JP3659123B2 - 4−ハロゲノ−3−アルカノイルオキシブチロニトリルの光学分割方法 - Google Patents

4−ハロゲノ−3−アルカノイルオキシブチロニトリルの光学分割方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
光学活性な4−ハロゲノ−3−ヒドロキシブチロニトリルおよびそのエステル体は医薬、農薬、強誘電性液晶、光学活性ポリマーなどの原料として非常に重要なものである。
【0002】
【従来の技術】
光学活性な4−ハロゲノ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法としては、光学活性エピクロロヒドリンに化学的あるいは酵素的にシアノ基を付加させる方法(公開特許公報 特開平05-219965;T. Nakamuraら Biochem. Biophysic. Res. Commun., Vol. 180, No.1, 124-130(1991))、ラセミ体の4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを立体選択的な脱ハロゲン化微生物を作用させ、残存する光学活性4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを得る方法(文献;T.Suzuki et al.; Bioorg. & Med. Chem. Lett., Vol.6, 20581-20584(1996); 公開特許公報 特開平9-47296)などが知られている。
しかし、いずれの方法もその大量生産を考えた場合、さらに簡便かつ経済的な方法が望まれる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
下記式で示される光学活性化合物[2]および[3]は、医薬などの有用な原料であり、いっそう簡便、かつ経済的な製法が望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは下記式[1]で示されるラセミ化合物に立体選択的なエステル加水分解活性を有する微生物、その微生物培養物あるいはその微生物由来の酵素、もしくは酵素製剤を作用させることにより、下記式[2]および[3]で示される光学活性化合物を簡便、かつ経済的に製造しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記式[1]
【化4】
Figure 0003659123
(式中、Rは炭素数2−4のアルカノイル基を意味する。)
で示されるラセミ体の4−ハロゲノ−3−アルカノイルオキシブチロニトリルに立体選択的なエステル加水分解活性を有する微生物、その微生物培養物あるいはその微生物由来の酵素を作用させ、光学分割することを特徴とする下記式[2]および[3]
【化5】
Figure 0003659123
【化6】
Figure 0003659123
(式中、Rは前掲と同じものを意味する。)
で示される光学活性化合物を得る方法に関する。
【0005】
本発明は、さらに具体的には、式[1]で示されるラセミ体化合物に立体選択的にR体エステル加水分解活性を有する微生物、その微生物培養物またはその微生物由来の酵素を作用させ、式[2]のS体および式[3]のR体で示される光学活性化合物を得る方法、および式[1]で示されるラセミ体化合物に立体選択的にS体エステル加水分解活性を有する微生物、その微生物培養物またはその微生物由来の酵素を作用させ、式[2]のR体および式[3]のS体で示される光学活性化合物を得る方法に関する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明は下記の方法により実施される。
式[1]で示されるラセミ体化合物から式[2]および[3]で示される光学活性化合物を得るには、立体選択的にエステル加水分解活性を有する酵素またはその様な酵素を生産しうる微生物を基質と共にその酵素の至適pH溶液中で作用させればよい。なお、反応が進行するに従い遊離する酢酸のごときアルカン酸により反応液のpHが徐々に低下するが、適当なアルカリ、例えば炭酸カルシウム溶液、水酸化ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、アンモニア水等通常、酸を中和させるためのものを利用して反応液のpHの範囲に保つのがよい。
式[1]で示されるラセミ体化合物に酵素を作用させる場合にはリン酸緩衝液等の緩衝液(pH6〜8)とした後、24〜40℃、好ましくは25〜37℃、反応基質濃度0.1〜80%(v/v)で反応させればよい。
【0007】
本発明に係る微生物を培養するための培地組成としては、通常この微生物が生育する培地であれば、特に制限されない。例えば、炭素源としてグルコース、ガラクトース、シュークロース等の炭水化物、グリセロール等のアルコール類、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸などの有機酸またはその塩、あるいはそれらの混合物を、窒素源として硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機窒素化合物、尿素、ペプトン、カゼイン、酵母エキス、肉エキス、コーンスチープリカー等の有機窒素化合物とそれらの混合物を挙げることができる。その他、リン酸塩、マグネシウム塩、カリウム塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩等の無機塩、さらに必要に応じてビタミン類を加えてもよい。
【0008】
本発明に係る微生物の培養も常法によればよく、例えばpHを6〜9、好ましくは6.5〜7.5、培養温度は20〜40℃、好ましくは25〜37℃の範囲で好気的に10〜96時間行うことが好ましい。
本発明に係る微生物を上記培養方法により得た微生物の1)培養液に基質(式[1]で示されるラセミ体化合物)を加え反応させるか、あるいは2)遠心分離等により得た菌体およびその菌体処理物(菌体破砕物または菌体抽出液)、またはそれらを常法により固定化したものを緩衝液等に混合し、これに基質を加え反応させることにより目的とする光学活性体を得ることができる。
【0009】
反応温度は15〜50℃が好ましく、反応pHは4〜9で行なうのが好ましい。反応液中の基質濃度は0.1〜80%(v/v)が好ましく、基質は初期に一括して加えてもよいし、分割添加してもよい。
反応は通常撹拌あるいは振盪しながら行い、反応時間は基質濃度、微生物菌体量等により異なるが1〜120時間で終了させるのがよい。好ましくはガスクロマトグラフィー等の分析により、目的とする光学活性体の光学純度を測定して終点を決定するのがよい。
この様にして得られた反応液中に残存する式[2]および[3]で示される光学活性化合物を回収精製するには、酢酸エチル等の溶媒を用いて抽出回収した後、蒸留または各種クロマトグラフィー等の方法により行うことができる。例えば、反応液から菌体を遠心分離で除いた後、酢酸エチル等の溶媒で抽出する。抽出液を無水硫酸マグネシウムにより脱水した後、減圧下で溶媒を除去し、目的とする光学活性化合物の混合物シロップを得ることができる。
【0010】
さらに精製するには、抽出、蒸留、各種クロマトグラフィーなどの常法により行えばよい。
なお、本発明によれば、エステルが加水分解された光学活性体[3]も光学純度が25−80.5% eeであり、酢酸エチルなどのような適当な溶媒で回収のあと、再度エステル化し、そのエステル体(ラセミ体)を1回目に行った逆の立体選択性をもつ微生物、その微生物培養物あるいはその微生物由来の酵素を作用させれば、それぞれの光学異性体が対ラセミ体収率40−45%程度(各光学活性体収率は80−90%)で得られるので、この点でも、さらに効率的である。
本発明に使用される微生物は、ラセミ体の4−ハロゲノ−3−アルカノイルオキシブチロニトリル[1]に立体選択的なエステル加水分解活性を有する微生物であり、好ましくはシュードモナス(Pseudomonas)属に属する菌、またはエンテロバクター(Enterobacter)属に属する菌、特に好ましくは下記の4菌株である。また、この様な菌の培養物あるいは菌由来の酵素も同様に用いられる。
【0011】
さらに、化合物[1]に立体選択的なエステル加水分解活性を有する酵素製剤を用いても同様に光学活性体が得られる。すなわち式[1]で示されるラセミ体化合物に立体選択的にエステル加水分解活性を有する酵素製剤、たとえばリパーゼを作用させ、式[2]のR体および式[3]のS体で示される光学活性化合物を得ることができる。
本発明に特に好ましく用いられる下記の新菌株は、新たに土壌サンプルから分離されたものであり、それぞれDS-K-717株、 DS-K-19株、DS-mk3株と命名し、その生理学的、菌学的諸性質からシュードモナス(Pseudomonas)属に属するものと同定された。これらの菌株は工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−7077、FERM BP−7076、FERM BP−7078として、それぞれ寄託されている。
エンテロバクター(Enterobacter)sp.DS-S‐75株は工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−5494として寄託され、その生理学的、菌学的諸性質は公開特許公報 特開平9‐47296に記載されている。
上記の新3菌株(DS-K-717株、 DS-K-19株、DS-mk3株)の生理学的、菌学的諸性質は下記に示すとおりである。
【0012】
各培地における生育状態
1.肉汁寒天平板培養(30℃、3日間培養)
Figure 0003659123
【0013】
2.肉汁寒天斜面培養(30℃、3日間)
Figure 0003659123
【0014】
3.肉汁液体培養(30℃、3日間)
Figure 0003659123
【0015】
4.肉汁ゼラチン穿刺培養
Figure 0003659123
【0016】
5.生理学的試験
Figure 0003659123
Figure 0003659123
【0017】
6.形態学的諸性質
Figure 0003659123
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
【実施例】
実施例1.
ポリペプトン1%w/v、酵母エキス1%w/v、グリセリン1%w/v、初発pH7.0からなる培地100mlを500ml容フラスコに入れ常法どおり、121℃10分間、加圧蒸気滅菌したのち、シュードモナス(Pseudomonas)sp. DS-mk3株を植菌し、30℃、125回転で20時間振盪培養した。この培養液を1N HClで、pH6.0に調整したのち、ラセミ体4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリルを1%v/vになるように加え、30℃で125回転の条件下、5時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルを100ml加え、反応液に残存する光学活性な基質のR体4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリル(BAN)およびエステルが加水分解された光学活性なS体4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを抽出した。これらの重量回収率は92%であった。またオイルのガスクロマトグラフィー分析では、99%ee(加えたラセミ体4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリルに対する残存率38%)のR体4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリルと61%ee(加えたラセミ体4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリルに対する残存率62%)のS体4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを含んでいた。
【0019】
ガスクロマトグラフィー分析条件
分析機器:島津製作所社製 GC-14B
使用キャピラリーカラム:astec社製 CHIRALDEX G-TA 30m(内径0.25mm)
分析温度:120℃、インジェクト温度:200℃
キャリアーガス:窒素(流量0.35ml/分)
スプリット比:1/100、検出法:FID 200℃
保持時間;
S体4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリル:30.0分
R体4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリル:35.3分
S体4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル:38.4分
R体4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル:40.2分
【0020】
以下同様に、光学分割に使用する菌株をシュードモナス(Pseudomonas)sp. DS-K-717あるいはシュードモナス(Pseudomonas)sp. DS-K-19を用い、分割するための基質に4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリル(BAN)、4-クロロ-3-プロピオニルオキシブチロニトリル(BPN)、4-クロロ-3-ブチリルオキシブチロニトリル(BBN)、4-クロロ-3-イソブチリルオキシブチロニトリル(BisoBN)のいずれかを用い、実施例1に従い3-5時間反応させ、残存する光学活性な基質と光学活性な4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル(BN)を分析した。
【0021】
[基質に4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリル(BAN)を用いた場合]
Figure 0003659123
【0022】
[基質に4-クロロ-3-プロピオニルオキシブチロニトリル(BPN)を用いた場合]
Figure 0003659123
【0023】
[基質に4-クロロ-3-ブチリルオキシブチロニトリル(BBN)を用いた場合]
Figure 0003659123
【0024】
[基質に4-クロロ-3-イソブチリルオキシブチロニトリル(BisoBN)を用いた場合]
Figure 0003659123
さらに同様の方法で微生物の代わりにリパーゼ酵素粉末を用い、以下の実施例(8−13)に示すごとく有用な結果を得た。
反応条件:基質1%v/v、 燐酸バッファー50mM、使用酵素粉末1g.
【0025】
[基質に4-クロロ-3-アセトキシブチロニトリル(BAN)を用いた場合]
Figure 0003659123
【0026】
[基質に4-クロロ-3-ブチリルオキシブチロニトリル(BBN)を用いた場合]
Figure 0003659123
【0027】
エンテロバクター(Enterobacter)sp.DS-S‐75株および4種の基質を用いて、実施例1と同様にして実施することにより、以下の結果を得た。
Figure 0003659123
【0028】
【発明の効果】
本発明方法を実施することにより、光学活性な4−ハロゲノ−3−ヒドロキシブチロニトリルおよびそのアルカノイルエステルを簡便にして経済的に得ることができる。

Claims (9)

  1. 下記式[1]
    Figure 0003659123
    (式中、Rは炭素数2−4のアルカノイル基を意味する。)
    で示されるラセミ体の4−ハロゲノ−3−アルカノイルオキシブチロニトリルに立体選択的なエステル加水分解活性を有するシュードモナス( Pseudomonas )属またはエンテロバクター( Enterobacter )属に属する微生物、その微生物培養物またはその微生物由来の酵素を作用させ、光学分割することを特徴とする下記式[2]および[3]
    Figure 0003659123
    Figure 0003659123
    (式中、Rは前掲と同じものを意味する。)
    で示される光学活性化合物を得る方法。
  2. 式[1]で示されるラセミ体化合物に立体選択的にR体エステル加水分解活性を有するシュードモナス( Pseudomonas )属またはエンテロバクター( Enterobacter )属に属する微生物、その微生物培養物またはその微生物由来の酵素を作用させ、式[2]のS体および式[3]のR体で示される光学活性化合物を得る請求項1に記載の方法。
  3. 式[1]で示されるラセミ体化合物に立体選択的にS体エステル加水分解活性を有するシュードモナス( Pseudomonas )属またはエンテロバクター( Enterobacter )属に属する微生物、その微生物培養物またはその微生物由来の酵素を作用させ、式[2]のR体および式[3]のS体で示される光学活性化合物を得る請求項1に記載の方法。
  4. 式[1]で示されるラセミ体化合物に立体選択的にエステル加水分解活性を有するシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物、その微生物培養物またはその微生物由来の酵素を作用させ、式[2]および式[3]で示される光学活性化合物を得る請求項1に記載の方法。
  5. 式[1]で示されるラセミ体化合物に立体選択的にエステル加水分解活性を有するエンテロバクター(Enterobacter)属に属する微生物、その微生物培養物またはその微生物由来の酵素を作用させ、式[2]および式[3]で示される光学活性化合物を得る請求項1に記載の方法。
  6. 微生物がシュードモナス(Pseudomonas)sp.DS-K-19株である請求項1または2に記載の方法。
  7. 微生物がシュードモナス(Pseudomonas)sp.DS-K-717株である請求項1または3に記載の方法。
  8. 微生物がシュードモナス(Pseudomonas)sp.DS-mk3株である請求項1または3に記載の方法。
  9. 微生物がエンテロバクター(Enterobacter)sp.DS-S-75株である請求項1または3に記載の方法。
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