JP3594576B2 - 田植機 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、苗のせ台の下端から田面に亘る縦長の爪先回動軌跡をもって循環回動する植付け爪を有する植付け機構を備えた田植機に係り、特には、植付け機構への動力伝達構造に特徴を有する田植機に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、消費苗を少なくして植付け作業を行う手段の一つの手段として、株間を標準株間よりも十分大きくする、いわゆる疎植を行うことが研究されている。株間を標準より大きくして疎植を行う場合、植付け爪の作動速度が標準の株間で植付けを行う場合より相当遅くする必要があり、植付け爪が苗を田面に押し込む植付け行程において、植付け爪が田面に突入している時間が長くなり、その分、植付け爪によって田面にあけられる穴が前後に大きくなってしまい、植付け苗の姿勢が悪化したり、時には植え付けた苗が倒れてしまうような現象がもたらされる。
【0003】
疎植を行う際のこのような不具合を解消する手段として、植付け爪の作動速度を不等速にし、一順する速度を遅くしながら植付け爪が苗を田面に押し込む植付け行程での速度を局部的に速くすることで、植付け爪によって田面にあけられる穴が大きくなるのを抑制することが提案されている(特開2000−312514号公報参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記手段では、標準株間の変速を行う株間変速部と等速伝動部を植付け伝動系に直列に配置してあったために、疎植用の株間が選択された場合のみならず、標準の株間での植付けにおいても不等速で苗植付け装置が駆動されることになり、標準株間での植付けにおける爪先回動軌跡が等速駆動の場合と異なってしまって適切な植付けが行い難くくなくなるとともに、使用頻度の高い標準株間での植付け時に不等速駆動に起因する振動が発生しやすくなる不具合があった。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、使用頻度の高い標準株間での植付け時には好適な爪先回動軌での植付けを振動なく行うことができるとともに、疎植時には不等速駆動によって植付け爪によってあけられる植付け穴が大きくなるのを抑えた良好な植付けを行えるようにすることを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は以下のような構成を採用した。
【0007】
すなわち、請求項1に係る発明の田植機は、苗のせ台の下端から田面に亘る縦長の爪先端回動軌跡をもって循環回動する植付け爪を有する植付け機構を備え、この植付け機構へ動力を伝達する伝動系に、走行速度に対する植付け駆動速度を複数段に変速する株間変速機構を配備するに、前記株間変速機構に、等速ギヤ伝動による複数段の変速を行う標準株間用変速部と、不等速ギヤ伝動による最低速段を現出する疎植用変速部とを並列伝動状態に配備し、これら標準株間用変速部と疎植用変速部の変速段を択一的に選択可能に構成してあることを特徴とする。
【0008】
上記構成によると、標準の株間を選択すると苗植付け装置へは等速伝動によって動力が伝達され、植付け爪は従来の標準的な爪先端回動軌跡をもって循環回動する。また、疎植用の大きい株間が選択すると苗植付け装置へは不等速伝動によって低速で動力が伝達され、植付け爪は、一巡周期はゆっくりでありながら植付け行程で速く作動し、前後に大きな植付け穴があけられることなく大きい株間での植付けが行われる。
【0009】
従って、請求項1に係る発明によると、使用頻度の高い標準株間での植付け時には好適な爪先回動軌での植付けを振動なく行うことができるとともに、疎植時には不等速駆動によって植付け爪によってあけられる植付け穴が大きくなるのを抑えた良好な植付けを行うことができるようになった。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1に、本発明に係る田植機の一実施形態を示す全体側面図が示されている。この田植機は、操向自在な前輪1と操向不能な後輪2を備えた4輪駆動型の走行機体3の後部に、油圧シリンダ4によって駆動される平行四連リンク構造の昇降リンク機構5を介して4条植え仕様の苗植付け装置6が昇降自在に連結された構造となっている。
【0011】
図2の伝動系統図に示すように、走行機体3の前部に配備されたエンジン7と、前輪1を軸支したミッションケース8とがダブルテンション式のベルト伝動装置9で連動連結され、ミッションケース8に入力された動力が、移動用の高速段、植付け用の低速段、および、畦越え用の超低速段に切換え可能な副ギヤ変速機構10と、前進段と後進段に切換え可能な主ギヤ変速機構11を介して変速された後、デフ機構12を介して左右の前輪1に伝達されるとともに、デフ機構12から取出した走行系動力が機体下腹部の主軸13を介して機体後方の後部伝動ケース14に伝達された後、サイドクラッチ15を介して左右の後輪2に伝達される。
【0012】
なお、左右の後輪2への動力伝達を独立的に断続するサイドクラッチ15は、前輪1の操向機構に連動連結されており、前輪1が設定角度以上に大きく操向されると、旋回内側となる後輪2のサイドクラッチ15が、ペダル操作を要することなく自動的に切り操作されるようになっている。
【0013】
また、副ギヤ変速機構10からの変速出力の一部が分岐されて株間変速機構16に伝達され、ここで4段に変速されてトルクリミッタ17および植付けクラッチ18を介してミッションケース8の後部から取出され、取出された植付け作業系の動力は、機体下腹部の伝動軸19で機体後方にまで伝達され後、伸縮軸伝動機構20を介して苗植付け装置6に入力されるようになっている。
【0014】
なお、前記植付けクラッチ18は、電動モータなどのアクチュエータ51で入り切り操作されるよう構成されていて、スイッチ操作によって任意に入り切りできる他に、自動的に入り操作されるよういなっている。つまり、一般的な植付け形態では、一行程の植付け走行が終了して畦際に到達すると、先ず、苗植付け装置6を上昇操作するとともに植付けクラッチ18を切って機体をUターン旋回させ、機体方向転換が終了するまでに苗植付け装置6を下降して先の植え付け条に対する機体横方向での位置合わせ(条合わせ)を行い、条合わせが完了すると先の植え付け条の終端位置に合わせて次の植え付けを開始するように植付けクラッチ18を入れることになるが、この植付けクラッチ18を入れるタイミングをとるの熟練を要するものであり、作業者の技量によっては植え始めの揃えが悪化するものである。そこで、以下のようにして自動化することで、作業者の技量にかかわらず、植え始めの揃えを良好にすることができる。
【0015】
つまり、畦際での機体の方向転換に要する走行軌跡は作業者の技量にかかわらず略一定であり、そこで、一行程の植付け走行が終了して機体方向転換に移行した時点から機体の走行距離を計測し、計測した実走行距離が、方向転換に必要な走行距離として予め入力しておいた設定値に到達すると、自動的に植付けクラッチ18をアクチュエータ51で入り操作するように構成することで、作業者の技量にかかわらず植え始めの揃えを安定化することができる。ここで、走行距離の検出には、後輪2への動力伝達を行う主軸13に回転センサ52を装備して、その回転数から走行距離を計測するとよい。また、走行距離の起算タイミングとしては、上記のように機体方向開始時点とする他に、機体操向に伴って自動的に切られた一方のサイドクラッチ15が再び入り操作された時点を起点にして計測を開始するように構成してもよい。
【0016】
図2に示すように、苗植付け装置6は、前記昇降リンク機構5の後端下部に支点X周りにローリング自在に連結されており、角パイプ状の横長フレーム21、ミッションケース8から取出された作業系の動力を受けるフィードケース22、苗Fを載置して一定ストロークで往復横移動する苗のせ台23、横長フレーム21から後ろ向き片持ち状に延出された左右一対の植付けケース24、各植付けケース24の後端部左右に装備されたロータリ式の植付け機構25、田面Tの植付け予定箇所を均平化する3個の整地フロート26、等を備えている。そして、フィードケース22には、苗のせ台23を一定ストロークで往復横送りするネジ送り式の苗のせ台横送り機構27、苗のせ台23がストロークエンドに到達するごとに載置した苗Fを苗のせ台23下端の苗取出し口にまで縦送りする苗縦送りベルト28の駆動部37が装備されている。
【0017】
図4に示すように、植付けケース24の基端には、フィードケース22からの動力が横向き伝動軸29を介して伝達されており、この動力が内装された畦際クラッチ30、および、チェーン31を介して植付け駆動軸32に2分の1の減速比で伝達され、この植付け駆動軸32の両突出端に連結された左右の植付け機構25を駆動するようになっている。植付け機構25は、植付け駆動軸32に連結された回転ケース33と、これの両端に自転可能に装備された一対の植付け爪34とからなり、回転ケース33が前方に向けて1回転(公転)すると、各植付け爪34が逆方向に1回転(自転)して、植付け爪34の先端が縦長の回動軌跡Pを描くように、回転ケース33内には植付け爪34を回転ケース31の公転に対して不等速自転させるギヤ機構が内臓されている。なお、図4中の35は苗のせ台横送り機構27を構成する往復ネジ軸、36はこの往復ネジ軸35の回転速度、つまり、苗のせ台横送り速度を3段に切換えて苗のせ台1ストロークにおける苗取り回数を選択するための横送り速度選択機構である。
【0018】
上記構成は、従来と特に変わるところはなく、本発明では前記株間変速機構16を以下のように構成して点に特徴がある。
【0019】
図5に示すように、前記株間変速機構16は、駆動側伝動軸41に固着した4枚の駆動側変速ギヤG1 ,G2 ,G3 ,G4 と、従動側伝動軸42に遊嵌されるとともに、前記駆動側変速ギヤG1 ,G2 ,G3 ,G4 に常時咬合された4枚の従動側変速ギヤG5 ,G6 ,G7 ,G8 とから構成されており、従動側伝動軸42に挿入された操作カム軸43を軸心方向にシフトして、従動側伝動軸に保持された伝動ボール44を択一的に外方に押し出し、従動側変速ギヤG5 ,G6 ,G7 ,G8 のいずれか一つと従動側伝動軸42とを伝動ボール44を介して連結することで、選択されたギヤ対のギヤ比による伝動が行われるようになっている。
【0020】
ここで、4組のギヤ対のうちの3組みのギヤ対G1 G5 ,G2 G6 ,G3 G7 には円形ギヤが用いられ、異なった伝動比で等速の増速伝動が行われ、残りの1組のギヤ対G4 G8 には非円形ギヤが用いられて、伝動比が1:1の不等速伝動が行われるようになっている。そして、等速での増速伝動が行われるギヤ対G1 G5 ,G2 G6 ,G3 G7 が選択されると、苗植付け装置6での株間が、例えば、14cm、16cm、および、18cmがもたらされ、不等速伝動が行われるギヤ対G4 G8 が選択されると30cmの株間が現出されるようになっている。つまり、等速での増速伝動が行われるギヤ対G1 G5 ,G2 G6 ,G3 G7 によって標準株間用変速部16Aが構成され、不等速伝動が行われるギヤ対G4 G8 によって疎植用変速部16Bが形成されるとともに、これら標準株間用変速部16Aと疎植用変速部16Bが伝動系上に並列に配備されているのである。なお、前記株間変速機構16の疎植用変速部16Bにおいては、従動側変速ギヤG8 と従動側伝動軸42との連結が一定の回転位相においてのみ行われるように設定されるとともに、植付けクラッチ18および畦際クラッチ30も一定の回転位相においてのみ入り切り可能に構成されている。
【0021】
なお、前記不等速伝動を行う疎植用変速部16Bを構成する駆動側変速ギヤG4 と従動側変速ギヤG8 は、図6に示すように、同径の円形ギヤの回転中心を円形中心から偏らせた偏心ギヤが利用されており、駆動側変速ギヤG4 の1回転に対して従動側変速ギヤG8 は、図7に示すような特性で1回転されるようになっている。
【0022】
疎植用の株間が選択された際に伝動軸19から取出される作業用動力は、図7に示す特性をもって不等速回転するので、この動力を受ける苗植付け装置6も不等速作動する。つまり、フィードケース22に不等速回転動力が入力されると、植付けケース24の基部に横架された伝動軸29が不等速回転し、これが2分の1減速されて植付け駆動軸32に伝達されることで、植付け機構25の回転ケース33が1回転中に2回の高速状態と2回の低速状態を繰り返す。ここで、回転ケース33の両端部に装備された植付け爪34が苗のせ台23から苗を取出して田面Tに向けて移動する下降行程の速度、および、植付け爪34が田面Tから苗のせ台23の下端にまで移動する上昇行程の速度が遅く、苗のせ台23の下端部を通過する苗取出し行程の速度、および、取出した苗を田面Tに植え込む植付け行程の速度が速くなるように、回転ケース33の回転位相が設定されている。
【0023】
図8は、株間変速機構16を、不等速伝動する最大の株間を選択してして疎植を行う場合の、植付け爪34の田面Tに対する爪先端回動軌跡を示し、また、図9は、植付け機構25を等速駆動して株間を上記と同一に設定して疎植を行う場合の、植付け爪34の田面Tに対する爪先端回動軌跡を示している。
【0024】
これらの図から明らかなように、不等速伝動する場合には、植付け行程の速度が速いために、田面Tに突入した植付け爪34によって形成される穴の前後幅wが小さくなり、植え付けられた苗が爪跡穴によって大きく傾いて姿勢を乱したり、倒れたりするようなことはない。これに対し、等速駆動で疎植を行う場合には、植付け行程の速度が遅いために、田面Tに突入した植付け爪によって形成される穴の前後幅wが大きくなり、植え付けられた苗が爪跡穴によって大きく傾いて姿勢を乱したり、倒れたりするおそれがある。
【0025】
また、1回転で2回の植え付けを行うロータリ式の植付け機構25においては、一方の植付け爪34が植付け行程にある時には、他方の植付け爪34は苗のせ台23の下端部を通過する苗取出し行程にあるので、この苗取出し行程も植付け爪下降行程や植え付け後の上昇行程の速度より速いものとなり、苗のせ台23の下端部を速やかに通過して、苗を確実に切り出してゆく。
【0026】
〔別実施形態〕
前記不等速変速部の駆動側変速ギヤG4 と従動側変速ギヤG8 を構成する非円形ギヤとしては、上記にように外周が円形の偏心ギヤを利用する他に、楕円ギヤやピッチ径が任意の特性で変化するギヤを利用することも可能である。
【0027】
上記実施形態では、植付け機構25として、回転ケース33の1回転で2株の植え付けを行うロータリ式のものを例示しているが、クランク駆動される単一の植付け爪で1回転ごとに1株づつの植え付けを行うものに適用することもでき、この時は、植付けケース24での伝動比を1:1としておけばよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】乗用田植機の全体側面図
【図2】苗植付け装置の側面図
【図3】走行系の伝動系統図
【図4】作業系の伝動系統図
【図5】株間変速機構の断面図
【図6】疎植用変速部の側面図
【図7】不等速伝動機構の特性線図
【図8】不等速駆動で疎植を行う場合の植付け爪先端軌跡を示す側面図
【図9】等速駆動で疎植を行う場合の植付け爪先端軌跡を示す側面図
【符号の説明】
16 株間変速機構
16A 標準株間用変速部
16B 疎植用変速部
23 苗のせ台
25 植付け機構
34 植付け爪
P 爪先端回動軌跡
T 田面

Claims (1)

  1. 苗のせ台の下端から田面に亘る縦長の爪先端回動軌跡をもって循環回動する植付け爪を有する植付け機構を備え、この植付け機構へ動力を伝達する伝動系に、走行速度に対する植付け駆動速度を複数段に変速する株間変速機構を配備するに、
    前記株間変速機構に、等速ギヤ伝動による複数段の変速を行う標準株間用変速部と、不等速ギヤ伝動による最低速段を現出する疎植用変速部とを並列伝動状態に配備し、これら標準株間用変速部と疎植用変速部の変速段を択一的に選択可能に構成してあることを特徴とする田植機。
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