JP3848849B2 - 印刷用版材の作製方法,再生方法及び印刷機及び印刷用版材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、再生使用可能な印刷用版材、及びかかる印刷用版材の作製方法,再生方法、及びかかる印刷用版材をそなえた印刷機、並びにかかる印刷用版材に用いる塗布液に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種の印刷技術において、印刷工程のデジタル化が進行しつつある。このデジタル化とは、パソコンで画像や原稿を作成したり、スキャナ等で画像を読み込んだりすることにより当該画像データをデジタル化し、このデジタルデータから直接印刷用版を製作するというものである。これによって、印刷工程全体の省力化を図ることができるとともに、高精細な印刷を行うことが容易になる。
【0003】
従来、印刷に用いる版としては、陽極酸化アルミを親水性の非画線部とし、その表面上に感光性樹脂を硬化させて形成した疎水性の画線部を有する、いわゆるPS版(Presensitized Plate)が一般的に用いられてきた。
しかし、このPS版を用いて印刷用版を作成するには複数の工程が必要であり、版の製作に時間がかかり、コストも高くなる。このため、PS版を用いる場合、印刷工程の時間短縮および印刷の低コスト化を推進しにくいという課題があり、特に少部数の印刷においては印刷コストアップの要因となっている。また、PS版では現像液による現像工程を必要とし、手間がかかるだけでなく、現像廃液の処理についても環境汚染防止という観点から重要な課題となっている。
【0004】
さらに、PS版では、一般に原画像が穿設されたフィルムを版面(版材表面)に密着させて露光する方法が用いられており、デジタルデータから直接版を作成し印刷工程のデジタル化を進めるうえで印刷用版の作成が障害となっている。また、一つの絵柄の印刷が終わると、版を交換して次の印刷を行わなければならず、使用後の版は使い捨てにされていた。
【0005】
このようなPS版の課題に対して、印刷工程のデジタル化に対応し、さらに現像工程を省略できる方法が提案され商品化されている。
例えば、特開昭63−102936号公報では、液体インクジェットプリンタのインクとして感光樹脂を含むインクを用い、これを印刷製版材に噴射し、その後、光照射により画像部を硬化させることを特徴とする製版方法が開示されている。また、特開平11―254633号公報には、固体インクを吐出するインクジェットヘッドによりカラーオフセット印刷用刷版を作成する方法が開示されている。
【0006】
さらにまた、PETフィルム上にカーボンブラックなどのレーザ吸収層を塗布し、さらにその上にシリコン樹脂層を塗布したものに、レーザ光線で画像を書き込むことによりレーザ吸収層を発熱させ、その熱によりシリコン樹脂層を焼き飛ばして印刷用版を作成する方法や、アルミ版の上に親油性のレーザ吸収層を塗布し、さらにその上に塗布した親水層を前記と同様にレーザ光線で焼き飛ばして印刷用版とする方法などが知られている。
【0007】
この他にも、親水性ポリマーを版材として使用し、画像露光により照射部を親油化させ版を作成する手段も提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のような各技術では、デジタルデータから直接版を作成することは可能であるが、一つの絵柄の印刷が終わると新しい版に交換しなければ次の印刷が出来ず、従って、一度使った版は廃棄されることに変わりはない。
さらにまた、例えば特開平10―250027号公報には、酸化チタン光触媒を用いた潜像版下,潜像版下の製造方法,及び潜像版下を有する印刷装置が開示されており、特開平11―147360号公報にも、光触媒を用いた版材によるオフセット印刷法が開示されている。
【0009】
これらの技術は、いずれも画像書き込みには光触媒を活性化させる光(実質的には紫外線)を用い、加熱処理で光触媒を疎水化して版を再生するというものである。また、特開平11―105234には、光触媒を活性光、即ち紫外線で親水化した後、ヒートモード描画にて画線部を書き込む平版印刷版の作成方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、光機能材料研究会第5回シンポジウム「光触媒反応の最近の展開」(1998)における「酸化チタン表面の構造変化に伴う光励起親水化現象の挙動に関する研究(三邊ら)」に関する資料(p.124〜125)によれば、東京大学先端技術研究所、藤嶋教授,橋本教授らによって、加熱処理により酸化チタン光触媒は親水化することが確認されていることが開示されており、上記の各公開公報で開示された方法、即ち、光触媒を疎水化して版を再生しようとする方法では、版の再生利用あるいは版の作成は不可能である。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み創案されたもので、デジタルデータから直接版を作成することができ、現像工程・現像液を必要としないで実用上十分な画質を得られ、かつ版材を再生し繰り返し使用することができるようにした、印刷用版材,及びかかる印刷用版材の作製方法,再生方法,及びかかる印刷用版材を有する印刷機,並びに印刷用版材用塗布液を提案することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1記載の本発明の印刷用版材の作製方法は、光触媒を含む親水性の版材表面を有する印刷用版材の該版材表面の少なくとも一部に疎水性の画線部を形成する印刷用版材の作製方法であって、加熱処理により該版材表面に反応及び/又は固着される性質と、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することにより該光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ樹脂微粒子であって一次粒子径5μm以下で且つ0.001μm以上の熱可塑性樹脂である樹脂微粒子を含む液を、疎水化剤として該版材表面に塗布する工程と、該版材表面の少なくとも一部を加熱処理して該版材表面に塗布された該樹脂微粒子を該版材表面に反応及び/又は固着させて疎水性画線部を形成する画線部書き込み工程と、該疎水性画線部を形成された該版材表面の該疎水性画線部以外の部分に塗布された該樹脂微粒子を除去する疎水化剤除去工程と、を有することを特徴としている。
【0013】
すなわち、印刷用版材の版材表面に、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することにより、その照射面を親水性に変換することが可能になる。これは、光触媒が親水化する作用による。そして、当該親水性に変換された面は湿し水が優先的に付着し、疎水性インキが付着しない非画線部として機能する。この親水性の版材表面に、加熱処理により版材表面に反応及び/又は固着する性質と、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することで、この光触媒の作用により分解除去される性質とを併せ持つ樹脂微粒子を含む液を、疎水化剤として塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させる。
【0014】
塗布後、或いは室温乾燥後は、前記樹脂微粒子は親水性版材表面に弱い付着力で付着しているだけであるが、版面温度(版材表面の温度)が50℃以上、好ましくは100℃以上に加熱されると、前記樹脂微粒子は溶融しフィルム状になるとともに、親水性版材表面と反応及び/又は固着することで、強固な疎水性画線部を形成するようになる。
【0015】
該画像書き込み工程は、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも低いエネルギをもつ光を照射することにより該光のエネルギで樹脂微粒子を加熱し、該樹脂微粒子を溶融させてフィルム状にするとともに、該樹脂微粒子を該版材表面に反応及び/又は固着させて画線部を書き込む工程であることが好ましい(請求項4)。ここでいう、光触媒のバンドギャップエネルギよりも低いエネルギをもつ光とは、具体的には、可視光、赤外光などであるが、加熱の効率の点から赤外光が好ましい。
【0016】
該疎水化剤除去工程が、印刷開始初期における該樹脂微粒子を、インキの粘着力及び/又は湿し水の洗浄効果により該版材表面から除去する工程であることが好ましい(請求項5)。このように画線部以外の樹脂微粒子を除去することで、疎水化剤を塗布する前の親水性面が露出するため、疎水性画線部と親水性非画線部が版面状に形成され、印刷版としての機能を発揮することが可能となる。さらに、印刷終了後、版面のインキを除去した後、版材表面に光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することにより、前記樹脂微粒子が溶融してできたフィルム状の画線部を分解し、版を疎水化剤塗布前の状態に再生することが可能となる。
【0017】
該樹脂微粒子がアクリル系樹脂,スチレン系樹脂,スチレン・アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,フェノール系樹脂,エチレン系樹脂,ビニル系樹脂,ブタジエン樹脂,ポリアセタール樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂,ポリプロピレン樹脂のうちの何れか一種又は何れか複数であることが好ましい(請求項6)。
【0018】
該樹脂微粒子を構成する樹脂成分のガラス転移点(Tg)が−10℃〜200℃であることが好ましい(請求項6)。
該光触媒が酸化チタン光触媒であることが好ましい(請求項7)。
該樹脂微粒子を含む液が水系であることが好ましい(請求項8)。ここで言う水性の基準としては、塗布する段階で塗布液中の有機溶剤含有量を用いることができ、有機溶剤含有量が例えば30wt%以下のものを水系とする。
【0019】
該樹脂微粒子を含む液が溶剤系であることが好ましい(請求項9)。ここで言う溶剤系の基準としては、塗布する段階で塗布液中の有機溶剤含有量を用いることができ、有機溶剤含有量が例えば30wt%を越えるものを溶剤系とする。
また、請求項10記載の本発明の印刷用版材の再生方法は、請求項1〜9の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法により作製された印刷用版材を再生させる方法であって、印刷終了後に版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、インキを除去された該版材表面に該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射して該疎水性画線部を分解して除去し、該版材表面を親水化させて再生する再生工程と、を有することを特徴としている。
【0020】
このように、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射すれば、版材表面は容易に再生されるため、版材の再生処理に要する時間短縮、再生コストの低減に有効である。
請求項11記載の本発明の印刷用版材の再生方法は、請求項1〜9の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法により作製された印刷用版材を再生させる方法であって、印刷終了後に該版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、インキを除去された該版材表面に該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射して疎水性画線部を分解して除去する操作と、洗浄液で該版材表面を洗浄する操作とを同時に或いは交互に繰り返して行って、該版材表面を親水化させて再生する再生工程と、を有することを特徴としている。
【0021】
このように、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光の照射と、洗浄剤で版材表面を洗浄する操作を繰り返せば、光触媒による分解作用と洗浄作用の相乗効果により、版材表面は更に容易に再生されるため、版材の再生処理に要する時間短縮、再生コストの低減に更に有効である。
また、請求項12記載の本発明の印刷機は、光触媒を含む親水性の版材表面が備えられる版胴と、該版材のインキを除去する版クリーニング装置と、加熱により該版材表面に反応及び/又は固着される性質と、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することで該光触媒の作用で分解される性質とを併せ持つ樹脂微粒子を含む液を、疎水化剤として該版材表面に塗布する疎水化剤塗布装置と、該版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性画線部を形成する画線部書き込み装置と、該版材表面を乾燥させる乾燥装置と、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を該版材表面に照射して、該疎水性画線部を消去する再生装置と、を備えたことを特徴としている。
【0022】
該画線部書き込み装置が、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも低いエネルギをもつ光を照射することにより該光のエネルギで該樹脂微粒子を加熱し、該版材表面に反応及び/又は固着させて画線部を書き込む装置であることが好ましい(請求項13)。
該光触媒が、酸化チタン光触媒であることが好ましい(請求項14)。
【0023】
請求項15記載の本発明の印刷用版材は、光触媒を含み、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材層と、加熱処理により該版材層表面に反応及び/又は固着される性質と、該活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ樹脂微粒子であって一次粒子径0.001μm以上5μm以下の熱可塑性樹脂である樹脂微粒子を該版材層表面に塗布した層を有することを特徴としている。
この場合、該樹脂微粒子を構成する樹脂成分のガラス転移点(Tg)が−10〜200℃である樹脂微粒子を該版材層表面に塗布した層を有することが好ましい(請求項16)。
請求項17記載の本発明の印刷用版材は、光触媒を含み、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材層と、加熱処理により該版材層表面に反応及び/又は固着される性質と、該活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ樹脂微粒子であって構成する樹脂成分のガラス転移点(Tg)が−10〜200℃である樹脂微粒子を該版材層表面に塗布した層を有することを特徴としている。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
まず、図1,図2を参照して本発明の一実施形態にかかる印刷用版材について説明すると、図1は本実施形態にかかる印刷用版材の表面を示す模式的断面図、図2は本実施形態にかかる印刷用版材において紫外線照射により光触媒コート層が露出した状態を示す模式的断面図である。
【0027】
図1に示すように、この印刷用版材は、基材1と、中間層2と、コート層(版材表面層)3と、樹脂微粒子が加熱溶融されて形成されたフィルム層4とから基本的に構成されている。
基材1はアルミニウムやステンレス等の金属或いはポリマーフィルムなどで構成されている。ただし、本発明にかかる印刷用版材では、その基材はアルミニウムやステンレス等の金属或いはポリマーフィルムに限定されるものではない。
【0028】
中間層2はこの基材1表面上に形成されている。この中間層2としては、例えば、シリカ(SiO2),シリコン樹脂,シリコーンゴム等のシリコン形化合物がその材質として利用される。このうち、特に、シリコン樹脂としては、シリコーンアルキド,シリコーンウレタン,シリコーンエポキシ,シリコーンアクリル,シリコーンポリエステル等が使用される。この中間層2は、基材1と後述するコート層3との付着を確実なものとするため、及び/又は、基材1と後述するコート層3との密着性を向上させるために形成されるものである。
【0029】
このように、基材1とコート層3との間に必要により中間層2を介することにより、コート層3の付着強度を十分に保つことが可能となる。ただし、基材1とコート層3との付着強度が十分に確保できる場合には、中間層2はなくてもさしつかえない。さらに、基材1がポリマーフィルムなどの場合は、必要に応じて基材の保護のために中間層2を形成することもある。
【0030】
中間層2上には、光触媒を含むコート層3が形成されている。このコート層3表面は、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ波長の光、例えば紫外線を照射することによって高い親水性を示すようになる。このような性質を有する光触媒には、例えば酸化チタン光触媒を用いることができる。図2は非画線部の樹脂微粒子層を除去した後、紫外線照射により親水性を示している光触媒コート層が露出した状態を表している。図2に示すように、親水性コート層3が露出することにより印刷用版材の非画線部を形成することが可能となる。
【0031】
このようなコート層3には、前記のように、表面に光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ波長の光を照射すると高い親水性を示すという親水特性を維持する為に、あるいはコート層3の強度や基材1との密着性を向上させる為に、所要の物質を添加したものとしても良い。この物質とは、例えば、シリカ,シリカゾル,オルガノシラン,シリコン樹脂等のシリカ系化合物、また、ジルコニウム,アルミニウム,チタニウム等の金属酸化物又は金属水酸化物、さらにはフッ素系樹脂を挙げることができる。
【0032】
酸化チタン光触媒としては、ルチル型,アナターゼ型,ブルッカイト型があるが、本実施形態においてはいずれも利用可能であり、これらの混合物を用いてもよい。また、後述するように、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光照射下で画線部を分解する光触媒性能を高くするためには、酸化チタン光触媒の粒子径はある程度小さい方が好ましく、具体的に酸化チタン光触媒の粒子径は0.1μm以下であることが好ましい。
【0033】
なお、光触媒としては酸化チタン光触媒が好適であるが、これに限定されるものではない。
本実施形態において使用可能でかつ市販されている酸化チタン光触媒を具体的に列挙すれば、石原産業製のST-01,ST-21,その加工品ST-K01,ST-K03,水分散タイプSTS-01,STS-02,STS-21、また、堺化学工業製のSSP-25,SSP-20,SSP-M,CSB,CSB-M,塗料タイプのLACTl-01,LACTI-03-A、テイカ製の光触媒用酸化チタンコーティング液TKS-201,TKS-202,TKC-301,TKC-302,TKC-303,TKC-304,TKC-305,TKC-351,TKC-352、光触媒用酸化チタンゾルTKS-201,TKS-202,TKS-203,TKS-251、田中転写製のPTA,TO,TPX等を挙げることができる。ただし、本発明はこれらの酸化チタン光触媒に限定されるものではなく、これ以外のものであっても適用可能なことはもちろんである。
【0034】
また、コート層3の膜厚は、0.01〜10μmの範囲内にあることが好ましい。このような膜厚の下限値(0.01μm)は、膜厚があまりに小さければ、前記した性質(親水特性)を十分に生かすことが困難となることから設定したものであり、また、膜厚の上限値(10μm)は、膜厚があまりに大きければ、コート層3がヒビ割れしやすくなり耐刷性低下の要因となるために設定したものである。
【0035】
なお、このコート層3のヒビ割れは膜厚が20μmを越えるようなときに顕著に観察されるから、前記範囲を緩和するとしても当該20μmをその上限として認識することが必要である。しかし、コート層3の膜厚は、さらに厳しく限定して0.05〜3μm程度の膜厚とするのがより好ましい。もちろん、このようなコート層3の膜厚に関する設定範囲(下限値や上限値)は目安であって、かかる設定範囲を超えた瞬間に、前記した性質(親水特性)が急激に低下したり、コート層3のヒビ割れが急増するというものではない。
【0036】
ところで、このようなコート層3の形成方法としては、ゾル塗布法,有機チタネート法,蒸着法等を適宜選択して用いればよい。
例えば、ゾル塗布法を採用するのであれば、これに用いる塗布液としては、酸化チタン光触媒及びコート層3の強度や、基材1との密着性を向上させる性質のあるものが適しており、前記各種の物質(シリカ,シリカゾル,オルガノシラン,シリコン樹脂等のシリカ系化合物、また、ジルコニウム,アルミニウム,チタニウム等の金属酸化物又は金属水酸化物、さらにはフッ素系樹脂)の他に、溶剤,架橋剤,界面活性剤等を添加しても良い。
【0037】
また、この塗布液は、常温乾燥タイプでも加熱乾燥タイプでも良いが、後者の方がより好ましい。これは、加熱によりコート層3の強度を高めた方が、版の耐刷性を向上させるのに有利となるからである。
また、例えば、真空中で金属基板上へ蒸着法にて不定形の酸化チタン層を成長させた後、加熱処理により結晶化させる方法などによりも高い強度をもつ光触媒コート層を作製することも可能である。
【0038】
フィルム層4は、樹脂微粒子を加熱溶融されて形成される。
この樹脂微粒子は、加熱溶融されフィルム状になるとともに、コート層3表面上に反応及び/又は固着された際に、疎水化剤として作用するもので、このような樹脂微粒子を水や有機溶剤といった液体中に分散させた液を、コート層3の表面上に塗布し、加熱処理することでフィルム層4が形成される。
【0039】
すなわち、ここで言う「樹脂微粒子」とは、「加熱処理により溶融してフィルム状になるとともに、コート層の表面と反応及び/又は固着する性質と、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することで、光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ」樹脂微粒子である。
また、ここで、反応及び/又は固着とは、版材表面として印刷時にも充分な強度を保ちうる程度に、樹脂が加熱溶融された形成されたフィルム層がコート層3表面に密着することをさし、コート層3との間で何らかの化学反応を生じているか否とを問うものではなく、また、化学的結合によるか物理的結合によるか否かを問うものではない。
【0040】
なお、以下の説明において、「樹脂微粒子」とは、上述のような性質を有する樹脂微粒子をいうものとする。
また、「樹脂微粒子を含む液」は、後述する樹脂微粒子の種類に応じて、水系または溶剤系に調製される。なお、「水系]の基準としては、塗布する段階での液中の有機溶剤含有量が30wt%以下であり、また「溶剤系」の基準としては、塗布する段階での液中の有機溶剤含有量が30wt%を越えるものである。ここで用いる有機溶剤としては、樹脂微粒子が使用環境温度で実質的に溶解せず、粒子状で分散可能なものであればよい。
【0041】
水系,溶剤系ともに、樹脂微粒子の分散性を向上させるための界面活性剤や、塗布を容易にできるように液の粘度を調整するための添加剤などを含んでいても良いことは言うまでもない。
さらに、樹脂微粒子を含む液には、いわゆるエマルジョンやラテックスが含まれることは言うまでもない。
【0042】
さらにまた、樹脂微粒子を含む液は、液中に分散されている時点で、樹脂微粒子自体が固体粒子状態であっても、例えば溶剤に溶解した液体粒子状態であっても、後の画像書き込み時の加熱処理において、フィルムを形成し、版材表面に反応及び/又は固着して画線部を形成する機能があればよいことは言うまでもない。
【0043】
さらに、このような樹脂微粒子としては、加熱により溶融しフィルム化するとともに、版材表面の親水性部分と反応もしくは強く固着し親水性表面に疎水性を付与する作用を有する一方、常温では前記反応もしくは固着が実質的に起らないことはもちろん、それとともに紫外線照射下において酸化チタン光触媒の作用で容易に分解されるものが好ましい。
【0044】
具体的には、樹脂微粒子の一次粒子径が5μm以下、好ましくは1μm以下の熱可塑性の樹脂が良い。粒子径が大き過ぎると、加熱溶融してできたフィルム、即ち画線部の膜厚が大き過ぎて、再生工程における画線部の分解に時間が掛かりすぎ、実用的ではなくなる。一方、粒子径が小さ過ぎると比表面積増大の効果で常温成膜してしまい、インキの粘着力及び/又は湿し水の洗浄効果、による非画線部の疎水化剤の除去が困難になる。なお、実験的に確認したところ、インキの粘着力及び/又は湿し水の洗浄効果により除去できる疎水化剤粒子の一次粒子径の下限は0.001μm以上であった。
【0045】
また、常温では前記反応もしくは固着が実質的に起らず且つ紫外線照射下において酸化チタン光触媒の作用で容易に分解されるためには、かかる樹脂微粒子を構成する樹脂成分のガラス転移点(Tg)は、−10℃〜200℃であることが好ましい。
熱可塑性樹脂としては種々の樹脂が知られているが、本印刷用版材にかかる版材用疎水化剤としては、上記の大きさの微粒子を形成できる樹脂が好ましく、メタ)アクリル酸,(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン・アクリル酸,スチレン・アクリル酸エステルなどのスチレン・アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂,フェノール系樹脂,エチレン,エチレン・アクリル酸,エチレン・アクリル酸エステル,エチレン酢酸ビニル,変性エチレン酢酸ビニル樹などのエチレン系樹脂、酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,ポリビニルアルコール,ポリビニルエーテルなどのビニル系樹脂や、ブタジエン樹脂,ポリアセタール樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂,ポリプロピレン樹脂が好適である。
【0046】
これらの樹脂は、分解時に塩素化合物などの有害成分を生成しないという利点があるが、版材用疎水化剤としては、これらの樹脂を単独で用いてもよいし、必要に応じて混合して用いても良いことは言うまでも無い。
次に、図3,図4を参照して、本発明の一実施形態にかかる印刷用版材の作製方法及び再生方法について説明する。なお、図3はその工程を(a)〜(e)の順に示す模式図であり、図4はその作製方法により製作された印刷用版材を示す模式的な斜視図である。
【0047】
また、以下において「版の作製」とは、樹脂微粒子を含む液を版材表面上に塗布した後、該版材表面の少なくとも一部をデジタルデータに基づいて加熱処理して疎水性画線部を形成し、加熱処理されなかった版材表面上の前記樹脂微粒子を除去することを言うものとする。
まず、コート層3表面に酸化チタン光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ波長の光を照射し、版材の表面全面を水の接触角が10°前後の親水性表面とし、図2に示すような状態を現出させる。ここで、酸化チタン光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ波長の光とは、より具体的には、波長380nm以下の光を含む紫外線である。
【0048】
そして、疎水化剤塗布工程として、この親水性のコート層3の表面に、樹脂微粒子を含む液を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させる。図3(a)は、前記樹脂微粒子を含む液を塗布した状態を示している。
コート層3の表面のこのような状態を「版作製時の初期状態」という。なお、ここでいう「版作製時の初期状態」とは、実際上の印刷工程におけるその開始時とみなしてよい。より具体的にいえば、ある与えられた任意の画像に関して、それをデジタル化したデータが既に用意されていて、これを版材上に書き込みしようとするときの状態を指すものとみなすことができる。
【0049】
コート層3表面が樹脂微粒子層に覆われてかかる状態(版作製時の初期状態)となっているとなっている時に、この樹脂微粒子層に覆われたコート層3表面に対して画線部書き込み工程として、画線部を書き込む。
この画線部は、画像に関するデジタルデータに準拠して、そのデータに対応するように行われる。なお、ここでいう「画線部」とは水の接触角が50°以上、好ましくは80°以上の疎水性部分であり、印刷用の疎水性インキが容易に付着し、一方、湿し水の付着は困難な状態になっているものとする。
【0050】
このように疎水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法としては、樹脂微粒子層を加熱し、前記樹脂微粒子を溶融させてフィルム化させるとともに、コート層3表面に反応及び/又は固着させる方法が好適である。画線部を加熱した後、加熱されなかった部分の樹脂微粒子を除去することにより、非画線部を現出させ、版を作製することができる。
【0051】
こうした加熱方法としては、光触媒のバンドギャップエネルギよりも低いエネルギをもつ光を照射することにより、加熱処理を行うのが好ましい。この「光触媒のバンドギャップエネルギよりも低いエネルギをもつ光」として、具体的には、赤外線が挙げられる。こうした光を照射すれば、樹脂微粒子を分解することなく溶融してフィルム化させるとともに、コート層3上に反応及び/又は固着させることができる。
【0052】
ここでは、図3(b)に示すように、赤外線書き込みヘッドを用いた赤外照射によって、少なくとも一部の樹脂微粒子を加熱溶解してフィルム化させるとともに、コート層3表面に反応あるいは固着させて画線部を形成するようにしている。
画線部を形成した後、図3(c)に示すように、印刷開始直後の段階で、画像書き込みをしなかった部分の樹脂微粒子を、インキの粘着力及び/又は湿し水の洗浄作用により版材表面から除去して、非画線部を現出させる。これによって、図3(c)に示すように、コート層3表面への画線部と非画線部の形成が完了し、印刷可能な状態となる。
【0053】
なお、樹脂微粒子を含む液の塗布面を加熱し、疎水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法としては、ここでは、光で画線部を書き込んで光のエネルギで加熱するように構成した例を示しているが、他の構成、例えばサーマルヘッドによる樹脂微粒子物塗布面の直接加熱であってもよいことはいうまでもない。
【0054】
上記までの処理[図3(a)〜(c)]が終了したら、版材表面に湿し水および印刷用の疎水性インキと湿し水を混合した、いわゆる乳化インキを塗布する。これによって、例えば図4に示すような印刷用版材が製作されたことになる。
図4において、網掛けされた部分は、樹脂微粒子が加熱溶融されてフィルム化するとともに、光触媒を含むコート層3表面と反応もしくは固着して形成された部分、即ち疎水性の画線部に、疎水性インキが付着した状態を示している。また、残りの白地の部分、即ち親水性の非画線部には、湿し水が優先的に付着する一方、疎水性インキははじかれて付着しなかった状態を示している。このように絵柄が浮かび上がることにより、コート層3表面は、印刷用版材としての機能を有することになる。この後、通常の印刷工程を実行し、これを終了させる。
【0055】
次に、印刷用版材の再生方法について説明する。
なお、「版の再生」とは、少なくとも一部が疎水性を示し残りが親水性を示す版材表面を、全面均一に親水化した後、この親水性の版材表面に、樹脂微粒子を含む液を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させることによって、再び「版作製時の初期状態」に復活させることをいう。
【0056】
「版の再生」では、まず、インキ除去工程として、印刷終了後のコート層3表面に付着したインキ,湿し水,紙粉などを拭き取る。
その後、少なくとも一部が疎水性を示すコート層3表面全面に、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射する。こうすることで、画線部を形成する樹脂微粒子が溶融して形成した画線部を分解して除去し、コート層3表面全面を、水の接触角が10°前後の親水性表面とすること、即ち図2に示す状態とすることができる。
【0057】
光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ波長の光としては、例えば紫外線を照射すればよく、これによって、コート層3表面に存在する画線部を分解・除去し、かつ高い親水性を有する表面にするには、酸化チタン光触媒を用いることにより達成することができる。ここでは、図3(e)に示すように、紫外線照射ランプを用いて、紫外線照射のみで画線部を分解し、コート層3の親水性表面を露出させる場合を示している。
【0058】
紫外線照射によって、全面親水性に回復したコート層3表面に、樹脂微粒子を含む液を再度常温で塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させることによって、版作製時の初期状態に戻すことが可能である。
また、コート層表面全面に、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射して画線部を分解する操作と、水又は水を含む洗浄液でコート層表面を洗浄する操作とを、同時に行うか或いは交互に繰り返すことにより、さらに容易にコート層表面全面を水の接触角が10°前後の親水性表面とすることが可能である。
【0059】
図5は本発明の一実施形態にかかる印刷用版材の作製方法及び再生方法について説明するタイムチャートである。図5は、横軸に時間(或いは操作)、縦軸に版材表面の水の接触角をとっており、本実施形態にかかる印刷用版材に関して、そのコート層3表面の接触角(即ち、疎水,親水状態)が時間或いは操作に伴ってどのように変化するかを示したものである。また、図5において、一点鎖線は非画線部5の状態を示し、破線(開始点a,a´を起点とする太線の破線)は画線部/非画線部に共通のコート層3表面の状態を示し、実線は画線部4の状態を示している。
【0060】
まず予め、コート層3表面に紫外線を照射して、コート層3表面における水の接触角が、10°前後、好ましくは10°以下の高い親水性を示すようにしておく。
最初に、疎水化材塗布工程(Aの工程)として、コート層3表面に、前記樹脂微粒子を含む液を塗布し(点a)、その後、必要があれば液を室温程度の常温で乾燥させる。図5はこの乾燥工程を必要としない場合を示す。樹脂微粒子を含む液を塗布し終わった状態が、つまり「版作製時の初期状態」である(点b)。
【0061】
次に、画線部書き込み工程(Bの工程)として、コート層3表面上の樹脂微粒子塗布面の画線部相当部分を加熱処理して、画線部の書き込みを開始する(点b)。このようにすることによって、樹脂微粒子は加熱されて溶融しフィルム化するとともに、コート層3表面と反応又は固着し、画線部は高い疎水性を示すようになる。この一方、非画線部では樹脂微粒子と版面(版材表面)との反応又は固着は実質的に起らず、画線部書き込み前と同じ状態を維持する。
【0062】
画線部書き込みが完了したら、疎水化剤除去工程(Cの工程)として、印刷直後の段階で、非画線部の樹脂微粒子を、インキの粘着力及び/又は湿し水の洗浄効果によりコート層3表面から除去開始する(点c)。すなわち、非画線部として、親水性のコート層3表面を露出させる。これにより、コート層3表面は、樹脂微粒子が溶融して形成したフィルム状樹脂が反応又は固着して形成された疎水性の画線部と、樹脂微粒子が除去された親水性の非画線部が現出し、版として機能することができるようになる。
【0063】
非画線部の樹脂微粒子除去が完了した後、印刷工程(Dの工程)として、印刷を開始することになる(点d)。
印刷が終了すると、インキ除去工程(Eの工程)として、コート層3表面のインキ、汚れなどを拭き取ってクリーニングを開始する(点e)。
このクリーニング完了後、即ちインキの拭き取りが完了した後には、再生工程(Fの工程)として、コート層3表面への紫外線照射を開始する。こうすることにより、前記の樹脂微粒子が溶融して形成された画線部を分解・除去し、コート層3表面を再び親水性に戻すことができる。
【0064】
この後、次の疎水化剤塗布工程(A´の工程)として、再び樹脂微粒子を含む液を塗布する(点a´)ことにより、「版作製時の初期状態」に戻ることになり、この印刷用版材は再利用に供されることになる。
【0065】
【実施例】
このような本実施形態にかかる印刷用版材の作製方法及び再生方法による版作製および版再生の手順を、更に具体的に説明する。ここでは、本発明の印刷用版材の作製方法及び再生方法に関して、本願発明者らが確認したより具体的な実施例について説明する。
【0066】
まず、その面積が280×204mm、厚さが0.1mmのステンレス(SUS304)製の基材1を用意し、この基材1を陽極酸化処理して黒染め処理を行った。この処理により、830nmの赤外線の吸収率は処理前の30%から、黒染め処理後は90%以上に向上した。この黒染め処理SUS基板をアルカリ脱脂処理し、版材基板として用いた。
【0067】
次に、固形分1wt%のシリカゾルを版材基板にディップコートした後、500℃で30分加熱処理し、厚さ約0.07μmの中間層を形成した。
テイカ株式会社製の光触媒用ゾルTKS−203と酸化チタンコーティング剤TKC−301とを重量比1:4の割合で混合した液を、上記中間層処理した基板にディップコートし、500℃で加熱して、アナターゼ型酸化チタン光触媒層を版材表面に形成した。光触媒層の厚みは約0.1μmであった。
【0068】
次に、版全面に低圧水銀ランプを用いて、波長254nm,照度20mW/cm2の紫外線を10秒照射した後、紫外線照射部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は7°となり、非画線部として十分な親水性を示した。
次に、ジョンソンポリマー製のスチレン・アクリル系樹脂(商品名「J−678」)をエタノールに溶解し、濃度1wt%の樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液中に、界面活性剤イオネット「T−60−C」(三洋化成製)を樹脂に対して10wt%添加した後、樹脂溶液70に対してイオン交換水(冷水)30の重量比となるように、イオン交換水を添加し、樹脂微粒子を析出させた。
【0069】
その後、エバポレータを用いて液温40℃にてメタノールを脱気し、樹脂微粒子の水分散液を調製し疎水化剤とした。走査電子顕微鏡で樹脂粒子を観察すると、粒径0.05〜0.1μmの球状粒子であった。
紫外線を照射して親水性となっている版全面に、ロールコートにより上記疎水化剤を塗布した後、25℃で5分間風乾し、次に、波長830nm、出力250mW、ビーム径15μmの赤外線レーザを用いた画像書き込み装置により版面に画線率10%から100%までの10%刻みの網点画像を書き込むことで、照射部分の樹脂微粒子を加熱溶融し、版面に固着させフィルム層4を形成した。この樹脂微粒子が固着した部分についてCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は82°で、画線部が出来ていることを確認した。
【0070】
この版材を(株)アルファー技研の卓上オフセット印刷機ニューエースプロに取り付け、東洋インキ製のインキHYECOO B紅MZと三菱重工業製の湿し水リソフェロー1%溶液を用いて、アイベスト紙に印刷速度3500枚/時にて印刷を開始した。
印刷開始1〜5枚目は、本来インキが付かない非画線部にもインキが部分的に付着し汚れているような印刷物であったが、次第に汚れは消えていき、10枚目には非画線部の汚れは消えて、画線部にはインキが付着し、一方、画像を書き込まなかった非画線部にはインキが付着せず、紙面上には網点画像が印刷できた。
【0071】
次に、印刷用版材の再生に係わる実施例を説明する。
印刷終了後、版面上に付着したインキ,湿し水,紙粉などをきれいに拭き取った版全面に、低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を20秒照射した。その後、網点を書き込んでいた部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は8°となり、十分な親水性を示すを確認した。すなわち、版材は疎水化剤塗布前の状態に戻り、版再生ができたことを確認した。
【0072】
なお、上記の印刷および版再生を印刷機上で行うためには、図6に示すような印刷機10を用いるのが好ましい。
すなわち、この印刷機10は、版胴11を中心として、その周囲に版クリーニング装置12,紫外線照射装置13,樹脂微粒子を含む液の塗布装置14,乾燥装置15,画線部書き込み装置16,インキングローラ17,湿し水供給装置18及びブランケット胴19を備えたものとなっている。印刷用版材は、版胴11に巻き付けられて設置されている。
【0073】
この印刷機10において、上記したように印刷を終了した版の再生工程は、次のように行われる。
まず、版クリーニング装置12を版胴11に対して接した状態とし、版面上に付着したインキ,湿し水,紙粉などをきれいに拭き取る。
その後、クリーニング装置12を版胴11から脱離させ、紫外線照射装置13で版全面に紫外線照射して版面を親水化する。つまり、紫外線照射装置13は、光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を版材表面に照射して、疎水性画線部を消去する再生装置として機能する。
【0074】
その後、前記樹脂微粒子を含む液を、版全面に塗布装置14を用いて塗布し、必要なら乾燥機15を用いて、室温程度の常温で塗布液を乾燥させる。これにより、版作製時の初期状態となる。
次に、予め用意された画像のデジタルデータに基づき書き込み装置で版面を加熱して、画線部を書き込んだ後、インキングローラ17,湿し水供給装置18,ブランケット胴19を版胴に対して接する状態とし、紙(印刷用紙)20がブランケット胴19に接するようにして、かつブランケット胴19の回動(図6に示す矢印参照)によって紙20を所要方向(図中では左方向)に搬送していくことによって、非画線部の樹脂微粒子はインキインキの粘着力、及び/又は、湿し水の洗浄効果によって除去され、その後、印刷が行われるようになっている。
【0075】
この印刷機においては、印刷後の版面のクリーニング,紫外線照射による画線部の分解・除去,前記樹脂微粒子を含む液の塗布,加熱による画線部書き込み,及び非画線部の樹脂微粒子の除去といった一連の版再生及び版作製の工程を、印刷用版材を印刷機に取り付けたまま、印刷機上でも行うことができる。
これによれば、印刷機を停止することなく、また印刷版の交換作業を挟むことなく連続的な印刷作業の実施を行うことが可能になる。
【0076】
なお、この印刷機においては、印刷用版材を版胴に巻き付けるように構成しているが、これに限定されるものではなく、版胴表面に酸化チタン光触媒を含むコート層を直接設けたもの、即ち版胴と印刷用版材とが一体に構成されたものを用いてもよいことは言うまでもない。
また、この印刷機においては、非画線部の疎水化剤を除去する装置を設けてはいないが、独立した構成要素としての疎水化剤除去装置を設けてもよい。この疎水化剤除去装置としては、例えば、版面に水を噴霧する装置、或いは、表面が粘着性をもったローラなどが挙げられる。
【0077】
また、本実施形態にかかる印刷用版材の作製方法及び再生方法においては、印刷用版材の再利用が可能となっているという利点もさることながら、そのサイクルを迅速化できる利点をも備えている。
すなわち、酸化チタン光触媒と、この酸化チタン光触媒で容易に分解する樹脂微粒子と、デジタルデータに基づいて樹脂微粒子塗布面を加熱し画線部形成する技術とを組み合わせることで、版を作製する場合にも、版を再生する場合にも、いずれも、それらを実現するための作業に時間がかからないこととなっている。したがって、印刷工程全体を極めて速やかに完了させることが可能になる。
【0078】
また、酸化チタン光触媒のもつ公知の性質、即ちバンドギャップエネルギよりも高いエネルギのもつ波長を照射することにより親水性化する性質及び有機物を分解する性質と、加熱処理により溶融してフィルム化するとともに、版材表面と反応及び/又は固着する性質及び前記光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することにより分解除去される性質を併せもつ樹脂微粒子を含む液と、デジタルデータに基づき版面の前記樹脂微粒子を加熱し、樹脂微粒子をフィルム化させ版面と反応あるいは固着させる方法で画線部を書き込む技術とを、組み合わせて利用することにより、版材の再生・再利用を可能とし、使用後に廃棄される版材の量を著しく減少させることができるのである。
【0079】
したがって、その分、版材に関わるコストを大幅に低減することができる。
また、画像に係わるデジタルデータから、版材への画像書き込みを直接実施することが可能であることから、印刷工程のデジタル化対応がなされており、その相応分の大幅な時間短縮、又はコスト削減を図ることができる利点がある。
さらに、本形態に係わる印刷機においては、版作製と版再生を印刷機上で行うことが可能であるから、印刷作業の迅速化を実現することもできる利点がある。
【0080】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0081】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明にかかる印刷用版材の作製方法、再生方法及び印刷機及び印刷用版材並びに印刷用版材用塗布液によれば、版材を再生し繰り返し使用することにより、使用後に廃棄される版材の量を著しく減少させることができるとともに、版材に関わるコストが低減できるようになる効果がある。
【0082】
また、印刷工程に占める版再生時間を短縮できるため、印刷準備時間の短縮ができる効果がある。さらに、デジタルデータから直接版を作成することにより、印刷工程のデジタル化対応や時間短縮ができるようになる効果もある。さらに、印刷機に取り付けた状態で、版作製および版再生ができるようになり、版交換作業がなく操作性を向上させることができる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかる印刷用版材の表面を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる印刷用版材において紫外線照射により光触媒コート層が露出した状態を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる印刷用版材の作製方法及び再生方法を説明する模式的な工程図であって、(a)〜(e)の順にその工程を示す。
【図4】本発明の一実施形態としての印刷用版材の作製方法により製作された印刷用版材を示す模式的な斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる印刷用版材の作製方法及び再生方法を説明するタイムチャートである。
【図6】本発明の一実施形態にかかり印刷機を示す模式的な構成図である。
【符号の説明】
1 基材
2 中間層
3 コート層(版材表面層,非画線部)
4 フィルム層(疎水性画線部)
10 印刷機
11 版胴
12 版クリーニング装置
13 紫外線照射装置(再生装置)
14 塗布装置
15 乾燥装置
16 画線部書き込み装置
17 インキングローラ
18 湿し水供給装置
19 ブランケット胴
20 紙(印刷用紙)
Claims (17)
- 光触媒を含む親水性の版材表面を有する印刷用版材の該版材表面の少なくとも一部に疎水性の画線部を形成する印刷用版材の作製方法であって、
加熱処理により該版材表面に反応及び/又は固着される性質と、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することにより該光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ樹脂微粒子であって一次粒子径5μm以下で且つ0.001μm以上の熱可塑性樹脂である樹脂微粒子を含む液を、疎水化剤として該版材表面に塗布する工程と、
該版材表面の少なくとも一部を加熱処理して該版材表面に塗布された該樹脂微粒子を該版材表面に反応及び/又は固着させて疎水性画線部を形成する画線部書き込み工程と、
該疎水性画線部を形成された該版材表面の該疎水性画線部以外の部分に塗布された該樹脂微粒子を除去する疎水化剤除去工程と、
を有することを特徴とする、印刷用版材の作製方法。 - 該樹脂微粒子を構成する樹脂成分のガラス転移点(Tg)が−10℃〜200℃であることを特徴とする、請求項1記載の印刷用版材の作製方法。
- 光触媒を含む親水性の版材表面を有する印刷用版材の該版材表面の少なくとも一部に疎水性の画線部を形成する印刷用版材の作製方法であって、
加熱処理により該版材表面に反応及び/又は固着される性質と、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することにより該光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ樹脂微粒子であって構成する樹脂成分のガラス転移点(Tg)が−10℃〜200℃である樹脂微粒子を含む液を、疎水化剤として該版材表面に塗布する工程と、
該版材表面の少なくとも一部を加熱処理して該版材表面に塗布された該樹脂微粒子を該版材表面に反応及び/又は固着させて疎水性画線部を形成する画線部書き込み工程と、
該疎水性画線部を形成された該版材表面の該疎水性画線部以外の部分に塗布された該樹脂微粒子を除去する疎水化剤除去工程と、
を有することを特徴とする、印刷用版材の作製方法。 - 該画像書き込み工程が、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも低いエネルギをもつ光を照射することにより該光のエネルギで樹脂微粒子を加熱し、該樹脂微粒子を溶融させてフィルム状にするとともに、該樹脂微粒子を該版材表面に反応及び/又は固着させて画線部を書き込む工程であることを特徴とする、請求項1〜3の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法。
- 該疎水化剤除去工程が、印刷開始初期における該樹脂微粒子を、インキの粘着力及び/又は湿し水の洗浄効果により該版材表面から除去する工程であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法。
- 該樹脂微粒子がアクリル系樹脂,スチレン系樹脂,スチレン・アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,フェノール系樹脂,エチレン系樹脂,ビニル系樹脂,ブタジエン樹脂,ポリアセタール樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂,ポリプロピレン樹脂のうちの何れか一種又は何れか複数であることを特徴とする、請求項1〜5の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法。
- 該光触媒が酸化チタン光触媒であることを特徴とする、請求項1〜6の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法。
- 該樹脂微粒子を含む液が水系であることを特徴とする、請求項1〜7の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法。
- 該樹脂微粒子を含む液が溶剤系であることを特徴とする、請求項1〜7の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法。
- 請求項1〜9の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法により作製された印刷用版材を再生させる方法であって、
印刷終了後に版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、
インキを除去された該版材表面に該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射して該疎水性画線部を分解して除去し、該版材表面を親水化させて再生する再生工程と、
を有することを特徴とする、印刷用版材の再生方法。 - 請求項1〜9の何れかの項に記載の印刷用版材の作製方法により作製された印刷用版材を再生させる方法であって、
印刷終了後に該版材表面からインキを除去するインキ除去工程と、
インキを除去された該版材表面に該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射して疎水性画線部を分解して除去する操作と、洗浄液で該版材表面を洗浄する操作とを同時に或いは交互に繰り返して行って、該版材表面を親水化させて再生する再生工程と、
を有することを特徴とする、印刷用版材の再生方法。 - 光触媒を含む親水性の版材表面が備えられる版胴と、
該版材のインキを除去する版クリーニング装置と、
加熱により該版材表面に反応及び/又は固着される性質と、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を照射することで該光触媒の作用で分解される性質とを併せ持つ樹脂微粒子を含む液を、疎水化剤として該版材表面に塗布する疎水化剤塗布装置と、
該版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性画線部を形成する画線部書き込み装置と、
該版材表面を乾燥させる乾燥装置と、
該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ光を該版材表面に照射して、該疎水性画線部を消去する再生装置と、
を備えたことを特徴とする、印刷機。 - 該画線部書き込み装置が、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも低いエネルギをもつ光を照射することにより該光のエネルギで該樹脂微粒子を加熱し、該版材表面に反応及び/又は固着させて画線部を書き込む装置であることを特徴とする、請求項12記載の印刷機。
- 該光触媒が、酸化チタン光触媒であることを特徴とする、請求項12又は13記載の印刷機。
- 光触媒を含み、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材層と、加熱処理により該版材層表面に反応及び/又は固着される性質と、該活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ樹脂微粒子であって一次粒子径0.001μm以上5μm以下の熱可塑性樹脂である樹脂微粒子を該版材層表面に塗布した層を有することを特徴とする、印刷用版材。
- 該樹脂微粒子を構成する樹脂成分のガラス転移点(Tg)が−10〜200℃である樹脂微粒子を該版材層表面に塗布した層を有することを特徴とする、請求項15記載の印刷用版材。
- 光触媒を含み、該光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギをもつ活性光を照射することにより親水性を示す版材層と、加熱処理により該版材層表面に反応及び/又は固着される性質と、該活性光を照射することにより該光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ樹脂微粒子であって構成する樹脂成分のガラス転移点(Tg)が−10〜200℃である樹脂微粒子を該版材層表面に塗布した層を有することを特徴とする、印刷用版材。
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