JP3625758B2 - 作業車の走行変速構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、作業車における走行用の変速装置の操作構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば農用トラクタ等の作業車では、エンジンの動力を走行用の変速装置、及び機体に備えられた作業装置に動力を伝達するPTO伝動系に、並列的に伝達するように構成したり、エンジンの動力を走行用の変速装置からPTO伝動系に直列的に伝達するように構成したものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
エンジンの動力をPTO伝動系から作業装置に伝達して作業装置を駆動し、機体を走行させながら作業走行を行う場合に、エンジンの回転数が大きく低下すると、作業装置の駆動回転数も低下して、作業装置による作業に支障を来すことがある。従って、作業走行時に走行負荷の増大等によりエンジンの回転数が低下すると、操縦者は人為的に走行用の変速装置を低速側に操作して、エンジンの回転数を回復させると言う操作を行う。
【0004】
本発明は、作業車の走行変速構造において、エンジンの動力を走行用の変速装置、及び機体に備えられた作業装置に動力を伝達するPTO伝動系に伝達するように構成した場合、作業走行時に走行負荷の増大等によりエンジンの回転数が低下した際に、エンジンの回転数を回復させることが容易に行えるように構成することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
[I]
請求項1の発明は、エンジンの動力を走行用の変速装置、及び機体に備えられた作業装置に動力を伝達するPTO伝動系に伝達するように構成すると共に、エンジンの回転数を検出する回転数検出手段、エンジンの回転数が第1設定回転数を越えて低下すると、走行用の変速装置を自動的に低速側に操作する自動減速手段及び第1設定回転数を越えて低下したエンジンの回転数が第2設定回転数を越えて上昇すると、走行用の変速装置を自動的に高速側に操作する自動増速手段を備え、
人為的に操作されるもので前記走行用の変速装置を操作する為の変速操作具を備えて、前記変速操作具により操作された前記走行用の変速装置の変速位置を設定変速位置とし、前記自動増速手段により前記走行用の変速装置が前記設定変速位置を越えて高速側に操作されないように構成し、
エンジン回転数が前記第1設定回転数を越えて低下して前記変速装置を1段低速側に変速操作された後、設定時間経過してもエンジン回転数が回復しなければ自動的に順次所定段数低速側に変速操作されるとともに、所定段数低速側に減速操作された後、設定時間が経過してもエンジンの回転数が回復しなければ減速せずに警告を発するように構成してある
【0006】
これにより、請求項1の特徴によれば、作業走行時に走行負荷の増大等によりエンジンの回転数が第1設定回転数を越えて低下すると、走行用の変速装置が自動的に低速側に操作されて、エンジンの回転数の回復が図られるのであり、作業装置の駆動回転数が低下して作業装置による作業に支障を来すと言う状態が避けられる。
次に、前述のように走行用の変速装置が自動的に低速側に操作された後、第1設定回転数を越えて低下したエンジンの回転数が第2設定回転数を越えて上昇すると、走行用の変速装置が自動的に高速側に操作される。これによって、機体が低速で走行する状態(走行用の変速装置が低速側に操作された状態)が不必要に長く維持される状態、及びエンジンの回転数が不必要に上昇する状態が避けられる。
変速操作具により操作された走行用の変速装置の変速位置が設定変速位置として設定されるのであり、第1設定回転数を越えて低下したエンジンの回転数が第2設定回転数を越えて上昇した際、走行用の変速装置が設定変速位置を越えて自動的に高速側に操作されない。
作業走行時において操縦者が、作業装置の種類や作業状態の変化、作業地の状態等に応じて、変速操作具を操作して走行用の変速装置を適切な変速位置(設定変速位置)に操作した場合に、第1設定回転数を越えて低下したエンジンの回転数が第2設定回転数を越えて上昇しても、走行用の変速装置が適切な変速位置(設定変速位置)を越えて自動的に高速側に操作されない。
又、作業走行時に走行負荷の増大等により、走行用の変速装置が1段低速側に操作された後、設定時間経過してもエンジン回転数が回復しなければ自動的に順次所定段数低速側に変速操作されるとともに、所定段数低速側に減速操作された後、設定時間が経過してもエンジンの回転数が回復しなければ減速せずに警告を発する。
【0007】
[II]
請求項2の特徴によると、請求項1の場合と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
作業車では、機体に備えられた作業装置を別の作業装置に交換して作業走行を行うことが多くあり、作業装置における適正な作業状態を維持する為の最低の駆動回転数は、作業装置の種類や作業状態の変化、作業地の状態等によって変わることが多い。
請求項2の特徴によると、第1及び第2設定回転数が変更自在に構成されているので、作業装置の種類や作業状態の変化、作業地の状態等に応じて、第1及び第2設定回転数を高めに設定したり低めに設定したりと言うように、適正な値に設定することが可能になる。
【0008】
【発明の実施の形態】
[1]
図1は、作業車の一例である四輪駆動型の農用トラクタのミッションケース8を示しており、エンジン1の動力が前進クラッチ5又は後進クラッチ6、円筒軸7、第1主変速装置10、第2主変速装置11、副変速装置12及び後輪デフ装置13を介して右及び左の後輪14に伝達される。後輪デフ装置13の直前から分岐した動力が伝動軸15、油圧クラッチ型式の前輪変速装置16、前輪伝動軸17及び前輪デフ装置18を介して、右及び左の前輪19に伝達される。
【0009】
図1に示すように、前進クラッチ5及び後進クラッチ6は、摩擦板(図示せず)とピストン(図示せず)とを組み合わせた油圧多板式で、作動油を供給することにより伝動側に操作される。前進クラッチ5を伝動側に操作すると、エンジン1の動力が前進クラッチ5から円筒軸7に直接流れて機体は前進する。後進クラッチ6を伝動側に操作すると、エンジン1の動力が後進クラッチ6及び伝動軸20を介して、逆転状態で円筒軸7に伝達されて機体は後進する。
【0010】
図1に示すように、第1主変速装置10は4個の油圧多板式の1速クラッチ21、2速クラッチ22、3速クラッチ23及び4速クラッチ24を並列的に配置した油圧クラッチ型式に構成されて4段に変速可能であり、1速〜4速クラッチ21〜24のうちの一つを伝動側に操作することにより、円筒軸7の動力が4段に変速されて伝動軸25に伝達される。
【0011】
図1に示すように、第2主変速装置11も2個の油圧多板式の低速クラッチ26、及び高速クラッチ27を並列的に配置した油圧クラッチ型式に構成されており、低速及び高速クラッチ26,27の一方を伝動側に操作することによって、伝動軸25の動力が2段に変速されて副変速装置12に伝達される。副変速装置12は、シフト部材53をスライド操作するシンクロメッシュ型式に構成されて2段に変速可能であり、変速レバー28(図2参照)によって機械的に操作される。
【0012】
[2]
次に、前進及び後進クラッチ5,6、第1及び第2主変速装置10,11に対する油圧回路について説明する。
図3に示すように、ポンプ29からの油路30に、前進及び後進クラッチ5,6に対する電磁比例弁35及びパイロット操作式の切換弁36a,37a、1速〜4速クラッチ21〜24に対するパイロット操作式の切換弁31a,32a,33a,34a、低速及び高速クラッチ26,27に対する電磁比例弁38,39が並列的に接続されている。
【0013】
図3に示すように、油路30から分岐した油路40に、前輪デフ装置18におけるデフロック操作用の油圧クラッチ41に対するパイロット操作式の切換弁42a、後輪デフ装置13におけるデフロック操作用の油圧クラッチ43に対するパイロット操作式の切換弁44a、前輪変速装置16の標準クラッチ45及び増速クラッチ46(図1参照)に対するパイロット操作式の切換弁47a,48aが並列的に接続されている。切換弁31a〜34a,36a,37a,42a,44a,47a,48aは、バネで排油側(伝動遮断側)に付勢されており、パイロット作動油が供給されることで供給側(伝動側)に操作される。
【0014】
図3に示すように、油路30から減圧弁49を介してパイロット油路50が分岐し、パイロット油路50が切換弁31a〜34a,36a,37a,42a,44a,47a,48aの操作部に接続されており、操作部に電磁操作弁31b,32b,33b,34b,36b,37b,42b,44b,47b,48bが接続されている。電磁操作弁31b〜34b,36b,37b,42b,44b,47b,48bは、バネで排油側(伝動遮断側)に付勢されており、これらを電気的に供給側に操作すると、パイロット作動油が切換弁31a〜34a,36a,37a,42a,44a,47a,48aの操作部に供給されて、これらが供給側(伝動側)に操作される。
【0015】
[3]
次に、前進及び後進クラッチ5,6、第1及び第2主変速装置10,11の操作部の構成について説明する。
図3及び図2に示すように、前進及び後進クラッチ5,6の切換弁36a,37aの操作部からパイロット作動油を排油可能な開閉弁51が備えられ、開閉弁51がバネで閉側に付勢されており、開閉弁51を機械的に開側に操作するクラッチペダル52が備えられている。前輪19の操縦ハンドル58の基部に、前進位置F、後進位置R及び中立位置Nに操作自在な前後進レバー59が備えられている。
【0016】
図2に示すように、機体の操縦部の横軸芯周りに変速レバー28が揺動操作自在に支持されて、副変速装置12(図1参照)のシフト部材53をスライド操作するシフトフォーク54と変速レバー28とが、連係機構55により機械的に連動連結されている。変速レバー28を中立位置N、低速位置L及び高速位置Hに操作することにより、副変速装置12(シフト部材53)を中立位置、低速位置及び高速位置に操作することができるように構成されており、変速レバー28の操作位置を検出する位置センサー70が備えられている。
【0017】
図2に示すように、変速レバー28の横側部に出退操作自在なロックピン56が備えられて、ロックピン56を出退操作する操作ボタン57が変速レバー28の上部に備えられている。ロックピン56はバネ(図示せず)により突出側(図2の紙面右方)に付勢されており(操作ボタン57も図2の紙面左方の突出側に付勢されている)、固定部のガイド板60にロックピン56を係合させることにより、変速レバー28を中立位置N、低速位置L及び高速位置Hに保持する。操作ボタン57を押し操作するとロックピン56が退入操作されて、変速レバー28を中立位置N、低速位置L及び高速位置Hに操作することができる。
【0018】
図2に示すように、変速レバー28の左横側面に、シフトアップボタン61及びシフトダウンボタン62が上下に配置されており、後述するようにシフトアップボタン61及びシフトダウンボタン62を一度押し操作すると、一つのシフトアップ信号及びシフトダウン信号が発信されて、図1に示す第1及び第2主変速装置10,11が操作される。
【0019】
図2に示すように、第1及び第2主変速装置10,11の変速位置(1速〜8速)を表示する7セグメントの変速表示部64、前後進レバー59により前進及び後進クラッチ5,6のどちらが伝動側に操作されているかを表示する前進ランプ65及び後進ランプ66、変速レバー28又は前後進レバー59が中立位置Nに操作されていることを示す中立ランプ67が操縦部に備えられている。図3に示すように、前進及び後進クラッチ5,6の作動圧が伝動状態の所定圧に達しているか否かを検出する圧力センサー74が備えられており、圧力センサー74の検出により前進及び後進ランプ65,66を点灯させる。
【0020】
[4]
次に、変速レバー28を低速位置L及び高速位置Hに操作している状態において、シフトアップボタン61及びシフトダウンボタン62による操作について、図4に基づいて説明する。
前後進レバー59が前進位置Fに操作されていると(ステップS1)、電磁操作弁36bに操作電流が供給され(ステップS2)、切換弁36aが供給側に操作されて前進クラッチ5が伝動側に操作され、前進ランプ65が点灯する(ステップS3)。前後進レバー59が後進位置Rに操作されていると(ステップS1)、電磁操作弁37bに操作電流が供給され(ステップS4)、切換弁37aが供給側に操作されて後進クラッチ6が伝動側に操作され、後進ランプ66が点灯し(ステップS5)、ブザー71(図2参照)が間欠的に作動する(ステップS6)。
【0021】
前後進レバー59が中立位置Nに操作されていると(ステップS1)、電磁操作弁36b,37bへの操作電流が遮断されて、前進及び後進クラッチ5,6が伝動遮断側に操作され(ステップS7)、中立ランプ67が点灯する(ステップS8)。このように、前進及び後進クラッチ5,6の両方が伝動遮断側に操作されると、前進及び後進クラッチ5,6において動力が遮断されて、機体が停止する。
【0022】
図1に示すように第1主変速装置10が4段に変速可能で、第2主変速装置11が2段に変速可能であるから、第1及び第2主変速装置10,11により8段の変速が可能である。この場合、第2主変速装置11の低速クラッチ26が伝動側に操作されている状態で、第1主変速装置10の1速〜4速クラッチ21〜24が1速〜4速の変速位置に対応するのであり、第2主変速装置11の高速クラッチ27が伝動側に操作されている状態で、第1主変速装置10の1速〜4速クラッチ21〜24が5速〜8速の変速位置に対応する。
【0023】
図3に示すように、1速〜4速クラッチ21〜24、低速及び高速クラッチ26,27の各々に、作動圧が伝動状態の作動圧P1,P2に達しているか否かを検出する圧力センサー74が備えられており、圧力センサー74の検出により、現在の第1及び第2主変速装置10,11の変速位置(1速〜8速)が検出されて、検出された変速位置が変速表示部64に表示される(ステップS9)。
【0024】
以上の状態で、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62を一度押し操作したとする(ステップS10,S11)。この場合、図5の実線A1(時点B1)に示すように、シフトアップボタン61を押し操作した場合には、現在の変速位置よりも1段高速側の変速位置の電磁操作弁31b〜34bに対して操作電流が供給され始め、逆にシフトダウンボタン62を押し操作した場合には、現在の変速位置よりも1段低速側の変速位置の電磁操作弁31b〜34bに対して操作電流が供給され始める(ステップS12)。
【0025】
変速レバー28が中立位置Nではなく低速位置L又は高速位置Hに操作されていると(ステップS13)、ステップS12と略同時に図5の実線A2(時点B1)に示すように、伝動側に操作されている低速又は高速クラッチ26,27の電磁比例弁38,39により、伝動側に操作されている低速又は高速クラッチ26,27の作動圧が伝動状態の作動圧P2から、所定低圧P3に減圧操作される(ステップS14)。この場合、4速の変速位置から5速の変速位置への操作時には、低速クラッチ26の作動圧が零に減圧操作され、高速クラッチ27の作動圧が零から所定低圧P3に昇圧操作される。逆に5速の変速位置から4速の変速位置への操作時には、高速クラッチ27の作動圧が零に減圧操作され、低速クラッチ26の作動圧が零から所定低圧P3に昇圧操作される。
【0026】
図5の実線A1(時点B2から時点B3)に示すように、1段高速側又は1段低速側の1速〜4速クラッチ21〜24の作動圧が電磁操作弁31b〜34bにより伝動状態の作動圧P1に昇圧操作される。これと同時に図5の一点鎖線A3(時点B2から時点B3)に示すように、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62の押し操作前の1速〜4速クラッチ21〜24の作動圧が、電磁操作弁31b〜34bにより伝動状態の作動圧P1から零に減圧操作される(ステップS15)。
【0027】
変速レバー28が中立位置Nではなく低速位置L又は高速位置Hに操作されていると(ステップS16)、所定低圧P3に維持されていた低速又は高速クラッチ26,27の作動圧が、図5の実線A2(時点B3から時点B4)に示すように電磁比例弁38,39により漸次的に昇圧操作されていき、低速又は高速クラッチ26,27の作動圧が伝動状態の作動圧P2に達する(ステップS17)。この場合、図5の実線A2の時点B3から時点B4において、低速又は高速クラッチ26,27の作動圧の昇圧特性が変速位置の各々に対して設定されており、低速側(1速側)の変速位置ほど、時点B3から時点B4の作動圧が短時間で急速に昇圧操作される。
【0028】
以上のようにして、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62の押し操作による1回の操作を終了するのであり、操作が終了すると操作後の変速位置が変速表示部64に表示され(ステップS18)、ブザー71が1回だけ作動して操作の終了が操縦者に報知される(ステップS19)。以上のような操作はシフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62を押し続けていても連続的に行われることはなく、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62を一度戻し操作して再び押し操作しないと、次の一回の操作は行われない。
【0029】
[5]
次に、変速レバー28を中立位置Nに操作している状態において、シフトアップボタン61及びシフトダウンボタン62による操作について、図4に基づいて説明する。
変速レバー28を中立位置Nに操作していると、副変速装置12(シフト部材53)(図1参照)が中立位置に操作されるので、機体は停止している。変速レバー28を中立位置Nに操作した状態において、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62を押し操作すると(ステップS10,S11)、前項[4]と同様に、押し操作に応じて第1及び第2主変速装置10,11が、1段高速側又は1段低速側に操作され(ステップS12,S15)、操作の度に第1及び第2主変速装置10,11の変速位置が変速表示部64に表示されて(ステップS18)、ブザー71が1回だけ作動する(ステップS19)。
【0030】
この場合、機体は停止しているのでステップS14,S17のような、低速及び高速クラッチ26,27の作動圧の所定低圧P3への減圧操作、及び伝動状態の作動圧P2への昇圧操作は行われない(ステップS13,S16)。以上のような操作はシフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62を押し続けていても連続的に行われることはなく、シフトアップボタン61又はシフトダウンボタン62を一度戻し操作して再び押し操作しないと、次の一回の操作は行われない。
【0031】
前項[4]及び[5]に記載のように、変速レバー28を中立位置N、低速位置L及び高速位置Hに操作している状態において、シフトアップボタン61及びシフトダウンボタン62を押し操作することにより、第1及び第2主変速装置10,11を全ての変速位置(1速〜8速)に操作することができる。この場合、第1及び第2主変速装置10,11の変速位置が設定変速位置として記憶されるのであり、第1及び第2主変速装置10,11が操作される毎に、設定変速位置が更新される(ステップS20)。
【0032】
[6]
次に、変速レバー28による副変速装置12の変速操作について説明する。
変速レバー28を中立位置Nに操作すると、副変速装置12(シフト部材53)が中立位置に操作され、変速レバー28を低速位置Lに操作すると、副変速装置12(シフト部材53)が低速位置に操作され、変速レバー28を高速位置Hに操作すると、副変速装置12(シフト部材53)が高速位置に操作される。
【0033】
例えば前後進レバー59を前進位置Fに操作し(前進クラッチ5が伝動側に操作され、後進クラッチ6が伝動遮断側に操作されている状態)、変速レバー28を低速位置L(高速位置H)に操作している状態において(操作ボタン57及びロックピン56により変速レバー28を低速位置L(高速位置H)に保持している状態)、操作ボタン57を押し操作してロックピン56をガイド板60から退入操作すると、電磁操作弁36bにより切換弁36aが排油側に操作されて、前進クラッチ5が伝動遮断側に自動的に操作される。
【0034】
これにより、操作ボタン57を押し操作した状態で変速レバー28を低速位置L(高速位置H)から中立位置N、高速位置H(低速位置L)に操作して、操作ボタン57を戻し操作し、ロックピン56により変速レバー28を中立位置N、高速位置H(低速位置L)に保持する。
【0035】
この場合、中立位置Nにおいて操作ボタン57を戻し操作すると、電磁操作弁36bにより切換弁36aが供給側に操作されて、電磁比例弁35により前進クラッチ5が直ちに伝動側に自動的に操作される。高速位置H(低速位置L)において操作ボタン57を戻し操作すると、電磁操作弁36bにより切換弁36aが供給側に操作されて、電磁比例弁35により前進クラッチ5が漸次的に伝動側に自動的に操作される。
【0036】
前後進レバー59を後進位置Rに操作した状態において(後進クラッチ6が伝動側に操作され、前進クラッチ5が伝動遮断側に操作されている状態)、前述のように変速レバー28の操作ボタン57を押し及び戻し操作すると、前述と同様に後進クラッチ6が自動的に伝動遮断側及び伝動側に操作される。
【0037】
[7]
次に、PTO伝動系について説明する。
図1に示すように、変速されないエンジン1の動力(前進及び後進クラッチ5,6、第1及び第2主変速装置10,11、副変速装置12を通らないエンジン1の動力)を伝達する伝動軸2、伝動軸63、伝動軸2,63の間に配置された油圧多板式のPTOクラッチ3、伝動軸63にスプライン構造により一体回転自在及びスライド自在に外嵌されたシフトギヤ68が備えられており、伝動軸63の動力がPTO変速装置9を介して、PTO軸4に伝達されるように構成されている。
【0038】
図1に示すように、PTO変速装置9はシフト部材69をスライド操作することにより2段に変速可能であり、切換レバー(図示せず)により機械的にシフト部材69をスライド操作するように構成されている。シフトギヤ68も同様に切換レバー(図示せず)により、機械的にスライド操作されるように構成されている。
【0039】
以上の構造により、シフトギヤ68をPTOクラッチ3のケースに咬合させた状態において、PTOクラッチ3を伝動側に操作すると、変速されないエンジン1の動力(前進及び後進クラッチ5,6、第1及び第2主変速装置10,11、副変速装置12を通らないエンジン1の動力)が、PTOクラッチ3、シフトギヤ68、伝動軸63及びPTO変速装置9を介してPTO軸4に伝達される。
【0040】
シフトギヤ68をスライド操作してPTOクラッチ3のケースから離間させ、後輪デフ装置13の直前の伝動ギヤ72に咬合させると、変速されたエンジン1の動力(前進及び後進クラッチ5,6、第1及び第2主変速装置10,11、副変速装置12を通ったエンジン1の動力)が、伝動ギヤ72、シフトギヤ68、伝動軸63及びPTO変速装置9を介してPTO軸4に伝達される。
【0041】
[8]
次に、機体に備えられた作業装置(図示せず)(例えばワンマンハーベスタやフォレージハーベスタ等)にPTO軸4の動力を伝達して作業走行を行う場合、第1及び第2主変速装置10,11が自動的に低速側及び高速側に操作される構成について、図6に基づいて説明する。
図2に示すように、エンジン1の回転数Cを検出する回転数センサー73、後述する第1設定回転数C1を設定する第1設定器75、後述する第2設定回転数C2を設定する第2設定器76が備えられている。第1及び第2設定器75,76はダイヤル式に構成されており、操縦者が手で人為的に操作することにより、第1及び第2設定回転数C1,C2を任意に設定することができる。この場合、第1設定回転数C1よりも第2設定回転数C2が高いものに設定されていると、L(0)が設定され(ステップS21,S22)、第1設定回転数C1よりも第2設定回転数C2が低いものに設定されていると、L(1)が設定される(ステップS21,S23)。
【0042】
前項[4]及び[5]に記載のように、第1及び第2主変速装置10,11をある変速位置(設定変速位置)に操作して作業走行を行っている状態において、エンジン1の回転数Cが第1設定回転数C1を越えて低下すると(ステップS24,S25)、第1及び第2主変速装置10,11が現在の変速位置(設定変速位置)から自動的に1段低速側に操作される。この場合、図4のステップS12〜S19及び図5と同様な操作が行われる(ステップS27)。
【0043】
この場合、第1設定回転数C1よりも第2設定回転数C2が低いものに設定されていると(L(1))(ステップS28)、ブザー71により警告が発せられる(ステップS34)。第1及び第2主変速装置10,11が現在の変速位置(設定変速位置)から自動的に1段低速側に操作された後(ステップS27)、後述するようにエンジン1の回転数Cが第2設定回転数C2を越えて上昇したことを検出すると(ステップS30)、第1及び第2主変速装置10,11が自動的に設定変速位置に操作される(ステップS32)。
【0044】
前述のように、第1及び第2主変速装置10,11が現在の変速位置(設定変速位置)から自動的に1段低速側に操作されてから(ステップS27)、設定時間が経過してもエンジン1の回転数Cが第2設定回転数C2を越えて上昇しなければ(ステップS29,S30,S31)、ステップS27に移行して第1及び第2主変速装置10,11が自動的にさらに1段低速側に操作される(設定変速位置よりも2段低速側)。この場合、図4のステップS12〜S19及び図5と同様な操作が行われる(ステップS27)。
【0045】
前述のように、第1及び第2主変速装置10,11が設定変速位置よりも2段低速側に操作されてから(ステップS27)、設定時間が経過してもエンジン1の回転数Cが第2設定回転数C2を越えて上昇しなければ(ステップS29,S30,S31)、ステップS27に移行して第1及び第2主変速装置10,11が自動的にさらに1段低速側に操作される(設定変速位置よりも3段低速側)。この場合、図4のステップS12〜S19及び図5と同様な操作が行われる(ステップS27)。
【0046】
前述のように第1及び第2主変速装置10,11が設定変速位置よりも3段低速側に操作されてから(ステップS27)、設定時間が経過してもエンジン1の回転数Cが第2設定回転数C2を越えて上昇しなければ(ステップS29,S30,S31)、ステップS26からステップS33に移行して、ブザー71により警告が発せられる。
【0047】
前述のように第1及び第2主変速装置10,11が設定変速位置よりも1段、2段及び3段低速側に操作された際に、エンジン1の回転数Cが第2設定回転数C2を越えて上昇すると(ステップS30)、ステップS32に移行して、第1及び第2主変速装置10,11が自動的に設定変速位置(第1及び第2主変速装置10,11が自動的に1段低速側に操作される前の変速位置)に操作される。この場合、図4のステップS12〜S19及び図5と同様な操作が行われる(ステップS32)。
【0048】
[発明の実施の別形態]
前述の[発明の実施の形態]において、第1設定器75により第1設定回転数C1を設定している場合、第2設定器76により第2設定回転数C2を、第1設定回転数C1よりも低いものには設定できないように構成してもよい。このように構成すると、図6のステップS21,S22,S23,S28,S34が不要になる。
【0049】
前述の[発明の実施の形態]において、図6のステップS32で第1及び第2主変速装置10,11が自動的に設定変速位置に操作されるのではなく、第1及び第2主変速装置10,11が設定時間を置きながら自動的に1段ずつ高速側に操作されるように構成してもよい。この場合、第1及び第2主変速装置10,11が高速側に操作される上限の変速位置が設定変速位置となる。
【0050】
前述の[発明の実施の形態]において、図1に示す副変速装置12を第2主変速装置11と同様に、油圧多板式の低速クラッチ(図示せず)及び高速クラッチ(図示せず)を並列的に配置して構成し、副変速装置12の低速及び高速クラッチの各々に対して、電磁比例弁(図示せず)を備えるように構成してもよい。このように構成すると、第1及び第2主変速装置10,11、副変速装置12によって1速〜16速の変速位置が設定されることになり、シフトアップボタン61及びシフトダウンボタン62を押し操作することにより、第1及び第2主変速装置10,11、副変速装置12を、1速〜16速の変速位置に操作することができるように構成する。
【0051】
前述の[発明の実施の形態]において、図1に示す第1及び第2主変速装置10,11は油圧クラッチ型式に構成されているが、第1及び第2主変速装置10,11を副変速装置12と同様にシフト部材(図示せず)をスライド操作するギヤ変速型式に構成し、シフト部材を油圧シリンダ(図示せず)によりスライド操作して操作するように構成してもよい。
第1及び第2主変速装置10,11が10段や6段に変速可能に構成された作業車にも本発明は適用でき、副変速装置12が高速位置、中速位置及び低速位置の3段に変速可能に構成された作業車にも本発明は適用できる。
【0052】
【発明の効果】
請求項1の特徴によると、作業車の走行変速構造において、エンジンの動力を走行用の変速装置、及び機体に備えられた作業装置に動力を伝達するPTO伝動系に伝達するように構成した場合に、自動減速手段及び自動増速手段により走行用の変速装置が自動的に低速側及び高速側に操作されるように構成することにより、操縦者が人為的に走行用の変速装置を低速側及び高速側に操作しなくてもよくなって、作業車の操作性を向上させることができた。
請求項1の特徴によると、作業装置の駆動回転数が低下して作業装置による作業に支障を来すと言う状態、機体が低速で走行する状態(走行用の変速装置が低速側に操作された状態)が不必要に長く維持される状態、及びエンジンの回転数が不必要に上昇する状態が避けられるようになって、作業車の機能性を高めることができた。
【0053】
請求項1の特徴によると、作業装置の種類や作業状態の変化、作業地の状態等に応じて、操縦者が変速操作具により走行用の変速装置を適切な変速位置(設定変速位置)に操作した場合に、第1設定回転数を越えて低下したエンジンの回転数が第2設定回転数を越えて上昇しても、走行用の変速装置が適切な変速位置(設定変速位置)を越えて自動的に高速側に操作されないので、走行用の変速装置が適切な変速位置(設定変速位置)に維持されるようになって、作業車の機能性を高めることができた。
【0054】
請求項2の特徴によると、請求項1の場合と同様に前述の請求項1の「発明の効果」を備えており、この「発明の効果」に加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
請求項2の特徴によると、自動減速手段での第1設定回転数及び自動増速手段での第2設定回転数を、作業装置の種類や作業状態の変化、作業地の状態等に応じて、適正な値に設定することが可能になるので、作業走行時の各種の状況に対応できるようになって、作業車の機能性を高めることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】ミッションケースの伝動系を示す概略図
【図2】シフトアップボタン及びシフトダウンボタン、変速レバーと各部の連係状態を示す図
【図3】前進及び後進クラッチ、第1及び第2主変速装置等の油圧回路図
【図4】前後進レバーを操作した際の操作の流れ、シフトアップボタン及びシフトダウンボタンを押し操作した際の操作の流れを示す図
【図5】シフトアップボタン及びシフトダウンボタンを押し操作した際の1速〜4速クラッチ、低速及び高速クラッチの状態を示す図
【図6】エンジンの回転数が第1設定回転数を越えて低下した場合の操作の流れ、及び第1設定回転数を越えて低下したエンジンの回転数が第2設定回転数を越えて上昇した場合の操作の流れを示す図
【符号の説明】
1 エンジン
10,11 走行用の変速装置
61,62 変速操作具
73 回転数検出手段
C エンジンの回転数
C1 第1設定回転数
C2 第2設定回転数

Claims (2)

  1. エンジン(1)の動力を走行用の変速装置(10)(11)、及び機体に備えられた作業装置に動力を伝達するPTO伝動系に伝達するように構成すると共に、
    前記エンジン(1)の回転数(C)を検出する回転数検出手段(73)、前記エンジン(1)の回転数(C)が第1設定回転数(C1)を越えて低下すると、前記走行用の変速装置(10)(11)を自動的に低速側に操作する自動減速手段及び前記第1設定回転数(C1)を越えて低下したエンジン(1)の回転数が第2設定回転数(C2)を越えて上昇すると、前記走行用の変速装置(10)(11)を自動的に高速側に操作する自動増速手段を備え、
    人為的に操作されるもので前記走行用の変速装置(10)(11)を操作する為の変速操作具(61)(62)を備えて、前記変速操作具(61)(62)により操作された前記走行用の変速装置(10)(11)の変速位置を設定変速位置とし、
    前記自動増速手段により前記走行用の変速装置(10)(11)が前記設定変速位置を越えて高速側に操作されないように構成し、
    エンジンの回転数(C)が前記第1設定回転数(C1)を越えて低下して前記変速装置(10)(11)を1段低速側に変速操作された後、設定時間経過してもエンジンの回転数(C)が回復しなければ自動的に順次所定段数低速側に変速操作されるとともに、所定段数低速側に減速操作された後、設定時間が経過してもエンジンの回転数(C)が回復しなければ減速せずに警告を発するように構成してある作業車の走行変速構造。
  2. 前記第1及び第2設定回転数(C1)(C2)を変更自在に構成してある請求項1に記載の作業車の走行変速構造。
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