗工速度の変化に伴う粘度変化および高速塗工時における液の飛散)などの問題がある。
上記の問題点を改良するために、完全けん化PVAと部分けん化PVAの併用、完全けん化PVAと部分けん化PVAの中間的なけん化度のPVAの使用等が行われているが、皮膜の耐水性、高速塗工性、エマルジョン粘度の小さい温度依存性およびエマルジョンの低温放置安定性を同時に満足するものは見出されていない。また、皮膜の耐水性を向上させるために部分けん化PVAを分散剤に用いて乳化重合して得られたエマルジョンに、尿素樹脂や各種架橋剤の添加も行われているが、この場合には皮膜の耐水性はある程度改良されるが、粘度が上昇して使用時の作業性が低下するという問題がある。また、皮膜の耐水性およびエマルジョン粘度の小さい温度依存性を改良するために、炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜10モル%含有する変性PVAからなる乳化重合用分散剤が知られているが、耐水性および流動性(高速塗工性)が同時に優れる水性エマルジョンが得られていない(特開平6−80709号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、PVAを保護コロイドとする水性エマルジョンの特長(高粘度、良好な機械的安定性、良好な作業性、高い初期接着力など)を損なうことなく、流動性(高速塗工性)、耐水接着性および低温放置安定性に優れた水性エマルジョンを提供することにある。
さらに、本発明の目的は、特に耐水接着性に優れた接着剤を提供することにある。さらに、本発明の目的は、上記の良好な物性を有する水性エマルジョンが得られる乳化重合用分散剤を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、分散剤がエチレン単位含有量2〜9モル%及びけん化度95モル%以上の変性ポリビニルアルコールであり、分散質がエチレン性不飽和単量体の重合体である水性エマルジョンであって、▲1▼上記変性ポリビニルアルコールは、その1重量%水溶液(20℃)の表面張力が52〜61dyne/cmを示し、かつ▲2▼30℃,20rpmのB型粘度を5,000〜10,000mPa・S(ミリパスカル・秒)に調製した場合の30℃,2rpmのB型粘度(η2rpm)と30℃,20rpmのB型粘度(η20rpm)の比(η2rpm/η20rpm)が1〜1.8である水性エマルジョンおよび該水性エマルジョンからなる接着剤を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明において分散剤として用いられる変性PVAは、エチレン単位含有量2〜9モル%(好ましくは3〜8モル%)及びけん化度95モル%以上(好ましくは95〜99.5モル%、より好ましくは96〜99.5モル%)である。
エチレン含有量が2モル%未満の場合には、皮膜の耐水性および低温放置安定性が低下し、エチレン含有量が9モル%より大の場合には、水溶性が低下し、安定な水性エマルジョンが得られない。けん化度が95モル%未満の場合には、流動性および皮膜の耐水性が低下し、けん化度が99.5モル%より大の場合には、乳化重合が困難となり、得られた水性エマルジョンの低温放置安定性が低下する。変性PVAの粘度平均重合度(以下、重合度と略記する)は、100〜8000が好ましく、300〜3000がより好ましい。重合度が100未満の場合には、保護コロイドとしての機能が低下し、重合度が8000より大の場合には、変性PVAの工業的な製造が難しい。
本発明の水性エマルジョンを得るためには、分散剤として用いる変性PVAの界面活性が重要であり、変性PVAの1重量%水溶液(20℃)の表面張力が52〜61dyne/cmであることが必要である。表面張力が61dyne/cmより大の場合には、界面活性が低下し、安定なエマルジョンが得られない。表面張力が52dyne/cm未満の場合には、界面活性が高すぎるために流動性に優れたエマルジョンが得られない。
なお、本発明の水性エマルジョンにおける分散剤としては、前述の変性PVAが用いられるが、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知のアニオン性、ノニオン性あるいはカチオン性の界面活性剤や、PVA、ヒドロキシエチルセルロースなどを併用することもできる。
【0007】
本発明における変性PVAは、ビニルエステルとエチレンとの共重合体をけん化することにより得られる。
ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、酢酸ビニルが好ましい。
【0008】
本発明の変性PVAは、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体をエチレンと共重合し、それをけん化することによって得られる末端変性PVAも用いることができる。本発明の変性PVAは、エチレンのみによる変性が最も好ましい。エチレン以外のコモノマーにより、本発明の変性PVAをさらに変性する場合には、該コモノマーの含有量は1モル%未満が好ましく、0.5モル%未満がより好ましく、0.1モル%未満がさらにより好ましい。
【0009】
本発明における分散質であるエチレン性不飽和単量体の重合体としては各種のものがある。分散質である重合体の原料であるエチレン性不飽和単量体の好ましい例としては、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン;塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオリドなどのハロゲン化オレフィン;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル;アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびそれらの四級化物;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩などのアクリルアミド系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびそのナトリウムまたはカリウム塩などのスチレン系単量体;N−ビニルピロリドン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体が挙げられ、これらは単独あるいは二種以上併用して用いられる。
上記のエチレン性不飽和単量体の中でも、ビニルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、スチレンおよびジエン系単量体が好ましく、特にビニルエステルの単独使用、エチレンとビニルエステルとの併用およびビニルエステルと(メタ)アクリル酸エステルの併用が好適である。
【0010】
本発明の水性エマルジョンは、30℃,20rpmのB型粘度(ブルックフィールド型粘度)を5,000〜10,000mPa・S(η20rpm)に調製した場合における30℃,2rpmのB型粘度(η2rpm)と30℃,20rpmのB型粘度(η20rpm)の比(η2rpm/η20rpm)が1〜1.8(好ましくは1〜1.4倍、より好ましくは1〜1.3倍)である。
η2rpm/η20rpm(以下、構造粘性値という)が1.8より大の場合には、エマルジョンの塗工速度が変動した場合に塗工量の変動が大きくなり、皮膜の耐水性が低下する場合がある。
なお、B型粘度5,000〜10,000mPa・Sの粘度範囲においては、構造粘性値は実質的に一定となることから、本発明においては、該粘度範囲の少なくとも1点において、構造粘性値が1〜1.8であれば良い。
【0011】
本発明の水性エマルジョンの構造粘性値を測定するために、30℃,20rpmのB型粘度を5,000〜10,000mPa・S(η20rpm)に調製する方法としては、以下の寸法が好ましい。
(1)水性エマルジョンの粘度が高い場合
水性エマルジョンの濃度および粘度を測定しながら、水を添加して希釈し、水性エマルジョンの濃度と粘度の関係を測定することにより、目的とする粘度に調整する。
(2)水性エマルジョンの粘度が低い場合
水性エマルジョンの濃度および粘度を測定しながら、減圧エバポレーターにより、濃縮することにより、水性エマルジョンの濃度と粘度の関係を測定することにより、目的とする粘度に調整する。
なお、本発明において特定された30℃,20rpmのB型粘度5,000〜10,000mPa・Sは、水性エマルジョンを工業的に塗工する場合の標準的な粘度である。
【0012】
本発明の水性エマルジョンの固型分濃度は通常40〜60重量%(好ましくは45〜55重量%)であり、分散質の粒子径は通常0.01〜5μm(好ましくは0.1〜3μm)である。
【0013】
本発明の水性エマルジョンは、前述した変性PVAを分散剤に用いて、従来公知の重合開始剤の存在下に、エチレン性不飽和単量体を一時又は連続的に添加(好ましくは連続的に添加)して、エチレン性不飽和単量体を乳化重合することにより得られる。
重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、ペルオキソホウ酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩などの公知の重合開始剤が挙げられる。これらの重合開始剤は単独で用いても良く、また、重亜硫酸ナトリウム、酒石酸、クエン酸、グルコース、L−アスコルビン酸、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、鉄イオンなどの還元剤と併用することにより、レドックス系で用いても良い。重合開始剤の使用量および使用方法としては、従来公知の使用量および使用方法で良い。
また、エチレン性不飽和単量体を、本発明の変性PVA水溶液を用いて予め乳化したものを、連続的に重合反応系に添加する方法も採用できる。
変性PVAの使用量については特に制限はないが、エチレン性不飽和単量体(重合体)100重量部に対して、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは2〜20重量部である。変性PVAの使用量が1重量部未満または30重量部より大の場合には、重合安定性が低下したり、初期接着力や耐水接着性が低下することがある。
本発明の水性エマルジョンは、上記の方法により得られた水性エマルジョンをそのまま用いることができるが、必要に応じて従来公知の各種エマルジョンを本発明の効果を損なわない範囲で併用して用いることができる。
【0014】
本発明の水性エマルジョンには、乳化重合開始前、乳化重合中または乳化重合後に、以下に示す従来公知の界面活性剤を添加しても良い。
界面活性剤としては、オレイン酸カリウム、ヒマシ油カリウム、半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム、半硬化牛脂脂肪酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルリン酸カリウム、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ビストリデシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジアミルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、イソデシルスルホコハク酸ナトリウム、スルホコハク酸ジナトリウムエトキシ化アルコール半エステル、スルホコハク酸ジナトリウムエトキシ化ノニルフェニル半エステル、N−(1,2−ジカルボキシエチル)−N−オクタデシルスルホコハク酸アミドテトラナトリウム、N−オクタデシルスルホコハク酸アミドジナトリウム、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミンなどのノニオン性界面活性剤;ステアリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルアミングアニジンポリオキシエタノール、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤;ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどの両性界面活性剤;さらに上記の界面活性剤中に二重結合を導入したラテムルS−180、S−120(以上、花王株式会社製)、アデカリアソープNE−10、アデカリアソープNE−20、アデカリアソープNE−30、アデカリアソープSE−10N(以上、旭電化株式会社製)、エレミノールJS−2(三洋化成株式会社製)、アクアロンRN−20、アクアロンHS−10(以上、第一工業製薬株式会社製)などの反応性界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤を添加する場合の添加量としては、単量体(分散質の重合体)100重量部に対して0〜10重量部(好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、さらにより好ましくは1〜5重量部)が挙げられる。
【0015】
本発明の水性エマルジョンには、乳化重合中または乳化重合後に、以下に示す従来公知の可塑剤あるいは造膜助剤を添加しても良い。
可塑剤あるいは造膜助剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジアミルフタレート、ジブチルフタレート(DBP)、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジイソブチル、セバチン酸ジブチル、ジメチルグリコールアジペート、ジエチルグリコールアジペート、ジブチルグリコールアジペート、ジメチルグリコールセバテート、ジエチルグリコールセバテート、ジメチルグリコールフタレート、ジエチルグリコールフタレート、ジブチルグリコールフタレート、トリクレシルホスフェート、、ジオクチルフタレート、テキサノール、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、ベンジルアルコール、ブチルカービトールアセテート、ブチルカービトール、3−メチル−3−メトキシブタノール、エチレングリコール、アセチレングリコールブチルセロソルブ、エチレンセロソルブ、塩化ビフェニールが挙げられる。
可塑剤あるいは造膜助剤を添加する場合の添加量としては、単量体(分散質の重合体)100重量部に対して0〜200重量部(好ましくは1〜100重量部、より好ましくは5〜20重量部)が挙げられる。
【0016】
本発明の水性エマルジョンには、乳化重合後に、以下に示す従来公知の充填剤、フィラーあるいは顔料を添加しても良い。
充填剤、フィラーあるいは顔料としては、炭酸カルシウム、カオリンクレー、ロウ石クレー、タルク、酸化チタン、酸化鉄、パルプ、各種樹脂粉末、マイカ、セリサイト、ベントナイト、アスベスト、けい酸カルシウム、けい酸アルミニウム、けいそう土、けい石、無水ケイ酸、含水ケイ酸、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、カーボンブラックが挙げられる。
充填剤、フィラーあるいは顔料添加する場合の添加量としては、分散質の重合体100重量部に対して1〜200重量部(好ましくは20〜150重量部、より好ましくは50〜150重量部)が挙げられる。
【0017】
本発明の水性エマルジョンには、乳化重合後に、以下に示す従来公知の増量剤を添加しても良い。
増量剤としては、カゼイン、グルー、ゼラチン、グルテン、大豆蛋白、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、トラガカントガム、カラヤガム、グアールガム、ローカストビーンガム、アイリッシュモス、大豆レシチン、ペクチン酸、澱粉、寒天、ベントナイトクレー、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸アンモニウム、ポリビニルアルコール、変性ポリ(ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、カルボキシル化メチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサントゲン酸セルロース、カルボキシル化澱粉、オレイン酸アンモニウム、けい酸ナトリウムが挙げられる。
増量剤添加する場合の添加量としては、分散質の重合体100重量部に対して0.1〜100重量部(好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜20重量部)が挙げられる。
【0018】
以下において、本発明の水性エマルジョンの好適な用途である接着剤について説明する。
本発明の接着剤は、基本的には上記の水性エマルジョンからなるが、必要に応じて、その乾燥性、セット性、粘度、造膜性などを調整するために、トルエン、パークレン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどの各種有機溶剤;でんぷん、変性でんぷん、酸化でんぷん、アルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、無水マレイン酸−イソブテン共重合体、無水マレイン酸−スチレン共重合体、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体などの水溶性高分子;尿素−ホルマリン樹脂、尿素−メラミン−ホルマリン樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂などの一般に接着剤として使用されている熱硬化性樹脂を適宜併用することができる。
さらに、本発明の接着剤には、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、木粉などの充填剤;小麦粉などの増量剤;ホウ酸、硫酸アルミニウムなどの反応促進剤;酸化チタンなどの顔料、消泡剤、分散剤、凍結防止剤、防腐剤、防錆剤などの各種添加剤を適宜添加することができる。
【0019】
【実施例】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。また、得られたエマルジョンの構造粘性値(高速塗工性、粘度の剪断速度依存性)、耐水接着性および低温放置安定性は、下記の方法で評価した。
【0020】
(1)構造粘性値
本発明の水性エマルジョンの粘度が高い場合には水を添加し、水性エマルジョンの粘度が低い場合には減圧エバポレーターにより濃縮することにより、30℃,20rpmにおけるB型粘度を5,000〜10,000mPa・Sに調整し、B型粘度計により、30℃,2rpmの粘度(η2rpm)と30℃,20rpmの粘度(η20rpm)を測定し、次式により水性エマルジョンの構造粘性値を求めた。
水性エマルジョンの構造粘性値=η2rpm/η20rpm
構造粘性値(η2rpm/η20rpm)が1〜1.8のエマルジョンは、ニュートニアン粘性を有しており、塗工性が良好であり、高速塗工が可能となる。
【0021】
(2)耐水接着性
水性エマルジョンの固形分100部あたり、ジブチルフタレート10部を配合して組成物を調整し、ライナー紙にバーコーターによって、該組成物を50g/m2(wet塗布量)塗布し、ただちに同種のライナー紙を貼り合わせ、ハンドローラーによって軽く圧締、接着し、20℃、相対湿度(RH)65%下にて24時間養生して試験体とした。
上記試験体を30℃の水中に24時間浸漬後、試験体をT字剥離して剥離状態を観察して評価した。
その結果を下記の記号で示す。
◎:ライナー紙の材破率75%以上
○:ライナー紙の材破率20〜50%
△:接着層における界面剥離
×:自然剥離(応力をかけないでも剥離した)
【0022】
(3)低温放置安定性
上記(1)の構造粘性値測定用に粘度調整した水性エマルジョンを100mlのガラス製サンプル管にいれ、0℃で1日間放置し、0℃で1日間放置後の粘度(η0deg)と放置前の30℃の粘度(η30deg)との比(低温増粘倍率=η0deg/η30deg)求めた。測定は、B型粘度計(20rpm)を用いて、0℃および30℃で行った。
その結果を下記の記号で示す。
◎:η0deg/η30deg=5.5〜6.4
○:η0deg/η30deg=7〜10
△:η0deg/η30deg=11〜19
×:η0deg/η30deg≧20
【0023】
(4)表面張力
変性PVAの20℃,1%水溶液を調製して60分間静置した後、ウィルヘルミー法(プレート法)により、表面張力を測定した。
【0024】
実施例1
(エチレン変性PVAの製造)
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100リットルの加圧反応槽に酢酸ビニル50kgおよび、メタノール9.2kgを仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングすることにより系内を窒素置換した。次いで反応槽圧力が6kg/cm2になるようにエチレンを仕込み、開始剤として2、2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の濃度1.4g/リットルの溶液を調製し、窒素バブリングすることにより窒素置換した。反応槽の内温を60℃に調整した後、開始剤溶液56mlを注入し、重合を開始した。重合中はエチレンを導入して、反応槽内の圧力6kg/cm2および重合温度60℃に維持し、開始剤溶液を180ml/hrで連続添加した。6時間後に重合率が40%に達したところで冷却して重合を停止した。反応槽を常圧にして脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下において、未反応の酢酸ビニルモノマーを除去し、メタノール溶液とした。次に、20%に調整した変性ポリビニルエステル(PVAc)のメタノール溶液にモル比0.05のNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られた変性PVAのけん化度は98.0モル%であった。変性PVAの1%水溶液の表面張力を20℃で測定したところ57.9dyne/cmであった。
また、未反応の酢酸ビニルモノマーを除去して得られた変性PVAcのメタノール溶液をn−ヘキサンで沈殿させ、、アセトンで溶解する再沈−精製を3回行った後、60℃で減圧乾燥することにより、精製した変性PVAcを得た。変性PVAcのアルカリ消費量の測定により求めたエチレン含有量は5.5モル%であった。変性PVAcのメタノール溶液をアルカリモル比0.2でけん化した後、メタノールソックスレーを3日間行い、乾燥することにより精製した変性PVAを得た。変性PVAの重合度をJIS−K6726に準じて測定したところ、1400であった。また変性PVAの融点を測定したところ224℃であった。
【0025】
(酢酸ビニルの乳化重合)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素導入口を備えた5リットルのガラス製重合容器に、イオン交換水1400g、エチレン変性PVA(重合度1400、けん化度98.0モル%、エチレン含有量5.5モル%)225gを仕込み95℃で完全に溶解した。次に、変性PVA水溶液を冷却後pHを4に調整し、塩化第一鉄0.05gを添加し、窒素置換した後、140rpmで撹拌しながら酢酸ビニル350gを仕込み、60℃に昇温した。次に、0.7%の過酸化水素水を15ml/hrで、6%のロンガリット水溶液を10ml/hrで連続添加しながら、70〜80℃で重合を行った。重合開始30分後から酢酸ビニル1400gを3時間にわたって連続的に添加した。添加終了後、内温を80℃に1時間保持し重合を完結させた。固形分濃度50.4%、粘度23000mPa・Sの安定なポリ酢酸ビニルの水性エマルジョンが得られた。この水性エマルジョンについて、30℃,20rpmにおける水性エマルジョン粘度が5,000〜10,000mPa・Sの範囲に調整し、構造粘性値および低温放置安定性を評価した。
その結果を表1および表2に示す。
【0026】
実施例2〜8
表1に示す分散剤及び重合条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして酢酸ビニルの乳化重合を行い、得られた水性エマルジョンを評価した。
その結果を表1および表2に示す。
【0027】
実施例9
還流冷却器、滴下ロート、温度計および窒素吸込口を備えた1リットルのガラス製重合容器に、イオン交換水400g、エチレン変性PVA(重合度1400、けん化度98.5モル%、エチレン含有量4.5モル%)40gを仕込み95℃で完全に溶解した。次に、この変性PVA水溶液を冷却し、窒素置換した後、140rpmで撹拌しながら酢酸ビニル40gを仕込み、60℃に昇温した。次に、過酸化水素−酒石酸のレドックス開始剤の存在下で重合を開始した。重合開始15分後から酢酸ビニル360gを3時間にわたって連続的に添加し、重合を完結させた。固形分濃度50.4%、粘度4500mPa.Sの安定なポリ酢酸ビニルの水性エマルジョンが得られた。
得られた水性エマルジョンの評価結果を表1および表2に示す。
【0028】
実施例10
エチレン変性PVA(重合度1750、けん化度98.7モル%、エチレン含有量3.0モル%)21gをイオン交換水290gに加熱溶解し、それを窒素吸込口および温度計を備えた耐圧オートクレーブ中に仕込んだ。希硫酸でpH=4に調製後、酢酸ビニル300gを仕込み、次いでエチレンを45kg/cm2Gまで昇圧した(エチレン共重合量は60gに相当)。温度を60℃まで昇温後、過酸化水素−ロンガリット系レドックス開始剤で重合を開始した。2時間後、残存酢酸ビニル濃度が0.6%となったところで重合を終了した。固形分濃度52.6%、粘度6300mPa.Sの安定なポリ(エチレン−酢酸ビニル)共重合体の水性エマルジョンが得られた。
得られた水性エマルジョンの評価結果を表1および表2に示す。
【0029】
実施例11 還流冷却器、滴下ロート、温度計および窒素吸込口を備えた1リットルのガラス製重合容器に、イオン交換水400g、エチレン変性PVA(重合度1000、けん化度95.0モル%、エチレン含有量6.0モル%)36gを仕込み、95℃で完全溶解した。次に、この変性PVA水溶液を冷却し、窒素置換した後、140rpmで撹拌しながら、酢酸ビニル32gおよびアクリル酸n−ブチル8gを仕込み、70℃に昇温した後、過硫酸カリウムを開始剤として重合を開始した。重合開始によって発熱が確認された後、酢酸ビニル288gおよびアクリル酸n−ブチル72gを3時間かけて連続的に添加し、重合を完結させた。固形分濃度50.0%、粘度2000mPa・Sの安定なポリ(酢酸ビニル−アクリル酸n−ブチル)共重合体の水性エマルジョンが得られた。得られた水性エマルジョンの評価結果を表1および表2に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
比較例1〜12
表3に示す分散剤及び重合条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして酢酸ビニルの乳化重合を行い、得られた水性エマルジョンを評価した。
その結果を表3および表4に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
実施例9A〜11A
実施例9〜11により得られた水性エマルジョン(実施例9A:実施例9により得られた水性エマルジョンを使用、実施例10A:実施例10により得られた水性エマルジョンを使用、実施例11A:実施例11により得られた水性エマルジョンを使用)を用いて下記の方法により、紙用接着剤、木工用接着剤およびプラスチック用接着剤としての評価を行った。
その結果を表5〜7に示す。
【0036】
(1)紙用接着剤としての評価
バーコーターを用いて、クラフト紙に接着剤を20g/m2(wet塗布量)塗布し、ただちに同様のクラフト紙を貼り合わせ、ハンドローラーによって軽く圧締、接着し、20℃、相対湿度(RH)65%下にて24時間養生して試験体とした。
・耐水性試験(耐煮沸性)
上記試験体を25mm巾に切断し、未塗布部を上下に開いて上部を固定し、端に10gの重りをつけて、煮沸水中に10分間浸漬した後、接着部のはがれた長さを測定した。
【0037】
(2)木工用接着剤としての評価
以下の条件で、木−木(カバ材)を接着した試験体を作成し、接着力を測定した。
〔接着条件〕
被着材:カバ材−カバ材(マサ目)、含水率8%
塗布量:150g/m2(両面塗布)
堆積時間:1分
圧締条件:20℃、24時間、圧力10kg/cm2
〔測定条件〕
JIS K−6852に準じて圧縮剪断接着強度を測定
常態強度:20℃で7日間養生後、そのままの状態で測定
耐水強度:20℃で7日間養生後、試験片を20℃の水に3時間浸漬した後、濡れたままの状態で測定
耐温水強度:20℃で7日間養生後、試験片を60℃の温水に3時間浸漬した後、20℃の水中で冷却し、濡れたままの状態で測定
【0038】
(3)プラスチック用接着剤としての評価
以下の条件で、紙−ポリプロピレン(PP)フィルムを接着した試験体を作成し、接着力を測定した。
〔接着条件〕
被着材:クラフト紙−延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(20μm)
塗布量:30g/m2
堆積時間:0分
圧締条件:ゴムハンドローラーで軽く圧締
〔測定条件〕
常態:20℃で7日間養生後、手で剥離し、剥離状態を観察した。
耐水:20℃で7日間養生後、20℃の水中に24時間浸漬後、手で剥離し、剥離状態を観察した。
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
【発明の効果】
本発明の水性エマルジョンは、構造粘性(流動性、高速塗工性)、皮膜の耐水性および低温放置安定性に優れており、紙用、木工用およびプラスチック用の接着剤;含浸紙用、不織製品用のバインダー;モルタルの混和剤、モルタルの打継ぎ材、塗料、紙加工および繊維加工などの分野で好適に用いられる。
Claims (3)
- 分散剤がエチレン単位含有量2〜9モル%及びけん化度95モル%以上の変性ポリビニルアルコールであり、分散質がエチレン性不飽和単量体の重合体である水性エマルジョンであって、▲1▼上記変性ポリビニルアルコールは、その1重量%水溶液(20℃)の表面張力が52〜61dyne/cmを示し、かつ▲2▼30℃,20rpmのB型粘度を5,000〜10,000mPa・Sに調製した場合の30℃,2rpmのB型粘度(η2rpm)と30℃,20rpmのB型粘度(η20rpm)の比(η2rpm/η20rpm)が1〜1.8である水性エマルジョン。
- η 2rpm /η 20rpm が1〜1.4である請求項1記載の水性エマルジョン。
- 請求項1または2記載の水性エマルジョンからなる接着剤。
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