JP3557457B2 - SiC膜の製造方法、及びSiC多層膜構造の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、SiC膜の製造方法、及びSiC多層膜構造の製造方法に関し、詳しくは、耐環境デバイス、各種半導体デバイスに対して好適に用いることのできるSiC膜の製造方法、及びSiC多層膜構造の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
SiCはSiに比べてバンドギャップ、絶縁破壊電界、飽和ドリフト速度、熱伝導率が大きく、SiやGaAsでは対処できない高温、放射線下での耐環境デバイス、あるいは高周波・パワーデバイス用半導体材料として有望である。
また、SiCは、マイクロ波デバイス、青紫レーザなどGaNデバイス用基板としても有望である。これはSiCが導電性を有するために、基板裏面に容易に電極を形成できること、さらには高い熱伝導度により放射性に優れることなどに起因する。また、璧開により共振器ミラーを容易に作製できること、GaN系結晶との格子不整合が小さい(3%)ことなどの理由にもよる。
【0003】
従来、SiC基板は昇華法又はSi基板上へのヘテロエピタキシー法によって形成していた。昇華法による場合、マイクロパイプと呼ばれる中空貫通欠陥ができやすく、また大型のSiC基板を作製することが困難であるという問題があった。
【0004】
一方、へテロエピタキシー法は、安価で大面積のSiウエハ上へのSiC膜の形成が容易であることから、大面積のSiC基板を容易に形成できる。しかしながら、SiとSiCとは約20%の格子定数差を有するため、へテロエピタキシー法においては、前記SiC膜を形成する以前に、Si基板の情報を保持したSiC下地膜を形成する必要がある。
【0005】
SiC下地膜は、いわゆる炭化法によって形成される。すなわち、前記Si基板を約900℃以上の高温に加熱するとともに、分子中に炭素源のみを有する炭化水素ガスを前記Si基板上に供給し、前記Si基板のSi原子と前記炭化水素ガスの炭素原子との表面化学反応によって、前記Si基板上に極薄で単結晶のSiC下地膜を形成するものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、炭化法によってSiC下地膜を形成すると、Si基板内で中空ボイドが発生したり、Si原子の外方拡散によって界面平坦性が劣化する。したがって、SiC下地膜の結晶性が劣化し、その結果として平坦性も劣化する。このため、SiC下地膜上に形成するSiC膜の結晶性及び平坦性も劣化し、良好な特性を有するSiC基板を提供することができないでいた。
【0007】
本発明は、SiC膜を形成する部材を高温加熱することなく、結晶性及び平坦性に優れたSiC膜を製造する方法を提供することを目的するとともに、この方法を利用してSiC下地膜を形成する工程を含む、SiC多層膜構造を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明は、Siを含んだ部材の主面上にSi−H結合とSi−C結合とを有する有機珪素ガスを供給するとともに、前記主面上に飽和吸着させた後、前記部材の前記主面上にSiC膜を形成することを特徴とする、SiC膜の製造方法に関する。
【0009】
本発明者らは、高温加熱を必要としない、新規なSiC膜の製造方法を見いだすべく鋭意検討を実施した。その結果、数々の製造方法を試みるとともに、製造条件を種々変化させる過程において、従来の炭化水素ガスに代えて、Si−H結合及びSi−C結合を有する有機珪素ガスを用いることによって、SiC膜を形成すべき部材の高温加熱を必要とすることなく、前記SiC膜を形成できることを見いだした。
【0010】
したがって、本発明のSiC膜の製造方法によれば、SiC膜を形成すべきSi含有部材を900℃以上の高温に加熱する必要がない。このため、前記部材内の中空ボイドやSi原子の外方拡散に起因した界面平坦性の劣化を抑制することができ、この結果、結晶性及びその結果として平坦性に優れたSiC膜を形成することができる。
【0011】
なお、本発明の方法においては、Si含有部材を加熱する操作を全く排除するものではない。好ましくは、前記Si含有部材を800℃以下、さらには450〜650℃に加熱する。これによって、SiC膜の高い結晶性を維持した状態で、前記SiC膜の平坦性をさらに向上させることができる。
【0012】
さらに、本発明のSiC膜の製造方法によれば、前記部材の前記主面上に前記有機珪素ガスを飽和吸着した後に、例えば加熱処理を施すことによって前記SiC膜を形成するようにしている。この場合、前記部材の前記主面を酸化などから防止するとともに、前記主面上において構成元素以外の不純物を介在させることなく、清浄な状態に保持しておくことができる。
【0013】
本発明のSiC膜の製造方法は、SiC基板などのSiC多層膜構造に対して好ましく用いることができる。すなわち、Siを含んだ部材の主面上に形成すべきSiC下地膜を、前述した本発明のSiC膜の製造方法によって形成するものであり、Siを含んだ部材の主面上にSi−H結合とSi−C結合とを有する有機珪素ガスを供給し、前記部材の前記主面上にSiC下地膜を形成することを特徴とする。
【0014】
本発明のSiC多層膜構造の製造方法によれば、上述したSiC膜の製造方法と同様の効果によって、結晶性及び平坦性に優れたSiC下地膜を形成することができ、その結果、前記SiC下地膜上に形成するSiC膜の結晶性及び平坦性をも良好なものとすることができる。
したがって、本発明のSiC多層膜構造の製造方法によれば、結晶性及び平坦性に優れたSiC基板を提供することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を発明の実施の形態に則して詳細に説明する。
本発明においては、上述したように、Si−H結合及びSi−C結合を有する有機珪素ガスを用いることが必要である。有機珪素ガスの種類は、本発明にしたがって高結晶性かつ高平坦性のSiC膜を形成できれば特には限定されない。
【0016】
しかしながら、モノメチルシラン、モノエチルシラン、及びモノプロピルシランなどのモノシラン系ガスを用いることが好ましい。これらのモノシラン系ガスは容易に分解するとともに、反応性に富むため、目的とする高結晶性かつ高平坦性のSiC膜を簡易に形成することができる。また、SiC膜を形成する際に、Si含有部材を加熱することが好ましい場合においても、その加熱温度を低減することができる。
【0017】
上記モノシラン系ガスの中でも、反応性が極めて高く、上記作用効果をより効果的に奏することができることから、モノメチルシランを用いることが好ましい。
【0018】
これらのガスは、反応容器中に設置されたSi含有部材の主面上に対して、例えば、7.5×10 −8 Pa〜7.5×10 −7 Paの圧力下において供給する。但し、上記ガスの供給条件は、本製造方法に用いる反応容器の形状、大きさ、並びに前記Si含有部材の設置位置と前記ガスの導入位置との相対関係などによって決定される。
【0019】
また、Si含有部材は、前述したように、好ましくは800℃以下、さらに好ましくは、450〜650℃の温度に加熱する。これによって、SiC膜の高い結晶性を維持したまま、平坦性をさらに向上させることができる。上記加熱処理は、基板を支持するホルダー内に設置されたヒータを用いて、あるいは基板の上方に設けた赤外線ヒータなどによって行うことができる。
【0020】
加熱処理を伴う場合においては、Si含有部材を所定の反応容器内に設置し、このSi含有部材を上記温度範囲内に加熱した後、例えば、上述したようなモノシラン系ガスを前記反応容器内に導入し、前記Si含有部材の主面上に供給することによってSiC膜の形成を行うことができる。
【0021】
また、前記モノシラン系ガスの前記Si含有部材の前記主面に対する飽和吸着は、前記Si含有部材を前記反応容器内に設置した後、前記モノシラン系ガスなどを前記反応容器内に導入し、前記Si含有部材を前記温度範囲にまで加熱する以前に行う。
【0022】
前記モノシラン系ガスの飽和吸着により、Si含有部材の主面を酸化などから防止するとともに、前記主面上においてSiC膜の構成元素以外の不純物を介在させることなく、清浄な状態に保持しておくことができる。なお、飽和吸着の際には、前記Si含有部材をSiC膜が形成しないような低温度に加熱しても良い。
【0023】
本発明の製造方法においては、SiC膜をSi含有部材の主面上に形成するが、Si含有部材としては、Si部材、SiC部材、SiGe部材及びSiGeC部材などを例示することができる。しかしながら、安価であって大面積のものを容易に準備することができ、その結果として、本発明の製造方法を、半導体デバイスのSiC基板などの製造に対して好適に用いることのできることから、Si部材を用いることが好ましい。
また、Si含有部材は、必ずしも単結晶である必要はなく、多結晶であっても良い。
【0024】
上述した製造方法は、SiC膜を含むSiC多層膜構造の製造に対しても用いることができる。この場合においては、上述した要件及び各種の好ましい態様にしたがって、所定のSi含有部材の主面上にSiC下地膜を形成する。すなわち、上述した本発明の製造方法をSiC下地膜に対して適用する。その後、このSiC下地膜上に、目的とする1層あるいは2層以上のSiC膜を形成してSiC多層膜構造を得る。
【0025】
SiC膜は、上記モノシラン系ガスなどの有機珪素ガスを用いて、Si含有部材を、例えば、900〜1000℃に加熱して形成する。
【0026】
前記SiC下地膜上に1層のSiC膜を形成した場合、このSiC膜は厚さ350Åで、その(200)面からのX線回折による結晶ピークの半値幅が0.68度以下の高い結晶性を示す。
【0027】
Si含有部材としてSi部材を用い、このSi部材の主面上に上記SiC下地膜を形成し、このSiC下地膜上に1層のSiC膜を形成してSiC多層膜構造を製造することにより、このSiC膜は上述したような高い結晶性及びこれに起因して高い平坦性を有するようになるため、半導体デバイスなどのSiC基板として好適に用いることができる。
【0028】
【実施例】
本実施例においては、上記製造方法を用いてSiC多層膜構造を作製した。
(SiC下地膜の形成)
最初に、Si(100)単結晶部材を反応容器内に設置し、1000℃に加熱することによってフラッシュアニールを20分間実施して、前記Si単結晶部材の主面を清浄した。次いで、前記Si単結晶部材を300℃に加熱するとともに、前記反応容器内にモノメチルシランを圧力が3.7×10 −7 Paとなるように導入して、前記モノメチルシランを前記Si単結晶部材の主面上に10秒間飽和吸着させた。
【0029】
次いで、前記Si単結晶部材を650℃に加熱し、5分間保持して前記主面上にSiC下地膜を形成した。
【0030】
図1は、このようにして形成したSiC下地膜の反射高速電子線回折像である。図1においては、立方晶のSiCに基づくスポットのみが観察され、結晶性のSiC下地膜が一様に形成されていることが判明した。すなわち、Si単結晶部材を900℃以上に加熱する従来の炭化法に比較して、約250℃以上低い温度でSiC下地膜を形成できることが分かる。
【0031】
(SiC膜の形成)
次いで、モノメチルシランの圧力を3.7×10 −7 Paに保持した状態で、前記Si単結晶部材を900℃に加熱し、60分間保持することによって前記SiC下地膜上にSiC膜を形成した。
【0032】
図2は、上記SiC膜の反射高速電子線回折像である。図2から明らかなように、前記SiC膜は立方晶系のSiC単結晶であり、SiCの1×1スポットが<001>方向へのストリークを伴っていることから、前記SiC膜は平坦な成長表面を有していることが分かる。
【0033】
図3は、上記SiC膜のX線回折パターンである。41.36度において立方晶系のSiC単結晶からの結晶ピークが観察されるとともに、90.1度において(400)面からのピークが観察され、Si(100)基板の結晶情報を正しく保持した立方晶系のSiC薄膜が成長していることが分かる。また、(200)面からのピーク半値幅は約0.68度(厚さ350Å)である。
【0034】
図4は、上記SiC膜と、SiC下地膜を形成することなく、前記Si単結晶上に900℃の温度で直接形成したSiC膜との赤外吸収スペクトルを比較して示すグラフである。
【0035】
本発明にしたがって形成した上記SiC膜の赤外吸収スペクトルを示すグラフ(a)は、半値幅約38cm−1で対称性の良好な立方晶系のSiC単結晶に基づく光学フォノン吸収ピーク(795cm−1)を示し、SiC薄膜が歪みの緩和された高品質のものであることが分かる。
一方、Si単結晶基板上に直接形成されたSiC膜の赤外吸収スペクトルを示すグラフ(b)には、850〜950cm−1にエキストラ成分が見られる。このエキストラ成分はSi/SiC界面の粗れ、及び界面の粗れによって発生したSiC膜中の欠陥に起因するものである。
【0036】
図5は、上記のようにして作製したSiC多層膜構造の断面における透過型電子顕微鏡写真であり、図6は、アセチレンガスを用いた従来の炭化法によって形成したSiC多層膜構造の断面における透過型電子顕微鏡写真である。
【0037】
図5から明らかなように、上記実施例において得たSiC多層膜構造は、中空ボイドのない原子的に平坦なSi/SiC界面を有することが分かる。一方、図6から明らかなように、従来の炭化法によって作製したSiC多層膜構造においては、Si/SiC界面において巨大な中空ボイドが発生していることが分かる。
すなわち、上記実施例において、極めて平坦なSi/SiC界面を有するSiC多層膜構造が形成されていることが分かる。
【0038】
以上、具体例を示しながら発明の実施の形態に則して本発明を説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない範囲において、あらゆる変形や変更が可能である。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、SiC膜を形成する部材を高温加熱することなく、結晶性及び平坦性に優れたSiC膜を製造する方法を提供することができる。その結果、この方法を利用してSiC下地膜を形成することにより、結晶性及び平坦性に優れたSiC基板などのSiC多層膜構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法により作製したSiC下地膜の反射高速電子線回折像である。
【図2】本発明の方法により作製したSiC下地膜上に形成したSiC膜の反射高速電子線回折像である。
【図3】本発明の方法により作製したSiC下地膜上に形成したSiC膜のX線回折パターンである。
【図4】本発明の方法により作製したSiC下地膜上に形成したSiC膜、及び従来の方法により、Si単結晶上に直接形成したSiC膜の赤外吸収スペクトルである。
【図5】本発明の方法により作製したSiC多層膜構造の断面における透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】従来の炭化法によって形成したSiC多層膜構造の断面における原子間力顕微鏡写真である。

Claims (15)

  1. Siを含んだ部材の主面上にSi−H結合とSi−C結合とを有する有機珪素ガスを供給するとともに、前記主面上に飽和吸着させた後、前記部材の前記主面上にSiC膜を形成することを特徴とする、SiC膜の製造方法。
  2. 前記部材を800℃以下に加熱することを特徴とする、請求項1に記載のSiC膜の製造方法。
  3. 前記部材を450〜650℃に加熱することを特徴とする、請求項2に記載のSiC膜の製造方法。
  4. 前記有機珪素ガスは、モノシラン系ガスであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載のSiC膜の製造方法。
  5. 前記有機珪素ガスは、モノメチルシランであることを特徴とする、請求項4に記載のSiC膜の製造方法。
  6. 前記部材は、Si部材であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載のSiC膜の製造方法。
  7. Siを含んだ部材の主面上にSi−H結合とSi−C結合とを有する有機珪素ガスを供給するとともに、前記主面上に飽和吸着させた後、前記部材の前記主面上にSiC下地膜を形成することを特徴とする、SiC多層膜構造の製造方法。
  8. 前記部材を800℃以下に加熱することを特徴とする、請求項に記載のSiC多層膜構造の製造方法。
  9. 前記部材を450〜650℃に加熱することを特徴とする、請求項に記載のSiC多層膜構造の製造方法。
  10. 前記有機珪素ガスは、モノシラン系ガスであることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一に記載のSiC多層膜構造の製造方法。
  11. 前記有機珪素ガスは、モノメチルシランであることを特徴とする、請求項10に記載のSiC多層膜構造の製造方法。
  12. 前記部材は、Si部材であることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか一に記載のSiC多層膜構造の製造方法。
  13. 前記SiC下地膜上に、SiC膜を形成することを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一に記載のSiC多層膜構造の製造方法。
  14. 前記SiC膜は、厚さ350ÅにおいてX線回折による(200)面からの回折ピークの半値幅が0.68度以下であることを特徴とする、請求項13に記載のSiC多層膜構造の製造方法。
  15. 前記Siを含んだ部材はSi基板であり、前記SiC多層膜構造はSiC基板を構成することを特徴とする、請求項13又は14に記載のSiC多層膜構造の製造方法。
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