JP3589971B2 - 卵含有加圧加熱食品 - Google Patents
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Description
本発明は、卵の凝固物を具として含有し、加圧加熱殺菌してなり、密封容器詰である卵含有加圧加熱食品に関する。
【0002】
【従来の技術】
卵は、加熱をすると、卵白から硫黄分が析出し、卵黄中の鉄分と反応して、いわゆる硫化黒変が生じる。pHが高くなると、硫化黒変の度合いと硫化黒変の発生率も高くなるので、卵加工品に有機酸を添加してpHを下げ、硫化黒変を抑制することが行われていた。しかし、卵加工品に有機酸を添加すると、硫化黒変の発生は防止されるものの、卵加工品が硬くなる傾向となってしまっていた。
また、卵は、加圧加熱食品のように加圧加熱などを必要とする食品に含有させた場合、硫化黒変を発生してしまったり、縮れてしわになったり、卵風味が低下したり、卵が硬くなってしまうことがあった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、卵の凝固物を具として含有し、加圧加熱殺菌を行う加圧加熱食品において、卵の縮れを防ぎ、卵の風味を劣化させたり、卵の食感を硬くすることなく、黒変の発生も抑えた卵の凝固物を含有する加圧加熱食品を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(1)薄膜状、鱗片状及び薄肉偏平状の卵の凝固物からなる具と調味液を含有し、調味液に有機酸塩としてクエン酸塩を添加し、加圧加熱殺菌してなり、密封容器詰であることを特徴とする卵含有加圧加熱食品、(2)クエン酸塩がクエン酸ナトリウムである(1)記載の卵含有加圧加熱食品、(3)有機酸塩の添加率が全体量に対し、0.01%〜0.7%である(1)記載の卵含有加圧加熱食品、(4)卵含有加圧加熱食品が卵雑炊、卵粥又は卵スープである(1)乃至(3)のいずれかに記載の卵含有加圧加熱食品を提供することである。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を説明する。なお、本発明において「%」は特にことわりのない限り「質量%」を意味する。
本発明の卵の凝固物は、卵白液と卵黄液の混合物、卵白液、又は、卵黄液からなる液卵を凝固させたものであり、調味液等を混合し凝固させたものも含むものである。また、卵の凝固物の形状は、鱗片状、薄膜状、糸状、薄肉偏平状の小片、大豆状、掻き玉汁に具として含有している形状の掻き玉状や、卵丼や親子丼などの丼物の具として含有している形状も含むものである。また、これらの形状の中でも薄膜状、又は、鱗片状の卵の凝固物は、加圧加熱殺菌で生じる縮れ防止効果が特に得られるので、望ましい。
【0006】
本発明の有機酸塩は、食品添加物として認められる食用酸の塩であり、クエン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩を挙げることができる。クエン酸塩が、卵の風味が良好であるという効果がより得られるので望ましく、さらに、クエン酸塩の中でもクエン酸ナトリウムが、手作りしたように卵の食感が柔らかいという効果がより得られるのでより望ましい。なお、本発明のクエン酸ナトリウムはクエン酸三ナトリウムを含むものである。
【0007】
卵含有加圧加熱食品は、上述したような卵の凝固物を具として含有し、100℃以上の加圧加熱殺菌を施した常温保存可能な製品をいう。加圧加熱殺菌の加熱温度は110℃以上、125℃以下が望ましく、また、F0値が4以上、20以下となるようにすると望ましい。具体的には、加圧加熱殺菌を施した卵粥、卵雑炊、卵スープ、丼の素等が挙げられる。また、卵粥、卵雑炊、卵スープは、調味料の色や味が薄い場合が多く、卵の凝固物の外観と風味が最も重要となる食品であるので、特に、本発明の効果が得やすく望ましい。なお、容器としては、レトルトパウチ、缶、瓶等密閉できる容器を用いればよい。
【0008】
有機酸塩の添加率としては、望ましくは全体量に対して0.01%〜0.7%であり、さらに望ましくは0.05%〜0.5%である。添加率が0.01%より少ないと、卵の黒変と縮れを充分防止するという効果が得られにくくなり、外観に優れた卵含有加圧加熱食品を得にくい。添加率が0.7%より多いと卵に苦味が出てくる場合がある。
【0009】
本発明の卵含有加圧加熱食品は如何なる理由により外観に優れ、しかも好ましい食感と風味を有しているかは定かではないが、有機酸塩を添加することで、有機酸を添加する場合よりpHが低下せず、また、加熱変性による卵蛋白質の水分の放出が抑えられるため、手作りのような卵の食感の柔らかさを保ち、卵の縮れと卵の風味の低下を防ぎ、また、添加した有機酸塩が解離して、硫黄と鉄が反応するのを阻害する働きがあるのではないかと推察される。
【0010】
以下、本発明の代表的な製造方法を説明するが、特にこの方法に限定するものではない。
清水に所定量の有機酸塩と、調味料として食塩、醤油、グルタミン酸ナトリウム、核酸、清酒、みりん、香辛料、エキス材等を適宜選択し、その適量を添加し、ニーダー等の攪拌機で90℃以上に加熱混合して調味液を調製する。この加熱した調味液を2〜10rpm程度の低速回転で攪拌させながら、卵粥、卵雑炊、卵スープまたは丼の素等、卵含有加圧加熱食品に通常含有されている液卵の量、つまり、調味液に対して5〜80%程度の液卵を徐々に添加し、調味液中に液卵を分散させ、液卵を鱗片状、薄膜状、薄肉偏平状等に凝固させ、卵の凝固物を調整する。
次に、前記調味液に分散させた卵の凝固物と、必要に応じ、米やその他の具材をアルミパウチなどの耐熱性容器に充填・密閉した後、100〜125℃で加圧加熱殺菌を施して卵含有加圧加熱食品を製する。なお、卵以外の具材として原料米を使用し卵粥または卵雑炊を調製する場合、原料米の充填量は、卵粥または卵雑炊に通常配合されている充填量、つまり、生米換算で全充填量の5〜10%となるように充填すればよく、また、用いる原料米としては、特に限定するものではないが、例えば、生米を洗浄した洗浄米、糠を除いた無洗米さらに水浸漬した浸漬米などが挙げられる。
【0011】
次に実施例と試験例に基づき、さらに詳細に説明する。
実施例1
卵粥の調製
ニーダーに清酒5kgを投入し、加熱を行いアルコール分を蒸発させた。その後、清水367kg、L−グルタミン酸ナトリウム1kg、食塩2kgおよびクエン酸三ナトリウム1kgを投入し、加熱混合を行い、調味液を調整した。次に、調味液の温度が約95℃に到達後、攪拌しながら液全卵30kgを除々に添加し、卵の凝固物である鱗片状の小片物が分散された調味液約400kgを得た。
【0012】
次に、常法により洗浄し約60分間浸漬処理した精白米18gと前記卵の凝固物を分散させた調味液232gずつを250ml容量をアルミスタンドパウチに充填し密封後、121℃で20分間加圧加熱殺菌後、冷却し、レトルト卵粥を得た。
得られたレトルト卵粥を30日間常温で保管後、開封したところ、卵の部分の黒変がなく、また、鱗片状の卵の膜が縮れていないため、外観がよく、食べたときの卵の食感は手作りしたように柔らかく、卵風味が良好で、美味しい卵粥であった。
【0013】
実施例2
卵雑炊の調製
ニーダーにみりん10kg、鰹エキス15kg、昆布エキス5kg、食塩3kg、醤油5kg、L−グルタミン酸ナトリウム1kg、クエン酸三ナトリウム1kg及び清水340kgを投入し、加熱混合を行い調味液を調製した。次に、調味液の温度が約95℃に到達した後、攪拌しながら液全卵20kgを除々に添加し、卵の凝固物である薄肉偏平状の小片物が分散された調味液約400kgを得た。
【0014】
次に、人参、椎茸、竹の子をそれぞれ5gずつ細切りにカットし、常法により洗浄したものと、約60分間浸漬処理した精白米30gと前記液卵の凝固物を分散させた調味液255gとを300mlのアルミスタンドパウチに充填し密封後、120℃で25分間、加圧加熱殺菌を施し、冷却して、レトルト卵雑炊を得た。なお、前記細切りにカットした人参および竹の子は、カットした後、5分程度ボイルし水冷したものを用いた。
得られたレトルト卵雑炊を常温で30日間保管後開封したところ、卵の部分の黒変がなく、縮れていないため外観がよく、食べたときの食感は、手作りしたように柔らかく、美味しいものであった。
【0015】
実施例3
中華スープの調製
ニーダーにごま油1kg、鶏がらエキス20kg、日本酒10kg、食塩5kg、醤油2kg、L−グルタミン酸ナトリウム1kg、海洋深層水40kg、クエン酸三ナトリウム1.5kg、及び清水287kgを投入し、加熱混合を行い、水溶き片栗粉4kgでとろみを付け調味液を調製した。次に、調味液の温度が95℃に到達した後、攪拌しながら液全卵30kgを除々に添加し、分散させ、卵の凝固物である薄膜状の小片物が分散された調味液約400kgを得た。
【0016】
次に、きくらげ5g、人参5g、竹の子10g、さやえんどう5g及び鶏肉10gの具材をそれぞれ常法により洗浄して細切りにカットし、5分程度ボイルし、水冷した。これら具材と前記液卵の凝固物を分散させた調味液215gをアルミスタンドパウチに充填し密封後、120℃で25分間、加圧加熱殺菌を施し、冷却して、レトルト中華スープを得た。
得られたレトルト中華スープを常温で30日間保管後開封したところ、卵の部分に黒変がなく、縮れていないため外観がよく、卵の食感は柔らかく、ふんわりして、美味しいものであった。
なお、海洋深層水は、水面200m以下からくみ上げた海水である。
【0017】
【試験例】
試験例1
実施例1と同じ方法でクエン酸三ナトリウムを表1の通りに置き換え、レトルト卵粥を調製した。また、比較のために、加圧加熱殺菌品として、無添加で加圧加熱処理をした卵粥と、未殺菌品として、加圧加熱処理をしていない卵粥を調製した。
評価方法は、得られた各卵粥を色調と膜の状態については、目視により判定し、食感と風味については、調製した卵粥を暖めた後、試食により評価を行った。なお、未殺菌品の卵粥は、定量の水に浸漬した精白米を土鍋に投入し、鍋にふたをして40分ほど加熱し、味付けに食塩とグルタミン酸ソーダを添加し、加熱しつつ、かき混ぜながら卵を少しずつ投入し調整したものである。
【0018】
【表1】
【0019】
表1より、有機酸塩を添加した卵粥である本発明品は、卵粥と外観、食感、風味の面で未殺菌の卵粥と同程度まで近づけることができたことがわかる。本発明品である有機酸塩を添加した卵粥の外観は、加圧加熱殺菌品の卵粥と比較して、硫化黒変を抑えることができ、有機酸を添加した卵粥や無添加の加圧加熱殺菌品の卵粥と比較して、卵の色調が鮮やかな黄色を呈し、卵の膜の状態は縮れておらず広がっており、また、卵の食感と風味については、未殺菌品と同程度に柔らかく、風味も良好なレトルト卵粥が調製できたことがわかる。
【0020】
試験例2
実施例1と同じ方法により、クエン酸三ナトリウムの添加率を表2に示すように変えて、レトルト卵粥を調製した。
【0021】
【表2】
【0022】
表2より、クエン酸三ナトリウムの添加率が0.01%〜0.70%のときは、卵の硫化黒変が抑えられ、卵の膜も縮れずに広がっており、外観が良好であり、さらに、卵の食感の柔らかさが保たれ、卵の風味の良好なレトルト卵粥が得られたことがわかる。そして、クエン酸三ナトリウムの添加率が、0.05%〜0.50%であるときは、わずかな苦味もなく、卵の硫化黒変を抑え効果が更に発揮されるため、より望ましいことがわかる。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、加圧加熱殺菌しても、卵の膜が縮れておらず、卵の食感が柔らかく、卵の風味がよく、硫化黒変のない卵含有加圧加熱食品を得ることができる。さらに、加圧加熱殺菌しない家庭で手作りしたものにより近い外観及び食感の卵の凝固物を具として含有する卵含有加圧加熱食品を得ることができる。
Claims (4)
- 薄膜状、鱗片状及び薄肉偏平状の卵の凝固物からなる具と調味液を含有し、調味液に有機酸塩としてクエン酸塩を添加し、加圧加熱殺菌してなり、密封容器詰であることを特徴とする卵含有加圧加熱食品。
- クエン酸塩がクエン酸ナトリウムである請求項1記載の卵含有加圧加熱食品。
- 有機酸塩の添加率が全体量に対し、0.01%〜0.7%である請求項1記載の卵含有加圧加熱食品。
- 卵含有加圧加熱食品が卵雑炊、卵粥又は卵スープである請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の卵含有加圧加熱食品。
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