JP4522313B2 - 合成皮革用の積層体 - Google Patents

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Description

本発明は合成皮革用の積層体に関する。より詳細には、本発明は、熱可塑性ポリウレタンと共に付加重合系部分と熱可塑性ポリウレタン部分とがブロック状および/またはグラフト状に結合した特定の共重合体を含有する熱可塑性重合体組成物からなる層と、繊維質基体層を有する合成皮革用の積層体に関する。本発明の合成皮革用の積層体は、優れた加工性と風合いを兼ね備え、しかも柔軟で、引張強度などの力学的性能にも優れるため、それらの特性を活かして、靴、鞄、袋物、ベルト、手袋、衣料、家具、自動車等の車両用シートなどの広範な用途に有効に使用することができる。
熱可塑性ポリウレタンを各種基材に積層した積層体は、ポリウレタン層が有する柔軟性、弾性、耐摩耗性などの特長を活かして種々の分野で汎用されている。中でも、繊維質基体層の上に熱可塑性ポリウレタン層を積層してなるシート状物は、天然皮革様の外観、触感、風合いなどを有していることから、合成皮革又は人工皮革として、履物、衣料分野、袋物や鞄などの用途で汎用されている。
前記合成皮革様のシート状物は、従来、熱可塑性ポリウレタンを溶解した溶液を繊維質基体に塗布した後に熱可塑性ポリウレタンの非溶媒や水などで熱可塑性ポリウレタンを析出させて繊維質基体の表面に熱可塑性ポリウレタン層を形成する方法や、熱可塑性ポリウレタンを溶剤に溶解した溶液を繊維質基体上に塗布した後に溶剤を熱風乾燥などによって除去して熱可塑性ポリウレタン層を表面に形成させる方法などによって製造されてきた。
しかし、上記した従来汎用の方法は、有機溶剤を用いることから、安全面、衛生面などで問題があり、かかる点から、有機溶剤を用いずに上記した皮革様シートを製造することが色々試みられるようになっており、代表的には、熱可塑性ポリウレタンを含む組成物を溶融押出成形してフィルムを製造し、このフィルムを加熱下に繊維質基体と積層させて皮革様シート状物を製造する方法が挙げられる。
溶融成形技術によるそのような従来技術としては、具体的には、(1)芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物をエラストマーにグラフト重合させて得られる熱可塑性グラフトポリマー(ABS樹脂、AES樹脂など)を配合した熱可塑性ポリウレタン組成物を繊維質基体の表面に溶融押出して皮革様の積層体としたもの(特許文献1参照)、(2)高級脂肪酸と脂肪族ポリオールの縮合物又はその金属塩を配合した熱可塑性ポリウレタン組成物からなる無孔質層を繊維質基体上に溶融製膜して皮革様の積層体としたもの(特許文献2参照)、(3)フッ素系樹脂及び/又はシリコーン系樹脂を配合した熱可塑性ポリウレタン組成物を繊維質基体上に溶融製膜して皮革様の積層体としたもの(特許文献3参照)、(4)数平均分子量が20万以上の(メタ)アクリル酸エステル系重合体と熱分解型発泡剤を配合した熱可塑性ポリウレタン組成物を繊維質基体上に溶融発泡させて積層体としたもの(特許文献4参照)、(5)(水添)芳香族ビニル化合物−共役ジエン系ブロック共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物−共役ジエン系ブロック共重合体からなる付加重合系ブロックとポリウレタンブロックを有するブロック共重合体、熱可塑性ポリウレタン、パラフィン系オイル、数平均分子量が10万以上の(メタ)アクリル酸エステル系重合体及び発泡剤を含有する発泡性熱可塑性重合体組成物を繊維質基材上に溶融押出発泡させて製造した皮革様積層体(特許文献5参照)を挙げることができる。
本発明者らが上記した従来技術を踏まえて検討を重ねたところ、熱可塑性ポリウレタン組成物層と繊維質基体層を有する皮革様の積層体では、製造した積層体をロール状に巻き取ると、ブロッキングを生じて巻き戻しが困難になる場合があり、また熱可塑性ポリウレタン組成物層に破損や荒れなどを生ずることがあり、ブロッキング(膠着)などを生ずることなく、更には熱可塑性ポリウレタン組成物層に破損や表面荒れなどのない、高品質の皮革用積層体を生産性良く製造するためには、熱可塑性ポリウレタン組成物の組成や物性面での更なる改良が必要であることが判明した。特に、数平均分子量が10万以上の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は溶融流動性が低いため、該(メタ)アクリル酸エステル系重合体を配合した熱可塑性ポリウレタン組成物には、更なる溶融押出成形性の改良の余地があった。かかる点から、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を熱可塑性ポリウレタンに配合しなくても、品質に優れる皮革様の積層体を生産性良く製造することのできる技術の開発が望まれている。
特開平9−169083号公報 特開平9−248891号公報 特開平9−300546号公報 特開平10−1560号公報 特開2004−43810号公報
本発明の目的は、良好な物性を有し、熱可塑性ポリウレタン組成物層の破損や表面荒れなどがなく外観に優れ、耐ブロッキング性で積層体(積層シート)を巻き取ったときに巻き戻し等が容易で扱い性に優れ、しかも生産性良く製造することのできる、熱可塑性ポリウレタン組成物層と繊維質基体層を有する合成皮革用の積層体を提供することである。
さらに、本発明の目的は、数平均分子量が10万以上の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を使用せずに、柔軟性で良好な風合を保ち、耐摩擦溶融性、耐摩耗性、耐ブリード白化性、成形性に優れ、しかも引張強度などの力学的性能、耐熱性などの諸特性においても優れる、熱可塑性ポリウレタン組成物層と繊維質基体層を有する合成皮革用の積層体を提供することである。
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、熱可塑性ポリウレタン組成物層と繊維質基体層を有する合成皮革用の積層体において、その熱可塑性ポリウレタン組成物層を、熱可塑性ポリウレタンに対して、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと(水添)共役ジエン化合物系重合体ブロックを有する付加重合系部分と熱可塑性ポリウレタン部分がブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体の少なくとも1種を配合した熱可塑性重合体組成物であって且つ引張破断強度が10MPa以上の熱可塑性重合体組成物から形成すると、熱可塑性ポリウレタン組成物層の破損や表面荒れなどがなく外観に優れ、しかも耐ブロッキング性で積層体(積層シート)を巻き取ったときに巻き戻し等が容易で扱い性に優れる合成皮革用の積層体が生産性良く得られることを見出した。
さらに、本発明者らは、それにより得られた合成皮革用の積層体は、柔軟性、風合、耐摩擦溶融性、耐摩耗性、耐ブリード白化性、成形性、引張強度などの力学的性能、耐熱性などの諸特性に優れていて、従来の合成皮革用の積層体と比べて何ら遜色のない、高い品質を有することを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1) 熱可塑性重合体組成物層(A)及び繊維質基体層(B)を有する合成皮革用の積層体であって、熱可塑性重合体組成物層(A)が、熱可塑性ポリウレタン(I)と共に下記の共重合体(II)の少なくとも1種を含有し且つ25℃での引張破断強度が10MPa以上である熱可塑性重合体組成物から形成した層であることを特徴とする合成皮革用の積層体である。
・共重合体(II):
芳香族ビニル化合物系重合体ブロック(a−1)と水素添加又は非水素添加の共役ジエン化合物系重合体ブロック(b−1)を有する付加重合系部分(イ)、及び熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体。
そして、本発明は、
(2) 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物が、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して、共重合体(II)を5〜200質量部の割合で含有する前記(1)の合成皮革用の積層体;
(3) 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物が、芳香族ビニル化合物系重合体ブロック(a−2)と水素添加又は非水素添加の共役ジエン化合物系重合体ブロック(b−2)を有するブロック共重合体(III)をさらに含有する前記(1)又は(2)の合成皮革用の積層体;および、
(4) 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物におけるブロック共重合体(III)の含有割合が、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して200質量部以下である前記(3)の合成皮革用の積層体;
である。
また、本発明は、
(5) 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物が、パラフィン系オイル(IV)を更に含有する前記(1)〜(4)のいずれかの合成皮革用の積層体;および、
(6) 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物におけるパラフィン系オイル(IV)の含有割合が、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して200質量部以下である前記(5)の合成皮革用の積層体;
である。
さらに、本発明は、
(7) 繊維質基体層(B)が、極細繊維又は極細繊維束からなる絡合不織布シート、或いは前記絡合不織布シートに高分子材料を含浸付着した繊維質シートよりなる層である前記(1)〜(6)のいずれかの合成皮革用の積層体;
(8) 熱可塑性重合体組成物層(A)と繊維質基体層(B)との間に多孔質層(C)を更に有する前記(1)〜(7)のいずれかの合成皮革用の積層体;
(9) 熱可塑性重合体組成物層(A)が、合成皮革用の積層体の一方又は両方の最外層を形成し、且つ熱可塑性重合体組成物層(A)の表面に凹凸加工及び/又は鏡面加工が施されている前記(1)〜(8)のいずれかの合成皮革用の積層体;
(10) 合成皮革用の積層体の一方又は両方の表面に、熱可塑性エラストマーからなる無孔質層(D)を最外層として更に有する前記(1)〜(8)のいずれかの合成皮革用の積層体;および、
(11) 無孔質最外層(D)の表面に、凸凹加工及び/又は鏡面加工が施されている前記(10)の合成皮革用の積層体;
である。
本発明の合成皮革用の積層体は、熱可塑性重合体組成物層(A)の破損や表面荒れなどがなく外観に優れており、しかも耐ブロッキング性に優れていて該合成皮革用の積層体(積層シート)を巻き取ったときに巻き戻し等が容易で扱い性に優れている。
本発明の合成皮革用の積層体に熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物が有する優れた溶融成形性により、本発明の合成皮革用の積層体は、良好な工程性で生産性良く製造することができる。
本発明の合成皮革用の積層体は、柔軟性、風合、耐摩擦溶融性、耐摩耗性、耐ブリード白化性、成形性、引張強度などの力学的性能、耐熱性などの諸特性に優れており、それらの特性を活かして、靴、鞄、袋物、ベルト、手袋、衣料、家具、自動車等の車両用シートなどの広範な用途に有効に使用することができる
本発明の合成皮革用の積層体(以下単に「積層体」ということがある)における熱可塑性重合体組成物層(A)[以下単に「層(A)」ということがある]を形成する熱可塑性重合体組成物のベースをなす熱可塑性ポリウレタン(I)としては、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の反応により得られる熱可塑性ポリウレタンが好ましく用いられる。
熱可塑性ポリウレタン(I)の製造原料である前記した高分子ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらのうちでも、高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィン系ポリオールのうちの1種又は2種以上が、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能および溶融成形性などの点から好ましく用いられ、ポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオールがより好ましく用いられる。
上記のポリエステルポリオールは、例えば、ポリオール成分とポリカルボン酸成分を直接エステル化反応又はエステル交換反応に供するか、あるいはポリオール成分を開始剤としてラクトンを開環重合させることによって製造することができる。
ポリエステルポリオールの製造に用い得るポリオール成分としては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているもの、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロオクタンジメタノール等の脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族ジオール;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の1分子当たりの水酸基数が3以上である多価アルコールなどが挙げられる。ポリエステルポリオールの製造に当たっては、これらのポリオール成分は、1種類のものを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
そのうちでも、ポリエステルポリオールの製造に当たっては、2−メチル−1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオールなどのメチル基を側鎖として有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールが、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性などの点から、ポリオール成分として好ましく用いられる。特に、メチル基を側鎖として有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールをポリエステルポリオールの製造に用いる全ポリオール成分の30モル%以上、特に50モル%以上の割合で用いると、熱可塑性ポリウレタン(I)が柔軟性などの点で優れたものとなり、好ましい。
ポリエステルポリオールの製造に用い得るポリカルボン酸成分としては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているポリカルボン酸成分、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸等の炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3官能以上の多価カルボン酸;それらのエステル又はそれらの酸無水物等のエステル形成性誘導体などを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。そのうちでも、炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸、特にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸の1種又は2種以上が、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能および溶融成形性などの点から、ポリカルボン酸成分として好ましく用いられる。
また、ポリエステルポリオールの製造に用い得るラクトンとしては、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
上記したポリエーテルポリオールとしては、例えば、環状エーテルを開環重合して得られるポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などを挙げることができ、1種又は2種以上のポリエーテルポリオールを用いることができる。そのうちでも、ポリ(テトラメチレングリコール)及び/又はポリ(メチルテトラメチレングリコール)が好ましく用いられる。
上記したポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール成分とジアルキルカーボネート、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネート等のカーボネート化合物との反応によって得られるものを挙げることができる。
ポリカーボネートポリオールを構成するポリオール成分としては、ポリエステルポリオールの構成成分として例示したポリオール成分を使用することができる。また、ジアルキルカーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを挙げることができ、アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネートなどを挙げることができ、ジアリールカーボネートとしては、例えば、ジフェニルカーボネートなどを挙げることができる。
上記したポリエステルポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール成分、ポリカルボン酸成分及びカーボネート化合物を同時に反応させて得られたもの、あるいは予め合成したポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールをカーボネート化合物と反応させて得られたもの、又は予め合成したポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールをポリオール成分及びポリカルボン酸成分と反応させて得られたものなどを挙げることができる。
上記した共役ジエン重合体系ポリオール又はポリオレフィン系ポリオールとしては、重合開始剤の存在下に、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン、又は共役ジエンと他のモノマーをリビング重合法などにより重合した後に、重合活性末端にエポキシ化合物を反応させて得られる、ポリイソプレンポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリ(ブタジエン/イソプレン)ポリオール、ポリ(ブタジエン/アクリロニトリル)ポリオール、ポリ(ブタジエン/スチレン)ポリオール、あるいはそれらの水素添加物などを挙げることができ、1種又は2種以上の共役ジエン重合体系ポリオール及び/又はポリオレフィン系ポリオールを使用することができる。
熱可塑性ポリウレタン(I)の製造に用いられる高分子ポリオールの数平均分子量は、500〜10,000、更には700〜8,000、特に800〜5,000の範囲内であることが好ましい。そのような数平均分子量の高分子ポリオールを用いて製造した熱可塑性ポリウレタン(I)を使用することにより、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などが良好になる。
なお、本明細書でいう高分子ポリオールの数平均分子量は、JIS K−1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
熱可塑性ポリウレタン(I)の製造に用いられる高分子ポリオールでは、1分子当たりの水酸基数が2.0〜2.1、そのうちでも2.0〜2.05、更には2.002〜2.03、特に2.005〜2.02の範囲内にあることが好ましい。1分子当たりの水酸基数が前記範囲にある高分子ポリオールを用いて製造した熱可塑性ポリウレタン(I)を使用することにより、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性が良好になる。
鎖伸長剤としては、ポリウレタンの製造に従来から使用されている鎖伸長剤を用いることができ、そのうちでもイソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物が好ましく用いられる。
鎖伸長剤の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4(又は5)−シクロオクタンジメタノール、3(又は4),8(又は9)−ジヒドロキシメチルトリシクロ(5,2,1,02,6)デカン等のジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン及びその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコール等のアミノアルコール類などを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。そのうちでも、鎖伸長剤としては、炭素数2〜12の脂肪族ジオールが好ましく用いられ、特に1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール及び1,9−ノナンジオールの1種又は2種以上がより好ましく用いられる。
分岐を分子内に有する数平均分子量100〜400の脂肪族ジオールを鎖伸長剤として用いて製造した熱可塑性ポリウレタン(I)を使用すると、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の常温付近における損失係数の値が大きくなり、かつ広い温度範囲にわたって大きな損失係数の値を保持し制振性能に優れたものとなる。分岐を分子内に有するそのような脂肪族ジオールとしては、メチル基を側鎖として有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールが好ましく用いられる。
有機ジイソシアネート化合物としては、ポリウレタンの製造に従来から使用されている有機ジイソシアネート化合物を用いることができ、具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネートなどを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。そのうちでも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能および溶融成形性などの点から好ましく用いられる。
熱可塑性ポリウレタン(I)を製造する際の高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の使用割合は、有機ジイソシアネート化合物由来の窒素原子含有量が、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の合計質量に基づいて、1〜6.5質量%、そのうちでも1〜6質量%、更には1.3〜5.5質量%、特に1.6〜5質量%の範囲内になる割合であることが好ましい。有機ジイソシアネート化合物由来の窒素原子含有量が前記範囲内になるようにして製造した熱可塑性ポリウレタン(I)を使用することにより、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などが良好になる。
熱可塑性ポリウレタン(I)の数平均分子量は200〜300,000、更には500〜150,000、特に1,000〜100,000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が前記範囲内にある熱可塑性ポリウレタン(I)を使用することにより、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などが良好になる。
なお、本明細書でいう熱可塑性ポリウレタンの数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定した数平均分子量をいう。
また、熱可塑性ポリウレタン(I)の硬度は、30〜99、さらには45〜97、特に60〜95の範囲内であることが好ましい。前記した硬度を有する熱可塑性ポリウレタン(I)を使用することにより、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などが良好になる。
なお、本明細書における熱可塑性ポリウレタンの硬度はJIS A硬度を意味する。
本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物は、上記した熱可塑性ポリウレタン(I)と共に、芳香族ビニル化合物系重合体ブロック(a−1)[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)」という]と水素添加又は非水素添加の共役ジエン化合物系重合体ブロック(b−1)[以下「(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)」という]を有する付加重合系部分(イ)及び熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体(II)の少なくとも1種を必須の重合体成分として含有する。
共重合体(II)では、付加重合系部分(イ)と熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)とがブロック状及び/又はグラフト状に結合している限りはその結合形態は特に制限されず、長鎖状、分岐状、放射状又はそれらの2つ以上が組合わさった結合形態のいずれであってもよい。
そのうちでも、共重合体(II)としては、付加重合系部分(イ)と熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)とが直鎖状に結合した共重合体が、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能および溶融成形性などの点から好ましく用いられる。
共重合体(II)がブロック共重合体である場合には、付加重合系部分(イ)をα、熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)をβで表わすと、該ブロック共重合体として、式;α−β型、α−β−α型、β−α−β型などの様々な形態のブロック共重合体を用いることができ、そのうちでもα−β型のジブロック型のブロック共重合体を用いることが好ましい。共重合体(II)としてα−β型のジブロック型のブロック共重合体を使用すると、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能、溶融成形性等がより良好になる。
また、共重合体(II)がグラフト共重合体である場合にも、付加重合系部分(イ)と熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がグラフト状に結合している限りは様々の形態のグラフト共重合体を使用することができる。例えば、付加重合系部分(イ)からなる幹に1つ又は2つ以上の熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)が側鎖としてグラフト重合したグラフト共重合体、熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)からなる幹に1つ又は2つ以上の付加重合系部分(イ)が側鎖としてグラフト重合体したグラフト共重合体、複数の付加重合系部分(イ)が1つ又は2つ以上の熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)で分岐状に架橋結合された結合形態を有するグラフト共重合体などを用いることも可能である。
共重合体(II)が付加重合系部分(イ)を複数有する場合は、複数の付加重合系部分(イ)は互いに同じ内容のものであってもよいし、又は異なる内容のものであってもよい。また、共重合体(II)が複数の熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を含有する場合は、複数の熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)は互いに同じ内容のものであってもよいし、又は異なる内容のものであってもよい。例えば、共重合体(II)が上記したα−β−α型又はβ−α−β型のトリブロック共重合体である場合は、2個のα[付加重合系部分(イ)]又は2個のβ[熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)]は、それらを構成する構造単位の種類、その結合形式、数平均分子量などが同じであってもよいし又は異なっていてもよい。
共重合体(II)における付加重合系部分(イ)と熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)の質量割合は、付加重合系部分(イ)/熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)=5/95〜95/5、そのうちでも10/90〜90/10、更には20/80〜80/20、特に30/70〜70/30の範囲内であることが好ましい。付加重合系部分(イ)と熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)の質量比が前記範囲内であることにより、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能、溶融成形性等がより良好になる。
共重合体(II)の付加重合系部分(イ)における芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)を形成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、4−プロピルスチレン、t−ブチルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、1−ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、インデン、アセトナフチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、メトキシスチレンなどの芳香族ビニル化合物を挙げることができ、芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)はこれらの1種又は2種以上から形成されていることができる。そのうちでも、芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)はスチレン及び/又はα−メチルスチレンに由来する構造単位より主としてなっていることが好ましい。
芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)は、芳香族ビニル化合物からなる構造単位とともに、必要に応じて他の共重合性単量体に由来する構造単位を少量含有していてもよい。他の共重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)の質量に基づいて30質量%以下、特に10質量%以下であることが好ましい。
他の共重合性単量体に由来する構造単位としては、例えば、1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、メチルビニルエーテルなどに由来する構造単位を挙げることができる。また、これらの他にも、上記芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が部分的又は完全に水素添加された構造単位を有していてもよい。
共重合体(II)の付加重合系部分(イ)における(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)を形成する共役ジエン化合物としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどを挙げることができ、(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)は、前記した共役ジエン化合物の1種又は2種以上から形成されていることができる。(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)が2種以上の共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有している場合は、それらの結合形態はランダム、テーパー、一部ブロック状のいずれであってもよいし、さらにそれらが混在していてもよい。
(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)では、その共役ジエン化合物由来の構造単位は水素添加されていても又は水素添加されていなくてもよいが、耐熱性、耐候性及び耐光性などが良好になる点から、その50モル%以上、更には60モル%以上、特に80モル%以上が水素添加されていることが好ましい。
本発明の積層体における層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などがより良好になる点から、付加重合系ブロック(イ)における共役ジエン重合体ブロック(b−1)が、水素添加されていてもよいイソプレン重合体ブロック、水素添加されていてもよいブタジエン重合体ブロック及び水素添加されていてもよいイソプレンとブタジエンの共重合体ブロックから選ばれる少なくとも1種の重合体ブロックであることが好ましい。
層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の溶融成形性(溶融吐出安定性)をより一層優れたものにするためには、付加重合系部分(イ)における(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)が、1,2−結合及び3,4−結合の合計の割合が30モル%以上、特に40モル%以上である水素添加されていてもよいイソプレン重合体ブロックであるか、又は1,2−結合及び3,4−結合の合計の割合が30モル%以上、特に40モル%以上である水素添加されていてもよいイソプレンとブタジエンとの共重合体ブロックであることが望ましい。また、(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)が、1,2−結合の割合が60モル%以上、特に80モル%以上の割合である水素添加されていてもよいブタジエン重合体ブロックである場合にも、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の溶融成形性(溶融吐出安定性)をより優れたものにすることができる。
付加重合系部分(イ)における芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)との結合形態は特に制限されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はそれらが組合わさった結合形態のいずれであってもよく、そのうちでも直鎖状の結合形態であることが好ましい。
付加重合系部分(イ)が直鎖状のブロック共重合体からなる場合には、その芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)をX、(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)をYで表わしたときに、式;(X−Y)m−X、(X−Y)n、Y−(X−Y)p(式中、m、n及びpはそれぞれ1以上の整数を示す)などで表されるブロック共重合体からなることができる。その中でも、付加重合系部分(イ)は、2個以上の芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)と1個以上の(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)が直鎖状に結合したブロック共重合体、特に式:X−Y−Xで表されるトリブロック共重合体からなることが、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などが優れたものになる点から好ましい。
付加重合系部分(イ)が芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)を複数有する場合は、複数の芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)は互いに同じ内容の重合体ブロックであってもよいし又は異なる内容の重合体ブロックであってもよい。また、付加重合系部分(イ)が複数の(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)を含有する場合は、複数の(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)は互いに同じ内容の重合体ブロックであってもよいし又は異なる内容の重合体ブロックであってもよい。例えば、付加重合系部分(イ)がX−Y−Xで表されるトリブロック構造を有する場合に、2個のX[芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)]は、それらのブロックを構成する芳香族ビニル化合物の種類、その結合形式、重合体ブロックの数平均分子量などが同じであっても又は異なっていてもよい。また、付加重合系部分(イ)がY−X−Yで表されるトリブロック構造を有する場合に、2個のY[(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)]は、それらのブロックを構成する共役ジエン化合物の種類、その結合形式、重合体ブロックの数平均分子量などが同じであっても又は異なっていてもよい。
付加重合系部分(イ)における芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、付加重合系部分(イ)の質量に対して5〜90質量%、更には10〜90質量%、特に20〜80質量%であることが好ましい。付加重合系部分(イ)における芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量を前記割合にある共重合体(II)を使用することにより、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などを良好なものにすることができる。
付加重合系部分(イ)における、芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)及び(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)の数平均分子量は特に制限されないが、水素添加前の状態で、芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)の数平均分子量が2,500〜75,000、特に5,000〜50,000の範囲内であり、(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)の数平均分子量が10,000〜150,000、特に20,000〜100,000の範囲内であることが、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などが良好になる点から好ましい。
また、付加重合系部分(イ)の全体の数平均分子量は、水素添加前の状態で、15,000〜300,000、特に20,000〜100,000の範囲内であることが、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などが優れたものになる点から好ましい。
共重合体(II)における熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)は、熱可塑性ポリウレタン(I)と同様に、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物を反応させることによって形成されている。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)の製造に用いられる高分子ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができ、熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)は前記高分子ポリオールの1種又は2種以上を用いて形成されていることができる。そのうちでも、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィン系ポリオールのうちの1種又は2種以上、特にポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオールが熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を形成するための高分子ポリオールとして好ましく用いられる。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)の形成に用い得る前記ポリエステルポリオールは、例えば、ポリオール成分とポリカルボン酸成分を直接エステル化反応又はエステル交換反応に供するか、あるいはポリオール成分を開始剤としてラクトンを開環重合させることによって製造することができる。
ポリエステルポリオールの製造に用いるポリオール成分としては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているものが使用でき、その具体的な種類としては、熱可塑性ポリウレタン(I)製造用のポリエステルポリオールを形成するためのポリオール成分として熱可塑性ポリウレタン(I)に係る上記説明箇所で例示した種々の脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオール、水酸基数が3以上の多価アルコールなどを挙げることができ、それらのポリオールの1種又は2種以上を用いることができる。
そのうちでも、ポリエステルポリオールの製造をするためのポリオール成分として、2−メチル−1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオールなどのメチル基を側鎖として有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールが好ましく用いられる。特に、メチル基を側鎖として有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールの含有割合が、全ポリオール成分の30モル%以上、特に50モル%以上で有るポリオール成分を用いて製造したポリエステルポリオールを使用すると、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物がより一層柔軟になるという優れた効果が得られる。
また、ポリエステルポリオールの製造に用いるポリカルボン酸成分としては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているポリカルボン酸成分が使用でき、その具体的な種類として、熱可塑性ポリウレタン(I)の製造用のポリエステルポリオールを形成するためのポリカルボン酸成分として熱可塑性ポリウレタン(I)に係る上記説明箇所で例示した種々の脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、3官能以上の多価カルボン酸、それらのエステル又はそれらの酸無水物等のエステル形成性誘導体などを挙げることができ、それらのポリカルボン酸成分の1種又は2種以上を用いることができる。
そのうちでも、ポリエステルポリオールを製造するためのポリカルボン酸成分として、炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸、特にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸の1種又は2種以上が、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能および溶融成形性などの点から好ましく用いられる。
また、熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)の製造に当って高分子ポリオールとして用い得る前記したラクトンを開環重合させることによって製造できるポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオールなどとしては、熱可塑性ポリウレタン(I)に係る上記説明箇所で熱可塑性ポリウレタン(I)を製造するための高分子ポリオールとして具体的に例示した、種々の、ラクトンを開環重合させることによって製造できるポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオールなどを使用することができる。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)の製造に用いられる高分子ポリオールの数平均分子量は、500〜10,000、更には700〜8,000、特に800〜5,000の範囲内であることが好ましい。前記した数平均分子量を有する高分子ポリオールを用いて形成された熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を有する共重合体(II)を使用することにより、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などの種々の特性が優れたものになる。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を製造するための鎖伸長剤としては、ポリウレタンの製造に従来から使用されている鎖伸長剤を用いることができ、そのうちでもイソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物が好ましく用いられる。
具体的には、熱可塑性ポリウレタン(I)に係る上記説明箇所で熱可塑性ポリウレタン(I)を製造するための鎖伸長剤として具体的に例示したのと同様の種々の化合物の1種又は2種以上を、熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を製造するための鎖伸長剤として使用することができ、そのうちでも、炭素数2〜12の脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールが好ましく用いられる。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を製造するための鎖伸長剤として、分岐を分子内に有する数平均分子量が100〜400の脂肪族ジオール、特にメチル基を側鎖として有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールを使用すると、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の常温付近において損失係数の値が大きくなり、かつ広い温度範囲にわたって大きな損失係数の値を保持するようになり、制振性能が良好になる。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を製造するための有機ジイソシアネート化合物としては、ポリウレタンの製造に従来から使用されている有機ジイソシアネート化合物が使用でき、熱可塑性ポリウレタン(I)に係る上記説明箇所で熱可塑性ポリウレタン(I)を製造するための有機ジイソシアネート化合物として具体的に例示したのと同様の種々の有機ジイソシアネート化合物の1種又は2種以上を使用することができ、そのうちでも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を形成する際の高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の使用割合は、有機ジイソシアネート化合物由来の窒素原子含有量が、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の合計質量に基づいて1〜6.5質量%、更には1.3〜5.5質量%、特に1.6〜5質量%の範囲内になるような割合にすることが好ましい。それによって、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などの種々の特性が良好になる。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)の数平均分子量は200〜300,000、更には500〜150,000、特に1,000〜100,000の範囲内であることが好ましい。それによって、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などの種々の特性が優れたものになる。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)の硬度は、JIS A硬度で、30〜99、更には45〜97、特に60〜95の範囲内であることが好ましい。それによって、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などの種々の特性が優れたものになる。
共重合体(II)の製法は特に制限されず、付加重合系部分(イ)と熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体を製造し得る方法であればいずれの方法で製造してもよい。
そのうちでも、共重合体(II)は、下記の(i)又は(ii)の方法で簡便に製造することができる。
(i) 熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を形成する成分(有機ジイソシアネート化合物、鎖伸長剤及び高分子ポリオール等)と反応し得る官能基を有する付加重合系ブロック共重合体[付加重合系部分(イ)に相当する官能基含有付加重合系ブロック共重合体(以下「官能基含有付加重合系ブロック共重合体」ということがある)]の存在下に、ポリウレタン形成用成分(有機ジイソシアネート化合物、鎖伸長剤及び高分子ポリオールなど)を反応させて、付加重合系部分(イ)に熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体(II)を製造する方法(以下「製法(i)」という)。
(ii) 熱可塑性ポリウレタンと反応し得る官能基を有する付加重合系ブロック共重合体[付加重合系部分(イ)に相当する官能基含有付加重合系ブロック共重合体]と、予め製造された熱可塑性ポリウレタン又は熱可塑性ポリウレタンを含有する反応物を反応させて、付加重合系部分(イ)に熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体(II)を製造する方法(以下「製法(ii)」という)。
上記の製法(i)及び製法(ii)において、熱可塑性ポリウレタン又は熱可塑性ポリウレタン部分の製造反応は、公知のポリウレタン形成反応技術を利用して、プレポリマー法又はワンショット法のいずれの方法で行なってもよい。
上記の製法(i)によって共重合体(II)を製造する場合には、官能基含有付加重合系ブロック共重合体と、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の割合は、[官能基含有付加重合系ブロック共重合体の質量]/[熱可塑性ポリウレタン形成用成分の合計質量(高分子ポリオールの質量+鎖伸長剤の質量+有機ジイソシアネート化合物の質量)]の比が5/95〜95/5、そのうちでも10/90〜90/10、更には20/80〜80/20、特に30/70〜70/30であることが好ましい。官能基含有付加重合系ブロック共重合体と熱可塑性ポリウレタン形成用成分を前記質量比で使用して製造した共重合体(II)を用いることによって、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能および溶融成形性などが良好になる。
上記製法(ii)によって共重合体(II)を製造する場合には、官能基含有付加重合系ブロック共重合体と、熱可塑性ポリウレタン又は熱可塑性ポリウレタンを含有する反応物の割合は、[官能基含有付加重合系ブロック共重合体の質量]/[熱可塑性ポリウレタン又は熱可塑性ポリウレタン含有反応物の質量]の比が、5/95〜95/5、そのうちでも10/90〜90/10、更には20/80〜80/20、特に30/70〜70/30であることが好ましい。官能基含有付加重合系ブロック共重合体と熱可塑性ポリウレタン又は熱可塑性ポリウレタン含有反応物を前記質量比で使用して製造した共重合体(II)を用いることによって、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能および溶融成形性などが良好になる。
上記製法(ii)で共重合体(II)を製造する場合には、予め製造された熱可塑性ポリウレタン又は熱可塑性ポリウレタンを含有する反応物として、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の反応物をそのまま使用してもよいし、該反応物を常法に従って後処理して熱可塑性ポリウレタンを分離してそれを使用してもよいし、市販の熱可塑性ポリウレタンを使用してもよい。高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の反応物は、これらから形成される熱可塑性ポリウレタン以外に、各成分の使用量、反応率、その他の反応条件等に応じて、未反応の高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物を含有することがあるが、その場合には、共重合体(II)の製造に当って、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物から形成される熱可塑性ポリウレタンと官能基含有付加重合系ブロック共重合体の官能基との反応[共重合体(II)の生成反応]と共に、未反応の高分子ポリオール、鎖伸長剤、有機ジイソシアネート化合物と官能基含有付加重合系ブロック共重合体の官能基の反応が生じ、反応物中に共重合体(II)と共に他の反応生成物が含まれる。本発明では、そのような他の反応生成物を含むものを、共重合体(II)として、本発明の積層体の層(A)を形成するための熱可塑性重合体組成物の調製に用いることもできる。
上記した製法(i)及び製法(ii)において、付加重合系部分(イ)を形成するための官能基含有付加重合系ブロック共重合体が有する官能基[熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を形成するための成分と反応し得る官能基又は予め製造された熱可塑性ポリウレタンと反応し得る官能基]としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、チオカルボキシル基、イソシアネート基、エポキシ基など(高分子ポリオールや鎖伸長剤と反応し得る基);水酸基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、酸無水物基、チオカルボキシル基(有機ジイソシアネート化合物と反応し得る基)などを挙げることができ、該ブロック共重合体はこれらの官能基の1種又は2種以上を有することができる。
そのうちでも、付加重合系部分(イ)を形成するための付加重合系ブロック共重合体(官能基含有付加重合系ブロック共重合体)は、官能基として有機ジイソシアネート化合物と反応し得る基、特に水酸基を有することが、共重合体(II)の製造に際して均一なポリウレタン形成反応が行えることから好ましい。
官能基含有付加重合系ブロック共重合体は、熱可塑性ポリウレタン形成用成分又は熱可塑性ポリウレタンと反応し得る官能基をブロック共重合体のどの位置に有していてもよく、例えば分子末端又は分子鎖の途中に有していることができる。官能基含有付加重合系ブロック共重合体が前記官能基を分子末端に有する場合は、付加重合系部分(イ)と熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がブロック状に結合した共重合体(II)が得られる。またブロック共重合体が前記官能基を分子鎖の途中に有する場合は、付加重合系部分(イ)に熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がグラフト状に結合した共重合体(II)が得られる。
官能基含有付加重合系ブロック共重合体は、熱可塑性ポリウレタン形成用成分又は熱可塑性ポリウレタンと反応し得る官能基を、該ブロック共重合体1分子当たり、平均で0.6個以上、さらには0.7個以上、特に0.7〜1個の割合で有することが、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能および溶融成形性などの点から好ましい。
熱可塑性ポリウレタン形成用成分又は熱可塑性ポリウレタンと反応し得る官能基を有する、付加重合系部分(イ)を形成するための官能基含有付加重合系ブロック共重合体の製造方法は何ら限定されず、例えば、アニオン重合やカチオン重合などのイオン重合法、シングルサイト重合法、ラジカル重合法などにより製造することができる。アニオン重合法による場合は、例えば、アルキルリチウム化合物などを重合開始剤として用いて、n−ヘキサンやシクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中で、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を逐次重合させ、所望の分子構造及び分子量に達した時点で、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド等のオキシラン骨格を有する化合物、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン(ピバロラクトン)、メチルバレロラクトン等のラクトン化合物などを付加させ、次いで、アルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素含有化合物を添加して重合を停止させることにより製造することができる。そして、得られたブロック共重合体を、好ましくは、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中でアルキルアルミニウム化合物とコバルト、ニッケル等からなるチーグラー触媒などの水素添加反応触媒の存在下に、反応温度20〜150℃、水素圧力1〜150kg/cm2の条件下で水素添加することによって、水素添加物としてもよい。また、所望により、水素添加前又は水素添加後のブロック共重合体を、無水マレイン酸等によって変性してもよい。
上記した製法などによって官能基含有付加重合系ブロック共重合体を製造した場合に、その製造工程にもよるが、重合により得られた反応生成物中に、官能基含有付加重合系ブロック共重合体[芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)からなる官能基を有するブロック共重合体]と共に、官能基を持たない類似した構造を有するブロック共重合体[芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)とからなる官能基を持たないブロック共重合体]が含まれていることがある。
共重合体(II)の製造に当っては、
(1)前記の重合反応で得られた反応生成物から、芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)からなる官能基を有するブロック共重合体(官能基含有付加重合系ブロック共重合体)を単離し、それを熱可塑性ポリウレタン形成用成分又は予め製造した熱可塑性ポリウレタンと反応させて共重合体(II)を製造してもよいし;又は、
(2)前記の重合反応で得られた、芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)からなる官能基を有するブロック共重合体(官能基含有付加重合系ブロック共重合体)と、芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)からなる官能基を持たないブロック共重合体の両方を含む反応生成物をそのまま熱可塑性ポリウレタン形成用成分又は予め製造した熱可塑性ポリウレタンと反応させて共重合体(II)を製造してもよい。
上記(1)で得られた共重合体(II)、及び上記(2)で得られた共重合体(II)[共重合体(II)を含む反応生成物]のいずれもが、本発明の積層体の層(A)を形成するための熱可塑性重合体組成物の調製に用いることができる。
上記(2)で得られた共重合体(II)[共重合体(II)を含む反応生成物]用いて層(A)用の熱可塑性重合体組成物を調製した場合には、該熱可塑性重合体組成物中には、付加重合系部分(イ)と熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体(II)と共に、熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)が結合していない付加重合系部分(イ)に相当するブロック共重合体が含まれることになる。
また、共重合体(II)を製造するための官能基含有付加重合系ブロック共重合体としては、市販されているものを使用してもよい。
共重合体(II)を製造するための官能基含有付加重合系ブロック共重合体の数平均分子量は、15,000〜300,000、特に20,000〜100,000の範囲内であることがより好ましい。なお、官能基含有付加重合系ブロック共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定した値である。
官能基含有付加重合系ブロック共重合体は、230℃、2.16kg荷重下で測定したメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分、特に0.05〜80g/10分の範囲内であることが好ましい。かかるメルトフローレート(MFR)を有する官能基含有付加重合系ブロック共重合体を使用することにより、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の溶融成形性、溶融接着性などの物性が良好になる。
なお、官能基含有付加重合系ブロック共重合体のメルトフローレート(MFR)は、ASTM D−1238に準拠して測定した値である。
上記した製法(i)及び製法(ii)のいずれの場合も、共重合体(II)における熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)の形成に当っては、高分子ポリオール及び鎖伸長剤が有している活性水素原子1モルに対し、有機ジイソシアネート化合物が有しているイソシアネート基の割合が0.9〜1.3モルとなるような割合で各成分を反応させることが好ましい。前記割合で各成分を反応させて得られた熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)を有する共重合体(II)を使用することによって、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、引張強度などの力学的性能及び溶融成形性などの種々の特性がより良好になる。
熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)又は該熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)に対応する熱可塑性ポリウレタンの形成に当っては、前記したように、有機ジイソシアネート化合物由来の窒素原子含有量が、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の合計質量に基づいて1〜6.5質量%、そのうちでも1〜6質量%、更には1.3〜5.5質量%、特に1.6〜5質量%になるようにして、前記原料成分を用いることが好ましい。
共重合体(II)の製造に際しては、ウレタン化反応触媒を使用してもよい。かかるウレタン化反応触媒としては、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸エトキシブチルエステル)塩等の有機スズ系化合物;チタン酸;テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンアセチルアセトネート等の有機チタン系化合物;トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール等の3級アミン系化合物などを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
ウレタン化反応触媒の使用量は、官能基含有付加重合系ブロック共重合体と高分子ポリオールと鎖伸長剤と有機ジイソシアネート化合物の合計質量、或いは熱可塑性ポリウレタン又は熱可塑性ポリウレタンを含む反応物(高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の反応物)と官能基含有付加重合系ブロック共重合体の合計質量に基づいて、0.1ppm〜0.2質量%、更には0.5ppm〜0.02質量%、特に1ppm〜0.01質量%の範囲内であることが好ましい。
共重合体(II)の製造に当っては、ウレタン化反応触媒を、官能基含有付加重合系ブロック共重合体、高分子ポリオール、鎖伸長剤、有機ジイソシアネート化合物、又は高分子ポリオールと鎖伸長剤と有機ジイソシアネート化合物の反応物のうちの1者又は2者以上に含有させておくことができ、そのうちでも高分子ポリオールに含有させておくことが好ましい。
共重合体(II)の製造に際してウレタン化反応触媒を使用した場合は、生成した共重合体(II)にウレタン化反応触媒失活剤を添加して触媒を失活させることが好ましい。ウレタン化反応触媒失活剤としては、例えば、ラウリルホスフェート、オレイルホスフェート、ステアリルホスフェート、ジラウリルホスフェート、ジオレイルホスフェート、ジステアリルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ビス(オクタデシル)ペンタエリスリトールジホスフェート、フェニルホスホン酸ジエチル、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル等のリン系化合物;2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、4,4’−オクチル−2,2’−ビフェノール等のフェノール系化合物などを挙げることができ、そのうちでもリン系化合物が好ましい。
ウレタン化反応触媒失活剤の使用量は、官能基含有付加重合系ブロック共重合体、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物の合計質量、又は高分子ポリオールと鎖伸長剤と有機ジイソシアネート化合物の反応物及び官能基含有付加重合系ブロック共重合体の合計質量に基づいて1ppm〜2質量%、更には5ppm〜0.2質量%、特に10ppm〜0.1質量%の範囲内であることが好ましい。
限定されるものではないが、上記した製法(i)によって共重合体(II)を製造する場合の具体例としては、以下の(i−1)〜(i−3)の方法を挙げることができる。
(i−1)官能基含有付加重合系ブロック共重合体、高分子ポリオール及び鎖伸長剤を混合し、例えば40〜100℃に加熱して得られた混合物に、活性水素原子:イソシアネート基のモル比が好ましくは1:0.9〜1.3となる量で有機ジイソシアネート化合物を添加して短時間撹拌した後、例えば80〜200℃に加熱する方法。
(i−2)押出機やその他の溶融混練装置を使用して、官能基含有付加重合系ブロック共重合体、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物を、活性水素原子:イソシアネート基のモル比が好ましくは1:0.9〜1.3となる量で混合し、例えば180〜260℃の高温で反応させつつ混練して溶融重合する方法。
(i−3)官能基含有付加重合系ブロック共重合体、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物を、活性水素原子:イソシアネート基のモル比が好ましくは1:0.9〜1.3となる量で、有機溶媒中に加えて有機溶媒中でウレタン化反応を行う方法。
限定されるものではないが、上記した製法(ii)によって共重合体(II)を製造する場合の具体例としては、以下の(ii−1)〜(ii−3)の方法を挙げることができる。
(ii−1)押出機に、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物を連続的に供給して、例えば90〜260℃に加熱し、反応系における活性水素原子とイソシアネート基のモル比が好ましくは1:0.9〜1.3となる量で官能基含有付加重合系ブロック共重合体を連続的に供給して、例えば180〜260℃の高温で連続溶融重合する方法。
(ii−2)押出機やその他の装置に、高分子ポリオール、鎖伸長剤及び有機ジイソシアネート化合物を供給して、例えば90〜260℃に加熱してポリウレタンを形成した後に、官能基含有付加重合系ブロック共重合体を混合して、例えば180〜260℃の高温で連続溶融重合する方法。
(ii−3)押出機に、官能基含有付加重合系ブロック共重合体及びポリウレタン(市販品等)を連続的に供給して、例えば180〜260℃の高温で反応させる方法。
共重合体(II)は、実質的に溶剤の不存在下に製造することが好ましく、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いた溶融混練によって製造することが好ましい。混練条件は、使用する原料の種類、装置の種類などに応じて適宜選択することができるが、一般に180〜260℃の温度で1〜15分間程度行うことが好ましい。
上記した製法(i)や製法(ii)などによって得られる反応生成物[共重合体(II)を含む反応生成物]は、共重合体(II)と共に、未反応の官能基含有付加重合系ブロック共重合体、官能基を持たない付加重合系ブロック共重合体[芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)を有し官能基を有しないブロック共重合体]、未反応の熱可塑性ポリウレタン、未反応の高分子ポリオール、未反応の鎖伸長剤並びに未反応の有機ジイソシアネート化合物を含有することがあり、それらの含有量は、反応に使用した原料の種類、原料の割合、反応温度等の反応条件などによって変化する。
上記した製法(i)や製法(ii)などによって得られる反応生成物[共重合体(II)を含む反応生成物]は、例えばペレット等の形状とした後、必要に応じて適当な大きさに粉砕し、ジメチルホルムアミドなどのポリウレタンの良溶媒で処理して、未反応の熱可塑性ポリウレタン(官能基含有付加重合系ブロック共重合体と結合していない熱可塑性ポリウレタン)を溶解除去し、次いでシクロヘキサンなどの官能基含有付加重合系ブロック共重合体の良溶媒で処理して未反応の官能基含有付加重合系ブロック共重合体及び官能基を持たない付加重合系ブロック共重合体を抽出・除去し、残った固形物を乾燥することによって、未反応の官能基含有付加重合系ブロック共重合体、官能基を持たない付加重合系ブロック共重合体、未反応の熱可塑性ポリウレタン、未反応の高分子ポリオール、未反応の鎖伸長剤、未反応の有機ジイソシアネート化合物などを含まないか又は含んでもいてもそれらの含有量の少ない、純度の高い共重合体(II)を取得することができる。
本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物では、上記精製後の純度の高い共重合体(II)を用いてもよいし、また本発明の目的を損なわない限りは、共重合体(II)と共に未反応の官能基含有付加重合系ブロック共重合体、官能基を持たない付加重合系ブロック共重合体、未反応の熱可塑性ポリウレタンなどを含む精製前の反応生成物を使用してもよい。
本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物は、25℃における引張破断強度が10MPa以上であることが必要であり、20MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましい。引張破断強度が10MPa以上の熱可塑性重合体組成物を用いることにより、層(A)を形成する際の溶融成形性が良好になり、しかも得られる積層体におけるブロッキングが生じなくなり、外観が良好になる。
なお、本明細書でいう、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の25℃における引張破断強度は、JIS K−7311に基づいて測定されるものであり、具体的には、後述する実施例に記載する方法で測定した値を意味する。
本発明の積層体における層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物は、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して、共重合体(II)を5〜200質量部、更には5〜100質量部、特に5〜20質量部の割合で含有していることが好ましい。熱可塑性ポリウレタン(I)と共重合体(II)の使用割合が前記範囲内であることにより、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の溶融成形性が良好になると共に、耐ブロッキング性、柔軟性、引張強度などの力学的性能、外観などに優れる積層体が得られる。
ここで、本明細書でいう熱可塑性ポリウレタン(I)の質量とは、熱可塑性ポリウレタン(I)の製造に用いた未反応の反応原料などを実質的に含まない、熱可塑性ポリウレタン(I)自体の質量をいう。また、共重合体(II)の質量とは、共重合体(II)の製造に用いた未反応の官能基含有付加重合系ブロック共重合体や未反応の熱可塑性ポリウレタン、他の付加重合系ブロック共重合体や反応原料などを実質的に含まない共重合体(II)自体[付加重合系部分(イ)と熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)とがブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体自体]の質量をいう。
本発明の積層体の層(A)の形成に用いる熱可塑性重合体組成物は、上記した熱可塑性ポリウレタン(I)及び共重合体(II)と共に、場合により芳香族ビニル化合物系重合体ブロック(a−2)[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(a−2)」という]と水素添加又は非水素添加の共役ジエン化合物系重合体ブロック(b−2)[以下「(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−2)」という]を有するブロック共重合体(III)を更に含有することができる。ブロック共重合体(III)を含有することにより、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の非粘着性、柔軟性及び溶融成形性などの性能が一層向上することがある。
ブロック共重合体(III)としては、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物に由来する構造単位を主体とする水素添加又は非水素添加の重合体ブロックを有するブロック共重合体であればいずれでもよく、例えば、共重合体(II)における付加重合系部分(イ)の形成に用いるのと同じブロック共重合体、例えば上記の製法(i)又は製法(ii)で得られた共重合体(II)を含む反応生成物中に含まれる官能基を有するか又は官能基を持たない付加重合系ブロック共重合体、芳香族ビニル重合体ブロック(a−2)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−2)を有する別途製造したブロック共重合体又は市販のブロック共重合体などを使用することができる。
ブロック共重合体(III)において、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の非粘着性、柔軟性および溶融成形性などの点から、ブロック共重合体(III)の質量に基づいて、5〜90質量%、更には10〜90質量%、特に20〜80質量%であることが好ましい。
ブロック共重合体(III)を構成する芳香族ビニル重合体ブロック(a−2)及び(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−2)の数平均分子量は特に制限されないが、水素添加前の状態で、芳香族ビニル重合体ブロック(a−2)の数平均分子量が2,500〜100,000、特に10,000〜80,000の範囲内で、(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−2)の数平均分子量が10,000〜250,000、特に30,000〜200,000の範囲内であることが好ましい。
ブロック共重合体(III)の全体の数平均分子量は、水素添加前の状態で、15,000〜500,000、特に20,000〜300,000の範囲内であることが好ましい。
なお、ブロック共重合体(III)に係る前記の数平均分子量は、いずれも、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定した値である。
ブロック共重合体(III)において、その(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−2)は、水素添加されていなくてもよいが、耐熱性、耐候性及び耐光性の観点から、50モル%以上、更には60モル%以上、特に80モル%以上が水素添加されていることが好ましい。
ブロック共重合体(III)における芳香族ビニル重合体ブロック(a−2)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−2)の結合形態は特に制限されず、直鎖状、分岐状、放射状又はそれらが組合わさった結合形態のいずれであってもよく、そのうちでも直鎖状の結合形態であることが、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の非粘着性、柔軟性および溶融成形性などの点から好ましい。そのうちでも、ブロック共重合体(III)は、2個以上の芳香族ビニル重合体ブロック(a−2)と1個以上の(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−2)が直鎖状に結合したブロック共重合体であることが好ましく、特に、2個の芳香族ビニル重合体ブロック(a−2)と1個の(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−2)が直鎖状に結合したトリブロック共重合体であることがより好ましい。
ブロック共重合体(III)は、分子末端又は分子鎖の途中に、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、メルカプト基などの官能基を有していてもよい。
ブロック共重合体(III)は、230℃、2.16kg荷重下で測定したメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下、更には50g/10分以下、特に30g/10分以下であることが、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の非粘着性、柔軟性および溶融成形性などの点から好ましい。
なお、前記メルトフローレート(MFR)は、ASTM D−1238に準拠して測定した値をいう。
ブロック共重合体(III)は、そのJIS A硬度が、30〜95、更には40〜90、特に50〜85の範囲内にあることが、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の非粘着性、柔軟性および溶融成形性などの点から好ましい。
なお、前記JIS A硬度は、JIS K−6253に準拠して測定した値をいう。
本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物は、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して、ブロック共重合体(III)を200質量部以下、更には100質量部以下、特に2〜40質量部の割合で有していることが、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の非粘着性、柔軟性および溶融成形性などの点から好ましい。
本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、パラフィン系オイル(IV)を含有していてもよく、パラフィン系オイル(IV)を含有することにより、該熱可塑性重合体組成物の非粘着性、柔軟性及び溶融成形性が一層向上することがある。
本発明ではパラフィン系オイル(IV)として、パラフィン成分(鎖状炭化水素)を60質量%以上、特に80質量%以上含むものが好ましく使用される。パラフィン系オイル(IV)は、その他の成分としては、ベンゼン環やナフテン環などの芳香族環を有する成分を含有していてもよい。
本発明で使用するパラフィン系オイル(IV)は、40℃で測定した動粘度が20〜800センチストークス〔cSt(mm2/s)〕、特に50〜600cSt(mm2/s)の範囲内にあることが好ましい。
なお、本明細書でいうパラフィン系オイル(IV)の動粘度は、JIS K−2283に準拠して測定した値である。
また、パラフィン系オイル(IV)の流動点は、−40〜0℃、特に−30〜0℃の範囲内にあることが、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の非粘着性、柔軟性、溶融成形性などの種々のより良好になる点から好ましい。
なお、本明細書でいうパラフィン系オイル(IV)の流動点は、JIS K−2269に準拠して測定した値である。
さらに、パラフィン系オイル(IV)の引火点は、200〜400℃、特に250〜350℃の範囲内にあることが好ましく、かかる引火点を有するパラフィン系オイル(IV)を使用することにより、本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の非粘着性、柔軟性、溶融成形性などの種々の特性がより良好になる。
なお、本明細書でいうパラフィン系オイル(IV)の引火点は、JIS K−2265に準拠して測定した値である。
層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物中に上記したブロック共重合体(III)とパラフィン系オイル(IV)の両方を含有させることにより、パラフィン系オイル(IV)の表面への移行を防ぎながら、熱可塑性重合体組成物の溶融成形性及び柔軟性を非常に優れたものにすることができる。
層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物は、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して、パラフィン系オイル(IV)を200質量部以下、更には100質量部以下、特に2〜40質量部の割合で含有していることが好ましい。熱可塑性ポリウレタン(I)に対してパラフィン系オイル(IV)を前記割合で含有していることにより、パラフィン系オイル(IV)の表面への滲みだしなどを防止しながら、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の柔軟性、溶融成形性などをより良好にすることができる。
本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物が、熱可塑性ポリウレタン(I)及び共重合体(II)と共に、ブロック共重合体(III)及びパラフィン系オイル(IV)の両方を含有する場合は、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して、共重合体(II)を5〜100質量部、特に5〜20質量部、ブロック共重合体(III)を2〜100質量部、特に2〜40質量部及びパラフィン系オイル(IV)を2〜100質量部、特に2〜40質量部の割合で含有することが、熱可塑性重合体組成物の溶融成形性及び耐ブロッキング性が良好になり、かつ柔軟性、引張強度などの力学的特性、硬度などの諸特性をバランス良く兼備したものとなる点から好ましい。
本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、熱硬化型のポリウレタン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエステル樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリ塩化ビニリデン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物;アクリル樹脂;芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の共重合体;芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及びオレフィン化合物の共重合体、スチレン系重合体、オレフィン系重合体等の他の重合体の1種又は2種以上を含有していてもよい。
本発明の積層体の層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物は、必要に応じて、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸鉛等の金属石けん;二塩基性硫酸塩、二塩基性ステアリン酸鉛、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム等の無機安定剤;滑剤、顔料、耐衝撃改良剤、加工助剤、結晶核剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐加水分解性向上剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料などの各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維;タルク、シリカ、木粉等の充填剤;各種カップリング剤などの任意成分の1種又は2種以上を含有することができる。
層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の調製方法は特に制限されず、組成物を構成する各成分が均一に混合される方法であればいずれでもよく、そのうちでも溶融混練法が簡便であり好ましく採用される。例えば、熱可塑性重合体組成物の各構成成分を単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて、一般に120〜220℃の温度で約30秒〜5分間程度溶融混練することによって、各構成成分が均一に混合した熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
溶融混練する際の各構成成分の配合順序には特に制限はなく、熱可塑性ポリウレタン(I)及び共重合体(II)を同時に溶融混練装置に供給して混練してもよいし、共重合体(II)を溶融混練下で製造している段階で熱可塑性ポリウレタン(I)を添加して溶融混練してもよい。
また、熱可塑性ポリウレタン(I)の存在下に共重合体(II)を溶融混練以外の方法で製造することもできる。
ブロック共重合体(III)、パラフィン系オイル(IV)及び/又は他の樹脂や任意成分を添加する場合は、熱可塑性ポリウレタン(I)及び共重合体(II)を含有する熱可塑性重合体組成物の調製前、調製時又は調製後のいずれの段階で添加してもよい。ブロック共重合体(III)、パラフィン系オイル(IV)及び/又は他の樹脂や任意成分は、熱可塑性ポリウレタン(I)及び共重合体(II)とは別に溶融混練装置に直接供給して混練してもよいし、熱可塑性ポリウレタン(I)及び共重合体(II)の少なくとも一方に予め含有させた状態で溶融混練装置に供給して混練してもよく、特に共重合体(II)に予め含有させた状態で溶融混練装置に供給して混練することが好ましい。
上記した溶融混練によって調製された溶融状態の熱可塑性重合体組成物は、層(A)の形成にそのまま直接用いてもよいし、又は一旦ペレット状にした上でそのペレットを用いて層(A)を形成してもよい。本発明の積層体の層(A)は、そのような熱可塑性重合体組成物を用いて溶融成形(溶融積層)することによって円滑に形成される。
熱可塑性ポリウレタン(I)及び共重合体(II)を必須成分として含有する上記した熱可塑性重合体組成物は、非粘着性で、取扱い性、溶融成形性(溶融吐出安定性)及び溶融接着性に優れているために、例えば押出成形機などを使用して溶融成形(溶融積層)することにより、円滑に且つ高い生産速度で繊維質基体層(B)上に層(A)を形成することができ、また繊維質基体層(B)上に多孔質層(C)を有する場合は該多孔質層(C)に層(A)を形成することができる。その際に押出成形機の種類や能力(吐出量)、生産条件、運転時間(連続運転性)などをより広い範囲で選択採用することができる。
層(A)の厚さは、積層体の用途などに応じて選択することができ、一般的には10〜500μm程度、特に20〜300μm程度であることが好ましい。層(A)の厚さが前記範囲内であると、柔軟性及び適度な弾力性を有し、積層体を引っ張ったり、折り曲げたりしたときに表面に低品位の皺や凹凸などの発生しにくい、高級感のある合成皮革用の積層体となり、しかも繊維質基体層(B)と熱可塑性重合体組成物層(A)との接合強度が大きくなり層間剥離などが生じにくくなる。
本発明の積層体を形成する繊維質基体層(B)[以下単に「層(B)」ということがある]を構成する繊維質基材は、適度な厚みと充実感を有し、且つ柔軟な風合を有するシート状の繊維質基材であればいずれも使用でき、従来から合成皮革の製造に用いられている各種の繊維質基材が使用できる。
繊維質基材としては、例えば、極細繊維又はその束状繊維、特殊多孔質繊維、通常の合成繊維、半合成繊維、天然繊維、無機繊維などを用いて形成された絡合不織布シートや編織物シートなどの繊維質シート;前記した繊維質シートに高分子材料を含浸付着させた繊維質シート;前記したいずれかの繊維質シートの表面にさらに弾性高分子材料の多孔質被覆層を形成した繊維質シートなどを使用することができる。
そのうちでも、層(B)を形成する繊維質基材としては、極細繊維又は極細繊維束を用いて形成した絡合不織布或いはそれに弾性高分子材料を含浸付着させた繊維質シートが好ましく用いられる。その場合に、繊維質シートを構成する極細繊維の単繊維繊度は0.8dtex以下、更には0.5dtex以下、特に0.1dtex以下であることが、積層体の風合などが良好になる点から好ましい。また、繊維質シートを極細繊維束から形成する場合は、極細繊維束のトータル繊度が0.5〜10dtex、特に0.8〜8dtexであることが、得られる積層体の風合などが良好になる点から好ましい。
繊維質基材を構成する極細繊維は、ポリエステル系繊維及び/又はナイロン系繊維から形成されていることが、得られる積層体の強度、感触、コストなどの点から好ましい。
特に、繊維質基材として、上記したような極細繊維又は極細繊維束の絡合不織布シート中に高分子材料を含浸付着させた繊維質シートを使用すると、天然皮革に一層近似した良好な風合や触感などを有する積層体を得ることができるので好ましい。その場合に、絡合不織布シート中に含浸付着させる高分子材料としては、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド系重合体、塩化ビニル系重合体、ポリビニルブチラール系重合体、アクリル系重合体、ポリアミノ酸系重合体、シリコーン系重合体などを挙げることができ、これらの重合体は単独で又は2種以上併用して使用することができる。そのうちでも、熱可塑性ポリウレタンを含浸付着させた繊維質シートを用いると、繊維質基体層(B)に隣接して熱可塑性重合体組成物層(A)を積層した場合に、両層の親和性が高く、繊維質基体層(B)と熱可塑性重合体組成物層(A)との間の接着が強固になるので、特に好ましい。
その際に、高分子材料を含浸付着させた絡合不織布よりなる繊維質シートにおける高分子材料の含有量は、高分子材料を含浸付着させる前の繊維質シートの質量に基づいて、約10〜70質量%、特に20〜60質量%程度であることが好ましい。
柔軟な風合を有し、且つ適度な反発性及び腰感のある積層体を得るためには、繊維質基材の見掛け比重が0.25〜0.5g/cm3、特に0.3〜0.35g/cm3であることが好ましい。繊維質基材の見掛け比重が大きすぎるとゴム様の風合となり易く、一方、繊維質基材の見掛け比重が小さ過ぎると反発性及び腰のない風合となり、やはり天然皮革に近似した風合が得られにくくなる。
繊維質基体層(B)の厚さは得られる積層体の用途などに応じて決めることができるが、熱可塑性重合体組成物層(A)とのバランス、更には必要に応じて用いられる下記の多孔質層(C)の厚さとのバランスの点から、繊維質基体層(B)の厚さが0.3mm〜3mm、特に0.5mm〜2mm程度であることが好ましい。
繊維質基体層(B)と熱可塑性重合体組成物層(A)との接着を向上させるために、繊維質基体層(B)の表面に、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物と親和性の高い重合体を含む表面処理剤の被覆層を形成しておいてもよく、その場合の被覆層の厚さは5μm以下とすることが好ましい。
また、繊維質基体層(B)と熱可塑性重合体組成物層(A)との間に多孔質層(C)を設けると、柔軟な風合、適度な反発性および腰感が一層良好になる。多孔質層(C)は、柔軟性、弾力性、耐摩耗性、機械的強度、耐候性、耐加水分解性などに優れ、且つ層(A)および層(B)と親和性のある熱可塑性エラストマーから形成されていることが好ましい。
多孔質層(C)の形成に用い得る熱可塑性エラストマーとしては、例えば、熱可塑性ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの結晶性の芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ガラス転移温度の低い脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族ポリエステルポリカーボネートなどをソフトセグメントとするポリエステルエラストマー;6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロンなどのポリアミドをハードセグメントとし、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエステルエーテルなどをソフトセグメントとするポリアミドエラストマー;スチレン系重合体をハードセグメントとし、ポリイソプレン、ポリブタジエン、水素添加ポリイソプレン、水素添加ポリブタジエンなどをソフトセグメントとするスチレン系エラストマー;シリコーン系エラストマー;塩素化ポリマー系エラストマー;ポリプロピレンをハードセグメントとしエチレンプロピレンゴムや部分架橋エチレンプロピレンゴムなどをソフトセグメントとするポリオレフィン系エラストマー;フッ素系樹脂をハードセグメントとしフッ素系ゴムをソフトセグメントとするフッ素系重合体エラストマー;1,2−ブタジエン系重合体エラストマー;ウレタン/塩ビ系エラストマー;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸ナトリウム三元共重合体などのエチレン系共重合体などを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いて多孔質層(C)を形成することができる。
多孔質層(C)は、上記した熱可塑性エラストマーのうちでも、熱可塑性ポリウレタンから形成されているか又は熱可塑性ポリウレタンと他の熱可塑性エラストマーとの混合物から形成されていることが好ましい。多孔質層(C)をそれらから形成すると、繊維質基体層(B)/多孔質層(C)/熱可塑性重合体組成物層(A)の順に積層した際に、繊維質基体層(B)と多孔質層(C)との間の接着強度、及び熱可塑性重合体組成物層(A)と多孔質層(C)との間の接着強度が大きくなって両層間の剥離などが生じなくなり、物性に極めて優れる積層体を得ることができる。多孔質層(C)を熱可塑性ポリウレタンから形成するか又は熱可塑性ポリウレタンと他の熱可塑性エラストマーとの混合物から形成するに当っては、多孔質層(C)を形成する熱可塑性ポリウレタンとして、種々の熱可塑性ポリウレタンを使用することができる。一般的には、多孔質層(C)を形成する熱可塑性ポリウレタンとして、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物に比べて多少硬度の高いものを使用すると、積層体の耐摩耗性を一層向上させることができる。
しかし、それに限定されず、多孔質層(C)は、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物から形成してもよいし、又は該熱可塑性重合体組成物と任意の熱可塑性エラストマーとの混合物から形成してもよい。
多孔質層(C)[以下単に「層(C)」ということがある]は、熱可塑性エラストマーと共に(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体を含有する組成物から形成するのが好ましく、それによって多孔質層(C)の多孔化(発泡)がより良好に行われる。その際に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの種類は特に制限されず、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステルの1種又は2種から形成されていることができる。そのうちでも、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルから主としてなる共重合体が好ましく用いられる。
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体は、上記した(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共に、必要に応じて少量(一般に25モル%以下)の他の共重合性不飽和モノマー、例えば、エチレン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリルなどに由来する構造単位を有していてもよい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体の数平均分子量は、100,000以上、更には150,000以上、特に200,000以上であることが好ましい。但し、分子量が高すぎると、積層体表面の耐摩耗性、強度、平滑性が低下し易くなるので、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体の数平均分子量は5,000,000以下であることが好ましい。
多孔質層(C)の形成方法としては、例えば、層(C)を形成するための熱可塑性エラストマー(熱可塑性エラストマー組成物)に気泡発生物質を必要に応じて着色剤、酸化防止剤などの他の成分と共に添加し、それを押出成形機などを用いて加熱加圧下に溶融混練して溶融状態で多孔化した膜状に押し出し、流動性を有している間に繊維質基体層(B)の表面に押し付けて接着する溶融製膜法などを採用することができる。
その際の気泡発生物質としては、公知の種々の発泡剤を用いることができ、限定されるものではないが、例えばアゾジカルボンアミド、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、p−トルエンスルホニルヒドラジド、重炭酸ナトリウムなどのようにポリウレタンの分子量低下を引き起こす発泡剤(a)や、ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどのようにポリウレタンに架橋を促進する発泡剤(b)などを挙げることができ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。多孔質層(C)を構成する熱可塑性エラストマーとして熱可塑性ポリウレタンを用いる場合には、発泡剤(a)と発泡剤(b)を併用すると、発泡に伴う熱可塑性ポリウレタンの見掛け粘度の低下を抑制しながらポリウレタンの架橋度を適宜調節でき、それによって機械的性能、物理的性能、化学的性能に優れた、良好な多孔質層(C)を形成できるので好ましい。発泡剤の使用量は、一般に多孔質層(C)を形成するための重合体(重合体組成物)の質量に基づいて、0.3〜1.5質量%、特に0.6〜1.0質量%が好ましい。
多孔質層(C)の厚さは、多孔質層(C)を形成する熱可塑性エラストマーの種類、積層体の用途などによって調節することができる。一般に、20〜800μm、30〜600μm程度にすると、皮革様の風合を積層体に付与し、しかも表面強度、繊維質基体層(B)や熱可塑性重合体組成物層(A)との接着強度、屈曲に対する耐久性などを付与できるので好ましい。
多孔質層(C)が薄すぎると積層体の表面の耐摩耗性が低下し易くなり、一方多孔質層(C)が厚すぎると積層体の屈曲性が低下し、ゴム様の劣った風合となり、皮革様の風合が失われる傾向がある。
また、多孔質層(C)では気泡が均一に分散していることが好ましい。気泡が不均一に分散していると、積層体表面の耐摩耗性、強度、平滑性が低下し、色斑などを発生し易くなる。
多孔質層(C)の発泡の程度は、多孔質層(C)の20〜80体積%、特に30〜70体積%が気泡であるのが好ましく、それによって積層体の層間の剥離強力を低下させることなく、引っ張った際に表面に好ましくない凹凸などの生じにくい、高級感ある銀面層付きの合成皮革用の積層体を得ることができる。
多孔質層(C)は、気体発生物質(発泡剤)を用いる上記した多孔化方法により形成することが望ましい。例えば、湿式凝固などによる多孔化方法による場合は、ポリウレタン溶液の基体への塗布、それに続く凝固浴への投入により多孔化凝固、生成した多孔質体からの溶媒の除去などの多段工程が必要なため、多孔質層(C)を簡単な工程で高速で形成することができず、しかも溶媒の除去が不十分な場合には気泡の潰れなどを発生し易い。
本発明の合成皮革用の積層体は、熱可塑性重合体組成物層(A)が積層体の一方又は両方の最外層を形成していてもよいし、又は積層体の一方又は両方の表面に熱可塑性エラストマーからなる無孔質層(D)を最外層として更に有していてもよい。
無孔質層(D)を形成する熱可塑性エラストマーとしては、多孔質層(C)を形成し得る熱可塑性エラストマーとして上記で例示した種々の熱可塑性エラストマーの1種又は2種以上を使用することができ、そのうちでも熱可塑性ポリウレタンが好ましく用いられる。
本発明の合成皮革用の積層体は、熱可塑性重合体組成物層(A)及び繊維質基体層(B)、必要に応じて設けられる多孔質層(C)及び/又は無孔質層(D)の他に、本発明の効果を損なわない限りは、必要に応じて他の材料からなる層を更に有していてもよい。
本発明の積層体では層の数や積層構造なども特に制限されず、本発明の合成皮革用の積層体の用途などに応じて決めることができる。本発明の積層体の層構造としては、例えば、熱可塑性重合体組成物層(A)/繊維質基体層(B)からなる2層積層体、熱可塑性重合体組成物層(A)/繊維質基体層(B)/熱可塑性重合体組成物層(A)からなる3層積層体、繊維質基体層(B)/多孔質層(C)/熱可塑性重合体組成物層(A)からなる3層積層体、繊維質基体層(B)/熱可塑性重合体組成物層(A)/無孔質層(D)からなる3層積層体、繊維質基体層(B)/多孔質層(C)/熱可塑性重合体組成物層(A)/無孔質層(D)からなる4層積層体、熱可塑性重合体組成物層(A)/多孔質層(C)/繊維質基体層(B)/多孔質層(C)/熱可塑性重合体組成物層(A)からなる5層積層体などを挙げることができる。積層体が複数の層(A)、複数の繊維質基体層(B)、複数の多孔質層(C)、複数の無孔質層(D)、複数の他の材料からなる層を有する場合には、それぞれの層を構成する成分は同じであっても、又は異なっていてもよい。
本発明の積層体の製造方法は特に制限されず、各層間の剥離などを生じることなく円滑に製造し得る方法であればいずれの方法で製造してもよい。例えば、
(1)層(A)を形成するための熱可塑性重合体組成物を溶融押出成形して繊維質基材の表面に直接積層して熱可塑性重合体組成物層(A)及び繊維質基体層(B)を有する積層体を製造する工程;
(2)繊維質基体層(B)及び多孔質層(C)からなる積層体を製造した後に、多孔質層(C)の上に層(A)を形成するための熱可塑性重合体組成物を溶融押出成形により膜状に押し出し積層して熱可塑性重合体組成物層(A)/多孔質層(C)/繊維質基体層(B)からなる積層体を製造する工程;
などを採用すると、それぞれの層の特性を充分に備え且つ層間剥離のない高品質の積層体を、有機溶剤やフロンガスなどのような有害成分を使用することなく、生産性よく、円滑に製造することができる。
また、上記(2)の熱可塑性重合体組成物の積層工程においては、例えば、
(i)多孔質層(C)上に層(A)を形成するための熱可塑性重合体組成物を直接溶融押出して形成した積層物を1対のロール(ロールと対向するバックロール)の間を通して押圧する方法;
(ii)層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物をロール上に溶融押出した後、そのロールとそれと対向するバックロールとの間に、繊維質基体層(B)と多孔質層(C)とからなる積層体を供給し、該積層体の多孔質層(C)の上に前記熱可塑性重合体組成物を転写積層して押圧する方法;
(iii)繊維質基体層(B)と多孔質層(C)とからなる積層体における多孔質層(C)側にロールを配置しておき、その多孔質層(C)とロールとの間隙に層(A)を形成するための熱可塑性重合体組成物を直接溶融押出し、さらに繊維質基体層(B)と多孔質層(C)とからなる積層体の背面側[繊維質基体層(B)側]にバックロールを配置しておいて、押圧しながら積層させる方法;
などを採用することができる。
そして、層(A)を形成するための熱可塑性重合体組成物が流動性を有している限り、前記(i)〜(iii)のいずれの方法を採用しても、目的とする積層体を円滑に得ることができる。
熱可塑性重合体組成物層(A)が一方又は両方の最外層をなす積層体、及び無孔質層(D)が一方又は両方の最外層をなす積層体においては、最外層をなす層(A)及び/又は層(D)に、エンボス模様やシボ模様などの凹凸加工及び/又は鏡面加工などを施しておいてもよい。最外層をなす層(A)及び/又は層(D)の表面に凹凸加工を施した場合には、天然皮革に一層近似したエンボス模様やシボ模様などを積層体表面に出現させることができる。一方、最外層をなす層(A)及び/又は層(D)の表面に鏡面加工を施した場合には、エナメル調の光沢のある表面が積層体に付与される。また、本発明の積層体では、最外層をなす熱可塑性重合体組成物層(A)及び/又は無孔質層(D)の表面に凹凸加工及び鏡面加工の両方を施してもよく、その場合には光沢のあるエナメル調の表面に更に凹凸模様が施された状態になる。
凹凸加工及び/又は鏡面加工を施す方法は特に制限されず、例えば、最外層をなす層(A)及び/又は層(D)を形成する際に、凹凸加工及び/又は鏡面加工を施したロールを最外層をなす層(A)及び/又は層(D)表面に直接当接させて凹凸模様及び/又は鏡面を形成する方法;凹凸加工及び/又は鏡面加工を施してある離型性の加工シートを最外層をなす層(A)及び/又は層(D)表面に当接させ該加工シートの背部からロールなどによって押圧して層(A)及び/又は層(D)の表面に凹凸模様及び/又は鏡面を形成させる方法などを採用することができる。そして、離型性の加工シートを用いる後者の方法を採用した場合には、該加工シートを取り替えるだけで、最外層をなす熱可塑性重合体組成物層(A)及び/又は無孔質層(D)の表面に任意の凹凸模様及び/又は鏡面を形成することができ、便利である。
上記したいずれの方法による場合にも、最外層をなす熱可塑性重合体組成物層(A)及び/又は無孔質層(D)の表面に凹凸模様及び/又は鏡面を形成するための表面加工ロールや離型性の加工シートを、層(A)及び/又は無孔質層(D)がもはや流動しなくなってから層(A)及び/又は層(D)から剥離させるようにすることが好ましい。層(A)及び/又は層(D)が未だ流動性を有しているうちに表面加工ロールや離型性の加工シートを層(A)及び/又は層(D)から剥離すると、層(A)及び/又は層(D)の表面に形成された凹凸模様及び/又は鏡面模様が層(A)及び/又は層(D)の流動性によって崩れたり、消失したりして、鮮明な凹凸模様や、光沢に優れる鏡面模様が得られなくなる恐れがある。最外層をなす層(A)及び/又は層(D)表面に凹凸模様及び/又は鏡面を形成させるための表面加工ロールや離型性の加工シートの背部に配置する押圧ロールとして、内部に冷却液を循環するようにした形式のものを採用したり、該凹凸加工及び/又は鏡面加工を施す近辺に冷風を強制的に送って表面加工ロールや離型性の加工シートが層(A)及び/又は層(D)から剥離する付近を積極的に冷却する方法などを採用すると、凹凸加工及び/又は鏡面加工された層(A)及び/又は層(D)が速やかに冷却されて、表面加工ロールや離型性の加工シートの剥離を早期に行うことができるので好ましい。
より具体的には、繊維質基体層(B)/多孔質層(C)/熱可塑性重合体組成物層(A)からなる積層体の層(A)の表面に凸凹加工及び/又は鏡面加工を施す場合には、;
(a)上記した(i)〜(iii)の熱可塑性重合体組成物の積層工程のいずれかを行うに当たり、繊維質基体層(B)と多孔質層(C)からなる積層体の多孔質層(C)側に配置する上記のロール表面に、凹凸加工及び/又は鏡面加工を施しておいて、溶融状態にある熱可塑性重合体組成物を多孔質層(C)上に押圧積層すると同時に熱可塑性重合体組成物層(A)の表面に凹凸加工及び/又は鏡面加工を行う方法;
(b)熱可塑性重合体組成物層(A)を多孔質層(C)上に形成した後に、熱可塑性重合体組成物層(A)が未だ賦型が可能な可塑化状態にある間に凹凸加工及び/又は鏡面加工用の上記ロールを用いて層(A)表面に凹凸加工及び/又は鏡面加工を施す方法;
などにより行うことができる。
そのうちでも、上記(a)の方法が、工程数が少なくてすみ、生産性が高い点から好ましい。上記(a)の方法を採用する場合には、上記したロール及びバックロールによってもたらされる押圧力を、0.3〜1.5MPa(3〜15kg/cm2)のゲージ圧としておくと、熱可塑性重合体組成物層(A)表面への凹凸加工及び/又は鏡面加工を円滑に行うことができる。
多孔質層(C)上に熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する際に使用されるロール、並びに熱可塑性重合体組成物層(A)の表面に凹凸加工及び/又は鏡面加工を行う際のロールとしては、層(A)に直接接触させて用いられるロールの場合は、一般に金属製のロールが好ましく用いられる。また、層( A)に直接接触させないで用いるバックロールや、上記した離型性の表面加工シートの背部に用いられるロールとしては、金属製ロール、弾性体ロールなどのいずれもが使用可能であり、そのうちでも弾性体ロールを用いると押圧を安定して行うことができるので望ましい。
本発明の合成皮革用の積層体は、コート、ブレザー、スカートなどの衣類;靴やブーツなどの履物;バック、カメラケース、財布などの鞄類や袋物;ベルトなどの衣料雑貨;手袋等の生活用品;ソファー、ベッド、椅子などの家具類;車両シートなどの広範な用途に有効に使用することができる。
本発明の合成皮革用の積層体では、熱可塑性重合体組成物層(A)が弾力性および柔軟性に優れることにより、接触したときに柔らかい良好な感触を有する。
以下に、本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されない。
なお、以下の実施例及び比較例において、各種物性の測定及び評価は次のようにして行った。
《溶融粘度》
80℃で1時間減圧乾燥(10Torr以下)した熱可塑性ポリウレタン(I)、共重合体(II)又は熱可塑性重合体組成物の溶融粘度を、高化式フローテスター(島津製作所製「キャピラリーレオメーターCFT−500D」)を使用して、200℃で5分間予熱処理した後に、荷重=490.3N(50kgf)、ノズル寸法=直径1mm×長さ10mm、温度=200℃の条件下で測定した。次いで、予熱処理時間を変更してその溶融粘度を数点測定し、予熱処理時間に対して溶融粘度をプロットしたグラフを作成し、そのグラフから予熱処理時間に対して溶融粘度の変化がほぼ無くなったときの溶融粘度を求め、熱可塑性ポリウレタン(I)、共重合体(II)又は熱可塑性重合体組成物の溶融粘度とした。
《対数粘度(ηinh)》
N,N−ジメチルホルムアミド溶液に、熱可塑性ポリウレタンを濃度0.5g/dlになるように溶解し、ウベローデ型粘度計を用いてそのポリウレタン溶液の30℃における流下時間を測定し、下式により対数粘度を求めた。
対数粘度=[ln(t/t0)]/c
[式中、tはポリウレタン溶液の流下時間(秒)、t0は溶媒の流下時間(秒)、cはポリウレタン溶液の濃度(g/dl)を表す。]
《硬度》
熱可塑性重合体組成物を射出成形(シリンダー温度=180〜210℃、金型温度=30℃)して直径120mm、厚さ2mmの円板状試験片を成形し、それを2枚重ね合わせたものを用いて、JIS K−6301に準拠してショアーA硬度を測定した。
《引張強度》
上記の硬度の測定と同様の操作を行って円板状試験品(直径120mm、厚さ2mm)を製造し、得られた成形品を25℃で2日間放置した後、ダンベル3号形に打ち抜いて試験片を作成し、JIS K−7311に準じて、島津製作所「オートグラフ測定装置IS−D500D」を使用して、その引張破断強度を測定し、引張強度とした。
《溶融成形性》
熱可塑性重合体組成物をT−ダイ型単軸押出成形機(25mmφ、シリンダー温度=220℃、ダイス温度=220℃)から30℃の冷却ロール上に押し出し、約4m/分の巻き取り速度で巻き取ってシートを作製した。
約4m/分の巻き取り速度に追随して平滑なシートが得られたものを良好(○)、シートに破れは認められなかったが凹凸や荒れなどが生じていたものをやや不良(△)、シートに破れ、凹凸、荒れなどが生じていたものを不良(×)と評価した。
《耐ブロッキング性》
上記の「溶融成形性」の評価のために熱可塑性重合体組成物から作製したシートを一旦ロールに巻き取り、室温で24時間放置した後、手で巻き返し、その時の抵抗の大小に基づいて以下の基準により評価した。
◎:引張力を何ら要せずに極めて簡単に巻き返しが可能。
○:引張力をあまり要せずに円滑に巻き返しが可能。
△:かなりの引張力を要したが、巻き返しが可能。
×:膠着性が大きく、巻き返しが不可能。
《積層体の外観》
積層体の表面状態を目視により観察し、表面に破れや厚みムラなどに伴う凹凸や荒れなどが生じておらず、表面が薄いスキン層で覆われていて平滑なものを良好(○)、表面に破れや厚みムラなどに伴う凹凸や荒れなどが生じているものを不良(×)として評価した。
また、実施例及び比較例で使用した重合体及び化合物に関する略号及び内容を以下に示す。
《熱可塑性ポリウレタン》
・熱可塑性ポリウレタンC: ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン[(株)クラレ製「クラミロンU8165」]。
《官能基含有付加重合系ブロック共重合体混合物》
(1)F−HVSIS:
以下のHVSIS−OHを80モル%およびHVSISを20モル%の割合で含有する水添トリブロック共重合体混合物。
・HVSIS−OH:
分子の片末端に水酸基を有するポリスチレンブロック−ポリイソプレンブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体[数平均分子量=63,000、スチレン含有量=30質量%、ポリイソプレンブロックにおける水素添加率=90モル%、1分子当たりの平均水酸基数=0.8個、ポリイソプレンブロックにおける1,4−結合量=45モル%、1,2−結合及び3,4−結合量の合計量=55モル%(特開平10−139963号公報の参考例3に記載された方法に準じてスチレン及びイソプレンを原料として製造)。]
・HVSIS:
分子内に水酸基を持たないポリスチレンブロック−ポリイソプレンブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体の水素添加物[数平均分子量=63,000、スチレン含有量=30質量%、ポリイソプレンブロックにおける水素添加率=90モル%、ポリイソプレンブロックにおける1,4−結合量=45モル%、1,2−結合及び3,4−結合量の合計量=55モル%].
(2)F−SEEPS:
以下のSEEPS−OHを90モル%およびSEEPS−1を10モル%の割合で含有する水添トリブロック共重合体混合物。
・SEEPS−OH:
分子の片末端に水酸基を有するポリスチレンブロック−ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体の水素添加物[数平均分子量=50,000、スチレン含有量=30質量%、ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロックにおける水素添加率=98モル%、イソプレンとブタジエンのモル比=50/50、1分子当たりの平均水酸基数=0.9個、ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロックにおける1,2−結合及び3,4−結合量の合計量=8モル%(特開平10−139963号公報の参考例1に記載された方法に準じてスチレン、イソプレン及びブタジエンを原料として製造)。]
・SEEPS−1:
分子内に水酸基を持たないポリスチレンブロック−ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体の水素添加物[数平均分子量=50,000、スチレン含有量=30質量%、ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロックにおける水素添加率=98モル%、イソプレンとブタジエンのモル比=50/50、ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロックにおける1,2−結合及び3,4−結合量の合計量=8モル%。]
(3)無水マレイン酸変性SEBS:
ポリスチレンブロック−ポリブタジエンブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体の水素添加物の無水マレイン酸変性物[旭化成(株)製「タフテックM1943」、スチレン含有量=20質量%、酸価=10mgCH3ONa/g]。
《高分子ポリオール》
(1)POH−1:
3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸を反応させて製造した、1分子当たりの水酸基数=2.00、数平均分子量=1,500のポリエステルジオール[(株)クラレ製「クラレポリオールP−1500」]。
(2)POH−2:
3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸を反応させて製造した、1分子当たりの水酸基数=2.00、数平均分子量=3,500のポリエステルジオール[(株)クラレ製「クラレポリオールP−3500」]。
(3)POH−3:
1分子当たりの水酸基数=2.00、数平均分子量=2,000のポリヘキサメチレンカーボネートグリコール[日本ポリウレタン工業(株)社製「ニッポラン980N」]。
(4)POH−4:
1分子当たりの水酸基数=2.00、数平均分子量=2,000のポリテトラメチレングリコール[三菱化学(株)社製「PTMG2000」]。
(5)POH−5:
3−メチル−1,5−ペンタンジオール、トリメチロールプロパン及びアジピン酸を反応させて製造した、1分子当たりの水酸基数=3.00のポリエステルポリオール(数平均分子量=2,000)。
《鎖伸長剤》
・BD: 1,4−ブタンジオール。
・MPD: 3−メチル−1,5−ペンタンジオール。
《有機ジイソシアネート化合物》
・MDI: 4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート。
《ウレタン化反応触媒》
・ジブチルスズジアセテート。
《ブロック共重合体(III)》
(1)SEBS:
ポリスチレンブロック−ポリブタジエンブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体の水素添加物[(株)クラレ製「セプトン8006」]。
(2)SEEPS−2:
ポリスチレンブロック−ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体の水素添加物[(株)クラレ製「セプトン4055」]。
《パラフィン系オイル(IV)》
・パラフィン系オイル: 出光興産(株)製「ダイアナプロセス PW−380」。
《(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体》
・PM: メタクリル酸メチル75質量%及びアクリル酸ブチル25質量%からなる共重合体[数平均分子量=300,000、三菱レイヨン(株)製「メタブレンP530A]。
《熱分解型発泡剤》
・アゾジカルボンアミド系発泡剤: 永和化成工業(株)製「ポリスレンEB−106」。
《参考例1》[コンパウンドAの製造]
(1) ジブチルスズジアセテートを15ppm含有する高分子ポリオール(POH−1)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(鎖伸長剤;MPD)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、POH−1/MPD/MDI=1.0/3.5/4.5のモル比(窒素原子含有率は4.3質量%)で、且つこれらの合計供給量=90g/分で同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機[30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンは前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続供給して、260℃の連続溶融重合でポリウレタン形成反応を実施した。それと同時に、官能基含有付加重合系ブロック共重合体混合物(F−HVSIS)を110g/分の供給量で前記の二軸スクリュー型押出機の加熱ゾーンの中央部に連続供給し、上記のポリウレタン形成反応による反応混合物と反応させ、得られた溶融物をストランド状で水中に連続的に押し出し、ペレタイザーで切断して、ペレットを得た。得られたペレットを80℃で4時間除湿乾燥することによりコンパウンドAを得た。このコンパウンドAの溶融粘度は11,500ポイズであった。
(2) 上記(1)で得られたコンパウンドAの一部を取り、ジメチルホルムアミドを用いてコンパウンドA中の熱可塑性ポリウレタンを抽出除去した。次いでシクロヘキサンを用いて未反応のHVSIS−OH及びHVSISを抽出除去し、残留した固形物を乾燥することにより、付加重合系部分(HVSIS)と熱可塑性ポリウレタン(PU)とがブロック状に結合した共重合体(II)に相当するブロック共重合体(以下「ブロック共重合体(IIa−1)」という]を得た。
(3) 上記(2)で得られたブロック共重合体(IIa)を1H−NMRで分析した結果、ブロック共重合体(IIa−1)は、ポリスチレンブロック−水素添加ポリイソプレンブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体ブロック[付加重合系部分(イ)に相当]と、ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンジオールアジペート)単位、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート単位及び3−メチル−1,5−ペンタンジオール単位から構成される熱可塑性ポリウレタンブロック[熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)に相当]が結合したジブロック共重合体であることが分かった。
(4) また、上記(2)におけるシクロヘキサンによる抽出物をGPC分析した結果、ポリスチレンブロック−水素添加ポリイソプレンブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体ブロック[付加重合系部分(イ)に相当]を2個、ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンジオールアジペート)単位、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート単位及び3−メチル−1,5−ペンタンジオール単位から構成される熱可塑性ポリウレタンブロック[熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)に相当]を1個有するトリブロック共重合体[以下「ブロック共重合体(IIa−2)」という]を含有していることが分かった。
(5) 上記(1)で得られたコンパウンドAは、ブロック共重合体(IIa−1)100質量部に対して、熱可塑性ポリウレタン(ジメチルホルムアミドで抽出)を163質量部、未反応のHVSIS−OHを0質量部、HVSISを48質量部及びブロック共重合体(IIa−2)を124質量部の割合で含有していた。
前記各成分の含有量に基づいて、コンパウンドAにおける各成分の含有率を求めると次のとおりであった。
ブロック共重合体(IIa−1)=23.0質量%
ブロック共重合体(IIa−2)=28.5質量%
熱可塑性ポリウレタン=37.5質量%
HVSIS−OH=0質量%
HVSIS=11.0質量%
(6) また、ブロック共重合体(IIa−1)及びブロック共重合体(IIa−2)における付加重合系部分(イ)はいずれもHVSISと同じ構造及び数平均分子量を有していた。
《参考例2》[コンパウンドBの製造]
(1) ジブチルスズジアセテートを15ppm含有する高分子ポリオール(POH−2)、1,4−ブタンジオール(鎖伸長剤;BD)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、POH−2/BD/MDI=1.0/2.0/3.0のモル比(窒素原子含有率は1.9質量%)で、且つこれらの合計供給量=100g/分で同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンは前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続供給して、260℃の連続溶融重合でポリウレタン形成反応を実施した。それと同時に、官能基含有付加重合系ブロック共重合体混合物(F−SEEPS)を100g/分の供給量で上記の二軸スクリュー型押出機の加熱ゾーンの中央部に連続供給し、上記のポリウレタン形成反応による反応混合物と反応させ、得られた溶融物をストランド状で水中に連続的に押し出し、ペレタイザーで切断してペレットを得た。得られたペレットを80℃で4時間除湿乾燥することによりコンパウンドBを得た。コンパウンドBの溶融粘度は、37,000ポイズであった。
(2) 上記(1)で得られたコンパウンドBの一部を取り、ジメチルホルムアミドを用いてコンパウンドB中の熱可塑性ポリウレタンを抽出除去した。次いでシクロヘキサンを用いて未反応のSEEPS−OHとSEEPS−1を抽出除去し、残留した固形物を乾燥することにより、付加重合系部分(SEEPS)と熱可塑性ポリウレタン(PU)とがブロック状に結合した共重合体(II)に相当するブロック共重合体(以下「ブロック共重合体(IIb−1)」という]を得た。
(3) ブロック共重合体(IIb−1)を1H−NMRで分析した結果、ブロック共重合体(IIb−1)は、ポリスチレンブロック−水素添加ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体ブロック[付加重合系部分(イ)に相当]とポリ(3−メチル−1,5−ペンタンジオールアジペート)単位、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート単位及び1,4−ブタンジオール単位から構成される熱可塑性ポリウレタンブロック[熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)に相当]からなるジブロック共重合体であることが分かった。
(4) また、上記(2)におけるシクロヘキサンによる抽出物をGPC分析した結果、ポリスチレンブロック−水素添加ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロック−ポリスチレンブロック型のトリブロック共重合体ブロック[付加重合系部分(イ)に相当]を2個、ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンジオールアジペート)単位、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート単位及び1,4−ブタンジオール単位から構成される熱可塑性ポリウレタンブロック[熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)に相当]を1個有するトリブロック共重合体[以下「ブロック共重合体(IIb−2)」という]を含有していることが分かった。
(5) 上記(1)で得られたコンパウンドBは、ブロック共重合体(IIb−1)100質量部に対して、熱可塑性ポリウレタン(ジメチルホルムアミドで抽出)を183質量部、未反応のSEEPS−OHを0質量部、SEEPS−1を22質量部及びブロック共重合体(IIb−2)を130質量部の割合で含有していた。
前記各成分の含有量に基づいて、コンパウンドBにおける各成分の含有率を求めると次のとおりであった。
ブロック共重合体(IIb−1)=23.0質量%
ブロック共重合体(IIb−2)=29.9質量%
熱可塑性ポリウレタン=42.1質量%
SEEPS−OH=0質量%
SEEPS−1=5.0質量%
(6) また、ブロック共重合体(IIb−1)及びブロック共重合体(IIb−2)における付加重合系部分(イ)はSEEPS−1と同じ構造及び数平均分子量を有していた。
さらに、ブロック共重合体(IIb−1)の数平均分子量は85,000、ブロック共重合体(IIb−2)の数平均分子量は102,000であった。
《参考例3》[コンパウンドCの製造]
ジブチルスズジアセテートを15ppm含有する高分子ポリオール(POH−2)、1,4−ブタンジオール(鎖伸長剤;BD)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、POH−2/BD/MDI=1.0/2.0/3.0のモル比(窒素原子含有率は1.9質量%)で、且つこれらの合計供給量=150g/分で同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンは前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続供給して、260℃の連続溶融重合でポリウレタン形成反応を実施した。同時に、官能基含有付加重合系ブロック共重合体(無水マレイン酸変性SEBS)を50g/分の供給量で、上記の二軸スクリュー型押出機の加熱ゾーンの中央部に連続供給し、上記のポリウレタン形成反応による反応混合物と反応させ、得られた溶融物をストランド状で水中に連続的に押し出し、ペレタイザーで切断してペレットを得た。得られたペレットを70℃で4時間除湿乾燥することによりコンパウンドC(グラフト共重合体組成物)を得た。コンパウンドCの溶融粘度は18,900ポイズであった。
《参考例4》[熱可塑性ポリウレタンAの製造]
ジブチルスズジアセテートを15ppm含有する高分子ポリオール(POH−3)、1,4−ブタンジオール(鎖伸長剤;BD)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、POH−3/BD/MDI=1.0/1.4/2.4のモル比(窒素原子含有率は2.5質量%)で、且つこれらの合計供給量=200g/分で同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36)に連続供給して、260℃の連続溶融重合でポリウレタン形成反応を実施した。得られた溶融物をストランド状で水中に連続的に押し出し、ペレタイザーで切断してペレットを得た。得られたペレットを80℃で4時間除湿乾燥することにより熱可塑性ポリウレタンAを得た。熱可塑性ポリウレタンAの溶融粘度は33,000ポイズ及び対数粘度(ηinh)は1.35dl/gであった。
《参考例5》[熱可塑性ポリウレタンBの製造]
ジブチルスズジアセテートを20ppm含有する高分子ポリオール[POH−4とPOH−5の混合物(POH−4/POH−5=99.0/1.0のモル比);1分子当たりの平均水酸基数f=2.01]、1,4−ブタンジオール(鎖伸長剤;BD)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、(POH−4とPOH−5の混合物)/BD/MDI=1.0/0.7/1.7のモル比(窒素原子含有率は1.9質量%)で、且つこれらの合計供給量=200g/分で同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36)に連続供給して、260℃の連続溶融重合でポリウレタン形成反応を実施した。得られた溶融物をストランド状で水中に連続的に押し出し、ペレタイザーで切断してペレットを得た。得られたペレットを80℃で4時間除湿乾燥することにより熱可塑性ポリウレタンBを得た。熱可塑性ポリウレタンBの溶融粘度は17,500ポイズ及び対数粘度(ηinh)は1.38dl/gであった。
《実施例1》
(1) 参考例1で製造したコンパウンドAの100質量部に対して参考例4で製造した熱可塑性ポリウレタンAを400質量部の割合で混合した混合物を同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、シリンダー温度=190〜220℃、ダイス温度=220℃)で溶融混練りして熱可塑性重合体組成物をつくり、その熱可塑性重合体組成物を用いて押出成形機のT−ダイより温度30℃の冷却ロール上に押し出した後、約4m/分の巻き取り速度で巻き取って厚さ100μmのシートを製造した。その際の溶融成形性及び得られたシートの耐ブロッキング性を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、前記で得られた熱可塑性重合体組成物を使用して、上記した方法で硬度及び引張強度を測定したところ、表1に示すとおりであった。
(2) 単繊維繊度0.007dtexの極細ナイロン繊維を約300本収束した極細繊維束を用いて製造した極細ナイロン繊維絡合不織布(目付=300g/m2)にポリウレタン弾性体[(株)クラレ製「クラミロンU9198」、対数粘度(ηinh)=1.05dl/g、ショアーA硬度=98]のN,N−ジメチルホルムアミド溶液を含浸させ、乾燥して、厚さ1.3mm、目付442g/m2の繊維質基体シートを準備した(繊維質基体シートにおける極細ナイロン繊維絡合不織布:ポリウレタン弾性体の質量比=6:4)。
(3) 上記(2)で準備した繊維質基体シートを、鏡面加工を施した金属製ロールと弾性体バックロールとの間に通して連続的に供給すると共に、上記(1)で得られた熱可塑性重合体組成物を単軸押出成形機(25mmφ、シリンダー温度=170〜220℃、ダイス温度=225℃、ギアポンプ回転数=15rpm)で溶融混練し、ダイ部温度180℃で、T−ダイ(リップ幅=0.2mm、ダイ幅=350mm)より膜状に溶融押出したものを流動状態で前記した金属製ロールと繊維質基体シートとの間に供給し、ゲージ圧2kg/cm2でコールドプレスして、繊維質基体層の一方の表面に厚さ100μmの熱可塑性重合体組成物層が形成された積層体を製造した。得られた積層体の外観を上記した方法で評価したところ、表1に示すとおりであった。
《実施例2》
(1) 参考例1で製造したコンパウンドAの100質量部に対して参考例4で製造した熱可塑性ポリウレタンAを650質量部、SEBSを125質量部及びパラフィン系オイルを125質量部の割合で混合した混合物を二軸スクリュー型押出機(30mmφ、シリンダー温度=190〜220℃、ダイス温度=220℃)で溶融混練りして熱可塑性重合体組成物をつくり、それを押出成形機のT−ダイより温度30℃の冷却ロール上に押し出した後、約4m/分の巻き取り速度で巻き取って厚さ100μmのシートを製造した。その際の溶融成形性及び得られたシートの耐ブロッキング性を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、前記で得られた熱可塑性重合体組成物を使用して、上記した方法で硬度及び引張強度を測定したところ、表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体組成物を用いて、実施例1の(2)と同様にして、繊維質基体層の一方の表面に厚さ100μmの熱可塑性重合体組成物層が形成された積層体を製造した。得られた積層体の外観を上記した方法で評価したところ、表1に示すとおりであった。
《実施例3》
(1) 参考例2で製造したコンパウンドB100質量部に対して参考例5で製造した熱可塑性ポリウレタンBを700質量部、SEEPS−2を100質量部及びパラフィン系オイルを100質量部の割合で混合した混合物を同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、シリンダー温度=190〜220℃、ダイス温度=220℃)で溶融混練りして熱可塑性重合体組成物をつくり、それを押出成形機のT−ダイより温度30℃の冷却ロール上に押し出した後、約4m/分の巻き取り速度で巻き取って厚さ100μmのシートを製造した。その際の溶融成形性及び得られたシートの耐ブロッキング性を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、前記で得られた熱可塑性重合体組成物を使用して、上記した方法で硬度及び引張強度を測定したところ、表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体組成物を用いて、実施例1の(2)と同様にして、繊維質基体層の一方の表面に厚さ100μmの熱可塑性重合体組成物層が形成された積層体を製造した。得られた積層体の外観を上記した方法で評価したところ、表1に示すとおりであった。
《実施例4》
(1) 参考例3で製造したコンパウンドCの100質量部に対して参考例4で製造した熱可塑性ポリウレタンAを400質量部、SEEPS−2を100質量部及びパラフィン系オイルを100質量部の割合で混合した混合物を同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、シリンダー温度=190〜220℃、ダイス温度=220℃)で溶融混練りして熱可塑性重合体組成物をつくり、押出成形機のT−ダイより温度30℃の冷却ロール上に押し出した後、約4m/分の巻き取り速度で巻き取って厚さ100μmのシートを製造した。その際の溶融成形性及び得られたシートの耐ブロッキング性を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、前記で得られた熱可塑性重合体組成物を使用して、上記した方法で硬度及び引張強度を測定したところ、表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体組成物を用いて、実施例1の(2)と同様にして、繊維質基体層の一方の表面に厚さ100μmの熱可塑性重合体組成物層が形成された積層体を製造した。得られた積層体の外観を上記した方法で評価したところ、表1に示すとおりであった。
《比較例1》
(1) 参考例2で製造したコンパウンドBの100質量部に対して熱可塑性ポリウレタンCを100質量部の割合で混合した混合物を同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、シリンダー温度=190〜220℃、ダイス温度=220℃)で溶融混練りして熱可塑性重合体組成物をつくり、押出成形機のT−ダイより温度30℃の冷却ロール上に押し出した後、約4m/分の巻き取り速度で巻き取ろうとしたところ、正常に巻き取れなかったので約2m/分の巻き取り速度で巻き取って、厚さ300μmのシートを製造した。その際の溶融成形性及び得られたシートの耐ブロッキング性を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、前記で得られた熱可塑性重合体組成物を使用して、上記した方法で硬度及び引張強度を測定したところ、表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体組成物を用いて、実施例1の(2)と同様にして、繊維質基体層の一方の表面に厚さ300μmの熱可塑性重合体組成物層が形成された積層体を製造した。得られた積層体の外観を上記した方法で評価したところ、表1に示すとおりであった。
《比較例2》
(1) 参考例2で製造したコンパウンドBの100質量部に対して熱可塑性ポリウレタンCを200質量部、SEEPS−2を100質量部及びパラフィン系オイルを100質量部の割合で混合した混合物を同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、シリンダー温度=190〜220℃、ダイス温度=220℃)で溶融混練りして熱可塑性重合体組成物をつくり、押出成形機のT−ダイより温度30℃の冷却ロール上に押し出した後、約4m/分の巻き取り速度で巻き取ろうとしたところ、正常に巻き取れなかったので約2m/分の巻き取り速度で巻き取って厚さ200μmのシートを製造した。その際の溶融成形性及び得られたシートの耐ブロッキング性を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、前記で得られた熱可塑性重合体組成物を使用して、上記した方法で硬度及び引張強度を測定したところ、表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体組成物を用いて、実施例1の(2)と同様にして、繊維質基体層の一方の表面に厚さ100μmの熱可塑性重合体組成物層が形成された積層体を製造した。得られた積層体の外観を上記した方法で評価したところ、表1に示すとおりであった。
Figure 0004522313
上記の表1の結果にみるように、実施例1〜3では、層(A)が、熱可塑性ポリウレタン(I)と共に、芳香族ビニル重合体ブロック(a−1)と(水添)共役ジエン重合体ブロック(b−1)を有する付加重合系部分(イ)及び熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体(II)を含有し、且つ25℃での引張破断強度が10MPa以上である熱可塑性重合体組成物の溶融成形により形成されているために、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の溶融成形性および耐ブロッキング性に優れ、しかも積層体の外観にも優れている。
一方、比較例1および2では、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の引張破断強度が10MPaよりも小さいために、層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物の溶融成形性および耐ブロッキング性に劣り、しかも積層体の外観が不良である。
《実施例5》
実施例3で得られた、繊維質基体層と熱可塑性重合体組成物層とからなる積層体を、毛穴シボ状の凹凸加工を施してある金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通して供給するとともに、金属製エンボスロールと積層体の熱可塑性重合体組成物層表面との間に、無孔質層形成用の熱可塑性ポリウレタン組成物[参考例4で製造した熱可塑性ポリウレタンAの100質量部に対して黒色顔料ペレット(顔料濃度20質量%のポリエチレンペレット)5質量部を配合したもの]を、単軸押出機[25mmφ;シリンダー温度=170〜220℃、ダイ部温度=220℃]から、T−ダイ(リップ幅=0.5mm、ダイ幅=350mm)を通して膜状に溶融押出ししたものを流動状態で供給し、ゲージ圧4kg/cm2でコールドプレスして、熱可塑性重合体組成物層の表面に厚さ35μmの無孔質層を有する繊維質基材層/熱可塑性重合体組成物層(軟質の無孔質層)/無孔質層よりなる3層構造の積層体を製造した。この3層構造の積層体は3m/分のライン速度で安定して製造することができた。
この3層構造の積層体は、柔軟性に優れ、引っ張ったり、折れ曲げたときに表面に低品位の凹凸シワなどが生じず、外観、風合、触感などに極めて優れ、合成皮革用として好適なものであった。
《実施例6》
(1) 実施例1の(1)で準備したのと同じ繊維質基体シートを、鏡面加工を施した金属製ロールと弾性体バックロールとの間に通して連続的に供給すると共に、参考例2で製造したコンパウンドBの100質量部に対してPM[(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体]を10質量部及びアゾジカルボン酸アミド系発泡剤を10質量部の割合で混合した混合物を単軸押出成形機(25mmφ、シリンダー温度=170〜220℃、ダイス温度=176〜184℃、ギアポンプ回転数=15.0rpm)で溶融混練し、ダイ部温度180℃で、T−ダイ(リップ幅=0.2mm、ダイ幅=350mm)より膜状に溶融押出発泡させたものを流動状態で前記した金属製ロールと繊維質基体シートとの間に供給し、ゲージ圧8kg/cm2でコールドプレスして、繊維質基体層の表面に厚さ330μmの多孔質層が形成された積層体を製造した。この積層体における多孔質層の発泡倍率は2.0倍であった。
(2) 上記(1)で得られた繊維質基体層と多孔質層とからなる積層体を、毛穴シボ状の凹凸加工を施してある金属製エンボスロールと弾性体バックロールとの間に通して供給するとともに、金属製エンボスロールと積層体の多孔質層の表面との間に、実施例2で製造したのと同じ熱可塑性重合体組成物の100質量部に対して黒色顔料ペレット(顔料濃度20質量%のポリエチレンペレット)を5質量部の割合で配合した組成物を、単軸押出機〔25mmφ;シリンダー温度=170〜220℃、ダイ部温度=220℃〕から、T−ダイ(リップ幅=0.5mm、ダイ幅=350mm)を通して膜状に溶融押出ししたものを流動状態で供給し、ゲージ圧4kg/cm2でコールドプレスして、多孔質層の表面に厚さ35μmの熱可塑性重合体組成物層を形成させ、繊維質基体層/多孔質層/熱可塑性重合体組成物層よりなる3層構造の積層体を製造した。この3層構造の積層体は3m/分のライン速度で安定して製造することができた。
この3層構造の積層体は、柔軟性に優れ、引っ張ったり、折れ曲げたときに表面に低品位の凹凸シワなどが生じず、外観、風合、触感などにおいて極めて優れ、合成皮革用として好適なものであった。
本発明の合成皮革用の積層体は、加工性に優れ、しかも柔軟性、風合、耐摩擦溶融性、耐摩耗性、耐ブリード白化性、成形性、引張強度などの力学的性能、耐熱性などの諸特性に優れているため、それらの特性を活かして、靴、鞄、袋物、ベルト、手袋、衣料、家具、自動車などの車両用シートなどの広範な用途に有効に使用することができる。

Claims (11)

  1. 熱可塑性重合体組成物層(A)及び繊維質基体層(B)を有する合成皮革用の積層体であって、熱可塑性重合体組成物層(A)が、熱可塑性ポリウレタン(I)と共に下記の共重合体(II)の少なくとも1種を含有し且つ25℃での引張破断強度が10MPa以上である熱可塑性重合体組成物から形成した層であることを特徴とする合成皮革用の積層体。
    ・共重合体(II):
    芳香族ビニル化合物系重合体ブロック(a−1)と水素添加又は非水素添加の共役ジエン化合物系重合体ブロック(b−1)を有する付加重合系部分(イ)、及び熱可塑性ポリウレタン部分(ロ)がブロック状及び/又はグラフト状に結合した共重合体。
  2. 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物が、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して、共重合体(II)を5〜200質量部の割合で含有する請求項1に記載の合成皮革用の積層体。
  3. 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物が、芳香族ビニル化合物系重合体ブロック(a−2)と水素添加又は非水素添加の共役ジエン化合物系重合体ブロック(b−2)を有するブロック共重合体(III)を更に含有する請求項1又は2に記載の合成皮革用の積層体。
  4. 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物におけるブロック共重合体(III)の含有割合が、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して200質量部以下である請求項3に記載の合成皮革用の積層体。
  5. 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物が、パラフィン系オイル(IV)を更に含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の合成皮革用の積層体。
  6. 熱可塑性重合体組成物層(A)を形成する熱可塑性重合体組成物におけるパラフィン系オイル(IV)の含有割合が、熱可塑性ポリウレタン(I)100質量部に対して200質量部以下である請求項5に記載の合成皮革用の積層体。
  7. 繊維質基体層(B)が、極細繊維又は極細繊維束からなる絡合不織布シート、或いは前記絡合不織布シートに高分子材料を含浸付着した繊維質シートよりなる層である請求項1〜6のいずれか1項に記載の合成皮革用の積層体。
  8. 熱可塑性重合体組成物層(A)と繊維質基体層(B)との間に多孔質層(C)を更に有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の合成皮革用の積層体。
  9. 熱可塑性重合体組成物層(A)が、合成皮革用の積層体の一方又は両方の最外層を形成し、且つ熱可塑性重合体組成物層(A)の表面に凹凸加工及び/又は鏡面加工が施されている請求項1〜8のいずれか1項に記載の合成皮革用の積層体。
  10. 合成皮革用の積層体の一方又は両方の表面に、熱可塑性エラストマーからなる無孔質層(D)を最外層として更に有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の合成皮革用の積層体。
  11. 無孔質最外層(D)の表面に凸凹加工及び/又は鏡面加工が施されている請求項10に記載の合成皮革用の積層体。
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