JP3606887B2 - 静止誘導機器 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ケース内に巻線を収容すると共に絶縁媒体を充填して成る静止誘導機器に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電力需要の拡大に応じて都市部に静止誘導機器を設置することが多くなってきた。特に、静止誘導機器として例えば大型の変圧器をビルや地下街に設置することが多くなっており、このような場合、変圧器には、難燃性、安全性、環境調和性が要求されている。また、都市部では、地価が高いことから、設置場所の制限も厳しくなり、変圧器の軽量化及び小形化も要求されている。
【0003】
このような背景事情の下で、都市部に設置する変圧器として、従来より、エポキシ樹脂で注型して形成されたモールド変圧器が数多く使用されている。しかし、モールド変圧器は、注型時の硬化反応により発生する熱や硬化時の収縮などによって、クラックやボイド等の欠陥が発生し易く、場合によっては高電圧下でコロナ放電が発生して絶縁破壊が生ずるおそれがあり、現状では、定格電圧33kVが実用上の限界になっている。
【0004】
一方、流動性絶縁物としてシリコーン油等の難燃性絶縁油を充填して成る油入変圧器が供されており、この油入変圧器は、真空注油等を行うことにより容易に信頼性の高い絶縁性能を得ることができる。しかし、油入変圧器は、シリコーン油として一般的に50cSt程度の粘度(この場合、動粘性率)のポリジメチルシロキサンを用いており、この程度の粘度のシリコーン油はモールド変圧器に比べて引火し易いことから、防災上劣るものであった。
【0005】
そこで、モールド変圧器のような固体絶縁機器の有する優れた難燃性と、油入変圧器のような液体絶縁機器の有する優れた絶縁性能とを兼ね備えた防災形変圧器として、液体と固体の中間的性状のゲル状絶縁物を用いたものが考えられている。このような変圧器の一例が、特開昭56−118313号公報に開示されている。
【0006】
上記公報の変圧器は、鉄心に巻線を巻装したものをケース内に収容した後、ケース内に付加反応により架橋してゲル状を呈するゲル状シリコーンが充填して構成されている。この場合、ゲル状になるシリコーンは低粘度状態にて充填し、1時間乃至2時間加熱してゲル化反応(硬化反応)を生じさせるもので、上記構成では、ゲル化反応による発熱もなく、柔軟性も極めて高いことから、クラック等も生じないと述べられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この種のゲル状シリコーンを大容量高電圧の変圧器に適用した場合、次のような問題点が生じることがある。一般にシロキサンポリマーは、体積膨脹率が大きい(例えば100℃の温度上昇で体積が5〜10%膨脹する)ので、周囲温度や負荷増加により巻線の温度が上昇する際に、充填されたゲル状シリコーンの体積が膨脹し、大形機器になるほど部分的にクラックを生じ、絶縁不良が発生する可能性が高くなる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ケース内に絶縁媒体を十分に充填するように構成して絶縁性能を高くしながら、しかも、難燃性を高くすることができる静止誘導機器を提供するにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の静止誘導機器は、ケース内に巻線を収容すると共に絶縁媒体を充填して成る静止誘導機器において、前記絶縁媒体を、充填後に付加反応により高粘度シリコーン油状ないしシリコーン生ゴム状となる、一般式
【化3】
で示される(A)成分と、一般式
【化4】
で示される(B)成分と、白金系触媒とから構成されているポリシロキサン組成物を用いるところに特徴を有する。これにより得られる高粘度シリコーン油状またはシリコーン生ゴム状物は、網状分子構造がゲル状シリコーンと比較して極めて少ないかほとんどないものである。
【0011】
上記ポリシロキサン組成物は、具体的には、基本的に、(A)分子中にケイ素原子に結合せるアルケニル基を含有し該アルケニル基の数が分子中平均2個以下であるポリオルガノシロキサンと、(B)分子中にケイ素原子に結合せる水素原子を含有し該水素原子の数が分子中平均2個以下であるポリオルガノシロキサンと、(C)触媒量の白金系化合物とを有する構成となっている。
【0012】
ここで、上記(A)、(B)、(C)の各物質について更に詳しく説明する。まず、(A)のポリオルガノシロキサンは、付加反応に関与する一方の化合物で、分子中にケイ素原子に結合せるアルケニル基を有するものである。ケイ素原子に結合せるアルケニル基以外の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロヘキシル基のようなシクロアルキル基、フェニル基のようなアリール基、フェニルエチル基のようなアラルキル基、更に、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロメチル基、クロロフェニル基、シアノエチル基のようにこれらの水素原子の一部或は全部がハロゲン原子などで置換された基が例示される。これらの中でも、ポリマーの合成の容易さや耐熱性などから、すべてがメチル基かメチル基とフェニル基であることが好ましい。
【0013】
上記(A)のポリオルガノシロキサンは、1分子中に平均2個以下のケイ素原子に結合せるアルケニル基を含有することが必要である。このアルケニル基の数が2個を越えると、架橋によりゴムまたはゲルを生じ、中間及び最終生成物の流動性や温度変化に対する追従性を損なう。尚、アルケニル基の数が2個であることが、中間及び最終生成物の高分子化をより効果的に進行させる点で好ましいことである。
【0014】
(B)のポリオルガノシロキサンは、付加反応に関与するもう一方の化合物で、分子中にケイ素原子に結合せる水素原子を有するものである。ケイ素原子に結合せる水素原子以外の有機基としては、(A)に示した1価の有機基が例示されるが、(A)成分と同様の理由から、すべてがメチル基かメチル基とフェニル基であることが好ましい。
【0015】
上記(B)のポリオルガノシロキサンは、1分子中に平均2個以下のケイ素原子に結合せる水素原子を含有することが必要である。この水素原子の数が2個を越えると、架橋によりゴムまたはゲルを生じ、中間及び最終生成物の流動性や温度変化に対する追従性を損なう。尚、水素原子の数が2個であることが、中間及び最終生成物の高分子化をより効果的に進行させる点で好ましい。
【0016】
また、(A)成分及び(B)成分におけるアルケニル基または水素原子の結合位置は、特に制約されるものではないが、分子鎖の末端に位置する方が高分子化効果の面から好ましい。
【0017】
これら(A)及び(B)、(A)または(B)の分子鎖形状は、直鎖状であっても分岐を含んでいても良いが、より高分子化を良くするには、直鎖状で且つその末端にケイ素原子に結合せるアルケニル基または水素原子を1個ずつ有することが好ましい。また、粘度は、その用途によるもので任意であるが、一般には、少なくとも一方が10〜100000cPが好ましい。
【0018】
また、(A)成分におけるアルケニル基の量と、(B)成分における水素原子の量との比は、特に限定されるものではないが、(B)の水素原子/(A)のアルケニル基が0.5〜2であることが好ましく、更に、上記比が0.8〜1.2がより一層好ましい。
【0019】
(C)の白金系触媒は、付加反応を促進する公知の触媒であり、(A)成分と(B)成分との付加反応触媒として、本発明に用いる組成物を反応させるために用いられる触媒である。これには、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、白金とオレフィンとの錯体、白金とケトン類との錯体、白金とビニルシロキサンとの錯体、アルミナまたはシリカなどの担体に白金を保持させたもの、白金黒などで例示される白金系化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、パラジウム黒とトリフェニルホスフィンとの混合物などで例示されるパラジウム系化合物、或は、ロジウム系化合物などが使用できる。
【0020】
この(C)成分は、触媒としての必要量が用いられるが、この量は(A)成分に対し、白金、パラジウム、ロジウムの量に換算して、0.1〜1000ppmとなる範囲であり、より好ましくは0.5〜200ppmの範囲である。尚、0.1ppm未満では、触媒濃度が低いため、高分子化が不十分となる。他方、(C)成分は、貴金属を含み一般に高価であるから、多量の添加は経済性が悪くなるし、また、1000ppmより多くしても意味がなく、更に、耐熱性が悪くなるために、このような範囲を一応画定したのである。
【0021】
また、上記(A)、(B)、(C)の成分は、通常(A)及び(C)を一包装(一つの液体)とし、(B)を一包装(二つの液体)とし、使用時に上記二つの液体を混合するようになっている。
【0022】
また、α−アルキニル化合物、トリアリルイソシアヌレートなどの公知の付加反応抑制剤を配合することにより、上記(A)、(B)及び(C)を混合して一つの包装体(一液)とすることができる。この場合には、ケース1内にポリシロキサン組成物を充填した後、加熱することにより、高粘度化させるようにすれば良い。
【0023】
尚、ポリシロキサン組成物には、必要に応じて、煙霧質シリカ、沈降法シリカ、石英粉末、けいそう土、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウム、マイカ、クレイ、カーボンブラック、グラファイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マンガン、水酸化セリウム、ガラスビーズ、金属粉などの充填材や顔料、耐熱性向上剤、防かび剤などを配合しても良い。更に、溶剤や他のポリオルガノシロキサンを併用、希釈しても良い。
【0024】
【作用】
上記手段によれば、ポリシロキサン組成物は、充填時即ち付加反応する前は粘度が低く、この低粘度状態でケース内に充填される。従って、ポリシロキサン組成物は、巻線内部等の細部まで容易に十分充填され、ポリシロキサン組成物の有する絶縁性能が発揮される。そして、ポリシロキサン組成物は、充填後に付加反応により高粘度シリコーン油状ないしシリコーン生ゴム状となって高粘度になることにより難燃性が十分高くなる。
【0025】
【実施例】
以下、本発明を変圧器に適用した一実施例について図1を参照しながら説明する。変圧器の巻線部分の概略構成を示す図1において、ケース1は、巻線2を収容するものであり、例えばエポキシ樹脂等から形成されている。このケース1は、二重筒状をなす内筒部1a及び外筒部1bと、これら筒部1a、1b間の底部側を塞ぐ底板部1cと、筒部1a、1b間の上部側を塞ぐ上部閉塞板部1dとから構成されている。
【0026】
上記ケース1内に収容された巻線2は、ケース1の内筒部1aの外周面上に設けられた半径方向間隔片3と、この半径方向間隔片3上に巻回された素線4と、この素線4の軸方向(図1中上下方向)の間隙に設けられた軸方向間隔片5とから構成されている。上記素線4は、導線上に例えばポリアミド紙等の耐熱絶縁紙をラップ巻きして成るものである。また、半径方向間隔片3及び軸方向間隔片5は、ポリアミド積層板或はエポキシ樹脂等で形成されており、耐熱絶縁性を有している。
【0027】
そして、ケース1内には、絶縁媒体6が充填されている。この絶縁媒体6は、充填するときは低粘度の液状であると共に、充填後に付加反応により望ましくは100000cSt以上の高粘度を有するポリシロキサン組成物から構成されている。このポリシロキサン組成物は、付加反応により100000cSt以上の高粘度状態になったときにおいても鎖状構造のポリシロキサン分子が各々長くなっているだけで図2に示すように、分子鎖がからみあっている部分はあっても、図3に示すシリコーンゲル(またはゴム)の場合のように相互の分子鎖が架橋点を持って結合されている網状構造とは全く異なる状態にある。従って高粘度となっても基本的には液体であり、流動性を示すのである。
【0028】
次に、ケース1内に絶縁媒体6を充填する手順について、以下説明する。この場合、まず、ケース1内に巻線2を収納したものを、図示しない減圧装置の真空容器内に設置し、真空容器内を真空引きしてケース1内を減圧する。続いて、減圧状態で、ケース1内に、上述した分子中にケイ素原子に結合せるアルケニル基を含有し該アルケニル基の数が分子中平均2個以下であるポリオルガノシロキサン(A)及び触媒量の白金系化合物(C)からなる一包装(一つの液体)と、分子中にケイ素原子に結合せる水素原子を含有し該水素原子の数が分子中平均2個以下であるポリオルガノシロキサン(B)からなる一包装(一つの液体)とを所定配合で混合したものを注入して充填する。この場合、(A)、(B)、(C)を混合したポリシロキサン組成物は、付加反応(高粘度化反応)が適当な速さで行われるように反応促進剤の量が調整されている。
【0029】
そして、上記充填時には、(A)、(B)、(C)を混合したポリシロキサン組成物は、その粘度が低いことから、巻線2の内部等の細部まで容易に十分充填される。充填が完了した後は、付加反応が進行し、ポリシロキサン組成物の粘度が100000cSt以上にも高くなる。この結果、ポリシロキサン組成物即ち絶縁媒体6は、ケース1内の巻線2の内部等の細部まで十分に充填されて、ポリシロキサン組成物の絶縁性能が発揮される。しかも高粘度になることにより、難燃性が十分高くなり、かつ、流動性を保持するためクラック、ハクリ等の欠陥を生じることなく高い絶縁信頼性を保持できる。
【0030】
次に、具体的な実験例を説明する。本発明に対応する実験例が実施例1であり、参考実験例として比較例1を記載する。
【0031】
実施例1
【化5】
【0032】
及び塩化白金酸のイソプロパノール溶液を白金量として(A)成分に対し、10ppmとなる量を混合した。
【0033】
混合直後の粘度は、600cP(25℃)、−SiH/−SiVi=1.03である。このものを25℃の常温にて24時間放置した後の状態を見たところ、高粘度化しており、ASTM D−1403の1/4コーンにおける針入度60の値を示す生ゴム状の高分子物(図2に示す鎖状分子構造)であった。
【0034】
比較例1
【化2】
【0035】
及び塩化白金酸のイソプロパノール溶液を白金量として(A)成分に対し、10ppmとなる量を混合した。
【0036】
混合直後の粘度は、1000cP(25℃)、−SiH/−SiVi=0.5である。このものを25℃の常温にて24時間放置した後の状態を見たところ、ASTM D−1403の1/4コーンにおける針入度60の値を示すゲル状(図3に示す網状分子構造)であった。
【0037】
実施例1及び比較例1で得た生成物を、直径10mm、長さ10cmの試験管に入れ、25℃の常温にて24時間放置して硬化させた。このものを150℃の恒温槽に入れ、1時間後に取り出し、その表面状態を観察したところ、実施例1の硬化物は変化がなかったのに対し、比較例1の硬化物は温度が常温に戻るに従い、徐々にクラックが発生してきた。
【0038】
実験例1
実施例1及び比較例1で得た生成物を、図4(a),(b)に示すように直径100mm高さ350mm程度の変圧器巻線を模した2種類の電極10,11を内蔵し、外周にアース電極12を有する直径125mm高さ400mmのガラス筒13にそれぞれ充填し、25℃の常温にて24hr放置して硬化させた。
【0039】
その後、電極10,11に各々電圧を印加し、部分放電開始電圧を求めた。しかる後、恒温槽に入れ図5に示すように−20℃,1hr,150℃,1hrの熱履歴を加えた後、再度電圧を印加して部分放電開始電圧を求めた。その結果、実施例2の硬化物には外観上の変化がなく部分放電開始電圧についても初期と同レベルを保持していた。一方、比較例1の硬化物には部分的にクラックが発生しており、部分放電開始電圧も大巾に低下した。
【0040】
【発明の効果】
本発明は以上の説明から明らかなように、ケース内に充填する絶縁媒体を、付加反応により鎖状構造の分子が長くなることのみによって粘度が増すポリシロキサン組成物から構成したので、反応前の低粘度状態にてケース内に十分に充填し得て絶縁性能を高くすることができ、しかも、充填後に高粘度化し得て難燃性を高くすることができなおかつ流動性を失わずに、温度変化によるクラック、ハクリ等の欠陥を生じず高い絶縁信頼性を有するという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す変圧器の巻線部分の破断斜視図
【図2】本発明の一実施例で用いた生成物の鎖状分子構造を示す図
【図3】比較例として用いた生成物の網状分子構造を示す図
【図4】(a)及び(b)は生成物の実験状態を示す断面図
【図5】実験に用いた熱履歴を示すタイムチャート
【符号の説明】
1はケース、2は巻線、3は半径方向間隔片、4は素線、5は軸方向間隔片、6は絶縁媒体を示す。
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