JP6515571B2 - ポリイミド塗料および絶縁電線 - Google Patents
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酸無水物成分とジアミン成分と末端封止剤とを前記ジアミン成分1モルに対して前記酸無水物成分を1.05モル〜1.07モルで反応させて得られ、分子鎖中に、一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有し、かつ、分子鎖の一端または両端に、前記酸無水物成分が前記末端封止剤により変性された一般式(2)で表わされる末端構造を有するポリイミド前駆体(A)と、
酸無水物成分とジアミン成分とを前記ジアミン成分1モルに対して前記酸無水物成分を0.85モル〜0.89モルで反応させて得られ、分子鎖の両端にアミノ基を有する一般式(3)で表わされるポリイミド前駆体(B)と、
有機溶媒と、を含有し、
固形分濃度が30%のときの30℃における溶液粘度が6.8Pa・s〜14.8Pa・sである、ポリイミド塗料が提供される。
上述のポリイミド塗料から形成された絶縁被膜を導体の外周上に備える、絶縁電線が提供される。
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態のポリイミド塗料(以下、単に塗料ともいう)は、分子鎖中に、一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有し、かつ、分子鎖の一端または両端に、酸無水物成分が末端封止剤により変性された一般式(2)で表わされる末端構造を有するポリイミド前駆体(A)と、分子鎖の両端にアミノ基を有する一般式(3)で表わされるポリイミド前駆体(B)と、有機溶媒と、を含有する。塗料において、ポリイミド前駆体(A)および(B)は、有機溶媒に溶解した状態で存在している。以下、各成分について説明する。
ポリイミド前駆体(A)は、過剰量の酸無水物成分とジアミン成分とを反応させた後、さらに末端封止剤を反応させて得られる成分である。ポリイミド前駆体(A)は、酸無水物成分とジアミン成分との反応により、これらが交互に結合した分子構造を有しており、分子鎖中に、一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有している。また、分子鎖末端の酸無水物成分が末端封止剤との反応により変性されることで、分子鎖の一端または両端に、一般式(2)で表わされる末端構造を有する。具体的には、この末端構造は、分子鎖末端にある酸無水物成分の酸無水物基が末端封止剤との反応によりエステル化されて変性された構造である。このような末端構造を有するポリイミド前駆体(A)は、分子鎖の両端にアミノ基を有するポリイミド前駆体(B)と化学的に安定で反応しにくい。なお、詳細は後述するが、ポリイミド前駆体(A)は、塗料の加熱の際に末端封止剤を脱離させることで、ポリイミド前駆体(B)と反応することができる。
ポリイミド前駆体(B)は、酸無水物成分と過剰量のジアミン成分とを反応させて得られる成分である。ポリイミド前駆体(B)は、酸無水物成分とジアミン成分との反応により、これらが交互に結合し、分子鎖の両端がジアミン成分となる分子構造を有する。具体的には、一般式(3)に示すように、分子鎖中に所定の繰り返し単位を有し、かつ分子鎖の両端にジアミン成分に由来するアミノ基を有する。
ポリイミド成分(A)および(B)を形成する酸無水物成分は、特に限定されず、従来公知の成分を用いることができる。酸無水物成分としては、脂肪族系、芳香族系のいずれも用いることができる。ポリイミド樹脂の耐熱性を向上させる観点からは、芳香族系のテトラカルボン酸二無水物が好ましい。その中でも、芳香環を1つ又は2つ有し、かつ熱分解しやすい脂肪族基や脂肪族連結基を持たない芳香族系のテトラカルボン酸二無水物が、剛直な化学構造を有するため、特に好ましい。
ポリイミド成分(A)および(B)を形成するジアミン成分は、特に限定されず、従来公知の成分を用いることができる。ジアミン成分としては、脂肪族系、芳香族系のいずれも用いることができる。ポリイミド樹脂の耐熱性を向上させる観点からは、好ましくは、芳香族系ジアミン化合物が好ましく、芳香環を1つ又は2つ有し、かつ熱分解しやすい脂肪族基や脂肪族連結基を有しない芳香族系ジアミン化合物がより好ましい。
本実施形態の塗料では、ポリイミド前駆体(A)および(B)の分子量を低く調整することによって、塗料粘度を低く維持しつつ、固形分濃度を高くすることができる。具体的には、固形分濃度を23%以上、好ましくは27%以上と高くした場合であっても、30℃における塗料粘度を20Pa・s以下、好ましくは3Pa・s以上15Pa・s以下とすることができる。ここで、固形分濃度とは、ポリイミド前駆体(A)および(B)が塗料に占める割合を示す。また、塗料粘度は、E型粘度計(例えば、トキメック社製 viscometer TV−20HT)によって測定される粘度を示す。
上述したポリイミド塗料は、有機溶媒中でポリイミド前駆体(A)およびポリイミド前駆体(B)を生成することにより得られる。
まず、有機溶媒にジアミン成分を添加して溶解させる。この溶液に酸無水物成分をジアミン成分に対して過剰量となるように添加して溶解させる。そして、これらの成分を反応させ、重合することにより、酸無水物成分およびジアミン成分が交互に結合し、分子鎖の両端が酸無水物成分となる酸無水物末端のポリイミド前駆体(A´)を得る。ポリイミド前駆体(A´)は、下記一般式(6)に示すように、分子鎖の両端に酸無水物成分に由来する酸無水物基を有する。
この添加比率を調整することによって、ポリイミド前駆体(A´)における繰り返し単位の繰り返し数mを調整して、ポリイミド前駆体(A´)の分子量を制御することができる。つまり、添加比率により、最終的に得られるポリイミド前駆体(A)の分子量を制御することができる。例えば、ジアミン成分1モルに対して酸無水物成分の添加量を1.03モルとする場合、繰り返し単位mが比較的大きく、数平均分子量が35,000〜45,000となるようなポリイミド前駆体(A´)を生成することができる。
続いて、ポリイミド前駆体(A)が溶解する溶液にジアミン成分を新たに添加して溶解させる。この溶液に酸無水物成分をジアミン成分に対して少なくなるように添加して溶解させる。そして、新たに溶解させたジアミン成分と酸無水物成分とを反応させ、重合することにより、一般式(3)に示すようなジアミン末端のポリイミド前駆体(B)を生成する。なお、この生成工程では、末端変性のポリイミド前駆体(A)は、新たに添加するジアミン成分と化学的に安定で反応しにくくなっている。
この添加比率を調整することによって、上述したポリイミド前駆体(A´)の数平均分子量と同様に、ポリイミド前駆体(B)における数平均分子量を調整することができる。
本実施形態の塗料は、加熱によりポリイミド前駆体(A)および(B)が反応してイミド化することで、ポリイミド樹脂となる。具体的には、以下のように反応する。
加熱により、ポリイミド前駆体(A)の末端構造から末端封止剤(R3−OH)が脱離する。この脱離により、一般式(4)または(5)に示すポリイミド前駆体(A)が、一般式(6)に示すポリイミド前駆体(A´)になる。ポリイミド前駆体(A´)は、分子鎖の末端が酸無水物成分であるため、分子鎖末端がジアミン成分であるポリイミド前駆体(B)との間にアミド結合を形成し、重合する。これにより、ポリイミド前駆体(A´)とポリイミド前駆体(B)とが交互に結合する分子鎖が形成される。そして、これらの結合により伸長された分子鎖において、イミド化が進み、イミド閉環構造が形成されることで、一般式(7)に示す繰り返し単位を有するポリイミド樹脂が形成される。
このように、本実施形態の塗料によれば、加熱によりポリイミド前駆体(A)および(B)が結合して分子鎖が伸長されるため、分子量が高く、機械的特性に優れるポリイミド樹脂が得られる。また、本実施形態の塗料によれば、高温度での加熱により、ポリイミド前駆体(A)および(B)がポリイミド樹脂中に未反応のまま残存するような場合であっても、これらの前駆体の分子量が高いので、残存成分による特性の低下が抑制され、機械的特性および絶縁特性に優れるポリイミド樹脂が得られる。
続いて、上述のポリイミド塗料を用いて形成された絶縁被膜を備える絶縁電線について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の断面を示す図である。
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
以下の実施例および比較例で用いた材料は次のとおりである。
・酸無水物成分
ピロメリット酸無水物(PMDA)
・ジアミン成分
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)
・末端封止剤
エタノール
・有機溶媒
N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)
<実施例1>
まず、有機溶媒としてのDMAcに、ジアミン成分としてのODAを341.35g(1.705mol)溶解させ、続いて、酸無水物成分としてのPMDAを、ODAに対して過剰となるように390.47g(1.790mol)添加した。このときのODA:PMDAのモル比率は100:105であった。そして、この溶液を100rpmで撹拌してPMDAとODAとを反応させた後、さらに末端封止剤としてのエタノールを15.71g(0.341mol)添加して撹拌することで、分子鎖中に、一般式(8)で表わされる繰り返し単位を有し、かつ分子鎖の少なくとも一端に一般式(9)で表わされる末端構造を有するポリイミド前駆体(A)を生成した。
次に、ポリイミド前駆体(A)が溶解する溶液にODAを161.2g(0.805mol)溶解させ、続いて、PMDAを、ODAに対して少なくなるように157.0g(0.720mol)溶解させた。このときのODA:PMDAのモル比率は100:89であった。そして、この溶液を撹拌し、ODAおよびPMDAを反応させることにより、下記一般式(10)で表わされるジアミン末端のポリイミド前駆体(B)を生成した。
以上により、ポリイミド前駆体(A)および(B)が溶解する実施例1のポリイミド塗料を得た。
なお、実施例1のポリイミド塗料は、固形分濃度が30%であって、30℃における溶液粘度が14.8Pa・sであった。なお、塗料粘度は、E型粘度計(トキメック社製 viscometer TV−20HT)によって測定された数値を示す。
実施例2では、ポリイミド前駆体(A)の生成において、ODAの配合量を33.79g(0.169mol)に、PMDAの配合量を39.39g(0.181mol)に、エタノールの配合量を2.18g(0.473mol)に、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にポリイミド前駆体(A)を生成した。このときのODA:PMDAのモル比率は100:107であった。
また、ポリイミド前駆体(B)の生成において、ODAの配合量を16.46g(0.082mol)に、PMDAの配合量を15.36g(0.07mol)に、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にポリイミド前駆体(B)を生成した。このときのODA:PMDAのモル比率は100:85であった。
なお、実施例2のポリイミド塗料は、固形分濃度が30%であって、30℃における溶液粘度が6.8Pa・sであった。
比較例1では、実施例1と同様にポリイミド前駆体(A)を生成した後、溶液にジアミン成分としてのODAを溶解させて、ポリイミド塗料を調製した。つまり、比較例1では、実施例1のようにポリイミド前駆体(B)を生成せず、ポリイミド前駆体(A)とODAとが溶解するポリイミド塗料を得た。
具体的には、DMAc2450gに、ODAを469.67g(2.346mol)溶解させ、続いて、PMDAを547.47g(2.510mol)添加した(ODA:PMDAのモル比率は100:107)。そして、この溶液を100rpmで撹拌してPMDAとODAとを反応させた後、さらに末端封止剤としてのエタノールを28.9g(0.628mol)添加して撹拌することで、実施例1と同様のポリイミド前駆体(A)を生成した。次に、ポリイミド前駆体(A)が溶解する溶液に、ODAを32.88g(0.164mol)を溶解させることにより、比較例1のポリイミド塗料を得た。
なお、比較例1のポリイミド塗料は、固形分濃度が28.11%であって、30℃における溶液粘度が2.0Pa・sであった。
導体(外径0.8mm)の外周上に実施例1の塗料を塗布した後、塗料が硬化する温度で加熱し、所定厚さの塗膜を形成した。その後、塗料を塗布し、加熱して塗膜を形成する工程を所定回数繰り返して塗膜を積層させることによって、下記一般式(11)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド樹脂からなる厚さ35μmの絶縁被膜を形成し、実施例1の絶縁電線を作製した。同様に、実施例2および比較例1の塗料を用いて絶縁電線を作製した。
作製して得られた各絶縁電線について、絶縁被膜の機械的特性、絶縁特性および外観を評価した。以下、各評価方法について説明する。
絶縁被膜の機械的特性は、JIS C3216−3「5.1 巻付け試験」」に準拠して30%伸長後の可とう性試験を行い、評価した。具体的には、得られた絶縁電線を30%伸長した後、当該絶縁電線の導体径と同じ直径(0.8mm)を有する巻き付け棒へJISC 3216−3「5.1 巻付け試験」に準拠した方法で巻き付けた。そして、光学顕微鏡を用いて絶縁皮膜に亀裂の発生の有無を測定した。
絶縁被膜の絶縁特性は絶縁破壊電圧により評価した。具体的には、JIS C3216−5「4.4.1 常温試験」に準拠して、2個の撚り試料を作製し、昇圧速度500V/sで0Vから印可して絶縁破壊電圧を測定した。
絶縁被膜の外観は、外観を目視、手触りによって評価した。本実施例では、絶縁被膜に気泡が発生せず、その表面が平滑であれば、外観が良好であると評価した。
実施例1の絶縁被膜は、実施例1の絶縁電線を30%伸張させて0.8mm径の巻付け試験を行っても、絶縁被膜に割れが生じないことが確認された。また、その絶縁破壊電圧が14.1kVであって、絶縁特性に優れていることが確認された。また、絶縁被膜には気泡が発生しておらず、外観が良好であることが確認された。気泡が発生しなかったのは、ポリイミド前駆体(A)および(B)の数平均分子量を高くしたことで、つまり、それぞれの繰り返し数m´およびn´を大きくしたことで、繰り返し単位(A)および(B)の結合箇所の数を少なくできたためと考えられる。つまり、結合箇所を減少させることで、ポリイミド前駆体(A)および(B)の結合の際に生じるアルコールや水の脱離を低減し、気泡の発生を抑制することができたためと考えられる。
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
本発明の一態様によれば、
酸無水物成分とジアミン成分と末端封止剤とを反応して得られ、分子鎖中に、一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有し、かつ、分子鎖の一端または両端に、前記酸無水物成分が前記末端封止剤により変性された一般式(2)で表わされる末端構造を有するポリイミド前駆体(A)と、
酸無水物成分とジアミン成分とを反応して得られ、分子鎖の両端にアミノ基を有する一般式(3)で表わされるポリイミド前駆体(B)と、
有機溶媒と、を含有する、ポリイミド塗料が提供される。
付記1のポリイミド塗料であって、好ましくは、
前記ポリイミド前駆体(B)の数平均分子量が5,000以上40,000以下である。
付記1又は2のポリイミド塗料であって、好ましくは、
前記ポリイミド前駆体(A)が、分子鎖の両端に前記末端構造を有しており、一般式(4)で表わされる。
付記1ないし3のいずれかのポリイミド塗料であって、好ましくは、
前記末端封止剤がアルコールである。
付記1ないし4のいずれかのポリイミド塗料であって、好ましくは、
前記ポリイミド前駆体(A)の数平均分子量が10,000以上50,000以下である。
付記1ないし5のいずれかのポリイミド塗料であって、好ましくは、
固形分濃度が23%以上であって、30℃における塗料粘度が20Pa・s以下である。
本発明の他の態様によれば、
付記1〜6のいずれかのポリイミド塗料から形成された絶縁被膜を導体の外周上に備える、絶縁電線が提供される。
11 導体
12 絶縁被覆
Claims (6)
- 酸無水物成分とジアミン成分と末端封止剤とを前記ジアミン成分1モルに対して前記酸無水物成分を1.05モル〜1.07モルで反応させて得られ、分子鎖中に、一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有し、かつ、分子鎖の一端または両端に、前記酸無水物成分が前記末端封止剤により変性された一般式(2)で表わされる末端構造を有するポリイミド前駆体(A)と、
酸無水物成分とジアミン成分とを前記ジアミン成分1モルに対して前記酸無水物成分を0.85モル〜0.89モルで反応させて得られ、分子鎖の両端にアミノ基を有する一般式(3)で表わされるポリイミド前駆体(B)と、
有機溶媒と、を含有し、
固形分濃度が30%のときの30℃における溶液粘度が6.8Pa・s〜14.8Pa・sである、ポリイミド塗料。
- 前記ポリイミド前駆体(B)の数平均分子量が5,000以上40,000以下である、請求項1に記載のポリイミド塗料。
- 前記末端封止剤がアルコールである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド塗料。
- 前記ポリイミド前駆体(A)の数平均分子量が10,000以上50,000以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド塗料。
- 請求項1〜5のいずれかのポリイミド塗料から形成された絶縁被膜を導体の外周上に備える、絶縁電線。
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