JP2023177002A - 水性前処理液、インキセット、印刷物、及び、分離方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】白抜けや混色滲みといった欠陥がなく、画像品質に優れるとともに、塩基性溶液下で実施する分離処理における分離性にも優れた印刷物が得られ、保存安定性も良好である水性前処理液を提供する。また、上述した目的が達成できるうえ、耐擦過性にも優れた印刷物を得ることができる水性前処理液を提供する。【解決手段】水性インクジェットインキとともに用いられる水性前処理液であって、前記水性前処理液が、樹脂(A)と、界面活性剤(B)と、凝集剤と、水溶性有機溶剤とを含み、前記樹脂(A)が、けん化度が80モル%以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含み、前記界面活性剤(B)が、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)を含み、前記水溶性有機溶剤が、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)を含む、水性前処理液。【選択図】なし

Description

本発明は、水性前処理液、当該水性前処理液と水性インクジェットインキとを含むインキセット、当該水性前処理液を用いて製造された印刷物、ならびに、当該印刷物からの上記水性インクジェットインキから形成された層の分離方法に関する。
インクジェット印刷方式とは、微細なノズルからインキの液滴を基材上に吐出及び付着させ、文字や画像が形成された印刷物を得る方式である。オフセット印刷方式及びグラビア印刷方式といった従来の有版印刷方式に対し、印刷装置の小型化が可能である、カラー化が容易である、画像品質が印刷環境の影響を受けにくい、といった特徴を有しており、オフィス用途や家庭用途においてのみならず、産業用途においても、その利用が進んでいる。また従来、産業用途においてインクジェット印刷方式で用いられるインキは、溶剤インキや紫外線硬化型インキであったものの、印刷担当者に対する安全面及び健康面等から、水を主成分として含む水性インキの需要が高まっている。
更に近年では、コート紙やアート紙、微塗工紙のような低浸透性基材や、プラスチック基材のような非浸透性基材に対する印刷物における、画像品質の向上、具体的には、白抜け(印字率が高い印刷物等において、インキの濡れ広がり不良等により、基材表面が露出してしまっている現象)及び混色滲みの防止を目的として、水性インクジェットインキ中に存在する固体成分(顔料及び/または樹脂)の凝集や、当該水性インクジェットインキの増粘を意図的に引き起こすことができる成分(凝集剤)を含む、前処理液が使用される(例えば、特許文献1、2参照)。また、当該前処理液に種々の樹脂を加えることで、耐擦過性の向上や基材密着性の付与といった、印刷物の特性を向上することも行われている。
上記樹脂として、これまで様々な種類の樹脂が検討及び使用されている。一例として、特許文献3~7では、ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールと、凝集剤とを含む水性前処理液が製造され、紙基材、プラスチック基材、金属基材、ガラス基材等の基材に対して使用されている。一般にビニルアルコール系樹脂は、日用品や医薬品等にも使用されており、通常使用下では比較的安全性が高いとされていることから、印刷担当者や消費者に対する安全面及び健康面の観点では好適といえる。
なお、本願において「水性(前処理液、インクジェットインキ)」という表現は、対象となる前処理液やインクジェットインキ中に含まれる水の量が、50質量%以上であることを意味するものである。また、本願における「水性媒体」とは、少なくとも水を含む液体からなる媒体を指す。
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記特許文献3~7に記載された水性前処理液は、経時で水性前処理液のpHが変化する、沈殿物が析出する、等、保存安定性に問題があることが判明した。特に上記産業用途において、安定的かつ長期に渡って、画像品質に優れた印刷物を製造できることは重要な要素であり、水性前処理液の保存安定性と印刷物の画像品質との両立は、必須といえる。
一方で近年、環境保護の観点から、印刷物から基材を再生する取り組みが進められている。印刷古紙(紙基材に印刷された印刷物)からの再生紙の製造はその一例であり、具体的には、当該印刷古紙からインキ等を除去し、脱墨パルプを製造したのち、漂白、抄紙等の工程を経て再生紙が製造される。また、環境汚染の要因となるプラスチック廃棄物の削減を目的に、プラスチック基材に対する印刷物から、インキ等を除去し再利用する、あるいは、当該除去後のプラスチック基材から再生ペレットを製造したのち、成型加工して再生プラスチック製品とする検討も進められている。
しかしながら従来の検討の多くは、従来の有版印刷方式によって製造された印刷物が使用されており、インクジェット印刷方式で作製された印刷物から、再生紙、再利用プラスチック基材、再生プラスチック製品等(本願では、これらの基材を総称して「再生基材等」と呼ぶ)を得るための検討は、十分には行われていない状況である。特に、上記産業用途においてインクジェット印刷方式を採用する場合、大量の印刷物が製造されることになるため、環境保護の観点からも、これらの印刷物からの再生基材等の製造は重要である。
以上のように、特に産業用途において使用されるインクジェット印刷方式において、保存安定性及び印刷物の画像品質に優れ、更には、当該印刷物から水性インクジェットインキから形成された層を容易に分離できる水性前処理液を得るためには、更なる検討が必要な状況であった。
特開2004-276253号公報 特開2011-056884号公報 特開2017-128117号公報 特開2017-148940号公報 特開2018-114751号公報 特開2019-127495号公報 特開2022-030295号公報
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、画像品質に優れる(具体的には、白抜けや混色滲みといった欠陥が防止できる)とともに、塩基性溶液下で実施する分離処理における分離性にも優れた印刷物が得られ、更には保存安定性も良好である水性前処理液を提供することにある。また本発明の更なる目的は、上述した目的が達成できるうえ、耐擦過性にも優れた印刷物を得ることができる水性前処理液を提供することにある。
本発明者らが、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂と、特定のHLB値を有する界面活性剤とを併用した水性前処理液を見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下の[1]~[9]に関する。
[1]水性インクジェットインキとともに用いられる水性前処理液であって、
前記水性前処理液が、樹脂(A)と、界面活性剤(B)と、凝集剤と、水溶性有機溶剤(C)とを含み、
前記樹脂(A)が、けん化度が80モル%以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含み、
前記界面活性剤(B)が、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)を含み、
前記水溶性有機溶剤が、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)を含む、水性前処理液。
[2]前記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のエチレン変性度が、0.8~50モル%である、[1]記載の水性前処理液。
[3]前記凝集剤が、多価金属塩を含み、
前記多価金属塩を構成する対アニオンが、酸素原子を有する対アニオンである、[1]または[2]に記載の水性前処理液。
[4]前記分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)の含有量と、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量との質量比が、1:0.1~1:3.0である、[1]~[3]のいずれかに記載の水性前処理液。
[5]前記HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)が、アセチレンジオール系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、及び、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の水性前処理液。
[6]前記HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)が、アセチレンジオール系界面活性剤と、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤及び/または(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤とを含む、[5]記載の水性前処理液。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の水性前処理液と、顔料、樹脂、及び、水を含む水性インクジェットインキとを含む、インキセット。
[8]基材、[1]~[6]のいずれかに記載の前処理液を用いて形成された前処理層、ならびに、顔料、樹脂、及び、水を含む水性インクジェットインキから形成された層を、この順に有する印刷物。
[9][8]記載の印刷物を塩基性溶液に浸漬する工程を含む、前記印刷物からの水性インクジェットインキから形成された層の分離方法。
本発明により、画像品質に優れる(具体的には、白抜けや混色滲みといった欠陥が防止できる)とともに、塩基性溶液下で実施する分離処理における分離性にも優れた印刷物が得られ、更には保存安定性も良好である水性前処理液を提供することが可能となった。また本発明により、上述した効果が得られるうえ、耐擦過性にも優れた印刷物を得ることができる水性前処理液を提供することが可能となった。
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものであり、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。また本発明は、発明の要旨を逸脱しない範囲で実施される各種の変形例も含む。
上述したように、凝集剤及びポリビニルアルコールを含む水性前処理液は、従来から知られている。このうち凝集剤は、後から印刷される水性インクジェットインキ中に存在する固体成分の分散状態を破壊する、及び/または、水性インクジェットインキ中の成分と相互作用を起こし当該水性インクジェットインキを意図的に増粘させることができ、混色滲みのない印刷物を得るためには必須の材料である。また、ビニルアルコール系樹脂は、水酸基を多く有しており水性インクジェットインキとの親和性が高いため、当該水性インクジェットインキの濡れ広がり性の向上、及び、当該水性インクジェットインキ内への上記凝集剤の拡散の迅速化が可能となる。更にビニルアルコール樹脂を含む前処理層は、水性インクジェットインキ中に含まれる水性媒体の一部を吸収することができる。これらの効果により、ビニルアルコール樹脂を使用することで、印刷物における画像品質(白抜け及び混色滲みの防止)、ならびに、乾燥性の特段の向上が実現できる。
なお本願では、水性前処理液から形成された層を「前処理液層」または「前処理層」と呼ぶ。また上記「前処理液層」(「前処理層」)は、湿潤状態(例えば、基材上に水性前処理液を付与した直後の状態)の層と、乾固状態(例えば、基材上に水性前処理液を付与した後、乾燥させた後の状態)の層の両方を含むものとする。
更に本願において「水性前処理液の付与」は、非接触での水性前処理液の印刷、及び、基材に当接させての水性前処理液の塗工、を総称する用語として使用される。
その一方、本発明者らが検討したところ、凝集剤とポリビニルアルコール樹を含む水性前処理液は、保存安定性に劣る恐れがあることが判明した。具体的には、けん化度が高いポリビニルアルコールは、実質的にビニルアルコール構造単位のみからなるため、結晶性の高さに起因した析出が発生しやすい。また、けん化度が低いポリビニルアルコールは、酢酸ビニル構造単位が加水分解を起こすことで、当該ポリビニルアルコールの構成の変化、及び、発生した酢酸による水性前処理液の酸性化が生じてしまう。更に、上述した凝集剤の機能により、ポリビニルアルコールの溶解性が低下し、不溶化に伴う析出が発生する恐れもある。
そこで本発明では、水性前処理液に含まれる樹脂(A)として、けん化度が80モル%以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を使用している。すなわち、けん化度を一定値以上とすることで、酢酸ビニル構造単位の存在割合を減らし、経時に伴う、共重合樹脂の構成の変化、及び、水性前処理液の酸性化を抑制している。また、ビニルアルコール構造単位及びエチレン構造単位を含む共重合樹脂を使用することで、当該共重合樹脂の結晶性を低下させ、析出物の発生を防止している。
一方、エチレン構造単位は疎水性が高いため、けん化度が80モル%以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)は、ビニルアルコール樹脂と比べ、水性前処理液の主成分である水との親和性が必ずしも高くない。そのため、上述した結晶化は防げるとしても、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂の不溶化に伴う析出が発生する恐れがある。また単に、上述した従来既知の水性前処理液に含まれるポリビニルアルコールをエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂に置換しただけでは、上述した凝集剤による当該エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂の溶解性低下を抑制することができず、上記不溶化に伴う析出が加速される可能性もある。
そこで本発明では、水との親和性が高い、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)を併用することで、上記不溶化に伴う析出を防止している。その詳細なメカニズムは不明であるが、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)が、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)に対する乳化剤のように振る舞い、水性前処理液中での当該エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の存在を安定化させるとともに、凝集剤の接近を抑制していることが考えられる。
また、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)は、後から印刷される水性インクジェットインキとも親和しやすいと考えられることから、上述したビニルアルコール樹脂を使用した際と同様、上記水性インクジェットインキの濡れ広がり性の向上、及び、当該水性インクジェットインキ内への上記凝集剤の拡散の迅速化が可能となり、画像品質の一層の向上、具体的には白抜け及び混色滲みの防止が実現できる。
更に、本発明の水性前処理液は、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)を含む。水溶性有機溶剤(C-1)は、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)、及び、水の全てに対して、親和性が高いと考えられる。その結果、これらの材料を、水性前処理液内で均一に拡散させることができ、印刷物の画像品質及び分離性の一層の向上が可能となるうえ、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)と凝集剤との接触角率が小さくなることで、水性前処理液の保存安定性も向上できると考えられる。
なお上述した通り、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)は、疎水性が高いエチレン構造単位、及び、親水性の高いビニルアルコール構造単位の両方を含む。そのため、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含む水性前処理液を用いて製造した印刷物から、塩基性溶液を用いて水性インクジェットインキから形成された層を分離処理する際、当該塩基性溶液の吸収に伴う前処理層の膨潤が発生し、水性インクジェットインキから形成された層が分離しやすい。またフローテーション法を採用する際、前処理層を介して、上記水性インクジェットインキから形成された層が気泡に吸着しやすい。その結果、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含む水性前処理液は、分離性に優れた印刷物の製造にも有効なものとなる。
以上のように、上述した課題を同時かつ好適に解決するためには、本発明の構成を有する水性前処理液の使用は必須不可欠である。
続いて以下に、本発明の水性前処理液を構成する材料について、詳細に説明する。
<樹脂(A)>
本発明の水性前処理液は樹脂(A)を含み、また当該樹脂(A)として、けん化度が80モル%以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含む。上述した通り、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を使用することで、水性前処理液の保存安定性が向上できる。また、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含む前処理層が、後から印刷される水性インクジェットインキ中に含まれる水性媒体の一部を吸収することで、乾燥性の向上、及び、上記水性インクジェットインキの液滴同士の合一を抑制することによる画像品質の良化(特に、混色滲みの防止)が可能となる。更に、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)は、塩基性溶液の吸収及び膨潤、ならびに、気泡への吸着にも寄与するため、当該エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含む水性前処理液を用いた印刷物は、水性インクジェットインキから形成された層の分離性にも優れたものとなる。加えて上述した通り、水溶性有機溶剤(C-1)との併用により、水性前処理液中でエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)が均一に拡散され、これらの効果が更に高まる。
(エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1))
エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)は、少なくとも、下記式1で表される構造単位、及び、下記式2で表される構造単位を、主鎖に有する。

Figure 2023177002000001
また、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の主鎖には、一般式3で表される構造単位が含まれていてもよい。

Figure 2023177002000002
一般式3中、R1は、酸素原子を含んでもよい炭化水素基を表し、例えば、アセチル基、アシル基(ただしアセチル基を除く)、アセトアセチル基等が挙げられる。
本願では、式1で表される構造単位を「エチレン構造単位」;式2で表される構造単位を「ビニルアルコール構造単位」;一般式3で表される構造単位のうち、R1がアセチル基であるものを「酢酸ビニル構造単位」;一般式3で表される構造単位のうち、R1がアセチル基以外であるものを「その他構造単位」と呼ぶ。
上述した通り、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のけん化度は80モル%以上であり、このような共重合樹脂(A-1)を使用することで、経時に伴う構成の変化、及び、水性前処理液の酸性化を抑制している。また、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のけん化度が80モル%以上であると、当該エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の親水性の向上に起因した、水性インクジェットインキの吸収、ならびに、水酸基同士による水素結合の形成による、印刷物の強度の増加も起きる。以上の観点、すなわち、水性前処理液の保存安定性を向上させるという観点、ならびに、印刷物における混色滲みの防止、及び、耐擦過性の向上という観点から、けん化度は85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが特に好ましい。
なお、本願におけるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のけん化度は、下記式4により算出することができる。

式4:(けん化度)(モル%)=MVAL÷(MVAL+MVAC+MOVE)
式4中、MVALは、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)分子の主鎖に存在するビニルアルコール構造単位のモル含有率(モル%)であり、MVACは、当該エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)分子の主鎖に存在する酢酸ビニル構造単位のモル含有率(モル%)であり、MOVEは、当該エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)分子の主鎖に存在するその他構造単位のモル含有率(モル%)である。ただし、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)分子中に酢酸ビニル構造単位が存在しない場合、MVACはゼロとし、その他構造単位が存在しない場合、MOVEはゼロとする。
ここで、合成品である場合等、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を構成する重合性単量体の種類及びモル含有率が判明している場合は、上記式3におけるMVAL、MVAC及びMOVEとして、当該モル含有率をそのまま使用することができる。一方で、市販品である場合等、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を構成する重合性単量体の種類及びモル含有率が不明である場合は、例えばNMR(核磁気共鳴)測定により、当該重合性単量体の種類及びモル含有率を測定したのち、当該モル含有率を用いて、上記式3によりけん化度を算出することができる。
一方、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のエチレン変性度は、水性前処理液の保存安定性の確保、ならびに、水性インクジェットインキや塩基性溶液の吸収による、混色滲みの抑制及び分離性の向上といった観点から、0.8~50モル%であることが好ましく、1.0~35モル%であることがより好ましく、1.2~20モル%であることが更に好ましく、1.5~10モル%であることが特に好ましく、1.8~8.0モル%であることが極めて好ましい。
また、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のエチレン変性度が上記範囲内であると、当該エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のガラス転移温度(Tg)が約60℃以上になる。そのため、上記範囲内のエチレン変性度を有するエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂を使用した場合、上述した効果に加えて、耐擦過性にも優れた印刷物を得ることが可能となる。
なお、本願におけるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のエチレン変性度は、下記式5により算出することができる。

式5:(エチレン変性度)(モル%)=MET÷(MET+MVAL+MVAC+MOVE)
式5中、METは、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)分子の主鎖に存在するエチレン構造単位のモル含有率(モル%)であり、MVAL、MVAC及びMOVEは、式4の場合と同様である。また、METの測定及び算出方法に関しても、上述したMVAL、MVAC及びMOVEの場合と同様である。
エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の重合度は、水性前処理液の保存安定性、基材からの印刷物の分離性、及び、当該印刷物の耐擦過性の全てを良好なレベルで両立させる、という観点から、300~3,000であることが好ましく、500~2,500であることがより好ましく、700~2,000であることが特に好ましい。
なお、本願におけるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の重合度は、下記式6により算出することができる。

式6:(重合度)=MET+MVAL+MVAC+MOVE
式6中、METは、式5の場合と同様であり、MVAL、MVAC及びMOVEは、式4の場合と同様である。
エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)は、合成したものを用いてもよいし、市販品を使用してもよい。エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の合成方法の例として、あらかじめ合成または購入したエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂をメタノール等に溶解させたのち、水酸化ナトリウムのメタノール溶液等を添加してけん化する方法が挙げられる。なおその際、添加する水酸化ナトリウムの量、及び/または、けん化反応時間を制御することで、上述したけん化度を調整することが可能である。
また、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の市販品として、クラレ社製のエバール(登録商標)シリーズ及びエクセバール(登録商標)シリーズ、日本合成化学工業社製のソアノール(登録商標)シリーズ等がある。
エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)は、水性前処理液中に溶解させた状態(水溶性樹脂)で存在させてもよいし、分散させた状態(エマルジョン)として存在させてもよい。その際、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のエマルジョンは、従来既知の方法、例えば、ビニルアルコール樹脂、酸基を有する構造単位を主鎖に有するエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂等の分散安定化樹脂(乳化用樹脂)と、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)とをメタノール水溶液中でよく混合し、冷却してエマルジョンを析出させたのち、メタノールを減圧留去する方法によって、製造することができる。なお、上記酸基を有する構造単位を主鎖に有するエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂は、けん化度が80モル%以上であるもの、すなわち、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)に該当するものであってもよい。
なお本願において「水溶性樹脂」とは、とは、20℃において、対象となる樹脂の1質量%水溶液が、肉眼で見て透明であるものを表す。また「エマルジョン」とは、樹脂微粒子が水性媒体中に分散している液体を指し、「樹脂微粒子」とは、水溶性樹脂以外の樹脂であって、粒度分布測定機(例えば、マイクロトラック・ベル社製ナノトラックUPAEX-150)を用い、動的光散乱法によって測定された、体積基準での累積50%径(メジアン径、D50)が、5~1,000nmである樹脂を指す。
水性前処理液の保存安定性、基材からの印刷物の分離性、ならびに、当該印刷物の画像品質(白抜け及び混色滲みの防止)及び耐擦過性の全てを良好なレベルで両立させる、という観点から、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)として水溶性樹脂を使用する場合、その含有量は、水性前処理液全量に対して0.3~10質量%であることが好ましく、0.5~8質量%であることがより好ましく、0.7~6質量%であることが特に好ましい。一方、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)としてエマルジョンを使用する場合、その含有量は、水性前処理液全量に対して1~15質量%であることが好ましく、2~12質量%であることがより好ましく、2.5~10質量%であることが特に好ましい。
(その他樹脂(A-2))
本発明の水性前処理液は、上述した効果を阻害しない範囲で、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)以外の樹脂(以下では、単に「その他樹脂(A-2)」ともいう)を含んでいてもよい。なお本願では、塩基価が酸価よりも大きい樹脂は、その他樹脂(A-2)ではなく、後述するカチオン性樹脂に該当するものとする。
その他樹脂(A-2)として使用できる樹脂の具体例として、ウレタン(ウレア)樹脂、ウレタン-(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂、オレフィン-(無水)マレイン酸樹脂、ビニルアルコール系樹脂(ただし、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)に該当しないもの)、セルロース樹脂、ロジンエステル樹脂、ロジンフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等が使用できる。なお、その他樹脂(A-2)として、上記群から選択される1種の樹脂のみを使用してもよいし、2種以上の樹脂を併用してもよい。また本願において、「ウレタン(ウレア)」は、ウレタンまたはウレタンウレアを意味し、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味し、「(無水)マレイン酸」は、マレイン酸または無水マレイン酸を意味する。ただし(メタ)アクリル樹脂には、構成単位として、スチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体に由来する構造単位が含まれていてもよい。
その他樹脂(A-2)を使用する場合、水性前処理液の保存安定性、印刷物の画像品質及び分離性に影響を与えることなく、当該印刷物の耐擦過性が向上できるという観点から、ウレタン-(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂が好適に使用できる。
また、その他樹脂(A-2)の形態は、水溶性樹脂及び樹脂微粒子のどちらであってもよい。一実施形態において、後から印刷される水性インクジェットインキとの親和性が高く、併用される水性インクジェットインキ中の成分の分散状態の破壊及び/または当該水性インクジェットインキの増粘を速やかかつ効果的に引き起こすことで、画像品質に優れた印刷物が得られるとともに、印刷層の分離性にも優れる観点から、その他樹脂(A-2)として水溶性樹脂を選択することが好適である。また、別の実施形態では、印刷物の耐擦過性の向上、及び、水性前処理液の保存安定性の悪化防止が容易である点から、その他樹脂(A-2)として樹脂微粒子を選択することが好適である。なお、その他樹脂(A-2)として、水溶性樹脂と樹脂微粒子とを併用してもよい。
本発明の水性前処理液がその他樹脂(A-2)を含む場合、上述したエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の効果を阻害することなく、本発明の効果を好適に発現させるという観点から、その含有量は、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量以下とすることが好ましい。
具体的には、その他樹脂(A-2)として水溶性樹脂を選択した場合、上記含有量条件を満たしたうえで、その含有量は、水性前処理液全量に対して0.3~10質量%であることが好ましく、0.5~8質量%であることがより好ましく、0.7~5質量%であることが特に好ましい。一方、その他樹脂(A-2)として樹脂微粒子を使用する場合、上記含有量条件を満たしたうえで、その含有量は、水性前処理液全量に対して0.5~10質量%であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましく、1.5~6質量%であることが特に好ましい。
<界面活性剤(B)>
本発明の水性前処理液は、界面活性剤(B)を含む。また当該界面活性剤(B)として、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)(以下では、「高HLB値界面活性剤(B-1)」ともいう)を含む。
上述した通り、高HLB値界面活性剤(B-1)によって、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の溶解または分散状態が安定化するとともに、当該エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の周囲に存在する高HLB値界面活性剤(B-1)が、凝集剤の接近を防ぐことで、保存安定性の高い水性前処理液を得ることが可能となる。また、高HLB値界面活性剤(B-1)は、そのHLB値の高さに起因して、後から印刷される水性インクジェットインキの液滴と親和しやすい。その結果、当該液滴の濡れ広がり性が向上するとともに、当該液滴の内部に凝集剤が拡散しやすくなることで、白抜けのない、画像品質に優れた印刷物となる。
上述した観点の一方、例えば高HLB値界面活性剤(B-1)のHLB値があまりに大きすぎると、水に対する当該高HLB値界面活性剤(B-1)の親和性が大きくなりすぎてしまい、水性前処理液の保存安定性が悪化する恐れがあるうえ、耐擦過性や印刷物の分離性に悪影響が出る可能性がある。逆に、HLB値が小さすぎると、上述した効果が十分に発現しない可能性がある。以上から、高HLB値界面活性剤(B-1)のHLB値は、10~18.5であることが好ましく、10.5~17であることが更に好ましく、11~16であることが特に好ましい。
なおHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値とは、対象となる材料の親水性の程度を表す値であり、本願では、グリフィン法によって算出される値を使用する。またグリフィン法とは、下記式7によって、HLB値を算出する方法である。

式7:(HLB値)=20×{(対象となる材料の親水部の式量の総和)÷(対象となる材料の分子量)
(高HLB値界面活性剤(B-1))
上記式7によって算出されるHLB値が9.5以上である界面活性剤であれば、高HLB値界面活性剤(B-1)として、従来既知の材料を任意に使用することができる。一般に界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び、両性界面活性剤に分類される。本発明の水性前処理液の場合、高HLB値界面活性剤(B-1)以外の材料(凝集剤、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)等)との相互作用の発生を防ぎ、これらの材料による効果を十分に発現させることができるという観点から、ノニオン性界面活性剤を使用することが好適である。またノニオン性界面活性剤として、アセチレンジオール系界面活性剤、シロキサン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテル系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤等が例示でき、これらのうちの1種または2種以上を、任意に選択及び使用することができる。これらの中でも、水性前処理液の濡れ広がり性及び均一付与性が好適化し、当該水性前処理液の層内で、高HLB値界面活性剤(B-1)以外の材料の偏りがなくなるため、印刷物の画像品質、耐擦過性、分離性等が安定的に向上する観点、ならびに、水性インクジェットインキとの親和性が特に高く、画像品質の一層の向上が見込める観点から、アセチレンジオール系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤が好適に使用できる。また、詳細な理由は不明ながら、水性前処理液の保存安定性や印刷物の分離性が特段に向上する観点から、アセチレンジオール系界面活性剤と、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤及び/または(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤とを併用することが、特に好適である。
なお上記「(ポリ)オキシアルキレン」とは、「オキシアルキレン」及び「ポリオキシアルキレン」から選ばれる少なくとも1種を表す。また上記「アルキル(フェニル)エーテル」とは、「アルキルエーテル」及び「アルキルフェニルエーテル」から選ばれる少なくとも1種を表す。
アセチレンジオール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、ヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、6,9-ジメチル-テトラデカ-7-イン-6,9-ジオール、7,10-ジメチルヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、ならびに、上記列挙した化合物のエチレンオキサイド、及び/または、プロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
またアセチレンジオール系界面活性剤の市販品を例示すると、サーフィノール61、82,104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、420、440、465、485、DF-110D、SE、SE-F;ダイノール604、607;オルフィンE1004、E1010、E1020、PD-001、PD-002W、PD-004、PD-005、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4123、EXP.4300(日信化学工業社製);アセチレノールE40、E60、E100、E130T、E200(川研ファインケミカル社製);等が挙げられる。
中でも、上述したHLB値範囲に収めやすい観点、更には、水性前処理液の主成分である水、及び、後から印刷される水性インクジェットインキとの親和性が適度に高いため、上記水性前処理液の保存安定性、印刷物の画像品質、耐擦過性、分離性の全てが安定的に向上するという観点から、アセチレンジオール系界面活性剤として、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び/または2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオールのエチレンオキサイド付加物が特に好適に使用できる。また、これらの化合物中に存在するエチレンオキサイド基の付加モル数は、1分子中4.5~30モルであることが好ましく、7.5~30モルであることがより好ましく、10~30モルであることが特に好ましい。
また、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤としては、それぞれ、下記一般式8及び一般式9で表される化合物が好適に使用できる。

一般式8: R2-O-[(EO)m-(PO)n]-H
一般式8中、R2は、分岐を有してもよい炭素数6~22の鎖状アルキル基、または、分岐を有してもよい炭素数6~22の鎖状アルケニル基を表し、EOはエチレンオキサイド基を表し、POはプロピレンオキサイド基を表し、mは2~100の整数であり、nは0~100の整数である。ただし、nが0ではない場合、(EO)m及び(PO)nの[ ]内における順序は任意であり、ランダムであってもブロックであってもよい。

Figure 2023177002000003
一般式9中、R3は、分岐を有してもよい炭素数6~22の鎖状アルキル基、または、分岐を有してもよい炭素数6~22の鎖状アルケニル基を表し、EOはエチレンオキサイド基を表し、POはプロピレンオキサイド基を表し、p及びrはそれぞれ1~100の整数であり、q及びsはそれぞれ0~100の整数である。ただし、qが0ではない場合、(EO)p及び(PO)qの[ ]内における順序は任意であり、ランダムであってもブロックであってもよい。また、sが0ではない場合、(EO)r及び(PO)sの[ ]内における順序は任意であり、ランダムであってもブロックであってもよい。
その他、例えばシロキサン系界面活性剤としては、例えば、下記一般式10で表される化合物が使用できる。

Figure 2023177002000004
一般式10中、tは1~50の整数であり、a、bはそれぞれ1~6の整数である。またR4、R5はそれぞれ水素原子または炭素数1~6のアルキル基であり、X1、X2はそれぞれ下記一般式11で表される基を表す。

一般式11: -[(EO)u-(PO)v]-
一般式11中、EOはエチレンオキサイド基を表し、POはプロピレンオキサイド基を表し、uは1~100の整数であり、vは0~100の整数である。ただし、vが0ではない場合、(EO)u及び(PO)vの[ ]内における順序は任意であり、ランダムであってもブロックであってもよい。
上述した高HLB値界面活性剤(B-1)の効果を好適に発現させる観点から、本発明の水性前処理液中の高HLB値界面活性剤(B-1)の含有量は、当該水性前処理液全量に対して0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~8質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることが特に好ましい。
また、上述したエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の保護効果が好適に発現され、保存安定性に特段に優れた水性前処理液が得られるという観点から、高HLB値界面活性剤(B-1)の含有量は、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量に対して25~400質量%であることが好ましく、40~300質量%であることがより好ましく、50~200質量%であることが特に好ましい。
(その他界面活性剤(B-2))
本発明の水性前処理液は、上述した効果を阻害しない範囲で、HLB値が9.5未満である界面活性剤(以下では、単に「その他界面活性剤(B-2)」ともいう)を含んでいてもよい。
その他界面活性剤(B-2)を使用する場合、上述した高HLB値界面活性剤(B-1)の場合と同様の理由、すなわち、その他界面活性剤(B-2)以外の材料(凝集剤、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)等)との相互作用の発生を防止し、それらの材料による効果を十分に発現させるという観点から、ノニオン性界面活性剤を使用することが好適である。また、ノニオン性界面活性剤の中でも、アセチレンジオール系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上が特に好適に使用できる。これらの界面活性剤は、HLB値が9.5未満と小さいにもかかわらず、他の種類の界面活性剤に比べて親水性が高く、水性前処理液中の水、及び、後から印刷される水性インクジェットインキと適度に親和するため、保存安定性、印刷物の画像品質、耐擦過性、分離性の全てに優れた水性前処理液が得られるためである。
本発明の水性前処理液がその他界面活性剤(B-2)を含む場合、高HLB値界面活性剤(B-1)の効果を阻害することなく、本発明の効果を好適に発現させるという観点から、その含有量は、上記高HLB値界面活性剤(B-1)の含有量以下とすることが好ましい。具体的には、その他界面活性剤(B-2)は、当該水性前処理液全量に対して0.01~5質量%とすることが好ましく、0.02~3質量%とすることがより好ましく、0.03~2質量%とすることが特に好ましい。
また、上述したその他界面活性剤(B-2)の含有量の場合と同様の理由により、本発明の水性前処理液がその他界面活性剤(B-2)を含む場合、高HLB値界面活性剤(B-1)の含有量と、上記その他界面活性剤(B-2)の含有量との比((高HLB値界面活性剤(B-1)の含有量)÷(その他界面活性剤(B-2)の含有量))が1~300であることが好ましく、2~200であることがより好ましく、5~150であることが更に好ましく、10~100であることが特に好ましい。
<凝集剤>
本発明の水性前処理液は、凝集剤を含む。併用される水性インクジェットインキ中に存在する顔料や樹脂の分散状態を破壊する、及び/または、水性インクジェットインキ中の成分と相互作用を起こし当該水性インクジェットインキを増粘させることができる材料であれば、当該凝集剤として、従来既知の材料を任意に使用することができる。具体的には、多価金属塩、カチオン性樹脂、金属錯体からなる群から選択される1種以上の材料が使用できる。これらの中でも、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)及び高HLB値界面活性剤(B-1)と併用した際に、当該エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の不溶化が起こりにくく、保存安定性に優れた水性前処理液が得られる点、水性インクジェットインキ中の成分の分散状態の破壊能及び当該水性インクジェットインキの増粘能に優れ、画像品質に特段に優れた印刷物が得られる点、印刷物表面がべたつきにくく耐擦過性が向上する点、ならびに、基材からの印刷層の分離時に悪影響を及ぼしにくい点から、多価金属塩を使用することが特に好適である。
(多価金属塩)
多価金属塩は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上の多価金属塩を組み合わせて使用してもよい。また、多価金属塩を構成する多価金属イオン及び対アニオンの組み合わせに関しても、特に制限されるものではなく、従来既知の材料を任意に使用することができる。中でも、2価の多価金属イオンから構成される多価金属塩は、水性インクジェットインキ中の成分の分散状態の破壊能及び当該水性インクジェットインキの増粘能と、当該水性インクジェットインキの液滴の濡れ広がり性とのバランスに優れており、印刷する画像の種類によらず、白抜け及び混色滲みのない、画像品質に優れた印刷物が得られるため、本発明の水性前処理液では好ましく使用できる。また詳細な理由は不明ながら、2価の多価金属イオンから構成される多価金属塩は、基材からの印刷層の分離時に悪影響を及ぼしにくいため、分離性に優れた印刷物を得ることが可能となる。
上記2価の多価金属イオンとして、例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛(II)イオン、鉄(II)イオンが使用できる。これらの中でも、白抜け及び混色滲みのない、画像品質に特段に優れた印刷物が得られる点から、カルシウムイオンが特に好ましく使用できる。
一方、多価金属イオンとしてカルシウムイオンを選択した際の対アニオンの例として、塩化物イオン(75g)、ヨウ化物イオン(66g)、硝酸イオン(121g)、ギ酸イオン(17g)、酢酸イオン(28g)、プロピオン酸イオン(38g)、酪酸イオン(17g)、安息香酸イオン(2g)、乳酸イオン(9g)、グルコン酸イオン(3g)、パントテン酸イオン(35g)等が挙げられる。なお( )内の値は、20℃の水100gに対する、カルシウム塩無水物の溶解度である。
凝集剤として多価金属塩を使用する場合、後から印刷された水性インクジェットインキ中に素早く溶解及び拡散することができ、混色滲みのない、画像品質に優れた印刷物が得られる点、大気中の水分の過剰な吸湿を起こすことなく、耐擦過性に優れた印刷物となる点、ならびに、速やかに溶出するため、基材から印刷層の分離する際にも悪影響を与えることがない点から、20℃の水100gに対する溶解度が10~150gである多価金属塩を使用することが好ましく、30~150gである多価金属塩を使用することがより好ましく、50~150gである多価金属塩を使用することが特に好ましい。
上述した観点から、多価金属塩としてカルシウムイオンの塩を使用する場合、塩化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウムを選択することが好適である。
一方、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)との親和性が高く、析出のない、保存安定性に優れた水性前処理液を得る、という観点、更には、塩基性溶液との親和性が高く、前処理層の膨潤を阻害することがないため、印刷物の分離性が向上する、という観点から、酸素原子を有する対アニオンを選択することが好適であり、中でも、水酸基及び/またはカルボキシ基を有する対アニオンを選択することが特に好適である。この観点をもとに上記列挙した対アニオンの中から、好適に使用できるものを選択すると、硝酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、安息香酸イオン、乳酸イオン、グルコン酸イオン、パントテン酸イオンが挙げられる。
多価金属塩は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。また、印刷物の画像品質、耐擦過性、分離性、ならびに、水性前処理液の保存安定性の全てが良好なレベルで両立できる観点から、水性前処理液の全量に対する、多価金属塩の含有量は、0.5~40質量%であることが好ましく、より好ましくは1~35質量%であり、更に好ましくは2.5~30質量%であり、特に好ましくは5~25質量%である。ただし、上記多価金属塩の含有量とは、無水物の含有量を指すものとし、水和水を含有する多価金属塩の場合は、当該水和水分の質量を除外して、含有量を算出するものとする。
(カチオン性樹脂)
凝集剤としてカチオン性樹脂を使用する場合、アミノ基、第4級アンモニウム基、アミド基、ウレイド基等のカチオン基を有する樹脂が、任意に使用できる。またカチオン性樹脂として、水溶性樹脂及び樹脂微粒子のどちらを使用してもよい。
中でも、印刷物の画像品質、耐擦過性、及び、分離性が総合的に向上するという観点から、塩基価が5~700mgKOH/gであるカチオン性樹脂が好ましく使用できる。また水性前処理液の保存安定性と、画像品質との両立の観点から、上記塩基価は20~600mgKOH/gであることがより好ましく、30~500mgKOH/gであることが更に好ましく、40~450mgKOH/gであることが特に好ましい。
なお、本願において「(樹脂の)塩基価」とは、当該樹脂1g中に含まれるカチオン性官能基を中和するために必要となる塩酸量と当量のKOHのmg数であり、例えば電位差滴定法により測定される値が使用できる。具体的には、京都電子工業社製「電位差自動滴定装置AT-610」を使用し、樹脂をエタノール/トルエン混合溶媒に溶解させたのち、0.1mol/L塩酸・エタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線から塩基価を算出することができる。
また、基材からの印刷層の分離性を向上させるため、酸基を有するカチオン性樹脂を使用してもよい。この場合、印刷物の画像品質、耐擦過性、及び、分離性の両立の観点から、上記カチオン性樹脂の酸価が、当該カチオン性樹脂の塩基価よりも小さいことが好適である。
なお、本願において「(樹脂の)酸価」とは、当該樹脂1g中に含まれる酸基を中和するために必要となる水酸化カリウムのmg数であり、例えば電位差滴定法により測定される値が使用できる。具体的には、京都電子工業社製「電位差自動滴定装置AT-610」を使用し、樹脂をエタノール/トルエン混合溶媒に溶解させたのち、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線から酸価を算出することができる。
本発明の水性前処理液が凝集剤としてカチオン性樹脂を含む場合、画像品質及び耐擦過性に優れた印刷物が得られ、更には保存安定性も良好な水性前処理液が得られる点から、20℃において、5質量%水溶液が肉眼で見て透明であるカチオン性樹脂を選択することが好適である。
また、印刷物の画像品質及び耐擦過性が向上する点、ならびに、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)と相互作用を起こしにくく保存安定性に優れる水性前処理液が得られる点から、ジアリルアミン構造単位、及び/または、ジアリルアンモニウム構造単位を含む樹脂が好ましく使用できる。特に、ジアリルアンモニウム構造単位を含むカチオン性樹脂は、水性インクジェットインキ中の成分の分散状態の破壊能及び当該水性インクジェットインキの増粘能と、当該水性インクジェットインキの液滴の濡れ広がり性とのバランスに優れ、白抜け及び混色滲みのない印刷物を容易に得ることが可能となる点、また、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)と相互作用を起こしにくく水性前処理液の保存安定性が向上する点から、特に好適に選択される。なお、入手容易性等の点から、ジアリルアンモニウム構造単位として、ジアリルジメチルアンモニウム及び/またはジアリルメチルエチルアンモニウムの、塩酸塩または硫酸エチル塩が好適に選択される。
ジアリルアンモニウム構造単位を含むカチオン性樹脂の市販品の例として、PAS-H-1L、PAS-H-5L、PAS-24、PAS-84、PAS-J-81L、PAS-J-81、PAS-J-41、PAS-880、PAS-2351、PAS-2451(ニットーボーメディカル社製);ユニセンスFPA100L、FPA101L、FPA102L、FPA1000L、FPA1001L、FCA1000L、FCA1001L、FCA1002L、FCA1003L、FCA5000L、ZCA1000L、ZCA1001L、ZCA1002L(センカ社製)が挙げられる。
カチオン性樹脂は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。また、印刷物の画像品質、耐擦過性、及び、分離性の全てが良好なレベルで両立できる観点から、水性前処理液の全量に対する、上記カチオン性樹脂の含有量は、1~30質量%であることが好ましく、より好ましくは2~20質量%であり、特に好ましくは2.5~15質量%である。
(金属錯体)
凝集剤として金属錯体を使用する場合、ジルコニウム、アルミニウム、チタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の錯体であることが好ましい。また配位子は、アセテート、アセチルアセトネート、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、オクチレングリコレート、ブトキシアセチルアセトネート、ラクテート、ラクテートアンモニウム塩、及びトリエタノールアミネートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。また、印刷物の画像品質を向上する観点から、水性前処理液の全量に対する、上記金属錯体の含有量は、0.1~15質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量%であり、特に好ましくは1~5質量%である。
<水溶性有機溶剤(C)>
本発明の水性前処理液は、水溶性有機溶剤(C)を含み、当該水溶性有機溶剤が、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)を含む。上述したように、水溶性有機溶剤(C-1)は、本発明の水性前処理液中に含まれる、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)、及び、水の全てに対して、親和性が高い。その結果、これらの材料の、水性前処理液内での拡散が均一化し、印刷物の画像品質及び分離性の向上が実現できるうえ、水性前処理液の保存安定性も向上できる。
なお本願において「水溶性有機溶剤」とは、25℃で液体であり、かつ、25℃の水に対する溶解度が1質量%以上である有機化合物を指す。
<水溶性有機溶剤(C-1)>
本発明の水性前処理液では、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)として、従来既知の化合物を1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、使用できる水溶性有機溶剤(C-1)の種類についても制限はなく、従来既知のものを任意に使用することができる。
分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)を例示すると、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、等の1価アルコール系溶剤;
1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200、ポリエチレングリコール#400、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、等の2価アルコール(グリコール)系溶剤;
エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、1,2-ブチレングリコールモノメチルエーテル、2-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール等のグリコールモノアルキルエーテル系溶剤;
グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジグリセリン、ポリグリセリン、等の鎖状ポリオール系溶剤;
ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等の水酸基含有鎖状含窒素化合物;等を挙げることができる。
また、上記拡散の均一化の効果を更に好適に発現させるため、本発明の水性前処理液に含まれる材料のうち、分子量が大きく拡散しにくいエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)と、水溶性有機溶剤(C-1)との配合比を規定することが好ましい。具体的には、「水溶性有機溶剤(C-1)の含有量(質量%):エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量(質量%)」で表される含有量の比を、1:0.1~1:3.0とすることが好ましい。このような含有量の限定により、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を水性前処理液内により均一に拡散させることが可能となり、印刷物の耐擦過性や画像品質(特に、水性インクジェットインキの吸収による混色滲みの防止)の一層の向上、ならびに、分離性の更なる良化が実現できる。また、上述したエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の拡散均一化の効果を更に高め、画像品質、分離性、及び、耐擦過性に優れた印刷物を得ることができる、という観点から、水溶性有機溶剤(C-1)の含有量(質量%)を1としたときのエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量(質量%)は、0.2~2.0であることがより好ましく、0.3~1.6であることが特に好ましい。
<その他水溶性有機溶剤(C-2)>
本発明の水性前処理液は、上記水溶性有機溶剤(C-1)以外の水溶性有機溶剤(以下では「その他水溶性有機溶剤(C-2)」ともいう)を含んでもよい。その場合、上述した水溶性有機溶剤(C-1)による効果をより好適に発現させる観点から、水溶性有機溶剤(C-1)の含有量を、水溶性有機溶剤全量に対して50質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましく、90質量%以上とすることが特に好ましい。
その他水溶性有機溶剤(C-2)として使用できる水溶性有機溶剤を例示すると、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールジアルキルエーテル系溶剤;
トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン等の水酸基不含有鎖状含窒素化合物;
2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ε-カプロラクタム、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、モルホリン等の複素環化合物;
N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-エトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-2-エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-オクトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-オクトキシプロピオンアミド等の鎖状アミド系溶剤;等が挙げられる。
水性前処理液中の水溶性有機溶剤(C)の含有量は、当該水性前処理液全量に対して1~40質量%であることが好ましく、1.5~30質量%であることがより好ましく、2~25質量%であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤(C)の含有量を上記範囲内とすると、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)が水性前処理液内に均一に拡散し、印刷物の画像品質及び分離性の向上、ならびに、水性前処理液の保存安定性の良化が実現できる。なお上述した通り、水溶性有機溶剤(C)の含有量を決定するにあたり、上述した、水溶性有機溶剤(C-1)の含有量とエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量との比を考慮することが特に好適である。
本発明の水性前処理液では、当該水性前処理液の濡れ広がり性及び乾燥性が好適化し、印刷物の画像品質及び分離性が向上する観点、ならびに、高HLB値界面活性剤(B-1)もまた水性前処理液内に均一に拡散しやすくなり、保存安定性の一層の向上が実現できる観点から、水溶性有機溶剤(C―1)であるかその他水溶性有機溶剤(C-2)であるかによらず、25℃における静的表面張力が20~45mN/mである水溶性有機溶剤を使用することが好適であり、20~38mN/mである水溶性有機溶剤を使用することがより好適であり、20~32mN/mである水溶性有機溶剤を使用することが特に好適である。更に、印刷物の画像品質、耐擦過性、分離性が向上できる観点から、水溶性有機溶剤(C―1)であるかその他水溶性有機溶剤(C-2)であるかによらず、1気圧下における沸点が75~200℃である水溶性有機溶剤を使用することが好適であり、75~185℃である水溶性有機溶剤を使用することが更に好適であり、75~160℃である水溶性有機溶剤を使用することが特に好適である。
なお、本願の静的表面張力は、25℃の環境下においてウィルヘルミー法によって測定される値である。具体的には、例えば協和界面科学社製「DY-300」を使用し、25℃環境下で白金プレートを用いて測定することができる。
更に本発明の水性前処理液では、1気圧下における沸点が230℃以上である水溶性有機溶剤の含有量が、当該水性前処理液全量に対して5質量%以下である(0質量%でもよい)ことが好ましく、3質量%以下である(0質量%でもよい)ことがより好ましく、2質量%以下である(0質量%でもよい)ことが特に好ましい。沸点が230℃以上である水溶性有機溶剤を含まないか、含むとしてもその配合量を上記範囲内とすることで、耐擦過性や画像品質に優れた印刷物が得られるとともに、水性前処理液の乾燥性が十分なものとなる。
また、上記と同様の理由により、1気圧下における沸点が230℃以上である水溶性有機溶剤の含有量が、水性前処理液全量に対して5質量%未満であることに加えて、1気圧下における沸点が200℃以上である水溶性有機溶剤の含有量が、水性前処理液全量に対して10質量%以下である(0質量%でもよい)ことが好ましく、5質量%以下である(0質量%でもよい)ことがより好ましく、3質量%以下である(0質量%でもよい)ことが更に好ましく、2質量%以下である(0質量%でもよい)ことが特に好ましい。
<水>
本発明の水性前処理液に含まれる水の含有量は、当該水性前処理液全量に対して50~95質量%であることが好ましく、55~90質量%であることがより好ましく、60~85質量%であることが特に好ましい。水は、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の溶解または分散において必須の材料である。また、水を50質量%以上含有させることで、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)、高HLB値界面活性剤(B-1)、水溶性有機溶剤(C-1)、凝集剤等の、本発明の水性前処理液に必須である材料の相互溶解性を高めることができるため、当該水性前処理液の保存安定性を向上させることができる。
<その他材料>
本発明の水性前処理液は、上述した材料の他、必要に応じてpH調整剤、着色剤、増粘剤、架橋剤、防腐剤等の材料を添加してもよい。
(pH調整剤)
例えば、本発明の水性前処理液は、当該水性前処理液の付与に使用される装置(前処理液付与装置)に含まれる部材へのダメージの低減、ならびに、経時でのpH変動の抑制、及び、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の構造の変化の防止による、前処理液の保存安定性の向上の観点から、pH調整剤を含んでもよい。当該pH調整剤として使用できる材料に制限はなく、また1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
具体的には、水性前処理液を酸性化させる場合には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸等の有機酸;ならびに、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸を使用することができる。また、水性前処理液を塩基性化させる場合には、上記列挙した水酸基含有鎖状含窒素化合物、その他鎖状含窒素化合物;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等を使用することができる。
水性前処理液をインクジェット印刷方式により基材上に印刷する場合、インクジェットノズル近傍での水の乾燥に伴うpHの変化による他の材料への悪影響(及び当該悪影響によるノズル閉塞等)を抑制し、高い生産性を維持し、かつ、本発明の効果を継続的に発現させ続けるためには、水以上の沸点を有するものが好ましく使用できる。その一方で、印刷物の耐擦過性を高めつつ、画像品質に悪影響を与えないようにするためには、当該印刷物中に残留しにくいものを使用することが好ましい。これらの観点から、例えば水性前処理液を塩基性化させる場合、モノエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アミノメチルプロパノールが好ましく使用できる。
一方、別の好ましい実施形態として、経時でのpH変化を抑制するとともに、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の構造の変化を防止することで、水性前処理液の保存安定性を向上させる観点から、エタノールアミン系溶剤と、無機酸及び/または有機酸との組み合わせ、あるいは、弱酸と、当該弱酸の塩との組み合わせ、等を使用することで緩衝能を発現させることが好適である。上記エタノールアミン系溶剤の例として、上記列挙した水酸基含有鎖状含窒素化合物のうちの、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノールが挙げられる。また、上記弱酸の塩は、上述した多価金属塩を兼ねる材料であってもよく、例えば、酢酸と、酢酸カルシウムの組み合わせが使用できる。
上述した効果を有効に発現させる観点から、pH調整剤の配合量は、水性前処理液全量に対して0.01~5質量%とすることが好ましく、0.05~3質量%とすることがより好ましい。
<着色剤>
本発明の水性前処理液は、顔料や染料等の着色剤を実質的に含まないことが好ましい。着色剤を含まず、実質的に透明な水性前処理液を用いることで、基材特有の色味や透明感を活かした印刷物を得ることができる。なお、本願において「実質的に含まない」とは、本発明の効果の発現を妨げる程度まで、当該材料を意図的に添加することを認めないことを表すものであり、例えば、不純物や副生成物の混入まで排除するものではない。具体的には、水性前処理液全量に対し、当該材料を2.0質量%以上含まないことであり、好ましくは1.0質量%以上含まないことであり、より好ましくは0.5質量%以上含まないことであり、特に好ましくは0.1質量%以上含まないことである。
一方、別の好ましい実施形態では、水性前処理液は、着色剤として白色顔料を含む。白色の水性前処理液を、有色及び/または透明な基材に対して用いることで、鮮明性及び視認性に特段に優れ、画像品質の良好な印刷物を得ることができる。水性前処理液が白色顔料を含む場合、当該白色顔料として、従来より既知の材料、例えば酸化チタンを用いることができる。
<水性前処理液の物性>
本発明の水性前処理液は、25℃における粘度が5~200mPa・sであることが好ましく、5~180mPa・sであることがより好ましく、8~160mPa・sであることが更に好ましく、8~140mPa・sであることが特に好ましい。上記粘度範囲を満たす水性前処理液は、様々な種類の基材に対してムラなく塗工できるため、画像品質及び耐擦過性に優れた印刷物となる。なお水性前処理液の粘度は、処理液の粘度に応じて、例えばE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)またはB型粘度計(東機産業社製TVB10形粘度計)を用いて測定できる。
また、本発明の水性前処理液の静的表面張力は、様々な種類の基材に対して好適な濡れ広がり性を付与し、均一でムラのない前処理層を形成することで、画像品質、耐擦過性、更には水性インクジェットインキから形成された層の分離性にも優れた印刷物を得るという観点から、20~40mN/mであることが好ましく、21~37mN/mであることがより好ましく、22~35mN/mであることが特に好ましい。なお、本明細書における静的表面張力は、上述した水溶性有機溶剤(C)の表面張力と同様にして測定することができる。
<水性前処理液の製造方法>
上述した成分からなる本発明の水性前処理液は、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)、高HLB値界面活性剤(B-1)、水溶性有機溶剤(C-1)、凝集剤、ならびに、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤等、上記で挙げた材料を加え、攪拌及び混合したのち、必要に応じて濾過することで製造できる。ただし、水性前処理液の製造方法は上記の方法に限定されるものではない。例えば着色剤として白色顔料を使用する場合、あらかじめ、当該白色顔料と水とを含む白色顔料分散液を作製したのち、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)、高HLB値界面活性剤(B-1)、及び、凝集剤と混合してもよい。なお、攪拌及び混合する際は、必要に応じて混合物を35~100℃の範囲で加熱してもよい。
<水性インクジェットインキ>
本発明の水性前処理液は、1種類以上の水性インクジェットインキと組み合わせ、インキセットの形態で使用できる。好ましくは、上記水性インクジェットインキは、顔料と、樹脂と、水とを含む。また更に、水溶性有機溶剤、界面活性剤等を含んでもよい。
水性インクジェットインキに含まれる顔料は、発色性や耐光性に優れ、画像品質に優れた印刷物が得られる点、更には、分離時に塩基性溶液に溶出することがなく、着色のない再生基材等が得られる点から、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4等のブルー顔料;C.I.ピグメントレッド122、150、166、185、202、209、266、269、282、C.I.ピグメントバイオレット19等のレッド顔料;C.I.ピグメントイエロー12、13、14、74、120、180、185、及び213等のイエロー顔料;カーボンブラック等のブラック顔料;酸化チタン等のホワイト顔料;等が好ましく使用できる。
また、水性インクジェットインキは、樹脂として、上記顔料を分散するために使用する顔料分散樹脂、及び/または、水性インクジェットインキから形成された層(水性インクジェットインキ層)を、前処理層に結着させるために使用する結着樹脂を含むことが好ましく、少なくとも、結着樹脂を含むことが特に好ましい。なお、顔料分散樹脂に結着樹脂としての機能を付加するとともに、結着樹脂としてのみ機能する樹脂を実質的に配合しないことも可能である。その場合、結着樹脂としての機能を発現させるため、ガラス転移温度が35~75℃である樹脂を、顔料の配合量以上に配合することが好適である。
なお、樹脂のガラス転移温度は、当該樹脂を構成する重合性単量体の構成から算出してもよいし、実験的に測定してもよい。ガラス転移温度を、樹脂を構成する重合性単量体の構成から算出するための式として、例えば下記式12がある。

式12:(ガラス転移温度)(℃)=1÷[Σ{WAi÷(Tgi+273.2)}]-273.2
式12中、WAiは、樹脂を構成する重合性単量体の全量に対する、重合性単量体iの含有量(質量%)であり、Tgiは、当該重合性単量体iのホモポリマーのガラス転移温度(℃)である。
また、樹脂のガラス転移温度を実験的に測定する方法を例示すると、島津製作所製の示差走査熱量計DSC-60PLUSを用い、試料量約10mg、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件にて熱分析を行う。測定終了後、得られたDSC曲線から、ガラス転移温度を読み取る。
上記顔料分散樹脂及び/または結着樹脂として、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)樹脂、ポリエステル樹脂からなる群から選択される樹脂が好適に使用できる。また、これらの樹脂に加えて、ポリオレフィン樹脂微粒子を使用してもよい。これらの樹脂を併用することで、印刷物の画像品質や分離性に悪影響を及ぼすことなく、耐擦過性や前処理層との密着性を特段に向上できる。なお一実施形態において、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)樹脂、ポリエステル樹脂からなる群から選択される樹脂と、ポリオレフィン樹脂微粒子とを併用する場合、当該(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)樹脂、ポリエステル樹脂からなる群から選択される樹脂の配合量に対する、ポリオレフィン樹脂微粒子の配合量は、10~100質量%であることが好ましく、20~80質量%であることが好ましい。上記範囲内に収めることで、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)樹脂、ポリエステル樹脂からなる群から選択される樹脂による機能が阻害されることなく、上述したポリオレフィン樹脂微粒子による効果が好適に発現される。
また、上記顔料分散樹脂及び/または結着樹脂は酸基を有していてもよく、その場合、当該酸基が中和剤によって中和されていてもよい。その際、当該中和に使用する中和剤として、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等のアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物;等が使用できる。
一方、印刷物から、水性インクジェットインキから形成された層を分離する際、当該水性インクジェットインキから形成された層が塩基性溶液に過剰に溶解してしまうと、分離後に残った基材等が当該水性インクジェットインキに含まれる顔料により着色してしまう。従って、水性インクジェットインキから形成された層が塩基性溶液に溶解しにくいことが、分離性の向上の観点からは好ましい。またこの観点から、上記中和剤として、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アミノメチルプロパノール等の、1気圧下における沸点が170℃以下であるアミン類を使用することが好ましく、上記1気圧下における沸点が140℃以下であるアミン類を使用することが特に好ましい。
水性インクジェットインキが水溶性有機溶剤を含む場合、上記列挙した、水性前処理液に含まれる水溶性有機溶剤(C)として使用できる化合物を使用することができる。その際、本発明の水性前処理液と組み合わせて使用した際に、高速印刷であっても混色滲みのない画像品質に優れた印刷物を得ることができるとともに、印刷物の耐擦過性や水性インクジェットインキの吐出安定性も優れたものとなるという観点から、上記水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤の、1気圧下における加重沸点平均値を、145~215℃とすることが好ましく、150~200℃とすることがより好ましく、155~190℃とすることが特に好ましい。また、本発明の水性前処理液と組み合わせた際、混色滲み等の画像品質の欠陥がなく、耐擦過性も良好な印刷物が得られる観点から、1気圧下における沸点が220℃以上である水溶性有機溶剤の量を、水性インクジェットインキ全量に対し5質量%以下(0質量%でもよい)とすることが好ましく、2質量%以下(0質量%でもよい)とすることが特に好ましく、1質量%以下(0質量%でもよい)とすることが特に好ましい。これらの観点から、水性インクジェットインキが水溶性有機溶剤を含む場合、水性前処理液に含まれ得る水溶性有機溶剤(C)として使用できる化合物の中でも、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤(ただし1気圧における沸点が100~235℃であるもの)、及び/または、2価アルコール系溶剤(ただし1気圧における沸点が100~235℃であるもの)を含有することが好ましい。
一方、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)との親和性が高まり、画像品質及び分離性に優れた印刷物が得られる、という観点から、水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤は、アルキル基と水酸基とを有していることが好適である。上記アルキル基の炭素数は1以上であってよいが、炭素数2以上のアルキル基を有していることが好ましく、炭素数3以上のアルキル基を有していることが特に好ましい。この観点から、例えば上記列挙したグリコールモノアルキルエーテル系溶剤は、アルキル基と水酸基とを有しており、好ましく使用することができる。また、水性インクジェットインキが2価アルコール系溶剤を含む場合は、炭化水素鎖の両末端に水酸基を有しない直鎖アルカンジオール、及び、分岐アルカンジオールが好ましく使用できる。具体的には、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール等が好ましく使用できる。
水性インクジェットインキが水溶性有機溶剤を含む場合、当該水溶性有機溶剤の添加量としては、水性インクジェットインキ全量に対して、5~50質量%とすることが好ましく、8~40質量%とすることが更に好ましく、10~30質量%とすることが特に好ましい。
一方、水性インクジェットインキが界面活性剤を含む場合、上記列挙した、界面活性剤(B)として使用できる化合物を使用することができる。この場合も、水性インクジェットインキが水溶性有機溶剤を含む場合と同様の観点から、アルキル基と水酸基とを有している界面活性剤を選択することが好適である。この観点から、界面活性剤(B)として好ましく使用できる、アセチレンジオール系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、及び、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤は、全て、アルキル基と水酸基とを有しており、好ましく使用することができる。
水性インクジェットインキが界面活性剤を含む場合、当該界面活性剤の添加量としては、水性インクジェットインキ全量に対して、0.01~5.0質量%とすることが好ましく、0.05~3.0質量%とすることが更に好ましい。
<印刷物の製造方法>
続いて、上述した水性前処理液及び水性インクジェットインキを使用した、印刷物の製造方法について、その工程等を詳細に説明する。
上述した水性前処理液及び水性インクジェットインキを使用して印刷物を製造する場合、基材上に水性前処理液を付与する工程(1)と、当該工程(1)で得られた基材上に、水性インクジェットインキを印刷する工程(2)とを、この順に行うことが好ましい。
<水性前処理液の付与工程(1)>
工程(1)において、本発明の水性前処理液を基材上に付与する方法は、インクジェット印刷方式のような、基材に対して上記水性前処理液を非接触で印刷する方式であってもよいし、当該基材に対し水性前処理液を当接させて塗工する方式であってもよい。なお、上記インクジェット印刷方式の具体例については、水性インクジェットインキの場合と同様であり、詳細は後述する。一方、水性前処理液の付与方法として、水性前処理液を当接させる塗工方法を選択する場合、グラビアコーター、オフセットグラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ロールコーター等が使用できる。中でも、本発明の水性前処理液の特性に合致しており、後述する様々な基材に対して安定、均一かつ容易に付与できること、ならびに、塗工量の調整が容易であり、例えば基材によって当該塗工量を調整することで、印刷物の画像品質、耐擦過性、水性インクジェットインキから形成された層の分離性のバランスがとりやすいことから、グラビアコーター、オフセットグラビアコーター、フレキソコーターが好適に使用できる。
なお本願において「水性前処理液の付与」は、非接触での水性前処理液の印刷、及び、基材に当接させての水性前処理液の塗工、を総称する用語として使用される。
画像品質、耐擦過性、水性インクジェットインキから形成された層の分離性の全てに優れた印刷物が得られるという観点から、付与直後の水性前処理液の層の厚さは1~10μmであることが好ましく、2~8μmであることがより好ましく、3~7μmであることが特に好ましい。
<水性前処理液付与後の乾燥工程(1A)>
上記工程(2)において、水性インクジェットインキを印刷する時点での、基材上の水性前処理液の乾燥状態は任意に選択できる。
一実施形態において、水性インクジェットインキを印刷する前に水性前処理液を乾燥させる、すなわち、水性インクジェットインキの液滴が着弾する直前の状態において、基材上の水性前処理液に含まれる揮発性成分の総残存量を、基材への付与前の水性前処理液に含まれる揮発性成分の総量に対して5質量%以下とする(なお、より好ましくは3質量%以下とし、特に好ましくは2質量%以下とする)ことが好ましい。水性前処理液が乾燥した後で水性インクジェットインキを印刷することで、後から着弾する当該水性インクジェットインキが乾燥不良を起こすことなく、耐擦過性及び画像品質に優れた印刷物が得られるためである。
その場合、工程(1)の後かつ工程(2)の前に、基材上の水性前処理液を乾燥する工程(以下では「乾燥工程(1A)」ともいう)を設けることが好ましい。当該乾燥工程(1A)における、水性前処理液の乾燥方法に特に制限はなく、例えば、加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法、高周波誘電加熱法等、従来既知の方法を使用することができる。これらの乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよいが、基材へのダメージを軽減し効率よく乾燥させるため、熱風乾燥法及び/または赤外線乾燥法を用いることが好ましい。
<水性前処理液付与後の仮乾燥工程(1B)>
一方、別の実施形態では、水性インクジェットインキは、ウェット状態の水性前処理液の層に印刷されてもよい。なお本願において「水性前処理液がウェット状態である」とは、水性インクジェットインキの液滴が着弾する直前の状態において、基材上の水性前処理液に含まれる揮発性成分の総残存量が、基材への付与前の水性前処理液に含まれる揮発性成分の総量に対して、50質量%以上である(なお、より好ましくは75質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である)ことを指す。ウェット状態の水性前処理液に水性インクジェットインキを印刷することで、画像品質及び分離性に優れた印刷物を得ることが可能となる。
その場合、工程(1)の後かつ工程(2)の前に、乾燥工程を設けないか、基材上の水性前処理液の一部のみを乾燥する工程(以下では「仮乾燥工程(1B)」ともいう)を設けることが好ましい。当該仮乾燥工程(1B)における、水性前処理液の乾燥方法としては、当該水性前処理液の過剰な乾燥を防ぐ観点から、例えば、常温風乾燥法、可視光線乾燥法等が好ましく使用できる。また、印刷物に与えるエネルギーを調整したうえで、上述した、乾燥工程(1A)で使用できる方法として例示した方法を採用してもよい。更に、これらの乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよい。
<水性インクジェットインキの印刷工程(2)>
工程(2)において、本発明の効果を発現させるため、水性インクジェットインキは、少なくとも一部が、水性前処理液が付与された部分に重なるように印刷されることが好ましく、当該水性前処理液が付与された部分のみに重なるように印刷されることが更に好ましい。
工程(2)では、同一の水性インクジェットインキが複数個のインクジェットヘッドに充填され、それぞれの当該インクジェットヘッドから、上記水性インクジェットインキが基材上に印刷されてもよい。また、インクジェットヘッドに充填された水性インクジェットインキが、加熱された状態で、当該インクジェットヘッドから吐出されてもよい。この場合、当該インクジェットヘッドの水性インクジェットインキの加熱温度は、30~50℃であることが好ましく、30~45℃であることが特に好ましい。更に、例えば裏面(水性インクジェットインキの液滴が着弾する面とは反対の面)から基材を加熱しながら、水性インクジェットインキを印刷してもよい。この場合、水性インクジェットインキが印刷される面の温度が、30~55℃となるように加熱することが好ましく、35~50℃となるように加熱することが特に好ましい。
また、水性インクジェットインキは、複数の水性インクジェットインキを含むものであってもよい。具体的には、水性インクジェットインキがシアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、ブラックインキ、ホワイトインキとからなる群から選択される2種以上を含むものであってよい。
<インクジェット印刷方式>
上述した通り、水性インクジェットインキは、インクジェット印刷方式により基材上に印刷される。また本発明の水性前処理液を基材上に付与する方法として、インクジェット印刷方式を選択してもよい。その際、これらの印刷に使用するインクジェット印刷方式として、基材に対し、水性インクジェットインキ等を1回だけ吐出するシングルパス方式を採用してもよいし、基材の搬送方向と直行する方向に、短尺のシャトルヘッドを複数回往復走査させながら、水性インクジェットインキ等を吐出するマルチパス方式を採用してもよい。またシングルパス方式の具体例として、停止している基材に対しインクジェットヘッドを一度だけ走査させる方式(本願では「ヘッド走査型シングルパス方式」と呼ぶ)、及び、固定されたインクジェットヘッドの下部に基材を一度だけ通過させて印刷する方式(本願では「ヘッド固定型シングルパス方式」と呼ぶ)がある。本発明では、上述した方式のいずれを採用してもよいが、インクジェットヘッドの走査に対する、水性インクジェットインキ等の吐出タイミングの調整が不要であり、着弾位置のずれが生じにくいため、優れた画像品質を有する印刷物が得られる、という観点から、ヘッド固定型シングルパス方式が好ましく用いられる。
ヘッド固定型シングルパス方式で使用するインクジェットヘッドの設計解像度は、画像品質に優れた画像が得られる点から、600dpi(Dots Per Inch)以上であることが好ましく、720dpi以上であることがより好ましい。
<基材>
本発明の水性前処理液及び水性インクジェットインキを用いて製造された印刷物は、従来既知の基材に対して好適に印刷することが可能である。中でも、印刷物の有する優れた耐擦過性、ならびに、上述したような前処理層の気泡への易吸着性を考慮すると、上記基材として紙基材が好適に使用できる。当該紙基材として、例えば、上質紙、中質紙、普通紙(PPC用紙)、クラフト紙、更紙、ライナー紙(ダンボール)、微塗工紙、コート紙、アート紙、マットコート紙、キャストコート紙等が使用できる。また紙基材以外にも、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム等のプラスチック基材;アルミニウム、鉄等の金属基材;ガラス基材;等を使用して印刷物を製造してもよい。
これらの基材は、表面が滑らかであっても凹凸のついたものであってもよく、また、透明、半透明、不透明のいずれであってもよい。更に、上記列挙した基材の2種以上を貼り合わせたものを使用してもよいし、水性前処理液の付与面の反対側に剥離粘着層等を設けてもよい。なお、印刷物の作製後に、印刷面に粘着層等を設けてもよい。加えて、基材の形状は、ロール状でも枚葉状でもよい。
なお、紙基材やプラスチック基材を使用する場合、本発明の水性前処理液がムラなく均一に塗布できるために、印刷物の画像品質、耐擦過性、分離性等が安定的に向上するとともに、印刷物の基材密着性も特段に向上できる観点から、上記紙基材やプラスチック基材に対し、水性前処理液の付与前にコロナ処理やプラズマ処理といった表面改質方法を施すことも好適である。
<印刷物の分離方法>
続いて、上述した水性前処理液及び水性インクジェットインキを使用して製造した印刷物から、水性インクジェットインキ層を分離する方法について、以下に詳細に説明する。なお、水性インクジェットインキから形成された層を分離する際の前処理層は、乾固状態であることが好ましい。
また本願において、基材から分離される「水性インクジェットインキから形成された層」には、前処理層(の一部)が付着していてもよい。一実施形態において、紙基材に対する印刷物からの水性インクジェットインキ層の分離においては、前処理層が気泡に吸着しやすく、分離性に優れるという点で、水性インクジェットインキから形成された層に前処理層が付着していることが好適である。またこの観点より、少なくともこの実施形態において使用される水性インクジェットインキは、上述した結着樹脂を含むことが特に好適である。
<紙基材に対する印刷物からの水性インクジェットインキ層の分離方法>
本発明の水性前処理液及び水性インクジェットインキを用いて製造した、紙基材に対する印刷物からの水性インクジェットインキ層の分離方法として、例えば、湿式離解工程と水性インクジェットインキ層除去工程とを含む方法が使用できる。
湿式離解工程では、紙基材に対する印刷物を塩基性溶液に浸漬し、パルプ濃度、離解温度等を調整しながら、当該印刷物のパルプをほぐしてスラリーとするとともに、前処理層を上記塩基性溶液内で膨潤させ、更に、水性インクジェットインキから形成された層を当該パルプから分離する。当該湿式離解工程にて使用する塩基性溶液は、少なくとも、塩基性材料と液体媒体(好ましくは水性媒体である)とを含み、更に、漂白剤、漂白助剤、離解促進剤、脱墨剤、消泡剤等を添加してもよい。
上記塩基性材料として、例えばアルカリ金属の水酸化物が使用でき、塩基性の強さ(pKb値の大きさ)、水性媒体に対する溶解性の高さ、前処理層による吸収の強さ、入手容易性等の観点から、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)や水酸化カリウム(苛性カリ)が好適に使用できる。またその添加量は、印刷物に含まれるパルプに対して0.05~3.5質量%とすることが好ましく、0.1~2.5質量%とすることが特に好ましい。この範囲内に収めることで、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムがパルプ及び前処理層内に十分に浸漬し、当該パルプ及び前処理層を膨潤させることができるため、水性インクジェットインキから形成された層が分離しやすくなる。
また塩基性溶液には、過酸化水素、次亜塩素酸(塩)等の漂白剤を、印刷物に含まれるパルプに対して0.3~4質量%、好ましくは0.5~3質量%添加してもよい。更に、漂白助剤及び離解促進剤として、例えばケイ酸ナトリウムを、印刷物に含まれるパルプに対して0.3~4質量%、好ましくは0.5~3質量%添加してもよい。加えて、脱墨剤を、印刷物に含まれるパルプに対して0.01~0.5質量%、好ましくは0.02~0.3質量%添加することもできる。
なお、上記、及び後述する脱墨剤として、脂肪酸類(オレイン酸、ステアリン酸、ヤシ脂肪酸、パーム油脂肪酸、牛脂脂肪酸等)、脂肪酸塩類、脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレン脂肪酸類、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類、等の脂肪酸化合物;高級アルコール類(オレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、高級アルコール硫酸塩類、ポリオキシアルキレン高級アルコール類、ポリオキシアルキレン高級アルコール硫酸塩類、ポリオキシアルキレン高級アルコール硫酸エステル類、等の高級アルコール化合物;アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキル硫酸エステル類、アルキルフェノール類、等のその他界面活性剤;等が使用できる。また、上記列挙した化合物を含む脱墨剤の市販品として、DI-767、DI-7020、DI-7250、ルナックO-V、ルナックS-50V、ルナックS-70V(以上、花王社製);DIA-Zシリーズ、DIZ-Yシリーズ(以上、日新化学研究所社製);ネオスコアFWシリーズ(東邦化学工業社製);ダイホープシリーズ(第一工業製薬社製)等がある。なお脱墨剤は、単一成分からなるものであってもよいし、2種以上の成分の混合物であってもよい。
湿式離解工程においては、パルパー、ディスクリファイナー、ホモジナイザー、ニーダーといった従来既知の装置を制限なく使用することができる。また、湿式離解工程時の混合物の温度は15~50℃とすることが好ましく、25~50℃とすることが特に好ましい。更に、湿式離解工程時の混合物中のパルプ濃度は、2~35質量%とすることが好適であり、4~30質量%とすることがより好適であり、6~25質量%とすることが特に好適である。
なお、上記好適な温度範囲で実施する湿式離解工程の時間は10~60分とすることが好ましく、15~40分とすることが特に好ましい。
水性インクジェットインキ層除去工程では、上記湿式離解工程において分離された、水性インクジェットインキから形成された層(の小片)を、混合物から除去する。その方法として、気泡に上記水性インクジェットインキから形成された層の小片を選択吸着させる方法(フローテーション法)と、メッシュ等を用いた濾過及び洗浄を繰り返す方法(洗浄法)とがあり、どちらを採用してもよい。本発明の場合、上述したようにエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含む前処理層が気泡(の界面に存在する脱墨剤)に吸着しやすいために、純度の高い脱墨パルプ及び再生紙が得られるという観点から、フローテーション法を選択することが好ましい。
フローテーション法を採用する際は、フローテーター、エキストラクター、マルチウォッシャーといった従来既知の装置を制限なく使用することができる。また、フローテーション時の混合物の温度は15~50℃とすることが好ましく、25~50℃とすることが特に好ましい。更に、フローテーション時の混合物中のパルプ濃度は、0.5~2質量%とすることが好適であり、0.6~1.5質量%とすることが特に好適である。
なお、湿式離解工程の後、かつ、水性インクジェットインキ層除去工程の前に、混合物の固形分濃度を調整するため、希釈工程及び/または脱水工程を行ってもよい。また、当該混合物中の粗大物等を分離除去するため、濾過工程を行ってもよい。更に、水性インクジェットインキ層除去工程前に、上記混合物中の成分(上述した、塩基性材料、漂白剤、漂白助剤、離解促進剤、脱墨剤、消泡剤等)を増量してもよい。加えて、発泡剤等の成分を添加してもよい。
<プラスチック基材に対する印刷物からの水性インクジェットインキ層の分離方法>
一方、本発明の水性前処理液及び水性インクジェットインキを用いて製造した、プラスチック基材に対する印刷物からの水性インクジェットインキ層の分離方法として、例えば、塩基性溶液への浸漬工程を含む方法が使用できる。当該浸漬工程では、印刷物を塩基性溶液に浸漬し、水性インクジェットインキから形成された層をプラスチック基材から分離させる。また上記塩基性溶液は、少なくとも、塩基性材料と液体媒体(好ましくは水性媒体である)とを含む。なお、分離効率の向上のため、事前に破砕、粉砕等した印刷物を使用してもよい。
上記塩基性材料として、例えばアルカリ金属の水酸化物が使用でき、塩基性の強さ(pKb値の大きさ)、水性媒体に対する溶解性の高さ、前処理層に含まれるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)による吸収の強さ、入手容易性等の観点から、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好適に使用できる。またその量は、塩基性溶液全量中0.2~15質量%とすることが好ましく、0.5~12質量%とすることがより好ましく、1~10質量%とすることが特に好ましい。濃度が上記範囲内にあることで、塩基性溶液が分離に充分な塩基性を保持することが可能となる。また、プラスチック基材内部への塩基性溶液の浸漬がなくても、例えば印刷物の表面や端部からの浸透により、十分な分離性を発現させることが可能となる。
塩基性溶液への浸漬工程時の混合物の温度は20~120℃とすることが好ましく、25~110℃とすることがより好ましく、28~90℃とすることが更に好ましく、30~80℃とすることが特に好ましい。更に、上記好適な温度範囲で実施する浸漬工程の時間は1分~24時間とすることが好ましく、1分~12時間とすることが更に好ましく、1分~6時間とすることが特に好ましい。
なお、浸漬時には攪拌をしながら分離を行うことが好ましい。例えば、回転羽根で攪拌する場合、その回転数は80~250rpmであることが好ましく、80~200rpmであることが更に好ましい。
また、塩基性溶液の使用量は、印刷物の質量の100~100万倍量とすることが好ましい。なお、塩基性溶液の使用量を削減するため、当該塩基性溶液の循環が可能な分離装置を使用してもよい。
続いて以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」及び「%」とあるもの、特に断らない限り質量基準である。
<(1-1)エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂1の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機、冷却機を備えた耐圧反応容器中に、酢酸ビニル100部とメタノール30部とを仕込み、内部を十分に窒素置換したのち、圧力が5.0kg/cm2になるようにエチレンを注入した。次いで、当該反応容器の内温を60℃まで昇温したのち、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルのメタノール溶液を添加し、重合反応を開始した。3時間反応を継続させたのち、反応容器の内温を30℃まで冷却し、更に、未反応のエチレン及び酢酸ビニルを除去することで、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂1のメタノール溶液を得た。
その後、上記メタノール溶液を攪拌しながら、水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液を十分量加え、けん化反応を開始した。1時間反応を継続させたのち、生成物を濾別し、洗浄、乾燥及び粉砕することで、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂1を得た。なお、上述した方法により測定及び算出した、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂1の重合度は1,000、けん化度は99モル%、エチレン変性度は6.2モル%であった。
<(1-2)エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂2~6の製造例>
耐圧反応溶液中に注入した際のエチレンの圧力、重合反応温度、及び、重合反応時間を調整した以外は、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂1と同様の方法により、下表1に示す重合度、けん化度、エチレン変性度を有する、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂2~6を得た。
なお下表1には、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂1の重合度、けん化度、エチレン変性度についても、併せて記載した。
Figure 2023177002000005
<(1-3)エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂7~9の製造例>
上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂1の場合と同様の方法により、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂1のメタノール溶液を得たのち、エタノールを減圧留去し、共重合樹脂を分離した。次いで、上記エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂1の100部を、再度メタノールに溶解させたのち、溶液を攪拌しながら、水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液800部を加え、けん化反応を開始した。そして、1時間反応を継続させたのち、生成物を濾別し、洗浄、乾燥及び粉砕することで、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂7を得た。なお、上述した方法により測定及び算出した、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂7の重合度は1,000、けん化度は92モル%、エチレン変性度は6.2モル%であった。
また、添加した水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液の量を、それぞれ700部及び600部とした以外は、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂7と同様の方法により、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂8~9を得た。エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂8の重合度は1,000、けん化度は80モル%、エチレン変性度は6.2モル%であり、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂9の重合度は1,000、けん化度は72モル%、エチレン変性度は6.2モル%であった。
<(1-4)エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂10~12>
なお、以降の評価では、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂の市販品(いずれもクラレ社製)を、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂10~12として使用した。エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂10~12として使用した商品名、ならびに、重合度、けん化度及びエチレン変性度は、下表2の通りである。
Figure 2023177002000006
<(2-1)エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂水溶液1~12の製造例>
エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂1を15部と、イオン交換水を85部とを、温度計及び攪拌機を備えた混合容器中に投入した。容器内の内容物を室温にて1時間攪拌混合したのち、当該内容物を90℃に加温し、更に1時間攪拌混合を行った。その後、内容物の温度を室温まで放冷することで、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂水溶液1(固形分濃度15質量%)を得た。
また、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂1の代わりに、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂2~12をそれぞれ使用した以外は、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂水溶液1の場合と同様の方法により、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂水溶液2~12(いずれも固形分濃度15質量%)を得た。
<(2-2)エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂エマルジョン1~2の製造例>
EVOH(c2)として、クラレ社製のエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂市販品であるエバールE105B(重合度1,500、けん化度99モル%、エチレン変性度44%)を使用した以外は、特開2003-2071号公報の実施例4に記載の方法を用いて、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂市販品のエマルジョン(固形分濃度25質量%、以下「エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂エマルジョン1」とする)を得た。
また、EVOH(c2)として、クラレ社製のエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂市販品であるエバールF104B(重合度500、けん化度99モル%、エチレン変性度32%)を使用した以外は、上記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂エマルジョン1の場合と同様の方法により、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂エマルジョン2(固形分濃度25質量%)を得た。
<(3)水性前処理液1~94の調製例>
下表3の各列に示した材料を、順次、温度計及び攪拌機を備えた混合容器に投入した。なお、混合容器内の内容物を攪拌しながら、各原料を投入するようにし、また表3の各列において上の行に記載されているものから順番に、上記混合容器中に投入するようにした。全ての材料を投入し終えた後、混合容器内の内容物を室温にて1時間攪拌混合し、更に当該内容物を60℃に加温したのち、60℃下で1時間攪拌混合を行った。そして、内容物を室温まで放冷したのち、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行うことで、水性前処理液1~94を得た。
Figure 2023177002000007
Figure 2023177002000008
Figure 2023177002000009
Figure 2023177002000010
Figure 2023177002000011
Figure 2023177002000012
Figure 2023177002000013
なお、表3に記載した商品名や略称の詳細は、以下に示した通りである。
・ポバール11-98水溶液:ポバール11-98(クラレ社製ポリビニルアルコール、重合度:1,000、けん化度:98%)を、固形分15%になるように水に溶かした溶液
・ポバール9-88水溶液:ポバール9-88(クラレ社製ポリビニルアルコール、重合度:1,000、けん化度:88%)を、固形分15%になるように水に溶かした溶液
・Neocryl XK-190:DSM Coating Resins社製(メタ)アクリル樹脂微粒子、固形分45%
・WEM-3000:大成ファインケミカル社製ウレタン-(メタ)アクリル樹脂微粒子、固形分32.5%
・ハイテックE6400:東邦化学社製ポリオレフィン樹脂微粒子、固形分35%
・サーフィノール465:日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値:13.2
・サーフィノール440:日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値:8.1
・アセチレノールE200:川研ファインケミカル社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値:15.9
・ダイノール607:日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値:6.8
・POAE化合物1:上記一般式7において、R2=ラウリル基、m=4、n=0である化合物、HLB値:9.7
・POAE化合物2:上記一般式7において、R2=ラウリル基、m=9、n=0である化合物、HLB値:13.6
・POAE化合物3:上記一般式7において、R2=ラウリル基、m=12、n=0である化合物、HLB値:16.5
・POAE化合物4:上記一般式7において、R2=ラウリル基、m=50、n=0である化合物、HLB値:18.4
・POAE化合物5:上記一般式7において、R2=セチル基、m=20、n=0である化合物、HLB値:15.7
・POAE化合物6:上記一般式7において、R2=ステアリル基、m=6、n=0である化合物、HLB値:9.9
・POAE化合物7:上記一般式7において、R2=ステアリル基、m=20、n=0である化合物、HLB値:15.3
・POAE化合物8:上記一般式7において、R2=ベヘニル基、m=20、n=0である化合物、HLB値:14.6
・POAE化合物9:上記一般式7において、R2=ラウリル基、m=3、n=0である化合物、HLB値:8.3
・POAE化合物10:上記一般式7において、R2=ステアリル基、m=5、n=0である化合物、HLB値:9.0
・POAA化合物1:上記一般式8において、R3=ラウリル基、p=3.5、q=0、r=3.5、s=0である化合物、HLB値:12.5
・POAA化合物2:上記一般式8において、R3=ラウリル基、p=15、q=0、r=15、s=0である化合物、HLB値:17.5
・POAA化合物3:上記一般式8において、R3=ステアリル基、p=3.5、q=0、r=3.5、s=0である化合物、HLB値:10.7
・POAA化合物4:上記一般式8において、R3=ステアリル基、p=15、q=0、r=15、s=0である化合物、HLB値:16.6
・POAA化合物4:上記一般式8において、R3=ステアリル基、p=2、q=0、r=2、s=0である化合物、HLB値:7.9
・BYK-333:ビックケミー社製シロキサン系界面活性剤(上記一般式9で表される化合物)、HLB値:10.1
・フッ素化合物1:下記一般式13で表されるフッ素系界面活性剤(ただしxは1~7の整数である)、HLB値:6.4
・PAS-H-1L:ニットーボーメディカル社製ジアリルジメチルアンモニウム塩酸塩重合体(固形分28%、塩基価350mgKOH/g)
・PAS-M-1:ニットーボーメディカル社製メチルジアリルアミン塩酸塩重合体(固形分50%、塩基価385mgKOH/g)
・PAA-HCl-3L:ニットーボーメディカル社製アリルアミン塩酸塩重合体(固形分50%、塩基価605mgKOH/g)
・カチオマスターPD-30:四日市合成社製ポリアミンエピクロロヒドリン(固形分52%、塩基価410mgKOH/g)
・オルガチックスTC-300:マツモトファインケミカル社製チタンラクテートアンモニウム塩(固形分41%)
・12M塩酸:濃塩酸(濃度:12mol/L)
・BITaq:1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンの1%水溶液

Figure 2023177002000014
<(4-1)顔料分散液の製造例>
カーボンブラック(オリオンエンジニアドカーボンズ社製「PrinteX85」)を450gと、スチレン-アクリル樹脂(全ての酸基がジメチルアミノエタノールで中和された、スチレン/アクリル酸/ベヘニルアクリレート=45/30/25(質量比)のランダム重合体、酸価230mgKOH/g、重量平均分子量20,000)を90gと、水を2,460gとを、攪拌機を備えた混合容器(容積10L)中に投入し、1時間プレミキシングを行った。その後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1,800gを充填したシンマルエンタープライゼス社製「ダイノーミル」(容積0.6L)を用いて、カーボンブラックの50%径が約100nmになるまで循環分散を行い、ブラック顔料分散液を製造した。なお上記50%径は、上述した樹脂微粒子の体積基準での累積50%径と同様の装置及び方法により測定した値である。
また、顔料として以下に示す顔料を使用し、それぞれ以下に示す50%径になるまで循環分散を実施した以外は、上記ブラック顔料分散液と同様の原料及び方法により、シアン顔料分散液、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液を製造した。
・シアン顔料分散液:トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7358G(C.I.ピグメントブルー15:3)、50%径=150nm
・マゼンタ顔料分散液:DIC社製FASTGEN SUPER MAGENTA RG(C.I.ピグメントレッド122)、50%径=150nm
・イエロー顔料分散液:トーヨーカラー社製LIONOL YELLOW TT1405G(C.I.ピグメントイエロー14)、50%径=150nm
<(4-2)水性インクジェットインキの製造例>
ブラック顔料分散液を33.3部、特開2020-180178号公報の実施例に記載された方法で製造した、バインダー樹脂40の水性化溶液(固形分30%)を13.4部、1,2-プロパンジオールを20部、プロピレングリコールモノメチルエーテルを4部、TEGO Wet 280(エボニック社製ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤)を1.5部、及び、サーフィノール465(日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤)を1部、を混合容器に順次投入したのち、添加量の総量が100部になるように水を加え、攪拌機で十分に均一になるまで攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去し、水性ブラックインキ1(K1)を作製した。
また、顔料分散液として、シアン顔料分散液、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液をそれぞれ使用した以外は、上記水性ブラックインキ1と同様の方法により、水性シアンインキ1(C1)、水性マゼンタインキ1(M1)、水性イエローインキ1(Y1)を得た。そして、K1、C1、M1、Y1の4種の水性インクジェットインキを水性インクジェットインキセット1として、下記の評価に使用した。
<(5-1)水性前処理液を付与した紙基材の製造例>
オーエスジーシステムプロダクツ社製ノンワイヤーバーコーター250-OSP-02を用い、コート紙基材である王子製紙社製「OKトップコート+」(坪量104.7g/m2)に、上記で製造した水性前処理液のそれぞれをウェット膜厚2.0±0.2μmとなるように塗布したのち、塗布後の基材を70℃のエアオーブンに投入して2分間乾燥させることで、水性前処理液を付与した基材を製造した。
<(5-2)印刷物の製造例>
基材を搬送できるコンベヤの上部に京セラ社製インクジェットヘッド「KJ4B-1200」(設計解像度1,200dpi、ノズル径20μm)を4個設置し、上記で製造した水性インクジェットインキセット1を、基材の搬送方向に対して上流側のインクジェットヘッドから、K1、C1、M1、Y1の順番になるように充填した。次いで、上記で作製した、水性前処理液を付与した基材をコンベヤ上に固定したのち、当該コンベヤを一定速度で駆動させた。そして、基材がインクジェットヘッドの設置部を通過する際に、水性インクジェットインキを、それぞれドロップボリューム2pLで吐出し、画像を印刷したのち、速やかに、前記印刷物を70℃エアオーブンに投入し3分間乾燥させることで、印刷物を作製した。
なお印刷画像として、5cm×10cmの印字率100%べたパッチが、CMYKの順番で隣接した画像(以下、「べたパッチ画像」と呼ぶ)と、総印字率(各色の印字率の合計)を40~320%まで連続的に変化させた4色(CMYK)画像(以下、「グラデーション画像」と呼ぶ。なお、各総印字率における、各色の印字率は同一である)の2種類を準備し、それぞれ印刷物を作製した。
[実施例1~84、比較例1~10]
上記で製造した水性前処理液のそれぞれについて、水性インクジェットインキセット1と組み合わせて印刷物を作製した。この印刷物、または、水性前処理液そのものを使用して、下記の評価を行った。また評価結果は、表4に示した通りであった。
<評価1:水性前処理液の保存安定性の評価>
上記で製造した水性前処理液の粘度を、東機産業社製TVE25L型粘度計を用いて測定したのち、当該水性前処理液を密閉容器に封入し、60℃に設定した恒温機内に静置保存した。そして、静置開始後1週間ごとに密閉容器を取り出し、評価開始時と同様の装置及び条件により、静置保存後の粘度を測定し、保存前後での粘度変化率を算出するとともに、沈殿物や濁りの発生の有無を目視確認することで、水性前処理液の保存安定性の評価を行った。評価基準は下記の通りとし、3点以上を実使用可能とした。
5:4週間保存後の粘度変化率が±10%未満であり、また4週間経過後も沈殿物や濁りは発生しなかった
4:3週間保存後の粘度変化率が±10%未満であり、また3週間経過後も沈殿物や濁りは発生しなかった
3:2週間保存後の粘度変化率が±10%未満であり、また2週間経過後も沈殿物や濁りは発生しなかった
2:1週間保存後の粘度変化率が±10%未満であり、また1週間経過後も沈殿物や濁りは発生しなかった
1:1週間保存後の粘度変化率が±10%以上であった、及び/または、1週間経過後に沈殿物や濁りが発生した
<評価2:画像品質(白抜け、ドット形状)の評価>
上記方法に基づき、コンベヤの駆動速度を変えて作製したべたパッチ画像の印刷物を目視観察し、白抜けの程度を確認した。また、コンベヤの駆動速度を変えて作製したグラデーション画像の印刷物の、印字率40~60%の部分におけるドット形状を、光学顕微鏡を用いて200倍で拡大観察した。そして、白抜けの程度、及び、ドット形状から、画像品質を総合的に判断した。評価基準は下記の通りとし、3点以上を実使用可能とした。
5:コンベヤ駆動速度75m/分で印刷した印刷物における、すべての色で、白抜け、及び、ドット形状の乱れが確認されなかった
4:コンベヤ駆動速度75m/分で印刷した印刷物では、白抜け、及び/または、ドット形状の乱れが確認されたが、コンベヤ駆動速度60m/分で印刷した印刷物では、すべての色で、白抜け、及び、ドット形状の乱れが確認されなかった
3:コンベヤ駆動速度60m/分で印刷した印刷物では、白抜け、及び/または、ドット形状の乱れが確認されたが、コンベヤ駆動速度45m/分で印刷した印刷物では、すべての色で、白抜け、及び、ドット形状の乱れが確認されなかった
2:コンベヤ駆動速度45m/分で印刷した印刷物では、白抜け、及び/または、ドット形状の乱れが確認されたが、コンベヤ駆動速度30m/分で印刷した印刷物では、すべての色で、白抜け、及び、ドット形状の乱れが確認されなかった
1:コンベヤ駆動速度30m/分で印刷した印刷物で、白抜け、及び/または、ドット形状の乱れが確認された
<評価3:混色滲みの評価>
上記方法に基づき、60m/分のコンベヤ駆動速度にてグラデーション画像の印刷物を作製した。そして、得られた印刷物の、印字率120~240%の部分におけるドット形状を、光学顕微鏡を用いて200倍で拡大観察することで、混色滲みの評価を行った。評価基準は下記の通りとし、3点以上を実使用可能とした。
5:総印字率が240%である部分で、ドット同士の合一やドット形状の不均一さが見られなかった
4:総印字率が240%である部分では、ドット同士の合一やドット形状の不均一さが見られたが、総印字率が200%である部分では、ドット同士の合一やドット形状の不均一さは見られなかった
3:総印字率が200%である部分では、ドット同士の合一やドット形状の不均一さが見られたが、総印字率が160%である部分では、ドット同士の合一やドット形状の不均一さは見られなかった
2:総印字率が160%である部分では、ドット同士の合一やドット形状の不均一さが見られたが、総印字率が120%である部分では、ドット同士の合一やドット形状の不均一さは見られなかった
1:総印字率が120%である部分で、ドット同士の合一やドット形状の不均一さが見られた
<評価4:分離性の評価>
上記方法に基づき、60m/分のコンベヤ駆動速度にてべたパッチ画像の印刷物を作製したのち、得られた印刷物を、3cm×3cm角に切り出した。このように切り出した印刷物を400片準備し、攪拌器を備えた混合容器にすべて投入した後、0.02質量%の水酸化ナトリウム水溶液1,500gを加え、更に攪拌しながら混合容器内を45℃まで加温し、同温度にて20分間攪拌を継続した(湿式離解工程)。次いで、上記混合物に、水を4,000gと、脱墨剤としてDI-7020(花王社製)の1.5質量%水溶液を5gとを加えたのち、空気を供給しながら、また、適宜フロス(泡)をかきとりながら10分間攪拌することで、水性インクジェットインキ層除去工程(フローテーション法)を行った。その後、ブフナーロートを使用した吸引ろ過によって得られた残渣(パルプマット)の色味(着色度合い)を目視観察することで、紙基材に対する分離性を評価した。評価基準は下記の通りとし、2点以上を実使用可能とした。
4:実施例3にて作製したパルプマットよりも色味(着色度合い)が弱かった
3:実施例3にて作製したパルプマットと同程度の色味(着色度合い)であった
2:実施例11にて作製したパルプマットと同程度の色味(着色度合い)であった
1:実施例11にて作製したパルプマットよりも色味(着色度合い)が強かった
<評価5:耐擦過性の評価>
上記方法に基づき、60m/分のコンベヤ駆動速度にてべたパッチ画像の印刷物を作製したのち、得られた印刷物を、被摩擦紙(日本製紙社製NPI-70)をセットしたサウザランド・ラブテスタ(東洋精機製作所社製)にセットし、4ポンドの荷重をかけて所定回数往復した。そして、印刷物が剥がれて基材が露出するかどうかを目視にて確認することで、耐擦過性の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、3点以上を実使用上好ましいとした。なお耐擦過性の評価は4色全てで行い、下表4には、最も評価結果が悪かった色の結果を記載した。
4:20往復しても印刷物が剥がれず、基材が露出しなかった
3:20往復後では印刷物が剥がれて基材が露出したが、15往復後では基材が露出しなかった
2:15往復後では印刷物が剥がれて基材が露出したが、10往復後では基材が露出しなかった
1:10往復後でも印刷物が剥がれて基材が露出した
Figure 2023177002000015
Figure 2023177002000016
Figure 2023177002000017
Figure 2023177002000018
表4から明らかなように、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)と、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)とを併用した水性前処理液では、保存安定性、白抜け、ドット形状、混色滲み、分離性の全てにおいて、実使用可能な品質を有していることが確認された。更に、エチレン変性度が35モル%以下である、及び/または、重合度が500以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を一定量以上使用する、あるいは、沸点が230℃以上(更に好ましくは200℃以上)である水溶性有機溶剤の含有量を一定量以下とすることで、耐擦過性にも優れた印刷物を得ることが可能となった。
上記に対して、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含まない水性前処理液28~29、ならびに、けん化度が80モル%未満であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂を含む水性前処理液27では、保存安定性が大きく劣ったものとなった(比較例1~3)。これらの結果は、経時に伴う、共重合樹脂の構成の変化や、当該共重合樹脂の結晶性による析出物の発生を防止するためには、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の存在が必須不可欠であることを示すものであった。
また、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を使用した場合であっても、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)を含まない場合(水性前処理液53~57)、やはり保存安定性が大きく悪化した(比較例4~8)。比較例4~8では更に、印刷物に白抜けやドット形状の乱れも発生した。これらの結果から、水性前処理液中でのエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の安定化のためには、特定のHLB値を有する界面活性剤の存在が必須であるといえる。また、水性前処理液53~57に含まれる界面活性剤はHLB値が小さく、後から印刷される水性インクジェットインキを弾いてしまうことで、白抜け等につながったものと考えられる。
その他、水性前処理液94は、特許文献5の実施例に記載されている前処理液18を再現したものであり、評価の結果、保存安定性の悪化や印刷物における白抜け等の発生が見られた。高HLB値界面活性剤(B-1)を含まないためと考えられる(比較例4~8も参照)。
また、水性前処理液70のように、凝集剤を一切含まない系では、混色滲みが発生した。エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)及び高HLB値界面活性剤(B-1)のみで画像品質を向上させることは難しく、凝集剤の存在が必要であることが確認された。
すなわち本発明は、以下の[1]~[10]に関する。
[1]水性インクジェットインキとともに用いられる水性前処理液であって、
前記水性前処理液が、樹脂(A)と、界面活性剤(B)と、凝集剤と、水溶性有機溶剤(C)とを含み、
前記樹脂(A)が、けん化度が80モル%以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含み、
前記界面活性剤(B)が、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)を含み、
前記水溶性有機溶剤が、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)を含む、水性前処理液。
[2]前記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のエチレン変性度が、0.8~50モル%である、[1]記載の水性前処理液。
[3]前記凝集剤が、多価金属塩を含み、
前記多価金属塩を構成する対アニオンが、酸素原子を有する対アニオンである、[1]または[2]に記載の水性前処理液。
[4]前記分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)の含有量と、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量との質量比が、1:0.1~1:3.0である、[1]または[2]に記載の水性前処理液。
[5]前記凝集剤が、多価金属塩を含み、
前記多価金属塩を構成する対アニオンが、酸素原子を有する対アニオンであり、
前記分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)の含有量と、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量との質量比が、1:0.1~1:3.0である、[1]または[2]に記載の水性前処理液。
]前記HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)が、アセチレンジオール系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、及び、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含む、[1]または[2]に記載の水性前処理液。
]前記HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)が、アセチレンジオール系界面活性剤と、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤及び/または(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤とを含む、[]記載の水性前処理液。
][1]または[2]に記載の水性前処理液と、顔料、樹脂、及び、水を含む水性インクジェットインキとを含む、インキセット。
]基材、[1]または[2]に記載の前処理液を用いて形成された前処理層、ならびに、顔料、樹脂、及び、水を含む水性インクジェットインキから形成された層を、この順に有する印刷物。
10][]記載の印刷物を塩基性溶液に浸漬する工程を含む、前記印刷物からの水性インクジェットインキから形成された層の分離方法。

すなわち本発明は、以下の[1]~[]に関する。
[1]水性インクジェットインキとともに用いられる水性前処理液であって、
前記水性前処理液が、樹脂(A)と、界面活性剤(B)と、凝集剤と、水溶性有機溶剤(C)とを含み、
前記樹脂(A)が、けん化度が80モル%以上であり、かつ、エチレン変性度が0.8~50モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含み、
前記界面活性剤(B)が、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)を含み、
前記水溶性有機溶剤が、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)を含む、水性前処理液。
]前記凝集剤が、多価金属塩を含み、
前記多価金属塩を構成する対アニオンが、酸素原子を有する対アニオンである、[1]に記載の水性前処理液。
]前記分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)の含有量と、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量との質量比が、1:0.1~1:3.0である、[1]に記載の水性前処理液。
]前記凝集剤が、多価金属塩を含み、
前記多価金属塩を構成する対アニオンが、酸素原子を有する対アニオンであり、
前記分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)の含有量と、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量との質量比が、1:0.1~1:3.0である、[1]に記載の水性前処理液。
]前記HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)が、アセチレンジオール系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、及び、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含む、[1]に記載の水性前処理液。
]前記HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)が、アセチレンジオール系界面活性剤と、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤及び/または(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤とを含む、[]記載の水性前処理液。
][1]に記載の水性前処理液と、顔料、樹脂、及び、水を含む水性インクジェットインキとを含む、インキセット。
]基材、[1]に記載の前処理液を用いて形成された前処理層、ならびに、顔料、樹脂、及び、水を含む水性インクジェットインキから形成された層を、この順に有する印刷物。
][8]に記載の印刷物を塩基性溶液に浸漬する工程を含む、前記印刷物からの水性インクジェットインキから形成された層の分離方法。

Claims (9)

  1. 水性インクジェットインキとともに用いられる水性前処理液であって、
    前記水性前処理液が、樹脂(A)と、界面活性剤(B)と、凝集剤と、水溶性有機溶剤(C)とを含み、
    前記樹脂(A)が、けん化度が80モル%以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)を含み、
    前記界面活性剤(B)が、HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)を含み、
    前記水溶性有機溶剤が、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)を含む、水性前処理液。
  2. 前記エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)のエチレン変性度が、0.8~50モル%である、請求項1記載の水性前処理液。
  3. 前記凝集剤が、多価金属塩を含み、
    前記多価金属塩を構成する対アニオンが、酸素原子を有する対アニオンである、請求項1または2に記載の水性前処理液。
  4. 前記分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤(C-1)の含有量と、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(A-1)の含有量との質量比が、1:0.1~1:3.0である、請求項1~3のいずれかに記載の水性前処理液。
  5. 前記HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)が、アセチレンジオール系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、及び、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~4のいずれかに記載の水性前処理液。
  6. 前記HLB値が9.5以上である界面活性剤(B-1)が、アセチレンジオール系界面活性剤と、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤及び/または(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤とを含む、請求項5記載の水性前処理液。
  7. 請求項1~6のいずれかに記載の水性前処理液と、顔料、樹脂、及び、水を含む水性インクジェットインキとを含む、インキセット。
  8. 基材、請求項1~6のいずれかに記載の前処理液を用いて形成された前処理層、ならびに、顔料、樹脂、及び、水を含む水性インクジェットインキから形成された層を、この順に有する印刷物。
  9. 請求項8記載の印刷物を塩基性溶液に浸漬する工程を含む、前記印刷物からの水性インクジェットインキから形成された層の分離方法。
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