JP3632929B2 - ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法 - Google Patents
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- C08J2329/02—Homopolymers or copolymers of unsaturated alcohols
- C08J2329/04—Polyvinyl alcohol; Partially hydrolysed homopolymers or copolymers of esters of unsaturated alcohols with saturated carboxylic acids
Description
【産業上の利用分野】
この発明は、たとえば偏光膜や位相差膜として用いられる光学部品などに適したポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」という。)系重合体フィルムは、一般に、キャスティング法(溶液流延法)により製造される(たとえば、特公昭51−23981号公報参照)。この製造方法は、PVA系重合体のチップを溶解して原液を得、この原液をスリット状の開口から回転するドラムのようなキャスティング用基材外周に流し出して流延させた後、乾燥させてフィルムを得ていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来技術では、フィルムが十分に乾燥していないうちに、フィルムをドラムから剥がしており、そのため、以下のような問題点が生じていた。
1)乾燥が不十分な場合には、幅の広い膜をロールから均一に剥離することができないので、剥離時のむらにより、厚薄むら(厚さのむら)を生じる。
2)乾燥が不十分な場合には、キャスティング用基材からフィルムを剥離する時の張力を大きくする必要があり、張力を大きくした場合には、剥離むらが生じ、その結果、部分的に分子配向が異なった状態を生じる。
この分子配向むらは複屈折率によって測定される。すなわち、キャスティング用基材からフィルムを剥離する時の張力を大きくした場合には、剥離むらが生じ、図3の破線で示すように、フィルムの幅方向の両端部において複屈折率が高くなる傾向がある。このような分子配向むらを有するフィルムを用いて偏光膜や位相差板を製造した場合には、偏光むらや位相差むらが生じ、光学用途には適さない。
3)キャスティング用基材からフィルムを剥離する時の張力を大きくした場合には、フィルムの長さ方向に大きな分子配向が生じ、その結果、得られたフィルムを長さ方向に延伸する場合の最大延伸倍率が低下する。このようなフィルムを偏光膜に加工した場合には、延伸性が低いために、高性能の偏光膜を得るのが難しい。
この発明は上記従来の問題に鑑みてなされたもので、品質の優れたPVA系重合体フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、鋭意検討した結果、PVA系重合体水溶液からなる原液をステンレス製ベルト上に流延した後、上記原液を80〜170℃の熱風の吹き付けにより乾燥させ、含水率を5重量%以上10重量%未満に設定したフィルムを上記ステンレス製ベルトから剥離し、次いで熱処理に付するPVA系重合体フィルムの製造方法を見出し、本発明を完成させるに到った。
【0005】
【作用】
この発明によれば、ステンレス製ベルト(キャスティング用基材)からフィルムを剥離する時のフィルムの含水率を5重量%以上10重量%未満まで乾燥させているので、以下のような利点が得られる。
1)厚薄むらを軽減できる。
2)フィルムの分子配向およびそのむらを軽減できる。
3)フィルムを長さ方向に延伸する場合の最大延伸倍率(以下、「延伸性」と略記することがある。)が向上する。
【0006】
この発明において、ステンレス製ベルトからフィルムを剥離する時のフィルムの含水率は、5重量%以上10重量%未満である。剥離時のフィルムの含水率が5重量%未満の場合には、フィルムのカールが増し、その後の製造工程における取扱が難しくなる場合がある。
【0007】
この発明の製造方法において、キャスティング用基材としては、以下に説明するベルト型製膜機を用いることができる。
図1はベルト型製膜機11を示す。
ベルト型製膜機11には、ダイ10を有している。ダイ10には、PVA系重合体水溶液からなる原液Lが供給される。ダイ10は、図2の正面図に示すように、幅方向Dに長いスリット状の開口10aを有しており、この開口10aから原液を幅方向Dに均一な厚みでキャスティング用基材としてのベルト13上に流し出すものである。
【0008】
図1のベルト型製膜機11は、一対のローラ12,12間に架け渡されて走行する無端状の上記ベルト13を有し、上記ダイ10から流れ出た原液をベルト13上に流延させるとともに乾燥させるものである。上記ベルト13は、ステンレススチールからなり、その外周表面は鏡面仕上げがなされている。このベルト13の外周および内周には、それぞれ、ベルト13の進行方向に空間を仕切る仕切壁14が設けられている。上記ベルト13の外周面および内周面には、図示しない温風機から80℃〜170℃の熱風Hが吹き付けられて、原液の乾燥を促進している。また、剥離の際のフィルム強度を上げる目的で、最も下流のゾーン14Aにおいては、フィルムFを常温の風Cにより冷却してもよい。
【0009】
右側のローラ12の付近には、剥がしローラ15が設けられており、所定含水率まで乾燥したフィルムFが、剥がしローラ15によりベルト13から剥がされる。
【0010】
つぎに、このベルト型製膜機11を用いた場合の製造方法について説明する。 PVA系重合体水溶液からなる原液は、ダイ10に送られ、図2のように、ダイ10のスリット状の開口10aから、ベルト13上に流出する。ベルト13上に流れ出た原液は、図1のベルト13が矢印A方向に走行することにより流延され、ベルト13上において、熱風Hにより乾燥が促進される。ここで、ベルト13は、ドラムと異なり、長くすることができるので、乾燥時間を長くとって、ベルト13上で十分にフィルムFを乾燥させることができるから、フィルムFの含水率を容易に10重量%未満まで小さくして、フィルムFをベルト13から容易に剥がすことができる。そのため、図3の実線で示すように、複屈折率が均一でかつ低くなる。しかも、複屈折率が幅方向に均一で、かつ低いフィルムFが得られるので、フィルムの延伸性が向上する。
【0011】
また、図1のベルト型製膜機11はそのベルト13を長くすることに特に制約はないから、ベルト13を長くとることによって、乾燥時間を長くできる。したがって、フィルムFを十分乾燥させながら、ベルト速度を速くして、ラインの生産能力を上げることができる。ベルト13の走行速度は、5〜50m/分程度の範囲で適宣選択される。また、ベルト13上での滞留時間は、1〜10分程度の範囲で適宣選択される。
【0012】
また、このベルト型製膜機11のように、ベルト13の走行方向に仕切壁14を設けて、熱風Hをベルト13に当てた場合は、各仕切壁14間において熱風Hの温度を変えることができる。そのため、フィルムFの乾燥状態(乾燥段階)に応じた最適な温度を選択することができる。これにより、更にフィルムの延伸性を向上させることができる。
【0013】
また、原液の溶解には、公知の耐圧溶解タンク内で溶解してもよく、あるいは、多軸押出機で溶解してもよい。
【0014】
PVA系重合体の可塑剤としては、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール系可塑剤およびこれらの混合物が挙げられ、これらの多価アルコール系可塑剤のなかでもグリセリンが好ましい。可塑剤を添加しても、添加しなくても良いが、可塑剤を添加する場合には、PVA系重合体100重量部に対して2〜20重量部程度添加する。
【0015】
この発明において用いられるPVA系重合体の重合度には、特に制限はないが、1,000 以上が好ましく、1,000 〜20,000がより好ましく、1,500 〜10,000がさらにより好ましい。PVA系重合体のけん化度は、特に制限はないが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上が更により好ましい。
【0016】
この発明のPVA系重合体は、ビニルエステル系モノマーの重合体をけん化することにより得られる。ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2,2,4,4−テトラメチルバレリアン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニルなどが挙げられる。これらのなかでも酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニルが単独もしくは混合物として好ましく使用される。
【0017】
また、上記のビニルエステル系モノマーと共重合可能なモノマーを共重合することも差し支えなく、これらの共重合可能なモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデジル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸およびその塩またはそのエステル;イタコン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。これらの共重合可能なモノマーの含有量としては、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
また、この発明により得られるPVA系重合体フィルムの膜厚としては20〜100μmが好ましい。
【0018】
【実施例】
以下の実施例において本発明をより具体的に説明する。
なお、以下の実施例および比較例におけるフィルムの物性は、以下の方法により測定した。
【0019】
含水率:
赤外線真空乾燥機(サトウ真空(株)製)を用いて、フィルム2gを50℃, 2Torrで2時間乾燥し、下記の式により算出した。
含水率= 100×(乾燥前の重量−乾燥後の重量)/乾燥前の重量
本測定方法は、フィルムに含まれるグリセリン等の可塑剤が蒸発しない条件である。
【0020】
平均厚さおよび厚さむら:
フィルムの幅方向に等間隔で全幅5点およびフィルムの長さ方向に1mの等間隔で5点の合計10点のサンプリングを行い、接触式フィルム厚み連続式測定器(安立電気(株)製)を使用して、直径3mmのダイヤモンド球の検出端に、30g の測定荷重を加え、 1.5m/ minの引取り速度で、フィルムの厚さを測定した。
つぎに、10点のサンプルの測定値から、平均値を計算して平均厚さとし、10点のサンプルの測定値の最大値と最小値の差を求めて厚さむらとした。
【0021】
平均複屈折率および複屈折率むら:
フィルムの長さ方向に5cmピッチで20点のサンプリングを行い、リタデーション測定器(神崎製紙(株)製のKOBRA−21(商品名))を使用して、リタデーションを測定するとともに、同一の場所についてマイクロメータを用いてフィルムの厚さを測定した。
つぎに、リタデーションの測定値をフィルム厚さの測定値で割ることにより、複屈折率を計算した。20点のサンプルについて複屈折率を求めて、その平均値を平均複屈折率とし、20点のサンプルの複屈折率の最大値と最小値の差を求めて、複屈折率むらとした。
【0022】
最大延伸倍率:
35℃のホウ酸4重量%水中で、15cm幅のPVAフィルムサンプルを用いて、延伸速度0.26m/min で延伸した時の延伸可能な最大延伸倍率を示した。
【0023】
偏光むら:
実施例および比較例により得られたPVAフィルムを用いて、以下の方法により偏光膜を製造した。すなわち、染色浴の染料濃度はヨウ素/ヨウ化カリウムの重量比を1/10に固定し、単体透過率が43%になるように、ヨウ素濃度を1〜20g/リットルの範囲内で適宣選択した。ホウ酸浴のホウ酸濃度は4重量%とし、延伸浴にもホウ酸を4重量%濃度になるように添加し、表1に示す最大延伸倍率まで延伸した。乾燥は50℃の熱風で行った。得られた偏光膜の偏光むらを目視観察した。
【0024】
実施例1
PVA(重合度1750, けん化度99.9モル%)100重量部とグリセリン12重量部、さらに溶媒として水を加え、含水率60%wb(ウエットベースにおける重量%、以下同じ)の均質な原液を図1のダイ10へ定量供給し、ベルト型製膜機11にて、厚さ75μm,幅1mのフィルムを製造し、熱処理機で熱処理を施した。
以下に、主な製造条件を示す。
こうして得られたフィルムの物性を表1に示す。
このフィルムは、厚さむら、平均複屈折率および複屈折率むらが小さく、延伸性が良好であった。
【0025】
実施例2
実施例1と同じ原液をダイ10へ定量供給し、ベルト型製膜機11にて乾燥時間を実施例1より長くし、フィルム剥離時の含水率をさらに低下させて剥離することにより、厚さ75μm,幅1mのフィルムを製造し、熱処理機で熱処理を施した。
以下に、主な製造条件を示す。
こうして得られたフィルムの物性を表1に示す。
このフィルムは、厚さむら、平均複屈折率および複屈折率むらが実施例1よりも更に良好であり、延伸性も良好であった。
【0026】
比較例1
実施例1と同じ原液をダイ10へ定量供給し、ベルト型製膜機11にて厚さ75μm,幅1mのフィルムを製造し、熱処理機で熱処理を施した。
以下に、主な製造条件を示す。
こうして得られたフィルムの物性を表1に示す。
このフィルムは、厚さむら、平均複屈折率および複屈折率むらが大きく、延伸性についても実施例に比べ低い。
【0027】
比較例2
実施例1と同じ原液をダイ10へ定量供給し、ベルト型製膜機11にて厚さ75μm,幅1mのフィルムを製造し、熱処理機で熱処理を施した。
以下に、主な製造条件を示す。
こうして得られたフィルムの物性を表1に示す。
このフィルムは厚さむら、平均複屈折率および複屈折率むらが大きく、延伸性についても実施例に比べ低い。
【0028】
【表1】
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、ステンレス製ベルトからフィルムを剥離する時のフィルムの含水率を5重量%以上10重量%未満まで乾燥させているから、フィルムの品質(厚薄むら、分子配向およびそのむらならびに延伸性)が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の製造方法に用いることができる製膜機の一例を示す概略構成図である。
【図2】ダイの正面図である。
【図3】フィルムの幅方向における複屈折率の変化を示す特性図である。
【符号の説明】
13,20…キャスティング用基材、F…フィルム。
Claims (1)
- ポリビニルアルコール系重合体水溶液からなる原液をステンレス製ベルト上に流延した後、上記原液を80〜170℃の熱風の吹き付けにより乾燥させ、含水率を5重量%以上10重量%未満に設定したフィルムを上記ステンレス製ベルトから剥離し、次いで熱処理に付するポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法。
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