JP2023064363A - 絶縁電線 - Google Patents

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Takami Ushiwata
郁美 安藤
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祐樹 本田
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Abstract

【課題】絶縁被膜における密着性の維持が容易な絶縁電線を提供する。【解決手段】導電性材料から形成され長尺状の形状を有する導体20と、絶縁性材料から形成され、導体20の周囲を覆う複数の絶縁層を少なくとも有する絶縁被膜30と、が設けられ、絶縁性材料は、100℃より高い温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率の値が、30℃の温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率より1桁以上低下する。絶縁被膜30を形成する絶縁性材の貯蔵弾性率の値が、温度の上昇に伴い1桁以上低下するため、絶縁層から導体20の表面へのアンカー効果や、隣接する絶縁層の間のアンカー効果が得られやすく、絶縁被膜30における密着性の維持が容易になる。絶縁電線を屈曲させたり伸ばしたりする加工を行った際に、絶縁被膜30が剥離しにくくなる。【選択図】 図1

Description

本発明は、絶縁電線に関する。
従来、導体の周囲を被覆する複数の被覆層の材料として、ポリイミド(以後「PI」とも表記する。)を使用したエナメル線が知られている。広く使用されているPI(以後「汎用PI」とも表記する。)として、Kapton(登録商標)や、Upilex(登録商標)などが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
特開2012-153848号公報
汎用PIは、エナメル線の導体との密着性や隣接する被覆層との密着性が高くないことが知られている。そのため、エナメル線の製造時に、エナメル線を屈曲させたり伸ばしたりする加工を行うと被覆層が剥離したりする問題があった。
また、汎用PIは、温度による弾性率の変化が小さくエナメル線の製造時に被覆層が軟化しにくい。言い換えると、被覆層から導体の表面へのアンカー効果や、隣接する被覆層の間のアンカー効果が得られにくい。そのため、被覆層と導体との密着性や、隣接する被覆層同士の密着性が得られにくいという問題があった。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、絶縁被膜における密着性の維持が容易な絶縁電線を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の絶縁電線は、導電性材料から形成され長尺状の形状を有する導体と、絶縁性材料から形成され、前記導体の周囲を覆う複数の絶縁層を少なくとも有する絶縁被膜と、が設けられ、前記絶縁性材料は、100℃より高い温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率の値が、30℃の温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率より1桁以上低下する。
本発明の絶縁電線によれば、絶縁被膜を形成する絶縁性材の100℃より高い温度での貯蔵弾性率の値が、30℃の温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率より1桁以上低下する。そのため、絶縁層から導体の表面へのアンカー効果や、隣接する絶縁層の間のアンカー効果が得られやすい。言い換えると、絶縁層と導体との密着性や、隣接する絶縁層同士の密着性が得られやすい。また、エナメル線を屈曲させたり伸ばしたりする加工を行った際に、絶縁被膜が剥離しにくくなる。
本発明の絶縁電線によれば、絶縁被膜を形成する絶縁性材の貯蔵弾性率の値が、温度の上昇に伴い1桁以上低下するため、絶縁被膜における密着性の維持が容易になるという効果を奏する。
第1の実施形態に係る絶縁電線の構成を説明する横断面視図である。 各実施例に係る絶縁電線の評価結果と、各比較例の評価結果とを比較する表である。 絶縁被膜を形成する各材料の動的粘弾性における貯蔵弾性率の温度変化を示すグラフである。 ピール試験に用いる試験装置を説明する模式図である。 ピール試験に用いる試料を説明する横断面視図である。 第2の実施形態に係る絶縁電線の構成を説明する横断面視図である。 図6の第1絶縁層及び第2絶縁層の構成を説明する摸式図である。 図6の絶縁電線の製造方法を説明するフローチャートである。 縦断面観察に用いられる絶縁被膜の準備方法を説明する模式図である。 縦断面観察に用いられる絶縁被膜の準備方法を説明する模式図である。 第1絶縁層における導体と隣接する界面を説明するSEM画像である。 第2絶縁層における第1絶縁層と隣接する界面を説明するSEM画像である。
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る絶縁電線10について図1から図5を参照しながら説明する。本実施形態では絶縁電線10がエナメル線、具体的にはモータの巻線に用いられるエナメル線である例に適用して説明する。より具体的には、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle),電気自動車(EV:Electric Vehicle),プラグインハイブリッド自動車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)などの電動自動車の駆動モータの巻線に用いられるエナメル線である例に適用して説明する。
図1は、本実施形態の絶縁電線10の構成を説明する横断面視図である。図1に示すように、絶縁電線10には導体20と、絶縁被膜30と、が設けられている。
導体20は、長尺状に延びるとともに、円形の断面形状を有する部材である。本実施形態では、導体20が、直径0.8mmの丸銅線である例に適用して説明する。なお、導体20の断面形状は、円形であってもよいし、矩形であってもよく、具体的な形状に限定されない。
導体20は、電線として一般的に用いられる金属材料を用いて形成される。導体20の形成に用いられる金属材料としては、銅、銅を含む合金、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金を例示することができる。本実施形態では、導体20が、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅、又は無酸素銅を用いて形成された例に適用して説明する。
絶縁被膜30は導体20の周面を覆う部材である。絶縁被膜30は絶縁性および熱硬化性を有する材料(すなわち、絶縁性材料)を用いて形成されている。本実施形態では、絶縁被膜30が全芳香族ポリイミド(以降、単にポリイミドとも表記する。)から形成されている例に適用して説明する。
具体的には、絶縁被膜30が後述する材料1から形成されている絶縁電線10(以後、実施例1とも表記する。)と、材料3から形成されている絶縁電線10(以後、実施例2とも表記する。)に適用して説明する。
材料1は、ポリアミド酸を溶剤中で撹拌合成して得られる材料である。
ポリアミド酸は、絶縁被膜30を構成する絶縁性材料であるポリイミドの前駆体である。本実施形態では、ポリアミド酸がジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを重合して得られたものである例に適用して説明する。
ジアミンには、4,4’―ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAとも表記する。)が含まれる。ODAの他に、1,4―ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3―ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’―ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルがジアミンに含まれても良い。
テトラカルボン酸二無水物には、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAとも表記する。)が含まれる。PMDAの他に、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテ トラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラ カルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、 4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がテトラカルボン酸二無水物に含まれても良い。
本実施形態では、ポリアミド酸が次に説明するジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを重合して得られたものである例に適用して説明する。ジアミンとしては、4,4’―ジアミノジフェニルエーテルと、及び4,4’―ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルを用いて構成される。テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いて構成される。
なお、ポリアミド酸は、次に説明するジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを重合して得られたものであってもよい。ジアミンとしては、4,4’―ジアミノジフェニルエーテルで構成される。テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いて構成される。
なお、上述のポリアミド酸をイミド化した絶縁被膜30を構成するポリイミドは、高分子の末端部分がキャッピングされたものであってもよい。キャッピングに用いられる材料としては、無水酸を含む化合物、又はアミノ基を含む化合物を用いてもよい。
キャッピングに用いられる無水酸を含む化合物としては、フタル酸無水物、4-メチルフタル酸無水物、3-メチルフタル酸無水物、1,2-ナフタル酸無水物マレイン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、各種フッ素化フタル酸無水物、各種ブロム化フタル酸無水物、各種クロル化フタル酸無水物、2,3-アントラセンジカルボン酸無水物、4-エチニルフタル酸無水物、4-フェニルエチニルフタル酸無水物などを用いることができる。
キャッピングに用いられるアミノ基を含む化合物としては、アミノ基を1つ含む化合物を用いてもよい。
溶剤としては、NMP(N-メチルピロリドン)、DMAc(ジメチルアセトアミド)などを用いることができる。本実施形態では、DMAcが溶剤として用いられる例に適用して説明する。
材料3は、主鎖の少なくとも一部がシロキサン結合(-Si-O-Si-)で構成されるシリコーン系モノマであるジアミン、または、酸二無水物を重合した材料を含む。
材料3に用いられるシリコーン系モノマの分子量は1,000未満である。本実施形態では、シリコーン系モノマの分子量が260である例に適用して説明する。材料3に用いられる溶剤としては、DMAcを例示することができる。
本実施形態では、絶縁被膜30の全体が15層の絶縁層によって構成され、絶縁被膜30の膜厚が約42μmである例に適用して説明する。なお、絶縁被膜30の膜厚は42μmよりも厚くても良いし、薄くても良い。例えば、絶縁被膜30の膜厚は、10μm以上200μm以下である。また、絶縁皮膜30を構成する絶縁層の層数は、15層よりも多くても良いし、少なくても良い。
上述の材料1または材料3を、塗布して焼付けする(加熱により硬化させる)ことにより1層の絶縁層が形成される。絶縁被膜30の膜厚が所望の厚さになるまで、絶縁層の形成が繰り返される。本実施形態では絶縁層の形成が15回繰り返される。
次に、上述の実施例1および実施例2に係る絶縁電線10と、各比較例との評価結果の比較について図2および図3を参照しながら説明する。まず、比較の対象となる比較例1および比較例2について説明する。
比較例1に係る絶縁電線には、導体と、シングルコートの絶縁被膜と、が設けられている。比較例1に係る導体は、第1の実施形態に係る導体20と同じものである。比較例1に係る絶縁被膜は導体の周面を覆う部材であり、Kapton(登録商標)(以下、汎用PIとも表記する。)を用いて形成されている。
汎用PIに用いられる溶剤としては、DMAcを例示することができる。
具体的には、比較例1に係るシングルコートの絶縁被膜は、汎用PIを用いて形成された絶縁層を15層積層して構成されている。当該絶縁層は約3μmの厚さを有している。比較例1に係る絶縁被膜の全体では、約42μmの厚さを有している。
比較例2に係る絶縁電線には、導体と、シングルコートの絶縁被膜と、が設けられている。比較例2に係る導体は、第1の実施形態に係る導体20と同じものである。比較例2に係る絶縁被膜は導体の周面を覆う部材であり、材料2を用いて形成されている。
材料2は、主鎖の少なくとも一部がシロキサン結合(-Si-O-Si-)で構成されるシリコーン系モノマであるジアミン、または、酸二無水物を重合した材料を含む。材料2に用いられるシリコーン系モノマの分子量は1,000以上である。本実施形態では、シリコーン系モノマの分子量が1,340である例に適用して説明する。
材料2に用いられる溶剤としては、DMAcを例示することができる。
比較例2に係る絶縁被膜は、材料2を用いて導体の外周に形成された15層の絶縁層を有している。これらの絶縁層は約3μmの厚さを有している。比較例2に係る絶縁被膜の全体では、約42μmの厚さを有している。
次に、上述の実施例1および実施例2に係る絶縁電線10と、各比較例との評価結果について説明する。図2は、上述の実施例1および実施例2に係る絶縁電線10と、各比較例との評価結果を説明する表である。図3は、絶縁被膜に用いられる各材料における動的粘弾性における貯蔵弾性率の温度変化を説明するグラフである。
実施例1に係る絶縁電線10、実施例2に係る絶縁電線10、比較例1に係る絶縁電線、および、比較例2に係る絶縁電線は、それぞれ1種類の材料を用いて絶縁被膜30、比較例1に係る絶縁被膜、比較例2に係る絶縁被膜を形成している。
図2の材料の欄には、絶縁被膜を形成する材料が記載されている。実施例1の材料の欄には材料1が記載されている。実施例2の材料の欄には材料3が記載されている。なお、材料1および材料3は汎用PIと比較して部分放電開始電圧(PDIVとも表記する。)が高い材料でもある。比較例1の材料の欄には汎用PIが記載されている。比較例2の材料の欄には材料2が記載されている。
図2の貯蔵弾性率の桁数変化の欄には、絶縁被膜を形成する材料の動的粘弾性における貯蔵弾性率(以下、貯蔵弾性率とも表記する。)が記載されている。具体的には、300℃以上350℃以下の温度範囲における桁数変化が記載されている。
実施例1の貯蔵弾性率の桁数変化、つまり材料1の貯蔵弾性率の桁数変化は1桁である。実施例2の貯蔵弾性率の桁数変化、つまり材料3の貯蔵弾性率の桁数変化は2桁である。比較例1つまり汎用PIの貯蔵弾性率の桁数変化は0桁である。比較例2つまり材料2の貯蔵弾性率の桁数変化は0桁である。
ここで、貯蔵弾性率の桁数変化の測定について説明する。貯蔵弾性率の桁数変化は、絶縁被膜を形成する材料から形成されたPIフィルムの動的粘弾性における貯蔵弾性率により評価した。PIフィルムは、次の通りの工程を経て形成した。
まず、それぞれの材料であるポリアミック酸ワニスを、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)シート上に300μmのギャップを有するバーコータで延伸する。その後、100℃、200℃、および、300℃でそれぞれ30分間焼成する。これにより厚さが約50μmのPIフィルムが得られる。
上述の工程を経て形成したPIフィルムから試験片を切除する。試験片の幅は5mm、長さは30mmである。試験に用いられる長さであるチャック間の距離は20mmである。
上述の試験片を、動的粘弾性測定装置を用いて引っ張りモードにて評価する。試験の条件は、昇温速度10℃/min、周波数10Hz、歪み0.05%、データ取り込み間隔0.5℃毎とした。
図3は、絶縁被膜を形成する各材料の動的粘弾性における貯蔵弾性率E’の温度変化を示すグラフである。
図3に示すように、汎用PIの貯蔵弾性率E’は、温度の上昇とともに値が小さくなるとともに、約30℃以上約390℃以下の温度範囲での値の減少幅が相対的に小さい。具体的には、汎用PIの貯蔵弾性率E’の値の変化が1×10(Pa)以上1×1010(Pa)以下の範囲に収まる。なお、汎用PIの貯蔵弾性率E’の値は、30℃の温度において1×10(Pa)以上である。
言い換えると、約30℃以上約390℃以下の温度範囲における貯蔵弾性率E’の値の変化が1桁未満(0桁とも表記する。)に収まっている。300℃以上350℃以下の温度範囲においても、汎用PIの貯蔵弾性率E’の値の変化が1桁未満に収まっている。
材料1の貯蔵弾性率E’は、温度の上昇とともに値が小さくなるとともに、約30℃以上約390℃以下の範囲での値の減少幅が相対的に大きい。具体的には、約30℃以上約300℃未満の範囲での貯蔵弾性率E’の値の変化は、1×10(Pa)以上1×1010(Pa)以下の範囲に収まり、値の変化は1桁未満となる。なお、材料1の貯蔵弾性率E’の値は、30℃の温度において1×10(Pa)以上である。その一方で、300℃(第1所定閾値に相当する。)以上350℃以下の範囲での値の変化は、1×10(Pa)以上1×10(Pa)以下の範囲を超え、値の変化は1桁以上となる。
材料2の貯蔵弾性率E’は、温度の上昇とともに値が小さくなるとともに、約30℃以上約390℃以下の範囲での値の減少幅が相対的に小さい。言い換えると、約30℃以上約390℃以下の範囲における貯蔵弾性率E’の値の変化が1桁未満に収まっている。なお、材料2の貯蔵弾性率E’の値は、30℃の温度において1×10(Pa)以上である。300℃以上350℃以下の温度範囲においても、材料2の貯蔵弾性率E’の値の変化が1桁未満に収まっている。材料2の貯蔵弾性率E’の値は、300℃以上350℃以下の温度範囲において1×10(Pa)以上である。
材料3の貯蔵弾性率E’は、温度の上昇とともに値が小さくなるとともに、約30℃以上約390℃以下の範囲での値の減少幅が相対的に大きい。具体的には、約30℃以上約150℃未満の範囲での貯蔵弾性率E’の値の変化は、1×10(Pa)以上1×10(Pa)以下の範囲に収まり、値の変化は1桁未満となる。
その一方で、約150℃(第2所定閾値に相当する。)以上約300℃未満の範囲で貯蔵弾性率E’の値の変化は、約1×10(Pa)以上約1×10(Pa)以下の範囲を超え、値の変化は1桁以上となる。更に約300℃(第1所定閾値に相当する。)以上約350℃以下の範囲での値の変化は、約3×10(Pa)以上約3×10(Pa)以下の範囲を超え、値の変化は2桁以上となる。
図2の密着性の欄には、実施例1および実施例2に係る絶縁電線10と、各比較例に係る絶縁電線における密着性の評価結果が記載されている。密着性の評価は、以下に説明するピール試験により行った。
ピール試験では、図4に示す試験装置100が用いられる。試験装置100には、試料10Tである絶縁電線を把持する把持部110A,110Bが設けられている。把持部110A,110Bは、把持した試料10Tの長手方向の長さが250mmとなる位置に配置されている。把持部110Aは、把持された試料10Tを長手方向の軸線まわりに回転させる機構120に取り付けられている。把持部110Bは回転が不可に配置されている、言い換えると固定されている。
ピール試験による評価は、次に説明する通りに行われる。まず、試料10Tを試験装置100の把持部110A,110Bに固定する。固定された試料10Tの絶縁被膜30の一部を図5に示す通りに取り除く。具体的には、試料10Tの長手方向に平行な2辺の絶縁被膜30を、導体20に達するまで取り除く。
言い換えると、試料10Tを横断面視した図5において、導体20を間に挟んだ対向する絶縁被膜30の部分を導体20が露出するまで取り除く。絶縁被膜30を取り除く範囲は、試料10Tの長手方向(図5の紙面に垂直方向)の全領域にわたる。
絶縁被膜30の一部を取り除くと把持部110Aを回転させる。試料10Tの絶縁被膜30が導体20から浮く(導体20から剥離するとも表記する。)まで把持部110Aを回転させる。試料10Tの絶縁被膜30が導体20から浮いた時点の回転数を測定する。本実施形態では、把持部110Aの回転角度が360°で1回と表記する。
図2に示すように、ピール試験において絶縁被膜30が導体20から浮くまでの回数は、実施例1が98回であり、実施例2が74回であった。これに対して比較例1は72回であり、比較例2は0回であった。つまり、ピール試験において実施例1は、比較例1および比較例2よりも密着性が高いと評価された。実施例2は、比較例1と同程度の密着性と評価され、比較例2よりも密着性が高いと評価された。
図2の可撓性の欄には、実施例1および実施例2に係る絶縁電線10と、各比較例に係る絶縁電線における可撓性の評価結果が記載されている。
評価は次に説明する通りに行われる。まず、長さが500mmの絶縁電線10を試料10Tとして用意する。用意した試料10Tの長さを、伸長機を用いて30%伸張させる。伸張させた試料10Tを円柱状の巻き付け棒の周面に巻き付ける。巻き付け棒の直径は、用意した試料10Tの直径と同じである。
伸長させた試料10Tを巻き付け棒の周面に巻き付けたときに、絶縁被膜30に亀裂が生じない、かつ、導体20から絶縁被膜30が剥離しない場合は合格(〇とも表記する。)と評価する。絶縁被膜30に亀裂が生じる、または、導体20から絶縁被膜30が剥離する場合は不合格(×とも表記する。)と評価する。
実施例1および実施例2に係る伸長させた試料10Tを、それぞれ巻き付け棒の周面に巻き付けたときに、絶縁被膜30に亀裂が生じず、かつ、導体20から絶縁被膜30が剥離しなかった。つまり、実施例1および実施例2は合格(〇)と評価された。
比較例1および比較例2に係る伸長させた試料10Tを、それぞれ巻き付け棒の周面に巻き付けたときに、絶縁被膜30に亀裂が生じた、または、導体20から絶縁被膜30が剥離した。つまり、比較例1および比較例2は不合格(×)と評価された。
上記の構成の絶縁電線10によれば、絶縁被膜30を形成する材料1の貯蔵弾性率の値が、温度の上昇に伴い1桁以上低下する。すなわち、絶縁電線10によれば、絶縁被膜30を形成する絶縁性材料は、100℃より高い温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率の値が、30℃の温度での上昇に伴い動的粘弾性における貯蔵弾性率より1桁以上低下する。そのため、第1絶縁層31から導体20の表面へのアンカー効果や、隣接する第2絶縁層41との間のアンカー効果が得られやすい。
言い換えると、第1絶縁層31と導体20との密着性や、第1絶縁層31および第2絶縁層41の間の密着性や、隣接する第2絶縁層41同士の密着性が得られやすい。
約300℃以上約350℃以下の温度範囲で温度が上昇した際に貯蔵弾性率E’が30℃の温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率E’に対して1桁以上低下する材料1を用いることにより、約300℃未満の低温領域と、約300℃以上の高温領域とで、絶縁被膜30の貯蔵弾性率E’を異ならせることができる。絶縁被膜30に所望の特性を持たせやすくなる。
絶縁性材として、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、および、ピロメリット酸二無水物を少なくとも含む材料1を用いることにより、約300℃以上約350℃以下の温度範囲で温度が上昇した際の貯蔵弾性率E’を、30℃の温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率E’より1桁以上低下させやすい。
また、次に説明する密着性を確保する他の方法を用いた絶縁電線と比較して、本実施形態の絶縁電線10は、絶縁電線10を製造して時間が経過しても密着性が低下しにくい。他の方法としては、絶縁被膜をポリエーテルスルホン(以下、PESとも表記する。)で形成する方法や、絶縁被膜と導体との界面に化学結合を導入する方法が挙げられる。これらの他の方法は、絶縁電線を製造して時間が経過すると密着性が低下することが知られている。
これらの方法と比較して、本実施形態の4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、および、ピロメリット酸二無水物を少なくとも含む材料1は、絶縁電線10を製造して時間が経過しても密着性が低下しにくい。
具体的には次の通りである。従来のPESで形成する方法では、分子構造の主鎖が耐熱性に乏しいスルホニル基(-SO-)を含む。そのため、長時間高温(例えば100℃~180℃)に晒されたときに主鎖が切断されてしまい、長期間の密着性を担保できないという問題があった。
これに対して、本実施形態の材料1は、分子構造中に耐熱性に優れるイミド結合を有している。さらに材料1は、モノマとして用いるジアミン、および酸二無水物が長期耐熱性に優れるエーテル結合(-O-)やベンゼン環のみで構成されている。そのため、材料1を用いて形成された絶縁被膜30では、熱分解が起こりにくく、かつ、導体20への密着性を物理的なアンカー効果で付与することができる。言い換えると、長時間加熱後の密着性低下を起こりにくくすることができる。
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図6から図12を参照して説明する。本実施形態の絶縁電線の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、絶縁被膜が異なっている。よって、本実施形態においては、図6から図12を用いて絶縁被膜について第1の実施形態とは異なる部分を説明し、同じ部分については説明を省略する。
図6は、本実施形態の絶縁電線10Aの構成を説明する横断面視図である。図6に示すように、絶縁電線10Aには導体20と、絶縁被膜30Aと、が設けられている。絶縁被膜30Aは導体20の周面を覆う部材である。
絶縁被膜30Aは、発泡剤を加えた絶縁性および熱硬化性を有する絶縁性材料(以下、塗料とも表記する。)を用いて形成されている点が、発泡剤を加えずに形成される絶縁被膜30と異なる。ここでは、発泡剤を加えた材料1を用いて絶縁被膜30Aが形成される絶縁電線10A(以下、実施例3とも表記する。)に適用して説明する。なお、絶縁電線10Aでは、発泡剤を加えた材料1を用いて形成された絶縁被膜30Aで説明するが、これに限定されない。つまり、絶縁電線10Aは、発泡剤を加えた材料3を用いて絶縁被膜30Aが形成されることでもよい。
図7は、第1絶縁層31および第2絶縁層41の構成を説明する摸式図である。
絶縁被膜30Aには、図7に示すように、1層の第1絶縁層31と、複数の第2絶縁層41と、が設けられている。本実施形態では14層の第2絶縁層41が設けられている例に適用して説明する。なお、第2絶縁層41の層数は14層よりも多くても良いし、少なくても良い。
第1絶縁層31は、図7に示すように、導体20の外周面に隣接する位置に配置されている。第1絶縁層31は、導体20の周囲を覆って形成された層であり、後述する3つの領域を有する層である。
第1絶縁層31は、内側から外側に向かって順に、第1内側領域32、第1中央領域33、および、第1外側領域34を有している。以降では、絶縁被膜30Aの厚さ方向において、導体20側を内側、周面側を外側とも表記する。
第1絶縁層31は、塗料を導体の外周面に塗布して焼付けする(加熱により硬化させる)ことを1回のみ行って得られる層である。第1絶縁層31の厚さは、例えば、1μm以上5μm以下である。
第1内側領域32は、第1絶縁層31における導体20に接触して配置された領域である。言い換えると、第1絶縁層31における第1中央領域33よりも導体20側の領域であってポリイミドなどの絶縁性樹脂から構成される領域である。第1内側領域32は、後述する第1空孔37を含まない領域(第1内側無空孔領域とも表記する。)でもある。
第1中央領域33は、第1絶縁層31における中央の領域である。第1中央領域33は、第1内側領域32および第1外側領域34に隣接して配置されており、ポリイミドなどの絶縁性樹脂および複数の第1空孔37から構成された領域(第1空孔領域とも表記する。)である。
第1外側領域34は、第1絶縁層31における第1中央領域33よりも第2絶縁層41側の領域である。第1外側領域34は、ポリイミドなどの得絶縁性樹脂から構成され、第1空孔37を含まない領域(第1外側無空孔領域とも表記する。)である。
第1空孔37は、内部に気体が含まれた空間である。気体には、空気、後述する熱分解性ポリマが分解されて発生する気体などが含まれる。第1空孔37の空孔径は2μm以下である。
空孔径は、空間が球形の場合には直径であり、楕円をその軸周りに回転させた回転楕円体の場合には長軸に沿った直径であり、その他の立体形状の場合には最大となる長さである。
空孔径は、独立した1つの第1空孔37における直径または長さである。第1絶縁層31が形成される過程で複数の第1空孔37がつながった空間や、第1絶縁層31が形成された後に複数の第1空孔37がつながった空間は、第1空孔37の空孔径とはしない。
第1内側領域32、および第1外側領域34は、絶縁被膜30Aの厚さ方向に沿った厚さが、第1中央領域33に含まれる第1空孔37の空孔径より大きいことがよい。これにより、後述する空孔の連通が発生しにくくなり、また、導体20と第1絶縁層30との界面での密着性を向上させることができる。
独立した1つの第1空孔37としては、内壁が球体や回転楕円体のように外向きに凸な連続する曲面形状のみを有しているものを例示できる。つながった複数の第1空孔37としては、内壁が外向きに凸な曲面形状以外の形状を含むものを例示できる。
第2絶縁層41は、第1絶縁層31の外周側に配置され、導体20および第1絶縁層31の周囲を覆う層である。第2絶縁層41は、内側から外側に向かって順に、第2内側領域42、および、第2外側領域44を有している。
第2内側領域42は、第2絶縁層41における第1絶縁層31側の領域であってポリイミドおよび複数の第2空孔47から構成された領域(第2空孔領域とも表記する。)である。第2外側領域44は、第2内側領域42に隣接して位置し、第1絶縁層31と反対側である外側の領域であってポリイミドから構成された領域(第2外側無空孔領域とも表記する。)である。第2空孔47の空孔径は2μm以下である。
第2外側領域44は、絶縁被膜30Aの厚さ方向に沿った厚さが、第2内側領域42に含まれる第2空孔47の空孔径より大きいことがよい。これにより、第2絶縁層41において後述する空孔の連通が発生しにくくなる。
次に、上述の絶縁電線10Aの製造方法について図8を参照しながら説明する。具体的には、絶縁電線10Aにおける絶縁被膜30Aの製造方法を説明する。図8は、絶縁電線10Aの製造方法を説明するフローチャートである。
まず、絶縁電線10Aの絶縁被膜30Aを形成する発泡剤を加えた材料1の調製工程が行われる(S11)。具体的には、ポリアミド酸を溶剤中で撹拌合成して材料1を得る工程が行われる。次に、材料1に熱分解性ポリマからなる発泡剤を加えて攪拌混合して発泡剤を加えた材料1(実施例3の場合)を得る工程が行われる。
熱分解性ポリマからなる発泡剤は、撹拌合成前の塗料中の樹脂分に対して例えば10重量部(phr:per hundred resin)以上60重量部以下(所定重量部に相当する。)加えられる。本実施形態では、撹拌合成後の塗料中の樹脂分に対して20重量部の熱分解性ポリマが加えられる例に適用して説明する。
発泡剤に用いる熱分解性ポリマとしては、例えば、ポリプロピレングリコール(PPGとも表記する。)などを用いることができる。本実施形態では、分子量が400のジオール型ポリプロピレングリコール(PPG400とも表記する。)が熱分解性ポリマとして用いられる例に適用して説明する。
次に、調製した塗料を導体20の周囲に塗布する第1塗布工程が行われる(S12)。具体的には、第1絶縁層31を形成する塗料を塗布する作業が行われる。塗料を1回塗布して得られる塗装塗料が導体20の周面に形成される。
塗料は、次の第1絶縁層形成工程後に第1絶縁層31の厚さが例えば約3μmとなる所望の厚さに塗布される。本実施形態では、ダイスを用いて導体20の周囲に所望の厚さの塗装塗料を形成する例に適用して説明する。
上述のダイスは、その内部に塗装塗料が形成された導体20を挿通するための貫通孔を有する。導体20の周囲に、第1絶縁層31が有する所望の厚さよりも厚い発泡剤を加えた材料1からなる塗装塗料を形成した後に、当該導体20がダイスの貫通孔に通される。ダイスにより塗装塗料の外周部分の一部が除去され、貫通孔の外径に応じた厚さの塗装塗料が導体20の周囲に残る。
なお、塗料を導体20の周囲に塗布する方法としては、上述の方法に限定されるものではなく、エナメル線の製造の際に用いられる他の公知の塗布方法を用いることができる。
次に、導体20の周囲に塗料が1回塗布されたことで形成された塗装塗料が形成された状態の導体20を加熱して、第1絶縁層31を形成する第1絶縁層形成工程が行われる(S13)。具体的には、塗料が1回塗布された導体20が、300℃から500℃の範囲に保たれた炉内に入れられる。
炉内では、高温により溶剤が塗装塗料から除去される。その後、熱分解性ポリマとポリアミド酸とが相分離した状態で塗装塗料に含まれるポリアミド酸のイミド化反応が進み、第1絶縁層31が形成される。ポリアミド酸のイミド化反応と同時に、発泡剤である熱分解性ポリマが熱分解され、第1絶縁層31に第1空孔37が形成される。
本実施形態において、発泡剤として用いる熱分解性ポリマは、相対的に導体20に対する付着しやすさ(濡れ性または親和性とも表記する。)が、ポリアミド酸に対する付着しやすさよりも低い。そのため、塗装塗料における第1内側領域32に相当する部分と、第1中央領域33および第1外側領域34に相当する部分とを比較すると、第1中央領域33および第1外側領域34に相当する部分に発泡剤である熱分解性ポリマが存在する割合が高くなると考えられる。
言い換えると、第1内側領域32に相当する部分に発泡剤である熱分解性ポリマが存在する割合が低くなると考えられる。そのため、第1絶縁層31の第1内側領域32は、絶縁性樹脂であるポリイミドから構成され、後述する第1空孔37を含まない。
上述のように、塗装塗料における第1外側領域34に相当する部分には、発泡剤である熱分解性ポリマが存在する割合が高い。その一方で、加熱により分解されて気化した熱分解性ポリマは、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになる前に塗装塗料から放出されると考えられる。そのため、第1絶縁層31の第1外側領域34は、絶縁性樹脂であるポリイミドから構成され、後述する第1空孔37を含まない。
塗装塗料における第1中央領域33に相当する部分では、気化した熱分解性ポリマが塗装塗料から放出される前に、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになると考えられる。そのため、第1絶縁層31の第1中央領域33は、絶縁性樹脂であるポリイミドおよび複数の第1空孔37から構成される。
次に、調製した塗料を第1絶縁層31の周囲に塗布する第2塗布工程が行われる(S14)。具体的には、第2絶縁層41を形成する塗料を第1絶縁層31の周面に塗布する作業が行われる。発泡剤を加えた材料1の塗装塗料が第1絶縁層31の周囲に形成される。
塗料は、次の第2絶縁層形成工程後に第2絶縁層41の厚さが例えば約3μmとなる所望の厚さに塗布される。塗装塗料の厚さの調整は、第1塗布工程S12と同様にダイスを用いて行われる。なお、ここで用いられるダイスは、第1絶縁層31が周面に形成された導体20の外径に対応した貫通孔を有する。
なお、塗料を第1絶縁層31の周囲に塗布する方法としては、上述の方法に限定されるものではなく、エナメル線の製造の際に用いられる他の公知の塗布方法を用いることができる。
次に、塗装塗料を加熱して第2絶縁層41を形成する第2絶縁層形成工程が行われる(S15)。具体的には、第1絶縁層形成工程S13と同様に、塗装塗料が形成された導体20および第1絶縁層31が、300℃から500℃の範囲に保たれた炉内に入れられる。
第1絶縁層形成工程S13と同様に、炉内では高温により溶剤が材料1の塗装塗料から除去される。その後、塗装塗料に含まれるポリアミド酸と熱分解性ポリマとが相分離した状態でポリアミド酸のイミド化反応が進み、第2絶縁層41が形成される。ポリアミド酸のイミド化反応と同時に、発泡剤である熱分解性ポリマが熱分解され、第2絶縁層41に第2空孔47が形成される。
第1絶縁層形成工程S13とは異なり、第1絶縁層31の周面に形成された材料1の塗装塗料は、導体20ではなく第1絶縁層31と接する。そのため、第2塗布工程S14で形成された塗装塗料には、第1塗布工程S12で形成された塗装塗料と比較して、発泡剤である熱分解性ポリマが相対的に均一に存在すると考えられる。
塗装塗料における第2絶縁層41の第2外側領域44に相当する部分では、加熱により分解されて気化した熱分解性ポリマは、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになる前に塗装塗料から放出されると考えられる。そのため、第2外側領域44は、絶縁性樹脂であるポリイミドから構成され第2空孔47を含まない。
塗装塗料における第2内側領域42に相当する部分では、気化した熱分解性ポリマが塗装塗料から放出される前に、ポリアミド酸がイミド化してポリイミドになると考えられる。そのため、第2内側領域42は、絶縁性樹脂であるポリイミドおよび複数の第2空孔47から構成される。
第2絶縁層41が14層形成されていない場合(S16のNOの場合)には、再び上述の第2塗布工程S14に戻り、第2絶縁層41を形成する工程が繰り返される。第2絶縁層41が14層形成されている場合(S16のYESの場合)には、導体20の周囲に絶縁被膜30Aを形成する工程が終了する。
言い換えると、第2塗布工程S14および第2絶縁層形成工程S15の組合せが14回行われて、14層の第2絶縁層41が形成される。特に、2回目以降の第2塗布工程S14では、材料1を第2絶縁層41の周囲に塗布して第2絶縁層41の周囲に塗装塗料を形成する。また、2回目以降の第2絶縁層形成工程S15では、第2絶縁層14の周囲に形成された塗装塗料を加熱することで、第2絶縁層41の周囲に第2絶縁層41を形成する。これにより、絶縁電線10Aの絶縁被膜30Aが製造される。絶縁被膜30Aの全体では1層の第1絶縁層31と、14層の第2絶縁層41が形成される。膜厚が約42μmの絶縁被膜30Aが形成される。
次に、上述の絶縁電線10Aにおける絶縁被膜30Aの界面の縦断面観察結果について図9から図12を参照しながら説明する。図9および図10は、縦断面観察に用いられる絶縁被膜30Aの準備方法を説明する模式図である。
縦断面を観察する場合には、まず、所定の長さの絶縁電線10Aを観察対象として準備する。次に、図9に示すように、絶縁電線10Aの導体20を取り除いて筒状の絶縁被膜30Aを得る。導体20を取り除く方法としては、電気分解を用いることができる。なお、電気分解以外の他の方法を用いて導体20を取り除いてもよい。
次に、筒状の絶縁被膜30Aを矩形膜状の絶縁被膜30Aとする加工が行われる。具体的には、筒状の絶縁被膜30Aに長手方向に延びる1本の切り込みCtが入れられる。長手方向は、図9において紙面に対して直交する方向である。筒状の絶縁被膜30Aは、切込みCtにおいて開かれて、図10に示すような矩形膜状の絶縁被膜30Aとなる。
図11は、第1絶縁層31における導体20と隣接する界面を説明するSEM画像である。
第1絶縁層31における導体20と隣接する界面31fには、図11に示すように、空孔が観察されない。なお、図11において、第1絶縁層31の長手方向に直線状に延びる筋状に形成された白色の線は、導体20の表面の凹凸が第1絶縁層31に転写された跡Wdである。
図12は、第2絶縁層41における第1絶縁層31と隣接する界面を説明するSEM画像である。
第2絶縁層41における第1絶縁層31と隣接する界面41fには、図12に示すように、第2空孔47が観察される。図12における円形または楕円形の白色の輪郭線が、界面41fに表れた第2空孔47である。界面41fは、例えば、矩形膜状の絶縁被膜30Aから第1絶縁層31を剥離して第2絶縁層41を露出させた面である。
本実施形態では、第2絶縁層41における第1絶縁層31と隣接する界面41fを観察したが、2つの隣接する第2絶縁層41のうちの外側の第2絶縁層41における内側の第2絶縁層41と隣接する界面41ffを観察してもよい。
次に、上述の実施例3に係る絶縁電線10Aと、各比較例との評価結果の比較について図2を参照しながら説明する。
図2における実施例3の材料の欄には発泡剤が加えられた材料1(材料1+発泡剤とも表記する。)が記載されている。なお、実施例3に係る絶縁電線10Aは1種類の材料を用いて絶縁被膜30Aを形成している。
図2の密着性の欄には、実施例3に係る絶縁電線10Aにおける密着性の評価結果、具体的にはピール試験による評価結果が記載されている。実施例3のピール試験において絶縁被膜30Aが導体20から浮くまでの回数は98回であった。
つまり、ピール試験において実施例3は、比較例1(72回)および比較例2(0回)よりも密着性が高いと評価された。また、実施例3の密着性の評価は、実施例1の評価と同等であった。
図2の可撓性の欄には、実施例3に係る絶縁電線10Aと、各比較例に係る絶縁電線における可撓性の評価結果が記載されている。実施例3に係る伸長させた試料10Tを巻き付け棒の周面に巻き付けたときに、絶縁被膜30Aに亀裂が生じず、かつ、導体20から絶縁被膜30Aが剥離しなかった。つまり実施例3は、実施例1および実施例2と同様に合格(〇)と評価された。
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本発明を上記の実施形態に適用したものに限られることなく、これらの実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定するものではない。
10,10A…絶縁電線、 20…導体、 30,30A…絶縁被膜、 31…第1絶縁層、 41…第2絶縁層

Claims (6)

  1. 導電性材料から形成され長尺状の形状を有する導体と、
    絶縁性材料から形成され、前記導体の周囲を覆う複数の絶縁層を少なくとも有する絶縁被膜と、
    が設けられ、
    前記絶縁性材料は、100℃より高い温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率の値が、30℃の温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率より1桁以上低下する、絶縁電線。
  2. 前記絶縁性材料は、100℃より高い温度での前記貯蔵弾性率の値が、第1所定閾値以上の温度範囲で、30℃の温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率の値より1桁以上低下する請求項1記載の絶縁電線。
  3. 前記絶縁性材料は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、および、ピロメリット酸二無水物を少なくとも含む請求項2記載の絶縁電線。
  4. 前記絶縁性材料は、100℃より高い温度での前記貯蔵弾性率の値が、前記第1所定閾値よりも温度が低い第2所定閾値以上、かつ、前記第1所定閾値未満の温度範囲で、30℃の温度での動的粘弾性における貯蔵弾性率の値より1桁以上低下する請求項2記載の絶縁電線。
  5. 前記絶縁性材料は、分子量が1000未満のシリコーン系モノマを重合させた材料である請求項4記載の絶縁電線。
  6. 前記絶縁被膜は、空孔を含む請求項1乃至5の何れか1項に記載の絶縁電線。
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