JP3583222B2 - 積層体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は繊維質基体層(A)および特定の熱可塑性ポリウレタン組成物からなる無孔質層(B)の2層から構成される積層体;繊維質基体層(A)、熱可塑性エラストマーからなる多孔質層(C)および特定の熱可塑性ポリウレタン組成物からなる無孔質層(B)の3層から構成される積層体;並びにこれらの積層体の製造方法に関する。本発明によれば、耐摩耗性および層間の剥離強力などに優れており、高級感のある銀面層付きの皮革様の積層体が提供される。
【0002】
【従来の技術】
従来、銀面層付の皮革様の積層体の製造方法としては、離型紙上にポリウレタン溶液を塗布し、乾燥してフイルムを形成したあと、該フイルムを編織布または不織布からなる基体の表面に接着剤で貼り合わせ、離型紙を剥離する方法、いわゆる乾式法が一般的に用いられている。また基体の表面に、ポリウレタン溶液を塗布し、湿式凝固法または乾式凝固法にて多孔質のポリウレタン層を形成し、その上に着色剤を含む樹脂溶液を塗布・乾燥して着色層を形成した後、エンボスロールで凹凸模様を形成する方法も一般に用いられている。
【0003】
特開昭53−62803号公報には、基体上に設けられた合成樹脂層の表面上に、膜状に溶融押し出しされた合成樹脂を積層すると共に、離型材を用いてスキン層表面をエンボスすることを特徴とする合成皮革のスキン層の形成方法が記載されている。特開昭62−282078号公報には、金属蒸着層にT−ダイから押し出されたポリウレタン溶融物を積層するシートの製造方法が記載されている。また、特開平2−307986号公報には、合成繊維布帛の表面にシランカップリング剤をあらかじめ付与しておき、しかる後にその表面に熱可塑性樹脂を溶融押し出しして布帛に圧着し、布帛と熱可塑性樹脂層との接着強力を向上させる方法が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これら公知の方法では、作業環境を悪化させる有機溶媒が用いられていたり、引っ張ったり、折り曲げたりした際に表面に安っぽい印象を与える凹凸模様が現れたり、基体層と表面層との剥離が容易に生じたり、あるいは表面層の凝固に長時間を要するため、製造速度を高めることができず、結果的に製造コストが高くならざるを得ないという種々の問題点を有している。さらに、熱可塑性ポリウレタンは粘着性が高いため、エンボスロールを用いて積層体表面の熱可塑性ポリウレタン層に凹凸模様または銀面模様を高速に形成することは困難である。
【0005】
本発明の目的は、耐摩耗性および層間の剥離強力などに優れており、引っ張ったり、折り曲げたりした際に安っぽい凹凸模様が表面に現れない、高級感のある銀面層付きの皮革様の積層体を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、有機溶媒を使用しない良好な作業環境下で、上記の特徴を有する積層体を高速で製造することができる方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、繊維質基体層(A)の表面に、熱可塑性ポリウレタン組成物からなり溶融製膜法により製造された無孔質層(B)を有し、且つ該無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様が存在している積層体であって、前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体〔以下、積層体(I)と称することがある〕に関する。
【0007】
本発明は、繊維質基体層(A)の表面に、熱可塑性エラストマーからなり溶融製膜法により製造された気泡を含有する多孔質層(C)を有し、その上に熱可塑性ポリウレタン組成物からなり溶融製膜法により製造された無孔質層(B)を有し、且つ該無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様が存在している積層体であって、前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体〔以下、積層体(II)と称することがある〕に関する。
【0008】
本発明は、(i)膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面に押し付けて接着することにより、繊維質基体層(A)の表面に無孔質層(B)を形成するとともに、(ii)該熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有している内に、無孔質層(B)の表面を型押しして凹凸模様または鏡面模様を形成する積層体の製造方法であって、(iii)前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体の製造方法に関する。
【0009】
さらに本発明は、(i)膜状に溶融押し出しされた気泡または気泡発生物質を含有する熱可塑性エラストマーを、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面に押し付けて接着することにより、繊維質基体層(A)の表面に多孔質層(C)を形成し、(ii)次に、膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に多孔質層(C)の表面に押し付けて接着することにより、多孔質層(C)の表面に無孔質層(B)を形成するとともに、(iii)該熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有している内に、無孔質層(B)の表面を型押しして凹凸模様または鏡面模様を形成する積層体の製造方法であって、(iv)前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体の製造方法に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる繊維質基体は、適度の厚みと充実感を有し、かつ柔軟な風合いを有するシート状のものであればよく、従来より皮革様の積層体の製造に使用されている各種の繊維質基体を使用することができる。例えば、極細繊維又はその束状繊維、特殊多孔質繊維、通常繊維、天然繊維などからなる絡合不織シート、織編物シート、これらのシートの繊維間にバインダーとしてポリウレタンなどの高分子弾性体が多孔質状又は非多孔質状で含有されている繊維質シート、これらの繊維質シートの表面にさらに高分子弾性体の多孔質被覆層を有する繊維質シートなどが挙げられる。極細繊維束を構成する繊維の細さとしては、好ましくは0.5デニール以下、より好ましくは0.1デニール以下であり、また極細繊維束のトータルデニールとしては、0.5〜10デニールの範囲が好ましい。繊維の種類としては、ナイロン系の繊維やポリエステル系の繊維などを挙げることができる。
【0011】
これらのなかでも、極細繊維束からなる不織布中に高分子弾性体を含有した繊維質シートを使用すると、天然皮革に近い風合いを有する積層体が得られるので好ましい。高分子弾性体としては、従来より皮革様の積層体の製造に使用されている樹脂を用いることができる。例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコン系樹脂やこれらの樹脂の混合物や共重合体などを挙げることができる。これらのなかでも繊維質基体層(A)の表面に積層される樹脂層〔すなわち、熱可塑性ポリウレタン組成物からなる無孔質層(B)または熱可塑性エラストマーからなる多孔質層(C)〕と同種の樹脂を用いると、繊維質基体層(A)とその表面に積層される樹脂層との接着性が向上するため好ましい。繊維質基体を構成する繊維と高分子弾性体との割合は、重量比で40/60〜90/10であるのが好ましい。また、繊維質基体層(A)とその表面に積層される樹脂層との接着性を向上するために、積層される樹脂と親和性の高い樹脂を含有する表面処理剤を、繊維質基体層(A)の表面に塗布することもできる。この場合には、塗布層の厚さは5μm程度を目安とする。塗布層の厚さが厚くなると、得られる積層体の柔軟で一体感のある風合いが損なわれる傾向がある。
【0012】
繊維質基体層(A)の厚みは、得られる積層体の用途などによって任意に選択でき、特に限定されるものではないが、表面に積層される無孔質層(B)または多孔質層(C)の厚みとのバランスの点から、0.3〜3.0mmであることが好ましく、0.5〜2.0mmであることがより好ましい。
【0013】
繊維質基体層(A)の見掛け密度は、柔軟な風合いを得るためには、0.25〜0.5g/cm3であることが好ましく、0.3〜0.35g/cm3であるのがより好ましい。見掛け密度が大きくなると、得られる積層体の腰がなくなったり、ゴムライクな風合いとなる傾向がある。一方、見掛け密度が小さくなると、反発性と腰のない風合いとなり、皮革様の風合いが損なわれる傾向がある。
【0014】
本発明の積層体は、必要に応じて、繊維質基体層(A)と無孔質層(B)との間に、熱可塑性エラストマーからなり溶融製膜法により製造された気泡を含有する多孔質層(C)を形成してもよい。繊維質基体層(A)と無孔質層(B)との間に多孔質層(C)を形成することにより、特に、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が現れず、従来方法では得られないような、より高級感のある銀面層付きの皮革様の積層体が得られるので好ましい。
【0015】
多孔質層(C)に用いられる熱可塑性エラストマーとしては、例えば、無孔質層(B)の構成成分として後述した熱可塑性ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの結晶性の芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ガラス転移温度の低い脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族ポリエステルポリカーボネートなどをソフトセグメントとするポリエステルエラストマー;6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロンなどのポリアミドをハードセグメントとし、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエステルポリエーテルなどをソフトセグメントとするポリアミドエラストマー;ポリスチレンなどをハードセグメントとし、ポリイソプレン、ポリブタジエン、水素添加ポリイソプレン、水素添加ポリブタジエンなどをソフトセグメントとするスチレン系エラストマー;シリコン系エラストマー;塩化ビニル系エラストマー;オレフィン系エラストマー;フッ素系エラストマー;1,2−ポリブタジエン系エラストマー;ウレタン/塩ビ系エラストマー;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸ナトリウム三元共重合体などのエチレン系共重合体;塩素化ポリエチレンなどを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、無孔質層(B)との接着性が優れることから、熱可塑性ポリウレタンを用いるのが好ましい。
【0016】
多孔質層(C)の形成方法としては、例えば、上記した熱可塑性エラストマーに、気泡発生物質や必要に応じて着色剤、酸化防止剤などを添加したものを、押出機を用いて加温加圧下で溶融混練した後に、T−ダイから溶融状態で膜状に押し出して、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面に押し付けて接着することにより、繊維質基体層(A)の表面に多孔質層(C)を形成させる方法、いわゆる溶融製膜法を用いる。
【0017】
気泡発生物質としては、公知の種々の発泡剤を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、アゾジカルボンアミド、4,4−オキシビス(ベンゼンスルフォニルヒドラジン)、p−トルエンスルフォニルヒドラジン、重炭酸ナトリウムなどのようにポリウレタンの分子量低下を引き起こす発泡剤(a)や、ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどのようにポリウレタンに架橋を促進する発泡剤(b)などを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。多孔質層(C)を構成する熱可塑性エラストマーとしてポリウレタンを用いる場合には、発泡剤(a)と発泡剤(b)を併用すると、発泡に伴うポリウレタンの見掛け粘度の低下を押さえるとともに、ポリウレタンの架橋度を適宜調節できるため、機械的性能、物理的性能、化学的性能に優れた、良好な発泡構造物を得ることができるので好ましい。発泡剤の使用量としては、熱可塑性エラストマーに対して0.3〜1.5重量%であるのが好ましく、0.6〜1.0重量%であるのがより好ましい。
【0018】
多孔質層(C)の厚みは、用途により適宜選べばよいが、一般的には、50〜500μmであるのが好ましく、50〜300μmであるのがより好ましい。また、多孔質層(C)の発泡倍率(多孔質層の真の比重÷多孔質層の見掛けの比重)は、1.5〜4倍であるのが好ましい。多孔質層(C)の発泡倍率が上記の範囲の場合には、積層体の層間の剥離強力を低下させることなく、引っ張った際に表面に安っぽい凹凸模様が生じない、高級感ある銀面層付きの皮革様の積層体が得られるので好ましい。
【0019】
多孔質層(C)に含まれる気泡は、好ましくは上記した気体発生物質が気体を発生することにより生じるものである。湿式凝固方法によりポリウレタンを多孔質に凝固させて皮革様の積層体を製造する従来の方法では、ポリウレタン溶液を基体に塗布した後、凝固浴に投入し、ポリウレタンの溶媒と凝固液とを置換して多孔質に凝固させ、さらに該溶媒をポリウレタンの多孔質層から除去しなければならない。溶媒の除去が不十分な場合には、気泡が潰れてしまうため、溶媒を完全に除去するために多くの時間とユーティリティが必要であり、したがって製造ラインの速度を高めることができず、製造コストも高くならざるを得ない。一方、本発明の溶融製膜法では、発泡樹脂層を単に冷却するだけで多孔質層が得られるため、ラインスピードを格段に高めることができ、製造コストを下げることが可能である。
【0020】
無孔質層(B)に用いられる熱可塑性ポリウレタンは、実質的に、高分子ジオール成分、有機ジイソシアネート成分および鎖伸長剤成分から構成される。
【0021】
高分子ジオール成分としては、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリカーボネートジオールなどを挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでもポリエステルジオールを用いるのが好ましい。さらに、必要に応じて、水酸基を3個以上有する高分子ポリオールを少量併用しても良い。
【0022】
上記したポリエステルジオールとしては、ジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体と低分子ジオールとの反応により得られるポリエステルジオール、あるいはラクトンの開環重合により得られるポリエステルジオールのいずれもが使用できる。
【0023】
ポリエステルジオールの製造原料として用いられるジカルボン酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体を挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでもアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸を用いるのが好ましい。さらに必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上の多塩基酸を少量併用してもよい。
【0024】
ポリエステルジオールの製造原料として用いられる低分子ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオールを挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでも、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールなどの脂肪族ジオールを用いるのが好ましい。さらに、必要に応じて、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールを少量併用してもよい。
【0025】
ポリエステルジオールの製造原料として用いられるラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0026】
上記したポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。
【0027】
上記したポリカーボネートジオールは、例えば、低分子ジオールとジアルキルカーボネート、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネートなどのカーボネート化合物との反応により得られる。ポリカーボネートジオールの製造原料である低分子ジオールとしては、ポリエステルジオールの製造原料として先に例示した低分子ジオールを用いることができる。また、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを、アルキレンカーボネートとしてはエチレンカーボネートなどを、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを挙げることができる。
【0028】
上記したポリエステルポリカーボネートジオールは、例えば、低分子ジオール、ジカルボン酸およびカーボネート化合物を同時に反応させることにより得られる。あるいは、あらかじめ上記した方法によりポリエステルジオールおよびポリカーボネートジオールをそれぞれ合成し、次いでそれらをカーボネート化合物と反応させるか、またはジオールおよびジカルボン酸と反応させることによって得られる。
【0029】
高分子ジオールの数平均分子量は、500〜8000であるのが好ましく、700〜5000であるのがより好ましい。なお、本明細書でいう高分子ジオールの数平均分子量は、いずれもJIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0030】
熱可塑性ポリウレタンの製造に用いられる有機ジイソシアネートの種類は特に制限されず、通常の熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から用いられている有機ジイソシアネートのいずれもが使用できるが、分子量500以下の芳香族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートのうちの1種または2種以上が好ましく使用される。有機ジイソシアネートの例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなど挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いるのが好ましい。また、トリフェニルメタントリイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネートを、必要に応じて少量用いることもできる。
【0031】
熱可塑性ポリウレタンの製造に用いられる鎖伸長剤の種類は特に制限されず、通常の熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用できるが、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物を用いるのが好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでも、炭素数2〜10の脂肪族ジオールを用いるのが好ましく、1,4−ブタンジオールを用いるのがより好ましい。
【0032】
鎖伸長剤の使用量は特に制限されず、ポリウレタンに付与すべき硬度などに応じて適宜選択することができるが、通常は、高分子ジオール1モル当たり、0.1〜10モルの割合で使用するのが好ましく、0.3〜7モルの割合で使用するのがより好ましい。
【0033】
熱可塑性ポリウレタンの製造にあたっては、上記した高分子ジオールおよび鎖伸長剤が有している活性水素原子1当量当たり、イソシアネート基当量が0.95〜1.30となるような量で有機ジイソシアネートを使用することが好ましく、0.99〜1.10となるような量で有機ジイソシアネートを使用することがより好ましい。このような割合で熱可塑性ポリウレタンを製造することにより、押出成形性、機械的特性などが優れたものが得られる。
【0034】
高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を用いて熱可塑性ポリウレタンを製造するに当たっては、ウレタン化反応に対して触媒活性を有するスズ系ウレタン化触媒を使用するのが好ましい。スズ系ウレタン化触媒を使用すると、ポリウレタンの分子量が速やかに増大し、各種物性がより良好なポリウレタンが得られる。スズ系ウレタン化触媒としては、例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレートなどのジアルキルスズジアシレート、ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸エトキシブチルエステル)塩などのジアルキルスズビスメルカプトカルボン酸エステル塩などを挙げることができる。これらのスズ系ウレタン化触媒の使用量は、ポリウレタン(即ち、ポリウレタンの製造に用いる高分子ジオール、有機ジイソシアネート、鎖伸長剤などの反応性原料化合物の全重量)に対して、スズ原子換算で0.5〜15ppmであるのが好ましい。
【0035】
熱可塑性ポリウレタンの製造方法は特に制限されず、上記した高分子ジオール、有機ジイソシアネート、鎖伸長剤および必要に応じて他の成分を使用し、公知のウレタン化反応技術を利用して、プレポリマー法およびワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合することが好ましい。
【0036】
熱可塑性ポリウレタンの硬度(JIS A硬度)は、より風合いの優れた皮革様の積層体が得られる点で、50〜95であるのが好ましく、65〜90であるのがより好ましい。さらに、硬度が上記の範囲の熱可塑性ポリウレタンを用いると、積層体の無孔質層(B)とエンボスロールとの粘着性が低下し、無孔質層(B)の表面を高速で型押しすることができ、且つ凸部の角が流れるいわゆるシボ流れが起こりにくいので好ましい。
【0037】
熱可塑性ポリウレタンの対数粘度は、n−ブチルアミンを0.05モル/リットル含有するN,N−ジメチルホルムアミド溶液に、熱可塑性ポリウレタンを濃度0.5g/dlになるように溶解し、30℃で測定した時に、0.85dl/g以上であるのが好ましく、1.00dl/g以上であるのがより好ましい。対数粘度が0.85dl/g以上の熱可塑性ポリウレタンを用いると、機械的特性などがより優れた積層体が得られる。
【0038】
無孔質層(B)に用いられる、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物としては、例えば、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セチン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸などの炭素数11以上の高級脂肪酸と、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリンなどの脂肪族ポリオールとの縮合物を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。高級脂肪酸としては、炭素数20〜35の直鎖飽和脂肪酸がより好ましく、モンタン酸がさらに好ましい。脂肪族ポリオールとしては、分子中に2〜3個の水酸基を有する炭素数2〜6の脂肪族ポリオールが好ましく、エチレングリコール、グリセリンがより好ましい。なお、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物とは、実質的に、脂肪族ポリオールの水酸基の全てが、それぞれ高級脂肪酸によりエステル化された化合物である。
【0039】
無孔質層(B)に用いられる、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物の金属塩とは、脂肪族ポリオール1当量に対して、高級脂肪酸を、好ましくは0.9当量以下、より好ましくは0.5〜0.8当量の割合で反応させることにより、脂肪族ポリオールを部分的にエステル化し、次いで、周期表第I〜III族の金属元素、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどからなる酸化物および水酸化物のうち少なくとも1種で中和することにより得られるものである。好ましい例としては、1,4−ブタンジオールをモンタン酸で部分的にエステル化し、次いで水酸化カルシウムで中和したものを挙げることができる。
【0040】
無孔質層(B)を構成する熱可塑性ポリウレタン組成物は、上記の熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、上記の高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部含有しており、0.5〜3.5重量部含有しているのが好ましい。含有量が0.5重量部未満の場合には、積層体の無孔質層(B)とエンボスロールとの粘着性が十分に低下しないため、無孔質層(B)の表面を高速で型押しすることができず、且つ凸部の角が流れるいわゆるシボ流れが起こりやすい。一方、含有量が5重量部を越える場合には、熱可塑性ポリウレタン組成物が柔軟化し、型押し後、凹凸模様の平坦化が起こりやすい。
【0041】
無孔質層(B)に用いられる熱可塑性ポリウレタン組成物は、上記の熱可塑性ポリウレタンと、上記の高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種とを所望の方法で混合することにより製造することができる。例えば、樹脂材料の混合に通常用いられるような縦型または水平型の混合機を用いて予備混合したのち、一軸または二軸の押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどを用いて、回分式または連続式で加熱下に溶融混練することにより、製造することができる。なお混合時に、安定剤、充填剤、顔料などの添加剤を、本発明の効果が損なわれない範囲内で添加することができる。
【0042】
無孔質層(B)の成形方法としては、例えば、上記した熱可塑性ポリウレタン組成物を、押出機にて加温加圧下で溶融混練した後に、T−ダイから溶融状態で膜状に押し出して、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に無孔質層(B)を形成させる方法、いわゆる溶融製膜法を用いる。無孔質層(B)の厚みは、熱可塑性ポリウレタン組成物の組成や、性能などによっても異なるが、一般には皮革様の風合いを有し、且つ表面強度、接着強力および屈曲性などの物性が優れている点で、10〜400μmであるのが好ましく、30〜200μmであるのがより好ましい。無孔質層(B)の厚みが薄すぎると、得られる積層体の耐表面摩耗性などの表面物性が低下する傾向がある。また、無孔質層(B)の厚みが厚すぎると、得られる積層体の屈曲性が悪くなったり、ゴムライクな風合いとなり、皮革様の風合いが損なわれる傾向がある。無孔質層(B)は、気泡を含有していないことが必要である。気泡を含有している場合には、表面の耐摩耗性、強度、平滑性、色斑などが劣り、本発明の目的とするものが得られない。
【0043】
膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に押し付けて接着する方法としては、例えば、▲1▼あらかじめ熱可塑性ポリウレタン組成物を、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕上に溶融押し出しした後、ロールと該ロールに対向するバックロールとの間を通して押圧する方法、▲2▼熱可塑性ポリウレタン組成物をロール上に溶融押し出しした後、該ロールと対向するバックロールとの間に、繊維質基体〔または繊維質基体層(A)と多孔質層(C)からなる積層体〕を供給して押圧する方法、▲3▼繊維質基体層(A)〔または多孔質層(C)〕とロールとの間に、熱可塑性ポリウレタン組成物を直接溶融押し出しして、対向するバックロールで押圧する方法などを挙げることができるが、押圧時に熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有していれば、いずれの方法であっても特に大きな差はない。
【0044】
無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様を形成する方法としては、例えば、▲1▼膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に賦型ロールで押圧することにより、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に無孔質層(B)を接着すると同時に、無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様を形成する方法、▲2▼膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に押圧ロールで押圧することにより、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に無孔質層(B)を接着した後、さらに、該熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有している内に、賦型ロールで無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様を形成する方法などを挙げることができるが、特に限定されるものでない。生産速度を高める上からは、賦型ロールを用いて接着と賦型を同時に行う▲1▼の方法が好ましい。
【0045】
膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を押圧する際の最適圧力は、一般には、ゲージ圧が5〜15kg/cm2の範囲を目安に、表面の賦型性と層間の接着強力を満足する条件で行えばよい。
【0046】
無孔質層(B)の表面に賦型する際には、実質的に無孔質層(B)の温度が低下し、流動性がなくなってから積層体を賦型ロールから剥離するのが好ましい。無孔質層(B)がまだ流動性を有している内に積層体を賦型ロールから剥離すると、凹凸模様あるいは鏡面模様が崩れ、いわゆるシボ流れを起こし、シャープな凹凸模様あるいは極めて平滑な鏡面模様が得られにくい。このため、賦型ロール内部に冷却液を循環したり、冷風を強制的に送風したりすることにより、賦型ロールの剥離点付近を冷却することが望ましい。
【0047】
上記した賦型ロールとは、ロール表面に鏡面または凹凸模様のエンボス模様を有するエンボスロールであり、また離型性のエンボスシートと通常のロールを組み合わせたものであってもよい。エンボスロールを用いる場合には、容易に所望の深い凹凸感を付与することができる点で好ましく、エンボスシートを用いる場合には、エンボスシートの取り替えのみで簡単に任意のエンボスパターンが選べる点で好ましい。鏡面模様の賦型ロールを用いた場合には、エナメル調の合成皮革が得られるが、場合によってはエナメル調の表面に、さらに凹凸模様のエンボスを付与してもよい。
【0048】
ロールの材質としては、エンボスロールの場合は、通常、金属ロールが用いられる。バックロールとしては金属ロール、弾性体ロールのいずれでもよいが、押圧の安定性の点からは弾性体ロールを用いることが好ましい。
【0049】
本発明の積層体は、必要に応じて、積層体表面の耐摩耗性、汚れ防止性などをさらに向上させるため、あるいはより深みのある色調を付与するために、表面仕上げ剤、着色剤などを無孔質層(B)の表面に塗布してもよい。
【0050】
本発明は、繊維質基体層(A)および無孔質層(B)の2層からなる積層体(I)、並びに繊維質基体層(A)、多孔質層(C)および無孔質層(B)の3層からなる積層体(II)であって、しかもこれら無孔質層(B)および多孔質層(C)はともに溶融製膜法により製造されるものである。したがって、従来技術のように有機溶媒を用いる必要がなく、良好な作業環境下で製造することが可能である。さらに、表面層〔無孔質層(B)〕に特定の熱可塑性ポリウレタン組成物を用いているため、表面層に天然皮革の毛穴シボ品なみの深いシボを有する積層体を高速で製造することができ、従来技術の湿式凝固法や乾式凝固法と比べて格段に製造コストの低い皮革様の積層体を製造することが可能である。さらに、本発明の積層体(II)は、繊維質基体層(A)と無孔質層(B)との間に、多孔質層(C)が存在していることにより、特に、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、従来方法では得られないような高級感を有している。
【0051】
本発明の積層体は、例えば、靴、ブーツ、ベルト、コート、ブレザー、スカート、バッグ、カメラケース、財布等の天然皮革製品の代替素材として有用に用いることができる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例において、耐表面摩耗性、剥離強力は以下の方法により評価した。
【0053】
〔耐表面摩耗性〕
テーバー式ロータリーアブレッサー(吸塵ユニット付き)装置を用い、JIS L1096 6.17.3に準拠して、無孔質層(B)表面の摩耗減少量を測定した。
【0054】
〔剥離強力〕
積層体の無孔質層(B)を支持体に接着し、25℃、65%RHで24時間放置後、180度剥離する方法で測定した。
【0055】
以下の実施例および比較例では、それぞれの化合物を下記の表1に示す略号で標記する。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1
細さ2.5デニールのポリエステル繊維からなる絡合不織布にバインダーとしてポリウレタン弾性体を含浸した、厚さが1.3mm、目付が455g/m2、繊維とポリウレタンとの重量比が8:2の繊維質基体を準備した。
TPU(1)100重量部に対して、モンタン酸とエチレングリコールとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスE」)1重量部を、25mmφの一軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス部温度:180℃)に供給して溶融混練することにより、熱可塑性ポリウレタン組成物を調製した。この熱可塑性ポリウレタン組成物100重量部に、黒顔料ペレット(顔料濃度20%のポリエチレン樹脂)5重量部を配合した組成物を、上記と同様の押出機およびT−ダイ(リップ幅0.5mm、ダイ幅300mm)を用いて、溶融帯温度190〜210℃、ダイス部温度220℃の条件で膜状に溶融押し出しした。上記の繊維質基体を、表面に毛穴シボの凹凸模様を有する金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通し、該繊維質基体とエンボスロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧10kg/cm2でコールドプレスすることにより、表面に毛穴シボを有する皮革様の積層体をラインスピード30m/分で安定に製造することができた(このラインスピードを通常の湿式凝固方法で達成するためには極めて長い凝固浴を必要とする)。この積層体の無孔質層の厚さは100μmであった。得られた積層体は、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、天然皮革の毛穴シボ品なみに深いシボ感を有し、感性の良好なものであった。また、剥離強力は18kg/25mmと高く、摩耗減少量は6mgであった。
【0058】
実施例2
細さ2.5デニールのポリエステル繊維からなる絡合不織布にバインダーとしてポリウレタン弾性体を含浸した、厚さが1.3mm、目付が455g/m2、繊維とポリウレタンとの重量比が8:2の繊維質基体を準備した。
TPU(2)100重量部に黒顔料ペレット(顔料濃度20%のポリエチレン樹脂)5重量部、アゾジカルボンアミド系発泡剤(三協化成(株)製「セルマイクー22」)0.3重量部、ジニトロソペンタメチレンテトラミン系発泡剤(三協化成(株)製「マルクA」)0.6重量部を配合した組成物を、25mmφの一軸押出機に仕込み、溶融帯温度180〜190℃、ダイス部温度180℃、リップ幅0.5mm、ダイ幅300mmの条件で膜状に溶融押し出しした。繊維質基体を、鏡面を有する金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通し、該繊維質基体とエンボスロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧8kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に発泡した厚さ150μmの多孔質層が形成された積層体を得た。多孔質層の発泡倍率(多孔質層の真の比重÷多孔質層の見掛けの比重)は2.1倍であった。
次に、TPU(1)100重量部に対して、モンタン酸とエチレングリコールとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスE」)1重量部を、25mmφの一軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス部温度:180℃)に供給して溶融混練することにより、熱可塑性ポリウレタン組成物を調製した。この熱可塑性ポリウレタン組成物100重量部に、黒顔料ペレット(顔料濃度20%のポリエチレン樹脂)5重量部を配合した組成物を、上記と同様の押出機およびT−ダイ(リップ幅0.5mm、ダイ幅300mm)を用いて、溶融帯温度190〜210℃、ダイス部温度220℃の条件で膜状に溶融押し出しした。上記の方法で得られた繊維質基体層と多孔質層とからなる積層体を、表面に毛穴シボの凹凸模様を有する金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通し、該積層体とエンボスロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧10kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に厚さ150μmの多孔質層を有し、さらに多孔質層表面に厚さ100μmの無孔質層を有する3層からなる積層体を得た。この積層体は、ラインスピード30m/分で安定して製造することができた。得られた積層体の表面強力は強く、外観も天然皮革の毛穴シボ品なみに深いシボ感を有しており、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、感性の極めて良好な、高級感を有するものであった。特に、多孔質層を有しているので、エンボス賦型性と柔軟性に優れていた。得られた積層体の剥離強力は15kg/25mmと高く、摩耗減少量は7mgであった。
【0059】
実施例3
細さ0.007デニールの極細繊維が約300本集束したナイロンの極細繊維束の絡合不織布に、バインダーとしてポリウレタン弾性体を含浸した、厚さが1.3mm、目付が442g/m2、繊維とポリウレタンとの重量比が6:4の繊維質基体を準備した。
TPU(3)100重量部に対して、モンタン酸とグリセリンとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスWE4」)1.5重量部を、25mmφの一軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス部温度:180℃)に供給して溶融混練することにより、熱可塑性ポリウレタン組成物を調製した。この熱可塑性ポリウレタン組成物100重量部に、白顔料ペレット(顔料濃度30%のポリエチレン樹脂)6重量部を配合した組成物を、上記と同様の押出機およびT−ダイ(リップ幅0.5mm、ダイ幅300mm)を用いて、溶融帯温度190〜210℃、ダイス部温度220℃の条件で膜状に溶融押し出しした。上記の繊維質基体を、鏡面を有する金属製ロールと弾性体バックロールとの間に通し、該繊維質基体と鏡面ロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧10kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に厚さ100μmの無孔質層を有する積層体を得た。さらに、この積層体の無孔質層の表面を、表面温度が180℃の毛穴シボ模様のあるエンボスロールにて型押しすることにより、白色の皮革様の積層体を得た。この積層体は、ラインスピード30m/分で安定に製造することができた。得られた積層体は、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、天然皮革の毛穴シボ品なみに深いシボ感を有し、感性の良好なものであった。また、剥離強力は16kg/25mmと高く、摩耗減少量は5mgであった。
【0060】
実施例4
細さ0.007デニールの極細繊維が約300本集束したナイロンの極細繊維束の絡合不織布に、バインダーとしてポリウレタン弾性体を含浸した、厚さが1.3mm、目付が442g/m2、繊維とポリウレタンとの重量比が6:4の繊維質基体を準備した。
TPU(4)100重量部に白顔料ペレット(顔料濃度30%のポリエチレン樹脂)6重量部、アゾジカルボンアミド系発泡剤(三協化成(株)製「セルマイクー22」)0.3重量部、ジニトロソペンタメチレンテトラミン系発泡剤(三協化成(株)製「マルクA」)0.6重量部を配合した組成物を、25mmφの一軸押出機に仕込み、溶融帯温度170〜190℃、ダイス部温度180℃、リップ幅0.5mm、ダイ幅300mmの条件で膜状に溶融押し出しした。繊維質基体を、鏡面を有する金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通し、該繊維質基体とエンボスロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧8kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に発泡した厚さ100μmの多孔質層が形成された積層体を得た。多孔質層の発泡倍率(多孔質層の真の比重÷多孔質層の見掛けの比重)は1.9倍であった。
次に、TPU(3)100重量部に対して、モンタン酸とグリセリンとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスWE4」)1.5重量部を、25mmφの一軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス部温度:180℃)に供給して溶融混練することにより、熱可塑性ポリウレタン組成物を調製した。この熱可塑性ポリウレタン組成物100重量部に、白顔料ペレット(顔料濃度30%のポリエチレン樹脂)6重量部を配合した組成物を、上記と同様の押出機およびT−ダイ(リップ幅0.5mm、ダイ幅300mm)を用いて、溶融帯温度210℃、ダイス部温度220℃の条件で膜状に溶融押し出しした。上記の方法で得られた繊維質基体層と多孔質層とからなる積層体を、鏡面を有する金属製ロールと弾性体バックロールとの間に通し、該積層体と鏡面ロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧10kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に厚さ100μmの多孔質層を有し、その多孔質層表面に厚さ100μmの無孔質層を有する3層からなる積層体を得た。さらに、この積層体の無孔質層の表面を、表面温度が180℃の毛穴シボ模様のあるエンボスロールにて型押しすることにより、白色の皮革様の積層体を得た。この積層体は、ラインスピード30m/分で安定して製造することができた。得られた積層体の表面強力は強く、外観も天然皮革の毛穴シボ品なみに深いシボ感を有しており、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、感性の極めて良好な、高級感を有するものであった。特に、多孔質層を有しているので、エンボス賦型性と柔軟性に優れていた。得られた積層体の剥離強力は12kg/25mmと高く、摩擦減少量は5mgであった。
【0061】
実施例5
モンタン酸とエチレングリコールとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスE」)の代わりに、モンタン酸と1,4−ブタンジオールとの縮合物の一部カルシウム塩(ヘキスト社製「ヘキストワックスOP」)を用いる以外は、実施例2と同様にして皮革様の積層体をラインスピード30m/分で安定して製造することができた。得られた積層体の多孔質層の厚みは100μm、発泡倍率は2.1倍であり、無孔質層の厚みは100μmであった。得られた積層体は、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、感性の極めて良好な、高級感を有するものであった。得られた積層体の剥離強力は13kg/25mmと高く、摩耗減少量は6mgであった。
【0062】
比較例1
モンタン酸とエチレングリコールとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスE」)を使用しないこと以外は、実施例2と同様にして皮革様の積層体をラインスピード30m/分で製造した。得られた積層体の多孔質層の厚みは100μm、発泡倍率は2.0倍であり、無孔質層の厚みは100μmであった。製造速度が速すぎて、積層体とエンボスロールとの剥離性が不十分となり、無孔質層の表面に凹凸模様が十分に賦型されず、凸部の角が流れるシボ流れが起きた。さらに、積層体の一体感も乏しく、硬い風合いとなった。得られた積層体の剥離強力は10kg/25mm、摩耗減少量は5mgであった。
【0063】
比較例2
モンタン酸とグリセリンとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスWE4」)を使用しないこと以外は、実施例4と同様にして皮革様の積層体をラインスピード30m/分で製造した。得られた積層体の多孔質層の厚みは100μm、発泡倍率は1.9倍であり、無孔質層の厚みは100μmであった。製造速度が速すぎて、積層体とエンボスロールとの剥離性が不十分となり、無孔質層の表面に凹凸模様が十分に賦型されず、凸部の角が流れるシボ流れが起きた。さらに、積層体の一体感も乏しく、硬い風合いとなった。得られた積層体の剥離強力は13kg/25mm、摩耗減少量は5mgであった。
【0064】
【発明の効果】
本発明の積層体は、耐表面摩耗性、層間の剥離強力などに優れており、さらに引っ張ったり、折り曲げたりした際に、安っぽい凹凸模様が表面に現れない、高級感のある銀面層付きの皮革様の積層体である。また、本発明の製造方法によれば、従来技術のように有機溶媒を使用する必要がなく、良好な作業環境下で、上記の特徴を有する積層体を高速で製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の積層体(II)を製造することができる代表的な行程図である。
【符号の説明】
1 繊維質基体層(A)
2 多孔質層(C)用の溶融熱可塑性エラストマー
3 多孔質層(C)
4 無孔質層(B)用の溶融熱可塑性ポリウレタン組成物
5 無孔質層(B)
6 賦形ロール
7 バックロール
【発明の属する技術分野】
本発明は繊維質基体層(A)および特定の熱可塑性ポリウレタン組成物からなる無孔質層(B)の2層から構成される積層体;繊維質基体層(A)、熱可塑性エラストマーからなる多孔質層(C)および特定の熱可塑性ポリウレタン組成物からなる無孔質層(B)の3層から構成される積層体;並びにこれらの積層体の製造方法に関する。本発明によれば、耐摩耗性および層間の剥離強力などに優れており、高級感のある銀面層付きの皮革様の積層体が提供される。
【0002】
【従来の技術】
従来、銀面層付の皮革様の積層体の製造方法としては、離型紙上にポリウレタン溶液を塗布し、乾燥してフイルムを形成したあと、該フイルムを編織布または不織布からなる基体の表面に接着剤で貼り合わせ、離型紙を剥離する方法、いわゆる乾式法が一般的に用いられている。また基体の表面に、ポリウレタン溶液を塗布し、湿式凝固法または乾式凝固法にて多孔質のポリウレタン層を形成し、その上に着色剤を含む樹脂溶液を塗布・乾燥して着色層を形成した後、エンボスロールで凹凸模様を形成する方法も一般に用いられている。
【0003】
特開昭53−62803号公報には、基体上に設けられた合成樹脂層の表面上に、膜状に溶融押し出しされた合成樹脂を積層すると共に、離型材を用いてスキン層表面をエンボスすることを特徴とする合成皮革のスキン層の形成方法が記載されている。特開昭62−282078号公報には、金属蒸着層にT−ダイから押し出されたポリウレタン溶融物を積層するシートの製造方法が記載されている。また、特開平2−307986号公報には、合成繊維布帛の表面にシランカップリング剤をあらかじめ付与しておき、しかる後にその表面に熱可塑性樹脂を溶融押し出しして布帛に圧着し、布帛と熱可塑性樹脂層との接着強力を向上させる方法が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これら公知の方法では、作業環境を悪化させる有機溶媒が用いられていたり、引っ張ったり、折り曲げたりした際に表面に安っぽい印象を与える凹凸模様が現れたり、基体層と表面層との剥離が容易に生じたり、あるいは表面層の凝固に長時間を要するため、製造速度を高めることができず、結果的に製造コストが高くならざるを得ないという種々の問題点を有している。さらに、熱可塑性ポリウレタンは粘着性が高いため、エンボスロールを用いて積層体表面の熱可塑性ポリウレタン層に凹凸模様または銀面模様を高速に形成することは困難である。
【0005】
本発明の目的は、耐摩耗性および層間の剥離強力などに優れており、引っ張ったり、折り曲げたりした際に安っぽい凹凸模様が表面に現れない、高級感のある銀面層付きの皮革様の積層体を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、有機溶媒を使用しない良好な作業環境下で、上記の特徴を有する積層体を高速で製造することができる方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、繊維質基体層(A)の表面に、熱可塑性ポリウレタン組成物からなり溶融製膜法により製造された無孔質層(B)を有し、且つ該無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様が存在している積層体であって、前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体〔以下、積層体(I)と称することがある〕に関する。
【0007】
本発明は、繊維質基体層(A)の表面に、熱可塑性エラストマーからなり溶融製膜法により製造された気泡を含有する多孔質層(C)を有し、その上に熱可塑性ポリウレタン組成物からなり溶融製膜法により製造された無孔質層(B)を有し、且つ該無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様が存在している積層体であって、前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体〔以下、積層体(II)と称することがある〕に関する。
【0008】
本発明は、(i)膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面に押し付けて接着することにより、繊維質基体層(A)の表面に無孔質層(B)を形成するとともに、(ii)該熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有している内に、無孔質層(B)の表面を型押しして凹凸模様または鏡面模様を形成する積層体の製造方法であって、(iii)前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体の製造方法に関する。
【0009】
さらに本発明は、(i)膜状に溶融押し出しされた気泡または気泡発生物質を含有する熱可塑性エラストマーを、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面に押し付けて接着することにより、繊維質基体層(A)の表面に多孔質層(C)を形成し、(ii)次に、膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に多孔質層(C)の表面に押し付けて接着することにより、多孔質層(C)の表面に無孔質層(B)を形成するとともに、(iii)該熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有している内に、無孔質層(B)の表面を型押しして凹凸模様または鏡面模様を形成する積層体の製造方法であって、(iv)前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体の製造方法に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる繊維質基体は、適度の厚みと充実感を有し、かつ柔軟な風合いを有するシート状のものであればよく、従来より皮革様の積層体の製造に使用されている各種の繊維質基体を使用することができる。例えば、極細繊維又はその束状繊維、特殊多孔質繊維、通常繊維、天然繊維などからなる絡合不織シート、織編物シート、これらのシートの繊維間にバインダーとしてポリウレタンなどの高分子弾性体が多孔質状又は非多孔質状で含有されている繊維質シート、これらの繊維質シートの表面にさらに高分子弾性体の多孔質被覆層を有する繊維質シートなどが挙げられる。極細繊維束を構成する繊維の細さとしては、好ましくは0.5デニール以下、より好ましくは0.1デニール以下であり、また極細繊維束のトータルデニールとしては、0.5〜10デニールの範囲が好ましい。繊維の種類としては、ナイロン系の繊維やポリエステル系の繊維などを挙げることができる。
【0011】
これらのなかでも、極細繊維束からなる不織布中に高分子弾性体を含有した繊維質シートを使用すると、天然皮革に近い風合いを有する積層体が得られるので好ましい。高分子弾性体としては、従来より皮革様の積層体の製造に使用されている樹脂を用いることができる。例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコン系樹脂やこれらの樹脂の混合物や共重合体などを挙げることができる。これらのなかでも繊維質基体層(A)の表面に積層される樹脂層〔すなわち、熱可塑性ポリウレタン組成物からなる無孔質層(B)または熱可塑性エラストマーからなる多孔質層(C)〕と同種の樹脂を用いると、繊維質基体層(A)とその表面に積層される樹脂層との接着性が向上するため好ましい。繊維質基体を構成する繊維と高分子弾性体との割合は、重量比で40/60〜90/10であるのが好ましい。また、繊維質基体層(A)とその表面に積層される樹脂層との接着性を向上するために、積層される樹脂と親和性の高い樹脂を含有する表面処理剤を、繊維質基体層(A)の表面に塗布することもできる。この場合には、塗布層の厚さは5μm程度を目安とする。塗布層の厚さが厚くなると、得られる積層体の柔軟で一体感のある風合いが損なわれる傾向がある。
【0012】
繊維質基体層(A)の厚みは、得られる積層体の用途などによって任意に選択でき、特に限定されるものではないが、表面に積層される無孔質層(B)または多孔質層(C)の厚みとのバランスの点から、0.3〜3.0mmであることが好ましく、0.5〜2.0mmであることがより好ましい。
【0013】
繊維質基体層(A)の見掛け密度は、柔軟な風合いを得るためには、0.25〜0.5g/cm3であることが好ましく、0.3〜0.35g/cm3であるのがより好ましい。見掛け密度が大きくなると、得られる積層体の腰がなくなったり、ゴムライクな風合いとなる傾向がある。一方、見掛け密度が小さくなると、反発性と腰のない風合いとなり、皮革様の風合いが損なわれる傾向がある。
【0014】
本発明の積層体は、必要に応じて、繊維質基体層(A)と無孔質層(B)との間に、熱可塑性エラストマーからなり溶融製膜法により製造された気泡を含有する多孔質層(C)を形成してもよい。繊維質基体層(A)と無孔質層(B)との間に多孔質層(C)を形成することにより、特に、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が現れず、従来方法では得られないような、より高級感のある銀面層付きの皮革様の積層体が得られるので好ましい。
【0015】
多孔質層(C)に用いられる熱可塑性エラストマーとしては、例えば、無孔質層(B)の構成成分として後述した熱可塑性ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの結晶性の芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ガラス転移温度の低い脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族ポリエステルポリカーボネートなどをソフトセグメントとするポリエステルエラストマー;6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロンなどのポリアミドをハードセグメントとし、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエステルポリエーテルなどをソフトセグメントとするポリアミドエラストマー;ポリスチレンなどをハードセグメントとし、ポリイソプレン、ポリブタジエン、水素添加ポリイソプレン、水素添加ポリブタジエンなどをソフトセグメントとするスチレン系エラストマー;シリコン系エラストマー;塩化ビニル系エラストマー;オレフィン系エラストマー;フッ素系エラストマー;1,2−ポリブタジエン系エラストマー;ウレタン/塩ビ系エラストマー;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸ナトリウム三元共重合体などのエチレン系共重合体;塩素化ポリエチレンなどを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、無孔質層(B)との接着性が優れることから、熱可塑性ポリウレタンを用いるのが好ましい。
【0016】
多孔質層(C)の形成方法としては、例えば、上記した熱可塑性エラストマーに、気泡発生物質や必要に応じて着色剤、酸化防止剤などを添加したものを、押出機を用いて加温加圧下で溶融混練した後に、T−ダイから溶融状態で膜状に押し出して、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面に押し付けて接着することにより、繊維質基体層(A)の表面に多孔質層(C)を形成させる方法、いわゆる溶融製膜法を用いる。
【0017】
気泡発生物質としては、公知の種々の発泡剤を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、アゾジカルボンアミド、4,4−オキシビス(ベンゼンスルフォニルヒドラジン)、p−トルエンスルフォニルヒドラジン、重炭酸ナトリウムなどのようにポリウレタンの分子量低下を引き起こす発泡剤(a)や、ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどのようにポリウレタンに架橋を促進する発泡剤(b)などを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。多孔質層(C)を構成する熱可塑性エラストマーとしてポリウレタンを用いる場合には、発泡剤(a)と発泡剤(b)を併用すると、発泡に伴うポリウレタンの見掛け粘度の低下を押さえるとともに、ポリウレタンの架橋度を適宜調節できるため、機械的性能、物理的性能、化学的性能に優れた、良好な発泡構造物を得ることができるので好ましい。発泡剤の使用量としては、熱可塑性エラストマーに対して0.3〜1.5重量%であるのが好ましく、0.6〜1.0重量%であるのがより好ましい。
【0018】
多孔質層(C)の厚みは、用途により適宜選べばよいが、一般的には、50〜500μmであるのが好ましく、50〜300μmであるのがより好ましい。また、多孔質層(C)の発泡倍率(多孔質層の真の比重÷多孔質層の見掛けの比重)は、1.5〜4倍であるのが好ましい。多孔質層(C)の発泡倍率が上記の範囲の場合には、積層体の層間の剥離強力を低下させることなく、引っ張った際に表面に安っぽい凹凸模様が生じない、高級感ある銀面層付きの皮革様の積層体が得られるので好ましい。
【0019】
多孔質層(C)に含まれる気泡は、好ましくは上記した気体発生物質が気体を発生することにより生じるものである。湿式凝固方法によりポリウレタンを多孔質に凝固させて皮革様の積層体を製造する従来の方法では、ポリウレタン溶液を基体に塗布した後、凝固浴に投入し、ポリウレタンの溶媒と凝固液とを置換して多孔質に凝固させ、さらに該溶媒をポリウレタンの多孔質層から除去しなければならない。溶媒の除去が不十分な場合には、気泡が潰れてしまうため、溶媒を完全に除去するために多くの時間とユーティリティが必要であり、したがって製造ラインの速度を高めることができず、製造コストも高くならざるを得ない。一方、本発明の溶融製膜法では、発泡樹脂層を単に冷却するだけで多孔質層が得られるため、ラインスピードを格段に高めることができ、製造コストを下げることが可能である。
【0020】
無孔質層(B)に用いられる熱可塑性ポリウレタンは、実質的に、高分子ジオール成分、有機ジイソシアネート成分および鎖伸長剤成分から構成される。
【0021】
高分子ジオール成分としては、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリカーボネートジオールなどを挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでもポリエステルジオールを用いるのが好ましい。さらに、必要に応じて、水酸基を3個以上有する高分子ポリオールを少量併用しても良い。
【0022】
上記したポリエステルジオールとしては、ジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体と低分子ジオールとの反応により得られるポリエステルジオール、あるいはラクトンの開環重合により得られるポリエステルジオールのいずれもが使用できる。
【0023】
ポリエステルジオールの製造原料として用いられるジカルボン酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体を挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでもアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸を用いるのが好ましい。さらに必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上の多塩基酸を少量併用してもよい。
【0024】
ポリエステルジオールの製造原料として用いられる低分子ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオールを挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでも、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールなどの脂肪族ジオールを用いるのが好ましい。さらに、必要に応じて、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールを少量併用してもよい。
【0025】
ポリエステルジオールの製造原料として用いられるラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0026】
上記したポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。
【0027】
上記したポリカーボネートジオールは、例えば、低分子ジオールとジアルキルカーボネート、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネートなどのカーボネート化合物との反応により得られる。ポリカーボネートジオールの製造原料である低分子ジオールとしては、ポリエステルジオールの製造原料として先に例示した低分子ジオールを用いることができる。また、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを、アルキレンカーボネートとしてはエチレンカーボネートなどを、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを挙げることができる。
【0028】
上記したポリエステルポリカーボネートジオールは、例えば、低分子ジオール、ジカルボン酸およびカーボネート化合物を同時に反応させることにより得られる。あるいは、あらかじめ上記した方法によりポリエステルジオールおよびポリカーボネートジオールをそれぞれ合成し、次いでそれらをカーボネート化合物と反応させるか、またはジオールおよびジカルボン酸と反応させることによって得られる。
【0029】
高分子ジオールの数平均分子量は、500〜8000であるのが好ましく、700〜5000であるのがより好ましい。なお、本明細書でいう高分子ジオールの数平均分子量は、いずれもJIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0030】
熱可塑性ポリウレタンの製造に用いられる有機ジイソシアネートの種類は特に制限されず、通常の熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から用いられている有機ジイソシアネートのいずれもが使用できるが、分子量500以下の芳香族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートのうちの1種または2種以上が好ましく使用される。有機ジイソシアネートの例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなど挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いるのが好ましい。また、トリフェニルメタントリイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネートを、必要に応じて少量用いることもできる。
【0031】
熱可塑性ポリウレタンの製造に用いられる鎖伸長剤の種類は特に制限されず、通常の熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用できるが、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物を用いるのが好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらのなかでも、炭素数2〜10の脂肪族ジオールを用いるのが好ましく、1,4−ブタンジオールを用いるのがより好ましい。
【0032】
鎖伸長剤の使用量は特に制限されず、ポリウレタンに付与すべき硬度などに応じて適宜選択することができるが、通常は、高分子ジオール1モル当たり、0.1〜10モルの割合で使用するのが好ましく、0.3〜7モルの割合で使用するのがより好ましい。
【0033】
熱可塑性ポリウレタンの製造にあたっては、上記した高分子ジオールおよび鎖伸長剤が有している活性水素原子1当量当たり、イソシアネート基当量が0.95〜1.30となるような量で有機ジイソシアネートを使用することが好ましく、0.99〜1.10となるような量で有機ジイソシアネートを使用することがより好ましい。このような割合で熱可塑性ポリウレタンを製造することにより、押出成形性、機械的特性などが優れたものが得られる。
【0034】
高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を用いて熱可塑性ポリウレタンを製造するに当たっては、ウレタン化反応に対して触媒活性を有するスズ系ウレタン化触媒を使用するのが好ましい。スズ系ウレタン化触媒を使用すると、ポリウレタンの分子量が速やかに増大し、各種物性がより良好なポリウレタンが得られる。スズ系ウレタン化触媒としては、例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレートなどのジアルキルスズジアシレート、ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸エトキシブチルエステル)塩などのジアルキルスズビスメルカプトカルボン酸エステル塩などを挙げることができる。これらのスズ系ウレタン化触媒の使用量は、ポリウレタン(即ち、ポリウレタンの製造に用いる高分子ジオール、有機ジイソシアネート、鎖伸長剤などの反応性原料化合物の全重量)に対して、スズ原子換算で0.5〜15ppmであるのが好ましい。
【0035】
熱可塑性ポリウレタンの製造方法は特に制限されず、上記した高分子ジオール、有機ジイソシアネート、鎖伸長剤および必要に応じて他の成分を使用し、公知のウレタン化反応技術を利用して、プレポリマー法およびワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合することが好ましい。
【0036】
熱可塑性ポリウレタンの硬度(JIS A硬度)は、より風合いの優れた皮革様の積層体が得られる点で、50〜95であるのが好ましく、65〜90であるのがより好ましい。さらに、硬度が上記の範囲の熱可塑性ポリウレタンを用いると、積層体の無孔質層(B)とエンボスロールとの粘着性が低下し、無孔質層(B)の表面を高速で型押しすることができ、且つ凸部の角が流れるいわゆるシボ流れが起こりにくいので好ましい。
【0037】
熱可塑性ポリウレタンの対数粘度は、n−ブチルアミンを0.05モル/リットル含有するN,N−ジメチルホルムアミド溶液に、熱可塑性ポリウレタンを濃度0.5g/dlになるように溶解し、30℃で測定した時に、0.85dl/g以上であるのが好ましく、1.00dl/g以上であるのがより好ましい。対数粘度が0.85dl/g以上の熱可塑性ポリウレタンを用いると、機械的特性などがより優れた積層体が得られる。
【0038】
無孔質層(B)に用いられる、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物としては、例えば、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セチン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸などの炭素数11以上の高級脂肪酸と、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリンなどの脂肪族ポリオールとの縮合物を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。高級脂肪酸としては、炭素数20〜35の直鎖飽和脂肪酸がより好ましく、モンタン酸がさらに好ましい。脂肪族ポリオールとしては、分子中に2〜3個の水酸基を有する炭素数2〜6の脂肪族ポリオールが好ましく、エチレングリコール、グリセリンがより好ましい。なお、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物とは、実質的に、脂肪族ポリオールの水酸基の全てが、それぞれ高級脂肪酸によりエステル化された化合物である。
【0039】
無孔質層(B)に用いられる、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物の金属塩とは、脂肪族ポリオール1当量に対して、高級脂肪酸を、好ましくは0.9当量以下、より好ましくは0.5〜0.8当量の割合で反応させることにより、脂肪族ポリオールを部分的にエステル化し、次いで、周期表第I〜III族の金属元素、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどからなる酸化物および水酸化物のうち少なくとも1種で中和することにより得られるものである。好ましい例としては、1,4−ブタンジオールをモンタン酸で部分的にエステル化し、次いで水酸化カルシウムで中和したものを挙げることができる。
【0040】
無孔質層(B)を構成する熱可塑性ポリウレタン組成物は、上記の熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、上記の高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部含有しており、0.5〜3.5重量部含有しているのが好ましい。含有量が0.5重量部未満の場合には、積層体の無孔質層(B)とエンボスロールとの粘着性が十分に低下しないため、無孔質層(B)の表面を高速で型押しすることができず、且つ凸部の角が流れるいわゆるシボ流れが起こりやすい。一方、含有量が5重量部を越える場合には、熱可塑性ポリウレタン組成物が柔軟化し、型押し後、凹凸模様の平坦化が起こりやすい。
【0041】
無孔質層(B)に用いられる熱可塑性ポリウレタン組成物は、上記の熱可塑性ポリウレタンと、上記の高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種とを所望の方法で混合することにより製造することができる。例えば、樹脂材料の混合に通常用いられるような縦型または水平型の混合機を用いて予備混合したのち、一軸または二軸の押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどを用いて、回分式または連続式で加熱下に溶融混練することにより、製造することができる。なお混合時に、安定剤、充填剤、顔料などの添加剤を、本発明の効果が損なわれない範囲内で添加することができる。
【0042】
無孔質層(B)の成形方法としては、例えば、上記した熱可塑性ポリウレタン組成物を、押出機にて加温加圧下で溶融混練した後に、T−ダイから溶融状態で膜状に押し出して、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に無孔質層(B)を形成させる方法、いわゆる溶融製膜法を用いる。無孔質層(B)の厚みは、熱可塑性ポリウレタン組成物の組成や、性能などによっても異なるが、一般には皮革様の風合いを有し、且つ表面強度、接着強力および屈曲性などの物性が優れている点で、10〜400μmであるのが好ましく、30〜200μmであるのがより好ましい。無孔質層(B)の厚みが薄すぎると、得られる積層体の耐表面摩耗性などの表面物性が低下する傾向がある。また、無孔質層(B)の厚みが厚すぎると、得られる積層体の屈曲性が悪くなったり、ゴムライクな風合いとなり、皮革様の風合いが損なわれる傾向がある。無孔質層(B)は、気泡を含有していないことが必要である。気泡を含有している場合には、表面の耐摩耗性、強度、平滑性、色斑などが劣り、本発明の目的とするものが得られない。
【0043】
膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に押し付けて接着する方法としては、例えば、▲1▼あらかじめ熱可塑性ポリウレタン組成物を、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕上に溶融押し出しした後、ロールと該ロールに対向するバックロールとの間を通して押圧する方法、▲2▼熱可塑性ポリウレタン組成物をロール上に溶融押し出しした後、該ロールと対向するバックロールとの間に、繊維質基体〔または繊維質基体層(A)と多孔質層(C)からなる積層体〕を供給して押圧する方法、▲3▼繊維質基体層(A)〔または多孔質層(C)〕とロールとの間に、熱可塑性ポリウレタン組成物を直接溶融押し出しして、対向するバックロールで押圧する方法などを挙げることができるが、押圧時に熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有していれば、いずれの方法であっても特に大きな差はない。
【0044】
無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様を形成する方法としては、例えば、▲1▼膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に賦型ロールで押圧することにより、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に無孔質層(B)を接着すると同時に、無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様を形成する方法、▲2▼膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に押圧ロールで押圧することにより、繊維質基体層(A)の表面〔または多孔質層(C)の表面〕に無孔質層(B)を接着した後、さらに、該熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有している内に、賦型ロールで無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様を形成する方法などを挙げることができるが、特に限定されるものでない。生産速度を高める上からは、賦型ロールを用いて接着と賦型を同時に行う▲1▼の方法が好ましい。
【0045】
膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を押圧する際の最適圧力は、一般には、ゲージ圧が5〜15kg/cm2の範囲を目安に、表面の賦型性と層間の接着強力を満足する条件で行えばよい。
【0046】
無孔質層(B)の表面に賦型する際には、実質的に無孔質層(B)の温度が低下し、流動性がなくなってから積層体を賦型ロールから剥離するのが好ましい。無孔質層(B)がまだ流動性を有している内に積層体を賦型ロールから剥離すると、凹凸模様あるいは鏡面模様が崩れ、いわゆるシボ流れを起こし、シャープな凹凸模様あるいは極めて平滑な鏡面模様が得られにくい。このため、賦型ロール内部に冷却液を循環したり、冷風を強制的に送風したりすることにより、賦型ロールの剥離点付近を冷却することが望ましい。
【0047】
上記した賦型ロールとは、ロール表面に鏡面または凹凸模様のエンボス模様を有するエンボスロールであり、また離型性のエンボスシートと通常のロールを組み合わせたものであってもよい。エンボスロールを用いる場合には、容易に所望の深い凹凸感を付与することができる点で好ましく、エンボスシートを用いる場合には、エンボスシートの取り替えのみで簡単に任意のエンボスパターンが選べる点で好ましい。鏡面模様の賦型ロールを用いた場合には、エナメル調の合成皮革が得られるが、場合によってはエナメル調の表面に、さらに凹凸模様のエンボスを付与してもよい。
【0048】
ロールの材質としては、エンボスロールの場合は、通常、金属ロールが用いられる。バックロールとしては金属ロール、弾性体ロールのいずれでもよいが、押圧の安定性の点からは弾性体ロールを用いることが好ましい。
【0049】
本発明の積層体は、必要に応じて、積層体表面の耐摩耗性、汚れ防止性などをさらに向上させるため、あるいはより深みのある色調を付与するために、表面仕上げ剤、着色剤などを無孔質層(B)の表面に塗布してもよい。
【0050】
本発明は、繊維質基体層(A)および無孔質層(B)の2層からなる積層体(I)、並びに繊維質基体層(A)、多孔質層(C)および無孔質層(B)の3層からなる積層体(II)であって、しかもこれら無孔質層(B)および多孔質層(C)はともに溶融製膜法により製造されるものである。したがって、従来技術のように有機溶媒を用いる必要がなく、良好な作業環境下で製造することが可能である。さらに、表面層〔無孔質層(B)〕に特定の熱可塑性ポリウレタン組成物を用いているため、表面層に天然皮革の毛穴シボ品なみの深いシボを有する積層体を高速で製造することができ、従来技術の湿式凝固法や乾式凝固法と比べて格段に製造コストの低い皮革様の積層体を製造することが可能である。さらに、本発明の積層体(II)は、繊維質基体層(A)と無孔質層(B)との間に、多孔質層(C)が存在していることにより、特に、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、従来方法では得られないような高級感を有している。
【0051】
本発明の積層体は、例えば、靴、ブーツ、ベルト、コート、ブレザー、スカート、バッグ、カメラケース、財布等の天然皮革製品の代替素材として有用に用いることができる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例において、耐表面摩耗性、剥離強力は以下の方法により評価した。
【0053】
〔耐表面摩耗性〕
テーバー式ロータリーアブレッサー(吸塵ユニット付き)装置を用い、JIS L1096 6.17.3に準拠して、無孔質層(B)表面の摩耗減少量を測定した。
【0054】
〔剥離強力〕
積層体の無孔質層(B)を支持体に接着し、25℃、65%RHで24時間放置後、180度剥離する方法で測定した。
【0055】
以下の実施例および比較例では、それぞれの化合物を下記の表1に示す略号で標記する。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1
細さ2.5デニールのポリエステル繊維からなる絡合不織布にバインダーとしてポリウレタン弾性体を含浸した、厚さが1.3mm、目付が455g/m2、繊維とポリウレタンとの重量比が8:2の繊維質基体を準備した。
TPU(1)100重量部に対して、モンタン酸とエチレングリコールとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスE」)1重量部を、25mmφの一軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス部温度:180℃)に供給して溶融混練することにより、熱可塑性ポリウレタン組成物を調製した。この熱可塑性ポリウレタン組成物100重量部に、黒顔料ペレット(顔料濃度20%のポリエチレン樹脂)5重量部を配合した組成物を、上記と同様の押出機およびT−ダイ(リップ幅0.5mm、ダイ幅300mm)を用いて、溶融帯温度190〜210℃、ダイス部温度220℃の条件で膜状に溶融押し出しした。上記の繊維質基体を、表面に毛穴シボの凹凸模様を有する金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通し、該繊維質基体とエンボスロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧10kg/cm2でコールドプレスすることにより、表面に毛穴シボを有する皮革様の積層体をラインスピード30m/分で安定に製造することができた(このラインスピードを通常の湿式凝固方法で達成するためには極めて長い凝固浴を必要とする)。この積層体の無孔質層の厚さは100μmであった。得られた積層体は、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、天然皮革の毛穴シボ品なみに深いシボ感を有し、感性の良好なものであった。また、剥離強力は18kg/25mmと高く、摩耗減少量は6mgであった。
【0058】
実施例2
細さ2.5デニールのポリエステル繊維からなる絡合不織布にバインダーとしてポリウレタン弾性体を含浸した、厚さが1.3mm、目付が455g/m2、繊維とポリウレタンとの重量比が8:2の繊維質基体を準備した。
TPU(2)100重量部に黒顔料ペレット(顔料濃度20%のポリエチレン樹脂)5重量部、アゾジカルボンアミド系発泡剤(三協化成(株)製「セルマイクー22」)0.3重量部、ジニトロソペンタメチレンテトラミン系発泡剤(三協化成(株)製「マルクA」)0.6重量部を配合した組成物を、25mmφの一軸押出機に仕込み、溶融帯温度180〜190℃、ダイス部温度180℃、リップ幅0.5mm、ダイ幅300mmの条件で膜状に溶融押し出しした。繊維質基体を、鏡面を有する金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通し、該繊維質基体とエンボスロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧8kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に発泡した厚さ150μmの多孔質層が形成された積層体を得た。多孔質層の発泡倍率(多孔質層の真の比重÷多孔質層の見掛けの比重)は2.1倍であった。
次に、TPU(1)100重量部に対して、モンタン酸とエチレングリコールとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスE」)1重量部を、25mmφの一軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス部温度:180℃)に供給して溶融混練することにより、熱可塑性ポリウレタン組成物を調製した。この熱可塑性ポリウレタン組成物100重量部に、黒顔料ペレット(顔料濃度20%のポリエチレン樹脂)5重量部を配合した組成物を、上記と同様の押出機およびT−ダイ(リップ幅0.5mm、ダイ幅300mm)を用いて、溶融帯温度190〜210℃、ダイス部温度220℃の条件で膜状に溶融押し出しした。上記の方法で得られた繊維質基体層と多孔質層とからなる積層体を、表面に毛穴シボの凹凸模様を有する金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通し、該積層体とエンボスロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧10kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に厚さ150μmの多孔質層を有し、さらに多孔質層表面に厚さ100μmの無孔質層を有する3層からなる積層体を得た。この積層体は、ラインスピード30m/分で安定して製造することができた。得られた積層体の表面強力は強く、外観も天然皮革の毛穴シボ品なみに深いシボ感を有しており、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、感性の極めて良好な、高級感を有するものであった。特に、多孔質層を有しているので、エンボス賦型性と柔軟性に優れていた。得られた積層体の剥離強力は15kg/25mmと高く、摩耗減少量は7mgであった。
【0059】
実施例3
細さ0.007デニールの極細繊維が約300本集束したナイロンの極細繊維束の絡合不織布に、バインダーとしてポリウレタン弾性体を含浸した、厚さが1.3mm、目付が442g/m2、繊維とポリウレタンとの重量比が6:4の繊維質基体を準備した。
TPU(3)100重量部に対して、モンタン酸とグリセリンとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスWE4」)1.5重量部を、25mmφの一軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス部温度:180℃)に供給して溶融混練することにより、熱可塑性ポリウレタン組成物を調製した。この熱可塑性ポリウレタン組成物100重量部に、白顔料ペレット(顔料濃度30%のポリエチレン樹脂)6重量部を配合した組成物を、上記と同様の押出機およびT−ダイ(リップ幅0.5mm、ダイ幅300mm)を用いて、溶融帯温度190〜210℃、ダイス部温度220℃の条件で膜状に溶融押し出しした。上記の繊維質基体を、鏡面を有する金属製ロールと弾性体バックロールとの間に通し、該繊維質基体と鏡面ロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧10kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に厚さ100μmの無孔質層を有する積層体を得た。さらに、この積層体の無孔質層の表面を、表面温度が180℃の毛穴シボ模様のあるエンボスロールにて型押しすることにより、白色の皮革様の積層体を得た。この積層体は、ラインスピード30m/分で安定に製造することができた。得られた積層体は、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、天然皮革の毛穴シボ品なみに深いシボ感を有し、感性の良好なものであった。また、剥離強力は16kg/25mmと高く、摩耗減少量は5mgであった。
【0060】
実施例4
細さ0.007デニールの極細繊維が約300本集束したナイロンの極細繊維束の絡合不織布に、バインダーとしてポリウレタン弾性体を含浸した、厚さが1.3mm、目付が442g/m2、繊維とポリウレタンとの重量比が6:4の繊維質基体を準備した。
TPU(4)100重量部に白顔料ペレット(顔料濃度30%のポリエチレン樹脂)6重量部、アゾジカルボンアミド系発泡剤(三協化成(株)製「セルマイクー22」)0.3重量部、ジニトロソペンタメチレンテトラミン系発泡剤(三協化成(株)製「マルクA」)0.6重量部を配合した組成物を、25mmφの一軸押出機に仕込み、溶融帯温度170〜190℃、ダイス部温度180℃、リップ幅0.5mm、ダイ幅300mmの条件で膜状に溶融押し出しした。繊維質基体を、鏡面を有する金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通し、該繊維質基体とエンボスロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧8kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に発泡した厚さ100μmの多孔質層が形成された積層体を得た。多孔質層の発泡倍率(多孔質層の真の比重÷多孔質層の見掛けの比重)は1.9倍であった。
次に、TPU(3)100重量部に対して、モンタン酸とグリセリンとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスWE4」)1.5重量部を、25mmφの一軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス部温度:180℃)に供給して溶融混練することにより、熱可塑性ポリウレタン組成物を調製した。この熱可塑性ポリウレタン組成物100重量部に、白顔料ペレット(顔料濃度30%のポリエチレン樹脂)6重量部を配合した組成物を、上記と同様の押出機およびT−ダイ(リップ幅0.5mm、ダイ幅300mm)を用いて、溶融帯温度210℃、ダイス部温度220℃の条件で膜状に溶融押し出しした。上記の方法で得られた繊維質基体層と多孔質層とからなる積層体を、鏡面を有する金属製ロールと弾性体バックロールとの間に通し、該積層体と鏡面ロールとの間に、流動性を有する該溶融押し出し物を供給して、ゲージ圧10kg/cm2でコールドプレスすることにより、繊維質基体層の表面に厚さ100μmの多孔質層を有し、その多孔質層表面に厚さ100μmの無孔質層を有する3層からなる積層体を得た。さらに、この積層体の無孔質層の表面を、表面温度が180℃の毛穴シボ模様のあるエンボスロールにて型押しすることにより、白色の皮革様の積層体を得た。この積層体は、ラインスピード30m/分で安定して製造することができた。得られた積層体の表面強力は強く、外観も天然皮革の毛穴シボ品なみに深いシボ感を有しており、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、感性の極めて良好な、高級感を有するものであった。特に、多孔質層を有しているので、エンボス賦型性と柔軟性に優れていた。得られた積層体の剥離強力は12kg/25mmと高く、摩擦減少量は5mgであった。
【0061】
実施例5
モンタン酸とエチレングリコールとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスE」)の代わりに、モンタン酸と1,4−ブタンジオールとの縮合物の一部カルシウム塩(ヘキスト社製「ヘキストワックスOP」)を用いる以外は、実施例2と同様にして皮革様の積層体をラインスピード30m/分で安定して製造することができた。得られた積層体の多孔質層の厚みは100μm、発泡倍率は2.1倍であり、無孔質層の厚みは100μmであった。得られた積層体は、引っ張ったり、折り曲げたりした際に、表面に安っぽい凹凸模様が生じず、感性の極めて良好な、高級感を有するものであった。得られた積層体の剥離強力は13kg/25mmと高く、摩耗減少量は6mgであった。
【0062】
比較例1
モンタン酸とエチレングリコールとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスE」)を使用しないこと以外は、実施例2と同様にして皮革様の積層体をラインスピード30m/分で製造した。得られた積層体の多孔質層の厚みは100μm、発泡倍率は2.0倍であり、無孔質層の厚みは100μmであった。製造速度が速すぎて、積層体とエンボスロールとの剥離性が不十分となり、無孔質層の表面に凹凸模様が十分に賦型されず、凸部の角が流れるシボ流れが起きた。さらに、積層体の一体感も乏しく、硬い風合いとなった。得られた積層体の剥離強力は10kg/25mm、摩耗減少量は5mgであった。
【0063】
比較例2
モンタン酸とグリセリンとの縮合物(ヘキスト社製「ヘキストワックスWE4」)を使用しないこと以外は、実施例4と同様にして皮革様の積層体をラインスピード30m/分で製造した。得られた積層体の多孔質層の厚みは100μm、発泡倍率は1.9倍であり、無孔質層の厚みは100μmであった。製造速度が速すぎて、積層体とエンボスロールとの剥離性が不十分となり、無孔質層の表面に凹凸模様が十分に賦型されず、凸部の角が流れるシボ流れが起きた。さらに、積層体の一体感も乏しく、硬い風合いとなった。得られた積層体の剥離強力は13kg/25mm、摩耗減少量は5mgであった。
【0064】
【発明の効果】
本発明の積層体は、耐表面摩耗性、層間の剥離強力などに優れており、さらに引っ張ったり、折り曲げたりした際に、安っぽい凹凸模様が表面に現れない、高級感のある銀面層付きの皮革様の積層体である。また、本発明の製造方法によれば、従来技術のように有機溶媒を使用する必要がなく、良好な作業環境下で、上記の特徴を有する積層体を高速で製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の積層体(II)を製造することができる代表的な行程図である。
【符号の説明】
1 繊維質基体層(A)
2 多孔質層(C)用の溶融熱可塑性エラストマー
3 多孔質層(C)
4 無孔質層(B)用の溶融熱可塑性ポリウレタン組成物
5 無孔質層(B)
6 賦形ロール
7 バックロール
Claims (4)
- 繊維質基体層(A)の表面に、熱可塑性ポリウレタン組成物からなり溶融製膜法により製造された無孔質層(B)を有し、且つ該無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様が存在している積層体であって、前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体。
- 繊維質基体層(A)の表面に、熱可塑性エラストマーからなり溶融製膜法により製造された気泡を含有する多孔質層(C)を有し、その上に熱可塑性ポリウレタン組成物からなり溶融製膜法により製造された無孔質層(B)を有し、且つ該無孔質層(B)の表面に凹凸模様または鏡面模様が存在している積層体であって、前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体。
- (i)膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面に押し付けて接着することにより、繊維質基体層(A)の表面に無孔質層(B)を形成するとともに、(ii)該熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有している内に、無孔質層(B)の表面を型押しして凹凸模様または鏡面模様を形成する積層体の製造方法であって、(iii)前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体の製造方法。
- (i)膜状に溶融押し出しされた気泡または気泡発生物質を含有する熱可塑性エラストマーを、流動性を有している内に繊維質基体層(A)の表面に押し付けて接着することにより、繊維質基体層(A)の表面に多孔質層(C)を形成し、(ii)次に、膜状に溶融押し出しされた熱可塑性ポリウレタン組成物を、流動性を有している内に多孔質層(C)の表面に押し付けて接着することにより、多孔質層(C)の表面に無孔質層(B)を形成するとともに、(iii)該熱可塑性ポリウレタン組成物が流動性を有している内に、無孔質層(B)の表面を型押しして凹凸模様または鏡面模様を形成する積層体の製造方法であって、(iv)前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、高級脂肪酸と脂肪族ポリオールとの縮合物および該縮合物の金属塩のうち少なくとも1種を0.5〜5重量部配合してなる熱可塑性ポリウレタン組成物であることを特徴とする積層体の製造方法。
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