JP2023065697A - 絶縁電線 - Google Patents

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Abstract

【課題】電動自動車用モータの巻線などのように加工が施される箇所にも適用が可能であり、導体と絶縁被膜との密着性が良好な絶縁電線を提供する。【解決手段】導体20と、絶縁性材料から構成され、かつ、複数の空孔を含む絶縁被膜30と、を備え、絶縁被膜30は、導体20に隣接するとともに導体20の周囲を覆う1層の第1絶縁層31を少なくとも有し、第1絶縁層31は、導体20との界面において複数の空孔が含まれていない。【選択図】図2

Description

本発明は、絶縁電線に関する。
長尺状に形成された導体の周面に絶縁被膜を設けた絶縁電線が知られている。絶縁電線の用途としては、産業用モータのコイルなどが例示される。産業用モータでは、高出力を発揮させるために、出力が要求されない場合と比較して高い電圧が印加されることがある。
また、モータの回転速度を制御する方法として、インバータ駆動が知られている。インバータ駆動では、スイッチング等に起因するインバータサージ(サージ電圧とも表記する。)がモータに印加されることがある。
インバータ駆動では、モータに印加される交流電源の電圧または周波数を、インバータを用いて変化させる。印加される交流電源の電圧または周波数を制御することにより、モータの回転速度が制御される。
インバータにはオンオフ機能(スイッチング機能とも表記する。)を有する半導体などの素子が含まれる。この素子のスイッチングにより印加される交流電源の電圧または周波数が制御される。
上述のスイッチングにより形成されるパルスごとにインバータサージが発生する。このようなインバータサージは、伝搬系内のインピーダンスの不連続点において反射し、最大でインバータの出力電圧の2倍程度の電圧となる。
上述のように相対的に高い電圧が印加されると、モータのコイルに用いられた絶縁電線の絶縁被膜に部分放電が発生する可能性がある。部分放電が発生すると、絶縁被膜が浸食され、絶縁不良の原因となるという問題があった。
この問題を解決する一例として、比誘電率(εrとも表記する。)が小さい絶縁被膜を絶縁電線に用いる方法が挙げられる。比誘電率が小さい絶縁被膜を用いることにより、部分放電開始電圧を高くし、部分放電の発生を抑制することが可能となる。
絶縁被膜の比誘電率を小さくする方法としては、絶縁被膜に比誘電率が低い内部に空気等の気体を含む空孔(εr=1.0)を分散させる方法が開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。空孔を分散させることで、絶縁被膜に低誘電率効果を持たせつつ耐熱性を維持することが可能となる。絶縁被膜としては、ポリイミド(PIとも表記する。)材料により形成されたものが知られている。
PI材料に含まれる空孔の割合を高めることで、絶縁被膜の比誘電率を低減することが可能となる。比誘電率の値は、PI材料の単位体積当たりに含まれる空孔体積の割合(空孔率とも表記する。)から推定することが可能である。
空孔を分散させる技術は、PI材料から形成された絶縁被膜を有するエナメル線(PIエナメル線とも表記する。)にも適用されている。例えば、空孔の径が数μmの空孔が多数設けられた多孔質PIエナメル線が知られている。
WO2016/072425号 特開2016-091865号公報
電動自動車用モータの巻線には、多孔質PIエナメル線等の比誘電率が低い絶縁被膜を有するエナメル線が用いられている。電動自動車用モータの巻線に適用されるエナメル線には、加工性や絶縁性が求められる。
上述の多孔質PIエナメル線のように、絶縁被膜がPI材料から形成され、空孔径が数μm程度の多数の空孔を含む場合には、隣接する複数の空孔が連通することがある。連通した空孔は、他の連通していない独立した空孔と比較して空孔径が大きくなる。
連通した空孔が存在すると、エナメル線における絶縁破壊電圧の低下が起こりやすくなり、加工性の低下(例えば、エナメル線の曲げ加工に起因する絶縁被膜のワレ)が起こりやすくなるという問題があった。ここで、絶縁破壊電圧の低下は、エナメル線の導体に通電した際に連通した空孔などで発生する部分放電に起因する。加工性の低下は、連通した空孔による絶縁被膜の強度低下に起因する。
上述の問題の他に、エナメル線の導体と絶縁被膜との密着性が低下するという問題もあった。密着性の低下は、絶縁被膜における導体との接触面に空孔が開口することによる導体と絶縁被膜との接触面積が減少することに起因する。
なお、導体と絶縁被膜との密着性が不十分な場合には、エナメル線を製造する際に、ダイスにおいて導体から剥離した絶縁被膜がダイスに詰まることにより断線が発生することもある。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、電動自動車用モータの巻線などのように加工が施される箇所にも適用が可能であり、導体と絶縁被膜との密着性が良好な絶縁電線を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明に係る絶縁電線は、導体と、絶縁性材料から構成され、かつ、複数の空孔を含む絶縁被膜と、を備え、絶縁被膜は、導体に隣接するとともに導体の周囲を覆う1層の第1絶縁層を少なくとも有し、第1絶縁層は、導体との界面において複数の空孔が含まれていない。
本発明に係る絶縁電線によれば、導体との接触面に空孔が存在する場合と比較して、導体と絶縁被膜との接触面積が減少しにくい。言い換えると、導体と空孔を含む絶縁被膜との密着性が低下しにくい。
また、本発明に係る絶縁電線は、第1絶縁層が、導体に隣接する領域であって複数の空孔を含まない第1内側領域と、絶縁被膜の厚さ方向における第1内側領域よりも外側の領域であって複数の空孔を含む第1中央領域と、を有する。また、第1絶縁層が、絶縁被膜の厚さ方向における第1中央領域よりも外側の領域であって複数の空孔を含まない第1外側領域を有する。第1内側領域および第1外側領域は、複数の空孔を含まないため、複数の空孔が第1内側領域および第1外側領域を超えてつながる連通が発生しにくい。言い換えると、絶縁破壊電圧が低下しにくく、加工性が低下しにくい。
また、本発明に係る絶縁電線は、絶縁被膜における第1絶縁層の第1中央領域が複数の空孔を含み、第1絶縁層の外周側から導体の周囲を覆う少なくとも1層の第2絶縁層が第1絶縁層に隣接する界面において複数の空孔を含むため、空孔を含まない場合と比較して、絶縁被膜の比誘電率を低減させやすい。
また、空孔の表面に殻を持たないので、上述の空孔の表面にポリマの殻を設けて加工性の低下を抑制する技術と比較して、可とう性が優れ絶縁被膜が割れにくい。例えば、モータ用巻き線として用いる際の曲げ加工を行っても、絶縁被膜が割れにくい。
本発明の絶縁電線によれば、電動自動車用モータの巻線などのように加工が施される箇所にも絶縁電線の適用が可能であり、不具合の発生を抑制しやすいという効果を奏する。
第1の実施形態に係る絶縁電線の構成を説明する横断面視図である。 図1の第1絶縁層及び第2絶縁層の構成を説明する摸式図である。 図1の絶縁電線の製造方法を説明するフローチャートである。 比較例1に係る絶縁電線の構成を説明する横断面視図である。 比較例2および3に係る絶縁電線の構成を説明する横断面視図である。 各実施形態に係る絶縁電線の評価結果と、各比較例の評価結果とを比較する表である。 縦断面観察に用いられる絶縁被膜の準備方法を説明する模式図である。 縦断面観察に用いられる絶縁被膜の準備方法を説明する模式図である。 第1絶縁層における導体と隣接する界面を説明するSEM画像である。 第2絶縁層における第1絶縁層と隣接する界面を説明するSEM画像である。 第2の実施形態に係る絶縁電線の構成を説明する横断面視図である。 図11の第1絶縁層、第2絶縁層および第3絶縁層の構成を説明する摸式図である。 図11の絶縁電線の製造方法を説明するフローチャートである。 第3の実施形態に係る絶縁電線の構成を説明する横断面視図である。 図14の絶縁電線の製造方法を説明するフローチャートである。
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る絶縁電線10および絶縁電線10の製造方法について図1から図6を参照しながら説明する。本実施形態では絶縁電線10がエナメル線、具体的にはモータの巻線に用いられるエナメル線である例に適用して説明する。より具体的には、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)などの電動自動車の駆動モータの巻線に用いられるエナメル線である例に適用して説明する。
図1は、本実施形態の絶縁電線10の構成を説明する横断面視図である。図1に示すように、絶縁電線10には導体20と、空孔を含む絶縁被膜30と、が設けられている。
導体20は、長尺状に延びるとともに、円形の断面形状を有する部材である。本実施形態では、導体20が、直径0.8mmの丸銅線である例に適用して説明する。なお、導体20の断面形状は、円形であってもよいし、矩形であってもよく、具体的な形状に限定されない。
導体20は、電線として一般的に用いられる金属材料を用いて形成される。導体20の形成に用いられる金属材料としては、銅、銅を含む合金、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金を例示することができる。本実施形態では、導体20が、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅、又は無酸素銅を用いて形成された例に適用して説明する。
絶縁被膜30は導体20の周面を覆う部材である。絶縁被膜30は絶縁性および熱硬化性を有する材料(すなわち、絶縁性材料)を用いて形成されている。絶縁性および熱硬化性を有する材料としては、ポリイミドや、ポリアミドイミドを例示することができる。
本実施形態では、絶縁被膜30が全芳香族ポリイミド(以降、単にポリイミドとも表記する。)から形成されている例に適用して説明する。なお、絶縁被膜30を形成する具体的な方法は後述する。
図2は、第1絶縁層31および第2絶縁層41の構成を説明する摸式図である。
絶縁被膜30には、図2に示すように、1層の第1絶縁層31と、複数の第2絶縁層41と、が設けられている。本実施形態では14層の第2絶縁層41が設けられている例に適用して説明する。なお、第2絶縁層41の層数は14層よりも多くても良いし、少なくても良い。
本実施形態では、絶縁被膜30の全体が15層の絶縁層によって構成され、絶縁被膜30の膜厚が約40μmである例に適用して説明する。なお、絶縁被膜30の膜厚は40μmよりも厚くても良いし、薄くても良い。例えば、絶縁被膜30の膜厚は、10μm以上200μm以下である。また、絶縁皮膜30を構成する絶縁層の層数は、15層よりも多くても良いし、少なくても良い。
第1絶縁層31は、図2に示すように、導体20の外周面に隣接する位置に配置されている。第1絶縁層31は、導体20の周囲を覆って形成された層であり、後述する3つの領域を有する層である。
第1絶縁層31は、内側から外側に向かって順に、第1内側領域32、第1中央領域33、および、第1外側領域34を有している。以降では、絶縁被膜30の厚さ方向(図2における上下方向とも表記する。)において、導体20側を内側、周面側を外側とも表記する。第1絶縁層31は、後述する第1塗料を導体の外周面に塗布し、塗布した第1塗料を焼付けする(加熱により硬化させる)ことで得られる層である。第1絶縁層31の厚さは、例えば、1μm以上5μm以下である。
第1内側領域32は、導体20に接触して配置された領域であり、第1絶縁層31における第1中央領域33よりも導体20側の領域であってポリイミドなどの絶縁性樹脂から
構成され、後述する第1空孔37を含まない領域(第1内側無空孔領域とも表記する。)である。第1中央領域33は、第1絶縁層31における中央の領域であって、第1内側領域32に隣接して配置されており、ポリイミドなどの絶縁性樹脂および複数の第1空孔37から構成された領域(第1空孔領域とも表記する。)である。第1外側領域34は、第1絶縁層31における第1中央領域33よりも第2絶縁層41側の領域であって、第1中央領域33に隣接して配置されており、ポリイミドなどの絶縁性樹脂から構成され、第1空孔37を含まない領域(第1外側無空孔領域とも表記する。)である。
第1空孔37は、内部に気体が含まれた空間である。気体には、空気、後述する熱分解性ポリマが分解されて発生する気体なども含まれる。なお、第1空孔37の内部に含まれる気体は、大部分が空気と考えられる。第1空孔37の空孔径は2μm以下である。
空孔径は、空間が球形の場合には直径であり、楕円をその軸周りに回転させた回転楕円体の場合には長軸に沿った直径であり、その他の立体形状の場合には最大となる長さである。
空孔径は、独立した1つの第1空孔37における直径または長さである。第1絶縁層31が形成される過程で複数の第1空孔37がつながった空間や、第1絶縁層31が形成された後に複数の第1空孔37がつながった空間は、第1空孔37の空孔径とはしない。
第1内側領域32、および第1外側領域34は、絶縁被膜30の厚さ方向に沿った厚さが、第1中央領域33に含まれる第1空孔37の空孔径より大きいことがよい。これにより、後述する空孔の連通が発生しにくくなり、また、導体20と第1絶縁層30との界面での密着性を向上させることができる。第1中央領域33の厚さは、第1内側領域32の厚さ、および第1外側領域34の厚さより大きいことがよい。これにより、絶縁被膜30の比誘電率を低減させやすくなる。
独立した1つの第1空孔37としては、内壁が球体や回転楕円体のように外向きに凸な連続する曲面形状のみを有しているものを例示できる。つながった複数の第1空孔37としては、内壁が外向きに凸な曲面形状以外の形状を含むものを例示できる。
第2絶縁層41は、第1絶縁層31の外周側に配置され、導体20および第1絶縁層31の周囲を覆う層である。第2絶縁層41は、内側から外側に向かって順に、第2内側領域42、および、第2外側領域44を有している。
第2内側領域42は、第2絶縁層41における第1絶縁層31側の領域であってポリイミドおよび複数の第2空孔47から構成された領域(第2空孔領域とも表記する。)である。第2外側領域44は、第2内側領域42に隣接して位置し、第1絶縁層31と反対側である外側の領域であってポリイミドから構成された領域(第2外側無空孔領域とも表記する。)である。第2空孔47の空孔径は2μm以下である。
第2外側領域44は、絶縁被膜30の厚さ方向に沿った厚さが、第2内側領域42に含まれる第2空孔47の空孔径より大きいことがよい。これにより、第2絶縁層41において後述する空孔の連通(各層を貫通する空孔の連通とも表記する。)が発生しにくくなる。また、第2内側領域42の厚さは、第2外側領域44の厚さより大きいことがよい。これにより、絶縁被膜30の比誘電率が低減しやすくなる。
次に、上述の絶縁電線10の製造方法について図3を参照しながら説明する。具体的には、絶縁電線10における絶縁被膜30の製造方法を説明する。図3は、絶縁電線10の製造方法を説明するフローチャートである。
まず、絶縁電線10の絶縁被膜30を形成する第1塗料の調製工程が行われる(S11)。具体的には、ポリアミド酸を溶剤中で攪拌合成する工程が行われる。攪拌合成前の塗料(合成前塗料とも表記する。)には、溶剤中にジアミンとテトラカルボン酸二無水物とで構成される樹脂分としてのポリイミドモノマが含まれている。当該合成前塗料の樹脂分に対して所定重量部の割合で熱分解性ポリマからなる発泡剤を加えたあと、合成前塗料中のポリイミドモノマを溶剤中で攪拌混合してポリアミド酸を含む第1塗料を得る工程が行われる。発泡剤は、塗料内で発泡することにより絶縁被膜30内に空孔を形成するものである。
熱分解性ポリマからなる発泡剤は、攪拌合成前の塗料中の樹脂分に対して例えば10重量部(phr:per hundred resin)以上60重量部以下(所定重量部に相当する。)加えられる。
ポリアミド酸は、絶縁被膜30を構成する絶縁性材料であるポリイミドの前駆体である。ポリアミド酸としては、公知のエナメル線の製造で使用される種類のものを用いることができ、具体的な種類を特定するものではない。
本実施形態では、ポリアミド酸がジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを重合して得られたものである例に適用して説明する。
ジアミンとしては、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BODA)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)などを用いることができる。なお、本実施形態では、ジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を必須に含む全芳香族ポリイミドを例に適用して説明する。
テトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)などを用いることができる。なお、本実施形態では、テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物(PMDA)を必須に含む全芳香族ポリイミドを例に適用して説明する。
なお、上述のポリアミド酸をイミド化した絶縁被膜30を構成するポリイミドは、高分子の末端部分がキャッピングされたものであってもよい。キャッピングに用いられる材料としては、無水酸を含む化合物、又はアミノ基を含む化合物を用いてもよい。
キャッピングに用いられる無水酸を含む化合物としては、フタル酸無水物、4-メチルフタル酸無水物、3-メチルフタル酸無水物、1,2-ナフタル酸無水物マレイン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、各種フッ素化フタル酸無水物、各種ブロム化フタル酸無水物、各種クロル化フタル酸無水物、2,3-アントラセンジカルボン酸無水物、4-エチニルフタル酸無水物、4-フェニルエチニルフタル酸無水物などを用いることができる。
キャッピングに用いられるアミノ基を含む化合物としては、アミノ基を1つ含む化合物を用いてもよい。
溶剤としては、NMP(N-メチルピロリドン)、DMAc(ジメチルアセトアミド)などを用いることができる。本実施形態では、DMAcが溶剤として用いられる例に適用して説明する。
発泡剤に用いる熱分解性ポリマとしては、液体からなる熱分解性ポリマが挙げられる。液体からなる熱分解性ポリマとしては、例えば、両方の末端に水酸基を有するジオール型のポリプロピレングリコールなどを用いることができる。発泡剤として、液体からなる熱分解性ポリマを用いた場合は、溶剤を介して熱分解性ポリマがポリアミド酸を含む塗料に相溶する。一方、熱分解性ポリマとして、微粒子からなる熱分解性ポリマを用いた場合は、ポリアミド酸を含む塗料に熱分解性ポリマが相溶することは無く、微粒子状の熱分解性ポリマがポリアミド酸を含む塗料中に分散する。ポリアミド酸を含む塗料との相溶性に優れる液体の熱分解性ポリマは、塗料が加熱されて溶剤が揮散されることにより、熱分解性ポリマとポリアミド酸とが相分離した状態を取ることができる。相分離した液体の熱分解性ポリマが熱分解することで、第1絶縁層31に後述する第1空孔37が形成される。このような過程を経て空孔が形成されることで、導体20との界面において第1空孔37が含まれていない第1絶縁層31を形成することができるようになると考えられる。特に、液体からなる熱分解性ポリマとして、ジオール型のポリプロピレングリコールを用いた場合は、ポリアミド酸を含む塗料への相溶性が一層高まるため、その効果が一層顕著である。本実施形態では、分子量が400であるジオール型のポリプロピレングリコール(PPG400とも表記する。)が、液体からなる熱分解性ポリマとして用いられる例に適用して説明する。
次に、調製した第1塗料を導体20の周囲に塗布する第1塗布工程が行われる(S12)。具体的には、第1絶縁層31を形成する第1塗料を塗布する作業が行われる。第1塗料を1回塗布して得られる塗装塗料が導体20の周面に形成される。
第1塗料は、次の第1絶縁層形成工程後に第1絶縁層31の厚さが例えば約3μmとなる所望の厚さに塗布される。本実施形態では、ダイスを用いて導体20の周囲に所望の厚さの塗装塗料を形成する例に適用して説明する。
上述のダイスは、その内部に塗装塗料が形成された導体20を挿通するための貫通孔を有する。導体20の周囲に、第1絶縁層31が有する所望の厚さよりも厚い第1塗料からなる塗装塗料を形成した後に、当該導体20がダイスの貫通孔に通される。ダイスにより塗装塗料の外周部分の一部が除去され、貫通孔の外径に応じた厚さの塗装塗料が導体20の周囲に残る。
なお、第1塗料を導体20の周囲に塗布する方法としては、上述の方法に限定されるものではなく、エナメル線の製造の際に用いられる他の公知の塗布方法を用いることができる。
次に、導体20の周囲に第1塗料が1回塗布されたことで形成された塗装塗料を加熱して、第1絶縁層31を形成する第1絶縁層形成工程が行われる(S13)。具体的には、第1塗料が1回塗布された導体20が、300℃から500℃の範囲に保たれた炉内に入れられる。
炉内では、高温により溶剤が第1塗料の塗装塗料から除去される。その後、熱分解性ポリマとポリアミド酸とが相分離した状態で塗装塗料に含まれるポリアミド酸のイミド化反応が進み、第1絶縁層31が形成される。ポリアミド酸のイミド化反応と同時に、発泡剤である熱分解性ポリマが熱分解され、第1絶縁層31に第1空孔37が形成される。すなわち、第1絶縁層31には、液体からなる熱分解性ポリマに由来の第1空孔37が形成される。
本実施形態において、発泡剤として用いる液体からなる熱分解性ポリマは、相対的に導体20に対する付着しやすさ(濡れ性または親和性とも表記する。)が、ポリアミド酸に対する付着しやすさよりも低い。そのため、第1塗料における第1内側領域32に相当する部分と、第1中央領域33および第1外側領域34に相当する部分とを比較すると、第1中央領域33および第1外側領域34に相当する部分に発泡剤である熱分解性ポリマが存在する割合が高くなると考えられる。
言い換えると、第1内側領域32に相当する部分に発泡剤である熱分解性ポリマが存在する割合が低くなると考えられる。そのため、第1絶縁層31の第1内側領域32は、絶縁性樹脂であるポリイミドから構成され、後述する第1空孔37を含まない。
上述のように、塗装塗料における第1外側領域34に相当する部分には、発泡剤である熱分解性ポリマが存在する割合が高い。その一方で、加熱により分解されて気化した熱分解性ポリマは、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになる前に塗装塗料から放出されると考えられる。そのため、第1絶縁層31の第1外側領域34は、絶縁性樹脂であるポリイミドから構成され、後述する第1空孔37を含まない。
塗装塗料における第1中央領域33に相当する部分では、気化した熱分解性ポリマが塗装塗料から放出される前に、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになると考えられる。そのため、第1絶縁層31の第1中央領域33は、絶縁性樹脂であるポリイミドおよび複数の第1空孔37から構成される。
次に、調製した第1塗料を第1絶縁層31の周囲に塗布する第2塗布工程が行われる(S14)。具体的には、第2絶縁層41を形成する第1塗料を第1絶縁層31の周面に塗布する作業が行われる。第1塗料の塗装塗料が第1絶縁層31の周囲に形成される。
第1塗料は、次の第2絶縁層形成工程後に第2絶縁層41の厚さが例えば約3μmとなる所望の厚さに塗布される。塗装塗料の厚さの調整は、第1塗布工程S12と同様にダイスを用いて行われる。なお、ここで用いられるダイスは、第1絶縁層31が周面に形成された導体20の外径に対応した貫通孔を有する。
なお、第1塗料を第1絶縁層31の周囲に塗布する方法としては、上述の方法に限定されるものではなく、エナメル線の製造の際に用いられる他の公知の塗布方法を用いることができる。
次に、第1塗料が塗布された後に塗装塗料を加熱して、第2絶縁層41を形成する第2絶縁層形成工程が行われる(S15)。具体的には、第1絶縁層形成工程と同様に、第1塗料が塗布されて塗装塗料が形成された導体20および第1絶縁層31が、300℃から500℃の範囲に保たれた炉内に入れられる。
第1絶縁層形成工程S13と同様に、炉内では高温により溶剤が第1塗料の塗装塗料から除去される。その後、塗装塗料に含まれるポリアミド酸と熱分解性ポリマとが相分離した状態でポリアミド酸のイミド化反応が進み、第2絶縁層41が形成される。ポリアミド酸のイミド化反応と同時に、発泡剤である熱分解性ポリマが熱分解され、第2絶縁層41に第2空孔47が形成される。すなわち、第2絶縁層41には、液体からなる熱分解性ポリマに由来の第2空孔47が形成される。
第1絶縁層形成工程S13とは異なり、第1絶縁層31の周面に形成された第1塗料の塗装塗料は、導体20ではなく第1絶縁層31と接する。そのため、第2塗布工程S14で形成された塗装塗料には、第1塗布工程S12で形成された塗装塗料と比較して、発泡剤である熱分解性ポリマが相対的に均一に存在すると考えられる。
塗装塗料における第2絶縁層41の第2外側領域44に相当する部分では、加熱により分解されて気化した熱分解性ポリマは、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになる前に塗装塗料から放出されると考えられる。そのため、第2外側領域44は、絶縁性樹脂であるポリイミドから構成され第2空孔47を含まない。
塗装塗料における第2内側領域42に相当する部分では、気化した熱分解性ポリマが塗装塗料から放出される前に、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになると考えられる。そのため、第2内側領域42は、絶縁性樹脂であるポリイミドおよび複数の第2空孔47から構成される。
第2絶縁層41が14層形成されていない場合(S16のNOの場合)には、再び上述の第2塗布工程S14に戻り、第2絶縁層41を形成する工程が繰り返される。第2絶縁層41が14層形成されている場合(S16のYESの場合)には、導体20の周囲に絶縁被膜30を形成する工程が終了する。
言い換えると、第2塗布工程S14および第2絶縁層形成工程S15の組合せが14回行われて、14層の第2絶縁層41が形成される。特に、2回目以降の第2塗布工程S14では、第1塗料を第2絶縁層41の周囲に塗布して第2絶縁層41の周囲に塗装塗料を形成する。また、2回目以降の第2絶縁層形成工程S15では、第2絶縁層14の周囲に形成された塗装塗料を加熱することで、第2絶縁層41の周囲に第2絶縁層41を形成する。これにより、絶縁電線10の絶縁被膜30が製造される。絶縁被膜30の全体では1層の第1絶縁層31と、14層の第2絶縁層41が形成される。膜厚が約40μmの絶縁被膜30が形成される。
次に、上述の絶縁電線10の実施例1および実施例2と、各比較例との評価結果の比較について図4から図6を参照しながら説明する。まず、比較の対象となる比較例1(以下、絶縁電線110とも表記する。)、比較例2,3(以下、絶縁電線210とも表記する。)について説明する。
図4は、比較例1に係る絶縁電線110の構成を説明する横断面視図である。図5は、比較例2,3に係る絶縁電線210の構成を説明する横断面視図である。
比較例1に係る絶縁電線110には、図4に示すように、導体20と、絶縁被膜130と、が設けられている。絶縁電線110の導体20は、第1の実施形態に係る絶縁電線10の導体20と同じものである。
絶縁被膜130は導体20の周面を覆う部材である。絶縁被膜130は絶縁性および熱硬化性を有する絶縁性材料としてのポリイミドを用いて形成されている。具体的には、絶縁被膜130は15層の絶縁層を積層して構成されている。当該絶縁層は約3μmの厚さを有し、空孔は有していない。絶縁被膜130の全体では、約40μmの厚さを有している。
絶縁被膜130の絶縁層は、ポリアミド酸を溶剤中で攪拌して得られる塗料(発泡剤が含まれていない塗料とも表記する。)を用いて形成される。当該塗装塗料を300℃から500℃に加熱して1層の絶縁層が形成される。ポリアミド酸および溶剤は、第1の実施形態に係る絶縁電線10で使用されたポリアミド酸および溶剤が用いられる。
比較例2,3に係る絶縁電線210には、図5に示すように、導体20と、絶縁被膜230と、が設けられている。
絶縁電線210の導体20は、第1の実施形態に係る絶縁電線10の導体20と同じものである。
絶縁被膜230は導体20の周面を覆う部材である。絶縁被膜230は絶縁性および熱硬化性を有するポリイミドを用いて形成されている。具体的には、絶縁被膜230は15層の絶縁層を積層して構成されている。
当該絶縁層は約3μmの厚さを有するとともに、空孔247を有している。空孔247の空孔径は1μm以上5μm以下である。絶縁被膜230の全体では、約40μmの厚さを有している。
絶縁被膜230の絶縁層は、ポリイミドモノマと発泡剤としての高沸点溶剤とを含む溶剤中でポリイミドモノマを攪拌合成して得られたポリアミド酸を含む塗料を用いて形成される。高沸点溶剤は、攪拌合成前の塗料中の樹脂分(=ポリイミドモノマ)に対して、比較例2では15重量部(phr:per hundred resin)程度、比較例3では30重量部程度加えられる。発泡剤である高沸点溶剤としては、280℃以上の沸点を有するものを用いた。
当該塗装塗料を300℃から500℃に加熱して15層の絶縁層が形成される。ポリアミド酸および溶剤は、第1の実施形態に係る絶縁電線10で使用されたポリアミド酸および溶剤が用いられる。
なお、比較例2,3の絶縁被膜230では、15層の絶縁層のうち導体20と接触する1層の絶縁層内において、導体20と接触して配置された領域(第1内側領域32に相当する領域)に空孔が含まれている。
次に、上述の絶縁電線10の実施例1および実施例2と、各比較例との評価結果の比較について図6を参照しながら説明する。図6は、複数の評価結果を説明する表である。
絶縁電線10の実施例1は、攪拌合成前の塗料中の樹脂分に対して20重量部の液体からなる熱分解性ポリマ(PPG400)が加えられた第1塗料を用いて製造されたものである。絶縁電線10の実施例2は、攪拌合成前の塗料中の樹脂分に対して40重量部の液体からなる熱分解性ポリマ(PPG400)が加えられた第1塗料を用いて製造されたものである。
絶縁電線10の実施例1および実施例2、比較例1に係る絶縁電線110、比較例2に係る絶縁電線210、および、比較例3に係る絶縁電線310は、それぞれ1種類の塗料を用いて絶縁被膜30、絶縁被膜130、絶縁被膜230および絶縁被膜330を形成している。そのため、図6の構成の欄には、それぞれシングルコートと記載している。
図6の空孔径の欄には、絶縁電線10の実施例1の第1空孔37および第2空孔47の空孔径(2μm以下)が記載されている。絶縁電線10の実施例2の第1空孔37および第2空孔47の空孔径(2μm以下)が記載されている。
また、比較例1に係る絶縁電線110には空孔が無いため値を記載せず「-」(ハイフン)とした。比較例2に係る絶縁電線210の空孔247および比較例3に係る絶縁電線310の空孔347の空孔径(1μm以上5μm以下)が記載されている。
図6の密着性の欄には、密着性の評価結果が記載されている。密着性は、絶縁電線の製造時に、絶縁電線が断線するか否かにより評価される。より具体的には、絶縁電線を製造時に絶縁被膜が剥離し、その剥離した絶縁被膜がダイスに詰まることで断線が発生するか否かにより評価される。
絶縁電線10の実施例1は、断線が発生せず密着性は良(○)と評価された。絶縁電線10の実施例2は、断線が発生せず密着性は良(○)と評価された。比較例1に係る絶縁電線110は、断線が発生せず密着性は良(○)と評価された。これに対して、比較例2に係る絶縁電線210、および、比較例3に係る絶縁電線310は、断線が発生し密着性は不良(×)と評価された。
図6の絶縁被膜全体の空孔率の欄には、絶縁被膜における空孔率の評価値を体積百分率(vol%)で記載している。空孔率は、比重法を用いて絶縁被膜全体の空孔率を評価している。
絶縁電線10の実施例1は、12(vol%)である。絶縁電線10の実施例2は、30(vol%)である。比較例1に係る絶縁電線110は、空孔が無いため値を記載せず「-」(ハイフン)とした。比較例2に係る絶縁電線210は、(12vol%)である。比較例3に係る絶縁電線310は、30(vol%)である。
図6の比誘電率の欄には、比誘電率の測定値および評価結果が記載されている。比誘電率は、絶縁電線の表面に銀ペーストを塗布し、4端子法を用いて周波数が1kHzの条件で測定した。比誘電率の値が3.0未満の場合を良(○)と判定し、3.0以上の場合を不良(×)と判定した。
絶縁電線10の実施例1は、比誘電率の値が2.7で良(○)と判定された。絶縁電線10の実施例2は、比誘電率の値が2.3で良(○)と判定された。比較例1に係る絶縁電線110は、比誘電率の値が3.1で不良(×)と判定された。比較例2に係る絶縁電線210は、比誘電率の値が2.7で良(○)と判定された。比較例3に係る絶縁電線310は、比誘電率の値が2.3で良(○)と判定された。
図6の絶縁破壊の強さの欄には、絶縁破壊の強さの測定値および評価結果が記載されている。絶縁破壊の強さは、JIS C 3216-5 JA4.2(b)項に従い測定し、当該測定値を絶縁被膜の厚さで除して求めた。絶縁破壊の強さの値が、150(V/μm)以上の場合を良(○)と判定し、150(V/μm)未満の場合を不良(×)と判定した。
絶縁電線10の実施例1は、絶縁破壊の強さの値が235(V/μm)で良(○)と判定された。絶縁電線10の実施例2は、絶縁破壊の強さの値が230(V/μm)で良(○)と判定された。
比較例1に係る絶縁電線110は、絶縁破壊の強さの値が190(V/μm)で良(○)と判定された。比較例2に係る絶縁電線210は、絶縁破壊の強さの値が195(V/μm)で良(○)と判定された。比較例3に係る絶縁電線310は、絶縁破壊の強さの値が105(V/μm)で不良(×)と判定された。
次に、上述の絶縁電線10における絶縁被膜30の界面の縦断面観察結果について図7から図10を参照しながら説明する。図7および図8は、縦断面観察に用いられる絶縁被膜30の準備方法を説明する模式図である。
縦断面を観察する場合には、まず、所定の長さの絶縁電線10の実施例1を観察対象として準備する。次に、図7に示すように、実施例1の導体20を取り除いて筒状の絶縁被膜30を得る。導体20を取り除く方法としては、電気分解を用いることができる。なお、電気分解以外の他の方法を用いて導体20を取り除いてもよい。
次に、筒状の絶縁被膜30を矩形膜状の絶縁被膜30とする加工が行われる。具体的には、筒状の絶縁被膜30に長手方向に延びる1本の切り込みCtが入れられる。長手方向は、図7において紙面に対して直交する方向である。筒状の絶縁被膜30は、切込みCtにおいて開かれて、図8に示すような矩形膜状の絶縁被膜30となる。
図9は、第1絶縁層31における導体20と隣接する界面を説明するSEM画像である。
第1絶縁層31における導体20と隣接する界面31fには、図9に示すように、空孔が観察されない。なお、図9において、第1絶縁層31の長手方向に直線状に延びる筋状に形成された白色の線は、導体20の表面の凹凸が第1絶縁層31に転写された跡Wdである。
図10は、第2絶縁層41における第1絶縁層31と隣接する界面を説明するSEM画像である。
第2絶縁層41における第1絶縁層31と隣接する界面41fには、図10に示すように、第2空孔47が観察される。図10における円形または楕円形の白色の輪郭線が、界面41fに表れた第2空孔47である。界面41fは、例えば、矩形膜状の絶縁被膜30から第1絶縁層31を剥離して第2絶縁層41を露出させた面である。
本実施形態では、第2絶縁層41における第1絶縁層31と隣接する界面41fを観察したが、2つの隣接する第2絶縁層41のうちの外側の第2絶縁層41における内側の第2絶縁層41と隣接する界面41ffを観察してもよい。
上記の構成の絶縁電線10によれば、絶縁被膜30の第1絶縁層31(空孔含有層とも表記する。)における第1内側領域32が第1空孔37を含まないため、導体20との接触面に空孔が存在する絶縁層の場合と比較して、導体20と絶縁被膜30との接触面積が減少しにくい。言い換えると、導体20の直上に設けられた第1絶縁層31が空孔を含む空孔含有層でありながら、導体20と絶縁被膜30との密着性が低下しにくい。その結果として、絶縁電線10の製造時において、絶縁被膜の剥離が生じにくくなり、ダイス詰まりによる断線を回避しやすい。
第1内側領域32および第1外側領域34は、第1空孔37を含まないため、複数の第1空孔37が第1内側領域32および第1外側領域34を超えてつながる連通が発生しにくい。そのため、絶縁電線10は、絶縁破壊電圧が低下しにくく、また、曲げや捩りを加えた加工を行った場合でも、絶縁被膜30に割れなどが生じにくい。
絶縁被膜30における第1絶縁層31の第1中央領域33は複数の第1空孔37を含み、第2絶縁層41の第2内側領域42は複数の第2空孔47を含む。そのため、第1空孔37および第2空孔47を含まない絶縁層の場合と比較して、絶縁電線10の絶縁被膜30の比誘電率を低減させやすい。
また、空孔の表面に殻を持たないので、上述の空孔の表面にポリマの殻を設けて加工性の低下を抑制する技術と比較して、可とう性が優れ絶縁被膜30が割れにくい。例えば、モータ用巻線として用いる際の曲げ加工を行っても、絶縁被膜30が割れにくい。絶縁電線10を電動自動車用モータの巻線などのように加工が施される箇所にも適用することが可能となり、適用時の不具合の発生を抑制しやすい。
第1空孔37の空孔径を2μm以下にすることにより、部分放電が発生しにくくなり、絶縁破壊の強さを向上しやすい。ここで、連通した空孔の長さ(または最大径)が8μm以上になると、部分放電が発生しやすくなることが知られている。空孔径の一般的な値を4μmと仮定すると、少なくとも2つの空孔が連通することにより、部分放電が発生しやすくなる。
これに対して、絶縁電線10における第1空孔37の空孔径は2μm以下であるため、少なくとも4つの第1空孔37が連通しなければ、部分放電が発生しやすくならない。
絶縁被膜30を形成する第1塗料に、相対的に導体20に対する付着しやすさがポリアミド酸に対する付着しやすさよりも低い熱分解性ポリマが加えられる。そのため、ポリイミドから構成され第1空孔37を含まない第1内側領域32を導体20と接触する部分に有し、かつ、複数の第1空孔37を含む第1中央領域33を第1内側領域32の周囲に有する第1絶縁層31を形成することが可能となる。
絶縁被膜30を形成する第1塗料に加えられる熱分解性ポリマとして、ジオール型のポリプロピレングリコールを用いることにより、空孔を含まない第1内側領域32と、空孔径が2μm以下の第1空孔37を含む第1中央領域33と、を有する第1絶縁層31を、導体20と接触する絶縁層として形成することができる。
絶縁被膜30を形成する塗料の成分を変更することにより、絶縁被膜30全体の空孔率、比誘電率および絶縁破壊の強さを調整することができる。
具体的には、実施例1と比較して、実施例2は塗料に加える熱分解性ポリマを増やすことにより、絶縁被膜30全体の空孔率を増加させることができる。また、比誘電率を低減させることができる。また、絶縁破壊の強さは、良と判定される150(V/μm)以上に保たれた。
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図11から図13を参照して説明する。本実施形態の絶縁電線の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、絶縁被膜の構成が異なっている。以下では第1の実施形態と異なる構成について説明し、同じ構成については説明を省略する。
図11は、本実施形態の絶縁電線10Bの構成を説明する横断面視図である。図11に示すように、絶縁電線10Bには導体20と、絶縁被膜30Bと、が設けられている。絶縁被膜30Bは導体20の周面を覆う部材である。絶縁被膜30Bは絶縁性および熱硬化性を有する材料を用いて形成されている。
絶縁性および熱硬化性を有する材料としては、ポリイミドや、ポリアミドイミドを例示することができる。本実施形態では、絶縁被膜30Bがポリイミドから形成されている例に適用して説明する。
図12は、第1絶縁層31、第2絶縁層41Bおよび第3絶縁層51Bの構成を説明する摸式図である。絶縁被膜30Bには、図12に示すように、1層の実施例2の第1絶縁層31と、1層の第2絶縁層41Bと、複数層の第3絶縁層51Bが設けられている。本実施形態では13層の第3絶縁層51Bが設けられている例に適用して説明する。なお、第3絶縁層51Bの層数は13層よりも多くても良いし、少なくても良い。
本実施形態では、絶縁被膜30Bの全体が15層の絶縁層によって構成され、絶縁被膜30Bの膜厚が約40μmである例に適用して説明する。なお、絶縁被膜30Bの膜厚は40μmよりも厚くても良いし、薄くても良い。例えば、絶縁被膜30Bの膜厚は、10μm以上200μm以下である。
第2絶縁層41Bは、第1絶縁層31の外周側に配置され、導体20および第1絶縁層31の周囲を覆う層である。第2絶縁層41Bは、実施例2の第2絶縁層41とは設けられる層の数が異なる一方で、第2絶縁層41と同様な構成を有している。
第3絶縁層51Bは、第2絶縁層41Bの外周側に配置され、導体20、第1絶縁層31および第2絶縁層41Bの周囲を覆う層である。第3絶縁層51Bは、内側から外側に向かって順に、第3内側領域52B、および、第3外側領域54Bを有している。
第3内側領域52Bは、第3絶縁層51Bにおける第2絶縁層41B側の領域であってポリイミドおよび複数の第3空孔57Bから構成された領域(第3内側空孔領域とも表記する。)である。第3外側領域54Bは、第2絶縁層41Bと反対側である外側の領域であってポリイミドから構成された領域(第3外側無空孔領域とも表記する。)である。第3空孔57Bの空孔径は1μm以上5μm以下である。また、第3外側領域54Bは、絶縁被膜30Bの厚さ方向に沿った厚さが、第3内側領域52Bに含まれる第2空孔47の空孔径より大きいことがよい。これにより、第3絶縁層51Bにおいて空孔の連通(各層を貫通する空孔の連通とも表記する。)が発生しにくくなる。また、第3内側領域52Bの厚さは、第3外側領域54Bの厚さより大きいことがよい。これにより、絶縁被膜30Bの比誘電率が低減しやすくなる。
次に、上述の絶縁電線10Bの製造方法について図13を参照しながら説明する。具体的には、絶縁電線10Bにおける絶縁被膜30Bの製造方法を説明する。図13は、絶縁電線10Bの製造方法を説明するフローチャートである。
まず、絶縁電線10Bの絶縁被膜30Bを形成する第2塗料および第3塗料の調製工程が行われる(S21)。第2塗料の調製は、第1の実施形態の第1塗料の調整と同様であるため、その説明を省略する。
第3塗料の調整では、まず、ポリアミド酸を溶剤中で攪拌合成する工程が行われる。溶剤中にジアミンとテトラカルボン酸二無水物とで構成される樹脂分としてのポリイミドモノマが含まれた攪拌合成前の塗料(合成前塗料とも表記する。)に高沸点溶剤を加えて、当該合成前塗料中のポリイミドモノマを溶剤中で攪拌混合してポリアミド酸を含む第3塗料を得る工程が行われる。高沸点溶剤は、攪拌合成前の塗料中の樹脂分に対して30重量部程度が加えられる。
第3塗料で用いられるポリアミド酸および溶剤は、第1の実施形態で用いたポリアミド酸、溶剤と同じものが用いられる。高沸点溶剤としては、280℃以上の沸点を有するものが用いられる。例えば、オレイルアルコール、1-テトラデカノール、1-ドデカノール等が挙げられる。
第1絶縁層31および第2絶縁層41Bを形成する第1塗布工程S12、第1絶縁層形成工程S13、第2塗布工程S14、および、第2絶縁層形成工程S15は、第1の実施形態と同様である。
第2絶縁層41Bが形成されると、調製した第3塗料を第2絶縁層41Bの周囲に塗布する第3塗布工程が行われる(S26)。具体的には、第3絶縁層51Bを形成する第3塗料を塗布する作業が行われる。第3塗料の塗装塗料が第2絶縁層41Bの周面に形成される。
第3塗料は、次の第3絶縁層形成工程後に第3絶縁層51Bの厚さが例えば約3μmとなる所望の厚さに塗布される。塗装塗料の厚さの調整は、第1塗布工程S12と同様にダイスを用いて行われる。なお、ここで用いられるダイスは、第2絶縁層41Bが周面に形成された導体20に対応した貫通孔を有する。
次に、第3塗料が塗布された塗装塗料を加熱して、第3絶縁層51Bを形成する第3絶縁層形成工程が行われる(S27)。具体的には、第1絶縁層形成工程と同様に、第3塗料が塗布された塗装塗料が、300℃から500℃の範囲に保たれた炉内に入れられる。
炉内では高温により溶剤が第3塗料の塗装塗料から除去される。その後、塗装塗料に含まれるポリアミド酸のイミド化反応が進み、第3絶縁層51Bが形成される。同時に、高沸点溶剤が揮発され、第3絶縁層51Bに第3空孔57Bが形成される。すなわち、第3絶縁層51Bには、高沸点溶剤に由来の第3空孔57Bが形成される。言い換えると、第3絶縁層51Bには、第1空孔37や第2空孔47と異なる発泡剤に由来する第3空孔57Bが形成される。
塗装塗料における第3絶縁層51Bの第3外側領域54Bに相当する部分では、加熱により気化した高沸点溶剤は、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになる前に塗装塗料から放出されると考えられる。そのため、第3外側領域54Bは、絶縁性樹脂であるポリイミドから構成され第3空孔57Bを含まない。
塗装塗料における第3内側領域52Bに相当する部分では、気化した高沸点溶剤が塗装塗料から放出される前に、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになると考えられる。そのため、第3内側領域52Bは、絶縁性樹脂であるポリイミドおよび複数の第3空孔57Bから構成される。
第3絶縁層51Bが13層の層構造によって形成されていない場合(S28のNOの場合)には、再び上述の第3塗布工程S26に戻り、第3絶縁層51Bを形成する工程が繰り返される。第3絶縁層51Bが13層の層構造によって形成されている場合(S28のYESの場合)には、導体20の周囲に絶縁被膜30Bを形成する工程が終了する。
なお、第3絶縁層51Bは第1絶縁層31および第2絶縁層41Bを構成する絶縁性材料と同じ絶縁性材料で構成されていても良い。すなわち、上述の第3塗料に含まれるポリアミド酸は第1塗料および第2塗料に含まれるポリアミド酸と同じでも良い。第3絶縁層51Bから第1絶縁層31までの全層が同じ絶縁性材料で構成されていることは、絶縁被膜30Bの層間の密着性を高めることに有効である。
次に、上述の絶縁電線10B(実施例3とも表記する。)と、各比較例との評価結果の比較について図6を参照しながら説明する。
実施例3は、2種類の塗料を用いて絶縁被膜30Bを形成している。そのため、図6の構成の欄にはダブルコートと記載している。
図6の空孔径の欄には、実施例3の第1空孔37および第2空孔47の空孔径(内層:2μm以下)が記載されている。また第3空孔57Bの空孔径(外層:1μm以上5μm以下)が記載されている。
図6の密着性の欄には、密着性の評価結果が記載されている。実施例3は、断線が発生せず密着性は良(○)と評価された。
図6の皮膜全体の空孔率の欄には、絶縁被膜における空孔率の評価値を体積百分率(vol%)で記載している。実施例3は30(vol%)である。
図6の比誘電率の欄には、比誘電率の測定値および評価結果が記載されている。実施例3は比誘電率の値が2.3で良(○)と判定された。
図6の絶縁破壊の強さの欄には、絶縁破壊の強さの測定値および評価結果が記載されている。実施例3は、絶縁破壊の強さの値が175(V/μm)で良(○)と判定された。
上記の構成の絶縁電線10Bによれば、第1空孔37よりも空孔径が大きな第3空孔57Bを含む第3内側領域52Bを有する第3絶縁層51Bを設けることにより、第3絶縁層51Bを設けない場合と比較して、絶縁被膜30B全体の空孔率、比誘電率、絶縁破壊の強さを所望の値に調整することが容易となる。
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について図14および図15を参照して説明する。本実施形態の絶縁電線の基本構成は、第2の実施形態と同様であるが、第2の実施形態とは、絶縁被膜の構成が異なっている。以下では第2の実施形態と異なる構成について説明し、同じ構成については説明を省略する。
図14は、本実施形態の絶縁電線10Cの構成を説明する横断面視図である。図14に示すように、絶縁電線10Cには導体20と、絶縁被膜30Cと、が設けられている。絶縁被膜30Cは導体20の周面を覆う部材である。絶縁被膜30Cは絶縁性および熱硬化性を有する材料を用いて形成されている。
絶縁性および熱硬化性を有する材料としては、ポリイミドや、ポリアミドイミドを例示することができる。本実施形態では、絶縁被膜30Cがポリイミドから形成されている例に適用して説明する。
絶縁被膜30Cには、1層の実施例2の第1絶縁層31と、1層の第2絶縁層41Bと、複数層の第3絶縁層51Bと、2層の第4絶縁層61Cとが設けられている。本実施形態では11層の第3絶縁層51Bが設けられている例に適用して説明する。なお、第3絶縁層51Bの層数は11層よりも多くても良いし、少なくても良い。また、第4絶縁層61Cの層数は2層よりも多くても良いし、少なくても良い。
本実施形態では、絶縁被膜30Cの全体が15層の絶縁層によって構成され、絶縁被膜30Cの膜厚が約40μmである例に適用して説明する。なお、絶縁被膜30Cの膜厚は40μmよりも厚くても良いし、薄くても良い。例えば、絶縁被膜30Cの膜厚は、10μm以上200μm以下である。
第4絶縁層61Cは、第3絶縁層51Bの外周側に配置され、導体20、第1絶縁層31、第2絶縁層41Bおよび第3絶縁層51Bの周囲を覆う層である。第4絶縁層61Cは、内側から外側に向かって順に、第4内側領域62C、および、第4外側領域64Cを有している。
第4内側領域62Cは、第4絶縁層61Cにおける第3絶縁層51B側の領域であって絶縁性樹脂であるポリイミドおよび複数の第4空孔67Cから構成された領域(第4内側空孔領域とも表記する。)である。第4外側領域64Cは、第3絶縁層51Bと反対側である外側の領域であって絶縁性樹脂であるポリイミドから構成された領域(第4外側無空孔領域とも表記する。)である。第4空孔67Cの空孔径は2μm以下である。
次に、上述の絶縁電線10Cの製造方法について図15を参照しながら説明する。具体的には、絶縁電線10Cにおける絶縁被膜30Cの製造方法を説明する。図15は、絶縁電線10Cの製造方法を説明するフローチャートである。
第2塗料および第3塗料の調製工程S21から第2絶縁層形成工程S15までは、第2の実施形態における製造方法と同様であるため、その説明を省略する。また、第3絶縁層51Bが形成された層の数を判定する工程S28は、層の数が11層である点が第2の実施形態と異なる。
第3絶縁層51Bが11層形成されている場合(S28のYESの場合)には、調製した第2塗料を第3絶縁層51Bの周囲に塗布する第4塗布工程が行われる(S31)。具体的には、第4絶縁層61Cを形成する第2塗料を塗布する作業が行われる。第2塗料の塗装塗料が第3絶縁層51Bの周面に形成される。
第2塗料は、次の第4絶縁層形成工程後に第4絶縁層61Cの厚さが例えば約3μmとなる所望の厚さに塗布される。塗装塗料の厚さの調整は、第1塗布工程S12と同様にダイスを用いて行われる。なお、ここで用いられるダイスは、第3絶縁層51Bが周面に形成された導体20に対応した貫通孔を有する。
次に、第2塗料を塗布した塗装塗料を加熱して、第4絶縁層61Cを形成する第4絶縁層形成工程が行われる(S32)。
具体的には、第1絶縁層形成工程と同様に、第2塗料が塗布された塗装塗料が、300℃から500℃の範囲に保たれた炉内に入れられる。
炉内では高温により溶剤が第2塗料の塗装塗料から除去される。その後、塗装塗料に含まれるポリアミド酸と熱分解性ポリマとが相分離した状態でポリアミド酸のイミド化反応が進み、第4絶縁層61Cが形成される。同時に、発泡剤である熱分解性ポリマが揮発され、第4絶縁層61Cに第4空孔67Cが形成される。すなわち、第4絶縁層61Cには、液体からなる熱分解性ポリマに由来の第4空孔67Cが形成される。言い換えると、第4絶縁層61Cには、第1空孔37や第2空孔47と同じ発泡剤に由来する第4空孔67Cが形成される。
塗装塗料における第4絶縁層61Cの第4外側領域に相当する部分では、加熱により気化した熱分解性ポリマは、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになる前に塗装塗料から放出されると考えられる。そのため、第4外側領域は、絶縁性樹脂であるポリイミドから構成され第4空孔67Cを含まない。
塗装塗料における第4内側領域に相当する部分では、気化した熱分解性ポリマが塗装塗料から放出される前に、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになると考えられる。そのため、第4内側領域は、絶縁性樹脂であるポリイミドおよび複数の第4空孔67Cから構成される。
第4絶縁層61Cが2層の層構造によって形成されていない場合(S33のNOの場合)には、再び上述の第4塗布工程S31に戻り、第4絶縁層61Cを形成する工程が繰り返される。第4絶縁層61Cが2層の層構造によって形成されている場合(S33のYESの場合)には、導体20の周囲に絶縁被膜30Cを形成する工程が終了する。
なお、第4絶縁層61Cは第1絶縁層31,第2絶縁層41B,および第3絶縁層51Bを構成する絶縁性材料と同じ絶縁性材料で構成されていても良い。第4絶縁層61Cから第1絶縁層31までの全層が同じ絶縁性材料で構成されていることは、絶縁被膜30Cの層間の密着性を高めることに有効である。
次に、上述の絶縁電線10C(実施例4とも表記する。)と、各比較例との評価結果の比較について図6を参照しながら説明する。
実施例4は、2種類の塗料を用いて内層である第1絶縁層31および第2絶縁層41Bと、中間層である11層の第3絶縁層51Bと、外層である2層の第4絶縁層61Cを有している。そのため、図6の構成の欄にはトリプルコートと記載している。
図6の空孔径の欄には、実施例4の第1空孔37および第2空孔47の空孔径(内層:2μm以下)および第4空孔67Cの空孔径(外層:2μm以下)が記載されている。また第3空孔57Bの空孔径(中間層:1μm以上5μm以下)が記載されている。
図6の密着性の欄には、密着性の評価結果が記載されている。実施例4は、断線が発生せず密着性は良(○)と評価された。
図6の皮膜全体の空孔率の欄には、絶縁被膜における空孔率の評価値を体積百分率(vol%)で記載している。実施例4は30(vol%)である。
図6の比誘電率の欄には、比誘電率の測定値および評価結果が記載されている。実施例4は比誘電率の値が2.3で良(○)と判定された。
図6の絶縁破壊の強さの欄には、絶縁破壊の強さの測定値および評価結果が記載されている。実施例4は、絶縁破壊の強さの値が190(V/μm)で良(○)と判定された。
上記の構成の絶縁電線10Cによれば、第4空孔67を含む第4内側領域を有する第4絶縁層61Cを設けることにより、第4絶縁層61Cを設けない場合と比較して、絶縁被膜30C全体の空孔率、比誘電率、絶縁破壊の強さを所望の値に調整することが容易となる。
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本発明を上記の実施形態に適用したものに限られることなく、これらの実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定するものではない。
10,10B,10C…絶縁電線、 20…導体、 30,30B,30C…絶縁被膜、 31…第1絶縁層、 32…第1内側領域、 33…第1中央領域、 34…第1外側領域、 37…第1空孔、 41,41B…第2絶縁層、 42…第2内側領域、 44…第2外側領域、 47…第2空孔、 51B…第3絶縁層、 52B…第3内側領域、 54B…第3外側領域、 57B…第3空孔、 61C…第4絶縁層、 67C…第4空孔、 S12…第1塗布工程、 S13…第1絶縁層形成工程、 S14…第2塗布工程、 S15…第2絶縁層形成工程

Claims (7)

  1. 導体と、
    絶縁性材料から構成され、かつ、複数の空孔を含む絶縁被膜と、を備え、
    前記絶縁被膜は、前記導体に隣接するとともに前記導体の周囲を覆う1層の第1絶縁層を少なくとも有し、
    前記第1絶縁層は、前記導体との界面において前記複数の空孔が含まれていない、
    絶縁電線。
  2. 前記第1絶縁層は、前記導体に隣接する領域であって前記複数の空孔を含まない第1内側領域と、前記絶縁被膜の厚さ方向における前記第1内側領域よりも外側の領域であって前記複数の空孔を含む第1中央領域と、を有する、請求項1に記載の絶縁電線。
  3. 前記第1中央領域の厚さは、前記第1内側領域の厚さよりも大きい、請求項2に記載の絶縁電線。
  4. 前記第1内側領域の厚さは、前記第1中央領域に含まれる前記複数の空孔の空孔径よりも大きい、請求項2に記載の絶縁電線。
  5. 前記第1絶縁層は、前記絶縁被膜の厚さ方向における前記第1中央領域よりも外側の領域であって前記複数の空孔を含まない第1外側領域を有する、請求項2に記載の絶縁電線。
  6. 前記複数の空孔の空孔径は、2μm以下である、請求項1に記載の絶縁電線。
  7. 前記絶縁被膜は、前記第1絶縁層の外周側から前記導体の周囲を覆う少なくとも1層の第2絶縁層を有し、
    前記第2絶縁層は、前記第1絶縁層に隣接する界面において前記複数の空孔を含む、請求項1に記載の絶縁電線。
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