JP2007042949A - 圧電素子の製造方法及び圧電素子並びに液体噴射ヘッド及び液体噴射装置 - Google Patents
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【課題】 圧電素子の圧電特性を略均一にすることができると共に、最大出力で駆動することができる圧電素子の製造方法及び圧電素子並びに液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供すること。
【解決手段】 酸化ジルコニウム層101、該酸化ジルコニウム層101上に酸化セリウム層102と、イットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる導電体層103と、ルテニウム酸ストロンチウムからなる下電極60とを形成した後、該下電極60上にPb(ZrxTi1−x)O3でx=0.6〜0.75の組成である圧電体前駆体膜71を塗布して、乾燥、脱脂及び焼成を行い、圧電体膜72を形成する工程を複数回繰り返して複数の前記圧電体膜72からなる圧電体層70を形成する際に、1層目の前記圧電体膜72を650〜750℃で、2層目以降の前記圧電体膜72を600℃以下で焼成することにより、前記圧電体層70をエピタキシャル成長させる。
【選択図】 図9
【解決手段】 酸化ジルコニウム層101、該酸化ジルコニウム層101上に酸化セリウム層102と、イットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる導電体層103と、ルテニウム酸ストロンチウムからなる下電極60とを形成した後、該下電極60上にPb(ZrxTi1−x)O3でx=0.6〜0.75の組成である圧電体前駆体膜71を塗布して、乾燥、脱脂及び焼成を行い、圧電体膜72を形成する工程を複数回繰り返して複数の前記圧電体膜72からなる圧電体層70を形成する際に、1層目の前記圧電体膜72を650〜750℃で、2層目以降の前記圧電体膜72を600℃以下で焼成することにより、前記圧電体層70をエピタキシャル成長させる。
【選択図】 図9
Description
本発明は、エピタキシャル成長によって形成する圧電素子の製造方法及び圧電素子並びに液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料からなる圧電体膜を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体膜は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。
このような圧電素子を用いた液体噴射ヘッドとしては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。インクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。このようなアクチュエータでは、高密度に配置するために、小さな駆動電圧で大きな歪みを得ることができる圧電素子、すなわち変位の大きな圧電素子が求められている。
ここで、圧電素子は、例えば、シリコン単結晶基板の一方面側に下電極、圧電体層及び上電極を順々に積層することによって形成されている。また、圧電体層は、一般的に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる多結晶薄膜であり、各結晶間の界面、すなわち、粒界が数多く存在した柱状の結晶構造を有している。
しかしながら、圧電体層の結晶構造内に粒界が数多く存在しているため、この粒界が圧電体層の伸縮、すなわち、柱状結晶の伸縮を妨げる原因となる。このため、圧電素子の変位量を所定値にすることができず、圧電体層に一定の駆動電界を発生させた場合の圧電素子の変位量が最大の状態、すなわち、最大出力でのインク吐出を行うことができないという問題がある。また、圧電体層に所定の駆動電界を発生させても、このように粒界の影響によって、圧電素子の圧電特性が実質的にバラついてしまうという問題もある。
このため、ルテニウム酸ストロンチウム(SRO)からなる下電極上に圧電体層を形成することで、圧電体層の結晶面方位を(100)配向とすると共に、単結晶の圧電体層を得る液体噴射ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1のようにSROなどのエピタキシャル成長させた下電極上に圧電体層を形成しても、圧電体層のジルコニウム(Zr)組成比が低かったため、圧電体層がテトラ結晶になりやすく、単結晶の特性を示していなく、圧電特性を均一にすることが困難であると共に優れた圧電特性を得ることができないという問題がある。
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、勿論、他の液体噴射ヘッドにおいても同様に発生する。
本発明はこのような事情に鑑み、圧電素子の圧電特性を略均一にすることができると共に最大出力で駆動することができる圧電素子の製造方法及び圧電素子並びに液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、酸化ジルコニウム層、該酸化ジルコニウム層上に形成された酸化セリウム層、該酸化セリウム層上に形成されたイットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる導電体層上に、ルテニウム酸ストロンチウムからなる下電極を形成した後、該下電極上にPb(ZrxTi1−x)O3でx=0.6〜0.75の組成である圧電体前駆体膜を塗布して、乾燥、脱脂及び焼成を行い、圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を複数回繰り返して複数の前記圧電体膜からなる圧電体層を形成する際に、1層目の前記圧電体膜を650〜750℃で焼成して形成すると共に、2層目以降の前記圧電体膜を600℃以下で焼成することにより、エピタキシャル成長させた単結晶からなる前記圧電体層を形成することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる第1の態様では、圧電体層の組成及び焼成温度を規定することによって、圧電体層の結晶構造の単結晶化を実現することができる。これにより、圧電素子の圧電特性を略均一にすることができると共に最大出力で駆動することができる。
かかる第1の態様では、圧電体層の組成及び焼成温度を規定することによって、圧電体層の結晶構造の単結晶化を実現することができる。これにより、圧電素子の圧電特性を略均一にすることができると共に最大出力で駆動することができる。
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記圧電体層を形成する際に、1層目の前記圧電体膜の厚さより、2層目以降の前記圧電体膜の厚さを厚くすることを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる第2の態様では、圧電体層を形成する際に、圧電体膜の厚さを制御することで、圧電体層の結晶構造の単結晶化を実現することができる。
かかる第2の態様では、圧電体層を形成する際に、圧電体膜の厚さを制御することで、圧電体層の結晶構造の単結晶化を実現することができる。
本発明の第3の態様は、酸化ジルコニウム層と、該酸化ジルコニウム層上に形成された酸化セリウム層と、該酸化セリウム層上に形成されたイットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる導電体層と、該導電体層上に形成されたルテニウム酸ストロンチウムからなる下電極と、該下電極上に形成されたPb(ZrxTi1−x)O3の組成でx=0.6〜0.75であるエピタキシャル成長させた単結晶からなり、(100)半価幅が0.1〜0.2度である圧電体層と、該圧電体層上に形成された上電極とを具備することを特徴とする圧電素子にある。
かかる第3の態様では、圧電体層の組成を規定することで、圧電体層の結晶構造の単結晶化を実現することができると共に、圧電素子の圧電特性を略均一にすることができ、最大出力で駆動することができる。
かかる第3の態様では、圧電体層の組成を規定することで、圧電体層の結晶構造の単結晶化を実現することができると共に、圧電素子の圧電特性を略均一にすることができ、最大出力で駆動することができる。
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記下電極の結晶面方位が(100)配向となっており、前記圧電体層の結晶面方位が(100)配向となっていることを特徴とする圧電素子にある。
かかる第4の態様では、圧電体層の結晶面方位が(100)配向となり、圧電素子の圧電特性を実質的に高めることができる。
かかる第4の態様では、圧電体層の結晶面方位が(100)配向となり、圧電素子の圧電特性を実質的に高めることができる。
本発明の第5の態様は、第3又は4の態様の圧電素子を、ノズル開口から液体を噴射する圧力発生室が設けられた流路形成基板の一方面に振動板を介して設けたことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第5の態様では、最大出力で液体を噴射することができ、液体噴射特性を向上することができる。
かかる第5の態様では、最大出力で液体を噴射することができ、液体噴射特性を向上することができる。
本発明の第6の態様は、第5の態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる第6の態様では、圧電素子の圧電特性が略均一であり且つ最大出力で液体吐出を行うことができる液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置を提供することができる。
かかる第6の態様では、圧電素子の圧電特性が略均一であり且つ最大出力で液体吐出を行うことができる液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置を提供することができる。
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A′断面図である。また、図3は、図2(a)のB−B′断面図である。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A′断面図である。また、図3は、図2(a)のB−B′断面図である。
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では結晶面方位が(100)であるシリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した酸化シリコン(SiO2)からなる、厚さ0.5〜2.0μmの弾性膜50が形成されている。
この流路形成基板10には、シリコン単結晶基板をその一方面側からドライエッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が幅方向に並設されている。このような圧力発生室12の長手方向は、後述する圧電体層の結晶面方位(100)に含まれる(100)方向と同一又は45°の方向であることが好ましい。本実施形態では、圧力発生室12の長手方向を圧電体層の(100)方向と同一方向とした。
また、圧力発生室12の長手方向外側には、後述する保護基板30のリザーバ部31と連通される連通部13が形成されている。また、この連通部13は、各圧力発生室12の長手方向一端部でそれぞれ液体供給路14を介して連通されている。なお、このような液体供給路14の幅は、本実施形態では、圧力発生室12の幅よりも小さくなっている。
なお、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12の液体供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50上には、図3に示すように、酸化ジルコニウム層101と、酸化セリウム層102と、導電体層103とが順々に積層形成されている。これら、酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102及び導電体層103の全体の厚さは、例えば、約10nmである。
酸化ジルコニウム層101は、フルオライト(CF3)構造を有しており、弾性膜50上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、この酸化ジルコニウム層101の結晶性は、流路形成基板10と同じ配向性、すなわち、結晶面方位が(100)に配向している。なお、酸化ジルコニウム層101を形成する材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)やジルコニア(ZrO2)等を挙げることができ、本実施形態では、YSZを用いた。
また、酸化セリウム層102は、酸化ジルコニウム層101と同様に、フルオライト(CF3)構造を有しており、酸化ジルコニウム層101上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、この酸化セリウム層102の結晶性も酸化ジルコニウム層101と同様に、下地である酸化ジルコニウム層101と同じ配向性、すなわち、結晶面方位が(100)に配向している。
さらに、導電体層103は、ペロブスカイト構造に類似した結晶構造を有しており、酸化セリウム層102上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、この導電体層103の結晶性も酸化セリウム層102と同様に、下地である酸化セリウム層102と同じ配向性、すなわち、結晶面方位が(100)に配向している。なお、導電体層103を形成する材料は、イットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)であり、例えば、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化バリウム(BaO)、酸化銅(II)(CuO)からなる複合酸化物が挙げられる。
また、このような結晶面方位が(100)配向した導電体層103上には、厚さが例えば、約100nmの下電極膜60と、厚さが例えば、0.2〜5μmの圧電体層70と、厚さが例えば、50〜100nmの上電極膜80とが順々に積層形成され、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。そして、振動板は、本実施形態では、弾性膜50、酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102、導電体層103及び下電極膜60から構成されている。
なお、このような各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90がそれぞれ接続されている。そして、このようなリード電極90は、後述する駆動ICと電気的に接続されている。
ここで、圧電体層70の下地である下電極膜60は、本実施形態では、上述した酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102及び導電体層103の3層と同様に、導電体層103上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、この下電極膜60は、下地である導電体層103と同じ配向性、すなわち、結晶面方位(100)に配向している。なお、このような下電極膜60は、本実施形態では、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)からなる酸化物導電体であり、ペロブスカイト構造を有している。
また、このような下電極膜60上に形成される圧電体層70は、ペロブスカイト構造を有しており、下地である下電極膜60上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、圧電体層70の結晶性は、下地である下電極膜60と同じ配向性、すなわち、結晶面方位(100)に配向している。
このような圧電体層70の結晶面方位(100)に含まれる(100)方向は、上述した圧力発生室12の長手方向と同一又は45°の方向であることが好ましい。本実施形態では、圧電体層70の(100)方向を圧力発生室12の長手方向と同一方向とした。これにより、圧電体層70の圧電特性を高めることができる。このような圧電体層70を形成する材料としては、本実施形態では、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3;PZT)からなる強誘電体材料である。したがって、圧電体層70は、結晶面方位が(100)配向した単結晶PZT薄膜である。
そして、圧電体層70は、Pb(ZrxTi1−x)O3の組成でx=0.6〜0.75、すなわち、ジルコニウム組成比が0.6〜0.75の単結晶PZT膜であり、且つ(100)半価幅が0.1〜0.2度のものである。このようなジルコニウム組成比で圧電体層70を形成することにより、圧電体層70の結晶面方位が(100)配向した単結晶PZT薄膜を形成することができる。
ここで、X線回折広角法によって圧電体層70を測定すると、(100)面に相当する回折強度のピークが発生する。そして、「半価幅」とは、X線回折広角法により測定されたX線回折チャートで示されるロッキングカーブの各結晶面に相当するピーク強度の半価での幅のことを言う。
また、圧電体層70のジルコニウム組成比を変化させた場合の圧電体層の特性について説明する。結晶面方位が(100)配向した下電極膜60上にジルコニウム組成比を変えて、エピタキシャル成長させた単結晶の圧電体層を形成し、この(100)強度と、(100)半価幅を測定した。この結果を図4及び図5に示す。
図4に示すように、ジルコニウム組成比を変化させることによってエピタキシャル成長させた単結晶PZT膜である圧電体層の(100)強度が変化し、且つ(100)強度が35000cps以上となるのはジルコニウム組成比が0.6〜0.75であった。
また、図5に示すように、ジルコニウム組成比を変化させることによってエピタキシャル成長させた単結晶PZT膜である圧電体層の(100)面の半価幅が変化し、且つ(100)半価幅が0.1〜0.2度となるのは、ジルコニウム組成比が0.6〜0.75であった。
なお、図5に示すように、従来の多結晶PZT膜の圧電体層は、(100)強度は、1000cps程度であり、また、(100)半価幅は、特に図示しないがジルコニウム組成比に関わらず0.35度程度であった。
そして、本実施形態のエピタキシャル成長させた単結晶PZT膜である圧電体層70と、従来の多結晶PZT膜である圧電体層とのそれぞれの電圧に対する変位量及び変位定数を測定した。これらの結果を図6及び図7に示す。
図6に示すように、本実施形態の単結晶PZT膜である圧電体層は、電圧と変位との関係が直線状となっているのに対し、従来の多結晶PZT膜の圧電体層では、電圧と変位との関係が直線状ではないことが分かる。また、同一電圧で駆動した際の変位量は、本実施形態の単結晶PZT膜の圧電体層の方が、従来の多結晶PZT膜の圧電体層の変位量より大きな値となっており、優れた圧電特性を示している。
さらに、図7に示すように、本実施形態の単結晶PZT膜の圧電体層は、何れの電圧であっても一定の優れた変位定数を示すのに対し、従来の多結晶PZT膜の圧電体層は、電圧によって変位定数が安定しなかった。
このように、圧電体層70として、エピタキシャル成長させた単結晶PZT膜を用い、しかもPb(ZrxTi1−x)O3の組成でx=0.6〜0.75とし、且つ(100)半価幅が0.1〜0.2度とすることで、変位特性などの圧電特性が優れた圧電体層70を得ることができる。すなわち、小さな駆動電圧で大きな歪みを得ることができ、変位の大きな圧電素子300を実現できる。
このような圧電体層70は、その結晶面方位が(100)に配向した単結晶構造となり、結晶構造内に粒界は実質的に存在しない。これにより、粒界が圧電素子300の変位に悪影響を及ぼすことなく、圧電体層70に所定の駆動電界を発生させて圧電素子300に所定の変位を行わせることができる。したがって、圧電素子300の変位量を所定値にすることができ、圧電素子300の圧電特性を略均一にすることができる。また、実質的に最大出力での液体吐出を行うことができる。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤等を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。保護基板30は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
さらに、保護基板30の圧電素子保持部32とリザーバ部31との間、すなわち液体供給路14に対応する領域には、この保護基板30を厚さ方向に貫通する接続孔33が設けられている。また、保護基板30の圧電素子保持部32側とは反対側の表面には各圧電素子300を駆動するための駆動IC110が実装されている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90は、この接続孔33まで延設されており、例えば、ワイヤボンディング等により駆動IC110と電気的に接続される。
保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなる。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域には、厚さ方向に完全に除去された開口部43が形成され、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
なお、このような液体噴射ヘッドは、図示しない外部液体供給手段から液体を取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部を液体で満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50,酸化ジルコニウム層101,酸化セリウム層102,導電体層103,下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21から液滴が吐出する。
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、圧電素子300の製造方法を合わせて説明する。なお、図8〜図10は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図8(a)に示すように、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板10を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。次いで、図8(b)に示すように、弾性膜50上に、酸化ジルコニウム層101と、酸化セリウム層102と、導電体層103とを順次積層して形成する。酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102及び導電体層103は、順々にエピタキシャル成長させて形成するようにした。これにより、導電体層103上に形成する下電極膜60の結晶面方位を(100)配向とすることができる。
次に、図8(c)に示すように、導電体層103上に下電極膜60を形成する。本実施形態では、例えば、白金とイリジウムとを弾性膜50上に積層形成した後、所定形状にパターニングすることで下電極膜60を形成した。
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。金属アルコキシド等の有機金属化合物をアルコールに溶解し、これに加水分解抑制剤等を加えて得たコロイド溶液からなるMOD液を塗布した後、これを乾燥して焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるMOD法(Metal Organic Deposition)を用いて圧電体層70を形成している。
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、図9(a)に示すように、下電極膜60上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、下電極膜60が形成された流路形成基板10上に有機金属化合物を含むMOD液を塗布する(塗布工程)。この圧電体前駆体膜71は、Pb(ZrxTi1−x)O3でx=0.6〜0.75の組成のものを用いる。これにより、圧電体膜72の組成をPb(ZrxTi1−x)O3でx=0.6〜0.75とすることができる。
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を170〜180℃で8〜30分保持することで乾燥することができる。また、乾燥工程での昇温レートは0.5〜1.5℃/secが好適である。なお、ここで言う「昇温レート」とは、加熱開始時の温度(室温)と到達温度との温度差の20%上昇した温度から、温度差の80%の温度に達するまでの温度の時間変化率と規定する。例えば、室温25℃から100℃まで50秒で昇温させた場合の昇温レートは、(100−25)×(0.8−0.2)/50=0.9[℃/sec]となる。
次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を300〜400℃程度の温度に加熱して約10〜30分保持することで脱脂した。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。また、脱脂工程では、昇温レートを0.5〜1.5℃/secとするのが好ましい。
次に、図9(b)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。焼成工程では、1層目の圧電体膜72を形成する場合、圧電体前駆体膜71を650〜700℃に加熱する。本実施形態では、650℃で30分間加熱を行って圧電体前駆体膜71を焼成して1層目の圧電体膜72を形成した。また、焼成工程では、昇温レートを15℃/sec以下とするのが好ましい。
そして、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことで、図9(c)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。このような圧電体膜形成工程を複数回繰り返す際に、2層目以降の圧電体膜72の焼成温度を600℃以下とし、加熱時間は1層目の圧電体膜72とほぼ同様とする。また、2層目以降の圧電体膜72は、1層目の圧電体膜72の厚さよりも厚く形成するのが好ましい。
このように圧電体層70を形成することで、圧電体層70を結晶面方位が下地と同じ(100)配向となるようにエピタキシャル成長させて単結晶PZT膜で形成することができる。また、圧電体層70を下地の結晶構造及び格子面間隔と類似するように形成することができる。さらに、圧電体層70と下地の表面との間に静電相互作用による反発力のない結晶構造とすることができる。なお、本実施形態では、上述したペロブスカイト構造とフルオライト構造とは構造的に類似しているので、圧電体層70等の各層をエピタキシャル成長させることができる。
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が単独配向しており、且つ上述したように、圧電体層70は、結晶が菱面体晶に形成されている。なお、単独配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面が一定の方向に向いている状態をいう。
このように、本実施形態では、圧電体層70は、その結晶面方位が(100)に配向した単結晶構造となり、結晶構造内に粒界は実質的に存在しない。これにより、粒界が圧電素子300の変位に悪影響を及ぼすことなく、圧電体層70に所定の駆動電界を発生させて圧電素子300に所定の変位を行わせることができる。したがって、圧電素子300の変位量を所定値にすることができ、圧電素子300の圧電特性を略均一にすることができる。また、実質的に最大出力での液体吐出を行うことができる。
なお、圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタ法やMOD法、スピンコートにより塗布する方法などで形成してもよい。また、積層する圧電体膜毎でスパッタ法、MOD法及びスピンコート法などの異なる方法を用いるようにしてもよい。
また、上述した乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
上述したように、図9(a)〜図9(c)に示す工程によって圧電体層70を形成した後は、図10(a)に示すように、例えば、イリジウムからなる上電極膜80を流路形成基板10の全面に形成し、圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。次に、リード電極90を形成する。具体的には、図10(b)に示すように、流路形成基板10の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
次に、図10(c)に示すように、パターニングされた複数の圧電素子300を保持する保護基板30を、流路形成基板10上に接着剤34を介して接合する。なお、保護基板30には、リザーバ部31、圧電素子保持部32等が予め形成されている。また、保護基板30は、例えば、400μm程度の厚さを有するシリコン単結晶基板からなり、保護基板30を接合することで流路形成基板10の剛性は著しく向上することになる。
次に、図10(d)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300が形成された面とは反対側の面からKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、流路形成基板10に圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
その後は、流路形成基板10の保護基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板30にコンプライアンス基板40を接合することで、図1に示すようなインクジェット式記録ヘッドが形成される。
なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することでインクジェット式記録ヘッドが形成される。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の構成は上述したものに限定されるものではない。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の構成は上述したものに限定されるものではない。
例えば、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型の液体噴射ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の液体噴射ヘッドにも本発明を採用することができる。
また、このような本発明の液体噴射ヘッドは、液体カートリッジ等と連通する液体流路を具備する噴射ヘッドユニットの一部を構成して、液体噴射装置に搭載される。図11は、その液体噴射装置の一例を示す概略斜視図である。
図11に示すように、液体噴射ヘッドを有する噴射ヘッドユニット1A及び1Bは、液体供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この噴射ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この噴射ヘッドユニット1A及び1Bは、液体として、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、噴射ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上に搬送されるようになっている。
ここで、上述した実施形態においては、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド等の各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。勿論、このような液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置も特に限定されるものではない。
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 液体供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 封止基板、 31 リザーバ部、 32 圧電素子保持部、 33 接続孔、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 71 圧電体前駆体膜、 72 圧電体膜、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 101 酸化ジルコニウム層、 102 酸化セリウム層、 103 導電体層、 300 圧電体層
Claims (6)
- 酸化ジルコニウム層、該酸化ジルコニウム層上に形成された酸化セリウム層、該酸化セリウム層上に形成されたイットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる導電体層上に、ルテニウム酸ストロンチウムからなる下電極を形成した後、該下電極上にPb(ZrxTi1−x)O3でx=0.6〜0.75の組成である圧電体前駆体膜を塗布して、乾燥、脱脂及び焼成を行い、圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を複数回繰り返して複数の前記圧電体膜からなる圧電体層を形成する際に、1層目の前記圧電体膜を650〜750℃で焼成して形成すると共に、2層目以降の前記圧電体膜を600℃以下で焼成することにより、エピタキシャル成長させた単結晶からなる前記圧電体層を形成することを特徴とする圧電素子の製造方法。
- 請求項1において、前記圧電体層を形成する際に、1層目の前記圧電体膜の厚さより、2層目以降の前記圧電体膜の厚さを厚くすることを特徴とする圧電素子の製造方法。
- 酸化ジルコニウム層と、該酸化ジルコニウム層上に形成された酸化セリウム層と、該酸化セリウム層上に形成されたイットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる導電体層と、該導電体層上に形成されたルテニウム酸ストロンチウムからなる下電極と、該下電極上に形成されたPb(ZrxTi1−x)O3の組成でx=0.6〜0.75であるエピタキシャル成長させた単結晶からなり、(100)半価幅が0.1〜0.2度である圧電体層と、該圧電体層上に形成された上電極とを具備することを特徴とする圧電素子。
- 請求項3において、前記下電極の結晶面方位が(100)配向となっており、前記圧電体層の結晶面方位が(100)配向となっていることを特徴とする圧電素子。
- 請求項3又は4の圧電素子を、ノズル開口から液体を噴射する圧力発生室が設けられた流路形成基板の一方面に振動板を介して設けたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項5の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
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