(実施の形態)
[窒化物半導体基板の構成]
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。以下の説明においては、窒化アルミニウムをAlN、窒化アルミニウムガリウムをAlGaN、窒化アルミニウムガリウムインジウムをAlGaInN、サファイアをAl2O3、炭化ケイ素をSiCと示すこともある。
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。本発明は、特許請求の範囲によって特定される。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
まず、図1を参照しながら、実施の形態に係る窒化物半導体1a、及び発光ダイオード100aの構成について説明する。
図1は、実施の形態に係る窒化物半導体1a及び発光ダイオード100aの積層構造の概略図である。また、図1の(a)は実施の形態に係る窒化物半導体1a、及び発光ダイオード100aであり、図1の(b)は参考例1の窒化物半導体1b、及び発光ダイオード100bである。
図1の(a)に示される実施の形態に係る窒化物半導体1a、及び発光ダイオード100aは、一例として、以下の構成を持つ。実施の形態に係る窒化物半導体1a、及び発光ダイオード100aは、基板2と、AlNテンプレート層3と、平坦化層4と、緩衝層5と、電子注入層6と、発光層7と、電子ブロック層8、正孔注入層9、電極コンタクト層10とが順に形成されている。
なお、平坦化層4から電極コンタクト層10までのいずれか1層が、1150℃以上の温度でのエピタキシャル成長により、AlNテンプレート層の上方に成膜されるAlGaN層である。
次に各層について詳細を説明する。
基板2としてサファイア基板を用いた。しかし、サファイアに限定されず、その他の例として、炭化ケイ素(SiC)、シリコンおよび窒化アルミニウム(AlN)の少なくとも一つからなる基板であればよい。
さらに、AlNテンプレート層3は、スパッタリング法を用いて基板2上に形成されるテンプレート層である。AlNテンプレート層3は、エピタキシャル成長のテンプレートとして用いることができる。実施の形態では、テンプレート層の材料としてAlNを選定した。この理由は以下のとおりである。AlNの特徴は、AlNの格子定数が紫外発光ダイオードの発光層として利用されるAlGaNの格子定数と良好な整合をとり得ること、紫外光の透過率が高いこと、熱伝導率が高いこと、の3点である。これら特徴が、テンプレートとして最適であると考えられるためである。
次に、平坦化層4は、AlNを用いたが、これに限られるものではない。例えば、平坦化層4は、AlxGayIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、(x+y)≦1)で表わされる窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、または、窒化アルミニウムガリウムインジウム(AlGaInN)であってもよい。平坦化層4は、スパッタリング法を用いて作製したAlNテンプレート層3の表面を平坦化するために用いられる。さらに、平坦化層4は、格子定数を整合する役割も担う。例えば、AlN(例えばテンプレート層3)の上方へ、AlGaN−MQW(例えば発光層7)、AlNとAlGaN−MQWの格子定数がそれぞれ異なるため、AlNとAlGaN−MQWの間に格子定数を整合する層を挿入する必要がある。平坦化層4は、その格子定数を整合する層として機能する。
また、緩衝層5は、AlGaNを用いたが、これに限られるものではない。緩衝層5は、平坦化層4と同様に、例えば、AlxGayIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、(x+y)≦1)で表わされるAlN、AlGaN、または、AlGaInNであってもよい。緩衝層5は、平坦化層4と同様に格子定数を整合する層として機能する。
また、電子注入層6は、n−AlGaNを用いたが、これに限られるものではない。平坦化層4、緩衝層5と同様に、例えば、AlxGayIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、(x+y)≦1)で表わされるAlN、AlGaN、または、AlGaInNであってもよい。さらに、電子注入層6は、電子注入する機能を発揮することを目的として、n型半導体であることが望ましい。また、電子注入層6は、電子輸送する機能を併せて発揮してもよい。電子注入層6は、n型半導体として機能するために、ドーピング材料として、例えばSi(ケイ素)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(スズ)、O(酸素)、S(硫黄)、Se(セレン)、Te(テルル)を用いることができるが、実施の形態においては、Siを用いる。
なお、実施の形態においては、この電子注入層6が、1150℃以上の温度でのエピタキシャル成長により、AlNテンプレート層の上方に成膜されるAlGaN層として取り扱う。ただし、上述したように、平坦化層4から電極コンタクト層10までのいずれか1層が、1150℃以上の温度でのエピタキシャル成長により、AlNテンプレート層の上方に成膜されるAlGaN層であってもよい。
また、発光層7は、異なるAl組成を有する複数のAlGaN層で形成されたMQW(multiple quantum well)層を用いる。MQWとは、量子井戸を複数重ねた多重量子井戸の構造である。この発光層7は、電子注入層6及び正孔注入層9から、電子及び正孔が注入される。この発光層7の中で、電子と正孔が再結合し、光を発する。すなわち、この発光層7の伝導帯と価電子帯のエネルギー差であるバンドギャップが大きいほど、波長の短い光を発することができる。AlGaNは、AlとGaとの組成比を制御することができるため、それぞれのバンドギャップである3.4eV(GaN)から6.0eV(AlN)までの任意のバンドギャップをもつことができる。この領域は、紫外発光の領域となるため、AlGaNは、紫外発光ダイオードの発光材料として、適している。
電子ブロック層8は、AlNを用いたが、これに限られるものではない。平坦化層4、緩衝層5、電子注入層6と同様に、例えば、AlxGayIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、(x+y)≦1)で表わされるAlN、AlGaN、または、AlGaInNであってもよい。電子ブロック層8は、電子注入層6から注入された電子が、発光層7から正孔注入層9側へ漏れ出ることを防ぐために用いられる。そのため、電子注入層8は発光層7よりも大きなバンドギャップを有する材料で構成されることで効果的に機能する。電子ブロック層8は、異なるバンドギャップを有する複数の材料を積層した構造であってもよい。電子ブロック層8は、電子ブロック層8の中で、積層方向に対してバンドギャップが連続的に変化する構造であってもよい。電子ブロック層8は、p型半導体化するために、Al、Ga,In,N以外の元素が不純物としてドーピングされていてもよい。
正孔注入層9は、p−AlGaNを用いたが、これに限られるものではない。正孔注入層9は、平坦化層4、緩衝層5、電子注入層6、電子ブロック層8と同様に、例えば、AlxGayIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、(x+y)≦1)で表わされるAlN、AlGaN、または、AlGaInNであってもよい。この正孔注入層9は、発光層へ正孔を注入する機能を持ち、さらに、正孔を輸送する機能も併せ持ってもよい。また、正孔注入層9は、p型半導体化するために、ドーピング材料として、Mg(マグネシウム)、Be(ベリリウム)、C(炭素)、Zn(亜鉛)を用いることができるが、実施の形態においては、Mgを用いる。
電極コンタクト層10として正孔注入層9よりドーピング材料を増加させたp−AlGaNを用いたが、これに限られるものではない。電極コンタクト層10は、平坦化層4、緩衝層5、電子注入層6、電子ブロック層8、正孔注入層9と同様に、例えば、AlxGayIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、(x+y)≦1)で表わされるAlN、AlGaN、または、AlGaInNであってもよい。電極コンタクト層10は、正孔を供給する電極と接続されている。
詳細な製法は後述するが、特に実施の形態に係る窒化物半導体1aと発光ダイオード100aにおけるAlNテンプレート層3は、以下のように作製される。スパッタリング法を用いて基板2上にAlNを成膜するAlN成膜ステップと、成膜されたAlNを1700℃以上の温度でアニールすることにより、テンプレート層を形成する高温アニールステップによってAlNテンプレート層3は作製される。また平坦化層4より上方の層については、MOVPE法を用いて作製している。また、平坦化層4から電極コンタクト層10までのいずれか1層が、1150℃以上の温度でのエピタキシャル成長により、AlNテンプレート層の上方に成膜されるAlGaN層である。実施の形態においては、電子注入層6を、この1150℃以上の温度でのエピタキシャル成長により、AlNテンプレート層の上方に成膜されるAlGaN層として取り扱う。
一方、図1の(b)に示された参考例1の窒化物半導体1bと、参考例1の発光ダイオード100bは、実施の形態における窒化物半導体1aと発光ダイオード100aとは異なる層構成、製法にて作製されている。具体的には、平坦化層4を持たない点、AlNテンプレート層3bが、スパッタリング法ではなく、MOVPE法を用いて作製された点が異なる。この2点を除き、その他は同様の膜構成、製法で作製された。
さらに、参考のために、参考例2の窒化物半導体も開示している。参考例2の窒化物半導体が、実施の形態に係る窒化物半導体1aとは異なる点として、1150℃未満の温度でのエピタキシャル成長により、AlNテンプレート層の上方に成膜されるAlGaN層をもつことがあげられる。すなわち、参考例2の窒化物半導体は、異なる温度でエピタキシャル成長させるテンプレート形成ステップでAlGaN層を形成する点が、実施の形態に係る窒化物半導体1aとの相違点である。この点以外の層構成、製造方法は、全て、実施の形態に係る窒化物半導体1aと同様である。また、この参考例2の窒化物半導体を製造する方法が、参考例2の窒化物半導体の製造方法である。
[窒化物半導体基板の製造装置]
次に、図1で説明した実施の形態に係る窒化物半導体1aと発光ダイオード100aを作製するためのスパッタリング装置20、MOVPE装置30について図2及び図3を参照しながら説明する。
図2は、図1で説明した実施の形態に係る窒化物半導体1a及び発光ダイオード100aを作製するためのスパッタリング装置20の概要図である。
まず、図2に示すスパッタリング装置20の構成例について説明する。スパッタリング装置20は、チェンバー21と、吸気管22と、排気管23と、バルブ24と、排気ポンプ25と、基板ホルダ26と、永久磁石27と、高圧電源28とを備える。
チェンバー21は、基板2と、窒化物半導体の原料となるターゲット29とを対向させて保持し、チェンバー内部の気体の圧力および温度を任意に設定可能なほぼ密閉された空間である。以下では、スパッタリングを行う際のチェンバー内気体圧力をスパッタリング圧力と呼ぶ。
吸気管22は、外部から供給される不活性ガスをチェンバー21内部に導入するための吸気管である。不活性ガスは、ヘリウム(He)ガス、窒素(N2)ガス、アルゴン(Ar)ガスなどである。吸気管22は、一つの吸気管から複数種類のガスを同時に供給してもよい。また、チェンバー21に対して、複数の吸気管22が接続されている構成でもよい。また、吸気管22から不活性ガス以外のガスを導入することが可能でもよい。不活性ガス以外のガスは、例えば水素(H2)ガス、酸素(O2)ガス、アンモニア(NH3)ガスなどである。吸気管22は、供給するガスの流量を精密に制御する機構を備えていてもよい。
排気管23は、チェンバー21内部のガスを外部に排気するための排気管である。
バルブ24は、排気管23の排気流量を調整する。
排気ポンプ25は、排気管23およびバルブ24を介してチェンバー21内部のガスを外部に排気するためのポンプである。
基板ホルダ26は、基板2を保持する。なお、基板ホルダ26は、同時に成膜される複数枚の基板2を保持してもよい。基板ホルダ26は加熱機構を有しており、基板2を500〜650℃の範囲で、例えば600℃で加熱保持することが可能でもよい。基板ホルダ26は、ターゲット29から基板2を見込む角度を任意に制御することができる機構を有していてもよい。スパッタリング成膜中に基板を自転あるいは公転させることが可能でもよい。
ターゲット29は、ターゲットホルダに保持される。なお、ターゲットホルダは、異なる材料からなる複数種類のターゲットを保持し、スパッタリングの対象となるターゲットを切り替えることで、チェンバーを高真空に保持したまま、複数の異なる材料を連続してスパッタリングすることが可能な構成でもよい。また、複数の異なる材料を同時にスパッタリングすることが可能な構成でもよい。ターゲットの形状は、例えば直径10cmの円形である。ターゲットは、矩形あるいはそれ以外の形状であってもよい。
高圧電源28は、基板2とターゲット29との間に高周波電圧を印加する。高周波電圧は、例えば、RF(Radio Frequency)電圧である。高周波電圧のRF電圧成分は、基板2とターゲット29の間で吸気管22から供給されたガスをプラズマ化する。プラズマ化したガスは、セルフバイアスもしくは外部電源によって印加されたDC電圧成分による電界によってターゲット29に衝突し、ターゲット29表面の原子を弾き出す(スパッタリングする)。弾き出された原子は、従って、スパッタリングで与えられた運動エネルギーに従って、基板2に向かって飛び、付着する。その結果、基板2上にターゲット29を原料とする膜、あるいはターゲット29を構成する材料と吸気管22から供給されたガスの化合物からなる膜を形成する。高周波電圧の電圧は、例えば、0〜5000V、高周波電圧の周波数は13.56MHzでよい。DC電圧成分は0から2000Vが設定できる。
なお、図2のスパッタリング装置20では、高周波電圧を用いるいわゆるRFスパッタリングの例を示したが、直流電圧を用いるDCスパッタリングでもよい。また、電圧はある一定の時間幅を有するパルス状に印加されてもよい。DCスパッタリングの場合、ターゲットには導電性を有する材料を用いる必要がある。
永久磁石27は、プラズマ中の電子をターゲット29の近傍に拘束するための磁界を形成する。これにより、ターゲット近傍のプラズマ密度を高めてスパッタリング速度を上昇させる。また、基板からプラズマを遠ざけることにより、基板に対して電子や荷電粒子が照射されてAlNテンプレート層3の結晶品質が低下することを防ぐ。永久磁石27を有さなくてもよい。スパッタリング成膜中に永久磁石27を任意に動かすことが可能でもよい。ターゲット29および永久磁石27の付近は冷却水によって冷却されており、ターゲットの温度上昇が抑えられる。
また、図2のスパッタリング装置20では、基板2がターゲット29よりも上側に対向して配置されるスパッタアップ型(またはフェイスダウン型)の構成例を説明したが、基板2がターゲット29よりも下に対向して配置されるスパッタダウン型(フェイスアップ型)でもよいし、基板2がターゲット29の側方に対向して配置されサイドスパッタ型(サイドフェイス型)でもよい。
図2において、基板2とターゲット29の間の距離は、例えば14cmである。
図3は、図1で説明した実施の形態に係る窒化物半導体1a及び発光ダイオード100aを作製するためのMOVPE装置30の概要図である。
MOVPE法は、有機金属化合物と水素化合物等を原料として熱分解反応により、半導体薄膜を基板上に堆積させる成長法である。図3に示すように、MOVPE装置30は、サファイア基板などに半導体薄膜を堆積させるための基板2を載置する基板トレー31と、ヒータ32と、熱電対33と、温度制御装置34と、押圧ガス吸気口35と、材料ガス吸気口36と、反応ガス吸気口37と、外圧ガス供給口38と、リアクタ39と、排気口40と、放射温度計41と透視窓42とを備えている。
基板2は、基板トレー31上に設置され、ヒータ32で加熱される。基板2の中心近くに設置された熱電対33により、基板2の近くのMOVPE装置10内の温度がモニターされ、温度制御装置34により所望の温度になる様に制御されている。
押圧ガス吸気口35は、材料ガス及び反応ガスを基板の表面に吹き付ける方向に制御する押圧ガスを吸気するための吸気口である。材料ガス吸気口36は、トリメチルアルミニウム(TMAl:Trimethylaluminum)、トリメチルガリウム(TMGa:Trimethylgallium)等のAlやGa原料とキャリアガスとを気体状で供給する吸気口である。反応ガス吸気口37は、アンモニア(NH3)ガスとキャリアガスを供給するための吸気口である。外圧ガス供給口38は、放射温度計41で基板温度を測定するための開口部からリアクタ39内のガスが漏れ出ないようにするための外圧ガスを供給する供給口である。一定流量で供給される押圧ガス、材料ガス、反応ガスおよび外圧ガスは、排気口40から排気される。
放射温度計41は、赤外線を利用してMOVPE装置10の透視窓42から基板11の中心付近の表面温度を測定するものである。ここで、押圧ガス、キャリアガスおよび外圧ガスには、H2、N2またはこれらの混合ガスが使われる。
[窒化物半導体基板の製造方法]
図4は、図1で説明した実施の形態に係る窒化物半導体1a及び発光ダイオード100aの製造方法を示すフローチャートである。
図4の(a)は実施の形態に係る窒化物半導体1a、及び発光ダイオード100aの製造方法を示すフローチャートである。図4の(b)は参考例1の窒化物半導体1b、及び発光ダイオード100bの製造方法を示すフローチャートである。はじめに、図4の(a)について説明する。
まず、基板2が、準備される(S10)。具体的には、基板2は、スパッタリング装置20内の基板ホルダ26に設置される。この基板2として、実施の形態に係る窒化物半導体1aでは、サファイア基板を用いている。このサファイア基板は、例えば(0001)面からサファイアの[1−100]方向(m軸方向)に対して0.2o傾斜した面を表面として有していてもよい。このサファイア基板の表面は、単一原子層または単一分子層からなるステップテラス構造が形成されていてもよい。このサファイア基板の裏面は、光学的に鏡面になるように研磨されていてもよいし、粗面化加工が施されていてもよい。このサファイア基板の裏面には、AlNまたはAlN以外の材料からなる層が成膜されていてもよい。基板ホルダ26は、例えば、2インチのウェハ基板を4枚以上保持可能な構成でもよい。基板ホルダ26は、2インチ以上のサイズの基板を保持可能な構成でもよい。
ステップS10の前段階として、以下のステップがあってもよい。このステップは、図4には示されていないが、チェンバー21と隣接して設けられ、独立して大気開放及び真空排気が可能なロードロックチェンバーを利用する。基板2は、このロードロックチェンバーに配置され、ロードロックチェンバーの内部が、十分に高い真空度となるように排気された後に、真空下で、基板2はロードロックチェンバーからスパッタリングチェンバーへ搬送され、基板2は、チェンバー21内の基板ホルダに設置されてもよい。これにより、基板2が、基板ホルダ26に配置される際、チェンバー21が大気に曝露されることがなくなるため、チェンバー21内を常に高い真空度に維持することが可能となる。これにより、スパッタリング成膜されたAlNの結晶品質を安定的に制御することが可能となる。基板2がチェンバー21内に搬送されるまでに、ロードロックチェンバーの圧力を、例えば1×10−4Pa以下まで低減することが望ましい。
次に、AlNテンプレート層が、基板2上へ成膜される(S11)。このステップS11は、さらに詳細には、スパッタリング装置20内にターゲット29を準備する(S11a)、スパッタリング成膜を開始する(S11b)、熱処理する(S11c)の工程へ分けられる。
ステップS11aは、スパッタリング装置20内にターゲット29を準備する工程であり、このとき、ターゲット29は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)の焼結体である。
つぎに、スパッタリング成膜を開始する(S11b)までに、基板2をスパッタリング成膜時と同じかそれよりも高い温度に保持した状態で、チェンバー21内部を十分な時間をかけて真空排気し、チェンバー21の圧力を下げることが望ましい。これにより、チェンバー21内の残留ガス濃度を低減し、スパッタリング成膜されたAlNの結晶品質を安定的に制御することが可能となる。また、基板2を加熱しながらチェンバー21を真空排気することにより、基板2をチェンバー内に配置する前に基板2表面に吸着した水分を効果的に除去することができる。これにより、スパッタリング成膜されたAlNの結晶品質を安定的に制御することが可能となる。ステップS11bにおいてスパッタリング成膜を開始する前に、チェンバー21の圧力を、例えば6×10−5Pa以下まで低減することが望ましい。
ステップS11bでは、0.2Paのスパッタリング圧力でターゲット29をスパッタリングすることにより、AlNテンプレート層3が、基板2上に成膜される。より具体的に説明すると、チェンバー21のスパッタリング圧力は、0.2Paとなるように吸気管から供給されるガスの流量と排気ポンプ25の排気速度およびバルブ24の開度により調整される。基板ホルダ26の加熱機構によって、基板2の表面温度は、約500〜650℃の範囲内の温度で、例えば約600℃に保たれる。不活性ガスとして例えば窒素ガスが、吸気管22から供給される。窒素ガスの流量は、例えば、10〜100sccm(standard Cubic Centimeter per Minute)である。高圧電源28の高周波電圧は、数百Vであり、高周波電圧の周波数は例えば13.56MHzである。高圧電源28からターゲット29に供給する電力は、例えば200〜1000Wである。スパッタリングする時間は、成膜すべきAlNテンプレート層3の所望する膜厚とターゲットに供給する電力に応じて定めればよい。ステップS11bの一部として、基板2にAlNテンプレート層3の成膜を開始する前に、基板2とターゲット29の間にシャッターを配置した状態でターゲット29とシャッターの間でプラズマを発生させ、ターゲット29をスパッタリングする工程が設けられてもよい。これにより、ターゲットからスパッタリングされた原子がシャッターにさえぎられて基板2に到達しない状態でターゲット29をスパッタリングし、ターゲット表面に付着した不純物を除去することが可能となる。ターゲット表面を十分な時間スパッタリングしてから基板2とターゲット29の間に配置したシャッターを取り除き、基板2に対するAlNテンプレート層2の成膜を開始してもよい。これにより、その後スパッタリング成膜されたAlNテンプレート層3の結晶品質を安定的に制御することが可能となる。
また、AlNテンプレート層3の膜厚は、クラック抑制の観点から、膜厚は850nm以下でよい。実施の形態に係る窒化物半導体1a及び発光ダイオード100aでは特に記述がない限り、AlNテンプレート層3の膜厚は、180nmとする。
さらに、ステップS11cでは、ステップS11bで作製した窒化物半導体1は、1400℃以上、好ましくは1650℃以上1750℃以下で熱処理される(S11c)。ステップS11cは、アニール工程とも呼ばれる。実施の形態に係る窒化物半導体1a及び発光ダイオード100aでは特に記述がない限り1700℃を用いる。
より具体的に説明すると、まず、ステップS11bにてAlNテンプレート層3が成膜された基板2を、アニール装置の内部に配置する。アニール装置は、アニール処理が可能な装置であればよく、スパッタリング装置20とは別の装置であってもよいし、スパッタリング装置20であってもよい。アニール装置内部での基板2の配置は次のように行う。すなわち、AlNテンプレート層3の主面が、成膜されたAlNテンプレート層3の主面から窒化物半導体の成分が解離するのを抑制するためのカバー部材で覆われた気密状態にする。ここで、「解離」とは、AlNテンプレート層3の主面からその成分(窒素、アルミニウム等)が離脱して抜け出すことをいい、昇華、蒸発および拡散が含まれる。また、半導体(または基板)の「主面」とは、その上に他の材料が積層(または形成)される場合における積層(形成)される側の表面をいう。
次に、アニール装置内の不純物を排出するために排気して真空にした後に不活性ガスまたは混合ガスを流入することでガス置換を行う。その後に、気密状態に配置された窒化物半導体1をアニールする。このとき、AlNテンプレート層3が成膜された基板2の温度は1400以上1750℃以下、より好ましくは1650℃以上1750℃以下で、かつ、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスまたは不活性ガスにアンモニアガスを添加した混合ガスの雰囲気で、アニールする。
また、アニール装置内の不活性ガスまたは混合ガスの圧力は、0.1〜10気圧(76〜7600Torr)の範囲がアニール効果を期待できる範囲であるが、高温時の防爆強度等の関係から0.5〜2気圧程度に設定される。原理的には、これらのガスに含まれるN2の分圧が高い方が、AlNテンプレート層3の結晶性および表面荒れの抑制を期待できるが、ガスの圧力は、1気圧前後に設定してもよい。ここで、アニール処理をする時間は特に限定しないが、常温から約1700℃、約1700℃から常温までの時間を入れ20分から23時間の範囲で選ぶことができる。
このようなアニールによって、AlNテンプレート層3の貫通転位密度を低下させて結晶性を向上させることができる。
なお、アニール装置は、一定の体積を持った加熱容器であって、基板温度を500℃〜1800℃で制御できる機能、および、装置内に導入して置換するための不活性ガスおよび混合ガスの圧力と流量とを制御できる機能を有するものであればよい。アニール装置は、装置内に配置したAlNテンプレート層3が成膜された基板2をカバー部材が覆い、またはカバー部材を上向きに配置し、その上にAlNテンプレート層3が成膜された基板2をAlNテンプレート層3がカバー部材に接するように伏せて配置しても良い。さらにカバー部材と基板との間に任意の圧力を印加する機構を備えていてもよい。アニール装置は、複数枚のAlNテンプレート層3が成膜された基板2を同時に熱処理することが可能であってもよい。このアニール処理中の気密状態についての詳細は後述する。
その後、図4の(a)に示すように、AlNテンプレート層3を有する基板2は、MOVPE装置等の反応容器に載置され、AlNからなる平坦化層4が、AlNテンプレート層3の上に、成膜される(S12)。
平坦化層4は、例えば、キャリアガスをH2とし、原材料をTMAlとし、成長圧力を13kPaとし、基板加熱用の装置熱電対温度を制御し、基板温度を1300℃とする条件で形成される。このように、AlNテンプレート層3の上に新たに成長を行う平坦化層4は、例えば200nmの厚さまで形成される。なお、実施の形態に係る窒化物半導体1a及び発光ダイオード100aでは特に記述がない限り200nmとする。
なお、このステップS12を含め以下のステップS18までの工程は、すべて、MOVPE装置30を用いて実施された。
次に、AlGaNからなる緩衝層5が、平坦化層4の上に成膜される(S13)。
緩衝層5は、例えば、キャリアガスをH2とN2の混合気体とし、Ga(ガリウム):Al(アルミニウム)=30:70となるように原材料のTMGaとTMAlを混合し、成長圧力を20kPaとし、基板温度を1300℃とする条件で形成される。このように、緩衝層5は、例えば300nmの厚さまで形成される。
次にn−AlGaNからなる電子注入層6が、緩衝層5の上に成膜される(S14)。
電子注入層6は、例えば、キャリアガスをH2とN2混合気体とし、Ga:Al=40:60、または30:70、または20:80となるように原材料のTMGaとTMAlを混合し、成長圧力を20kPaとする条件を用いる。また、基板温度を1100℃、1150℃、1180℃、1200℃、1250℃、1300℃とする条件で形成される。このように、電子注入層6は、例えば2000nmの厚さまで形成される。なお、実施の形態に係る窒化物半導体1a及び発光ダイオード100aでは特に記述がない限りGa:Al=30:70とする。
また、上述したように、実施の形態においては、この電子注入層6を、1150℃以上の温度でのエピタキシャル成長により、AlNテンプレート層の上方に成膜されるAlGaN層として取り扱う。そのため、基板温度を1100℃とした条件で作製された場合は、参考例2の窒化物半導体として取り扱う。
次に、AlGaN−MQWからなる発光層7が、電子注入層6の上に成膜される(S15)。このとき、MQWの構造として、6well、7barrierとなるように成膜する。
発光層7は、例えば、キャリアガスをH2とN2混合気体とし、well層はGa:Al=31:69、barrier層はGa:Al=40:60となるように原材料のTMGaとTMAIを混合し、成長圧力を30kPaとし、基板温度を1050℃とする条件で形成される。このように、発光層7は、例えば110nmの厚さまで形成される。
次に、発光層7の上にさらに再成長により、電子ブロック層8が成膜され、(S16)、さらに、正孔注入層9が成膜され(S17)、さらに、電極コンタクト層10が成膜される(S18)。
次に、図4の(b)の参考例1の窒化物半導体1b、及び発光ダイオード100bの製造方法について説明する。
基本的な製造方法は、実施の形態に係る窒化物半導体1aと発光ダイオード100aと同様だが、ステップS11とステップS12ではなく、S20を用いる点が異なる。すなわち、AlNテンプレート層3と平坦化層4の代わりに、AlNテンプレート層3bを作製する。
ステップS10において、基板が用意された後、MOVPE法により、原材料としてTMAlを用いてAlNテンプレート層3bが成膜される。AlNテンプレート層3bは、例えば3000nmの厚さまで形成される。その後、ステップS13において、緩衝層5を作製し、その後の作製工程は、実施の形態に係る窒化物半導体1aと発光ダイオード100aと同様である。
次に、ステップS11cにおける気密状態について説明する。
気密状態とは、アニール装置内で実現される状態であり、AlNテンプレート層3の主面からその成分(窒素、アルミニウム等)が解離するのを抑制するためのカバー部材でAlNテンプレート層3の主面を覆った状態である。つまり、気密状態は、物理的な手法で、AlNテンプレート層3の主面からその成分が解離するのを抑制している。この状態では、カバー部材とAlNテンプレート層3の主面との間におけるガスが実質的に流れない滞留状態となる。このような気密状態で、窒化物半導体をアニールすることで、AlNテンプレート層3の主面から、その成分が解離することによって主面が荒れてしまうことが抑制される。また、より高温でのアニールが可能となり、表面が平坦でかつ優れた結晶性をもつAlNテンプレート層3が形成された窒化物半導体1aが実現される。以下、気密状態の具体例を示す。
図5は、図4のステップS11cで示したアニール工程における気密状態の一例を示す図である。ここでは、アニール工程前のAlNテンプレート層3が形成された基板2の上に、アニール工程前のAlNテンプレート層103が形成された別の基板102が、アニール工程前のAlNテンプレート層3及び103同士が対向する向きで、載置された状態の断面図が示されている。この態様では、アニール工程前のAlNテンプレート層3および103同士が対向して基板2、102の周縁部が接触しているが、アニール工程前のAlNテンプレート層3および103は、表面の中央部において5〜20μm程度、凹んだ構造を有するので、対向するAlN緩衝層の前駆体3aおよび103aの表面によって、最大間隔で10〜40μmの気密空間50が形成される。
この図5に示される気密状態は、上記ステップS11bまでの工程で製造された2枚の基板(当該基板および別の基板)を用意し、当該基板の最表面同士が対向するように、当該基板の上方に別の基板が配置(この例では、当該基板の上に別の基板が載置)された状態に相当する。カバー部材は、下方に位置する基板2にとっては、上方に位置する基板102が相当し、逆に、上方に位置する基板102にとっては、下方に位置する基板2が相当する。
このような気密状態により、窒化物半導体1の上に、最表面が対向する向きで、単に、別の窒化物半導体を載せるだけで、気密状態が実現され、特別な治具を用いることなく、簡単に気密状態が実現される。また、特別なカバー部材を準備することなく、2個の窒化物半導体基板が同時にアニールされる。
なお、実施の形態では、AlNテンプレート層3以外の層はすべてMOVPE法を用いて作製、説明した。しかし、これに限らず、AlNテンプレート層3もMOPVE法であっても良いし、AlNテンプレート層3を含み、膜形成についてはハイドライド気相成長(Hydride vapor phase epitaxy:HVPE)法、分子線エピタキシャル(Molecular beam epitaxy:MBE)法などを用いてもよい。
また図5で示すアニールについて、基板2、102を対向させた形態に限られず、基板2の上に、0.1〜1mm等一定の厚さを有するサファイア基板やAlN基板を対向させることで機密性を実現すれば、結晶品質向上の効果は得られる。さらに基板2、102の半径方向の動きを規制するために、基板の円形の外形より0.05〜0.2mm程の隙間を持たせた円柱状のホルダに収めてアニールすることも有効な手段である。また、前記カバー部材に、深さ1〜10μm、ピッチ1〜10μm平行溝や格子状の規則的な溝や、曲線を含む不規則な溝を、カバー部材一面に形成することも有効である。左記のように溝を向けることで、基板2の反りが少ない等の希な条件の場合に、基板2がカバー部材に溶着することを防ぐことができる。前記したカバー部材は、基板2のAlNプレート層3に対向していれば良く、カバー部材が下に設置されて、その上にAlNプレート層3がカバー部材に接するように基板2を伏せて置かれても良い。またカバー部材は基板2の形状に類似している必要は無く、基板2をはみ出すことなく載置、または覆うことができれば長方形や多角形の板状の部材であっても良い。
[窒化物半導体および発光ダイオードの特性および効果]
次に、図6〜図17を参照しながら、実施の形態に係る製造方法により製造した窒化物半導体1aと発光ダイオード100aの特性について、参考例1の窒化物半導体1bと発光ダイオード100b、参考例2の窒化物半導体を比較しながら説明する。
図6は、実施の形態に係る窒化物半導体1aの断面を観察した画像である。
さらに詳細には、図6の(a)は、実施の形態に係る窒化物半導体1aについて平坦化層4まで積層した状態であり、図6の(b)は、参考例1の窒化物半導体1bについてAlNテンプレート層3bまで積層した状態である。
断面観察画像中の縦に走る黒い線が、貫通転位を表している。貫通転位とは、基板と積層膜の格子定数の不整合により界面で生じる転位であり、表面平坦性や結晶性を低下させる要因である。さらに、貫通転位が、上部層まで貫通することにより窒化物半導体の結晶性が低下する。例えば、貫通転位を多く持つ半導体が、発光ダイオードである場合は、高い発光特性を期待することはできない。発光ダイオードが、高い発光特性を発揮するためには、積層数が少ない段階で貫通転位密度を低減させることが重要となる。
図6の(a)は、実施の形態に係る窒化物半導体1aを表している。つまり、基板2であるサファイア上に、180nmのAlNテンプレート層3が、スパッタリング法を用いて形成、及びアニールされた後、図6の(b)との比較のため2800nmの平坦化層4が、MOVPE法を用いて形成された構成である。成長初期段階、すなわち基板2近傍から貫通転位密度が低いことが明らかであり、AlNテンプレート層3、平坦化層4共に貫通転位密度は9×108個/cm2以下である。
図6の(b)は、参考例1の窒化物半導体1bを表しており、基板2であるサファイア上に、3μmのAlNテンプレート層3bが、MOVPE法を用いて形成された構成となっている。成長初期段階、すなわち基板2近傍から1μmまでは貫通転位密度が、非常に高いため、貫通転位密度を低減するために、3μmもの膜厚が必要となる。
また、図6においては、実施の形態に係る窒化物半導体1aと参考例1の窒化物半導体1bの比較するため、膜厚を同程度としたが、上記のように実施の形態に係る窒化物半導体1aでは、成長初期段階から貫通転位密度が低いため、平坦化層4は200nmあれば十分となる。以後の説明では、実施の形態に係る窒化物半導体1aは、AlNテンプレート層3を180nm、平坦化層4を200nm積層した構成について説明する。
図7は、図6で説明した実施の形態に係る窒化物半導体1aの成長段階の表面を観察した画像である。
さらに詳細には、図7の(a)及び図7の(b)は、実施の形態に係る窒化物半導体1aについて平坦化層4まで積層した状態の表面観察画像であり、拡大比率を変えた画像である。また、図7の(c)及び図7の(d)は、参考例1の窒化物半導体1bについてAlNテンプレート層3bまで積層した状態の表面観察画像であり、拡大比率を変えた画像である。
図7の(a)及び図7の(b)が示すように、実施の形態に係る窒化物半導体1aでは、広範囲にわたって、原子一段分の高さに相当するステップテラスが確認され、表面平坦性が非常に高いことが明らかとなった。一方で、図7の(c)及び図7の(d)が示すように、参考例1の窒化物半導体1bでは、広範囲のステップテラスに加え、複数の突起部が観察された(図7の(c)及び図7の(d)の白色部)。この突起部は、螺旋転位を起点としてスパイラル成長した結果であるため、突起部の数は、螺旋転位の数と同数である。
突起部の数から求めた螺旋転位密度は、実施の形態に係る窒化物半導体1aでは、4×106個/cm2以下、参考例1の窒化物半導体1bでは、約3×108個/cm2程度存在することが表面観察画像より明らかとなった。
上記のように、螺旋転位は、スパイラル成長し、突起部となって表面平坦性を低下させるため、螺旋転位密度が高い窒化物半導体(例えば参考例1の窒化物半導体1b)を用いて、発光ダイオードを作製した場合、高い発光特性は期待できない。すなわち、貫通転位密度と螺旋転位密度が低い窒化物半導体(例えば、実施の形態に係る窒化物半導体1a)を用いて、発光ダイオードを作製した場合、非常に高い発光特性が期待できる。
そこで発明者は、これまでに示した実施の形態に係る窒化物半導体1aと参考例1の窒化物半導体1bを用いて、電子注入層6まで作製し、詳細な検討を実施した。
図8は、図7で説明した実施の形態に係る窒化物半導体1a上に、電子注入層6まで積層した参考例2の窒化物半導体の表面を観察した画像である。
なお、図8で説明する窒化物半導体の電子注入層6の成膜時の成長温度は、いずれも1100℃であるため、ここでは、実施の形態に係る窒化物半導体1aではなく、参考例2の窒化物半導体として説明する。図8の(a)及び図8の(b)は、参考例2の窒化物半導体であり、拡大比率をかえた画像である。図8の(c)及び図8の(d)は参考例1の窒化物半導体1bであり、拡大比率をかえた画像である。
これらについて比較すると、参考例2の窒化物半導体は、ヒロック部が形成されていることが分かった。ヒロック部とは、層表面が盛り上がった、大きな粒状の凸部である。そのため、参考例2の窒化物半導体の表面平坦性は、参考例1の窒化物半導体1bの表面平坦性より低くなっている。
図7、図8をまとめると以下のようになる。
図7では、表面平坦性は、参考例1の窒化物半導体1bより、実施の形態に係る窒化物半導体1aの方が高かったが、図8では、表面平坦性は、参考例1の窒化物半導体1bより、実施の形態に係る窒化物半導体1a(図8においては、1100℃で電子注入層6を成膜したため、参考例2の窒化物半導体)の方が低くなってしまった。
そこで、さらに表面を拡大し、観察することで、分析を行った。
図9は、図8で説明した参考例2の窒化物半導体の、より詳細な表面を観察した画像である。より詳しくは、図9は、図8の(a)及び図8の(b)の参考例2の窒化物半導体について、さらに、拡大して表面を観察した画像である。図9の(a)と図9の(b)及び図9の(c)は、ヒロック部の頂上部を徐々に拡大した画像であり、図9の(d)と図9の(e)は、ヒロック部のない平坦な部分について徐々に拡大した画像である。
図9の(a)と図9の(b)及び図9の(c)で示したように、ヒロック部の頂上部は、顕著なスパイラル成長が確認され、螺旋転位に起因した結晶成長の結果と推察される。また、図9の(d)と図9の(e)で示したように、ヒロック部のない平坦な部分では、広範囲の原子ステップテラスが確認され、図7の(a)と図7の(b)で観察された平坦性の高い形状を維持することができている。
発明者は、これらを踏まえたうえで、実施の形態に係る窒化物半導体1a(図8、図9においては、参考例2の窒化物半導体)と参考例1の窒化物半導体1bについて、積層の段階によって、表面平坦性が逆転する要因について次のような推測を行っている。
図10は、参考例2の窒化物半導体について電子注入層6まで積層した表面を観察した画像と模式図である。より詳細には、図10の(a)と図10の(b)は、参考例2の窒化物半導体について電子注入層6まで積層した表面観察画像と、ヒロック部断面の模式図である。また、図10の(c)と図10の(d)は、参考例1の窒化物半導体1bについて電子注入層6まで積層した表面観察画像と、ヒロック部断面の模式図である。
図7の(a)が示すように、実施の形態に係る窒化物半導体1aは、平坦化層4まで積層した状態では、螺旋転位密度が非常に低く、螺旋転位の周囲に十分に広がった平坦なスペースを持っている。その状態を維持したまま、実施の形態に係る窒化物半導体1aの上方へ、電子注入層6が積層され始めると、以下のことが起こる。螺旋転位に起因するヒロック部が、層の平坦なスペースへ向けて成長するため、ヒロック部が巨大化し、表面平坦性が大幅に低下してしまう。
一方で、図7の(b)が示すように、参考例1の窒化物半導体1bはAlNテンプレート層3bまで積層した状態では、螺旋転位密度が非常に高く、言い換えれば、螺旋転位の周囲に平坦なスペースがほとんどない。
その状態を維持したまま、電子注入層6を積層し始めると、以下のことが起こる。螺旋転位に起因するヒロック部は、成長するための平坦なスペースが周囲にないため、周囲の他のヒロック部とお互いに干渉するため、大きく成長することはなく、表面平坦性の低下はわずかとなる。
つまり、参考例2の窒化物半導体は、個々のヒロック部が巨大化するため表面平坦性を低下させるが、参考例1の窒化物半導体1bにおいては、個々のヒロック部は小さく高密度で形成されているため、相対的に表面平坦性が高くなると推測される。
そこで発明者たちは、このヒロック部の巨大化による表面平坦性低下を解消するために、さらに詳細な検討を実施した。
図11は、実施の形態に係る窒化物半導体1aについて成長温度を変えて作製した電子注入層6表面を観察した画像である。図11の(a)は、参考例2の窒化物半導体であり、図11の(b)から図11の(d)はいずれも実施の形態に係る窒化物半導体1aである。それぞれの電子注入層6の成膜時の成長温度が、図11の(a)では1100℃、図11の(b)では1200℃、図11の(c)では1250℃、図11の(d)では1300℃である。
図11の(a)から図11の(d)が示すように、電子注入層6の形成時の成長温度を上昇させることで、表面平坦性が顕著に向上している。さらに、図8の(c)で示した参考例1の窒化物半導体1bと比較しても、電子注入層6の形成時の成長温度を1300度とした実施の形態に係る窒化物半導体1aは高い表面平坦性を示している。
さらに、実施の形態に係る窒化物半導体1aと参考例2の窒化物半導体について、電子注入層6まで積層した状態において、各層の組成について検証を行った。
図12は、図11で示した実施の形態に係る窒化物半導体1aのX線回折逆格子空間マップ像である。より詳細には、図12の(a)は、参考例2の窒化物半導体であり、図12の(b)〜(d)はいずれも実施の形態に係る窒化物半導体1aである。それぞれの電子注入層6の成膜時の成長温度が、図12の(a)では1100℃、図12の(b)では1200℃、図12の(c)では1250℃、図12の(d)では1300℃である。
この測定は結晶からの回折波について逆格子空間での強度の分布を測定する手法であり、各層の強度分布から、各層に対応する組成や緩和率を求めることができる。逆格子空間マップ像の縦軸はqc、横軸はqmであり、qcは、六方晶系の構造におけるc軸に垂直な結晶面の距離の逆数を表し、qmは、六方晶系の構造におけるm軸に垂直な結晶面の距離の逆数を表す。また、白色から黒色に向かうほど、強度が高くなることを示している。図12は、AlNおよびAlGaNの(10−15)面からの回折を測定した結果であるため、各層に起因した信号のピークに対応するqcおよびqmの値は、それぞれ(0005)面と(10−10)面の格子面間隔の逆数に対応する。
図12の(a)から図12の(d)のそれぞれの図において、最も小さいc面の格子面間隔をもつAlNテンプレート層3のピークは、最も高いqcの値となる。さらに、積層するに従い、結晶の格子定数が大きくなり、qcが減少する方向へ(像下方へ)、平坦化層4と緩衝層5及び電子注入層6のピークが現れる。
また、成長温度を上昇させるに従い、電子注入層6のピークは、qcが増加する方向へ(像上方へ)シフトすることがわかる。これは、電子注入層6のc面の格子面間隔が小さくなっていることを示す。すなわち、電子注入層6の成長温度の上昇に伴い、電子注入層6に取り込まれるGaとAlの比率が、よりAlの占める割合が高くなるように変化し、電子注入層6の格子定数が減少したことによる。
さらに、電子注入層6の強度分布に着目する。成膜時の成長温度が最も低い1100℃(図12の(a))では、電子注入層6のピークはブロードな分布で、かつピークトップが分裂しており、すなわち、c面とm面ともに結晶面距離のばらつきが大きく、組成の不均一性が高いと考えられる。成膜時の成長温度を上げるに従い、シャープな強度分布となり、1300℃(図12の(d))では、組成の不均一性が大幅に低減できていることがわかる。
次に算出した緩和率について説明する。ある下層(例えば緩衝層5)上に、格子定数の異なる上層(例えば電子注入層6)を形成すると、下層材料の格子定数を引き継がず、上層材料の格子定数に変化しようとする。緩和率とは、下層材料の格子定数を引き継がず、上層材料の格子定数に変化しようとする度合いであり、積層したときの欠陥の程度をしめす指標となる。すなわち、緩和率が低いほど、下層の結晶構造を維持したまま上層が結晶成長したことを示すため、結晶性が高いことをあらわす。また、この緩和率は、逆格子空間マップ像のqc値、qm値より算出する。
図12の逆格子空間マップ像から、緩衝層5に対する電子注入層6の緩和率を算出した。なお、AlNテンプレート層3および平坦化層4に対する緩衝層5の緩和率はほぼ0%であり、緩衝層5はAlNテンプレート層3および平坦化層4の結晶性を維持している。実施の形態に係る窒化物半導体1aの電子注入層6の緩和率は、電子注入層6の成膜時の成長温度によって異なる。すなわち、成長温度が1100℃(図12の(a))の緩和率は3.2%、成長温度が1200℃(図12の(b))の緩和率は4.4%、成長温度が1250℃(図12の(c))の緩和率は5.9%、成長温度が1300℃(図12の(d))の緩和率は7.5%となった。この際、緩和率の算出には、複数に分裂した電子注入層6に起因するピークの中で、よりAlNのピークに近い位置に存在するピークの位置を用いた。電子注入層6に起因するピークの中で、AlNのピークから離れた位置に存在するピークは、より大きな緩和率を示していることが見て取れるため、より多くの結晶欠陥が存在する領域に対応していると推測される。また、図示しないが、図10の(c)で示した参考例1の窒化物半導体1bについても逆格子空間マップ像を得ており、緩和率は18.5%である。緩和率の点からも参考例1の窒化物半導体1bと比べ、実施の形態に係る窒化物半導体1aは高い結晶性をもつことが明らかである。
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る窒化物半導体1aの製造方法は、基板2を準備する準備ステップと、基板2上にAlNテンプレート層3を形成するテンプレート形成ステップと、1150℃以上の温度でのエピタキシャル成長により、AlNテンプレート層3の上方に、AlGaN層を成膜するAlGaN成膜ステップとを含む。
本態様によれば、AlNテンプレート層の上方のAlGaN層に発生するヒロック部の形成を抑制することができ、すなわち、表面平坦性の高い窒化物半導体を得ることができる。この表面平坦性の高い窒化物半導体を用いることで、発光特性の高い発光素子が実現され得る。
ここで、テンプレート形成ステップは、基板2上にAlNテンプレート層3を成膜するAlNテンプレート層3成膜ステップと、成膜されたAlNテンプレート層3を1400℃から1750℃の温度でアニールすることにより、AlNテンプレート層3を形成する高温アニールステップとを含む。
本態様によれば、1400℃から1750℃の温度でアニールすることで、螺旋転位密度を含む貫通転位密度の低いAlNテンプレート層3を形成することができるため、その上方へ積層する窒化物半導体1aも優れた結晶性を有することが可能になる。
さらに、エピタキシャル成長により、AlNテンプレート層3上にAlNの平坦化層4を成膜する平坦化層成膜ステップを含み、AlGaN成膜ステップでは、緩衝層5の上方に、AlGaN層を成膜する。
本態様によれば、AlNテンプレート層3とAlGaN層の間に平坦化層4を挿入することで、両者の格子定数の違いによる転位の発生を抑制し、優れた結晶性を有する窒化物半導体1aを得ることができる。
また、平坦化層成膜ステップでは、平坦化層4として、螺旋転位密度が4×106個/cm2以下の平坦化層4を成膜する。
本態様によれば、螺旋転位密度を4×106/cm2以下とすることで、表面平坦性の高い、優れた結晶性をもつ窒化物半導体1aを得ることができる。
また、AlGaN成膜ステップでは、AlGaN層として、n型であるn−AlGaN層を成膜する。
本態様によれば、AlGaN層をn型化することで、n型半導体として利用でき、発光素子として利用したときに、容易に電子を注入、輸送することが可能になる窒化物半導体1aを得ることができる。
また、AlGaN成膜ステップでは、1300℃以上の温度でのエピタキシャル成長により、AlGaN層を成膜する。
本態様によれば、1300℃以上の温度でのエピタキシャル成長により、AlGaN層においてヒロック部の形成を、さらに抑制することができるので、さらに表面平坦性の高い窒化物半導体1aを得ることができる。
本発明の一態様に係る窒化物半導体1aは、基板2と、基板2上に形成されたAlNテンプレート層3と、テンプレート層3上に成膜されたAlNの平坦化層4と、平坦化層4の上方に成膜されたAlGaN層とを備え、平坦化層4の螺旋転位密度は、4×106個/cm2以下である。
本態様によれば、AlNテンプレート層とAlGaN層の間に平坦化層4を挿入することで、両者の格子定数の違いによる転位の発生を抑制できる。さらに、螺旋転位密度を4×106/cm2以下とすることで、表面平坦性の高い、優れた結晶性をもつ窒化物半導体1aとなる。
また、AlGaN層は、n型であるn−AlGaN層であり、窒化物半導体1aは、n−AlGaN層と平坦化層4の間に、AlGaNによる緩衝層5を備える。
本態様によれば、AlGaN層をn型化することで、n型半導体として利用でき、発光素子として利用したときに、容易に電子を注入、輸送することが可能になる窒化物半導体1aとなる。さらに、n−AlGaN層と平坦化層4の間に、AlGaNによる緩衝層5を挿入することで、両者の格子定数の違いによる転位の発生を抑制できる。
さらに、発光層7まで積層した構造について表面平坦性について検討を実施した。
図13は、図11で示した実施の形態に係る窒化物半導体1a上へ発光層7を積層した構造における各層の結晶成長中の表面の光の反射率の推移を表す図である。より詳細には、電子注入層6の成膜時の成長温度が、図13の(a)では1180℃、図13の(b)では1300℃である。測定波長として405nm、950nmの2波長を用い、各波長の反射率を測定する。なお、各図において、n−AlGaN、MQWと囲んだ箇所が、電子注入層6、発光層7の成膜中の反射率である。このとき、反射スペクトルが振動し、波打ったように変化するのは、積層中の膜厚が変化し、反射光の干渉に変化が起こるためである。以下、振動の中央値を反射率とみなし、説明する。
結晶成長中の表面の反射率は、表面の平坦性と相関がある。すなわち、表面にヒロック部が存在し、平坦性が低い状態では、膜表面で光が散乱され、低い反射率を示す。また、表面に凹凸が存在し、平坦性が低い状態は、膜厚が試料面内で不均一であることに相当するため、反射光の干渉が低減する。すなわち、反射スペクトルの振動の振幅が低下する。図13の(a)において、電子注入層6を成膜中に反射率が低下しているが、この現象は、ヒロック部が成長し、巨大化した結果、膜表面で光が散乱するため、表面平坦性が低下することを示している。一方、図13の(b)において、電子注入層6を成膜中に一定の反射率を維持しているが、この現象は、結晶成長時に表面平坦性を維持することを示している。
また、ここで図4で示したステップS14における、電子注入層6作製時の原材料気相比濃度が、実施の形態に係る窒化物半導体1aの表面平坦性へ影響を与えることを示す。
図14は、実施の形態に係る窒化物半導体1aにおいて、電子注入層6作製時の原材料気相比濃度が異なる場合の表面を観察した画像である。より詳しくは、電子注入層6作製時に原材料として、TMAlとTMGaを複合したガスを用いるが、そのガス中のAlとGaの元素の比率を変化させた窒化物半導体1aの画像となる。Al濃度を(Al元素数/(Al元素数+Ga元素数))とすると、図14の(a)と図14の(b)はAl濃度60%、図14の(c)と図14の(c)はAl濃度70%、図14の(e)と図14の(f)はAl濃度80%である。また、いずれにおいても電子注入層6の成膜温度は1150℃である。
図14が示すように電子注入層6作製時の原材料ガスにおけるAl濃度が上昇するにつれて、表面平坦性が高くなることがわかる。特に、Al濃度を70%未満、例えば、60%とすると表面平坦性が非常に低下することから、Al濃度は70%以上とすることが好ましい。
また図示しないが、図14に示した窒化物半導体1aについて、X線回折逆格子空間マップ像を測定し、緩衝層5に対する電子注入層6の緩和率を算出した。
各々の実施の形態に係る窒化物半導体1aにおける緩和率は、Al濃度60%では20.8%、Al濃度70%では2.6%、Al濃度80%では4%となった。Al濃度を70%未満、例えば、60%とすると緩和率が非常に高くなるため、Al濃度は70%以上として緩和率を10%以下とすることが好ましい。
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る窒化物半導体1aの製造方法は、AlGaN成膜ステップでは、AlGaN層におけるAl原子数及びGa原子数の合計に対するAl原子数の比率が70%以上であるAlGaN層を成膜する。
本態様によれば、Al原子数及びGa原子数の合計に対するAl原子数の比率が70%以上となるAlGaN層とすることで、ヒロック部の形成を、さらに抑制することができるので、さらに表面平坦性の高い窒化物半導体1aを得ることができる。
本発明の一態様に係る窒化物半導体1aにおいては、AlGaN層は、Al原子数及びGa原子数の合計に対するAl原子数の比率が70%以上であり、AlNテンプレート層3及び平坦化層4の貫通転位密度は、ともに9×108個/cm2以下であり、下層材料の格子定数を引き継がず、上層材料の格子定数に変化しようとする度合いを緩和率としたとき、前記平坦化層及び前記緩衝層の緩和率は、ともに10%以下である。
本態様によれば、Al原子数及びGa原子数の合計に対するAl原子数の比率が70%以上となるAlGaN層とすることで、ヒロック部の形成を、さらに抑制することができるので、さらに表面平坦性の高い窒化物半導体1aとなる。また、AlNテンプレート層3及び平坦化層4の貫通転位密度は、ともに9×108個/cm2以下とし、前記平坦化層及び前記緩衝層の緩和率は、ともに10%以下とすることで、一層表面平坦性の高い窒化物半導体1aとなる。
さらに、これまで示してきた実施の形態に係る窒化物半導体1aと参考例1の窒化物半導体1bを用いて、電極コンタクト層10まで積層し、すなわち、実施の形態に係る発光ダイオード100aと参考例1の発光ダイオード100bを作製し、その発光特性を測定した。
図15は、実施の形態に係る発光ダイオード100aの発光特性を示す図である。より詳細には、図15の(b)は図15の(a)の発光出力の低い領域を拡大した図となる。この時、実施の形態に係る発光ダイオード100aの電子注入層6形成時の結晶成長温度は、1180℃として作製した。
発光特性の評価方法として、発光ダイオードに、100mAの電流を印加し、各発光波長の出力を測定し、そのスペクトルを算出した。
図15の(a)、図15の(b)の両図からわかるように、参考例1の発光ダイオード100bに比べ、実施の形態に係る発光ダイオード100aは非常に高い発光特性を示した。
具体的には、実施の形態に係る発光ダイオード100aは、種々の用途に利用可能な紫外光の波長である240nm〜300nmの光を発し、その発光ピーク波長は、261nmであった。さらに、参考例1の発光ダイオード100bに比べ、実施の形態に係る発光ダイオード100aの発光出力は、200倍となった。また、実施の形態に係る発光ダイオード100aは、発光のピーク波長を240nm〜300nmにもつが、この波長領域に限らない。より好ましくは245nm〜280nm、さらに好ましくは250nm〜270nmの波長領域でもよい。
これは図11の(b)〜(d)において、図11の(a)と比べてヒロックの数、大きさ共に縮小し、表面平坦部分が多くなっていることによる効果と思われる。また、図12に示した逆格子空間マッピング像において、複数に分裂した電子注入層6のピークの中で、より大きな緩和率を有しているとみられるAlNから離れた位置に存在するピークの強度が減少していることから、格子緩和を起こして欠陥が発生した領域の面積が減少していることによる効果であると思われる。
本発明の一態様に係る発光素子は、上記の窒化物半導体1aと、AlGaN層の上方に成膜されたAlGaNの発光層7と、発光層7の上方に成膜されたp型であるp−AlGaN層とを備える。
本態様によれば、AlGaN層の上方に成膜されたAlGaNの発光層7と、発光層7の上方に成膜されたp型のAlGaN層を備えることで、容易に正孔注入し、発光する発光素子として機能する。これらにより、発光特性の高い発光素子が実現され得る。
また、発光ダイオード100aは、発光波長のピークを、240nmから300nmの波長領域にもつ。
本態様によれば、発光波長のピークを、240nmから300nmの波長領域にもつ発光素子は、紫外発光素子として特に高い有用性をもつ。また、参考例1の発光ダイオード100bに比べ、実施の形態に係る発光ダイオード100aの発光出力は、200倍を示す。そのため、紫外光が必要となる、照明、殺菌、フォトリソグラフィ、レーザ加工機、医療機器、蛍光体用光源、分光分布分析、紫外線硬化の領域において非常に有用である。
(変形例1)
次に、実施の形態の変形例1に係る窒化物半導体の製造方法は、テンプレート形成ステップでは、さらに、0.5Paよりも小さい圧力でスパッタリング法を用いてAlNテンプレート層3を形成する。
変形例に係る窒化物半導体1cは、基本的には実施の形態に係る窒化物半導体1aと同様の構成を備えるが、新たな構成要素としてテンプレート形成ステップでは、さらに、0.5Paよりも小さい圧力でスパッタリング法を用いてAlNテンプレート層3を形成する点で、実施の形態と異なる。以下、実施の形態と異なる点を中心に説明する。
具体的には、図4のステップS11bにおけるAlNテンプレート層3をスパッタリングで成膜する際に、0.5Paよりも小さいスパッタリング圧力でターゲット19をスパッタリングすることにより、基板2上に成膜する。
さらに、チェンバー11のスパッタリング圧力をP(Pa)以下、前記窒化物層の膜厚をT(nm)以下としたとき、(P、T)の組は、(0.05、640)、(0.1、480)、(0.2、320)、および(0.4、240)の少なくとも1つを満たすようにしてもよい。あるいは、スパッタリング圧力Pと窒化物層の膜厚Tが以下の範囲に含まれるように選択してもよい。すなわち、(1.1)P≦0.4かつT≦240、(1.2)P≦31117×T−2.06かつ240≦T≦640、(1.3)P≦0.05かつT≧640の(1.1)〜(1.3)のいずれかひとつに含まれる範囲の中から選択してもよい。
より好ましくは、(P、T)の組は、(0.05、560)、(0.1、400)、および(0.2、240)の少なくとも1つを満たすようにしてもよい。この場合においてスパッタリング圧力、膜厚が上記以外の値の場合は、スパッタリング圧力Pと窒化物層の膜厚Tが以下の範囲に含まれるように選択してもよい。すなわち、(2.1)P≦0.4かつT≦240、(2.2)P≦1436×T−1.61かつ240≦T≦560、(2.3)P≦0.05かつT≧560の(2.1)〜(2.3)のいずれかひとつに含まれる範囲の中から選択してもよい。
さらに好ましくは、(P、T)の組は、(0.03、850)、(0.05、480)、(0.1、320)、および(0.2、160)の少なくとも1つを満たすようにしてもよい。この場合においてスパッタリング圧力、膜厚が上記以外の値の場合は、スパッタリング圧力Pと窒化物層の膜厚Tが以下の範囲に含まれるように選択してもよい。すなわち、(3.1)P≦0.2かつT≦160、(3.2)P≦76.6×T−1.17かつ160≦T≦850、(3.3)P≦0.03かつT≧850の(3.1)〜(3.3)のいずれかひとつに含まれる範囲の中から選択してもよい。
このように作製した変形例に係る窒化物半導体1cの表面状態、結晶状態について検討したので、説明する。
図16は、変形例に係る窒化物半導体1cの表面を観察した画像である。より詳しくは、図16の(a)と図16の(b)は実施の形態に係る窒化物半導体1aの表面観察画像であり、図16の(c)と図16の(d)は変形例に係る窒化物半導体1cの表面観察画像である。それぞれの窒化物半導体における(P、T)の組は、窒化物半導体1aでは(0.2、180)、窒化物半導体1cでは(0.05、480)であり、電子注入層6の成長温度は1300℃とした。
図16が示すとおり、AlNテンプレート層3形成時に、スパッタリング圧力を低減し、膜形成することで、表面平坦性が向上することがわかる。
さらに、図16で示した窒化物半導体1aと窒化物半導体1cについてX線回折測定により逆格子空間マップ像を導出し、各層に対応する組成や緩和率を算出した。
図17は、変形例に係る窒化物半導体1cのX線回折逆格子空間マップ像である。
電子注入層6に相当するピークに着目する。図12の(d)で示した実施の形態に係る窒化物半導体1aの逆格子空間マップ像と比較すると、窒化物半導体1cでは、よりシャープな強度分布となり、組成のムラが抑制できていることがわかる。
さらに、AlNテンプレート層3および平坦化層4に対する電子注入層6の緩和率を算出した。各々の緩和率は、窒化物半導体1aは7%、窒化物半導体1cは2%となり、窒化物半導体1cの結晶性が、より高いことを示している。
このように変形例に係る窒化物半導体1cの製造方法は、テンプレート形成ステップでは、さらに、0.5Paよりも小さい圧力でスパッタリング法を用いてAlNテンプレート層3を形成する。
本態様によれば、0.5Paよりも小さい圧力でスパッタリング法を用いてAlNテンプレート層3を形成することで、AlGaN層においてヒロック部の形成を、さらに抑制することができるので、さらに表面平坦性の高い窒化物半導体1cを得ることができる。
なお、図4の(a)で示したステップS10とステップS11の間、もしくは、図4の(b)で示したステップS10とステップS20の間に、基板を洗浄する工程を設けてもよい。例えば、反応容器内にH2ガスが導入され、圧力30TorrのH2ガス雰囲気中で基板2が加熱されることにより行う。適切な条件下で実施することで、基板2の表面の結晶性を良好にすることができる。
また、実施の形態においては、発光ダイオードの構成として、サファイア基板の上方へ、n型半導体、発光層、p型半導体の順で積層したが、逆にした構成でもよい。つまり、サファイア基板の上方へp型半導体、発光層、n型半導体の順に積層した構成を用いることができる。また基板2は、実施形態では厚さ0.43mm、直径2インチのものを使用したが、一般に直径2〜6インチ(50.8〜150mm)、厚さ0.33〜0.625mmのものが流通しており、どのサイズのものでも実施可能である。AlNテンプレート層3は180nm、平坦化層4は200nmで説明したがAlNテンプレート層3は160〜850nm、平坦化層4は100〜2800nmの範囲であっても良い。
さらに、上述した実施の形態及び変形例を組み合わせてもよい。