JP3578415B2 - 3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する実質上純粋な微生物 - Google Patents

3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する実質上純粋な微生物 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する実質上純粋な微生物、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA及び3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の存在下、基質として1モルの3−ヒドロキシ酪酸に作用して1モルのNADを消費し、1モルのアセト酢酸及び1モルの還元型NADに変換する触媒作用を有し、酵素番号E.C.1.1.1.30として知られている(酵素ハンドブック、第6頁、1982年、朝倉書店発行)。
【0003】
3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は糖尿病の検査におけるケトン体の1つである3−ヒドロキシ酪酸の定量に利用される有用な酵素である。
【0004】
これまでに、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は動物由来のものとしては例えばラット脳〔Biochem.Cell Biol.,68,980−983(1990)〕、ラット肝臓〔Biochem.Cell Biol.68,1225−1230(1990)〕、ウシ心臓〔Arch.Biochem.Biophys.,262,85−98(1988)〕が報告されている。
【0005】
また、微生物由来のものとしてはロードスピリラム・ルブラム(Rhodospirillum rubrum)〔J.Biol.Chem.,237,603−607(1962)〕、シュードモナス・レモイグネイ(Pseudomonas lemoignei)〔J.Biol.Chem.,240,4023−4028(1965)〕、マイコバクテリウム・フレイ(Mycobacterium phlei)〔J.Gen.Microbiol.,104,123−126(1978)〕、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)〔Biochem.Biophys.Acta,839,300−307(1985)〕、ズーグロエア・ラミゲラ(Zoogloea ramigera)〔J.Biochem.,89,625−635(1981)〕、ロードシュードモナス・スフェロイデス(Rhodopseudomonas spheroides)〔Biochem.J.,241,297−300(1987)〕、アゾスピリルム・ブラジレンズ(Azospirillum brasilense)〔J.Gen.Microbiol.,136,645−649(1990)〕が報告されている。
【0006】
3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の遺伝子に関してはラットミトコンドリア(Biol.Cell,73,121−129(1991))、ヒト心臓(J.Biol.Chem.,267(22),15459−15463(1992))、ラット肝(Biochem.Cell Biol.,71,406−411(1993))等が報告されている。
【0007】
しかしながら、動物由来の3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は活性の発現にリン脂質を必要とし、また微生物由来の酵素はEDTAにより阻害を受け、更に0℃における失活や37℃、15分間の処理で70%失活するなどの欠点があり、さらにまた、上記いずれの生産株も生産性が低いことから、実用的ではなかった。そこで、活性発現にリン脂質を必要とせず、EDTAにより阻害をうけず、37℃で失活しない3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の遺伝子工学による生産が望まれていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような実情のもとで、ケトン体の定量に有用で、かつ理化学的性質において良好な3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を効率よく生産する微生物を開発し、この微生物を用いて該酵素を量産する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、まず、アルカリゲネス・エスピー・No.981(Alcaligenes sp.No.981;FERM BP−2570)が3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を産生することを見いだした(特願平6−181047号明細書)。
【0010】
しかしながら、その生産性が低いことが判明したため、本3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素について高純度に精製し、そのN末端領域のアミノ酸分析を行い、この結果に基づき種々プローブを作成したが3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子を保持するクローンを見いだすことができなかった。
【0011】
さらに研究を続け、本IFO−13111株から3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する微生物由来の染色体DNAライブラリーを構築し、この中から、該酵素を発現する遺伝子DNAをスクリーニングすることに成功し、次いでこのDNAを用いて発現ベクターを構築した後、例えばエッシェリヒア・コリー(Escherichia coli;以下E.coliと略称する)に属する微生物に導入して3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する実質上純粋な形質転換微生物を作出し、これを培地中で培養することによって、該3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を効率よく量産することを見出した。この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
本発明は上記の知見に基づいて完成されたもので、
【0012】
【化4】
Figure 0003578415
で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列から実質的になるDNAを保持する組換えプラスミドによって形質転換された3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する実質上純粋な微生物、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAである。
更に本発明は、
【0013】
【化5】
Figure 0003578415
で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列から実質的になるDNAを保持する組換えプラスミドによって形質転換された3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する実質上純粋な微生物を培地に培養し、ついでその培養物から3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を採取することを特徴とする3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の製造法である。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する形質転換された微生物を作出するのに用いられる3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を発現する遺伝子DNAは、例えば該酵素を生産する微生物由来の染色体DNAライブラリーの中から、スクリーニングすることによって得ることができる。
【0015】
本発明においては、前記の3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する微生物として、アルカリゲネス・ファエカリスIFO−13111(FERM BP−4750)またはアルカリゲネス・エスピー・No.981(Alcaligenes sp.No981;FERM BP2570)が好ましく用いられる。
【0016】
例えば、アルカリゲネス・ファエカリスIFO−13111の場合、その染色体DNAライブラリーから該酵素を発現する遺伝子DNAをスクリーニングする方法の具体例について説明すると、まず、該微生物の染色体DNA100〜2000μg程度を通常用いられている方法によって抽出した後、その1〜10μg程度を制限酵素Sau3AIで部分切断して、例えばクローニング用ベクターのプラスミドpUC119BamHI部位に連結し、次いでこの組換えDNAを宿主微生物に導入して該染色体DNAのクローニングを行い、10〜10クローンからなる染色体DNAライブラリーを作製する。この際用いられる宿主微生物としては、組換えDNAが安定でかつ自律的に増殖可能であるものであれば特に制限されず、通常の遺伝子組換えに用いられているもの、例えばエッシェリヒア属、バチルス属に属する微生物などが好ましく使用される。
【0017】
宿主微生物に組換えDNAを導入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア属に属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下に組換えDNAの導入を行ってもよいし、コンピテントセル法を用いてもよい。またバチルス属に属する微生物の場合には、コンピテントセル法またはプロトプラスト法などを用いることができるし、エレクトロポレーション法あるいはマイクロインジェクション法を用いてもよい。
【0018】
宿主微生物への所望組換えDNA導入の有無の選択については、組換えDNAを構成するベクターの薬剤耐性マーカーに基づく選択培地で、該宿主微生物を培養し、生育する宿主微生物を選択すればよい。
次いで、前記の染色体DNAの中から、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を発現する遺伝子をスクリーニングするわけであるが、この段階が本発明において非常に困難な部分であった。
【0019】
通常、遺伝子のクローニングは、コードされているタンパクの部分的アミノ酸配列から推定されるDNA配列をもとにした合成DNAプローブを用いるハイブリダイゼーション法によって行われる。常法に従い、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素のN末端領域のアミノ酸配列から種々の合成DNAプローブを作製し、スクリーニングを行ったが、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子を保持するクローンを見い出すことは出来なかった。
【0020】
そこで、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性を指標としたショットガン法によってクローニングすることを試みた。詳細は後述するが、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子のプロモーターが大腸菌内で機能するかどうか判らないのでベクターに付属のlacプロモーターの下流に外来遺伝子を挿入し、大腸菌に導入後培地に添加したIPTG(イソプロピルβ−D(−)−チオガラクトピラノシド)によってlacプロモーターが機能するよう誘導をかけた。
【0021】
その際、しばしばこのような誘導によって大腸菌の生育が悪くなり目的のクローンを得ることができないことから、一度IPTG無添加で遺伝子ライブラリーを作製した後、IPTG添加プレートにレプリカすることによってIPTGの悪影響を防いだ。また、メンブレン上にレプリカした菌体を用いて3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性の有無を調べるために、培地および大腸菌由来の酵素タンパクの影響(バックグラウンドの上昇)を避けるため、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が高いpHの環境でも安定であることを利用して、アルカリ性の緩衝液で前処理を行った。さらに、シグナルを検出する感度を上げるため、反応液にリゾチームを加えた。これらのことを組み合わせることによって初めて目的の遺伝子DNAのクローニングを達成することが出来た。
【0022】
次に、この目的の遺伝子DNAを含む形質転換された宿主微生物から、例えばマニアティス(Maniatis)らの方法[「モレキュラル・クローニング:コールドスプリングハーバー(Molecular Cloning:ColdSpring Harbor)」(1982年)]などに従って、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を発現するDNAを含む組換えプラスミド(pHBD1と命名した)を調製することができる。このプラスミドの構成を示す模式図を図4に示した。
【0023】
次に、前記のようにして染色体DNAライブラリーの中から、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を発現する遺伝子DNAを選択し、それを組み込んだ発現ベクターを構築する。この発現用ベクターとしては、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。前者のファージとしては、例えばE.coliを宿主微生物とする場合には、λgt・λC、λgt・λBなどが用いられる。
【0024】
また、プラスミドとしては、E.coliを宿主微生物とする場合には、例えばpBR322、pBR325、pACYC184、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119などが用いられる。さらに、バチルス属を宿主微生物とする場合は、例えばpHY300PLKなどを用いればよく、サッカロミセス属を宿主微生物とする場合は、例えばpYAC5などを用いればよい。
【0025】
これらのベクターに、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子DNAを組み込む方法についてはとくに制限はなく、従来慣用されている方法を用いることができる。例えば適当な制限酵素を用いて、前記の3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子DNAを含む組換えプラスミド及び該発現用ベクターを処理し、それぞれ3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子を含むDNA断片及びベクター断片を得た後、それぞれの接着末端をアニーリング後、適当なDNAリガーゼを用いて結合させることによって、発現プラスミドが得られる。
【0026】
後述の実施例における発現プラスミドは、前記の組換えプラスミドpHBD1とベクタープラスミドpUC119から得られ、pHBD2と命名されたものであり、その構成の模式図は図5に示したとおりである。また、該プラスミド中のアルカリゲネス・ファエカリスIFO−13111染色体DNA由来(3−HBDH Gene)の部位の制限酵素地図は図3に示したとおりである。
【0027】
このようにして、構築された発現ベクターをE.coliに属する微生物に導入し、該宿主微生物を形質転換させれば3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する実質上純粋な微生物が得られる。発現ベクターの導入及び選択方法については前述した方法を用いて行う。
【0028】
本発明においては、前記組換えプラスミドpHBD2によって形質転換されたE.coliに属する微生物は、エッシェリヒア・コリーDH1−pHBD2(FERM BP−4749)と命名された。
【0029】
このようにして得られた形質転換微生物の培養は、該微生物の生育に必要な炭素源や窒素源などの栄養源や無機成分などを含む培地中において行うことができる。炭素源としては、例えばグルコース、デンプン、ショ糖、モラッセス、デキストリンなどが挙げられる。窒素源としては、例えばペプトン、肉エキス、カゼイン加水分解物、コーンスチープリカー、硝酸塩、アンモニウム塩などが挙げられ、無機成分としては、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、亜鉛、マンガン、鉄などの陽イオンや塩素、硫酸、リン酸などの陰イオンを含む塩が挙げられる。
【0030】
培養方法については特に制限はなく公知の方法、例えば通気撹拌培養、振盪培養、回転培養、静置培養などの方法によって、通常20〜50℃、好ましくは25〜42℃、より好ましくは37℃近辺で、12〜48時間程度培養する方法が用いられる。
【0031】
このようにして培養を行ったのち、遠心分離処理などの手段によって菌体を集め、次いで酵素処理、自己消化、フレンチプレス、超音波処理などによって細胞を破壊して目的とする酵素を含有する抽出液を得る。この抽出液から、該酵素を分離、精製するには、例えば、塩析、脱塩、イオン交換樹脂による吸脱着処理などを行ったのち、さらに吸着クロマトグラフィー、ゲル濾過、電気泳動法などによって精製すればよい。
【0032】
この精製標品について、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の酵素活性及び物理化学的性質を調べることによって、該形質転換微生物が3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の産生能を有することが確認された。
したがって、本発明において用いた3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を発現する遺伝子DNAは、図1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、かつその塩基配列が図2に示す配列であることが明らかであり、特に本発明は3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列から実質的になるDNAを提供でき、上記塩基配列の均等物も包含される。
【0033】
このようにして得られた3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は、NADの存在下、3−ヒドロキシ酪酸をアセト酢酸に効果的に変換する触媒作用を有することから、例えば血清中のケトン体の1つである3−ヒドロキシ酪酸の定量など、臨床用酵素として有用である。
なお、本発明明細書に記載の塩基配列の記号及びアミノ酸配列の記号は、当該分野における慣用略号に基づくもので、それらの例を以下に列記する。また、すべてのアミノ酸はL体を示すものとする。
【0034】
DNA:デオキシリボ核酸
A:アデニン
T:チミン
G:グアニン
C:シトシン
N:アデニン、チミン、グアニンまたはシトシン
R:アデニンまたはグアニン
Y:チミンまたはシトシン
Ala:アラニン
Arg:アルギニン
Asn:アスパラギン
Asp:アスパラギン酸
Cys:システイン
Gln:グルタミン
【0035】
Glu:グルタミン酸
His:ヒスチジン
Ile:イソロイシン
Leu:ロイシン
Lys:リジン
Met:メチオニン
Phe:フェニルアラニン
Pro:プロリン
Ser:セリン
Thr:スレオニン
Trp:トリプトファン
Tyr:チロシン
Val:バリン
【0036】
【実施例】
次に、参考例及び実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
参考例1
染色体DNAの分離:
アルカリゲネス・ファエカリスIFO−13111(FERM BP−4750)菌株を普通ブイヨン培地〔18g/リットル、普通ブイヨン「栄研」(栄研化学社製)〕200mlにて30℃で一昼夜振盪培養した後、この培養液を高速冷却遠心機(トミーCX−250型)を用い、6500rpm(7660G)で10分間遠心分離処理して、菌体を集菌した。
【0037】
次いで、この菌体を50mMトリス−塩酸(pH8.0)、50mMのEDTA(pH8.0)及び15%シュクロースからなる溶液20ml中に懸濁し、最終濃度が2mg/mlとなるようにリゾチーム(生化学工業社製)を加え、37℃で30分間処理して菌株の細胞壁を破壊した。
次に、これに10%ラウリル硫酸ナトリウム(シグマ社製)水溶液1mlを加えて、37℃で20分間処理した後、10000rpm(12080G)で10分間遠心分離処理して水相を回収した。
【0038】
この水相に2倍量のエタノールを静かに重層し、ガラス棒でゆっくり撹拌しながら、DNAをガラス棒にまきつかせて分離した後、10mMトリス−塩酸(pH8.0)及び1mM EDTAからなる溶液20mlで溶解し、次いでこれに等量のフェノール/クロロホルム(1/1)混合液を加え、撹拌した後、10000rpm(12080G)で10分間遠心分離処理して水相を分取した。
次に、この水相に2倍量のエタノールを加えて前記の方法でもう一度DNAを分離した後、10mMトリス−塩酸(pH8.0)及び1mM EDTAからなる溶液2mlに溶解した。
【0039】
参考例2
アルカリゲネス・ファエカリスIFO−13111遺伝子ライブラリーの作製:
参考例1で得られたアルカリゲネス・ファエカリスIFO−13111染色体10μgを制限酵素Sau3AI(宝酒造社製)0.3単位を用い、50mMのトリス−塩酸(pH7.5)、100mMのNaCl、10mMのMgCl及び1mMのDTTからなる混合物100μg/mlの存在下、37℃で30分間切断処理した。そして、0.7%アガロースゲル電気泳動にて約2.0〜6.0kbのDNA断片を回収した。
【0040】
また、クローニングベクターpUC119(宝酒造社製)5μgを制限酵素BamHI(宝酒造社製)30単位を用い、20mMのトリス−塩酸(pH8.5)、100mMのKCl、10mMのMgCl及び1mMのDTTから成る混合物100μg/mlの存在下、37℃で3時間切断処理した。pUC119の切断溶液は、5’末端を脱リン酸化するために、さらに反応液にアルカリ性ホスファターゼ(宝酒造社製)1単位を加えて65℃で2時間処理した。
【0041】
次に、前記のようにして得られた2種のDNA溶液を混合し、この混合液に等量のフェノール/クロロホルム(1/1)混合液を加えて処理した後、遠心分離処理によって水相を分取した。次いで、この水相に1/10量の3M酢酸ナトリウム溶液を加え、さらに2倍量のエタノールを加えて遠心分離処理することによってDNAを沈澱させた後、減圧乾燥した。
【0042】
このDNAを10mMトリス−塩酸(pH8.0)及び1mMのEDTA溶液からなる溶液にて溶解した後、66mMトリス−塩酸(pH7.6)、6.6mMのMgCl、10mMのDTT及び660μMのATP(ベーリンガーマンハイム社製)の存在下、T4DNAライゲース(宝酒造社製)100単位を用い、16℃で16時間ライゲーションを行った。
【0043】
次いで、これをケー・シゲサダ(K.Shigesada)の方法[「細胞工学」第2巻、616〜626ページ(1983年)]によりコンピテント細胞としたE.coli DH1(ATCC33849)[F、recA1、endA1、gyrA96、thi−1、hsdR17(r 、m )、SupE44、relA1、λ][「モレキュラル・クローニング:コールドスプリングハーバー(Molecular Cloning:Cold Spring
Harbor)」504〜506ページ(1982年)]にトランスフォーメーションし、これをアンピシリン50μg/ml含有BHI寒天培地にて、37℃で一昼夜培養し、約30000株の形質転換微生物を得て、これを遺伝子ライブラリーとした。
【0044】
実施例1
3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子含有DNAのスクリーニング:
参考例2で得た遺伝子ライブラリー、すなわち平板寒天培地上のアンピシリン耐性コロニーの上に、ナイロンメンブレンフィルター[ハイボンド−N+(アマシャムジャパン社製)]を重ね、フィルター上に該コロニー菌体の一部を移行させた後、このフィルターをアンピシリン50μg/ml、1mMのIPTG含有BHI寒天培地上に菌体が上になるようにして置き、37℃で6時間培養した。
【0045】
そしてこのナイロンメンブレンを100mMのグリシン−NaOH(pH10.0)で浸した濾紙上に置き、5分間放置し、これをもう一度繰り返した。次に、100mMのトリス−塩酸(pH8.5)で浸した濾紙上に置き、5分間放置した。これを3回繰り返した。
【0046】
更に、100mMのトリス−塩酸(pH8.5)、0.1%のリゾチーム(生化学工業社製)、1mMのNAD、5mMの3−ヒドロキシ酪酸、5単位/mlのジアフォラーゼ、0.025%のNBT及び0.1%のトリトンX−100から成る溶液を浸した濾紙上に置き、発色(紫色)するコロニーを選択し、1株の陽性株を得た。該コロニーを3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素をコードするDNAを含む形質転換体E.coli DH1−pHBD1と命名した。
【0047】
実施例2
組み換えプラスミドの抽出:
上記実施例1で取得したE.coli DH1−pHBD1を、アンピシリン50μg/ml含有BHI培地にて37℃で一昼夜培養した後、ティー・マニアティスらの方法[「モレキュラル・クローニング:コールド・スプリング・ハーバー(Molecular Cloning:Cold Spring Harbor)」第86〜94ページ(1982年)]により、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素をコードするDNAを含む組み換えプラスミドpHBD1を抽出した。このプラスミドの構成を示す模式図を図4に示した。
【0048】
該プラスミド中のアルカリゲネス・ファエカリスIFO−13111染色体由来の部位をジデオキシ法[「サイエンス(Science)」第214巻、第1205〜1210ページ(1981年)]により、塩基配列を決定し、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素をコードする全DNAが含まれていることを確認すると共に、その全塩基配列を決定し、少なくとも図2にて示される配列を含むものであることを確認した。
今回解析した3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素精製標品のN末端側アミノ酸配列30残基(図6)が完全に一致した。
【0049】
実施例3
大腸菌内での3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の活性発現:
実施例2で得られたプラスミドpHBD1の5μgを制限酵素NheI及びEcoRI(宝酒造社製)それぞれ10単位を用い、10mMのトリス−塩酸(pH7.5)、50mMのNaCl、10mMのMgCl及び1mMのDTTから成る溶液50μg/mlで切断し、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子を含む約1.5kbのDNAフラグメントを0.7%アガロースゲル電気泳動で分離回収した。
【0050】
一方、E.coliのベクタープラスミドpUC119(宝酒造社製)5μgを制限酵素XbaI及びEcoRI(宝酒造社製)を用い、上記と同じ反応溶液で切断し、100mMのトリス−塩酸(pH8.0)存在下に、アルカリ性フォスファターゼ(宝酒造社製)1単位を加え、65℃で2時間処理した。
【0051】
次いで、前記のDNA溶液を混合し、参考例2と同様にライゲーション、トランスフォーメーションを行い、アンピシリン50μg/ml含有BHI寒天培地にまき、37℃で一昼夜培養した。このようにして、ベクタープラスミドpUC119のXbaI及びEcoRI部位に3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子を含む約1.5kbのDNAフラグメントが挿入されたプラスミドを得、これをプラスミドpHBD2と命名し、このプラスミドで常法により、E.coli DH1 を形質転換して、形質転換微生物を取得した。
【0052】
プラスミドpHBD2を保持する形質転換微生物をアンピシリン50μg/ml含有BHI培地にて37℃一昼夜培養した後、培養液を15000rpmで1分間遠心分離処理して沈澱を回収した。この沈澱に、該培養液と同量の10mMトリス−塩酸(pH8.0)を加え、超音波破砕を行った。
【0053】
この破砕液を適宜希釈した後、5μlとり、これに1Mのトリス−塩酸(pH8.5)50μl、50mMの3−ヒドロキシ酪酸の100μl、10mMのNADの100μl、0.25%ニトロブルーテトラゾリウム 20μl、100単位/mlのジアフォラーゼ50μl、10%のトリトンX−100を10μl及び水670μlからなる反応液1000μlを加え、37℃で10分間反応した後、0.1NのHClを2ml加えて反応を停止し、550nmにおける吸光度を測定することによって、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性を定量した。
【0054】
なお、比較のためにpUC119のみをトランスフォーメーションしたE.coliの破砕液についても前記と同様の処理を行い、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性を測定した。
【0055】
その結果、プラスミドpHBD2を保持した形質転換微生物での活性は22.4U/mlであったが、pUC119を持つものの活性は検出できなかった。これより、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性をもつ形質転換体が得られていることが確認された。この形質転換体をエッシェリヒア・コリー DH1−pHBD2(Escherichia coli DH1−pHBD2)(FERM BP−4749)と命名した。さらに得られた3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を単離・精製し、物理化学的性質を検討した結果は下記の通りである。
【0056】
物理化学的性質:
(1)酵素作用:基質として3−ヒドロキシ酪酸を用いた酵素作用を以下に示す。
【0057】
【化6】
Figure 0003578415
(2)基質特異性:3−ヒドロキシ酪酸に基質特異性を示す。各種基質に対する特異性は表1の通りである。
【0058】
【表1】
Figure 0003578415
【0059】
(3)Km値:1.6±0.5(mM)(3−ヒドロキシ酪酸)
0.12±0.005(mM)(NAD)
(4)等電点:5.0±0.2(キャリアーアンフォラインを用いた電気泳動法にて)
(5)分子量:60000±5000(TSK G−3000SWによるゲル濾過法にて)、30000±5000(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法にて)
【0060】
(6)至適pH:pH5.0〜6.0の範囲は100mMの酢酸緩衝液、pH6.0〜7.5の範囲は100mMのリン酸緩衝液、pH7.5〜9.0の範囲は100mMのトリス−塩酸緩衝液、pH9.0〜11.0の範囲は100mMのグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液を使用して、至適pHを求めた。その結果、至適pHは8〜9にあった。
【0061】
(7)pH安定性:100mMの各種緩衝液(3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素1U/ml)を37℃、60分間処理し、その残存活性を求めた。pH4.0〜5.0は100mMクエン酸緩衝液、pH5.0〜6.0は100mM酢酸緩衝液、pH7.5〜9.0は100mMのトリス−塩酸緩衝液、pH9.0〜11.0は100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液を使用した。その結果、pH7.5〜11の範囲で最も良好な安定性を示した。
【0062】
(8)至適温度:温度を25℃〜60℃の範囲で変化させて至適温度を求めた結果、本酵素の至適温度は45〜50℃であった。
(9)熱安定性:100mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)(3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素1U/ml)を各温度で10分間加熱処理した後の残存活性を測定した結果、少なくとも37℃まで安定であった。
(10)金属イオンの影響:各種金属イオン(1mM)の本酵素活性への影響について調べた結果は表2に示す通りで、銅イオンによる強い阻害がみられた。
【0063】
【表2】
Figure 0003578415
【0064】
(11)EDTA、NaNの影響:EDTA、NaN(1mM)の本酵素活性への阻害影響について調べた結果、影響はなかった。
上記のように発現蛋白の理化学的性質を確認し、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が発現されたことを確認した。
【0065】
【発明の効果】
本発明によるとアルカリゲネス・ファエカリスIFO−13111由来の染色体DNAライブラリーから、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を発現する遺伝子DNAをスクリーニングし、これを用いて構築された発現ベクターの組み換えプラスミドを例えばE.coliに属する微生物に導入することによって、得られた形質転換微生物は効率よく3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産することができた。また、本発明によって、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の全アミノ酸配列及びこのアミノ酸をコードする遺伝子DNAの塩基配列が決定できたので、該酵素の基質及び補酵素特異性の変換や耐熱性の向上などのプロテインエンジニアリングが可能となった。
【配列表】
【0066】
Figure 0003578415
Figure 0003578415
Figure 0003578415
【配列表】
【0067】
Figure 0003578415

【図面の簡単な説明】
【図1】3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素のアミノ酸配列を示す図である。
【図2】図1のアミノ酸をコードする3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子DNAの塩基配列を示す図である。
【図3】プラスミドpHBD2におけるアルカリゲネス・ファエカリスIFO−13111由来の染色体DNAの制限酵素地図である。
【図4】プラスミドpHBD1の構造を示す模式図である。
【図5】プラスミドpHBD2の構造を示す模式図である。
【図6】3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素精製標品のN末端側アミノ酸配列を示す図である。
【図7】本発明で用いた3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子発現プラスミドの構築の流れを示す模式図である。

Claims (9)

  1. 配列番号:1に示した1〜260で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを保持する組換えプラスミドによって形質転換された3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する微生物。
  2. 微生物がエッシェリヒア属に属する微生物である請求項1記載の微生物。
  3. エッシェリヒア属に属する微生物が、プラスミドpHBD2によって形質転換されたものである請求項2記載の微生物。
  4. プラスミドpHBD2によって形質転換された微生物が、エッシェリヒア・コリーDH1−pHBD2(FERM BP−4749)である請求項3記載の微生物。
  5. 配列番号:1に示した1〜260で表されるアミノ酸配列を有する3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素をコードする塩基配列からなるDNA
  6. 塩基配列が配列番号:1に示した404〜1183で表される塩基配列である請求項5記載のDNA
  7. 配列番号:1に示した1〜260で表されるアミノ酸配列を有する3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素をコードする塩基配列からなるDNAを保持する組換えプラスミドによって形質転換された3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を生産する微生物を培地培養し、次いでその培養物から3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を採取することを特徴とする3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の製造法。
  8. 形質転換された微生物が、プラスミドpHBD2によって形質転換された微生物である請求項7記載の3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の製造法。
  9. プラスミドpHBD2によって形質転換された微生物が、エッシェリヒア・コリーDH1−pHBD(FERM BP−4749)である請求項8記載の3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の製造法。
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