JP3603851B2 - 圧延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧延鋼板の製造方法に関するものであり、具体的には、例えば厚板の圧延やホットストリップの粗圧延等のように、被圧延材に複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば厚板の圧延やホットストリップの粗圧延等のように、被圧延材に複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造しようとすると、被圧延材の圧延方向の先端部に上方向または下方向への板反りが発生することがある。かかる板反りが発生すると、例えば、その後のパスにおいて被圧延材が衝突してストリップガイドを破損するといった設備トラブルを生じたり、下反りが発生した場合には製品である被圧延材に腰折れ等の表面疵が発生したり、特に製品が制御圧延材である場合には冷却むらが発生して所望の特性が得られないといった、操業上の大きな問題が発生する。
【0003】
このように板反りは、操業上の様々な問題の原因となることから、その発生を完全に防止すべきものである。しかしながら、板反りは、被圧延材である鋼板の上下面間の温度差や摩擦係数差、上下のワークロールの周速度差やピックアップ量等といった極めて多くの要因が複雑に影響し合って発生すると考えられる。このため、板反りの発生を完全に解消することは容易ではない。
【0004】
そこで、このような板反りの発生を操業上問題ない程度に抑制するため、例えば特開昭63−60012号公報には、リバース圧延機の前後の少なくとも一方の側に設置された反りセンサによりあるパスを終了した被圧延材の板反り量(反り曲率)を測定し、予め求めた、反り曲率と上下のワークロールの周速度差との関係に基づいて、反り曲率が零となるように次パスを行う際の上下のワークロールの異速率を設定する発明が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のいずれの技術によっても、これまでは、被圧延材の板反り量を操業上の大きな問題を生じない程度に抑制することはできなかった。
【0006】
すなわち、本発明者らが確認した結果によれば、例えば特開昭63−60012号公報により開示された発明により得られる板反りの抑制効果は、近時に求められている板反りの抑制効果には達しないため、その改善が必要である。
【0007】
また、板反りは上述したように非常に多くの要因が複雑に影響し合って発生する。このため、複数パスのリバース圧延における各パスにおいて発生する板反り量は一定ではなく不規則に増減する。
【0008】
図9は、9パスのリバース圧延により厚板を製造した際の各パスにおいて発生した板反り量(反り曲率κ)の測定結果の一例を示すグラフであり、正の値の反り曲率κは上反りが発生したことを意味し、負の値の反り曲率κは下反りが発生したことを意味する。同図にグラフで示すように、この例における反り曲率κは各パスにおいて約+0.1〜−0.4(1×10−3/mm)の範囲で変動していることから、発生する板反り量は各パス毎に不規則に増減することがわかる。
【0009】
これらの理由により、特開昭63−60012号公報により開示された発明にしたがって、前パスの板反り量の実測値に基づいて次パスの上下のワークロールの異速率を設定したとしても、次パスの板反り量を目標値に高精度で制御することはできない。このため、例えば、最終パスの直前のパスにおける板反り量の実測値に基づいて最終パスの上下のワークロールの異速率を設定しても、最終パス後の製品の板反り量を目標の範囲内に収めるように制御することはできない。
【0010】
本発明の目的は、複数パスのリバース圧延により圧延鋼板を製造するに際し、被圧延材の板反り量を操業上の大きな問題を生じない程度に十分に抑制することができる圧延鋼板の製造方法を提供することであり、これにより、例えば設備トラブル、鋼板の表面疵さらには制御圧延材の冷却むらによる品質劣化といった、板反りに起因した操業上の各種の問題の発生を抑制でき、特に、最終パス後の製品の板反り量をも目標の範囲内に正確に収めるように制御できることから例えば厚板やホットストリップ粗圧延材といった製品の品質向上を図ることができる圧延鋼板の製造方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、(i)上下のワークロールそれぞれの周速度の設定は、被圧延材に板反りの発生が予想される噛込直後期間における異速率の平均値(本明細書では「平均異速率」という)に基づいて行うこと、および/または、(ii)一のパスを終了した後の板反り量の測定値と、最終パス後の板反り量の目標値との偏差に基づいて一のパスの直後のパスを行う際の反り制御要素(例えば上下のワークロールそれぞれの周速度)の設定量をフィードフォワード制御することを連続する少なくとも2パスにおいて行うことによって、板反りを操業上の大きな問題を生じない程度に十分に抑制もしくは解消することができることを知見し、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0012】
本発明は、広義には、被圧延材に上下のワークロールによる複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する方法であって、被圧延材に板反りの発生が予想される噛込直後期間での上下のワークロールの平均異速率に基づいて、上下のワークロールそれぞれの周速度を、板反りの発生が抑制または解消されるように設定することを特徴とする圧延鋼板の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、被圧延材に上下のワークロールによる複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する方法であって、複数パスのうちの一のパスを行う際に、一のパスの直前のパスを終了した後の板反り量の測定値と、一のパスの後における板反り量の目標値との偏差に基づき、被圧延材に板反りの発生が予想される噛込直後期間における上下のワークロールの平均異速率を計算し、計算した平均異速率に基づいて一のパスにおける上下のワークロールそれぞれの周速度を設定することによって、板反りの発生を抑制または解消することを特徴とする圧延鋼板の製造方法である。
【0014】
別の観点からは、本発明は、被圧延材に複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する方法であって、複数パスのうちの一のパスの直後のパスを行う際に、一のパスを終了した後の板反り量の測定値と、複数パスのうちの最終パスの後における板反り量の目標値との偏差に基づいて直後のパスを行う際の反り制御要素の設定量をフィードフォワード制御することを、複数パスのうちの連続する少なくとも2パスにおいて行うことによって、これら少なくとも2パスを終了した時点における板反りの発生を抑制または解消することを特徴とする圧延鋼板の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、被圧延材に複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する方法であって、複数パスのうちの一のパスの直後のパスを行う際に、一のパスを終了した後の板反り量の測定値と、複数パスのうちの最終パスの後における板反り量の目標値との偏差に基づいて直後のパスを行う際の反り制御要素の設定量を変更して直後のパスを行うことを、複数パスのうちの連続する少なくとも2パスにおいて行うことによって、少なくとも2パスを終了した時点における板反りの発生を抑制または解消することを特徴とする圧延鋼板の製造方法である。この場合に、直後のパスを行う際の反り制御要素の設定量の変更が、前記の偏差から、一のパスにおける反り制御要素の設定量または実測値の変更量を求め、求めた変更量と、一のパスにおける反り制御要素の設定量または実測値とに基づいて、行われることが望ましい。
【0016】
これらの本発明において、反り制御要素が、リバース圧延を行う上下のワークロールそれぞれの周速度であることが例示される。この場合に、上下のワークロールそれぞれの周速度の設定量の変更が、被圧延材に板反りの発生が予想される噛込直後期間における、上下のワークロールの平均異速率に基づいて、行われることが望ましい。
【0017】
さらに、これらの本発明にかかる圧延鋼板の製造方法では、一のパスが、複数パスにおける最終パスの1パス前のパスであることが例示される。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる圧延鋼板の製造方法の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以降の説明では、本発明における「圧延鋼板」が熱間圧延により製造される厚板であるとともに、本発明における「反り制御要素」が上下のワークロールそれぞれの周速度である場合を例にとる。この反り制御要素には、下ワークロールの天面と入側テーブルローラの天面との差を調整して、被圧延材の進入角度を調整する「パスライン調整」や、水冷等により被圧延材の上面と下面との温度差を調整する「表裏面温度差制御」等も包含されるが、「反り制御要素」として上下のワークロールそれぞれの周速度を用いることが、板反りの制御量が大きいために望ましいからである。
【0019】
図1は、本実施の形態で用いる圧延装置1の構成を模式的に示す説明図である。同図に示すように、この圧延装置1は、上下一対のワークロール2a、2bと、ワークロール2a、2bをそれぞれ支持するバックアップロール3a、3bとを有するリバース圧延機4を備えており、このリバース圧延機4により、被圧延材5に熱間で複数パスのリバース圧延が行われ、最終的に製品である厚板が製造される。
【0020】
リバース圧延機4の前面側および後面側には、それぞれ、各パスにおける被圧延材5に生じる板反り量を測定するための反りセンサ6a、6bが設置されており、反りセンサ6a、6bにより各パスを終了した時点の被圧延材5の先端部に生じる板反り量が測定される。反りセンサ6a、6bにより測定された板反り量は画像処理装置7へ送られる。そして、画像処理装置7により、入力された板反り量に基づいて反り曲率が計算され、計算された反り曲率は、後述する反り制御装置10へ送られる。
【0021】
また、図1中に示すデータ収集装置8により、リバース圧延機4によるリバース圧延の各パスにおける圧延荷重、ワークロール周速度(圧延速度)さらには圧延トルク等の各データがリアルタイムで計測される。そして、データ収集装置8によりリアルタイムで計測されたこれらのデータは、データ収集装置8から後述する反り制御装置10へ送られる。
【0022】
さらに、圧延機制御プロセスコンピュータ9により、リバース圧延機4による各パスのパススケジュール計算が行われ、得られたパススケジュールは反り制御装置10へ送られる。
【0023】
反り制御装置10では、画像処理装置7から入力される反り曲率と、データ収集装置8から入力される圧延荷重、ワークロール周速度(圧延速度)さらには圧延トルク等の各データと、圧延機制御プロセスコンピュータ9から入力される各パスのパススケジュールとに基づいて、被圧延材5の板反り量を低減するための上下のワークロール2a、2bの異速率が計算され、計算された異速率に基づいて、上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度が計算される。
【0024】
反り制御装置10により計算された上下のワークロール2a、2bの異速率および周速度は、モニタ11に送られてオペレータへの指示値として表示される。オペレータは、モニタ11に表示された上下のワークロール2a、2bの異速率および周速度の指示値にしたがって、上下のワークロール2a、2bの周速度を手動操作により設定する。
【0025】
以上説明したように構成された圧延装置1を用いて、被圧延材5に複数パスのリバース圧延を熱間で行って厚板を製造するが、本実施の形態では下記2点、すなわち、
(i)一のパスの直前のパスにおける、被圧延材5に板反りの発生が予想される噛込直後期間での上下のワークロール2a、2bの平均異速率に基づいて、一のパスにおける上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度を、板反りの発生が抑制または解消されるように設定すること、および
(ii)例えば上述した特開昭63−60012号公報により開示された発明のように板反り量を測定したパスの次のパスのみに着目するのではなくて、一のパスを終了した後の板反り量の測定値と、複数パスのうちの最終パスの後における板反り量の目標値との偏差に基づいて直後のパスを行う際の反り制御要素の設定量をフィードフォワード制御することを、複数パスのうちの連続する少なくとも2パスにおいて行うことによって、少なくとも2パスを終了した時点における板反りの発生を抑制または解消すること
を特徴とするものである。そこで、以下、これら2点の内容について詳細に説明する。なお、以降の本実施の形態の説明では、「一のパス」が最終パスの1パス前のパスである場合を例にとる。このため、本実施の形態では、「一のパスの直前のパス」とは最終パスの2パス前のパスであり、「一のパスの直後のパス」とは最終パスである。
【0026】
(i)噛込直後期間における平均異速率ΔVIに基づいた、上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlの設定
本実施の形態では略述すると、上下のワークロール2a、2bによる被圧延材5に対する複数パスのリバース圧延のうちの一のパス(上述したように、最終パスの1パス前のパスを意味する)を行う際に、まず、この一のパスの直前のパス(上述したように、最終パスの2パス前のパスを意味し、以下単に「直前のパス」という)で実測した板反り量から、一のパスにおいて板反り量を無くすための異速率ΔVを設定する。すなわち、直前のパスにおける、被圧延材5に板反りの発生が予想される噛込直後期間での上下のワークロール2a、2bの平均異速率ΔVIに基づいて、一のパスにおける上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlを、板反りの発生が抑制または解消されるように設定する。
【0027】
図2は、板厚20.7mmから板厚16.4mmまで圧延するあるパスにおける上下のワークロール2a、2bの異速率と、被圧延材5に生じる反り曲率κとの関係を調べた結果の一例を示すグラフであり、図2(a)は噛込前の無負荷時の異速率ΔV(%)を示し、図2(b)は被圧延材5に板反りの発生が予想される噛込直後期間における平均異速率ΔVI(%)を示す。
【0028】
ここで、異速率ΔVは、上ワークロール2aの周速度をVuとし、下ワークロール2bの周速度をVlとすると、(1)式により求められる。
ΔV=(Vl−Vu)/Vl×100(%) ・・・・・・(1)
また、直前のパスの噛込直後期間における平均異速率ΔVIは、図3に例示する、直前のパスにおける異速率−時間のグラフを用いて決定される。すなわち、本実施の形態では、直前のパスにおいて被圧延材5に板反りの発生が予想される噛込直後期間を、板反りの発生が予想される先端部の領域 (例えば被圧延材5の先端の噛込みから圧延方向へ1000mmの長さの領域)が圧延されるのに要する時間(本実施の形態では0.3秒間とした)と定め、この噛込直後期間における上下のワークロール2a、2bそれぞれの平均周速度Vu’、Vl’を求め、求めたワークロール2a、2bそれぞれの平均周速度Vu’、Vl’を(1)式に代入することにより、直前のパスにおける平均異速率ΔVIが求められる。
【0029】
図2(a)および図2(b)に示すグラフから、被圧延材5に生じる反り曲率κは、被圧延材5がリバース圧延機4に噛み込む前の無負荷時における上下のワークロール2a、2bの異速率ΔVとの間には明確な関数関係を有さないのに対し、噛込直後期間における平均異速率ΔVIとの間には明確な関数関係を有することがわかる。このため、被圧延材5に生じる反り曲率κは、直前のパスでの噛込直後期間における平均異速率ΔVIを変数とする関数fを用いて(2)式のように表される。ここで、この(2)式における係数aは、形状比といわれるパラメータを用いて表される。
【0030】
κ=a×f (ΔVI) ・・・・・・(2)
図4は、形状比の説明図である。同図に示すように、入側板厚をh1 とし、出側板厚をh2 とし、さらに接触弧長をld とすると、形状比は、(接触弧長)/(入側板厚および出側板厚の平均値) である、2ld /(h1 +h2 )として求められる。
【0031】
図5は、(2)式における係数aと形状比2ld /(h1 +h2 )との関係を示すグラフである。図5にグラフで示すように、(2)式における係数aは、形状比2ld /(h1 +h2 )の関数として表現することができる。このため、図2(b)のグラフから求められた(2)式の関係と、図5のグラフに示す関係とに基づいて、直前のパスにおける噛込直後期間における平均異速率ΔVIと反り曲率κとの関係は、形状比2ld /(h1 +h2 )を用いて整理することができる。
【0032】
すなわち、本実施の形態では、反り制御装置10に、図2(b)のグラフから求められた(2)式の関係と、図5のグラフに示す関係とが予め入力されており、圧延機制御プロセスコンピュータ9により計算された、直前のパスのスケジュールが反り制御装置10に入力されると、反り制御装置10は、形状比2ld /(h1 +h2 )を算出し、この算出値と予め入力された図5のグラフの関係とにより、係数aの値を求める。そして、反り制御装置10は、求められた係数aの値を、上述した(2)式に代入することによって、一のパスにおいて板反り量が許容範囲内に収まるように反り曲率κを小さくすることができる、一のパスにおける噛込直後期間における平均異速率ΔVIを求めることができる。
【0033】
なお、形状比が1.0近傍の条件では、上下のワークロール2a、2bの周速度を異ならせる異周速圧延を行うことが難しい不安定領域となることがある。すなわち、通常、形状比が1.0よりも大きくなると周速度が大きい側のワークロール2aまたは2bに向けて板反りが発生するのに対し、形状比が1.0よりも小さくなると、周速度が小さい側のワークロール2aまたは2bに向けて板反りが発生し、いずれの場合にも板反りの発生方向が定まる安定領域での圧延となるのに対し、形状比が1.0近傍では、板反りの発生方向が定まらない不安定領域となることがある。このため、形状比が1.0近傍の条件では、前述したような、例えばパスライン調整や表裏面温度差制御等の異周速圧延以外の他の反り制御手法を適用するようにしてもよい。
【0034】
ところで、オペレータの手動操作によって一のパスについて実際に設定されるのは、噛込直後期間における平均異速率ΔVIではなくて、無負荷時における上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlにより規定される異速率ΔVである。このため、本実施の形態では、上述したようにして反り制御装置10により算出された平均異速率ΔVIとなるように、オペレータの操作によって無負荷時における上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlを設定するために、噛込直後期間におけるリバース圧延機4の特性と圧延条件との関係を利用して、一のパスの噛込直後期間における平均異速率ΔVIを正確に与える無負荷時における異速率ΔV、すなわち上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlを算出することができる予測式を用いる。そこで、以下、この予測式(3)〜(12)について説明する。
【0035】
図1における反り制御装置10によって一のパスが開始される前に把握可能な情報は、圧延機制御プロセスコンピュータ9で計算される各パスの計算圧延トルクと、基準圧延速度である。ここで、基準圧延速度とは、同速度で圧延する場合の各パスの圧延速度であり、異周速圧延を行う場合には上ロールか下ロールのいずれか一方の圧延速度である。
【0036】
ここで、計算圧延トルクTqsと、一のパスの噛込直後期間における最大圧延トルクの上下のワークロール2a、2bの平均値Tqiとの間には(3)式の関係が成立する。なお、(3)式におけるC1 は係数である。
【0037】
Tqi=C1 ×Tqs ・・・・・・・・(3)
また、上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度を異ならせる異周速圧延では、周速度が高い側のワークロール2aまたは2bのトルクは増加するのに対し、周速度が低い側のワークロール2aまたは2bのトルクは減少する。このため、一のパスの無負荷時の異速率をΔVとして、上ワークロール2aの噛込直後期間における最大圧延トルクTqiu、下ワークロール2bの噛込直後期間における最大圧延トルクTqilは、(4)式〜(6)式によって計算される。なお、(6)式におけるC2 およびC3 はいずれも係数である。
【0038】
Tqiu=(1−Tqa×ΔV)×Tqi ・・・・・・・・(4)
Tqil=(1+Tqa×ΔV)×Tqi ・・・・・・・・(5)
Tqa=C2 ×(Tqi−C3 )2 ・・・・・・・・(6)
さらに、一のパスにおいて被圧延材5がワークロール2a、2bに噛み込んだ時の時刻を0とすると、噛み込んだ時からt秒間経過した時点における上ワークロール2aの圧延トルクTqu(t)、下ワークロール2bの圧延トルクTql(t)は、それぞれ(7)式および(8)式により計算される。
【0039】
Tqu(t)=Tqiu×g(t) ・・・・・・・・(7)
Tql(t)=Tqil×g(t) ・・・・・・・・(8)
一方、一のパスにおいて噛み込んだ時からt秒間経過した時点における上ワークロール2aの速度Spu(t)、下ワークロール2bの速度Spl(t)は、それぞれ、(9)式〜(12)式により求められる。ここで、(9)式におけるVu、(11)式におけるVlは、上ワークロール2a、下ワークロール2bそれぞれの一のパスにおける無負荷時の設定速度である。
【0040】
このように、上述した(1)式〜(12)式を用いることにより、一のパスの前に把握することができる情報である、上ワークロール2aの速度Vuと、下ワークロール2bの速度Vlと、計算圧延トルクTqsとに基づいて、図3に例示する、一のパスにおける噛込直後期間における時間−ロール周速度の関係を計算により求めることができ、計算により求めたこの関係により、一のパスにおける噛込直後期間における平均異速率ΔVIを計算により求めることができる。そして、一のパスにおける噛込直後期間における平均異速率ΔVIから一のパスにおける無負荷時の異速率ΔVを求めるには、例えば、一のパスにおける無負荷時の異速率ΔVを仮定して(1)式〜(12)式を用いて一のパスにおける噛込直後期間における平均異速率ΔVIを求め、求めた平均異速率ΔVIが板反り量から求まる平均異速率の所定値となるように繰り返し計算を行うことによって、一のパスにおいて設定すべき無負荷時の異速率ΔVの値、すなわち一のパスにおける無負荷時の上下のワークロール2a、2bの設定速度Vu、Vlを求めることができる。
【0041】
すなわち、本実施の形態では、一のパスにおける噛込直後期間における平均異速率ΔVIと計算圧延トルクTqsとから、被圧延材5の板反り量を抑制することができる異速率ΔV、すなわち一のパスにおける上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlを高精度で設定することができる。
【0042】
このように、本実施の形態では、被圧延材5に上下のワークロール2a、2bによる複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する際であって、複数パスのうちの一のパス(最終パスの1パス前のパス)を行う際に、この一のパスの直前のパス(最終パスの2パス前のパス)における、被圧延材5に板反りの発生が予想される噛込直後期間での上下のワークロール2a、2bの平均異速率に基づいて、一のパスにおける上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlを設定する。
【0043】
ここで、図2(b)のグラフを参照しながら上述したように、噛込直後期間における平均異速率は被圧延材5に生じる反り曲率との間に明確な相関関係を有しており、本実施の形態ではこの噛込直後期間における平均異速率を因子として上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlを設定するため、板反りの発生を高精度で抑制または解消することができる。
【0044】
なお、以上の(i)項の説明では「一のパス」が最終パスの1パス前のパスである場合を例にとった。しかし、本発明における「一のパス」は、かかる形態に限定されるものではなく、リバース圧延の複数のパスのうちのいずれか一つのパスであればよく、いずれのパスの場合であっても、このパスを終了した後における板反りの発生を高精度で抑制または解消することができる。
【0045】
(ii)制御誤差に基づいた、一のパスの直後のパスを行う際の反り制御要素の設定量のフィードフォワード制御の、最終パスを含む連続する2パスにおける実施
上述した図9のグラフで例示するように、リバース圧延の各パスにおいて発生する板反り量は、各パス毎に大きく変化することがある。上記(i)項で説明したように、噛込直後期間における平均異速率を用いることとともに、以下に説明するフィードフォワード制御を行うことにより、各パス間における板反り量の変動をも相殺して、さらに高精度で板反りの発生を抑制または解消することができる。
【0046】
すなわち、本実施の形態では、反り制御装置10により、リバース圧延機4による複数パスのうちの一のパス(本実施の形態では、上述したように最終パスの1パス前のパスを意味する)を終了した後の板反り量の測定値と、複数パスのうちの最終パスの後における板反り量の目標値との偏差(本明細書では、以下「制御誤差」という)を算出し、算出した制御誤差に基づいて一のパスの直後のパス(本実施の形態では、最終パスを意味し、以下単に「直後のパス」という)を行う際の上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlの設定量をフィードフォワード制御するという操作を、最終パスを含む連続する2パス、すなわち一のパスと直後のパスとについて行う。
【0047】
具体的には、反り制御装置10により、直前のパス(最終パスの2パス前のパス)を終了した後の板反り量の測定値と、最終パスの後における板反り量の目標値との制御誤差から、上述したように噛込直後期間における上下のワークロール2a、2bの平均異速率に基づいて設定された、一のパスでの上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度の設定量の変更量を求め、求めた変更量と直前のパスにおける上下ワークロール2a、2bの周速度の設定量とに基づいて、一のパスにおける上下のワークロール2a、2bの周速度の設定量を変更して設定する。そして、この設定量で一のパスを行う。
【0048】
次に、反り制御装置10により、一のパスを終了した後の板反り量の測定値と、最終パスの後における板反り量の目標値との制御誤差から、上述したように噛込直後期間における上下のワークロール2a、2bの平均異速率に基づいて設定された、一のパスでの上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度の設定量の変更量を求め、求めた変更量と一のパスにおける上下ワークロール2a、2bの周速度の設定量とに基づいて、直後のパスにおける上下のワークロール2a、2bの周速度の設定量を変更して設定する。そしてこの設定量で直後のパス、すなわち最終パスを行う。
【0049】
すなわち、本実施の形態では、直後のパスを行う際の上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlの設定量の変更は、一のパスにおける制御誤差から、一のパスで設定された異速率の設定量または実測値の変更量を求め、求めた変更量と、一のパスにおける異速率の設定量または実測値とを加算することにより行われる。
【0050】
このように、本実施の形態では、反り制御装置10により、前パスでの板反り量の測定値と最終的な板反り量の目標値とから板反り量の制御誤差を求め、かかる制御誤差を、前パスの直後の次パスでの異速率の設定、すなわち、上下のワークロール2a、2bの速度の設定にフィードフォワード制御するという制御を、最終パスを含む連続する2パスで行うという、いわば板反り量 (反り曲率) の誤差の学習制御を行う。このため、直前のパス、一のパスおよび直後のパスにおいて発生する板反り量が各パス毎に変動したとしても、変動した板反り量に十分に追従して、上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度Vu、Vlを設定することができる。これにより、最終パス後の板反り量を目標値によりいっそう高精度で制御することができる。
【0051】
なお、本実施の形態では、このようなフィードフォワード制御を、一のパスと直後のパスとの2パスについて行っているが、直前のパス以上前の複数のパスについても適用することにより、直後のパスを含む3パス以上の複数のパスでかかるフィードフォワード制御を行うようにしてもよい。
【0052】
また、以上の説明は、最終パスを含む2パス以上の複数のパスにおいて上述したフィードフォワード制御を行う場合に関するものであるが、最終パスを含まない2パス以上の複数のパスにおいてかかるフィードフォワード制御を行うようにしてもよい。これによっても、フィードフォワード制御を行われた最後のパスを終了した後の被圧延材5に生じる板反り量を顕著に低減でき、これにより、このパスの近傍のパスにおける操業上の問題を解消することができる。
【0053】
そこで、以下、連続する2パスにおいてかかるフィードフォワード制御を行う場合を一般化して説明する。
図6は、本実施の形態において、反り制御装置10により行われるフィードフォワード制御の一例を示すフローチャートである。なお、本例は、第(i+1)パスと第(i+2)パスとにフィードフォワード制御を適用する場合を示す。
【0054】
図6におけるステップ(以下「S」と略記する)1では、第iパス目の圧延を終了した後の被圧延材5の先端に生じた板反り量 (反り曲率κi ) を測定する。そして、測定後にS2へ移行する。
【0055】
S2において、反り曲率κi と反り曲率の目標値κo から板反り量の制御誤差Δκi ( Δκi =κi −κo ) を求め、この制御誤差Δκi が零となるように、(2)式および図5に示す係数aと形状比との関係より、噛込直後期間における平均異速率ΔVIiを求め、この平均異速率ΔVIiから(1)式〜(12)式を用いて第iパスで設定された異速率ΔVi の修正量ΔVSi を求める。すなわち、本実施の形態では、上下のワークロール2a、2bそれぞれの周速度の設定量は、被圧延材5に板反りの発生が予想される噛込直後期間における、リバース圧延を行う上下のワークロール2a、2bそれぞれの平均異速率ΔVIiに基づいて、決定される。そして、S3へ移行する。
【0056】
S3において、第iパス目の異速率ΔVi とその修正量ΔVSi とから第(i+1)パスにおいて設定される異速率ΔVi+1 をΔVi+1 =ΔVi +ΔVSi として求め、この異速率ΔVi+1 で第(i+1)パスの圧延を行う。そして、S4へ移行する。
【0057】
S4において、第(i+1)パス目の圧延を終了した後の被圧延材5の先端に生じた板反り量κi+1 を測定する。そして、測定後にS5へ移行する。
S5において、板反り量κi+1 と板反り量の目標κo から板反り量の制御誤差Δκi+1 を、Δκi+1 =κi+1 −κo として求め、この制御誤差Δκi+1 からS2で説明した手法と同様にして異速率の修正量ΔVSi+1 を求める。そして、S6へ移行する。
【0058】
S6において、第(i+1)パス目の異速率ΔVi+1 とその修正量ΔVSi+1 とから第(i+2)パスの異速率ΔVi+2 をS3で説明した手法と同様の手法で求め、この異速率ΔVi+2 で第(i+2)パスである最終パスの圧延を行う。
【0059】
このように、本実施の形態では、例えば上述した特開昭63−60012 号公報により開示された発明のように、板反り量を測定したパスの次パスのみに着目するのではなくて、複数の各パスにおいて板反り量を徐々に低減していくこと、具体的には、被圧延材5に複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する際の複数パスのうちの一のパスの直後のパスを行う際に、一のパスを終了した後の板反り量の測定値と、複数パスのうちの最終パスの後における板反り量の目標値との偏差に基づいて直後のパスを行う際の上下のワークロール2a、2bの周速度の設定量を変更して直後のパスを行うことを、複数パスのうちの連続する少なくとも2パスにおいて行う。
【0060】
このため、これらの少なくとも2パスを終了した時点に向かって、これらのパスで板反り制御を行うことができ、徐々に板反り量を低減して目標値に近づけることができる。このため、本実施の形態によれば、これらのパスの各パスにおいて板反り量が不規則に変動したとしても、これらの少なくとも2パスを終了した時点においては、板反りの発生を抑制または解消することができ、目標とする板反り量に高精度で制御することが可能となる。
【0061】
つまり、前述したように、板反りは、鋼板の上下面の摩擦係数差や温度差、噛み込み角度の非対称性、スケールの表裏差、さらには先端噛み込み端の材料形状等といった様々な理由に起因して発生するため、各パス毎の板反りの変動要因を正確かつ定量的に把握することは事実上不可能である。これに対し、この本実施の形態によれば、各パス毎の板反りの変動要因を正確かつ定量的に把握しなくとも、各パス間における板反り量の変動の影響を解消して、板反り量を目標値に高精度で制御することができ、これにより、板反りに起因した各種の問題の発生を抑制でき、特に、最終パスを含む2以上のパスに適用することにより、最終パス後の製品の板反り量を目標値に制御し、製品の品質や歩留りを向上することができる。
【0062】
【実施例】
さらに、本発明を実施例を参照しながらより詳細に説明する。
実施の形態で用いた、被圧延材5の先端部の板反り量 (反り曲率κ) を測定する反りセンサ6a、6bを前後に備えた図1に示す圧延装置1により仕上総パス数が9パスからなるリバース圧延を行って、本発明にかかる圧延鋼板の製造方法を実施することにより、厚板を熱間で製造した。
【0063】
すなわち、本発明例として、第6パスの圧延を終了した後における被圧延材5における板反り量を測定し、測定した板反り量が板反り量の目標値となるように、第6パスの噛込直後期間における平均異速率を用いて上下のワークロール2a、2bの異速率の修正量を求め、求めた異速率の修正量と第6パスで設定された異速率 (オペレータが経験的に設定したもの) とを加算することによって、第7パスの異速率の設定値を求めた。そして、求めた第7パスの異速率の設定値で、第7パスの圧延を行った。
【0064】
そして、第7パスの圧延を終了した後における被圧延材5における板反り量を測定し、測定した板反り量が板反り量の目標値となるように、第7パスの噛込直後期間における平均異速率を用いて上下のワークロール2a、2bの異速率の修正量を求め、求めた異速率の修正量と第7パスで設定された異速率とを加算することによって、第8パスの異速率の設定値を求めた。そして、求めた第8パスの異速率の設定値で、第8パスの圧延を行った。
【0065】
そして、第8パスの圧延を終了した後における被圧延材5における板反り量を測定し、測定した板反り量が板反り量の目標値となるように、第8パスの噛込直後期間における平均異速率を用いて上下のワークロール2a、2bの異速率の修正量を求め、求めた異速率の修正量と第8パスで設定された異速率とを加算することによって、第9パスの異速率の設定値を求めた。そして、求めた第9パスの異速率で最終パスである第9パスの圧延を行った。
【0066】
一方、比較例として、図1に示す圧延装置1を用い、第8パスの圧延後の板反り量を測定し、測定した板反り量が板反りの目標値となるように、上下ワークロール2a、2bの異速率の修正量を求め、この修正量と第8パスで設定された異速率とを加算することにより、最終パスである第9パスの異速率を求め、この異速率に設定して最終パスの圧延を行った。
【0067】
表1には、本発明例および比較例それぞれでの圧延条件をまとめて示す。
【0068】
【表1】
【0069】
図7には、本発明例について、第6パス〜第9パスにおける異速率(%)および反り曲率(10−3/mm)の測定結果をグラフで示す。
図7にグラフで示すように、本発明例では、第7パスにおいて下反りが発生したものの、第8パスでは目標値である狙い反り曲率に近い値の上反りとなり、さらに第9パスの圧延により、ほぼ狙い反り曲率 (上反り曲率0.2×10−3/mm) の厚板を製造することができた。
【0070】
これに対し、比較例では、第9パスの圧延を終了した時点で、反り曲率が−0.3×10−3/mm程度の下反りが発生し、目標とする板反り曲率を大きく外れ、不芳であった。
【0071】
また、図7に示すように、本発明により板反り制御を開始した第7パスでは、狙い反り曲率を大きく逸脱する反り曲率の下反りが発生していることがわかる。このため、本発明例の学習制御は、複数パスのうちの連続する少なくとも2パスにおいて行うことによって効果が表れることがわかる。
【0072】
また、図8には、本発明例および比較例について、最終パス完了後の反り曲率の実測値(10−3/mm)と形状比との関係をグラフで示す。なお、図9のグラフにおける比較例は、オペレータが勘により経験的に次パスの異速率を設定した例である。また、図8のグラフにおける白丸は比較例を示し、黒丸は本発明例を示す。
【0073】
図8にグラフで示すように、本発明例によれば、最終パスにおいて発生する反り曲率を目標値の範囲 (上反り曲率0〜0.4×10−3/mm) に制御することができたのに対し、オペレータが勘に頼る従来例では、最終パスにおいて発生する反り曲率が、下反り曲率−0.5×10−3/mm〜上反り曲率+1.0×10−3/mmという広い範囲でばらついてしまったことがわかる。
【0074】
(変形形態)
実施の形態の説明では、「圧延鋼板」が熱間圧延により製造される厚板である場合を例にとった。しかし、本発明は厚板に限定されるものでなく、例えばホットストリップの粗圧延材のように、複数パスのリバース圧延を行われて製造される圧延鋼板であれば、等しく適用される。
【0075】
また、実施の形態の説明では、「反り制御要素」が上下のワークロールそれぞれの周速度である場合を例にとった。しかし、本発明における「反り制御要素」は上下のワークロールそれぞれの周速度に限定されるものではなく、例えば前述した「パスライン調整」や「表裏面温度差制御」等の板反り量を低減できる要素であれば、上下のワークロールそれぞれの周速度以外であっても等しく適用される。
【0076】
また、実施の形態の説明では、最終パスと最終パスの1パス前のパスとの2パスに本発明を適用した場合を例にとった。しかし、本発明はこの形態に限定されるものではなく、最終パスを含まない他の2以上の連続するパスに適用してもよい。これによっても、最終パスを含まない他の2以上の連続するパスを終了した時点における板反り量を確実に低減することができる。
【0077】
また、実施の形態の説明では、前パスで設定された異速率に対する修正量を求め、この修正量と前パスで設定された異速率とから次パスで設定される異速率を求めることにより最終的に上下のワークロールの周速度を設定する場合を例にとった。しかし、本発明はかかる形態に限定されるものではなく、例えば、前パスの異速率を実測し、この異速率の実測値に対する修正量を求め、この修正量と前パスでの異速率の実測値とから、次パスに設定すべき異速率を求めるようにしてもよい。
【0078】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明にかかる圧延鋼板の製造方法により、複数パスのリバース圧延により圧延鋼板を製造するに際し、被圧延材の板反り量を操業上の大きな問題を生じない程度に十分に抑制することができた。
【0079】
このため、本発明にかかる圧延鋼板の製造方法により、例えば設備トラブル、鋼板の表面疵さらには制御圧延材の冷却むらによる品質劣化といった、板反りに起因した操業上の各種の問題の発生を抑制でき、特に、最終パス後の製品の板反り量をも目標の範囲内に正確に収めるように制御できることから例えば厚板やホットストリップ粗圧延材といった製品の品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態で用いる圧延装置の構成を模式的に示す説明図である。
【図2】あるパスにおける上下のワークロールの異速率と、被圧延材に生じる反り曲率との関係を調査した結果の一例を示すグラフであり、図2(a)は噛込前の無負荷時の異速率ΔV(%)を示し、図2(b)は被圧延材に板反りの発生が予想される噛込直後期間における平均異速率ΔVI(%)を示す。
【図3】直前のパスにおける異速率−時間の関係の一例を示すグラフである。
【図4】形状比の説明図である。
【図5】(2)式における係数aと形状比2ld /(h1 +h2 )との関係を示すグラフである。
【図6】実施の形態において、反り制御装置により行われるフィードフォワード制御の実施の形態の一例を示すフローチャートである。
【図7】実施例における第6パス〜第9パスにおける異速率(%)および反り曲率(10−3/mm)の測定結果を示すグラフである。
【図8】本発明例および比較例についての最終パス完了後の反り曲率の実測値(10−3/mm)と形状比との関係を示すグラフである。
【図9】9パスのリバース圧延により厚板を製造した際の各パスにおいて発生した板反り量(反り曲率κ)の測定結果の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
1 圧延装置
2a、2b 上下のワークロール
3a、3b 上下のバックアップロール
4 リバース圧延機
5 被圧延材
6a、6b 反りセンサ
7 画像処理装置
8 データ収集装置
9 圧延機制御プロセスコンピュータ
10 反り制御装置
11 モニタ
Claims (8)
- 被圧延材に上下のワークロールによる複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する方法であって、
前記被圧延材に板反りの発生が予想される噛込直後期間での前記上下のワークロールの平均異速率に基づいて、前記上下のワークロールそれぞれの周速度を、前記板反りの発生が抑制または解消されるように設定することを特徴とする圧延鋼板の製造方法。 - 被圧延材に上下のワークロールによる複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する方法であって、
前記複数パスのうちの一のパスを行う際に、該一のパスの直前のパスを終了した後の板反り量の測定値と、前記一のパスの後における板反り量の目標値との偏差に基づき、前記被圧延材に板反りの発生が予想される噛込直後期間における前記上下のワークロールの平均異速率を計算し、計算した該平均異速率に基づいて前記一のパスにおける前記上下のワークロールそれぞれの周速度を設定することによって、前記板反りの発生を抑制または解消することを特徴とする圧延鋼板の製造方法。 - 被圧延材に複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する方法であって、
前記複数パスのうちの一のパスの直後のパスを行う際に、前記一のパスを終了した後の板反り量の測定値と、前記複数パスのうちの最終パスの後における板反り量の目標値との偏差に基づいて前記直後のパスを行う際の反り制御要素の設定量をフィードフォワード制御することを、前記複数パスのうちの連続する少なくとも2パスにおいて行うことによって、該少なくとも2パスを終了した時点における前記板反りの発生を抑制または解消することを特徴とする圧延鋼板の製造方法。 - 被圧延材に複数パスのリバース圧延を行って圧延鋼板を製造する方法であって、
前記複数パスのうちの一のパスの直後のパスを行う際に、前記一のパスを終了した後の板反り量の測定値と、前記複数パスのうちの最終パスの後における板反り量の目標値との偏差に基づいて前記直後のパスを行う際の反り制御要素の設定量を変更して該直後のパスを行うことを、前記複数パスのうちの連続する少なくとも2パスにおいて行うことによって、該少なくとも2パスを終了した時点における前記板反りの発生を抑制または解消することを特徴とする圧延鋼板の製造方法。 - 前記直後のパスを行う際の反り制御要素の設定量の変更は、前記偏差から、前記一のパスにおける反り制御要素の設定量または実測値の変更量を求め、求めた該変更量と、前記一のパスにおける反り制御要素の設定量または実測値とに基づいて、行われる請求項4に記載された圧延鋼板の製造方法。
- 前記反り制御要素は、前記リバース圧延を行う上下のワークロールそれぞれの周速度である請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載された圧延鋼板の製造方法。
- 前記上下のワークロールそれぞれの周速度の設定量の変更は、前記被圧延材に板反りの発生が予想される噛込直後期間における、前記上下のワークロールの平均異速率に基づいて、行われる請求項6に記載された圧延鋼板の製造方法。
- 前記一のパスは、前記複数パスにおける最終パスの1パス前のパスである請求項2から請求項7までのいずれか1項に記載された圧延鋼板の製造方法。
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