JP3366000B2 - 絹蛋白質を活用した繊維材料の改質加工法 - Google Patents

絹蛋白質を活用した繊維材料の改質加工法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はジクロルトリアジン
系化合物及び/又は塩化シアヌルを用いて、繊維材料と
セリシン及び/又は絹フィブロインとを、共有結合によ
り連結させることによって繊維材料を改質する加工法で
ある。更に詳しくは本発明は、クロルトリアジン系化合
物を用いて繊維材料とセリシン及び/又は絹フィブロイ
ンとを共有結合によって繊維材料を改質加工するに際し
て、塩化シアヌル及び/又はジクロルトリアジン系化合
物とセリシン及び/又は絹フィブロインと繊維材料の三
者を共存させて反応させるか、塩化シアヌル及び/又は
ジクロルトリアジン系化合物とセリシン及び/又は絹フ
ィブロインとを事前に反応させて、絹蛋白質が結合した
モノ或いはジクロルトリアジン系化合物を合成してお
き、次いで繊維材料と反応させるか、或いは、塩化シア
ヌル及び/又はジクロルトリアジン系化合物と繊維材料
を事前に反応させておき、次いでセリシン及び/又は絹
フィブロインを添加してセリシン及び/又は絹フィブロ
インと繊維材料とをトリアジン環を介して共有結合させ
ることを特徴とする繊維材料の改質加工法である。
【0002】
【従来の技術】近年、生活の質の向上と環境・安全・健
康問題への関心の高まりに伴って、形状記憶繊維、難燃
・防炎繊維、紫外線遮蔽繊維、防虫・防ダニ繊維、抗菌
・防虫繊維、消臭繊維、高質感・高風合繊維等の機能性
繊維が次々と開発されており、繊維業界の注目を集める
と共に、一種のブームを呼んでいる。その様な中で、絹
フィブロイン或いは回収セリシンを繊維材料に付着させ
て、絹の特徴を持たせる加工、即ち、さらりとした風合
いの良い肌ざわり感、保湿性、消臭性、静電気防止性、
抗酸化性、紫外線遮蔽性、抗菌性等の機能を付与する加
工が研究されており、一部は実用化されている。しかる
に従来の加工法は「染色工業」Vol.46 No.5
198頁にも記載があるように、主としてグリオキザ
ール系樹脂、ウレタン系樹脂等の樹脂を用いて樹脂加工
と同時にセリシンや絹フィブロインを接着させたり、特
許公報第2588445号公報に記載があるように固着
剤を用いてセリシンや絹フィブロインを不溶化させた
り、或いは特開平11−350352号公報に記載があ
るように熱時水溶性の高分子量セリシンを高温で繊維に
吸収させて冷却する事によって不溶性となったセリシン
を繊維に付着させる方法などが記載されている。これら
公知の方法によって加工された繊維材料の加工効果の耐
久性を調べると、洗濯を数回繰り返すことによって、セ
リシンや絹フィブロインが脱落してしまうので加工効果
の持続性が乏しいという欠点がある。また、ホルマリン
や各種樹脂加工用モノマーなど、毒性問題や環境問題を
起こす可能性のある薬剤を用いる点も問題点として指摘
されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記したセ
リシン或いは絹フィブロインを用いる公知加工法の大き
な欠点である加工効果の耐久性が不十分であること、加
工薬剤に危険で有害な物質を多用すること等に着目し
て、経済性の優れた、環境問題適応性と安全性に優れた
加工法の研究を行った。また、京都府織物指導所 研究
報告No.34(平成12年3月31日発行)第1頁に
記載がある様に、絹セリシン蛋白質は高価な絹繊維の4
分の1を占めるにもかかわらず、現在の所、活用される
用途に乏しいため、絹の精練の際に排出される排水中に
含まれたまま廃棄される場合が多く、環境汚染物質とな
っている。しかし近年、このセリシン蛋白質は、アトピ
ー性皮膚炎の抑制に効果が認められたり、その保湿性に
より化粧品の原料としても利用されたり、健康食品の一
つとしても認められるなど、有効蛋白質として注目され
るようになり、絹セリシンの回収・有効利用技術の開発
研究が盛んに行われている。なお、2001年3月23
日付け繊研新聞には、新たにセリシンが皮膚がん抑制作
用を有すると発表された。我々の目的は、絹の精練廃液
を回収・濃縮して得られるセリシンの水溶液或いはドラ
イアップした粉状のセリシンを、繊維材料の高付加価値
加工の原料として活用することによって新しい機能性繊
維を開発することであるが、廃棄物の資源化を達成する
事によって、排水負荷の削減をはかり、地球環境に優し
い加工法を開発する事も重要な狙いである。更に、繊維
くずとして排出される絹の再資源化の一環として製造さ
れた水溶性絹フィブロインを耐久性のある加工法により
有効利用することによって環境問題に貢献することも本
発明の課題である。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明はかかる経済性、
環境・安全性の諸問題並びに品質上の諸問題を解決し、
地球環境に優しい機能性繊維を提供するものである。即
ち本発明は、下記である。ジクロルトリアジン化合物を
用いて、天然繊維材料、再生繊維材料、又は、半合成繊
維材料、但し、絹短繊維と他の繊維との混合繊維からな
る材料を除く、とセリシン及び/又は絹フィブロインと
を共有結合により連結させることによって、繊維材料を
加工する方法。好ましくは、ジクロルトリアジン化合物
は、塩化シアヌルから誘導されたものであり、例えば2,
6-ジクロル-4-(3-スルフォアニリノ)-S-トリアジンであ
る。前記方法において、第1工程としてジクロルトリア
ジン化合物と、セリシン及び/又は絹フィブロインとを
反応させ、第2工程として、第1工程により得られるジク
ロルトリアジン誘導体と、天然繊維材料、再生繊維材
料、又は、半合成繊維材、但し、絹短繊維と他の繊維と
の混合繊維からなる材料を除く、とを反応させてよい。
又は、第1工程としてジクロルトリアジン化合物と、天
然繊維材料、再生繊維材料、又は、半合成繊維材料、
し、絹短繊維と他の繊維との混合繊維からなる材料を除
く、とを反応させ、次いで、第2工程として第1工程によ
り得られる繊維材料と、セリシン及び/又は絹フィブロ
インとを反応させてよい。あるいは、ジクロルトリアジ
ン化合物と、天然繊維材料、再生繊維材料、又は、半合
成繊維材料、但し、絹短繊維と他の繊維との混合繊維か
らなる材料を除く、と、セリシン及び/又は絹フィブロ
インとを同時に共存させて反応させてもよい。酸結合剤
としてアルカリ金属或いはアルカリ土類金属の炭酸塩、
重炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、珪酸塩、または水酸化物
から選ばれる少なくとも1種を用いる事が好ましい。繊
維材料として、木綿、麻、ビスコースレーヨン、キュプ
ラレーヨン、リヨセル、テンセル、酢酸セルロース、羊
毛、モヘア、アンゴラ、アルパカ、カシミア、又は、獣
毛、但し、これらのいずれかのものと絹短繊維と他の繊
維との混合繊維 からなる材料を除く、を用いることが好
ましい。セリシンとして絹のアルカリ精錬法による精錬
廃液及び/又は無薬剤高温高圧精錬法による精錬廃液
を、そのまま、濃縮し又は乾燥して使用し、及び、絹フ
ィブロインとして水溶性絹フィブロインを使用すること
が好ましい。また、本発明は、セリシン及び/又は絹フ
ィブロインが、1,3,5−トリアジン-2,6-ジイル
基を介して繊維に共有結合されていることを特徴とする
天然繊維材料、再生繊維材料、又は、半合成繊維材料、
但し、絹短繊維と他の繊維との混合繊維からなる材料を
除く、にも関する。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明はトリアジン環を介してセ
リシン及び/又は絹フィブロイン(以降絹フィブロイン
という言葉を省略し、セリシンで代表する場合がある)
を共有結合で繊維に強固に結合させる事によって繊維材
料を改質する加工法であるが、この繊維にセリシンを共
有結合させるに当たって、塩化シアヌル及び/又はジク
ロルトリアジン系化合物を用いる加工法は、結果的には
同じ効果を生むのであるが、手順の異なる幾つかの方法
が考えられる。
【0006】その内の一つは、塩化シアヌル及び/又は
ジクロルトリアジン系化合物をセリシンと事前に反応さ
せておき、セリシンと結合したモノ或いはジクロルトリ
アジン系の薬剤を化学工場で事前に合成しておき、この
薬剤を用いて染色・仕上げ工場で繊維に加工する方法で
ある。この方法を、「薬剤合成法」と呼ぶ事とすれば、
この方法であれば繊維の種類に応じて加工条件を自由に
変更できるので好都合である。但し、この方法で注意を
要する点はモノクロルトリアジン系薬剤は問題ないが、
ジクロルトリアジン系薬剤の場合、不安定な薬剤が含ま
れる場合があるので低温保存が必要になる場合がある。
また、セリシンは天然素材であり、多種類のアミノ酸が
重縮合してできた高分子絹蛋白質で、分子量や分子量分
布のバラツキも大きい。また、絹の精練方法、セリシン
の回収方法によっても、それらの値が異なる点も考慮す
る必要がある。分子量分布の分析値や物性をチェック
し、水溶性なども調べた上で、薬剤の合成条件に反映さ
せる必要がある。なお、この場合、セリシンと反応させ
て合成された水溶性の薬剤は、モノクロルトリアジン系
でも良いし、ジクロルトリアジン系でも良いがジクロル
トリアジン系の場合は形態安定効果も同時に期待でき
る。
【0007】二つ目の方法は、先ず親水性のジクロルト
リアジン系化合物と繊維とを一次反応させ、次いでセリ
シンを染浴に添加して二次反応させる方法である。この
方法を「2段階加工法」と呼ぶことにする。この場合、
塩化シアヌルを反応性薬剤として用い、繊維と反応させ
る事は理論的には可能であるが、染色・仕上げ工場にお
いて、この種粉塵飛散性と刺激性・臭気性等の強い水不
溶性の薬剤を、有機溶剤などを用いて使用する事は、化
学工場ならいざ知らず、一般的に危険物の取り扱い量が
少なく、除害設備も乏しい染色・仕上げ工場では、環境
上の負荷が過大となり、実用的には困難と考えられるの
で、「2段階加工法」の場合は、化学工場に於いて塩化
シアヌルに水溶性置換基を導入して無害化した経時安定
性の良い水溶性のジクロルトリアジン系薬剤を用いて、
染色・仕上げ工場で繊維に加工するのが望ましい。
【0008】三つ目の方法は、これら3つの素材をバラ
バラの状態で同時に染浴に加えて、繊維−トリアジン−
セリシンの3者を同時に反応して結合させる方法であ
る。この場合を「同時加工法」と呼ぶこととすれば、こ
の同時加工法は工程数が少なく単純である点有利であ
る。ただ、繊維材料とセリシンとは、クロルトリアジン
誘導体に対する反応性が異なる場合があり、どちらかが
優先的にクロルトリアジン誘導体と反応してしまう場合
がある点に配慮をする必要がある。仮にセルロース系繊
維を対象として加工する場合を考えると、ジクロルトリ
アジン誘導体の反応性は、アミノ基を有するセリシンと
の反応性がセルロース系繊維に比べて高いので、セリシ
ンとジクロルトリアジン系化合物が優先的に反応する可
能性が高い。従って、対象繊維の反応性に応じた適切な
加工条件を適用する必要がある。
【0009】本発明の実施形態をより詳しく説明する。 薬剤合成法:塩化シアヌル或いはジクロルトリアジン
系化合物を5〜50倍の氷水に加えて分散或いは溶解す
る。この中にセリシンの水溶液、粉体或いは絹フィブロ
インを固形分換算で塩化シアヌルに対して重量比5〜1
00%を数時間をかけて滴下して加えていく。その間、
炭酸ソーダ、重炭酸ソーダ、燐酸ソーダ、苛性ソーダ、
水酸化カリなどの酸結合剤を同時に少しずつ滴下して加
えることによって、PHを弱アルカリ性に保つ。この
間、温度は塩化シアヌルの場合は−5〜5℃、ジクロル
トリアジン系原料の場合は0〜30℃に保ち、最終のP
Hは8〜9に調整する。最後に必要に応じて微量の不溶
解物を濾過して除くと、セリシンとトリアジンが結合し
たジクロルトリアジン系又はモノクロルトリアジン系の
薬剤が得られる。この薬剤を用いて繊維を加工する方法
は、浸染法とパッデイング法に大別される。浸染法の場
合の例をあげると、浴比1:5〜1:50、繊維に対し
て薬剤の使用量は固形分換算重量で1〜30%o.w.
f.、ぼう硝5〜100%o.w.f.と炭酸ソーダ、
重炭酸ソーダ等の酸結合剤を5〜100%o.w.f.
を分割して加え、PHを弱アルカリ性に保ちながら、温
度を必要に応じて段階昇温して30〜120℃に10分
間〜5時間保つ。その後水洗して80〜100℃でソー
ピング、水洗、乾燥して仕上げる。
【0010】二段階加工法:この方法は、第一工程と
して繊維と水溶性ジクロルトリアジン系化合物の中の1
個の塩素を反応させておき、第二工程として残りの1個
の塩素とセリシンを反応させて、セリシンをトリアジン
環を介して繊維に結合させる方法である。繊維を浴比
1:5〜1:50の水中に加え、水溶性のジクロルトリ
アジン系化合物を固形分換算0.5〜30%o.w.
f.と、ぼう硝0〜100g/lを分割して加え、炭酸
ソーダ或いは重炭酸ソーダ等でPHを弱アルカリ性とし
て昇温する。第一工程として30〜70℃で10分〜5
時間保温するが、その間PHが下がってくるようであれ
ばアルカリを少しずつ加えてPHを弱アルカリ性に保
つ。そのあと、セリシン或いは絹フィブロインを固形分
換算0.5〜20%o.w.f.添加して70〜120
℃に昇温し、数分間〜数時間熱処理する。その後水洗し
て80〜100℃でソーピング、水洗、乾燥して仕上げ
る。パッデイング法の場合は、上記のような染浴に布を
パッドして布を引き上げ、一旦ドライアップするか或い
は湿状のまま40〜100℃で数分〜数時間スチーミン
グして一次反応させ、次いで0.5〜30%セリシン水
溶液に布をパッド或いはシャワリングして、再び50〜
120℃で数分〜数時間保温すればよい。
【0011】同時加工法:繊維を浴比1:5〜1:5
0の水中に加え、水溶性のジクロルトリアジン系化合物
を固形分換算0.5〜30%o.w.f.と、炭酸ソー
ダ或いは重炭酸ソーダ等を5〜30%o.w.f.加え
てPHを弱アルカリ性とする。次いでセリシン成いは絹
フィブロインを固形分換算0.5〜20%o.w.f.
添加して、30〜80℃に数分〜数時間、70〜120
℃に数分間〜数時間熱処理する。その間、ぼう硝0〜1
00g/lを分割して加え、PHも弱アルカリ性に保
つ。その後水洗して70〜100℃でソーピング、水
洗、乾燥して仕上げる。パッデイング法の場合は、上記
のような薬剤、セリシン、酸結合剤を混合した染浴に布
をパッドして布を引き上げ、ドライアップしたあと、或
いは湿状のまま30〜100℃で数分〜数時間スチーミ
ングして一次反応させ、次いで50〜120℃で数分〜
数時間スチーミングすればよい。この場合染浴に湿潤剤
を添加すると良い場合がある。
【0012】繊維材料とセリシン或いは絹フィブロイン
の結合薬剤として有利に使用できるトリアジン系化合物
の具体例をあげると次のような化合物をあげる事が出来
るが、要は2個或いは3個の反応性塩素原子を有する親
水性或いは水不溶性のトリアジン系化合物であれば良い
のであって、これらの具体例に制約されるものではな
い。また、染色工場で使用されるのか、化学工場で事前
に薬剤合成に使用されるのかによっても選別されねばな
らない。 2,6−ジクロル−4−(3−スルフォアニリノ)−S
−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(4−スルフォアニリノ)−S
−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(2−スルフォアニリノ)−S
−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(2,5−ジスルフォアニリ
ノ)−S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(3,5−ジスルフォアニリ
ノ)−S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(3−カルボキシアニリノ)−
S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(4−カルボキシアニリノ)−
S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(2−カルボキシアニリノ)−
S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(β−カルボキシエチルアミ
ノ)−S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−ウレイド−S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−チオウレイド−S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(4−カルボキシフェノキシ)
−S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(4−カルボキシフェニルチ
オ)−S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−(3−スルフォフェニルチオ)
−S−トリアジン 2,6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンNa塩 2,6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンLi塩 2,6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンMg塩 2,6−ジクロル−4−チオ−S−トリアジンNa塩 2,6−ジクロル−4(3−オキシフェニルオキシ)−
S−トリアジン 4,4′−ビス(4,6−ジクロロ−S−トリアジン−
2−イルアミノ)−ス チルベン−2,2′−ジスルフォニックアシッドNa塩 塩化シアヌルなどである。
【0013】また、本発明で用いることができるセリシ
ンは、通常のアルカリ精錬廃液を回収したやや低分子量
の絹蛋白質を含有する水溶液を使っても良いし、無薬剤
・高温高圧法精錬で回収した分子量のやや大きい絹蛋白
質を含有するものを使用しても良い。分子量分布は一般
的には数千から数十万のものが含まれる。また、限外濾
過濃縮法等によって濃縮した物を使用してもよいし、そ
れをさらにドライアップして粉体にしたものでも良い。
更に、繊維くずとして排出される絹の再資源化の一環と
して製造された水溶性絹フィブロインを有効利用するこ
ともできる。Fragrance Journal 2
000年4月号 第23頁に記載のある様に、分子量を
適度に調整した加水分解シルクを用いる事も可能であ
り、加水分解シルク誘導体を用いる事も可能である。
【0014】本発明の加工対象繊維材料とは、木綿、
麻、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、リヨセ
ル、テンセル、酢酸セルロース等のセルロース系繊維、
羊毛、モヘア、アンゴラ、アルパカ、カシミア、獣毛、
絹等の蛋白質系繊維材料を含み、クロルトリアジン系化
合物と共有結合できる置換基、例えばアミノ基、水酸
基、チオール基等を有する繊維であればよい。例えば天
然繊維、再生繊維、半合成繊維などと呼ばれている繊維
材料をあげる事が出来るが、反応できる置換基を有すれ
ばよいのであって、これらの具体例に限定されるもので
はない。本発明方法によって加工・改質された繊維材料
はシルクライクとなり、シルクの持つ様々な特徴、例え
ば独特の光沢、暖かみのある風合い、保湿性、消臭性、
抗酸化性、紫外線吸収性、抗菌性等が付与され、耐久性
も優れている。特に絹の精練工程で発生する廃液中に含
まれる絹蛋白質であるセリシンを、実用的価値の高い方
法で活用できる本発明方法は、排水負荷の削減と共に、
廃棄物を資源化するという一石二鳥の効果をもたらすも
のであって、21世紀環境問題対応型の新技術であり、
エコ・フレンドリー繊維加工と言っても良いであろう。
【0015】
【実施例】以下実施例によって本発明を更に詳細に説明
するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものでは
ない。なお、例中、%は重量%を意味する。
【0016】実施例1 ガラス製の1リットル4口フラスコに氷水300gを仕
込み、その中に塩化シアヌル30.0gを攪拌しながら
仕込んでスラリー化する。一方、分子量分布のピーク値
が1〜2万であるセリシンを5%含有する水溶液300
gを、外部冷却しながら0℃で塩化シアヌルスラリーに
滴下して加える。次いで別途準備しておいた炭酸ソーダ
を、PHが7〜9の範囲に入るように約3時間かけて0
〜5℃で少しずつ加える。反応が進むにつれてPHが酸
性サイドに振れてくるので、PHが7〜9に保たれるよ
うに、0〜5℃で炭酸ソーダを少量ずつ加える。さらに
そのあとPHを弱アルカリ性に維持しながら0〜5℃で
5時間保温攪拌したあと、微量の水不溶部を濾別する事
によってセリシンと塩化シアヌルとが結合した、ジクロ
ル−セリシノ−S−トリアジンを含有する水溶液が得ら
れる。綿60番双糸100gを25℃の水1350gに
加え、次いで前記のジクロル−セリシノ−S−トリアジ
ン水溶液150gを加え、さらに無水硫酸ソーダ50g
と炭酸ソーダ10gを加えて溶解する。次いで昇温に入
り50℃で1時間保温攪拌し、更に硫酸ソーダ100g
を分割して加えながら95℃に昇温し、95℃で90分
間保温攪拌する。その間PHを弱アルカリ性に保つ為に
必要に応じて炭酸ソーダを追加する。染浴から糸を取り
出し、水洗したあと90℃で10分間ソーピングして、
水洗、乾燥する。このようにして加工した糸を編物にし
て、未加工糸の編物と平衡水分率で比較した結果は、次
の通り保湿性が優れており、耐久性も良好である。保湿
性試験(平衡水分率の測定):20±2℃、80±5%
での水分率 上記の結果はJIS−103法洗濯試験後もボイル後も
平衡水分率に差が現れていない。平衡水分率だけでなく
シルクライクの風合いも維持されており、セリシンが強
固に結合している事を示している。
【0017】実施例2 晒しのみ行った綿の60番双糸100gを25℃の水7
50gに加え、次いで2,4−ジクロル−6−ヒドロキ
シ−s−トリアジンNa塩の10%水溶液を60g加え
る。次いで硫酸ソーダ50gと炭酸ソーダ適量を少しず
つ加えてPHを弱アルカリ性に保ちながら50℃で2時
間ゆっくりと攪拌する。その後、5%のセリシンを含有
する水溶液250gを加え、硫酸ソーダ50gと炭酸ソ
ーダを分割して加えながらPHを弱アルカリ性に保ちつ
つ、昇温して90℃となし、90〜95℃で1時間保温
攪拌する。染浴から糸を取り出し、水洗したあと90℃
で10分間ソーピングして、水洗、乾燥する。このよう
にして得た綿糸を編物にして、未加工糸を用いた編物と
平衡水分率で比較した結果は、前記実施例と同様に保湿
性が優れており、シルクライクの風合いも耐久性の良好
な機能性繊維が得られた。
【0018】実施例3 水840mlに硫酸ソーダ31.8gを溶解し、次いで
重炭酸ソーダ31.8gを溶解した。次いで2,4−ジ
クロル−6−ヒドロキシ−s−トリアジンNa塩の10
%水溶液を210g加えた。更に市販のノニオン系浸透
剤を1.0g添加して溶解した。この浴にテンセルニッ
ト150gをパッドして取り上げ絞った。その時の絞り
率は約150%であった。このニットを80〜100℃
の温風により短時間で乾燥し、次いで50℃で90分間
スチーミングした。次いでニットを8%セリシンを含有
する弱アルカリ性水溶液にパッドして絞った。次いで1
00℃で45分間スチーミングした。水洗した後、90
℃で10分間ソーピングして水洗し、乾燥した。このよ
うにして加工したテンセルニットと未加工ニットとを平
衡水分率で比較した結果は、前記実施例1と同様に、加
工されたニットが優れた保湿性を示した。また、シルク
の風合いについても洗濯耐久性の強いニットが得られ
た。
【0019】
【発明の効果】本発明によればセリシン及び/又は絹フ
ィブロイン等の絹蛋白質を共有結合によって繊維材料に
強固に結合させることが可能となるので、従来のように
単に繊維にセリシンをコーティングしたり、樹脂化した
り、不溶化することによってセリシンを物理的に繊維に
保持させる方法に比べると耐久性の優れた形態安定性の
良いシルクライクの繊維素材が得られる。その結果、塩
化シアヌル或いはその誘導体と反応する事ができる置換
基を有するあらゆる繊維素材を、風合いが良く、肌荒
れ、かぶれ、アトピーなどの皮膚障害性が軽減された、
肌に優しい機能性繊維素材に改質することができる。現
状では、絹セリシンは全国で年間約1800トン排出さ
れ、織物精練後の廃液と一緒に処分されているが、この
廃棄物が資源として有効活用されることとなり、排水負
荷の削減にもつながるので一石二鳥の環境対策となる点
も本発明の重要な要素である。従って本発明は地球環境
に優しいエコ・フレンドリー繊維加工商品の開発である
と同時に、エコビジネスを育成することにつながる発明
であると言って過言でない。

Claims (10)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ジクロルトリアジン化合物を用いて、天然
    繊維材料、再生繊維材料、又は、半合成繊維材料、
    し、絹短繊維と他の繊維との混合繊維からなる材料を除
    く、とセリシン及び/又は絹フィブロインとを共有結合
    により連結させることによって、繊維材料を加工する方
    法。
  2. 【請求項2】ジクロルトリアジン化合物が、塩化シアヌ
    ルから誘導されるものであることを特徴とする請求項1
    記載の方法。
  3. 【請求項3】ジクロルトリアジン化合物が、下記の化合
    物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする
    請求項1または2記載の方法 2,6-ジクロル-4-(3-スルフォアニリノ)-S-トリアジン、 2,6-ジクロル-4-(4-スルフォアニリノ)-S-トリアジン、 2,6-ジクロル-4-(3-スルフォアニリノ)-S-トリアジン、 2,6-ジクロル-4-(2,5-ジスルフォアニリノ)-S-トリアジ
    ン、 2,6-ジクロル-4-(3,5-ジスルフォアニリノ)-S-トリアジ
    ン、 2,6-ジクロル-4-(3-カルボキシアニリノ)-S-トリアジ
    ン、 2,6-ジクロル-4-(4-カルボキシアニリノ)-S-トリアジ
    ン、 2,6-ジクロル-4-(2-カルボキシアニリノ)-S-トリアジ
    ン、 2,6-ジクロル-4-(β-カルボキシエチルアミノ)-S-トリ
    アジン、 2,6-ジクロル-4-ウレイド-S-トリアジン、 2,6-ジクロル-4-チオウレイド-S-トリアジン、 2,6-ジクロル-4-(4-カルボキシフェノキシ)-S-トリアジ
    ン、 2,6-ジクロル-4-(4-カルボキシフェニルチオ)-S-トリア
    ジン、 2,6-ジクロル-4-(3-スルフォフェニルチオ)-S-トリアジ
    ン、 2,6-ジクロル-4-オキシ-S-トリアジンNa塩、 2,6-ジクロル-4-オキシ-S-トリアジンLi塩、 2,6-ジクロル-4-オキシ-S-トリアジンMg塩、 2,6-ジクロル-4-チオ-S-トリアジンNa塩、 2,6-ジクロル-4(3-オキシフェニルオキシ)-S-トリア
    ジン、 及び4,4-ビス(4,6-ジクロロ-S-トリアジン-2-イルアミ
    ノ)スチルベン-2,2’-ジスルフォニックアシッドNa塩。
  4. 【請求項4】ジクロルトリアジン化合物と、セリシン及
    び/又は絹フィブロインとを反応させ、次いで、前記反
    応により得られるジクロルトリアジン誘導体と、天然繊
    維材料、再生繊維材料、又は、半合成繊維材料、但し、
    絹短繊維と他の繊維との混合繊維からなる材料を除く、
    とを反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれ
    か1項記載の方法。
  5. 【請求項5】ジクロルトリアジン化合物と、天然繊維材
    料、再生繊維材料、又は、半合成繊維材料、但し、絹短
    繊維と他の繊維との混合繊維からなる材料を除く、とを
    反応させ、次いで、前記反応により得られる繊維材料
    と、セリシン及び/又は絹フィブロインとを反応させる
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の方
    法。
  6. 【請求項6】ジクロルトリアジン化合物と、天然繊維材
    料、再生繊維材料、又は、半合成繊維材料、但し、絹短
    繊維と他の繊維との混合繊維からなる材料を除く、と、
    セリシン及び/又は絹フィブロインとを同時に共存させ
    て反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか
    1項記載の方法。
  7. 【請求項7】酸結合剤としてアルカリ金属或いはアルカ
    リ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、珪
    酸塩、または水酸化物から選ばれる少なくとも1種を用
    いる事と特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の
    方法。
  8. 【請求項8】繊維材料が、木綿、麻、ビスコースレーヨ
    ン、キュプラレーヨン、リヨセル、テンセル、酢酸セル
    ロース、羊毛、モヘア、アンゴラ、アルパカ、カシミ
    ア、又は、獣毛、但し、これらのいずれかのものと絹短
    繊維との混合繊維を除く、であることを特徴とする請求
    項1〜7のいずれか1項記載の方法。
  9. 【請求項9】 セリシンとして絹のアルカリ精錬法によ
    る精錬廃液及び/又は無薬剤高温高圧精錬法による精錬
    廃液を、そのまま、濃縮し又は乾燥して使用し、及び、
    絹フィブロインとして水溶性絹フィブロインを使用する
    ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の方
    法。
  10. 【請求項10】セリシン及び/又は絹フィブロインが、
    1,3,5−トリアジン-2,6-ジイル基を介して繊維
    に共有結合されていることを特徴とする天然繊維材料、
    再生繊維材料、又は、半合成繊維材料、但し、絹短繊維
    と他の繊維との混合繊維からなる材料を除く
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