JP2015108062A - 分岐ポリアミック酸、ポリアミック酸塗料およびそれを用いた絶縁電線 - Google Patents

分岐ポリアミック酸、ポリアミック酸塗料およびそれを用いた絶縁電線 Download PDF

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剛真 牛渡
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秀太 鍋島
祐樹 本田
Yuki Honda
祐樹 本田
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Abstract

【課題】長期耐熱性に優れるポリイミド樹脂を得られる分岐ポリアミック酸、ポリアミック酸塗料およびそれを用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】テトラカルボン酸二無水物成分(A)と、2つのアミノ基を有するジアミン成分(B)と、3つのアミノ基を有するトリアミン成分(C)と、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と反応する末端封止剤(D1)と、を重合して得られ、分子鎖中に、トリアミン成分(C)に由来する分岐構造を有すると共に、分子鎖末端に、末端封止剤(D1)に由来するモノカルボン酸、ジカルボン酸またはハーフエステル体のいずれか1つとアミノ基とを有し、テトラカルボン酸二無水物成分(A)、ジアミン成分(B)およびトリアミン成分(C)のモル比をそれぞれ、[A]、[B]、[C]としたとき、([A]+[B])/[C]から算出される値が18.5以上72以下である、分岐ポリアミック酸。
【選択図】図1

Description

本発明は、分岐ポリアミック酸、ポリアミック酸塗料およびそれを用いた絶縁電線に関する。
絶縁電線は、例えばモータや変圧器などの電気機器のコイルに形成され、電気機器への電力供給や電気信号の伝達に用いられる。絶縁電線には導体の外周を被覆するように絶縁被覆が形成されている。
絶縁被覆を構成する樹脂成分としては、ポリイミド樹脂が知られている。ポリイミド樹脂は、強固な分子構造を有し、イミド結合が強い分子間力を示すことから、機械的特性、耐熱性、耐溶剤性などに優れている。ポリイミド樹脂からなる絶縁被覆は、ポリアミック酸塗料から形成される。ポリアミック酸塗料は、酸二無水物成分およびジアミン成分を重合して得られるポリアミック酸と有機溶媒とを含有している。このポリアミック酸塗料から絶縁被覆を形成する際には、ポリアミック酸塗料を導体の外周上に塗布し加熱することにより、有機溶媒を除去すると同時にポリアミック酸をイミド化してポリイミド樹脂を形成する。
ポリアミック酸としては、例えば、酸二無水物成分であるピロメリット酸無水物(PMDA)と、ジアミン成分である4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とを重合させたものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
ところで、近年、モータは出力を上げながらも小型、軽量化されるようになっている。このため、モータのコイルに用いられる絶縁電線では、導体の外径はより大きく、絶縁被覆の被覆厚はより小さいことが求められる。
また、モータは、高出力化のため高電圧で駆動されると共に、動力性能の向上のためインバータ駆動されるようになっている。この結果、モータのコイルを構成する絶縁電線では、高電圧とインバータサージとの重畳によって部分放電の発生するリスクが高まっている。部分放電が発生すると、絶縁被覆は徐々に浸食されて薄くなり、最終的には絶縁不良となってしまう。部分放電の発生しやすい絶縁被覆、つまり部分放電開始電圧(PDIV:Partial Discharge Inception Voltage)が低い絶縁被覆では、より低い電圧で部分放電が発生するため絶縁不良となりやすい。このことから、絶縁被覆には、低い電圧で部分放電が発生しないように、高いPDIV(例えば、皮膜厚40μm程度であれば940Vp以上)が求められている。
絶縁被覆のPDIVは、一般に、絶縁被覆を構成する樹脂成分の比誘電率、および絶縁被覆の被覆厚により決定され、樹脂成分の比誘電率を低下させる、もしくは被覆厚を大きくすることにより向上させることができる。
上記特許文献1に示すポリイミド樹脂では、比誘電率が比較的大きい(3.5程度)ため、被覆厚が40μmのときPDIVが850Vp程度であり、PDIVを940Vp以上とするには被覆厚を40μmよりも大きくする必要がある。つまり、特許文献1のポリイミド樹脂では、被覆厚の低減と、高いPDIVとを両立することが困難である。このため、特許文献1のポリイミド樹脂では、小型かつ高出力のモータの絶縁電線への適用が困難となっている。
そこで、上記問題点を解決するため、ポリイミド樹脂の比誘電率を低下させる方法が検討されている。一般に、ポリイミド樹脂は、極性の大きい置換基であるイミド基を分子構造中に有し、極性の大きな樹脂である。このため、ポリイミド樹脂の比誘電率は、比較的高い傾向がある。そこで、例えば、特許文献2では、酸二無水物成分およびジアミン成分として分子量の大きい成分を重合させたポリイミド樹脂が提案されている。分子量の大きい成分を用いることによって、ポリイミド樹脂の比誘電率を高くさせる要因であるイミド基の濃度を減少し、その比誘電率を低減することができる。これにより、特許文献2のポリイミド樹脂では、絶縁被覆の被覆厚が小さい場合であっても、高いPDIVを得ることができる。
特開平9−106712号公報 特開2012−224697号公報
しかしながら、特許文献2のポリイミド樹脂では、被覆厚が小さい場合であっても高いPDIVを得られるものの、長期耐熱性が低いといった問題がある。すなわち、特許文献2のポリイミド樹脂からなる絶縁被覆では、ポリイミド樹脂が熱劣化や酸化劣化により脆くなりやすいため、高温環境(例えば220℃以上)に長時間さらされた場合、機械的特性が徐々に低下し、割れが生じるおそれがある。長期耐熱性の低下は、ポリイミド樹脂のイミド基濃度を減少させるために、分子量の大きい酸二無水物成分やジアミン成分を用いることによる。特に、脂肪族基を含むような分子量の大きい成分は、熱分解しやすく、ポリイミド樹脂の長期耐熱性を著しく低下させるおそれがある。
本発明は、長期耐熱性に優れるポリイミド樹脂を得られる分岐ポリアミック酸、ポリアミック酸塗料およびそれを用いた絶縁電線を提供することを目的とする。
本発明の第1の態様によれば、
テトラカルボン酸二無水物成分(A)と、2つのアミノ基を有するジアミン成分(B)と、3つのアミノ基を有するトリアミン成分(C)と、前記テトラカルボン酸二無水物成分(A)と反応する末端封止剤(D1)と、を重合して得られ、分子鎖中に、前記トリアミン成分(C)に由来する分岐構造を有すると共に、分子鎖末端に、前記末端封止剤(D1)に由来するモノカルボン酸、ジカルボン酸またはハーフエステル体のいずれか1つとアミノ基とを有し、前記テトラカルボン酸二無水物成分(A)、前記ジアミン成分(B)および前記トリアミン成分(C)のモル比をそれぞれ、[A]、[B]、[C]としたとき、([A]+[B])/[C]から算出される値が18.5以上72以下である、分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第2の態様によれば、
前記ジアミン成分(B)は、分子鎖の主鎖となる主鎖ジアミン成分(b1)、および分子鎖の末端となる末端ジアミン成分(b2)からなり、前記主鎖ジアミン成分(b1)、前記末端ジアミン成分(b2)、および前記末端封止剤(D1)のモル比をそれぞれ、[b1]、[b2]、[D1]としたとき、
[A]:[b1]=109〜120:100
([A]−[b1])/[C]=1.67〜3.0
[b2]=[D1]=(2[A]−2[b1]−3[C])/2
を満たす、第1の態様の分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第3の態様によれば、
前記末端封止剤(D1)は、4−アミノ安息香酸であって、前記分子鎖末端に4−アミノ安息香酸に由来するモノカルボン酸を有する、第1又は第2の態様の分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第4の態様によれば、
前記末端封止剤(D1)は、水または4−アミノフタル酸であって、前記分子鎖末端に水または4−アミノフタル酸に由来するジカルボン酸を有する、第1又は第2の態様の分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第5の態様によれば、
前記末端封止剤(D1)は、アルコールであって、前記分子鎖末端にアルコールに由来するハーフエステル体を有する、第1又は第2の態様の分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第6の態様によれば、
テトラカルボン酸二無水物成分(A)と、2つのアミノ基を有するジアミン成分(B)と、3つのアミノ基を有するトリアミン成分(C)と、前記ジアミン成分(B)または前記トリアミン成分(C)と反応する末端封止剤(D2)と、を重合して得られ、分子鎖中に、前記トリアミン成分(C)に由来する分岐構造を有すると共に、分子鎖末端に、前記末端封止剤(D2)に由来するモノカルボン酸とアミノ基とを有し、前記テトラカルボン酸二無水物成分(A)、前記ジアミン成分(B)および前記トリアミン成分(C)のモル比をそれぞれ、[A]、[B]、[C]としたとき、([A]+[B])/[C]から算出される値が20以上66.7以下である、分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第7の態様によれば、
前記末端封止剤(D2)のモル比を[D2]としたとき、
[A]:[B]:[C]=100:100:3〜10
[D2]=[C]×1.5
を満たす、第6の態様の分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第8の態様によれば、
前記末端封止剤(D2)は、トリメリット酸無水物であって、前記分子鎖末端にトリメリット酸無水物に由来するモノカルボン酸を有する、第6又は第7の態様の分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第9の態様によれば、
前記トリアミン成分(C)は、2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテルまたは1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンである、第1〜第8の態様のいずれかの分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第10の態様によれば、
前記テトラカルボン酸二無水物成分(A)と前記ジアミン成分(B)のうち少なくとも一方は脂肪族基を有する、第1〜第9の態様のいずれかの分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第11の態様によれば、
前記ジアミン成分(B)は、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパンまたは1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]シクロヘキサンである、第1〜第10の態様のいずれかの分岐ポリアミック酸が提供される。
本発明の第12の態様によれば、
第1〜第11の態様のいずれかの分岐ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料が提供される。
本発明の第13の態様によれば、
第12の態様のポリアミック酸塗料から形成される絶縁被覆を導体の外周上に備える絶縁電線が提供される。
本発明によれば、長期耐熱性に優れるポリイミド樹脂を得られる分岐ポリアミック酸、ポリアミック酸塗料およびそれを用いた絶縁電線が得られる。
本発明の一実施形態に係る絶縁電線の断面図である。
[本発明者らの知見]
本発明の一実施形態の説明に先立ち、本発明者らが得た知見について説明をする。
従来のポリアミック酸は、酸二無水物成分およびジアミン成分が重合されて、直鎖状の分子鎖を有する。つまり、ジアミン成分が重合されるポリアミック酸は、直鎖ポリアミック酸となる。このポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミド樹脂は、直鎖状の分子鎖を有する。このようなポリイミド樹脂は、高温環境下に曝されて熱劣化または酸化劣化する場合、直鎖状の分子鎖の切断により分解しやすいため、長期耐熱性に劣る。特に、酸二無水物成分やジアミン成分が脂肪族基を有するような分子量の大きい成分であると、ポリイミド樹脂の長期耐熱性がより低くなる傾向がある。
そこで、本発明者らは、ポリイミド樹脂の長期耐熱性を改善する方法について検討を行った。その結果、酸二無水物成分とジアミン成分と共にトリアミン成分を重合することがよいとの知見を見出した。
トリアミン成分は、3つのアミノ基を有しており、2つのアミノ基を有するジアミン成分よりも多くのアミノ基を有している。ジアミン成分が2つの酸二無水物成分と重合することで直鎖状の分子鎖を形成するのに対して、トリアミン成分は3つの酸二無水物成分と重合することで分岐状の分子鎖を形成する。このトリアミン成分をジアミン成分と共に重合することにより、ポリアミック酸の分子鎖の一部に分岐構造を導入し、分岐ポリアミック酸を得ることができる。この分岐ポリアミック酸は、直鎖ポリアミック酸がイミド化と共に重合して直鎖状のポリイミド樹脂となるのに対して、分子鎖同士が架橋された架橋構造(三次元的な分岐構造)を有するポリイミド樹脂となる。直鎖状のポリイミド樹脂は、直鎖状の分子鎖の一部が切断されることにより分解しやすいが、架橋構造を有するポリイミド樹脂は、分子鎖の一部が切断された場合であっても他の部分が結合しているといったように分子鎖が完全には切断されにくいため分解しにくい。したがって、架橋構造を有するポリイミド樹脂は、熱劣化などにより分解しにくく、長期耐熱性に優れている。
本発明は、上記知見に基づき成されたものである。
[1.第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について説明をする。
[1−1.分岐ポリアミック酸]
本実施形態の分岐ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と、2つのアミノ基を有するジアミン成分(B)と、3つのアミノ基を有するトリアミン成分(C)と、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と反応する末端封止剤(D1)と、を重合して得られる。この分岐ポリアミック酸はトリアミン成分(C)が重合されているため、その分子鎖には、トリアミン成分(C)に由来する分岐構造が導入される。また、重合の際、末端封止剤(D1)が用いられているため、分子鎖末端には、アミノ基と共に、末端封止剤(D1)に由来するモノカルボン酸(カルボキシル基)が導入されている。これにより、分岐ポリアミック酸は、分岐状の分子鎖を有しており、その分子鎖末端にはモノカルボン酸とアミノ基を有している。
この分岐ポリアミック酸は、低温度(0℃〜80℃程度)では、分子鎖末端同士(モノカルボン酸とアミノ基)の反応が封止されているため、安定している。一方、加熱により高温度(例えば400℃程度)となると、分子鎖末端同士が反応してアミド基を形成することで重合する。この重合により分岐ポリアミック酸の分岐状の分子鎖が次々に結合し、架橋構造を有する分子鎖が形成される。最終的には、イミド化されることによって、架橋構造を有するポリイミド樹脂となる。つまり、分岐ポリアミック酸は、低温度では安定しているが、高温度に加熱されると、分子鎖末端が結合し、イミド化することによって、架橋構造を有するポリイミド樹脂となる。しかも、分岐ポリアミック酸は、イミド化前は分子量が小さい状態であるが、イミド化により分子鎖末端同士が結合することで分子量が増大するため、イミド化後には、分子量の大きいポリイミド樹脂となる。したがって、分岐ポリアミック酸から得られるポリイミド樹脂は、架橋構造により長期耐熱性に優れるだけでなく、分子量も大きいことから機械的特性にも優れることになる。
以下、分岐ポリアミック酸を構成する各成分について、説明する。
(テトラカルボン酸二無水物成分(A))
テトラカルボン酸二無水物成分(A)は、ジアミン成分(B)またはトリアミン成分(C)と結合し、分岐ポリアミック酸の分子鎖を構成する。
テトラカルボン酸二無水物成分(A)としては、特に限定されず、例えば、ピロメリット酸無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物成分(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物成分(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物成分(BPDA)、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物(BPADA)などが例示され、また必要に応じ、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物成分や1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物成分(CPDA)、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物成分、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、或いは上記例示したテトラカルボン酸無水物を水添した脂環式テトラカルボン酸二無水物成分類等が例示される。これらは、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、得られるポリイミド樹脂の比誘電率を低下させる観点からは、脂肪族基を有する成分を用いることが好ましい。上述したように、脂肪族基を有する成分は、分子量が大きいためポリイミド樹脂の比誘電率を低下させて絶縁被覆のPDIVを向上させることができるが、熱に弱く、熱劣化や酸化劣化により分解しやすいためポリイミド樹脂の長期耐熱性を低下させるおそれがある。しかしながら、本実施形態のポリイミド樹脂では、トリアミン成分(C)により架橋構造が形成されるため、脂肪族基を有する成分を用いた場合であっても、長期耐熱性が損なわれない。つまり、本実施形態では、脂肪族基を有する成分を用いることにより、ポリアミド樹脂の長期耐熱性を損なうことなく、比誘電率を低減することができる。
脂肪族基を含むテトラカルボン酸二無水物成分としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物成分や1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物成分(CPDA)、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物成分、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、或いは、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物成分(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物成分(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物成分、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物(BPADA)などが例示される。また必要に応じ、上記例示したテトラカルボン酸無水物を水添した脂環式テトラカルボン酸二無水物成分類等を用いることができ、これらを併用しても良い。
(ジアミン成分(B))
ジアミン成分(B)は、2つのアミノ基を有しており、2つのテトラカルボン酸二無水物成分(A)と結合することにより直鎖状の分子鎖を形成する。
ジアミン成分(B)としては、特に限定されず、例えば、1,4−ジアミノベンゼン(PPD)、1,3−ジアミノベンゼン(MPD)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DAM)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(FDA)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)などが例示される。これらは、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、上記例示したジアミン成分の水添化合物やハロゲン化物、異性体などを用いてもよく、複数を併用してもよい。
これらの中でも、ポリイミド樹脂の比誘電率を低下させる観点から、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と同様に、脂肪族基を有する成分を用いることが好ましい。具体的には、脂肪族基を含むジアミン成分としては、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]シクロヘキサン(BAPH)、或いはこれらと、1,4−ジアミノベンゼン(PPD)、1,3−ジアミノベンゼン(MPD)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DAM)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(FDA)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)などに示されるジアミン成分の水添化合物を用いてもよく、複数を併用してもよい。
脂肪族基を有するジアミン成分の中でも、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、または1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]シクロヘキサンを用いることがさらに好ましい。これらの化合物は、脂肪族基を有する上に、比較的大きな分子量を有するため、ポリイミド樹脂における極性の大きいイミド基濃度をさらに低減することができ、ポリイミド樹脂の比誘電率をさらに低減させることができる。
(トリアミン成分(C))
トリアミン成分(C)は、3つのアミノ基を有しており、3つのテトラカルボン酸二無水物成分(A)と結合することにより分岐状の分子鎖を形成する。トリアミン成分(C)は、ポリアミック酸の分子鎖に分岐構造を導入し、分岐ポリアミック酸を形成する。
トリアミン成分(C)としては、脂肪族基を有さない成分である、2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル(TAPE)、1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、トリス(4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン(TAPB)、3,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル等を用いることができる。また、脂肪族基を有する成分である、トリス(2−アミノエチル)アミン(TAEA)、トリス(3−アミノプロピル)アミン等を用いることができる。上述したように、トリアミン成分(C)は、ポリイミド樹脂の分子鎖において、架橋構造の分岐を構成することになる。このトリアミン成分(C)が熱分解してしまうと、ポリイミド樹脂の架橋構造が失われてしまうため、トリアミン成分(C)としては、脂肪族基を有さず、熱分解しにくい成分を用いることが好ましい。つまり、2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル(TAPE)や1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン(TAPB)等を用いることが好ましい。
(末端封止剤(D1))
末端封止剤(D1)は、分岐ポリアミック酸の重合の際、その分子鎖末端に反応して重合を抑制し、生成される分岐ポリアミック酸の分子量を小さく抑制する。本実施形態において、末端封止剤(D1)は、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と反応する構造を有しており、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端のテトラカルボン酸二無水物成分(A)に反応し、分子鎖末端にモノカルボン酸を導入する。
末端封止剤(D1)としては、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と反応し、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端にモノカルボン酸を導入するような化合物であれば、特に限定されない。このような化合物としては、例えば、4−アミノ安息香酸などを用いることができる。4−アミノ安息香酸は、その分子構造中にアミノ基およびカルボキシル基を1つずつ有している。4−アミノ安息香酸は、アミノ基により、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端に位置するテトラカルボン酸二無水物成分(A)の酸無水物基と結合する。この結合により、4−アミノ安息香酸は、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端として下記式(1)に示すモノカルボン酸となる。
Figure 2015108062
(ただし、Rは、テトラカルボン酸二無水物成分に由来する構造であり、4価の有機基を示す。)
上記式(1)に示すように、分子鎖末端のモノカルボン酸はカルボキシル基を有している。このモノカルボン酸は、他の分子鎖末端のアミノ基とは低温度では反応しにくいが、イミド化の際の加熱により反応してアミド基を形成することで結合する。そして、分子鎖末端同士の結合により分岐ポリアミック酸の分子鎖が次々に結合することで、架橋構造を有するポリイミド樹脂が形成される。しかも、イミド化前の分岐ポリアミック酸では、分子量は小さいが、イミド化により分岐ポリアミック酸の分子鎖末端を結合させて得られるポリイミド樹脂では、分子量が大きい。
(含有量)
本実施形態の分岐ポリアミック酸において、テトラカルボン酸二無水物成分(A)、ジアミン成分(B)およびトリアミン成分(C)の含有量は、各成分のモル比をそれぞれ、[A]、[B]、[C]としたとき、([A]+[B])/[C]から算出される値Xが18.5以上72以下であり、20以上60以下であることが好ましい。この値Xは、分岐ポリアミック酸の分子鎖に導入される分岐構造の密度(以下、単に分岐密度ともいう)の指標となり、イミド化により得られるポリイミド樹脂に導入される架橋構造の密度(以下、単に架橋密度ともいう)の指標ともなる。値Xが18.5未満の場合、トリアミン成分(C)の比率が大きく、分岐密度が高いことを示す。分岐密度が高いと、分岐ポリアミック酸の分子量が過度に大きくなるため、ポリアミック酸塗料に適用した場合、その高粘度化やゲル化を招き、ポリアミック酸塗料の取り扱い性が低下するおそれがある。一方、値Xが72を超える場合、トリアミン成分(C)の比率が小さく、分岐密度が低いことを示す。分岐密度が小さいと、イミド化により得られるポリイミド樹脂の架橋密度が低下し、長期耐熱性が低下するおそれがある。したがって、値Xを上記範囲とすることにより、分子量が小さく、イミド化により長期耐熱性に優れるポリイミド樹脂となるような分岐ポリアミック酸を得られる。
また、本実施形態の分岐ポリアミック酸において、ジアミン成分(B)は、分子鎖の主鎖となる主鎖ジアミン成分(b1)、および分子鎖の末端となる末端ジアミン成分(b2)からなり、主鎖ジアミン成分(b1)、末端ジアミン成分(b2)、および末端封止剤(D1)のモル比をそれぞれ、[b1]、[b2]、[D1]としたとき、以下の関係を満たすことが好ましい。
[A]:[b1]=109〜120:100
([A]−[b1])/[C]=1.67〜3.0
[b2]=[D1]=(2[A]−2[b1]−3[C])/2
なお、[B]は[b1]と[b2]との合計になる。また、本明細書においては「〜」は所定の値以上かつ所定の値以下のことを示す。
上記関係において、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と主鎖ジアミン成分(b1)の比率([A]:[b1])は、分岐ポリアミック酸の分子鎖において、分岐構造から伸びる分子鎖(主鎖)の長さに対応する。具体的には、比率の差が大きいほど分子鎖が短くなるのに対して、比率の差が小さいほど分子鎖が長くなりやすい。分岐構造から伸びる分子鎖が短すぎると、分岐ポリアミック酸の分岐密度が高くなり、分子量が過度に高くなるおそれがある。一方、長すぎると、分岐密度が低くなり、ポリイミド樹脂の架橋密度が低減し、長期耐熱性が低下するおそれがある。このため、[A]と[b1]の比率は、109〜120:100であることが好ましく、テトラカルボン酸二無水物成分(A)が主鎖ジアミン成分(b1)に対して9〜20%過剰に含有されることが好ましい。
また、([A]−[b1])/[C]は、1.67〜3.0であることが好ましい。この値が1.67より小さいと、分岐ポリアミック酸の分岐密度が高くなり、分子量が過度に高くなるおそれがある。一方、3.0を超えると、分岐密度が低くなるため、ポリイミド樹脂の架橋密度が低減するおそれがある。
また、[b2]=[D1]=(2[A]−2[b1]−3[C])/2となることが好ましい。
上記関係を満たすことにより、分岐ポリアミック酸は、その分子鎖末端にモノカルボン酸およびアミノ基を概ね等モル含有すると共に、所望の分岐密度を有する。このため、イミド化の際の加熱により分子鎖末端同士がより結合しやすく、イミド化の際には長期耐熱性に優れるポリイミド樹脂となる。
(分岐ポリアミック酸の分子量)
本実施形態の分岐ポリアミック酸は、重量平均分子量が30000以上110000以下であることが好ましい。分子量が高すぎると、分岐ポリアミック酸を有機溶媒に溶解してポリアミック酸塗料とするときに、その塗料粘度が高く、塗布性が低下するため、多量の有機溶媒を用いる必要がある。この点、本実施形態では、分岐ポリアミック酸の分子量を上記範囲とすることにより、有機溶媒を多量に用いることなく、粘度が低く塗布性に優れるポリアミック酸塗料とすることができる。また、有機溶媒の量を低減できるため、ポリアミック酸塗料における分岐ポリアミック酸の濃度を向上させることができる。すなわち、分子量を上記範囲とすることにより、粘度が低く塗布性に優れ、かつ高濃度なポリアミック酸塗料を得ることができる。具体的には、分岐ポリアミック酸を25%と高濃度とした場合であっても、塗料粘度を0.9Pa・s以上13Pa・s以下として、良好な塗布性を得ることができる。
[2−2.ポリアミック酸塗料]
本実施形態のポリアミック酸塗料は、上述の分岐ポリアミック酸と、有機溶媒とを含有する。上述したように、分岐ポリアミック酸は、イミド化前は分子量の小さい状態であるが、イミド化後には、分子鎖末端同士が結合することで、分子量が大きく架橋構造を有するポリイミド樹脂となる。このような分岐ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料は、分子量の小さい分岐ポリアミック酸を含有しているため、低粘度であり、塗布性(取り扱い性)に優れている。そして、イミド化後には、架橋構造により長期耐熱性に優れると共に、分子量が大きく機械的特性に優れるポリイミド樹脂となる。しかも、分岐ポリアミック酸は、低温度(0℃〜80℃程度)では分子量の増加が抑制されているため、ポリアミック酸塗料は、保存中において粘度の変動が抑制されており、保存安定性にも優れている。
なお、有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどのポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害しない溶剤を併用して合成しても良いし、希釈しても良い。
[2−3.ポリアミック酸塗料の製造方法]
次に、上述のポリアミック酸塗料の製造方法について説明をする。
ポリアミック酸塗料は、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物成分(A)、ジアミン成分(B)、トリアミン成分(C)および末端封止剤(D1)を重合させて分岐ポリアミック酸を合成することにより製造される。
この重合において各成分を反応させる順序は、特に限定されないが、合成される分岐ポリアミック酸の分子量を低減し、得られるポリアミック酸塗料の濃度を向上させる観点からは、トリアミン成分(C)をテトラカルボン酸二無水物成分(A)と先に反応させないように重合することが好ましい。
トリアミン成分(C)をテトラカルボン酸二無水物成分(A)と先に反応させて重合する場合、分子鎖への分岐構造の導入により分岐ポリアミック酸の分子量が大きくなりやすく、重合中に分岐ポリアミック酸がゲル化して固化するおそれがある。このため、重合する際には多量の有機溶媒で希釈することが好ましい。ただし、この場合に得られるポリアミック酸塗料は、多量の有機溶媒を含有するため、分岐ポリアミック酸の濃度が低い傾向がある。
一方、トリアミン成分(C)をテトラカルボン酸二無水物成分(A)と先に反応させないように重合する場合、重合途中における分子量の過度な増加を抑制し、分子量が比較的小さい分岐ポリアミック酸を得ることができる。しかも、分子量の増加を低く抑制できるため、有機溶媒の量を低減でき、分岐ポリアミック酸の濃度を高くすることができる。この場合、例えば、分岐ポリアミック酸の重量平均分子量は30000以上110000以下となり、ポリアミック酸塗料は、分岐ポリアミック酸の濃度が25%と高いときでも塗料粘度が0.9Pa・s以上13Pa・s以下となり、塗布性に優れる。
したがって、分子量が小さい分岐ポリアミック酸、および粘度が低く塗布性に優れ、かつ高濃度のポリアミック酸塗料を得る観点からは、トリアミン成分(C)をテトラカルボン酸二無水物成分(A)と先に重合させないことが好ましい。
トリアミン成分(C)をテトラカルボン酸二無水物成分(A)と先に反応させないように重合する方法としては、2つの方法がある。1つは、テトラカルボン酸二無水物成分(A)およびジアミン成分(B)を重合させた後、トリアミン成分(C)および末端封止剤(D1)を重合させる方法(1)であり、もう1つは、予め、テトラカルボン酸二無水物成分(A)および末端封止剤(D1)を反応させた後、ジアミン成分(B)およびトリアミン成分(C)を重合させる方法(2)である。
以下、上記の方法(1)により分岐ポリアミック酸を合成する方法について、説明をする。
まず、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物成分(A)とジアミン成分(B)とを重合させて、直鎖状の分子鎖を有するポリアミック酸を合成する。この直鎖ポリアミック酸は、最終的に合成される分岐ポリアミック酸において、分岐構造から伸びる分子鎖に該当し、ここで重合されるジアミン成分(B)は、分岐ポリアミック酸の主鎖を構成し、主鎖ジアミン成分(b1)となる。
具体的には、テトラカルボン酸二無水物成分(A)を、主鎖ジアミン成分(b1)となるジアミン成分(B)に対して過剰に反応させる。これにより、直鎖ポリアミック酸の分子鎖を所定長さに形成することができ、最終的に合成される分岐ポリアミック酸の分岐密度を所望の範囲に調整することができる。また、テトラカルボン酸二無水物成分(A)を過剰に添加することにより、直鎖ポリアミック酸の分子鎖末端にカルボン酸末端を導入し、後述するトリアミン成分(C)との重合を可能にする。なお、直鎖ポリアミック酸の重合は、所定時間または反応が平衡に達するまで行う。
次に、上記反応溶液にトリアミン成分(C)を添加し、上記で合成された直鎖ポリアミック酸と重合させる。この重合により、トリアミン成分(C)の3つのアミノ基のそれぞれに、直鎖ポリアミック酸の分子鎖が結合されて、分岐構造を有する分子鎖が形成されることで、分岐ポリアミック酸が合成される。
また、上記反応溶液中に、分岐ポリアミック酸の重合を抑制するために、末端封止剤(D1)として例えば4−アミノ安息香酸を添加する。4−アミノ安息香酸により、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端にはモノカルボン酸が導入されて、分岐ポリアミック酸のさらなる重合が封止される。これにより、分岐ポリアミック酸の分子量は小さく抑制されることになる。なお、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端において、その一部には、4−アミノ安息香酸に由来するモノカルボン酸が導入されるが、その他は、4−アミノ安息香酸が反応せずに、テトラカルボン酸二無水物成分(A)に由来する酸無水物基が残存している。
その後、上記反応溶液中に、さらにジアミン成分(B)を添加する。このジアミン成分(B)は、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端に残存する酸無水物基と反応し、末端ジアミン成分(b2)となる。これにより、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端には、アミノ基が導入されることになる。
ポリアミック酸塗料を製造する際には、上記各成分を、
([A]+[B])/[C]=18.5〜72
の関係を満たすように添加する。好ましくは、
[A]:[b1]=109〜120:100
([A]−[b1])/[C]=1.67〜3.0
[b2]=[D1]=(2[A]−2[b1]−3[C])/2
の関係を満たすように添加する。
以上により、所望の分岐密度を有し、かつ分子鎖末端に所定の構造が導入された分岐ポリアミック酸を合成し、本願実施形態のポリアミック酸塗料を得る。このポリアミック酸塗料は、分岐ポリアミック酸でありながら低粘度であるため塗布性に優れるだけでなく、有機溶媒の量が低減されているため、分岐ポリアミック酸を高濃度で含有する。
なお、トリアミン成分(C)および末端封止剤(D1)は、同時に添加してもよく、別々に添加してもよい。また、各段階での重合は、例えば温度50℃〜80℃で1〜4時間程度ずつ行うとよい。
また、方法(2)により分岐ポリアミック酸を重合する場合、予め、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と末端封止剤(D1)を反応させてから、主鎖ジアミン成分(b1)を重合させて、分子鎖末端にモノカルボン酸が導入された直鎖ポリアミック酸を合成する。そして、トリアミン成分(C)と末端ジアミン成分(b2)を重合させることにより、分子鎖末端にモノカルボン酸とアミノ基を有する分岐ポリアミック酸を合成することができる。
[2−4.絶縁電線]
次に、上述したポリアミック酸塗料を用いて形成された絶縁電線について説明をする。図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の断面図を示す。
本実施形態に係る絶縁電線1は、上述したポリアミック酸塗料からなる絶縁被覆12を導体11の外周上に備える。
導体11は、材質については特に限定されず、例えば、銅または銅合金などの金属材料から形成される。また、その導体径については特に限定されず、用途に応じて最適なものを適宜選択することができる。また、その断面形状は図1に示す丸型に限定されず、例えば角型形状とすることもできる。
絶縁被覆12は、導体11の外周を被覆するように設けられており、上述したポリアミック酸塗料を加熱により焼き付けることで形成されている。本実施形態のポリアミック酸塗料は、焼き付けにより、有機溶媒が除去されると共に分岐ポリアミック酸がイミド化されることで、架橋構造を有するポリイミド樹脂となる。得られるポリイミド樹脂は、イミド化の際に分岐ポリアミック酸同士が反応して架橋すると同時に分子量が増加しているため、長期耐熱性と共に機械的特性に優れている。また、脂肪族基を有する成分から重合される分岐ポリアミック酸を含有する場合、比誘電率が低く、被覆厚が小さくても所定のPDIVを得られる。具体的には、被覆厚が40μmと小さい場合であっても、940Vp以上の高いPDIVを得ることができる。
絶縁被覆12は、導体11上にポリアミック酸塗料を塗布し、例えば、焼付炉において350℃以上500℃以下で1分以上2分以下焼き付けるといった一連の操作(塗布、焼き付け)を複数回(例えば2回以上20回以下)繰り返すことによって、所定の被覆厚に形成される。形成される絶縁被覆12の被覆厚は特に限定されず、用途に応じて最適な大きさが選択される。ポリアミック酸塗料の塗布方法は、一般的に実施されている方法、例えばバーコータ、ローラー、スピンコータ、ダイスなどを用いて塗布する方法、が挙げられる。また、焼き付け温度、焼き付け時間は、ポリアミック酸塗料に含まれるポリアミック酸や有機溶媒の種類に応じて、適宜変更する。
なお、絶縁電線1において、導体11と絶縁被覆12との密着性を向上させるため、導体11と絶縁被覆12との間に密着層(図示略)を介在させて設けてもよい。また、絶縁被覆12の外周上に融着層や潤滑層(図示略)を設けてもよい。
[3.本発明の一実施形態に係る効果]
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
本実施形態の分岐ポリアミック酸は、分子鎖中に、トリアミン成分(C)に由来する分岐構造を有すると共に、分子鎖末端に、末端封止剤(D1)に由来するモノカルボン酸とアミノ基とを有している。そして、テトラカルボン酸二無水物成分(A)、ジアミン成分(B)およびトリアミン成分(C)のモル比をそれぞれ、[A]、[B]、[C]としたとき、([A]+[B])/[C]から算出される値が18.5以上72以下であり、分岐ポリアミック酸は、所定の分岐密度を有する。
この分子鎖末端は、低温度では安定しているが、加熱されて高温度となると、アミド基を形成して重合する。この重合により、分岐ポリアミック酸の分岐状の分子鎖が次々に結合することで、架橋構造を有するポリイミド樹脂となる。このポリイミド樹脂は、分子鎖に架橋構造(3次元的な分岐構造)が導入されているため、長期にわたって高温度の熱が加わる環境下で使用された場合に、分子鎖が完全には切断されにくい。その結果、これを用いた絶縁被覆は熱劣化が発生しにくく、長期耐熱性に優れることとなる。
また、分岐ポリアミック酸は、イミド化前では分子量の小さい状態であるが、加熱により重合することによって分子量が増大するため、分子量が大きいポリイミド樹脂となる。つまり、分岐ポリアミック酸は、加熱により、機械的特性に優れるポリイミド樹脂となる。
また、上記実施形態において、ジアミン成分(B)は、分子鎖の主鎖となる主鎖ジアミン成分(b1)、および分子鎖の末端となる末端ジアミン成分(b2)からなり、主鎖ジアミン成分(b1)、末端ジアミン成分(b2)、および末端封止剤(D1)のモル比をそれぞれ、[b1]、[b2]、[D1]としたとき、
[A]:[b1]=109〜120:100
([A]−[b1])/[C]=1.67〜3.0
[b2]=[D1]=(2[A]−2[b1]−3[C])/2
を満たすことが好ましい。この構成により、分岐ポリアミック酸の分岐密度を調整して、イミド化により得られるポリイミド樹脂の架橋密度を良好な範囲として、長期耐熱性をより向上させることができる。
また、上記実施形態において、トリアミン成分(C)は、脂肪族基を有さない2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル又は1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンであることが好ましい。トリアミン成分(C)はポリイミド樹脂の架橋構造を構成するが、このトリアミン成分(C)に、脂肪族基を有さず、熱劣化しにくい成分を用いることにより、ポリイミド樹脂の長期耐熱性をより向上させることができる。
また、上記実施形態において、テトラカルボン酸二無水物成分(A)とジアミン成分(B)のうち少なくとも一方は脂肪族基を有することが好ましく、両方が脂肪族基を有することがより好ましい。これらの成分によれば、ポリイミド樹脂におけるイミド基濃度を低減し、その比誘電率を低減することができる。しかも、これらの成分は熱劣化しやすく、ポリイミド樹脂の長期耐熱性を低下させるおそれがあるが、本実施形態では、ポリイミド樹脂に架橋構造が導入されているため、これら成分により長期耐熱性が損なわれない。つまり、長期耐熱性を損なうことなく、比誘電率を低減することができる。
また、上記実施形態において、分岐ポリアミック酸は、トリアミン成分(C)をテトラカルボン酸二無水物成分(A)と先に反応させないように重合されたものであることが好ましい。このように合成された分岐ポリアミック酸は、分子量が低く抑制されており、重量平均分子量が30000以上110000以下となる。この分岐ポリアミック酸は、分子量が小さいため、有機溶媒に溶解しポリアミック酸塗料とした場合に塗料粘度が低く、塗布性に優れる。さらに、多量の有機溶媒を用いることなく、溶解できるため、分岐ポリアミック酸の濃度を高濃度とすることができる。具体的には、ポリアミック酸塗料において、分岐ポリアミック酸を25%と高濃度とした場合であっても、塗料粘度を0.9Pa・s以上13Pa・s以下として、良好な塗布性を得ることができる。
上記ポリイミド樹脂から形成される絶縁被覆は、長期耐熱性および機械的特性に優れる。また、ポリイミド樹脂に脂肪族基を有するテトラカルボン酸二無水物成分(A)またはジアミン成分(B)を用いることにより、その比誘電率を低減することができる。これにより、絶縁被覆は、被覆厚が小さい場合であっても高いPDIVを有し、例えば40μmの被覆厚で940Vp以上の高いPDIVを得ることができる。このような絶縁被覆を備える絶縁電線は、小型かつ高出力のモータなどに適用することができる。
[4.第2実施形態]
上述の第1実施形態では、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端に、末端封止剤(D1)に由来するモノカルボン酸が導入される場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、末端封止剤(D1)の種類によって、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端に導入する構造を適宜変更することができる。以下、第1実施形態とは異なる点について説明をする。
本実施形態の分岐ポリアミック酸では、末端封止剤(D1)の種類を変更することによって、その分子鎖末端に、モノカルボン酸の代わりにジカルボン酸が導入される。このような末端封止剤(D1)としては、特に限定されず、例えば、水、4−アミノフタル酸などを用いることができる。
末端封止剤(D1)として、例えば、水は、分岐ポリアミック酸の重合の際、その分子鎖末端に位置するテトラカルボン酸二無水物成分(A)の酸無水物基と反応する。このとき、酸無水物基は、水が付加されることで酸無水物の開環体となり、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端として下記式(2)に示すジカルボン酸となる。
Figure 2015108062
(ただし、Rは、テトラカルボン酸二無水物成分に由来する構造であり、4価の有機基を示す。)
上記式(2)に示すように、分子鎖末端のテトラカルボン酸二無水物成分(A)の酸無水物基は、水の付加により開環し、ジカルボン酸となる。ジカルボン酸は、上述のモノカルボン酸と同様に、低温度では封止された状態であり、他の分子鎖末端のアミノ基とは反応しにくい。イミド化の際の加熱により高温度となると、ジカルボン酸は、水が脱離することで酸無水物基となる。この酸無水物基は、アミノ基との反応が可能であり、アミノ基と反応してイミド基を形成することで結合する。そして、分子鎖末端同士の結合により分岐ポリアミック酸の分子鎖が次々に結合することで、架橋構造を有するポリイミド樹脂となる。
また例えば、末端封止剤(D1)としての4−アミノフタル酸は、その分子構造中に、1つのアミノ基と2つのカルボキシル基を有している。4−アミノフタル酸は、上記4−アミノ安息香酸と同様に、アミノ基により、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端に位置するテトラカルボン酸二無水物成分(A)の酸無水物基と結合する。この結合により、4−アミノフタル酸は、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端として下記式(3)に示すジカルボン酸となる。
Figure 2015108062
(ただし、Rは、テトラカルボン酸二無水物成分に由来する構造であり、4価の有機基を示す。)
上記式(3)に示すように、分子鎖末端のテトラカルボン酸二無水物成分(A)の酸無水物基に4−アミノフタル酸が結合することにより、分子鎖末端がジカルボン酸となる。ジカルボン酸は、上述のモノカルボン酸と同様に、低温度では封止された状態であり、他の分子鎖末端のアミノ基とは反応しにくい。イミド化の際の加熱により高温度となると、ジカルボン酸は、水が脱離することで酸無水物基となる。この酸無水物基は、アミノ基との反応が可能であり、アミノ基と反応してイミド基を形成することで結合する。そして、分子鎖末端同士の結合により分岐ポリアミック酸の分子鎖が次々に結合することで、架橋構造を有するポリイミド樹脂となる。
[5.第3実施形態]
上述の第1実施形態では、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端に、末端封止剤(D1)に由来するモノカルボン酸を導入する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、末端封止剤(D1)の種類によって、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端に導入する構造を適宜変更することができる。以下、第1実施形態とは異なる点について説明をする。
本実施形態のポリアミック酸では、末端封止剤(D1)の種類を変更することによって、その分子鎖末端に、モノカルボン酸の代わりにハーフエステル体が導入される。このような末端封止剤(D1)としては、特に限定されず、例えば、アルコールなどを用いることができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルキルアルコールやその異性体、ベンジルアルコールなどのベンゼン環を含むアルコールなどを用いることができる。
末端封止剤(D1)としてのアルコールは、分岐ポリアミック酸の重合の際、その分子鎖末端に位置するテトラカルボン酸二無水物成分(A)の酸無水物基と反応する。このとき、酸無水物基は、アルコールが付加されることで酸無水物の開環体となり、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端として下記式(4)に示すハーフエステル体となる。
Figure 2015108062
(ただし、Rは、テトラカルボン酸二無水物成分に由来する構造であり、4価の有機基を示し、Rは、アルコールに由来する構造である。)
上記式(4)に示すように、分子鎖末端のテトラカルボン酸二無水物成分(A)の酸無水物基は、アルコールの付加により開環し、ハーフエステル体となる。ハーフエステル体は、上述のモノカルボン酸と同様に、低温度では封止された状態であり、他の分子鎖末端のアミノ基とは反応しにくい。イミド化の際の加熱により高温度となると、ハーフエステル体は、アルコールが脱離することで酸無水物基となる。この酸無水物基は、アミノ基との反応が可能であり、アミノ基と反応してイミド基を形成することで結合する。そして、分子鎖末端同士の結合により分岐ポリアミック酸の分子鎖が次々に結合することで、架橋構造を有するポリイミド樹脂となる。
[6.第4実施形態]
上述の第1〜第3実施形態では、末端封止剤として、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と反応する末端封止剤(D1)を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、ジアミン成分(B)またはトリアミン成分(C)と反応する末端封止剤(D2)を用いることもできる。以下、第1実施形態とは異なる点について説明をする。
本実施形態の分岐ポリアミック酸は、ジアミン成分(B)またはトリアミン成分(C)と反応する末端封止剤(D2)を用いて重合されており、分子鎖末端にモノカルボン酸とアミノ基とを有している。末端封止剤(D2)は、ジアミン成分(B)などの有するアミノ基と反応する構造を有しており、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端のジアミン成分(B)やトリアミン成分(C)に反応し、その分子鎖末端にモノカルボン酸を導入する。
末端封止剤(D2)としては、ジアミン成分(B)やトリアミン成分(C)のアミノ基と反応し、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端にモノカルボン酸を導入するような化合物であれば、特に限定されない。このような化合物としては、例えば、トリメリット酸無水物などを用いることができる。トリメリット酸無水物は、その分子構造中に酸無水物基とカルボキシル基を1つずつ有している。トリメリット酸無水物は、酸無水物基により、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端に位置するジアミン成分(B)またはトリアミン成分(C)のアミノ基と結合する。この結合により、トリメリット酸無水物は、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端として下記式(5)に示すモノカルボン酸となる。
Figure 2015108062
(ただし、Rは、ジアミン成分に由来する2価の有機基、またはトリアミン成分に由来する3価の有機基を示す。)
上記式(5)に示すように、分子鎖末端のモノカルボン酸はカルボキシル基を有している。このモノカルボン酸は、上述の第1実施形態と同様に、他の分子鎖末端のアミノ基とは、低温度では反応しにくいが、イミド化の際の加熱により反応してアミド基を形成することで結合する。そして、分子鎖末端同士の結合により分岐ポリアミック酸の分子鎖が次々に結合することで、架橋構造を有するポリイミド樹脂が形成される。しかも、イミド化前の分岐ポリアミック酸では、分子量が小さいが、イミド化により分岐ポリアミック酸の分子鎖末端を結合させて得られるポリイミド樹脂では、分子量が大きい。
テトラカルボン酸二無水物成分(A)、ジアミン成分(B)およびトリアミン成分(C)の含有量は、特に限定されないが、各成分のモル比をそれぞれ、[A]、[B]、[C]としたとき、([A]+[B])/[C]から算出される値Xが20以上66.7以下であり、20以上60以下であることが好ましい。
また、末端封止剤(D2)のモル比を[D2]としたとき、
[A]:[B]:[C]=100:100:3〜10
[D2]=[C]×1.5
の関係を満たすことが好ましい。
上記分岐ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料を製造する場合、有機溶媒の量を低減して分岐ポリアミック酸を高濃度とする観点からは、上述の第1実施形態と同様に、トリアミン成分(C)をテトラカルボン酸二無水物成分(A)と先に重合させないことが好ましい。具体的には、予め、有機溶媒中で、ジアミン成分(B)を末端封止剤(D2)と反応させる。次に、有機溶媒に、テトラカルボン酸二無水物成分(A)とトリアミン成分(C)を添加する。この添加により、ジアミン成分(B)およびトリアミン成分(C)のアミン成分を、テトラカルボン酸二無水物成分(A)よりも過剰の状態とする。そして、これらを重合することにより、所定の分岐密度を有し、かつ分子鎖末端に所定の構造が導入された分岐ポリアミック酸を合成し、本願実施形態のポリアミック酸塗料を得る。
次に、本発明の実施例を説明する。実施例では、以下の方法および条件で分岐ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料を調製し、それを用いて絶縁電線を製造した。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
(1)原料
以下の実施例および比較例において用いた材料は次のとおりである。
テトラカルボン酸二無水物成分(A)として、次のものを用いた。
・脂肪族基を含まない成分
ピロメリット酸無水物(PMDA)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物成分(BPDA)
・脂肪族基を有する成分
1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物成分(CPDA)
ジアミン成分(B)として、次のものを用いた。
・脂肪族基を含まない成分
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)
・脂肪族を有する成分
2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)
1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]シクロヘキサン(BAPH)
4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)
トリアミン成分(C)として、次のものを用いた。
・脂肪族基を含まない成分
2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル(TAPE)
1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン(TAPB)
・脂肪族基を有する成分
トリス(2−アミノエチル)アミン(TAEA)
末端封止剤(D1)として、次のものを用いた。
・4−アミノ安息香酸(PABA)
・4−アミノフタル酸(4APA)
・エチルアルコール(EtOH)
・水
末端封止剤(D2)として、次のものを用いた。
・トリメリット酸無水物(TMA)
有機溶媒として、次のものを用いた。
・N−メチル−2−ピロリドン(NMP)
(2)ポリアミック酸塗料の調製
上記原料を用いて、分岐ポリアミック酸を合成し、ポリアミック酸塗料を調製した。調製条件を以下の表1に示す。
Figure 2015108062
表1に示すように、実施例1〜7では、テトラカルボン酸二無水物成分(A)と反応する末端封止剤(D1)として4−アミノ安息香酸(PABA)を用いて、分子鎖末端にモノカルボン酸とアミノ基を有する分岐ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料を調製した。具体的には、実施例1では、まず、主鎖ジアミン成分(b1)としてODA156.4gおよびBAPP320.4gを有機溶媒のNMP2647gに溶解した。その後、テトラカルボン酸二無水物成分(A)としてPMDA371.4gを投入し、窒素環境下で80℃、1時間撹拌した。次に、反応溶液中にトリアミン成分(C)としてTAPEを10.1g投入し、80℃で30分撹拌した。さらに末端封止剤(D1)としてPABA9.6gを投入して80℃で15分撹拌した。最後に末端ジアミン成分(b2)としてODAを14.1g投入して80℃で1時間撹拌することで、分岐ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料を得た。実施例2〜6では、表1に示すように、各成分の種類または添加量を適宜変更し、実施例1と同様にポリアミック酸塗料を調製した。なお、表1では、各成分の添加量をモル比で示している。また、以下の表2〜4についても同様にモル比で示す。
また実施例8〜13では、末端封止剤(D1)の種類を変更し、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端に導入する構造を変更した。実施例8〜13の調製条件を以下の表2に示す。
Figure 2015108062
実施例8,9では、末端封止剤(D1)として4−アミノフタル酸(4APA)を用いて、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端にジカルボン酸を導入した。実施例10,11では、末端封止剤(D1)として水(HO)を用いて、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端にジカルボン酸を導入した。実施例12,13では、末端封止剤(D1)としてエチルアルコール(EtOH)を用いて、分岐ポリアミック酸の分子鎖末端にハーフエステル体を導入した。
また、実施例14〜18では、ジアミン成分(B)またはトリアミン成分(C)と反応する末端封止剤(D2)としてトリメリット酸無水物(TMA)を用いて、分子鎖末端にモノカルボン酸とアミノ基を有する分岐ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料を調製した。実施例14〜18の調製条件を以下の表3に示す。
Figure 2015108062
具体的には、実施例14では、主鎖ジアミン成分(b1)としてODA164.4gおよびBAPP336.8gを有機溶媒としてのNMP3530gに溶解した。その後、末端封止剤(D2)としてのTMA13.2gを投入し、窒素環境下で80℃、1時間撹拌した。次に、反応溶液中に、テトラカルボン酸二無水物成分(A)としてPMDAを358.1g投入し、80℃で2時間撹拌した。さらに、トリアミン成分(C)としてTAPEを9.9g投入して2時間撹拌することで、分岐ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料を得た。実施例15〜18では、表3に示すように、各成分の種類または添加量を適宜変更し、実施例1と同様にポリアミック酸塗料を調製した。
また、比較例1〜3では、トリアミン成分(C)を用いずに重合し、直鎖ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料を調製した。また、比較例4〜7では、トリアミン成分(C)を用いているが、Xの値(分岐密度)を適宜変更して合成した。比較例1〜7の調製条件を以下の表4に示す。
Figure 2015108062
(3)絶縁電線の製造
次に、上記で得られた実施例1〜18、比較例1〜7のポリアミック酸塗料を用いて絶縁電線を製造した。具体的には、ダイス塗装法により、銅線(直径0.8mm)の外周上にポリアミック酸塗料を所定の塗布厚さで塗布し、450℃の焼付炉で90秒間焼き付けることを、繰り返すことによって、厚さ40μmの絶縁被覆を備える絶縁電線を製造した。
(4)評価方法
次に、上記で得られたポリアミック酸塗料について、その粘度、分岐ポリアミック酸の分子量を評価した。また、上記で得られた絶縁電線について、絶縁被覆の部分放電開始電圧(PDIV)、可とう性、そして長期耐熱性を評価した。それぞれの評価方法について以下に説明をする。
(ポリアミック酸塗料の粘度)
ポリアミック酸塗料の粘度は、塗料を30℃に保ち、E型粘度計にて測定した。なお、ポリアミック酸塗料の粘度は、ポリアミック酸の濃度が25%、温度30℃における粘度を示す。
(分岐ポリアミック酸の分子量)
ポリアミック酸塗料に含有されるポリアミック酸の分子量として、重量平均分子量を測定した。重量平均分子量は、NMPを溶離液としたGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)にて測定した。
(絶縁電線の可とう性)
可とう性は、絶縁電線を30%伸張した後に巻付け試験を行い、亀裂や割れの有無で合否を判断した。絶縁電線の直径と同じ直径をもつ巻付け棒に巻付けた場合に、亀裂や割れが発生せず合格の場合に1d(自己径の意)と記した。
(絶縁被覆のPDIV)
部分放電自動試験システムDAC−6024(総研電気(株))を用い、23℃、湿度50%の雰囲気で、50Hzの電圧を10〜30V/sで昇圧させながら、丸線より作製したツイストペアに50pCの放電が50回発生する電圧(PDIV)まで昇圧して行った。これを3回繰り返し、最も低い値を部分放電開始電圧(PDIV)とした。測定はオーブン中で、室温で行った。
(長期耐熱性)
長期耐熱性は、空気中で220℃に絶縁電線を保管し、適宜取り出し巻付けでの可とう性試験を行い750hrで1d(無伸長)で亀裂や割れがなかったものを合格とした。
(5)評価結果
実施例1〜7では、ポリアミック酸塗料の塗料粘度は濃度25%で0.9〜13Pa・s程度であり、激しい高粘度化やゲル化が起こらず、作業性の良い粘度で得られている。特に、実施例1などでは分子量Mwが109,100と大きいにも関わらず、濃度25%で13Pa・sと小さい値で得られている。
これらの塗料から作製した絶縁電線は、ツヤがあり外観よく作製され、PDIVは940〜990Vと高い値が得られた。可とう性は自己径巻付けで亀裂や割れの発生がなく、架橋構造が入っているにもかかわらず良好であった。さらに、220℃での長期耐熱試験後の可とう性試験を行うと、750時間後であっても、いずれの絶縁電線も自己径巻付け(1d)を保っており、脂肪族基をもつポリイミドであるにもかかわらず高い耐熱性を有していた。このことから、トリアミン成分(C)による架橋構造の効果によって高い長期耐熱性が得られることが確認された。なお、実施例1では、脂肪族基を有さないODAと脂肪族基を有するBAPPとを併用しており、PDIVが950Vpであった。一方、脂肪族基を有するBAPPのみを用いた実施例3では、PDIVが990Vpであった。このことから、脂肪族基を有する成分の割合を増加させることにより、ポリイミド樹脂の比誘電率を低減し、PDIVを向上できることが確認された。
実施例8〜13でも、実施例1〜7と同様の結果が得られ、塗料の激しい高粘度化やゲル化は起こらず、作業性の良い粘度の塗料が得られた。これらの塗料から作製した絶縁電線は、ツヤがあり外観よく作製され、PDIVは950〜1000Vpと高い値を示し、長期耐熱性も220℃で750時間後に可とう性は自己径巻付け(1d)を保っていた。なお、トリアミン成分(C)として、実施例8では、脂肪族基を含むTAEAを用いており、実施例9では、脂肪族をもたない芳香族系のTAPEを用いた。実施例8では、220℃で1100hr後に1d割れが発生したが、実施例9では、1500hrで1dで割れが発生することが確認された。このことから、トリアミン成分(C)は脂肪族を含まない方が長期耐熱性がより高くなることが分かる。
実施例14〜18では、末端封止剤(D2)としてTMAを用いた例である。実施例14〜18では、上記実施例1〜13と同様の結果が得られ、ポリアミック酸塗料の塗料粘度は濃度25%で1.9〜4.8Pa・sであり、作業性の良い塗料が得られた。これらの塗料から作製した絶縁電線は、ツヤがあり外観よく作製され、PDIVは970〜990Vpと高い値を示し、長期耐熱性も220℃で750時間後に可とう性は自己径巻付け(1d)を保っていた。
比較例1〜3では、トリアミン成分(C)を用いずに、脂肪族を含むBAPPを用いて直鎖ポリアミック酸を合成し、ポリアミック酸塗料を調製した。この塗料では、濃度25%での塗料の粘度は24〜28%であり、実施例の分岐ポリアミック酸より高い値であった。これらより作製した絶縁電線の長期耐熱性は、220℃で750時間後には自己径巻付け(1d)で亀裂、割れが発生し不合格であった(表4において「×」と示す)。実施例のようにトリアミン成分(C)による分岐構造を導入することで長期耐熱性が向上することが分かる。
比較例4,5では、Xの値が大きく、分岐密度が小さすぎるため、絶縁被覆の長期耐熱性が不十分であり、220℃で750時間後の自己径巻付けで不合格となることが確認された。一方、比較例6,7では、Xの値が小さく、分岐密度が大きすぎるため、塗料粘度が激しく上昇してゲル化することが確認された。
なお、上記実施例では、トリアミン成分(C)をテトラカルボン酸二無水物成分(A)と先に反応させないで重合された分岐ポリアミック酸のみを開示しているが、トリアミン成分(C)をテトラカルボン酸二無水物成分(A)と同時に反応させた分岐ポリアミック酸でも、多量の有機溶媒を必要とするものの、同様の効果(長期耐熱性)を得られることが本発明者らにより確認されている。
以上、説明したように、トリアミン成分を用いて重合された分岐ポリアミック酸によれば、架橋構造を有し、長期耐熱性に優れるポリイミド樹脂を得られる。
1 絶縁電線
11 導体
12 絶縁被覆

Claims (13)

  1. テトラカルボン酸二無水物成分(A)と、2つのアミノ基を有するジアミン成分(B)と、3つのアミノ基を有するトリアミン成分(C)と、前記テトラカルボン酸二無水物成分(A)と反応する末端封止剤(D1)と、を重合して得られ、
    分子鎖中に、前記トリアミン成分(C)に由来する分岐構造を有すると共に、分子鎖末端に、前記末端封止剤(D1)に由来するモノカルボン酸、ジカルボン酸またはハーフエステル体のいずれか1つとアミノ基とを有し、
    前記テトラカルボン酸二無水物成分(A)、前記ジアミン成分(B)および前記トリアミン成分(C)のモル比をそれぞれ、[A]、[B]、[C]としたとき、([A]+[B])/[C]から算出される値が18.5以上72以下である、分岐ポリアミック酸。
  2. 前記ジアミン成分(B)は、分子鎖の主鎖となる主鎖ジアミン成分(b1)、および分子鎖の末端となる末端ジアミン成分(b2)からなり、
    前記主鎖ジアミン成分(b1)、前記末端ジアミン成分(b2)、および前記末端封止剤(D1)のモル比をそれぞれ、[b1]、[b2]、[D1]としたとき、
    [A]:[b1]=109〜120:100
    ([A]−[b1])/[C]=1.67〜3.0
    [b2]=[D1]=(2[A]−2[b1]−3[C])/2
    を満たす、請求項1に記載の分岐ポリアミック酸。
  3. 前記末端封止剤(D1)は、4−アミノ安息香酸であって、前記分子鎖末端に4−アミノ安息香酸に由来するモノカルボン酸を有する、請求項1又は2に記載の分岐ポリアミック酸。
  4. 前記末端封止剤(D1)は、水または4−アミノフタル酸であって、前記分子鎖末端に水または4−アミノフタル酸に由来するジカルボン酸を有する、請求項1又は2に記載の分岐ポリアミック酸。
  5. 前記末端封止剤(D1)は、アルコールであって、前記分子鎖末端にアルコールに由来するハーフエステル体を有する、請求項1又は2に記載の分岐ポリアミック酸。
  6. テトラカルボン酸二無水物成分(A)と、2つのアミノ基を有するジアミン成分(B)と、3つのアミノ基を有するトリアミン成分(C)と、前記ジアミン成分(B)または前記トリアミン成分(C)と反応する末端封止剤(D2)と、を重合して得られ、
    分子鎖中に、前記トリアミン成分(C)に由来する分岐構造を有すると共に、分子鎖末端に、前記末端封止剤(D2)に由来するモノカルボン酸とアミノ基とを有し、
    前記テトラカルボン酸二無水物成分(A)、前記ジアミン成分(B)および前記トリアミン成分(C)のモル比をそれぞれ、[A]、[B]、[C]としたとき、([A]+[B])/[C]から算出される値が20以上66.7以下である、分岐ポリアミック酸。
  7. 前記末端封止剤(D2)のモル比を[D2]としたとき、
    [A]:[B]:[C]=100:100:3〜10
    [D2]=[C]×1.5
    を満たす、請求項6に記載の分岐ポリアミック酸。
  8. 前記末端封止剤(D2)は、トリメリット酸無水物であって、前記分子鎖末端にトリメリット酸無水物に由来するモノカルボン酸を有する、請求項6又は7に記載の分岐ポリアミック酸。
  9. 前記トリアミン成分(C)は、2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテルまたは1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンである、請求項1〜8のいずれかに記載の分岐ポリアミック酸。
  10. 前記テトラカルボン酸二無水物成分(A)と前記ジアミン成分(B)のうち少なくとも一方は脂肪族基を有する、請求項1〜9のいずれかに記載の分岐ポリアミック酸。
  11. 前記ジアミン成分(B)は、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパンまたは1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]シクロヘキサンである、請求項1〜10のいずれかに記載の分岐ポリアミック酸。
  12. 請求項1〜11のいずれかに記載の分岐ポリアミック酸を含有するポリアミック酸塗料。
  13. 請求項12に記載のポリアミック酸塗料から形成される絶縁被覆を導体の外周上に備える絶縁電線。

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