JP3613324B2 - 酸化タンタルおよび/または酸化ニオブの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、不純物であるFおよびSiを実質的に含有しない、高純度の酸化タンタルおよび/または酸化ニオブの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
タンタルは、その用途が広く、耐食性、耐熱性に優れているため化学工業用として蒸留塔、オートクレーブ、熱交換器、化学繊維用紡糸ノズルなど各種化学装置に用いられている。また、一般にタンタル酸化皮膜は、弁作用(電極が正極であれば誘電体に動作するが、逆に電極が負極であると誘電体として動作しないという特性、すなわち整流特性)と呼ばれる特性を有しているため電解コンデンサの電極材料として使用され、搬送機器、電子機器、電子制御機器などに用いられている。さらに炭化タンタルは超硬切削工具用材料として、酸化タンタルは光学レンズの添加剤として利用されており、タンタルの重要性は極めて大きく、その需要は増大している。
【0003】
ニオブは、鋼中の炭素を安定化し、粒間腐食を防ぐ効果があるので鉄鋼添加材として使用されており、これが最大の用途である。また、高圧ナトリウムランプのランプ発光部に付随する導電管としてニオブ合金が実用化されており、さらに超伝導材料や超合金の添加元素などに利用されている。
【0004】
酸化タンタルおよび/または酸化ニオブを製造する方法はいくつかあるが、以下に述べるフッ化水素酸溶解−溶媒抽出法が一般的である。図1に、酸化タンタルおよび酸化ニオブの一般的な製造工程を示す。図1に示されるように、まず、タンタライト等の鉱石や、タンタルコンデンサのスクラップ等の原料を粉砕してフッ酸で溶解した後、硫酸を加えて溶液の濃度を調整する。次に、この調整液をフィルタープレスで濾過し、清浄な溶液にしてMIBK(メチルイソブチルケトン)による溶媒抽出にかけると、タンタルおよびニオブがMIBKに抽出される。この時、原料中に含まれている不純物の鉄、マンガン、シリコン等が抽残液に残ることにより、不純物が除去される。
【0005】
こうして得たタンタルおよびニオブを含むMIBKを、希硫酸で逆抽出すると、ニオブが水溶液に移り、純粋なタンタルがMIBKに残る。MIBK中のタンタルを精製し、水で逆抽出して水溶液に移し、MIBKを回収し再使用する。一方、水溶液中のニオブはMIBKで再度抽出し、少量含まれているタンタルを抽出し、水溶液中のニオブを純粋なものに精製する。このニオブ精製時のMIBKはタンタル、ニオブ分離前の溶媒に合流される。このようにして精製されたタンタルおよびニオブの各水溶液にアンモニア水を加えて水酸化物の沈殿を析出させ、これを濾過、乾燥し最後に仮焼して、酸化タンタルおよび酸化ニオブが得られる。
【0006】
しかしながら、このような一般的方法により製造された酸化ニオブおよび酸化タンタルは、不純物としてフッ素を含有しがちであった。また、このフッ素により、仮焼の際に装置が著しく腐蝕するという問題があった。
【0007】
このような問題に対し、特開平4−270122号公報には、タンタルおよび/またはニオブの水酸化物の沈殿をアンモニア溶液および純水で洗浄する方法が開示されている。この方法によれば、まず、タンタルおよび/またはニオブを含有するフッ酸溶液からアンモニア溶液を用いてタンタルおよび/またはニオブの水酸化物を沈殿させた後、得られた水酸化物の沈殿を濾別する。この沈殿を1〜10重量%のアンモニア溶液で洗浄し、さらに純水で洗浄することによって、フッ素含有量の少ないタンタルおよび/またはニオブの水酸化物を製造していた。
【0008】
しかしながら、この方法により得られたタンタルおよび/またはニオブの水酸化物は、フッ素含有量が少ないものの、洗浄により除去しきれなかったフッ素が僅かに残留するものであった。このため、この水酸化物を仮焼して酸化タンタルおよび/または酸化ニオブを得ようとする場合、水酸化物中に僅かに残留しているフッ素が装置を著しく腐食し、不純物の汚染を引き起こすおそれがあった。特に、仮焼時、高温で接触する皿やチューブ等にSiが含有される場合、水酸化物中に残留しているフッ素とSiとが反応し、得られた酸化物が大量のSiで汚染されるおそれもあった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、既存の設備をそのまま活用しつつ、仮焼時の昇温パターンを変更するだけで、FおよびSiを実質的に含有しない酸化ニオブまたは酸化タンタルを、連続的かつ容易に製造することができる、酸化タンタルおよび/または酸化ニオブの製造方法を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、タンタルおよび/またはニオブを含有するフッ酸溶液にアンモニアを添加して水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブを沈殿させ、この沈殿物を濾別し、その後仮焼して、酸化タンタルおよび/または酸化ニオブを製造する方法であって、前記仮焼が、前記水酸化物を500〜700℃の温度範囲で仮焼する第一の仮焼工程と、この第一の仮焼工程で仮焼された前記水酸化物を750〜1000℃の温度範囲でさらに仮焼する第二の仮焼工程とを含んでなることを特徴とする、酸化タンタルおよび/または酸化ニオブの製造方法を提供するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の酸化タンタルおよび/または酸化ニオブの製造方法について具体的に説明する。
【0012】
図1に、本発明の酸化タンタルおよび/または酸化ニオブの製造工程を示す。図1に示されるように、(A)原料液の調製、(B)沈殿生成工程、(C)濾別工程、(D)仮焼工程等を経て、酸化タンタルおよび/または酸化ニオブが製造される。
【0013】
(A)原料液の調製
本発明の製造方法においては、原料液として、タンタルおよび/またはニオブを含有するフッ酸溶液を用いる。ここで、フッ酸はタンタルおよび/またはニオブの原料鉱石(例えばタンタライト)をフッ化物として溶解させる際に用いられたものであって、原料液中に不可避的に含有されるものである。したがって、ニオブを含有するフッ酸溶液としては、前述した図1に基づく製造工程において、タンタル/ニオブ分離後のニオブ含有水溶液をMIBKで精製して得た水溶液を用いることができる。また、タンタルを含有するフッ酸溶液としては、前述した図1に基づく製造工程において、タンタル/ニオブ分離後のタンタル含有MIBKからタンタルを水で逆抽出して得た水溶液を用いることができる。なお、このようなタンタルおよび/またはニオブを含有するフッ酸溶液としては、これらに限定されるものではなく、公知の種々の方法により製造されたものを用いることができる。
【0014】
原料液(タンタルおよび/またはニオブの精製液)のタンタルおよび/またはニオブの濃度は特に限定されないが、濃度が高い程、排水量が減るので有利である。一般的に原料液濃度は、分離前の鉱石(原料)中のTa:Nbの組成によって変動するため、30〜300g/Lと広範囲である。通常、原料液中のTaおよびNbは、H2Ta(Nb)F7またはTa(Nb)F5・2HFのようなフッ化物の形状で水溶液中に存在しており、これ以外にもフリーで存在する余剰分のフッ酸が0.2〜5重量%存在する。
【0015】
(B)沈殿生成工程
本発明の製造方法においては、上記(A)の原料液にアンモニアを添加して、水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブを沈殿させる。このアンモニアは、ガス状で添加することもできるが、アンモニア水溶液(NH4OH)の形で添加するのが好ましい。また、重炭酸アンモニウムや炭酸アンモニウムを水溶液で添加することもできる。アンモニア水溶液の濃度およびその添加量は、原料液中のタンタルおよび/またはニオブ量に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。
【0016】
(C)濾別工程
本発明の製造方法においては、上記(B)で得られた沈殿含有溶液を濾過して、水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブからなる沈殿物を濾別する。この濾別工程は公知の種々の方法に従って行うことができ、特に限定されない。なお、この濾別した沈殿物を、次の(D)工程に先立って、公知の種々の方法に従い乾燥させておくのが好ましい。
【0017】
(D)仮焼工程
本発明の製造方法においては、上記(C)で得られた水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブからなる沈殿物を仮焼して、酸化タンタルおよび/または酸化ニオブを生成させる。ここで、従来、この仮焼工程においては、高温で接触する皿やチューブ等にSiが含有される場合、水酸化物中に残留しているフッ素とSiとが反応して、得られた酸化物が大量のSiで汚染されるおそれがあった。
【0018】
そこで、本発明は、比較的低い温度範囲で仮焼する第一の仮焼工程と、比較的高い温度範囲でさらに仮焼する第二の仮焼工程とを順に行うことで、上記課題を解決したものである。
【0019】
第一の仮焼工程は、水酸化物沈殿を500〜700℃、好ましくは600〜650℃、の温度範囲で加熱することにより行われる。この第一の仮焼工程では、沈殿物中に残留しているフッ素がフッ化アンモニウムの形で昇華するので、反応性の極めて高いフッ素成分を沈殿物から分離放出させることができる。このように沈殿物からフッ素成分を実質的に無くすことで、装置がフッ素により著しく腐食したり、酸化物がSiを始めとする不純物により汚染されるのを有効に防止することができる。なお、この第一の仮焼工程は、5〜15時間行われるのが好ましく、より好ましくは10〜12時間である。このような範囲内であると、高い製造効率を維持しながら、沈殿物から残留フッ素を十分に除去することができる。
【0020】
第二の仮焼工程は、第一の仮焼工程を経た沈殿物を750〜1000℃の温度範囲で加熱することにより行われる。焙焼温度は製品の特性を決定付けるものであり、この温度範囲が好ましい条件である。この第二の仮焼工程により、水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブが、本発明において目的とする酸化タンタルおよび/または酸化ニオブに変化する。なお、この第二の仮焼工程は、1〜8時間行われるのが好ましく、より好ましくは1〜5時間である。このような範囲内であると、高い製造効率を維持しながら、水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブを、酸化タンタルおよび/または酸化ニオブに十分に変化させることができる。
【0021】
このような第一および第二の仮焼工程は、水酸化物沈殿を石英等の耐火物製皿に入れ、仮焼炉内で、常圧、大気雰囲気下のもと行うことができるが、これに限定されるものではない。したがって、圧力および雰囲気等の仮焼条件は、製造効率や製品品質等を考慮して、適宜選択することができる。なお、本発明の仮焼工程においては、第一の仮焼工程で沈殿物からフッ素が実質的に除去されるので、Siを含有する耐火物製皿(例えば石英、アルミナ、ムライト製)を使用しても、Siが不純物として含有されることがないという利点がある。
【0022】
このように本発明の製造方法は、上記(A)〜(D)の工程を含んでなるものであるが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲内において、任意的な工程を適宜追加してもよい。
【0023】
このような本発明の製造方法により得られる酸化タンタルおよび/または酸化ニオブは、不純物であるFおよびSiを実質的に含まないものであり、極めて純度が高い。具体的には、吸光光度法による定量分析に基づく不純物濃度がFおよびSiのいずれについても5ppm未満である。
【0024】
【実施例】
以下、具体的実施例により、本発明さらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例1
まず、原料としてタンタライト200gを用意し、これをボールミルで粉砕して、55重量%のフッ酸320mlで溶解した。このフッ酸溶液に、96重量%の硫酸86mlを加えて、溶液の濃度を調整した。次に、この調整液をフィルタープレスで濾過し、清浄な溶液にしてMIBKにより溶媒抽出にかけた。こうして得たタンタルおよびニオブを含むMIBKを、希硫酸で逆抽出して、ニオブを水溶液に移し、純粋なタンタルをMIBKに残した。得られた水溶液中のニオブをMIBKで再度精製した。こうして得たニオブの水溶液にアンモニア水を加えて水酸化ニオブを沈殿させ、これを濾別した後、乾燥した。
【0026】
この乾燥した水酸化ニオブの沈殿を、図2に示されるような仮焼温度パターンで、約650℃で約12時間、および約800℃で約4時間の、2段階に分けて仮焼を行い、本発明の目的とする酸化ニオブを得た。
【0027】
得られた酸化ニオブについて、SiおよびFの含有量を測定した。Siについては、Siの含有量を、ガス追い出し−モリブデン青−吸光光度法(定量範囲:5ppm以上)により測定した。Fについては、パイロハイドロリシス−吸光光度法(定量範囲:1〜30ppm)により測定した。結果を表1に示す。
【0028】
比較例1
図2に示されるように、仮焼を約800℃で約4時間という、1段階で行った以外は、実施例1と同様にして、酸化ニオブを製造し、SiおよびFの含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例2
まず、原料としてタンタライト200gを用意し、これをボールミルで粉砕して、55重量%のフッ酸320mlで溶解した。このフッ酸溶液に、96重量%の硫酸86mlを加えて、溶液の濃度を調整した。次に、この調整液をフィルタープレスで濾過し、清浄な溶液にしてMIBKにより溶媒抽出にかけた。こうして得たタンタルおよびニオブを含むMIBKを、希硫酸で逆抽出して、ニオブを水溶液に移し、純粋なタンタルをMIBKに残した。MIBK中のタンタルを精製し、水で逆抽出して水溶液に移した。こうして得たタンタルの水溶液にアンモニア水を加えて水酸化タンタルを沈殿させ、これを濾別した後、乾燥した。
【0030】
この乾燥した水酸化タンタルの沈殿を、図2に示されるような仮焼温度パターンで、約650℃で約12時間、および約800℃で約4時間の、2段階に分けて仮焼を行い、本発明の目的とする酸化タンタルを得た。
【0031】
得られた酸化タンタルについて、SiおよびFの含有量を、測定した。Siについては、Siの含有量を、ガス追い出し−モリブデン青−吸光光度法(定量範囲:5ppm以上)により測定した。Fについては、パイロハイドロリシス−吸光光度法(定量範囲:1〜30ppm以上)により測定した。結果を表1に示す。
【0032】
比較例2
図2に示されるように、仮焼を約800℃で約4時間という、1段階で行った以外は、実施例2と同様にして、酸化タンタルを製造し、SiおよびFの含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、不純物であるFおよびSiを実質的に含有しない、高純度の酸化タンタルおよび/または酸化ニオブを得ることができる。
特に、本発明の製造方法は、仮焼時の昇温パターンを変更すること以外は、既存の設備をそのまま活用することができるので、新たな設備投資コストを大幅に軽減することができ、極めて経済的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸化ニオブおよび酸化タンタルの製造工程を示す図である。
【図2】実施例および比較例における、仮焼工程の仮焼温度の経時変化(昇降温パターン)を示す図である。
Claims (3)
- タンタルを含有するフッ酸溶液にアンモニアを添加して水酸化タンタルを沈殿させ、この沈殿物を濾別し、その後仮焼して、酸化タンタルを製造する方法であって、
前記仮焼が、前記水酸化物を500〜700℃の温度範囲で仮焼する第一の仮焼工程と、この第一の仮焼工程で仮焼された前記水酸化物を750〜1000℃の温度範囲でさらに仮焼する第二の仮焼工程とを含んでなることを特徴とする、酸化タンタルの製造方法。 - ニオブを含有するフッ酸溶液にアンモニアを添加して水酸化ニオブを沈殿させ、この沈殿物を濾別し、その後仮焼して、酸化ニオブを製造する方法であって、
前記仮焼が、前記水酸化物を500〜700℃の温度範囲で仮焼する第一の仮焼工程と、この第一の仮焼工程で仮焼された前記水酸化物を750〜1000℃の温度範囲でさらに仮焼する第二の仮焼工程とを含んでなることを特徴とする、酸化ニオブの製造方法。 - タンタルおよびニオブを含有するフッ酸溶液にアンモニアを添加して水酸化タンタルおよび水酸化ニオブを沈殿させ、この沈殿物を濾別し、その後仮焼して、酸化タンタルおよび酸化ニオブを製造する方法であって、
前記仮焼が、前記水酸化物を500〜700℃の温度範囲で仮焼する第一の仮焼工程と、この第一の仮焼工程で仮焼された前記水酸化物を750〜1000℃の温度範囲でさらに仮焼する第二の仮焼工程とを含んでなることを特徴とする、酸化タンタルおよび酸化ニオブの製造方法。
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