JP3068155B2 - 軟磁性合金およびその製造方法 - Google Patents

軟磁性合金およびその製造方法

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JP3068155B2 JP02098906A JP9890690A JP3068155B2 JP 3068155 B2 JP3068155 B2 JP 3068155B2 JP 02098906 A JP02098906 A JP 02098906A JP 9890690 A JP9890690 A JP 9890690A JP 3068155 B2 JP3068155 B2 JP 3068155B2
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Description

【発明の詳細な説明】 <産業上の利用分野> 本発明は、軟磁性合金、特に高耐食性で低磁歪のFe基
軟磁性合金と、その製造方法とに関する。
<従来の技術> 軟磁性材料に求められる要求特性は、年々厳しくなっ
ている。
しかし、基本的には、高飽和磁化、高透磁率および低
鉄損であることが求められる。これらの要求特性を満足
するために、軟磁性材料は以下に示す特性を満足する必
要がある。
(1)磁歪定数λsが小さいこと(λs=±5×10-6
内にあること)。
(2)結晶磁気異方性が小さいこと。
この2つの要求特性を満足しない限りにおいては、十
分な基本特性が得られないか、または用途によっては全
く使用できない軟磁性材料となってしまう。
より詳述すると、磁気ヘッド等の使用時に応力が常に
かかる用途、あるいは圧粉コア等のコア自体の製造過
程、あるいはコア自体に応力が常に印加されたままの状
態にある用途においては、磁歪定数は、λs=0〜−5
×10-6であることが必須条件である。
Fe基合金軟磁性材料としては、純鉄、珪素鋼、センダ
スト合金、アモルファス合金等が知られており、高飽和
磁束密度であることが特徴である。
これら軟磁性材料において、Fe基アモルファス合金が
その高飽和磁束密度、低損失の特徴により、広く使用さ
れるようになってきた。
しかしながら、Fe基アモルファス合金は高磁歪定数を
有するため、その用途が限定されていた。特に磁気ヘッ
ド、平滑チョークコイル、圧粉コア、磁気シールド等の
応力がかかる用途に対しては、磁気特性が大きく劣化し
てしまうという根本的な問題が発生するために、用途拡
大がいま一歩進まない状況にある。
一方、アモルファス合金の中でもCo基アモルファス合
金のように、磁歪定数がほぼ零に近い合金がある。しか
しながら、この合金は飽和磁束密度が低く、かつ高価で
あるという欠点がある。このため、その用途は、磁気ヘ
ッド等の素材のコストがあまり問題にならない分野に限
定されていた。
アモルファス合金のこのような問題を解決するため
に、欧州特許公開0271657号公報では、微結晶相からな
る軟磁性合金を提案している。この軟磁性合金は、まず
アモルファス合金を作製し、これに熱処理を施すことに
より微結晶相を形成するものである。
この合金は、従来のFe基アモルファス合金の欠点をか
なり改善する発明である。特に、飽和磁歪定数が大きく
減少することは、好ましいことである。
<発明が解決しようとする課題> しかしながら、この合金にしてもまだ特性が不十分で
ある、特に、磁歪定数が零か負の合金が作製できないこ
とに問題があり、従って、磁気ヘッド等の応力のかかる
用途には、現実的には使用できないという欠点がある。
前記公報には、ホウ素Bの含有量が約5%の近傍で磁
歪定数がほぼ零になる実施例が記載されている(例え
ば、Fe74Cu1Nb3 Si17B5合金)。しかしながら、ホウ素
Bの含有量が5%程度の合金がアモルファス化し難いこ
とは、一般的に広く知られていることである。
また、このような合金は、金属材料を使用する上で基
本的に重要な耐食性が、著しく低いという欠点がある。
ところで、微結晶相を有する合金は、上記したように
アモルファス合金に熱処理を施すことにより製造され、
アモルファス合金は、単ロール法や双ロール法等の液体
急冷法により製造される。単ロール法や双ロール法は、
合金溶湯をノズルから射出して冷却ロール表面に衝突さ
せることにより高速急冷し、アモルファス合金の薄帯や
薄片を得る方法である。高速急冷は、合金溶湯の酸化を
防ぐために非酸化性雰囲気中で行なわれることが望まし
い。
しかし、厳密な非酸化性雰囲気とすることは非常に困
難であり、また、製造コストも高くなってしまう。従っ
て、通常、特に急冷の際の雰囲気は酸素を多少含むもの
であり、このため、ノズル先端部付近において合金溶湯
が酸化される。合金溶湯の酸化物はスケールとなってノ
ズル先端部に堆積するため、合金溶湯の射出を続けると
ノズルが閉塞し、さらには破壊され、ノズル交換が必要
となったり、装置自体の破壊を引き起こすことがある。
このようなノズル閉塞は、合金溶湯射出を長時間連続
的に行なう量産の際に特に問題となる。
また、合金溶湯の粘度が高いと、酸化物によるノズル
径減少により射出が困難となり、ノズルの閉塞が加速さ
れる。
このようにノズルの閉塞が生じることにより、量産性
が低下し、また、コスト高となる。
本発明は、上記したような事情からなされたものであ
り、微結晶相を有する軟磁性合金であって、耐食性が著
しく向上し、しかも、磁歪定数が極めて小さい軟磁性合
金、特に磁歪定数がほぼ零に近いか、零から負の範囲に
存在する軟磁性合金であり、しかも、量産性が高く低コ
ストで得られる軟磁性合金と、その製造方法とを提供す
ることを目的とする。
<課題を解決するための手段> このような目的は、下記(1)〜(5)の本発明によ
り達成される。
(1)微結晶相を有する軟磁性合金であって、原子比で
下記式(I)で表わされる組成を有することを特徴とす
る軟磁性合金。
[式(I)] (Fe1-aNia100-x-y-z-p-q-rCuxSiyBzCrpVqMnr(但
し、上記式(I)において、 0≦a≦0.5、 0.1≦x≦5、 6≦y≦20、 6≦z≦20、 15≦y+z≦30、 0.5≦p≦10 0.5≦q≦2.5 0≦r 3≦p+q+r≦12.5 である。) (2)磁歪定数λsが±5×10-6以内である上記(1)
に記載の軟磁性合金。
(3)微結晶相の割合が0.1〜95%である上記(1)ま
たは(2)に記載の軟磁性合金。
(4)原子比で下記式(I)で表わされる組成を有する
アモルファス合金に熱処理を施し、微結晶相を有する軟
磁性合金を得ることを特徴とする軟磁性合金の製造方
法。
[式(I)] (Fe1-aNia100-x-y-z-p-q-rCuxSiyBzCrpVqMnr(但
し、上記式(I)において、 0≦a≦0.5、 0.1≦x≦5、 6≦y≦20、 6≦z≦20、 15≦y+z≦30、 0.5≦p≦10 0.5≦q≦2.5 0≦r 3≦p+q+r≦12.5 である。) (5)前記アモルファス合金が、合金溶湯をノズルから
射出して冷却基体に衝突させることにより製造される上
記(4)に記載の軟磁性合金の製造方法。
<作用> 本発明の軟磁性合金は、 FeCuCr(V,Mn)SiB 系の組成を基本としている。
本発明の軟磁性合金は、上記合金を一旦アモルファス
合金化し、これに熱処理を施すことにより微結晶相を形
成して得られるものである。
本発明では微結晶相を有する軟磁性合金に、Crおよび
V、あるいはこれらに加えMnを含有させたため、磁歪を
小さく、特に磁歪を零から負とすることができるもので
あり、さらに耐食性を著しく改善できるものである。
本発明の軟磁性合金は、このように磁歪が小さいた
め、例えば、軟磁性合金粉末と結合剤とを含有する磁気
シールド材に最適である。すなわち、磁気シールド材を
製造する際の粉末と結合剤との混練時や結合剤の硬化収
縮時、あるいは磁気シールド材として使用する際に応力
を受けた場合でも、磁気特性の低下がほとんどなく、磁
気シールド特性が劣化しない。
また、本発明の軟磁性合金は、各種磁心にも好適であ
る。例えば、ギャップ付磁心、カットコア等に適用した
場合、唸りが生じない。また、ギャップ付磁心、カット
コア等を形成するに際し樹脂被覆を設ける場合、上記と
同様に、樹脂の硬化収縮により磁気特性が劣化しない。
さらにまた、磁歪が小さいため磁気ヘッドに好適であ
ることは勿論である。
そして、本発明の軟磁性合金は、前記式(I)で表わ
される組成を有し、特にV含有量2.5at%以下に抑える
ため、ノズルから合金溶湯を射出して高速急冷する際に
合金溶湯の酸化が防止され、また、溶湯としたときの粘
度が低い。従って、前記式(I)で表わされる組成を選
択することにより、ノズルの閉塞を極めて効果的に防止
することができる。
なお、Cr、V、Mnなどを含有することにより達成され
る軟磁性合金の耐食性向上効果は、軟磁性合金表面に形
成される不働態膜の作用によるが、合金溶湯では不働態
膜を形成することができない。このため、本発明者らは
合金溶湯の耐酸化性を向上させるために実験を重ねた結
果、V含有量を2.5at%以下とすることにより、臨界的
に耐酸化性が向上することを知見し、前記本発明に至っ
たものである。
<具体的構成> 以下、本発明の具体的構成を詳細に説明する。
本発明の軟磁性合金は、微結晶相を有し、原子比で下
記式(I)で表わされる組成を有する。
[式(I)] (Fe1-aNia100-x-y-z-p-q-rCuxSiyBzCrpVqMnr 但し、上記式(I)において、 0≦a≦0.5、 0.1≦x≦5、 6≦y≦20、 6≦z≦20、 15≦y+z≦30、 0.5≦p≦10 0.5≦q≦2.5 0≦r 3≦p+q+r≦12.5 である。
Niが含有される場合、延性および展性が向上する。こ
のため、後述する媒体撹拌ミルにて粉末化する際に、磁
気シールド材用として好ましい扁平状化を行なうことが
できる。また、Niを含有することにより耐食性も向上す
る。
aが上記範囲を超えると、飽和磁束密度の低下が生じ
る。なお、好ましくは0≦a≦0.1である。
Cuは、後述する熱処理により微結晶相を形成する際
に、必須の元素である。Cuの含有量を表わすxが上記範
囲未満であると微結晶相の形成が困難となり、上記範囲
を超えると合金溶湯の急冷に際して薄帯化が困難とな
る。また、xが上記範囲を外れると、磁気特性、特に透
磁率が低下し、例えば、コモンモードチョーク用巻磁心
に適用した場合、良好な実効透磁率が得られない。な
お、好ましくは0.3≦x≦2である。
SiおよびBは合金をアモルファス化するために含有さ
れる。本発明では、上記式で表わされる組成の合金溶湯
を、単ロール法等で高速急冷することにより、あるいは
水アトマイズ法による高速急冷によりアモルファス合金
を製造し、このアモルファス合金に熱処理を施すことに
より微結晶相を形成するため、SiおよびBは、上記範囲
にて含有される必要がある。
Siの含有量を表わすy、Bの含有量を表わすzおよび
y+zが上記範囲を外れると、合金のアモルファス化が
困難となる。また、Bが上記範囲を超えると磁歪が増加
してしまう。
なお、好ましくは、8≦y≦20、6≦z≦16、特に7
≦z≦16、20≦y+z≦28である。
SiおよびBの他、ガラス化元素としてC、Ge、P、G
a、Sb、In、BeおよびAsから選ばれる元素の1種以上が
含有されていてもよい。これらのガラス化元素は、Siお
よびBと共にアモルファス化を助長する作用を示し、ま
た、キュリー温度および磁歪の調整作用も有する。これ
らガラス化元素は、SiとBの含有量の合計、すなわちy
+zの30%以下を置換するように含有されることが好ま
しい。
これらのうち特にPは、耐食性を向上させ、かつアモ
ルファス化を助長させる元素として好ましい。
Cr、VおよびMnは、磁歪を減少させるためおよび耐食
性を向上させるために含有される。また、VおよびMn
は、後述する結晶化のための熱処理の際に、好ましい処
理温度の範囲を広げる作用も有する。p+q+rが上記
範囲未満となると、微結晶相の形成が困難となる他、十
分な低磁歪および耐食性が得られない。また、p+q+
rが上記範囲を超えるとアモルファス化が困難となる
他、飽和磁束密度が低下する。
そして、Vの含有量を表わすqを上記範囲とすること
により、溶湯としたときの耐酸化性が著しく改善され、
また、溶湯の粘度も低下する。なお、p、q、rの好ま
しい範囲は、 1≦p≦3 0.5≦q≦1 0≦r≦0.5 である。
本発明の軟磁性合金の磁気特性としては、100kHzにお
いて5000以上の実効透磁率が得られ、10000以上、20000
にも及ぶ実効透磁率が容易に得られる。さらに、10kG以
上の飽和磁束密度が容易に得られる。
以上に挙げた元素の他、本発明の軟磁性合金には、A
l、白金族元素、Sc、Y、希土類元素、Au、Zn、Snおよ
びReから選択される1種以上の元素が含有されていても
よい。
これらの元素が含有される場合、その含有量の合計
は、上記式で表わされる組成に対して10%以下であるこ
とが好ましい。
本発明の軟磁性合金は、微結晶相の占める割合が0.1
〜95%、特に50〜90%であることが好ましい。このよう
な結晶化率範囲とすることにより小さなλsを得ること
ができ、実効透磁率が向上する。結晶化率は熱処理条件
により制御できる。
なお、結晶領域は、透過型電子顕微鏡写真により確認
することができる。また、軟磁性合金の微結晶相以外の
部分は、実質的にアモルファスで構成される。
本発明において良好な磁気特性を得るためには、微結
晶の平均粒径を好ましくは1000Å以下、より好ましくは
500Å以下、さらに好ましくは200Å以下、特に好ましく
は50〜200Åとすることがよい。この場合の平均粒径
は、各結晶粒の最大径の平均とする。平均粒径は透過型
電子顕微鏡により測定することができる。
なお、本発明の軟磁性合金には、磁気特性に悪影響を
与えない限り、N、O、S等の不可避的不純物が含有さ
れていてもよい。
以下、本発明の軟磁性合金の製造方法を説明する。
本発明の軟磁性合金は、薄帯状、薄片状あるいは粉末
状のアモルファス合金に熱処理を施して、微結晶相を形
成することにより得られる。
アモルファス合金の製造には高速急冷法を用いればよ
く、高速急冷法としては、合金溶湯をノズルから射出し
て冷却ロール等の冷却基体表面に衝突させることにより
高速急冷する通常の液体急冷法が好ましく、また、後述
する水アトマイズ法を用いてもよい。
このような液体急冷法としては、単ロール法や双ロー
ル法等のいずれであってもよい。
そして、これらの高速急冷法において、前記式で表わ
される組成を有する合金溶湯を用いることにより、ノズ
ルの閉塞を防止することができる。
本発明において、液体急冷法に用いるノズルの射出部
スリット形状や射出圧力に特に制限はないが、本発明は
閉塞が発生し易いノズル、例えばノズルの射出部スリッ
ト形状のリップ幅が0.1〜0.5mm程度のものに対して特に
高い効果を発揮する。
また、急冷は一般的には大気中で行なわれるが、少な
くともノズル射出部にAr等の不活性ガスを吹きつけなが
ら行なうことが好ましく、Ar等の不活性ガス雰囲気中で
行なうことがより好ましく、真空中で行なうことがさら
に好ましい。
液体急冷法により製造されるアモルファス合金薄帯の
厚さは、5〜50μm、特に10〜25μmであることが好ま
しい。
厚さが上記範囲を外れるアモルファス合金薄帯は、製
造が困難である。
液体急冷法や水アトマイズ法により作製された合金薄
帯あるいは合金粉末に施される熱処理は、真空中、ある
いは窒素、水素、Ar等の不活性ガス雰囲気中で行なうこ
とが好ましいが、空気中で行なってもよい。
熱処理の温度および時間は、熱処理される合金の組
成、形状、寸法などによっても変わるが、400〜700℃に
て5分間〜24時間であることが好ましい。
本発明によれば、このような温度範囲のほぼ全域に亙
って良好な磁気特性、特に高い透磁率が得られる。
熱処理温度が上記範囲未満であると、微結晶相を形成
することが困難となり、上記範囲を超えると結晶粒が粗
大となり、いずれも高い磁気特性を有する軟磁性粉末が
得られない。
熱処理時間が上記範囲未満であると均一な加熱を行な
うことが困難となり、また、上記範囲を超えると結晶粒
が粗大化し、いずれも高い磁気特性の軟磁性合金が得ら
れない。
なお、より好ましい熱処理温度および熱処理時間は、
500〜650℃にて5分間〜6時間である。
なお、この熱処理は、磁場中にて行なわれてもよい。
以下、本発明の軟磁性合金の好ましい適用例を説明す
る。
[巻磁心] 本発明が適用された巻磁心は、本発明の軟磁性合金の
巻回体である。
巻磁心の形状および寸法に特に制限はなく、形状は、
トロイダル状、レーストラック状等の各種形状から目的
に応じて選択すればよく、また、寸法は、例えば、外径
3〜1000mm程度、内径2〜500mm程度、高さ1〜100mm程
度である。
また、巻磁心は、耐圧性が要求される場合には層間絶
縁を施すことが好ましい。
層間絶縁方法に特に制限はなく、ポリイミド、ポリエ
ステル等の有機フィルムを層間に挟む方法、アルミナ、
マグネシア等の無機粉末の塗布層を層間に介在させる方
法などの通常の方法で行なえばよい。
このような巻磁心の製造方法に特に制限はないが、上
記式で表わされる合金の溶湯を液体急冷法によりアモル
ファス合金薄帯とし、このアモルファス合金薄帯を巻回
した後、上記した熱処理により微結晶相を形成すること
が好ましい。
なお、熱処理は、基本的には不活性雰囲気で実施する
ことが好ましいが、空気中等の酸化性雰囲気にても可能
である。この場合薄帯表面に薄い酸化膜が形成されるた
め層間絶縁効果が得られ、特に高周波領域で使用するコ
モンモードチョーク用磁心に適用する場合、周波数特性
が改善される効果がある。
磁心の磁気特性を制御するためには、磁場中にて熱処
理することが好ましい。巻磁心の磁束方向(薄帯の長さ
方向)に磁場を印加しながら熱処理すると、高角形特性
の巻磁心を得ることができる。一方、巻磁心の磁束方向
と直角方向(薄帯の幅方向)に磁場を印加しながら熱処
理すると、恒透磁率特性を有する高透磁率巻磁心を作製
することができる。
なお、このようにして得られた軟磁性薄帯の巻回体を
カットコアやギャップ付コアとする場合、エポキシ樹脂
等の熱硬化性樹脂に含浸後、熱硬化して被覆を形成し、
次いで切断あるいはギャップ形成を行なう。
[圧粉磁心] 本発明が適用された圧粉磁心は、上記式で表わされる
軟磁性合金の粉末を含有する。
圧粉磁心の形状および寸法は、上記した巻磁心と同様
のものを含み、さらに多様なものとすることができる。
このような圧粉磁心の製造方法に特に制限はないが、
下記の方法により製造することが好ましい。
まず、上記式で表わされる組成を有する合金溶湯を液
体急冷法により高速急冷し、アモルファス合金薄帯を得
る。
次いで、このアモルファス合金薄帯に脆化のための熱
処理を施す。この熱処理は、300〜450℃程度にて10分〜
10時間程度行なうことが好ましい。
脆化熱処理後、振動ボールミルなどにより10〜3000μ
m程度の平均粒径に粉砕する。
得られたアモルファス合金粒子に絶縁処理を施す。絶
縁処理方法に特に制限はないが、粒子表面に水ガラス等
の無機材料の被覆を形成することにより絶縁を行なうこ
とが好ましい。
なお、脆化のための熱処理を酸化性雰囲気中で行なう
ことにより、前記した巻磁心と同様に絶縁膜を形成する
こともできる。この場合、さらに上記のような絶縁処理
を施してもよい。
絶縁処理されたアモルファス合金粒子を、プレス成形
する。プレス成形する際には、必要に応じて各種無機潤
滑剤および/または有機潤滑剤を添加してもよい。
プレス時の温度は400〜550℃程度、印加圧力は5〜20
t/cm2程度、圧力保持時間は0.1秒〜1時間程度である。
プレス成型した後、上記した条件により熱処理を施し
てアモルファス合金粒子に微結晶相を形成し、本発明の
軟磁性合金の粉末を含有する圧粉磁心を得る。なお、磁
心中の粉末の占積率は、50〜100%程度であり、好まし
くは、75〜95%である。
このようにして得られる本発明の巻磁心および圧粉磁
心は、スイッチング電源用出力平滑チョークコイルなど
に好適である。
[磁気シールド材] 本発明の軟磁性合金が適用された磁気シールド材は、
本発明の軟磁性合金を粉末化した軟磁性粉末と結合剤と
を含有する。
この軟磁性粉末は、扁平状粒子から構成されることが
好ましい。
扁平状粒子の平均厚さは1μm以下、特に0.01〜1μ
mであることが好ましい。平均厚さが0.01μm未満とな
ると、結合剤への分散性が低下する。また、透磁率等の
磁気特性が低下し、シールド特性が不十分となる。
一方、1μmを超えると、磁気シールド材を薄く塗布
する場合に扁平状粒子が均一に分散された塗膜を形成す
ることができず、また、塗膜の厚さ方向の扁平状粒子の
存在数が少なくなるため、シールド特性が不十分とな
る。なお、平均厚さが0.01〜0.6μmとなると、より好
ましい結果を得る。
平均厚さは、分析型走査型電子顕微鏡で測定すればよ
い。
扁平状粒子の平均アスペクト比は10〜3000、特に10〜
500であることが好ましい。本発明において平均アスペ
クト比とは、扁平状粒子の平均粒径をその平均厚さで除
した値である。
平均アスペクト比が10未満であると反磁界の影響が大
きくなり、透磁率などの磁気特性が低下し、シールト特
性が不十分となる。一方、上記した範囲内の平均厚さを
有する扁平状粒子において平均アスペクト比が3000を超
える場合、平均粒径が大きくなりすぎるので、結合剤と
混練する際に破断が生じ易くなり磁気特性が劣化する。
なお、この場合の平均粒径とは重量平均粒径D50を意
味し、軟磁性粉末を構成する扁平状粒子の重量を粒径の
小さい方から積算し、この値が軟磁性粉末全体の重量の
50%に達したときの扁平状粒子の粒径である。また、こ
の場合の粒径は、光散乱法を用いた粒度分析計で測定し
た粒径である。より具体的には、光散乱法を用いた粒度
分析とは、試料を例えば循環しながらレーザー光やハロ
ゲンランプ等を光源としてフランホーファ回折あるいは
ミィ散乱の散乱角を測定し、粒度分布を測定するもので
ある。
この詳細は、例えば「粉体と工業」VOL.19 No.7(198
7)に記載されている。上記のD50は、このような粒度分
析計により得られた粒度分布により決定することができ
る。
扁平状粒子は、このようにして決定されるD50が、5
〜30μmであることが好ましい。
このような扁平状粒子の主面形状において、その長軸
の長さ(最大径)をa、短軸の長さ(最小径)をbとし
たとき、軸比の平均a/bは、磁気シールドに方向性が要
求される場合には1.2以上のできるだけ大きい値が望ま
しい。
磁界源が方向性を有する場合には、その方向へ配向磁
場を作用させながら磁性塗料を硬化させればその方向の
透磁率の向上ができ、磁気シールド効果を大きくするこ
とができる。この場合、a/bが1.2〜5となると、より好
ましい結果を得る。そして、後述する媒体撹拌ミルによ
れば、このような軸比を容易に実現することができる。
粒子の長軸および短軸は、分析型透過型電子顕微鏡に
より測定すればよい。
このような扁平状粒子からなる軟磁性粉末は、磁気シ
ールド特性向上のために以下のような磁気特性を有する
ことが好ましい。
直流磁界での最大透磁率μは、20〜80、より好まし
くは25〜60であり、保磁力Hcは1〜20 Oe、より好まし
くは1〜14 Oeである。
なお、このような扁平状粒子からなる軟磁性粉末の磁
気特性、特に保磁力は、同組成の薄帯状合金の100〜100
0倍程度となるのが通常である。
上記したような軟磁性粉末は、下記の製造方法により
製造されることが好ましい。
この製造方法は、上記式で表わされる組成の合金溶湯
を高速急冷してアモルファス合金粉末を製造する第1工
程と、扁平状アモルファス合金粒子から構成されるアモ
ルファス合金粉末を得る第2工程と、得られた扁平状ア
モルファス合金粉末に熱処理を施して微結晶相を形成す
る第3工程とを含む。
第1工程では、高速急冷に水アトマイズ法を用いるこ
とが好ましい。この明細書では、水アトマイズ法により
得られたアモルファス合金粉末を、水アトマイズ粉末と
称する。
第1図は、水アトマイズ法を説明する模式図である。
原料合金は誘導加熱などにより溶湯とされ、溶解炉1
底部のノズルから噴霧タンク2内に流下される。流下さ
れた合金溶湯に噴霧ノズル3から高圧水を噴射し、冷却
して凝固・粉末化する。なお、粉末の酸化を防ぐため、
噴霧タンク2内は、不活性ガス雰囲気とすることが好ま
しい。次いで、噴霧タンク2および排水タンク5内から
粉末を回収し、乾燥して水アトマイズ粉末を得る。
このような水アトマイズ法を用いると、合金溶湯は薄
帯形状などを経ることなく直接粒子化される。
このような水アトマイズ法において、溶湯の流下量、
噴霧ノズルからの高圧水の加圧圧力、噴射量、噴射速
度、噴射方向、噴霧ノズルの形状等を適当に制御・調整
することにより、後述する嵩密度および寸法の水アトマ
イズ粉末を得ることができる。水アトマイズ法のこれら
各種条件の好適例を、下記に示す。
溶湯の流下量は10〜1000g/s程度であることが好まし
い。
噴霧ノズルからの高圧水の加圧圧力は10〜1000気圧程
度、噴射量は50〜100/sec程度であることが好まし
い。
なお、好ましい冷却速度は102〜104℃/s程度である。
また、原料合金の組成は、目的とする軟磁性粉末の組
成とすればよく、具体的には、上記式で表わされる組成
から選択される。
上記したような軟磁性粉末を得るためには、水アトマ
イズ粉末を構成するアモルファス合金粒子の重量平均粒
径D50を、5〜30μm、特に7〜20μmとすることが好
ましい。この範囲未満となると扁平状化しにくくなり、
この範囲を超えるとアモルファス化度が低下する。
また、水アトマイズ粉末は、嵩密度が2g/cm3以上、特
に2.1〜5g/cm3、さらには2.5〜4.5g/cm3であることが好
ましい。
なお、嵩密度と合金粒子形状の規則性とは相関する。
具体的には、嵩密度が小さい場合、粒子形状の不規則性
が高く、嵩密度が大きい場合、粒子形状の不規則性は低
い。そして、嵩密度が上記範囲を超える水アトマイズ粉
末はアモルファス化度が低いため、媒体撹拌ミルにより
扁平状化を行なっても、後述するアモルファス化度を達
成することが困難である。また、嵩密度が上記範囲未満
である水アトマイズ粉末は合金粒子の形状不規則性が高
いため、媒体撹拌ミルによって扁平状化する際に合金粒
子の不規則な破断が生じ、前述した寸法、形状および粒
度分布を有する扁平状粒子とすることが困難である。
嵩密度が上記範囲内である水アトマイズ粉末では合金
粒子がほぼ球状であるため、第2工程において媒体撹拌
ミルにより扁平状化を行なった場合、媒体撹拌ミルの圧
延・剪断作用が有効にはたらき、上記したような形状お
よび寸法の扁平状粒子を容易に得ることができる。
なお、前記したような軟磁性粉末を得るためには、こ
のような水アトマイズ法に限らず、通常の単ロール法等
の高速冷却法により薄帯を製造し、この薄帯を粗粉砕し
た後に媒体撹拌ミルによる扁平状化を行ない、扁平状ア
モルファス合金粒子を得てもよい。
第2工程におけるアモルファス合金粒子の扁平状化
は、媒体撹拌ミルにより行なうことが好ましい。
媒体撹拌ミルはピン型ミル、ビーズミルあるいはアジ
データーボールミルとも称される撹拌機であり、例えば
特開昭61−259739号公報などに記載がある。
第2図は、媒体撹拌ミルの構造を示す部分縦断面図で
ある。
媒体撹拌ミル11は、円筒容器12の内周側面およびこの
円筒容器12内に設けられた回転体13の外周側面に多数の
ロッド14が植立されており、円筒容器12内周側面と回転
体13の外周側面との間には媒体としてビーズと、被撹拌
物が充填される。
そして、円筒容器12と回転体13とが相対的に高速回転
されることにより、ロッド14がビーズを撹拌し、被撹拌
物は主としてビーズにより圧延・剪断される。
水アトマイズ粉末を構成するアモルファス合金粒子
は、このような媒体撹拌ミルが有する圧延・剪断作用に
より扁平状化され、前述したような磁気シールド材とし
て好適な扁平形状が得られる。
媒体撹拌ミルを用いて圧延・剪断する際の好ましい条
件としては、例えば、ビーズ径1〜5mm、ビーズ充填率
は20〜80%、回転体13外周側面に設けられたロッド14先
端での周速1〜20m/s程度である。
なお、媒体撹拌ミル以外の手段、例えば、スタンプミ
ル、振動ミル、アトライター等では、前述したような形
状の扁平状合金粉末を得ることはできない。
媒体撹拌ミルにより所定形状および寸法とされた扁平
状合金粒子は、第3工程において熱処理が施される。こ
の熱処理により、扁平状合金粒子には前述した微結晶相
が形成される。
この熱処理は、前述した熱処理と同様にして行なう。
このようにして得られる軟磁性粉末と結合剤とを含有
する磁気シールド材は、結合剤中に軟磁性粉末を構成す
る扁平状粒子が分散されているものである。
このような磁気シールド材は、素材100%に換算した
場合の直流磁界での最大透磁率μを50以上、好ましく
は100以上、特に150〜400、さらには180〜350とするこ
とができ、保磁力Hcを2〜20 Oe、特に2〜15 Oeとする
ことができる。
このような磁気特性が容易に得られるのは、粉砕等の
加工工数が少なく、導入される加工歪が減少するからで
ある。このため、大きなμがえられ、十分な磁気シー
ルド効果がえられる。また、Hcは20 Oe以下となり、こ
の点でも十分な磁気シールド効果がえられる。
なお、軟磁性粉末の磁気シールド材中で充填率は、60
〜95wt%であることが好ましい。
充填率が60wt%未満であると磁気シールド効果が急激
に減少し、95wt%を超えると軟磁性粉末が結合剤によっ
て強固に結び付くことができず、磁気シールド材の強度
が低下する。
充填率が70〜90wt%であると、特に良好な磁気シール
ド効果が得られ、シールド材の強度も十分である。
用いる結合剤に特に制限はなく、公知の熱可塑性樹
脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等から適当に選択
することができる。
なお、磁気シールド材は、軟磁性粉末および結合剤の
他、硬化剤、分散剤、安定剤、カップリング剤等を含有
してもよい。
このような磁気シールド材は、通常、所望の形状に成
形され、あるいは必要な溶媒を用いて塗布用組成物とさ
れた後に塗布され、次いで、必要に応じて加熱硬化され
て用いられる。
なお、硬化は、一般に、加熱オーブン中で50〜80℃に
て6〜100時間程度加熱すればよい。
磁気シールド材を、膜状あるいは薄帯状に成形して磁
気シールド用に用いる場合、磁気シールド材の厚さは5
〜200μmであることが好ましい。
このよう厚さ範囲とするのは、本発明が適用された磁
気シールド材は前記したような磁気特性を有するため、
5μmの厚さでも高い磁気シールド効果を示し、また、
シールド材が磁気飽和しない程度の強度を有する磁界の
シールドをする場合、200μmを超える厚さに形成して
も磁気シールド効果は顕著には向上せず、200μm以下
とすればコスト的にも有利だからである。
なお、磁気シールド材を所要の形状に成形あるいは塗
布する際に、配向磁界をかけたりあるいは機械的に配向
することにより、方向性の高い磁気シールド材とするこ
とができ、特に、磁気シールド材を板状あるいは膜状と
したときには、膜面と平行な方向の磁界に対して高い磁
気シールド効果を示し、上記のような厚さ範囲にて十分
な効果を示すものである。
なお、磁気シールド材に適用するに際し、軟磁性粉末
には、Cu、Ni等の導電性被膜を形成してもよい。
このような磁気シールド材は、スピーカ、CRT等の磁
気シールドの他、極めて広い範囲に適用することができ
る。
[磁気ヘッド] 薄板を積層した磁気ヘッド、薄膜型磁気ヘッド、ある
いはメタル・イン・ギャップ型磁気ヘッドの薄膜等、い
ずれにも好適である。
<実施例> 以下、具体的実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に
説明する。
[実施例1] 下記表1に示す組成を有する原料合金溶湯を単ロール
法により高速急冷し、アモルファス合金薄帯を作製し
た。
高速急冷は、大気中で行なった。また、冷却ロール面
に合金溶湯を射出するために用いたノズルは、射出部ス
リット形状のリップ幅が0.5mmであり、合金溶湯をArガ
スにより0.2kgf/cm2に加圧することにより射出した。
これらの合金について、ノズルが完全に閉塞するまで
の時間を測定し、下記基準で評価した。結果を下記表1
に示す。
◎:30分間以上 ○:10分間以上30分間未満 ×:10分間未満 次いで、高速急冷により得られたアモルファス合金薄
帯に、N2ガス中で470〜550℃にて1時間熱処理を施して
微結晶相を形成し、軟磁性薄帯サンプルを得た。これら
の軟磁性薄帯サンプルの厚さは22μm、幅は3mmであっ
た。
これらのサンプルに対し、飽和磁歪定数λsの測定、
耐食性の評価および応力印加による保磁力Hcの変化率の
測定を行なった。
耐食性は、各サンプルを5%食塩水に24時間浸漬した
後の表面状態を、下記の基準で評価した。
○:変化なし △:部分的に発錆 ×:発錆面積大 ××:全面に発錆 保磁力Hcの変化率は、以下のようにして測定した。
上記各薄帯サンプルを外径14mm、内径10mm、高さ3mm
のトロイダル状に巻回し、終端を固定して巻磁心とし
た。この巻磁心の保磁力Hc0を測定した。
次いで、これらの巻磁心に500gの重りを載せて応力を
印加し、このときの巻磁心の保磁力Hc1を測定した。表
1に示す保磁力の変化率は、Hc1/Hc0である。
なお、透過型電子顕微鏡により観察した結果、本発明
のサンプルにおける平均粒径1000Å以下の結晶粒からな
る微結晶相の割合は、80〜90%であった。
表1に示される結果から、CrおよびVを含有する本発
明の軟磁性合金は、磁歪定数λsが小さく、かつ耐食性
が良好であることが明らかである。
そして、V含有量を2.5at%以下とすることにより、
ノズルの閉塞が著しく改善されることが明らかである。
[実施例2] 実施例1のサンプルNo.3作製に用いたアモルファス合
金薄帯を350℃にて1時間熱処理することにより脆化
し、次いで振動ボールミルにより粒径105〜500μmの範
囲になるよう粉砕した。得られた粉末に水ガラスの被覆
を形成し、さらに印加圧力10t/cm2で480℃にて1分間プ
レスした。さらに実施例1と同様な熱処理を施し、外径
14mm、内径10mm、高さ3mmの圧粉磁心を得た。
この圧粉磁心中の合金粉末の占積率は、91vol%であ
った。
この圧粉磁心をスイッチング電源用平滑チョークコイ
ルとして用いたところ、唸りは認められなかった。
なお、この圧粉磁心の1kHzでの透磁率は350であっ
た。
また、この圧粉磁心に含有される合金粉末を透過型電
子顕微鏡により観察した結果、平均粒径1000Å以下の結
晶粒からなる微結晶相の割合は80〜90%であった。
[実施例3] 実施例1のサンプルNo.2作製に用いたアモルファス合
金薄帯を巻回した。さらに、実施例1と同様な熱処理を
施して微結晶相を形成し、外径14mm、内径10mm、高さ3m
mの巻回体を得た。
得られた巻回体をエポキシ樹脂に含浸した後、熱硬化
を行ない巻磁心とした。
次いで、この巻磁心にギャップ長0.8mmのギャップを
形成し、さらに巻線を施した。これをスイッチング電源
用平滑チョークコイルとして用いたところ、ギャップ形
成部の唸りは認められなかった。
なお、この巻磁心の1kHzでの透磁率は250であり、保
磁力は0.2 Oe、飽和磁束密度は10kGであった。
また、この巻磁心を構成する合金薄帯を透過型電子顕
微鏡により観察した結果、平均粒径1000Å以下の結晶粒
からなる微結晶相の割合は80〜90%であった。
[実施例4] 第1図に示すような水アトマイズ装置を用いて水アト
マイズ粉末を得た。原料合金の組成は、実施例1のサン
プルNo.3のものを用いた。
なお、水アトマイズ装置の溶解炉1底部のノズル内径
は、2mmとし、射出圧力は0.2kgf/cm2とした。また、射
出時の雰囲気は、酸素を1%未満含有するArガス雰囲気
とした。
このような条件で合金溶湯の射出を続けたところ、30
分以上、ノズルの閉塞はみられなかった。
次いで、水アトマイズ粉末を第2図に示すような媒体
撹拌ミルで扁平状化した。次いで、扁平状化された水ア
トマイズ粉末に実施例1と同様な熱処理を施した。熱処
理後の水アトマイズ粉末を透過型電子顕微鏡により観察
した結果、平均粒径1000Å以下の結晶粒からなる微結晶
相の割合は80〜90%であった。水アトマイズ粉末のD50
は12μm、平均厚さは0.1μmであり、a/bは、1.4であ
った。
なお、平均厚さは分析型走査型電子顕微鏡により測定
し、D50は光散乱を利用した粒度分析計により測定し
た。
次に、得られた軟磁性粉末を下記の結合剤、硬化剤お
よび溶剤と混合し、磁気シールド材を作製した。
(結合剤) 塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体[エスレックA
(積水化学社製)] 100重量部 ポリウレタン[ニッポラン2304(日本ポリウレタン社
製)] 100重量部 (固型分換算) (硬化剤) ポリイソシアネート[コロネートHL(日本ポリウレタ
ン社製)] 10重量部 (溶 剤) MEK 850重量部 磁気シールド材中の軟磁性粉末の充填率は80wt%とし
た。
得られた磁気シールド材を、厚さ75μmの長尺PET基
板に100μm厚に塗布し、ロール状に巻き取った後、60
℃にて60分間加熱して結合剤を硬化した。次いで磁気シ
ールド材をシート状に切断してシールド板とした。
このシールド板についてシールド比を測定した。
シールド比は、シールド板を磁石上に設置し、シール
ド板から0.5cmの位置での漏れ磁束φを測定し、これと
シールド板がない場合の磁束φとを比較した比φ/φ
で表わした。
なお、測定の際には、シールド板を曲率半径70mmに湾
曲させて応力を加えた。
このシールド板のシールド比は、0.02以下であった。
また、結合剤の硬化前と硬化後に、それぞれ磁気シー
ルド材の保磁力を測定したところ、これらの間に差はみ
られなかった。
[実施例5] Fe68.5Cu0.5Cr2.51.0Si13.514.0の原子比組成を
有する合金溶湯を単ロール法により高速急冷し、アモル
ファス合金薄帯を作成した。
このアモルファス合金薄帯の巻回体を作製した。この
巻回体の形状は、外径14mm、内径8mm、高さ10mmのトロ
イダル形状とした。
この巻回体をN2ガス雰囲気中にて510℃にて1時間熱
処理し、巻磁心を得た。熱処理後に薄帯のX線回折を行
なったところ、結晶を表わすピークが明瞭に観察され
た。微結晶相の確認のために透過型電子顕微鏡にてその
組織を観察したところ、平均粒径1000Å以下の結晶粒か
らなる微結晶相の割合は80〜90%であった。
得られた巻磁心について、ノイズフィルター用コモン
モードチョークコイルに適用する場合の基本特性である
実効透磁率μeを測定したところ、測定周波数100kHz、
測定磁界2 mOeにて、μe=19,000であった。
この値は、従来のFe基アモルファス合金では達成でき
ない値であり、よく調整されたCo基アモルファス合金で
ようやく得られる値である。
また、この巻磁心の飽和磁束密度Bsは12kGであった。
この値は、一般的なCo基アモルファス合金のそれの3倍
程度である。
なお、比較のために、Mn−Znフェライト磁心とFe基ア
モルファス合金を用いた巻磁心についても同様な測定を
行なった。上記の本発明合金を用いた巻磁心の測定結果
と、これらの磁心の測定結果とを下記表2に示す。
[実施例6] 下記表3に示す組成の軟磁性合金薄帯を上記実施例に
準じて作製しこれらの合金薄帯の磁歪定数λs、実効透
磁率μe、および飽和磁束密度Bsを測定した。なお、実
効透磁率は、測定周波数100kHz、測定磁界2 mOeで測定
した。
結果を表3に示す。
なお、透過型電子顕微鏡により観察した結果、本発明
のサンプルにおける平均粒径1000Å以下の結晶粒からな
る微結晶相の割合は、80〜90%であった。
表3に示される結果から、本発明の軟磁性合金は磁歪
が小さく、しかも磁気特性が良好であることが明らかで
ある。
以上の実施例から本発明の効果が明らかである。
<発明の効果> 本発明では、微結晶相を有する軟磁性合金において、
CrおよびVを添加し、必要に応じさらにMnを添加した組
成により、低磁歪かつ高耐食性の軟磁性合金が実現し、
しかも、原料アモルファス合金を製造する際に、合金溶
湯を射出するノズルの閉塞が防止されるため、高い量産
性および低コスト化が実現する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、水アトマイズ法を説明するための模式図であ
る。 第2図は、媒体撹拌ミルの構造を示す部分縦断面図であ
る。 符号の説明 1……溶解炉 2……噴霧タンク 3……噴霧ノズル 4……水 5……排水タンク 11……媒体撹拌ミル 12……円筒容器 13……回転体 14……ロッド
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 長 勤 東京都中央区日本橋1丁目13番1号 テ ィーディーケイ株式会社内 (56)参考文献 特開 昭64−31922(JP,A) 特開 昭64−68446(JP,A) 特開 平1−290206(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 45/02 C21D 6/00 C22C 38/00 303 H01F 1/14

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】微結晶相を有する軟磁性合金であって、原
    子比で下記式(I)で表わされる組成を有することを特
    徴とする軟磁性合金。 [式(I)] (Fe1-aNia100-x-y-z-p-q-rCuxSiyBzCrpVqMnr(但
    し、上記式(I)において、 0≦a≦0.5、 0.1≦x≦5、 6≦y≦20、 6≦z≦20、 15≦y+z≦30、 0.5≦p≦10 0.5≦q≦2.5 0≦r 3≦p+q+r≦12.5 である。)
  2. 【請求項2】磁歪定数λsが±5×10-6以内である請求
    項1に記載の軟磁性合金。
  3. 【請求項3】微結晶相の割合が0.1〜95%である請求項
    1または2に記載の軟磁性合金。
  4. 【請求項4】原子比で下記式(I)で表わされる組成を
    有するアモルファス合金に熱処理を施し、微結晶相を有
    する軟磁性合金を得ることを特徴とする軟磁性合金の製
    造方法。 [式(I)] (Fe1-aNia100-x-y-z-p-q-rCuxSiyBzCrpVqMnr(但
    し、上記式(I)において、 0≦a≦0.5、 0.1≦x≦5、 6≦y≦20、 6≦z≦20、 15≦y+z≦30、 0.5≦p≦10 0.5≦q≦2.5 0≦r 3≦p+q+r≦12.5 である。)
  5. 【請求項5】前記アモルファス合金が、合金溶湯をノズ
    ルから射出して冷却基体に衝突させることにより製造さ
    れる請求項4に記載の軟磁性合金の製造方法。
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