JP3541877B2 - 圧電体素子及びその製造方法並びにインクジェット式記録ヘッド及びインクジェットプリンタ - Google Patents

圧電体素子及びその製造方法並びにインクジェット式記録ヘッド及びインクジェットプリンタ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は圧電セラミックス等の圧電体を利用した圧電体素子に係わり、特に、圧電体素子を構成する上部電極及び下部電極の改良技術に関わる。
【0002】
【従来の技術】
インク吐出用の駆動源、即ち、電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する素子として、従来からチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体素子を使用したインクジェット式記録ヘッドがある。このインクジェット式記録ヘッドは、一般には、多数の個別インク通路(インクキャビティやインク溜り等)を形成した加圧室基板と、全ての個別インク通路を覆うように加圧室基板に取り付けた振動板膜と、この振動板膜の前記個別インク通路上に対応する各部分に被着形成した圧電体素子(電気機械変換素子)とを備えて構成されている。この構成のインクジェット式記録ヘッドは、圧電体素子に電界を加えて振動板を変位させることにより、個別インク通路内に収容されているインクを、個別インク通路に設けられたノズルプレートに開口しているノズルから吐出すように設計されている。
【0003】
ところで、PZTのような圧電体材料の選定は、誘電率、電気機械結合係数、圧電歪定数や、電界誘起による機械的変位の大きな結晶構造を探索することによって行われる。圧電体材料の結晶構造が圧電特性に与える影響を考慮し、特開平10−81016号公報において、優先配向方位が(111)面方位、或いは(100)面方位である菱面体晶系のPZT系圧電材料が良好な圧電特性を示すことが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、圧電体膜を(100)面方位に優先配向すると、分極軸が変位方向(加圧室を圧縮する方向)に対してやや傾きを持つため、その状態で変位を生じさせても圧電体膜が有する本来の変位量を得ることができない。
【0005】
また、圧電体膜を(111)面方位に優先配向すると、圧電体膜の変位は(111)方向(変位方向)への変位と分極軸の反転によって生じるが、この場合、(111)方向の分極軸は圧電体膜の内部応力により伸び切っており、また、分極軸の反転は圧電体膜内の内部応力により抑制されているため、さらなる変位量の向上は期待することができない。
【0006】
そこで、本発明は(100)面方位或いは(111)面方位に優先配向している圧電体膜を有する圧電体素子において、従来の構成よりも変位量を向上させることのできる圧電体素子及びその製造方法を提供することを課題とする。また、当該圧電体素子をインク吐出駆動源とするインクジェット式記録ヘッド及びインクジェットプリンタを提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するべく、本発明の圧電体素子は、上部電極と下部電極に挟まれる圧電体膜を備えており、前記圧電体膜は(100)面方位に優先配向処理された多結晶体から構成され、さらに上部電極と下部電極の少なくとも一方が圧電体膜内部に圧縮応力を与える薄膜で構成されていることを特徴とする。
【0008】
上部電極と下部電極の少なくとも一方を上記の薄膜で構成することで、圧電体膜は圧縮応力を受ける膜となる。(100)面方位に優先配向された圧電体膜は圧縮応力を受けることで分極軸がより変位方向(例えば、加圧室を加圧する方向)へ向くため、圧電体素子の変位量を向上させることができる。
【0009】
本発明の他の形態として、圧電体膜を(111)面方位に優先配向処理された多結晶体から構成し、さらに上部電極と下部電極の少なくとも一方を圧電体膜内部に引っ張り応力を与える薄膜で構成する。
【0010】
上部電極と下部電極の少なくとも一方を電極内部に圧縮応力を生じる薄膜とすることで、圧電体膜は引っ張り応力を受ける膜となる。(111)面方位に優先配向された圧電体膜は(111)方向(圧電体素子の変位方向)へ分極軸が反転することで圧電体素子の変位を生じるが、当該圧電体膜は引っ張り応力を受けることで、内部応力により飽和していた(111)方向の分極軸の伸びが緩和され、さらに結晶が面内方向へ拡がることで分極軸の反転に必要な空間的余裕が形成されるため圧電体素子の変位量を向上させることができる。
【0011】
ここで、本明細書における膜応力の定義をする。薄い基板に薄膜が成膜されると、基板には当該薄膜の膜応力による反りが現れるのが一般的である。この反りの基板に対する方向により引張り応力と圧縮応力を区別する。例えば、基板が薄膜を内側にして反る場合を膜内に引張り応力が存在すると定義し、基板が薄膜を外側にして反る場合を膜内に圧縮応力が存在すると定義する。基板を加圧室に喩えると、薄膜に引張り応力が存在する場合には薄膜は加圧室を加圧する方向に反り、薄膜に圧縮応力が存在する場合には薄膜は加圧室を減圧する方向に反ることになる。以上の定義は、“薄膜の力学的特性評価技術(株)リアライズ社 第218頁〜219頁 平成4年3月19日発行”に基づいている。
【0012】
また、本発明の圧電体素子は上部電極よりも下部電極の方が広いテーパ形状となっており、エッジ部分のテーパ角が45°未満であることを特徴とする。かかる構成により、上部電極或いは下部電極による圧電体膜中の応力状態を保持することができる。
【0013】
本発明の圧電体素子の製造方法は、上部電極と下部電極に挟まれる圧電体膜を備える圧電体素子の製造方法において、前記圧電体膜を(100)面方位に優先配向処理して成膜する工程と、上部電極と下部電極の少なくとも一方を圧電体膜内部に圧縮応力を与える薄膜で成膜する工程を備える。当該薄膜は導電性薄膜を熱アニール処理することで圧電体膜内部に圧縮応力を与える薄膜とすることができる。
【0014】
本発明の他の形態として、圧電体膜を(111)面方位に優先配向処理して成膜する工程と、上部電極と下部電極の少なくとも一方を圧電体膜内部に引っ張り応力を与える薄膜で成膜する工程とを備える。当該薄膜は導電性薄膜を熱酸化処理或いは窒化処理することで圧電体膜内部に引っ張り応力を与える薄膜とすることができる。
【0015】
本発明のインクジェット式記録ヘッドは、本発明の圧電体素子と、当該圧電体素子の機械的変位によって内容積が変化する加圧室と、当該加圧室に連通してインク滴を吐出する吐出口とを備える。当該出口は、主走査方向と略平行にライン状に列設されていることが好ましい。また、本発明のインクジェットプリンタは本発明のインクジェット式記録ヘッドを印字機構に備える。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、各図を参照して本実施の形態について説明する。
【0017】
図1にインクジェットプリンタの構成図を示す。インクジェットプリンタは、主にインクジェット式記録ヘッド100、本体102、トレイ103、ヘッド駆動機構106を備えて構成されている。インクジェット式記録ヘッド100は、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの計4色のインクカートリッジ101を備えており、フルカラー印刷が可能なように構成されている。また、このインクジェットプリンタは、内部に専用のコントローラボード等を備えており、インクジェット式記録ヘッド100のインク吐出タイミング及びヘッド駆動機構106の走査を制御し、高精度なインクドット制御、ハーフトーン処理等を実現する。また、本体102は背面にトレイ103を備えるとともに、その内部にオートシードフィーダ(自動連続給紙機構)105を備え、記録用紙107を自動的に送り出し、正面の排出口104から記録用紙107を排紙する。記録用紙107として、普通紙、専用紙、推奨OHPシート、光沢紙、光沢フィルム、レベルシート、官製葉書等が利用できる。
【0018】
次に、インクジェット式記録ヘッドの分解斜視図を図2に示す。ここではインクの共通通路が加圧室基板内に設けられるタイプを示す。同図に示すように、インクジェット式記録ヘッドは加圧室基板1、ノズルプレート2及び基体3から構成される。加圧室基板1はシリコン単結晶基板がエッチング加工された後、各々に分離される。加圧室基板1には複数の短冊状の加圧室10が設けられ、全ての加圧室(キャビティ)10にインクを供給するための共通通路12を備える。加圧室10の間は側壁11により隔てられている。加圧室基板1の基体3側にはインク吐出駆動源として圧電体素子が取り付けられている。各圧電体素子からの配線はフレキシブルケーブルである配線基板4に収束され、プリントエンジン部によって制御される。
【0019】
ノズルプレート2は加圧室基板1に貼り合わされる。ノズルプレート2における加圧室10の対応する位置にはインク滴を吐出するためのノズル(吐出口)21が形成されている。ノズル21は印字の際のインクジェット式記録ヘッドの主走査方向と略平行方向にライン状に列設されており、ノズル間のピッチは印刷精度に応じて適宜設定される。各色のノズル数は、カラー印字精度に応じて定められ、例えば、黒色32ノズル、カラー各色32ノズル等が設定される。基体3はプラスチック等で形成されており、加圧室基板1の取付台となる。
【0020】
インクジェット式記録ヘッドの主要部の断面図を図3(F)に示す。加圧室基板1には加圧室10がエッチング加工により形成されている。加圧室10の上面には振動板膜5及び下地層6を介して圧電体素子13が形成されている。圧電体素子13の機械的変位は加圧室10内の内容積を変化させ、加圧室10に充填されているインクをノズル21から吐出する。
【0021】
圧電体素子13は下部電極71、チタン層8、圧電体膜9及び上部電極72を備えて構成されている。圧電体膜9の種類としては、少なくともチタン、鉛を構成成分に有する強誘電体が好ましく、例えば、チタン酸鉛(PbTiO)、ジルコン酸チタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)、又はマグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等が好適である。特に、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が好適である。上部電極72或いは下部電極71として用いる電極材料としては、白金、イリジウム、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、オスミウム及びその酸化物等がある。
【0022】
圧電体膜9は(100)面方位或いは(111)面方位に優先配向処理される。圧電体膜9が(100)面方位に優先配向処理された場合には、上部電極72又は/及び下部電極71を電極内部に引っ張り応力を生じる薄膜材料、例えば白金を用いることができる。白金以外の導電性材料であっても、熱アニール処理により電極内部の応力が引っ張り応力となる薄膜とすることができる。
【0023】
一方、圧電体膜9が(111)面方位に優先配向処理された場合には、上部電極72又は/及び下部電極71を電極内部に圧縮応力を生じる薄膜材料、例えば、イリジウムを用いることができる。イリジウム以外の導電性材料であっても、酸化、窒化処理により電極内部が圧縮応力となる薄膜とすることができる。
【0024】
また、同図(E)に示すように、圧電体素子13は下部電極71側が上部電極72側よりも広いテーパ形状となっており、圧電体素子13のエッジ部分のテーパ角θは45°よりも小さい角度になっている。圧電体素子13をかかる構成とすることで上部電極72又は/及び下部電極71の引っ張り応力(或いは圧縮応力)による圧電体膜9内に生じた圧縮応力(或いは引っ張り応力)を保持することができる。
【0025】
尚、同図に図示してないが、圧電体素子13及び表面に露出している下地層6の全面を覆うようにパッシベーション膜で被覆してもよい。パッシベーション膜としてフッ素樹脂、シリコン酸化膜、エポキシ樹脂等が好適である。
(実施例)
図3を参照しながら圧電体素子の製造工程について、インクジェット式記録ヘッドの主要部の製造工程と併せて説明する。まず、同図(A)に示すように、加圧室基板1に振動板膜5、下地層6を成膜した。加圧室基板1として、例えば、直径100mm、厚さ220μmのシリコン単結晶基板を用いた。振動板膜5は、1100℃の炉の中で、乾燥酸素を流して22時間程度熱酸化させ、約1μmの膜厚の熱酸化膜を形成した。この他に、CVD法等の成膜法を適宜選択して成膜してもよい。また、振動板膜5として、二酸化珪素膜に限られず、酸化タンタル膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜でもよい。次に、下地層6として酸化ジルコニウム(ZrO)を成膜するため、ジルコニウムをターゲットとし、酸素ガスの導入による反応性スパッタリング法等で膜厚400nm程度に成膜した。他の成膜法として、酸化ジルコニウムターゲットでRFスパッタリング法で成膜したり、DCスパッタリング法でジルコニウムをを成膜した後、熱酸化してもよい。
【0026】
次に、下地層6上に下部電極71を成膜した(同図(B))。下部電極71は複数の導電性材料からなる積層構造を有している。下部電極71として、下地層6側からチタン(膜厚20nm)、イリジウム(膜厚20nm)、白金(膜厚60nm)、イリジウム(膜厚20nm)を順次成膜した。
【0027】
続いて、下部電極71上にチタン層8を積層した(同図(C))。チタン層8の成膜は、DCマグネトロンスパッタ法を利用して5nmの膜厚に成膜した。本発明者の実験により、チタン層の膜厚を2nm〜10nmの範囲で成膜すれば、圧電体膜9を(100)面方位に優先配向にできることが確認されている。また、チタン層8の膜厚を10nm〜20nmの膜厚で成膜すれば圧電体膜9は(111)面方位に優先配向することができる。チタン層8の成膜は、CVD法、蒸着法等の成膜法を利用することもできる。
【0028】
次に、チタン層8上に圧電体膜9、上部電極72を成膜した(同図(D))。本実施例では圧電体膜9としてPZT膜をゾル・ゲル法で成膜した。ゾル・ゲル法とは、一般には、金属アルコキシド等の金属有機化合物を溶液系で加水分解、重縮合させて金属−酸素−金属結合を成長させ、最終的に焼結することにより完成させる無機酸化物の作製方法である。具体的には、基板上に金属有機化合物を含む溶液を塗布し、乾燥したあと焼結を行う。用いられる金属有機化合物としては、無機酸化物を構成する金属のメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等のアルコキシドやアセテート化合物等があげられる。硝酸塩、しゅう酸塩、過塩素酸塩等の無機塩でも良い。これら化合物から無機酸化物を作製するには加水分解および重縮合反応を進める必要があるため、塗布溶液中には水の添加が必要となる。添加量は系により異なるが多すぎると反応が速く進むため得られる膜質が不均一となり易く、また反応速度の制御が難しい。水の添加量が少なすぎても反応のコントロールが難しく、適量がある。さらに、加水分解の加速触媒や金属原子に配位するキレート剤を添加して反応速度及び反応形態の制御ができる。加速触媒としては一般の酸および塩基が用いられる。触媒の種類により膜質が大きく影響される。また、キレート剤としては、アセチルアセトン、エチルアセトアセテート、ジエチルマロネート等があげられる。溶媒としては、上記材料が沈澱しないもの、すなわち相溶性に優れたものが望ましい。溶液濃度は塗布方法にもよるが、スピンコート法の場合、溶液粘度が数cP〜数十cPとなるように調整すると良い。コーティングした膜は焼結することにより有機物の脱離及び結晶化が促進される。焼結温度は材料により異なるが、通常の金属酸化物粉末の焼成にかかる温度より低温で作製できる。
【0029】
本実施例では圧電体膜9の組成をPb(Zr0.56Ti0.44)Oとし、ジルコン酸鉛とチタン酸鉛のモル混合比が56%:44%となる2成分系のPZTとした。圧電体膜9を成膜するために、上記PZTを構成する金属成分の水酸化物の水和錯体、即ち、ゾルを調整した。このゾルを調整するため、2−n−ブトキシエタノールを主溶媒として、これにチタニウムテトライソプロポキシド、テトラ−n−プロポキシジルコニウムを混合し、室温下で20分間攪拌した。次いで、ジエタノールアミンを加えて室温で更に20分間攪拌し、更に酢酸鉛を加え、80℃に加熱した。加熱した状態で20分間攪拌し、その後、室温になるまで自然冷却した。
【0030】
このようにして得られたゾルをチタン層8上に塗布するためにスピンコートした。このとき、膜厚を均一にするために最初は500rpmで30秒間、次に1500rpmで30秒間、最後に500rpmで10秒間、スピンコーティングした。この工程でPZTを構成する各金属原子は有機金属錯体として分散している。ゾルをチタン層8上に塗布した後、180℃で30分間乾燥させ、ホットプレートを用いて空気中において330℃で10分間脱脂した。スピンコートから脱脂までの工程を2回繰り返し、その後、環状炉にて酸素雰囲気中700℃で30分間結晶化熱処理を行った。この工程をさらに7回繰り返すことで合計14層から成る膜厚1.6μmの圧電体膜9を成膜した。
【0031】
上記の工程により、圧電体膜は(100)面方位に優先配向するため、上部電極を引っ張り応力を生じる導電性材料で成膜する。本実施例では、DCスパッタ法を用いて圧電体膜9上に白金を50nmの厚みに成膜し、上部電極72を形成した(同図(D))。膜内部に圧縮応力を生じる導電性材料、例えば、イリジウムのような金属材料であっても、熱アニール処理により膜内部に引っ張り応力を生じさせることができるため、上部電極72の材料に用いることができる。上部電極72のアニール処理は、例えば、上部電極72の成膜後に700℃程度の温度で60分間の熱処理をすればよい。
【0032】
次に、上部電極72上にレジストをスピンコートし、加圧室が形成されるべき位置に合わせて露光・現像してパターニングする。残ったレジストをマスクとして上部電極72、圧電体膜9、チタン層8及び下部電極71をエッチングし、加圧室が形成されるべき位置に対応して圧電体素子13を分離した(同図(E))。このとき、同図に示すように、圧電体素子13のエッジ部分のテーパ角θを45°未満となるテーパ形状とした。
【0033】
続いて、加圧室が形成されるべき位置に合わせてエッチングマスクを施し、平行平板型反応性イオンエッチング等の活性気体を用いたドライエッチングにより、予め定められた深さまで加圧室基板1をエッチングし、加圧室10を形成した(同図(E))。エッチングされずに残った部分は側壁11となる。加圧室基板1のエッチングは、5重量%〜40重量%の水酸化カリウム水溶液等の高濃度アルカリ水溶液によるウエットエッチングでも可能である。
【0034】
最後に、同図(F)に示すように、樹脂等を用いてノズルプレート2を加圧室基板1に接合した。ノズル21はリソグラフィ法、レーザ加工、FIB加工、放電加工等を利用してノズルプレート2の所定位置に開口することで形成することができる。ノズルプレート2を加圧室基板1に接合する際には、各ノズル21が加圧室10の各々の空間に対応して配置されるよう位置合せする。ノズルプレート2を接合した加圧室基板1を基体3に取り付ければ、インクジェット式記録ヘッドが完成する。
【0035】
本発明の圧電体素子と従来の圧電体素子の圧電定数及び変位量を比較した。 圧電体膜9を(100)面方位に優先配向処理し、上部電極72を700℃の熱アニール処理により引っ張り応力を生じる薄膜としたところ、圧電定数d31は駆動電圧15Vにおいて、熱アニール処理前の値から約30%向上した。また、駆動電圧25Vでは熱アニール処理前の値から約20%向上した。
【0036】
一方、圧電体膜9を(111)面方位に優先配向処理し、上部電極72を700℃の熱アニール処理により引っ張り応力を生じる薄膜としたところ、圧電定数d31は駆動電圧15Vにおいて、熱アニール処理前の値から約10%低下した。また、駆動電圧25Vでは熱アニール処理前の値から約10%低下した。
【0037】
また、圧電体膜9を(100)面方位に優先配向処理し、上部電極72を700℃の熱アニール処理により引っ張り応力を生じる薄膜としたところ、変位量は駆動電圧15Vにおいて、熱アニール処理前の値208.3nmから256.3nmへと向上した。また、駆動電圧25Vでは熱アニール処理前の値327.7nmから373.3nmへと向上し、駆動電圧30Vでは熱アニール処理前の値371.0nmから415.5nmへと向上した。
【0038】
一方、圧電体膜9を(111)面方位に優先配向処理し、上部電極72を700℃の熱アニール処理により引っ張り応力を生じる薄膜としたところ、変位量は駆動電圧15Vにおいて、熱アニール処理前の値202.3nmから182.3nmへと低下した。また、駆動電圧25Vでは熱アニール処理前の値279.7nmから246.5nmへと低下し、駆動電圧30Vでは熱アニール処理前の値302.0nmから266.5nmへと低下した。
【0039】
以上の実験結果から、圧電体膜9を(100)面方位に優先配向処理した場合には、上部電極72を引っ張り応力が生じる薄膜とすることで圧電体素子13の圧電定数d31及び変位量を向上させることができるが確認できた。
【0040】
尚、本実施例においては、圧電体膜9を(100)優先配向処理し、上部電極72を引っ張り応力を生じる膜としたが、下部電極71を引っ張り応力を生じる膜としてもよい。この場合、下部電極は白金等のように膜内部に引っ張り応力を生じる膜で成膜すればよいが、膜内部に圧縮応力を生じる膜であっても熱アニール処理をすることで引っ張り応力を生じる膜とすることができる。かかる材料を用いる場合、下部電極の熱アニール処理は、圧電体膜の焼成工程におけるファイナルアニールの際、或いは圧電体膜の結晶化後において圧電体膜の焼成温度よりも高い温度で熱処理をすればよい。
【0041】
また、圧電体膜9を(100)面方位に優先配向する処理は上記のプロセスに限らず、例えば、加圧室基板1として(100)面方位のシリコン単結晶基板を用いて圧電体膜9をエピタキシャル成長させるプロセスを用いてもよい。
【0042】
また、本実施例においては、圧電体膜9を(100)優先配向処理をする場合を説明したが、圧電体膜9を(111)優先配向処理をする場合には上述したように、上部電極72又は/及び下部電極71を圧縮応力を生じる薄膜材料、例えば、イリジウム等で構成すればよい。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、圧電体膜の結晶配向方位に応じて上部電極と下部電極の少なくとも一方の膜内部の応力状態を引っ張り応力或いは圧縮応力に設定することで圧電体素子の変位量を向上させることができる。また、圧電体素子のエッジ部分のテーパ角を45°未満に調整することで上部電極或いは下部電極による圧電体膜中の応力状態を有効に保持することができる。
【0044】
また、本発明によれば、駆動特性に優れたインクジェット式記録ヘッド及びインクジェットプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】インクジェットプリンタの構成図である。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。
【符号の説明】
1…加圧室基板、2…ノズルプレート、3…基体、4…配線基板、5…振動板膜、6…下地層、71…下部電極、8…チタン層、9…圧電体膜、72…上部電極、10…加圧室、11…側壁、12…共通流路、13…圧電体素子、21…ノズル、100…インクジェット式記録ヘッド、101…インクカートリッジ、102…本体、103…トレイ、104…排出口、105…オートシートフィーダ、106…ヘッド駆動機構、107…記録用紙

Claims (13)

  1. 上部電極と下部電極に挟まれる圧電体膜を備える圧電体素子において、前記圧電体膜は(100)面方位に優先配向処理された多結晶体から構成され、さらに上部電極と下部電極の少なくとも一方が圧電体膜内部に圧縮応力を与える薄膜で構成されていることを特徴とする圧電体素子。
  2. 前記薄膜は、熱アニール処理された導電性薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の圧電体素子。
  3. 上部電極と下部電極に挟まれる圧電体膜を備える圧電体素子において、前記圧電体膜は(111)面方位に優先配向処理された多結晶体から構成され、さらに上部電極と下部電極の少なくとも一方が圧電体膜内部に引っ張り応力を与える薄膜で構成されていることを特徴とする圧電体素子。
  4. 前記薄膜は、酸化処理或いは窒化処理された導電性薄膜であることを特徴とする請求項3に記載の圧電体素子。
  5. 前記圧電体素子は上部電極よりも下部電極の方が広いテーパ形状となっており、エッジ部分のテーパ角が45°未満であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち何れか1項に記載の圧電体素子。
  6. 上部電極と下部電極に挟まれる圧電体膜を備える圧電体素子の製造方法において、前記圧電体膜を(100)面方位に優先配向処理して成膜する工程と、上部電極と下部電極の少なくとも一方を圧電体膜内部に圧縮応力を与える薄膜で成膜する工程を備えた圧電体素子の製造方法。
  7. 上部電極と下部電極に挟まれる圧電体膜を備える圧電体素子の製造方法において、前記圧電体膜を(100)面方位に優先配向処理して成膜する工程と、上部電極と下部電極の少なくとも一方を熱アニール処理することで圧電体膜内部に圧縮応力を与える薄膜とする工程を備えた圧電体素子の製造方法。
  8. 上部電極と下部電極に挟まれる圧電体膜を備える圧電体素子の製造方法において、前記圧電体膜を(111)面方位に優先配向処理して成膜する工程と、上部電極と下部電極の少なくとも一方を圧電体膜内部に引っ張り応力を与える薄膜で成膜する工程を備えた圧電体素子の製造方法。
  9. 上部電極と下部電極に挟まれる圧電体膜を備える圧電体素子の製造方法において、前記圧電体膜を(111)面方位に優先配向処理して成膜する工程と、上部電極と下部電極の少なくとも一方を酸化処理或いは窒化処理することで圧電体膜内部に引っ張り応力を与える薄膜とする工程を備えた圧電体素子の製造方法。
  10. 圧電体素子全体を上部電極よりも下部電極の方が広いテーパ形状とし、且つエッジ部分のテーパ角を45°未満にする工程を備えた請求項6乃至請求項9のうち何れか1項に記載の圧電体素子の製造方法。
  11. 請求項1乃至請求項5のうち何れか1項に記載の圧電体素子と、当該圧電体素子の機械的変位によって内容積が変化する加圧室と、当該加圧室に連通してインク滴を吐出する吐出口とを備えたインクジェット式記録ヘッド。
  12. 前記吐出口は、主走査方向と略平行にライン状に列設されていることを特徴とする請求項11に記載のインクジェット式記録ヘッド。
  13. 請求項11又は請求項12に記載のインクジェット式記録ヘッドを印字機構に備えたインクジェットプリンタ。
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