JP4628534B2 - 水性エマルジョン組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐水性および耐熱性に優れた水性エマルジョン組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)はエチレン性不飽和単量体、特に酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体の乳化重合用保護コロイドとして広く用いられており、これを保護コロイドとして用いて乳化重合して得られるビニルエステル系水性エマルジョンは紙用、木工用およびプラスチック用などの各種接着剤、含浸紙用および不織製品用などの各種バインダー、混和剤、打継ぎ材、塗料、紙加工および繊維加工などの分野で広く用いられている。
このような水性エマルジョンは、PVA系重合体のけん化度を調整することにより、一般的に粘度が低く、ニュートニアン流動に近い粘性を有し、比較的耐水性の良好なものから、一般的に粘度が高く、比較的エマルジョン粘度の温度依存性が小さいものが得られることから、種々の用途に賞用されてきた。
しかしながら、該水性エマルジョンは、例えば木工用接着剤用途に用いた場合等においては、耐水接着力が低い、接着剤粘度の経時変化が大きい、低温時のエマルジョン粘度の上昇が著しいなどの欠点を有しており、これらの性質は乳化重合に用いたPVA系重合体に依るところが大であることが知られている。
【0003】
すなわち、乳化重合用分散剤としてのPVA系重合体は、一般的にはけん化度98モル%程度のいわゆる“完全けん化PVA”とけん化度88モル%程度の“部分けん化PVA”があり、前者を使用した場合、比較的耐水性および流動性(高速塗工性)は良好なものの、低温放置時のエマルジョン粘度の上昇が著しく、ゲル化し易いという欠点がある。他方、後者のPVA系重合体を使用した場合、エマルジョンの低温時の粘度上昇やゲル化性向は改善されるものの耐水性に劣るという欠点を有している。このような欠点を改良するために、両者のPVA系重合体の併用、両者の中間的なけん化度のPVA系重合体の使用等が行われているが、耐水性、エマルジョン粘度の低温放置安定性を同時に満足することはできなかった。そこで、エチレン単位を含有するビニルアルコール系重合体が提案(特開平11−21529号公報、特開平11−21380号公報、特開平10−226774号公報等)され、耐水性と低温放置安定性が大幅に改善された。しかしながら、エチレン単位を有するPVAを用いた場合でも、高い耐水性を要求される場面では不十分な場合があり、また、得られるエマルジョンは熱可塑性樹脂であるが故に耐熱性に劣る欠点があるのが現状であった。さらに、従来、ポリ酢酸ビニル系エマルジョンにおいては造膜温度を調整する目的で可塑剤として、ジブチルフタレートが広く用いられてきた。しかし最近、ジブチルフタレートは環境に悪影響を与える可能性のある化学物質として忌避される傾向にあり、また、これを用いたエマルジョン組成物の耐水性、耐熱性等の物性も十分に満足できるものでないのが現状であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで耐水性、耐熱性に優れた水性エマルジョン組成物を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する水性エマルジョン組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、分子内にエチレン単位を3〜13モル%含有する、けん化度95モル%以上のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、ビニルエステル系単量体単位からなる重合体を分散質とする水性エマルジョン(A)およびフェニル基を含有するグリコールエーテル(B)からなり、水性エマルジョン(A)100重量部に対するフェニル基を含有するグリコールエーテル(B)の含有量が0.5〜20重量部であることを特徴とする水性エマルジョン組成物が上記目的を満足するものであることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の、例えば木工用接着剤に好適に用いられる水性エマルジョン(A)の分散剤として用いられる、分子内にエチレン単位を3〜13モル%含有する、けん化度95モル%以上のビニルアルコール系重合体は、ビニルエステルとエチレンとの共重合体をけん化することにより得ることができる。
【0007】
ここで、ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、酢酸ビニルが好ましい。
【0008】
エチレン単位の含有量としては、3〜13モル%であることが必須であり、好ましくは5〜12モル%である。エチレン単位の含有量が3モル%未満の場合には、耐水性を満足する水性エマルジョンが得られず、13モル%を越える場合には、水溶性が低下し、安定な水性エマルジョンが得られない懸念が生じる。
【0009】
また、該分散剤は本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を、エチレンと共重合し、それをけん化することによって得られる末端変性物も用いることができる。
【0010】
本発明の水性エマルジョン組成物に用いる分子内にエチレン単位を3〜13モル%含有するビニルアルコール系重合体のけん化度は、95モル%以上である。けん化度が95モル%以上のものを用いると耐水性、耐熱性に極めて優れた水性エマルジョン組成物が得られる。けん化度が95モル%未満の場合には、ビニルアルコール系重合体の水溶性が低下する恐れがある。該ビニルアルコール系重合体の重合度は、100〜8000の範囲が好ましく、300〜3000がより好ましい。重合度が100未満の場合には、PVA保護コロイドとしての特徴が発揮されず、8000を越える場合には、該PVA系重合体の工業的な製造に問題がある。
【0011】
本発明の水性エマルジョン組成物における分散質を構成するビニルエステル系単量体からなる重合体におけるビニルエステル系単量体としては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、酢酸ビニルが好ましい。
【0012】
また、本発明の特徴を損なわない範囲で、エチレン性不飽和単量体およびジエン系単量体を共重合しても構わない。このような単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオリドなどのハロゲン化オレフィン、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸およびそのエステル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸およびそのエステル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物、さらには、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩などのアクリルアミド系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびナトリウム、カリウム塩などのスチレン系単量体、その他N−ビニルピロリドンなど、また、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体が挙げられる。これらのうち、とくにエチレンをビニルエステル系単量体と共重合することはひとつの好適な態様である。
【0013】
本発明に用いる水性エマルジョン(A)の乳化重合は、分子内にエチレン単位を3〜13モル%含有するビニルアルコール系重合体(以後エチレン変性PVA系重合体と略記することがある)の水溶液を分散剤に用い、ビニルエステル系単量体を一時又は連続的に添加し、過酸化水素、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウムなどの重合開始剤を添加して、乳化重合することにより得られる。また、前記重合開始剤は還元剤と併用し、レドックス系で用いられる場合もある。その場合、通常、過酸化水素は酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどと共に用いられる。また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムは亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどと共に用いられる。
【0014】
該エチレン変性PVA系重合体の使用量については特に制限はないが、上記ビニルエステル系単量体単位からなる重合体100重量部に対して好ましくは3〜20重量部、より好ましくは5〜15重量部の範囲である。該使用量が3重量部未満および20重量部を越える場合には、重合安定性が低下したり、水性エマルジョン組成物の放置安定性が低下することがある。
【0015】
本発明に用いられるフェニル基を含有するグリコールエーテル(B)としては、フェニル基を含有するグリコールエーテルであれば特に制限されないが、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられ、商品名としては、四日市合成(株)製フェノキシエタノールS、四日市合成(株)製ポリエチレングリコールモノフェニルエーテルY-PE、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテルYG-15、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテルPH-3Eなどが挙げられる。
【0016】
水性エマルジョン(A)100重量部に対するフェニル基を含有するグリコールエーテル(B)の含有量は特に制限されないが、0.5〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部、さらに好ましくは2〜10重量部用いることが望ましい。(A)100重量部に対する(B)の含有量が0.5重量部未満の場合、低温における水性エマルジョン組成物の造膜性が低下する恐れがある。一方、20重量部をこえる場合、水性エマルジョン組成物から得られる皮膜の強度が低下する恐れがある。
【0017】
本発明では、フェニル基を含有するグリコールエーテル(B)の添加時期に特に制限はなく、乳化重合開始時に添加しても構わないし、乳化重合の終了した水性エマルジョンに配合して用いても構わないが、通常、乳化重合の終了した水性エマルジョン(A)に配合して用いる。
【0018】
本発明の水性エマルジョン組成物は、必要があれば、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョン、フィラー、可塑剤を添加して用いることができる。
なお、本発明の水性エマルジョン組成物における分散剤としては、前述のエチレン変性PVA系重合体が用いられるが、必要に応じて、従来公知のアニオン性、ノニオン性あるいはカチオン性の界面活性剤や、PVA系重合体、ヒドロキシエチルセルロースなどを併用することもできる。
【0019】
本発明の水性エマルジョン組成物は、耐水性および耐熱性に優れており、フラッシュパネル、集成材、ツキ板、合板二次加工用(練り合わせ)、一般木工等の木工用接着剤あるいは合板などの積層体を作製する際の接着剤、さらには紙管、合紙等の紙加工用接着剤などとして広く用いられる。
【0020】
【実施例】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。
【0021】
エマルジョン製造例1
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水300g、ポリビニルアルコール(以下PVAと略記する)−1(重合度1000、けん化度99.0%、エチレン変性量7.0モル%)26gを仕込み95℃で完全に溶解した。次に、このPVA水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しながら、60℃に昇温した後、酒石酸の10%水溶液を4.4gおよび5%過酸化水素水3gをショット添加後、酢酸ビニル26gを仕込み重合を開始した。重合開始30分後に初期重合終了を確認した。酒石酸の10%水溶液を0.9gおよび5%過酸化水素水3gを添加後、酢酸ビニル234gを2時間にわたって連続的に添加し、重合を完結させた。冷却後、60メッシュのステンレス製金網を用いてろ過した。以上の結果、固形分濃度47.3%のポリ酢酸ビニル系エマルジョン(Em-1)が得られた。
【0022】
エマルジョン製造例2
エマルジョン製造例1で用いたPVA−1の代わりにPVA−2(重合度1700、けん化度98.0%、エチレン変性量4.0モル%)20gを用いた他はエマルジョン製造例1と同様にして固形分濃度47.0%のポリ酢酸ビニル系エマルジョン(Em-2)が得られた。
【0023】
エマルジョン製造例3
エマルジョン製造例1で用いたPVA−1の代わりにエチレン単位を含有しないPVA−3(重合度1700、けん化度98.5%)を用いた他はエマルジョン製造例1と同様にして固形分濃度47.7%のポリ酢酸ビニル系エマルジョン(Em-3)が得られた。
【0024】
実施例1
エマルジョン製造例1で得られたエマルジョン(Em-1)100重量部に対してポリエチレングリコールモノフェニルエーテル(四日市合成(株)製Y−PE)4部を添加混合した。この水性エマルジョン組成物の評価を以下の方法により行った。結果を表1に示す。
(耐熱性、耐水性の評価)
(1)耐熱接着力(カバ材の接着)
得られた水性エマルジョン組成物をカバ材(柾目)に150g/m2塗布し、はりあわせて7kg/m2の荷重で16時間圧締し、その後、解圧し、20℃65%RH下で5日間養生した。この試験片を60℃の乾燥機中に24時間放置し、放置直後の圧縮せん断接着強度を20℃、65%RH下で測定した。
(2)耐水接着力(カバ材の接着)
得られた水性エマルジョン組成物をカバ材(柾目)に150g/m2塗布し、はりあわせて7kg/m2の荷重で16時間圧締し、その後、解圧し、20℃65%RH下で5日間養生した。養生後、60℃の温水に3時間浸漬し、ぬれたままの状態で圧縮せん断接着強度を測定した。
【0025】
実施例2
実施例1で用いたポリエチレングリコールモノフェニルエーテルを用いる代わりにエチレングリコールモノフェニルエーテル(四日市合成(株)製フェノキシエタノールS)を用いた他は実施例1と同様にして得られた水性エマルジョン組成物の評価を行った。結果を併せて表1に示す。
【0026】
実施例3
実施例1で用いたポリエチレングリコールモノフェニルエーテルを用いる代わりにプロピレングリコールモノフェニルエーテル(四日市合成(株)製PHP)を用いた他は実施例1と同様にして得られた水性エマルジョン組成物の評価を行った。結果を併せて表1に示す。
【0027】
比較例1
実施例1で用いたポリエチレングリコールモノフェニルエーテルを用いる代わりにジブチルフタレート10部を用いた他は実施例1と同様にして得られた水性エマルジョン組成物の評価を行った。結果を併せて表1に示す。
【0028】
実施例4
実施例1で用いた(Em-1)を用いる代わりにエマルジョン製造例2で得られた(Em-2)を用いた他は実施例1と同様にして得られた水性エマルジョン組成物の評価を行った。結果を併せて表1に示す。
【0029】
比較例2
実施例1で用いた(Em-1)を用いる代わりにエマルジョン製造例3で得られた(Em-3)を用いた他は実施例1と同様にして得られた水性エマルジョン組成物の評価を行った。結果を併せて表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【発明の効果】
本発明の水性エマルジョン組成物は、耐水性および耐熱性に優れており、フラッシュパネル、集成材、ツキ板、合板二次加工用(練り合わせ)、一般木工等の木工用接着剤あるいは合板などの積層体を作製する際の接着剤、紙管、合紙など紙工用の接着剤などとして広く用いられる。
Claims (4)
- 分子内にエチレン単位を3〜13モル%含有する、けん化度95モル%以上のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、ビニルエステル系単量体単位からなる重合体を分散質とする水性エマルジョン(A)およびフェニル基を含有するグリコールエーテル(B)からなり、水性エマルジョン(A)100重量部に対するフェニル基を含有するグリコールエーテル(B)の含有量が0.5〜20重量部であることを特徴とする木工用接着剤用水性エマルジョン組成物。
- ビニルアルコール系重合体の使用量が、ビニルエステル系単量体単位からなる重合体100重量部に対して3〜20重量部である請求項1に記載の木工用接着剤用水性エマルジョン組成物。
- フェニル基を含有するグリコールエーテル(B)が、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルまたはプロピレングリコールモノフェニルエーテルである請求項1または2に記載の木工用接着剤用水性エマルジョン組成物。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の木工用接着剤用水性エマルジョン組成物からなることを特徴とする木工用接着剤。
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