以下、本発明の実施の形態として、例えば自動車及び産業機械等に使用される熱延鋼板の冷却方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における熱延鋼板の冷却方法を実現するための熱間圧延設備1の例を模式的に示している。この熱間圧延設備1は、加熱したスラブSをロールで上下に挟んで連続的に圧延し、最小1.2mmまで薄くしてこれを巻き取ることを目的とする。熱間圧延設備1は、スラブSを加熱するための加熱炉11と、この加熱炉11において加熱されたスラブSを幅方向に圧延する幅方向圧延機16と、この幅方向に圧延されたスラブSを上下方向から圧延して粗バーにする粗圧延機12と、粗バーをさらに所定の厚みまで連続して熱間仕上圧延をする仕上圧延機13と、この仕上圧延機13により熱間仕上圧延された熱延鋼板Hを冷却水により冷却する冷却装置14と、冷却装置14により冷却された熱延鋼板Hをコイル状に巻き取る巻取装置15とを備えている。
加熱炉11には、装入口を介して外部から搬入されてきたスラブSに対して、火炎を吹き出すことによりスラブSを加熱するサイドバーナ、軸流バーナ、ルーフバーナが配設されている。加熱炉11に搬入されたスラブSは、各ゾーンにおいて形成される各加熱帯において順次加熱され、さらに最終ゾーンにおいて形成される均熱帯において、ルーフバーナを利用してスラブSを均等加熱することにより、最適温度で搬送できるようにするための保熱処理を行う。加熱炉11における加熱処理が全て終了すると、スラブSは加熱炉11外へと搬送され、粗圧延機12による圧延工程へと移行することになる。
粗圧延機12は、搬送されてきたスラブSにつき、複数スタンドに亘って配設される円柱状の回転ロールの間隙を通過させる。例えば、この粗圧延機12は、第1スタンドにおいて上下に配設されたワークロール12aのみによりスラブSを熱間圧延して粗バーとする。次にこの第1スタンドを通過した粗バーをワークロールとバックアップロールとにより構成される複数の4重圧延機12bによりさらに連続的に圧延する。その結果、この粗圧延工程終了時に粗バーは、厚さ30〜60mm程度まで圧延され、仕上圧延機13へと搬送されることになる。
仕上圧延機13は、搬送されてきた粗バーを数mm程度まで仕上げ圧延する。これら仕上圧延機13は、6〜7スタンドに亘って上下一直線に並べた仕上げ圧延ロール13aの間隙に粗バーを通過させ、これを徐々に圧下していく。この仕上圧延機13により仕上げ圧延された熱延鋼板Hは、後述する搬送ロール32により搬送されて冷却装置14へと送られることになる。なお、耳伸びについてはこの仕上圧延機13において調整される。
冷却装置14は、仕上圧延機13から出てきた熱延鋼板Hに対してラミナーやスプレーによる冷却を施すための設備である。この冷却装置14は、図2に示すように、ランナウトテーブルの搬送ロール32上を移動する熱延鋼板Hに対して冷却口31により上側から冷却水を噴出させる上側冷却装置14aと、熱延鋼板H下面に対して下側から冷却水を噴出させる下側冷却装置14bとを備えている。冷却口31は、上側冷却装置14a並びに下側冷却装置14bのそれぞれについて複数個に亘り設けられている。また冷却口31には、図示しない冷却ヘッダーが接続されている。この冷却口31の個数が、上側冷却装置14a並びに下側冷却装置14bによる冷却能力を規定するものとなる。なお、この冷却装置14は、上下スプリットラミナー、パイプラミナー、スプレー冷却等の何れかで構成されていてもよい。また、この冷却装置14によって熱延鋼板Hが冷却される区間が、本発明における所定の冷却区間に相当する。
巻取装置15は、図1に示すように、冷却装置14により冷却された熱延鋼板Hを所定の巻取温度で巻き取る。巻取装置15によりコイル状に巻き取られた熱延鋼板Hは、熱間圧延設備1外へと搬送されることになる。
以上のように構成された熱間圧延設備1の冷却装置14において圧延方向に表面高さ(波高さ)が変動する波形状が形成されている熱延鋼板Hの冷却が行われる場合に、上述したように、上側冷却装置14aから噴出させる冷却水と、下側冷却装置14bから噴出させる冷却水の水量密度、圧力、水温等を好適に調整することで熱延鋼板Hの均一な冷却が行われる。しかしながら、特に通板速度が遅い場合には、熱延鋼板Hと搬送ロールとが局所的に接触する時間が長くなり、熱延鋼板Hの搬送ロールとの接触部分が接触抜熱により冷却され易くなることから、冷却が不均一となってしまう。
図3に示すように熱延鋼板Hが波形状を有する場合、当該熱延鋼板Hは、波形状の底部において搬送ロール32と局所的に接触する場合がある。このように、熱延鋼板Hにおいて、搬送ロール32と局所的に接触する部分は、接触抜熱によって他の部分よりも冷却され易くなる。このため、熱延鋼板Hが不均一に冷却される。
一方、図1に示す熱間圧延設備1の後工程においては、例えば熱延鋼板Hの冷延工程等が行われる。上述したように、熱間圧延設備1における熱延鋼板Hの冷却が、熱延鋼板Hに波形状が形成されているために均一に行われない場合、冷却後の熱延鋼板Hの材質バラツキが生じ、その結果、上記後工程(冷延工程)における鋼板の板厚変動が発生する。この板厚変動は歩留まり増大の要因となることから、該板厚変動を小さく抑える必要がある。そこで発明者らは、熱延鋼板Hに形成される波形状と後工程における板厚変動との関係を調べるため、以下に説明する検証を行った。
図4は、熱延鋼板Hに急峻度1%の中波が形成された場合と、急峻度1%の耳波が形成された場合の、熱延鋼板Hの各箇所における温度変動を示すグラフである。また、図5は、熱延鋼板Hに急峻度1%の中波が形成された場合と、急峻度1%の耳波が形成された場合それぞれについての、後工程である冷延工程における冷延ゲージ変動(板厚変動)を示すグラフである。なお、WS(ワークサイド)、DS(ドライブサイド)とは、熱延鋼板Hの一方の幅方向端部(WS)及び他方の幅方向端部(DS)を指すものである。
発明者らは、図4及び図5の結果から、熱間圧延設備1での冷却時の熱延鋼板の波形状を耳波とした方が、中波とした場合に比べ板幅センター(C)及び幅平均の冷却が抑制され、後工程での板厚変動が抑えられている(図5においては約30%)ことを知見した。これは、波形状が中波の場合、その波形状は鋼板センター部で対称な変形となり、幅方向に一様な変位となるため、通板方向(圧延方向)に不均一な冷却偏差となりやすく、一方で波形状が耳波の場合、その波形状は一方のエッジ波(例えばWSの波形状)の影響が他方のエッジ波(例えばDSの波形状)に影響を及ぼす反対称の波形状となることに起因している。即ち、熱延鋼板のWSに対しDSは180度位相がずれた波形状であるため、その位相のずれた波形状に対応した冷却偏差がそれぞれ生じ、板幅方向の温度平均を取ると、通板方向の温度の標準偏差が小さくなることから、熱間圧延設備1において圧延操業の板厚ゲージ変動に影響しない程度の実質的に均一な冷却が行われ、後工程である冷延工程での板厚変動が小さく抑えられる。
以上の知見、ならびに図4、図5の結果から、熱間圧延設備1における熱延鋼板Hの冷却時に、所定の冷却区間において、熱延鋼板Hに形成される波形状を急峻度1%以内(即ち、急峻度0%超1%以下)の耳波に制御することで、後工程である冷延工程での板厚変動が小さく抑えられ、歩留まりの低下が抑制されることが分かる。なお、本実施の形態では、図4、図5の結果から、熱延鋼板Hに形成される波形状を急峻度1%以内(即ち、急峻度0%超1%以下)の耳波に制御するとしたが、熱延鋼板Hの冷却をできるだけ均一に行うことが好ましい観点から、例えば熱延鋼板Hの波形状を急峻度0.5%以内(即ち、急峻度0%超0.5%以下)の耳波とすることで、より後工程における板厚変動を抑えることが可能となる。
次に、図1に示すように構成された熱間圧延設備1において行われる、本実施の形態の熱延鋼板Hの冷却方法について説明する。熱延鋼板Hは仕上圧延機13で熱間圧延された熱延鋼板であって、図20に示した熱延鋼板と同様に、熱延鋼板Hには圧延方向に表面高さ(波高さ)が変動する波形状が形成されている。
先ず、冷却装置14で熱延鋼板Hを冷却する前に、予め冷却装置14の上側冷却装置14aの冷却能力(以下、単に「上側冷却能力」という場合がある。)と下側冷却装置14bの冷却能力(以下、単に「下側冷却能力」という場合がある。)をそれぞれ調整する。これら上側冷却能力と下側冷却能力は、それぞれ上側冷却装置14aによって冷却される熱延鋼板Hの上面の熱伝達係数と、下側冷却装置14bによって冷却される熱延鋼板Hの下面の熱伝達係数とを用いて調整する。
ここで、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の算出方法について説明する。熱伝達係数は、単位面積からの単位時間当たりの冷却抜熱量(熱エネルギー)を、被熱伝達体と熱媒体との温度差で除した値である(熱伝達係数=冷却抜熱量/温度差)。ここでの温度差は、冷却装置14の入側の温度計によって測定される熱延鋼板Hの温度と、冷却装置14で用いられる冷却水の温度との差である。また、冷却抜熱量は、熱延鋼板Hの温度差と比熱と質量をそれぞれ乗じた値である(冷却抜熱量=温度差×比熱×質量)。すなわち、冷却抜熱量は冷却装置14における熱延鋼板Hの冷却抜熱量であって、冷却装置14の入側の温度計と出側の温度計によってそれぞれ測定される熱延鋼板Hの温度の差と、熱延鋼板Hの比熱と、冷却装置14で冷却される熱延鋼板Hの質量とをそれぞれ乗じた値である。
上述のように算出された熱延鋼板Hの熱伝達係数は、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数に分けられる。これら上面と下面の熱伝達係数は、例えば次のようにして予め得られる比率を用いて算出される。すなわち、上側冷却装置14aのみで熱延鋼板を冷却する場合の熱延鋼板の熱伝達係数と、下側冷却装置14bのみで熱延鋼板を冷却する場合の熱延鋼板の熱伝達係数を測定する。このとき、上側冷却装置14aからの冷却水量と下側冷却装置14bからの冷却水量を同一とする。測定された上側冷却装置14aを用いた場合の熱伝達係数と下側冷却装置14bを用いた場合の熱伝達係数との比率の逆数が、後述する上下熱伝達係数比率を1とする場合の上側冷却装置14aからの冷却水量と下側冷却装置14bからの冷却水量との上下比率となる。そして、このようにして得られた冷却水量の上下比率を、熱延鋼板Hを冷却する際の上側冷却装置14aからの冷却水量又は下側冷却装置14bからの冷却水量に乗じて、上述した熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の比率を算出する。なお上述では、上側冷却装置14aのみと下側冷却装置14bのみで冷却される熱延鋼板の熱伝達係数を用いたが、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの両方で冷却される熱延鋼板の熱伝達係数を用いてもよい。すなわち、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却水量を変更した場合の熱延鋼板の熱伝達係数を測定し、その熱伝達係数の比率を用いて熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の比率を算出してもよい。なお、これら上側冷却装置14aを用いた場合の熱伝達係数と下側冷却装置14bを用いた場合の熱伝達係数が、それぞれ本発明における熱伝達特性に相当する。
以上のように、熱延鋼板Hの熱伝達係数を算出し、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の上記比率に基づいて、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数が算出される。
そして、この熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率を用いて、図6に基づき、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力をそれぞれ調整する。図6の横軸は熱延鋼板Hの上面の平均熱伝達係数と下面の平均熱伝達係数の比(すなわち、上下熱伝達係数比率と同義である。)を表し、縦軸は熱延鋼板Hの圧延方向における最大温度と最小温度との温度の標準偏差を表している。また図6は、熱延鋼板Hの波形状の急峻度と熱延鋼板Hの通板速度を一定にした状態で、熱延鋼板Hの上面と下面における上下熱伝達係数比率を変動させ、熱延鋼板Hの圧延方向の温度の標準偏差を実測し、この温度の標準偏差を上下熱伝達係数比率に対してプロットしたものである。図6を参照すると、温度の標準偏差と上下熱伝達係数比率との関係は、平均熱伝達係数が上下面で等しい点辺りで谷になる、V字状の関係になっていることが分かる。なお、熱延鋼板Hの波形状の急峻度とは波形状の振幅を1周期分の長手方向長さで割った値であり、図6における本実施の形態の急峻度は2%である。また、図6における熱延鋼板Hの通板速度は600m/min(10m/sec)である。また、図6において熱延鋼板Hの目標冷却温度は600℃以上の温度であって、例えば800℃である。
上記のV字の線は谷底部を挟んで両側でほぼ直線状に描かれているので、この線を直線回帰してもよい。線形分布であるとすれば、試験材で確認する回数や、計算予測するための較正の回数が少なくて済む。
そこで、例えば一般的に知られている探索アルゴリズムである、2分法、黄金分割法、ランダムサーチ等の様々な方法を用いて、温度の標準偏差の最小点を探索する。こうして、図6に基づいて熱延鋼板Hの圧延方向の温度の標準偏差が最小となる上下熱伝達係数比率を導出する。また、ここで、平均熱伝達係数の上下で等しい点を挟んだ両側で、上下熱伝達係数比率に対する熱延鋼板Hの圧延方向の温度の標準偏差の回帰式をそれぞれ求めておくとよい。
ここで、上述した熱延鋼板Hの温度の標準偏差の最小点を探索する方法について説明する。本実施の形態においては、上述した2分法を用いて温度の標準偏差の最小点を探索する方法について説明する。
図7は温度の標準偏差の最小点を挟んで互いに異なる回帰線が得られるような標準的な場合を示している。この図7に示すように、先ず、実測されたa点、b点、a点とb点の真中のc点における温度の標準偏差σa、σb、σcをそれぞれ抽出する。なお、a点とb点の真中とは、a点の上下熱伝達係数比率とb点の上下熱伝達係数比率との間の値を有するc点を示し、以下においても同様である。そして、温度の標準偏差σcがσa又はσbのどちらの値に近いかを判断する。本実施の形態では、σcはσaに近い。次に、a点とc点の真中のd点における温度の標準偏差σdを抽出する。そして、温度の標準偏差σdがσa又はσcのどちらの値に近いかを判断する。本実施の形態では、σdはσcに近い。次に、c点とd点の真中のe点における温度の標準偏差σeを抽出する。そして、温度の標準偏差σeがσc又はσdのどちらの値に近いかを判断する。本実施の形態では、σeはσdに近い。このようなアルゴリズムを繰り返し行い、熱延鋼板Hの温度の標準偏差の最小点fを特定する。なお、実用的な最小点fを特定するためには、上述したアルゴリズムを例えば5回程度行えばよい。また、探索対象の上下熱伝達係数比率の範囲を10分割し、それぞれの範囲で上述したアルゴリズムを行って最小点fを特定してもよい。
また、いわゆるニュートン法を用いて上下熱伝達係数比率を較正してもよい。かかる場合、上述した回帰式を用いて、実際の温度の標準偏差の値に対する上下熱伝達係数比率と、温度の標準偏差がゼロとなる上下熱伝達係数比率との偏差分を求め、当該偏差分を用いて、熱延鋼板Hを冷却する際の上下熱伝達係数比率を修正してもよい。
以上のように、熱延鋼板Hの圧延方向の温度の標準偏差が最小になる上下熱伝達係数比率が導出される。また、V字状になっている温度の標準偏差と上下熱伝達係数比率との関係については、その両側に分けて、最小2乗法などでそれぞれに回帰関数を求めることは容易である。さらに、耳伸びの場合であろうと、中伸びの場合であろうと、上述したように温度の標準偏差と上下熱伝達係数比率との関係がV字状になっていることを利用して、熱延鋼板Hの圧延方向の温度の標準偏差が最小になる上下熱伝達係数比率を導出することができる。
なお、熱延鋼板Hの板幅方向には通常行われているとおり一様に水冷却している。また、板幅方向の温度の標準偏差は圧延方向の温度の標準偏差が左右交互に発生していることにより生じているため、圧延方向の温度の標準偏差が低減されれば、板幅方向の温度の標準偏差もより低減される。
そして、図6を参照すれば、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が最小になる上下熱伝達係数比率は1である。したがって、温度の標準偏差を最小にするため、すなわち熱延鋼板Hを均一に冷却するためには、上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力を同等に調整すればよく、かかる場合に熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量が等しくなる。なお、表1は、図6に示したように上下熱伝達係数比率を変動させた場合の熱延鋼板Hの温度の標準偏差、熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分、及びその評価を示している。表1中の上下熱伝達係数比率については、分子が熱延鋼板Hの上面における熱伝達係数であって、分母が下面における熱伝達係数を示している。また、表1中の評価(上下熱伝達係数比率の条件についての評価)においては、温度の標準偏差が最小値となる条件を“A”とし、後述するように最小値からの温度の標準偏差の差分が10℃以内、すなわち操業が可能となる条件を“B”とし、上述した回帰式を得るために試行錯誤的に行った条件を“C”としている。そして、表1を参照しても、評価が“A”となる、すなわち熱延鋼板Hの温度の標準偏差が最小になる上下熱伝達係数比率は1である。
なお、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が少なくとも最小値から10℃以内に抑えられれば、降伏応力、引張強さなどのバラつきを製造許容範囲内に抑えられ、熱延鋼板Hを均一に冷却できるといえる。すなわち、熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量が等しくなる領域は、温度の標準偏差が最小値から10℃以内となる領域としてもよい。なお、熱延鋼板Hの温度測定には様々なノイズがあるため、熱延鋼板Hの温度の標準偏差の最小値は厳密には0(ゼロ)にならない場合がある。そこで、このノイズの影響を除去するため、製造許容範囲を、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が最小値から10℃以内となる範囲としている。
温度の標準偏差を最小値から10℃以内に抑えるには、図6或いは図7において、2本の回帰線と、最小値からの温度の標準偏差が10℃の水平線を引き、回帰線と温度の標準偏差の2つの交点を求め、当該交点間の上下熱伝達係数比率に上下冷却装置の冷却能力を調整すればよいことになる。なお、表1においては、評価が“B”となる上下熱伝達係数比率が、この温度の標準偏差が最小値から10℃以内となる条件となる。
また、図6及び図7で上下熱伝達係数比率を操作するには冷却水量密度を操作することが最も容易である。そこで、実際には図6及び図7において横軸の値を上下水量密度比に読み替えて、平均熱伝達係数の上下で等しい点を挟んだ両側で、水量密度の上下の比率に対する熱延鋼板の圧延方向の温度の標準偏差の回帰式を求めるという操作を行えばよい。ただし、平均熱伝達係数の上下で等しい点は、必ずしも冷却水量密度の上下で等しい点になるとは限らないので、少し広めに試験を行って回帰式を求めるとよい。
ここで、熱延鋼板Hを均一に冷却するために、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力を調整することについて、発明者らが鋭意検討した結果、さらに、以下の知見を得るに至った。
本発明者らは、熱延鋼板Hの波形状が発生した状態での冷却によって発生した温度の標準偏差の特徴について鋭意検討を重ねて来た結果、次の事を明らかにした。
図16に示すように冷却装置14と巻取装置15との間には、熱延鋼板Hの温度を測定する温度計40と、当該熱延鋼板Hの波形状を測定する形状計41とが配置されている。
そして、通板中の熱延鋼板Hに対し、温度計40と形状計41によって温度と形状をそれぞれ同一点で定点測定を行い、時系列データとして測定する。なお、ここで言う温度の測定領域は熱延鋼板Hの幅全域の測定も含む。また、ここでの形状とは定点測定で観測される熱延鋼板Hの高さ方向の変動量に熱延鋼板Hの通板方向の移動量を用いて、波のピッチ分の高さ或いは変動成分の線積分で求めた急峻度である。また同時に単位時間当たりの変動量、即ち変動速度も求める。さらに形状の測定領域は、温度の測定領域と同様に熱延鋼板Hの幅全域の測定も含む。またこれらのサンプリングされた時間に通板速度を乗じると、温度や急峻度の時系列データが圧延方向位置毎の急峻度及び温度変動に紐付けすることが可能となる。
このデータを用いて、先ず、熱延鋼板Hの上面及び下面からの冷却抜熱量の合計値を調整する。具体的には、温度計40で測定される温度の時系列平均値が所定の目標値に一致するように、熱延鋼板Hの上面及び下面からの冷却抜熱量の合計値を調整する。そして、上下面の冷却抜熱量の合計値を調整するにあたっては、例えば三塚の式等に代表される実験理論式を用いて予め求められた理論値に対して、実際の操業実績との誤差を補正する様に設定した学習値に基づき、冷却装置14に接続される冷却ヘッダーのオンオフ制御を行う。或いは、実際に温度計40で測定された温度に基づいて、上記冷却ヘッダーのオンオフをフィードバック制御又はフィードフォワード制御してもよい。
次に、上述した温度計40と形状計41からのデータを用いて従来のROTの冷却制御について説明をする。図8は通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の熱延鋼板Hの温度変動と急峻度の関係を示している。図8における熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率は1.2:1であり、上側冷却能力が下側冷却能力よりも高くなっている。図8(a)はコイル先端からの距離或いは定点経過時間に対する温度変動を示し、図8(b)は(a)の距離または定点経過時間に対する急峻度を示している。ここで領域Aと領域Bを分けている。これは図16で言うところのストリップ先端部が巻取装置15のコイラーに噛み込む前は張力が無い為、形状が悪い領域Aと、コイラーに噛み込んだ途端にここを境にユニットテンションの影響で波形状がフラットに変化する領域Bとなっている。本発明は領域Aの形状が悪い場合の改善を対象としている。
そこで本発明者らは、ROTにおける温度の標準偏差増大の対策として、色々実験を行い調査をして来た結果、かかる発明を考案した。次にその説明を図9、図10、図11を用いて説明をする。
図9は図8と同様に通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の同一形状急峻度に対する温度変動成分を示している。この変動成分とは実際の鋼板温度から温度の時系列平均(以下、「平均温度」という場合がある)を引いた残差である。例えば平均温度は、熱延鋼板Hの波形状1周期以上の範囲を平均としても良い。なお、平均温度は原則として周期単位での範囲の平均であり、さらに言えば1周期の範囲の平均温度は2周期以上の範囲の平均温度と大きな差がないことが操業データによって確認されている。このため、最低限1周期の範囲の平均をとればよい。熱延鋼板Hの波形状の範囲の上限は特に限定されないが好ましくは5周期であり、5周期あれば十分な精度の平均温度を得られる。また、平均する範囲が周期単位の範囲でなくとも、2〜5周期の範囲であれば許容できる平均温度を得られる。
この状態で同一測定点における熱延鋼板Hの変動速度が正の領域で、熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させ、熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させるように増減の方向を決定し冷却する。また、熱延鋼板Hの変動速度が負の領域で、熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させ、熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させるように増減の方向を決定し冷却する。そうすると、図10に示すように温度の標準偏差が低減することを見出した。なお、変動速度の正負は、熱延鋼板Hの重力と反対方向を正としている。
逆に、熱延鋼板Hの変動速度が正の領域で、熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させ、熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させるように増減の方向を決定し冷却する。また、熱延鋼板Hの変動速度が負の領域で、熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させ、熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させるように増減の方向を決定し冷却する。そうすると、図11に示すように温度の標準偏差が拡大することを見出した。なお、ここで説明する例でも冷却停止温度を変えてよいという前提にはなっていない。すなわち、このように上面側と下面側の冷却抜熱量の増減の方向を決定する場合でも、熱延鋼板Hの冷却停止温度が所定の目標冷却温度になるように冷却抜熱量が調整される。
この関係を利用すれば、温度の標準偏差を低減させるために上下冷却装置14のいずれの冷却装置14a、14bの冷却能力を調整すればよいか明確になる。なお、表2は上記関係をまとめた表である。
なお、上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力の調整する際には、例えば上側冷却装置14aの冷却口31に接続される冷却ヘッダーと下側冷却装置14bの冷却口31に接続される冷却ヘッダーとを、それぞれオンオフ制御してもよい。あるいは、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bにおける各冷却ヘッダーの冷却能力を制御してもよい。すなわち、各冷却口31から噴出される冷却水の水量密度、圧力、水温のいずれか又は2つ以上を調整してもよい。また、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却ヘッダー(冷却口31)を間引いて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bから噴射される冷却水の流量や圧力を調整してもよい。例えば冷却ヘッダーを間引く前における上側冷却装置14aが下側冷却装置14bの冷却能力よりも上回っている場合、上側冷却装置14aを構成する冷却ヘッダーを間引く。
こうして調整された冷却能力で上側冷却装置14aから熱延鋼板Hの上面に冷却水を噴出させると共に、調整された冷却能力で下側冷却装置14bから熱延鋼板Hの下面に冷却水を噴出させて、熱延鋼板Hが均一に冷却される。
以上の実施の形態では、図6において熱延鋼板Hの通板速度の一例として600m/minである場合について説明したが、発明者らが鋭意検討した結果、通板速度が550m/min以上であれば、熱延鋼板Hをより均一にできることが分かった。
熱延鋼板Hの通板速度を550m/min以上とすると、熱延鋼板Hに冷却水を噴射しても、熱延鋼板H上の乗り水の影響が顕著に少なくなることが分かった。このため、乗り水による熱延鋼板Hの不均一冷却も回避することができる。
以上の実施の形態において、冷却装置14による熱延鋼板Hの冷却は、当該熱延鋼板Hの温度が600℃以上の範囲で行われるのが好ましい。熱延鋼板Hの温度600℃以上は、いわゆる膜沸騰領域である、すなわち、かかる場合、いわゆる遷移沸騰領域を回避し、膜沸騰領域で熱延鋼板Hを冷却することができる。遷移沸騰領域では、熱延鋼板Hの表面に冷却水を噴射した際、当該熱延鋼板H表面において、蒸気膜に覆われる部分と、冷却水が熱延鋼板Hに直接噴射される部分とが混在する。このため、熱延鋼板Hを均一に冷却することができない。一方、膜沸騰領域では、熱延鋼板Hの表面全体が蒸気膜に覆われた状態で当該熱延鋼板Hの冷却が行われるので、熱延鋼板Hを均一に冷却することができる。したがって、本実施の形態のように熱延鋼板Hの温度が600℃以上の範囲において、熱延鋼板Hをより均一に冷却することができる。
以上の実施の形態では、図6を用いて冷却装置14の上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力を調整する際、熱延鋼板Hの波形状の急峻度と熱延鋼板Hの通板速度を一定としていた。しかしながら、例えばコイル毎に、これら熱延鋼板Hの急峻度や通板速度が一定でない場合もある。
発明者らが調べたところ、例えば図12に示すように熱延鋼板Hの波形状の急峻度が大きくなれば、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が大きくなる。すなわち、図13に示すように上下熱伝達係数比率が1から離れるにつれ、急峻度(急峻度の感度)に応じて温度の標準偏差が大きくなる。図13では、上述したように上下熱伝達係数比率と温度の標準偏差との関係が、急峻度毎にV字の回帰線によって表されている。なお、図13において、熱延鋼板Hの通板速度は10m/sec(600m/min)で一定である。
また、例えば図14に示すように熱延鋼板Hの通板速度が高速になると、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が大きくなる。すなわち、図15に示すように上下熱伝達係数比率が1から離れるにつれ、通板速度(通板速度の感度)に応じて温度の標準偏差が大きくなる。図15では、上述したように上下熱伝達係数比率と温度の標準偏差との関係が、通板速度毎にV字の回帰線によって表されていている。なお、図15において、熱延鋼板Hの波形状の急峻度は2%で一定である。
このように熱延鋼板Hの急峻度や通板速度が一定でない場合、上下熱伝達係数比率に対する温度の標準偏差の変化を定性的に評価できるものの、定量的に正確に評価することができない。
そこで、予め熱延鋼板Hの上面と下面における熱伝達係数比率を固定しておき、例えば図12に示すように急峻度を3%から0%まで段階的に変更させて、当該急峻度に対する熱延鋼板Hの冷却後の温度の標準偏差をテーブルで求めておく。そして、実際の熱延鋼板Hの急峻度z%に対する温度の標準偏差を、内挿関数によって所定の急峻度に対する温度の標準偏差に補正する。具体的には、補正条件として所定の急峻度を2%にする場合、急峻度z%における温度の標準偏差σzに基づいて、下記式(1)で温度の標準偏差σz’が算出される。あるいは、例えば図12における急峻度の勾配αを例えば最小二乗法等で算出し、当該勾配αを用いて温度の標準偏差σz’を算出してもよい。
σz’=σz×2/z・・・・(1)
また、図13の回帰式において、急峻度を所定の急峻度に補正し、当該回帰式から温度の標準偏差を導出してもよい。なお、表3は、図12中の急峻度に対して、図13に示したように上下熱伝達係数比率を変動させた場合の熱延鋼板Hの温度の標準偏差、熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分、及びその評価を示している。この表3における上下熱伝達係数比率の表示と評価の基準については、表1の評価と同様であるので説明を省略する。この図13又は表3を用いて、急峻度に応じた熱延鋼板Hの温度の標準偏差を導出できる。そして、例えば急峻度を2%に補正する場合、表3における評価が“B”となる、すなわち熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分が10℃以内となる上下熱伝達比率を1.1に設定することができる。
同様に、例えば図14に示すように通板速度を5m/sec(300m/min)から20m/sec(1200m/min)まで段階的に変更させて、当該通板速度に対する熱延鋼板Hの冷却後の温度の標準偏差をテーブルで求めておく。そして、実際の熱延鋼板Hの通板速度v(m/sec)に対する温度の標準偏差を、内挿関数によって所定の通板速度に対する温度の標準偏差に補正する。具体的には、補正条件として所定の通板速度を10(m/sec)にする場合、通板速度v(m/sec)における温度の標準偏差σvに基づいて、下記式(2)で温度の標準偏差σv’が算出される。あるいは、例えば図14における通板速度の勾配βを例えば最小二乗法等で算出し、当該勾配βを用いて温度の標準偏差σv’を算出してもよい。
σz’=σv×10/v・・・・(2)
また、図15の回帰式において、通板速度を所定の通板速度に補正し、当該回帰式から温度の標準偏差を導出してもよい。なお、表4は、図14中の通板速度に対して、図15に示したように上下熱伝達係数比率を変動させた場合の熱延鋼板Hの温度の標準偏差、熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分、及びその評価を示している。この表4における上下熱伝達係数比率の表示と評価の基準については、表1の評価と同様であるので説明を省略する。この図15又は表4を用いて、通板速度に応じた熱延鋼板Hの温度の標準偏差を導出できる。そして、例えば通板速度を10m/secに補正する場合、表4における評価が“B”となる、すなわち熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分が10℃以内となる上下熱伝達比率を1.1に設定することができる。
以上のように温度の標準偏差を補正することによって、熱延鋼板Hの急峻度や通板速度が一定でない場合でも、上下熱伝達係数比率に対する温度の標準偏差の変化を定量的に正確に評価することができる。
以上の実施の形態において、冷却装置14で冷却された熱延鋼板Hの温度と波形状を測定し、当該測定結果に基づいて、上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力を調整してもよい。すなわち、これら上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力をフィードバック制御してもよい。
かかる場合、図16に示すように冷却装置14と巻取装置15との間には、熱延鋼板Hの温度を測定する温度計40と、当該熱延鋼板Hの波形状を測定する形状計41とが配置されている。
そして、通板中の熱延鋼板Hに対し、温度計40と形状計41によって温度と形状をそれぞれ同一点で定点測定を行い、時系列データとして測定する。なお、ここで言う温度の測定領域は熱延鋼板Hの幅全域の測定も含む。また、ここでの形状とは定点測定で観測される熱延鋼板Hの高さ方向の変動量を示す。さらに形状の測定領域は、温度の測定領域と同様に熱延鋼板Hの幅全域の測定も含む。これらのサンプリングされた時間に通板速度を乗じると、温度や板変位の時系列データが圧延方向位置毎の鋼板の高さ及び温度に紐付けすることが可能となる。なお、温度計40と形状計41の測定点は厳密に同一点でなくてもよいが、測定精度を保つため、温度計40と形状計41の測定点のずれは圧延方向にも板幅方向にも任意の方向に±50mm以内であることが望ましい。
前述図8並びに図9、図10、図11を使って説明したように熱延鋼板Hの変動速度の値に従って、同一測定点における熱延鋼板Hの変動速度が熱延鋼板Hの重力と反対方向を正とした場合に、変動速度が正の状態で熱延鋼板Hの温度が低い状態であれば上部冷却能力を小さくすると温度の標準偏差が低減する。同様の作用は下部冷却能力を大きくしても温度の標準偏差は低減する。この関係を利用すれば、温度の標準偏差を低減させるために温度変動と板形状及び板の高さ方向上下冷却装置14のいずれの冷却装置14a、14bの冷却能力を調整修正すればよいか明確になる。
すなわち、これらの熱延鋼板Hの波形状と紐付けられる温度の変動位置を把握すれば、現在発生している温度の標準偏差が上側冷却あるいは下側冷却のどちらによって発生しているかを明らかにすることが可能となる。したがって、温度の標準偏差を小さくするための上側冷却能力と下側冷却能力の増減の方向性が決定され、上下熱伝達係数比率を調整することができる。また、温度の標準偏差の大きさに基づいて、当該温度の標準偏差が許容範囲、例えば10℃以内となるように上下熱伝達係数比率を決定することができる。この上下熱伝達係数比率を決定する方法は、図3及び図4に示した上記実施の形態と同様であるので詳細な説明を省略する。なお、この温度の標準偏差が10℃以内としたのは、上述したように温度の標準偏差が少なくとも10℃以内に抑えられれば、降伏応力、引張強さなどのバラつきを製造許容範囲内に抑えられ、熱延鋼板Hを均一に冷却できるためである。また、かなりのばらつきはあるものの、温度の標準偏差の最小値となる冷却水量密度比率に対して±5%以内であれば温度の標準偏差が10℃以内となる。すなわち、冷却水量密度を用いて冷却水量密度の上下比率は温度の標準偏差の最小値となる冷却水量密度比率に対して±5%以内であることが望ましい。ただし、この許容範囲は必ずしも上下同水量密度を含むとは限らない。
以上のように上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力をフィードバック制御して定性的及び定量的に適切な冷却能力に調整できるので、その後冷却される熱延鋼板Hの均一性をより向上させることができる。
以上の実施の形態において、図17に示すように、熱延鋼板Hが冷却される冷却区間を圧延方向に複数、例えば2つの冷却ゾーンZ1、Z2に分割してもよい。各冷却ゾーンZ1、Z2には、それぞれ冷却装置14が設けられている。また、各冷却ゾーンZ1、Z2の境、すなわち冷却ゾーンZ1、Z2の下流側には、温度計40と形状計41がそれぞれ設けられている。なお、本実施の形態では、冷却区間を2つの冷却ゾーンに分割したが、分割する冷却ゾーンの数はこれに限定されず任意に設定できる。例えば冷却区間を、1つ〜5つの冷却ゾーンに分割してもよい。
かかる場合、温度計40と形状計41によって熱延鋼板Hの温度と波形状をそれぞれ測定する。そして、この測定に基づき、各冷却ゾーンZ1、Z2における上側冷却装置41a及び下側冷却装置14bの冷却能力を制御する。このとき、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が許容範囲、例えば上述したように10℃以内になるように冷却能力が制御される。こうして、各冷却ゾーンZ1、Z2における熱延鋼板Hの上面と下面からの冷却抜熱量が調整される。
例えば冷却ゾーンZ1においては、当該冷却ゾーンZ1の下流側における温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力がフィードバック制御され、上下面の冷却抜熱量が調整される。また、冷却ゾーンZ2においては、冷却ゾーンZ1の下流側における温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力がフィードフォワード制御されてもよいし、冷却ゾーンZ2の下流側における温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、フィードバック制御されもてよい。いずれにおいても、冷却ゾーンZ2において、上下面の冷却抜熱量が調整される。
なお、温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力を制御する方法は、図8〜図11に示した上記実施の形態と同様であるので詳細な説明を省略する。
かかる場合、各冷却ゾーンZ1、Z2毎に熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量が調整されるので、より細やかな制御が可能となる。したがって、熱延鋼板Hをより均一に冷却することができる。
以上の実施の形態において、各冷却ゾーンZ1、Z2毎に熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量を調整するに際し、温度計40と形状計41の測定結果に加えて、熱延鋼板Hの波形状の急峻度と熱延鋼板Hの通板速度のいずれか又は両方を用いてもよい。かかる場合、図12〜図15に示した上記実施の形態と同様の方法で、少なくとも急峻度又は通板速度に応じた熱延鋼板Hの温度の標準偏差が補正される。そして、この補正された温度の標準偏差に基づいて、各冷却ゾーンZ1、Z2における熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量が補正される。そうすると、熱延鋼板Hをさらに均一に冷却することができる。
また、本発明を適用した熱延鋼板Hの冷却方法によれば、板幅方向においても均一な形状や材質となるように仕上げることが可能となる。熱延鋼板Hの板幅方向の温度の標準偏差は圧延方向の温度の標準偏差が左右交互に発生していることにより生じているため、圧延方向の温度の標準偏差が低減されれば、板幅方向の温度の標準偏差もより低減される。図18は、中伸びによって幅方向に異なる振幅が生じている波形状の例を示している。このような板幅方向への振幅の相違に応じた温度の標準偏差が形成されるような場合であっても、上述した構成からなる本発明によれば、かかる板幅方向の温度の標準偏差を低減することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
(実施例1)
本発明にかかる実施例1として、板厚2.3mm、板幅1200mmのハイテン(いわゆる高張力鋼板)を材料とし、当該材料に中波、耳波をそれぞれ形成させ、その急峻度を0%(波形成無し)〜2%までの種々の値に変更して冷却を行った場合の、後工程(即ち、冷延工程)における冷延ゲージ変動(板厚変動)と板幅方向平均温度変動を測定し、評価を行った。なお、本実施例および以下に説明する実施例2、3では、便宜上、中波を形成した場合の急峻度を−0.5%〜−2%と表し、耳波を形成した場合の急峻度を0.5%〜2%と表した。また、中波及び耳波の測定は市販の形状測定器を用いて測定したものであり、中波の測定箇所は板中央から左右30mm以内の板中央部であり、耳波の測定箇所は板端から25mmの箇所とした。更に、本実施例1においては、冷却時の上下冷却比は上冷却:下冷却=1.2:1とし、通板速度を400m/min、鋼板の巻き取り温度(CT)を500℃とした。その測定結果、評価結果を以下の表5に示す。このとき、以下の実施例における評価基準としては、後工程における冷延ゲージ変動が0〜25μmに抑えられたものを◎(製品として良好)、25〜50μmであったものを△(許容範囲)、50μm超であったものを×(製品不良)として評価している。なお、表5中の総合評価については、後述において説明する。また、表5中には、参考のため鋼板長手方向における各波の温度標準偏差も記載した。
表5に示すように、鋼板に中波を形成した場合(表中、急峻度が−0.5%〜−2%の場合)、冷延工程における冷延ゲージ変動は30μm〜120μmであったのに対し、耳波を形成した場合(表中、急峻度が0.5%〜2%の場合)、冷延工程における冷延ゲージ変動は21μm〜84μmであった。即ち、同じ急峻度の波を鋼板に形成したとしても、中波を形成した場合に比べ、耳波を形成した場合の方が冷延工程における冷延ゲージ変動(即ち、板厚変動)が小さく抑えられることが分かった。
また、表5の結果から、鋼板に中波を形成した場合と、耳波を形成した場合との板幅方向平均温度変動を比較すると、同じ急峻度でも、耳波を形成した場合の方が、中波を形成した場合に比べ板幅方向平均温度変動が低く抑えられていることが分かった。従って、中波を形成した場合に比べ、耳波を形成した場合には冷延時の鋼板幅方向の温度ムラが低減され、材質のバラツキが抑制されることが確認された。
また、一般的に鋼板の冷延工程における板厚変動は、製品不良等の歩留まりの低下を抑えるために小さいほうが望ましい。従って、上記表5に示すように、鋼板に耳波を形成する場合において、当該耳波の急峻度を0%超1%以内とすると、冷延ゲージ変動を小さい値(例えば、表5中の評価◎、△)に抑えられることが分かった。更には、当該耳波の急峻度を0%超0.5%以内とすると、冷延ゲージ変動をより小さい値(例えば、表5中の評価◎)に抑えられることが分かった。
(実施例2)
本発明にかかる実施例2として、上記実施例1と同様の材料に中波、耳波をそれぞれ形成させ、その急峻度を0%(波形成無し)〜2%までの種々の値に変更して冷却を行った場合の、後工程(即ち、冷延工程)における冷延ゲージ変動(板厚変動)と板幅方向平均温度変動を測定し、評価を行った。なお、本実施例2では、通板速度を600m/minとし、その他の条件は実施例1と同一とした。その測定結果、評価結果を以下の表6に示す。
表6に示すように、上記実施例1と同様に、同じ急峻度の波を鋼板に形成したとしても、中波を形成した場合に比べ、耳波を形成した場合の方が冷延工程における冷延ゲージ変動(即ち、板厚変動)及び板幅方向平均温度変動が低く抑えられることが分かった。加えて、表5と表6を比較して分かるように、本実施例では通板速度を600m/minと実施例1に比べ高速化したことにより、中波を形成した場合及び耳波を形成した場合の両方において、後工程での冷延ゲージ変動と板幅方向平均温度変動が低減される。即ち、通板速度を高速化することにより、鋼板と搬送ロールとの接触時間が短くなり、接触抜熱による冷却の不均一性が緩和されて均一な冷却が行われるため、後工程における冷延ゲージ変動と板幅方向平均温度変動が更に低減されることが実証された。
また、上記実施例1同様、冷延工程における板厚変動は、製品不良等の歩留まりの低下を抑えるために小さいほうが望ましい。従って、上記表6に示すように、鋼板に耳波を形成する場合において、当該耳波の急峻度を0%超1.5%以内とすると、冷延ゲージ変動を小さい値(例えば、表6中の評価◎、△)に抑えられることが分かった。従って、通板速度を高速化した場合は、耳波形状の制御範囲を1.5%にまで広げることも可能である。更には、当該耳波の急峻度を0%超0.5%以内とすると、冷延ゲージ変動をより小さい値(例えば、表6中の評価◎)に抑えられることが分かった。
(実施例3)
本発明にかかる実施例3として、上記実施例1、2と同様の材料に中波、耳波をそれぞれ形成させ、その急峻度を0%(波形成無し)〜2%までの種々の値に変更して冷却を行った場合の、後工程(即ち、冷延工程)における冷延ゲージ変動(板厚変動)と板幅方向平均温度変動を測定し、評価を行った。なお、本実施例3では、冷却時の上下冷却比(上下熱伝達係数比率)を上冷却:下冷却=1.1:1とし、その他の条件は上記実施例1と同一とした。その測定結果、評価結果を以下の表7に示す。
表7に示すように、上記実施例1と同様に、同じ急峻度の波を鋼板に形成したとしても、中波を形成した場合に比べ、耳波を形成した場合の方が冷延工程における冷延ゲージ変動(即ち、板厚変動)及び板幅方向平均温度変動が低く抑えられることが分かった。加えて、表5と表7を比較して分かるように、鋼板冷却時の上下冷却比を、上冷却:下冷却1.1:1とすることで、後工程での冷延ゲージ変動と板幅方向平均温度変動がより低減されることが分かった。即ち、鋼板冷却時の上下冷却比を1:1に近づけることで、後工程での冷延ゲージ変動と板幅方向平均温度変動をより低減させられることが確認された。
また、本実施例3においても、上記実施例1同様、冷延工程における板厚変動は、製品不良等の歩留まりの低下を抑えるために小さいほうが望ましい。従って、上記表7に示すように、鋼板に耳波を形成する場合において、当該耳波の急峻度を0%超1.5%以内とすると、冷延ゲージ変動を小さい値(例えば、表7中の評価◎、△)に抑えられることが分かった。従って、鋼板冷却時の上下冷却比を、上冷却:下冷却=1.1:1とすることができる場合は、耳波形状の制御範囲を1.5%にまで広げることも可能である。更には、当該耳波の急峻度を0%超0.5%以内とすると、冷延ゲージ変動をより小さい値(例えば、表7中の評価◎)に抑えられることが分かった。
ところで、表5〜表7において急峻度0%で評価が◎である。急峻度0%にいつでも制御できればよいが、この急峻度0%で耳波と中波とでゲージ変動にかかるゲインを変更することになる。ゲインを常時変更するような制御はあまり好ましくないので、耳波の急峻度は、0.05%以上とする、あるいは0.1%以上とするなど、0%超となるように制御して熱延鋼板を冷却することが望ましい。このため、表5〜表7において、急峻度0%の総合評価を×としている。
また、表5〜表7において急峻度−0.5%又は−1%で評価が△である。しかしながら、上述したように急峻度が−0.5%以下は鋼板に中波を形成した場合であって、後工程における冷延ゲージ変動を十分に抑えることができない。このため、表5〜表7において急峻度−0.5%以下の総合評価を×としている。