JP4724982B2 - 圧延ロールのロールギャップ制御方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、継目無管の製管時における圧延ロールのロールギャップ制御方法、及び、この制御方法を実施する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
継目無管の熱間製管用圧延機として、複数基の上下一対の圧延ロールからなるロールスタンド(以下、単に「スタンド」と言う。)を、前後スタンドのロール孔型の溝底方向が交互に90°交差するように連続して設置し、これら複数のスタンドで形成するロール孔型の配列内に、中空素管とさらにその中空素管内にマンドレルバーを配置した状態で中空管材を連続して延伸圧延するマンドレルミルが多用されている。
【0003】
上記したマンドレルミルを用いた延伸圧延では、特に最終肉厚を決定する最終スタンドとその前スタンドで同じロールギャップ設定を行うと、ロールパス本数の増加により圧延ロールの摩耗が進行している場合には、圧延ロールの摩耗は溝底部分がフランジ部よりも多く摩耗するために、ロール孔型の溝底部分とフランジ部分に位置する個所の厚さが異なった、図6に示すような対向性偏肉が発生する。
【0004】
従来、こうした対向性偏肉を抑制するために、偏肉公差が厳密に要求される狭公差品では、圧延ロールの摩耗量がロールパス本数に依存することに基づき、特に最終肉厚を決定する後段スタンドが、所定のロールパス本数(圧延ロールとしてハイスロールを使用した場合は5000本以内)に達したところで圧延ロールを交換するようにしていた。
【0005】
しかしながら、圧延ロールの交換に際しては、操業スケジュールを変更する必要があることから、大きな作業ロスを伴うことになる。
【0006】
以上より、対向性偏肉の発生を抑制するためには、圧延ロールの摩耗量を考慮してロールギャップを調整することが最も有効な手法と言える。例えば特開平3−291109号では、所定スタンドの圧延ロールに生じている摩耗量を、該所定スタンドでの累積圧延本数又は累積荷重を変数とする非線形関数を用いて求め、この結果に基づいて圧延ロール圧下位置を補正する圧延管の外径制御方法が提案されている。
【0007】
このように、従来は、圧延ロールの摩耗量を圧延時に変動する要素の相関関係に基づいて予測し、この予測値に基づいて圧延中にロールギャップを調整(圧延ロールの圧下位置を調整)するようにしていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平3−291109号で提案されたような非線形関数を用いて求めた圧延ロールの摩耗量は、実際の摩耗量特性とは一致していないので、対向性偏肉を効果的に抑制することができなかった。
【0009】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、継目無管の製管に際し、対向性偏肉の発生を効果的に抑制できる圧延ロールのロールギャップ制御方法及び装置を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明に係る圧延ロールのロールギャップ制御方法は、予めロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量を実測しておき、圧延開始時、ロールパス本数から前記実測した両者の関係にロール孔型のフランジ側の摩耗量を考慮したゲインを設けて予測した圧延ロール摩耗量に応じてロールギャップ量を補正することとしている。
【0011】
また、本発明に係る圧延ロールのロールギャップ制御装置は、予め実測しておいたロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量の関係を格納するデータ部と、圧延開始時、前記データ部からロールパス本数と圧延ロール摩耗量の関係を読み出し、ロールパス本数から前記関係にロール孔型のフランジ側の摩耗量を考慮したゲインを設けて予測した圧延ロール摩耗量に応じてロールギャップ補正量を演算する演算部を備えたこととしている。
【0012】
そして、上記したように構成することで、実際の圧延ロール摩耗量に応じた適正なロールギャップ補正が行え、対向性偏肉の発生を効果的に抑制できるようになる。
【0013】
【発明の実施の形態】
圧延ロールの摩耗量はロールパス本数と相関関係を有しており、ロール孔型の溝底の摩耗量は、ほぼロールパス本数によって管理できる。しかしながら、ロール孔型のフランジ側は溝底ほど摩耗しないので、溝底の摩耗を基準にしてロールギャップの制御を行なうと、フランジ側ではロールギャップが小さくなりすぎることになって、対向性偏肉が発生する。
【0014】
そこで、本発明者は、先ず対向性偏肉の発生に対して影響の大きい仕上げスタンド(7スタンドのうちの第6スタンド)における圧延ロール(ハイスロール)のロール孔型の溝底摩耗量yとロールパス本数xとの関係を調査した。この調査結果を図1に示すが、この図1より、圧延ロールの溝底摩耗量yは、以下の数式1に示す関係式によって近似できることが判明した。但し、この数式1の係数とべき乗数は個々のミルの条件によって異なる値となる。
【0015】
【数1】
y=0.0004×(x/1000)2.5346
【0016】
本発明者は、さらに種々の実験を行った結果、上記数式1によって近似できる溝底摩耗量yに、下記の数式2のように、ロール孔型のフランジ側の摩耗量を考慮したゲインα(例えば製品外径が31.8〜63.5mmの製品の場合には0.5〜1.0)を設けることで、対向性偏肉の発生の抑制に対して適切なロールギャップ補正量を求めることができることを知見した。なお、下記数式2において、ゲインαに「2」 を乗算しているのは、1対のロール摩耗量は、個々のロールについてほぼ同じであり、その値を合計してロールギャップ補正量とするためである。
【0017】
【数2】
ロールギャップ補正量=α×2×y
【0018】
本発明に係る圧延ロールのロールギャップ制御方法は、上記した知見に基づいてなされたものであり、マンドレルミル圧延時におけるロールギャップ制御方法において、予めロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量を実測しておき、圧延開始時、ロールパス本数から前記実測した両者の関係にロール孔型のフランジ側の摩耗量を考慮したゲインを設けて予測した圧延ロール摩耗量に応じてロールギャップ量を補正するものである。この本発明方法によって対向性偏肉の発生を効果的に抑制することができる。なお、実測しておくロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量は、圧延の都度更新することは言うまでもない。
【0019】
ところで、継目無管の製管時においては、後段のスタンドになるほど最終肉厚寸法への影響が大きくなる。従って、上記した本発明方法においては、ロールギャップ量の補正は、後段のロールスタンドを優先して行なうことが望ましいことは言うまでもない。
【0020】
また、ロールギャップ補正量が同じ場合、発生する対向性偏肉量は圧延する中空管材の厚さに関係なく一定であるから、後述する図4からも明らかなように、圧延する中空管材の厚さが薄くなる程、その影響は大きくなる。従って、上記した本発明方法においては、ロールギャップ量の補正は、以下に説明するように、圧延する中空管材の肉厚を考慮して行なうことが望ましい。
【0021】
例えば予め調査した結果に基づいて、図2に示したように、マンドレルミルでの仕上肉厚(以下、単に「仕上肉厚」と言う。)とゲインαとの関係を設定しておき、このゲインαを用いて、ロールギャップ補正量を求めるのである。なお、図2はロールパス本数が15000本に到達した場合の仕上肉厚とゲインαとの関係の一例を示した図である。
【0022】
上記した本発明方法は、少なくとも予め実測しておいたロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量の関係を格納するデータ部と、圧延開始時、前記データ部からロールパス本数と圧延ロール摩耗量の関係を読み出し、ロールパス本数から前記関係にロール孔型のフランジ側の摩耗量を考慮したゲインを設けて予測した圧延ロール摩耗量に応じてロールギャップ補正量を演算する演算部を備えた圧延ロールのロールギャップ制御装置によって実施可能である。なお、データ部にはロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量のみを格納しておき、圧延の都度これら両者の関係を求めるようにしても良いことは言うまでもない。
【0023】
なお、上記数式2で求められるロールギャップ補正量の上限値は特に限定されるものではないが、本発明者が種々調査した結果によれば、ロールギャップ補正量が仕上肉厚の30%を超えるような過大な量になるとフランジ部側に肉厚がはみ出る現象が生じるために、以下に述べるようにマンドレルミル工程で望ましいとされる29%以下の肉厚偏差ε(下記数式4参照)を超えてしまう場合が多く発生することが判明している。
【0024】
図3に示すように、圧延ロール11a,11bのロール孔型部分の溝底Aと、溝底から45°フランジ側に移動した位置Bにおいて、それぞれロールギャップの補正前と補正後の肉厚tA,tA’及びtB,tB’を測定し、その差ΔtA,ΔtB(下記数式3)を用いて以下の数式4により求めた値を、本発明においては肉厚偏差εとしている。
【0025】
【数3】
ΔtA=tA−tA’
但し、tA :ロールギャップ補正前における溝底方向の圧延後中空管材の肉厚
tA’:ロールギャップ補正後における溝底方向の圧延後中空管材の肉厚
ΔtB=tB−tB’
但し、tB :ロールギャップ補正前における溝底から45°位置の圧延後中空管材の肉厚
tB’:ロールギャップ補正後における溝底から45°位置の圧延後中空管材の肉厚
【0026】
【数4】
ε={(ΔtA−ΔtB)/ΔtA}×100(%)
【0027】
図4は、外径が110mmの中空管材に対するロールギャップ補正量を仕上肉厚の3%、20%、30%とした場合の、上記数式4によって定義した肉厚偏差εとマンドレルミルでの仕上肉厚の関係を示した図である。この図4より、マンドレルミルでの仕上肉厚が薄く、ロールギャップ補正量の前記仕上肉厚に対する比率(以下、「ロールギャップ補正量比」と言う。)が大きいほど発生する肉厚偏差εが大きくなる傾向があることが判る。
【0028】
そして、本発明者の調査によれば、図4に示したように、ロールギャップ補正量比が30%を超えると、肉厚偏差εが29%を超えてしまう場合が多く発生することが判明した。
【0029】
【実施例】
以下、本発明に係る圧延ロールのロールギャップ制御装置を図5に基づいて説明した後、この本発明装置を用いて本発明に係る圧延ロールのロールギャップ制御方法を実施した場合の効果について説明する。
【0030】
図5において、1は予め実測したロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量とから、ロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量の関係を、例えば図1に示したような線図として格納しておくデータ部である。
【0031】
2は演算部であり、圧延開始時、前記データ部1から図1に示すような予め実測したロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量の関係を読み出し、例えば圧延条件と共に入力されるロールパス本数から前記読み出した関係にロール孔型のフランジ側の摩耗量を考慮したゲインを設けて圧延ロールの溝底摩耗量yを予測する。そして、この予測した溝底摩耗量yに応じて、ロールギャップ補正量を前述の数式2によって演算し、この演算したロールギャップ補正量に相当する補正信号を圧延ロール駆動部3へ出力する。
【0032】
本発明に係る圧延ロールのロールギャップ制御装置は上記した構成であり、次に、この本発明装置を用いて本発明に係る圧延ロールのロールギャップ制御方法を実施した場合の効果について説明する。
【0033】
実験は、下記表1に示したように、マンドレルミルによる肉厚を3.75mm〜12.00mmに仕上げ、最終的には外径が31.8mm〜63.5mm、肉厚が3.20mm〜11.00mmの製品に圧延することにより行った。
【0034】
この時、全7スタンドからなるマンドレルミルのうち、各スタンドのロールパス本数は、第1スタンドが約600パス、第2スタンドが約13,000パス、第3スタンドが約5,600パス、第4スタンドが約3,200パス、第5スタンドが約10,000パス、第6スタンドが約500パスであった。
【0035】
そして、本発明の実施例では、圧延開始時、下記表1に示した適用スタンドに、同じく表1に示したゲインαを用いて、図5に示した本発明装置により前述の数式2でロールギャップ補正量を求め、適用スタンドのロールギャップ補正を行った場合の偏肉量を表1に示した。
【0036】
下記表1には、上記した本発明を実施せず、ロールギャップを補正しないで同じ中空管材を圧延した比較例についても実験を行い、その場合の偏肉量を調査した結果も併せて示す。なお、表1中の評価は、実施例と比較例を比べたもので、◎は両者の差が0.10mm以上改善されたもの、○は両者の差が0.05mm以上、0.10mm未満改善されたもの、△は両者の差が0.01mm以上、0.05mm未満改善されたものを示す。
【0037】
【表1】
【0038】
上記表1より、本発明によれば、ロールパス本数に応じたロールギャップ量の補正を最適に行えるので、ロールギャップ補正を行わない比較例と比べて、マンドレルミルでの圧延時の対向性偏肉を、マンドレルミルでの仕上げ肉厚に拘わらず効果的に抑制できることが確認できた。なお、表1のitem7,8は、ゲインαが1.0であるが、予め実測したロールパス本数に対応する圧延ロールの溝底摩耗量をロールギャップ補正量として補正しているので、比較例に比べて偏肉量が抑制されていることは言うまでもない。
【0039】
なお、上記した実施例では各スタンドについてのゲインαを同じ値としたものについて説明したが、後段のスタンドを優先するように各スタンドについてのゲインαを変化させても良いことは言うまでもない。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、マンドレルミルでの圧延時に発生する対向性偏肉を効果的に抑制できる。
また、後段のスタンドほど最終肉厚寸法への影響が大きくなるので、後段のスタンドを優先してロールギャップ量の補正を実施することで、大きな効果を得ることができるようになる。
【0041】
また、本発明方法においては、ロールギャップ量の補正は、圧延する中空管材の肉厚を考慮して行なうことで、圧延する中空管材の厚さが薄い場合も対向性偏肉の発生を効果的に抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ロールパス本数と溝底摩耗量の関係を示す図である。
【図2】マンドレルミルでの仕上肉厚とゲインαの関係を示す図である。
【図3】肉厚偏差εを求める際に測定する部位を示す図である。
【図4】マンドレルミルでの仕上肉厚と肉厚偏差εの関係を示す図である。
【図5】本発明の圧延ロールのロールギャップ制御装置の構成を示す図である。
【図6】対向性偏肉を説明する図である。
【符号の説明】
1 データ部
2 演算部
3 圧延ロール駆動部
Claims (4)
- マンドレルミル圧延時におけるロールギャップ制御方法において、予めロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量を実測しておき、圧延開始時、ロールパス本数から前記実測した両者の関係にロール孔型のフランジ側の摩耗量を考慮したゲインを設けて予測した圧延ロール摩耗量に応じてロールギャップ量を補正することを特徴とする圧延ロールのロールギャップ制御方法。
- 前記ロールギャップ量の補正は、後段のロールスタンドを優先して行なうことを特徴とする請求項1記載の圧延ロールのロールギャップ制御方法。
- 前記ロールギャップ量の補正は、圧延する中空管材の肉厚を考慮して行なうことを特徴とする請求項1又は2記載の圧延ロールのロールギャップ制御方法。
- マンドレルミル圧延時におけるロールギャップ制御装置であって、予め実測しておいたロールパス本数と圧延ロールの溝底摩耗量の関係を格納するデータ部と、圧延開始時、前記データ部からロールパス本数と圧延ロール摩耗量の関係を読み出し、ロールパス本数から前記関係にロール孔型のフランジ側の摩耗量を考慮したゲインを設けて予測した圧延ロール摩耗量に応じてロールギャップ補正量を演算する演算部を備えたことを特徴とする圧延ロールのロールギャップ制御装置。
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