JP4615133B2 - ビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高粘度で、しかも耐温水接着性および放置安定性、とくに高温放置安定性に優れ、さらに皮膜化する際、造膜性、透明性にも優れるビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)はエチレン性不飽和単量体、特に酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体の乳化重合用保護コロイドとして広く用いられており、これを保護コロイドとして用いて乳化重合して得られるビニルエステル系水性エマルジョンは紙用、木工用およびプラスチック用などの各種接着剤、含浸紙用および不織製品用などの各種バインダー、混和剤、打継ぎ材、塗料、紙加工および繊維加工などの分野で広く用いられている。
このような水性エマルジョンは、PVA系重合体のけん化度を調整することにより、一般的に粘度が低く、ニュートニアン流動に近い粘性を有し、比較的耐水性の良好なものから、一般的に粘度が高く、比較的エマルジョン粘度の温度依存性が小さいものが得られることから、種々の用途に賞用されてきた。
例えば、木工用接着剤としては、より高粘度のエマルジョンが好ましく、いわゆる部分けん化PVAを保護コロイドとしたビニルエステル系水性エマルジョンが広く用いられている。部分けん化PVAを保護コロイドとしたビニルエステル系水性エマルジョンは、低温放置安定性に優れ、高粘度のものが得やすい反面、耐水性に劣る問題点を有している。一方、完全けん化PVAを保護コロイドとしたビニルエステル系水性エマルジョンは、耐水性に優れるものの、低温放置安定性に劣る問題点を有している。このような問題点を解決する目的で、特開昭63−46252号公報、特開昭64−62347号公報等において3−メチル−3−メトキシブタノールや水溶性でかつアルコール性OH基を有する化合物を含有させることが提案され、耐水性、放置安定性等が改善されているが、水溶性の化合物を配合することから、その耐水性には限界があり、また、酢ビ系エマルジョンには必須となる可塑化効果には乏しく、さらに何らかの可塑剤を配合する必要があるのが現状であった。さらには、このような化合物を添加した場合、重合中に連鎖移動をひきおこすことにより、エマルジョンの分散質すなわちポリビニルエステルの重合度が低下する。このため、温水などに浸漬した際の接着力に劣る欠点があった。
また、エチレン単位を含有するビニルアルコール系重合体を分散剤として用いることが提案(特開平11−21529号公報、特開平11−21380号公報、特開平10−226774号公報等)され、耐水性と低温放置安定性が大幅に改善された。しかしながら、エチレン単位を含有するビニルアルコール系重合体は、エチレン単位の導入により、その水溶性が低下しており、該ビニルアルコール系重合体を保護コロイドとしたエマルジョンは、60〜80℃での乳化重合時に顕著な増粘がおこる問題点があった。乳化重合時に顕著な増粘がおこると、攪拌が不良となり、安定にエマルジョンを得られない場合があり、固形分を下げ、高温時にも攪拌不良とならないよう調整する必要があった。このため得られるエマルジョンは必然的に低粘度となり、木工用接着剤など高粘度を必要とする用途には適さないのが現状であった。また、得られたエマルジョンも同様に40℃以上の高温で増粘がおこり、高温での放置安定性に問題があった。
また、エチレン単位を含有するビニルアルコール系重合体を保護コロイドとするエマルジョンは低温放置安定性に優れるため、従来部分けん化PVAが用いられていた用途にも、エチレン単位を含有するビニルアルコール系重合体の完全けん化品が用いられている。しかし、完全けん化品であるが故に、界面活性は従来の部分けん化PVAに比べて低く、得られるエマルジョンの粒子径が大きくなる。粒子径が大きくなるために、エマルジョンを皮膜化した場合、その透明性に劣るという問題点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、高粘度で、しかも耐温水接着性および放置安定性、とくに高温放置安定性に優れ、さらに皮膜化する際、造膜性、透明性にも優れるビニルエステル系樹脂エマルジョンを提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有するビニルエステル系樹脂エマルジョンを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、ビニルエステル系単量体を、60℃の水100cc中への飽和溶解度が10g以下であるグリコールエーテル化合物の存在下に乳化重合して得たビニルエステル系樹脂エマルジョンが上記目的を満足するものであることを見出した。また、ビニルアルコール系重合体として、エチレン単位を0.5モル%以上、20モル%以下含有するビニルアルコール系重合体を用いた場合、さらに好ましい性質を有するビニルエステル系樹脂エマルジョンが得られることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるビニルアルコール系重合体(以下、本発明の該重合体を、PVA系重合体と略記することがある)の製造方法としては特に制限はなく、公知の方法によりビニルエステル系重合体をけん化することにより得ることができる。また、エチレン単位を0.5モル%以上、20モル%以下含有するビニルアルコール系重合体(以下、本発明の該重合体を、低エチレン変性PVA系重合体と略記することがある)の製造方法も特に制限はなく、公知の方法によりビニルエステルとエチレンとの共重合体をけん化することにより得ることができる。
【0006】
また、ここで、ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、一般に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0007】
また、該分散剤は本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、プロピレン、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、N−ビニルピロリドン、 N−ビニルホルムアミド、 N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類が挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合するか、またはビニルエステル系単量体と他のエチレン性不飽和単量体(エチレン等)とを共重合し、それをけん化することによって得られる末端変性物も用いることができる。
【0008】
本発明において分散剤として用いるPVA系重合体のけん化度は、特に制限されないが、通常80モル%以上のものが用いられ、好ましくは85モル%以上、より好ましくは95モル%以上のものが用いられる。けん化度が80モル%未満の場合には、PVA系重合体本来の性質である水溶性が低下する懸念が生じる。該PVA系重合体の重合度(粘度平均重合度)は特に制限されないが、通常100〜8000の範囲のものが用いられ、300〜3000がより好ましく用いられる。重合度が100未満の場合には、PVA系重合体の保護コロイドとしての特徴が発揮されず、8000を越える場合には、該PVA系重合体の工業的な製造に問題がある。
また、低エチレン変性PVA系重合体におけるエチレン含量は0.5モル%以上、20モル%以下が好ましい。このような水溶性の低エチレン変性PVAを使用することにより、放置安定性、とくに低温放置安定性のより優れた、さらに耐温水接着性のより優れた水性エマルジョンを得ることが出来る。
【0009】
またPVA系重合体の使用量は特に制限されないが、ビニルエステル系樹脂エマルジョンの固形分100重量部中において、0.5〜15重量部、好ましくは1〜12重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。PVA系重合体の使用量が0.5重量部未満であると、重合安定性が低下する恐れがある。一方、15重量部を越えた場合には得られるビニルエステル系樹脂エマルジョンの耐水性が低下する懸念が生じる。
【0010】
本発明のビニルエステル系樹脂エマルジョンの分散質を構成するビニルエステル系単量体としては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、一般に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0011】
また、本発明では、ビニルエステル系単量体とエチレンとを共重合し、エチレン−ビニルエステル系樹脂エマルジョンとするのも好ましい態様の一つである。その場合、エチレン−ビニルエステル系樹脂エマルジョンのエチレン含有量は特に制限されないが、通常、3〜35重量%のものが用いられる。好ましくは、5〜30重量%である。このようなエチレン含有量のエチレン−ビニルエステル系樹脂エマルジョンを使用することにより、耐温水接着性などの性能がさらに向上する場合がある。
【0012】
また、上記分散質は、本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体またはジエン系単量体を共重合しても構わない。エチレン性不飽和単量体およびジエン系単量体から選ばれる少なくとも一種の単量体単位としては、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオリドなどのハロゲン化オレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物、さらには、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、 N,N'−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩などのアクリルアミド系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびナトリウム、カリウム塩などのスチレン系単量体、その他N−ビニルピロリドンなど、また、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体、さらに、ジビニルベンゼン、テトラアリロキシエタン、N,N'−メチレンビス−アクリルアミド、2,2'−ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、 1,3−ブチレングリコールジアクリレート、 1,5−ペンタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、アリルメタクリレート、 1,4−ブタンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、メタクリル酸アルミニウム、メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸カルシウム、メタクリル酸マグネシウム、N,N'−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルクロレンデート、エチレングリコールジグリシジルエーテルアクリレート等の多官能性単量体が挙げられ、これらは単独あるいは二種以上混合して用いられる。
【0013】
本発明のビニルエステル系単量体を乳化重合する際に用いるグリコールエーテル化合物は、60℃の水100cc中への飽和溶解度が10g以下であり、好適には8g以下である。ここでグリコールエーテル化合物としては、脂肪族系または芳香族系のグリコールエーテル化合物が挙げられるが、このうち芳香族系のグリコールエーテル化合物が好適である。芳香族系のグリコールエーテル化合物としては、フェニル基を含有するグリコールエーテル化合物が好適である。フェニル基を含有するグリコールエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールジフェニルエーテル等が好ましく用いられ、商品名としては四日市合成(株)製フェノキシエタノールS、四日市合成(株)製ポリエチレングリコールモノフェニルエーテルY-PE、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテルYG-15、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテルPH-3E、東邦化学(株)製ハイソルブEPHなどが挙げられる。このようなグリコールエーテル化合物、とくにフェニル基を含有するグリコールエーテル化合物を使用することにより、後述の実施例からも明らかなように、優れた耐温水接着力を有するエマルジョンが得られる。
【0014】
グリコールエーテル化合物の添加量は特に制限されないが、ビニルエステル系樹脂エマルジョンの固形分100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜10重量部、さらに好ましくは0.2〜5重量部である。添加量が0.1重量部未満では、得られるエマルジョンの粒子径が大きくなり、透明な皮膜が得られなくなる恐れがある。一方、20重量部を越えた場合、重合安定性が低下する懸念がある。
【0015】
本発明のビニルエステル系樹脂エマルジョンの平均粒子径は特に制限されないが、通常、動的光散乱法による測定値が1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.8μm以下である。平均粒子径がこの範囲にある場合、該エマルジョンから得られる皮膜の透明性はより優れたものとなる。動的光散乱法による測定は、例えば、大塚電子(株)製のレーザーゼータ電位計ELS-8000等により行うことができる。
【0016】
本発明のビニルエステル系樹脂エマルジョンの固形分は特に制限されないが、通常、30〜70重量%、好ましくは40〜65重量%のものが用いられる。固形分が30重量%未満の場合、エマルジョンの放置安定性が低下し、2相に分離する恐れがある。70重量%をこえる場合、ビニルエステル系樹脂エマルジョンの製造が困難になる懸念が生じる。
【0017】
本発明のビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法は、ビニルエステル系単量体を乳化重合する際に、グリコールエーテル化合物、とくにフェニル基を含有するグリコールエーテル化合物の存在下に行うこと以外は、特に制限されない。例えば、反応容器中で、PVA系重合体の水溶液を分散剤に用い、該フェニル基を含有するグリコールエーテル化合物の存在下、ビニルエステル系単量体を一時又は連続的に添加し、アゾ系重合開始剤、過酸化水素、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウム等の過酸化物系重合開始剤等の重合開始剤を添加し、乳化重合する従来の方法が挙げられる。また、エチレン−ビニルエステル系樹脂エマルジョンの場合は、オートクレーブ中でPVA系重合体の水溶液を分散剤に用い、エチレン加圧し、非水溶性のグリコールエーテル化合物の存在下、乳化重合する方法が挙げられる。前記重合開始剤は還元剤と併用し、レドックス系で用いられる場合もある。その場合、通常、過酸化水素は酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどと共に用いられる。また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムは亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどとともに用いられる。
【0018】
本発明のビニルエステル系樹脂エマルジョンは、上記の方法で得られる該エマルジョンをそのまま用いることができるが、必要があれば、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョンを添加して用いることができる。また、本発明のビニルエステル系樹脂エマルジョンには、通常使用される添加剤を添加することができる。この添加剤の例としては、有機溶剤類(トルエン、キシレン等の芳香族類、アルコール類、ケトン類、エステル類、含ハロゲン系溶剤類等)、可塑剤、沈殿防止剤、増粘剤、流動性改良剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、充填剤、湿潤剤、着色剤等が挙げられる。さらには塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムおよびその水和物、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)などを添加することも可能である。
【0019】
本発明のビニルエステル系樹脂エマルジョンは、高粘度で、しかも耐温水接着性および放置安定性、特に高温放置安定性に優れ、さらに皮膜化した場合、造膜性、透明性にも優れているため、木工用接着剤、紙工用接着剤、合板/塩ビ用接着剤等の各種接着剤として特に有用であり、さらに含浸紙用、不織製品用のバインダー、混和剤、打継ぎ材、塗料、紙加工および繊維加工、コーティング剤などの分野でも好適に用いられる。
【0020】
【実施例】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。
【0021】
実施例1
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水279.2部、ポリビニルアルコール(以下PVAと略記する)−1(重合度1700、けん化度98.5モル%、エチレン変性量4モル%)19.5部を仕込み、95℃で完全に溶解した。次に、このPVA水溶液を冷却後、エチレングリコールモノフェニルエーテル(四日市合成(株)製フェノキシエタノールS)(本文記載の飽和溶解度:3.3g)2.6部を添加した。窒素置換を行い、200rpmで撹拌しながら、60℃に昇温した後、酒石酸の10%水溶液を4.4部および5%過酸化水素水3部をショット添加後、酢酸ビニル26部を仕込み重合を開始した。重合開始30分後に初期重合終了を確認した。酒石酸の10%水溶液を0.9部および5%過酸化水素水3部をショット添加後、酢酸ビニル234部を2時間にわたって連続的に添加し、重合を完結させた後、冷却した。その後、60メッシュのステンレス製金網を用いてろ過した。以上の結果、固形分濃度47.8%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの諸物性を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
(1)耐温水接着力(カバ材の接着);得られたビニルエステル系樹脂エマルジョンをカバ材(柾目)に150g/m2塗布し、はりあわせて7kg/m2の荷重で16時間圧締し、その後、解圧し、20℃65%RH下で5日間養生した。この試験片を70℃の温水に6時間浸漬し、ぬれたままの状態で圧縮せん断強度を測定した。乾燥機中に24時間放置し、放置直後の圧縮せん断接着強度を20℃、65%RH下で測定した。
(2)放置安定性;エマルジョンを60℃で1月間放置し、放置後の状態を観察した。評価結果を、○放置後も変化なし、△やや増粘が見られる、×ゲル化、で示す。
(3)皮膜透明性;エマルジョンを20℃でキャスト製膜して得た厚さ500μmの皮膜を観察し、その透明性を評価した。評価結果を、○ほぼ透明、△やや白濁、×完全に白濁、で示す。
(4)皮膜造膜性;5℃において、スライドグラス上にエマルジョン0.5gを滴下し、24時間後に乾燥皮膜の状態を観察し、以下の基準により評価を行った。○透明、△やや白濁、×完全に白濁
(5)エマルジョン粒子径;エマルジョンの動的光散乱法による平均粒子径を大塚電子製ELS-8000を用いて測定した。
(6)分散質の重合度;エマルジョンを20℃でキャスト製膜して得た厚さ500μmの皮膜をアセトンにより抽出して得たポリ酢酸ビニルの重合度をJISK6726により測定した。
(7)エマルジョン粘度;30℃で測定した。
【0022】
実施例2
実施例1で用いたエチレングリコールモノフェニルエーテルを用いる代わりに、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテル(四日市合成(株)製Y-PE)(飽和溶解度:2.5g)を用いた他は実施例1と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度48%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0023】
比較例1
実施例1で用いたエチレングリコールモノフェニルエーテルを用いなかった他は実施例1と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度47.6%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0024】
比較例2
実施例1で用いたエチレングリコールモノフェニルエーテルを乳化重合時に添加して用いる代わりに、乳化重合後に配合した他は実施例1と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度47.5%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0025】
比較例3
実施例1で用いたエチレングリコールモノフェニルエーテルを用いる代わりに、3−メチル−3−メトキシブタノール((株)クラレ製ソルフィット)(飽和溶解度:100g以上)を用いた他は実施例1と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度47.8%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0026】
実施例3
実施例1で用いたPVA−1を用いる代わりにPVA−2(重合度1700、けん化度88モル%;(株)クラレ製PVA-217)を用いた他は、実施例1と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度47.9%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0027】
比較例4
実施例3においてエチレングリコールモノフェニルエーテルを用いなかった他は実施例3と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度47.8%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0028】
実施例4
実施例1で用いたPVA−1を用いる代わりにPVA−3(重合度1700、けん化度98.5モル%;(株)クラレ製PVA-117)を用いた他は、実施例1と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度47.7%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0029】
比較例5
実施例4においてエチレングリコールモノフェニルエーテルを用いなかった他は実施例4と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度47.8%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0030】
実施例5
実施例1で用いたPVA−1を用いる代わりにPVA−4(重合度1000、けん化度99.2モル%、エチレン変性量8モル%)を用いた他は、実施例1と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度47.9%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0031】
実施例6
窒素吹き込み口、温度計、撹拌機を備えた耐圧オートクレーブにPVA−4の5.5%水溶液72.7部、エチレングリコールモノフェニルエーテル(四日市合成(株)製フェノキシエタノールS)0.4部を仕込み、60℃に昇温してから、窒素置換を行った。酢酸ビニル80部を仕込んだ後、エチレンを40kg/cm2まで加圧し、0.5%過酸化水素水溶液2部および2%ロンガリット水溶液0.3部を圧入し、重合を開始した。残存酢酸ビニル濃度が10%となったところで、エチレン放出し、エチレン圧力20kg/cm2とし、3%過酸化水素水溶液0.3部を圧入し重合を完結させた。重合中に凝集などがなく、重合安定性に優れており、固形分濃度55%、エチレン含量20重量%のエチレン−酢酸ビニル樹脂エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0032】
比較例6
実施例6で用いたエチレングリコールモノフェニルエーテルを用いる代わりに同量のイオン交換水を用いた他は、実施例6と同様にして乳化重合を行い、固形分濃度55.2%、エチレン含量20重量%のエチレン−酢酸ビニル樹脂エマルジョンが得られた。このエマルジョンの評価を実施例1と同様にして行った。結果を併せて表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
PVA−1;重合度1700、けん化度98.5モル%、エチレン単位含有量4モル%
PVA−2;重合度1700、けん化度88モル%((株)クラレ製PVA−217)
PVA−3;重合度1700、けん化度98.5モル%((株)クラレ製PVA−117)
PVA−4;重合度1000、けん化度99.2モル%、エチレン単位含有量8モル%
【0035】
【発明の効果】
本発明の方法により得たビニルエステル系樹脂エマルジョンは、高粘度で、しかも耐温水接着性および放置安定性、とくに高温放置安定性に優れ、さらに皮膜化する際、造膜性、透明性にも優れているため、各種接着剤として特に有用であり、さらに含浸紙用、不織製品用のバインダー、混和剤、打継ぎ材、塗料、紙加工および繊維加工などの分野で好適に用いられる。
Claims (6)
- ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、ビニルエステル系単量体を、60℃の水100cc中への飽和溶解度が10g以下であるグリコールエーテル化合物の存在下に乳化重合することを特徴とするビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法。
- ビニルアルコール系重合体が、エチレン単位を0.5モル%以上、20モル%以下含有するビニルアルコール系重合体である請求項1記載のビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法。
- ビニルエステル系樹脂エマルジョンが、ビニルエステル系単量体とエチレンとの共重合体エマルジョンである請求項1または2記載のビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法。
- グリコールエーテル化合物が、フェニル基を含有するグリコールエーテル化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法。
- グリコールエーテル化合物が、エチレングリコールモノフェニルエーテルである請求項1〜3のいずれかに記載のビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法。
- 請求項1〜5のいずれかの方法により得られたビニルエステル系樹脂エマルジョンからなる接着剤。
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