JP3637714B2 - 電動パワーステアリング装置の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や車両の操舵系にモータによる操舵補助力を付与するようにした電動パワーステアリング装置の制御装置に関し、特にハンドルの緊急操舵状態を検出し、電流制御値の急変を抑えることにより操舵トルクの急変を少なくする電動パワーステアリング装置の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車や車両のステアリング装置をモータの回転力で補助負荷付勢する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に補助負荷付勢するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、アシストトルク(操舵補助トルク)を正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行なっている。フィードバック制御は、電流制御値とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデュ−ティ比の調整で行なっている。
【0003】
ここで、電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図10に示して説明すると、操向ハンドル1の軸2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b,ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に結合されている。軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ20がクラッチ21、減速ギア3を介して軸2に結合されている。パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット30には、バッテリ14からイグニションキー11を経て電力が供給され、コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTと車速センサ12で検出された車速Vとに基いてアシスト指令の操舵補助指令値Iの演算を行ない、演算された操舵補助指令値Iに基いてモータ20に供給する電流を制御する。クラッチ21はコントロールユニット30でON/OFF制御され、通常の動作状態ではON(結合)されている。そして、コントロールユニット30によりパワーステアリング装置が故障と判断された時、及びイグニションキー11によりバッテリ14の電源がOFFとなっている時に、クラッチ21はOFF(切離)される。
【0004】
コントロールユニット30は主としてCPUで構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと図11のようになる。例えば位相補償器31は独立したハードウェアとしての位相補償器を示すものではなく、CPUで実行される位相補償機能を示している。コントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出されて入力される操舵トルクTは、操舵系の安定性を高めるために位相補償器31で位相補償され、位相補償された操舵トルクTAが操舵補助指令値演算器32に入力される。又、車速センサ12で検出された車速Vも操舵補助指令値演算器32に入力される。操舵補助指令値演算器32は、入力された操舵トルクTA及び車速Vに基いてモータ20に供給する電流の制御目標値である操舵補助指令値Iを決定し、操舵補助指令値演算器32にはメモリ33が付設されている。メモリ33は車速Vをパラメータとして操舵トルクに対応する操舵補助指令値Iを格納しており、操舵補助指令値演算器32による操舵補助指令値Iの演算に使用される。操舵補助指令値Iは減算器30Aに入力されると共に、応答速度を高めるためのフィードフォワード系の微分補償器34に入力され、減算器30Aの偏差(I−i)は比例演算器35に入力され、その比例出力は加算器30Bに入力されると共にフィードバック系の特性を改善するための積分演算器36に入力される。微分補償器34及び積分補償器36の出力も加算器30Bに加算入力され、加算器30Bでの加算結果である電流制御値Eが、モータ駆動信号としてモータ駆動回路37に入力される。モータ20のモータ電流値iはモータ電流検出回路38で検出され、モータ電流値iは減算器30Aに入力されてフィードバックされる。
【0005】
モータ駆動回路37の構成例を図12に示して説明すると、モータ駆動回路37は加算器30Bからの電流制御値Eに基いて電界効果トランジスタ(FET)FET1〜FET4の各ゲートを駆動するFETゲート駆動回路371、FET1〜FET4で成るHブリッジ回路、FET1及びFET2のハイサイド側を駆動する昇圧電源372等で構成されている。FET1及びFET2は、電流制御値Eに基いて決定されるデューティ比D1のPWM(パルス幅変調)信号によってON/OFFされ、実際にモータに流れる電流Irの大きさが制御される。FET3及びFET4は、デューティ比D1の小さい領域では所定1次関数式(a,bを定数としてD2=a・D1+b)で定義されるデューティ比D2のPWM信号で駆動され、デューティ比D1の大きい領域ではPWM信号の符号により決定されるモータの回転方向に応じてON/OFFされる。例えばFET3が導通状態にあるときは、電流はFET1、モータ20、FET3、抵抗R1を経て流れ、モータ20に正方向の電流が流れる。又、FET4が導通状態にあるときは、電流はFET2、モータ20、FET4、抵抗R2を経て流れ、モータ20に負方向の電流が流れる。従って、加算器30Bからの電流制御値EもPWM出力となっている。又、モータ電流検出回路38は抵抗R1の両端における電圧降下に基いて正方向電流の大きさを検出すると共に、抵抗R2の両端における電圧降下に基いて負方向の電流の大きさを検出する。モータ電流検出回路38で検出されたモータ電流値iは、減算器30Aに入力されてフィードバックされる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述のような制御装置で危険回避のような場合に、ハンドルの急操舵を行なうと、モータ印加電圧が最大値となるまでは電流が増加するが、モータ印加電圧が最大値となると、モータ起電力により電流が減少し、操舵トルクが急変して操縦者に不安感を与えるという問題があった。危険回避などのためにハンドルの急操舵を行なうと操舵トルクが増加するため、アシストトルクを発生させる必要があり、モータの能力限界を越えてモータが駆動されると図13に示すようにモータ電流値の急激な変化が発生し、その結果操舵トルクがインパルス状に変化する。即ち、図13の時点t1に急操舵が行なわれるとモータ角速度ωは同図(A)のように増加するのに対し、モータ電流iは逆起電力のために同図(B)のように急減する。これと共に操舵トルクTは図13(C)のように時間t1以後急増し、系の固有振動が励起され、同図(C)のAで示すような現象が運転者に違和感を与えてしまう。
【0007】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、危険回避などの場合におけるハンドルの緊急操舵状態を検出し、モータ角速度を定数倍して電流制御値に加えることにより操舵トルクの急変を少なくする電動パワーステアリング装置の制御装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいて演算された操舵補助指令値と、モータの電流値とから演算した電流制御値に基づいてステアリング機構に操舵補助力を与える前記モータを制御するようになっている電動パワーステアリング装置の制御装置に関するもので、本発明の上記目的は、前記モータの出力電流と端子間電圧とから前記モータの角速度を推定する角速度推定器と、前記推定された角速度に応じた所定のゲインで前記モータの角速度を定数倍する収れん性制御器とを備え、該収れん性制御器の出力である前記定数倍された角速度を前記電流制御値から減算するとともに、前記モータの出力電流及び角速度からハンドルの操舵状態を検出し、該検出された操舵状態によって前記収れん性制御器のゲインを切り換えるゲイン切換信号を出力する操舵状態検出回路をさらに備え、前記角速度が所定値以上で、かつ前記モータの出力電流が所定値以上の場合に、前記ゲイン切換信号によって前記ゲインを切り換えることによって達成される。
【0009】
【発明の実施の形態】
モータの性能を越えて制御することは無理であるため、本発明では、モータの性能を越えてモータが駆動されたときに発生する操舵トルクの急変を防ぐように制御する。図2はその様子を示すモータ電流値i対モータ角速度ωの特性であり、irは定格電流を、ωrは定格角速度をそれぞれ示している。図の太実線が本発明による角速度ω2に至るまでの軌跡を示しており、定格角速度ωr以上の急操舵を検出したときに、徐々にモータ電流を下げてモータの追従性を上げることが有効である。以上より、本発明では、電動パワーステアリング装置において危険回避などのためのハンドル急操舵状態を検出し、モータ角速度の検出値を所定ゲインにより定数倍して電流制御値に加算すると共に、所定ゲインを普通(通常)操舵時と緊急操舵時とで切換える。これにより、緊急操舵時の操舵トルクの急変を少なくすることができ、操縦者に与える不安感を軽減することができる。本発明によるゲイン切換制御は、コントロールユニット内のCPUのプログラムを変更するだけで容易に対応可能である。
【0010】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0011】
本発明ではモータ20の角速度ωを検出し、角速度ωを所定ゲインで定数倍して電流制御値に加え、普通又は緊急の操舵状態に応じてゲインを切換えるコントロールユニットの構成とする。尚、図1は図11に対応して示している。トルクセンサ10からの操舵トルクTは位相補償器31及びハンドル戻し制御器310に入力され、車速センサ12からの車速Vはハンドル戻し制御器310及び収れん性制御器311に入力されると共に、操舵補助指令値演算器320に入力され、その出力である操舵補助指令値Iはアシスト指令として加減算器321に入力される。加減算器321の出力である操舵補助指令値Irefは減算器30Aに入力され、加算器30Bからの電流制御値E及びバッテリ14の電圧Vbは端子間電圧推定器340に入力され、端子間電圧推定器340からの端子間電圧推定値Vmは推定器330内の角速度推定器331に入力される。又、モータ電流検出回路38からのモータ電流検出値iは減算器30Aに入力されると共に推定器330内の角速度推定器331に入力され、推定器330で推定された推定値PR1はハンドル戻し制御器310及び収れん性制御器311に入力され、推定値PR2はロストルク補償器312に入力され、推定値PR3は慣性補償器313に入力される。推定器330内の角速度推定器331で推定された角速度ωは、直接推定値PR1として出力されるので推定値PR1はモータ角速度ωを示している。又、角速度ωは符号器332に入力されてその符号が判定されるので、推定値PR2はモータ回転方向を示し、モータ角速度ωを近似微分器333で微分された推定値PR3はモータ角加速度を示している。ハンドル戻し制御器310から出力されるハンドル戻し信号HRは加減算器321に加算入力され、収れん性制御器311から出力される収れん性信号ASは加減算器321に減算入力され、ロストルク補償器312からのロストルク補償信号LT及び慣性補償器313からの慣性補償信号INはそれぞれ加減算器321に加算入力される。
【0012】
本発明のコントロールユニット30は操舵状態検出回路350を具備しており、モータ電流検出回路38からのモータ電流値iを入力すると共に、推定器330からの角速度ωを入力している。操舵状態検出回路350は入力されたモータ電流値i及びモータ角速度ωからハンドルの操舵状態を検出し、普通操舵及び緊急操舵に従ってゲイン切換信号GSを収れん性制御器311に入力する。本発明の目的は、モータ20の特性限界内でモータ20を使用することにあり、モータ20の特性限界は電流及び角速度の関係で決まるため、電流及び角速度によりモータ20の特性が限界に近いことを検知し、特性の限界に近いことが検知されたときにモータ電流値を下げ、より高速回転を出力できるようにする。このため、操舵状態検出回路350はトルク信号Tを用いずに、モータ電流値i及び角速度ωを用いてモータ特性の限界が近いことを検知するようになっている。
【0013】
操舵補助指令値演算器320は、予め多項式で定義した図3に示すようなアシスト特性を基に、操舵トルクT及び車速Vよりアシスト指令として操舵補助指令値Iを算出して出力し、ハンドル戻し制御器310は、中低速におけるハンドル戻り特性を改善するために、ハンドル戻り状態の時にハンドル戻し信号HRを出力してハンドルが戻る方向にアシストを行なう。収れん性制御器311は、車両のヨーの収れん性を改善するためにハンドルが振れ回る動作に対してブレーキをかけるようになっている。従って、ハンドル戻し制御器310及び収れん性制御器311には、車速センサ12からの車速Vが入力されている。ロストルク補償器312は、モータ20のロストルクの影響をキャンセルするために、ロストルク補償信号LTを出力してモータ20のロストルクの発生する方向、つまりモータ20の回転方向に対してロストルク相当のアシストを行なう。又、慣性補償器313はモータ20の慣性により発生する力相当分をアシストするものであり、慣性補償信号INを出力して慣性感又は制御の応答性の悪化を防ぐようになっている。従って、ロストルク補償器312に入力される推定値PR2はモータ回転方向を示すものであり、慣性補償器313に入力される推定値PR3はモータ角加速度を示すものとなっている。
【0014】
ところで、例えば特開平8−67262号公報に示されているように、モータ角速度ωはモータ逆起電力の推定値から求めることができる。即ち、モータ逆起電力の推定値KT・ωはモータ端子間電圧Vm及びモータ電流検出値iより、モータ端子間抵抗をRとして下記の数1で求められる。ただし、モータの角速度ωの周波数成分は、モータの電気的な応答特性に比べ十分に低いものとする。
【0015】
【数1】
KT・ω=Vm−R・i
KT:逆起電力定数
上記数1よりモータ20の角速度ωを求めることができるが、実際のモータの電気的特性と数学モデルで定義している電気的特性とに違いがある場合、モータ角速度の推定値ωはオフセットを有する方向に対して推定誤差eを生じる。尚、実際のモータではモータインダクタンスLが影響するが、インダクタンスLを無視した場合の特性を数学モデルとし、Vm=R・iで表わされる。このオフセット誤差eを有すると、推定値を用いて補正信号を発生する場合、例えば保舵状態にも拘わらずモータ20が回転していると誤判定するため、誤った補正信号を出力してしまう。実際にはモータ20の電気的特性は、製造時のバラツキや温度変動の影響を受けるために、上記オフセット誤差eの発生は免れられない。かかる問題を解決するために、図4に示すようにモータ逆起電力の推定値KT・ωに固定の不感帯DZを設定することが考えられるが、逆にモータ角速度ωの小さい領域でモータ逆起電力の推定を行ない得ないという問題がある。
【0016】
上述のようにモータ角速度ωの推定誤差eの要因は、実際のモータの電気的特性KT・ωと数学モデルで定義している電気的特性KT・ω´との差である。即ち、モータ端子間抵抗Rに対して下記数2が成立つ。
【0017】
【数2】
R=Rm+ΔRt+ΔRp
Rm:モデルの抵抗値、ΔRt:温度による抵抗値変動、ΔRp:製造バラツキ による抵抗値変動
よって、実際のモータ端子間電圧Vmは前記数1に数2を代入して
【数3】
Vm=(Rm+ΔRt+ΔRp)・i+KT・ω
で求められ、これに対し製造時のバラツキや温度変化を考慮していない数学モデルでは、次の数4となる。
【0018】
【数4】
Vm=Rm・i+KT・ω´
従って、逆起電力の推定誤差eは上記数3及び数4より
【数5】
となり、電流iに比例したオフセット誤差eを発生する。従って、例えば図5に示すような関係で電流iに比例した不感帯処理を行なうことにより、電流iが小さいときはオフセット値も小さく、それに応じて不感帯幅DZ=K・iも小さくなるため、モータ角速度ωが小さい領域でもモータ逆起電力の推定が可能である。
【0019】
ところで、PWM出力である電流制御値Eとモータ電流値iより角速度ωを推定する場合、不感帯幅DZはモータ電流値iに比例するとする。即ち、Kを定数としてDZ=K・iが成立つ。この場合、数5におけるモータ端子間電圧Vmの変動の最大値以上の値Kを比例係数として設定する。従って、角速度推定値が常にオフセット誤差eを有することはない。そして、実際のモータ角速度の小さい領域においても角速度推定器331でモータ角速度ωの推定を行なうことができる。更にモータの角速度ωと電流iの方向が一致しない場合、つまりハンドルが戻される状態の場合、下記数7のようにオフセット誤差は生じない。従って、ハンドル戻し状態が検出された場合は、不感帯補正を行なわないことが望ましい。
【0020】
【数6】
KT・ω´=KT・ω−(△Rt+△Rp)・|i|
である。そして、|i|≒0であれば、
【数7】
KT・ω´=KT・ω
となる。
【0021】
図6は推定器330でモータ20の角速度ω(回転方向及び停止状態)を検出する動作例を示しており、先ずモータ電流検出回路38でモータ電流値iを検出し(ステップS1)、バッテリ14の電圧Vb及び電流制御値Eに基いて端子間電圧推定器340で端子間電圧VmをVm=Vb・Eに従って算出する(ステップS2)。そして、角速度推定器331で角速度ωを求めると共に、前記数1を実行し(ステップS3)、角速度ω及びモータ電流値iに基いてハンドル戻し状態か否かを判断し(ステップS4)、ハンドル戻し状態であれば終了となり、ハンドル戻し状態でなければモータ逆起電力KT・ωの絶対値が不感帯幅DZ=K・i以上となっているか否かを判断するため、
【数8】
|KT・ω|−|K・i|≧0
を演算する(ステップS10)。そして、モータ逆起電力が不感帯幅以上となっている場合には、
【数9】
ω=sign(KT・ω)・(|KT・ω|−|K・i|)
の演算を実行し(ステップS12)、そうでない場合には角速度の推定値ω=0とする(ステップS11)。尚、上記数9において、逆起電力KT・ωが正の場合にはsign(KT・ω)は+1であり、逆起電力KT・ωが負の場合にはsign(KT・ω)は−1である。その後、モータ角速度ωが0であるか否かを判断し(ステップS13)、0であればモータ停止状態を検出する(ステップS17)。ω=0でなければωが正か否かを判断し(ステップS14)、例えば正であれば右方向回転と判断し(ステップS16)、負であれば左方向回転と判断する(ステップS15)。
【0022】
本発明では、モータ20の角速度ωの検出は、上述したステップS3におけるモータの角速度推定値ωを用いて行なう。モータの角速度の推定値ωは上述のようにオフセットタイプの推定誤差eを生じ、保舵しているにも拘らずモータの回転を検出してしまう欠点があるが、電流iに比例した不感帯DZ=K・iを設け、オフセット補正を行なった後はモータ角速度ωを正確に検出することができる。本発明では普通操舵時か緊急操舵時かを角速度ωに関して検出するが、その境界をモータ20の定格角速度ωrとしている。本発明では更に操舵トルクTについても普通操舵か緊急操舵かを検出するが、操舵トルクTはモータ電流値iに比例することから、操舵トルクをモータ電流値iから推定する。モータ20の定格電流値irを上限として、て定格電流irの60〜40%の範囲を緊急操舵とし、0乃至定格電流値irを普通操舵としている。
【0023】
収れん性制御器311は、推定器330で推定されたモータ角速度ωに、予め設定された所定ゲインKsで定数倍したKs・ωを収れん性信号ASとして出力し、車の収れん性を制御するために用いられている。つまり、収れん性信号ASはKs・ω+bなる関数として出力され、ゲインKsは車速Vの関数で与えられる。そして、本発明では後述の如く、ゲインKsがKs1及びKs2で切換えられるようになっており、2つの曲線がゲインKs1,Ks2の切換わり点で連続となるように定数bは与えられる。
【0024】
一方、本発明では普通操舵及び緊急操舵を検出するのに、モータ角速度ωとモータ電流値iとの関係を図7に示すような領域にしている。即ち、モータ20の定格電流値をir、定格角速度をωrとし、角速度ωを示す特性曲線Aは数1より
【数10】
ω=−R/KT・i+Vb/KT
で表わされる。そして、定常状態では左斜線で示す定格電流irよりも小さく、特性曲線Aよりも小さい領域Bで制御すると共に、緊急状態では右斜線で示す定格電流irを所定電流i3(=ir×0.6〜0.4)との間で、特性曲線Aよりも大きい領域Cで制御する。
【0025】
図8は本発明の操舵状態検出回路350の動作例を示しており、先ず上記ステップS3で求められた角速度ωを読込み(ステップS20)、角速度ωが所定値ω1(≒ωr)よりも大きくなっているか否かを判断し(ステップS21)、NOであれば普通操舵状態であるので、ゲイン切換信号GSを収れん性制御器311に入力してその収れん性制御のゲインKsを定常ゲインKs2とする(ステップS25)。一方、ステップS21で角速度ωが所定値ω1よりも大きい場合には、更にモータ電流値iを読込み(ステップS22)、モータ電流値iが所定値i1よりも大きいか否かを判断する(ステップS23)。そして、モータ電流値iが所定値i1以下であれば上記ステップS25に進み普通操舵としてゲイン切換信号GSを出力し、モータ電流値iが所定値i1よりも大きければ、ゲイン切換信号GSを収れん性制御器311に入力してその収れん性制御のゲインKsを緊急操舵時の定数Ks1とする(ステップS24)。
【0026】
この場合、Ks1>Ks2の関係があり、上記ゲインKs1及びKs2の切換えを緩やかにする場合、ゲインの切換えが始まってからの時間をtとし、ゲイン切換えが始まってからゲインKs1に到達するまでの時間をTs(任意設定)とすると、下記関係式とすれば良い。
【0027】
【数11】
t≦Tsの場合 Ks=(Ks1−Ks2)・t/Ts+Ks2
t>Tsの場合 Ks=Ks1
このように収れん性制御器311のゲインKsを普通操舵時(Ks2)と緊急操舵時(Ks1)とで切換えることで、普通操舵時には領域Bを、緊急操舵時には領域Cを使用することになる。
【0028】
【発明の効果】
以上のように本発明の電動パワーステアリング装置の制御装置によれば、モータ角速度ωが所定値ω1以上でかつモータ電流値iが所定値i1以上である場合をもって緊急操舵状態としている。緊急操舵状態が検出された場合は、収れん性制御器311のゲインKsをKs1、Ks2で切換えることにより、図9に示すように電流制御値Eの増加を抑制し、同図(B)のようにモータ電流値iが抑えられる。その結果、同図(C)のように操舵トルクTの急変が抑えられ、操縦者に与える不安感を低減することができる。図9(A)の細実線が従来の特性を示し、本発明では太実線のように変化するので急激な電流変化はなくなる。また図9(C)の細実線が従来例であり、太実線が本発明の操舵トルクTであり、トルクTの急激な変化もなくなる。又、ゲインの切換え制御はコントロールユニットのソフト的な対応で実現できるため、容易かつ経済的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による電動パワーステアリング装置におけるコントロールユニットの一例を示すブロック図である。
【図2】本発明によるモータ電流対モータ角速度の関係を示す図である。
【図3】車速をパラメータとして操舵トルク及び操舵補助指令値の関係例を示す特性図である。
【図4】モータ逆起電力とモータ角速度の関係を示す図である。
【図5】モータ電流値と不感帯幅の関係例を示す図である。
【図6】モータの各速度を検出する動作例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の動作原理を説明するための図である。
【図8】本発明の動作例を示すフローチャートである。
【図9】急操舵を行なった場合の本発明による電流制御値とモータ電流値との関係を示す図である。
【図10】電動パワーステアリング装置の一例を示すブロック構成図である
【図11】コントロールユニットの一般的な内部構成を示すブロック図である。
【図12】モータ駆動回路の一例を示す結線図である。
【図13】急操舵を行なった場合の従来の動作例を説明するための図である。
【符号の説明】
1 操向ハンドル
5 ピニオンラック機構
10 トルクセンサ
12 車速センサ
20 モータ
30 コントロールユニット
31 位相補償器
37 モータ駆動回路
38 モータ電流検出回路
330 推定器
340 端子間電圧推定器
350 操舵状態検出回路
Claims (2)
- ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいて演算された操舵補助指令値と、モータの電流値とから演算した電流制御値に基づいてステアリング機構に操舵補助力を与える前記モータを制御するようになっている電動パワーステアリング装置の制御装置において、
前記モータの出力電流と端子間電圧とから前記モータの角速度を推定する角速度推定器と、前記推定された角速度に応じた所定のゲインで前記モータの角速度を定数倍する収れん性制御器とを備え、該収れん性制御器の出力である前記定数倍された角速度を前記電流制御値から減算するとともに、
前記モータの出力電流及び角速度からハンドルの操舵状態を検出し、該検出された操舵状態によって前記収れん性制御器のゲインを切り換えるゲイン切換信号を出力する操舵状態検出回路をさらに備え、前記角速度が所定値以上で、かつ前記モータの出力電流が所定値以上の場合に、前記ゲイン切換信号によって前記ゲインを切り換えることを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。 - 前記ゲインの切換えを緩やかに行なう請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
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JP1159097A Expired - Fee Related JP3637714B2 (ja) | 1997-01-24 | 1997-01-24 | 電動パワーステアリング装置の制御装置 |
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1997
- 1997-01-24 JP JP1159097A patent/JP3637714B2/ja not_active Expired - Fee Related
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