JP3666160B2 - 電動パワーステアリング装置の制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や車両の操舵系にモータによる操舵補助力を付与するようにした電動パワーステアリング装置の制御装置に関し、特に双一次変換の離散時間系の電流制御系の出力が制限値を越えた場合のみにフィードフォワードで内部変数を補正するようにし、簡単な方法で応答の速いアンチワインドアップを行なうようにした電動パワーステアリング装置の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車や車両のステアリング装置をモータの回転力で補助負荷付勢する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に補助負荷付勢するようになっている。ここで、一般的な電動パワーステアリング装置の構成を図6に示して説明する。操向ハンドル1の軸2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b,ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に結合されている。軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ20がクラッチ21、減速ギア3を介して軸2に結合されている。パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット30には、バッテリ14からイグニションキー11を経て電力が供給され、コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTと車速センサ12で検出された車速Vとに基いてアシスト指令の操舵補助指令値Iの演算を行ない、演算された操舵補助指令値Iに基いてモータ20に供給する電流を制御する。クラッチ21はコントロールユニット30でON/OFF制御され、通常の動作状態ではON(結合)されている。そして、コントロールユニット30によりパワーステアリング装置が故障と判断された時、及びイグニションキー11によりバッテリ14の電源がOFFとなっている時に、クラッチ21はOFF(切離)される。
【0003】
コントロールユニット30は主としてCPUで構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと図7のようになる。例えば位相補償器31は独立したハードウェアとしての位相補償器を示すものではなく、CPUで実行される位相補償機能を示している。尚、コントロールユニット30をCPUで構成せず、各機能要素を独立のハードウェアで構成することも可能である。
【0004】
コントロールユニット30の一般的な機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出されて入力される操舵トルクTは、操舵系の安定性を高めるために位相補償器31で位相補償され、位相補償された操舵トルクTAが操舵補助指令値演算器32に入力される。又、車速センサ12で検出された車速Vも操舵補助指令値演算器32に入力される。操舵補助指令値演算器32は、入力された操舵トルクTA及び車速Vに基いてモータ20に供給する電流の制御目標値である操舵補助指令値Iを決定し、操舵補助指令値演算器32にはメモリ33が付設されている。メモリ33は車速Vをパラメータとして操舵トルクに対応する操舵補助指令値Iを格納しており、操舵補助指令値演算器32による操舵補助指令値Iの演算に使用される。操舵補助指令値(電流指令値)Iは減算器30Aに入力されると共に、応答速度を高めるためのフィードフォワード系の微分補償器34に入力され、減算器30Aの偏差(I−i)は比例演算器35に入力され、その比例出力は加算器30Bに入力されると共にフィードバック系の特性を改善するための積分演算器36に入力される。微分補償器34及び積分補償器36の出力も加算器30Bに加算入力され、加算器30Bでの加算結果である電流制御値Eが、モータ駆動信号としてモータ駆動回路37に入力される。モータ20のモータ電流値(電流検出値)iはモータ電流検出回路38で検出され、モータ電流値iは減算器30Aに入力されてフィードバックされる。
【0005】
モータ駆動回路37の構成例を図8に示して説明すると、モータ駆動回路37は加算器30Bからの電流制御値Eに基いて電界効果トランジスタ(FET)FET1〜FET4の各ゲートを駆動するFETゲート駆動回路371、FET1〜FET4で成るHブリッジ回路、FET1及びFET2のハイサイド側を駆動する昇圧電源372等で構成されている。FET1及びFET2は、電流制御値Eに基いて決定されるデューティ比D1のPWM(パルス幅変調)信号によってON/OFFされ、実際にモータに流れる電流Irの大きさが制御される。FET3及びFET4は、デューティ比D1の小さい領域では所定1次関数式(a,bを定数としてD2=a・D1+b)で定義されるデューティ比D2のPWM信号で駆動され、デューティ比D1の大きい領域ではPWM信号の符号により決定されるモータの回転方向に応じてON/OFFされる。例えばFET3が導通状態にあるときは、電流はFET1、モータ20、FET3、抵抗R1を経て流れ、モータ20に正方向の電流が流れる。又、FET4が導通状態にあるときは、電流はFET2、モータ20、FET4、抵抗R2を経て流れ、モータ20に負方向の電流が流れる。従って、加算器30Bからの電流制御値EもPWM出力
となっている。又、モータ電流検出回路38は抵抗R1の両端における電圧降下に基いて正方向電流の大きさを検出すると共に、抵抗R2の両端における電圧降下に基いて負方向の電流の大きさを検出する。モータ電流検出回路38で検出されたモータ電流値iは、減算器30Aに入力されてフィードバックされる。
【0006】
また、モータ印加電圧の制御を行なう電流制御系を比例積分形とした例として、特開平8−142886号公報に示される制御装置がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述の従来の電動パワーステアリング装置では、モータ印加電圧の制御を行なう比例積分形の電流制御系は、アナログ回路又はデイジタル計算機により実現されるが、電流制御系をデイジタル計算機で実現した場合には、その出力が最大値を越えた場合に制限値を出力するリミッタを設けている。モータ駆動回路37ではFETをPWM駆動しており、PWMのデユーティ比のように最大値が存在するからである。そして、リミッタを設けた場合には積分ワインドアップを防ぐため、アンチワインドアップ制御を行なうようにしている。しかしながら、従来のアンチワインドアップ制御では、リミッタの前後の値の差を積分項にフィードバックするため計算負荷が大きく、高価な高速コンピュータを用いなければならないという問題があった。
【0008】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、電動パワーステアリング装置の電流制御系をデイジタル計算機で構成し、電流制御系の出力が制限値を越えた場合だけフィードフォワードで内部変数を補正するようにし、簡単な方法で応答の速いアンチワインドアップを行なうようにした電動パワーステアリング装置の制御装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ハンドルの操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記ハンドルと一体的に設けられたステアリングシャフトを補助負荷付勢するモータと、前記操舵トルクの大きさに応じて前記モータを駆動するコントロールユニットとを具備した電動パワーステアリング装置の制御装置に関するもので、本発明の上記目的は、前記コントロールユニットが、操舵補助力を制御するためにモータ電流のフィードバック制御を行なう積分項を含むデイジタル形演算器を有し、前記デイジタル形演算器の出力Y(k)が所定の制限値Ymaxを越えたときに、前記デイジタル形演算器の内部変数を補正する補正手段を具備することによって達成される。又、前記デイジタル形演算器を、制御係数b1及びb2、中間変数W(k)及びW(k−1)、フォワードシフトオペレータをZとする双一次変換の離散時間系とすることにより、そして、更に前記補正手段が前記中間変数W(k−1)に対して、電流指令値と電流検出値との偏差をe(k)として、
Y(k)>Ymaxの場合
W(k−1)={Ymax−b1・e(k)}/(b1+b2)
Y(k)<−Ymaxの場合
W(k−1)={−Ymax−b1・e(k)}/(b1+b2)
なる補正を行なうことによって、より効果的に達成される。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0011】
本発明では、図6に対応させて示す図1に示すように、操舵補助指令値演算器32からの操舵補助指令値(電流指令値)Iと、モータ電流検出回路38からのモータ電流値(電流検出値)iとの偏差e(k)を比例積分制御する電流制御系40を設けると共に、電流制御系40の出力Y(k)を制限値Ymaxでリミットするリミッタ50を設けている。電流制御系40は、双一次変換の離散時間系となっている。
【0012】
電流制御系40の詳細は図2に示すようになっており、加算器41からの中間変数W(k)は制御変数b1を乗算されて加算器42に与えられると共に、フォワードシフトオペレータZの1サンプリング前を示すZ−1に与えられる。1サンプリング前のオペレータZ−1からの中間変数W(k−1)は加算器41に入力されると共に、制御変数b2を乗算して加算器42に与えられる。加算器42の出力Y(k)は制限値Ymaxのリミッタ50に入力され、リミッタ50の出力Eが電流制御値(モータ印加電圧)Eとなっている。リミッタ50は、出力Y(k)が制限値Ymaxを越えた場合にE=Ymaxとする。
【0013】
このような構成において、電流指令値Iが図3(A)となるような操舵を行なった場合には、電流制御値Eは同図(B)のようになり、中間変数W(k−1)は同図(C)のようになる。そして、図3(A)において電流指令値Iが制限値Ymaxを越える区間aでは、電流偏差e(k)が中間変数に積算されるため、中間変数W(k−1)は図3(C)のようになる。また、電流指令値Iが制限値Ymaxより小さくなるb点以降においても、中間変数の値が残るため、電流制御値Eが最大値を持続してしまう区間Cを生じる。これにより、図3(A)に示すように電流検出値iは遅れを生じ、操舵の違和感となる。
【0014】
このような現象を防ぐため、電流制御系40の出力Y(k)がリミッタ50の制限値Ymaxを越えた場合は、中間変数W(k−1)について下記数1及び数2のような補正を行なう。
【0015】
【数1】
Y(k)>Ymaxの場合
W(k−1)={Ymax−b1・e(k)}/(b1+b2)
【数2】
Y(k)<−Ymaxの場合
W(k−1)={−Ymax−b1・e(k)}/(b1+b2)
上記数1及び数2の補正を行なった場合の電流指令値I及び電流検出値iは図4(A)のようになり、電流制御値Eは同図(B)のようになり、中間変数W(k−1)は同図(C)のようになる。中間変数W(k−1)の値が補正されることにより、電流指令値Iが制限値Ymaxより小さくなったときに電流検出値iも追従するので、操舵の違和感をなくすことができる。このように、本発明では、最大値を超えた場合のみにフィードフォワードで中間変数の補正計算を行なうので、応答が早くかつ計算負荷が少ない。
【0016】
ここで、上記実施例で用いている双一次変換について説明する。
【0017】
連続時間系(アナログ)の比例積分型制御器を伝達関数(sはラプラス演算子)で現わすと、数3となる。
【0018】
【数3】
G(s)=Kp(1+Ki/s)
Kp:比例ゲイン定数
Ki:積分ゲイン定数
これをディジタル計算(コンピュータ)で実現するには、離散時間系に変換する必要があり、離散化の方法には後退差分方式、双一次変換などがある。そして、双一次変換は下記数4として離散化するものである。
【0019】
【数4】
s=2(Z−1)/T(Z+1)
数4を数3に代入し、ディジタル比例積分型演算器を求めると次の数5のようになる。
【0020】
【数5】
G(Z)=(b1・Z+b2)/(Z−1)=(b1+b2・Z−1)/(1−Z−1
b1=(Kp・Ki・T+2Kp)/2
b2=(Kp・Ki・T−2Kp)/2
そして、下記のように定義する。
【0021】
【数6】
G(Z)=G1(Z)・G2(Z)=Y(k)/e(k)
(k):時間kにおけるサンプル値
数6及び数5より、次式が成り立つ。
【0022】
【数7】
G1(Z)=1/(1−Z−1)=W(k)/e(k)
よって、
【数8】
W(k)=e(k)+W(k−1)
となる。また数6及び数5より、次式が成り立つ。
【0023】
【数9】
G2(Z)=b1+b2・Z−1=Y(k)/W(k)
よって、
【数10】
Y(k)=b1・W(k)+b2・W(k−1)
となる。上記数8及び数10を図式化すると、図5のようになり、整理してまとめると図2のブロック図が得られる。
【0024】
尚、上述では比例積分形演算器について説明したが、積分項を含むデイジタル形演算器について適用できる。
【0025】
【発明の効果】
従来のアンチワインドアップ制御では、リミッタの前後の値の差を積分項にフィードバックするため計算負荷が大きく、高価な計算機を用いなければならないという問題があった。本発明によれば、電流制御系の出力が制限値を越えた場合のみにフィードフォワードで内部変数を補正計算するため、簡単な方法かつ応答の速いアンチワインドアップを行なうことができる。そのため、計算負荷が少なく安価な計算機で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるコントロールユニットの構成例を示すブロック図である。
【図2】電流制御系の詳細を示す演算ブロック図である。
【図3】本発明の動作例を説明するための波形図である。
【図4】本発明の動作例を示す波形図である。
【図5】双一次変換を説明するためのブロック線図である。
【図6】電動パワーステアリング装置の一例を示すブロック構成図である。
【図7】コントロールユニットの一般的な内部構成を示すブロック図である。
【図8】モータ駆動回路の一例を示す結線図である。
【符号の説明】
1 操向ハンドル
5 ピニオンラック機構
10 トルクセンサ
12 車速センサ
20 モータ
30 コントロールユニット
31 位相補償器
37 モータ駆動回路
38 モータ電流検出回路
40 電流制御系
50 リミッタ

Claims (3)

  1. ハンドルの操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記ハンドルと一体的に設けられたステアリングシャフトを補助負荷付勢するモータと、前記操舵トルクの大きさに応じて前記モータを駆動するコントロールユニットとを具備した電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記コントロールユニットが、操舵補助力を制御するためにモータ電流のフィードバック制御を行なう積分項を含むデイジタル形演算器を有し、前記デイジタル形演算器の出力Y(k)が所定の制限値Ymaxを越えたときに、前記デイジタル形演算器の内部変数を補正する補正手段を具備したことを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。
  2. 前記デイジタル形演算器を、制御係数b1及びb2、中間変数W(k)及びW(k−1)、フォワードシフトオペレータをZとする双一次変換の離散時間系とした請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
  3. 前記補正手段が前記中間変数W(k−1)に対して、電流指令値と電流検出値との偏差をe(k)として、
    Y(k)>Ymaxの場合
    W(k−1)={Ymax−b1・e(k)}/(b1+b2)
    Y(k)<−Ymaxの場合
    W(k−1)={−Ymax−b1・e(k)}/(b1+b2)
    なる補正を行なうようになっている請求項2に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
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