実施の形態1.
実施の形態1に係るエレベータ用ブレーキ装置について説明する。図1は、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置を備えたエレベータの全体構成を示す模式図である。以下の説明では、エレベータ用ブレーキ装置のことを単に「ブレーキ装置」という場合がある。
図1に示すように、エレベータは、巻上機1、かご2、主ロープ3、釣り合いおもり4及びそらせ車5を有している。巻上機1及びそらせ車5は、機械室10に設置されている。機械室10は、昇降路11の上方に設けられている。
巻上機1は、綱車6、ブレーキ装置20、及び不図示のモータを有している。綱車6は、モータの回転軸に固定されている。ブレーキ装置20は、綱車6の回転を制動するように構成されている。
綱車6及びそらせ車5には、主ロープ3が巻き掛けられている。主ロープ3の一端は、かご2の上端に接続されている。主ロープ3の他端は、釣り合いおもり4に接続されている。かご2及び釣り合いおもり4は、主ロープ3によって昇降路11内に吊り下げられている。かご2及び釣り合いおもり4は、綱車6が回転することによって、昇降路11内を昇降する。かご2及び釣り合いおもり4は、綱車6の回転が制動されることによって、静止状態に維持される。
図2は、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置の全体構成を示す部分断面図である。図3は、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置の要部構成を示す部分断面図である。図3の上下方向は、例えば鉛直上下方向を表している。本実施の形態のブレーキ装置20は、励磁コイル43に通電されていない非通電時にブレーキドラム21を制動する無励磁作動型ブレーキ装置である。図2及び図3には、励磁コイル43に通電されている通電時のブレーキ装置20、すなわち非制動状態のブレーキ装置20が示されている。
図2及び図3に示すように、ブレーキ装置20は、ブレーキドラム21と、ブレーキドラム21を制動する制動部22と、制動部22を駆動する駆動部40と、を有している。制動部22は、第1ブレーキシュー25a、第2ブレーキシュー25b、第1ブレーキアーム26a、第2ブレーキアーム26b、第1ブレーキレバー27a、第2ブレーキレバー27b、第1調整ボルト28a、第2調整ボルト28b、第1制動ばね29a、及び第2制動ばね29bを有している。
ブレーキドラム21は、巻上機1のモータの回転軸に取り付けられている。ブレーキドラム21は、綱車6と同期して回転する。
第1ブレーキシュー25a及び第2ブレーキシュー25bのそれぞれは、ブレーキドラム21の外周面と対向して配置されている。第1ブレーキシュー25a及び第2ブレーキシュー25bは、ブレーキドラム21の中心軸を挟んでブレーキドラム21の両側に配置されている。第1ブレーキシュー25aにおいて、ブレーキドラム21と対向する対向面には、第1ライニング24aが設けられている。第2ブレーキシュー25bにおいて、ブレーキドラム21と対向する対向面には、第2ライニング24bが設けられている。ブレーキ装置20が非制動状態にあるとき、第1ライニング24a及び第2ライニング24bは、いずれもブレーキドラム21から離れている。
第1ブレーキシュー25aは、第1ブレーキアーム26aに支持されている。第1ブレーキアーム26aの一端部は、ピン31aを介して静止部材30に回転自在に連結されている。第1ブレーキアーム26aの他端部は、第1制動ばね29aにより、第1ブレーキシュー25aがブレーキドラム21に近づく方向に押されている。第1ブレーキアーム26aのうち一端部と他端部との間の部分には、第1調整ボルト28aが設けられている。
第2ブレーキシュー25bは、第2ブレーキアーム26bに支持されている。第2ブレーキアーム26bの一端部は、ピン31bを介して静止部材30に回転自在に連結されている。第2ブレーキアーム26bの他端部は、第2制動ばね29bにより、第2ブレーキシュー25bがブレーキドラム21に近づく方向に押されている。第2ブレーキアーム26bのうち一端部と他端部との間の部分には、第2調整ボルト28bが設けられている。
第1ブレーキレバー27aは、レバー軸27a1、側面27a2及び上面27a3を有している。第1ブレーキレバー27aは、レバー軸27a1を中心として回転自在に設けられている。側面27a2及び上面27a3は、いずれもレバー軸27a1からずれた位置に設けられている。側面27a2は、第1調整ボルト28aの先端部と接触している。側面27a2には、第1調整ボルト28aを介して、第1制動ばね29aの力が作用している。これにより、第1ブレーキレバー27aには、図2及び図3において反時計回り方向の回転力が作用している。上面27a3は、駆動部40が有するプランジャロッド45の先端部に押し付けられている。
第2ブレーキレバー27bは、レバー軸27b1、側面27b2及び上面27b3を有している。第2ブレーキレバー27bは、レバー軸27b1を中心として回転自在に設けられている。側面27b2及び上面27b3は、いずれもレバー軸27b1からずれた位置に設けられている。側面27b2は、第2調整ボルト28bの先端部と接触している。側面27b2には、第2調整ボルト28bを介して、第2制動ばね29bの力が作用している。これにより、第2ブレーキレバー27bには、図2及び図3において時計回り方向の回転力が作用している。上面27b3は、上面27a3と同様に、プランジャロッド45の先端部に押し付けられている。
駆動部40は、固定部材41、可動鉄心44、プランジャロッド45、及びブッシュ46を有している。
固定部材41は、全体として円筒状の形状を有している。固定部材41は、固定鉄心42及び励磁コイル43を有している。励磁コイル43は、可動鉄心44の外周を囲むように固定鉄心42に取り付けられている。固定鉄心42は、磁束が飽和しない断面形状を有している。固定鉄心42は、鉄心本体42a及びケース体42bを有している。鉄心本体42aは、励磁コイル43よりも内側に配置されている。ケース体42bは、励磁コイル43の周囲を囲むように配置されている。
固定部材41の上面41aは、固定鉄心42のケース体42bによって形成されている。固定部材41には、断面円形状の挿入穴47が形成されている。挿入穴47の開口部は、上面41aに形成されている。挿入穴47は、固定部材41の中心軸に沿って延伸している。挿入穴47の内壁面47aは、固定部材41の中心軸を中心とした円筒面状に形成されている。挿入穴47の内壁面47aのうち上面41aに近い部分は、固定鉄心42のケース体42bによって形成されている。挿入穴47の内壁面47aのうち上面41aから離れた部分は、励磁コイル43によって形成されている。
固定部材41の中心軸に沿った方向における挿入穴47の両側のうち挿入穴47の開口部側とは反対側、すなわち挿入穴47の奥側には、鉄心本体42aが配置されている。鉄心本体42aには、挿入穴47と同軸の貫通穴42a1が形成されている。貫通穴42a1は、挿入穴47の直径よりも小さい直径を有している。
可動鉄心44は、円柱状の形状を有している。可動鉄心44は、挿入穴47に進退自在に挿入されている。励磁コイル43への通電時には、可動鉄心44は、挿入穴47の奥側、すなわち鉄心本体42a側に吸引される。
以下の説明では、可動鉄心44の中心軸44dに沿う方向のことを可動鉄心44の軸方向という場合がある。可動鉄心44の軸方向と垂直な断面において、中心軸44dを中心とした円周に沿う方向のことを可動鉄心44の周方向という場合がある。可動鉄心44の軸方向と垂直な断面において、可動鉄心44の半径に沿う方向のことを可動鉄心44の径方向という場合がある。
可動鉄心44は、可動鉄心44の軸方向における両端に位置する端面として、第1端面44a及び第2端面44bを有している。第1端面44a及び第2端面44bはいずれも、可動鉄心44の軸方向と垂直な平面状に形成されている。第1端面44aは、挿入穴47の奥側に位置している。第1端面44aは、鉄心本体42aと対向している。第2端面44bは、挿入穴47の開口端側に位置している。第2端面44bは、第1端面44aの向きとは逆方向を向いている。
プランジャロッド45は、可動鉄心44の第1端面44aから鉄心本体42a側に突出している。プランジャロッド45は、可動鉄心44と同軸でかつ可動鉄心44よりも直径の小さい円柱状に形成されている。プランジャロッド45は、可動鉄心44と一体に形成されている。プランジャロッド45は、鉄心本体42aの貫通穴42a1に進退自在に挿入されている。
プランジャロッド45の先端部は、第1ブレーキレバー27aの上面27a3及び第2ブレーキレバー27bの上面27b3の双方と接触している。プランジャロッド45及び可動鉄心44には、第1ブレーキレバー27aを介して、第1制動ばね29aの力が作用している。また、プランジャロッド45及び可動鉄心44には、第2ブレーキレバー27bを介して、第2制動ばね29bの力が作用している。可動鉄心44は、第1制動ばね29a及び第2制動ばね29bの力により、鉄心本体42aから離れる方向に押されている。
ブッシュ46は、可動鉄心44の外周面44cと挿入穴47の内壁面47aとの間に設けられている。ブッシュ46は、円筒状の形状を有している。ブッシュ46は、挿入穴47の内壁面47aに固定されている。ブッシュ46は、固定鉄心42に固定されている。
ブッシュ46の内径は、可動鉄心44の外径よりも大きくなっている。可動鉄心44の外周面44cとブッシュ46の内周面との間には、微小な空隙が形成されている。可動鉄心44は、ブッシュ46の内側をブッシュ46の中心軸に沿って進退する。可動鉄心44が進退する際には、可動鉄心44の外周面44cとブッシュ46の内周面とが摺動する。
ブッシュ46は、挿入穴47の軸方向において、挿入穴47の奥側の一部に設けられている。ブッシュ46は、挿入穴47の軸方向において、固定部材41の上面41aよりも奥側に設けられている。挿入穴47の開口端付近には、ブッシュ46が設けられていない。また、ブッシュ46は、挿入穴47の軸方向において、可動鉄心44の第2端面44bよりも奥側に設けられている。挿入穴47の開口端付近では、可動鉄心44の外周面44cと挿入穴47の内壁面47aとは、ブッシュ46を挟まずに対向している。
可動鉄心44の外周面44cと挿入穴47の内壁面47aとの間には、ブッシュ46が設けられていない範囲において、空隙50が形成されている。空隙50の幅、すなわち外周面44cと内壁面47aとの間の距離は、約0.2mmである。可動鉄心44と固定鉄心42との間の磁力は、可動鉄心44と固定鉄心42との間の距離の2乗に反比例する。このため、空隙50の幅は、微小な距離に設定されている。
ブッシュ46に摩耗が生じていない場合、空隙50の幅は、全周にわたって概ね均等に維持される。ブッシュ46の摩耗が進行すると、空隙50の幅は、可動鉄心44の周方向の一部において狭くなる。
固定部材41には、カバー48が着脱自在に取り付けられている。カバー48は、ドーム状の形状を有している。カバー48は、固定部材41の上面41a及び可動鉄心44の第2端面44bを覆っている。カバー48は、空隙50への異物の侵入を防いでいる。
カバー48には、弾性体49が取り付けられている。可動鉄心44は、弾性体49により、鉄心本体42aに近づく方向に押されている。弾性体49が可動鉄心44を押す力は、第1制動ばね29a及び第2制動ばね29bが可動鉄心44を逆方向に押す力よりも小さくなっている。
カバー48及び弾性体49が固定部材41から取り外されると、可動鉄心44の第2端面44bが露出する。この状態では、可動鉄心44及びプランジャロッド45を挿入穴47から抜くことができる。
図4は、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置における可動鉄心及び固定部材の構成を示す上面図である。図4には、カバー48及び弾性体49が固定部材41から取り外された状態の可動鉄心44及び固定部材41が示されている。図5は、図4のV-V断面を示す断面図である。図5の左右方向は、可動鉄心44の径方向を表している。
図4及び図5に示すように、可動鉄心44の外周面44cには、4つの溝51、52、53、54が形成されている。溝51、52、53、54は、可動鉄心44の周方向において等間隔で配列している。可動鉄心44の周方向における溝51、52、53、54の配列ピッチは、90°である。
溝51、52、53、54のそれぞれは、可動鉄心44の径方向に見たとき、可動鉄心44の中心軸44dに沿って延伸している。溝51、52、53、54のそれぞれは、可動鉄心44の第2端面44bに達している。溝51、52、53、54のそれぞれは、挿入穴47の内壁面47aと対向する位置に形成されている。
以下、溝51、52、53、54の構成について溝51を例に挙げて説明するが、溝52、53、54も溝51と同様の構成を有している。溝51の底面51aは、平面状に形成されている。底面51aは、中心軸44dに対して傾斜している。底面51aの延伸方向一端部は、第2端面44bに接続されている。底面51aと第2端面44bとの間には、角部51bが形成されている。底面51aの延伸方向他端部は、外周面44cに接続されている。
溝51は、可動鉄心44の起磁力が飽和しない範囲の大きさに形成されている。例えば、可動鉄心44の直径が45mmである場合、可動鉄心44の周方向における溝51の幅W1は2.5mm程度となり、可動鉄心44の軸方向における溝51の長さL1は15mm程度となる。幅W1及び長さL1は、巻上機1の容量、ブレーキ装置20の制動力などに応じて、適宜設定される。
外周面44cと底面51aとの間における可動鉄心44の径方向に沿った距離を、溝51の溝深さDとする。このとき、溝51の溝深さDは、第2端面44bから離れるほど小さくなっている。溝51の溝深さDは、角部51bにおいて最大値Dmaxをとる。溝深さDの最大値Dmaxは、溝51の長さL1よりも小さい。また、溝深さDの最大値Dmaxは、溝51の幅W1よりも小さい。
溝51の溝深さDは、底面51aと外周面44cとの接続部分において、0となる。本実施の形態では、溝51の溝深さDは、第2端面44bからの距離が増加するに従って、最大値Dmaxから0まで単調かつ直線的に減少している。これにより、図5に示す溝51の断面形状は、くさび状になる。
本実施の形態では、4つの溝51、52、53、54が設けられているが、溝の数は3つ又は5つ以上であってもよい。溝の数は、可動鉄心44の直径等に応じて変更されるようにしてもよい。3つ以上の溝は、可動鉄心44の周方向において等間隔で設けられるのが望ましい。
本実施の形態では、溝51の底面51aと中心軸44dとがなす角度は、後述するギャップ計測器60の先端部の角度θ1よりも小さくなっている。ただし、溝51の底面51aと中心軸44dとがなす角度は、ギャップ計測器60の先端部の角度θ1と同一であってもよい。溝51の底面51aと中心軸44dとがなす角度が角度θ1と同一である場合、ギャップ計測器60の側面を底面51aと面接触させることができる。
次に、ブレーキ装置20の動作について説明する。可動鉄心44には、第1制動ばね29a及び第2制動ばね29bにより、図2及び図3において上向きの力、すなわち鉄心本体42aから離れる方向の力が作用している。これにより、励磁コイル43に通電されていないときには、可動鉄心44の第1端面44aは、鉄心本体42aから離れている。
励磁コイル43に通電されていないとき、第1ライニング24aは、第1制動ばね29aの力により、ブレーキドラム21の外周面に押し付けられている。同様に、第2ライニング24bは、第2制動ばね29bの力により、ブレーキドラム21の外周面に押し付けられている。これにより、綱車6の回転が制動され、かご2が静止状態に維持される。
巻上機1によってかご2を昇降させる際には、励磁コイル43に通電される。通電により励磁コイル43が励磁されると、可動鉄心44は、第1制動ばね29a及び第2制動ばね29bの力に抗して、固定鉄心42の鉄心本体42aに吸引される。これにより、可動鉄心44は、鉄心本体42aに近づく方向に移動する。可動鉄心44の第1端面44aは、鉄心本体42aと接触する。
第1ブレーキアーム26aには、プランジャロッド45、第1ブレーキレバー27a及び第1調整ボルト28aを介して、可動鉄心44からの力が伝達される。第1ブレーキアーム26aは、可動鉄心44から伝達された力により、ブレーキドラム21から離れる方向に押される。このため、第1ライニング24aは、ブレーキドラム21から離れる。
同様に、第2ブレーキアーム26bには、プランジャロッド45、第2ブレーキレバー27b及び第2調整ボルト28bを介して、可動鉄心44からの力が伝達される。第2ブレーキアーム26bは、可動鉄心44から伝達された力により、ブレーキドラム21から離れる方向に押される。このため、第2ライニング24bは、ブレーキドラム21から離れる。
第1ライニング24a及び第2ライニング24bがブレーキドラム21から離れると、綱車6の制動が解放され、巻上機1によるかご2の昇降が許容される。
励磁コイル43への通電及び非通電が繰り返されると、可動鉄心44は、挿入穴47に対して進退動作を繰り返す。可動鉄心44が進退動作を行う際には、可動鉄心44の外周面44cとブッシュ46の内周面とが摺動する。これにより、ブッシュ46は経年的に摩耗する。
ブッシュ46が摩耗した場合、可動鉄心44は、可動鉄心44の径方向においても固定鉄心42に吸引される。これにより、図2~図4に示したように、挿入穴47に対して可動鉄心44が傾き、空隙50の幅が可動鉄心44の周方向の一部において狭くなる。このため、可動鉄心44には摺動不良が生じ得る。
ブッシュ46の摩耗に起因する可動鉄心44の摺動不良を防ぐためには、ブッシュ46の摩耗状態に基づいて適切な時期にブッシュ46を新品に交換する必要がある。このため、可動鉄心44と固定部材41との間の空隙幅が周方向の複数箇所において定期的に測定される。空隙幅の測定箇所が可動鉄心44の周方向において均等な間隔であれば、空隙幅の分布がより正確に得られるため、ブッシュ46の摩耗状態を判断しやすくなる。
図6は、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置において可動鉄心と固定部材との間の空隙幅を測定する方法を示す図である。図6には、図4と同様の部分が示されている。図7は、図6のVII-VII断面を示す断面図である。
図6及び図7に示すように、可動鉄心44と固定部材41との間の空隙幅は、ギャップ計測器60を用いて測定される。ギャップ計測器60は、平板状のテーパゲージである。ギャップ計測器60は、V字状の先端部63と、テーパ状に形成された第1側面61及び第2側面62と、を有している。第1側面61及び第2側面62のそれぞれは、平面状に形成されている。第1側面61は、第2側面62に対して角度θ1で傾いている。ギャップ計測器60の板厚は、溝51の幅W1以下である。
エレベータ用ブレーキ装置の検査を行う検査作業者は、可動鉄心44の溝51、52、53、54のそれぞれと固定部材41との間に、ギャップ計測器60の先端部63を順次挿入する。図6及び図7では、ギャップ計測器60の先端部63は、溝51と固定部材41との間に挿入されている。
本実施の形態では、ギャップ計測器60は、第1側面61が挿入穴47の内壁面47aに沿うように挿入されている。第1側面61は、挿入穴47の内壁面47aと接触している。ギャップ計測器60の第2側面62は、底面51aと第2端面44bとの間の角部51bと接触している。底面51a及び第2端面44bはいずれも平面状であるため、角部51bは直線状に延伸している。このため、第2側面62は、安定して角部51bと接触する。
ギャップ計測器60の挿入長さはL2である。ここで、挿入長さL2は、ギャップ計測器60の先端部63と可動鉄心44の第2端面44bとの間における、挿入穴47の中心軸に沿った距離である。
検査作業者は、ギャップ計測器60を用いて、溝51の底面51aと挿入穴47の内壁面47aとの間の幅W2を取得する。ギャップ計測器60には、幅W2を測定するための目盛が付されている。この場合、検査作業者は、目盛の数値を読み取ることにより、幅W2を取得できる。あるいは、検査作業者は、挿入長さL2と角度θ1とを用いた計算により、幅W2を取得してもよい。
幅W2は、可動鉄心44の径方向に沿った微小寸法である。幅W2は、ギャップ計測器60によって、可動鉄心44の軸方向に沿った寸法に拡大変換される。このため、ギャップ計測器60を用いることにより、幅W2の測定精度を向上させることができる。
溝51の溝深さの最大値Dmaxを幅W2から減じることにより、空隙幅W3が得られる(W3=W2-Dmax)。空隙幅W3は、溝51の位置における可動鉄心44の外周面44cと、挿入穴47の内壁面47aと、の間の空隙50の幅である。
幅W2は、溝51の溝深さの分だけ空隙幅W3よりも広い。したがって、溝51の底面51aと挿入穴47の内壁面47aとの間には、ギャップ計測器60の先端部63を比較的容易に挿入することができる。
同様にして、検査作業者は、溝52、53、54のそれぞれの位置における可動鉄心44の外周面44cと、挿入穴47の内壁面47aと、の間の空隙幅を取得する。これにより、検査作業者は、可動鉄心44の周方向における複数箇所において、可動鉄心44と挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅を測定できる。検査作業者は、これらの空隙幅に基づきブッシュ46の摩耗量を推定し、必要に応じてブッシュ46を交換する。
以上説明したように、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置は、固定部材41と、可動鉄心44と、ブッシュ46と、を備えている。固定部材41は、固定鉄心42及び励磁コイル43を有している。固定部材41には、断面円形状の挿入穴47が形成されている。可動鉄心44は、円柱状の形状を有している。可動鉄心44は、挿入穴47に進退自在に挿入されている。ブッシュ46は、可動鉄心44の外周面44cと挿入穴47の内壁面47aとの間に設けられている。
可動鉄心44は、第1端面44aと、第2端面44bと、を有している。第1端面44aは、挿入穴47の奥側に位置する可動鉄心44の端面である。第2端面44bは、挿入穴47の開口端側に位置する可動鉄心44の端面である。
可動鉄心44の外周面44cには、3つ以上の溝51、52、53、54が形成されている。3つ以上の溝51、52、53、54は、可動鉄心44の周方向に配列している。3つ以上の溝51、52、53、54のそれぞれは、可動鉄心44の中心軸44dに沿って延伸している。3つ以上の溝51、52、53、54のそれぞれは、第2端面44bに達している。
この構成によれば、各溝51、52、53、54の底面と、挿入穴47の内壁面47aと、の間の幅W2から、各溝51、52、53、54の溝深さDを減じることにより、可動鉄心44の外周面44cと挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅W3を得ることができる。幅W2は空隙幅W3よりも広いため、各溝51、52、53、54の底面と挿入穴47の内壁面47aとの間には、可動鉄心44の外周面44cと挿入穴47の内壁面47aとの間よりも、ギャップ計測器60の先端部63を容易に挿入することができる。また、幅W2は空隙幅W3よりも広いため、ギャップ計測器60の目盛の数値を容易に読み取ることができる。
したがって、上記構成によれば、ギャップ計測器60を用いて、可動鉄心44と固定部材41との間の空隙幅W3を容易に測定することができる。よって、上記構成によれば、ブッシュ46の摩耗状態を容易に把握することができる。
本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置において、3つ以上の溝51、52、53、54のそれぞれの底面は、平面状に形成されている。
可動鉄心の外周面は、円筒面状の凸曲面により形成されている。挿入穴の内壁面は、円筒面状の凹曲面により形成されている。これにより、可動鉄心の外周面と挿入穴の内壁面との間には、円弧状の空間が形成されている。一方、一般的なギャップ計測器の2つの側面は、いずれも平面状に形成されている。このため、ギャップ計測器の2つの側面を可動鉄心の外周面及び挿入穴の内壁面にそれぞれ安定して接触させるのは困難になる場合があった。
これに対し、本実施の形態では、各溝51、52、53、54の底面が平面状であるため、平面状の各底面、又は各底面と第2端面44bとの間の直線状の角部に、ギャップ計測器60の第2側面62を安定して接触させることができる。したがって、本実施の形態によれば、各溝51、52、53、54の底面と、挿入穴47の内壁面47aと、の間の幅W2を容易に測定することができる。
本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置において、可動鉄心44の外周面44cと、溝51、52、53、54のそれぞれの底面と、の間における可動鉄心44の径方向に沿った距離を、溝深さDとする。このとき、溝51、52、53、54のそれぞれの溝深さDは、第2端面44bから離れるほど浅くなっている。溝51、52、53、54のそれぞれの底面の延伸方向一端部は、第2端面44bに接続されている。溝51、52、53、54のそれぞれの底面の延伸方向他端部は、外周面44cに接続されている。
この構成によれば、ギャップ計測器60の第2側面62と、各溝51、52、53、54の底面と、を面接触させることが可能になる。したがって、各溝51、52、53、54の底面と、挿入穴47の内壁面47aと、の間の幅W2をさらに容易に測定することができる。
実施の形態2.
実施の形態2に係るエレベータ用ブレーキ装置の検査方法について説明する。図8は、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置における可動鉄心及び固定部材の構成を示す断面図である。図8に示すように、可動鉄心70は、円柱状の形状を有している。可動鉄心70は、可動鉄心70の軸方向における両端に位置する端面として、第1端面及び第2端面70bを有している。実施の形態1の可動鉄心44とは異なり、可動鉄心70の外周面70cには、溝が形成されていない。可動鉄心70及びそれを備えたエレベータ用ブレーキ装置のそれ以外の構成は、実施の形態1と同様である。
可動鉄心70及び不図示のプランジャロッドは、実施の形態1の可動鉄心44及びプランジャロッド45と同様に、可動鉄心70の軸方向に沿って挿入穴47から抜くことができるように構成されている。このため、可動鉄心70及びプランジャロッドは、検査時に、後述する検査治具71と交換できるようになっている。
図9は、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置の検査方法に用いられる検査治具の構成を示す断面図である。図9に示すように、検査治具71は、円柱状の形状を有している。検査治具71の直径は、可動鉄心70の直径と同一である。検査治具71は、可動鉄心70に代えて、挿入穴47に挿入できるようになっている。中心軸71dに沿った検査治具71の長さは、中心軸70dに沿った可動鉄心70の長さと同一であってもよい。つまり、検査治具71は、溝の有無を除き、可動鉄心70と実質的に同一の大きさ及び形状を有していてもよい。
検査治具71は、可動鉄心70と同一の材質により形成されている。可動鉄心70とプランジャロッドとが一体に形成されている場合、検査治具71は、可動鉄心部とプランジャロッド部とを有していてもよい。例えば、検査治具71の可動鉄心部は、溝の有無を除き、可動鉄心70と実質的に同一の大きさ及び形状を有する。検査治具71のプランジャロッド部は、プランジャロッドと同一の大きさ及び形状を有し、可動鉄心部と一体に成形される。
以下の説明では、検査治具71の中心軸71dに沿う方向のことを検査治具71の軸方向という場合がある。検査治具71の軸方向と垂直な断面において、中心軸71dを中心とした円周に沿う方向のことを検査治具71の周方向という場合がある。検査治具71の軸方向と垂直な断面において、検査治具71の半径に沿う方向のことを検査治具71の径方向という場合がある。
検査治具71は、検査治具71の軸方向における両端に位置する端面として、第1端面及び第2端面71bを有している。図9には、第2端面71bのみが示されている。検査治具71が挿入穴47に挿入されたとき、第1端面は挿入穴47の奥側に位置し、第2端面71bは挿入穴47の開口端側に位置する。
検査治具71の外周面71cには、実施の形態1の可動鉄心44と同様に、4つの溝が形成されている。図9には、4つの溝のうち2つの溝72、73のみが示されている。4つの溝は、検査治具71の周方向において等間隔で配列している。検査治具71の周方向における4つの溝の配列ピッチは、90°である。溝の数は、3つ又は5つ以上であってもよい。溝の数は、検査治具71の直径等に応じて変更されるようにしてもよい。3つ以上の溝は、検査治具71の周方向において等間隔で設けられるのが望ましい。
4つの溝のそれぞれは、検査治具71の径方向に見たとき、検査治具71の中心軸71dに沿って延伸している。4つの溝のそれぞれは、検査治具71の第2端面71bに達している。4つの溝のそれぞれは、検査治具71が挿入穴47に挿入されたときに挿入穴47の内壁面47aと対向する位置に形成されている。
検査治具71に形成された4つの溝のそれぞれは、実施の形態1の可動鉄心44に形成された溝51と同様の構成を有している。以下、検査治具71の4つの溝の構成について、溝72を例に挙げて説明する。溝72の底面72aは、平面状に形成されている。底面72aは、中心軸71dに対して傾斜している。底面72aの延伸方向一端部は、第2端面71bに接続されている。底面72aと第2端面71bとの間には、角部72bが形成されている。底面72aの延伸方向他端部は、外周面71cに接続されている。
外周面71cと底面72aとの間における検査治具71の径方向に沿った距離を、溝72の溝深さDとする。このとき、溝72の溝深さDは、第2端面71bから離れるほど小さくなっている。溝72の溝深さDは、角部72bにおいて最大値Dmaxをとる。溝深さDの最大値Dmaxは、溝72の長さL1よりも小さい。
溝72の溝深さDは、底面72aと外周面71cとの接続部分において、0となる。本実施の形態では、溝72の溝深さDは、第2端面71bからの距離が増加するに従って、最大値Dmaxから0まで単調かつ直線的に減少している。これにより、図9に示す溝72の断面形状は、くさび状になる。
本実施の形態では、溝72の底面72aと中心軸71dとがなす角度は、ギャップ計測器60の先端部63の角度θ1と同一、又はそれよりも小さくなっている。
次に、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置の検査方法について説明する。図10は、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置の検査方法の流れを示すフローチャートである。
まず、図10のステップS1では、検査作業者は、カバー48及び弾性体49を固定部材41から取り外し、可動鉄心70及びプランジャロッドを挿入穴47から抜く。可動鉄心70とプランジャロッドとが別体に形成されている場合、検査作業者は、可動鉄心70のみを挿入穴47から抜くようにしてもよい。
次に、ステップS2では、検査作業者は、挿入穴47に検査治具71を挿入する。その後、検査作業者は、必要に応じて励磁コイル43に通電する。これにより、ブッシュ46が摩耗している場合、検査治具71は、検査治具71の径方向においても固定鉄心42に吸引される。
次に、ステップS3では、検査作業者は、検査治具71と固定部材41との間の空隙幅を測定する。検査治具71と固定部材41との間の空隙幅を測定する手順は、実施の形態1における可動鉄心44と固定部材41との間の空隙幅を測定する手順と同様である。
すなわち、ステップS3では、V字状の先端部63を有するギャップ計測器60が、溝72の底面72aと挿入穴47の内壁面47aとの間に挿入される。これにより、ギャップ計測器60を用いて、溝72の底面72aと挿入穴47の内壁面47aとの間の幅が測定される。底面72aと内壁面47aとの間の幅から、溝72の溝深さの最大値Dmaxを減じることにより、溝72の位置における検査治具71の外周面71cと挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅が得られる。
同様にして、検査作業者は、溝72以外の3つの溝の位置において、検査治具71の外周面71cと挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅を取得する。これにより、検査治具71の周方向における複数箇所において、検査治具71と挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅が得られる。
検査治具71の直径は可動鉄心70の直径と同一である。このため、各箇所における検査治具71と挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅は、対応する箇所における可動鉄心70と挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅に相当する。検査作業者は、これらの空隙幅に基づきブッシュ46の摩耗量を推定し、必要に応じてブッシュ46を交換する。
検査の終了後、検査治具71が挿入穴47から抜かれ、可動鉄心70及びプランジャロッドが挿入穴47に挿入される。そして、カバー48及び弾性体49が固定部材41に取り付けられる。以上のような流れにより、エレベータ用ブレーキ装置の検査が行われる。
以上説明したように、本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置の検査方法は、固定部材41と、可動鉄心70と、ブッシュ46と、を備えるエレベータ用ブレーキ装置を検査する方法である。固定部材41は、固定鉄心42及び励磁コイル43を有している。固定部材41には、断面円形状の挿入穴47が形成されている。可動鉄心70は、円柱状の形状を有している。可動鉄心70は、挿入穴47に進退自在に挿入されている。ブッシュ46は、可動鉄心70の外周面70cと挿入穴47の内壁面47aとの間に設けられている。
本実施の形態に係るエレベータ用ブレーキ装置の検査方法は、ステップS1と、ステップS2と、ステップS3と、を有している。ステップS1では、可動鉄心70が挿入穴47から抜かれる。ステップS2では、挿入穴47に検査治具71が挿入される。ステップS3では、検査治具71と挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅が測定される。ステップS1は、第1ステップの一例である。ステップS2は、第2ステップの一例である。ステップS3は、第3ステップの一例である。
検査治具71は、円柱状の形状を有している。検査治具71の直径は、可動鉄心70の直径と同一である。検査治具71は、第1端面と、第2端面71bと、を有している。第1端面は、挿入穴47の奥側に位置する端面である。第2端面71bは、挿入穴47の開口端側に位置する端面である。
検査治具71の外周面71cには、3つ以上の溝が形成されている。3つ以上の溝は、検査治具71の周方向に配列している。3つ以上の溝のそれぞれは、検査治具71の中心軸71dに沿って延伸している。3つ以上の溝のそれぞれは、第2端面71bに達している。
検査治具71の外周面71cと、3つ以上の溝のそれぞれの底面と、の間における検査治具71の径方向に沿った距離を、3つ以上の溝のそれぞれの溝深さDとする。このとき、3つ以上の溝のそれぞれの溝深さDは、第2端面71bから離れるほど浅くなっている。
ステップS3では、V字状の先端部63を有するギャップ計測器60が、3つ以上の溝のそれぞれの底面と挿入穴47の内壁面47aとの間に挿入される。
この構成によれば、ブレーキ装置20の検査を行う際、可動鉄心70と検査治具71とを交換することにより、ギャップ計測器60を用いて検査治具71と挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅を容易に測定することができる。ブッシュ46の摩耗量は、検査治具71と挿入穴47の内壁面47aとの間の空隙幅によって推定できる。このため、可動鉄心70の外周面70cに溝が形成されていない既設のブレーキ装置20においても、ブッシュ46の摩耗状態を容易に把握することができる。
上記実施の形態1及び2では、プランジャロッド45、第1ブレーキレバー27a、第2ブレーキレバー27b、第1調整ボルト28a、第2調整ボルト28b、第1ブレーキアーム26a及び第2ブレーキアーム26bを備えたブレーキ装置20を例に挙げたが、ブレーキ装置はこれに限られない。ブレーキ装置は、励磁コイルへの通電の有無によって可動鉄心が固定部材に対して進退移動し、可動鉄心の進退移動によって制動状態と非制動状態とが切り替えられるものであれば、どのような構造を有していてもよい。
上記実施の形態1では、4つの溝51、52、53、54のそれぞれの溝深さDが第2端面44bから離れるほど浅くなっているが、これには限られない。例えば、4つの溝51、52、53、54のそれぞれの溝深さDは、第2端面44bからの距離に関わらず一定であってもよい。また、上記実施の形態1では、4つの溝51、52、53、54のそれぞれが第1端面44aには達していないが、4つの溝51、52、53、54のそれぞれは第1端面44aに達していてもよい。
同様に、上記実施の形態2では、4つの溝のそれぞれの溝深さDが第2端面71bから離れるほど浅くなっているが、これには限られない。例えば、4つの溝のそれぞれの溝深さDは、第2端面71bからの距離に関わらず一定であってもよい。また、上記実施の形態2では、4つの溝のそれぞれが検査治具71の第1端面には達していないが、4つの溝のそれぞれは検査治具71の第1端面に達していてもよい。