JP3077478B2 - 微生物酵素による光学活性1,2−ジオール類およびハロゲノヒドリン類の製造法 - Google Patents

微生物酵素による光学活性1,2−ジオール類およびハロゲノヒドリン類の製造法

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Description

【発明の詳細な説明】 【産業上の利用分野】
【0001】本発明は医薬、農薬、及び強誘電性液晶な
どに使用される光学活性化合物またはその中間体の合成
における有用なキラルビルディングブロックと成りうる
光学活性1,2−ジオール類およびハロゲノヒドリン類
の、酵素を用いた新規製造法に関するものである。
【従来技術と問題点】
【0002】光学活性1,2−ジオール類の製法に関し
ては、化学的方法として光学活性アミノ酸をα−ヒドロ
キシ酸に変換した後、1,2−ジオール類に還元する製
法(日本化学雑誌、91巻、pp.265,1970)と光
学活性1,2−エポキシ−グリシジル誘導体をアルキル
金属化合物により相当する光学活性1,2−ジオール類
へ開環する製法(特開平1146834)が知られてい
る。しかしこれらの製法により高光学純度の1,2−ジ
オール類を得るためには、高光学純度を持つ原料を必要
とし、工業的に安価で経済的な製法とはいい難い。ま
た、生物学的製法ではLeeとWhitesidesによるグリセ
ロールデヒドロゲナーゼを用いた1−ヒドロキシ−2−
プロパノンおよび1−ヒドロキシ−2−ブタノンからの
還元反応による(R)体1,2−プロパンジオールおよび
(R)体1,2−ブタンジオールの製法が知られている(J
ournal of Organic Chemistry, Vol.51,pp.
25−36,(1986)。しかしながら、安価なラセミ
体1,2−ジオールから光学活性体を得る方法は知られ
ていない。また、微生物を用いた方法では1−ヒドロキ
シ−2−ケトン化合物に微生物菌体を作用させ、(S)体
1,2−ジオールに変換する製法(特開平1−32098
8)が知られているが、(R)体1,2−ジオール類を得る
方法は知られていない。光学活性ハロゲノヒドリン類、
例えば(S)体3−ハロゲノ−1,2−プロパンジオール
の製法に関しては、化学的方法としてメチル−6−デオ
キシ−α−D−グルコピラノシドから合成する方法(Ch
emistry & Industry, Vol.15,pp.533(1
978)、およびD−マンニトールからの製法が知られ
ている(Chemico−Biological Interactions, Vo
l.41,pp.95−104(1982))が、高度な技術
と複雑な工程を必要とし工業的製法とはいい難い。生物
学的製法としては、酵素を用いた方法と微生物を用いた
方法が知られている。酵素を用いた方法としては真菌類
のリパーゼを用いた3−クロロ−1,2−プロパンジオ
ールとトリグリセリドとのエステル交換反応による光学
活性3−クロロ−1,2−プロパンジオールとそのエス
テルの製法がしられている(特開平3−53885)。ま
た、細菌のデハロゲナーゼを作用させ、1,3−ジハロ
ゲノ−2−プロパノールから(S)体3−クロロ−1,2
−プロパンジオールに変換させる方法が知られている
(特開平1−94638、特開平4−94690、特開
平5−068587)。しかしながら、従来知られてい
る酵素法で得られる(S)体3−クロロ−1,2−プロパ
ンジオールの光学純度は低く、高光学純度の(S)体3−
クロロ−1,2−プロパンジオールの製法としては更に
改良する必要がある。微生物を用いた方法では、ラセミ
体3−クロロ−1,2−プロパンジオールより一方の
(R)体を資化させ、残存する(S)体を回収する製法が知
られている(微生物資化法)(特許公報平4−7399
9)。微生物による資化法はラセミ体3−クロロ−1,2
−プロパンジオールを炭素源として純粋培養を行なうた
め、滅菌等の複雑な工程を必要とし、反応に際しては長
時間を必要とするなどの問題が残されている。従って、
高光学純度で且つ簡便な(S)体3−クロロ−1,2−プ
ロパンジオールを得るための製法の開発が望まれてい
る。
【0003】光学活性2,3−ジハロゲノ−1−プロパ
ノールの製法としては、微生物や酵素を用いる方法が知
られている。微生物を用いる方法では、ラセミ体2,3
−ジクロロ−1−プロパノールを炭素源とし、一方の
(S)体を資化させ、残存する(R)体を回収する製法(資
化法)が知られている(Journal of Industrial Mi
crobiology, Vol.10, pp.37−43(199
0), 特開平2−25789)。酵素を用いる方法で
は、真菌類および動物のリパーゼを作用させたラセミ体
2,3−ジクロロ−1−プロパノールとトリブチリンを
基質としたエステル交換反応による(S)体とその(R)体
ブチルエステルの製法が知られている(特開平1−47
397,Journal of American Chemical Societ
y, Vol.106,pp.2687−2692(198
4))。微生物を用いる方法は、仕込み反応濃度が低
く、微生物資化法であるため滅菌などの複雑な工程を必
要とする。また、酵素を用いる方法は、生成する(R)体
のブチルエステルの光学純度が低いという欠点がある。
この様に、両方法とも高光学純度且つ工業的に簡便な
(R)体2,3−ジハロゲノ−1−プロパノールの製法と
はいい難い。
【課題を解決するための手段】
【0004】本発明者らは、これらの課題を解決すべく
光学活性1,2−ジオール類、および光学活性ハロゲノ
ヒドリン類の工業的生産を目指して鋭意研究した結果、
以下の事実を見い出した。すなわち、本発明者らが土壌
より分離した細菌Alcaligenes sp.DS−S−7G株
由来の酸化的脱ハロゲン反応を触媒するデハロゲナーゼ
の作用により、安価なラセミ体1,2−ジオール類また
はハロゲノヒドリン類から、(S)あるいは(R)体1,2
−ジオール、または(S)体ハロゲノヒドリン類が分解除
去され、(R)あるいは(S)体1,2−ジオール類、また
は(R)体ハロゲノヒドリン類が残存回収されることが判
明した。本発明は、かかる知見に基づき完成されたもの
である。
【0005】本発明方法は、緩衝液と基質だけを含む簡
単な反応液で反応を行なうことができる。また、本発明
方法は酵素を用いる方法であるため、反応基は簡単な撹
拌槽を用いることができ、微生物を培養するような培養
基(ジャーファーメンター)を使用する必要がない。更に
は加圧滅菌をする必要もなく簡便で且つ安価な方法であ
る。
【0006】即ち本発明は、下記一般式[1]で示される
ラセミ体1,2−ジオール類またはハロゲノヒドリン類
から、Alcaligenes sp.DS-S-7G株由来の酸化的脱ハロゲ
ン化酵素であるデハロゲナーゼを使用し、一方の光学異
性体を酸化立体選択的に分解し(即ち、先ず水酸基が酸
化(脱水素)され、次いで隣接基がハロゲンの場合、脱
ハロゲン化する)、残存する下記一般式[2]で示される
1,2−ジオール類またはハロゲノヒドリン類の光学異
性体を回収することからなる光学活性体化合物の製造方
法を提供するものである:
【化2】 (上記一般式[1]、[2]において、R1は共に−OH又
はハロゲン原子であり、R2は、R1が−OHのときはハ
ロゲンまたは水酸基で置換されたアルキル基もしくは無
置換のアルキル基、ビニル基およびブテニル基から選ば
れるアルケニル基及びフェニル基より選ばれた基であ
り、R1がハロゲン原子のときは−CH2OHであり、*
印は不斉炭素を表わす)。
【0007】本発明で使用し得るデハロゲナーゼとして
は、具体的には本発明者らにより土壌から分離されたア
ルカリゲネス属に属する微生物Alcaligenes sp.DS
−S−7G株の産生するデハロゲナーゼを挙げることが
できる。上記微生物は既に工業技術院微生物工業研究所
に微工研菌寄11111号(FERMP−11111)と
して寄託されている。本発明方法に用いる酵素は、Alc
aligenes sp.DS−S−7G株より(R)体3−クロロ
−1,2−プロパンジオールを脱ハロゲン化する活性を
指標に酵素を分離・精製した結果得られたものであり、
ハロヒドリンデハイドロ−デハロゲナーゼと命名され
た。この酵素は、次の様な酵素化学的諸性質を示す。
【0008】(R)体3−クロロ−1,2−プロパンジオ
ールを酸化的に脱ハロゲン化し、補酵素としてNAD
+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)又はNAD
+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を
必要とする。また、好気的条件下において酸素を電子受
容体とする。更に、興味深いことに、2,6−ジクロロ
フェノールインドフェノール(DCIP)やフェナジンメ
ソサルフェイト(PMS)又はそれらの混合物を人工的な
電子受容体として用いた場合、(R)体3−クロロ−1,
2−プロパンジオールに対する酸化的脱ハロゲン化活性
はNAD+を補酵素とした場合と比較すると約1000
倍に上昇した。そこでPMSを補酵素として種々ハロヒ
ドリンに対する酸化的脱ハロゲン化活性を測定したとこ
ろ、表1の結果を得た。
【0009】
【表1】 本酵素による種々の1,2−ジオール類、ハロゲノヒドリン類、アルコール 化合物および酸に対するデハロゲナーゼ活性およびデヒドロゲナーゼ活性 基質 相対活性(%) (R)−3−クロロ−1,2−プロパンジオール 100 (S)−3−クロロ−1,2−プロパンジオール <5 ブロモ−1,2−プロパンジオール 50 (R)−2,3−ジクロロ−1−プロパノール <5 (S)−2,3−ジクロロ−1−プロパノール 57 2,3−ジブロモ−1−プロパノール 94 1,3−ジクロロ−2−プロパノール 19 3−クロロ−1−プロパノール 8 エチレンクロロヒドリン <5 プロピレンクロロヒドリン 14 ブチレンクロロヒドリン 65 4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル 11 1−クロロプロパン 0 α−クロロプロピオン酸 0 β−クロロプロピオン酸 0 クロロアセトン 0 1,3−ジクロロアセトン 0 エピクロロヒドリン <5 メタノール <5 エタノール <5 n−プロパノール 7 sec−プロパノール <5 エチレングリコール 11 1,2−プロパンジオール 31 1,3−プロパンジオール <5 1,2−ブタンジオール 36 2,3−ブタンジオール 7 1,2−ペンタンジオール 32 1,2−ヘキサンジオール 43 1,2−ヘプタンジオール 30 1,2−オクタンジオール 28 1,2−ジハイドロキシ−3−ブテン 16 1,2−ジハイドロキシ−5−ヘキセン 60 1−フェニル−1,2−エタンジオール 8 3−フェニル−1,2−プロパンジオール 13 3−フェノキシ−1,2−プロパンジオール <5 ヒドロキシアセトン 48 グリシドール <5 グリセロール 7 フォルムアルデヒド 6 乳酸 <5 酢酸 0 本酵素の(R)体3−クロロ−1,2−プロパンジオール
に対する酸化的脱クロル化活性(3.18U/mg)を10
0%として示す。
【0010】また、無置換アルコール化合物に対しては
デヒドロゲナーゼ活性を示すことも判明した。特に、い
くつかの1,2−ジオール化合物に対しては高い活性を
示すだけでなく、実施例にも示す様に高い立体選択性を
示すことが判明した。一方、Alcaligenes sp.DS−
S−7G株は(R)体3−ハロゲノ−1,2−プロパンジ
オール又はそのラセミ体を単一炭素源として生育するこ
とができるが、実施列において示す様な他の1,2−ジ
オールやハロヒドリンを単一炭素源としては生育するこ
とができなかった。すなわち、以上の結果は菌体より酵
素を分離・精製して初めて判明した事実である。更に、
本酵素は学術的に大変興味深い酵素化学的性質及び基質
特異性を有しており、ハロヒドリン化合物に対して酸化
的脱ハロゲン化反応を触媒する作用を有しており、かか
る酵素は未だ知られていない。本酵素の分子量はポリア
クリルアミド電気泳動から約70,000と決定され、
SDS−ポリアクリルアミド電気泳動により約58,0
00と約16,000の2種のポリペブチド鎖からなる
サブユニット構造をとっていること、また1酵素分子内
に約1分子のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)
を非共有的に結合していることが判った。表2に本酵素
のアミノ酸組成を示す。
【0011】
【表2】 本酵素のアミノ酸組成 アミノ酸 本酵素1モルあたりのアミノ酸残基数1) アスパラギン酸 65 スレオニン2) 30 セリン2) 35 グルタミン酸 45 グリシン 55 アラニン 60 バリン 40 メチオニン 15 イソロイシン3) 20 ロイシン 50 チロシン 15 フェニルアラニン 25 リジン 20 ヒスチジン 15 アルギニン 40 プロリン 40 トリプトファン4) 50 1/2シスチン5) 酵素85μgを6N塩酸中において減圧封管した後、1
10℃で24時間、48時間、72時間加水分解処理を
行なった。 1) 本酵素の分子量を70,000として計算した残基
数である。 2) 加水分解率より0時間に相当する値を基に計算し
た。 3) 加水分解72時間の値を基に計算した。 4) 紫外部吸収値より分光光学的に計算した。 5) 酵素を過ギ酸酸化処理を行ない、システイン酸と
して計算した。
【0012】等電点(pI)は5.4で、PMSを補酵素
とし、(R)体3−クロロ−1,2−プロパンジオールを
基質とした場合、そのKm値はPMSに対して78.1
μM、(R)体3−クロロ−1,2−プロパンジオールに対
して322μMで、Vmaxは3.34μmol/mg/分あっ
た。最適pHは7.2〜7.4、pH安定性はpH6〜
8、最適温度45℃、温度安定性は〜40℃であった。
また、本酵素の酸化的脱ハロゲン化活性は、Cu2+、Hg
2+p−クロロ安息香酸第2水銀(PCMB)で完全に阻
害された。上記微生物Alcaligenes sp.DS−S−7
G株を培養するための培地組成としては、通常これらの
微生物が生育する培地ならば何でも使用することができ
る。例えば炭素源としてグリセロール、ラセミ体3−ハ
ロゲノ−1,2−プロパンジオール、(R)体3−ハロゲ
ノ−1,2−プロパンジオール等のアルコール類、酢
酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、グル
コン酸とその塩類などの有機酸、またはそれらの混合物
を、窒素源としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニ
ウム、リン酸アンモニウム等の無機窒素化合物および尿
素、ペプトン、カゼイン、酵母エキス、肉エキス、コー
ンスチープリカー等の有機窒素化合物とそれらの混合物
を挙げることができる。その他、無機塩としてリン酸
塩、マグネシウム塩、カリウム塩、マンガン塩、鉄塩、
亜鉛塩、銅塩など、更に必要に応じてビタミン類を加え
てもよい。また、高酵素活性を持った菌体を得るため
に、本菌株を培養する際に上記培地およびペプトン培
地、ブイヨン培地等の栄養培地にラセミ体3−ハロゲノ
−1,2−プロパンジオール、(R)体3−ハロゲノ−1,
2−プロパンジオールを添加してもよい。ラセミ体3−
ハロゲノ−1,2−プロパンジオールまたは(R)体3−
ハロゲノ−1,2−プロパンジオールを単一炭素源とす
る完全合成培地で培養するのも有効である。
【0013】上記微生物の培養は常法によればよく、例
えばpHを4〜9、好ましくは4.5〜8.5、培養温
度は20〜45℃、好ましくは25〜37℃の範囲で好
気的に10〜96時間行なうことが好ましい。
【0014】ラセミ体1,2−ジオール類またはハロゲ
ノヒドリン類に酵素を作用させて(R)あるいは(S)体2
−ジオール類、または(R)体ハロゲノヒドリン類を得る
には、本発明による微生物酵素に基質を添加すればよ
い。反応温度は15〜50℃が好ましく、反応pHはpH
6〜9で行なうのが好ましい。反応液中の基質濃度は
0.1〜15%(v/v)が好ましく、基質は初期に一括し
ていれても良いし、分割添加しても良い。反応は通常撹
拌あるいは振とうしながら行ない、反応時間は基質濃
度、酵素量により異なるが1〜120時間で終了するの
が良い。好ましくはガスクロマトグラフィー等の分析に
より残存基質量が初期基質濃度に比して50%で反応を
終了するのが良い。また、反応を促進的に行なうため
に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NA
+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸
(NADP+)、フェナジンメソサルフェイト(PMS)、
2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCI
P)、m−ブロモ−フェノールインドフェノール、2,6
−ジクロロフェノール−O−クレゾール、メチレンブル
ー、メチルビオロゲン、ブチルビオロゲン、ベンゾキノ
ン、テトラゾリウム化合物(テトラゾリウムバイオレッ
ト、テトラニトロブルーテトラゾリウム、またはイオド
ニトロテトラゾリウム)、フェリシアン化塩等の電子受
容体化合物またはその混合物を上記酵素反応に添加して
も良い。
【0015】このようにして反応液中に残存した(R)あ
るいは(S)体1,2−ジオール類またはハロゲノヒドリ
ン類は一般的な方法で回収および精製できる。例えば反
応液を遠心分離した後、上清をエバポレーターにより濃
縮し、酢酸エチル等の溶媒で抽出する。抽出液を無水硫
酸マグネシウムにより脱水した後、減圧下で溶媒を除去
し、(R)あるいは(S)体1,2−ジオール類、または
(R)体ハロゲノヒドリン類のシロップを得ることができ
る。更に蒸留により精製しても良い。
【0016】尚、上記酵素は精製品を用いてもよいが、
Alcaligenes sp.DS−S−7G株の培養液、遠心分
離により得た菌体およびその処理物(菌体破砕物または
菌体抽出液)またはそれらを固定化したものを用いても
上記の反応を進行させることができる。以下実施例をも
って、本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例
に限定されるものではない。なお、実施例中の%は特に
記載のない限り(W/V)を表す。
【実施例】
【0017】実施例1 リン酸第2ナトリウム0.02%、リン酸第2カリウム
0.02%、リン酸第1ナトリウム0.04%、硫酸ア
ンモニウム0.37%、コーンスチープリカー0.1
%、硫酸マグネシウム0.05%および微量の硫酸鉄、
硫酸マンガン、硫酸銅(pH6.5)からなる組成の培
地2.5lを入れた5lジャーファーメンター(培養器)を
121℃、15分滅菌した。その培地にラセミ体3−ク
ロロ−1,2−プロパンジオールを1.5%(v/v)にな
るように添加し、ラセミ体3−クロロ−1,2−プロパ
ンジオールを炭素源とする培地を作成した。次に、Alc
aligenes sp.DS−S−7G株を予めペプトン、酵母
エキス、グリセロールをそれぞれ1.0%含む栄養培地
(pH7.2)で30℃、16時間振とう培養し、上記培
地に2%(v/v)量無菌的に接種した。そして温度30
℃、通気量0.5l/分、回転数500rpmの条件で約7
2時間、通気撹拌培養を行なった。pHの測定および制
御は連動させたpHメーターで行ない、5Nの水酸化ナ
トリウムによりpH6.5に制御した。
【0018】培養終了後、培養液を取り出して遠心分離
にて集菌し、50mMリン酸緩衝液(pH7.2)で3回洗
浄した。菌体を同緩衝液100mlにけん濁し、超音波破
砕器により菌体を破砕した後、遠心分離により沈澱を除
去し、その上清を租酵素液とした。更に、硫酸アンモニ
ウムを添加して分画(粗精製)し、最終的に50mlの20
mMリン酸緩衝液、pH7.2に溶解した。その酵素液に
0.2%(v/v)のラセミ体1,2−ブタンジオールを加
え、更に0.5mMとなるようにフェナジンメソサルフ
ェイト(PMS)と2,6−ジクロロフェノールインドフ
ェノール(DCIP)をそれぞれ添加し、30℃で撹拌し
ながら4時間反応させた。その時の反応液中に残存する
1,2−ブタンジオールをガスクロマトグラフィー(カラ
ム担体:PEG20M,60−80メッシュ)で分析した
結果、その残存率は48.2%であった。反応終了後、
約1mlまで濃縮し、酢酸エチルで抽出した。無水硫酸マ
グネシウムにより脱水後、減圧下で溶媒を除去し、4
0.1mgの1,2−ブタンジオールのシロップを得た(回
収率40.8%)。
【0019】得られた物質の同定をガスクロマトグラフ
ィーにより行なったところ、1,2−ブタンジオールの
存在を確認した。このシロップ中の1,2−ブタンジオ
ールを無水トリフルオロ酢酸によりトルフルオロアセチ
ル化した後、アステック社製のキャピラリーカラムG−
TA(0.25mm×30m)を用いたガスクロマトグラフ
ィーにより光学異性体の分析を行なった。その結果、回
収した1,2−ブタンジオールは光学純度97.5%ee
の(R)体であることが判明した。この分析により(R)体
の保持時間は10.8分、(S)体は14.0分であっ
た。なお、上記のガスクロマトグラフィーによる光学異
性体の分析条件は以下の通りである。 分析条件: カラム温度,70℃;検出器温度,150℃;
キャリアーガス,窒素;流速,1ml/分;検出器,FID;ス
プリット比,100/1。
【0020】実施例2−13 基質を1,2−ブタンジオールから以下に示す表3の基
質に変えた以外は実施例1と同様の方法で酵素反応を行
なった。また、得られた種々の化合物を実施例1と同様
の方法で種々の分析を行なったが、実施例9の、基質が
1−フェニル−1,2−エタンジオールについては、そ
の光学異性体の分析はダイセル社製キラルセルOB
(0.46mm×26cm)を用いて行なった。また、実施例
12、13の基質2,3−ジハロゲノ−1−プロパノー
ルおよび2,3−ジブロモ−1−プロパノールについて
は、その光学異性体の分析は水酸化ナトリウムでそれぞ
れのエピハロゲノヒドリンに変換した後、Schurigの方
法(Journal of Chromatography,Vol.441,pp.
135−153(1988))により作製したキャピラリ
ーカラム(0.25mm×30m)を用いたコンプレグゼー
ションガスクロマトグラフィーにより分析した(Journa
l of Industrial Microbiology,Vol.10,pp.
37−43(1992))。なお、上記実施例9と実施例
12,13の光学異性体の分析条件は下記に示す通りで
ある。 実施例9の光学異性体分析条件: カラム温度,25℃;
検出器;UV235nm;展開溶媒,ヘキサン/2−プロパ
ノール (30/1);流速,1ml/分。 実施例12,13の分析条件: カラム温度,70℃;検出
器温度,150℃;キャリアーガス,窒素:流速,1ml/分;
検出器,FID,スプリット比、100/1
【0021】
【表3】実施例 基質 残存物 光学純度(%ee) 残存率(%) 2 ラセミ体1,2− R体 60.0 42.3 プロパンジオール 3 ラセミ体1,2− R体 98.2 50.2 ペンタンジオール 4 ラセミ体1,2− R体 98.2 50.0 ヘキサンジオール 5 ラセミ体1,2− R体 97.5 47.3 ヘプタンジオール 6 ラセミ体1,2− R体 96.8 45.9 オクタンジオール 7 ラセミ体1,2−ジハイドロキシ R体 98.0 49.1 −3−ブテン 8 ラセミ体1,2−ジハイドロキシ R体 98.3 40.1 −5−ヘキセン 9 ラセミ体1−フェニル−1,2− R体 95.1 39.5 エタンジオール 10 ラセミ体3−クロロ−1,2− S体 98.5 50.2 プロパンジオール 11 ラセミ体3−ブロモ−1,2− S体 98.5 49.3 プロパンジオール 12 ラセミ体2,3−ジクロロ−1− R体 99.0 46.2 プロパノール 13 ラセミ体2,3−ジブロモ−1− R体 99.0 48.1 プロパノール 注) 表中の残存率は0.3%の誤差を含むものとす
る。
【発明の効果】
【0022】本発明によれば、アルカリゲネス属に属す
る微生物Alcaligenes sp.DS−S−7Gの生産する
酵素、ハロヒドリンデハイドロ−デハロゲナーゼを利用
して、ラセミ体1,2−ジオール類またはハロゲノヒド
リン類から(S)あるいは(R)体1,2−ジオール類また
は(S)体ハロゲノヒドリン類を分解除去することによ
り、(R)あるいは(S)体1,2−ジオール類または(R)
体ハロゲノヒドリン類を製造することができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12P 41/00 BIOSIS(DIALOG) CA(STN)

Claims (10)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記一般式[1]で示される1,2−ジオ
    ール類のラセミ体化合物に、Alcaligenes sp.DS-S-7G株
    由来の酸化的脱ハロゲン化酵素であるデハロゲナーゼを
    作用させることを特徴とする一般式[2]で示される光学
    活性体化合物の製造方法: 【化1】 (一般式[1],[2]において、R1は共に−OHであり、
    2は、ハロゲンまたは水酸基で置換されたアルキル基
    もしくは無置換のアルキル基、ビニル基およびブテニル
    基から選ばれるアルケニル基及びフェニル基より選ばれ
    た基であり、*印は不斉炭素を表わす)。
  2. 【請求項2】 下記一般式[1]で示されるハロゲノヒド
    リン類のラセミ体化合物に、Alcaligenes sp.DS-S-7G株
    由来の酸化的脱ハロゲン化酵素であるデハロゲナーゼを
    作用させることを特徴とする一般式[2]で示される光学
    活性体化合物の製造方法: 【化2】 (一般式[1],[2]において、R1は共にハロゲン原子で
    あり、R2は−CH2OHであり、*印は不斉炭素を表わ
    す)。
  3. 【請求項3】 R2が無置換のアルキル基、ビニル基お
    よびブテニル基から選ばれるアルケニル基及びフェニル
    基より選ばれた基である請求項1記載の方法。
  4. 【請求項4】 一般式[1]の化合物が1,2−プロパン
    ジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジ
    オール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジ
    オール、1,2−オクタンジオール、1−フェニル−1,
    2−エタンジオール、1,2−ジヒドロキシ−3−ブテ
    ン、または1,2−ジヒドロキシ−5−ヘキセンのラセ
    ミ体である請求項3記載の方法。
  5. 【請求項5】 R2がハロゲンまたは水酸基で置換され
    たアルキル基である請求項1記載の方法。
  6. 【請求項6】 一般式[1]の化合物が3−ハロゲノ−
    1,2−プロパンジオールのラセミ体である請求項5記
    載の方法。
  7. 【請求項7】 一般式[1]の化合物が3−クロロ−1,
    2−プロパンジオール又は3−ブロモ−1,2−プロパ
    ンジオールのラセミ体である請求項6記載の方法。
  8. 【請求項8】 一般式[1]の化合物が2,3−ジクロロ
    −1−プロパノール又は2,3−ジブロモ−1−プロパ
    ノールのラセミ体である請求項2記載の方法。
  9. 【請求項9】 酵素反応を促進させるために電子受容体
    化合物を添加して行なう請求項1〜8いずれかに記載の
    方法。
  10. 【請求項10】 電子受容体化合物がニコチンアミドア
    デニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌク
    レオチドリン酸、フェナジンメソサルフェイト、2,6
    −ジクロロフェノールインドフェノール、m−ブロモ−
    フェノールインドフェノール、2,6−ジクロロフェノ
    ール−O−クレゾール、メチレンブルー、メチルビオロ
    ゲン、ブチルビオロゲン、ベンゾキノン、テトラゾリウ
    ム化合物又はフェリシアン化塩である請求項9記載の方
    法。
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