JP2004099405A - 窒化物半導体積層体及びその成長方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】V族面の結晶とIII族面の結晶を含む窒化物半導体の結晶成長と、V族面の結晶をIII族面に結晶へ再配列する熱処理を2回以上繰り返すことにより、基板全体を覆うバッファ層を成長させ、その後、窒化物半導体結晶を成長させる成長方法。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本願発明は、広義には、光デバイス及び電子デバイスに用いられる窒化物半導体結晶の製造方法に関し、狭義には、バッファ層を用いて結晶欠陥密度を低減させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、バンドギャップの大きな半導体材料である窒化物半導体、つまり窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、窒化ボロン(BN)及びそれらの混晶結晶(AlGaN、InGaN等)は、高温高出力電子デバイス及び短波長光素子へ応用可能であることから、多くの関心を集めている。
【0003】
具体的な応用例としては、高出力ヘテロ接合電界効果型トランジスター、青色発光素子及び青色半導体レーザ等の窒化物半導体デバイスである。これらの窒化物半導体デバイスは、比較的窒化ガリウムが良質な結晶が得られやすいため、窒化ガリウムの上にデバイス構造が構築される。つまり基板上に窒化ガリウムをまず成長させ、その上にデバイス構造を構築する。
【0004】
そして、これらのデバイスの高性能化には、高品質な欠陥の少ない結晶製造方法が重要である。その製造方法としては、有機金属化合物気相成長法、ハイドライド気相成長法、分子線エピタキシー法等の結晶成長法が用いられる。
【0005】
有機金属化合物気相成長法は、有機金属とアンモニアを原料ガスとして、それらを高温炉内の基板上で反応させ、窒化物半導体結晶を成長させる方法であり、成長中の炉内の圧力は、常圧もしくは1/10気圧程度である。ハイドライド気相成長法は、臭素等を用いて結晶成長を行う方法であり、主に厚く成長させる場合に用いる。分子線エピタキシー法は、真空中で、原料であるガリウムやアルミニウム等と、窒素プラズマ又はアンモニア等を基板上で反応させて結晶成長させる方法である。
【0006】
高品質な窒化物半導体材料を結晶成長させるためには、厚さが300μmから500μm程度の窒化ガリウムを基板として用いるのが最も望ましいが、現在まだ開発途中であり、用いることが困難である。また将来においても安価に供給されることは困難と予想される。さらに絶縁性が低いため、発光素子構造の製造は可能であるが、電子デバイス構造の製造には不向きである等の問題がある。
【0007】
他に用いることが可能な基板としては、(111)面のシリコン基板や、結晶構造が6H又は4Hの炭化珪素基板、α−サファイアのc面つまり(0001)面を用いた(0001)c面サファイア基板等があるが、現在では主に(0001)c面サファイア基板が用いられる。
【0008】
サファイア基板と窒化ガリウムは、10%以上の格子定数差があるため、直接サファイア基板上に成長させると、局部的にしか成長しない。あるいは全面に成長したとしても、アモルファスに近い非常に格子欠陥密度の高い結晶しか成長できず、半導体デバイスにはとても用いることが出来ない。
【0009】
そこで、サファイア基板上にまず格子定数差を緩衝させるための層(バッファ層)を用いて、良質な結晶を成長させる方法がとられる(下記特許文献1〜5参照)。
【0010】
これは、特殊な成長条件により成長させた薄いAlN及びGaN等をバッファ層として用い、基板及び窒化ガリウム層の間に入れることにより、結晶品質の改善を図る方法である。また、基板に近ければ近いほど、格子欠陥が多いため、欠陥の多いものから少ないものを順番に積層していくという考え方もある(下記特許文献6参照)。
【0011】
バッファ層を成長させる場合に重要なパラメーターとしては、成長温度がある。バッファ層の材料と基板材料との格子定数の差が大きい場合には、温度が高い条件で成長させると、基板表面に均一に成長されず局所的にまばらに成長してしまう現象が起きる。そのため、一般には、まず低い温度でバッファ層を成長させ、その後、温度を上げて半導体デバイス構造を成長させる。
【0012】
この理由は、成長温度が低い場合には供給材料であるGa等の原子が基板上で熱運動により移動する速度が小さくなり、基板全体に均一にバッファ層が形成されやすくなるためである。
【0013】
しかしながら、バッファ層の種類や成長方法によっては、最適な成長温度は異なる。例えば、分子線エピタキシー法のような、真空中での成長法においては、窒化アルミニウムをバッファ層として用いる場合、低温といってもやや高い温度で成長させる。窒化アルミニウムの最適な成長温度は、窒化ガリウムの最適成長温度よりも高いため、低温バッファとして用いる窒化アルミニウムの成長温度が、その上に成長させるデバイス構造の一部である窒化ガリウムの成長温度に近いかそれよりも高い場合もある(下記非特許文献1〜2参照)。
【0014】
このような結晶成長においては、窒化物半導体結晶の物性が深く関係している。また、本願発明の説明にも密接に関係しているため、窒化物半導体結晶の特性について説明する。
【0015】
デバイスの製造に用いられる窒化物半導体結晶は、主に六方晶系の結晶構造(ウルツ鉱型結晶)である。立方晶の窒化物半導体結晶も存在するが、熱力学的に不安定であり実際の応用には用いられない。
【0016】
ウルツ鉱型結晶である窒化物半導体結晶は、同じく六方晶であるα−サファイアと異なり、+c軸方向と、−c軸方向で構成原子の配向が異なり、非対称である。よって、結晶成長を行なうと、成長方向に対して+c軸が向くものと、−c軸が向くものが存在する。
【0017】
成長方向に+c軸が向いているものをIII族面の結晶と呼ぶ。窒化ガリウムの場合には、ガリウム面の結晶、窒化アルミニウムの場合にはアルミニウム面の結晶、窒化インジウムの場合にはインジウム面の結晶と呼んでも良い。一方で、成長方向に−c軸が向くものはV族面の結晶と呼ぶ。または窒素面の結晶と呼んでも良い。
【0018】
そのため窒化物半導体結晶を窒化ガリウム基板以外の基板、例えばサファイア基板上に成長させると、III族面の結晶とV族面の結晶が、混在する可能性がある。事実、多くの場合には、混在してしまう。また低温で成長させたアモルファス状の窒化物半導体結晶は、六方晶以外に立方晶も混在している場合もある。
【0019】
さて熱力学的には、III族面の結晶の方が安定である。つまり高温では、III族面の結晶が優位になる。しかし低温では、V族面も安定であるため混在することになる。
【0020】
また、化学的にもIII族面の結晶の方が安定である。格子欠陥の密度にも依存するが、例えば230℃で保ったリン酸で5〜10分間エッチングするとV族面とIII族面の結晶が混在した結晶は溶解してしまうが、III族面のみの結晶はなかなかエッチングされない。
【0021】
よって、実際のデバイス構造の製造には、全面がIII族面になるようにする。それによって実際の応用に耐えうるデバイスが製造可能となる。
【0022】
実際に、有機金属化合物気相成長法及びハイドライド気相成長法においては、窒化ガリウム及び窒化アルミニウムのいずれをバッファ層として用いても、III族面の良質な結晶が基板全体に均一に得られている。
【0023】
しかしながら、分子線エピタキシー法においては、まだ良質な結晶は得られていない。従来、分子線エピタキシー法においては、主に窒化アルミニウムをバッファ層として用いている。これによりIII族面の結晶を成長させることは可能であるが、欠陥密度が多く、未だ実用に供されることはない。
【0024】
【特許文献1】特開平10−294492
【特許文献2】特公昭59−48794
【特許文献3】特許第3,026,087号
【特許文献4】米国特許第 5,290,393号明細書
【特許文献5】米国特許第6,270,574号明細書
【特許文献6】米国特許第6,261,931号明細書
【非特許文献1】S. Yoshida, S. Misawa, and S. Gonda: Appl. Phys. Lett. 42 (1983) 427.
【非特許文献2】X. Q. Shin, T. Ide, S. H. Cho, M. Shimizu, S. Hara, H. Okumura, S. Sonoda and S. Shimizu: Jpn. J. Appl. Phys. 40 (2001) L23.
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明が解決しようとする課題は、分子線エピタキシー法においても、高品質な結晶を成長させることが可能な結晶成長方法を提供することである。
【0026】
従来の技術で述べた低温成長窒化ガリウムバッファ及び窒化アルミニウムバッファを用いた結晶成長方法は、有機金属化合物気相成長法を用いた場合に有効であったが、分子線エピタキシー法を用いた場合には効果がなかった。
【0027】
まず、窒化ガリウムをバッファ層として用いる方法は、分子線エピタキシー法で用いても良質な結晶が得られない。実際に低温成長窒化ガリウムをバッファ層として成長させ、走査電子顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察すると表面は平坦でなかった。
【0028】
これは、低温で成長させた窒化ガリウムのバッファ層中には、III族面の結晶とV族面の結晶が混在しており、分子線エピタキシー法は、成長温度が低いためV族面の結晶も安定して成長し続けるためである。
【0029】
分子線エピタキシー法は、真空中での結晶成長法であるため、温度を上げるとガリウム金属等の再蒸発が起こる。その結果成長温度をあまり高くすることは不可能であり、800℃程度以下にする必要がある。
【0030】
これは有機金属化合物気相成長法の場合と比較してみれば明らかである。成長中の圧力が常圧もしくは1/10気圧程度の有機金属化合物気相成長法においては成長温度は約1000℃以上であり、分子線エピタキシー法の成長温度よりも200℃以上も高い。その結果、有機金属化合物気相成長法で成長させる場合には、バッファ層で一度形成されたV族面の結晶は、熱力学的に安定なIII族面の結晶にとって代わられる。
【0031】
しかしながら分子線エピタキシー法においては、V族面の結晶は比較的安定に存在し続けることになる。その結果分子線エピタキシー法で窒化ガリウムをバッファ層として用いて成長させた窒化ガリウムの表面は、III族面の結晶とV族面の結晶が混在することになり、非常に荒れた表面となる。
【0032】
以上で述べたように、低温成長させた窒化ガリウムをバッファ層として用いる方法は、分子線エピタキシー法による結晶成長では用いることが出来なかった。
【0033】
また窒化アルミニウムをバッファ層として用いた場合でも分子線エピタキシー法では良い結晶が得られない。その理由について述べる。
【0034】
窒化アルミニウムバッファについては、低温で成長させた場合と高温で成長させた場合でその特性が異なる。約800℃以下の低温で窒化アルミニウムを成長させると、やはりV族面の結晶が混在してしまう。その結果、III族面の結晶の間にV族面が入りこみ、荒れた結晶表面となる。
【0035】
一方で、約800℃以上の高温で窒化アルミニウムを成長させると、V族面は、熱力学的に不安的であるため成長初期段階から排除されるが、バッファ層として成長させた窒化アルミニウム層は直径約0.1μm程度のグレインからなる層を形成してしまい、非常に貫通転移等の欠陥の多い結晶になってしまう。例えば単位平方cmあたり10の10乗個以上の貫通転移等の欠陥を含む結晶となってしまう。
【0036】
このような結晶表面は、走査電子顕微鏡又は光学顕微鏡により観察する限りは平坦であるが、原子レベルでは全く平坦ではなく、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察すると、高い密度の貫通転移と、0.5 nm〜2 nm程度の細かい凹凸からなる表面である。そのため、電子デバイスの動作に必要な二次元電子ガスを形成することがほぼ不可能である。
【0037】
つまり、窒化アルミニウムを用いた場合には、最適条件がなく、V族面が混在した、荒れた表面の結晶となるか、あるいは、表面が平坦でも貫通転移の多い結晶となるかどちらかである。
【0038】
以上述べたように、低温GaNバッファを用いた場合でも、窒化アルミニウムをバッファ層として用いた場合にも、いずれも分子線エピタキシー法による成長では、良好な結晶が得られない。
【0039】
また分子線エピタキシー法において、以上で述べた様に最適なバッファ層の成長方法がない理由は、成長温度が低いためV族面の結晶がそのまま成長し続けるという問題点があるためだけでなく、同じIII族面のグレインであって隣り合って存在していても分離したまま成長し続けるという問題点もあるためである。
【0040】
例えば、分子線エピタキシー法を用いて、高温で成長させた窒化アルミニウムのバッファ層上に窒化ガリウムを成長させると、基板全体にわたってIII族面の結晶になっているが、実際には直径が0.1μm程度のグレインに完全に別れた構造を形成しており、結晶成長の膜厚を厚くしても、グレイン構造は、完全には消滅せずに、残存してしまう。
【0041】
隣り合いながらも、個々のグレインが結合せずに存在するのは、個々のグレインの結晶方位が異なっており、その間に結晶欠陥が存在するからである。このようなグレインが存在すると、ステップフロー成長と呼ばれるところの良好な結晶成長モードとはかけ離れた結晶成長になってしまい、その結果、欠陥密度の高い結晶になってしまう。
【0042】
この状況は、有機金属化合物気相成長法における場合と大きく異なる。有機金属気相法においては成長温度が高いため、グレインとグレインが結合しやすく、成長すればするほど欠陥の密度が低減する。結晶欠陥の密度は、基板とその上の窒化物半導体結晶の界面近辺がもっとも高く、窒化物半導体結晶の成長膜厚を増やすに従って欠陥密度が減少する。この現象は、成長膜厚を厚くするに従って欠陥同士が打ち消し合う、もしくは多数の欠陥が一つになる、という効果にもよるが、結晶の粒(グレイン)が結合しやすいという効果による所が大きい。
【0043】
以上のように、分子線エピタキシー法においては、成長温度が低いためにV族面の結晶が混在し、欠陥密度が高く、グレイン構造が存在する等の欠点がある。しかしながら、真空中での成長であるため、基板面内での膜厚の均一性が高い、急峻なヘテロ界面の形成が可能、原子層オーダーで膜厚制御が可能等の利点もあり、今後量子効果を利用した光電子デバイス構造の製造には重要な結晶成長方法である。
【0044】
よって、本願発明が解決する課題は、分子線エピタキシー法を用いても、V族面の結晶の混入がなく、グレイン構造が存在せず、結晶表面がステップ状になっている良質な結晶を成長させることである。
【0045】
【課題を解決するための手段】
窒化物半導体結晶は、ウルツ鉱型結晶であり、+c軸方向と−c軸方向で対称ではないため、III族面とV族面の結晶がある。そのため格子定数の異なるサファイア基板や炭化珪素基板等の異種基板上に成長させる場合には、基板全体を覆うように低温で成長させると、III族面とV族面の結晶が混在してしまう。一方で、高温でいきなり成長させると、結晶は基板上に局所的にしか成長せず、しかも結晶方位はばらばらになる。
【0046】
また従来の技術の方法(上記特許文献1及び4参照)の様に、単に成長温度を上下させるだけでは、分子線エピタキシー法においては良質な結晶を得ることは不可能である。例えば、低温で成長させた窒化ガリウムのバッファ層は、V族面とIII族面を含んでいる。その上に高温で成長させようとしても、温度に限界があるため、V族面の結晶とIII族面の結晶の両方に結晶成長が行なわれてしまい平坦な結晶は得られない。
【0047】
そこで、本願発明においては、バッファ層の膜厚を分割して低温で成長させ、各々を成長させるごとに熱処理を加える方法を提供する。図1に、本願発明の方法を図示する。
【0048】
分子線エピタキシー法においては、成長温度を上げることは原料金属の再蒸発等があるため現実的ではない。しかしながら、熱処理の温度を上げることは可能である。熱処理の温度にも依存するが適切な時間熱処理を行なうことにより、層厚が薄い場合には、V族面の結晶をIII族面の結晶に変換させることができる。また、低温で成長したバッファ層中には、立方晶の結晶も含まれるが、これも熱処理によりIII族面の結晶に変換される。
【0049】
これは、熱処理によって、高温で最も安定な結晶の配位、つまりIII族面の結晶に再配列もしくは変換される現象である。この現象には、マストランスポート等の現象が関係していると考えられるが詳細は未だ判明していない。
【0050】
この熱処理の効果を最大限に引き出すためには、特に、分割したバッファ層の膜厚が重要である。膜厚が厚い場合にはV族面の結晶はなかなかIII族面の結晶に変化しない。通常、数分以内に変化する程度の膜厚を選ぶ必要がある。
【0051】
そのため、まず熱処理によりV族面の結晶がIII族面の結晶に十分変化する程度の薄い膜を低温で成長させる。その後、基板温度を上げて、熱処理を行なう。熱処理の温度と膜厚が適切ならば、現実的に許容できる時間、例えば2〜3分以内にV族面の結晶はIII族面の結晶に変化する。
【0052】
結晶膜厚が薄い場合には、立体的に局所的に成長している可能性もある。そのため、膜と呼ぶにはふさわしくないが、低温で成長しているため十分に均等に基板表面に分散して成長していると考えられる。
【0053】
熱処理の後、再び低温に下げて、分割された厚さの薄いバッファ層を成長させ、再び熱処理を施す。このように低温での薄いバッファ層の成長と、高温での熱処理を繰り返すことにより、十分基板全体がIII族面のバッファ層におおわれるようにする。たとえば、総合したバッファ層の厚さが20nm程度以上になるようにする。
【0054】
また分割して成長させるバッファ層の厚さは同じである必要はない。異種基板上に成長させる場合は最初の成長時に最もV族面の結晶が入り込むため、最初に成長させるバッファ層の厚さは薄くする必要がある。しかし何回か、薄いバッファ層の成長と熱処理を繰り返した後には、基板上のかなりの部分がIII族面のバッファ層に覆われているため、低温で成長させるバッファ層の膜厚をやや厚くしても良い。
【0055】
このような方法により成長させることにより、成長に用いる基板のc軸方向と、その上に成長させる窒化物半導体結晶のc軸方向を、きちんと合わせることが可能である。これは分割して成長させたバッファ層が薄ければ、熱処理によってもっとも安定な形態つまりc軸がそろった形態になりやすいためである。
【0056】
その結果、個々のグレインの結晶軸の方位を非常に整って配向させることが可能となり、成長温度の低い分子線エピタキシー法において成長させても、グレインが結合しやすくなる。つまり、c軸方向がそろったグレインはやがて結合して大きなグレインを形成し、最後には、基板全体にわたって結合し、グレインが存在しない良質な結晶となりうる。
【0057】
以上の方法を用いれば、分子線エピタキシー法を用いても、V族面結晶の混入のない、グレイン構造のない高品質な窒化物半導体材料の成長が可能となる。
【0058】
当然のことながら、熱処理を行ないながら、分割してバッファ層を成長させる成長方法は、分子線エピタキシー法のみならず、他の有機金属化合物気相成長法や、ハイドライド成長法でも用いることが可能である。これらの成長方法においても、成長温度よりも熱処理の温度を上げることが可能なため、本願発明の方法を用いることにより、従来の方法よりも結晶品質を向上させることが可能である。
【0059】
つぎに、バッファ層の材質について述べる。
【0060】
実際に用いるバッファ層の材質としては、現状では、窒化ガリウムが最も扱いやすい。これは、窒化ガリウムが、分子線エピタキシー装置に備えられている基板ヒーターの到達温度範囲内で比較的簡単に熱処理によりV族面の結晶がIII族面の結晶に変化するからである。
【0061】
これは、窒化ガリウムのマストランスポートする温度特性も関係していると考えられ、マストランスポート等の現象により熱処理によりV族面とIII族面の混在した小さなグレインからなるバッファ層が、大きなIII族面のグレインからなるバッファ層に変化すると考えられる。
【0062】
さらに窒化ガリウムをバッファ層として用いる時には、インジウムを添加もしくは照射することにより、熱処理の効果を上げることが可能である。
【0063】
インジウムは、熱処理により再蒸発する。しかし、V族面の窒化ガリウムをIII族面の窒化ガリウムに効率良く再配列することが可能である。
【0064】
また、窒化インジウムをバッファ層として用いる場合については、窒化インジウム自体が現在最も多く使われる窒化ガリウムの成長温度で不安定なため、バッファ層に用いるべきではない。しかしながら、その上に成長させる構造が、窒化インジウムの安定な温度範囲内ならばバッファ層として用いることも可能と考えられる。
【0065】
一方、窒化アルミニウムは、基板ヒーターの到達温度の範囲内で安定であり、なかなかV族面からIII族面に変化しない。あるいはIII族面の結晶に変化しても大きなグレインにならない。つまり窒化アルミニウムは、窒化ガリウムに比較してマストランスポート等も起きにくいと考えられる。
【0066】
よって熱処理を施すことにより若干の特性は向上するものの、小さなグレインからなるバッファ層が大きなグレインからなるバッファ層に変化することはなく、大きな改善は見られない。
【0067】
しかしながら、今後基板加熱方法の改良等により基板ヒーターの到達温度が向上すれば、窒化アルミニウムのマストランスポートも可能となり、高温での熱処理により、グレイン構造を大きくできるか、又はすべてのグレインが結合した良質なバッファ層を形成できると考えられる。
【0068】
窒化ボロンについては、ウルツ鉱型よりも六方晶型が安定である。そして六方晶の窒化ボロンは+c軸方向と−c軸方向に区別がない。そのため、窒化ボロンをバッファ層として用いる場合には、アモルファス状の窒化ボロンを低温で成長させ、その後熱処理を施す行程を繰り返すことになる。
【0069】
しかしながら、窒化ボロンは、窒化アルミニウム以上に安定であり、再配列又はマストランスポートを起こす温度まで昇温することが出来ない。今後、ヒーターの改造、昇温方法の改良等により可能になる事もあると考えられる。
【0070】
つぎに基板について述べる。
【0071】
サファイアを基板として用いる場合には、特に注意を払う必要がある。分子線エピタキシー法においては、サファイア基板をまず窒化した後に結晶成長を行なう。この窒化プロセスは、窒素源を基板表面に供給することにより行なわれるため、窒素のみが供給される状況、つまり窒素が過剰な状況でのプロセスである。
【0072】
このように窒素、つまりV族原子の供給が過剰な状況では、V族面の結晶はより安定となる。よって、サファイア基板表面は、V族面の窒化アルミニウムに覆われることになり、この上に成長させる窒化物半導体結晶をV族面の結晶にしてしまう大きな原因の一つである。これは、分子線エピタキシー法により良い結晶が出来なかった原因の一つである。
【0073】
特に低温窒化においては注意が必要である。サファイア基板は、高温状態で真空中において安定でないため、平坦な表面を得るために、低温窒化とよばれるプロセスを行なう方法がある。低温窒化とは、基板温度を約200℃以下にたもち、サファイア基板表面に、窒素プラズマを照射することにより、サファイア基板表面に極薄い窒化アルミニウムの層を形成する技術である。
【0074】
この場合には、低温で窒化アルミニウムを形成しているため、サファイア基板表面全体がV族面の窒化アルミニウムとなっており、V族面の結晶成長を強く助長してしまうことになる。そのため、低温で最初の薄い窒化物半導体のバッファ層を成長させる前に、熱処理を必ず行なう必要がある。この場合の熱処理の温度としては900℃以上、できれば1000℃以上が望ましい。
【0075】
また、本願発明の方法は、サファイア基板のみならず炭化珪素基板、シリコン基板等においても有効と考えられる。なぜならば、それ等の基板を用いた場合にも、III族面とV族面の結晶が混在してしまうからである。よって本願発明の方法により、III族面の結晶になるように制御する事が可能となる。
【0076】
また、本願発明の方法は、窒化物半導体上に格子定数の異なる他の窒化物半導体を成長させる場合も有効である。例えば窒化アルミニウム上に窒化ガリウムを成長させる場合に本願発明の方法を用いれば、結晶欠陥密度を低減させることが出来る。
【0077】
【発明の実施の形態】
ここでは、分子線エピタキシー装置を用いて、サファイア基板上に熱処理を行ないながら分割して窒化ガリウムのバッファ層を成長させ、その上に窒化ガリウムを成長させる方法について述べる。窒化ガリウム以外の窒化物半導体材料も原理的にはバッファ層として用いることが可能である。
【0078】
窒化物半導体の成長には、成長室や基板搬送室、基板搬入室からなる分子線エピタキシー装置を用いる。このような3室構成の真空チャンバーを用いれば、搬入時に大気にさらすのは、基板搬入室だけである。さらに、基板搬入室と成長室の間に基板搬送室があるため、水分等が成長室に混入するのを最小限にすることが出来る。
【0079】
本願発明の実施例においては、リベール社製MBE32を用いた。また成長室は、イオンポンプと油拡散ポンプを装備したものを用いた。成長中は油拡散ポンプで真空引きした。発明の実施の形態で述べる成長条件等は装置によって異なるため、実際に行なう場合には条件出しを行なう必要があり、注意を要する。
【0080】
III族の原料となるガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)等は、成長室内真空中で、Kセルを用いて成長基板に供給する。Kセルは、原料であるGa、Al、In等を、PBN製のルツボに入れて熱し蒸発させて供給するものである。またV族の原料としては原子状窒素(窒素プラズマ)を用いる。そのため、radio frequency(rf, 13.56 MHz)によりプラズマを発生できるrfプラズマセルを用いる。これは、高純度の窒素を成長室内真空中でプラズマ状にし成長基板に供給するものである。
【0081】
窒化物半導体結晶成長の場合には、成長中に結晶表面の状態をモニターする必要があるが、そのためには高速反射電子線回折(RHEED)を用いる。RHEEDのパターンの形状およびその明暗により、基板表面での再配列や、平坦性について、情報を得ることが可能である。
【0082】
成長基板としては、c面のサファイア基板(0001)を用いる。基板の加熱方法としては、サファイア基板は透明なので、裏面にモリブデン(Mo)等(厚さ500nm以上)を蒸着させたものを用いる。前処理でリン酸を用いたエッチングを行なうため、リン酸で溶解しない金属を選ぶ必要がある。Moがふさわしい。基板購入後に裏面にまずMo等を蒸着した後に、以下に述べるような前処理を行なう。
【0083】
成長基板は、基板搬入室内に搬入する前に、前処理を行なう。有機溶媒を用いて油分を取り去った後に、市販のオルトリン酸と硫酸の1:3の混合液を用いて表面をエッチングする。この時、混合液の温度は110℃、エッチング時間は30分にする。
【0084】
リン酸によるエッチングでは、その条件により基板の平坦性は大きく異なる。リン酸によるエッチングの条件を最適化すれば、表面は極めて平坦になる。その状態では、サファイアのc軸方向の原子間隔に応じたステップのみがほぼ平行にならんだ状態になる。このようなステップ状の表面を出すことが重要である。
【0085】
エッチング後に基板を、分子線エピタキシー装置付属の基板ホルダーに取り付ける。分子線エピタキシー装置の基板搬入室に搬入し、十分に真空引きする。その後、成長基板が取り付けられた基板ホルダーを、基板搬送室を通過させた後に、成長室内の基板加熱ヒーターに取り付ける。熱処理等の温度が高いため、裏面に蒸着したMoを直接ヒーターで加熱できるようになっている必要がある。
【0086】
図2に、分子線エピタキシー装置内に搬入後のプロセスについて図示する。 まず、サファイア基板表面の数分子層の酸化アルミニウムを、窒化アルミニウムに変化させる。この処理は、窒化とよばれ、いかに平坦に表面を窒化するかが重要である。これには、サファイア基板の温度を低くしたまま(目安としては基板裏側に取り付けられた熱電対で約200℃以下)、サファイア基板の表面にrfプラズマセルにより発生させた原子状窒素を照射する。rfプラズマセルへの高純度窒素の流量は1 sccm、rfプラズマセルへのrfパワーは380W、照射時間は2時間である。また以後のプロセスにおいても、窒素の流量とrfプラズマのパワーは、この条件を用いた。
【0087】
このようにサファイア基板を低温に保ったまま、原子状窒素(窒素プラズマ)を照射することにより、プラズマによるダメージが生じることなく、サファイア基板表面を平坦に窒化できる。また表面の数原子層が、酸化アルミニウムから窒化アルミニウムに変化することは、RHEEDを用いて確認できる。酸化アルミニウムと窒化アルミニウムは格子定数が異なるため、表面が窒化アルミニウムに変化するとRHEEDのパターンが変化する。
【0088】
つぎにrfプラズマの照射を止め、基板温度を1000℃以上に上げて熱処理を行なう。この過程で、V族面の窒化アルミニウムは、III族面の窒化アルミニウムに変化する。またこの過程でRHEEDの明暗に若干の変化がある。低温で窒化した直後は、窒素プラズマのみが基板表面に供給されていたためと、温度が低いため、V族面の窒化アルミニウムとIII族面の窒化アルミニウムが混在していると考えられる。しかし温度を上昇させて熱処理を行なうと基板上のすべての窒化アルミニウムがIII族面の結晶に再配列される。よってRHEEDが若干明るくなる。
【0089】
またサファイア基板自体が、真空中の高温であまり安定でないため熱処理は、可能な限り短時間で済ませる。実際には、基板上の窒化アルミニウムの厚さは、非常に薄いため、短時間の熱処理で十分に再配列可能である。事実、100℃/分の温度上昇時間で1000℃以上に上げた後にすぐに降温しても十分に効果があった。
【0090】
次に、バッファ層の成長に適している温度に下げる。基板表面での原料金属Gaの移動(マイグレーション)が十分に抑えられ、一方で窒化ガリウムが成長できる温度とする。本願発明で用いた成長温度は、約600℃である。ガリウムのKセルのシャッターを開け、窒素プラズマを供給して成長させる。ガリウムのKセルの温度は900℃とした。この時の成長レートは、約300nm/時である。
【0091】
インジウムをバッファ層中に添加する場合には、ここでインジウムも同時に基板に供給する。インジウムの供給量は、ガリウムの供給量の10%程度でよい。
【0092】
ここで一回ごとのバッファ層の成長膜厚と、熱処理の温度は、密接に関係しており、注意を要する。再配列が現実的に実行可能な短時間で行なわれるか否かは、熱処理の温度と膜厚に依存するためである。
【0093】
本願発明で用いた装置では、基板温度の最高到達温度が約1050℃であった。最高温度近辺に昇温するには時間がかかるため、熱処理の温度と時間は、約1000℃、20秒とした。この条件では、5nm以上成長させると、V族面の結晶と思われる箇所が残ってしまった。そのため分割して成長させる窒化ガリウムの膜厚を4nm以下とした。
【0094】
一方で、熱処理の温度をもっと高くできる場合には、分割して成長させるバッファ層の厚さをもっと厚くすることが可能である。これについては、装置ごとに到達温度が異なるため条件出しを行なう必要がある。
【0095】
また熱処理を行っている最中にインジウムを照射すると、熱処理を効率良く行うことが可能である。照射量としては、成長中にインジウムを添加する場合と同程度で良い。添加もしくは照射したインジウムは、熱処理の温度が高いため、再蒸発していると考えられる。
【0096】
以上で述べたように、分割された厚さの薄いバッファ層の成長とその熱処理を繰り返すことにより、全バッファ層の総合した膜厚が20nmになるようにする。そのため4nmづつ成長させる場合には、5回に分けて成長させる必要がある。
【0097】
しかしすべて同じ厚さにする必要はない。最初の数回は薄くする必要があるが、その後は、徐々に膜厚を増やしても結果に大きな変化はない。例えば、最初の層の膜厚から、2nm、3nm、4nm、5nm、6nmと増やしても良好な結果が得られる。
【0098】
分割して最後のバッファ層の熱処理を終えた後は、窒化ガリウムを成長させる。そのため基板温度を窒化ガリウムの成長温度に設定しなおす。窒化ガリウムの成長時の基板温度は800℃を用いた。
【0099】
この温度では、原料金属であるガリウムの再蒸発が起こるため、ガリウムの供給量を増やす必要がある。ガリウムのセルの温度としては、970℃とした。また基板と同じところに位置する真空計、つまり、フラックスモニターと呼ばれる真空計を用いて、ガリウム蒸気の圧力を測定したところ、約7×10−7 Torr程度であった。成長レートは、やはり約300nm/時である。この条件では、ガリウムの供給量の内60%〜70%が再蒸発していると考えられる。
【0100】
このようにして窒化ガリウムを0.6〜1μm以上成長させると欠陥の少ない窒化ガリウム結晶が得られる。良質な結晶においては、結晶表面は、窒化ガリウムのc軸方向の原子間隔に相当するステップが並んだ構造となる。このようなステップが表面を覆っている状態での成長は、ステップフロー型の成長と呼ばれる。このような状態では、結晶膜厚を厚くするほど欠陥密度が減少する。しかしながら、サファイア基板と窒化ガリウム基板は、熱膨張係数が異なるため、成長膜厚としては、4μm以下にする。
【0101】
ヘテロ接合電界効果型トランジスター等の半導体デバイス構造を成長させるには、この上に、ヘテロ構造を成長させる。たとえばアルミ組成比xが0.2程度の窒化アルミニウムガリウム(AlxGa1−xN)を厚さ20nm程度成長させれば良い。それによってヘテロ接合部分、つまり窒化ガリウムと窒化アルミニウムガリウムの界面に2次元電子ガスを形成できる。ドーピング濃度等のデバイス構造の詳細については本願発明の範囲以外なので詳細は述べない。
【0102】
また、上記発明の実施の形態においては、分子線エピタキシー装置を用いた場合について述べたが、有機金属化合物気相成長法等の他の成長装置を用いても原理的には同じである。しかしながらそれぞれ条件を適切に変化させる必要がある。特に、窒素流量、基板温度、成長膜厚等の成長条件については、用いる結晶成長装置が変わると変化する。
【0103】
また、アンモニアを窒素源と用いる場合には、アンモニアに水素原子が含まれるため注意が必要である。熱処理等を行なう最中には、アンモニアにより結晶の再蒸発が起こる可能性があるため、アンモニアの供給を止める又は減ずる必要があると予想される。一方で熱処理の効果が助長される場合もある。これについては、結晶成長方法によって異なるため条件出しを行う必要がある。
【0104】
水素を混入させて成長させる場合には、水素によって熱処理の効果が助長されるため、条件が異なる。
【0105】
また、本願発明は、サファイア基板以外の炭化珪素基板又はシリコン基板を用いた場合にも有効である。ただしサファイア基板を用いた場合と同様に、成長前に基板表面を原子層オーダーで平坦にする必要がある。これらの基板の前処理方法については、公知の方法により基板の前処理等を行なえば良い。
【0106】
また、V族原子として窒素以外のAs、P等を含む結晶成長においても、六方晶の結晶成長である限りは、本願発明によるバッファ層の形成方法を用いて成長させる事が可能である。
【0107】
【発明の効果】
発明の効果については、以上の説明においても述べた。最も重要な点は、分子線エピタキシー法を用いても、低温薄膜成長と熱処理を繰り返してバッファ層を形成する本願発明の方法を用いれば、基板と垂直方向つまりc軸方向の結晶方位が厳密に配向し、さらにグレイン構造が消滅し、ステップフロー成長と呼ばれる成長モードになることである。その結果、従来の窒化アルミニウム単層バッファ層を用いた場合に比較して、らせん転移や面欠陥等の結晶欠陥を大幅に低減できる。
【0108】
また、このように成長させる窒化物半導体結晶のc軸の方位は、基板の基板と垂直な結晶軸の方位に厳密に合っているので、結晶表面のステップ間隔やステップの方向を、基板の表面状態によって制御することが出来る。
【0109】
例えばサファイア基板を用いた場合には、サファイア基板表面が(0001)c面であれば成長させた窒化物半導体結晶のステップ間隔は広くなる。一方でサファイア基板表面が(0001)c面から例えば0.5°ほど傾斜している基板、つまりオフ基板と呼ばれる基板を用いれば、成長させた窒化物半導体結晶のステップ間隔は狭くなる。このような基板を用いることにより、ステップ間隔、ステップの方位等を制御することも可能となる。
【0110】
さらにステップ間隔を狭くすれば、熱力学上の表面エネルギーの関係から、例えば小さなグレインが仮に残っていたとしても消滅させることが可能となり、結晶欠陥の低減につながる。
【0111】
以下実際に分子線エピタキシー法を用いて成長した結果について述べる。
【0112】
X線回折を用いてc軸方向の結晶配向性を測定することが可能な方法として、X線を基板面垂直の方向つまりc軸に対称に反射させる方法がある。これはωスキャンという方法である。格子欠陥が多数存在すると、らせん転移や面欠陥等により結晶方位が局所的にばらばらになり、X線の回折する方位にずれが生じる。そして、X線ピークの幅が広くなる。そのためc軸方向の配向のみならず、欠陥密度等も調べることが可能である。
【0113】
本願発明の方法により、窒化ガリウムをバッファ層として用いて、サファイア基板上に成長させた厚さ約0.8μmの窒化ガリウムの結晶をX線回折を用いて測定した。その結果、半値全幅は50arcsec〜60arcsecであった。MOCVD法で成長させた場合には、通常100〜200 arcsec以上あり、非常に狭い。
【0114】
50arcsecは0.00025ラジアンであり、1万個分原子が並んでいる時に、ようやっと2〜3個横にずれる程度である。よって個々のグレインの方向がそろっているため、グレイン同士が結合し、結晶表面がステップ構造となる。さらにステップフロー成長と呼ばれる成長モードになり欠陥が減少する。
【0115】
実際に成長した結晶の表面構造を調べるために、本願発明の方法により成長させた同じく厚さ約0.8μmの結晶の表面を原子間力顕微鏡を用いて測定した。5μm四方について測定した結果、測定した全面で、段差(ステップ)からなるステップ構造が観測された。これは、基板と垂直方向、つまりc軸方向の原子の間隔に相当するステップであり、良質な結晶成長が行なわれていることが分かった。また2インチ基板のすべての部分で同様の測定結果が得られ、基板全体にわたって、良質な結晶が得られることが分かった。
【0116】
従来の方法により成長させた窒化ガリウムの表面も、原子間力顕微鏡を用いて測定した。測定した結晶の窒化アルミニウムバッファ層の成長温度は750℃、膜厚は200nmである。その上の窒化ガリウムの成長温度は800℃、膜厚は0.5μmである。1μm四方に拡大して測定したが、きちんとしたステップは見られなかった。これは窒化アルミニウムをバッファ層として従来の方法で成長すると貫通転移等の結晶、欠陥が高密度で入るためである。
【0117】
また、同じく本願発明の方法により成長させた窒化ガリウムの電気特性を測定した。ノンドープの場合においては、N型であり、バックグラウンドのキャリア密度は5×1016cm−3以下であり、移動度は100cm/Vs以上であった。従来の方法を用いてrfプラズマを窒素源として成長した場合には、欠陥密度が高いため極めて高抵抗であり、測定不能であった。
【0118】
以上で分かるように、本願発明の方法を用いれば分子線エピタキシー法を用いても高品質の窒化物半導体結晶を得ることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明の成長方法
【図2】窒化ガリウムをバッファ層として用いる場合の本願発明の成長方法
Claims (12)
- 窒化物半導体積層体の成長方法であって、
V族面の結晶とIII族面の結晶を含む窒化物半導体の結晶成長と、
V族面の結晶をIII族面の結晶へ再配列する熱処理を行うことにより、
基板全体を覆うバッファ層を成長させ、
該バッファ層の上に、窒化物半導体結晶を成長させることを特徴とする窒化物半導体積層体の成長方法。 - 請求項1記載の窒化物半導体積層体の成長方法であって、V族面の結晶とIII族面の結晶を含む窒化物半導体の結晶成長と、V族面の結晶をIII族面の結晶へ再配列する熱処理を2回以上繰り返すことを特徴とする窒化物半導体積層体の成長方法。
- 請求項1記載の窒化物半導体積層体の成長方法であって、バッファ層が窒化ガリウムであることを特徴とする窒化物半導体積層体の成長方法。
- 請求項1記載の窒化物半導体積層体の成長方法であって、V族面の結晶とIII族面の結晶を含む窒化物半導体の結晶成長と、V族面の結晶をIII族面に結晶へ再配列する熱処理において、インジウムを添加又は照射することを特徴とする窒化物半導体積層体の成長方法。
- 請求項1記載の窒化物半導体積層体の成長方法であって、上記成長方法は、分子線エピタキシー法を用いて行なうことを特徴とする窒化物半導体積層体の成長方法。
- 請求項5記載の窒化物半導体積層体の成長方法であって、上記分子線エピタキシー法は、プラズマ状窒素を窒素源として用い、サファイア基板表面をプラズマ状窒素により窒化処理を施し、該サファイア基板に熱処理を施した後に上記バッファ層を成長させることを特徴とする窒化物半導体積層体の成長方法。
- 窒化物半導体積層体であって、
V族面の結晶とIII族面の結晶を含む窒化物半導体の結晶成長と、
V族面の結晶をIII族面の結晶へ再配列する熱処理を行うことにより、
基板全体を覆うバッファ層を成長させ、
該バッファ層の上に、窒化物半導体結晶を成長させて作製したことを特徴とする窒化物半導体積層体。 - 請求項7記載の窒化物半導体積層体であって、V族面の結晶とIII族面の結晶を含む窒化物半導体の結晶成長と、
V族面の結晶をIII族面の結晶へ再配列する熱処理を2回以上繰り返して作製したことを特徴とする窒化物半導体積層体。 - 請求項7記載の窒化物半導体積層体であって、バッファ層が窒化ガリウムであることを特徴とする窒化物半導体積層体。
- 請求項7記載の窒化物半導体積層体であって、V族面の結晶とIII族面の結晶を含む窒化物半導体の結晶成長と、V族面の結晶をIII族面に結晶へ再配列する熱処理において、インジウムを添加又は照射して作製したことを特徴とする窒化物半導体積層体。
- 請求項7記載の窒化物半導体積層体であって、上記成長は、分子線エピタキシー法を用いて行ったことを特徴とする窒化物半導体積層体。
- 請求項11記載の窒化物半導体積層体であって、上記分子線エピタキシー法は、プラズマ状窒素を窒素源として用い、サファイア基板表面をプラズマ状窒素により窒化処理を施し、該サファイア基板に熱処理を施した後に上記バッファ層を成長させて作製したことを特徴とする窒化物半導体積層体。
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