JP2770650B2 - 窒化ホウ素含有膜被覆基体とその製造方法 - Google Patents
窒化ホウ素含有膜被覆基体とその製造方法Info
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、窒化ホウ素含有膜被
覆基体とその製造方法に関し、より詳細には、高硬度で
優れた摺動性を有する窒化ホウ素含有膜被覆基体と窒化
ホウ素を基体に密着性良く形成させるための製造方法に
関する。
覆基体とその製造方法に関し、より詳細には、高硬度で
優れた摺動性を有する窒化ホウ素含有膜被覆基体と窒化
ホウ素を基体に密着性良く形成させるための製造方法に
関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】窒化ホ
ウ素(BN)は、結晶構造によって六方晶系のグラファ
イトと類似した構造のもの(h−BN)、立方晶系閃亜
鉛鉱型のもの(c−BN)、あるいは六方晶系のウルツ
鉱型のもの(w−BN)等に大別される。h−BNはC
軸方向に僻開性を持つ物質であるため、軟質ではあるが
摺動性に優れ、現在では人工的に合成された粉末状のも
のが各種摺動部品の摩擦係数を下げるために広く用いら
れている。
ウ素(BN)は、結晶構造によって六方晶系のグラファ
イトと類似した構造のもの(h−BN)、立方晶系閃亜
鉛鉱型のもの(c−BN)、あるいは六方晶系のウルツ
鉱型のもの(w−BN)等に大別される。h−BNはC
軸方向に僻開性を持つ物質であるため、軟質ではあるが
摺動性に優れ、現在では人工的に合成された粉末状のも
のが各種摺動部品の摩擦係数を下げるために広く用いら
れている。
【0003】一方、c−BNはダイヤモンドに次ぐ高硬
度、熱伝導率を有し、さらに、熱的・化学的安定性はダ
イヤモンドより優れていることから、切削工具といった
耐摩耗性を必要とする分野やヒートシンク用材料に応用
されている。また、w−BNも硬度、熱衝撃性に優れ、
工具を中心にした応用に供されている。
度、熱伝導率を有し、さらに、熱的・化学的安定性はダ
イヤモンドより優れていることから、切削工具といった
耐摩耗性を必要とする分野やヒートシンク用材料に応用
されている。また、w−BNも硬度、熱衝撃性に優れ、
工具を中心にした応用に供されている。
【0004】h−BNは低圧下で容易に粉状に合成さ
れ、また各種PVD法(Physical Vapor Deposition)や
CVD法(Chemical Vapor Deposition)によっても、容
易に膜状に形成されてきたものの、c−BNやw−BN
は、高温度下や高圧力下でバルク状にしか合成され得
ず、また合成されたとしてもその製造コストは非常に高
くなり、その応用範囲が限られたものとなっている。そ
こで、c−BNやw−BNを低温度下で膜合成させよう
とする試みが、さかんに研究されている。
れ、また各種PVD法(Physical Vapor Deposition)や
CVD法(Chemical Vapor Deposition)によっても、容
易に膜状に形成されてきたものの、c−BNやw−BN
は、高温度下や高圧力下でバルク状にしか合成され得
ず、また合成されたとしてもその製造コストは非常に高
くなり、その応用範囲が限られたものとなっている。そ
こで、c−BNやw−BNを低温度下で膜合成させよう
とする試みが、さかんに研究されている。
【0005】熱CVD法での研究の一例を述べると、こ
の手法では基体を反応室に入れて、ホウ素元素(B)を
含有するガスや窒素元素(N)を含有する原料ガスを反
応室に導入し、1000℃近い温度に加熱させることに
よって、前記原料ガスを熱分解させて基体の表面に膜形
成しようとするものである。しかし、この手法では基体
に耐熱性が要求されるため、基体種が限定されてしまう
という欠点がある。例えば、高速度工具鋼(ハイス鋼)
のような約500℃以上の温度で硬度の劣化を生じる様
なものや、高温下での変形による寸法精度のくるいが許
されない金型といったものを基体として用いることが出
来ない。さらに、CVD法ではh−BNの合成は容易に
なされてきたものの、c−BNの合成例はまだ報告され
ておらず、研究段階にあるのが実状である。
の手法では基体を反応室に入れて、ホウ素元素(B)を
含有するガスや窒素元素(N)を含有する原料ガスを反
応室に導入し、1000℃近い温度に加熱させることに
よって、前記原料ガスを熱分解させて基体の表面に膜形
成しようとするものである。しかし、この手法では基体
に耐熱性が要求されるため、基体種が限定されてしまう
という欠点がある。例えば、高速度工具鋼(ハイス鋼)
のような約500℃以上の温度で硬度の劣化を生じる様
なものや、高温下での変形による寸法精度のくるいが許
されない金型といったものを基体として用いることが出
来ない。さらに、CVD法ではh−BNの合成は容易に
なされてきたものの、c−BNの合成例はまだ報告され
ておらず、研究段階にあるのが実状である。
【0006】さらに、PVD法においても、例えばレー
ザーを照射することによって窒化ホウ素よりなるターゲ
ットをスパッタリングし、基体表面に窒化ホウ素含有膜
を形成しようとする方法が試みられたが、CVD法と同
じく、c−BNの合成は不可能であった。しかし、近年
イオンやプラズマを積極的に用いて、低温下でc−BN
を合成しようとする試みが幾つも行われ、少しではある
が、c−BNの合成に成功した事例が報告されるように
なった。例えば、原料ガスをプラズマを利用して分解、
反応させるプラズマCVD法は、前記熱的に原料ガスを
分解、反応させる熱CVD法と比較して、低温下で窒化
ホウ素含有膜を合成できる利点を有し、原料ガスの励起
状態も高いため、基体に与える熱的なダメージが比較的
少ない温度でc−BNが合成される。
ザーを照射することによって窒化ホウ素よりなるターゲ
ットをスパッタリングし、基体表面に窒化ホウ素含有膜
を形成しようとする方法が試みられたが、CVD法と同
じく、c−BNの合成は不可能であった。しかし、近年
イオンやプラズマを積極的に用いて、低温下でc−BN
を合成しようとする試みが幾つも行われ、少しではある
が、c−BNの合成に成功した事例が報告されるように
なった。例えば、原料ガスをプラズマを利用して分解、
反応させるプラズマCVD法は、前記熱的に原料ガスを
分解、反応させる熱CVD法と比較して、低温下で窒化
ホウ素含有膜を合成できる利点を有し、原料ガスの励起
状態も高いため、基体に与える熱的なダメージが比較的
少ない温度でc−BNが合成される。
【0007】その他のイオン、プラズマを利用してのc
−BNの合成例も幾つか報告されてきており、c−BN
の低温合成が工業的に注目される様になってきている。
プラズマ、イオン等の利用によって、低温下での窒化ホ
ウ素含有膜の合成への道は開けたものの、工業的な実用
化に当たっての、基体と膜の密着性はまだ解決されてい
ない。
−BNの合成例も幾つか報告されてきており、c−BN
の低温合成が工業的に注目される様になってきている。
プラズマ、イオン等の利用によって、低温下での窒化ホ
ウ素含有膜の合成への道は開けたものの、工業的な実用
化に当たっての、基体と膜の密着性はまだ解決されてい
ない。
【0008】従来試みられた熱CVD法の様に、基体に
熱を加えて膜を合成する手法は、基体の熱的なダメージ
が問題になりながらも、密着性に関しては、低温下で成
膜する手法に比べ優れるという傾向があった。c−BN
の低温合成が成功したものの、基体への熱的なダメージ
なしに膜を得ることと、密着性の良い膜を得ることとを
両立させ得る手法の確立がいまだなされていないのが現
状である。
熱を加えて膜を合成する手法は、基体の熱的なダメージ
が問題になりながらも、密着性に関しては、低温下で成
膜する手法に比べ優れるという傾向があった。c−BN
の低温合成が成功したものの、基体への熱的なダメージ
なしに膜を得ることと、密着性の良い膜を得ることとを
両立させ得る手法の確立がいまだなされていないのが現
状である。
【0009】また、c−BN膜が合成できたとしても、
c−BNはダイヤモンドに次ぐ高硬度を有していること
より、合成された膜が摺動する相手材の硬度に比べて高
すぎるため、摺動する相手材が激しく摩耗する恐れがあ
る。そのため、c−BNの硬度を調節する必要の生じる
場合があるが、窒化ホウ素含有膜の硬度を調節する手段
やその手法は、まだ見いだされていない。
c−BNはダイヤモンドに次ぐ高硬度を有していること
より、合成された膜が摺動する相手材の硬度に比べて高
すぎるため、摺動する相手材が激しく摩耗する恐れがあ
る。そのため、c−BNの硬度を調節する必要の生じる
場合があるが、窒化ホウ素含有膜の硬度を調節する手段
やその手法は、まだ見いだされていない。
【0010】本発明は上記問題点に鑑みなされたもので
あり、摺動する相手材を激しく摩耗させたりすることな
く、耐摩耗性等を向上させるために窒化ホウ素含有膜が
低温下で密着性良く基体に被覆された窒化ホウ素含有膜
被覆基体とその製造方法を提供するものである。
あり、摺動する相手材を激しく摩耗させたりすることな
く、耐摩耗性等を向上させるために窒化ホウ素含有膜が
低温下で密着性良く基体に被覆された窒化ホウ素含有膜
被覆基体とその製造方法を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】この発明によれば、基体
上に周期律表におけるIVa又はIVb族元素を含有する膜
が形成され、該膜上に窒化ホウ素含有膜が形成されてい
る基体であって、前記窒化ホウ素含有膜が、立方晶系閃
亜鉛鉱型あるいは六方晶ウルツ鉱型の結晶構造のいずれ
かが優位な第1膜と、その膜上に形成され、表面に移行
するに従って六方晶系のグラファイトに類似した結晶構
造の割合が多くなるように、前記第1膜の結晶構造と六
方晶系のグラファイトに類似した結晶構造との混成した
2層以上の膜とにより形成されてなる窒化ホウ素含有膜
被覆基体が提供される。
上に周期律表におけるIVa又はIVb族元素を含有する膜
が形成され、該膜上に窒化ホウ素含有膜が形成されてい
る基体であって、前記窒化ホウ素含有膜が、立方晶系閃
亜鉛鉱型あるいは六方晶ウルツ鉱型の結晶構造のいずれ
かが優位な第1膜と、その膜上に形成され、表面に移行
するに従って六方晶系のグラファイトに類似した結晶構
造の割合が多くなるように、前記第1膜の結晶構造と六
方晶系のグラファイトに類似した結晶構造との混成した
2層以上の膜とにより形成されてなる窒化ホウ素含有膜
被覆基体が提供される。
【0012】この発明によれば、基体上に周期律表にお
けるIVa又はIVb族元素を含有する物質の真空蒸着と、
窒素イオン及び不活性ガスイオンの少なくともいずれか
を含むイオンの照射とを併用することによって、IVa又
はIVb族元素を含有する物質よりなる膜を形成した後、
該膜上に、ホウ素元素を含有する物質の真空蒸着又はス
パッタと、少なくとも窒素イオンを含有するイオンの約
40KeV以下の加速エネルギーでの照射とを、前記基
体上に到達するホウ素原子と窒素イオンとの比が約0.
5〜60となる条件を少なくとも3種以上組み合わせて
併用することによって、立方晶系閃亜鉛鉱型あるいは六
方晶ウルツ鉱型の結晶構造のいずれかが優位な第1膜
と、表面に移行するに従って六方晶系のグラファイトに
類似した結晶構造の割合が多くなるように、前記第1膜
の結晶構造と六方晶系のグラファイトに類似した結晶構
造との混成した2層以上の膜とからなる窒化ホウ素含有
膜を形成する窒化ホウ素含有膜被覆基体の製造方法が提
供される。
けるIVa又はIVb族元素を含有する物質の真空蒸着と、
窒素イオン及び不活性ガスイオンの少なくともいずれか
を含むイオンの照射とを併用することによって、IVa又
はIVb族元素を含有する物質よりなる膜を形成した後、
該膜上に、ホウ素元素を含有する物質の真空蒸着又はス
パッタと、少なくとも窒素イオンを含有するイオンの約
40KeV以下の加速エネルギーでの照射とを、前記基
体上に到達するホウ素原子と窒素イオンとの比が約0.
5〜60となる条件を少なくとも3種以上組み合わせて
併用することによって、立方晶系閃亜鉛鉱型あるいは六
方晶ウルツ鉱型の結晶構造のいずれかが優位な第1膜
と、表面に移行するに従って六方晶系のグラファイトに
類似した結晶構造の割合が多くなるように、前記第1膜
の結晶構造と六方晶系のグラファイトに類似した結晶構
造との混成した2層以上の膜とからなる窒化ホウ素含有
膜を形成する窒化ホウ素含有膜被覆基体の製造方法が提
供される。
【0013】本発明を実施するための膜形成装置は、蒸
発源及びイオン源等を具備するものであり、例えば、図
2に示したような膜形成装置を用いることができる。図
2において、1は基体、6は基体ホルダー、7a及び7
bは蒸発源、8はイオン源であり、それらは真空容器9
内に納められている。真空容器9は排気装置12によっ
て所定の真空度に排気され、保持されている。なお、7
a及び7bの蒸発源は電子ビーム、抵抗や高周波によっ
てIVa又はIVb族元素を含有する物質及びホウ素含有物
質を加熱させ蒸気化させるもので、他にスパッタリング
等、任意の手法を用いることができる。また、8のイオ
ン源の方式も特に限定されず、カウフマン型やバケット
型等を適宜用いることができる。また、基体ホルダー6
近傍には基体1への蒸着原子の蒸着量をモニターするこ
とができる膜厚モニター10が、また、基体1へのイオ
ンの照射量をモニターすることができるイオン電流測定
器11が配設されている。これら膜厚モニター10及び
イオン電流測定器11の方式は特に限定されるものでは
なく、例えば、膜厚モニター10としては水晶振動子を
用いたもの、イオン電流測定器11としてはファラデー
カップ等を適宜用いることができる。
発源及びイオン源等を具備するものであり、例えば、図
2に示したような膜形成装置を用いることができる。図
2において、1は基体、6は基体ホルダー、7a及び7
bは蒸発源、8はイオン源であり、それらは真空容器9
内に納められている。真空容器9は排気装置12によっ
て所定の真空度に排気され、保持されている。なお、7
a及び7bの蒸発源は電子ビーム、抵抗や高周波によっ
てIVa又はIVb族元素を含有する物質及びホウ素含有物
質を加熱させ蒸気化させるもので、他にスパッタリング
等、任意の手法を用いることができる。また、8のイオ
ン源の方式も特に限定されず、カウフマン型やバケット
型等を適宜用いることができる。また、基体ホルダー6
近傍には基体1への蒸着原子の蒸着量をモニターするこ
とができる膜厚モニター10が、また、基体1へのイオ
ンの照射量をモニターすることができるイオン電流測定
器11が配設されている。これら膜厚モニター10及び
イオン電流測定器11の方式は特に限定されるものでは
なく、例えば、膜厚モニター10としては水晶振動子を
用いたもの、イオン電流測定器11としてはファラデー
カップ等を適宜用いることができる。
【0014】本発明を実施するにあたっては、基体を基
体ホルダーに設置し、真空容器内に納め、例えば1×1
0-6torr以下の真空度に排気した後、蒸発源よりIVa族
あるいはIVb族元素を含有する物質を加熱し、蒸気化さ
せることによって基体上に蒸着させる。IVa族元素含有
物質としては、Ti,Zr,Hf等の単体、あるいは酸
化物、窒化物を用いることができ、IVb族元素含有物質
としては、C,Si等の単体、酸化物、あるいは窒化物
等を用いることができる。そして、該物質の蒸着と同
時、交互、または蒸着後に、イオン源より窒素イオンあ
るいは不活性ガスイオンのどちらかを含有するイオンを
照射する。この時、IVa族あるいはIVb族元素を含有す
る物質よりなる膜の膜厚は、約10nm〜1000nm
に形成することが好ましい。10nmより薄い場合は、
該膜の密着性に及ぼす効果が充分に出ず、1000nm
より厚い場合には、この後、該膜の上に形成される窒化
ホウ素含有膜に、当該膜の硬度の影響が出てしまい、窒
化ホウ素含有膜の硬度の低下につながるので好ましくな
い。
体ホルダーに設置し、真空容器内に納め、例えば1×1
0-6torr以下の真空度に排気した後、蒸発源よりIVa族
あるいはIVb族元素を含有する物質を加熱し、蒸気化さ
せることによって基体上に蒸着させる。IVa族元素含有
物質としては、Ti,Zr,Hf等の単体、あるいは酸
化物、窒化物を用いることができ、IVb族元素含有物質
としては、C,Si等の単体、酸化物、あるいは窒化物
等を用いることができる。そして、該物質の蒸着と同
時、交互、または蒸着後に、イオン源より窒素イオンあ
るいは不活性ガスイオンのどちらかを含有するイオンを
照射する。この時、IVa族あるいはIVb族元素を含有す
る物質よりなる膜の膜厚は、約10nm〜1000nm
に形成することが好ましい。10nmより薄い場合は、
該膜の密着性に及ぼす効果が充分に出ず、1000nm
より厚い場合には、この後、該膜の上に形成される窒化
ホウ素含有膜に、当該膜の硬度の影響が出てしまい、窒
化ホウ素含有膜の硬度の低下につながるので好ましくな
い。
【0015】このIVa又はIVb族元素を含有する膜を形
成する際に照射するイオンとしては、窒素イオンを用い
るのが効果的であるが、基体の種類によっては以下述べ
る様に、不活性ガスを用いることもできる。例えば、一
般的な切削工具に用いるハイス鋼(高速度工具鋼)の様
な金族といった基体は、該膜を形成する初期に、Ar,
Xeなどの原子量の重い不活性ガスイオンの混合量を増
すことによって基体と膜の混合層の形成を促進し、膜の
表面近くでは窒素イオンの混合量を増し、該膜の表面の
窒化を促進する様にする。また、精密な表面精度を必要
とする金型であって、前記混合層の形成によって表面粗
度が悪くなるのを防ぐ必要のあるものは、例えば、10
KeV以下の低い加速エネルギーの窒素イオンのみを用
い、基体との界面近くでは、基体に到達するIVa又はIV
b族元素と窒素イオンとの個数比(輸送比)を大きく
し、膜を形成するにつれて、連続的あるいは断続的に該
輸送比を小さくする様に膜を形成する。これは、基体付
近には化学的に活性な原子を、化合物を作らないフリー
な状態で多く存在させて、該膜が基体との密着性を向上
する様に働かせ、また該膜の表面付近では膜内に占める
窒化物の割合を多くして、該膜が窒化ホウ素含有膜との
濡れ性の改善に作用する様に働かせるためである。
成する際に照射するイオンとしては、窒素イオンを用い
るのが効果的であるが、基体の種類によっては以下述べ
る様に、不活性ガスを用いることもできる。例えば、一
般的な切削工具に用いるハイス鋼(高速度工具鋼)の様
な金族といった基体は、該膜を形成する初期に、Ar,
Xeなどの原子量の重い不活性ガスイオンの混合量を増
すことによって基体と膜の混合層の形成を促進し、膜の
表面近くでは窒素イオンの混合量を増し、該膜の表面の
窒化を促進する様にする。また、精密な表面精度を必要
とする金型であって、前記混合層の形成によって表面粗
度が悪くなるのを防ぐ必要のあるものは、例えば、10
KeV以下の低い加速エネルギーの窒素イオンのみを用
い、基体との界面近くでは、基体に到達するIVa又はIV
b族元素と窒素イオンとの個数比(輸送比)を大きく
し、膜を形成するにつれて、連続的あるいは断続的に該
輸送比を小さくする様に膜を形成する。これは、基体付
近には化学的に活性な原子を、化合物を作らないフリー
な状態で多く存在させて、該膜が基体との密着性を向上
する様に働かせ、また該膜の表面付近では膜内に占める
窒化物の割合を多くして、該膜が窒化ホウ素含有膜との
濡れ性の改善に作用する様に働かせるためである。
【0016】本発明において、IVa又はIVb族元素を含
有する膜を形成する際のイオンの加速エネルギー、電流
密度等は、特に限定されないが、基体の耐熱性等を考慮
して適宜選択することができる。例えば、超硬合金など
の耐熱性の高い基体の場合には、2KeV以上の加速エ
ネルギーで電流密度の大きな値でイオン照射を行い、樹
脂などの場合には、熱的なダメージが基体にもたらされ
ない様に1KeV以下の加速エネルギー、小さな電流密
度を用いる。また、この際の基体へのイオンの入射角度
は特に限定されず、形成される膜の膜厚を均一にするた
めに、基体を回転しながら成膜を行なっても良い。
有する膜を形成する際のイオンの加速エネルギー、電流
密度等は、特に限定されないが、基体の耐熱性等を考慮
して適宜選択することができる。例えば、超硬合金など
の耐熱性の高い基体の場合には、2KeV以上の加速エ
ネルギーで電流密度の大きな値でイオン照射を行い、樹
脂などの場合には、熱的なダメージが基体にもたらされ
ない様に1KeV以下の加速エネルギー、小さな電流密
度を用いる。また、この際の基体へのイオンの入射角度
は特に限定されず、形成される膜の膜厚を均一にするた
めに、基体を回転しながら成膜を行なっても良い。
【0017】また、IVa又はIVb族元素を含有する膜が
基体上に形成された後、蒸発源よりホウ素含有物質が基
体上に蒸着される。この際のホウ素含有物質はホウ素単
体、ホウ素の酸化物、窒化物、炭化物等任意のものを用
いることができる。そして、当該蒸着と同時、交互また
は蒸着後に、イオン源よりイオンが基体に照射される。
この際用いるイオンは、窒素元素と不活性ガス元素ガス
あるいは水素元素とを含有するイオンを用いることがで
きる。不活性ガス元素ガスや水素元素を含有するイオン
は、蒸発したホウ素原子をより高励起化させ、c−B
N,w−BNの形成に有利になる。また、この際の基体
へのイオンの入射角度も特に限定されず、前記と同じく
基体を回転しながら成膜を行なっても良い。
基体上に形成された後、蒸発源よりホウ素含有物質が基
体上に蒸着される。この際のホウ素含有物質はホウ素単
体、ホウ素の酸化物、窒化物、炭化物等任意のものを用
いることができる。そして、当該蒸着と同時、交互また
は蒸着後に、イオン源よりイオンが基体に照射される。
この際用いるイオンは、窒素元素と不活性ガス元素ガス
あるいは水素元素とを含有するイオンを用いることがで
きる。不活性ガス元素ガスや水素元素を含有するイオン
は、蒸発したホウ素原子をより高励起化させ、c−B
N,w−BNの形成に有利になる。また、この際の基体
へのイオンの入射角度も特に限定されず、前記と同じく
基体を回転しながら成膜を行なっても良い。
【0018】本発明における窒化ホウ素含有膜のc−B
N,w−BNあるいはh−BNの結晶構造の制御は、照
射イオンの加速エネルギー、イオン種、電流密度と、当
該基体上に到達するホウ素原子と窒素イオンとの比(B
/N輸送比)の組合せによって制御することができる。
つまり、イオンの照射エネルギー、電流密度を一定にし
て、基体に到達するホウ素原子と窒素イオンの個数比
(B/N輸送比)を連続的にあるいは断続的に変化させ
たり、同じB/N輸送比でイオンの加速エネルギー、電
流密度を連続的または断続的に変化させる。または、イ
オンの照射エネルギー、B/N輸送比を共に連続的にあ
るいは断続的に変化させる。さらにはイオン種を適宜選
択する等によって行うことができる。例えば、窒素イオ
ンを用いた場合、加速エネルギーが2KeV以上の場
合、電流密度が0.1mA/cm2 以下では、B/N輸
送比を1より大きくすればする程、c−BNやw−BN
の結晶成長が促進され、逆にB/N輸送比が1に近いほ
ど、h−BNが合成され易い。また、電流密度が0.1
mA/cm2 より大きい場合は、B/N輸送比に拘ら
ず、c−BNやw−BNの結晶成長が促進される。ま
た、2KeVより小さい加速エネルギーの窒素イオンを
用いる場合、電流密度に拘らず、B/N輸送比が1に近
い程、c−BNやw−BNの結晶成長が促進され、B/
N輸送比が1より大きくなる程、h−BNが合成され易
い。
N,w−BNあるいはh−BNの結晶構造の制御は、照
射イオンの加速エネルギー、イオン種、電流密度と、当
該基体上に到達するホウ素原子と窒素イオンとの比(B
/N輸送比)の組合せによって制御することができる。
つまり、イオンの照射エネルギー、電流密度を一定にし
て、基体に到達するホウ素原子と窒素イオンの個数比
(B/N輸送比)を連続的にあるいは断続的に変化させ
たり、同じB/N輸送比でイオンの加速エネルギー、電
流密度を連続的または断続的に変化させる。または、イ
オンの照射エネルギー、B/N輸送比を共に連続的にあ
るいは断続的に変化させる。さらにはイオン種を適宜選
択する等によって行うことができる。例えば、窒素イオ
ンを用いた場合、加速エネルギーが2KeV以上の場
合、電流密度が0.1mA/cm2 以下では、B/N輸
送比を1より大きくすればする程、c−BNやw−BN
の結晶成長が促進され、逆にB/N輸送比が1に近いほ
ど、h−BNが合成され易い。また、電流密度が0.1
mA/cm2 より大きい場合は、B/N輸送比に拘ら
ず、c−BNやw−BNの結晶成長が促進される。ま
た、2KeVより小さい加速エネルギーの窒素イオンを
用いる場合、電流密度に拘らず、B/N輸送比が1に近
い程、c−BNやw−BNの結晶成長が促進され、B/
N輸送比が1より大きくなる程、h−BNが合成され易
い。
【0019】また、窒素イオンとArイオンを混合させ
たものを用いて窒化ホウ素含有膜内のBNの結晶構造を
制御することもでき、その場合は、イオンの電流密度に
拘らず、B/N輸送比が1に近づく程、c−BNやw−
BNの結晶成長が促進され、B/N輸送比が1より大き
い場合にはh−BNの結晶成長が促進されるので、それ
を利用して窒化ホウ素含有膜の結晶構造を変化させる。
但し、イオンの加速エネルギーが40KeVを越える
と、膜内に過大な欠陥が生成され、該膜の硬度や化学的
安定性が劣化するので好ましくない。また、B/N輸送
比が0.5より小さい場合には、蒸着ホウ素の照射イオ
ンによるスパッタが過大になり、やはり膜内に過大な欠
陥が生成され、該膜の硬度や化学的安定性が劣化するの
で好ましくない。B/N輸送比が60より多くなると、
膜内に含有される窒化ホウ素の量が少なくなり、該窒化
ホウ素の特性が充分に引き出されなくなるので好ましく
ない。
たものを用いて窒化ホウ素含有膜内のBNの結晶構造を
制御することもでき、その場合は、イオンの電流密度に
拘らず、B/N輸送比が1に近づく程、c−BNやw−
BNの結晶成長が促進され、B/N輸送比が1より大き
い場合にはh−BNの結晶成長が促進されるので、それ
を利用して窒化ホウ素含有膜の結晶構造を変化させる。
但し、イオンの加速エネルギーが40KeVを越える
と、膜内に過大な欠陥が生成され、該膜の硬度や化学的
安定性が劣化するので好ましくない。また、B/N輸送
比が0.5より小さい場合には、蒸着ホウ素の照射イオ
ンによるスパッタが過大になり、やはり膜内に過大な欠
陥が生成され、該膜の硬度や化学的安定性が劣化するの
で好ましくない。B/N輸送比が60より多くなると、
膜内に含有される窒化ホウ素の量が少なくなり、該窒化
ホウ素の特性が充分に引き出されなくなるので好ましく
ない。
【0020】さらに、本発明において、熱的なダメージ
を極端に避けなければならない基体を用いる場合には、
基体ホルダーを水冷により冷却させながら成膜を行うの
が好ましい。
を極端に避けなければならない基体を用いる場合には、
基体ホルダーを水冷により冷却させながら成膜を行うの
が好ましい。
【0021】
【作用】一般に、c−BNやw−BNは、特に金族や樹
脂との濡れ性に劣るため、金族や樹脂からなる基体上に
c−BNやw−BNを含有する膜を形成する場合、膜内
のc−BNの含有量が多くなればなる程、それら基体と
の密着性が劣ってくる傾向にある。さらに下地基体との
格子定数の違いや、基体との熱膨張係数の違いにより、
合成されたc−BNやw−BN内に誘起される内部応力
が過大になる結果、膜の密着性の長期安定性が劣る恐れ
がある。また、例えば樹脂の様な、耐熱性の低い基体へ
の熱的なダメージを考慮して、照射イオンの照射量を大
きくとれない場合にも、膜の密着性の向上は顕著には図
れないことが確認されている。
脂との濡れ性に劣るため、金族や樹脂からなる基体上に
c−BNやw−BNを含有する膜を形成する場合、膜内
のc−BNの含有量が多くなればなる程、それら基体と
の密着性が劣ってくる傾向にある。さらに下地基体との
格子定数の違いや、基体との熱膨張係数の違いにより、
合成されたc−BNやw−BN内に誘起される内部応力
が過大になる結果、膜の密着性の長期安定性が劣る恐れ
がある。また、例えば樹脂の様な、耐熱性の低い基体へ
の熱的なダメージを考慮して、照射イオンの照射量を大
きくとれない場合にも、膜の密着性の向上は顕著には図
れないことが確認されている。
【0022】本発明は、基体上に周期律表におけるIVa
又はIVb族元素を含有する膜が形成され、該膜上に窒化
ホウ素含有膜が形成されている基体であって、前記窒化
ホウ素含有膜の結晶構造が基体表面から膜の表面に移行
するに従って、立方晶系閃亜鉛鉱型あるいは六方晶系ウ
ルツ鉱型の結晶構造の少なくともどちらかを含むものか
ら、立方晶系閃亜鉛鉱型あるいは六方晶系ウルツ鉱型の
結晶構造の少なくともどちらかと、六方晶系のグラファ
イトに類似した結晶構造との混成したものに順次変化し
ているので、IVa又はIVb族元素と窒素イオン又は不活
性ガスイオンとの混合層、あるいはホウ素元素と窒素イ
オンとの混合層が、膜/基体、あるいは膜/膜界面に形
成されることとなり、基体、基体とIVa又はIVb族元素
を含有する膜の構成原子よりなる混合層、IVa又はIVb
族元素を含有する膜、IVa又はIVb族元素を含有する膜
とc−BN含有膜の混合層、c−BN含有膜という構成
になり、IVa又はIVb族元素を含有する膜が化学的に活
性であるために該膜と基体及び該膜とc−BNやw−B
Nを含有する膜の密着性が向上し、基体に対する窒化ホ
ウ素含有膜の密着性が促進される。また、窒化ホウ素含
有膜においては、c−BNやw−BNが下地層として存
在し、上地層にc−BNやw−BNとh−BNとが混在
して存在しているので、硬度が高く、耐摩耗性に優れた
層と、c−BNやw−BNのもつ高硬度とh−BNのも
つ潤滑性及び摺動性とを兼ね合わせた特性をもつ層とが
形成されることとなる。
又はIVb族元素を含有する膜が形成され、該膜上に窒化
ホウ素含有膜が形成されている基体であって、前記窒化
ホウ素含有膜の結晶構造が基体表面から膜の表面に移行
するに従って、立方晶系閃亜鉛鉱型あるいは六方晶系ウ
ルツ鉱型の結晶構造の少なくともどちらかを含むものか
ら、立方晶系閃亜鉛鉱型あるいは六方晶系ウルツ鉱型の
結晶構造の少なくともどちらかと、六方晶系のグラファ
イトに類似した結晶構造との混成したものに順次変化し
ているので、IVa又はIVb族元素と窒素イオン又は不活
性ガスイオンとの混合層、あるいはホウ素元素と窒素イ
オンとの混合層が、膜/基体、あるいは膜/膜界面に形
成されることとなり、基体、基体とIVa又はIVb族元素
を含有する膜の構成原子よりなる混合層、IVa又はIVb
族元素を含有する膜、IVa又はIVb族元素を含有する膜
とc−BN含有膜の混合層、c−BN含有膜という構成
になり、IVa又はIVb族元素を含有する膜が化学的に活
性であるために該膜と基体及び該膜とc−BNやw−B
Nを含有する膜の密着性が向上し、基体に対する窒化ホ
ウ素含有膜の密着性が促進される。また、窒化ホウ素含
有膜においては、c−BNやw−BNが下地層として存
在し、上地層にc−BNやw−BNとh−BNとが混在
して存在しているので、硬度が高く、耐摩耗性に優れた
層と、c−BNやw−BNのもつ高硬度とh−BNのも
つ潤滑性及び摺動性とを兼ね合わせた特性をもつ層とが
形成されることとなる。
【0023】さらに、基体上に周期律表におけるIVa又
はIVb族元素を含有する物質の真空蒸着と、窒素イオン
及び不活性ガスイオンの少なくともいずれかを含むイオ
ンの照射とを併用することによって、IVa又はIVb族元
素を含有する物質よりなる膜を形成した後、該膜上に、
ホウ素元素を含有する物質の真空蒸着又はスパッタと、
少なくとも窒素イオンを含有するイオンの照射とを併用
することによって窒化ホウ素含有膜を形成させるので、
IVa又はIVb族元素の蒸発原子と窒素イオン又は不活性
ガスイオン等の照射イオンが衝突し、それら原子が基体
内部に押し込まれ、膜と基体との混合層が楔の様な働き
をして、膜の密着強度が優れたものとなる。また、ホウ
素元素の蒸発原子と窒素イオン又は不活性ガスイオン等
の照射イオンが衝突することにより、蒸発原子が励起さ
れ、高温・高圧相であるc−BNやw−BNが、非熱平
衡的に、低温下で合成されることとなる。
はIVb族元素を含有する物質の真空蒸着と、窒素イオン
及び不活性ガスイオンの少なくともいずれかを含むイオ
ンの照射とを併用することによって、IVa又はIVb族元
素を含有する物質よりなる膜を形成した後、該膜上に、
ホウ素元素を含有する物質の真空蒸着又はスパッタと、
少なくとも窒素イオンを含有するイオンの照射とを併用
することによって窒化ホウ素含有膜を形成させるので、
IVa又はIVb族元素の蒸発原子と窒素イオン又は不活性
ガスイオン等の照射イオンが衝突し、それら原子が基体
内部に押し込まれ、膜と基体との混合層が楔の様な働き
をして、膜の密着強度が優れたものとなる。また、ホウ
素元素の蒸発原子と窒素イオン又は不活性ガスイオン等
の照射イオンが衝突することにより、蒸発原子が励起さ
れ、高温・高圧相であるc−BNやw−BNが、非熱平
衡的に、低温下で合成されることとなる。
【0024】また、IVb族元素を含有する膜の形成時、
例えばSiの蒸着と窒素イオンの照射を併用すれば、窒
化珪素が形成されたり、Cの蒸着と窒素イオンや不活性
ガスイオン照射を併用すれば、イオンによる励起化作用
によりダイヤモンド構造の炭素膜が形成され、それらは
c−BNと近い格子定数、熱膨張係数をもつことによっ
て、c−BN内に誘起される内部応力が緩和される。ま
た、窒素イオンはIVa又はIVb族元素を含有する膜の表
面を窒化することによって、同じ窒化物の窒化ホウ素含
有膜との濡れ性を向上させる働きをし、その上に形成さ
れる窒化ホウ素含有膜との密着性をさらに促進したり、
c−BNの結晶成長を促進させる。
例えばSiの蒸着と窒素イオンの照射を併用すれば、窒
化珪素が形成されたり、Cの蒸着と窒素イオンや不活性
ガスイオン照射を併用すれば、イオンによる励起化作用
によりダイヤモンド構造の炭素膜が形成され、それらは
c−BNと近い格子定数、熱膨張係数をもつことによっ
て、c−BN内に誘起される内部応力が緩和される。ま
た、窒素イオンはIVa又はIVb族元素を含有する膜の表
面を窒化することによって、同じ窒化物の窒化ホウ素含
有膜との濡れ性を向上させる働きをし、その上に形成さ
れる窒化ホウ素含有膜との密着性をさらに促進したり、
c−BNの結晶成長を促進させる。
【0025】さらに、窒化ホウ素含有膜の硬度は、上地
層であるc−BN,w−BNとh−BNとの混合量を調
節することによって決定され、相手材の硬度に応じて、
その混合の割合を変化させ、相手材と最も良い摺動条件
になる膜硬度を得られる様に決定される。例えば磁気ヘ
ッド表面に当該膜を形成して磁気テープと摺動させる場
合、基体の高硬度を磁気テープの1.5倍程度になる様
にh−BNとc−BNやw−BNを混入させれば、磁気
テープを傷つけることなく、耐摩耗性良好な磁気ヘッド
が開発できるものである。
層であるc−BN,w−BNとh−BNとの混合量を調
節することによって決定され、相手材の硬度に応じて、
その混合の割合を変化させ、相手材と最も良い摺動条件
になる膜硬度を得られる様に決定される。例えば磁気ヘ
ッド表面に当該膜を形成して磁気テープと摺動させる場
合、基体の高硬度を磁気テープの1.5倍程度になる様
にh−BNとc−BNやw−BNを混入させれば、磁気
テープを傷つけることなく、耐摩耗性良好な磁気ヘッド
が開発できるものである。
【0026】
【実施例】本発明による窒化ホウ素含有膜被覆基体は、
図1に示すように、基体1上にIVa又はIVb族元素を含
有する膜2及び窒化ホウ素含有膜3が順次形成されてお
り、基体1とIVa又はIVb族元素を含有する膜2との間
には、それらの構成元素を含有する混合層4、IVa又は
IVb族元素を含有する膜2と窒化ホウ素含有膜3との間
には、それらの構成元素を含有する混合層5がそれぞれ
形成されている。
図1に示すように、基体1上にIVa又はIVb族元素を含
有する膜2及び窒化ホウ素含有膜3が順次形成されてお
り、基体1とIVa又はIVb族元素を含有する膜2との間
には、それらの構成元素を含有する混合層4、IVa又は
IVb族元素を含有する膜2と窒化ホウ素含有膜3との間
には、それらの構成元素を含有する混合層5がそれぞれ
形成されている。
【0027】以下、窒化ホウ素含有膜被覆基体の製造方
法について説明する。
法について説明する。
【0028】実施例1 図2に示す装置を用いて、パーマロイ合金よりなる基体
(25×25×3t)1を基体ホルダー6に設置し、5
×10-7torrの真空度に真空容器9を保持した。その
後、純度99.999%のSiペレットを電子ビーム蒸発源7
aを用いて気化させ、基体1上にIVa又はIVb族元素を
含有する膜2であるSi膜を形成した後、イオン源8に
純度5Nの窒素ガスを真空容器9内が5×10-5torrに
なるまで導入し、イオン源8内にてイオン化させ、基体
1に立てた法線に対して0°の角度で照射した。なお、
イオン源8はカスプ磁場を用いたバケット型イオン源を
用いた。この時のイオンの加速エネルギーは40Ke
V、電流密度は0.1mA/cm2 、B/N輸送比=3
0であった。これにより、約250nm窒化ホウ素含有
膜3(以下「第1層目膜」と記す)を成膜した。
(25×25×3t)1を基体ホルダー6に設置し、5
×10-7torrの真空度に真空容器9を保持した。その
後、純度99.999%のSiペレットを電子ビーム蒸発源7
aを用いて気化させ、基体1上にIVa又はIVb族元素を
含有する膜2であるSi膜を形成した後、イオン源8に
純度5Nの窒素ガスを真空容器9内が5×10-5torrに
なるまで導入し、イオン源8内にてイオン化させ、基体
1に立てた法線に対して0°の角度で照射した。なお、
イオン源8はカスプ磁場を用いたバケット型イオン源を
用いた。この時のイオンの加速エネルギーは40Ke
V、電流密度は0.1mA/cm2 、B/N輸送比=3
0であった。これにより、約250nm窒化ホウ素含有
膜3(以下「第1層目膜」と記す)を成膜した。
【0029】その後、イオンの加速エネルギー2Ke
V、電流密度0.1mA/cm2 、B/N輸送比=8の
条件で約250nmの窒化ホウ素含有膜3(以下「第2
層目膜」と記す)を成膜した。
V、電流密度0.1mA/cm2 、B/N輸送比=8の
条件で約250nmの窒化ホウ素含有膜3(以下「第2
層目膜」と記す)を成膜した。
【0030】さらに、イオンの加速エネルギー200e
V、電流密度0.1mA/cm2 、B/N輸送比=3の
条件で約500nmの窒化ホウ素含有膜3(以下「第3
層目膜」と記す)を成膜した。
V、電流密度0.1mA/cm2 、B/N輸送比=3の
条件で約500nmの窒化ホウ素含有膜3(以下「第3
層目膜」と記す)を成膜した。
【0031】第1層目膜のみを形成したものの構造を赤
外吸収(IR)によって調べたところ、窒化ホウ素含有
膜3はc−BNよりなるものであった。
外吸収(IR)によって調べたところ、窒化ホウ素含有
膜3はc−BNよりなるものであった。
【0032】また、第2層目と第3層目の膜のみを形成
したものの構造を赤外吸収(IR)によって調べたとこ
ろ、窒化ホウ素含有膜3はいずれも、h−BNとc−B
Nよりなるものであった。
したものの構造を赤外吸収(IR)によって調べたとこ
ろ、窒化ホウ素含有膜3はいずれも、h−BNとc−B
Nよりなるものであった。
【0033】比較例1 実施例1と同じ基体1を用い、イオンの加速エネルギー
15KeV、B/N輸送比=15の条件で約500nm
の窒化ホウ素含有膜を成膜し、その後、イオンの加速エ
ネルギー2KeV、B/N輸送比=2の条件で約500
nmの窒化ホウ素含有膜を成膜した。なお、その他の条
件は実施例1と同じであった。
15KeV、B/N輸送比=15の条件で約500nm
の窒化ホウ素含有膜を成膜し、その後、イオンの加速エ
ネルギー2KeV、B/N輸送比=2の条件で約500
nmの窒化ホウ素含有膜を成膜した。なお、その他の条
件は実施例1と同じであった。
【0034】比較例2 実施例1と同じ基体1を用い、イオンの加速エネルギー
10KeV、B/N組成比=15の条件で約1μm成膜
した。なお、その他の条件は実施例1と同じであった。 比較例3 実施例1と同じ基体1を用い、イオンの加速エネルギー
200KeV、B/N組成比=3の条件で約1μm成膜
した。なお、その他の条件は実施例1と同じであった。
10KeV、B/N組成比=15の条件で約1μm成膜
した。なお、その他の条件は実施例1と同じであった。 比較例3 実施例1と同じ基体1を用い、イオンの加速エネルギー
200KeV、B/N組成比=3の条件で約1μm成膜
した。なお、その他の条件は実施例1と同じであった。
【0035】比較例4 実施例1と同じ基体1に対して、実施例1と同じように
してIVa又はIVb族元素を含有する膜2としてSiより
なる膜を形成した後、実施例1と同じようにして、イオ
ンの加速エネルギー15KeV、B/N輸送比=15の
条件で約1μm窒化ホウ素含有膜を成膜した。その他の
条件は実施例1と同じであった。
してIVa又はIVb族元素を含有する膜2としてSiより
なる膜を形成した後、実施例1と同じようにして、イオ
ンの加速エネルギー15KeV、B/N輸送比=15の
条件で約1μm窒化ホウ素含有膜を成膜した。その他の
条件は実施例1と同じであった。
【0036】上記のような各条件下で成膜した試料の硬
度と密着性を測定した結果を表1に示す。
度と密着性を測定した結果を表1に示す。
【0037】
【表1】 なお、硬度は10g微小ビッカース硬度計で測定し、密
着性はダイヤモンド圧子を用いたAEセンサ付きスクラ
ッチ試験機によって、ONから連続的に荷重を圧子に加
えながら膜を引っかき、AE信号が急激に立ち上がる荷
重を剥離荷重として、その値の大きさで評価した。
着性はダイヤモンド圧子を用いたAEセンサ付きスクラ
ッチ試験機によって、ONから連続的に荷重を圧子に加
えながら膜を引っかき、AE信号が急激に立ち上がる荷
重を剥離荷重として、その値の大きさで評価した。
【0038】表1より明らかなように、実施例1によっ
て形成された膜は、いずれも高硬度、高密着性を有して
いた。一方、比較例1のものは、硬度は実施例1と同じ
ものであったが、密着性が実施例1のものより劣る結果
となり、比較例2のものは、実施例のものよりも高硬度
のものが得られたが、密着性は同じく実施例のものより
も大きく劣り、また、比較例3のものは、硬度、密着性
の両者共に実施例のものより劣った。
て形成された膜は、いずれも高硬度、高密着性を有して
いた。一方、比較例1のものは、硬度は実施例1と同じ
ものであったが、密着性が実施例1のものより劣る結果
となり、比較例2のものは、実施例のものよりも高硬度
のものが得られたが、密着性は同じく実施例のものより
も大きく劣り、また、比較例3のものは、硬度、密着性
の両者共に実施例のものより劣った。
【0039】次に、実施例1と比較例4の基体を用いて
#8000ラッピングフィルムを用いた摺動実験を行っ
たところ、実施例1の膜が約50nm摩耗する間に、摺
動させたラッピングフィルムには傷が生じなかったが、
比較例4のものは、膜が約50nm摩耗する間に、ラッ
ピングフィルムに傷がついた。これは、比較例4のもの
は、膜内にc−BNが形成されたものの膜の硬度が摺動
材に比べて高すぎたために、摺動したラッピングフィル
ムとの硬度差が大きくなりすぎ、その結果、摺動材が傷
ついたものと考えられる。
#8000ラッピングフィルムを用いた摺動実験を行っ
たところ、実施例1の膜が約50nm摩耗する間に、摺
動させたラッピングフィルムには傷が生じなかったが、
比較例4のものは、膜が約50nm摩耗する間に、ラッ
ピングフィルムに傷がついた。これは、比較例4のもの
は、膜内にc−BNが形成されたものの膜の硬度が摺動
材に比べて高すぎたために、摺動したラッピングフィル
ムとの硬度差が大きくなりすぎ、その結果、摺動材が傷
ついたものと考えられる。
【0040】なお、パーマロイ合金は音声用磁気ヘッド
の基体、#8000ラッピングフィルムは磁気テープを
想定したものであり、本結果より、実施例の膜を磁気ヘ
ッドの磁気テープとの摺動面に被覆させると、磁気テー
プを傷つけずに耐摩耗性が向上する磁気ヘッドを供給す
ることが可能になり、一方、比較例のものは、実施例の
ものと比較して、膜の硬度か密着性が劣った耐摩耗性の
良くない磁気ヘッドになるか、あるいは耐摩耗性は良好
でも磁気テープを傷つける磁気ヘッドになると考えら
れ、工業上の応用に供されないものとなる。
の基体、#8000ラッピングフィルムは磁気テープを
想定したものであり、本結果より、実施例の膜を磁気ヘ
ッドの磁気テープとの摺動面に被覆させると、磁気テー
プを傷つけずに耐摩耗性が向上する磁気ヘッドを供給す
ることが可能になり、一方、比較例のものは、実施例の
ものと比較して、膜の硬度か密着性が劣った耐摩耗性の
良くない磁気ヘッドになるか、あるいは耐摩耗性は良好
でも磁気テープを傷つける磁気ヘッドになると考えら
れ、工業上の応用に供されないものとなる。
【0041】
【発明の効果】本発明に係わる窒化ホウ素含有膜被覆基
体とその製造方法によれば、 (1)慴動する相手材によって窒化ホウ素含有膜の硬度
が調節でき、相手材を傷つけない耐摩耗性膜を形成する
ことができる。 (2)低温下でc−BN,w−BN含有膜の合成を行う
ことができ、基体の選択の自由度が大きく広がり、硬度
の高い、かつ化学的安定性、摺動性、潤滑性等に優れた
窒化ホウ素含有膜を作製することができる。 (3)IVa又はIVb族元素を含有する膜が窒化ホウ素含
有膜と基体との形成されていることにより、それらの化
学的活性度によって該膜と基体、窒化ホウ素含有膜との
密着性が向上し、結果として、膜全体の基体への密着強
度が向上する。 (4)膜の形成時にイオン照射を併用するので、該膜と
基体、あるいは膜と膜との界面に混合層が形成され、そ
の結果、膜と基体や膜と膜との密着性がさらに向上す
る。 (5)IVa又はIVb族元素を含有する膜の形成時に、窒
素イオンを含むイオンの照射を併用すれば、それら窒化
物の形成により、c−BN,w−BNとの濡れ性が改善
し、また熱膨張係数の差が少なくなることにより該BN
内に誘起される内部応力が緩和され、該窒化ホウ素含有
膜の密着性の長期安定性が確保される。また、c−BN
との格子定数の近い物質が生成される様に、IVa族ある
いはIVb族元素を選択すれば、該膜上に形成されるc−
BNの結晶成長が促進される。
体とその製造方法によれば、 (1)慴動する相手材によって窒化ホウ素含有膜の硬度
が調節でき、相手材を傷つけない耐摩耗性膜を形成する
ことができる。 (2)低温下でc−BN,w−BN含有膜の合成を行う
ことができ、基体の選択の自由度が大きく広がり、硬度
の高い、かつ化学的安定性、摺動性、潤滑性等に優れた
窒化ホウ素含有膜を作製することができる。 (3)IVa又はIVb族元素を含有する膜が窒化ホウ素含
有膜と基体との形成されていることにより、それらの化
学的活性度によって該膜と基体、窒化ホウ素含有膜との
密着性が向上し、結果として、膜全体の基体への密着強
度が向上する。 (4)膜の形成時にイオン照射を併用するので、該膜と
基体、あるいは膜と膜との界面に混合層が形成され、そ
の結果、膜と基体や膜と膜との密着性がさらに向上す
る。 (5)IVa又はIVb族元素を含有する膜の形成時に、窒
素イオンを含むイオンの照射を併用すれば、それら窒化
物の形成により、c−BN,w−BNとの濡れ性が改善
し、また熱膨張係数の差が少なくなることにより該BN
内に誘起される内部応力が緩和され、該窒化ホウ素含有
膜の密着性の長期安定性が確保される。また、c−BN
との格子定数の近い物質が生成される様に、IVa族ある
いはIVb族元素を選択すれば、該膜上に形成されるc−
BNの結晶成長が促進される。
【0042】従って、切削工具、金型、磁気ヘッドある
いは各種の摺動部品といった基体の摩擦・摩耗・潤滑性
能等の性能が向上し、高硬度で優れた摺動性を有する窒
化ホウ素含有膜被覆基体を得ることができる。
いは各種の摺動部品といった基体の摩擦・摩耗・潤滑性
能等の性能が向上し、高硬度で優れた摺動性を有する窒
化ホウ素含有膜被覆基体を得ることができる。
【図1】本発明に係わる窒化ホウ素含有膜被覆基体を示
す概略断面図である。
す概略断面図である。
【図2】本発明の窒化ホウ素含有膜被覆基体を製造する
際に用いられる膜形成装置の要部の概略断面図である。
際に用いられる膜形成装置の要部の概略断面図である。
1 基体 2 IVa又はIVb族元素を含有する膜 3 窒化ホウ素含有膜
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 緒方 潔 京都市右京区梅津高畝町47番地 日新電 機株式会社内 (56)参考文献 特開 平4−45258(JP,A) 特開 平3−260061(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C23C 14/00 - 14/58
Claims (2)
- 【請求項1】 基体上に周期律表におけるIVa又はIVb
族元素を含有する膜が形成され、該膜上に窒化ホウ素含
有膜が形成されている基体であって、前記窒化ホウ素含
有膜が、立方晶系閃亜鉛鉱型あるいは六方晶ウルツ鉱型
の結晶構造のいずれかが優位な第1膜と、その膜上に形
成され、表面に移行するに従って六方晶系のグラファイ
トに類似した結晶構造の割合が多くなるように、前記第
1膜の結晶構造と六方晶系のグラファイトに類似した結
晶構造との混成した2層以上の膜とにより形成されてな
ることを特徴とする窒化ホウ素含有膜被覆基体。 - 【請求項2】 基体上に周期律表におけるIVa又はIVb
族元素を含有する物質の真空蒸着と、窒素イオン及び不
活性ガスイオンの少なくともいずれかを含むイオンの照
射とを併用することによって、IVa又はIVb族元素を含
有する物質よりなる膜を形成した後、該膜上に、ホウ素
元素を含有する物質の真空蒸着又はスパッタと、少なく
とも窒素イオンを含有するイオンの約40KeV以下の
加速エネルギーでの照射とを、前記基体上に到達するホ
ウ素原子と窒素イオンとの比が約0.5〜60となる条
件を少なくとも3種以上組み合わせて併用することによ
って、立方晶系閃亜鉛鉱型あるいは六方晶ウルツ鉱型の
結晶構造のいずれかが優位な第1膜と、表面に移行する
に従って六方晶系のグラファイトに類似した結晶構造の
割合が多くなるように、前記第1膜の結晶構造と六方晶
系のグラファイトに類似した結晶構造との混成した2層
以上の膜とからなる窒化ホウ素含有膜を形成することを
特徴とする窒化ホウ素含有膜被覆基体の製造方法。
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JP4127688A JP2770650B2 (ja) | 1992-05-20 | 1992-05-20 | 窒化ホウ素含有膜被覆基体とその製造方法 |
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