JP3935686B2 - 印刷用版材の再生方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高速で画像書き込みが可能で、且つ再生して使用することが可能な印刷用版材の再生方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
印刷技術一般として、昨今、印刷工程のデジタル化が進行しつつある。これは、パソコンで画像、原稿を作成したり、スキャナ等で画像を読み込むことにより当該画像データをデジタル化し、このデジタルデータから直接印刷用版を製作するというものである。このことによって、印刷工程全体の省力化が図れるとともに、高精細な印刷を行うことが容易になる。
【0003】
従来、印刷に用いる版としては、陽極酸化アルミを親水性の非画線部とし、その表面上に感光性樹脂を硬化させて形成した疎水性の画線部を有する、いわゆるPS版(Presensitized Plate)が一般的に用いられてきた。このPS版を用いて印刷用版を作成するには複数の工程が必要であり、このため版の製作には時間がかかり、コストも高くなるため、印刷工程の時間短縮および印刷の低コスト化を推進しにくい状況である。特に少部数の印刷においては印刷コストアップの要因となっている。また、PS版では現像液による現像工程を必要とし、手間がかかるだけでなく、現像廃液の処理が環境汚染防止という観点から重要な課題となっている。
【0004】
さらに、PS版では、一般に原画像が穿設されたフィルムを版面に密着させて露光する方法が用いられており、デジタルデータから直接版を作成し印刷工程のデジタル化を進めるうえで印刷用版の作成が障害となっている。また、一つの絵柄の印刷が終わると、版を交換して次の印刷を行わなければならなず、版は使い捨てにされていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記PS版の欠点に対して、印刷工程のデジタル化に対応し、さらに現像工程を省略できる方法が提案され商品化されているものもある。例えば、特開昭63―102936号公報では、液体インクジェットプリンタのインクとして感光樹脂を含むインクを用い、これを印刷製版材に噴射し、その後で、光照射により、画像部を硬化させることを特徴とする製版方法が開示されている。また、特開平11―254633号公報には、固体インクを吐出するインクジェットヘッドによりカラーオフセット印刷用刷版を作成する方法が開示されている。
【0006】
さらにまた、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にカーボンブラックなどのレーザ吸収層、さらにその上にシリコン樹脂層を塗布したものに、レーザ光線で画像を書き込むことによりレーザ吸収層を発熱させ、その熱によりシリコン樹脂層を焼き飛ばして印刷用版を作成する方法。あるいは、アルミ版の上に親油性のレーザ吸収層を塗布し、さらにその上に塗布した親水層を前記と同様にレーザ光線で焼き飛ばして印刷用版とする方法、などが知られている。
この他にも、親水性ポリマーを版材として使用し、画像露光により照射部を親油化させ版を作成する手段も提案されている。
しかし、このような方法では、デジタルデータから直接版を作成することは可能であるが、一つの絵柄の印刷が終わると新しい版に交換しなければ次の印刷が出来ず、従って、一度使った版は廃棄されることに変わりはない。
【0007】
さらにまた、例えば、特開平10―250027号公報においては、酸化チタン光触媒を用いた潜像版下、潜像版下の製造方法、及び潜像版下を有する印刷装置が、また特開平11―147360号公報においても、光触媒を用いた版材によるオフセット印刷法が開示されている。しかし、これらは、いずれも画像書き込みには光触媒を活性化させる光、すなわち実質的に紫外線を用い、加熱処理で光触媒を疎水化して版を再生する方法を提案している。また、特開平11―105234号公報で開示された平版印刷版の作成方法では、光触媒を活性光、すなわち紫外線で親水化した後、ヒートモード描画にて画線部を書き込む方法を提案している。
しかし、東大・藤嶋教授、橋本教授らにより加熱処理で酸化チタン光触媒は親水化することが確認されており[三邊ら「酸化チタン表面の構造変化に伴う光励起親水化現象の挙動に関する研究」、光機能材料研究会第5回シンポジウム「光触媒反応の最近の展開」資料、(1998)p.124−125]、これによれば、上記各公開公報で開示された方法では、版の再生利用あるいは、版の作成は不可能である。
【0008】
先に、本発明者らは、上記事情に鑑み、デジタルデータから直接版を作成することができ、現像工程・現像液を必要としないで実用上十分な画質を有し、かつ版材を再生し繰り返し使用することが可能な印刷用版材および該版材を用いた印刷システムを提案した。
本発明者らは、版への画像書き込み時間及び版の再生時間を短縮するとともに、画像の解像度を向上させることを目的に更に鋭意研究をおこない、本発明に至ったものである。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、デジタルデータから直接版を作製することができ、現像工程・現像液を必要としないで実用上十分な画質を有し、かつ版材を再生し繰り返し使用することを可能とするとともに、版の作製及び再生のサイクルを迅速化することができる、印刷用版材の再生方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記の課題を解決するために以下の手段をとった。
すなわち、請求項1に記載の発明は、光触媒を含み該光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材表面に、加熱により前記版材表面に反応ないし固着される性質と、反応ないし固着された状態で前記活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解され除去可能になる性質とを併せ持つ熱可塑性の樹脂微粒子を含むとともに、前記光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ不活性光を吸収し発熱する性質を有する塗布液を、塗布する疎水化剤塗布工程と、前記版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性の画線部を形成する画線部書き込み工程と、前記版材表面の前記画線部以外の部分に塗布された前記樹脂微粒子を除去する疎水化剤除去工程と、を実施して作成した印刷用版材を再生させる方法であって、印刷終了後に版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、該版材表面に前記活性光を照射して前記画線部を分解して除去し、前記版材表面を親水化させて再生する再生工程と、を有することを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、光触媒を含み該光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材表面に、加熱により前記版材表面に反応ないし固着される性質と、反応ないし固着された状態で前記活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解され除去可能になる性質とを併せ持つ熱可塑性の樹脂微粒子を含むとともに、前記光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ不活性光を吸収し発熱する性質を有する塗布液を、塗布する疎水化剤塗布工程と、前記版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性の画線部を形成する画線部書き込み工程と、前記版材表面の前記画線部以外の部分に塗布された前記樹脂微粒子を除去する疎水化剤除去工程と、を実施して作成した印刷用版材を再生させる方法であって、印刷終了後に前記版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、該版材表面に前記活性光を照射して疎水性画線部を分解して除去する操作と、洗浄液で前記版面を洗浄する操作とを、同時に行うか、あるいは交互に繰り返して行い、前記版材表面を親水化させて再生する再生工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
印刷用版材の版材表面に、活性光を照射することにより、その照射面を親水性に変換することが可能である。これは、光触媒が親水化する作用によるものである。そして、当該親水性に変換された面は湿し水が優先的に付着し、疎水性インキが付着しない非画線部として機能する。この親水性の版材表面に、加熱処理により版材表面に反応ないし固着する性質と、光触媒の活性光を照射することでこの光触媒の作用により分解除去される性質とを併せ持つ熱可塑性の樹脂微粒子を含むとともに、光触媒の不活性光を吸収し発熱する性質を有する印刷用版材用塗布液を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させる。塗布後、あるいは室温乾燥後は、前記樹脂微粒子は親水性版材表面に弱い付着力で付着しているだけであるが、版面温度が50℃以上、好ましくは100℃以上に加熱されると、この樹脂微粒子は溶融しフィルム状になるとともに、親水性版材表面と反応ないし固着することで、強固な疎水性画線部を形成するようになる。そして、光触媒の不活性光を吸収し発熱する性質を有しているので、例えば赤外線等の不活性光を同時に版材表面に照射すると、これによっても樹脂微粒子は加熱されるので、極めて迅速に疎水性画線部を形成することができる。また、樹脂成分が可塑化した場合も含んで前記活性光の照射により分解除去可能に構成されているので、前記活性光の照射により分解除去できる。
請求項1に記載の発明では、印刷終了後、版材表面のインキを除去した後、この版材表面に活性光を照射することにより、光触媒の作用により前記樹脂微粒子が溶融してできたフィルム状の画線部が分解され、版を印刷用版材用塗布液を塗布する前の状態に再生することが可能である。本再生方法によれば活性光照射によって版材表面は容易に再生されるため、版材の再生処理に要する時間短縮、再生コストの低減に有効である。
請求項2に記載の発明では、活性光を照射する操作と、洗浄剤で版材表面を洗浄する操作を、同時に行うか、あるいは交互に繰り返せば、光触媒による分解作用と洗浄液による洗浄作用の相乗効果により、版材表面は更に容易に再生されるため、版材の再生処理に要する時間短縮、再生コストの低減に更に有効である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のものにおいて、前記塗布液が、その成分として前記不活性光の吸収剤を含有することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載のものにおいて、前記樹脂微粒子が、その成分として前記不活性光の吸収剤を含有することを特徴とする。
このように、不活性光の吸収剤を樹脂微粒子中に含有させるようにすれば、不活性光の照射時に、樹脂微粒子は内側から加熱されることとなり、より短時間で溶融させることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のものにおいて、前記不活性光の吸収剤が、赤外線吸収剤であることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のものにおいて、前記樹脂微粒子が、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、エチレン系樹脂、ビニル系樹脂のうちから選択された少なくとも一の樹脂から構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のものにおいて、前記塗布液が水系であることを特徴とする。
ここで言う水系の基準としては、塗布する段階で塗布液中の有機溶剤含有量が30wt%以下である。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のものにおいて、前記塗布液が溶剤系であることを特徴とする。
ここで言う溶剤系の基準としては、塗布する段階で塗布液中の有機溶剤含有量が30wt%を越えるものである。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載のものにおいて、前記光触媒が酸化チタン光触媒であることを特徴とする。
【0028】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載のものにおいて、前記画線部書き込み工程が、前記光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ不活性光を照射することにより、該光のエネルギーで前記樹脂微粒子を加熱溶融させてフィルム状にするとともに、前記版材表面に反応ないし固着させて画線部を書き込む工程であることを特徴とする。
【0029】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載のものにおいて、前記画線部書き込み工程が、赤外線を照射することにより該光のエネルギーで熱可塑性樹脂微粒子を加熱し、前記熱可塑性樹脂微粒子を溶融させてフィルム状にすると伴に、前記版材表面に反応ないし固着させて画線部を書き込む工程であることを特徴とする。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載のものにおいて、前記疎水化剤除去工程が、印刷開始初期における前記樹脂微粒子を、インキの粘着力及び/または湿し水の洗浄作用により前記版材表面から除去する工程であることを特徴とする。
このように、画線部以外の樹脂微粒子を除去することで、印刷用版材用塗布液を塗布する前の親水性面が露出するため、疎水性画線部と親水性非画線部が版面状に形成され、印刷用版材としての機能を発揮することが可能となる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下では本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
図3は、本実施形態に係わる印刷用版材の表面を示す断面図を示している。この印刷用版材(版、版材)Pは、基材1と、中間層2と、コート層3と、コート層3表面(版材表面、版面)上の少なくとも一部分に形成されたフィルム層(画線部)4aとから、基本的に構成されている。
この図において、基材1は、アルミニウムやステンレス等の金属、ポリマーフィルムなどで構成されている。ただし、基材1の材質は、これらアルミニウムやステンレス等の金属あるいはポリマーフィルムに限定されるものではない。
【0034】
基材1の表面上には、中間層2が形成されている。中間層2としては、例えば、シリカ(SiO2)、シリコン樹脂、シリコーンゴム等のシリコン形化合物がその材質として利用される。そのうち特に、シリコン樹脂としては、シリコーンアルキド、シリコーンウレタン、シリコーンエポキシ、シリコーンアクリル、シリコーンポリエステル等が使用される。この中間層2は、基材1と後述するコート層3との付着を確実なものとならしめるため、また密着性を向上させるために形成されているものである。基材1とコート層3との間に、必要により中間層2を介することにより、コート層3の付着強度を十分に保つことが可能となる。ただし、基材1とコート層3との付着強度が十分に確保できる場合には、中間層2はなくてもさしつかえない。さらに、基材1がポリマーフィルムなどの場合は、必要に応じて基材の保護のために形成されることもある。さらにまた、後述する光触媒層形成のため加熱処理する場合は、基材1から不純物が熱拡散して光触媒層に混入し、光触媒活性を低下させることを防ぐ効果もある。
【0035】
中間層2上には、酸化チタン光触媒を含むコート層3が形成されている。このコート層3表面は、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ活性光、例えば紫外線を照射することによって高い親水性を示すようになる。この性質は、酸化チタン光触媒の備える性質に依るものである。
図4は、紫外線照射により親水性を示しているコート層3が露出した状態を表している。この親水性を示すコート層3の露出により、印刷用版材Pの非画線部を形成することが可能となる。
【0036】
このコート層3には、前記性質、親水特性を維持する為、あるいは当該コート層3の強度や基材1との密着性を向上させることを目的として、次に示す様な物質を添加したものとして良い。この物質とは、例えば、シリカ、シリカゾル、オルガノシラン、シリコン樹脂等のシリカ系化合物、また、ジルコニウム、アルミニウム、チタニウム等の金属酸化物又は金属水酸化物、さらにはフッ素系樹脂を挙げることができる。
酸化チタン光触媒としては、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型があるが、本実施形態においてはいずれも利用可能であり、それらの混合物を用いてもよいが、光触媒活性を考慮すると、アナターゼ型が好ましい。また、後述するように、前記活性光照射下で画線部を分解する光触媒性能を高くするためには、酸化チタン光触媒の粒子径はある程度小さい方が好ましく、具体的に酸化チタン光触媒の粒径は0.1μm以下、さらに好ましくは粒径0.05μm以下であることが好ましい。
なお、光触媒としては酸化チタン光触媒が好適であるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本実施形態において使用可能でかつ市販されている酸化チタン光触媒を具体的に列挙すれば、石原産業製のST−01、ST−21、その加工品ST−K01、ST−K03、水分散タイプSTS−01、STS−02、STS−21、また、堺化学工業製のSSP−25、SSP−20、SSP−M、CSB、CSB−M、塗料タイプのLACTl−01、LACTI−03−A、テイカ製のコーティング液TKS−201、TKS−202、TKC−301、TKC−302、TKC−303、TKC−304、TKC−305、TKC−351、TKC−352、光触媒用酸化チタンゾルTKS−201、TKS−202、TKS−203、TKS−251、アリテックス製のPTA、TO、TPX、等を挙げることができる。ただし、これら酸化チタン光触媒以外にあっても適用可能なことはもちろんである。
【0038】
また、コート層3の膜厚は、0.01〜5μmの範囲内にあることが好ましい。というのは、膜厚があまりに小さければ、前記した性質を十分に生かすことが困難となるし、また、膜厚があまりに大きければ、コート層3がヒビ割れしやすくなり、耐刷性低下の要因となるためである。なお、このヒビ割れは膜厚が10μmを越えるようなときに顕著に観察されるから、前記範囲を緩和するとしても当該10μmをその上限として認識する必要がある。また、実際上は0.03〜1μm程度の膜厚とするのが、より好ましい。
【0039】
さらに、このコート層3の形成方法としては、ゾル塗布法、有機チタネート法、蒸着法等を適宜選択して形成すればよい。このとき例えば、ゾル塗布法を採用するのであれば、それに用いられる塗布液には、酸化チタン光触媒およびコート層3の強度や基材1との密着性を向上させる前記各種の物質の他に、溶剤、架橋剤、界面活性剤等を添加しても良い。また塗布液は、常温乾燥タイプでも加熱乾燥タイプでも良いが、後者の方がより好ましい。というのは、加熱によりコート層3の強度を高めた方が、版の耐刷性を向上させるのに有利となるからである。
また例えば、真空中で金属基板上へ蒸着法にて不定形の酸化チタン光触媒層を成長させた後、加熱処理により結晶化させる方法などにより高い強度をもつコート層3を作製することも可能である。
【0040】
フィルム層4aは、フィルム状となった熱可塑性樹脂から構成されており、コート層3と反応ないし固着されることで、コート層3表面上の少なくとも一部分に形成されている。このフィルム層4aは、後述するように、疎水性の画線部として機能する。その形成方法としては、水や有機溶剤といった液体中に樹脂微粒子を分散させた塗布液(印刷用版材用塗布液)をコート層3に塗布し、必要に応じて適宜乾燥させた後に、図2に示すような、コート層3表面に付着した樹脂微粒子tからなる塗布層4を部分的に加熱して溶融させ、コート層3表面に反応ないし固着させる方法を採用している。
【0041】
なお、ここで言う「樹脂微粒子」とは、「加熱処理により溶融してフィルム状になると伴に、コート層の表面と反応ないし固着する性質と、光触媒の活性光を照射することで、光触媒の作用により分解される性質と、光触媒の不活性光を吸収し発熱する性質を併せ持つ」熱可塑性の樹脂微粒子である。この樹脂微粒子は、加熱により溶融しフィルム化すると伴に、版材表面の親水性部分と反応もしくは強く固着し親水性表面に疎水性を付与する作用を有する一方、常温では前記反応もしくは固着が実質的に起らないものがよい。ここで、「反応ないし固着」とは、版材表面として印刷時にも十分な強度を保ちうる程度に、加熱溶融後にコート層3表面と密着することを指し、コート層3との間で何らかの化学反応を生じていると否とを問わず、物理的結合によるか化学的結合によるかを問わない。
【0042】
さらに、樹脂微粒子が光触媒の不活性光を吸収し発熱する特性を持つことにより、不活性光、具体的には可視光や赤外線、好ましくは赤外線で画像を書き込むこと、すなわち版材表面に疎水性の画線部を形成することが可能である。特に、高速で光による画像書き込みを行う為には、樹脂微粒子が光触媒の不活性光を吸収し発熱する特性を有することが好ましい。
【0043】
具体的には図1に示すように、樹脂微粒子tは、熱可塑性樹脂r中に分散された赤外線吸収剤(不活性光の吸収剤)iを含有するようにしている。この赤外線吸収剤iは、赤外線を吸収すると発熱して、その周囲の熱可塑性樹脂rを加熱溶融させるものである。
【0044】
熱可塑性樹脂rとしては、種々の樹脂が知られているが、本実施形態において疎水化剤と作用させるには、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、α−メチルスチレンなどのスチレン系樹脂、スチレン・アクリル酸、スチレン・アクリル酸エステルなどのスチレン・アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、エチレン、エチレン・アクリル酸、エチレン・アクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、変性エチレン酢酸ビニル樹などのエチレン系樹脂、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルなどのビニル系樹脂が好適である。これらの樹脂を単独で用いてもよいし、必要に応じて混合して用いても良いことは言うまでも無い。さらに、これらの樹脂は、再生時の光触媒作用による分解時間が短く、分解時に塩素化合物などの有害成分を生成しないという利点がある。
【0045】
また、赤外線吸収剤iとしては、赤外領域に吸収帯を有する染料、顔料であればよい。さらに言えば、赤外線吸収剤として市販されている日本化薬製のカヤソーブIR−820(B)、CY−10、日本触媒製のイーエクスカラーHA−1、HA−10、HA−14などが好ましいが、これらに限るものではない。
【0046】
また、樹脂微粒子を含む塗布液は、水系または溶剤系で調製することができる。なお、「水系]の基準としては、塗布する段階での液中の有機溶剤含有量が30wt%以下であり、また「溶剤系」の基準としては、塗布する段階での液中の有機溶剤含有量が30wt%を越えるものである。ここで用いる有機溶剤としては、熱可塑性樹脂微粒子が使用環境温度で実質的に溶解せず、粒子状で分散可能なものであればよい。
水系、溶剤系ともに、熱可塑性樹脂微粒子の分散性を向上させるための界面活性剤、また塗布を容易にする為に、液の粘度を調整するための添加剤などを含んでいても良いことは言うまでもない。
さらに、熱可塑性樹脂微粒子を含む液には、いわゆるエマルジョンやラテックスが含まれることは言うまでもない。
以下、こうした性質を有する「熱可塑性樹脂微粒子を含む塗布液」を印刷用版材用塗布液、あるいは単に塗布液ということとする。
【0047】
以下では、本発明による印刷用版材Pの作製方法と再生方法について説明する。印刷用版材Pの作製方法は、「疎水化剤塗布工程」、「画線部書き込み工程」及び「疎水化剤除去工程」からなる。また、印刷用版材Pの再生方法は、「インキ除去工程」及び「再生工程」からなる。
【0048】
先ず、印刷用版材Pの作製方法について説明する。図5に、版の作製と再生の概念図を示す。
なお、以下において「版の作製」とは、疎水化剤を版材表面上に塗布した後、該版材表面の少なくとも一部をデジタルデータに基づいて加熱処理して疎水性画線部を形成し、加熱処理されなかった版材表面上の樹脂微粒子を除去することを言うものとする。
【0049】
まず、コート層3表面に活性光を照射し、印刷用版材Pの版材表面全面を、図4に示すような状態、すなわち水Wの接触角が10°前後の親水性表面となるような状態を現出させる。この活性光とは、より具体的には、波長380nm以下の光を含む紫外線である。
そして、疎水化剤塗布工程として、この親水性のコート層3表面に、前記塗布液(図5においては符号4Lで示す)を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させる。図5(a)は、塗布液4Lを塗布した状態を示している。
また、図2は、塗布液4Lを塗布して、コート層3表面上に付着した樹脂微粒子tでコート層3が覆われて、塗布層4が形成されている状態を示している。
コート層3表面のこの状態を「版作製時の初期状態」という。なお、上記でいう「版作製時の初期状態」とは、実際上の印刷工程におけるその開始時とみなしてよい。より具体的にいえば、ある与えられた任意の画像に関して、それをデジタル化したデータが既に用意されていて、これを版材上に書き込みしようとするときの状態を指すものとみなせる。
【0050】
上記状態となっている、塗布層4に覆われたコート層3表面に対して、画線部書き込み工程として、画線部を書き込む。
この画線部は、画像に関するデジタルデータに準拠して、そのデータに対応するように行われる。なお、ここでいう画線部とは水の接触角が50°以上、好ましくは80°以上の疎水性部分であり、印刷用の疎水性インキが容易に付着し、一方、湿し水の付着は困難な状態になっている。
この疎水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法として、塗布層4を加熱し、樹脂微粒子tを溶融させてフィルム化させるとともに、コート層3表面に反応ないし固着させる方法が好適である。画線部を加熱した後、加熱されなかった部分の樹脂微粒子tを除去することにより、非画線部を現出させ、版を作製することができる。
【0051】
加熱溶融された部分の樹脂微粒子tは、図3に示すように、フィルム状となってコート層3上に反応ないし固着されて、フィルム層4aを形成する。このフィルム層4aは、疎水性の画線部として機能する。一方、加熱溶融されなかった部分の樹脂微粒子tは、図2に示すように、コート層3上に付着しただけの状態のままであり、後述するように、コート層3表面上から除去されて、図4に示すように親水性のコート層3表面が露出する。
【0052】
こうした加熱方法としては、前記不活性光を照射することにより、加熱処理を行うのが好ましい。この「不活性光」としては、具体的には、赤外線が挙げられる。こうした不活性光を照射すれば、樹脂微粒子tを分解することなく溶融させてフィルム化させるとともに、コート層3上に反応ないし固着させることができる。
すなわち樹脂微粒子tは、赤外線照射によって外部から加熱溶融されるとともに、赤外線吸収剤iが赤外線の光エネルギーを吸収して発熱することによって、内部からも加熱溶融されることとなる。このため、赤外線照射によってのみ加熱溶融させる場合と比べて、極めて短時間で、コート層3表面にフィルム層4を形成することができる。
【0053】
ここでは、図5(c)に示す様に、赤外線書き込みヘッド6を用いた赤外線照射によって、少なくとも一部の樹脂微粒子tを加熱溶解してフィルム化させるとともに、コート層3表面に反応あるいは固着させて、画線部すなわちフィルム層4aを形成するようにしている。
【0054】
画線部を形成した後、印刷開始直後の段階で、画線部の書き込みをしなかった部分、すなわち加熱溶融されなかった部分の樹脂微粒子tを、インキの粘着力および/または湿し水の洗浄作用により、版材表面つまりコート層3表面から除去して、非画線部を現出させる(図示省略)。これで、図5(d)に示すように、コート層3表面への画線部(フィルム層4a)と非画線部5の形成が完了し、印刷可能な状態となる。
【0055】
なお、熱可塑性の樹脂微粒子層4を加熱し、疎水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法としては、ここでは、光で画線部を書き込んで光のエネルギーで加熱するように構成した例を示しているが、他の構成、例えばサーマルヘッドによる樹脂微粒子層4の直接加熱であってもよいことは、いうまでもない。
【0056】
上記までの処理が終了したら、版材表面に湿し水および印刷用の疎水性インキと湿し水を混合した、いわゆる乳化インキを塗布する。すると、例えば図6に示すような、印刷用版が製作されたことになる。
この図において、網掛けされた部分は、樹脂微粒子tが加熱溶融されてフィルム化するとともに、光触媒を含むコート層3表面と反応もしくは固着して形成された部分、すなわち疎水性の画線部4aに、疎水性インキが付着した状態を示している。残りの白地の部分、すなわち親水性の非画線部5には、湿し水が優先的に付着する一方、疎水性インキははじかれて付着しなかった状態を示している。このように絵柄が浮かび上がることにより、コート層3表面は、印刷用版材としての機能を有することになる。この後、通常の印刷工程を実行し、これを終了させる。
【0057】
次に、印刷用版材の再生方法について説明する。
なお、「版の再生」とは、少なくとも一部が疎水性を示し残りが親水性を示す版材表面を、全面均一に親水化した後、この親水性の版材表面に、印刷用版材用塗布液を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させることによって、再び「版作製時の初期状態」に復活させることをいうものとする。
【0058】
まずインキ除去工程として、印刷終了後のコート層3表面に付着したインキ、湿し水、紙粉などを拭き取る。
その後、少なくとも一部が疎水性を示すコート層3表面全面に、活性光を照射する。こうすることで、画線部を分解して除去し、コート層3表面全面を水の接触角が10°前後の親水性表面とする、すなわち図4に示す状態とすることが可能である。
【0059】
前記活性光、例えば紫外線を照射することによって、コート層3表面に存在する画線部を分解・除去し、かつ高い親水性を有するという性質は、酸化チタン光触媒を用いることにより達成することができる。ここでは、図5(e)に示すように、紫外線照射ランプ8を用いて、紫外線照射のみで画線部を分解し、コート層3の親水性表面を露出させる場合を示している。
紫外線照射により全面親水性に回復したコート層3表面に、塗布液を再度常温で塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させることによって、版作製時の初期状態に戻すことが可能である。
【0060】
また、コート層3表面全面に、活性光を照射して画線部を分解する操作と、水または水を含む洗浄液でコート層表面を洗浄する操作を同時に行うか、あるいは交互に繰り返すことにより、さらに容易にコート層3表面全面を水の接触角が10°前後の親水性表面とすることが可能である。
【0061】
以上説明したことを、まとめて示しているのが図7に示したグラフである。これは、横軸に時間(あるいは操作)、縦軸に版材表面の水の接触角をとったグラフであって、本実施形態における印刷用版材に関して、そのコート層3表面の接触角(すなわち、疎水、親水状態)が時間あるいは操作に伴ってどのように変化するかを示したものである。この図において、破線は画線部と非画線部との区別がない状態のコート層3表面を、一点鎖線は非画線部5を、実線は画線部4を、各々示している。
【0062】
まず、コート層3表面に紫外線を照射して、コート層3表面の、水の接触角が10°前後、好ましくは10°以下の高い親水性を示すようにしておく。
最初に、疎水化剤塗布工程(Aの工程)として、コート層3表面に塗布液を塗布し(点a)、その後、必要があれば液を室温程度の常温で乾燥させる。図7は乾燥工程を必要としない場合を示す。塗布液を塗布し終わった状態が、つまり「版作製時の初期状態」である(点b)。
【0063】
次に、画線部書き込み工程(Bの工程)として、コート層3表面上の印刷用版材用塗布液の塗布面の画線部相当部分を加熱処理して、画線部の書き込みを開始する(点b)。こうすることによって、樹脂微粒子は加熱処理されて溶融しフィルム化すると伴に、コート層3表面と反応または固着し、画線部は高い疎水性を示すようになる。一方、非画線部では、樹脂微粒子と版材表面との反応または固着は実質的に起らず、画線部書き込み前と同じ状態を維持する。
画線部書き込みが完了したら、疎水化剤除去工程(Cの工程)として、印刷直後の段階で、非画線部の樹脂微粒子tをインキの粘着力および/または湿し水の洗浄作用によりコート層3表面から除去開始する(点c)。すなわち、非画線部として、親水性のコート層3表面を露出させる。これにより、コート層3表面は、樹脂微粒子tが溶融してコート層3と反応ないし固着して形成された画線部(フィルム層4a)と、樹脂微粒子tが除去された親水性の非画線部が現出し、版として機能することができるようになる。
非画線部の樹脂微粒子tの除去が完了した後、印刷工程(Dの工程)として、印刷を開始することになる(点d)。
【0064】
印刷が終了すると、インキ除去工程(Eの工程)として、コート層3表面のインキ、汚れなどを拭き取ってクリーニングを開始する(点e)。
クリーニング完了後、すなわちインキの拭き取りが完了した後に、再生工程(Fの工程)として、コート層3表面への紫外線照射を開始する。こうすることにより、疎水性の画線部であるフィルム層4aを分解・除去し、コート層3表面を再び親水性に戻す。
この後、次の塗布液を塗布工程(A’の工程)として、再び塗布液を塗布する(点a’)ことにより、「版作製時の初期状態」に戻ることになり、この印刷用版材は再利用に供されることになる。
【0065】
本発明の印刷用版材の作製方法及び再生方法における、版作製および版再生の手順は、以下の実施例にて詳細に説明する。
以下では、印刷用版材の作製方法及び再生方法にかかわる、本願発明者らが確認したより具体的な実施例について説明する。
まず、その面積が280×204mm、厚さが0.1mmのステンレス(SUS304)製の基材1を用意し、この基材を陽極酸化処理して黒染め処理を行った。この処理により、830nmの赤外線の吸収率は処理前の30%から、黒染め処理後は90%以上に向上した。この黒染め処理SUS基板をアルカリ脱脂処理し、版材基板として用いた。
【0066】
次に、固形分5wt%のシリカゾルを版材基板にディップコートした後、500℃で30分加熱処理し、厚さ約0.07μmの中間層を形成した。
テイカ株式会社製の光触媒用ゾルTKS−203と酸化チタンコーティング剤TKC−301を重量比1:4の割合で混合した液を上記中間層処理した基板にディップコートし、500℃で加熱して、アナターゼ型酸化チタン光触媒層を版材表面に形成した。光触媒層の厚みは約0.1μmであった。
次に、版全面に低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を10秒照射した後、紫外線照射部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は7°となり、非画線部として十分な親水性を示した。
【0067】
次に、ジョンソンポリマー製のスチレン・アクリル系樹脂(商品名「J−678」)をエタノールに溶解し、濃度1wt%の樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液中に、赤外線吸収剤として日本化薬製のカヤソーブIR−820(B)を樹脂に対して1wt%、界面活性剤イオネットT−60−C(三洋化成製)を樹脂に対して10wt%添加した後、樹脂溶液50重量部に対してイオン交換水(冷水)50重量部を添加し、樹脂微粒子を析出させた。その後、エバポレータを用いて液温40℃にてエタノールを脱気し、赤外線吸収剤を含有したこの熱可塑性樹脂微粒子の水分散液を調製し印刷用版材用塗布液Aとした。比較として、カヤソーブIR−820(B)を添加しない以外は上記塗布液Aと同様にした、塗布液Bを調製した。走査電子顕微鏡で塗布液A及びBの樹脂粒子を観察すると、いずれも粒径0.07〜0.1μmの球状粒子であった。
【0068】
紫外線を照射して親水性となっている版全面に、ロールコートにより上記塗布液Aを塗布した後、25℃で5分間風乾し、次に、波長830nm、出力250mW、ビーム径15μmの赤外線レーザを用いた画像書き込み装置により版面に女性の人物画像を、書き込み速度2m/sで書き込んだ。書き込み部分を電子顕微鏡で観察したところ、照射部分の樹脂微粒子はフィルム状になり、版材表面に固着していた。この樹脂微粒子がフィルム状に固着した部分についてCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は82°で、画線部が出来ていることを確認した。
【0069】
この版材を、(株)アルファー技研の卓上オフセット印刷機ニューエースプロに取り付け、東洋インキ製のインキHYECOO B紅MZと三菱重工業製の湿し水リソフェロー1%溶液を用いて、アイベスト紙に印刷速度3500枚/時にて印刷を開始した。印刷開始1〜5枚目は、画線部が印刷されるだけでなく、本来インキが付かない非画線部にもインキが部分的に付着し汚れているような印刷物であったが、次第に汚れは消えていき、10枚目には本来の非画線部となり、紙面上には網点画像が印刷できた。すなわち、画線部の熱可塑性樹脂微粒子は赤外線で溶融し版材表面に固着して画線部を形成したことから、2m/sの高速画像書き込みができ、一方、非画線部の熱可塑性樹脂微粒子はインキ粘着力および/又は湿し水の洗浄作用により版材表面から除去されたことを確認した。このようにして印刷したサンプルを、図9(a)に示す。
【0070】
次に、比較として、紫外線を照射して親水性となっている版全面に、ロールコートにより上記塗布液Bを塗布した以外は、上記と同様にして赤外線レーザを用いた画像書き込み装置により版面に上記と同じ[即ち、図9(a)と同じ]女性の人物画像を、書き込み速度2m/sで書き込んだ。その後、書き込み部分を電子顕微鏡で観察したところ、照射部分の樹脂微粒子は完全には溶融しておらず、粒子形状を保った状態で版面に付着していることが確認された。
【0071】
この塗布液Bを用いて作製した版材を塗布液Aの場合と同様に、卓上オフセット印刷機ニューエースプロに取り付け、印刷速度3500枚/時にて印刷をした。非画線部は塗布液Aを用いた場合と同様に、印刷開始から10枚目には本来の非画線部画像が得られたが、画線部は印刷開始直後からかすれた様な画像であった。印刷終了後、版面のインキを拭き取り、版面を再び電子顕微鏡で観察すると、画線部の樹脂微粒子は脱離しており、塗布液Bは2m/sで画像書き込み出来なかった。このようにして印刷したサンプルを、図9(b)に示す。
【0072】
次に、印刷用版材の再生に係わる実施例を説明する。印刷終了後、版面上に付着したインキ、湿し水、紙粉などをきれに拭き取った版全面に、低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を20秒照射した。その後、網点を書き込んでいた部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は8°となり、十分な親水性を示す、すなわち、版材は印刷用版材用塗布液を塗布する前の状態に戻った。その後、再び塗布液を塗布することにより、「版作製時の初期状態」に戻り、版再生ができた。
【0073】
なお、上記の印刷、版の作製及び再生を印刷機上で行うためには、図8に示すような印刷機10を用いるのが好ましい。すなわち、この印刷機10は、版胴11を中心として、その周囲に版クリーニング装置12、紫外線照射装置(再生装置)13、疎水化剤塗布装置14、乾燥装置15、画線部書き込み装置(非活性光照射装置)16、インキングローラ17、湿し水供給装置18およびブランケット胴19を備えたものとなっている。印刷用版材Pは、版胴11に巻き付けられて設置されている(図8において図示略)。
【0074】
版クリーニング装置12は、印刷終了後のコート層3上のインキ、湿し水、紙粉などを除去するものである。
紫外線照射装置(再生装置)13は、紫外線をコート層3表面に照射することで、画線部を形成するフィルム層4aを分解除去するとともに、コート層3表面を親水化させるためのものである。
疎水化剤塗布装置14は、塗布液をコート層3表面のほぼ全面に塗布するものである。
乾燥装置15は、印刷用版材Pを乾燥させるものであり、コート層3上に塗布された塗布液を乾燥させて、塗布層4を容易に形成させることもできる。
画線部書き込み装置16は、コート層3表面に赤外線を照射して、コート層3表面にフィルム層4aを形成させるものである。
【0075】
なお、紫外線照射装置13、疎水化剤塗布装置14、乾燥装置15及び画線部書き込み装置16は、版胴11の回転方向(図中矢印方向)に対してこの順となるように、版胴11の周囲に設けられており、版胴11の回転に伴い版の再生及び作製が連続的に行えるので、版の再生及び作製を効率よく行えるようになっている。
【0076】
その後、塗布液を、疎水化剤塗布装置14を用いてコート層3表面全面、すなわち版面全面に塗布し、必要なら乾燥機15を用いて、室温程度の常温で塗布液を乾燥させる。これにより、コート層3表面に有機系化合物層4が形成されて、版作製時の初期状態となる。次に、画線部書き込み工程として、予め用意された画像のデジタルデータに基づき、画線部書き込み装置16で版面を加熱して、フィルム層4aを書き込む。
【0077】
この印刷機10において、上記したように印刷を終了した版の再生工程は、次のように行われる。まず、版クリーニング装置12を版胴11に対して接した状態とし、版面上に付着したインキ、湿し水、紙粉などをきれに拭き取る。その後、クリーニング装置12を版胴11から脱離させ、紫外線照射装置13で版全面に紫外線照射してフィルム層4aを分解除去し、版面全面を親水化する。なおこのとき、版面に紫外線を照射して疎水性画線部(フィルム層4a)を分解して除去する操作と、洗浄液で版材表面を洗浄する操作とを、同時に行うか、あるいは交互に繰り返して行うようにすれば、より効果的に版の再生が行える。例えば、湿し水供給装置18から、洗浄液としての湿し水を供給すればよい。
【0078】
その後、前記塗布液を、疎水化剤塗布装置14を用いて版全面に塗布し、必要なら乾燥装置15を用いて、室温程度の常温で液体を乾燥させる。これにより、版作製時の初期状態となる。次に、予め用意された画像のデジタルデータに基づき画線部書き込み装置16で版面を加熱して、画線部を書き込んだ後、インキングローラ17、湿し水供給装置18、ブランケット胴19を版胴に対して接する状態とし、そして、紙20がブランケット胴19に接するように、かつ図6に示す矢印の方向に搬送していくことによって、非画線部の樹脂微粒子は、インキの粘着力および/または湿し水の洗浄作用で除去される。この場合、湿し水供給装置18、インキ(図示省略)、ブランケット胴19及び紙20といった構成要素が、非画線部の樹脂微粒子を除去するための装置、すなわち疎水化剤除去装置を兼ねることとなる。こうして、画線部と非画線部とを現出させた後、印刷が行われるようになっている。
【0079】
この印刷機10においては、印刷後の版面のクリーニング、紫外線照射による画線部の分解・除去、前記塗布液の塗布、加熱による画線部書き込み、および非画線部の樹脂微粒子の除去の一連の版再生および版作製の工程を、印刷用版材を印刷機に取り付けたまま、印刷機上でも行うことができる。これによれば、印刷機を停止することなく、また印刷版の交換作業を挟むことなく連続的な印刷作業の実施を行うことが可能になる。
【0080】
なお、この印刷機10においては、印刷用版材を版胴に巻き付けるように構成しているが、これに限定されるものではなく、版胴表面に酸化チタン光触媒を含むコート層を直接設ける、すなわち版胴と印刷用版材とが一体に構成されたものを用いてもよいことは言うまでもない。
【0081】
また、この印刷機においては、疎水化剤除去装置を、他の構成要素と兼用するようにしているが、独立した構成要素としての疎水化剤除去装置を設けてもよい。例えば、版面に水を噴霧する装置、あるいは、表面が粘着性をもったローラなどが挙げられる。
【0082】
本実施形態に係わる印刷用版材用塗布液、印刷用版材、印刷用版材の作製方法及び再生方法においては、印刷用版材の再利用が可能となっているという利点もさることながら、そのサイクルを迅速化できる利点をも備えている。すなわち、酸化チタン光触媒と、この酸化チタン光触媒で容易に分解する性質、不活性光を吸収し発熱する性質及び加熱により前記版材表面に反応ないし固着される性質を併せ持つ持つ熱可塑性の樹脂微粒子と、デジタルデータに基づいて樹脂微粒子塗布面を赤外線などの光で加熱し高速で画線部形成する技術とを組み合わせることで、版を作製するにも、版を再生するにも、いずれにしても、それらを実現するための作業に時間がかからないこととなっている。従って、印刷工程全体を極めて速やかに完了させることが可能なものとなっている。
【0083】
また、版材の再生・再利用を可能としたことから、使用後に廃棄される版材の量を著しく減少させることができる。したがって、その分、版材に関わるコストを大幅に低減することができる。
また、画像に係わるデジタルデータから、版材への画像書き込みを直接実施することが可能であることから、印刷工程のデジタル化対応がなされており、その相応分の大幅な時間短縮、またはコスト削減を図ることができる。
【0084】
なお、上記実施形態の印刷用版材用塗布液においては、樹脂微粒子中に赤外線吸収剤を分散させて、樹脂微粒子に「光触媒の不活性光を吸収し発熱する性質」を持たせるようにしているが、これに限定されるものではない。例えば、樹脂微粒子の外面を覆うようにして赤外線吸収剤をコーティングさせても良いし、液体中に赤外線吸収剤を分散させるようにしても良い。液体中に分散させる場合には、塗布液の塗布後に版材表面を乾燥させて液体を発散させれば、赤外線吸収剤は樹脂微粒子とともに版材表面に残留するので、塗布液中の分散濃度を適正に制御すれば、上記と同様の効果が得られる。
【0085】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係わる印刷用版材の再生方法によれば、版材を再生し繰り返し使用することにより、使用後に廃棄される版材の量を著しく減少させることができるとともに、版材に関わるコストが低減できるようになる。また、印刷工程に占める版再生時間、特に画像書き込み時間が短縮できるため、印刷準備時間の短縮ができる。さらに、デジタルデータから直接版を作成することにより、印刷工程のデジタル化対応や時間短縮ができるようになる。さらに、印刷機に取り付けた状態で、版作製および版再生ができるようになり、版交換作業がなく操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る印刷用版材用塗布液の一実施形態において用いる樹脂微粒子を示す概略構成図である。
【図2】 本発明の一実施形態に係る印刷用版材の構成を示す断面図であって、コート層表面に塗布層が形成された状態を示す。
【図3】 本発明の一実施形態に係る印刷用版材の構成を示す断面図であって、コート層表面にフィルム層が形成された状態を示す。
【図4】 本発明の一実施形態に係る印刷用版材の構成を示す断面図であって、親水性のコート層が露出された状態を示す。
【図5】 版材表面への版の作製、及び印刷後の版の再生の概念図である。
【図6】 版材表面に描かれた画像(画線部)とその白地(非画線部)の一例を示す斜視図である。
【図7】 版の作製、及び印刷終了後の版の再生における版材表面の特性変化を時間に沿って示したグラフである。
【図8】 本発明において用いる印刷機の構成の一例を示す概略構成図である。
【図9】 本発明に係る一実施例による印刷サンプル(a)と、比較例による印刷サンプル(b)とを示す写真である。
【符号の説明】
P 印刷用版材
i 赤外線吸収剤(不活性光の吸収剤)
r 熱可塑性樹脂
t 樹脂微粒子
1 基材
2 中間層
3 コート層
4 塗布層
4a フィルム層(画線部)
5 非画線部
10 印刷機
11 版胴
12 版クリーニング装置
13 紫外線照射装置
14
15 乾燥装置
16 画線部書き込み装置
17 インキングローラ
18 湿し水供給装置
19 ブランケット胴
20 紙
【発明の属する技術分野】
本発明は、高速で画像書き込みが可能で、且つ再生して使用することが可能な印刷用版材の再生方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
印刷技術一般として、昨今、印刷工程のデジタル化が進行しつつある。これは、パソコンで画像、原稿を作成したり、スキャナ等で画像を読み込むことにより当該画像データをデジタル化し、このデジタルデータから直接印刷用版を製作するというものである。このことによって、印刷工程全体の省力化が図れるとともに、高精細な印刷を行うことが容易になる。
【0003】
従来、印刷に用いる版としては、陽極酸化アルミを親水性の非画線部とし、その表面上に感光性樹脂を硬化させて形成した疎水性の画線部を有する、いわゆるPS版(Presensitized Plate)が一般的に用いられてきた。このPS版を用いて印刷用版を作成するには複数の工程が必要であり、このため版の製作には時間がかかり、コストも高くなるため、印刷工程の時間短縮および印刷の低コスト化を推進しにくい状況である。特に少部数の印刷においては印刷コストアップの要因となっている。また、PS版では現像液による現像工程を必要とし、手間がかかるだけでなく、現像廃液の処理が環境汚染防止という観点から重要な課題となっている。
【0004】
さらに、PS版では、一般に原画像が穿設されたフィルムを版面に密着させて露光する方法が用いられており、デジタルデータから直接版を作成し印刷工程のデジタル化を進めるうえで印刷用版の作成が障害となっている。また、一つの絵柄の印刷が終わると、版を交換して次の印刷を行わなければならなず、版は使い捨てにされていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記PS版の欠点に対して、印刷工程のデジタル化に対応し、さらに現像工程を省略できる方法が提案され商品化されているものもある。例えば、特開昭63―102936号公報では、液体インクジェットプリンタのインクとして感光樹脂を含むインクを用い、これを印刷製版材に噴射し、その後で、光照射により、画像部を硬化させることを特徴とする製版方法が開示されている。また、特開平11―254633号公報には、固体インクを吐出するインクジェットヘッドによりカラーオフセット印刷用刷版を作成する方法が開示されている。
【0006】
さらにまた、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にカーボンブラックなどのレーザ吸収層、さらにその上にシリコン樹脂層を塗布したものに、レーザ光線で画像を書き込むことによりレーザ吸収層を発熱させ、その熱によりシリコン樹脂層を焼き飛ばして印刷用版を作成する方法。あるいは、アルミ版の上に親油性のレーザ吸収層を塗布し、さらにその上に塗布した親水層を前記と同様にレーザ光線で焼き飛ばして印刷用版とする方法、などが知られている。
この他にも、親水性ポリマーを版材として使用し、画像露光により照射部を親油化させ版を作成する手段も提案されている。
しかし、このような方法では、デジタルデータから直接版を作成することは可能であるが、一つの絵柄の印刷が終わると新しい版に交換しなければ次の印刷が出来ず、従って、一度使った版は廃棄されることに変わりはない。
【0007】
さらにまた、例えば、特開平10―250027号公報においては、酸化チタン光触媒を用いた潜像版下、潜像版下の製造方法、及び潜像版下を有する印刷装置が、また特開平11―147360号公報においても、光触媒を用いた版材によるオフセット印刷法が開示されている。しかし、これらは、いずれも画像書き込みには光触媒を活性化させる光、すなわち実質的に紫外線を用い、加熱処理で光触媒を疎水化して版を再生する方法を提案している。また、特開平11―105234号公報で開示された平版印刷版の作成方法では、光触媒を活性光、すなわち紫外線で親水化した後、ヒートモード描画にて画線部を書き込む方法を提案している。
しかし、東大・藤嶋教授、橋本教授らにより加熱処理で酸化チタン光触媒は親水化することが確認されており[三邊ら「酸化チタン表面の構造変化に伴う光励起親水化現象の挙動に関する研究」、光機能材料研究会第5回シンポジウム「光触媒反応の最近の展開」資料、(1998)p.124−125]、これによれば、上記各公開公報で開示された方法では、版の再生利用あるいは、版の作成は不可能である。
【0008】
先に、本発明者らは、上記事情に鑑み、デジタルデータから直接版を作成することができ、現像工程・現像液を必要としないで実用上十分な画質を有し、かつ版材を再生し繰り返し使用することが可能な印刷用版材および該版材を用いた印刷システムを提案した。
本発明者らは、版への画像書き込み時間及び版の再生時間を短縮するとともに、画像の解像度を向上させることを目的に更に鋭意研究をおこない、本発明に至ったものである。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、デジタルデータから直接版を作製することができ、現像工程・現像液を必要としないで実用上十分な画質を有し、かつ版材を再生し繰り返し使用することを可能とするとともに、版の作製及び再生のサイクルを迅速化することができる、印刷用版材の再生方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記の課題を解決するために以下の手段をとった。
すなわち、請求項1に記載の発明は、光触媒を含み該光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材表面に、加熱により前記版材表面に反応ないし固着される性質と、反応ないし固着された状態で前記活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解され除去可能になる性質とを併せ持つ熱可塑性の樹脂微粒子を含むとともに、前記光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ不活性光を吸収し発熱する性質を有する塗布液を、塗布する疎水化剤塗布工程と、前記版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性の画線部を形成する画線部書き込み工程と、前記版材表面の前記画線部以外の部分に塗布された前記樹脂微粒子を除去する疎水化剤除去工程と、を実施して作成した印刷用版材を再生させる方法であって、印刷終了後に版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、該版材表面に前記活性光を照射して前記画線部を分解して除去し、前記版材表面を親水化させて再生する再生工程と、を有することを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、光触媒を含み該光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材表面に、加熱により前記版材表面に反応ないし固着される性質と、反応ないし固着された状態で前記活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解され除去可能になる性質とを併せ持つ熱可塑性の樹脂微粒子を含むとともに、前記光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ不活性光を吸収し発熱する性質を有する塗布液を、塗布する疎水化剤塗布工程と、前記版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性の画線部を形成する画線部書き込み工程と、前記版材表面の前記画線部以外の部分に塗布された前記樹脂微粒子を除去する疎水化剤除去工程と、を実施して作成した印刷用版材を再生させる方法であって、印刷終了後に前記版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、該版材表面に前記活性光を照射して疎水性画線部を分解して除去する操作と、洗浄液で前記版面を洗浄する操作とを、同時に行うか、あるいは交互に繰り返して行い、前記版材表面を親水化させて再生する再生工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
印刷用版材の版材表面に、活性光を照射することにより、その照射面を親水性に変換することが可能である。これは、光触媒が親水化する作用によるものである。そして、当該親水性に変換された面は湿し水が優先的に付着し、疎水性インキが付着しない非画線部として機能する。この親水性の版材表面に、加熱処理により版材表面に反応ないし固着する性質と、光触媒の活性光を照射することでこの光触媒の作用により分解除去される性質とを併せ持つ熱可塑性の樹脂微粒子を含むとともに、光触媒の不活性光を吸収し発熱する性質を有する印刷用版材用塗布液を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させる。塗布後、あるいは室温乾燥後は、前記樹脂微粒子は親水性版材表面に弱い付着力で付着しているだけであるが、版面温度が50℃以上、好ましくは100℃以上に加熱されると、この樹脂微粒子は溶融しフィルム状になるとともに、親水性版材表面と反応ないし固着することで、強固な疎水性画線部を形成するようになる。そして、光触媒の不活性光を吸収し発熱する性質を有しているので、例えば赤外線等の不活性光を同時に版材表面に照射すると、これによっても樹脂微粒子は加熱されるので、極めて迅速に疎水性画線部を形成することができる。また、樹脂成分が可塑化した場合も含んで前記活性光の照射により分解除去可能に構成されているので、前記活性光の照射により分解除去できる。
請求項1に記載の発明では、印刷終了後、版材表面のインキを除去した後、この版材表面に活性光を照射することにより、光触媒の作用により前記樹脂微粒子が溶融してできたフィルム状の画線部が分解され、版を印刷用版材用塗布液を塗布する前の状態に再生することが可能である。本再生方法によれば活性光照射によって版材表面は容易に再生されるため、版材の再生処理に要する時間短縮、再生コストの低減に有効である。
請求項2に記載の発明では、活性光を照射する操作と、洗浄剤で版材表面を洗浄する操作を、同時に行うか、あるいは交互に繰り返せば、光触媒による分解作用と洗浄液による洗浄作用の相乗効果により、版材表面は更に容易に再生されるため、版材の再生処理に要する時間短縮、再生コストの低減に更に有効である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のものにおいて、前記塗布液が、その成分として前記不活性光の吸収剤を含有することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載のものにおいて、前記樹脂微粒子が、その成分として前記不活性光の吸収剤を含有することを特徴とする。
このように、不活性光の吸収剤を樹脂微粒子中に含有させるようにすれば、不活性光の照射時に、樹脂微粒子は内側から加熱されることとなり、より短時間で溶融させることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のものにおいて、前記不活性光の吸収剤が、赤外線吸収剤であることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のものにおいて、前記樹脂微粒子が、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、エチレン系樹脂、ビニル系樹脂のうちから選択された少なくとも一の樹脂から構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のものにおいて、前記塗布液が水系であることを特徴とする。
ここで言う水系の基準としては、塗布する段階で塗布液中の有機溶剤含有量が30wt%以下である。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のものにおいて、前記塗布液が溶剤系であることを特徴とする。
ここで言う溶剤系の基準としては、塗布する段階で塗布液中の有機溶剤含有量が30wt%を越えるものである。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載のものにおいて、前記光触媒が酸化チタン光触媒であることを特徴とする。
【0028】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載のものにおいて、前記画線部書き込み工程が、前記光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ不活性光を照射することにより、該光のエネルギーで前記樹脂微粒子を加熱溶融させてフィルム状にするとともに、前記版材表面に反応ないし固着させて画線部を書き込む工程であることを特徴とする。
【0029】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載のものにおいて、前記画線部書き込み工程が、赤外線を照射することにより該光のエネルギーで熱可塑性樹脂微粒子を加熱し、前記熱可塑性樹脂微粒子を溶融させてフィルム状にすると伴に、前記版材表面に反応ないし固着させて画線部を書き込む工程であることを特徴とする。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載のものにおいて、前記疎水化剤除去工程が、印刷開始初期における前記樹脂微粒子を、インキの粘着力及び/または湿し水の洗浄作用により前記版材表面から除去する工程であることを特徴とする。
このように、画線部以外の樹脂微粒子を除去することで、印刷用版材用塗布液を塗布する前の親水性面が露出するため、疎水性画線部と親水性非画線部が版面状に形成され、印刷用版材としての機能を発揮することが可能となる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下では本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
図3は、本実施形態に係わる印刷用版材の表面を示す断面図を示している。この印刷用版材(版、版材)Pは、基材1と、中間層2と、コート層3と、コート層3表面(版材表面、版面)上の少なくとも一部分に形成されたフィルム層(画線部)4aとから、基本的に構成されている。
この図において、基材1は、アルミニウムやステンレス等の金属、ポリマーフィルムなどで構成されている。ただし、基材1の材質は、これらアルミニウムやステンレス等の金属あるいはポリマーフィルムに限定されるものではない。
【0034】
基材1の表面上には、中間層2が形成されている。中間層2としては、例えば、シリカ(SiO2)、シリコン樹脂、シリコーンゴム等のシリコン形化合物がその材質として利用される。そのうち特に、シリコン樹脂としては、シリコーンアルキド、シリコーンウレタン、シリコーンエポキシ、シリコーンアクリル、シリコーンポリエステル等が使用される。この中間層2は、基材1と後述するコート層3との付着を確実なものとならしめるため、また密着性を向上させるために形成されているものである。基材1とコート層3との間に、必要により中間層2を介することにより、コート層3の付着強度を十分に保つことが可能となる。ただし、基材1とコート層3との付着強度が十分に確保できる場合には、中間層2はなくてもさしつかえない。さらに、基材1がポリマーフィルムなどの場合は、必要に応じて基材の保護のために形成されることもある。さらにまた、後述する光触媒層形成のため加熱処理する場合は、基材1から不純物が熱拡散して光触媒層に混入し、光触媒活性を低下させることを防ぐ効果もある。
【0035】
中間層2上には、酸化チタン光触媒を含むコート層3が形成されている。このコート層3表面は、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ活性光、例えば紫外線を照射することによって高い親水性を示すようになる。この性質は、酸化チタン光触媒の備える性質に依るものである。
図4は、紫外線照射により親水性を示しているコート層3が露出した状態を表している。この親水性を示すコート層3の露出により、印刷用版材Pの非画線部を形成することが可能となる。
【0036】
このコート層3には、前記性質、親水特性を維持する為、あるいは当該コート層3の強度や基材1との密着性を向上させることを目的として、次に示す様な物質を添加したものとして良い。この物質とは、例えば、シリカ、シリカゾル、オルガノシラン、シリコン樹脂等のシリカ系化合物、また、ジルコニウム、アルミニウム、チタニウム等の金属酸化物又は金属水酸化物、さらにはフッ素系樹脂を挙げることができる。
酸化チタン光触媒としては、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型があるが、本実施形態においてはいずれも利用可能であり、それらの混合物を用いてもよいが、光触媒活性を考慮すると、アナターゼ型が好ましい。また、後述するように、前記活性光照射下で画線部を分解する光触媒性能を高くするためには、酸化チタン光触媒の粒子径はある程度小さい方が好ましく、具体的に酸化チタン光触媒の粒径は0.1μm以下、さらに好ましくは粒径0.05μm以下であることが好ましい。
なお、光触媒としては酸化チタン光触媒が好適であるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本実施形態において使用可能でかつ市販されている酸化チタン光触媒を具体的に列挙すれば、石原産業製のST−01、ST−21、その加工品ST−K01、ST−K03、水分散タイプSTS−01、STS−02、STS−21、また、堺化学工業製のSSP−25、SSP−20、SSP−M、CSB、CSB−M、塗料タイプのLACTl−01、LACTI−03−A、テイカ製のコーティング液TKS−201、TKS−202、TKC−301、TKC−302、TKC−303、TKC−304、TKC−305、TKC−351、TKC−352、光触媒用酸化チタンゾルTKS−201、TKS−202、TKS−203、TKS−251、アリテックス製のPTA、TO、TPX、等を挙げることができる。ただし、これら酸化チタン光触媒以外にあっても適用可能なことはもちろんである。
【0038】
また、コート層3の膜厚は、0.01〜5μmの範囲内にあることが好ましい。というのは、膜厚があまりに小さければ、前記した性質を十分に生かすことが困難となるし、また、膜厚があまりに大きければ、コート層3がヒビ割れしやすくなり、耐刷性低下の要因となるためである。なお、このヒビ割れは膜厚が10μmを越えるようなときに顕著に観察されるから、前記範囲を緩和するとしても当該10μmをその上限として認識する必要がある。また、実際上は0.03〜1μm程度の膜厚とするのが、より好ましい。
【0039】
さらに、このコート層3の形成方法としては、ゾル塗布法、有機チタネート法、蒸着法等を適宜選択して形成すればよい。このとき例えば、ゾル塗布法を採用するのであれば、それに用いられる塗布液には、酸化チタン光触媒およびコート層3の強度や基材1との密着性を向上させる前記各種の物質の他に、溶剤、架橋剤、界面活性剤等を添加しても良い。また塗布液は、常温乾燥タイプでも加熱乾燥タイプでも良いが、後者の方がより好ましい。というのは、加熱によりコート層3の強度を高めた方が、版の耐刷性を向上させるのに有利となるからである。
また例えば、真空中で金属基板上へ蒸着法にて不定形の酸化チタン光触媒層を成長させた後、加熱処理により結晶化させる方法などにより高い強度をもつコート層3を作製することも可能である。
【0040】
フィルム層4aは、フィルム状となった熱可塑性樹脂から構成されており、コート層3と反応ないし固着されることで、コート層3表面上の少なくとも一部分に形成されている。このフィルム層4aは、後述するように、疎水性の画線部として機能する。その形成方法としては、水や有機溶剤といった液体中に樹脂微粒子を分散させた塗布液(印刷用版材用塗布液)をコート層3に塗布し、必要に応じて適宜乾燥させた後に、図2に示すような、コート層3表面に付着した樹脂微粒子tからなる塗布層4を部分的に加熱して溶融させ、コート層3表面に反応ないし固着させる方法を採用している。
【0041】
なお、ここで言う「樹脂微粒子」とは、「加熱処理により溶融してフィルム状になると伴に、コート層の表面と反応ないし固着する性質と、光触媒の活性光を照射することで、光触媒の作用により分解される性質と、光触媒の不活性光を吸収し発熱する性質を併せ持つ」熱可塑性の樹脂微粒子である。この樹脂微粒子は、加熱により溶融しフィルム化すると伴に、版材表面の親水性部分と反応もしくは強く固着し親水性表面に疎水性を付与する作用を有する一方、常温では前記反応もしくは固着が実質的に起らないものがよい。ここで、「反応ないし固着」とは、版材表面として印刷時にも十分な強度を保ちうる程度に、加熱溶融後にコート層3表面と密着することを指し、コート層3との間で何らかの化学反応を生じていると否とを問わず、物理的結合によるか化学的結合によるかを問わない。
【0042】
さらに、樹脂微粒子が光触媒の不活性光を吸収し発熱する特性を持つことにより、不活性光、具体的には可視光や赤外線、好ましくは赤外線で画像を書き込むこと、すなわち版材表面に疎水性の画線部を形成することが可能である。特に、高速で光による画像書き込みを行う為には、樹脂微粒子が光触媒の不活性光を吸収し発熱する特性を有することが好ましい。
【0043】
具体的には図1に示すように、樹脂微粒子tは、熱可塑性樹脂r中に分散された赤外線吸収剤(不活性光の吸収剤)iを含有するようにしている。この赤外線吸収剤iは、赤外線を吸収すると発熱して、その周囲の熱可塑性樹脂rを加熱溶融させるものである。
【0044】
熱可塑性樹脂rとしては、種々の樹脂が知られているが、本実施形態において疎水化剤と作用させるには、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、α−メチルスチレンなどのスチレン系樹脂、スチレン・アクリル酸、スチレン・アクリル酸エステルなどのスチレン・アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、エチレン、エチレン・アクリル酸、エチレン・アクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、変性エチレン酢酸ビニル樹などのエチレン系樹脂、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルなどのビニル系樹脂が好適である。これらの樹脂を単独で用いてもよいし、必要に応じて混合して用いても良いことは言うまでも無い。さらに、これらの樹脂は、再生時の光触媒作用による分解時間が短く、分解時に塩素化合物などの有害成分を生成しないという利点がある。
【0045】
また、赤外線吸収剤iとしては、赤外領域に吸収帯を有する染料、顔料であればよい。さらに言えば、赤外線吸収剤として市販されている日本化薬製のカヤソーブIR−820(B)、CY−10、日本触媒製のイーエクスカラーHA−1、HA−10、HA−14などが好ましいが、これらに限るものではない。
【0046】
また、樹脂微粒子を含む塗布液は、水系または溶剤系で調製することができる。なお、「水系]の基準としては、塗布する段階での液中の有機溶剤含有量が30wt%以下であり、また「溶剤系」の基準としては、塗布する段階での液中の有機溶剤含有量が30wt%を越えるものである。ここで用いる有機溶剤としては、熱可塑性樹脂微粒子が使用環境温度で実質的に溶解せず、粒子状で分散可能なものであればよい。
水系、溶剤系ともに、熱可塑性樹脂微粒子の分散性を向上させるための界面活性剤、また塗布を容易にする為に、液の粘度を調整するための添加剤などを含んでいても良いことは言うまでもない。
さらに、熱可塑性樹脂微粒子を含む液には、いわゆるエマルジョンやラテックスが含まれることは言うまでもない。
以下、こうした性質を有する「熱可塑性樹脂微粒子を含む塗布液」を印刷用版材用塗布液、あるいは単に塗布液ということとする。
【0047】
以下では、本発明による印刷用版材Pの作製方法と再生方法について説明する。印刷用版材Pの作製方法は、「疎水化剤塗布工程」、「画線部書き込み工程」及び「疎水化剤除去工程」からなる。また、印刷用版材Pの再生方法は、「インキ除去工程」及び「再生工程」からなる。
【0048】
先ず、印刷用版材Pの作製方法について説明する。図5に、版の作製と再生の概念図を示す。
なお、以下において「版の作製」とは、疎水化剤を版材表面上に塗布した後、該版材表面の少なくとも一部をデジタルデータに基づいて加熱処理して疎水性画線部を形成し、加熱処理されなかった版材表面上の樹脂微粒子を除去することを言うものとする。
【0049】
まず、コート層3表面に活性光を照射し、印刷用版材Pの版材表面全面を、図4に示すような状態、すなわち水Wの接触角が10°前後の親水性表面となるような状態を現出させる。この活性光とは、より具体的には、波長380nm以下の光を含む紫外線である。
そして、疎水化剤塗布工程として、この親水性のコート層3表面に、前記塗布液(図5においては符号4Lで示す)を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させる。図5(a)は、塗布液4Lを塗布した状態を示している。
また、図2は、塗布液4Lを塗布して、コート層3表面上に付着した樹脂微粒子tでコート層3が覆われて、塗布層4が形成されている状態を示している。
コート層3表面のこの状態を「版作製時の初期状態」という。なお、上記でいう「版作製時の初期状態」とは、実際上の印刷工程におけるその開始時とみなしてよい。より具体的にいえば、ある与えられた任意の画像に関して、それをデジタル化したデータが既に用意されていて、これを版材上に書き込みしようとするときの状態を指すものとみなせる。
【0050】
上記状態となっている、塗布層4に覆われたコート層3表面に対して、画線部書き込み工程として、画線部を書き込む。
この画線部は、画像に関するデジタルデータに準拠して、そのデータに対応するように行われる。なお、ここでいう画線部とは水の接触角が50°以上、好ましくは80°以上の疎水性部分であり、印刷用の疎水性インキが容易に付着し、一方、湿し水の付着は困難な状態になっている。
この疎水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法として、塗布層4を加熱し、樹脂微粒子tを溶融させてフィルム化させるとともに、コート層3表面に反応ないし固着させる方法が好適である。画線部を加熱した後、加熱されなかった部分の樹脂微粒子tを除去することにより、非画線部を現出させ、版を作製することができる。
【0051】
加熱溶融された部分の樹脂微粒子tは、図3に示すように、フィルム状となってコート層3上に反応ないし固着されて、フィルム層4aを形成する。このフィルム層4aは、疎水性の画線部として機能する。一方、加熱溶融されなかった部分の樹脂微粒子tは、図2に示すように、コート層3上に付着しただけの状態のままであり、後述するように、コート層3表面上から除去されて、図4に示すように親水性のコート層3表面が露出する。
【0052】
こうした加熱方法としては、前記不活性光を照射することにより、加熱処理を行うのが好ましい。この「不活性光」としては、具体的には、赤外線が挙げられる。こうした不活性光を照射すれば、樹脂微粒子tを分解することなく溶融させてフィルム化させるとともに、コート層3上に反応ないし固着させることができる。
すなわち樹脂微粒子tは、赤外線照射によって外部から加熱溶融されるとともに、赤外線吸収剤iが赤外線の光エネルギーを吸収して発熱することによって、内部からも加熱溶融されることとなる。このため、赤外線照射によってのみ加熱溶融させる場合と比べて、極めて短時間で、コート層3表面にフィルム層4を形成することができる。
【0053】
ここでは、図5(c)に示す様に、赤外線書き込みヘッド6を用いた赤外線照射によって、少なくとも一部の樹脂微粒子tを加熱溶解してフィルム化させるとともに、コート層3表面に反応あるいは固着させて、画線部すなわちフィルム層4aを形成するようにしている。
【0054】
画線部を形成した後、印刷開始直後の段階で、画線部の書き込みをしなかった部分、すなわち加熱溶融されなかった部分の樹脂微粒子tを、インキの粘着力および/または湿し水の洗浄作用により、版材表面つまりコート層3表面から除去して、非画線部を現出させる(図示省略)。これで、図5(d)に示すように、コート層3表面への画線部(フィルム層4a)と非画線部5の形成が完了し、印刷可能な状態となる。
【0055】
なお、熱可塑性の樹脂微粒子層4を加熱し、疎水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法としては、ここでは、光で画線部を書き込んで光のエネルギーで加熱するように構成した例を示しているが、他の構成、例えばサーマルヘッドによる樹脂微粒子層4の直接加熱であってもよいことは、いうまでもない。
【0056】
上記までの処理が終了したら、版材表面に湿し水および印刷用の疎水性インキと湿し水を混合した、いわゆる乳化インキを塗布する。すると、例えば図6に示すような、印刷用版が製作されたことになる。
この図において、網掛けされた部分は、樹脂微粒子tが加熱溶融されてフィルム化するとともに、光触媒を含むコート層3表面と反応もしくは固着して形成された部分、すなわち疎水性の画線部4aに、疎水性インキが付着した状態を示している。残りの白地の部分、すなわち親水性の非画線部5には、湿し水が優先的に付着する一方、疎水性インキははじかれて付着しなかった状態を示している。このように絵柄が浮かび上がることにより、コート層3表面は、印刷用版材としての機能を有することになる。この後、通常の印刷工程を実行し、これを終了させる。
【0057】
次に、印刷用版材の再生方法について説明する。
なお、「版の再生」とは、少なくとも一部が疎水性を示し残りが親水性を示す版材表面を、全面均一に親水化した後、この親水性の版材表面に、印刷用版材用塗布液を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させることによって、再び「版作製時の初期状態」に復活させることをいうものとする。
【0058】
まずインキ除去工程として、印刷終了後のコート層3表面に付着したインキ、湿し水、紙粉などを拭き取る。
その後、少なくとも一部が疎水性を示すコート層3表面全面に、活性光を照射する。こうすることで、画線部を分解して除去し、コート層3表面全面を水の接触角が10°前後の親水性表面とする、すなわち図4に示す状態とすることが可能である。
【0059】
前記活性光、例えば紫外線を照射することによって、コート層3表面に存在する画線部を分解・除去し、かつ高い親水性を有するという性質は、酸化チタン光触媒を用いることにより達成することができる。ここでは、図5(e)に示すように、紫外線照射ランプ8を用いて、紫外線照射のみで画線部を分解し、コート層3の親水性表面を露出させる場合を示している。
紫外線照射により全面親水性に回復したコート層3表面に、塗布液を再度常温で塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させることによって、版作製時の初期状態に戻すことが可能である。
【0060】
また、コート層3表面全面に、活性光を照射して画線部を分解する操作と、水または水を含む洗浄液でコート層表面を洗浄する操作を同時に行うか、あるいは交互に繰り返すことにより、さらに容易にコート層3表面全面を水の接触角が10°前後の親水性表面とすることが可能である。
【0061】
以上説明したことを、まとめて示しているのが図7に示したグラフである。これは、横軸に時間(あるいは操作)、縦軸に版材表面の水の接触角をとったグラフであって、本実施形態における印刷用版材に関して、そのコート層3表面の接触角(すなわち、疎水、親水状態)が時間あるいは操作に伴ってどのように変化するかを示したものである。この図において、破線は画線部と非画線部との区別がない状態のコート層3表面を、一点鎖線は非画線部5を、実線は画線部4を、各々示している。
【0062】
まず、コート層3表面に紫外線を照射して、コート層3表面の、水の接触角が10°前後、好ましくは10°以下の高い親水性を示すようにしておく。
最初に、疎水化剤塗布工程(Aの工程)として、コート層3表面に塗布液を塗布し(点a)、その後、必要があれば液を室温程度の常温で乾燥させる。図7は乾燥工程を必要としない場合を示す。塗布液を塗布し終わった状態が、つまり「版作製時の初期状態」である(点b)。
【0063】
次に、画線部書き込み工程(Bの工程)として、コート層3表面上の印刷用版材用塗布液の塗布面の画線部相当部分を加熱処理して、画線部の書き込みを開始する(点b)。こうすることによって、樹脂微粒子は加熱処理されて溶融しフィルム化すると伴に、コート層3表面と反応または固着し、画線部は高い疎水性を示すようになる。一方、非画線部では、樹脂微粒子と版材表面との反応または固着は実質的に起らず、画線部書き込み前と同じ状態を維持する。
画線部書き込みが完了したら、疎水化剤除去工程(Cの工程)として、印刷直後の段階で、非画線部の樹脂微粒子tをインキの粘着力および/または湿し水の洗浄作用によりコート層3表面から除去開始する(点c)。すなわち、非画線部として、親水性のコート層3表面を露出させる。これにより、コート層3表面は、樹脂微粒子tが溶融してコート層3と反応ないし固着して形成された画線部(フィルム層4a)と、樹脂微粒子tが除去された親水性の非画線部が現出し、版として機能することができるようになる。
非画線部の樹脂微粒子tの除去が完了した後、印刷工程(Dの工程)として、印刷を開始することになる(点d)。
【0064】
印刷が終了すると、インキ除去工程(Eの工程)として、コート層3表面のインキ、汚れなどを拭き取ってクリーニングを開始する(点e)。
クリーニング完了後、すなわちインキの拭き取りが完了した後に、再生工程(Fの工程)として、コート層3表面への紫外線照射を開始する。こうすることにより、疎水性の画線部であるフィルム層4aを分解・除去し、コート層3表面を再び親水性に戻す。
この後、次の塗布液を塗布工程(A’の工程)として、再び塗布液を塗布する(点a’)ことにより、「版作製時の初期状態」に戻ることになり、この印刷用版材は再利用に供されることになる。
【0065】
本発明の印刷用版材の作製方法及び再生方法における、版作製および版再生の手順は、以下の実施例にて詳細に説明する。
以下では、印刷用版材の作製方法及び再生方法にかかわる、本願発明者らが確認したより具体的な実施例について説明する。
まず、その面積が280×204mm、厚さが0.1mmのステンレス(SUS304)製の基材1を用意し、この基材を陽極酸化処理して黒染め処理を行った。この処理により、830nmの赤外線の吸収率は処理前の30%から、黒染め処理後は90%以上に向上した。この黒染め処理SUS基板をアルカリ脱脂処理し、版材基板として用いた。
【0066】
次に、固形分5wt%のシリカゾルを版材基板にディップコートした後、500℃で30分加熱処理し、厚さ約0.07μmの中間層を形成した。
テイカ株式会社製の光触媒用ゾルTKS−203と酸化チタンコーティング剤TKC−301を重量比1:4の割合で混合した液を上記中間層処理した基板にディップコートし、500℃で加熱して、アナターゼ型酸化チタン光触媒層を版材表面に形成した。光触媒層の厚みは約0.1μmであった。
次に、版全面に低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を10秒照射した後、紫外線照射部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は7°となり、非画線部として十分な親水性を示した。
【0067】
次に、ジョンソンポリマー製のスチレン・アクリル系樹脂(商品名「J−678」)をエタノールに溶解し、濃度1wt%の樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液中に、赤外線吸収剤として日本化薬製のカヤソーブIR−820(B)を樹脂に対して1wt%、界面活性剤イオネットT−60−C(三洋化成製)を樹脂に対して10wt%添加した後、樹脂溶液50重量部に対してイオン交換水(冷水)50重量部を添加し、樹脂微粒子を析出させた。その後、エバポレータを用いて液温40℃にてエタノールを脱気し、赤外線吸収剤を含有したこの熱可塑性樹脂微粒子の水分散液を調製し印刷用版材用塗布液Aとした。比較として、カヤソーブIR−820(B)を添加しない以外は上記塗布液Aと同様にした、塗布液Bを調製した。走査電子顕微鏡で塗布液A及びBの樹脂粒子を観察すると、いずれも粒径0.07〜0.1μmの球状粒子であった。
【0068】
紫外線を照射して親水性となっている版全面に、ロールコートにより上記塗布液Aを塗布した後、25℃で5分間風乾し、次に、波長830nm、出力250mW、ビーム径15μmの赤外線レーザを用いた画像書き込み装置により版面に女性の人物画像を、書き込み速度2m/sで書き込んだ。書き込み部分を電子顕微鏡で観察したところ、照射部分の樹脂微粒子はフィルム状になり、版材表面に固着していた。この樹脂微粒子がフィルム状に固着した部分についてCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は82°で、画線部が出来ていることを確認した。
【0069】
この版材を、(株)アルファー技研の卓上オフセット印刷機ニューエースプロに取り付け、東洋インキ製のインキHYECOO B紅MZと三菱重工業製の湿し水リソフェロー1%溶液を用いて、アイベスト紙に印刷速度3500枚/時にて印刷を開始した。印刷開始1〜5枚目は、画線部が印刷されるだけでなく、本来インキが付かない非画線部にもインキが部分的に付着し汚れているような印刷物であったが、次第に汚れは消えていき、10枚目には本来の非画線部となり、紙面上には網点画像が印刷できた。すなわち、画線部の熱可塑性樹脂微粒子は赤外線で溶融し版材表面に固着して画線部を形成したことから、2m/sの高速画像書き込みができ、一方、非画線部の熱可塑性樹脂微粒子はインキ粘着力および/又は湿し水の洗浄作用により版材表面から除去されたことを確認した。このようにして印刷したサンプルを、図9(a)に示す。
【0070】
次に、比較として、紫外線を照射して親水性となっている版全面に、ロールコートにより上記塗布液Bを塗布した以外は、上記と同様にして赤外線レーザを用いた画像書き込み装置により版面に上記と同じ[即ち、図9(a)と同じ]女性の人物画像を、書き込み速度2m/sで書き込んだ。その後、書き込み部分を電子顕微鏡で観察したところ、照射部分の樹脂微粒子は完全には溶融しておらず、粒子形状を保った状態で版面に付着していることが確認された。
【0071】
この塗布液Bを用いて作製した版材を塗布液Aの場合と同様に、卓上オフセット印刷機ニューエースプロに取り付け、印刷速度3500枚/時にて印刷をした。非画線部は塗布液Aを用いた場合と同様に、印刷開始から10枚目には本来の非画線部画像が得られたが、画線部は印刷開始直後からかすれた様な画像であった。印刷終了後、版面のインキを拭き取り、版面を再び電子顕微鏡で観察すると、画線部の樹脂微粒子は脱離しており、塗布液Bは2m/sで画像書き込み出来なかった。このようにして印刷したサンプルを、図9(b)に示す。
【0072】
次に、印刷用版材の再生に係わる実施例を説明する。印刷終了後、版面上に付着したインキ、湿し水、紙粉などをきれに拭き取った版全面に、低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を20秒照射した。その後、網点を書き込んでいた部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は8°となり、十分な親水性を示す、すなわち、版材は印刷用版材用塗布液を塗布する前の状態に戻った。その後、再び塗布液を塗布することにより、「版作製時の初期状態」に戻り、版再生ができた。
【0073】
なお、上記の印刷、版の作製及び再生を印刷機上で行うためには、図8に示すような印刷機10を用いるのが好ましい。すなわち、この印刷機10は、版胴11を中心として、その周囲に版クリーニング装置12、紫外線照射装置(再生装置)13、疎水化剤塗布装置14、乾燥装置15、画線部書き込み装置(非活性光照射装置)16、インキングローラ17、湿し水供給装置18およびブランケット胴19を備えたものとなっている。印刷用版材Pは、版胴11に巻き付けられて設置されている(図8において図示略)。
【0074】
版クリーニング装置12は、印刷終了後のコート層3上のインキ、湿し水、紙粉などを除去するものである。
紫外線照射装置(再生装置)13は、紫外線をコート層3表面に照射することで、画線部を形成するフィルム層4aを分解除去するとともに、コート層3表面を親水化させるためのものである。
疎水化剤塗布装置14は、塗布液をコート層3表面のほぼ全面に塗布するものである。
乾燥装置15は、印刷用版材Pを乾燥させるものであり、コート層3上に塗布された塗布液を乾燥させて、塗布層4を容易に形成させることもできる。
画線部書き込み装置16は、コート層3表面に赤外線を照射して、コート層3表面にフィルム層4aを形成させるものである。
【0075】
なお、紫外線照射装置13、疎水化剤塗布装置14、乾燥装置15及び画線部書き込み装置16は、版胴11の回転方向(図中矢印方向)に対してこの順となるように、版胴11の周囲に設けられており、版胴11の回転に伴い版の再生及び作製が連続的に行えるので、版の再生及び作製を効率よく行えるようになっている。
【0076】
その後、塗布液を、疎水化剤塗布装置14を用いてコート層3表面全面、すなわち版面全面に塗布し、必要なら乾燥機15を用いて、室温程度の常温で塗布液を乾燥させる。これにより、コート層3表面に有機系化合物層4が形成されて、版作製時の初期状態となる。次に、画線部書き込み工程として、予め用意された画像のデジタルデータに基づき、画線部書き込み装置16で版面を加熱して、フィルム層4aを書き込む。
【0077】
この印刷機10において、上記したように印刷を終了した版の再生工程は、次のように行われる。まず、版クリーニング装置12を版胴11に対して接した状態とし、版面上に付着したインキ、湿し水、紙粉などをきれに拭き取る。その後、クリーニング装置12を版胴11から脱離させ、紫外線照射装置13で版全面に紫外線照射してフィルム層4aを分解除去し、版面全面を親水化する。なおこのとき、版面に紫外線を照射して疎水性画線部(フィルム層4a)を分解して除去する操作と、洗浄液で版材表面を洗浄する操作とを、同時に行うか、あるいは交互に繰り返して行うようにすれば、より効果的に版の再生が行える。例えば、湿し水供給装置18から、洗浄液としての湿し水を供給すればよい。
【0078】
その後、前記塗布液を、疎水化剤塗布装置14を用いて版全面に塗布し、必要なら乾燥装置15を用いて、室温程度の常温で液体を乾燥させる。これにより、版作製時の初期状態となる。次に、予め用意された画像のデジタルデータに基づき画線部書き込み装置16で版面を加熱して、画線部を書き込んだ後、インキングローラ17、湿し水供給装置18、ブランケット胴19を版胴に対して接する状態とし、そして、紙20がブランケット胴19に接するように、かつ図6に示す矢印の方向に搬送していくことによって、非画線部の樹脂微粒子は、インキの粘着力および/または湿し水の洗浄作用で除去される。この場合、湿し水供給装置18、インキ(図示省略)、ブランケット胴19及び紙20といった構成要素が、非画線部の樹脂微粒子を除去するための装置、すなわち疎水化剤除去装置を兼ねることとなる。こうして、画線部と非画線部とを現出させた後、印刷が行われるようになっている。
【0079】
この印刷機10においては、印刷後の版面のクリーニング、紫外線照射による画線部の分解・除去、前記塗布液の塗布、加熱による画線部書き込み、および非画線部の樹脂微粒子の除去の一連の版再生および版作製の工程を、印刷用版材を印刷機に取り付けたまま、印刷機上でも行うことができる。これによれば、印刷機を停止することなく、また印刷版の交換作業を挟むことなく連続的な印刷作業の実施を行うことが可能になる。
【0080】
なお、この印刷機10においては、印刷用版材を版胴に巻き付けるように構成しているが、これに限定されるものではなく、版胴表面に酸化チタン光触媒を含むコート層を直接設ける、すなわち版胴と印刷用版材とが一体に構成されたものを用いてもよいことは言うまでもない。
【0081】
また、この印刷機においては、疎水化剤除去装置を、他の構成要素と兼用するようにしているが、独立した構成要素としての疎水化剤除去装置を設けてもよい。例えば、版面に水を噴霧する装置、あるいは、表面が粘着性をもったローラなどが挙げられる。
【0082】
本実施形態に係わる印刷用版材用塗布液、印刷用版材、印刷用版材の作製方法及び再生方法においては、印刷用版材の再利用が可能となっているという利点もさることながら、そのサイクルを迅速化できる利点をも備えている。すなわち、酸化チタン光触媒と、この酸化チタン光触媒で容易に分解する性質、不活性光を吸収し発熱する性質及び加熱により前記版材表面に反応ないし固着される性質を併せ持つ持つ熱可塑性の樹脂微粒子と、デジタルデータに基づいて樹脂微粒子塗布面を赤外線などの光で加熱し高速で画線部形成する技術とを組み合わせることで、版を作製するにも、版を再生するにも、いずれにしても、それらを実現するための作業に時間がかからないこととなっている。従って、印刷工程全体を極めて速やかに完了させることが可能なものとなっている。
【0083】
また、版材の再生・再利用を可能としたことから、使用後に廃棄される版材の量を著しく減少させることができる。したがって、その分、版材に関わるコストを大幅に低減することができる。
また、画像に係わるデジタルデータから、版材への画像書き込みを直接実施することが可能であることから、印刷工程のデジタル化対応がなされており、その相応分の大幅な時間短縮、またはコスト削減を図ることができる。
【0084】
なお、上記実施形態の印刷用版材用塗布液においては、樹脂微粒子中に赤外線吸収剤を分散させて、樹脂微粒子に「光触媒の不活性光を吸収し発熱する性質」を持たせるようにしているが、これに限定されるものではない。例えば、樹脂微粒子の外面を覆うようにして赤外線吸収剤をコーティングさせても良いし、液体中に赤外線吸収剤を分散させるようにしても良い。液体中に分散させる場合には、塗布液の塗布後に版材表面を乾燥させて液体を発散させれば、赤外線吸収剤は樹脂微粒子とともに版材表面に残留するので、塗布液中の分散濃度を適正に制御すれば、上記と同様の効果が得られる。
【0085】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係わる印刷用版材の再生方法によれば、版材を再生し繰り返し使用することにより、使用後に廃棄される版材の量を著しく減少させることができるとともに、版材に関わるコストが低減できるようになる。また、印刷工程に占める版再生時間、特に画像書き込み時間が短縮できるため、印刷準備時間の短縮ができる。さらに、デジタルデータから直接版を作成することにより、印刷工程のデジタル化対応や時間短縮ができるようになる。さらに、印刷機に取り付けた状態で、版作製および版再生ができるようになり、版交換作業がなく操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る印刷用版材用塗布液の一実施形態において用いる樹脂微粒子を示す概略構成図である。
【図2】 本発明の一実施形態に係る印刷用版材の構成を示す断面図であって、コート層表面に塗布層が形成された状態を示す。
【図3】 本発明の一実施形態に係る印刷用版材の構成を示す断面図であって、コート層表面にフィルム層が形成された状態を示す。
【図4】 本発明の一実施形態に係る印刷用版材の構成を示す断面図であって、親水性のコート層が露出された状態を示す。
【図5】 版材表面への版の作製、及び印刷後の版の再生の概念図である。
【図6】 版材表面に描かれた画像(画線部)とその白地(非画線部)の一例を示す斜視図である。
【図7】 版の作製、及び印刷終了後の版の再生における版材表面の特性変化を時間に沿って示したグラフである。
【図8】 本発明において用いる印刷機の構成の一例を示す概略構成図である。
【図9】 本発明に係る一実施例による印刷サンプル(a)と、比較例による印刷サンプル(b)とを示す写真である。
【符号の説明】
P 印刷用版材
i 赤外線吸収剤(不活性光の吸収剤)
r 熱可塑性樹脂
t 樹脂微粒子
1 基材
2 中間層
3 コート層
4 塗布層
4a フィルム層(画線部)
5 非画線部
10 印刷機
11 版胴
12 版クリーニング装置
13 紫外線照射装置
14
15 乾燥装置
16 画線部書き込み装置
17 インキングローラ
18 湿し水供給装置
19 ブランケット胴
20 紙
Claims (12)
- 光触媒を含み該光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材表面に、加熱により前記版材表面に反応ないし固着される性質と、反応ないし固着された状態で前記活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解され除去可能になる性質とを併せ持つ熱可塑性の樹脂微粒子を含むとともに、前記光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ不活性光を吸収し発熱する性質を有する塗布液を、塗布する疎水化剤塗布工程と、
前記版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性の画線部を形成する画線部書き込み工程と、
前記版材表面の前記画線部以外の部分に塗布された前記樹脂微粒子を除去する疎水化剤除去工程と、を実施して作成した印刷用版材を再生させる方法であって、
印刷終了後に版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、
該版材表面に前記活性光を照射して前記画線部を分解して除去し、前記版材表面を親水化させて再生する再生工程と、
を有することを特徴とする印刷用版材の再生方法。 - 光触媒を含み該光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材表面に、加熱により前記版材表面に反応ないし固着される性質と、反応ないし固着された状態で前記活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解され除去可能になる性質とを併せ持つ熱可塑性の樹脂微粒子を含むとともに、前記光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ不活性光を吸収し発熱する性質を有する塗布液を、塗布する疎水化剤塗布工程と、
前記版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性の画線部を形成する画線部書き込み工程と、
前記版材表面の前記画線部以外の部分に塗布された前記樹脂微粒子を除去する疎水化剤除去工程と、を実施して作成した印刷用版材を再生させる方法であって、
印刷終了後に前記版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、
該版材表面に前記活性光を照射して疎水性画線部を分解して除去する操作と、洗浄液で前記版面を洗浄する操作とを、同時に行うか、あるいは交互に繰り返して行い、前記版材表面を親水化させて再生する再生工程と、
を有することを特徴とする印刷用版材の再生方法。 - 前記塗布液が、その成分として前記不活性光の吸収剤を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の印刷用版材の再生方法。
- 前記樹脂微粒子が、その成分として前記不活性光の吸収剤を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の印刷用版材の再生方法。
- 前記不活性光の吸収剤が、赤外線吸収剤であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の印刷用版材の再生方法。
- 前記樹脂微粒子が、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、エチレン系樹脂、ビニル系樹脂のうちから選択された少なくとも一の樹脂から構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷用版材の再生方法。
- 前記塗布液が水系であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の印刷用版材の再生方法。
- 前記塗布液が溶剤系であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の印刷用版材の再生方法。
- 前記光触媒が酸化チタン光触媒であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の印刷用版材の再生方法。
- 前記画線部書き込み工程が、前記光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ不活性光を照射することにより、該光のエネルギーで前記樹脂微粒子を加熱溶融させてフィルム状にするとともに、前記版材表面に反応ないし固着させて画線部を書き込む工程であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の印刷用版材の再生方法。
- 前記画線部書き込み工程が、赤外線を照射することにより該光のエネルギーで熱可塑性樹脂微粒子を加熱し、前記熱可塑性樹脂微粒子を溶融させてフィルム状にするとともに、前記版材表面に反応ないし固着させて画線部を書き込む工程であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の印刷用版材の再生方法。
- 前記疎水化剤除去工程が、印刷開始初期における前記樹脂微粒子を、インキの粘着力及び/または湿し水の洗浄作用により前記版材表面から除去する工程であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の印刷用版材の再生方法。
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