JP3572279B2 - 印刷用版材、印刷用版材の製造方法及び印刷用版材の再生方法 - Google Patents

印刷用版材、印刷用版材の製造方法及び印刷用版材の再生方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、デジタルデータに基づき版へ直接画像を書き込むことができる印刷機に好適な印刷用版材、印刷用版材の製造方法及び係る印刷用版材の再生方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
印刷技術一般として、昨今、印刷工程のデジタル化が進行しつつある。これは、パソコンで画像、原稿を作成したり、スキャナ等で画像を読み込むことにより当該画像データをデジタル化し、このデジタルデータから直接印刷用版を製作するというものである。このことによって、印刷工程全体の省力化が図れるとともに、高精細な印刷を行うことが容易になる。
【0003】
従来、印刷に用いる版としては、陽極酸化アルミを親水性の非画線部とし、その表面上に感光性樹脂を硬化させて形成した疎水性の画線部を有する、いわゆるPS版(Presensitized Plate)が一般的に用いられてきた。このPS版を用いて印刷用版を作成するには複数の工程が必要であり、このため版の製作には時間がかかり、コストも高くなるため、印刷工程の時間短縮および印刷の低コスト化を推進しにくい状況である。特に少部数の印刷においては印刷コストアップの要因となっている。また、PS版では現像液による現像工程を必要とし、手間がかかるだけでなく、現像廃液の処理が環境汚染防止という観点から重要な課題となっている。
【0004】
さらに、PS版では、一般に原画像が穿設されたフィルムを版面に密着させて露光する方法が用いられており、デジタルデータから直接版を作成し印刷工程のデジタル化を進めるうえで印刷用版の作成が障害となっている。また、一つの絵柄の印刷が終わると、版を交換して次の印刷を行わなければならず、版は使い捨てにされていた。
【0005】
上記PS版の欠点に対して、印刷工程のデジタル化に対応し、さらに現像工程を省略できる方法が提案され商品化されているものもある。例えば、特開昭63―102936号公報では、液体インクジェットプリンタのインクとして感光樹脂を含むインクを用い、これを印刷製版材に噴射し、その後で、光照射により、画像部を硬化させることを特徴とする製版方法が開示されている。また、特開11―254633号公報では、固体インクを吐出するインクジェットヘッドによりカラーオフセット印刷用刷版を作成する方法が開示されている。
【0006】
さらにまた、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にカーボンブラックなどのレーザ吸収層、さらにその上にシリコン樹脂層を塗布したものに、レーザ光線で画像を書き込むことによりレーザ吸収層を発熱させ、その熱によりシリコン樹脂層を焼き飛ばして印刷用版を作成する方法、あるいは、アルミ版の上に親油性のレーザ吸収層を塗布し、さらにその上に塗布した親水層を前記と同様にレーザ光線で焼き飛ばして印刷用版とする方法、などが知られている。
この他にも、親水性ポリマーを版材として使用し、画像露光により照射部を親
油化させ版を作成する手段も提案されている。
しかし、このような方法では、デジタルデータから直接版を作成することは可能であるが、一つの絵柄の印刷が終わると新しい版に交換しなければ次の印刷が出来ず、従って、一度使った版は廃棄されることに変わりはない。
【0007】
さらにまた、例えば、特開平10―250027号公報では、酸化チタン光触媒を用いた潜像版下、潜像版下の製造方法、及び潜像版下を有する印刷装置が開示されており、また特開平11―147360号公報においても、光触媒を用いた版材によるオフセット印刷法が開示されている。これらは、いずれも画像書き込みには光触媒を活性化させる光、すなわち実質的に紫外線を用い、加熱処理で光触媒を疎水化して版を再生する方法を提案している。
また、特開平11―105234号公報で開示された平版印刷版の作成方法では、光触媒を活性光、すなわち紫外線で親水化した後、ヒートモード描画にて画線部を書き込む方法を提案している。
しかし、東京大学・藤嶋教授、橋本教授らにより、酸化チタン光触媒は加熱処理で親水化することが確認されており〔三邉ら「酸化チタン表面の構造変化に伴う光励起親水化現象の挙動に関する研究」、光機能材料研究会第5回シンポジウム「光触媒反応の最近の展開」資料,(1998) p.124−125〕、これによれば、上記各公開公報で開示された方法では、版の再生利用あるいは版の作成は不可能である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記事情に対して、本発明者らは、デジタルデータから直接版を作成することができ、現像工程・現像液を必要としないで実用上十分な画質を有し、かつ版材を再生し繰り返し使用することを可能とする印刷用版材の作製方法、再生方法及び印刷機の開発を行い、平成12年11月29日に特許出願を行った(整理番号200002461)。
そして、その後、さらに光触媒を用いたコート層の改良について鋭意検討を重ねた。
すなわち、本発明は、コート層の強度を維持しつつ、光触媒の活性を向上させた印刷用版材、その製造方法及び係る印刷用版材の再生方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る印刷用版材は、基材または中間層上に、アモルフォスの光触媒ゾルを塗布し、焼成することよりなるゾルゲル法により形成された実質的に光触媒のみからなるコート層を含み、該コート層が上記光触媒の連続層であることを特徴とする。
また、本発明に係る印刷用版材は、別の形態で、少なくとも基材と、実質的に光触媒のみからなるコート層とを含み、該コート層がアナターゼ型の光触媒粒子を上記光触媒の連続層で固めて成ることを特徴とする。この場合にも、コート層をゾルゲル法により形成する。
【0010】
上記コート層と上記基材との間には、上記光触媒とバインダー機能を有する材料とを含む傾斜層を設けることができる。また、上記コート層と上記基材との間に、バインダー機能を有する材料から成る中間層を設けることもできる。
【0011】
上記光触媒としては、酸化チタンを挙げることができる。また、上記バインダー機能を有する材料としては、TiO2、Al23、ZrO2およびSiO2を挙げることができる。
上記光触媒が酸化チタンの場合、上記連続層をゾルゲル法で作製するときに調製するゾルは、酸化物としての形態のときに、酸化チタン光触媒を含むゾルであり、具体的には酸化チタンゾル、過酸化チタンゾル、水酸化チタンゾルのいずれかととすることが好適である。
上記連続層をゾルゲル法で作製するときに調製するゾルの原料は有機チタン化合物が好適である。
【0012】
また、本発明は、別の側面において、ゾルゲル法による印刷用版材の製造方法であり、基材または中間層上に、アモルフォスの光触媒ゾルを塗布し、焼成し、実質的に光触媒のみからなるコート層を形成することからなり、該コート層が上記光触媒の連続層であることを特徴とする。
またさらに、本発明は、別の側面において、印刷用版材の再生方法であって、疎水性インキを用いた印刷を終了した後に、光触媒を含むコート層表面のインキ除去工程、コート層表面の再生工程、コート層表面への疎水化剤塗布工程を経て、印刷用版材を版作製時の初期状態に戻すことを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る印刷用版材、その製造方法及び係る印刷用版材の再生方法についてさらに詳細に説明する。
図1は、本発明に係る印刷用版材の一実施の形態について、その表面を示す断面図を示している。この印刷用版材(版材)Pは、基材1と、中間層2と、コート層3と、から構成されている。この図において、コート層3の表面(版材表面、版面)上には、後述する有機系化合物層4が形成されている。
基材1は、アルミニウムやステンレス等の金属、ポリマーフィルムなどで構成されている。ただし、基材1の材質は、これらアルミニウムやステンレス等の金属あるいはポリマーフィルムに限定されるものではない。
【0014】
基材1の表面上には、中間層2が形成されている。中間層2としては、例えば、シリカ(SiO2)、シリコーン樹脂、シリコーンゴム等のシリコーン化合物がその材質として利用される。これらは、バイダー機能を有する材料である。そのうち特に、シリコーン樹脂としては、シリコーンアルキド、シリコーンウレタン、シリコーンエポキシ、シリコーンアクリル、シリコーンポリエステル等が使用される。この中間層2は、基材1と後述するコート層3との付着を確実なものとならしめるため、また密着性を向上させるために形成されているものである。基材1とコート層3との間に、必要により中間層2を介することにより、コート層3の付着強度を十分に保つことが可能となる。ただし、基材1とコート層3との付着強度が十分に確保できる場合には、中間層2はなくてもさしつかえない。さらに、基材1がポリマーフィルム等のように光触媒の作用によって劣化する物質から構成されている場合は、必要に応じて、基材1の保護のために形成されることもある。
また、この中間層2を上記光触媒とバインダー機能を有する材料とを含む傾斜層として形成することもできる。例えば、光触媒とシリカについて光触媒:シリカ=10:0〜0:10の傾斜層とすることが好適であるがこれに限るものではない。
【0015】
中間層2上または基材1の上に、実質的に酸化チタンのみを光触媒として含むコート層3が光触媒層として形成されている。このコート層3は、本発明の特徴部分を構成する。このコート層3の表面は、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ波長の光、例えば紫外線を照射することによって高い親水性を示すようになる。この性質は、酸化チタン光触媒の備える性質に依るものである。
図2は、非画線部の有機系化合物を除去した後、紫外線照射により親水性を示しているコート層3が露出した状態を表している。この親水性を示すコート層3の露出により、印刷用版材Pの非画線部を形成することが可能となる。
光触媒としては酸化チタン光触媒が好適であるが、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明では、コート層3が、実質的に光触媒のみから成る。「実質的に光触媒のみから成る」とは、100%光触媒のみから成る場合の他、コーティング膜を均一にするために通常添加される界面活性剤といったような成分を不可避的に含む場合も含む。
このコート層3は、光触媒の連続層である。連続層とは、光触媒作用を有さない物質が実質的に含まれていないことを意味し、粒子状の光触媒を光触媒作用を示さないバイダーで結合したものや、光触媒相と光触媒作用を示さない物質相が混合した複合物などは「連続層」とは呼ばない。
このような連続層は、ゾルゲル法によって形成することができる。ゾルゲル法では、アモルファスの光触媒ゾルを塗布し焼成して形成した光触媒のみで実質的にコート層を形成する。酸化チタンなどの光触媒を有するゾル、あるいはチタン原子など酸化物の形態で光触媒作用をする金属原子を含有するアモルファスゾルを調製し、これを基材1上または中間層2上に塗布し、加熱することによってゲル化する。加熱による結晶化で、例えば酸化チタンの場合であれば最も活性が高いとされる100%アナターゼ型の連続層とすることが好適であるが、必要な触媒活性と強度を維持できる限り、部分的に他の結晶型やアモルフォス構造を持つものであっても良い。
【0017】
例えば、水系あるいは溶媒系の酸化チタンゾル、過酸化チタン、水酸化チタンゾルのいずれかを、基材1または中間層3上に塗布し、350℃で60分間焼成してゲル化させることによって形成することができる。
酸化チタンゾルとしては、石原産業のSTS−01、STS−02、テイカのTKS−201、TKS−202、TKS−203、TKS−251TKC−302、TKC−303、TKC−304、堺化学のCSB、CSB−M、LAC−NTS、多木化学のA−6、M−6など、過酸化チタンゾルとしては、テイカのTKC−301、TKC−305、アリテックスのPTA、TOsolなどがあるが、これらに限るものではない。水酸化チタンゾルは、下記の有機チタン化合物を加水分解するなどして調製したものを用いればよい。
【0018】
これらのゾルの原料として、高純度のものが入手しやすいことから有機チタン化合物が好適である。例えば、有機チタン化合物に水と硝酸を添加して加水分解させて水酸化ゾルを形成し、これを基材1または中間層3上に塗布し、500℃で60分間加熱してゲル化させることによって形成することができる。
【0019】
有機チタン化合物としては、例えば、日本曹達製の テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、チタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレート、チタニウムステアレート、さらに有機チタン化合物誘導体であるチタンキレート、チタンアシレート等を採用することができるがこれにかぎるものではない。
【0020】
また、本発明では、コート層を、結晶型の光触媒粒子を光触媒の連続層で固めることによっても形成できる。
【0021】
この場合、例えば、光触媒粒子の一次粒径は0.1μm以下、好ましくは0.05μmであることが好ましい。これは、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ光照射下で有機系化合物を分解する光触媒性能を高くするためには、酸化チタン光触媒の粒子径はある程度小さく比表面積が大きい方が好ましいからである。
この形態では、光触媒が、実質的にバインダーとしても機能する。
この形態では、例えば触媒活性の高い結晶型の光触媒粒子をアモルファスの光触媒ゾルに分散させたゾルを塗布し、焼成して基材1または中間層3上にコート層を形成する。
【0022】
また、コート層3の膜厚は、0.01〜10μmの範囲内にあることが好ましい。というのは、膜厚があまりに小さければ、前記した性質を十分に生かすことが困難となるし、また、膜厚があまりに大きければ、コート層3がヒビ割れし易くなり、耐刷性低下の要因となるためである。なお、このヒビ割れは膜厚が20μmを越えるようなときに顕著に観察されるから、前記範囲を緩和するとしても当該20μmをその上限として認識する必要がある。また、実際上は0.1〜3μm程度の膜厚とするのが、より好ましい。
【0023】
有機系化合物層4は、コート層3の表面上に反応ないし固着された際に疎水化剤として作用する有機系化合物を、水や有機溶剤といった液体中に溶解あるいは分散させた液をコート層3の表面上に塗布し、乾燥させることで形成されている。
なおここでいう「有機系化合物」とは、「加熱処理によりコート層の表面(版材表面)に反応ないし固着される性質と、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ光を照射することで光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ」有機系化合物である。以下、有機系化合物とは、こうした性質を有する有機系化合物をいうものとする。
また、「有機系化合物を含む液」は、後述する有機系化合物の種類に応じて、水性又は油性に調整される。なお、「水性」の基準としては、塗布する段階での液中の有機溶剤含有量が30wt%以下であり、また「油性」の基準としては、塗布する段階での液中の有機溶剤含有量が30wt%を越えるものである。ここで用いる有機溶剤としては、有機系化合物が溶解あるいは分散可能なものであればよく、取扱性やコストの点からは、パラフィン系又はイソパラフィン系の溶剤が好適であるが、これに限定されるものではない。
【0024】
以下では、本発明による印刷用版材Pの作製方法と再生方法について説明する。印刷用版材Pの作製方法は、「疎水化剤塗布工程」、「画線部書き込み工程」及び「疎水化剤除去工程」からなる。また、印刷用版材Pの再生方法は、「インキ除去工程」及び「再生工程」からなる。
【0025】
先ず、印刷用版材Pの作製方法について説明する。図3に、印刷用版材Pの作製と再生の概念図を示す。
なお、以下において「版の作製」とは、有機系化合物を含む液を版材表面上に塗布した後、該版材表面の少なくとも一部をデジタルデータに基づいて加熱処理して疎水性画線部を形成し、加熱処理されなかった版材表面上の前記有機系化合物を除去することをいうものとする。
【0026】
先ず、コート層3表面に、酸化チタン光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ波長の光を照射し、図2に示すような状態、すなわち印刷用版材Pの版材表面全面を水Wの接触角が10°以下の親水性表面とするような状態を現出させておく。この、酸化チタン光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ波長の光とは、より具体的には、波長380nm以下の光を含む紫外線である。
そして、疎水化剤塗布工程として、この親水性のコート層3の表面に、有機系化合物を含む液(この図では符号4Lで示す)を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させ、図1の状態、すなわちコート層3上に有機系化合物層4が形成された状態を作る。図3(a)は、前記有機系化合物を含む液を塗布した状態を、図3(b)は、前記塗布液を室温程度の常温で乾燥させた状態を、各々示している。
コート層3の表面のこの状態を「版作製時の初期状態」という。なお、上記でいう「版作製時の初期状態」とは、実際上の印刷工程におけるその開始時とみなしてよい。より具体的にいえば、ある与えられた任意の画像に関して、それをデジタル化したデータが既に用意されていて、これを版材上に書き込みしようとするときの状態を指すものとみなせる。
【0027】
上記状態となっている、有機系化合物層4に覆われたコート層3の表面に対して、画線部書き込み工程として、画線部を書き込む。
この画線部は、画像に関するデジタルデータに準拠して、そのデータに対応するように行われる。なお、ここでいう画線部とは、水の接触角が50°以上、好ましくは80°以上の疎水性部分であり、印刷用の疎水性インキが容易に付着し、一方、湿し水の付着は困難な状態になっている。
この疎水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法として、有機系化合物層4を加熱し、前記有機系化合物をコート層3上に反応ないし固着させる方法が好適である。画線部を加熱した後、加熱されなかった部分(非加熱部分)である、疎水性画線部以外の部分に塗布された有機系化合物を除去することにより、非画線部を現出させ、版を作製することができる。
【0028】
こうした加熱方法としては、光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ光を照射することにより加熱処理を行うのが好ましい。この「光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ光」とは、具体的には、赤外線である。こうした光を照射すれば、有機系化合物を光触媒作用で分解させることなくコート層3上に反応ないし固着させることができる。
【0029】
ここでは、図3(c)に示すように、赤外線書き込みヘッド6を用いた赤外線照射によって、少なくとも一部の有機系化合物層4を加熱し、有機系化合物をコート層3の表面に反応あるいは固着させて画線部4aを形成するようにしている。
【0030】
画線部4aを形成した後、図3(d)に示すように、洗浄スプレー7を用いて、水または水を含む洗浄液を有機系化合物層4に吹き付け、非加熱部分の有機系化合物層4を洗浄・除去して、非画線部5を現出させる。これで、図3(e)に示すように、コート層3の表面への画線部4aと非画線部5の形成が完了し、印刷可能な状態となる。
【0031】
なお、有機系化合物を含む液の塗布面を加熱し、疎水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法として、ここでは、光で画線部を書き込んで光のエネルギーで加熱するように構成した例を示しているが、他の構成、例えばサーマルヘッドによる有機系化合物層4の直接加熱であってもよいことはいうまでもない。
【0032】
上記までの処理が終了したら、コート層3の表面に、印刷用の疎水性インキと湿し水を混合した状態で塗布する。すると、例えば図4に示すような、印刷用版材Pが製作されたことになる。
この図において、網掛けされた部分は、有機系化合物が光触媒を含むコート層3の表面と反応もしくは固着して形成された部分、すなわち疎水性部分の画線部4aに、疎水性インキが付着した状態を示している。残りの白地の部分、すなわち親水性部分である非画線部5には、湿し水が優先的に癒着する一方、疎水性インキははじかれて付着しなかった状態を示している。このように絵柄が浮かび上がることにより、コート層3の表面は、印刷用版としての機能を有することになる。
この後、通常の印刷工程を実行し、これを終了させる。
【0033】
次に、印刷用版材Pの再生方法について説明する。
なお、「版の再生」とは、少なくとも一部が疎水性を示し残りが親水性を示す版材表面を、全面均一に親水化した後、この親水性の版材表面に有機系化合物を含む液を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させることによって、再び「版作製時の初期状態」に復活させることをいうものとする。
【0034】
まず、インキ除去工程として、印刷終了後のコート層3の表面に付着したインキ、湿し水、紙粉などを拭き取る。
その後、再生工程として、少なくとも一部が疎水性を示すコート層3の表面全面に、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ光を照射する。こうすることで、画線部4aを形成する有機系化合物を分解して除去し、コート層3の表面全面を、水の接触角が10°前後の親水性表面とする、すなわち図2に示す状態とすることが可能である。
【0035】
光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ波長の光、例えば紫外線、を照射することによって、コート層3表面に存在する有機系化合物を分解・除去し、かつ高い親水性を有するという性質は、酸化チタン光触媒の備える性質に依るものである。ここでは、図3(f)に示すように、紫外線照射ランプ8を用いて、紫外線照射のみで画線部4aを形成する有機系化合物を分解し、コート層3aの表面、すなわち親水性表面を露出させる場合を示している。
紫外線照射により全面親水性に回復したコート層3表面に、有機系化合物を含む液4Lを再度常温で塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させることによって、版作製時の初期状態に戻すことが可能である。
【0036】
また、コート層3の表面全面に、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ光を照射して有機系化合物を分解する操作と、水または水を含む洗浄液でコート層3の表面を洗浄する操作と、を交互に繰り返すことにより、さらに容易にコート層3の表面全面を、水の接触角が10°前後の親水性表面とすることが可能である。
【0037】
上記有機系化合物としては、加熱により版材表面の親水性部分と反応もしくは強く固着し親水性表面に疎水性を付与する作用を有する一方、常温では前記反応もしくは固着が実質的に起らないことはもちろん、それとともに紫外線照射下において酸化チタン光触媒の作用で容易に分解されるものが好ましい。
具体的には(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン・アクリル酸、スチレン・アクリル酸エステルなどのスチレン・アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、エチレン、エチレン・アクリル酸、エチレン・アクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、変性エチレン酢酸ビニル樹などのエチレン系樹脂、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルなどのビニル系樹脂等の微粒子が好ましい。
なお、有機系化合物はこれらに限るものでは無い。
【0038】
以上説明したことを、まとめて示しているのが図5に示したグラフである。これは、横軸に時間(あるいは操作)、縦軸に水の接触角をとったグラフであって、本実施形態における印刷用版材Pに関して、そのコート層3の表面の接触角(すなわち、疎水、親水状態)が時間あるいは操作に伴ってどのように変化するかを示したものである。この図において、一点鎖線はコート層3の表面又は非画線部5を、実線は画線部4を、各々示している。
まず、コート層3の表面に紫外線を照射して、コート層3の表面の、水の接触角が10°前後、好ましくは10°以下である高い親水性を示すようにしておく。
最初に、疎水化剤塗布工程(Aの工程)として、コート層3の表面に、前記有機系化合物を含む液を塗布し(点a)、その後、必要があれば液を室温程度の常温で乾燥させる。なお、この図においては、乾燥工程を必要としない場合を示している。有機系化合物を含む液を塗布し終わった状態が、つまり「版作製時の初期状態」である。
【0039】
次に、画線部書き込み工程(Bの工程)として、コート層3の表面上の有機系化合物の画線部相当部分を加熱して、画線部の書き込みを開始する(点b)。こうすることによって、有機系化合物はコート層3の表面と反応または固着し、画線部は高い疎水性を示すようになる。一方、非画線部では有機系化合物と版面との反応または固着は実質的に起らず、画線部書き込み前と同じ状態を維持する。 画線部書き込みが完了したら、疎水化剤除去工程(Cの工程)として、非画線部の有機系化合物を、洗浄等の方法によるコート層3の表面から除去を開始する(点c)。すなわち、非画線部5として、親水性のコート層3の表面を露出させる。これにより、コート層3の表面は、有機系化合物が反応または固着して形成された疎水性の画線部と、有機系化合物が除去された親水性の非画線部が現出し、印刷用版として機能することができるようになる。
非画線部5の除去が完了した後、印刷工程(Dの工程)として、印刷を開始することになる(点d)。
【0040】
印刷が終了すると、インキ除去工程(Eの工程)として、コート層3の表面のインキ、汚れなどを拭き取ってクリーニングを開始する(点e)。
クリーニング完了、すなわちインキの拭き取りが完了した後に、再生工程(Fの工程)として、コート層3の表面への紫外線照射を開始する。こうすることにより、前記の有機系化合物で形成された画線部4aを分解・除去し、コート層3の表面を再び親水性に戻す。
この後、次の疎水化剤塗布工程(A'の工程)として、再び有機系化合物を含む液を塗布する(点a')ことにより、「版作製時の初期状態」に戻ることになり、この印刷用版材Pは再利用に供されることになる。
【0041】
【実施例】
本発明に係る印刷用版材について、以下に実施例を挙げて説明する。
実施例1
まず、その面積が280×204mm、厚さが0.1mmのステンレス(SUS301)製の基材1を用意し、この基材をブラックニッケルによる黒染め処理を行なった。この処理により、830nmの赤外線の吸収率は処理前の30%から、黒染め処理後は90%以上に向上した。この黒染め処理SUS基板をアルカリ脱脂処理し、版材基板として用いた。
【0042】
テイカ株式会社製の酸化チタンゾルTKS−203と過酸化チタンゾルTKC−301を重量比1:4の割合で混合した液を上記黒染め処理した基板にディップコートし、350℃で加熱して、酸化チタン光触媒層を版材表面に形成した。光触媒層の厚みは約0.2μmであった。この版材表面の鉛筆硬度は4〜5Hであった。
【0043】
次に、版全面に低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を10秒照射した後、紫外線照射部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は5°となり、非画線部として十分な親水性を示した。
【0044】
次に、ジョンソンポリマー製のスチレン・アクリル系樹脂(商品名「J−678」)をエタノールに溶解し、濃度1wt%の樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液中に、界面活性剤イオネット T−60−C(三洋化成製)を樹脂に対して10wt%添加した後、樹脂溶液70部に対してイオン交換水(冷水)30重量部を添加し、樹脂微粒子を析出させた。その後、エバポレータを用いて液温40℃にてエタノールを脱気し、熱可塑性樹脂微粒子の水分散液を調製した。走査電子顕微鏡で樹脂粒子を観察すると、粒径0.07〜0.1μmの球状粒子であった。
【0045】
紫外線を照射して親水性となっている版全面に、ロールコートにより上記疎水化剤を塗布した後、25℃で5分間風乾し、次に、波長830nm、出力100mW/チャンネル、ビーム径15μmの赤外線レーザを用いた画像書き込み装置により版面に画線率10%から100%までの10%刻みの網点画像を書き込むことで、照射部分の樹脂微粒子を加熱溶融し、版面に固着させフィルム層(4)を形成した。この樹脂微粒子が固着した部分についてCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は80°で、画線部が出来ていることを確認した。
【0046】
この版材を(株)アルファー技研の卓上オフセット印刷機ニューエースプロに取り付け、東洋インキ製のインキHYECOO B紅MZと三菱重工業(株)製の湿し水リソフェロー1%溶液を用いて、アイベスト紙に印刷速度3500枚/時にて印刷を開始した。印刷開始1〜3枚目は、画線部が印刷されるだけでなく、本来インキが付かない非画線部にもインキが部分的に付着し汚れているような印刷物であったが、次第に汚れは消えていき、7枚目には本来の非画線部となり、紙面上には網点画像が印刷できた。
【0047】
次に印刷用版材の再生に係わる実施例を説明する。印刷終了後、版面上に付着したインキ、湿し水、紙粉などをきれに拭き取った版全面に、低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を20秒照射した。その後、網点を書き込んでいた部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は8°となり、十分な親水性を示すを確認した。すなわち、版材は疎水化剤塗布前の状態戻り、版再生ができたことを確認した。
【0048】
比較例1
実施例1のテイカ株式会社製の酸化チタンゾルTKS−203と過酸化チタンゾルTKC−301を重量比1:4の割合で混合した液の替わりに、テイカ株式会社製の酸化チタンゾルTKS−203にバインダーとして日産化学製のシリカゾル スノーテックス20を重量比1:4の割合で混合した液を前記黒染め処理した基板にディップコートした以外は、実施例1と同様にして、版作製し、印刷と再生を行った。触媒層の鉛筆硬度は5Hで、実施例1の触媒層と同等であった。しかし、印刷終了後、版面上に付着したインキ、湿し水、紙粉などをきれに拭き取った版全面に、低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を照射した際、網点を書き込んでいた部分の接触角が8°に成るまで100秒間紫外線を照射しなければ成らず、実施例1の触媒層より光触媒活性が低いことが確認できた。
【0049】
実施例2
実施例1のテイカ株式会社製の酸化チタンゾルTKS−203と過酸化チタンゾルTKC−301を重量比1:4の割合で混合した液の替わりに、テイカ株式会社製の過酸化チタンゾルTKC−301を前記黒染め処理した基板にディップコートした以外は、実施例1と同様にして、版作製し、印刷と再生を行った。触媒層の鉛筆硬度は5Hであった。
印刷終了後、版面上に付着したインキ、湿し水、紙粉などをきれに拭き取った版全面に、低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を20秒照射した。その後、網点を書き込んでいた部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は6°となり、十分な親水性を示すを確認した。
【0050】
実施例3
実施例1のテイカ株式会社製の酸化チタンゾルTKS−203と過酸化チタンゾルTKC−301を重量比1:4の割合で混合した液の替わりに、日本曹達製の有機チタン化合物テトラ−n−ブトキシチタン10部にメタノール10部と5wt%硝酸水溶液5部を添加して有機チタン化合物を加水分解し、水酸化チタンゾルとしてを前記黒染め処理した基板にディップコートした以外は、実施例1と同様にして、版作製し、印刷と再生を行った。触媒層の鉛筆硬度は4〜5Hであった。
【0051】
印刷終了後、版面上に付着したインキ、湿し水、紙粉などをきれに拭き取った版全面に、低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を20秒照射した。その後、網点を書き込んでいた部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は7°となり、十分な親水性を示すを確認した。
以上のように、本実施例によれば、本発明に係る印刷用版材では、光触媒の活性が向上していることが了解される。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、コート層の強度を維持しつつ、光触媒の活性を向上させた印刷用版材、その製造方法及び印刷用版材の再生方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る印刷用版材の一実施の形態について、その構成を示す断面図である。また、この図はコート層の表面に有機系化合物層が形成されている状況も同時に示している。
【図2】本発明に係る印刷用版材の一実施の形態について、その構成を示す断面図である。また、この図はコート層の表面が親水性を示している状況も同時に示している。
【図3】版材表面への版の作製と版の再生の概念図である。
【図4】版材表面に描かれた画像(画線部)とその白地(非画線部)の一例を示す斜視図である。
【図5】親水性の版材表面へ有機系化合物により画線部を形成し、印刷終了後、紫外線照射により画線部を消去する様子を時間に沿って示したグラフ図である。
【符号の説明】
P 印刷用版材(版材)
1 基材
2 中間層
3 コート層
4 有機系化合物層
4a 画線部
5 非画線部

Claims (12)

  1. 基材または中間層上に、アモルフォスの過酸化チタンゾルを塗布し、焼成することよりなるゾルゲル法により形成された実質的に光触媒のみからなるコート層を含み、該コート層が上記光触媒の連続層であることを特徴とする印刷用版材。
  2. 基材または中間層上に、アモルフォスの光触媒ゾルとして、有機チタン化合物にメタノールと硝酸水溶液を添加することにより有機チタン化合物を加水分解して得られる水酸化チタンゾルを塗布し、焼成することよりなるゾルゲル法により形成された実質的に光触媒のみからなるコート層を含み、該コート層が上記光触媒の連続層であることを特徴とする印刷用版材。
  3. 上記コート層がアナターゼ型の光触媒粒子を固めて成る連続層であることを特徴とする請求項1の印刷用版材。
  4. 基材上に、アモルフォスの光触媒ゾルを塗布し、焼成することよりなるゾルゲル法により形成された実質的に光触媒のみからなるコート層を含み、該コート層が上記光触媒の連続層であり、上記コート層と上記基材との間に、上記光触媒とバインダー機能を有する材料とを含み、光触媒の濃度が傾斜している傾斜層を設けたことを特徴とする印刷用版材。
  5. 上記コート層と上記基材との間に、バインダー機能を有する材料から成る中間層を設けたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの印刷用版材。
  6. 上記バインダー機能を有する材料がTiO2、Al23、ZrO2、SiO2のいずれかであることを特徴とする請求項4または5の印刷用版材。
  7. 基材または中間層上に、アモルフォスの過酸化チタンゾルを塗布し、焼成し、実質的に光触媒のみからなるコート層を形成することからなり、該コート層が上記光触媒の連続層であることを特徴とするゾルゲル法による印刷用版材の製造方法。
  8. 基材または中間層上に、アモルフォスの光触媒ゾルとして、有機チタン化合物にメタノールと硝酸水溶液を添加することにより有機チタン化合物を加水分解して得られる水酸化チタンゾルを塗布し、焼成し、実質的に光触媒のみからなるコート層を形成することからなり、該コート層が上記光触媒の連続層であることを特徴とするゾルゲル法による印刷用版材の製造方法。
  9. 基材上にアモルフォスの光触媒過酸化チタンゾルを塗布し、焼成することよりなるゾルゲル法により形成された実質的に光触媒のみからなるコート層を含み、該コート層が上記光触媒の連続層であり、該コート層と上記基材との間に、上記光触媒とバインダー機能を有する材料とを含み、光触媒の濃度が傾斜している傾斜層を設けたことを特徴とする印刷用版材。
  10. 基材上に、アモルフォスの光触媒ゾルとして、有機チタン化合物にメタノールと硝酸水溶液を添加することにより有機チタン化合物を加水分解して得られる水酸化チタンゾルを塗布し、焼成することよりなるゾルゲル法により形成された実質的に光触媒のみからなるコート層を含み、該コート層が上記光触媒の連続層であり、該コート層と上記基材との間に、上記光触媒とバインダー機能を有する材料とを含み、光触媒の濃度が傾斜している傾斜層を設けたことを特徴とする印刷用版材。
  11. 上記コート層がアナターゼ型の光触媒粒子を固めて成る連続層であることを特徴とする請求項9または10の印刷用版材。
  12. 請求項1〜11のいずれかの印刷用版材の再生方法であって、疎水性インキを用いた印刷を終了した後に、光触媒を含むコート層表面のインキ除去工程、コート層表面の再生工程、コート層表面への疎水化剤塗布工程を経て、印刷用版材を版作製時の初期状態に戻すことを特徴とする印刷用版材の再生方法。
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