JP3686361B2 - 印刷版材用塗布液および印刷用版材の作製方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷用版材の作製方法に関し、さらに詳しくは、デジタルデータの入力で画像の書き込みが可能で、かつ、容易に再生して使用することが可能な印刷用版材の作製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
印刷技術一般として、昨今、印刷工程のデジタル化が進行しつつある。これはパソコンで画像、原稿を作成したり、スキャナ等で画像を読み込むことにより当該画像データをデジタル化し、このデジタルデータから直接印刷用版材を製作するというものである。このことによって、印刷工程全体の省力化が図れるとともに、高精細な印刷を行うことが容易になる。
【0003】
従来、印刷に用いる版としては、陽極酸化アルミを親水性の非画線部とし、その表面上に感光性樹脂を硬化させて形成した疎水性の画線部を有する、いわゆるPS版(Presensitized Plate)が一般的に用いられてきた。
このPS版を用いて印刷用版を作成するには複数の工程が必要である。このため、版の製作に時間がかかり、コストも高くなるため、印刷工程の時間短縮および印刷の低コスト化を推進しにくい状況にある。特に少部数の印刷に適用した場合に、印刷コストアップの要因となる。また、PS版では、現像液による現像工程を必要とするので、手間がかかるだけでなく、現像廃液の処理が環境汚染防止という観点から重要な課題となる。
【0004】
また、PS版では、一般に原画像が穿設されたフィルムを版面に密着させて露光する方法が用いられており、デジタルデータから直接版を作成し印刷工程のデジタル化を進めるうえで印刷用版の作成が障害となっている。また、一つの画像の印刷が終わると、版を交換して次の印刷を行わなければならず、版材は使い捨てにされていた。
【0005】
さらに、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にカーボンブラックなどのレーザ吸収層、さらにその上にシリコン樹脂層を塗布したものに、レーザ光線で画像を書き込むことによりレーザ吸収層を発熱させ、その熱によりシリコン樹脂層を焼き飛ばして印刷用版を作成する方法、あるいは、アルミ版の上に親油性のレーザ吸収層を塗布し、さらにその上に塗布した親水層を前記と同様にレーザ光線で焼き飛ばして印刷用版とする方法、などが知られている。
この他にも、親水性ポリマーを版材として使用し、画像露光により照射部を親油化させ版を作成する方法も提案されている。
しかしながら、このような方法では、デジタルデータから直接版材を作成することは可能であるが、一つの画像の印刷が終わると新しい版に交換しなければ次の印刷ができず、従って、一度使った版材は廃棄されることに変わりはない。
【0006】
このように赤外線(IR)などの光で画像を書き込むことができる版材は知られているが、それらのほとんどは再生できない。また、最近、IRで画像を書き込んで版を再生するシステムが提案されている。しかし、このシステムでは、版の構成材料として光触媒を使用していないので、印刷終了後の版再生手段として、もっぱら洗浄液で基材に固着した画線部を洗浄する方法を採用している。このため、多種類且つ大量の洗浄剤を使用するなど使い勝手が良いとは言えない。
【0007】
一方、酸化チタン光触媒を用いた再生可能な版材に関する発明が幾つか公表され、その多くは酸化チタン自体を熱により疎水化できるとしている。しかしながら、加熱による疎水化は原理的に非常に困難である。唯一、Crをイオン注入した酸化チタン光触媒の可視光による疎水化が原理的には可能と考えられるが、親水/疎水変換に時間がかかるため版材再生に適用するのは実用的には難しい。
【0008】
他方、紫外線(UV)を照射して親水化したTi02光触媒の少なくとも一部に熱を加え光触媒自体を疎水化し、潜像形成して版として用いる技術、およびその加熱方法としてIRなどの光を用いることが開示されている。
しかしながら、Ti02光触媒の加熱による親水化が、東大・藤嶋教授らによって発表されており、加熱による疎水化を利用した画像書き込み或いは版再生は原理的に不可能であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点に鑑み、熱可塑性樹脂微粒子を含む印刷版材用塗布液、特にTi02光触媒を用いた再生可能な印刷用版材に光触媒に対する不活性光であるIRで画像を書き込む方法に用いて好適な印刷版材用塗布液を用いた印刷用版材の作製方法を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、光触媒を含む親水性の版材表面の少なくとも一部に疎水性の画線部を形成して印刷用版材を作製する方法であって、少なくとも、担体液、熱可塑性樹脂粒子およびIR吸収剤を含み、かつ、該IR吸収剤が前記熱可塑性樹脂粒子の溶解開始温度よりも高い分解開始温度を有する印刷版材用塗布液を、疎水化剤として前記版材表面に塗布する疎水化剤塗布工程と、前記版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性画線部を形成する画線書込み工程と、前記版材表面の疎水性画線部以外の部分に塗布された前記疎水化剤を除去する疎水化剤除去工程とを含んでいる。本発明によれば、IRエネルギーの利用効率が高く、IRによる画像書き込み速度が速い印刷用版材を作製することができる。
【0011】
前記光触媒としては、酸化チタン、特にアナターゼ型酸化チタンが好適である。
【0012】
また、前記IR吸収剤は、前記熱可塑性樹脂粒子に含有もしくは添着させることができる。
【0013】
前記IR吸収剤と前記熱可塑性樹脂の複合物は、その光の吸収率が光の波長800nm〜850nm、好ましくは、約830nmにピークを有することが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る印刷版材用塗布液および印刷用版材の作製方法の具体的な実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0015】
本発明に係る印刷版材用塗布液は、少なくとも、担体液、熱可塑性樹脂粒子およびIR吸収剤を含むものである。
IR(赤外線)吸収剤は、IRを吸収して、IRの光エネルギーを熱に変換する作用を有する。このIR吸収剤は、その分解開始温度が熱可塑性樹脂粒子の溶融開始温度よりも低い場合、熱可塑性樹脂に対する加熱効率が低下する。以下、その理由を図1に示すIR吸収剤のTG-DTA曲線を参照して説明する。
【0016】
図1において、符号aは、分解開始温度が熱可塑性樹脂粒子の溶融開始温度(この例では、150℃)よりも低いIR吸収剤のDTA曲線を、符号bは、分解開始温度が上記溶融開始温度よりも高いIR吸収剤のDTA曲線を、また符合cは、特性aのIR吸収剤の加熱による重量変化(TG曲線)をそれぞれ示している。
上記特性aのIR吸収剤を用いた場合、熱可塑性樹脂が溶融を始める前にIR吸収剤自身が自己の分解のために熱を吸収するため、IR書き込みによって熱可塑性樹脂に加えられた熱エネルギーを熱可塑性樹脂粒子の溶融に有効に使うことができなくなる。
【0017】
そこで、この実施の形態に係る印刷版材用塗布液では、DTA特性bを有するIR吸収剤を使用している。
このようなIR吸収剤を用いる本発明の印刷版材用塗布液によれば、IR吸収剤によって光から変換された熱が、熱可塑性樹脂が溶融を始める前に該吸収剤自身に吸収されることがない。つまり、上記熱がもっぱら熱可塑性樹脂粒子に吸収されてその溶融に有効に活用される。
【0018】
したがって、光触媒を含む版材表面に塗布する疎水化剤として上記本発明に係る印刷版材用塗布液を使用すれば、IR光に基づいて疎水性画線部を効率よく形成することが可能になり、これはIRを用いた画像書き込み装置の必要出力の低下による同装置のコストの低減をもたらす。また、画像書き込み速度が向上するので、版作製の準備時間が短縮されて印刷機の稼働率が向上するというメリットも得られることになる。
【0019】
上記本発明に係る印刷版材用塗布液に使用されるIR吸収剤は、上記熱可塑性樹脂粒子に含有もしくは添着される。そして、このIR 吸収剤と熱可塑性樹脂粒子の複合物の光の吸収率は、光の波長800nm〜850nm、好ましくは、約830nmにピークを有することが望ましい。これは、現在市販されているIR書き込み装置の波長が830nmであるとういう理由に基づいている。
上記熱可塑性樹脂粒子の好適な材料には、例えばスチレン・(メタ)アクリル系共重合体、α−メチルスチレン・スチレン・(メタ)アクリル系共重合体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン・(メタ)アクリル酸、スチレン・(メタ)アクリル酸エステル、α−メチルスチレン・スチレン・(メタ)アクリル酸、α−メチルスチレン・スチレン・(メタ)アクリル酸エステルなどのスチレン・アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、エチレン、エチレン・アクリル酸、エチレン・アクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、変性エチレン酢酸ビニル樹などのエチレン系樹脂、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルなどのビニル系樹脂など挙げることができる。
また、IR吸収剤としては、例えば、日本化薬製のKAYASORBシリーズ(CY30(B),CY-30(T),CY-37,IR-820(B))、日本触媒製のイーエクスカラーシリーズ(HA-1,HA-10,HA-14)、HAKKOL CHEMICAL製のShigenoxシリーズ(NIA-803W,NIA-809W,NIA-827H)、旭電化工業製のTW-1926、山田化学製のIRF-162などを使用することができるが、これらに限るものではない。
IR吸収剤の選定にあたっては、樹脂の溶融開始温度より熱分解温度が高く、かつ樹脂との親和性が高く樹脂粒子中に包含されやすいIR吸収剤を選定すればよい。
なお、上記担体液としては水や有機溶剤が使用され、この担体液中に上記熱可塑性樹脂粒子が分散される。
【0020】
図2は、上記本発明に係る印刷版材用塗布液が使用される印刷用版材の一例の表面部の断面を示している。
この印刷用版材(版材)Pは、基材1と、中間層2と、コート層3とから構成されている。この図において、コート層3の表面(版材表面、版面)上には、後述の樹脂層4が形成されている。
基材1は、アルミニウムやステンレス等の金属、ポリマーフィルムなどで構成されている。ただし、基材1の材質は、これらアルミニウムやステンレス等の金属あるいはポリマーフィルムに限定されるものではない。
【0021】
基材1の表面上には、中間層2が形成されている。中間層2としては、例えば、シリカ(SiO2)、シリコーン樹脂、シリコーンゴム等のシリコーン形化合物がその材質として利用される。そのうち特に、シリコーン樹脂としては、シリコーンアルキド、シリコーンウレタン、シリコーンエポキシ、シリコーンアクリル、シリコーンポリエステル等が使用される。この中間層2は、基材1と後述するコート層3との付着を確実なものとならしめるため、また密着性を向上させるために形成されているものである。
【0022】
基材1とコート層3との間に、必要によりこの中間層2を介することにより、コート層3の付着強度を十分に保つことが可能となる。ただし、基材1とコート層3との付着強度が十分に確保できる場合には、中間層2はなくてもさしつかえない。さらに、基材1がポリマーフィルム等から構成されている場合は、必要に応じて、基材1の保護のために形成されることもある。
【0023】
中間層2上には、光触媒として酸化チタン光触媒を含むコート層3が形成されている。このコート層3表面は、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ波長の光である紫外線(以下UVと記す)を照射することによって高い親水性を示すようになる。この性質は、酸化チタン光触媒の備える性質に依るものである。
図3は、非画線部の有機系化合物を除去した後、UV照射により親水性を示しているコート層3が露出した状態を表している。この親水性を示すコート層3の露出により、印刷用版材Pの非画線部を形成することが可能となる。
【0024】
このコート層3には、前記性質、親水特性を維持する為、あるいはコート層3の強度や基材1との密着性を向上させることを目的として、次に示す様な物質を添加したものとして良い。この物質とは、例えば、シリカ、シリカゾル、オルガノシラン、シリコン樹脂等のシリカ系化合物、また、ジルコニウム、アルミニウム等からなる金属酸化物又は金属水酸化物、さらにはフッ素系樹脂を挙げることができる。
【0025】
酸化チタン光触媒としては、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型があるが、本実施形態においてはいずれも利用可能であり、それらの混合物を用いてもよい。また、後述するように、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつUVの照射下で有機系化合物を分解する光触媒性能を高くするためには、酸化チタン光触媒の粒子径はある程度小さい方が好ましく、具体的に酸化チタン光触媒の粒径は0.1μm以下であることが好ましい。
なお、光触媒としては酸化チタン光触媒が好適であるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本実施形態において使用可能でかつ市販されている酸化チタン光触媒を具体的に列挙すれば、石原産業製のST−01、ST−21、その加工品ST−K01、ST−K03、水分散タイプSTS−01、STS−02、STS−21、また、堺化学工業製のSSP−25、SSP−20,SSP−M、CSB、CSB−M、塗料タイプのLACTl−01、LACTI−03−A、テイカ製のTKS−201、TKS−202、TKC−301、TKC−302、田中転写製のPTA、TO、TPX、等を挙げることができる。ただし、これらの酸化チタン光触媒以外にあっても適用可能なことは、もちろんである。
【0027】
また、コート層3の膜厚は、0.01〜10μmの範囲内にあることが好ましい。というのは、膜厚があまりに小さければ、前記した性質を十分に生かすことが困難となり、また、膜厚があまりに大きければ、コート層3がヒビ割れし易くなって、耐刷性低下の要因となるためである。なお、このヒビ割れは膜厚が20μmを越えるようなときに顕著に観察されるから、前記範囲を緩和するとしても当該20μmをその上限として認識する必要がある。また、実際上は0.1〜3μm程度の膜厚とするのがより好ましい。
なお、このコート層3は、ゾル塗布法、有機チタネート法、蒸着法等によって形成することができる。
【0028】
前記樹脂層4は、加熱処理によりコート層3の表面(版材表面)に反応ないし固着される性質と、光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつUVを照射することで光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ。
【0029】
以下では、本発明による印刷用版材Pの作製方法および再生方法について説明する。印刷用版材Pの作製方法は、「疎水化剤塗布工程」、「画線部書き込み工程」および「疎水化剤除去工程」からなる。
【0030】
図4に、印刷用版材Pの作製と再生の手順を概念的に示す。なお、以下において「版の作製」とは、本発明による印刷版材用塗布液を版材表面上に塗布した後、該版材表面の少なくとも一部をデジタルデータに基づいて加熱処理して疎水性画線部を形成し、加熱処理されなかった版材表面上の前記有機系化合物を除去することをいうものとする。
【0031】
先ず、コート層3の表面に、酸化チタン光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ波長の光(例えば、波長380nm以下のUV)を照射し、図3に示すような状態、すなわち印刷用版材Pの版材表面全面を水Wの接触角が10°以下の親水性表面とするような状態を現出させておく。
そして、疎水化剤塗布工程として、この親水性のコート層3の表面に、本発明による前記印刷版材用塗布液(この図では符号4Lで示す)を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させ、図2の状態、すなわちコート層3上に樹脂層4が形成された状態を作る。
【0032】
図4(a)は、前記有機系化合物を含む液を塗布した状態を、図4(b)は、前記塗布液を室温程度の常温で乾燥させた状態を各々示している。
コート層3の表面のこの状態を「版作製時の初期状態」という。なお、上記でいう「版作製時の初期状態」とは、実際上の印刷工程におけるその開始時とみなしてよい。より具体的にいえば、ある与えられた任意の画像に関して、それをデジタル化したデータが既に用意されていて、これを版材上に書き込みしようとするときの状態を指すものとみなせる。
【0033】
上記樹脂層4に覆われたコート層3の表面に対して、画線部書き込み工程として画線部を書き込む。
この画線部は、画像に関するデジタルデータに準拠して、そのデータに対応するように行われる。なお、ここでいう画線部とは、水の接触角が50°以上、好ましくは80°以上の疎水性部分であり、印刷用の疎水性インキが容易に付着し、一方、湿し水の付着は困難な状態になっている。
この疎水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法として、樹脂層4を加熱し、前記有機系化合物をコート層3上に反応ないし固着させる方法が好適である。画線部を加熱した後、加熱されなかった部分(非加熱部分)である、疎水性画線部以外の部分に塗布された有機系化合物を除去することにより、非画線部を現出させ、版を作製することができる。
【0034】
樹脂層4を加熱するため、光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ IR を照射する。この IR の照射によって、塗布液に含まれた熱可塑性樹脂粒子分解させることなくコート層3上に反応ないし固着させることができる。
ここでは、図4(c)に示すように、赤外線書き込みヘッド6を用いたIRの照射によって、少なくとも一部の樹脂層4を加熱し、熱可塑性樹脂粒子をコート層3表面に反応あるいは固着させて画線部4aを形成するようにしている。
【0035】
画線部4aを形成した後、図4(d)に示すように、洗浄スプレー7を用いて水または水を含む洗浄液を有機系化合物層4に吹き付け、非加熱部分の有機系化合物層4を洗浄・除去して、非画線部5を現出させる。これで、図4(e)に示すように、コート層3の表面への画線部4aと非画線部5の形成が完了し、印刷可能な状態となる。
【0036】
上記までの処理が終了したら、コート層3の表面に、印刷用の疎水性インキと湿し水を混合した状態で塗布する。すると、例えば図5に示すような、印刷用版材Pが製作されることになる。
この図において、網掛けされた部分は、塗布液中の熱可塑性樹脂が光触媒を含むコート層3の表面と反応もしくは固着して形成された部分、すなわち疎水性部分の画線部4aに疎水性インキが付着した状態を示している。残りの白地の部分、すなわち、親水性部分である非画線部5には、湿し水が優先的に付着する一方、疎水性インキははじかれて付着しなかった状態を示している。このように絵柄が浮かび上がることにより、コート層3表面は、印刷用版としての機能を有することになる。
この後、通常の印刷工程を実行し、これを終了させる。
【0037】
次に、印刷用版材Pの再生方法について説明する。
なお、「版の再生」とは、少なくとも一部が疎水性を示し残りが親水性を示す版材表面を全面均一に親水化した後、この親水性の版材表面に前記印刷版材用塗布液を塗布し、必要に応じて室温程度の温度で該液を乾燥させることによって、再び「版作製時の初期状態」に復活させることをいうものとする。
【0038】
まず、インキ除去工程として、印刷終了後のコート層3表面に付着したインキ、湿し水、紙粉などを拭き取る。 その後、再生工程として、少なくとも一部が疎水性を示すコート層3表面全面に光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ光を照射する
こうすることで、画線部4aを形成する熱可塑性樹脂を分解して除去し、コート層3の表面全面を水の接触角が10°前後の親水性表面とする状態、すなわち図3に示す状態とすることが可能である。
【0039】
光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ波長の光、例えば紫外線を照射することによって、コート層3の表面に存在する熱可塑性樹脂粒子を分解・除去し、かつ高い親水性を有するという性質は、酸化チタン光触媒の備える性質に依るものである。ここでは、図4(f)のように、紫外線照射ランプ8を用いて、紫外線照射のみで画線部4aを形成する有機系化合物を分解し、コート層3aの表面、すなわち親水性表面を露出させる場合を示している。
紫外線照射により全面が親水性を回復したコート層3表面に、熱可塑性樹脂粒子を含む塗布液4Lを再度常温で塗布し、必要に応じて室温程度の温度で乾燥させることによって、版作製時の初期状態に戻すことが可能である。
【0040】
また、コート層3の表面全域に光触媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ光を照射して上記熱可塑性樹脂粒子を分解する操作と、水または水を含む洗浄液でコート層3の表面を洗浄する操作とを交互に繰り返すことにより、さらに容易にコート層3表面全面を水の接触角が10°前後の親水性表面とすることが可能である。
【0041】
上記熱可塑性樹脂粒子としては、加熱により版材表面の親水性部分と反応もしくは強く固着して親水性表面に疎水性を付与する作用を有する一方、常温では前記反応もしくは固着が実質的に起らないことはもちろん、それとともに紫外線照射下において酸化チタン光触媒の作用で容易に分解されるものが好ましい。
【0042】
以上説明したことを、まとめて示しているのが図6に示したグラフである。これは、横軸に時間(あるいは操作)、縦軸に水の接触角をとったグラフであって、印刷用版材Pに関して、そのコート層3の表面の接触角(すなわち、疎水、親水状態)が時間あるいは操作に伴ってどのように変化するかを示したものである。この図において、一点鎖線はコート層3表面又は非画線部5を、実線は画線部4を各々示している。
【0043】
まず、コート層3の表面に紫外線を照射して、コート層3表面の水の接触角が10°前後、好ましくは10°以下である高い親水性を示すようにしておく。 最初に、疎水化剤塗布工程(Aの工程)として、コート層3表面に、前記本発明に係る印刷版材用塗布液(疎水化剤)を塗布し(点a)、その後、必要があればこの液を室温程度の常温で乾燥させる。なお、この図においては、乾燥工程を必要としない場合を示している。有機系化合物を含む液を塗布し終わった状態が、つまり「版作製時の初期状態」である。
【0044】
次に、画線部書き込み工程(Bの工程)として、コート層3表面上の塗布液の画線部相当部分を加熱して、画線部の書き込みを開始する(点b)。こうすることによって、有機系化合物はコート層3表面と反応または固着し、画線部は高い疎水性を示すようになる。一方、非画線部では塗布液に含まれた熱可塑性樹脂粒子と版面との反応または固着は実質的に起らず、画線部書き込み前と同じ状態を維持する。
【0045】
画線部書き込みが完了したら、疎水化剤除去工程(Cの工程)として、非画線部の塗布液を洗浄等の方法によりコート層3の表面から除去する(点c)。すなわち、非画線部5として、親水性のコート層3表面を露出させる。これにより、コート層3の表面は、塗布液中の熱可塑性樹脂粒子が反応または固着して形成された疎水性の画線部と、該樹脂が除去された親水性の非画線部が現出し、印刷用版としての機能をもつことになる。
非画線部5の除去が完了した後、印刷工程(Dの工程)として、印刷を開始することになる(点d)。
【0046】
印刷が終了すると、インキ除去工程(Eの工程)として、コート層3の表面のインキ、汚れなどを拭き取ってクリーニングを開始する(点e)。
クリーニング完了、すなわちインキの拭き取りが完了した後に、再生工程(Fの工程)として、コート層3表面への紫外線照射を開始する。こうすることにより、前記熱可塑性樹脂粒子で形成された画線部4aを分解・除去し、コート層3表面を再び親水性に戻す。
この後、次の疎水化剤除去工程(A’の工程)として、再び前記塗布液を塗布する(点a’)ことにより、「版作製時の初期状態」に戻ることになり、この印刷用版材Pは再利用に供されることになる。
【0047】
本発明の印刷用版材の作製方法および再生方法における版作製および版再生の手順は、以下の実施例を参照して詳細に説明する。
以下には、本発明者らが確認した印刷用版材の作製方法および再生方法にかかわるより具体的な実施例が示されている。
【0048】
【実施例1】
(1)まず、面積が280×204mm、厚さが0.1mmのステンレス(SUS304)製の基材1(版材基板)を用意し、固形分5wt%のシリカゾルをこの版材基板にディップコートした後、500℃で30分加熱処理して、厚さ約0.07μmのシリカ中間層を形成した。
【0049】
(2)テイカ株式会社製の酸化チタンコーティング剤TKC−301を上記中間層処理した基板にディップコートし、これを500℃で加熱してアナターゼ型酸化チタン光触媒層を版材表面に形成した。光触媒層の厚みは約0.1μmであった。
【0050】
(3)版全面に低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を10秒照射した後、紫外線照射部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は7°となり、非画線部として十分な親水性を示した。
【0051】
(4)ジョンソンポリマー製のスチレン・アクリル系樹脂(商品名「HPD-671」)をエタノールに溶解し、濃度1wt%の樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液中に、界面活性剤イオネット T−60−C(三洋化成製)を樹脂に対して10wt%、さらにIR吸収剤KAYASORBCY-37(日本化薬製)を樹脂に対して3wt%添加した後、前記樹脂溶液50部に対してイオン交換水(冷水)50部を添加し、樹脂微粒子を析出させた。
【0052】
その後、エバポレータを用いて液温40℃にてエタノールを脱気し、熱可塑性樹脂微粒子の水分散液を調製し疎水化剤とした。走査電子顕微鏡で樹脂粒子を観察すると、粒径0.07〜0.1μmの球状粒子であった。なお、樹脂HPD-671に溶融開始温度は173℃(メーカ公表値)、IR吸収剤KAYASORB CY-37の分解開始温度は210℃(メーカ公表値)である。
【0053】
(4)紫外線を照射して親水性となっている版全面に、ロールコートにより上記疎水化剤を塗布した後、25℃で5分間風乾する。次に、波長830nm、出力250mW、ビーム径15μmの赤外線レーザを用いた画像書き込み装置により版面に画線率10%から100%までの10%刻みの網点画像を3m/秒の書き込み速度で書き込むことで、照射部分の樹脂微粒子を加熱溶融して版面に固着させ、フィルム層(有機系化合物層)4を形成した。
この樹脂微粒子が固着した部分についてCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は82°で、画線部が形成されていることを確認した。
【0054】
この版材を(株)アルファー技研の卓上オフセット印刷機ニューエースプロに取り付け、東洋インキ製のインキHYECOO B紅MZと三菱重工業製の湿し水リソフェロー1%溶液を用いて、アイベスト紙に印刷速度3500枚/時にて印刷を開始した。
印刷開始1〜5枚目は、画線部が印刷されるだけでなく、本来インキが付かない非画線部にもインキが部分的に付着し汚れているような印刷物であったが、次第に汚れは消えていき、10枚目には本来の非画線部となり、紙面上には網点画像が印刷できた。すなわち、非画線部の熱可塑性樹脂微粒子がインキ粘着力および/又は湿し水の洗浄効果により版材表面から除去されたことを確認した。
【0055】
次に、印刷用版材の再生に係わる実施例を説明する。
印刷終了後、版面上に付着したインキ、湿し水、紙粉などをきれに拭き取った版全面に、低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/cm2の紫外線を20秒照射した。その後、網点を書き込んでいた部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触角を測定したところ、接触角は8°となり、十分な親水性を示すことを確認した。すなわち、版材は疎水化剤塗布前の状態戻り、版再生ができたことを確認した。
【0056】
【比較例】
実施例1のIR吸収剤KAYASORB CY-37(日本化薬製)を、IR吸収剤KAYASORB IR-820(B)(日本化薬製)に変更する他は同様にして疎水化剤を調製した。 KAYASORB IR-820(B)の分解開始温度は140℃(メーカ公表値)である。この疎水化剤を用いて、実施例と同様に、画像書き込み、印刷を行った。印刷開始1〜5枚目は、画線部が印刷されるだけでなく、本来インキが付かない非画線部にもインキが部分的に付着し汚れているような印刷物であったが、次第に汚れは消えていき、10枚目には印刷物全体が白地になり、画像は印刷されなかった。すなわち、非画線部の熱可塑性樹脂微粒子だけでなく、IRで画像を書き込んだ部分の疎水化剤も充分に溶融せず、版に固着できずに、インキ粘着力 および/又は 湿し水の洗浄効果により版材表面から除去されたことを確認した。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、IR吸収剤によって変換された熱が熱可塑性樹脂の溶融開始前に該吸収剤自身に吸収されることがないので、上記IR吸収剤による変換熱を熱可塑性樹脂粒子に効率よく吸収させて、該熱可塑性樹脂粒子を速やかに溶融させることができ、その結果、IR光に基づいて疎水性画線部を効率よく形成することができる。
【0058】
それ故、本発明によれば、IRを用いた画像書き込み装置の必要出力を低減して、同装置のコストの低減および省エネを図ることができる。また、画像書き込み速度が向上することから、版作製の準備時間を短縮して、印刷機の稼働率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 IR吸収剤のTG-DTG曲線を例示したグラフである。
【図2】本発明による印刷版材用塗布液を塗布した印刷用版材の断面図である。
【図3】版材表面が親水性を示している状態を示す断面図である。
【図4】版材の作製と再生の手順を示す概念図である。
【図5】版材表面に描かれた画像(画線部)とその白地(非画線部)の一例を示す斜視図である。
【図6】親水性の版材表面へ有機系化合物により画線部を形成し、印刷終了後、紫外線照射により画線部を消去する様子を時間に沿って示したグラフ図である。
【符号の説明】
P 印刷用版材
1 基材
2 中間層
3 コート層
4 有機系化合物層
4a 画線部
5 非画線部
Claims (5)
- 光触媒を含む親水性の版材表面の少なくとも一部に疎水性の画線部を形成して印刷用版材を作製する方法であって、
少なくとも、担体液、熱可塑性樹脂粒子および熱分解性を有するIR吸収剤を含み、かつ、該IR吸収剤が前記熱可塑性樹脂粒子の溶解開始温度よりも高い分解開始温度を有する印刷版材用塗布液を、疎水化剤として前記版材表面に塗布する疎水化剤塗布工程と、
前記版材表面の少なくとも一部を加熱処理して疎水性画線部を形成する画線書込み工程と、
前記版材表面の疎水性画線部以外の部分に塗布された前記疎水化剤を除去する疎水化剤除去工程と、
を含むことを特徴とする印刷用版材の作製方法。 - 前記光触媒が酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の印刷用版材の作製方法。
- 前記光触媒がアナターゼ型酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の印刷用版材の作製方法。
- 前記IR吸収剤が前記熱可塑性樹脂粒子に含有もしくは添着されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷用版材の作製方法。
- 前記IR吸収剤が前記熱可塑性樹脂粒子に含有もしくは添着されている状態で、前記IR吸収剤と前記熱可塑性樹脂の複合物の光の吸収率が光の波長800nm〜850nm、好ましくは、約830nmにピークを有することを特徴とする請求項4に記載の印刷用版材の作製方法。
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