JP3640088B2 - 斜板式圧縮機 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は斜板式圧縮機に係り、詳しくは駆動軸と共に回転する斜板に一対のシューを介して連係した片頭ピストンが、シリンダボア内を直動することによってガス圧縮を行うようにした斜板式圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に駆動軸と共に回転する斜板に一対のシューを介して連係したピストンを有する型式の圧縮機としては、前後に対設したシリンダボア内を両頭形のピストンが直動するいわゆる両頭斜板式圧縮機が古くより知られているが、例えば特開昭60ー175783号公報に開示されているように、シューを介して斜板に連係した片頭ピストンが、一方側にのみ並設されたシリンダボア内を直動する型式の斜板式圧縮機もまた知られている。
【0003】
一方、小型軽量化に強い要求のある車両空調用圧縮機などでは、他の構成要素と共にピストンにもアルミ合金が多用されており、このアルミ合金の耐用性強化策として、例えば実開昭57−174770号公報に開示されているように、シリンダボアと摺接するピストンの全表面に低摩擦性合成樹脂を基材とした潤滑皮膜を形成することが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、シリンダボアと摺接する片頭ピストンの素地上に均一に樹脂コーティングを施したものでは、一般に耐用性の強化と共にガス漏れをなるべく抑制するようシリンダボアとの嵌合遊隙も極力小さく設定されている。
しかしながら、シューを介して斜板と連係するこの種の片頭ピストンは、圧縮機の構造上、コンロッドによって連節される揺動板式圧縮機のそれに比して嵌合長がかなり長いため、むしろ過剰ともいえるシール作用が逆にオイルを含んだブローバイガスの漏出を阻み、その結果、クランク室内のオイルが不足して摺動部分に潤滑不良を生じたり、一方、空調システム側ではオイルレートが下らないために冷房能力に支障を生じる。また、実質的に過大となっているピストンの摺動面積が消費動力に及ぼす潜在的影響も全く無視しえない問題の一つである。
【0005】
本発明は、片頭ピストンの耐用性強化と同時に、圧縮機の信頼性及び冷房能力の向上を図ることを解決すべき技術課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題解決のため、複数のボアを並設したシリンダブロックと、内部にクランク室を形成してシリンダブロックの前端を閉塞するフロントハウジングと、該シリンダブロックとフロントハウジングに支承された駆動軸と、吸入室及び吐出室を画設してシリンダブロックの後端を閉塞するリヤハウジングと、駆動軸と共に回転する斜板に一対のシューを介して連係し上記ボア内を直動する片頭ピストンとを備えた斜板式圧縮機において、上記片頭ピストンは上記ボアと摺接する嵌合面のうち、先端部に特定された有効シール長の全周域並びに圧縮、吐出時にサイドフォースが集中する下方及び側方の局限域にのみ、耐摩耗性皮膜が被装されていることを特徴としている。
【0007】
好適な態様において、上記耐摩耗性皮膜が左右両側方の局限域を含んで被装されている。
好適な態様において、上記片頭ピストンの基端部には上記クランク室の内壁と摺接するローリング防止面が形成され、上記耐摩耗性皮膜が該ローリング防止面を含んで被装されている。
【0008】
なお、上記下方及び側方とは、駆動軸心に立てた垂直線上にボア中心が符合した状態における同ボア内のピストン姿勢を基準としている。
【0009】
【作用】
すなわち、本発明の圧縮機における片頭ピストンは、ボアと摺接する嵌合面のうち、先端部に特定された有効シール長領域と、圧縮吐出時にサイドフォースが集中する局限域にのみ耐摩耗性皮膜が被装され、他の領域は素地のままに残されて、ピストンの有効径とは膜厚相当分の格差が与えられている。したがって、シール長の短縮に基づいて得られる適度のブローバイガス量が、クランク室内要素の潤滑や空調システム側のオイルレートの引下げに十分な役割を果すともに、斜板を通じてピストンに作用するモ−メント荷重の受承に必要な最小領域を除き、ピストン嵌合面の皮膜は大幅に欠落されているので、ピストンの耐用性を損うことなく摺動面積が縮小されて、消費動力の低減にも巧みに貢献することができる。
【0010】
なお、耐摩耗性皮膜が左右両側方の局限域を含んで被装されたものでは、搭載車両によって駆動軸の回転方向が逆転した場合でも即座に対応でき、また、ピストン基端部のローリング防止面にも同様に耐摩耗性皮膜を被装したものでは、ピストンのトータル的耐用度を一層高めることができる。
【0011】
【実施例】
以下、本発明を斜板式圧縮機に具体化した実施例を図面に基づいて説明する。
図1において、1はシリンダブロックであって、該シリンダブロック1の前端側はフロントハウジング2によって閉塞され、同後端側は弁板4を介してリヤハウジング3によって閉塞されるとともに、これらは通しボルト21により共締めされている。シリンダブロック1とフロントハウジング2とによって形成されるクランク室5内には軸心方向に延在する駆動軸6が収容されて、ラジアル軸受7a、7bにより回転自在に支持されている。そして該駆動軸6の前端は、例えば図示しない電磁クラッチ及び伝動機構を介して自動車エンジンに連結されている。また、シリンダブロック1には該駆動軸6を囲繞する位置に複数個のボア8が穿設されており、各ボア8には片頭ピストン9がそれぞれ往復動可能に嵌挿されている。なお、7cは軸封装置である。
【0012】
クランク室5内において、駆動軸6にはロータ10がフロントハウジング2との間にスラスト軸受11を介して同期回転可能に結合され、ロータ10の後方には斜板12が嵌合されている。そして、該斜板12はロータ10との間に介装された押圧ばね13により常に後方に向け付勢されている。
斜板12には、両端面外周側に平滑な摺動面12aが形成され、摺動面12aには半球状のシュ−14、14が当接されており、これらシュ−14、14の凸球面は片頭ピストン9の凹球面と係合されている。
【0013】
また、斜板12の摺動面12aより内方域のロータ10側には、一対のブラケット12b、12bが該斜板12の上死点位置Dを跨いで突設され、各ブラケット12b、12bにはガイドピン12c、12cの基端が固着されるとともに、各ガイドピン12c、12cの先端には球体部12d、12dが形成されている。かくして本圧縮機では、ブラケット12b、12b、ガイドピン12c、12c及び球体部12d、12dにより、ヒンジ機構Kの一部を構成している。
【0014】
斜板12の中心部には駆動軸6上で該斜板12の傾角変位を許容する屈折状の貫通孔20が設けられており、また、斜板12の下死点領域におけるロータ10側には、駆動軸6の軸心から径外方向に延在され、かつロータ10側のシュ−14を回避しつつ摺動面12aを覆蔽するカウンタウェイト15がリベットなどにより装着されている。そして該斜板12は、カウンタウェイト15よりも中心寄りの前端面12eがロータ10の後端面10aと当接することにより最大傾角が規制される一方、後端面の座繰孔部がサークリップ22と当接することにより最小傾角が規制されている。
【0015】
また、ロータ10の上部には、上記ヒンジ機構Kの残部を構成する一対の支持アーム17、17が各ガイドピン12c、12cと整合するよう軸心方向後方に突出され、各支持アーム17、17の先端部には、駆動軸6の軸心と斜板12の上死点位置Dとで決定される面と平行に、かつ駆動軸6の軸心に対して外方から近づく向きにガイド孔17a、17aが貫設されている。これらガイド孔17a、17aの向きは、斜板12の傾角変位にかかわらずピストン9の上死点位置が不動に保たれるよう設定されており、各ガイド孔17a、17a内には、それぞれガイドピン12c、12cの球体部12d、12dが摺動可能に挿入されている。
【0016】
リヤハウジング3内には、吸入室30及び吐出室31が画設され、弁板4にはボア8に対応して吸入ポート32及び吐出ポート33が開口されており、弁板4とピストン9との間に形成される圧縮室が吸入ポート32及び吐出ポート33を介して吸入室30及び吐出室31に連通されている。そして弁板4には各吸入ポート32及び吐出ポート33を開閉する図示しない吸入弁及び吐出弁が装着されている。なお、35はクランク室5と吸入圧領域(吸入室)30とを連通する絞り付抽気通路である。
【0017】
図2〜図5は、本発明の特徴的構成である片頭ピストン9を示すもので、アルミ合金を基材とした該片頭ピストン9はボア8と摺接する嵌合面のうち、先端部に特定された有効シール長Lの全周域T並びに圧縮、吐出時にサイドホースFM1、FM2が集中する下方及び側方の長手方向に延びる局限域T1 、T2 にのみ、フッソ樹脂(PTFE)からなる耐摩耗性皮膜S(細粒表示)が被装され、他の領域はマスキング等により素地のままに残されて、片頭ピストン9の有効径とは図5に示す膜厚h分の格差が与えられている。なお、ここに下方及び側方とは、駆動軸心Oに立てた垂直線X上にボア中心Pが符合した状態における同ボア8内のピストン姿勢を基準としており(図4)、図2は基準姿勢の片頭ピストンの正面図、図3は同平面図である。
【0018】
さて、ここで圧縮機の圧縮及び吐出行程の際、片頭ピストン9に作用するモ−メント荷重について説明する。
すなわち、片頭ピストン9による冷媒ガスの圧縮及び吐出行程においては、図2に示す片頭ピストン9の頸部が斜板12の回転揺動によりシュー14を介して軸線方向の圧縮力F1 と、これに直交する方向の分力F2 を受けるため、片頭ピストン9はボア8内で図示反時計回りのモ−メントMを受けることになる。その結果、圧縮行程では図3に示すように、片頭ピストン9の側方の局限域T2 にサイドホースFM2 が作用し、同時に先端部の他側方部分にもサイドホースFM2’が作用する。吐出行程においては図2に示すように、片頭ピストン9の下方の局限域T1 にサイドホースFM1が作用し、同時に先端部の上方部分にもサイドホースFM1’が作用する。
【0019】
しかしながら、上述のように圧縮、吐出行程中、片頭ピストン9にサイドホースFM1他が作用する最小局限域T1 、T2 及び先端部に特定された有効シール長Lの全周域Tは、すべて耐摩耗性皮膜Sによってカバーされ、十分な耐用性の強化が図られている。なお、ボア8との嵌合遊隙は被装された耐摩耗性皮膜Sの表層面を研削することにより適宜調整される。
【0020】
したがって、圧縮機が起動されて冷媒ガスの圧縮仕事が開始されると、有効シール長Lの短縮に基づいて得られる適度のブローバイガス量がクランク室5内に存在する摺動要素や軸封装置7cの潤滑確保に寄与する一方、空調システム側のオイルレートを引下げて冷房能力の低下を良好に防止する。しかも斜板12を通じて片頭ピストン9に作用するモ−メント荷重の受承に必要な最小局限域T1 、T2 を除き、該片頭ピストン9の嵌合面に被装された耐摩耗性皮膜Sは大幅に欠落されているので、耐用性を損うことなく実質的な摺動面積が縮小されて消費動力の低減にも巧みに貢献することができる。
【0021】
また、図5に示すように、耐摩耗性皮膜Sが上記側方の局限域T2 と対称的な他側方の局限域T3 にも同様に被装されたものでは、搭載車両により駆動軸6の回転方向Rが逆転してサイドホースFM2の作用側が転移した場合でも、兼用形として即座に対応しうる利点がある。また、局限域T1 とT2 が互いの方向に領域を拡張して一つの領域として被装されたものでは、素地の面積が減少す反面被装作業が容易となる利点がある。
【0022】
さらに図2に示すように、片頭ピストン9の基端部に大きな曲率半径を有してクランク室5の内壁と摺接するローリング防止面9aが配設されたものでは、該ローリング防止面9aにも同様に耐摩耗性皮膜Sを被装することにより、片頭ピストン9のトータル的耐用度を一層高めることができる。なお、上述した実施例は、フッソ樹脂(PTFE)からなる耐摩耗性皮膜Sについて説明したが、必ずしも樹脂皮膜に限るものでなく、例えばNi−B、又はNi−P等めっきによる金属皮膜に置換えて実施することも当然に可能である。
【0023】
【発明の効果】
以上、詳述したように本発明は、ボアと摺接する片頭ピストンの嵌合面のうち、先端部に特定された有効シール長の全周域並びに圧縮、吐出時にサイドフォースが集中する下方及び側方の局限域にのみ、耐摩耗性皮膜を被装したものであるから、適度のブローバイガス量の保証が、クランク室内要素の潤滑や冷房能力の確保に十分な役割を果すばかりでなく、実質的な摺動面積が巧みに縮小されて、皮膜による高い耐用性を堅持したまま消費動力の低減に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る圧縮機の全容を示す断面図。
【図2】同実施例に係る基準姿勢状態の片頭ピストンを示す正面図。
【図3】同実施例に係る基準姿勢状態の片頭ピストンを示す平面図。
【図4】片頭ピストンの基準姿勢を示す説明図。
【図5】図2における片頭ピストンのA−A線断面図。
【符号の説明】
1はシリンダブロック、2はフロントハウジング、3はリヤハウジング、5はクランク室、6は駆動軸、8はボア、9は片頭ピストン、9aはローリング防止面、12は斜板、14はシュー、Tは有効シール長の全周面、T1 〜T3 は嵌合面の局限域、Sは耐摩耗性皮膜

Claims (5)

  1. 複数のボアを並設したシリンダブロックと、内部にクランク室を形成してシリンダブロックの前端を閉塞するフロントハウジングと、該シリンダブロックとフロントハウジングに支承された駆動軸と、吸入室及び吐出室を画設してシリンダブロックの後端を閉塞するリヤハウジングと、駆動軸と共に回転する斜板に一対のシューを介して連係し上記ボア内を直動する片頭ピストンとを備えた斜板式圧縮機において、上記片頭ピストンは上記ボアと摺接する嵌合面のうち、先端部に特定された有効シール長の全周域並びに圧縮、吐出時にサイドフォースが集中する下方及び側方の局限域にのみ、耐摩耗性皮膜が被装されていることを特徴とする斜板式圧縮機。
  2. 上記耐摩耗性皮膜が左右両側方の局限域を含んで被装されている請求項1記載の斜板式圧縮機。
  3. 上記片頭ピストンの基端部には上記クランク室の内壁と摺接するローリング防止面が形成され、上記耐摩耗性皮膜が該ローリング防止面を含んで被装されている請求項1又は2記載の斜板式圧縮機。
  4. 上記耐摩耗性皮膜がコーティングによる樹脂皮膜である請求項1、2又は3記載の斜板式圧縮機。
  5. 上記耐摩耗性皮膜がめっきによる金属皮膜である請求項1、2又は3記載の斜板式圧縮機。
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