JP6964412B2 - 絶縁電線及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、絶縁電線及びその製造方法に関する。
モータ等のコイルに用いられる絶縁電線において、導体を被覆する絶縁層には、優れた絶縁性、導体に対する密着性、耐熱性、機械的強度、外観性等が求められている。この絶縁層の形成に用いる合成樹脂としては、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等が挙げられる。
また、適用電圧が高い電気機器、例えば高電圧で使用されるモータ等では、電気機器を構成する絶縁電線に高電圧が印加され、その絶縁層表面で部分放電(コロナ放電)が発生しやすくなる。コロナ放電が発生すると、局部的な温度上昇やオゾン等の発生が引き起こされやすくなり、その結果、絶縁電線の絶縁層が劣化することで早期に絶縁破壊を起こし、電気機器の寿命が短くなる。高電圧が印加される絶縁電線には上記の理由によりコロナ放電開始電圧の向上が求められており、そのためには絶縁層の誘電率を低くすることが有効であることが知られている。
さらに、絶縁電線は、湿熱環境下に晒される場合がある。このような環境下では、絶縁層を形成する合成樹脂が加水分解を生じてその分子量が著しく低下し、その結果、クラック等が生じて絶縁層としての機能が低下するおそれがある。そのため、絶縁電線の絶縁層には、上記湿熱環境下での機能低下を抑制する性能(耐湿熱劣化性)が要求される場合がある。
さらに、絶縁電線をコイルとして使用する場合には、コイルの占積率を上げるために絶縁電線に曲げ加工を行う。具体的には、例えば絶縁電線を捲線してコイルを形成した後にコイルをスロット中に挿入したり、あらかじめ変形させた絶縁電線同士を溶接してコイルを形成したりする。このような用途で用いられる絶縁電線の絶縁層には、曲げ加工した際に電気特性低下の原因となる割れ、ピンホール、ボイド等が発生することを抑制する曲げ加工性が要求される。
ポリイミドは、絶縁電線の絶縁層に使用される合成樹脂の中では特に耐熱性に優れ、誘電率が低く、かつ機械的強度にも優れ、また一定の原料や製造条件を適用した場合には良好な外観性及び曲げ加工性を実現できるため、高電圧で使用される絶縁電線の絶縁層に用いられている。例えば特開2013−253124号公報には、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との反応産物であり、かつイミド化後のイミド基濃度が特定範囲であるポリイミド前駆体を含有する樹脂ワニスを用いて絶縁層を形成することで、耐熱性、耐クレージング性に優れ、コロナ放電し難い絶縁電線が得られると記載されている。
特開2013−253124号公報
しかし、ポリイミドは、湿熱環境下に長時間曝された場合に加水分解を生じるおそれがある材料であるため、上記従来の絶縁電線の備える絶縁層は、耐湿熱劣化性について向上の余地がある。
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、絶縁層の外観性、曲げ加工性及び耐湿熱劣化性に優れる絶縁電線及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記絶縁層のうち少なくとも1層が、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの反応生成物であるポリイミド前駆体に由来し、かつ示差走査熱量計で20℃/minの昇温条件において測定される結晶融解ピークの熱量が5J/g以下であるポリイミドを主成分とし、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が25モル%以上95モル%以下である。
上記課題を解決するためになされた本発明の別の態様に係る絶縁電線の製造方法は、導体と、この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、上記導体の外周側に樹脂ワニスを塗工する塗工工程と、上記塗工された樹脂ワニスを加熱する加熱工程とを備え、上記樹脂ワニスが芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの反応生成物であるポリイミド前駆体を含有し、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が25モル%以上95モル%以下であり、上記加熱工程で、上記ポリイミド前駆体から示差走査熱量計で20℃/minの昇温条件において測定される結晶融解ピークの熱量が5J/g以下であるポリイミドを形成する。
本発明の一態様に係る絶縁電線及びその製造方法は、絶縁層の外観性、曲げ加工性及び耐湿熱劣化性に優れる絶縁電線を提供できる。
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記絶縁層のうち少なくとも1層が、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの反応生成物であるポリイミド前駆体に由来し、かつ示差走査熱量計で20℃/minの昇温条件において測定される結晶融解ピークの熱量が5J/g以下であるポリイミドを主成分とし、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が25モル%以上95モル%以下である。
当該絶縁電線は、上記構成を有することにより、絶縁層の外観性、曲げ加工性及び耐湿熱劣化性に優れる。当該絶縁電線が上記構成を有することにより上記効果を奏する理由は定かではないが、例えば以下のように推察される。すなわち、当該絶縁電線の1又は複数の絶縁層のうち少なくとも1層は、原料として加水分解され難いBPDAを特定量用いたポリイミド前駆体に由来するポリイミドを主成分とする。このポリイミドは、BPDAに由来する加水分解され難い構造を特定量含むことで湿熱環境下でも加水分解され難いため、上記絶縁層の耐湿熱劣化性を向上すると考えられる。また、当該絶縁電線は、上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすること、つまりポリイミドの結晶化を抑制することで、後述する理由により絶縁層の曲げ加工性及び外観性に優れる。ここで、上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量はポリイミドの構造と絶縁層の形成条件とによって決まるが、BPDAに由来する構造を過剰に含むポリイミドは、BPDAが有するビフェニル構造により分子同士のパッキングが促進されるため結晶化し易く、絶縁層の形成条件の制御だけで結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることは困難である。そのため、当該絶縁電線は、上記ポリイミド前駆体の原料におけるBPDAの含有量を上記上限以下とすること、つまりポリイミドに含まれるBPDAに由来する構造を一定以下とすることで容易かつ確実に結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることができる。
当該絶縁電線が上記結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることで絶縁層の曲げ加工性及び外観性に優れる理由は以下の通りであると考えられる。すなわち、ポリイミドを主成分とする絶縁層を形成する方法としては、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を含有する樹脂ワニスを導体の外周側に塗工する塗工工程と、得られた塗膜を加熱する加熱工程とを備える方法が一般的である。上記方法では、一回の塗工工程及び加熱工程では数μm程度の比較的薄い絶縁層しか形成できないため、通常塗工工程及び加熱工程を繰り返して所定の厚さ(数10μm程度)となるまで複数の絶縁層を順次積層する。この2回目以降の塗工工程の際、樹脂ワニスに含まれる溶剤が下地層(前回の塗工工程及び加熱工程で形成された絶縁層)に含まれるポリイミドを若干溶解する場合には、上記下地層と新たに積層する絶縁層とが馴染み易くなるため、各層間の密着力が向上すると考えられる。ここで、結晶化度が高いポリイミドは結晶部に溶剤が浸透し難いため耐溶剤性が過度に高くなる傾向にあると考えられる。
当該絶縁電線は、上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることで、その耐溶剤性を適度に低減でき、その結果、上述のポリイミドの溶解に起因する絶縁層の各層間の密着力向上効果を発揮させることができる。これにより、当該絶縁電線は、曲げ加工等によって絶縁層に大きな変形を施した際に、絶縁層の各層間が剥離して絶縁性等が低下することを抑制できるため、絶縁層の曲げ加工性に優れると考えられる。また、結晶化度が高いポリイミドは、その結晶部及び非晶部の界面で生じる光の散乱によって白濁するおそれがある。当該絶縁電線は、上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることで、上記白濁を抑制でき、その結果、絶縁層の外観性に優れると考えられる。さらに、当該絶縁電線は、上記BPDAの含有量を上記下限以上とすることで、上記ポリイミドのイミド基濃度を適度に低減してその極性を抑えることで溶剤との馴染みを向上できる。これにより、当該絶縁電線は、上述のポリイミドの溶解に起因する絶縁層の各層間の密着力がより向上し、その結果、より優れた曲げ加工性を発揮することができる。ここで「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分を指す。
「結晶融解ピークの熱量[J/g]」とは、以下の方法で算出した値である。まず、絶縁電線から採取した絶縁層を試料として昇温速度20℃/minでDSC測定(示差走査熱量測定)を行う。このDSC測定結果を基に、ポリイミドの結晶融解に伴う吸熱ピーク面積から結晶融解熱量[J/g]を求める。なお、結晶融解に伴う吸熱ピークが観察されなかった場合、その結晶融解熱量は0J/gとする。また、絶縁層がポリイミド以外の他の合成樹脂を含有する場合においても、上記吸熱ピークが検出される温度は合成樹脂種ごとに固有のものであるため、上述の方法により結晶融解ピークの熱量を測定できる。
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物をさらに含むとよく、この場合、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するピロメリット酸二無水物の含有量としては、5モル%以上75モル%以下が好ましい。このように、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物を特定量含むことで、ポリイミドに剛直な構造を導入できるため、絶縁層の耐熱性を向上できる。
上記芳香族ジアミンがジアミノジフェニルエーテルを含むとよい。このように、上記芳香族ジアミンがジアミノジフェニルエーテルを含むことで、絶縁層の靭性を向上できる。
本発明の別の態様に係る絶縁電線の製造方法は、導体と、この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、上記導体の外周側に樹脂ワニスを塗工する塗工工程と、上記塗工された樹脂ワニスを加熱する加熱工程とを備え、上記樹脂ワニスが芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの反応生成物であるポリイミド前駆体を含有し、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が25モル%以上95モル%以下であり、上記加熱工程で上記ポリイミド前駆体から示差走査熱量計で20℃/minの昇温条件において測定される結晶融解ピークの熱量が5J/g以下であるポリイミドを形成する。
当該絶縁電線の製造方法は、上記塗工工程でBPDAを原料とするポリイミド前駆体を含有する樹脂ワニスを用いることで、形成される絶縁層の主成分であるポリイミドにBPDAに由来する加水分解性の低い構造を特定量導入でき、その結果、上記絶縁層の耐湿熱劣化性を向上できる。また、当該絶縁電線の製造方法は、上記加熱工程で上記ポリイミド前駆体のイミド化により上記結晶融解ピークの熱量が上記上限以下のポリイミドを形成することで、ポリイミドの結晶化度の高さに起因する白濁を抑制して絶縁層の外観性を向上できる。さらに、ポリイミドの耐溶剤性を適度に低下させることで絶縁層の層間密着力を向上し、その結果、絶縁層の曲げ加工性を向上できる。さらに、当該絶縁電線の製造方法は、上記ポリイミド前駆体の原料として用いるBPDAの含有量を上記上限以下とし、BPDAに由来する構造を上記ポリイミドに必要以上に導入しないことにより、上記ポリイミドの上記結晶融解ピークの熱量を容易かつ確実に上記上限以下とすることができる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一態様に係る絶縁電線及びその製造方法を説明する。
<絶縁電線>
当該絶縁電線は、導体と、この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層とを備える。当該絶縁電線は、絶縁層の外観性、曲げ加工性及び耐湿熱劣化性に優れる。
[導体]
上記絶縁電線の導体の材質としては、導電率が高く、かつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。上記絶縁電線の導体は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
当該絶縁電線の導体の平均断面積の下限としては、0.01mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。一方、上記導体の平均断面積の上限としては、10mmが好ましく、5mmがより好ましい。上記導体の平均断面積が上記下限より小さい場合、抵抗値が増大するおそれがある。逆に、上記導体の平均断面積が上記上限を超える場合、誘電率を十分に低下させるために絶縁層を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
[絶縁層]
当該絶縁電線の1又は複数の絶縁層は、導体の外周側に積層される。上記絶縁電線が複数の絶縁層を備える場合、各絶縁層は上記導体の外周側に断面視で同心円状に順次積層される。この場合、各絶縁層の平均厚さとしては、例えば1μm以上5μm以下とすることができる。また、上記複数の絶縁層の平均合計厚さとしては、例えば10μm以上200μm以下とすることができる。さらに、複数の絶縁層の合計層数としては、例えば2層以上200層以下とすることができる。
この複数の絶縁層のうち少なくとも1層は、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの反応生成物であるポリイミド前駆体(ポリアミック酸)に由来し、かつ上記結晶融解ピークの熱量が5J/g以下であるポリイミドを主成分とする。
上記ポリイミドの上記結晶融解ピークの熱量の上限としては、3J/gが好ましい。上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量が上記上限を超える場合、当該絶縁電線の絶縁層の外観性及び曲げ加工性が低下するおそれがある。上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量は、0J/gが最も好ましい。
(ポリイミド前駆体)
上記ポリイミドの原料となるポリイミド前駆体は、イミド化によりポリイミドを形成する重合体であり、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合によって得られる反応生成物である。つまり、上記ポリイミド前駆体は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを原料とする。
上記ポリイミド前駆体の重量平均分子量の下限としては、10,000が好ましく、15,000がより好ましい。一方、上記重量平均分子量の上限としては、180,000が好ましく、130,000がより好ましい。上記ポリイミド前駆体の重量平均分子量を上記下限以上とすることで、伸長性に優れ、かつ加水分解を生じても一定の分子量を維持し易いポリイミドを形成でき、その結果、上記絶縁層の可撓性及び耐湿熱劣化性をより向上できると考えられる。また、上記ポリイミド前駆体の重量平均分子量を上記上限以下とすることで、当該絶縁電線の製造に用いる樹脂ワニスの極端な粘度増大を抑制して塗布性を向上できる。また、上記樹脂ワニスにおいて、優れた塗布性を維持しつつポリイミド前駆体の濃度を向上し易くなる。ここで「重量平均分子量」とは、JIS−K7252−1:2008「プラスチック−サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方−第1部:通則」に準拠して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される値を指す。
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとのモル比(芳香族テトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン)としては、ポリイミド前駆体の合成容易性の観点から、例えば95/105以上105/95以下とすることができる。
(芳香族テトラカルボン酸二無水物)
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物は、BPDAを含む。BPDAとしては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’−BDPA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(2,3,3’,4’−BDPA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(2,2’,3,3’−BDPA)等が挙げられ、これらの中で、3,3’,4,4’−BDPAが好ましい。
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するBPDAの含有量の下限としては、25モル%であり、35モル%が好ましく、55モル%がより好ましい。一方、上記BPDAの含有量の上限としては、95モル%であり、92モル%が好ましい。上記BPDAの含有量を上記範囲とすることで、絶縁層の主成分であるポリイミドにBPDAに由来する構造を適度に導入することができ、その結果、外観性、曲げ加工性及び耐湿熱劣化性をバランスよく向上できる。
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物のうち、BPDA以外の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。上記その他の芳香族テトラカルボン酸二無水物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物は、PMDA、BTDA又はこれらの組み合わせをさらに含むことが好ましい。特に、ポリイミド前駆体の原料として剛直な構造を有するPMDAを用いることで、イミド化後のポリイミドに剛直な構造を導入できるため、絶縁層の耐熱性を向上できる。
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するPMDAの含有量の下限としては、5モル%が好ましく、8モル%がより好ましい。一方、上記PMDAの含有量の上限としては、75モル%が好ましく、65モル%がより好ましく、45モル%がさらに好ましく、20モル%が特に好ましい。上記PMDAの含有量が上記下限より小さい場合、絶縁層の耐熱性が不十分となるおそれがある。逆に、上記PMDAの含有量が上記上限を超える場合、絶縁層の主成分であるポリイミドにBPDAに由来する構造を十分に導入することができず、その結果、上記絶縁層の耐湿熱劣化性が低下するおそれがある。
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するBTDAの含有量としては、特に限定されないが、例えば5モル%以上20モル%以下とすることができる。
(芳香族ジアミン)
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族ジアミンとしては、例えば4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−ODA)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−ODA)、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル(2,4’−ODA)、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル(2,2’−ODA)等のジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、2,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2’−ジアミノジフェニルスルフィド、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ベンゾフェノンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。これらの芳香族ジアミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族ジアミンは、ODA、BAPP又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。特に、上記ポリイミド前駆体の原料としてODAを用いることで、絶縁層の靭性を向上できる。上記ODAとしては、4,4’−ODAが好ましい。
上記芳香族ジアミン100モル%に対するODAの含有量の下限としては、50モル%が好ましく、90モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。このように、上記ODAの含有量を上記下限以上とすることで、絶縁層の靭性をより向上できる。また、上記ODAの含有量としては、100モル%が特に好ましい。また、上記芳香族ジアミン100モル%に対するBAPPの含有量としては、例えば0モル%以上50モル%以下とすることができる。
なお、上記ポリイミド前駆体は、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンと、その他の原料との重合によって得られる反応生成物であってもよい。上記その他の原料としては、例えば1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンなどが挙げられる。
上記ポリイミド前駆体は、実質的にBPDA、PMDA及びODAのみを原料として得られる反応生成物であることが好ましい。つまり、当該絶縁電線の絶縁層の主成分であるポリイミドは、実質的にBPDA、PMDA及びODAに由来する構造のみにより形成されることが好ましい。具体的には、上記ポリイミド前駆体の全原料におけるBPDA、PMDA及びODAの合計割合の下限としては、95モル%が好ましく、99モル%がより好ましい。また、上記合計割合は、100モル%が最も好ましい。
なお、上記複数の絶縁層は、全ての絶縁層が上述のポリイミドを主成分とすることが好ましいが、一部の絶縁層の主成分は上述したポリイミド以外のポリイミドや他の合成樹脂であってもよい。上記他の合成樹脂としては、例えばポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド等が使用できる。
(ポリイミド前駆体の合成方法)
上記ポリイミド前駆体は、上述した芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合反応により得ることができる。上記重合反応の方法としては、従来のポリイミド前駆体の合成と同様とすることができる。上記重合反応の具体的な方法としては、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶剤中で混合し、この混合液を加熱する方法等が挙げられる。この方法により、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとが重合し、ポリイミド前駆体が有機溶剤に溶解した溶液を得ることができる。
上記重合の際の反応条件としては、使用する原料等により適宜設定すればよいが、例えば反応温度を10℃以上100℃以下、反応時間を0.5時間以上24時間以下とすることができる。
上記重合に用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとのモル比(芳香族テトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン)は、重合反応を効率的に進行させる観点から、100/100に近いほど好ましい。上記モル比としては、例えば95/105以上105/95以下とすることができる。
上記重合に用いる有機溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性有機溶剤を使用できる。これらの有機溶剤は単独で用いても2種以上を併用しても良い。ここで「非プロトン性極性有機溶剤」とは、プロトンを放出する基を持たない極性有機溶剤をいう。
上記有機溶剤の使用量は、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンを均一に分散させることができる使用量であれば特に制限されない。上記有機溶剤の使用量としては、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの合計100質量部に対し、100質量部以上1,000質量部以下とすることができる。
[他の層]
上記絶縁電線は、1又は複数の絶縁層の外周側にさらに他の層が積層されていてもよい。上記他の層としては、例えば表面潤滑層等が挙げられる。
<絶縁電線の製造方法>
次に、当該絶縁電線の製造方法について説明する。当該絶縁電線の製造方法は、導体の外周側に樹脂ワニスを塗工する塗工工程と、上記塗工された樹脂ワニスを加熱する加熱工程とを備える。上記樹脂ワニスは、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの反応生成物であるポリイミド前駆体を含有する。また、上記加熱工程で、上記ポリイミド前駆体から示差走査熱量計で20℃/minの昇温条件において測定される結晶融解ピークの熱量が5J/g以下のポリイミドを形成する。当該絶縁電線の製造方法は、上記塗工工程及び加熱工程を繰り返すことが好ましい。当該絶縁電線の製造方法によれば、当該絶縁電線を容易かつ確実に製造できる。以下、上記塗工工程で用いる樹脂ワニスについて説明した後、各工程を説明する。
[樹脂ワニス]
上記樹脂ワニスはポリイミド前駆体を含有する。また、上記樹脂ワニスは通常有機溶剤をさらに含有する。上記樹脂ワニスが含有するポリイミド前駆体としては、当該絶縁電線で説明したポリイミド前駆体を用いることができるため、説明を省略する。
(有機溶剤)
上記樹脂ワニスに用いる有機溶剤は、上記樹脂ワニスの塗布性を向上する。また、上記有機溶剤を含有する上記樹脂ワニスは、導体の周面側への塗工工程及び加熱工程を繰り返して複数の絶縁層を形成する際、2回目以降の塗工工程において上記樹脂ワニス中の有機溶剤が下地層(前回の塗工工程及び加熱工程で形成された絶縁層)のポリイミドを若干溶解するため、形成される複数の絶縁層の各層間の密着力を向上させることができる。
上記有機溶剤としては、非プロトン性極性有機溶剤が好ましい。ポリイミド前駆体は非プロトン性極性有機溶剤に対する溶解性が高いため、上記有機溶剤として非プロトン性極性有機溶剤を用いることにより、上記ポリイミド前駆体の上記樹脂ワニス中の濃度を高める場合においても上記ポリイミド前駆体を確実に溶解させることができる。また、上記有機溶剤として非プロトン性極性有機溶剤を用いることにより、上述の2回目以降の塗工工程において上記樹脂ワニス中の有機溶剤がした下地層のポリイミドを溶解し易くなるため、形成される複数の絶縁層の各層間の密着力をより向上させることができる。
上記非プロトン性極性有機溶剤としては、ポリイミド前駆体の溶解性向上及び絶縁層間の密着力向上の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン及びこれらの組み合わせが好ましく、NMPがより好ましい。
有機溶剤は、上述したポリイミド前駆体の重合反応に使用した有機溶剤をそのまま使用してもよく、ポリイミド前駆体を得た後、別途添加してもよいが、作業性の観点から、ポリイミド前駆体の重合反応に使用した有機溶剤をそのまま使用することが好ましい。上記樹脂ワニスにおける有機溶剤の含有量としては、例えばポリイミド前駆体100質量部に対して100質量部以上1,000質量部以下の範囲とすることができる。
(他の成分)
上記樹脂ワニスは、上述した成分以外に顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤、密着向上剤等の各種添加剤や反応性低分子などを含有しても良い。この中で、密着向上剤としてメラミン化合物を含有することで、形成される絶縁層と導体との密着力を向上できる。さらに、上記樹脂ワニスは、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の樹脂を含有してもよい。上記樹脂ワニスに上述の成分を含有させる場合、上記樹脂ワニスにおける上述の成分の含有量としては、ポリイミド前駆体100質量部に対し、例えば0.5質量部以上30質量部以下とすることができる。
(樹脂ワニスの製造方法)
上記樹脂ワニスの製造方法としては、例えばポリイミド前駆体の合成方法で説明したポリイミド前駆体が有機溶剤に溶解した溶液をそのまま上記樹脂ワニスとする方法が挙げられる。また、上記樹脂ワニスの製造方法としては、例えば上記ポリイミド前駆体が有機溶剤に溶解した溶液からポリイミド前駆体を精製した後に、得られた精製ポリイミド前駆体と有機溶剤等の他の成分とを混合する方法も挙げられる。
[塗工工程]
本工程では、導体の外周側に後述する樹脂ワニスを塗工する。塗工方法としては、特に限定されないが、例えば上記樹脂ワニスを貯留した樹脂ワニス槽と塗工ダイスとを備える塗工装置を用いた方法等が挙げられる。この塗工装置によれば、導体が樹脂ワニス槽内を挿通することで上記樹脂ワニスが導体外周面に付着した後、塗工ダイスを通過することで上記樹脂ワニスが導体外周面に均一な厚さで塗工される。なお、本工程では、導体の外周面に上記樹脂ワニスを直接塗工してもよく、導体の外周面に予め密着改良層等の中間層を設けておき、その中間層の外周側に上記樹脂ワニスを塗工してもよい。
なお、当該絶縁電線の製造方法で上記塗工工程及び加熱工程を繰り返す場合、複数の塗工工程のうち一部の塗工工程では、上記樹脂ワニス以外の樹脂ワニスを用いてもよい。
[加熱工程]
本工程では、例えば上記樹脂ワニスを塗工した導体を加熱炉内で走行させる方法等により、導体に塗工された上記樹脂ワニスを加熱する。この加熱工程によって、上記樹脂ワニスが含有するポリイミド前駆体がイミド化されると共に有機溶剤等の揮発成分が除去され、導体の外周側に焼付層である絶縁層が積層される。加熱方法としては、特に限定されず、例えば熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等の従来公知の方法により行うことができる。加熱温度としては、例えば350℃以上500℃以下とすることができる。加熱時間としては、例えば5秒以上100秒以下とすることができる。なお、上記樹脂ワニスを塗工した導体を加熱炉内で走行させることで加熱する場合、加熱炉内の設定温度を上記加熱温度と見なし、加熱炉の入口から出口までの距離を導体の線速で除した値を上記加熱時間と見なすものとする。
本工程で加熱を行うことにより、上記ポリイミド前駆体から示差走査熱量計で20℃/minの昇温条件において測定される結晶融解ピークの熱量が5J/g以下のポリイミドを形成する。ここで、ポリイミドの結晶構造は、ポリイミド前駆体のイミド化によりポリイミドが形成された段階で既に一定割合含まれている場合があり、また上記形成された高温のポリイミドが冷却される際に形成される場合もある。そのため、本工程では、上記結晶融解ピークの熱量を確実に5J/g以下とするため、以下の方法(A)〜方法(C)等を採用するとよい。すなわち、本工程では、上述のポリイミドが形成された段階で既に一定割合含まれている結晶構造を融解するため、加熱温度を400℃以上500℃以下と比較的高くする方法(A)、加熱時間を30秒以上100秒以下と比較的長くする方法(B)等を採用するとよい。また、本工程では、上述の高温のポリイミドが冷却される際に結晶構造が形成されることを抑制するため、加熱直後に絶縁層及び導体を急冷する方法(C)等を採用するとよい。上記急冷の方法としては、例えば上記絶縁層及び導体に送風する方法や、上記絶縁層及び導体を低温下(例えば0℃以上15℃以下)に曝露する方法等が挙げられる。但し、ポリイミドの結晶化のし易さは、ポリイミド前駆体の構造にも左右されるため、上述の方法(A)〜方法(C)等は必ずしも必要ではない。
当該絶縁電線の製造方法で上記塗工工程及び加熱工程を繰り返す場合、上記塗工工程及び加熱工程を繰り返す回数としては、例えば2回以上200回以下とすることができる。
[その他の実施形態]
上記開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例において、ポリイミドの結晶融解ピークの熱量の測定は、示差走査熱量計(セイコーインスツル社の「DSC7020」)を用いて行った。
<樹脂ワニスの調製>
[樹脂ワニスV1の調製]
4,4’−ODA100モル%をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた後、得られた溶液にPMDA10モル%及び3,3’,4,4’−BPDA90モル%を加え、窒素雰囲気下で撹拌した。その後、撹拌しながら80℃で3時間反応させた後、室温に冷却することにより、有機溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンにポリイミド前駆体が溶解している樹脂ワニスV1を調製した。この樹脂ワニスV1中のポリイミド前駆体濃度は30質量%とした。
[樹脂ワニスV2〜V8の調製]
原料の種類及び使用量を表1に示す通りとした以外は、樹脂ワニスV1の調製と同様に操作し、樹脂ワニスV2〜V5及びV8を調製した。また、原料の種類及び使用量を表1に示す通りとし、かつPMDAの使用量増加によるゲル化の抑制のために反応温度を50℃で4時間とした以外は、樹脂ワニスV1の調製と同様に操作し、樹脂ワニスV6及びV7を調製した。
<絶縁電線の製造>
[絶縁電線No.1の製造]
銅を主成分とする平均径1mmの丸線を導体として用意した。樹脂ワニスV1を上記導体の外周面に塗工する工程と、上記樹脂ワニスを塗工した導体を加熱温度400℃、加熱時間30秒の条件で加熱炉により加熱する工程とを10回ずつ繰り返し行うことで、上記導体と、この導体の外周面に積層される平均厚さ35μmの絶縁層とを備える絶縁電線No.1を得た。絶縁電線No.1から絶縁層を採取してDSC測定を行ったところ、主成分であるポリイミドの結晶融解熱量は0.0J/gであった。
[絶縁電線No.2〜9の製造]
使用した樹脂ワニスと加熱工程での加熱炉の設定温度とを表1に示す通りとした以外は絶縁電線No.1の製造と同様に操作し、絶縁電線No.2〜9を製造した。表1には、DSCによって測定した絶縁電線No.2〜9の絶縁層の主成分であるポリイミドの結晶融解熱量をあわせて示す。
<評価>
絶縁電線No.1〜9を用いて絶縁層の耐湿熱劣化性、曲げ加工性及び外観性を評価した。評価結果を表1に示す。
[耐湿熱劣化性]
絶縁層の耐湿熱劣化性は、絶縁電線を長手方向に10%伸長しつつ、温度85℃、相対95%、750時間の条件で湿熱処理を行い、処理後の絶縁電線を目視で観察して表面に亀裂が観察されなかった場合を「A(良好)」、表面に亀裂が観察された場合を「B(良好でない)」とした。
[曲げ加工性]
絶縁層の曲げ加工性は、絶縁電線を90°に折り曲げてその状態で10秒間保持した後、折り曲げ箇所の絶縁層を目視で確認し、層間剥離が確認されなかった場合を「A(良好)」、層間剥離が確認された場合を「B(良好でない)」と判断した。
[外観性]
絶縁層の外観性は、絶縁電線の絶縁層の外観を目視で観察し、白濁、色ムラ等が生じている場合を「B(良好でない)」、白濁、色ムラ等が生じていない場合を「A(良好)」と判断した。
Figure 0006964412
表1から明らかなように、No1及びNo.3〜5の絶縁電線の絶縁層は、主成分であるポリイミドが特定量のBPDAを原料として用いたポリイミド前駆体に由来し、かつ結晶融解ピークの熱量が一定以下であるため、外観性、曲げ加工性及び耐湿熱劣化性が優れていた。一方、No.2及びNo.6〜9の絶縁電線の絶縁層は、上記BPDAの使用量が少なすぎるか、上記結晶融解ピークの熱量が高すぎるか、又はその両方により、形成される絶縁層の外観性、曲げ加工性及び耐湿熱劣化性のうちのいずれかが不十分であった。
本発明の一態様に係る絶縁電線及びその製造方法は、絶縁層の外観性、曲げ加工性及び耐湿熱劣化性に優れる絶縁電線を提供できる。

Claims (5)

  1. 導体と、
    この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層と
    を備える絶縁電線であって、
    上記絶縁層のうち少なくとも1層が、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの反応生成物であるポリイミド前駆体に由来し、かつ示差走査熱量計で20℃/minの昇温条件において測定される結晶融解ピークの熱量が5J/g以下であるポリイミドを主成分とし、
    上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、
    上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が55モル%以上92モル%以下であり、
    上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物をさらに含み、
    上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するピロメリット酸二無水物の含有量が8モル%以上45モル%以下である絶縁電線。
  2. 上記芳香族ジアミンがジアミノジフェニルエーテルを含む請求項1に記載の絶縁電線。
  3. 上記ポリイミド前駆体の重量平均分子量が15,000以上である請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
  4. 上記ポリイミドの上記結晶融解ピークの熱量が0J/gである請求項1、請求項2又は請求項3に記載の絶縁電線。
  5. 導体と、この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、
    上記導体の外周側に樹脂ワニスを塗工する塗工工程と、
    上記塗工された樹脂ワニスを加熱する加熱工程と
    を備え、
    上記樹脂ワニスが芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの反応生成物であるポリイミド前駆体を含有し、
    上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、
    上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が55モル%以上92モル%以下であり、
    上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物をさらに含み、
    上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するピロメリット酸二無水物の含有量が8モル%以上45モル%以下であり、
    上記加熱工程で、上記ポリイミド前駆体から示差走査熱量計で20℃/minの昇温条件において測定される結晶融解ピークの熱量が5J/g以下であるポリイミドを形成する絶縁電線の製造方法。
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