JP3151655B2 - 工作機械の熱変位推定方法 - Google Patents

工作機械の熱変位推定方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、工作機械の熱変位
を温度に基づいて推定する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、工作機械は、機械の特性上各部
に熱源(例えば主軸の転がり軸受)を持っており、この
熱源によって発生した熱が機械各部に伝わることで、機
体の熱変位を引き起こす。機体の熱変位は加工精度に大
きく影響するため、その防止対策として、従来から、発
熱部を冷却する方法、或いは、機体温度情報から熱変位
を推定して補正する方法が広く採用されている。
【0003】後者の従来技術として、特公昭61−59
860号公報には、主軸の伸びの実験式(1次式)をプ
ログラムメモリ内にストアし、主軸頭及び機体部分に設
けたセンサの出力により温度を検出し、検出温度の即時
値に基づき前記実験式を用いて熱変位を推定する方法が
開示されている。また、特公平6−22779号公報に
は、主軸を構成する複数の要素毎に作成した実験式を用
いて主軸の軸線方向の熱変位を推定する技術が開示され
ている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来の熱変
位推定方法によると、検出温度の即時値を用いて熱変位
を推定しているため、温度上昇の時定数と熱変位の時定
数との差を埋めることができず、回転数が変化してしば
らくの過渡状態において推定誤差を発生しやすい。ま
た、過渡状態で回転数が変化した場合や、主軸の回転数
に応じた時定数変化も考慮されていないため、工作機械
の全ての運転状況に応じて熱変位を正確に推定すること
が困難であった。
【0005】そこで、本発明の課題は、過渡状態から定
常状態まで全ての運転状況において熱変位を正確に推定
できる方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
めに、本発明の熱変位推定方法は、工作機械各部の温度
を検出する段階と、検出した温度を数値化する段階と、
数値化された温度に基づき演算式を用いて熱変位を推定
する段階とを含み、前記演算式で時間或いは補正回数に
応じて変化する係数を用いることを特徴とする(請求項
1)。
【0007】以下に本発明の原理について説明する。一
般に、温度上昇(主軸とベッドつまり室温との温度差)
と熱変位量とは、主軸の回転数が一定した定常状態にお
いて、比例関係 熱変位 = K・温度上昇 式1 K : 係数 でよく一致することが知られている。また、主軸の回転
数が変化した後の過渡状態では、温度及び熱変位の時間
応答が1次遅れ系で表現できることも知られている。従
って、温度即時値を用いて熱変位を推定する従来方法に
よっては、過渡状態において推定値が実際の熱変位量と
正しく一致しないことがある。
【0008】そこで、過渡状態における温度と熱変位の
時間応答が同様となるように、温度データにフィルタリ
ング処理を施して、次式により熱変位の推定用中間値を
求める。なお、フィルタとしては、例えばデジタルフィ
ルタの指数平滑フィルタを好ましく使用できる。 Yn = Yn-1 + (Xn −Yn-1 )・α 式2 Xn : n 回目の測定温度 Yn : n 回目の熱
変位推定用中間値 α : フィルタ係数
【0009】ところが、ここでフィルタ係数αを一定に
すると、図1に示すように、推定変位の時間応答が1次
遅れ系への1次遅れ入力を実施したときとほぼ同様の無
駄時間を含むため、正確な推定値を得ることは難しい。
そこで、本発明では、フィルタ係数αを時間又は補正回
数(サンプリング間隔)により変化する関数f(n) とお
き、図2に示すように、係数を最適値に経時変化させ
て、過渡状態でも推定変位を変位モデルに一致させる。
従って、式2は次式となる。図3は関数f(n) により変
化するフィルタ係数を示す。 Yn = Yn-1 + (Xn −Yn-1 )・f(n) 式3
【0010】ところで、f(n) は温度及び熱変位の時定
数によっても変化する関数である。しかも、時定数は、
主軸の加速時と減速時とで熱源や熱交換形態が異なるこ
と、或いは、高回転から低回転への変化時に回転数に応
じて大気中への放熱現象が相違すること、などの要因に
よって大きく変化する。そこで、この対策として、本発
明では、フィルタ係数を回転数変化或いは回転数指令を
基準に決定する(請求項2)。推定精度をより向上させ
るために、好ましくは、回転数変化後の温度変化状況を
監視して、フィルタ係数を回転数変化後の温度変化方向
を算入して決定する(請求項3)。参考として、図4に
高回転から低回転に移行する際のフィルタ係数の変化を
例示した。また、ビルトインモータで駆動される主軸の
場合は、このモータの発熱も熱変位に大きく影響するこ
とから、モータの出力を監視し、その出力が閾値を越え
たときを基準にフィルタ係数を決定してもよい(請求項
4)。
【0011】次に、過渡状態で回転数が変化したときに
ついて考察する。温度及び熱変位はともに回転数に対し
1次遅れ系の応答を示すので、図5のモデルに例示する
ように、定常状態から回転数が変化した過渡状態を示す
区間Aでは、熱変位を式3を用いて正確に推定すること
が可能である。一方、過渡状態で回転数が変化した後の
区間Bでは、温度及び熱変位ともに低下するが、区間A
において温度の方が推定用中間値よりも高いため、区間
Bで推定用中間値が温度により引き上げられ、変位モデ
ルよりも高い値で推移し、推定誤差が発生する。
【0012】この誤差を解消するために、本発明では、
過渡状態で回転数が変化したときに、推定用中間値と温
度との差分を求め、この差分吸収量を付加した温度に基
づいて熱変位を推定する(請求項5)。好ましくは、差
分吸収量を温度時定数及び回転数変化後の時間を算入し
て決定する(請求項6)。このときの処理を以下に示
す。 段差分 = 回転数変化直前の温度 − 推定用中間値 式4 入力計算用温度 = 測定温度 − 段差分・exp(- t/Ttmp ) 式5 入力計算用温度:式3のX に相当 t:回転数が
変化してからの時間 Ttmp:温度時定数 この差分処理方法を適用したモデルを図6に示す。これ
より、正確な推定が行われていることが分かる。
【0013】なお、フィルタの最適係数は、予め計算し
ておきテーブルとしてメモりに記憶しておいてもよい。
また、温度即時値を用い式1により熱変位を推定し、そ
の値に対し式3〜式5を適用しても同様の結果が得られ
るのは言うまでもない。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明をマシニングセンタ
に具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図7
は縦型マシニングセンタにおける熱変位補正システムを
示すものであるが、横型マシニングセンタの場合も同様
である。縦型マシニングセンタは、周知のように、主軸
ヘッド1、コラム2、主軸3、ベッド4、移動テーブル
5等から構成されている。主軸3にはその発熱温度を検
出する第1温度センサ6が取り付けられ、ベッド4には
基準温度を検出する第2温度センサ7が取り付けられて
いる。温度測定装置8は各温度をアナログ信号からデジ
タル信号に変換して数値化し、熱変位推定演算器9が数
値化された温度データに基づき熱変位を推定して補正量
を演算し、NC装置10がその補正量に従って周知の方
法で位置補正を行う。
【0015】図8は熱変位推定方法の一実施形態を示す
フローチャートである。まず、温度測定を含む熱変位補
正実行中に回転数が変化すると、式4により温度と推定
用中間値との段差量が演算される。次いで、この段差量
と回転数変化後の時間及び温度時定数とに基づき式5に
より、差分吸収量を付加した入力計算用温度が算出され
る。ここで、段差量が推定用中間値の算出に影響を及ぼ
さない程度に小さくなったときには、段差吸収処理を省
略することができる。そして、回転数変化後の補正回数
又は時間に基づき予め設定された演算式を用いて最適の
フィルタ係数が算出され、このフィルタ係数と入力計算
用温度とから式3により推定用中間値が演算される。そ
して、この推定用中間値と式1の演算結果とを総合して
主軸3の熱変位量が推定され、これに相当する補正量が
NC装置10に出力される。
【0016】図9は、実際の縦型マシニングセンタにお
ける主軸3の実測熱変位量と本発明の方法による推定熱
変位量とを比較して示すものである。これから、熱変位
の推定値が実測値とよく一致していることが分かる。参
考までに、図10にこのときの主軸3の温度上昇及び推
定用中間値の経時変化を示し、図11に主軸回転数の経
時変化を示し、図12にはフィルタ係数の経時変化を示
した。
【0017】
【発明の効果】以上詳述したように、請求項1の発明に
よれば、時間或いは補正回数に応じて変化する係数を含
む演算式を用い、温度及び熱変位の時定数差を埋めて、
過渡状態から定常状態まで全ての運転状況において熱変
位を正確に推定できる効果がある。
【0018】請求項2、3の発明によれば、回転数に伴
って変化する時定数を算入して、熱変位をより正確に推
定できる効果がある。
【0019】請求項4の発明によれば、モータの発熱に
よる熱変位を正確に推定できる効果がある。
【0020】請求項5、6の発明によれば、過渡状態で
回転数が変化したときでも、推定用中間値と温度との差
分を吸収して、熱変位を正確に推定できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】フィルタ係数を固定した演算式による熱変位推
定値を示す特性図である。
【図2】フィルタ係数を最適化した演算式による熱変位
推定値を示す特性図である。
【図3】フィルタ係数の経時変化を示す特性図である。
【図4】高回転数から低回転数へ変化したときのフィル
タ係数の経時変化を示す特性図である。
【図5】過渡状態で回転数が変化したときの推定誤差を
説明する特性図である。
【図6】過渡状態で回転数が変化したときの本発明の方
法による推定結果を示す特性図である。
【図7】本発明の方法が実施される縦型マシニングセン
タの熱変位補正システムを示す概略図である。
【図8】本発明の熱変位推定方法の一実施形態を示すフ
ローチャートである。
【図9】本発明の方法による推定熱変位量と実測熱変位
量とを比較して示す特性図である。
【図10】主軸の温度上昇の経時変化を示す特性図であ
る。
【図11】主軸の回転数の経時変化を示す特性図であ
る。
【図12】フィルタ係数の経時変化を示す特性図であ
る。
【符号の説明】
3・・主軸、4・・ベッド、6・・第1温度センサ、7
・・第2温度センサ、8・・温度測定装置、9・・熱変
位推定演算器、10・・NC装置。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23Q 15/00 - 15/28 G05B 19/18 - 19/46 B23Q 17/00 - 23/00

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 工作機械各部の温度を検出する段階と、
    検出した温度を数値化する段階と、数値化された温度に
    基づき演算式を用いて熱変位を推定する段階とを含み、
    前記演算式で時間或いは補正回数に応じて変化する係数
    を用いることを特徴とする工作機械の熱変位推定方法。
  2. 【請求項2】 前記係数を、回転数変化或いは回転数指
    令を基準に決定することを特徴とする請求項1記載の工
    作機械の熱変位推定方法。
  3. 【請求項3】 前記係数を、回転数変化後の温度変化方
    向を算入して決定することを特徴とする請求項2記載の
    工作機械の熱変位推定方法。
  4. 【請求項4】 前記係数を、モータの出力が閾値を越え
    たときを基準に決定することを特徴とする請求項1記載
    の工作機械の熱変位推定方法。
  5. 【請求項5】 過渡状態で回転数が変化したときに、
    定用中間値と温度との差分を求め、この差分吸収量を付
    加した温度に基づいて熱変位を推定することを特徴とす
    る請求項1記載の工作機械の熱変位推定方法。
  6. 【請求項6】 差分吸収量を温度時定数及び回転数変化
    後の時間を算入して決定することを特徴とする請求項5
    記載の工作機械の熱変位推定方法。
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